(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】太陽電池封止材シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 31/048 20140101AFI20240329BHJP
C08F 8/30 20060101ALI20240329BHJP
C08J 3/215 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
H01L31/04 560
C08F8/30
C08J3/215 CES
(21)【出願番号】P 2022509462
(86)(22)【出願日】2021-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2021008057
(87)【国際公開番号】W WO2021192860
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2020058754
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000220099
【氏名又は名称】三井化学東セロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古賀 信太郎
(72)【発明者】
【氏名】大枝 靖雄
(72)【発明者】
【氏名】栗原 理絵
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-112787(JP,A)
【文献】特開2013-075414(JP,A)
【文献】国際公開第2019/098386(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/024599(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/161273(WO,A1)
【文献】特開2015-099876(JP,A)
【文献】国際公開第2019/201936(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02-31/078
H01L 31/18-31/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂を主成分とするペレットに架橋剤及び架橋助剤を含浸させることにより架橋性樹脂ペレットを作製する工程と、
前記架橋性樹脂ペレットを押出成形機の供給口からシリンダ内に投入し、前記シリンダ内で前記ポリオレフィン系樹脂、前記架橋剤、及び前記架橋助剤を含む樹脂組成物を溶融混練する工程と、
前記押出成形機のダイから、前記樹脂組成物をシート状に押出成形する工程と、
を有する、太陽電池封止材シートの製造方法であって、
前記架橋剤が、構造中に2以上の下式(1)で表されるアルキルパーオキシ基を有する化合物を含み
R
1-OO- -(1)
(式中、R
1は、炭素数1~6のアルキル基を示す。)、
前記架橋助剤がトリアリルイソシアヌレートを含み、
前記構造中に2以上のアルキルパーオキシ基を有する化合物の配合量が、前記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.4
~1.5質量部であり、
前記ポリオレフィン系樹脂が、酢酸ビニルより導かれる構造単位を実質的に有さない、上記製造方法。
【請求項2】
前記架橋性樹脂ペレットを作製する工程を行う時間が、100分以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記構造中に2以上のアルキルパーオキシ基を有する化合物が、2以上のアルキルパーオキシ基が、同一の炭素原子に結合しているか、又は2以上の炭素原子を介して結合している構造を有する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
太陽電池封止後のゲル分率が40%以上である太陽電池封止材シートを製造する、請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
ポリオレフィン系樹脂、
構造中に2以上の下式(1)で表されるアルキルパーオキシ基を有する化合物、
R
1-OO- -(1)
(式中、R
1は、炭素数1~6のアルキル基を示す。)、及び
トリアリルイソシアヌレート
を含み、
前記2以上のアルキルパーオキシ基を有する化合物の配合量が、前記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.4
~1.5質量部であり、
前記ポリオレフィン系樹脂が、酢酸ビニルより導かれる構造単位を実質的に有さず、
前記トリアリルイソシアヌレートの配合量が、前記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.4質量部以下である、太陽電池封止材用の架橋性樹脂組成物。
【請求項6】
前記構造中に2以上のアルキルパーオキシ基を有する化合物が、2以上のアルキルパーオキシ基が、同一の炭素原子に結合しているか、又は2以上の炭素原子を介して結合している構造を有する、請求項5に記載の架橋性樹脂組成物。
【請求項7】
ポリオレフィン系樹脂、
構造中に2以上の下式(1)で表されるアルキルパーオキシ基を有する化合物、
R
1-OO- -(1)
(式中、R
1は、炭素数1~6のアルキル基を示す。)、及び
トリアリルイソシアヌレート
を含み、
前記構造中に2以上のアルキルパーオキシ基を有する化合物の配合量が、前記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.4
~1.5質量部であり、
前記ポリオレフィン系樹脂が、酢酸ビニルより導かれる構造単位を実質的に有さず、
前記トリアリルイソシアヌレートの配合量が、前記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.4質量部以下である、太陽電池封止材シート。
【請求項8】
前記構造中に2以上のアルキルパーオキシ基を有する化合物が、2以上のアルキルパーオキシ基が、同一の炭素原子に結合しているか、又は2以上の炭素原子を介して結合している構造を有する、請求項7に記載の太陽電池封止材シート。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の太陽電池封止材シートの架橋硬化物を有する、太陽電池モジュール。
【請求項10】
請求項7又は8に記載の太陽電池封止材シートで太陽電池を封止する工程、及び
該太陽電池封止材シートを架橋硬化する工程、
を有する、太陽電池モジュールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池封止材シート及びその製造方法に関し、より具体的には、高温においても性能を維持し、生産性にも優れた太陽電池封止材シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境問題、エネルギー問題等が深刻さを増す中、クリーンかつ枯渇のおそれが無いエネルギー生成手段として太陽電池が注目されている。太陽電池を建物の屋根部分等の屋外で使用する場合、太陽電池モジュールの形で使用することが一般的である。
【0003】
太陽電池モジュールは、太陽電池素子を、太陽電池封止材シートで封止し、必要に応じて太陽電池モジュール用保護シートと一体化したものである。例えば、結晶型太陽電池モジュールを得るには、はじめに、太陽電池モジュール用保護シート(表面側透明保護部材)/太陽電池封止材シート/結晶型太陽電池素子/太陽電池封止材シート/太陽電池モジュール用保護シート(裏面側保護部材)の順に積層して積層体を形成する。次いで、得られた積層体を加圧および加熱して一体化する。その後、太陽電池封止材を架橋硬化させることにより、太陽電池モジュールを製造することができる。
【0004】
太陽電池封止材シートの素材としては、透明性、絶縁性、柔軟性、コスト等の観点から、エチレン・α-オレフィン共重合体等のポリオレフィン系樹脂が好ましく用いられている。
ポリオレフィン系樹脂を主成分とする太陽電池封止材シートを用いた太陽電池モジュールは、高温にさらされた際に気泡を発生したり膨れを生じたりする場合があり、太陽電池モジュールの性能、外観、耐久性等の観点から、その解決が求められていた。
【0005】
また、ポリオレフィン系樹脂を主成分とする太陽電池封止材シートは、架橋剤、架橋助剤等の添加剤がシート内で偏析してしまう場合があり、また予めポリオレフィン系樹脂中に含浸するには相当の時間を要する場合があり、これらの解消が技術的課題となっている。これを解決するために、ポリオレフィン系樹脂および上記添加剤を含む樹脂組成物を押出成形機中で溶融混練する工程において、押出成形機の供給口からスクリューの先端までの間に設けられた注入ノズルから、添加剤をさらに添加することが提案されている(例えば、特許文献1等参照。)。
しかしながら、この様な直注設備を設けることはコストアップ要因であり、直注設備が設けられていない標準的な押出成形機を用いて、比較的短時間で製造することができるポリオレフィン系太陽電池封止材シートが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2013/161273 A1号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の要望に鑑み、ポリオレフィン系樹脂を主成分とする太陽電池封止材シートであって、それを用いた太陽電池モジュールの高温での気泡発生や膨れを有効に抑制することができる太陽電池封止材シート、及びその製造方法を提供することを課題とする。
更に本発明は、標準的な押出成形機を用いた比較的短時間での製造を可能にする等の、生産性の向上を更なる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討の結果、特定の化学構造を有する架橋剤を、特定の架橋助剤と組み合わせて使用することで、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本願第1発明は、
[1]
ポリオレフィン系樹脂を主成分とするペレットに架橋剤及び架橋助剤を含浸させることにより架橋性樹脂ペレットを作製する工程と、
前記架橋性樹脂ペレットを押出成形機の供給口からシリンダ内に投入し、前記シリンダ内で前記ポリオレフィン系樹脂、前記架橋剤、及び前記架橋助剤を含む樹脂組成物を溶融混練する工程と、
前記押出成形機のダイから、前記樹脂組成物をシート状に押出成形する工程と、
を有する、太陽電池封止材シートの製造方法であって、
前記架橋剤が、構造中に2以上の下式(1)で表されるアルキルパーオキシ基を有する化合物を含み
R1-OO- -(1)
(式中、R1は、炭素数1~6のアルキル基を示す。)、
前記架橋助剤がトリアリルイソシアヌレートを含む、上記製造方法、に関する。
【0010】
以下、[2]から[6]は、それぞれ本願第1発明の好ましい実施形態の一つである。
[2]
前記架橋性樹脂ペレットを作製する工程を行う時間が、100分以下である、[1]に記載の製造方法。
[3]
前記構造中に2以上のアルキルパーオキシ基を有する化合物の配合量が、前記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.4質量部以上である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]
前記構造中に2以上のアルキルパーオキシ基を有する化合物が、2以上のアルキルパーオキシ基が、同一の炭素原子に結合しているか、又は2以上の炭素原子を介して結合している構造を有する、[1]から[3]のいずれか1項に記載の製造方法。
[5]
前記ポリオレフィン系樹脂が、酢酸ビニルより導かれる構造単位を実質的に有さない、[1]から[4]のいずれか1項に記載の製造方法。
[6]
太陽電池封止後のゲル分率が40%以上である太陽電池封止材シートを製造する、[1]から[5]のいずれか1項に記載の製造方法。
【0011】
すなわち本願第2発明は、
[7]
ポリオレフィン系樹脂、
構造中に2以上の下式(1)で表されるアルキルパーオキシ基を有する化合物、
R1-OO- -(1)
(式中、R1は、炭素数1~6のアルキル基を示す。)、及び
トリアリルイソシアヌレート
を含む、太陽電池封止材用の架橋性樹脂組成物、に関する。
【0012】
以下、[8]から[10]は、それぞれ本願第2発明の好ましい実施形態の一つである。
[8]
前記2以上のアルキルパーオキシ基を有する化合物の配合量が、前記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.4質量部以上である、[7]に記載の架橋性樹脂組成物。
[9]
前記構造中に2以上のアルキルパーオキシ基を有する化合物が、2以上のアルキルパーオキシ基が、同一の炭素原子に結合しているか、又は2以上の炭素原子を介して結合している構造を有する、[7]又は[8]に記載の架橋性樹脂組成物。
[10]
前記ポリオレフィン系樹脂が、酢酸ビニルより導かれる構造単位を実質的に有さない、[7]から[9]のいずれか1項に記載の架橋性樹脂組成物。
【0013】
すなわち本願第3発明は、
[11]
ポリオレフィン系樹脂、
構造中に2以上の下式(1)で表されるアルキルパーオキシ基を有する化合物、
R1-OO- -(1)
(式中、R1は、炭素数1~6のアルキル基を示す。)、及び
トリアリルイソシアヌレート
を含む、太陽電池封止材シート。
、に関する。
【0014】
以下、[12]から[16]は、それぞれ本願第3発明の好ましい実施形態の一つである。
[12]
前記2以上のアルキルパーオキシ基を有する化合物の配合量が、前記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.4質量部以上である、[11]に記載の太陽電池封止材シート。
[13]
前記構造中に2以上のアルキルパーオキシ基を有する化合物が、2以上のアルキルパーオキシ基が、同一の炭素原子に結合しているか、又は2以上の炭素原子を介して結合している構造を有する、[11]又は[12]に記載の太陽電池封止材シート。
[14]
前記ポリオレフィン系樹脂が、酢酸ビニルより導かれる構造単位を実質的に有さない、[11]から[13]のいずれか1項に記載の太陽電池封止材シート。
[15]
[11]から[14]のいずれか一項に記載の太陽電池封止材シートの架橋硬化物を有する、太陽電池モジュール。
[16]
[11]から[14]のいずれか一項に記載の太陽電池封止材シートで太陽電池を封止する工程、及び
該太陽電池封止材シートを架橋硬化する工程、
を有する、太陽電池モジュールの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、太陽電池モジュールにおいて高温で使用した際にも気泡の発生や膨れ等の問題を有効に抑制できる、高品質のポリオレフィン系太陽電池封止材シートが提供される。更に本発明の太陽電池封止材シートは、標準的な押出成形機を用いて比較的短時間で製造することができるので、コストや生産性にも優れるなど、実用上高い価値を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本願第1発明の製造方法の一例を示す模式図である。
【
図3】本発明の一実施例における高温耐久性の評価方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
本願第1発明は、
ポリオレフィン系樹脂を主成分とするペレットに架橋剤及び架橋助剤を含浸させることにより架橋性樹脂ペレットを作製する工程と、
前記架橋性樹脂ペレットを押出成形機の供給口からシリンダ内に投入し、前記シリンダ内で前記ポリオレフィン系樹脂、前記架橋剤、及び前記架橋助剤を含む樹脂組成物を溶融混練する工程と、
前記押出成形機のダイから、前記樹脂組成物をシート状に押出成形する工程と、
を有する、太陽電池封止材シートの製造方法であって、
前記架橋剤が、構造中に2以上の下式(1)で表されるアルキルパーオキシ基を有する化合物を含み
R1-OO- -(1)
(式中、R1は、炭素数1~6のアルキル基を示す。)、
前記架橋助剤がトリアリルイソシアヌレートを含む、上記製造方法である。
すなわち、本願第1発明においては、少なくともポリオレフィン系樹脂、特定の成分を含む架橋剤、及び特定の成分を含む架橋助剤を用いて、太陽電池封止材シートを製造する。本願第1発明においては、上記ポリオレフィン系樹脂、架橋剤、及び架橋助剤以外の成分を、例えば他の添加剤を、任意成分として使用することができる、
以下、本願第1発明の製造方法に使用する各材料について詳細に説明する。
【0018】
ポリオレフィン系樹脂
本願第1発明において使用されるポリオレフィン系樹脂は、炭素数2以上のオレフィンより導かれる構成単位を有する高分子であればよく、それ以外には特に限定されないが、その好適な例として、低密度エチレン系樹脂、中密度エチレン系樹脂、超低密度エチレン系樹脂、プロピレン(共)重合体、1-ブテン(共)重合体、4-メチルペンテン-1(共)重合体、エチレン・α-オレフィン共重合体、エチレン・環状オレフィン共重合体、エチレン・α-オレフィン・環状オレフィン共重合体、エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体、エチレン・α-オレフィン・共役ポリエン共重合体、エチレン・芳香族ビニル共重合体、エチレン・α-オレフィン・芳香族ビニル共重合体等が挙げられる。
これらのポリオレフィン系樹脂は1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0019】
ポリオレフィン系樹脂は、酢酸ビニルから導かれる構成単位を有していても有していなくともよいが、酢酸ビニルから導かれる構成単位を実質的に有さないポリオレフィン系樹脂は、架橋剤、架橋助剤の均一な含浸が従来比較的困難とされていたので、酢酸ビニルから導かれる構成単位を実質的に有さないポリオレフィン系樹脂に本願第1発明を適用することは、特に高い技術的価値を有する。
【0020】
上記各種のポリオレフィン系樹脂の中でもエチレンおよび炭素数3~20のα-オレフィンから導かれる構成単位を有するエチレン・α-オレフィン共重合体が、太陽電池封止材として要求される透明性、接着性、柔軟性、耐熱性、外観、架橋特性、電気特性および押出成形性等の諸特性のバランスに優れるため好ましい。
【0021】
本願第1発明において使用されるポリオレフィン系樹脂の、ASTM D1238に準拠し、190℃、2.16kg荷重の条件で測定されるメルトフローレ-ト(MFR)は通常0.1g/10分以上50g/10分以下であり、好ましくは2g/10分以上40g/10分以下であり、より好ましくは2g/10分以上30g/10分以下であり、さらに好ましくは5g/10分以上10g/10分以下である。ポリオレフィン系樹脂のMFRは、重合反応の際の重合温度、重合圧力、並びに重合系内のエチレン等のモノマー濃度と水素濃度のモル比率等を調整することにより、調整することができる。
【0022】
MFRが0.1g/10分以上10g/10分未満であると、カレンダー成形によってシートを容易に製造することができる。MFRが0.1g/10分以上10g/10分未満であると、エチレン・α-オレフィン共重合体を含む樹脂組成物の流動性が低いため、シートと電池素子をラミネートする際にはみ出した溶融樹脂によるラミネート装置の汚れを効果的に防止できる点で好ましい。
【0023】
さらに、MFRが2g/10分以上、好ましくはMFRが4g/10分以上、より好ましくはMFRが10g/10分以上であると、エチレン・α-オレフィン共重合体を含む樹脂組成物の流動性が向上し、シート押出成形時の生産性を向上させることができる。
【0024】
また、シート表面に凹凸が発生すると、太陽電池モジュールのラミネート加工時にシートと表面側透明保護部材、セル、電極、裏面側保護部材との密着性が悪化し、接着が不十分となるが、MFRを50g/10分以下にすると、分子量が大きくなり、均一な厚みのシートに成形することが容易となり、これらの問題を一層効果的に抑制できる。また、チルロール等のロール面への付着を効果的に抑制できるため、剥離工程等の必要性が低く、生産性向上やコストダウンに資することができる。さらに、いわゆる「コシ」がある樹脂組成物となるため、0.1mm以上の厚いシートを一層容易に成形することができる。また、太陽電池モジュールのラミネート成形時の架橋特性が向上するため、十分に架橋させて、耐熱性の低下を一層効果的に抑制することができる。
MFRが27g/10分以下であると、さらに、シート成形時のドローダウンを効果的に抑制でき、幅の広いシートを成形でき、また架橋特性および耐熱性がさらに向上し、特に良好な太陽電池封止材シートを得ることができる。
【0025】
本願第1発明において使用されるポリオレフィン系樹脂は、ASTM D1505に準拠して測定される密度が0.865~0.884g/cm3の範囲であることが好ましい。ポリオレフィン系樹脂の密度は、エチレン由来の構成単位の含有割合により調整することができる。すなわち、エチレン単位の含有割合を高くすると結晶性が高くなり、密度の高いポリオレフィン系樹脂を得ることができる。一方、エチレン由来の構成単位の含有割合を低くすると結晶性が低くなり、密度の低いポリオレフィン系樹脂を得ることができる。
【0026】
ポリオレフィン系樹脂の密度が0.884g/cm3以下であると、結晶性が低くなり、透明性を高くすることができる。さらに、低温での押出成形が容易となり、例えば130℃以下で押出成形を行うことができる。このため、ポリオレフィン系樹脂に有機過酸化物を練り込んでも、押出機内での架橋反応が進行するのを防ぐこともできる。また、柔軟性が高いため、太陽電池モジュールのラミネート成形時に太陽電池素子であるセルの割れや薄膜電極のカケ等の発生を一層効果的に防ぐことができる。
【0027】
一方、ポリオレフィン系樹脂の密度が0.865g/cm3以上であると、ポリオレフィン系樹脂の結晶化速度を速くできるため、押出機より押し出されたシートがベタつきにくく、第1冷却ロールでの剥離が容易になり、太陽電池封止材シートを高い生産性で得ることができる。また、シートにベタツキが発生しにくくなるのでブロッキングの発生を抑制し、シートの繰り出し性を向上させることができる。また、十分に架橋させられるため、耐熱性の低下を効果的に抑制することができる。
【0028】
また、本願第1発明において使用されるポリオレフィン系樹脂は、ASTM D2240に準拠して測定されるショアA硬度が、好ましくは60~85であり、より好ましくは62~83、さらに好ましくは62~80、とくに好ましくは65~80である。ポリオレフィン系樹脂のショアA硬度は、ポリオレフィン系樹脂のエチレン単位の含有割合や密度を上述の数値範囲に制御することにより、調整することができる。すなわち、エチレン単位の含有割合が高く、密度が高いポリオレフィン系樹脂は、ショアA硬度が高くなる。一方、エチレン単位の含有割合が低く、密度が低いポリオレフィン系樹脂は、ショアA硬度が低くなる。なおショアA硬度は、試験片シートに荷重後、15秒以上経過してから測定する。
【0029】
ショアA硬度が60以上であると、ポリオレフィン系樹脂がベタつきにくくなりブロッキングを抑制できる。また、太陽電池封止材をシート状に加工する際は、シートの繰り出し性を向上させることもでき、耐熱性の低下も抑制できる。
【0030】
一方、ショアA硬度が85以下であると、結晶性が低くなり、透明性を高くすることができる。さらに、柔軟性が高いため、太陽電池モジュールのラミネート成形時に太陽電池素子であるセルの割れや、薄膜電極のカケ等を防ぐことができる。
【0031】
エチレン・α-オレフィン共重合体
ポリオレフィン系樹脂として好ましく用いられるエチレン・α-オレフィン共重合体としては、エチレンから導かれる構成単位および炭素数3~20のα-オレフィンから導かれる構成単位を有することが好ましい。その様なエチレン・α-オレフィン共重合体は、例えば、エチレンと、炭素数3~20のα-オレフィンとを共重合することによって得られる。α-オレフィンとしては、通常、炭素数3~20のα-オレフィンを1種類単独でまたは2種類以上を組み合わせて用いることができる。中でも好ましいのは、炭素数が10以下であるα-オレフィンであり、とくに好ましいのは炭素数が3~8のα-オレフィンである。
【0032】
このようなα-オレフィンの具体例としては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、3,3-ジメチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン等を挙げることができる。中でも、入手の容易さからプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテンおよび1-オクテンが好ましい。なお、エチレン・α-オレフィン共重合体はランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよいが、柔軟性の観点からランダム共重合体が好ましい。
【0033】
本実施形態で用いるエチレン・α-オレフィン共重合体に含まれる、炭素数3~20のα-オレフィンに由来する構成単位(以下、「α-オレフィン単位」とも記す)の割合は10~20mol%が好ましい。
α-オレフィン単位の割合が10mol%以上であると、高い透明性を有するシートが得ることが容易である。また、低温での押出成形を容易に行うことができ、例えば130℃以下での押出成形が可能である。
このため、エチレン・α-オレフィン共重合体中に架橋剤を含浸させる場合においても、押出機内での架橋反応が進行することを抑制できる。また、適度な柔軟性が得られるため、太陽電池モジュールのラミネート成形時に太陽電池素子の割れや、薄膜電極のカケ等の発生を効果的に防ぐことができる。
【0034】
α-オレフィン単位の含有割合が20mol%以下であると、エチレン・α-オレフィン共重合体の結晶化速度が適度になるため、押出機より押し出されたシートがベタつかず、第1冷却ロールでの剥離が容易であり、シート状の太陽電池封止材を一層効率的に得ることができる。また、シートにベタツキが発生しないのでブロッキングを効果的に防止でき、シートの繰り出し性が良好である。また、耐熱性の低下を効果的に防止することもできる。
【0035】
本実施形態で用いるエチレン・α-オレフィン共重合体は、以下の要件a1~a4を満たすことが特に好ましい。
a1)エチレンに由来する構成単位の含有割合が80~90mol%であり、炭素数3~20のα-オレフィンに由来する構成単位の含有割合が10~20mol%である。
a2)ASTM D1238に準拠し、190℃、2.16kg荷重の条件で測定されるMFRが2~40g/10分である。
a3)ASTM D1505に準拠して測定される密度が0.865~0.884g/cm3である。
a4)ASTM D2240に準拠して測定されるショアA硬度が60~85である。
【0036】
架橋剤
本願第1発明で使用される架橋剤は、構造中に2以上の下式(1)で表されるアルキルパーオキシ基を有する化合物(以下、「特定過酸化物」ともいう。)を含む。
R1-OO- -(1)
上記式(1)中、R1は、炭素数1~6のアルキル基を示す。
特定過酸化物を架橋剤の少なくとも一部として用いることで、本願第1発明の製造方法得られた太陽電池封止材シートは、高温での気泡の発生や膨れを有効に抑制することができる。また、この架橋剤はポリオレフィン系樹脂への浸透性に優れるので、標準的な押出成形機を用いて比較的短時間で良好な性能を有する太陽電池封止材シート製造できるなど、生産性向上やコスト低減などにも寄与する。
【0037】
ポリオレフィン系樹脂を架橋することにより、耐熱性、接着性に優れた太陽電池モジュールを得ることができる。また、シランカップリング材を使用する場合には、架橋剤を併せて使用することで、ポリオレフィン系樹脂がシランカップリング剤でグラフト変性されるので、表面側透明保護部材、裏面側保護部材、セル、電極等の他の部材との接着性が良好な太陽電池封止材シートが得られる。
架橋剤の使用量には特に制限は無く、太陽電池封止材シートに求められる諸性能、及び製造工程の諸条件に応じて適宜設定することができるが、後述の特定の架橋助剤との組み合わせにおいて、太陽電池封止後のゲル分率が40%以上となる様な量使用することが好ましい。
より具体的には、十分な架橋を行う観点からは、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、特定過酸化物が0.4質量部以上であることが好ましい。特定過酸化物の使用量は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.4~3.0質量部であることがより好ましく、0.4~1.5質量部であることが特に好ましい。
架橋剤の含有量が上記下限値以上であると、封止シートの架橋特性の低下を抑制し、後述するシランカップリング剤の架橋性樹脂の主鎖へのグラフト反応を良好にして、耐熱性、接着性の低下を抑制することができる。また、架橋剤の含有量が上記上限値以下であると、架橋剤の分解生成物等の発生量が一層低下し、より確実に封止シート中に気泡が発生するのを抑制することができる。
【0038】
R1-OO- -(1)
特定過酸化物が有する2以上の式(1)で表されるアルキルパーオキシ基において、R1は、炭素数1~6のアルキル基であり、それ以外の制限は無いが、炭素数3~6のアルキル基であることが好ましい。
R1は、直鎖状であっても分岐状であってもよいが、特定過酸化物の安定性の観点から嵩高い基であることが好ましく、したがって分岐状であることが好ましい場合が多い。特に好ましい例として、t-ブチル基を挙げることができる。
【0039】
特定過酸化物は、2以上の下式(1)で表されるアルキルパーオキシ基を有していればよく、それ以外の特に化学構造上の制限は無いが、2以上のアルキルパーオキシ基が、同一の炭素原子に結合しているか、又は2以上の炭素原子を介して結合している構造を有することが好ましい。
【0040】
2以上のアルキルパーオキシ基が、同一の炭素原子に結合している特定過酸化物における当該炭素原子には特に制限は無いが、炭素数1から18のシクロアルカン、鎖状アルカン、又はエステルを構成する炭素原子のうちの一つであることが好ましい。その様な特定過酸化物の好適な例として、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ジ(t-ブチルパーオキシ)ブタン、n-ブチル-4,4-ジ(t-ブチルパーオキシ)バレレート、等を挙げることができる。
【0041】
2以上のアルキルパーオキシ基が、2以上の炭素原子を介して結合している特定過酸化物における当該2以上の炭素原子を有する構造には制限は無いが、アルキレン基であることが好ましい。この場合のアルキレン基にも特に制限は無いが、炭素数1から18の直鎖状又は分岐状のアルキレン基であることが好ましい。また、当該アルキレン基に代えて、アルキレン基の構造の一部が芳香環や三重結合を含む構造で置換されたものを用いてもよい。
その様な特定過酸化物の好適な例として、2,5-ジメチル2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、等を挙げることができる。
【0042】
押出シート成形での生産性と太陽電池モジュールのラミネート成形時の架橋速度のバランス等の観点から、特定過酸化物の1分間半減期温度は140~200℃が好ましい。
特定過酸化物の1分間半減期温度が140℃以上であると、押出シート成形時に太陽電池封止材の架橋反応が進行するのを有効に抑制することができる。有機過酸化物の1分間半減期温度が200℃以下であると、太陽電池モジュールのラミネート成形時の架橋速度が十分なものとなるので、太陽電池モジュールの生産性を良好なものとすることができる。また、太陽電池封止材の耐熱性、接着性を確保することも容易となる。
【0043】
これらの特定過酸化物は1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、特定過酸化物のみを架橋剤として使用してもよく、あるいは特定過酸化物と他の架橋剤とを併用してもよい。特定過酸化物と他の架橋剤とを併用する場合、全架橋剤中の特定過酸化物の割合は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。他の架橋剤の種類には特に限定は無いが、特定過酸化物に該当しない過酸化物であることが好ましい。
【0044】
架橋助剤
本願第1発明においては、架橋反応を促進させ、ポリオレフィン系樹脂の架橋度を高めるのに、ポリオレフィン系樹脂を主成分とするペレットに、架橋助剤を含浸させる。
本願第1発明において使用する架橋助剤は、トリアリルイソシアヌレートを含む。トリアリルイソシアヌレートは、特定過酸化物を含む架橋剤との組み合わせにおいて、比較的少量でポリオレフィン系樹脂を十分に架橋することができるので、生産性と製造される太陽電池封止材シートの品質とを、高いレベルで両立することができる。
本発明においてはトリアリルイソシアヌレートのみを架橋助剤として使用してもよく、あるいはトリアリルイソシアヌレートと他の架橋助剤とを併用してもよい。トリアリルイソシアヌレートと他の架橋助剤とを併用する場合、全架橋助剤中のトリアリルイソシアヌレートの割合は、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることが特に好ましい。
他の架橋助剤の種類には特に限定は無いが、従来から使用されている分子内に二重結合を2個以上有する化合物を好ましく使用することができる。分子内に二重結合を3個以上有する化合物であることがより好ましい。
【0045】
トリアリルイソシアヌレートの使用量は、太陽電池封止材シートに求められる諸性能、及び製造工程の諸条件に応じて適宜設定することができるが、特定の架橋剤との組み合わせにおいて、太陽電池封止後のゲル分率が40%以上となる様な量を使用することが好ましい。より具体的には、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.1~1.0質量部であることがより好ましく、0.1~0.4質量部であることが特に好ましい。
トリアリルイソシアヌレートの使用量を上記範囲内とすることで、比較的容易にかつ短時間で含浸することができる。これにより、生産性に優れるだけでなく、適度な架橋構造を有する太陽電池封止材が得られ、太陽電池封止材の耐熱性、機械物性、接着性をより良好なものとすることができる。
【0046】
他の添加剤
本願第1発明の太陽電池封止材シートの製造方法においては、上記の架橋剤及び架橋助剤に加えて、他の各種添加剤を本発明の目的を損なわない範囲において適宜使用することができる。例えば、シランカップリング材、紫外線吸収剤、光安定化剤、酸化防止剤、ポリオレフィン系樹脂以外の各種樹脂、各種ゴム、可塑剤、充填剤、顔料、染料、酸化防止剤、帯電防止剤、抗菌剤、防黴剤、難燃剤、光拡散剤、変色防止剤および分散剤等から選ばれる一種以上の添加剤を適宜添加することができる。
【0047】
シランカップリング剤の使用は、基板、保護シートや太陽電池素子等に対する接着性を向上させるために有用である。例えば、アミノ基またはエポキシ基とともに、アルコキシ基のような加水分解可能な基を有する化合物を挙げることができる。具体的には、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシシラン)、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が使用できる。好ましくは、接着性が良好なγ-グリシドキシプロピルメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが挙げられる。これらのシランカップリング剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0048】
また、シランカップリング剤の添加量はシランカップリング剤の種類によっても異なるが、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、0.1~4重量部であることが好ましく、0.1~3重量部であることがより好ましい。上記下限値以上であると、太陽電池封止材シートの接着性が優れる。また、上記上限値以下であると、太陽電池封止材シートのコストと性能とのバランスが優れる。
【0049】
紫外線吸収剤としては、2-ヒドロキシ-4-ノルマル-オクチルオキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4メトキシベンゾフェノン、2,2-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-4-カルボキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-N-オクトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系;2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアリゾール系;フェニルサルチレート、p-オクチルフェニルサルチレート等のサリチル酸エステル系のものを、好ましい例として挙げることができる。これらの紫外線吸収剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0050】
紫外線吸収剤の添加量は紫外線吸収剤の種類によっても異なるが、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、0.005~5重量部であることが好ましい。紫外線吸収剤の添加量が上記範囲内にあると、耐候安定性を向上する効果を十分に確保し、かつ、太陽電池封止材の透明性や表面側透明保護部材、裏面側保護部材、セル、電極、アルミニウムとの接着性の低下を防ぐことができるので好ましい。
【0051】
光安定化剤としては、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ポリ[{6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}]等のヒンダードアミン型、ヒンダードピペリジン型化合物等が好ましく使用される。これらの光安定化剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0052】
光安定化剤の添加量は光安定化剤の種類によっても異なるが、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、0.005~5重量部であることが好ましい。光安定化剤の添加量が上記範囲内にあると、耐候安定性を向上する効果を十分に確保し、かつ、太陽電池封止材の透明性や表面側透明保護部材、裏面側保護部材、セル、電極、アルミニウムとの接着性の低下を防ぐことができるので好ましい。
【0053】
耐熱安定剤としては、具体的には、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、ビス[2,4-ビス(1,1-ジメチルエチル)-6-メチルフェニル]エチルエステル亜リン酸、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)[1,1-ビフェニル]-4,4'-ジイルビスホスフォナイト、およびビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等のホスファイト系耐熱安定剤;3-ヒドロキシ-5,7-ジ-tert-ブチル-フラン-2-オンとo-キシレンとの反応生成物等のラクトン系耐熱安定剤;3,3',3",5,5',5"-ヘキサ-tert-ブチル-a,a',a"-(メチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)ベンジルベンゼン、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等のヒンダードフェノール系耐熱安定剤;硫黄系耐熱安定剤;アミン系耐熱安定剤等を好ましい例として挙げることができる。これらの中でも、ホスファイト型耐熱安定剤、およびヒンダードフェノール型耐熱安定剤が好ましい。これらの耐熱安定剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0054】
耐熱安定剤の添加量は耐熱安定剤の種類によっても異なるが、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、0.005~5重量部であることが好ましい。耐熱安定剤の添加量が上記範囲内にあると、高温高湿への耐性、ヒートサイクルの耐性および耐熱安定性を向上する効果を十分に確保し、かつ、太陽電池封止材の透明性や表面側透明保護部材、裏面側保護部材、セル、電極、アルミニウムとの接着性の低下を防ぐことができる。
【0055】
含浸工程
本願第1発明の太陽電池封止材シートの製造方法においては、その一工程において、ポリオレフィン系樹脂を主成分とするペレットに架橋剤及び架橋助剤を含浸させることにより架橋性樹脂ペレットを作製する。
ここでペレットの形状や大きさには特に限定は無く、従来当該技術分野において慣用されている形状および大きさを適宜採用すればよいが、ペレットの平均粒子径は0.2~10mmの範囲であることが好ましい。ペレットの平均粒子径が上記範囲内であると、後述するポリオレフィン系樹脂を主成分とするペレットの攪拌性と、添加剤のペレットへの含浸時間とのバランスに優れるので好ましい。
【0056】
ポリオレフィン系樹脂を主成分とする、とはポリオレフィン系樹脂がペレットの構成成分中の最大量を有する成分であることを意味する。ポリオレフィン系樹脂は、ペレットの90質量%以上を構成することが好ましく、99質量%以上を構成することが特に好ましい。
ポリオレフィン系樹脂を主成分とするペレットの製造方法はとくに限定はされないが、例えば、一軸または二軸押出成形機により、ポリオレフィン系樹脂を溶融混練してストランド状またはシート状に押し出し、ペレタイザを用いて、所定の粒度となるようにペレット状に切断して得る方法等が挙げられる。なお、ペレットには、あらかじめ上述した、架橋剤及び架橋助剤以外の添加剤を本発明の目的を損なわない範囲において、適宜含有させてもよい。
【0057】
含浸工程においては、ポリオレフィン系樹脂を主成分とするペレットには、架橋剤と架橋助剤とを別々に含浸してもよいが、製造効率や架橋剤と架橋助剤の両者を均一に含浸させる観点からは、架橋剤と架橋助剤とを混合し、これを含浸させることが好ましい。
架橋助剤の少なくとも一部として使用されるトリアリルイソシアヌレートが室温付近に融点を有し、また架橋剤少なくとも一部として使用される特定過酸化物の多くが室温において液体であるか又は高濃度の炭化水素溶液の形で供給されるので、架橋剤及び架橋助剤を混合して液体を形成できることが多く、またその様にして液体を予め調整し、これをポリオレフィン系樹脂を主成分とするペレットに含浸させることが好ましい。架橋剤及び/又は架橋助剤が固体である場合には、固体成分の溶解性または分散性を向上させるために、希釈溶媒を適宜添加してもよい。
含浸用の液体には、架橋剤及び架橋助剤以外の添加剤を予め添加してもよい。架橋剤及び架橋助剤以外の添加剤が固体の場合には、その様な固体添加剤の溶解性または分散性を向上させるために、希釈溶媒を適宜添加してもよい。
【0058】
このとき、固体成分、固体添加剤を溶解または分散させる方法は特に限定されないが、例えば、ヘンシェルミキサー、タンブラーミキサー、スーパーミキサー、ロータリーミキサー等の攪拌混合機の中に液体の架橋剤、架橋助剤、及び/又は他の添加剤を入れておき、そこに固体の架橋剤、架橋助剤及び/又は他の添加剤を添加して攪拌混合することにより、架橋剤、及び架橋助剤、並びに所望により他の添加剤を含む液体を調製することができる。
【0059】
攪拌混合する温度はとくに限定はされないが、室温でも良いし、攪拌効率を高めるために30~50℃程度に加温してもかまわない。上記下限値以上であると、固体添加剤の溶解または分散速度を向上させることができるため、太陽電池封止材シートの生産性を向上させることができる。また、上記上限値以下であると、添加剤の劣化を抑制することができる。
攪拌混合する時間は特に限定はされないが、固体成分が目視で、均一に溶解または分散するまで行うことが好ましい。
ここで、室温で液体の成分としては、架橋剤、架橋助剤、シランカップリング剤等は、室温で液体であるものが多い。一方、紫外線吸収剤、耐熱安定剤、光安定化剤等は、室温で固体であるものが多い。
【0060】
ポリオレフィン系樹脂を主成分とするペレットに、架橋剤及び架橋助剤を含浸させる具体的手法として好適なものとして、以下の手法を例示できる。
はじめに、ポリオレフィン系樹脂を主成分とするペレットと、架橋剤及び架橋助剤を含む液体とを、例えば、ヘンシェルミキサー、タンブラーミキサー、スーパーミキサー、ロータリーミキサー等の攪拌混合機に供給する。
次いで、攪拌混合機を攪拌させて、ポリオレフィン系樹脂を主体とするペレットと、上記液体とを接触させて、上記液体をペレットに含浸させて架橋性樹脂ペレットを作製する。なお、ポリオレフィン系樹脂を主成分とするペレットは、攪拌混合機を回転させる前に全量供給することが好ましい。一方、架橋剤及び架橋助剤を含む液体は、攪拌混合機を回転させる前に全量供給してもよいし、分割して供給してもよい。より均一にペレットに含浸させる観点からは、攪拌混合機内に分割して供給することが好ましい。生産時間短縮の観点からは、全量供給することが好ましい。
攪拌混合時の攪拌混合機のモーター動力値、および、攪拌混合時の攪拌混合機のモーター積算動力値は、架橋剤、架橋助剤等の含浸速度や処理量に応じて定めることができる設計的事項である。
【0061】
ポリオレフィン系樹脂を主成分とするペレットに、架橋剤及び架橋助剤を含浸させるときのペレットの温度はとくに限定はされず、室温でも良いし、含浸速度を高めるために30~50℃程度に加温してもかまわない。上記下限値以上であると、添加剤を含む溶液のペレットへの含浸速度を向上できるため、太陽電池封止材シートの生産性を向上させることができる。また、上記上限値以下であると、架橋剤、架橋助剤等の劣化をより抑制することができる。また、ペレット同士の融着やペレットが攪拌混合機に融着することをより抑制することができる。なお、ここでペレットの温度とは、ペレットの表面温度を指す。
【0062】
ポリオレフィン系樹脂を主成分とするペレットに架橋剤及び架橋助剤を含浸させる時間は、すなわち架橋性ペレットを作成する工程を実施する時間は、生産性の観点から短い方が好ましいため、100分以下が好ましく、60分以下が特に好ましい。本願第1発明においては、架橋剤及び架橋助剤のポリオレフィン系樹脂を主成分とするペレットへの含浸性が高いので、この実施形態においても、含浸に要する時間を低減し、生産性を向上することができる。またこれにより、架橋剤、架橋助剤、他の添加剤等の失活をより抑制することができる。
なお、本実施形態においてペレットに架橋剤及び架橋助剤の含浸が完了したかどうかは攪拌混合機のモーター動力値により確認できる。含浸が完了すると、ペレットの湿り気が無くなるため、モーターの動力値が急上昇する。
【0063】
本実施形態における太陽電池封止材シートの製造方法によれば、ポリオレフィン系樹脂を主成分とするペレットに架橋剤及び架橋助剤等をあらかじめ含浸させることにより、架橋剤及び架橋助剤等の劣化を抑制しながら、ペレット内部に架橋剤及び架橋助剤等を均一に分布させることができる。そのため、シート内で添架橋剤及び架橋助剤等が均一に分散した太陽電池封止材シートを安定的に得ることができる。
本願第1発明で用いる特定の架橋剤及び特定の架橋助剤の組み合わせは、含浸性に優れ、比較的短時間でポリオレフィン系樹脂を主成分とするペレットに均一に含浸させることができるので、本願第1発明の製造方法は、高い生産性で高品質の太陽電池封止材シートを製造することができる。
【0064】
溶融混練工程
次に、上記混練工程で得られた架橋性樹脂ペレットを、押出成形機の供給口からシリンダ内に投入し、前記シリンダ内で前記ポリオレフィン系樹脂、前記架橋剤、及び前記架橋助剤を含む樹脂組成物を溶融混練する。
当該工程を
図1に模式的に示す。
図1中100は、押出成形機である。
本実施形態における押出成形機100としては、公知の各種二軸押出成形機や単軸押出成形機が挙げられる。押出成形機としては、混練性能に優れる点で、二軸押出成形機が好ましい。
【0065】
押出成形機100は、
図1に示す様に、例えば、最上流部には混練工程で得られた架橋性樹脂ペレットをシリンダ103内に投入できる供給口101、シリンダ103内にはスクリュー105が配置され、最下流の先端部にTダイやリングダイ等のダイ109を有している。
まず、上記架橋性樹脂ペレットは、供給口101からシリンダ103内に投入される。次いで、シリンダ103内に投入された上記架橋性樹脂ペレットはシリンダ103の外側に配置されたヒータによって加熱溶融され、回転するスクリュー105により溶融混練される。
【0066】
従来技術においては、架橋剤及び架橋助剤のポリオレフィン系樹脂への含
浸性が必ずしも十分ではなかったので、
図2に示すように、上記供給口101からスクリュー105の先端までの間に、架橋剤及び/又は架橋助剤を注入できる注入ノズル107を設けていた。架橋剤及び/又は架橋助剤は、例えば、容器201から供給ポンプ203を用いて、注入ノズル107に供給していた。
注入ノズル107は、標準的な押出成形機には設けられておらず、これを設けることはコストが大幅に増加する要因となる。また、容器201、供給ポンプ203、及びその配管類を設置することも、コスト増大の要因となる。
本願第1発明においては、架橋剤及び架橋助剤のポリオレフィン系樹脂への含
浸性に優れるので、注入ノズル107等を必要とせず、標準的な押出成形機を用いて混練工程を実施することが可能であり、生産コスト低減に大きく資することができる。
【0067】
押出成形工程
本願第1発明においては、溶融混練工程で得られたポリオレフィン系樹脂、架橋剤、及び架橋助剤を含む樹脂組成物を、押出成形機のダイから、シート状に押出成形する。
図1に示す実施形態における押出成形工程では、以下に示す様にして、押出成形機100のダイ109から、樹脂組成物をシート状に押出成形する。
【0068】
供給口101から上記樹脂組成物を溶融混練させながら、押出成形機100の先端に取り付けたTダイ等のダイ109からシート状に押し出して太陽電池封止材シートを得る。
押出温度はとくに限定されないが、使用する架橋剤の一時間半減期温度よりも低い温度にて溶融混練し、シート状に押し出すのが好ましい。こうすることで、架橋剤の失活を抑制することができる。
具体的には、押出温度(シリンダ温度)が70~130℃であることが好ましい。押出温度を上記下限値以上にすることにより、太陽電池封止材の生産性を向上させることができる。また、押出温度を上記上限値以下にすることにより、添加剤の劣化を抑制することができる。また、太陽電池封止材のゲル化を抑制することができる。
【0069】
このように、本実施形態における太陽電池封止材シートの製造方法では、添加剤は押出成形機100内を一回だけ通過する。したがって、種々の添加剤が押出成形機100内における加熱や、スクリュー羽根との摩擦熱によって失活するのを抑制することができ、品質に優れた太陽電池封止材シートを安定的に製造できる。
【0070】
なお、脱気性を向上させるために、シート状に押し出した後に、シートの表面にエンボス加工を施してもよい。
シートの表面にエンボス加工を施す方法としてはとくに限定されないが、Tダイから押出されたシートを、表面にエンボス模様が施されたエンボスロールと、このエンボスロールに対峙して配設されたゴムロールとの間に供給し、エンボスロールを溶融シートに押圧させながら、シートの表面にエンボス加工を施す方法が挙げられる。なお、得られたシートを再度加熱して溶融させ、エンボス加工を施してもよい。
【0071】
Tダイ等から押し出された太陽電池封止材シートは、冷却ロールにより均一な厚みのまま冷却・固化され、巻き取り機205にて巻き取られることが生産性の点で好ましい。この際のライン速度は、生産性を考えれば高い方が好ましく、例えば0.5m/min以上が好ましく、1m/min以上がより好ましい。
本実施形態において、得られた太陽電池封止材シートは、太陽電池モジュールサイズに合わせて裁断された枚葉形式、または太陽電池モジュールを作製する直前にサイズに合わせて裁断可能なロール形式にて用いることができる。
【0072】
架橋性樹脂組成物
本願第2発明は、
ポリオレフィン系樹脂、
構造中に2以上の下式(1)で表されるアルキルパーオキシ基を有する化合物、
R1-OO- -(1)
(式中、R1は、炭素数1~6のアルキル基を示す。)、及び
トリアリルイソシアヌレート
を含む、太陽電池封止材用の架橋性樹脂組成物、である。
【0073】
本願第2発明の架橋性樹脂組成物は、架橋剤として機能する構造中に2以上の式(1)で表されるアルキルパーオキシ基を有する化合物と、架橋助剤として機能するトリアリルイソシアヌレートとの組み合わせが、ポリオレフィン系樹脂中に、均一に、かつ、良好な架橋を行うのに十分な量で含浸された、高品質な架橋性樹脂組成物であり、太陽電池封止材用途に好適に使用することができる。本願第2発明の架橋性樹脂組成物を用いて形成された太陽電池モジュールは、高温で使用した際にも、気泡の発生や膨れ等の問題が有効に抑制される。
また、本願第2発明の架橋性樹脂組成物は、架橋剤として機能する構造中に2以上の式(1)で表されるアルキルパーオキシ基を有する化合物と、架橋助剤として機能するトリアリルイソシアヌレートとの組み合わせを、ポリオレフィン系樹脂中に均一にかつ十分な量含浸させることが容易であるため、生産性に優れ、従来汎用される押出成形機を用いて、比較的短時間で製造できる。
【0074】
本願第2発明の架橋性樹脂組成物を構成する、ポリオレフィン系樹脂、構造中に2以上の式(1)で表されるアルキルパーオキシ基を有する化合物、及びトリアリルイソシアヌレートの詳細、及びその好ましい形態は、本願第1発明に関して上記で説明したものと同様である。
本願第2発明の架橋性樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂、構造中に2以上の式(1)で表されるアルキルパーオキシ基を有する化合物、及びトリアリルイソシアヌレート以外の成分を含んでいてもよく、これらの成分の詳細及び好ましい形態も、本願第1発明に関して上記で説明したものと同様である。
本願第2発明の架橋性樹脂組成物の好ましい組成、すなわち、ポリオレフィン系樹脂、構造中に2以上の式(1)で表されるアルキルパーオキシ基を有する化合物、及びトリアリルイソシアヌレート、並びに所望により用いられる他の成分、の好ましい使用割合も、本願第1発明に関して上記で説明したものと同様である。
【0075】
本願第2発明の架橋性樹脂組成物を製造する方法には特に制限は無いが、本願第1発明の製造方法で製造されたものであることが好ましく、また本願第1発明の溶融混練工程までで製造されたものであることも好ましい。
本願第2発明の架橋性樹脂組成物の形状にも特に制限は無いが、ペレット状、又はシート状であることが好ましい。シート状である場合には、本願第2発明の架橋性樹脂組成物は、同時に本願第3発明の太陽電池封止材シートに該当するものであってもよい。
【0076】
太陽電池封止材シート
本願第3発明は、
ポリオレフィン系樹脂、
構造中に2以上の下式(1)で表されるアルキルパーオキシ基を有する化合物、
R1-OO- -(1)
(式中、R1は、炭素数1~6のアルキル基を示す。)、及び
トリアリルイソシアヌレート
を含む、太陽電池封止材シート、である。
【0077】
本願第3発明の太陽電池封止材シートは、架橋剤として機能する構造中に2以上の式(1)で表されるアルキルパーオキシ基を有する化合物と、架橋助剤として機能するトリアリルイソシアヌレートとの組み合わせが、ポリオレフィン系樹脂中に、均一に、かつ、良好な架橋を行うのに十分な量で含浸された、高品質な太陽電池封止材シートであり、太陽電池素子を封止して太陽電池モジュールを形成するのに好適に使用することができる。
本願第3発明の太陽電池封止材シートを用いて形成された太陽電池モジュールは、高温で使用した際にも、気泡の発生や膨れ等の問題が有効に抑制される。
また、本願第3発明の太陽電池封止材シートは、架橋剤として機能する構造中に2以上の式(1)で表されるアルキルパーオキシ基を有する化合物と、架橋助剤として機能するトリアリルイソシアヌレートとの組み合わせを、ポリオレフィン系樹脂中に均一にかつ十分な量含浸させることが容易であるため、生産性に優れ、従来汎用される押出成形機を用いて、比較的短時間で製造できる。
【0078】
本願第3発明の太陽電池封止材シートを構成する、ポリオレフィン系樹脂、構造中に2以上の式(1)で表されるアルキルパーオキシ基を有する化合物、及びトリアリルイソシアヌレートの詳細、及びその好ましい形態は、本願第1発明に関して上記で説明したものと同様である。
本願第3発明の太陽電池封止材シートは、ポリオレフィン系樹脂、構造中に2以上の式(1)で表されるアルキルパーオキシ基を有する化合物、及びトリアリルイソシアヌレート以外の成分を含んでいてもよく、これらの成分の詳細及び好ましい形態も、本願第1発明に関して上記で説明したものと同様である。
本願第3発明の太陽電池封止材シートの好ましい組成、すなわち、ポリオレフィン系樹脂、構造中に2以上の式(1)で表されるアルキルパーオキシ基を有する化合物、及びトリアリルイソシアヌレート、並びに所望により用いられる他の成分、の好ましい使用割合も、本願第1発明に関して上記で説明したものと同様である。
【0079】
本願第3発明の太陽電池封止材シートを製造する方法には特に制限は無いが、本願第1発明の製造方法で製造されたものであることが好ましい。
本願第3発明の太陽電池封止材シートは、本願第2発明の架橋性樹脂組成物からなる、又は本願第2発明の架橋性樹脂組成物を含んでなるものであることが好ましい。
【0080】
本願第3発明の太陽電池封止材シートの厚みは、とくに限定はされないが、通常0.01~2mm、好ましくは0.1~1.2mm、より好ましくは0.2~0.9mmである。厚みがこの範囲内であると、ラミネート工程における、ガラス、太陽電池素子、薄膜電極等の破損が抑制でき、かつ、十分な光線透過率を確保することにより高い光発電量を得ることができる。さらには、比較的低温での太陽電池モジュールのラミネート成形ができるので好ましい。
【0081】
本願第3発明の太陽電池封止材シートを用いて太陽電池モジュールを製造する方法としては、例えば以下に示すものが好ましい。
太陽電池封止材シートで、太陽電池セルを挟み込んだ積層体を形成するとともに、当該積層体を、3~30分間、140℃以上200℃以下で加熱しながら、0.4気圧以上1気圧以下のプレス圧力で積層体に圧力を加えて一体化する封止工程を実施する。
【0082】
上記封止工程において、太陽電池封止材シートを構成するポリオレフィン樹脂が架橋硬化される。すなわち、上記工程で製造された太陽電池モジュールにおいては、太陽電池封止材シートは架橋硬化物となっていて、上記工程前の太陽電池封止材シートとは、架橋度が異なり、また架橋剤、架橋助剤の全部または一部が消費されている。
架橋度はゲル分率によって評価することが可能であり、より具体的には、例えば本願実施例記載の方法によって評価することができる。
ゲル分率は、太陽電池封止材シートの質量に対して40質量%以上であることが好ましく、45質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。
【0083】
上記積層体は、例えば、表面側透明保護部材(例:ガラス板)、第1の太陽電池封止材シート、太陽電池セル、第2の太陽電池封止材シート、および、裏面側保護部材(例:多種のフィルムを積層したバックシート)をこの順に積層したものであってもよい。表面側透明保護部材、太陽電池セル、および、裏面側保護部材の構成の詳細は、当業者において広く知られている。
【0084】
本願第3発明の太陽電池封止材シートを用いて製造された太陽電池モジュールは、高温での気泡、膨れ等の問題が効果的に抑制され、しかも低コストかつ高い生産性で製造することができるので、幅広い用途において利用可能であり、例えばモバイル機器に代表される小型太陽電池、屋根や屋上に設置される大型太陽電池など屋内、屋外に関わらず各種用途に適用することができる
【実施例】
【0085】
以下、実施例/比較例を参照しながら、本発明を具体的に説明する。なお、本発明はいかなる意味においても、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0086】
以下の実施例/比較例において、各特性の評価は以下の方法で行った。
(1)含浸時間
ガラス瓶に、ポリオレフィン系樹脂1kgと、下記に示す方法で調整した、架橋剤、架橋助剤及びその他の添加物を含む液状の添加剤混合物である配合液所定量とを入れ、45℃に加温したオーブン(PHH-401、エスペック株式会社製)内でプレートミックスミル(PMM-20、株式会社エヌエス工研製)を使用して約170rpmでガラス瓶を回転させ、含浸を行った。
一定時間毎にオーブンからガラス瓶を取り出し、樹脂の状態を観察した。樹脂の表面やビンの壁面が濡れていないことが確認できたら、含浸が完了したと判断し、それまでの所要時間を含浸時間とした。
(2)ゲル分率
厚み400μm×100mm角の封止材シートを、厚み50μm×220mm角のPETフィルム2枚で挟み、これを厚み3.2mm×250mm角のガラス盤上に配置して、ラミネーター(LM-110×160、株式会社エヌ・ピー・シー製)を用い、160℃で、まず真空で3分保持してから、圧力約1気圧で所定時間加熱加圧することにより、封止材シートを架橋硬化した。
上記で架橋硬化した封止材からサンプルを約1g計り取り、その重量を4桁の精度で計量した(これを、初期重量Aとした。)。
サンプルをキシレン100mlとともに耐熱ボトルに入れ、110℃に加熱したオーブン中で12時間以上保持した後、30メッシュの金属フィルターでろ過し、フィルター上に残ったサンプルを金属シャーレに移した。金属シャーレ上のろ過後サンプルを110℃で8時間以上乾燥し、キシレンを除去した後のサンプルの重量を計量した(これを、乾燥後重量Bとした。)。
初期重量A、及び乾燥後重量Bから、下式に従いゲル分率(%)を計算した。
ゲル分率(%)=(乾燥後重量B(g)/初期重量A(g))×100
(3)高温耐久性
図3に示す様に、厚み3.2mm×75mm×120mmのガラス板31、厚み400μm×75mm×120mmの封止材シート32、厚み300μm×50mm角のアルミニウム板33(太陽電池セルを模したもの)、セル止めテープ35(粘着テープを幅9mm×長さ25mmにカットしたもの)、及び厚み100μm×75mm×120mmのバックシート34(株式会社エムエーパッケージング製、型式名:PPN75S)を用い、ガラス板31/封止材シート32/アルミニウム板33/セル止めテープ35/封止剤シート32/バックシート34の順に積層して、ラミネーター(LM-110×160、株式会社エヌ・ピー・シー製)を用い、160℃で、まず真空で3分保持してから、圧力約1気圧で所定時間加熱加圧処理を行うことにより、疑似的な太陽電池モジュールサンプルを作製した。セル止めテープ35は、アルミニウム板33の四隅を固定する様に配置した。
サンプルを室温まで冷却した後、180℃に加温したオーブン(PHH-401、エスペック株式会社製)内で30分保持してから取り出し、バックシート34の膨れ有無を目視観察により判定した。
【0087】
(比較例1)
ポリオレフィン系樹脂としてのエチレン・α-オレフィン共重合体(タフマーA-4070S、三井化学株式会社製、MFR:3.6g/10min(190℃)、密度:870kg/m3)のペレット100質量部に対して、架橋剤としてt-ブチルパオーオキシ2-エチルヘキシルカーボネート(商品名:ルペロックスTBEC、アルケマ吉富株式会社製、純度:97.7%)0.6質量部、架橋助剤としてトリアリルイソシアヌレート0.8質量部、シランカップリング材として3メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM503、信越化学工業株式会社)0.3質量部、光安定剤0.1質量部、及び酸化防止剤0.02質量部を含む添加剤混合物を用いて、含浸時間を調べた。
結果を表1に示す。
【0088】
(比較例2)
架橋助剤としてのトリアリルイソシアヌレートの使用量を0.2質量部に変更したことを除くほか、比較例1と同様にして含浸時間を調べるとともに、同様の処方で封止材シートを作成し、ゲル分率及び高温での膨れを評価した。結果を表1に示す。
【0089】
(実施例1)
架橋剤として、t-ブチルパオーオキシ2-エチルヘキシルカーボネートに代えて、2,5-ジメチル2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(商品名:ルぺロックス101、アルケマ吉富株式会社製、純度:92.7%)0.6質量部を使用したことを除くほか、比較例2と同様にして含浸時間を調べるとともに、同様の処方で封止材シートを作成し、ゲル分率及び高温での膨れを評価した。結果を表1に示す。
【0090】
(実施例2)
架橋剤としての2,5-ジメチル2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンの使用量を0.9質量部に変更したことを除くほか、実施例1と同様にして含浸時間を調べるとともに、同様の処方で封止材シートを作成し、ゲル分率及び高温での膨れを評価した。結果を表1に示す。
【0091】
(実施例3)
架橋剤として、2,5-ジメチル2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンに代えて、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(商品名:ルぺロックス331、アルケマ吉富株式会社製、純度:79.6%)0.9質量部を使用したことを除くほか、実施例2と同様にして含浸時間を調べるとともに、同様の処方で封止材シートを作成し、ゲル分率及び高温での膨れを評価した。結果を表1に示す。
【0092】
【0093】
比較例2と各実施例とを参照すると、本発明の要件を具備することで、高温で使用した際にも気泡の発生やそれによる膨れ等を有効に抑制できることがわかる。
更に比較例1と各実施例とを参照すると、本発明の要件を具備することで、架橋剤及び架橋助剤を含む添加剤のポリオレフィン系樹脂への良好な含浸性が実現されることがわかる。この良好な含浸性は、押出成形機の供給口からスクリューの先端までの間に設けられた注入ノズルを有さない、標準的な押出成形機を用いた比較的短時間での溶融混練を可能とするものであり、太陽電池封止材シートのコストや生産性を顕著に向上しうるものである。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の太陽電池封止材シートは、太陽電池モジュールにおいて高温で使用した際にも気泡の発生や膨れ等の問題を有効に抑制でき、またコストや生産性にも優れるので、エネルギー、電気電子、建築、建設、機械等の産業の各分野において高い利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0095】
100: 押出成形機
101: 供給口
103: シリンダ
105: スクリュー
107: 注入ノズル
109: ダイ
201: 容器
203: 供給ポンプ
31: ガラス
32: 封止材シート
33: アルミニウム板
34: バックシート
35: セル止めテープ