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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】塩化マグネシウム溶液を精製する方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 5/30 20060101AFI20240329BHJP
   C07C 59/08 20060101ALI20240329BHJP
   C07C 51/02 20060101ALI20240329BHJP
   C07C 51/47 20060101ALI20240329BHJP
   C12P 7/56 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
C01F5/30
C07C59/08
C07C51/02
C07C51/47
C12P7/56
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022542493
(86)(22)【出願日】2021-01-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-06
(86)【国際出願番号】 EP2021050810
(87)【国際公開番号】W WO2021144423
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2022-07-28
(31)【優先権主張番号】20151907.1
(32)【優先日】2020-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504421730
【氏名又は名称】ピュラック バイオケム ビー. ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(72)【発明者】
【氏名】ファン クリーケン,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ラクスマナ,フェシア レスタリ
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-508758(JP,A)
【文献】国際公開第2000/017378(WO,A2)
【文献】特表2018-507846(JP,A)
【文献】特開昭63-101378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 1/00-17/38
C07B 31/00-63/04
C07C 1/00-409/44
C12P 1/00-41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸含有塩化マグネシウム水性溶液から乳酸を除去する方法であって、該乳酸含有塩化マグネシウム水性溶液における、乳酸に対する塩化マグネシウムの重量比が少なくとも1:1であり、該方法が、
該乳酸含有塩化マグネシウム水性溶液を蒸発工程に付して、塩化マグネシウム水性溶液中にMgCl・MgL・4HOのスラリーの形成をもたらすこと、
該スラリーを固液分離工程に付して、該塩化マグネシウム水性溶液から固体MgCl・MgL・4HOを分離し、該乳酸含有塩化マグネシウム水性溶液から乳酸を、MgCl・MgL・4HOの形態で除去することをもたらすこと
の工程を含む、前記方法。
【請求項2】
乳酸に対する塩化マグネシウムの前記重量比が、少なくとも1.5:1ある、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記乳酸含有塩化マグネシウム溶液が、5~35重量%塩化マグネシウム濃度を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記蒸発工程が、50~200℃の範囲ある温度で、及び/又は0.01~0.9バールの範囲の減圧、1以上の工程にて実行される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記蒸発は、溶液が30~47重量%の範囲塩化マグネシウム濃度を有するまで続けられる、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
塩化マグネシウム溶液中のMgCl・MgL・4HOのスラリーが、少なくとも2重量%MgCl・MgL・4H且つ50重量%以下MgCl・MgL・4HOを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記分離工程から得られた前記塩化マグネシウム溶液が、35~47重量%の範囲塩化マグネシウム濃度を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記分離工程から得られた前記塩化マグネシウム溶液中の乳酸濃度が、1重量%以下ある、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
0.5~7重量%の乳酸濃度且つ15~25重量%の塩化マグネシウム濃度を有するところの乳酸含有塩化マグネシウム溶液が1以上の蒸発工程に付されて、35~47重量%の塩化マグネシウム濃度を有する塩化マグネシウム溶液中に4~40重量%のMgCl・MgL・4HOのスラリーをもたらし、そして、該スラリーが、固液分離工程に付されて、固体MgCl・MgL・4HOと、0.5重量%未満の乳酸濃度を有する塩化マグネシウム溶液とをもたらす、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
乳酸の製造の方法であって、
炭素源を発酵工程に付して乳酸を形成すること、ここで、該発酵工程は、微生物によって炭素源を発酵培地で発酵させて乳酸を形成する工程を含む、
該発酵培地に、酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムから選択されるマグネシウム塩基を添加することによって、該乳酸の少なくとも一部を中和し、それによって、乳酸マグネシウムを得ること、
該乳酸マグネシウムを酸性化工程に付すこと、ここで、該乳酸マグネシウムは、水性環境においてHClと接触されて、乳酸と塩化マグネシウムとを含有する水性混合物を形成する、
乳酸と塩化マグネシウムとを含有する該水性混合物を分離工程に付して、乳酸を含有する流出液と、乳酸含有塩化マグネシウム水性溶液とを形成し、そして、該プロセスから乳酸を含有する該流出液を回収すること、
該乳酸含有塩化マグネシウム水性溶液を蒸発工程に付して、塩化マグネシウム溶液中でMgCl・MgL・4HOのスラリーの形成をもたらすこと、ここで、該乳酸含有塩化マグネシウム水性溶液における、乳酸に対する塩化マグネシウムの重量比が少なくとも1:1である、
該スラリーを固液分離工程に付して、該塩化マグネシウム水性溶液から該固体MgCl・MgL・4HOを単離すること
の工程を含む、前記方法。
【請求項11】
固体MgCl・MgL・4HOが、該酸性化工程に少なくとも部分的に再生される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
該固液分離工程から得られた該塩化マグネシウム溶液は、熱分解工程に少なくとも部分的に提供され、ここで、該塩化マグネシウムは水と反応されて、固体酸化マグネシウム及び気体のHClを形成し、ここで、該固体MgOは、そのまま又は水酸化マグネシウムに転化された後に、該発酵工程に少なくとも部分的に再生されることができ、そして、該気体HClは、所望される場合、そのままで又は水に溶解されて、HCl水性溶液を形成することができる、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記乳酸含有塩化マグネシウム溶液から分離された乳酸が、抽出剤からの分離、及び精製から選択される1以上の工程に付され、例えば洗浄、活性炭処理、再結晶、蒸留及び濾過からなる群から選択される1以上の精製工程に付される、請求項10~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記乳酸が、ラクチド又はポリ乳酸に転化される、請求項10~13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化マグネシウム溶液を精製する方法、特に、限られた量の乳酸を含む塩化マグネシウム溶液を精製する方法、に関する。本発明はまた、発酵プロセスを通じて乳酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸は、炭素源、例えば炭水化物又はグリセロール、の微生物による発酵を介して製造されることができる。そのような発酵プロセスにおいて、炭水化物源は典型的に、微生物によって発酵されて、乳酸を形成する。該炭水化物源が発酵される液体は、発酵ブロス又は発酵培地と呼ばれる。発酵中の乳酸の形成は、該発酵ブロスのpHの低下をもたらすであろう。そのようなpHにおける低下は、微生物の代謝プロセスを害することができる故に、該pHを中和する為に、中和剤、すなわち塩基、を該発酵培地中に添加することが一般的な慣行である。結果として、該発酵培地中に生成される乳酸は典型的に、乳酸塩の形態で存在する。
【0003】
発酵後の該発酵培地から該乳酸を回収する為には、下流処理が必要とされる。下流処理における工程のうちの1つは、酸性化工程であり、ここで、該乳酸塩は、水性媒体中において無機酸と接触させられ、乳酸及び無機塩の形成がもたらされる。例えば、該発酵培地中の該乳酸塩がマグネシウム塩である場合、HClでの酸性化は、溶解された乳酸と溶解された塩化マグネシウムとを含有する溶液の形成をもたらすであろう。
【0004】
その後、次の工程は、該塩化マグネシウム溶液から該乳酸を分離することである。乳酸及び塩化マグネシウムは両方とも水への高い溶解度を有するので、この分離は簡単でない。
【0005】
国際公開第00/17378号パンフレットは、発酵、Ca(OH)又はMg(OH)でのpH調整、HClの添加、並びにアミン、アルコール、及びエーテルから選択される溶媒、好ましくはイソアミルアルコール、ジイソプロピルエーテル、及びAlamine336、での該塩化マグネシウム溶液からの乳酸の抽出を通じて、該乳酸を製造することを記載する。次に、該乳酸を含む該溶媒は、水と接触されて乳酸溶液を生成し、それがさらに処理される。
【0006】
国際公開第2013/093028号パンフレットは、C5+ケトン、ジエチルエーテル、及びメチル-第三級ブチルエーテルの群から選択される抽出溶媒を使用して、塩化マグネシウム溶液から乳酸を抽出し、それによって有機乳酸溶液及び廃棄塩化マグネシウム溶液を得ることを記載する。
【0007】
この抽出プロセスにおいて起こる問題は、該塩化マグネシウム溶液からの乳酸の該抽出が、完全ではないことである。限られた量の乳酸が、該塩化マグネシウム溶液中に残ることになる。これは、2つの理由から不利である。第1に、該塩化マグネシウム溶液中における乳酸の存在は、プロセス全体についての乳酸の収率を低減することになる。第2に、該塩化マグネシウム溶液中に存在する該乳酸は、該塩化マグネシウム溶液の更なる処理を妨害し、このことが、該溶液を高度に濃縮されることを必要とすることが見出されている。該乳酸の除去は、一方では、該塩化マグネシウム溶液中の乳酸の量が該溶液中の塩化マグネシウムの量と比較して相対的に少なくなる為、そして他方では、塩化マグネシウム及び乳酸が両方とも水への高い溶解度を有するという事実によって、困難であることが見出されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、当該技術分野において、塩化マグネシウム溶液から、限られた量の乳酸を除去する方法に対する必要性が存在する。本発明は、そのような方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、乳酸含有塩化マグネシウム水性溶液から乳酸を除去する方法であって、該乳酸含有塩化マグネシウム水性溶液における、乳酸に対する塩化マグネシウムの重量比が少なくとも1:1であり、該方法が、
該乳酸含有塩化マグネシウム水性溶液を蒸発工程に付して、塩化マグネシウム水性溶液中にMgCl・MgL・4HOのスラリーの形成をもたらすこと、
該スラリーを固液分離工程に付して、該塩化マグネシウム水性溶液から固体MgCl・MgL・4HOを分離すること
の工程を含む、上記方法に関する。該塩化マグネシウム水性溶液からの、該固体MgCl・MgL・4HOの該分離は、該乳酸含有塩化マグネシウム水性溶液から乳酸を、MgCl・MgL・4HOの形態で除去することをもたらす。
【0010】
本発明の方法は、乳酸含有塩化マグネシウム水性溶液から乳酸を効率的に除去することを可能とし、所望に応じてさらに加工されることができる、少ない乳酸含有量を有する塩化マグネシウム溶液をもたらすことが見出された。また、該固体MgCl・MgL・4HOがまた、例えばそれを、乳酸マグネシウムがHClと反応させられる酸性化工程に提供することによって、所望に応じて処理されることができる。本発明及びその具体的な実施態様に由来する更なる利点が、更なる記載内容から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明に従う乳酸を製造する方法の実施態様を示す。
図2図2は、塩化マグネシウム-乳酸-水の系の三元固液相図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明が、以下においてより詳細に説明されるであろう。
【0013】
本発明の要点は、両方とも水への高い溶解度を有する乳酸及び塩化マグネシウムを分離する為に、水への低い溶解度を有し、塩化マグネシウム溶液から乳酸を除去する為のビヒクルとして実際に使用されることができる、複塩であるMgCl・MgL・4HO、が生成されることができることを認識したことにある。
【0014】
従って、本発明は、乳酸含有塩化マグネシウム水性溶液から乳酸を除去する方法であって、
該乳酸含有塩化マグネシウム水性溶液を蒸発工程に付して、スラリーの形成をもたらすこと、及び
該スラリーを固液分離工程に付すこと
の工程を含み、
該乳酸含有塩化マグネシウム水性溶液における、乳酸に対する塩化マグネシウムの重量比が少なくとも1:1であること、
該蒸発工程が、塩化マグネシウム水性溶液中にMgCl・MgL・4HOのスラリーの形成をもたらすこと、及び
該固液分離工程が、該塩化マグネシウム水性溶液から、該固体MgCl・MgL・4HOを分離し、該乳酸含有塩化マグネシウム水性溶液からの、MgCl・MgL・4HOの形態における乳酸の除去をもたらすこと
を特徴とする、上記方法として言い表されることができる。
【0015】
本発明に従って処理されることになる該乳酸含有塩化マグネシウム水性溶液は、少なくとも1:1の、乳酸に対する塩化マグネシウムの重量比を有する。乳酸に対する塩化マグネシウムの重量比がこの値を下回っている場合、該方法の効率が低下することになる。より高い比は、向上されたプロセス効率につながる為、特に、生成物の固形分含量に関して、乳酸に対するより高い塩化マグネシウムの重量比、例えば少なくとも1.5:1、で操作することが好ましい。代替的には、乳酸に対する塩化マグネシウムの重量比が、少なくとも2:1であることが好ましくありうる。より具体的には、乳酸に対する塩化マグネシウムの重量比が少なくとも4:1、特には少なくとも5:1、より特には少なくとも6:1、であることが好ましくありうる。塩化マグネシウム溶液が処理されることになり、ここで、塩化マグネシウム対乳酸が所望される操作値を下回っている場合、該溶液はまず、例えば抽出、膜分離、イオン交換、イオン吸収、又は吸着によって、乳酸除去工程に付されて、該乳酸に対する塩化マグネシウムの重量比を、所望される操作値まで上昇させうる。
【0016】
該乳酸含有塩化マグネシウム媒体中の乳酸の量が少な過ぎる場合、本発明に従う方法を通して乳酸を除去することは、経済的に魅力的でないかもしれない。従って、乳酸に対する塩化マグネシウムの重量比は一般的に、70:1以下、特には50:1以下、さらに特には40:1以下、幾つかの実施態様においては20:1以下、である。
【0017】
本発明に従って処理されることになる該乳酸含有塩化マグネシウム溶液中の、該塩化マグネシウム及び乳酸の絶対濃度は、該方法における第1の工程が水の除去であり、該濃度の上昇をもたらす為、あまり関連性はない。一般的に、該溶液の塩化マグネシウム濃度は、5~35重量%、特には10~35重量%、より特には15~35重量%、である。乳酸の量は、上に規定された比から決定されることができる。
【0018】
該乳酸含有塩化マグネシウム溶液は、水性溶液である。それは、例えば該溶液の製造における以前の工程に由来する、限定された量の更なる化合物を含有しうるが、これは必要ではなく、所望されない。
【0019】
例えば、一つの実施態様において、以下により詳細に説明されることになるように、本発明において出発材料として使用される乳酸含有塩化マグネシウム水性溶液は、乳酸マグネシウムを含む発酵ブロスの処理によって得られることができる。乳酸マグネシウムを含む発酵ブロスは、水素塩素酸で酸性化され、分離に付されて、乳酸と、主として塩化マグネシウム及び限られた量の乳酸を含む溶液とを形成しうる。この後者の溶液が、本発明に従う方法において出発材料として使用されうる。この場合、該溶液は、該発酵プロセス、該酸性化工程、又は該分離工程から結果として生じる汚染物質を、これらの不純物がまた、本発明に従う方法による該塩化マグネシウム溶液の更なる処理を、望ましくない様式で妨害しうる為、まったく含まないか、又はかなり限られた量しか含まないことが好ましい。
【0020】
従って、該乳酸含有塩化マグネシウム水性溶液は、10重量%未満、好ましくは5重量%未満、より好ましくは1重量%未満の、他の成分(水、塩化マグネシウム、乳酸、及びそれらの塩以外)を含有することが好ましい。揮発性有機化合物(すなわち、蒸発条件下で該溶液から蒸発することになる化合物)、例えば、抽出プロセスによる、以前の分離工程に由来する抽出溶媒、の存在は、該蒸発工程において除去されることになる為、他の成分よりも害が少なくてもよい。従って、一つの実施態様において、該乳酸含有塩化マグネシウム溶液は、8重量%未満の揮発性有機化合物と、4重量%未満の他の化合物(乳酸、塩化マグネシウム、それらの複塩、又は揮発性有機化合物ではない)とを含む。揮発性有機化合物の量は、6重量%以下、特には4重量%以下、より特には2重量%以下、であることが好ましい。他の化合物の量は、3重量%以下、特には2重量%以下、さらに特には1重量%以下、であることが好ましい。
【0021】
該乳酸含有塩化マグネシウム水性溶液は、蒸発工程に付され、塩化マグネシウム溶液中のMgCl・MgL・4HOのスラリーの形成をもたらす。該蒸発工程において、水が除去され、乳酸及び塩化マグネシウムの濃度の、MgCl・MgL・4HOの溶解度積を上回る値までの上昇をもたらす。
【0022】
それ故に、該蒸発工程は、塩化マグネシウム溶液中のMgCl・MgL・4HOのスラリーの調合をもたらすことになる。MgCl・MgL・4HOの沈殿が始まることになる塩化マグネシウムの濃度は、その時々の条件に左右され、より高い乳酸濃度及び塩化マグネシウム濃度が、沈殿を促進する。一般的に、該乳酸の濃度が1重量%未満であった場合でさえも、該塩化マグネシウムの濃度が31重量%超、特には35重量%超、である場合に、固体MgCl・MgL・4HOの形成が始まることになる。
【0023】
一般的に、該蒸発工程中の温度は、50~200℃、特には80~150℃、であることが好ましい。MgClの溶解度を上昇させ、それにより生成物溶液中のMgClの濃度を上昇させる為には、より高い温度が好ましい。驚くべきことに、上に示されているより高い温度の選択は、MgCl・MgL・4HOの溶解度には限られた影響しか及ぼさないことが見出された。従って、より高い塩化マグネシウム濃度がより多くのMgCl・MgL・4HOを溶液から引き出すことになるので、より高い温度が、より多くの固体MgCl・MgL・4HOの形成につながることになる。さらに、より高い温度は、水の除去を手助けする。
【0024】
該蒸発工程は、大気圧で行われることができ、又は圧力を上昇させて行われることがまたできる。しかしながら、該蒸発工程は、減圧で実行されることが好ましく、これは、許容できる温度での効率的な蒸発が可能となる為である。それ故に、一つの実施態様において、水の蒸発は、0.01~0.9バール、特には0.01~0.35バール、の圧力で実行される。
【0025】
該蒸発は、所望される量のMgCl・MgL・4HOが沈殿されるまで継続される。これに影響を与える第1の要因は、液体中の溶存塩化マグネシウムの濃度である。一般的に、該蒸発は、溶液が30~47重量%、特には33~45重量%、より特には38~45重量%、の塩化マグネシウム濃度を有するまで続けられる。蒸発がより低い濃度で止められる場合、MgCl・MgL・4HOの該沈殿が不十分になることになる。該蒸発が、高過ぎる塩化マグネシウム濃度まで継続される場合、塩化マグネシウムの沈殿のリスクがあり、これは、本方法において所望されない。
【0026】
該蒸発工程は、単一工程において又は複数工程において実行されることができる。出発溶液の濃度が相対的に低い場合、及び/又はMgCLと乳酸との間の重量比が相対的に高く、例えば少なくとも6:1、より特には少なくとも8:1、である場合、該蒸発を複数工程において実行することが魅力的でありうる。
【0027】
該蒸発工程の後に得られる生成物は、塩化マグネシウム溶液中のMgCl・MgL・4HOのスラリーである。出発溶液中の乳酸の量及び生成物溶液中のMgClの濃度に左右されるが、該スラリーは、少なくとも2重量%、特には少なくとも4重量%、のMgCl・MgL・4HOを含むことができる。一般的に、該スラリーは、50重量%以下のMgCl・MgL・4HO、特には40重量%以下のMgCl・MgL・4HO、特には30重量%以下のMgCl・MgL・4HO、特には25重量%以下のMgCl・MgL・4HO、幾つかの実施態様において20重量%以下のMgCl・MgL・4HO、を含む。
【0028】
該スラリーは固液分離に付され、ここで、MgCl・MgL・4HOが該塩化マグネシウム溶液から分離される。該固液分離中、該スラリーは、好ましくは、該蒸発工程の温度と同程度の温度を有する。ここで、同程度の温度は、該蒸発工程中と該固液分離中との間の該スラリーの温度差が20℃未満等であることを示唆することが理解される。該固液分離は、当該技術分野において知られている方法、例えば濾過若しくは遠心分離、を介して、又はそれらの組み合わせを通じて実行されることができる。
【0029】
該分離工程から得られる塩化マグネシウム溶液は一般的に、35~47重量%の塩化マグネシウム濃度を有する。35重量%未満の濃度では、乳酸のMgCl・MgL・4HOとしての沈殿が所望される程度には起こらず、該溶液中に多過ぎる量の乳酸を残し得た。47重量%超の濃度では、塩化マグネシウムが該溶液から沈殿し得た。該塩化マグネシウム濃度は、少なくとも37重量%、特には少なくとも39重量%であり、及び/又は47重量%以下、特には45重量%以下、であることが好ましくありうる。
【0030】
該分離工程から得られる塩化マグネシウム溶液中の乳酸濃度は一般的に、1重量%以下、特には0.5重量%以下、より特には0.2重量%以下、である。
【0031】
一つの実施態様において、本発明は、方法であって、0.5~7重量%の乳酸濃度且つ15~25重量%の塩化マグネシウム濃度を有するところの乳酸含有塩化マグネシウム溶液が1以上の蒸発工程に付されて、35~47重量%の塩化マグネシウム濃度を有する塩化マグネシウム溶液中に4~40重量%のMgCl・MgL・4HOのスラリーをもたらし、そして、該スラリーが、固液分離工程に付されて、固体MgCl・MgL・4HOと、0.5重量%未満、好ましくは0.2重量%未満、の乳酸濃度を有する塩化マグネシウム溶液とをもたらす、上記の方法に関する。
【0032】
この方法は、商業的な有用性を有することが見出されている。
【0033】
本発明に従う方法は特には、発酵工程を使用する、乳酸を製造する方法への組み込みにとって魅力的である。それ故に、この実施態様において、乳酸含有塩化マグネシウム水性溶液から乳酸を除去する為の該方法は、発酵プロセスによって得られる乳酸含有塩化マグネシウム水性溶液から乳酸を分離する為に使用される。好ましくは、該乳酸含有塩化マグネシウム水性溶液は、
炭素源を発酵工程に付して乳酸を形成すること、ここで、該発酵工程は、発酵培地において微生物によって炭素源を発酵させて乳酸を形成する工程を含む、
該発酵培地に、酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムから選択されるマグネシウム塩基を添加することによって、該乳酸の少なくとも一部を中和することで、乳酸マグネシウムを得ること、
該乳酸マグネシウムを酸性化工程に付すこと、ここで、該乳酸マグネシウムは、水性環境においてHClと接触されて、乳酸と塩化マグネシウムとを含有する水性混合物を形成する、
乳酸と塩化マグネシウムとを含有する該水性混合物を分離工程に付して、乳酸を含有する流出液と、乳酸含有塩化マグネシウム水性溶液とを形成し、該プロセスから乳酸を含有する該流出液を回収すること
によって得られる該流出液である。
【0034】
それ故に、一つの実施態様において、従って、本発明は、乳酸の製造の方法であって、
炭素源を発酵工程に付して乳酸を形成すること、ここで、該発酵工程は、微生物によって炭素源を発酵培地で発酵させて乳酸を形成する工程を含む、
該発酵培地に、酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムから選択されるマグネシウム塩基を添加することによって、該乳酸の少なくとも一部を中和し、それによって、乳酸マグネシウムを得ること、
該乳酸マグネシウムを酸性化工程に付すこと、ここで、該乳酸マグネシウムは、水性環境においてHClと接触されて、乳酸と塩化マグネシウムとを含有する水性混合物を形成する、
乳酸と塩化マグネシウムとを含有する該水性混合物を分離工程に付して、乳酸を含有する流出液と、乳酸含有塩化マグネシウム水性溶液とを形成し、そして、該プロセスから乳酸を含有する該流出液を回収すること、
該乳酸含有塩化マグネシウム水性溶液を蒸発工程に付して、塩化マグネシウム溶液中でMgCl・MgL・4HOのスラリーの形成をもたらすこと、ここで、該乳酸含有塩化マグネシウム水性溶液における、乳酸に対する塩化マグネシウムの重量比が少なくとも1:1である、
塩化マグネシウム溶液中のMgCl・MgL・4HOの該スラリーを固液分離工程に付して、該塩化マグネシウム水性溶液から該固体MgCl・MgL・4HOを単離すること
の工程を含む、上記方法に関する。
【0035】
該固体MgCl・MgL・4HOは、少なくとも部分的に該酸性化工程に再生されることができる。該酸性化工程において、該MgCl・MgL・4HOは、HClとの反応において溶解して、溶解された乳酸及び塩化マグネシウムを形成することになる。
【0036】
該スラリーの該固液分離からもたらされる該塩化マグネシウム溶液は、高い塩化マグネシウムの含有量及び低い乳酸の含有量を有する。それにより、それは、熱分解を通じた加工にとって好適である。熱分解において、該塩化マグネシウムは、水(水性溶液中に存在する)と高温で反応されて、固体MgO及び気体HClを形成する。所望される場合、該固体MgOは、そのまま又は水酸化マグネシウムに転化された後に、該発酵工程に少なくとも部分的に再生されることができる。該気体HClは、所望される場合、該酸性化工程に少なくとも部分的に再生されることができる。該気体HClは、そのままで又は水に溶解されてHCl水性溶液を形成した後に、再生されることができる。
【0037】
該乳酸含有塩化マグネシウム溶液の精製に対して追加的な、統合プロセスにおける様々な工程が、以下に説明されるであろう。
【0038】
第1の工程において、炭素源が発酵工程に付されて乳酸を形成し、ここで、該発酵工程は、発酵ブロス中で微生物によって炭素源を発酵させて乳酸を形成すること、及び、酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムから選択されるマグネシウム塩基を添加することによって、該乳酸の少なくとも一部を中和し、それによって、乳酸マグネシウムを得ることの工程を含む。
【0039】
乳酸の製造の為の発酵プロセスは、当該技術分野において知られており、且つ本明細書において更なる説明を必要としない。生成されることになる所望される酸、炭素源及び利用可能な微生物に応じて、共通の一般的知識を使用して、好適な発酵プロセスを選択することは、当業者がなしうる範囲内である。
【0040】
該発酵プロセスの生成物は発酵ブロスであり、それは、乳酸マグネシウム、バイオマス、並びに任意的に更なる成分、例えば糖、タンパク質、及び塩のような不純物、を含有する水性液体である。
【0041】
所望される場合、該発酵ブロスは、更なる処理の前に、バイオマス除去工程、例えば濾過工程、に付されうる。これは一般的に、生成物の品質を向上させる為に好ましい。
【0042】
該乳酸マグネシウムは、溶液として存在し得、又は固体形態で存在しうる。該固体乳酸マグネシウムはまた例えば、懸濁物又はスラリーの形態で存在しうる。別の中間工程は、バイオマス除去の前、該除去の後、又は該除去と同時の、該発酵ブロスからの固体乳酸マグネシウムの分離でありうる。該乳酸マグネシウムは、例えばそのようなバイオマス除去工程の後に得られうる、湿潤ケーキの形態にて存在しうる。任意的に、該乳酸マグネシウムは洗浄工程に付されることができる。
【0043】
別の中間工程は、該発酵ブロスを濃縮工程に付して、酸性化の前に、組成物中の乳酸マグネシウムの濃度を上昇させることでありうる。この工程は、バイオマス除去の前、該除去の後、又は該除去と同時に実行されうる。
【0044】
他の中間工程、例えば精製工程、は、当業者に明らかである通り、所望に応じて実行されうる。好適なプロセスの例は、乳酸マグネシウム及びバイオマスを含む発酵ブロスが、バイオマス除去工程、固体乳酸マグネシウムを除去する工程、残りの液体培地において更なる固体乳酸マグネシウムを形成する濃縮工程、並びに該更なる固体乳酸マグネシウムの該液体培地からの除去に付される、プロセスである。次に、固体乳酸マグネシウムの2つのフラクションは、以下に説明されることになるように、酸性化工程に付されることができる。
【0045】
本発明に従う該統合プロセスにおける次の工程は、該乳酸マグネシウムを酸性化工程に付すことであり、ここで、該乳酸マグネシウムは、水性環境においてHClと接触されて、乳酸と塩化マグネシウムとを含有する水性混合物を形成する。
【0046】
この工程が実現されることができる様々な方法がある。
【0047】
該酸性化工程は典型的には、該乳酸塩を酸性のHCl溶液と接触させることによって行われる。しかしながら、幾つかの実施態様において、該乳酸塩を気体HClと接触させることがまた可能でありうる。
【0048】
該乳酸塩は、固体形態及び/又は溶解形態でありうる。一つの実施態様において、該乳酸塩は、固体形態で用意される。この固体乳酸マグネシウムはまた、懸濁物又はスラリーの形態で存在しうる。又は、それは、例えば濾過又は遠心分離工程の後に、ケーキの任意的な再希釈又は再スラリー化を伴って得られる、湿潤ケーキの形態にて存在しうる。この場合、該酸性化工程は、該乳酸塩を酸性溶液と接触させることによって行われる。従って、固体形態の乳酸塩から該水性混合物を調製する利点は、非常に高い乳酸濃度、例えば少なくとも15重量%、特には少なくとも25重量%、であり、例えば50重量%まで、又は例えば40重量%までの濃度、が得られることができることである。
【0049】
該乳酸塩はまた、典型的に水性溶液の一部として、溶解形態でありうる。この場合、該酸性化工程は、該乳酸塩を酸性溶液又は酸性気体と接触させることによって行われることができる。
【0050】
該酸性化工程はまた、乳酸及び乳酸塩の混合物に対して行われうる。そのような混合物は例えば、低pH発酵において得られうる。該混合物は例えば、水性懸濁物でありうる。
【0051】
該乳酸塩の酸性化が、それを酸性のHCl溶液と接触させることによって行われる場合、それは好ましくは、可能な限り高いHCl濃度を有する。そのような高いHCl濃度は、高い乳酸濃度を有する水性混合物をもたらすことになり、それは望ましい。それ故に、該HCl溶液は、該HCl溶液の総重量に基づいて、少なくとも5重量%、より好ましくは少なくとも10重量%、さらにより好ましくは少なくとも20重量%、のHClを含む。
【0052】
酸性化は典型的に、過剰なHClを使用して行われる。該過剰分は好ましくは、得られる水性混合物が高度に酸性でないように小さく、それは、そのような混合物をさらに処理する観点において望ましくない可能性がある。例えば、使用される酸の該過剰分は、結果としてもたらされる水性混合物が2以下のpH、好ましくは0~1のpH、を有するものでありうる。
【0053】
気体HClが使用される場合、該気体HClを乳酸塩溶液又は懸濁物と接触させることによって、該気体HClが接触させられうる。特に、HCl気体は、該溶液又は懸濁物を通して吹き込まれうる。
【0054】
好ましくは、酸性化は75℃以下の温度で行われる。より高い温度では、高温での酸性環境という過酷な条件に機器を適応させることは不経済になる。
【0055】
該酸性化工程は、乳酸と塩化マグネシウムとを含有する水性液体の形成をもたらす。この水性液体は、任意的に中間処理工程、例えば濃縮工程、を実行された後に、分離工程に付される。該乳酸は、該水性液体中に溶解することになる為、分離は、好適な抽出溶媒での抽出、膜分離、イオン交換、イオン吸収、又は吸着を包含する、任意の好適な分離技術を使用して起こることができる。
【0056】
抽出の場合、該抽出溶媒(抽出剤としてまた表されうる)は、実質的に水と混和できないことが重要である。抽出溶媒の使用は、該分離工程中の、抽出剤及び乳酸を含む液体有機層と、汚染物質として微量の乳酸を含む塩化マグネシウム溶液である水性層とを含む、二相系の形成をもたらす。
【0057】
好適な抽出溶媒の例は、脂肪族及び芳香族炭化水素、例えばアルカン及び芳香族化合物、ケトン並びにエーテルである。様々な化合物の混合物がまた使用されうる。好適な脂肪族アルカンの例は、C5~C10直鎖状、分岐状、又は環状アルカン、例えばオクタン、ヘキサン、シクロヘキサン、2-エチル-ヘキサン及びヘプタン、である。好適な芳香族化合物の例は、C6~C10芳香族化合物、例えばトルエン、キシレン及びエチルベンゼン、である。好適なケトンの例は、本発明において、C5+ケトン、より特にはC5~C8ケトン、である。C5+は、少なくとも5個の炭素原子を有するケトンを表す。C9+ケトンの使用はあまり好ましくない。メチル-イソブチル-ケトン(MIBK)の使用は、特には魅力的であることが見出されている。好適なエーテルの例は、C3~C6エーテル、例えばメチルtert-ブチルエーテル(MTBE)及びジエチルエーテル(DEE)、である。
【0058】
該有機層及び該水性層は、従来の液液分離方法、例えばデカンテーション、沈降分離、遠心分離、プレートセパレーター、コアレッサー、及びハイドロサイクロン、を使用して分離されることができる。異なる方法及び装置の組み合わせがまた使用されうる。
【0059】
該有機層は、有機抽出溶媒中の乳酸の溶液である。該乳酸は、所望に応じて、該抽出溶媒から分離されることができる。一つの実施態様において、これは、該抽出溶媒を蒸発によって除去することによって行われることができる。別の実施態様において、カルボン酸は、水又は別の水性液体での抽出によって該抽出溶媒から回収されることができる。
【0060】
該乳酸は、所望に応じて、処理されることができる。更なる処理工程の例は、精製工程、例えば洗浄、活性炭処理、再結晶、蒸留及び濾過のうちの1以上、である。該カルボン酸が乳酸である場合、それは、ラクチド及びポリ乳酸(PLA)に転化されることができる。該様々な工程を実行する為の方法は、当業者に知られている。本発明はまた、本明細書に記載されている方法によって得ることが可能であるか、又は得られる、乳酸、ラクチド及びポリ乳酸に関する。
【0061】
該乳酸含有塩化マグネシウム溶液は、上に記載されるように、本発明の乳酸除去工程に付される。
【0062】
乳酸が除去されている塩化マグネシウム溶液は、熱加水分解反応器において、熱分解工程に付されることができ、ここで、塩化マグネシウムは、水と反応して酸化マグネシウム及びHClを形成する。
【0063】
熱加水分解工程(本明細書において熱分解工程とまた表記される)を行う為の好適な装置は、当該技術分野において知られている。例えば、噴霧焙焼器又は流動床焙焼器が使用されることができる。そのような装置は、例えば、SMS Siemag社、Andritz社、Tenova社、及び/又はJohnCockerill社で得られることができる。
【0064】
噴霧焙焼器の使用が好ましい。噴霧焙焼器は、(下に記載されているように)相対的に低い温度を必要とする為、(流動床焙焼器ロースターと比較しても)低いエネルギーコストを有する。噴霧焙焼器は、発酵における中和剤としての使用にとって非常に好適である、反応性MgO粒子を生成することを、さらに見出された。熱分解は、MgClが分解する最低温度である、少なくとも300℃の温度で行われる。好ましくは、熱分解は、少なくとも350℃の温度で行われる。エネルギーコストに起因して、該温度は、好ましくは1000℃未満、より好ましくは800℃未満、さらに好ましくは600℃未満、である。加えて、該熱分解工程の為に高過ぎる温度を使用することは、それが、形成されるMgOの反応性を低減することになり、発酵における中和剤としての使用にとってあまり好適でない為、望ましくない。例えば、該熱分解が行われる温度は、350~600℃又は400~500℃でありうる。言及される温度は、ユニットから除去されるときの、気体の温度である。
【0065】
本発明において施与される熱分解は、好ましくは、0.1~10バールの圧力で行われる。しかしながら、HClが凝縮できないことに起因して、下流ユニットにおける腐食のリスクが高まる為、上昇された圧力の使用は望ましくなくありうる。好ましくは、特には焙焼器を使用する場合、不必要なエネルギーコスト及び高価な高圧機器に対する必要性を回避する為に、熱分解は大気圧で行われる。HClのベンティングを防止する為に、0.9~1バールにある圧力が好ましくありうる。
【0066】
当業者には明らかである通り、本発明の様々な観点の選好は、相互に排他的である場合を除き、組み合わせられることができる。
【0067】
図1は、本発明に従う乳酸を製造する方法の実施態様を示す。図1において、発酵工程は発酵反応器(1)において実行され、これには、図示されていないラインを通じて、炭素源及び任意的に更なる成分、例えば栄養素、を供給される。該発酵工程において、炭素源は、発酵ブロスにおいて微生物によって発酵されて、乳酸カルボン酸を形成し、マグネシウム塩基を添加することによって該乳酸の少なくとも一部を中和することで、乳酸マグネシウムを得る。該マグネシウム塩基は、ライン(14)を通じて添加される。乳酸マグネシウム塩を含む該発酵ブロスは、ライン(2)を通じて酸性化工程(3)に供給される。中間工程、例えばバイオマス除去、固体生成物の分離、又は濃縮、が実行されうるが、図示されていない。該酸性化工程(3)において、該乳酸マグネシウムは、水性環境においてHClと接触されて、乳酸と塩化マグネシウムとを含有する水性混合物を形成する。
【0068】
カルボン酸及び塩化マグネシウムを含む該水性混合物は、ライン(4)を通じて分離工程(5)に供給される。該分離工程は、上に記載されるように、抽出を通して実行されうる。分離工程(5)は、乳酸を含む流出液及び乳酸含有塩化マグネシウム溶液をもたらす。生成物の乳酸は、一般的に抽出溶媒中の乳酸溶液の形態において、ライン(6)を通じて取り出される。該乳酸は、上に記載されるように、該抽出溶媒から回収されることができ、上に記載されるように、さらに処理されることができる(図示されていない)。該乳酸含有塩化マグネシウム溶液は、ライン(7)を通じて取り出され、蒸発工程(8)に供給される。蒸発工程8において、水が蒸発され、塩化マグネシウム溶液中のMgCl・MgL・4HOのスラリーの形成をもたらす。該スラリーは、ライン(9)を通じて分離工程(10)に付され、ここで、固体MgCl・MgL・4HOが、該塩化マグネシウム溶液から分離される。該固体MgCl・MgL・4HOは、ライン(11)を通じて取り出され、酸性化工程(3)に再生される。該塩化マグネシウム溶液は、ライン(12)を通じて取り出され、熱分解工程(13)に供給される。該熱分解工程において、該塩化マグネシウム溶液は、固体MgOに転化され、これは、そのまま又は水と反応させられた後に、Mg(OH)に転化された後、ライン(14)を通じて該発酵工程に供給されることができる。該熱分解工程はまた、HClを生成し、それは、気体形態にて、又は吸収工程(図示されていない)において水性液体に吸収された後に、ライン(15)を通じて該酸性化工程に供給されることができる。
【0069】
当業者には明らかである通り、本発明の様々な観点の選好は、相互に排他的である場合を除き、組み合わせられることができる。特に、乳酸含有塩化マグネシウム溶液から乳酸を除去する方法について記載されている選好はまた、乳酸を製造する方法において、対応する工程に適用される。
【0070】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明されるが、それらに限定されたり、又はそれによって限定されたりしない。
【0071】
実施例
【0072】
実施例1:
塩化マグネシウム-乳酸-水の系の三元固液相図が、20℃、50℃及び80℃で得られた。この図は、塩化マグネシウム六水和物(MgCl・6HO)、二重結晶化(S)-乳酸結晶及び脱塩水の混合物の溶解度を測定することによって作製された。溶解度線は、ガラス容器に適量の上記薬品を添加すること、該系を適当な温度に加熱すること、及び約30分間撹拌することによって求められた。次に、少量の水又は乳酸溶液が添加されて、全体の組成を変更し、そして、新しい系が、少なくとも10分間撹拌された。
【0073】
固形分が溶解していないことが観察された場合、更なる少量の水が添加され、引き続き、少なくとも10分間撹拌された。これは、全ての固形分が溶解するまで繰り返された。溶解点の近くでは、追加的な溶解時間を可能とするように注意が払われた。
【0074】
溶解点を確立した後、組成が、初期質量及び添加された水/薬品から逆算された。結果は、図2に示されている通り塩化マグネシウム-乳酸-水の系の三元固液相図である。
【0075】
上記実験中に形成された結晶が調査され、そして、塩化マグネシウム水和物の結晶が、乳酸を含まないサンプルにおいてのみ観察された。乳酸が添加された場合、塩化マグネシウム結晶の溶解度が有意に低下し、且つ針状結晶が形成された。
【0076】
該針状結晶は、濾過によって単離され(別々のサンプルで2回)、濾過ケーキは、エタノールで洗浄されて残留液体物質を除去し、そして、室温で乾燥された。得られた固形分は、それらの組成を決定する為に分析された。乳酸塩/乳酸含有量は、HPLCによって決定された。有機酸は、カルシウム形態の強カチオン交換樹脂(Bio-Rad Aminex HPX-87C、300×7.8mm、85℃)を含む固定相を有するカラム、並びに3mMのCa(HPO・HO及び0.015MのHPO(pH=2.2)を含む溶離液で、HPLCによって定量された。UV3000システムが、検出器として使用された。水含有量は、便覧及び文献に広く記載されている、カールフィッシャー滴定手順(KF滴定)を使用して決定された。塩基として、イミダゾール(ハイドラナール-コンポジット)が使用された。マグネシウムは、フレームAAS Varian SpectrAA300(SpectrAAソフトウェアを伴うPCを含む)において、原子吸光分析(AAS:atomic absorption spectroscopy)によって決定された。該固体結晶は、硝酸溶液に溶解された。塩化物含有量は、硝酸銀(それによって塩化銀が定量的に沈殿する)での滴定によって決定された。終了点(end point)は、銀リング電極を使用して、電位差的に決定される。結果は、結晶の組成がMgCl・MgL・4HOの組成と一致することを確認した。
【0077】
実施例2:
適量の塩化マグネシウム六水和物(MgCl・6HO)、二重結晶化(S)-乳酸結晶、及び脱塩水を混合することによって、18.2重量%の塩化マグネシウム濃度且つ2.3重量%の乳酸濃度を有するところの乳酸含有塩化マグネシウム溶液が調製された。上記溶液は、65~80℃の温度で且つ0.35バールの圧力で水が蒸発される第1蒸発工程に付されて、28重量%の塩化マグネシウム濃度且つ3.5重量%の乳酸濃度を有するところの乳酸含有塩化マグネシウム溶液を形成した。この溶液は、80℃の温度で且つ0.35バールの圧力での更なる蒸発工程に付されて、32重量%の塩化マグネシウム濃度を有する塩化マグネシウム溶液中で、9重量%の固体MgCl・MgL・4HOのスラリーの形成をもたらした。
【0078】
該スラリーは、遠心分離工程に付され、そして、得られたケーキが、メタノール(ケーキ体積の3倍)で洗浄され、そして引き続き、70℃で1時間乾燥された。この単離されたケーキは、多くの針状形の結晶を含み、90重量%超の固形分含量及び0.4重量%未満の乳酸濃度を有した。乾燥ケーキの重量と懸濁物の重量との比は、約9%であった。該乾燥ケーキは、マグネシウム(重量%、AAS)、乳酸(乳酸としての重量%、HPLC)、及び塩化物(重量%、滴定)の包含量について、実施例1に記載されている方法を使用して分析され、上記量は、MgCl・MgL・4HOの理論値と一致することが見出された。これはまた、蒸発結晶化工程後に得られた複塩濃度が約9%であることを証明した。
図1
図2