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特許7462765改善されたレベリング特性を有する水性ポリカルボン酸含有コーティング組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】改善されたレベリング特性を有する水性ポリカルボン酸含有コーティング組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/00 20060101AFI20240329BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20240329BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240329BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20240329BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
C09D175/00
C09D5/02
C09D7/63
B05D1/36 B
B05D7/24 301F
B05D7/24 302T
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022544285
(86)(22)【出願日】2021-01-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-23
(86)【国際出願番号】 EP2021050218
(87)【国際公開番号】W WO2021148255
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-09-21
(31)【優先権主張番号】20152865.0
(32)【優先日】2020-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D-48165 Muenster,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】シュタインメッツ,ベルンハルト
(72)【発明者】
【氏名】ヤンコヴスキー,ペギー
(72)【発明者】
【氏名】レヴ,ノルベルト
(72)【発明者】
【氏名】アイケルマン,クラウス
(72)【発明者】
【氏名】デラー,カトリン
(72)【発明者】
【氏名】ポッペ,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】シュトール,ドミニク
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-523561(JP,A)
【文献】特表平10-507483(JP,A)
【文献】特開2003-020435(JP,A)
【文献】特開2007-084678(JP,A)
【文献】特表2000-501993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分を含む水性コーティング組成物であって、
(a) ポリウレタン-ポリウレア粒子(PPP)を含む水性ポリウレタン-ポリウレア分散体
(b) 少なくとも1つの色顔料P、
(c) 少なくとも1つのポリカルボン酸PC、及び
(d) 任意に少なくとも1つの溶媒S
を該コーティング組成物の総質量に基づいて含み、効果顔料が0質量%であり、
前記ポリウレタン-ポリウレア粒子が、アニオン性基であるカルボキシル基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーと、ポリアミンの第一級アミノ基がブロックされたジエチレントリアミンジケチミンとの反応物であり、
前記前記少なくとも1つのポリカルボン酸PCがジカルボン酸であり、前記ジカルボン酸が一般式(I)
+- OOC-R-COO
(式中、
Rは、直鎖状又は分岐状の飽和C ~C 30 アルキル基、直鎖状又は分岐状の不飽和C 10 ~C 72 アルキル基、シクロアルキル基又は芳香族基、好ましくは直鎖状の飽和C アルキル基であり、そして
は、水素又はカチオンである)
を有し、
前記効果顔料が、(i)ラメラアルミニウム顔料、(ii)金ブロンズ、(iii)酸化ブロンズ及び/又は酸化鉄アルミニウム顔料、(iv)真珠光沢顔料、(v)塩基性炭酸鉛、(vi)酸化ビスマス塩化物及び/又は金属酸化物マイカ顔料、(vii)層状顔料、(viii)PVDフィルムから構成される多層効果顔料、(ix)液晶ポリマー顔料(x)それらの混合物からなる群から選択される
水性コーティング組成物。
【請求項2】
前記ポリウレタン-ポリウレア粒子(PPP)を含む水性ポリウレタン-ポリウレア分散体が、固形分換算で40~95質量%、好ましくは固形分換算で50~90質量%、より具体的には固形分換算で55~85質量%の総量で、各場合とも前記コーティング組成物の総バインダー含量に基づいて存在する、請求項1に記載の水性コーティング組成物。
【請求項3】
記ポリウレタン-ポリウレア粒子(PPP)が、40nm~2,000nmの平均粒子径及び少なくとも50%のゲル画分を有する、請求項に記載の水性コーティング組成物。
【請求項4】
前記水性ポリウレタン-ポリウレア分散体が、固形分換算で1~60質量%、好ましくは固形分換算で5~50質量%、より好ましくは固形分換算で10~40質量%、非常に好ましくは固形分換算で15~40質量%の総量で、各場合とも前記コーティング組成物の総バインダー含量に基づいて存在する、請求項に記載の水性コーティング組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1つの顔料Pが、1~40質量%、好ましくは2~35質量%、より好ましくは5~30質量%の総量で、各場合とも前記コーティング組成物の総質量に基づいて存在する、請求項1からのいずれか一項に記載の水性コーティング組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1つのポリカルボン酸PCの中和レベルが、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは10~100%である、請求項1からのいずれか一項に記載の水性コーティング組成物。
【請求項7】
前記ジカルボン酸が、アゼライン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸及びフタル酸、及びそれらの混合物の群から選択される、請求項1からのいずれか一項に記載の水性コーティング組成物。
【請求項8】
前記少なくとも1つのポリカルボン酸PC、より具体的には一般式(I)の前記ジカルボン酸が、0.01~4質量%、より好ましくは0.02~2質量%、より具体的には0.05~1質量%の総量で、各場合とも前記コーティング組成物の総質量に基づいて存在する、請求項1からのいずれか一項に記載の水性コーティング組成物。
【請求項9】
前記少なくとも1つの溶媒Sが、水、アルコキシ-C~C10アルコール、ケトン、エステル、アミド、メチラール、ブチラール、1,3-ジオキソラン、グリセロールホルマール、及びこれらの混合物から、より具体的にはアルコキシ-C~C10アルコール及び/又は水から選択される、請求項1からのいずれか一項に記載の水性コーティング組成物。
【請求項10】
以下の工程、
(1) 少なくとも1つのポリカルボン酸PC、少なくとも1つの溶媒S、及び任意に少なくとも1つの中和剤を含む溶液を提供する工程、及び
(2) 工程(1)で提供された溶液を、ポリウレタン-ポリウレア粒子(PPP)を含む水性ポリウレタン-ポリウレア分散体及び少なくとも1つの色顔料Pを含む水性組成物に添加する工程
を含み、
前記ポリウレタン-ポリウレア粒子が、アニオン性基であるカルボキシル基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーと、ポリアミンの第一級アミノ基がブロックされたジエチレントリアミンジケチミンとの反応物であり、
前記前記少なくとも1つのポリカルボン酸PCがジカルボン酸であり、前記ジカルボン酸が一般式(I)
+- OOC-R-COO
(式中、
Rは、直鎖状又は分岐状の飽和C ~C 30 アルキル基、直鎖状又は分岐状の不飽和C 10 ~C 72 アルキル基、シクロアルキル基又は芳香族基、好ましくは直鎖状の飽和C アルキル基であり、そして
は、水素又はカチオンである)
を有する、水性コーティング組成物の製造方法。
【請求項11】
基材(S)上にマルチコート塗装系(M)を製造するための方法であって、以下の工程:
(1) 組成物(Z1)を基材(S)に適用し、その後続いて、適用した前記組成物(Z1)を硬化させることにより、硬化した第1のコーティング層(S1)を前記基材(S)上に任意に製造する工程と、
(2) 水性ベースコート材料(bL2a)を前記第1のコーティング層(S1)に直接適用するか、又は少なくとも2つの水性ベースコート材料(bL2-x)を直接前記第1のコーティング層(S1)に直接連続して適用することにより、ベースコート層(BL2a)又は少なくとも2つの直接連続したベースコート層(BL2-x)を、直接前記第1のコーティング層(S1)上に製造する工程と、
(3) クリアコート材料(cm)を直接前記ベースコート層(BL2a)又は最上部のベースコート層(BL2-z)に適用することにより、クリアコート層(C)を直接前記ベースコート層(BL2a)又は前記最上部のベースコート層(BL2-z)上に製造する工程と、
(4) 前記ベースコート層(BL2a)と前記クリアコート層(C)とを、又は前記ベースコート層(BL2-x)と前記クリアコート層(C)とを、一緒に硬化させる工程と、
を含み、
少なくとも1つのベースコート材料(bL2a)又はベースコート材料(bL2-x)の少なくとも1つが、請求項1からのいずれか一項に記載の組成物を含み、及び/又は少なくとも1つのベースコート材料(bL2a)又はベースコート材料(bL2-x)の少なくとも1つが、請求項10に記載の方法により得られたものである、方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法によって得ることができる、マルチコート塗装系。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つのアニオン的に安定化されたバインダーB、少なくとも1つの色顔料P、少なくとも1つのポリカルボン酸PC、及び任意に少なくとも1つの溶媒Sを含む水性コーティング組成物に関する。前記コーティング組成物は、効果顔料を含まない。本発明はさらに、溶媒S中のポリカルボン酸PCの溶液を、少なくとも1つのアニオン的に安定化されたバインダーBと色顔料Pとを含むコーティング組成物に添加することによって、本発明の水性コーティング組成物を製造する方法に関する。さらに、本発明は、ベースコート層又は少なくとも2つの直接連続したベースコート層を、第1のコーティング層で任意にコーティングした基材上に直接製造し、クリアコート層を、ベースコート層又は最上部のベースコート層上に直接製造し、そして1つ以上のベースコート層(複数可)及びクリアコート層を一緒に硬化させることによって、マルチコート塗装系を製造する方法に関する。ベースコート材料の少なくとも1つは、本発明の水性コーティング組成物及び/又は本発明の方法によって調製された水性コーティングを含む。最後に、本発明は、本発明の方法によって得ることができるマルチコート塗装系に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の仕上げにおいて特に、そしてまた、高度な装飾効果と同時に腐食からの効果的な保護を有するコーティングに対する要望がある他の部門においても、複数のコーティングフィルムが互いの上に配置された基材を提供することは、既知の慣行である。
【0003】
マルチコート塗装系は、好ましくは、いわゆる「ウェット・オン・ウェット」法によって適用される。これは、顔料入りベースコート材料が最初に適用され、短いフラッシュ時間の後、ベーク工程なしで、クリアコート材料により再コーティングされることを意味する。その後、ベースコート及びクリアコートは、一緒にベークされる。
【0004】
「ウェット・オン・ウェット」法は、自動車用の金属効果塗料の適用において特に重要となっている。
【0005】
経済的及び環境的理由から、マルチコート系の製造における水性ベースコート組成物の使用が指示されている。これらのベースコートを製造するためのコーティング組成物は、今日の慣例的で合理的な「ウェット・オン・ウェット」法による処理が可能でなければならない。すなわち、非常に短い初期乾燥期間の後、ベーク工程なしで、透明なトップコートで再コーティングすることが可能であり、外観上の欠陥、例えば「ピンホール」として知られるものを示してはならない。
【0006】
さらに、コーティング組成物は、貯蔵において十分な安定性も示さなければならない。慣例の試験は、40℃での材料の貯蔵である。
【0007】
さらに、コーティング組成物のレオロジー特性は、高級な全体的外観を得るために、「ウェット・イン・ウェット」適用に合わせて特製しなければならない。この外観は、使用されるコーティング組成物の部分の効果的なレベリングによって特に影響を受ける。さらに、ゲル斑点の最小化は課題を示す。
【0008】
原理的には、多種多様なレオロジー補助剤のうちの任意が、レオロジー特性を調整する目的で使用されることが知られている。
【0009】
例えば、EP0877063A2、WO2009/100938A1、EP2457961A1、及びEP3183303A1は、≧30mgKOH/g又は<10mgKOH/gポリアミドの酸価を有するポリアミドを含む水性コーティング組成物を記載している。しかしながら、ポリアミド及び他の水不溶性の構成成分を水性コーティング組成物において使用することは、これらの化合物と組成物の水溶性の構成成分との間の非相溶性をもたらす可能性がある。これは、特に、「ウェット・オン・ウェット」法による処理及び/又はコーティング組成物へのポリアミドの取り込みにおける断片的な状態(bittiness)、及び/又はそのようなコーティング組成物の不適切な貯蔵安定性(偏析又は相分離)を、特に比較的高い温度、例えば40℃以上の温度においてもたらす。さらに、ポリアミドを添加すると、レベリング不良及び/又は外観不良があり得る。
【0010】
EP1153989A1は、酸価≧30mgKOH/gポリアミドを有するポリアミドと、さらなるレオロジー助剤として、非常に小さい、通常はナノスケールの粒子からなる金属シリケートとを含む水性コーティング組成物を開示している。しかしながら、このような金属シリケートが、特に、酸価>30mgKOH/gポリアミドを有するポリアミドと合わせて水性コーティング組成物中に存在する場合の欠点は、「ウェット・オン・ウェット」法による処理の場合のピンホール及び/又はポップの発生であることが多い。さらに、金属シリケートの使用は、その高い表面積に起因して、金属シリケートが他の配合構成成分、特に顔料親和性の基を有する分散添加剤及び/又はバインダーとの強い相互作用を開始するので、望ましくない。これらの相互作用を最小限にするには、高レベルの希釈が必要である。しかしながら、その希釈は、特に、コーティング組成物の剪断安定性及び循環ライン安定性に悪影響を及ぼすことがある。
【0011】
また、水性コーティング組成物においてレオロジー助剤として慣例的に使用される金属シリケート、例えば市販の金属シリケート「Laponite(登録商標)RD」を含む水性コーティング組成物も知られている。しかしながら、この場合の欠点は、上述の方法による処理におけるピンホール増加及び/又はレベリング不良の発生である。
【0012】
よって、効果顔料を含まず、且つ効果的なレベリング及びゲル斑点の最小化、及び良好な光学的及び機械的特性を示し、同時にポリアミド及び/又は金属シリケートを実質的に含まない水性コーティング組成物が、有利であろう。また、水性コーティング組成物から製造されたコーティング層の真上に「ウェット・オン・ウェット」 で適用された金属コーティングの明度及びフロップ指数を改善することも、この組成物にとって有利であろう。さらに、水性コーティング組成物は、高い貯蔵安定性を有するべきである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】EP0877063A2
【文献】WO2009/100938A1
【文献】EP2457961A1
【文献】EP3183303A1
【文献】EP1153989A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
目的
よって本発明の目的は、色顔料を含み且つポリアミド及び/又は金属シリケートを使用しなくても効果的なレベリングを示す水性コーティング組成物を提供することである。さらに、水性コーティング組成物は、良好な光学的及び機械的特性、及び高い貯蔵安定性を有するものである。さらに、水性コーティング組成物は、水性コーティング組成物から形成されたコーティング層上に直接「ウェット・オン・ウェット」で適用された金属コーティング層の明度及びフロップ効果を向上させるべきである。
【0015】
技術的解決策
上記の目的は、特許請求の範囲に記載された主題によって、及び本明細書中で以下の記述に記載されるその主題の好ましい実施態様によって、達成される。
【課題を解決するための手段】
【0016】
従って本発明の第1の主題は、以下の成分、
(a) ポリウレタン-ポリウレア粒子(PPP)を含む水性ポリウレタン-ポリウレア分散体
(b) 少なくとも1つの色顔料P、
(c) 少なくとも1つのポリカルボン酸PC、及び
(d) 任意に少なくとも1つの溶媒S
を含み、効果顔料が0質量%であり、
前記ポリウレタン-ポリウレア粒子が、アニオン性基であるカルボキシル基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーと、ポリアミンの第一級アミノ基がブロックされたジエチレントリアミンジケチミンとの反応物であり、
前記前記少なくとも1つのポリカルボン酸PCがジカルボン酸であり、前記ジカルボン酸が一般式(I)
+- OOC-R-COO
(式中、
Rは、直鎖状又は分岐状の飽和C ~C 30 アルキル基、直鎖状又は分岐状の不飽和C 10 ~C 72 アルキル基、シクロアルキル基又は芳香族基、好ましくは直鎖状の飽和C アルキル基であり、そして
は、水素又はカチオンである)
を有し、
前記効果顔料が、(i)ラメラアルミニウム顔料、(ii)金ブロンズ、(iii)酸化ブロンズ及び/又は酸化鉄アルミニウム顔料、(iv)真珠光沢顔料、(v)塩基性炭酸鉛、(vi)酸化ビスマス塩化物及び/又は金属酸化物マイカ顔料、(vii)層状顔料、(viii)PVDフィルムから構成される多層効果顔料、(ix)液晶ポリマー顔料(x)それらの混合物からなる群から選択される、水性コーティング組成物である。


【0017】
上記で特定した水性コーティング組成物は、以下に本発明のコーティング組成物とも称され、よって本発明の主題である。本発明のコーティング組成物の好ましい実施態様は、以下の記載及び従属請求項から明らかである。
【0018】
本発明のコーティング組成物は、ポリアミド及び/又は金属シリケートを添加しなくても、より具体的にはポリアミド及び金属シリケートを添加しなくても、優れたレベリングを有する。この効果的なレベリングは、少なくとも1つのポリカルボン酸PCを、少なくとも1つのアニオン的に安定化されたバインダーB及び任意に少なくとも1つの溶媒Sと組み合わせて使用することによって、達成される。アニオン的に安定化されたバインダーBとの組み合わせにおいて、ポリカルボン酸PCは結合性増粘剤として機能し、そして剪断応力を解放した後に、剪断下の低粘度に負の影響を与えることなく高粘度をもたらす。このように、本発明のコーティング組成物は、剪断下での低粘度により容易に適用することができる。剪断応力の解放時、すなわち基材上にコーティング組成物を適用した後に粘度が大幅に増加すると、優れたレベリング効果が得られる。溶媒Sを使用することにより、ポリカルボン酸PCの水性コーティング組成物への均一な取り込みを向上させることができるので、ゲル斑点及び断片的な状態が防止され、そして高い貯蔵安定性が達成される。本発明によれば、ポリカルボン酸PCは、溶媒Sに溶解させた後に水性コーティング組成物に添加することも可能である。この溶液は貯蔵安定性が高く、従って簡単な方法で、貯蔵安定性の中間体として、水性コーティング組成物の製造の一部として、製造プロセスに組み込むことができる。さらに、ポリカルボン酸PCの添加は、本発明の組成物で製造されたコーティング層及び本発明のコーティング組成物から調製されたベースコート層を含むマルチコート塗装系の光学的及び機械的特性に、如何なる悪影響も及ぼさない。ポリカルボン酸PCの添加にもかかわらず、本発明のコーティング組成物に対して高い固形分含量を実現することができる。
【0019】
さらに、少なくとも1つのポリカルボン酸PC及びアニオン的に安定化されたバインダーBを、任意に少なくとも1つの溶媒Sと組み合わせて使用することにより、本発明の水性コーティング組成物から製造されたコーティング層の真上に「ウェット・オン・ウェット」で適用された金属コーティングのフロップ効果が増大する。この理論に拘束されることなく、ポリカルボン酸PCはその上を覆っている金属コーティング内に移動し、下にある基材に対する効果顔料の実質的に平行な配向を増大させると考えられる。
【0020】
本発明のさらなる主題は、ベースコート層又は少なくとも2つの直接連続したベースコート層を、第1のコーティング層で任意にコーティングした基材上に直接製造し、クリアコート層を、ベースコート層又は最上部のベースコート層上に直接製造し、そして1つ以上のベースコート層(複数可)及びクリアコート層を一緒に硬化させることによって、マルチコート塗装系を製造する方法である。ベースコート材料の少なくとも1つは、本発明の水性コーティング組成物及び/又は本発明の方法によって調製された水性コーティングを含む。
【0021】
本発明のさらなる主題は、本発明の方法によって得ることができるマルチコート塗装系である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
定義:
まず最初に、本発明の文脈において用いられるいくつかの用語について説明する。
【0023】
「水性コーティング組成物」という表現は、当業者に知られている。これは、根本的には、有機溶媒のみに基づくものではないコーティング組成物を指す。実際に、有機溶媒をベースとするいかなるそのようなコーティング組成物も、有機溶媒のみを含有し、そして成分を溶解及び/又は分散させるための水を含まないか、又はその製造中に明らかに水が加えられないコーティング組成物であり、代わりに水は、汚染物質、大気中の水分及び/又は使用される任意の特定の添加剤のための溶媒の形でのみ組成物に入る。このような組成物は、水性コーティング組成物とは対照的に、溶媒ベース又は「有機溶媒をベースとする」と称される。本発明の文脈における「水性」とは、好ましくは、コーティング組成物が、各場合とも存在する溶媒(すなわち、水及び有機溶媒)の総量に基づいて、少なくとも20質量、好ましくは少なくとも25質量%、非常に好ましくは少なくとも50質量%の水画分を含むことを意味すると理解される。そしてこの水画分は、各場合とも存在する溶媒の総量に基づいて、好ましくは60~100質量%、より具体的には65~90質量%、非常に好ましくは70~85質量%である。
【0024】
「バインダー」という用語は、本発明の意味において、且つDIN EN ISO4618(ドイツ版、日付:2007年3月)と一致して、好ましくは、その中の任意の顔料及び充填剤を除き、フィルムの形成に関与する本発明の組成物の不揮発性画分を指し、そしてより具体的には、フィルムの形成に関与するポリマー樹脂を指す。不揮発性画分は、実施例のセクションに記載の方法によって決定してよい。
【0025】
優れたフロップ効果を達成するために、水性コーティング組成物は、少なくとも1つのアニオン的に安定化されたバインダーBを含まなければならない。アニオン的に安定化されたバインダーBは、本発明によれば、中和剤によってアニオン性基(潜在的なアニオン性基)に変換されることが可能な基を含むバインダーであると理解される。中和剤によってアニオン性基に変換されることが可能なアニオン性基は、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基及び/又はホスホン酸基、より具体的にはカルボン酸基である。
【0026】
「ポリカルボン酸」という用語は、本発明によれば、分子当たり少なくとも2つのカルボン酸基を有する脂肪族又は芳香族カルボン酸を指す。これらのカルボン酸基は、中和剤によって完全に又は部分的にアニオン性基に変換される。
【0027】
「(メタ)アクリレート」という用語は、以下、アクリレート及びメタクリレートの両方を指すものとする。
【0028】
基材へのコーティング組成物の適用、又は基材上のコーティングフィルムの製造は、以下のように理解される:それぞれのコーティング組成物は、それらから製造されたコーティングフィルムが基材上に配置されるように適用される。しかしながら、基材と直接接触する必要はない。よって他の層がコーティングフィルムと基材との間に存在することができる。例えば、任意の工程(1)において、金属基材(S)上に硬化したコーティング層(S1)が製造されるが、基材と硬化したコーティング層(S1)との間に、亜鉛ホスフェートコーティングなどの後述する変換コーティングを配置してもよい。
【0029】
対照的に、コーティング組成物を直接基材に適用するか、又はコーティングフィルムを直接基材上に製造すると、製造されたコーティングフィルムと基材とが直接接触する。このように、より具体的には、コーティングフィルムと基材との間に他の層は存在しない。無論、同じ原理が、コーティング組成物の直接連続した適用又は直接連続するコーティングフィルムの製造に、例えば本発明の工程(2)(b)において、適用される。
【0030】
「フラッシュオフ」という用語は、適用後、コーティング組成物中に存在する有機溶媒及び/又は水を、通常は周囲温度(すなわち室温)、例えば15~35℃で、或る期間、例えば0.5~30分間、蒸発させることを意味する。コーティング組成物は、液滴形態で適用された少なくとも直後は、まだ自由に流動するので、均一で滑らかなコーティングフィルムをレベリングにより形成することができる。しかし、フラッシュオフ操作後のコーティングフィルムは、まだ使用可能な状態ではない。例えば、それはもはや自由に流動しないが、依然として軟質及び/又は粘着性であり、そして場合によっては部分的にしか乾燥していない。より具体的には、後述するように、コーティングフィルムはまだ硬化していない。
【0031】
対照的に、中間乾燥は、例えば、より高い温度及び/又はより長い期間行われ、その結果、フラッシュオフと比較して、より高い割合の有機溶媒及び/又は水が適用されたコーティングフィルムから蒸発する。よって中間乾燥は、通常、周囲温度よりも高温で、例えば40~90℃で、例えば1~60分間行われる。しかし、中間乾燥でも、コーティングフィルムは使用可能な状態、すなわち後述する硬化したコーティングフィルムとはならない。フラッシュオフ及び中間乾燥操作の典型的なシーケンスは、例えば、適用されたコーティングフィルムを周囲温度で5分間フラッシュオフし、次いで、それを80℃で10分間中間乾燥することを伴う。
【0032】
このようにコーティングフィルムの硬化とは、そのフィルムをそのまま使用できる状態、すなわち、それぞれのコーティングフィルムを備えた基材を、輸送、貯蔵及び意図された使用ができる状態に変換することを意味すると理解される。より具体的には、硬化したコーティングフィルムは、もはや軟質でも粘着性でもないが固形のコーティングフィルムとして調整されており、以下に記載するような硬化条件へのさらなる曝露下においても、その特性、例えば硬度又は基材上の付着性に、如何なるさらなる有意な変化も受けない。
【0033】
本発明の文脈において、「物理的に硬化可能な」又は「物理的硬化」という用語は、ポリマー溶液又はポリマー分散体からの溶媒の放出により硬化したコーティングが形成されることを意味し、硬化はポリマー鎖の相互ループにより達成される。
【0034】
本発明の文脈において、「熱化学的に硬化可能な」又は「熱化学的硬化」という用語は、反応性官能基の化学反応によって開始される、塗料フィルムの架橋(硬化したコーティングフィルムの形成)を意味し、活性化エネルギーをこれらの化学反応に熱エネルギーによって提供することが可能である。これは、互いに相補的な異なる官能基(相補的官能基)の相互の反応及び/又は自己反応性基、すなわち同種の基と相互反応する官能基の反応に基づく硬化層の形成を伴うことができる。適した相補的反応性官能基及び自動反応性官能基の例は、例えば、ドイツ特許出願DE19930665A1、第7頁第28行~第9頁第24行から知られている。
【0035】
この架橋は、自己架橋及び/又は外部架橋であってよい。例えば、バインダーとして使用される有機ポリマー、例えばポリエステル、ポリウレタン又はポリ(メタ)アクリレート中に相補的反応性官能基がすでに存在する場合、自己架橋が存在する。外部架橋は、例えば、特定の官能基、例えばヒドロキシル基を含有する(第1の)有機ポリマーが、それ自体既知の架橋剤、例えばポリイソシアネート及び/又はメラミン樹脂と反応する場合に存在する。このように、架橋剤は、バインダーとして使用される(第1の)有機ポリマー中に存在する反応性官能基と相補的な反応性官能基を含有する。
【0036】
特に外部架橋の場合、1成分及び複数成分系、特に2成分系は、それ自体知られており、有用である。1成分系では、架橋させる成分、例えば、バインダーとしての有機ポリマー及び架橋剤は、互いに共に存在する、すなわち、1成分中に存在する。そのための必要条件は、架橋させる成分が、例えば100℃を超える比較的高温でのみ互いに反応する、すなわち硬化反応を開始することである。そうでなければ、架橋させる成分は、互いに別々に貯蔵し、且つ尚早な少なくとも部分的な熱化学的硬化(参照:2成分系)を避けるために、基材に適用する直前にのみ互いに混合しなければならない。組み合わせの例として、ヒドロキシ官能性ポリエステル及び/又はポリウレタンと、架橋剤としてのメラミン樹脂及び/又はブロックされたポリイソシアネートとの組み合わせが挙げられる。2成分系では、架橋させる成分、例えば、バインダーとしての有機ポリマー及び架橋剤は、適用の直前にのみ組み合わされる少なくとも2つの成分中に別々に存在する。この形態は、架橋させる成分が、周囲温度又はわずかに高い温度、例えば40~90℃でさえも互いに反応する場合に選択される。組み合わせの例として、ヒドロキシ官能性ポリエステル及び/又はポリウレタン及び/又はポリ(メタ)アクリレートと、架橋剤としての遊離ポリイソシアネートとの組み合わせが挙げられる。
【0037】
本発明の文脈において、「光化学的に硬化可能」又は「光化学的硬化」という用語は、化学線、すなわち、近赤外(NIR)及びUV放射線のような電磁放射線、特にUV放射線、及び硬化のための電子ビームのような粒子放射線を用いて硬化が可能であるという事実を意味すると理解される。UV放射線による硬化は一般的にラジカル又はカチオン光開始剤によって開始される。典型的な化学的に硬化可能な官能基は炭素-炭素二重結合であり、これには一般的にフリーラジカル光開始剤が使用される。よって化学線硬化は同様に化学的架橋に基づく。
【0038】
純粋に物理的に硬化するコーティング組成物の場合、硬化は、好ましくは、15~90℃の間で2~48時間の期間にわたって行われる。よってこの場合、硬化は、フラッシュオフ及び/又は中間乾燥操作とは、硬化工程の持続時間のみが異なる。
【0039】
原理的には、且つ本発明に関連して、熱化学的に硬化可能な、特に好ましくは熱化学的に硬化可能及び外部架橋性の1成分系の硬化は、好ましくは80~250℃の温度、より好ましくは80~180℃で、5~60分の期間、好ましくは10~45分間行われる。このように、硬化に先行する任意のフラッシュオフ及び/又は中間乾燥段階は、より低い温度及び/又はより短い期間行われる。
【0040】
原理的には、且つ本発明に関連して、熱化学的に硬化可能な、特に好ましくは熱化学的に硬化可能及び外部架橋性の2成分系の硬化は、例えば、15~90℃の温度で、好ましくは40~90℃で、5~80分の期間、好ましくは10~50分間行われる。これは無論、より高温での2成分系の硬化を除外するものではない。例えば、本発明の方法によって形成されたフィルム内に1成分系と2成分系の両方が存在する場合、一緒の硬化は1成分系に必要な硬化条件によって導かれ、その結果、1成分系について記載したように、より高い硬化温度が使用される。このように、硬化に先行する任意のフラッシュオフ及び/又は中間乾燥段階は、より低い温度及び/又はより短い期間で行われる。
【0041】
或る特定の特性変数を決定するために本発明の文脈において使用される測定方法は、実施例のセクションから明らかである。特に明記しない限り、これらの測定方法は、それぞれの特性変数を決定するために使用される。
【0042】
本発明の文脈において例示されるあらゆる温度は、コーティングされた基材が存在する部屋の温度として理解される。よって基材自体が特定の温度を有していなければならないという意味ではない。
【0043】
本発明の文脈において報告されるあらゆる膜厚は、乾燥膜厚として理解されるべきである。従ってこれは、各場合とも硬化したフィルムの厚さである。よって、コーティング材料が特定の膜厚で適用されることが報告されている場合、これは、硬化後に記載の膜厚になるようにコーティング材料を適用することを意味する。
【0044】
本発明との関連において公定規格に言及する場合、これは無論、出願日において現行であった規格のバージョンを意味し、又は、現行バージョンが当該出願日において存在しない場合は、最新の現行バージョンを意味する。
【0045】
本発明の水性コーティング組成物:
アニオン的に安定化されたバインダーB(a):
第1の必須構成成分として、本発明のコーティング組成物は、少なくとも1つのアニオン的に安定化されたバインダーBを含む。優れたレベリング特性は、アニオン的に安定化されたバインダーBと、溶媒S中に溶解したポリカルボン酸PCとの組み合わせによってのみ達成される。逆に、非イオン的に安定化されたバインダーが使用される場合、ポリカルボン酸PCの添加は、高いレベリング特性をもたらさない。この文脈における非イオン的に安定化されたバインダーは、有意な画分の或る特定の水溶性の非イオン性基、好ましくはポリ(オキシアルキレン)基、ポリブチロラクトン基などのポリラクトン基、ポリビニルアルコール基などのポリアルコール基、ポリアクリルアミド基などのポリアミド基、及びポリビニルピロリドン基、より具体的にはポリ(オキシエチレン)及び/又はポリ(オキシプロピレン)基を特に有するバインダーである。
【0046】
アニオン的に安定化されたバインダーBは、好ましくは、定義された総量で本発明の水性コーティング組成物中に存在する。従って、本発明の好ましい一実施態様では、少なくとも1つのアニオン的に安定化されたバインダーBは、固形分換算で40~95質量%、好ましくは固形分換算で50~90質量%、より具体的には固形分換算で55~85質量%の総量で、各場合ともコーティング組成物の総バインダー含量に基づいて存在する。1つを超えるアニオン的に安定化されたバインダーBが使用される場合には、上記の量範囲は、組成物中のアニオン的に安定化されたバインダーBの総量に基づく。少なくとも1つのアニオン的に安定化されたバインダーBを上記の量範囲で少なくとも1つのポリカルボン酸PCと組み合わせて使用すると、本発明の組成物の貯蔵安定性に悪影響を及ぼすことなく、優れたレベリング特性、良好な光学的特性及び機械的特性がもたらされる。
【0047】
本発明の文脈において、アニオン的に安定化されたバインダーBが、アニオン的に安定化されたポリウレタン-ポリウレア粒子(PPP)を含む水性ポリウレタン-ポリウレア分散体からなる群から選択される場合に有利であることが証明された。
【0048】
アニオン的に安定化されたポリウレタン-ポリウレア粒子(PPP)は、好ましくは、40~2,000nmの平均粒子径及び少なくとも50%のゲル画分を有し、そして前記アニオン的に安定化されたポリウレタン-ポリウレア粒子(PPP)は、
(Z.1.1)アニオン性基及び/又はアニオン性基に変換可能な基を含有する少なくとも1つのイソシアネート基含有ポリウレタンプレポリマー、及び
(Z.1.2)2つの第一級アミノ基及び1つ又は2つの第二級アミノ基を含有する少なくとも1つのポリアミン
を、各場合とも反応した形態で含む。
【0049】
アニオン的に安定化されたポリウレタン-ポリウレア粒子(PPP)は、水中に分散しているか、又は水性分散体の形態で存在する。分散体中の水の画分は、各場合とも分散体の総量に基づいて、好ましくは45~75質量%、好ましくは50~70質量%、より好ましくは55~65質量%である。分散体が、少なくとも90質量%程度まで、好ましくは少なくとも92.5質量%、非常に好ましくは少なくとも95質量%、及びより好ましくは少なくとも97.5質量%のポリウレタン-ポリウレア粒子(PPP)及び水(関連する値は、粒子の量(すなわち、固形分含量によって決定されるポリマーの量)と水の量を合計することによって得られる)からなることが好ましい。
【0050】
アニオン的に安定化されたポリウレタン-ポリウレア粒子(PPP)は、ポリウレタン-ポリウレアをベースとするポリマー粒子である。アニオン的に安定化されたポリウレタン-ポリウレア粒子(PPP)は、少なくとも50%のゲル画分(測定方法については、実施例のセクションを参照)及び40~2,000ナノメートル(nm)の平均(average)粒子径(平均(mean)粒子径とも呼ばれる)(測定方法については、実施例のセクションを参照)を有する。従ってポリウレタン-ポリウレア粒子(PPP)は、マイクロゲルを構成する。理由は、一方ではポリマー粒子が比較的小さな粒子、又は微小粒子の形態であり、そして他方では、それらが少なくとも部分的に分子内で架橋されていることである。後者は、粒子内に存在するポリマー構造が、3次元ネットワーク構造を有する典型的な巨視的ネットワークに等しいことを意味する。しかしながら、巨視的に見ると、この種のミクロゲルは、引き続き別個のポリマー粒子を含む。
【0051】
ミクロゲルは、分岐した系と巨視的に架橋された系との間にある構造を表すので、結果として、適した有機溶媒中に溶解するネットワーク構造を有する巨大分子の特性と、溶解しない巨視的ネットワークとを組み合わせ、そしてこれにより、架橋ポリマーの画分は、例えば、固体ポリマーの単離後にのみ、水及び任意の有機溶媒の除去及び後続する抽出の後、決定することができる。ここで利用される現象は、元々は適した有機溶媒中に溶解するミクロゲル粒子が、単離後もその内部ネットワーク構造を保持し、固体中で巨視的ネットワークのように挙動することである。架橋は、実験的に利用可能なゲル画分を介して検証できる。最後に、ゲル画分は、溶媒中で単離された固体として分子的に溶解できない、マイクロゲル中のポリマーの画分である。ここで、ポリマー固体の単離後の架橋反応からのゲル画分のさらなる増加を除外することが必要である。この不溶性の画分は、ひいては、分子内架橋粒子又は粒子画分の形態で存在するポリマーの画分に対応する。
【0052】
ポリウレタン-ポリウレア分散体(PPP)は、好ましくは、50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より具体的には少なくとも80%のゲル画分を有する。従ってゲル画分は、最大で100%、又はほぼ100%、例えば99%又は98%でよい。そしてそのような場合には、ポリウレタン-ポリウレアポリマーの全体、又はほぼ全体が、架橋粒子の形態である。
【0053】
ポリウレタン-ポリウレア分散体は、40~2,000nm、好ましくは40~1500nm、より好ましくは100~1,000nm、なおより好ましくは110~500nm、より具体的には120~300nmの平均粒子径を有する。特に好ましい範囲は、130~250nmである。
【0054】
ポリウレタン-ポリウレア粒子(PPP)は、(Z.1.1)イソシアネート基を含有し、且つアニオン性基及び/又はアニオン性基に変換可能な基を含有する少なくとも1つのポリウレタンプレポリマー、及びまた(Z.1.2)2つの第一級アミノ基及び1つ又は2つの第二級アミノ基を含有する少なくとも1つのポリアミンを、各場合とも反応した形態で含む。ここで「ポリウレタン-ポリウレア粒子(PPP)は、ポリウレタンプレポリマー(Z.1.1)及びポリアミン(Z.1.2)を、各場合とも反応した形態で含む」という表現は、前記NCO含有ポリウレタンプレポリマー(Z.1.1)及びポリアミン(Z.1.2)を用いてポリウレタン-ポリウレア粒子(PPP)を調製すること、及びこれら2つの成分が互いに反応して尿素化合物を形成することを意味する。
【0055】
ポリウレタン-ポリウレア粒子(PPP)は、好ましくは2つの成分(Z.1.1)及び(Z.1.2)からなる、つまりこれら2つの成分から調製される。水中に分散したポリウレタン-ポリウレア粒子(PPP)は、例えば、特定の3段階プロセスによって得られる。
【0056】
この方法の第1の工程(I)において、組成物(Z)を調製する。組成物(Z)は、イソシアネート基とブロックされた第一級アミノ基とを含有する、少なくとも1つ、好ましくは厳密に1つの特定の中間体(Z.1)を含む。中間体(Z.1)の調製は、イソシアネート基と、アニオン性基及び/又はアニオン性基に変換可能な基とを含有する少なくとも1つのポリウレタンプレポリマー(Z.1.1)の、ポリアミン(Z.1.2)に由来し、且つ少なくとも2つのブロックされた第一級アミノ基と少なくとも1つの遊離第二級アミノ基とを含有する少なくとも1つの化合物(Z.1.2a)との反応を含む。
【0057】
本発明の目的において、理解を容易にするために、成分(Z.1.1)をプレポリマーと呼ぶ。
【0058】
プレポリマー(Z.1.1)は、アニオン性基及び/又はアニオン性基に変換可能な基(すなわち、既知であり且つ以下に特定する中和剤、例えば塩基を使用することによってアニオン性基に変換することができる基)を含む。当業者が知っているように、これらの基は、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基及び/又はホスホン酸基、より具体的にはカルボン酸基(中和剤によってアニオン性基に変換可能な官能基)、及び上述の官能基から誘導されるアニオン性基、例えば、より具体的には、カルボキシレート基、スルホネート基及び/又はホスホネート基、好ましくはカルボキシレート基である。このような基を導入すると水への分散性が増すことが知られている。選択された条件に応じて、記載した基は、例えば、後述する中和剤を使用することによって、比例的に又はほぼ完全に1つの形態(例えば、カルボン酸)又は他の形態(カルボキシレート)で存在する。
【0059】
前述の基を導入するため、プレポリマー(Z.1.1)の調製中に出発化合物を使用することが可能であり、この出発化合物は、ウレタン結合の調製における反応のための基、好ましくはヒドロキシル基だけでなく、上述の基、例えばカルボン酸基をさらに含む。このようにして、当該基をプレポリマー中に導入する。
【0060】
好ましいカルボン酸基を導入するための考えられる対応する化合物には、それらがカルボキシル基を含有する限り、ポリエーテルポリオール及び/又はポリエステルポリオールが含まれる。しかしながら、好ましくはいずれの場合でも低分子量化合物が使用され、これは少なくとも1つのカルボン酸基と、イソシアネート基(好ましくはヒドロキシル基)に対して反応性である少なくとも1つの官能基とを有する。「低分子量化合物」という表現は、本発明の文脈において、当該化合物が300g/mol未満の分子量を有することを意味する。100~200g/molの範囲が好ましい。この意味で好ましい化合物の例は、2つのヒドロキシル基を含有するモノカルボン酸、例えばジヒドロキシプロピオン酸、ジヒドロキシコハク酸、及びジヒドロキシ安息香酸である。より具体的には、α,α-ジメチロールアルカン酸、例えば2,2-ジメチロール酢酸、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロール酪酸、及び2,2-ジメチロールペンタン酸、特に2,2-ジメチロールプロピオン酸である。
【0061】
従って、プレポリマー(Z.1.1)は、好ましくはカルボン酸基を含有する。これらは、固形分含量に基づいて、好ましくは、10~30mgKOH/g、より具体的には15~23mgKOH/gの酸価を有する(測定方法については、実施例のセクションを参照)。
【0062】
プレポリマー(Z.1.1)は、好ましくはジイソシアネートとポリオールとの反応によって調製される。適したポリオールの例は、飽和又はオレフィン性不飽和ポリエステルポリオール及び/又はポリエーテルポリオールであり、例えばWO2018/011311A1及びWO2016/091546A1に記載されている。プレポリマー(Z.1.1)を調製するために好ましく使用されるポリオールは、ダイマー脂肪酸を使用して調製されたポリエステルジオールである。特に好ましくは、ジカルボン酸を用いて調製されたポリエステルジオールであり、そのジカルボン酸は、使用されたもののうちの少なくとも50質量%、好ましくは55~75質量%がダイマー脂肪酸である。ダイマー脂肪酸は、不飽和モノマー脂肪酸の形態のオリゴマーである。脂肪酸は飽和又は不飽和であり、特に、8~64個の炭素原子を有する非分岐のモノカルボン酸である。
【0063】
さらに、ポリマー(Z.1.1)を調製するために、ジアミン及び/又はアミノアルコールなどのポリアミンを使用することも可能である。ジアミンの例には、ヒドラジン、アルキル-又はシクロアルキルジアミン、例えばプロピレンジアミン及び1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサンが含まれ、そしてアミノアルコールの例には、エタノールアミン又はジエタノールアミンが含まれる。
【0064】
イソシアネート基を含有するポリウレタンプレポリマー(Z.1.1)を調製するのに適したポリイソシアネートに関しては、公開規格WO2018/011311A1及びWO2016/091546A1を参照されたい。脂肪族ジイソシアネート、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネート、2,4-又は2,6-ジイソシアナト-1-メチルシクロヘキサン及び/又はm-テトラメチルキシリレンジイソシアネート(m-TMXDI)の使用が好ましい。
【0065】
プレポリマーの数平均分子量は幅広く異なってよく、例えば2000~20000g/mol、好ましくは3500~6000g/molの範囲に位置する(測定方法については、実施例のセクションを参照)。
【0066】
プレポリマー(Z.1.1)は、イソシアネート基を含有する。プレポリマー(Z.1.1)は好ましくは、固形分含量に基づいて、0.5~6.0質量%、好ましくは1.0~5.0質量%、特に好ましくは1.5~4.0質量%のイソシアネート含量を有する(測定方法については、実施例のセクションを参照)。
【0067】
プレポリマーのヒドロキシル価は、固形分含量に基づいて、好ましくは15mgKOH/g未満、より具体的には10mgKOH/g未満、より好ましくはなお5mgKOH/g未満である(測定方法については、実施例のセクションを参照)。
【0068】
プレポリマー(Z.1.1)は、WO2018/011311A1及びWO2016/091546A1に記載のように調製してよい。
【0069】
既に上で示したように、プレポリマー(Z.1.1)中に存在し、且つアニオン性基に変換することができる基は、例えば中和剤の使用により、比例的に、対応するアニオン性基として存在し得る。このように、プレポリマー(Z.1.1)の水分散性を調整することが可能であり、それ故中間体(Z.1)の水分散性も調整できる。考えられる中和剤には、特に既知の塩基性中和剤、例えば炭酸塩、炭酸水素塩、又はアルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物、例えばLiOH、NaOH、KOH、又はCa(OH)2が含まれる。同様に、中和に適しており、本発明の文脈における使用に好ましいのは、有機の、窒素を含有する塩基、例えば、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルアニリン、トリフェニルアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、又はトリエタノールアミン、及びこれらの混合物のような、アミンが挙げられる。
【0070】
アニオン性基に変換可能な基(特にカルボン酸基)の中和が所望される場合、中和剤は、例えば、基の35%~65%の画分が中和されるような量(中和度)で添加してよい。40%~60%(計算方法については、実施例のセクションを参照)の範囲が好ましい。
【0071】
化合物(Z.1.2a)は、2つのブロックされた第一級アミノ基と、1つ又は2つの遊離第二級アミノ基とを含む。
【0072】
ブロックされたアミノ基とは、既知のように、遊離アミノ基中に元々存在している窒素上の水素ラジカルが、ブロッキング剤との可逆反応によって置換されているものである。ブロックの観点では、アミノ基は縮合反応又は付加反応を介して遊離アミノ基のように反応することができず、従ってこの点で非反応性であるので、遊離アミノ基とは異なる。化合物(Z.1.2a)の第一級アミノ基は、それ自体が既知のブロッキング剤、例えばケトン及び/又はアルデヒドでブロックされる。このようなブロックの場合には、次にケチミン及び/又はアルジミンが生成され、水が放出される。この種の基は、水を加えることによって脱ブロックすることができる。
【0073】
アミノ基がブロックされているとも遊離しているとも特定されていない場合、遊離アミノ基が参照される。
【0074】
化合物(Z.1.2a)の第一級アミノ基をブロックするための好ましいブロッキング剤は、ケトンである。ケトンの中でも、後述する有機溶媒(Z.2)であるものが特に好ましい。理由は、本方法の段階(I)において調製する組成物(Z)中に、この溶媒(Z.2)がいずれの場合でも存在しなければならないからである。従ってブロッキングにケトン(Z.2)を使用することで、ブロックされたアミンのための、対応する好ましい製造方法を用いることができ、費用がかかり不便な分離が必要となる望ましくないブロッキング剤の可能性がない。代わりに、ブロックされたアミンの溶液は、中間体(Z.1)の製造に直接使用することができる。好ましいブロッキング剤は、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン、シクロペンタノン、又はシクロヘキサノンであり、特に好ましくは、ケトン(Z.2)、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトンである。
【0075】
ケトン及び/又はアルデヒド、特にケトンを用いた好ましいブロッキング、及び関連するケチミン及び/又はアルジミンの調製は、さらに、第一級アミノ基が選択的にブロックされるという利点を有する。存在する第二級アミノ基は、明らかにブロックされることができず、従って遊離したままである。結果として、2つのブロックされた第一級アミノ基だけでなく、1つ又は2つの遊離第二級アミノ基も含む化合物(Z.1.2a)を、遊離第二級アミノ基及び第一級アミノ基を含有する対応するポリアミン(Z.1.2)から、記載の好ましいブロッキング反応によって容易に調製することができる。
【0076】
化合物(Z.1.2a)は、好ましくは、2つのブロックされた第一級アミノ基と、1つ又は2つの遊離第二級アミノ基とを有し、そしてこの化合物が有する第一級アミノ基は、専らブロックされた第一級アミノ基であり、そしてこの化合物が有する第二級アミノ基は、専ら遊離第二級アミノ基である。
【0077】
化合物(Z.1.2a)は、好ましくは、合計で3つ又は4つのアミノ基を有し、これらは、ブロックされた第一級アミノ基の群及び遊離第二級アミノ基の群から選択される。
【0078】
特に好ましい化合物(Z.1.2a)は、2つのブロックされた第一級アミノ基、1つ又は2つの遊離第二級アミノ基、及び脂肪族飽和炭化水素基からなるものである。
【0079】
類似の好ましい実施態様がポリアミン(Z.1.2)について有効であり、そしてこれらのポリアミンは、ブロックされた第一級アミノ基よりもむしろ遊離第一級アミノ基を含有する。第一級アミノ基をブロックすることによって化合物(Z.1.2a)を調製することも可能な好ましいポリアミン(Z.1.2)の例は、ジエチレントリアミン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルアミン、ジプロピレントリアミン、及びN1-(2-(4-(2-アミノエチル)ピペラジン-1-イル)エチル)エタン-1,2-ジアミン(1つの第二級アミノ基、ブロックされる2つの第一級アミノ基)、トリエチレンテトラミン、及びN,N’-ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミン(2つの第二級アミノ基、ブロックされる2つの第一級アミノ基)である。
【0080】
或る特定量のポリアミンがブロックされる場合、ブロッキングの結果、例えば第一級アミノ基の95モル%以上の画分がブロックされる(この画分はIR分光法で決定することができる;実施例のセクションを参照)。例えば、ブロックされていない状態のポリアミンが2つの遊離第一級アミノ基を有し、そして次にこのアミンの或る特定量の第一級アミノ基がブロックされる場合、本発明の文脈において、使用される量に存在する第一級アミノ基の95モル%を超える画分がブロックされたとき、このアミンは2つのブロックされた第一級アミノ基を有すると言う。
【0081】
中間体(Z.1)の調製は、(Z.1.1)からのイソシアネート基の、(Z.1.2a)からの遊離第二級アミノ基との付加反応による、プレポリマー(Z.1.1)と化合物(Z.1.2a)との反応を含む。この反応はそれ自体既知であり、その後、化合物(Z.1.2a)がプレポリマー(Z.1.1)上に付着して尿素結合を形成し、最終的に中間体(Z.1)をもたらす。
【0082】
中間体(Z.1)は、WO2018/011311A1及びWO2016/091546A1に記載のように調製してよい。
【0083】
中間体(Z.1)の画分は、各場合とも組成物(Z)の総量に基づいて、15~65質量%、好ましくは25~60質量%、より好ましくは30~55質量%、特に好ましくは35~52.5質量%であり、そして非常に具体的な一実施態様では40~50質量%である。
【0084】
組成物(Z)は、少なくとも1つの特定の有機溶媒(Z.2)をさらに含む。溶媒(Z.2)は、20℃の温度で、38質量%以下の水への溶解度を有する(測定方法については、実施例のセクションを参照)。20℃の温度における水への溶解度は、好ましくは30質量%未満である。好ましい範囲は1~30質量%である。よって、溶媒(Z.2)は、極めて中程度の水への溶解度を有し、そしてより具体的には水と完全には混和しない、又は無制限の水への溶解度を有する。
【0085】
溶媒(Z.2)の例として、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、トルエン、メチルアセテート、エチルアセテート、ブチルアセテート、プロピレンカーボネート、シクロヘキサノン、又はこれらの溶媒の混合物が挙げられる。メチルエチルケトンが好ましく、これは20℃で24質量%の水への溶解度を有する。従って、溶媒(Z.2)は、アセトン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N-ホルミルモルホリン、ジメチルホルムアミド、又はジメチルスルホキシドなどの溶媒ではない。
【0086】
水への溶解度が限られた特定の溶媒(Z.2)を選択する効果は、特に、組成物(Z)が水性相中に分散されたとき(本方法の工程(II)において起こる)、均一な溶液が直接形成されず、代わりに、工程(II)において起こる架橋反応(遊離第一級アミノ基とイソシアネート基とが付加反応して尿素結合を形成する)が制限された量で進行し、これによって、上記で定義したような微小粒子の形成が可能となることである。
【0087】
少なくとも1種の有機溶媒(Z.2)の画分は、各場合とも組成物(Z)の総量に基づいて、35~85質量%、好ましくは40~75質量%、より好ましくは45~70質量%、特に好ましくは47.5~65質量%、及び非常に具体的な一実施態様では、50~60質量%である。
【0088】
本発明内で、組成物(Z)中の中間体(Z.1)の、上記で特定したような画分の目標の組合せ、及び特定の溶媒(Z.2)の選択の結果、以下で記載する工程(II)及び(III)によって、必要な粒子径及びゲル画分を有するポリウレタン-ポリウレア粒子(PPP)を含む、ポリウレタン-ポリウレア分散体の提供が可能となることが明らかとなった。
【0089】
記載の成分(Z.1)及び(Z.2)は、合計で、組成物(Z)の好ましくは少なくとも90質量を占める。この2つの成分は、組成物(Z)の好ましくは少なくとも95質量%、より具体的には少なくとも97.5質量%を占める。非常に特に好ましくは、組成物(Z)はこれら2つの成分からなる。この文脈において、上記の中和剤を用いる場合、これらの中和剤は、中間体(Z.1)の量を算出する際に中間体に含まれることに留意されたい。従って組成物(Z)の固形分含量は、好ましくは、組成物(Z)中の中間体(Z.1)の画分に対応する。よって、組成物(Z)は好ましくは、15~65質量%、好ましくは25~60質量%、より好ましくは30~55質量%、特に好ましくは35~52.5質量%の固形分含量を有し、そして非常に具体的な一実施態様では、40~50質量%の固形分含量を有する。
【0090】
従って、特に好ましい組成物(Z)は、合計で少なくとも90質量%の成分(Z.1)及び(Z.2)を含み、そして中間体(Z.1)を除いて、有機溶媒のみを含む。
【0091】
次いで本明細書に記載の方法の工程(II)において、組成物(Z)を水中に分散させ、その後中間体(Z.1)のブロックされた第一級アミノ基の脱ブロック、及び得られた遊離第一級アミノ基と中間体(Z.1)のイソシアネート基との反応、及び中間体(Z.1)から得られた脱ブロックされた中間体のイソシアネート基との反応(この反応は付加反応である)が伴う。
【0092】
本方法の工程(II)は、WO2018/011311A1及びWO2016/091546A1に記載のように行ってよい。
【0093】
分散体中のポリウレタン-ポリウレア粒子(PPP)の画分は、各場合とも分散体の総量(中間体(Z.1)について上述したように、固形分含量による決定と同様に決定する)に基づいて、好ましくは25~55質量%、好ましくは30~50質量%、より好ましくは35~45質量%である。
【0094】
ポリウレタン-ポリウレア粒子(PPP)は、好ましくは、10~35mgKOH/g、より具体的には15~23mgKOH/gの酸価を有する(測定方法については、実施例のセクションを参照)。さらに、ポリウレタン-ポリウレア粒子は、ヒドロキシル基をほとんど有しないか、又は全く有しない。従って粒子のOH価は、15mgKOH/g未満、より具体的には10mgKOH/g未満、より好ましくは5mgKOH/g未満である(測定方法については、実施例のセクションを参照)。
【0095】
pH8.0で或る特定の電気泳動移動度を有するアニオン的に安定化されたバインダーを使用することが特に好ましい。ここで電気泳動移動度は、実施例のセクションで記載するように決定することができる。従って、本発明の好ましい一実施態様では、少なくとも1つのアニオン的に安定化されたバインダーBは、pH8.0で、-2.5~-15(μm/s)/(V/cm)、好ましくは-2.5~-10(μm/s)/(V/cm)、より好ましくは-4~-8(μm/s)/(V/cm)、より具体的には-5~-8(μm/s)/(V/cm)の電気泳動移動度を有する。前記電気泳動移動度を有する少なくとも1つのアニオン的に安定化されたバインダーBを、少なくとも1つのポリカルボン酸PCと組み合わせて使用すると、本発明の組成物で調製されたコーティング層の性能特性、及び光学特性及び着色特性に悪影響を及ぼすことなく、優れたレベリング効果が得られる。
【0096】
コーティング組成物は、水性ポリウレタン-ポリウレア分散体を、固形分換算で1~60質量%、好ましくは固形分換算で5~50質量%、より好ましくは固形分換算で10~40質量%、最も好ましくは固形分換算で15~40質量%の総量で、各場合ともコーティング組成物の総バインダー含量に基づいて含んでよい。水性ポリウレタン-ポリウレア水性分散体を上記の総量で、少なくとも1つのポリカルボン酸PCと組み合わせて使用すると、得られるコーティング層の機械的特性及び光学的特性に悪影響を及ぼすことなく、優れたレベリング特性が得られる。
【0097】
前述の水性ポリウレタン-ポリウレア分散体とは別に、本発明のコーティング組成物は、さらなるアニオン的に安定化されたバインダーBを含んでよい。本発明により使用することができる適したアニオン的に安定化されたバインダーBは、例えば、少なくとも1つのポリヒドラジド及び少なくとも1つのカルボニル含有ウレタン-ビニルハイブリッドポリマーを含む自己架橋性水性分散体である。適した自己架橋性水性分散体は、例えば、EP0649865A1に記載されている。このようなアニオン的に安定化されたバインダーBの総量は、典型的には、コーティング組成物の総バインダー含量に基づいて、固形分換算で0~45質量%の範囲である。
【0098】
色顔料P(b):
第2の必須構成成分(b)として、本発明のコーティング組成物は、少なくとも1つの色顔料Pを含む。このような色顔料は当業者に既知であり、例えば、Roempp-Lexikon Lacke and Druckfarben,Georg Thieme Verlag,Stuttgart,New York、1998年、第176頁及び第451頁に記載されている。「着色顔料」及び「色顔料」という用語は、交換可能である。
【0099】
適した色顔料Pは、好ましくは、(i)白色顔料、例えば二酸化チタン、白色亜鉛、硫化亜鉛又はリトポン、(ii)黒色顔料、例えばカーボンブラック、鉄マンガンブラック又はスピネルブラック、(iii)有彩顔料、例えばウルトラマリングリーン、ウルトラマリンブルー、マンガンブルー、ウルトラマリンバイオレット、マンガンバイオレット、酸化鉄レッド、モリブデートレッド、ウルトラマリンレッド、酸化鉄ブラウン、混合ブラウン、スピネル相及びコランダム相、酸化鉄イエロー、ビスマスバナデート、(iv)有機顔料、例えばモノアゾ顔料、ビスアゾ顔料、アントラキノン顔料、ベンズイミダゾール顔料、キナクリドン顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料、ジオキサジン顔料、インダントロン顔料、イソインドリン顔料、イソインドリノン顔料、アゾメチン顔料、チオインジゴ顔料、金属錯体顔料、プリノン顔料、ペリレン顔料、フタロシアニン顔料、アニリンブラック、及び(v)それらの混合物からなる群から選択される。
【0100】
少なくとも1つの色顔料Pは、好ましくは特定の総量で使用する。従って、本発明の第1の主題の好ましい実施態様では、水性コーティング組成物は、少なくとも1つの色顔料Pを、1~40質量%、好ましくは2~35質量%、より好ましくは5~30質量%の総量で、各場合ともコーティング組成物の総質量に基づいて含む。
【0101】
本発明の水性コーティング組成物は、いかなる効果顔料も含まない、すなわち、本発明の組成物中の効果顔料の量は、コーティング組成物の総質量に基づいて、0質量%である。
【0102】
ポリカルボン酸PC(c):
第3の必須構成成分として、本発明の水性コーティング組成物は、少なくとも1つのポリカルボン酸PCを含む。
【0103】
少なくとも1つのポリカルボン酸PCの中和レベルは、好ましくは少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは10~100%である。中和のレベルは、塩基で中和されるカルボン酸基の量である。上記の中和のレベルによって、水性コーティング組成物中のポリカルボン酸PCの溶解が改善され、よってゲル斑点が最小化され、同時にコーティング組成物のレベリング特性及び貯蔵安定性が改善される。
【0104】
少なくとも1つのポリカルボン酸PCは、より好ましくはジカルボン酸である。本発明によるジカルボン酸は、分子当たり正確に2つのカルボン酸基を有する化合物である。
【0105】
この文脈において、ジカルボン酸が一般式(I)
+-OOC-R-COO
(式中、
Rは、直鎖状又は分岐状の飽和C~C30アルキル基、直鎖状又は分岐状の不飽和C10~C72アルキル基、シクロアルキル基又は芳香族基、好ましくは直鎖状の飽和Cアルキル基であり、そして
は、水素又はカチオンである)
を有する場合が特に好ましい。
好ましくは、Kはカチオンである。より好ましくは、Kは、ポリカルボン酸PCの少なくとも部分的な中和に使用される塩基である。非常に好ましくは、これはカチオン性N,N’-ジメチルエタノールアミンである。
【0106】
特に好ましいジカルボン酸は、アゼライン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸及びフタル酸、及びそれらの混合物から選択される。特に好ましくは、本発明のコーティング組成物は、上記ジカルボン酸のうちの正確に1つを含む。
【0107】
上述のジカルボン酸の、少なくとも1つのアニオン的に安定化されたバインダーBと組み合わせた使用は、コーティング組成物の貯蔵安定性及びこれらの組成物から製造されたコーティング層の光学的及び機械的特性に悪影響を及ぼすことなく、優れたレベリング特性を達成するのに特に有利であることが証明されている。さらに、これらのポリカルボン酸、好ましくはアゼライン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸及びフタル酸、及びそれらの混合物を、少なくとも1つのアニオン的に安定化されたバインダーBと組み合わせて使用することにより、本発明のコーティング組成物から製造されたコーティング層に直接適用された金属コーティング層のフロップ効果が改善される。本発明により使用されるポリカルボン酸は、例えば、Merck社から市販されている。
【0108】
少なくとも1つのポリカルボン酸PCは、好ましくは、特定の総量で使用する。従って本発明によれば、水性コーティング組成物が、0.01~4質量%、より好ましくは0.02~2質量%、より具体的には0.05~1質量%の総量(各場合ともコーティング組成物の総質量に基づく)で、少なくとも1つのポリカルボン酸PC、より具体的には式(I)のジカルボン酸を含むことが、特に好ましい。ポリカルボン酸PC、特に上記の式(I)のジカルボン酸を上記の総量で少なくとも1つのアニオン的に安定化されたバインダーBと組み合わせて使用すると、本発明のコーティング組成物から製造されたコーティング層の良好な光学的特性及び機械的特性に悪影響を及ぼすことなく、優れたレベリング特性が得られる。さらに、コーティング組成物の貯蔵安定性は、ポリカルボン酸PCを添加しても低下しない。さらに、本発明のコーティング組成物で製造されたコーティング層に直接適用された金属コーティング層のフロップ効果は、ほんの少量のポリカルボン酸PCを添加すると改善される。
【0109】
溶媒S(d):
任意の構成成分として、本発明の水性コーティング組成物は、少なくとも1つの溶媒Sを含むことができる。この溶媒Sは、少なくとも1つのポリカルボン酸PCを可溶化するのに役立ち、ポリカルボン酸PCのコーティング組成物への均一な取り込みを促進することができ、よってコーティング組成物の高い貯蔵安定性及び効果的なレベリング特性がもたらされる。
【0110】
少なくとも1つの溶媒Sは、好ましくは、水、アルコキシ-C~C10アルコール、ケトン、エステル、アミド、メチラール、ブチラール、1,3-ジオキソラン、グリセロールホルマール、及びこれらの混合物から選択され、より具体的には、水及び/又はアルコキシ-C~C10アルコールから選択される。特に、水及び/又はアルコキシ-C~C10アルコールをポリカルボン酸PCの可溶化に使用することは、均一な取り込みの点で有利であることが証明されており、よって本発明の組成物の高い貯蔵安定性及び優れたレベリング特性がもたらされる。
【0111】
少なくとも1つの溶媒Sが水性コーティング組成物中に存在する場合、前記溶媒S、より具体的には水及び/又はアルコキシ-C~C10アルコールの総量は、0.01~15質量%、好ましくは0.05~10質量%、より好ましくは0.1~5質量%、より具体的には0.2~2質量%(各場合ともコーティング組成物の総質量に基づく)である。溶媒Sとして水を使用する場合、水性コーティング組成物中に存在する水の総量を計算する際に、溶媒Sの量を考慮する。上記の量の少なくとも1つの溶媒S、より具体的には水及び/又はアルコキシ-C~C10アルコールの使用により、水性コーティング組成物中の少なくとも1つのポリカルボン酸PCが十分に可溶化し、そしてこのようにして、優れたレベリング特性及び高い貯蔵安定性が確実となる。さらにこれは、水性コーティング組成物中へのポリカルボン酸PCの均一な組み込みを可能とする。
【0112】
さらなる構成成分(e):
本発明の水性コーティング組成物は、上記の必須構成成分(a)~(d)の他に、中和剤、増粘剤、架橋剤及びそれらの混合物の群から選択されるさらなる構成成分を含んでもよい。
【0113】
中和剤は、好ましくは、無機塩基、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、及びそれらの混合物の群から選択され、特にN,N’-ジメチルエタノールアミンである。中和剤、特にN,N’-ジメチルエタノールアミンは、少なくとも1つのポリカルボン酸PCを中和するために特に好ましく使用される。このようにして、ポリカルボン酸PCの溶媒S及び水性コーティング組成物への溶解度を高めることができる。
【0114】
この文脈において、少なくとも1つの中和剤、特にN,N’-ジメチルエタノールアミンが、0.05~5質量%、好ましくは0.05~4質量%、より好ましくは0.05~1質量%、より具体的には0.05~0.2質量%の総量で、各場合ともコーティング組成物の総質量に基づいて存在する場合が好ましい。中和剤、特にN,N’-ジメチルエタノールアミンを上記の量範囲で、任意に少なくとも1つの溶媒Sと組み合わせて使用することにより、ポリカルボン酸PCの十分な可溶化が確実となり、それ故本発明のコーティング組成物の均一な取り込み及び高い貯蔵安定性が保証される。
【0115】
増粘剤は、好ましくは、フィロシリケート、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリレートコポリマー、非イオン性ポリウレタン、疎水性変性ポリエーテル、ヒドロキシアルキルセルロース、ポリアミド、及びそれらの混合物、特に非イオン性ポリウレタンの群から選択される。(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリレートコポリマーは、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとの反応により得ることができる。(メタ)アクリル酸エステル中の炭素鎖の長さに依存して、これらのコポリマーは会合性増粘効果(ASE又はHASE増粘剤)を有する。C~Cアルキル(メタ)アクリレートのみを含有するコポリマーは、会合性増粘効果(ASE増粘剤)を有しない。逆に、炭素原子が4個を超える鎖長を有する(メタ)アクリレートを含有するコポリマーは、会合性増粘効果(HASE増粘剤)を有する。疎水性に変性されたエトキシル化ポリウレタンは、ジイソシアネートとポリエーテルとの反応、及びその後のこのプレポリマーと疎水性アルコールとの反応によって得ることができる。このようなポリウレタンは、HEUR増粘剤とも呼ばれる。特に好ましいのは、非会合性増粘(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリレートコポリマーと疎水的に変性されたエトキシル化ポリウレタンとの組み合わせの使用である。
【0116】
この文脈において、少なくとも1つの増粘剤、より具体的には非イオン性ポリウレタンが、0.015~3質量%、好ましくは0.03~2質量%、より好ましくは0.04~1質量%、より具体的には0.05~0.7質量%の総量で、各場合ともコーティング組成物の総質量に基づいて存在する。
【0117】
本発明の特に好ましい一実施態様によれば、水性コーティング組成物は、フィロシリケート及び/又はポリアミドを含まず、より具体的には、フィロシリケート及びポリアミドを含まない。これは、コーティング組成物が、コーティング組成物の総質量に基づいて、0質量のフィロシリケート、より具体的には、ナトリウムマグネシウムシリケート及び/又はリチウムアルミニウムマグネシウムシリケート、及び/又はポリアミドを含むことを意味する。驚くべきことに、ポリアミド及び/又はフィロシリケートのさらなる使用を伴わないポリカルボン酸PCの使用は、ポリアミド及び/又はフィロシリケートの使用に匹敵する優れたレベリング特性をもたらす。しかしながら、少なくとも1つのポリカルボン酸PCを使用すると、望ましくない分離現象がなく、且つ剪断安定性の低下がない。
【0118】
架橋剤は、好ましくは、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂、遊離及び/又はブロックされたポリイソシアネート、ポリカルボジイミド、及びこれらの混合物からなる群から選択され、より具体的にはメラミン-ホルムアルデヒド樹脂である。
【0119】
この文脈において、少なくとも1つの架橋剤、特にメラミン-ホルムアルデヒド樹脂が、5~50質量%、好ましくは7~45質量%、非常に好ましくは10~40質量%の総量で、各場合ともコーティング組成物の総バインダー含量に基づいて存在する場合が好ましい。上記の総量は、水性コーティング組成物の十分な架橋を確実とする。
【0120】
本発明のコーティング組成物は、ポリカルボン酸PCを使用しているにもかかわらず、比較的高い固形分含量を有する。従って、組成物が、コーティング組成物の総質量に基づいて、且つDIN EN ISO 3251(2008年6月)に従って測定して、15~60質量%の固形分含量を有する場合が好ましい。高い固形分含量を考慮すると、本発明のコーティング組成物は、良好な環境プロフィールを有するが、その貯蔵安定性には如何なる悪影響もない。貯蔵安定性は、例えば、経時的な液体状態における粘度測定によって記述することができる。
【0121】
本発明のコーティング組成物は、好ましくは、各場合とも23℃で測定して、7~10、より具体的には7~9のpHを有する。
【0122】
水性コーティング組成物を製造するための本発明の方法:
本発明のコーティング組成物は、好ましくは、
(1) 少なくとも1つのポリカルボン酸PC、少なくとも1つの溶媒S、及び任意に少なくとも1つの中和剤を含む溶液を提供する工程、及び
(2) 工程(1)で提供された溶液を、少なくとも1つのアニオン的に安定化されたバインダーB及び少なくとも1つの色顔料Pを含む水性組成物に添加する工程
によって得られる。
【0123】
工程(1)における溶液の調製により、水性組成物中にポリカルボン酸PCを均一に組み込むことが確実となる。さらに、工程(1)で調製した溶液を使用することにより、ポリカルボン酸PCを、アニオン的に安定化されたバインダーBと少なくとも1つの色顔料Pとを含む水性組成物に添加する間に、望ましくないゲル斑点が形成されるリスクが最小限になる。さらに、この溶液は貯蔵安定性があるので、水性コーティング組成物の製造プロセスに中間生成物として容易に統合させることができる。
【0124】
ポリカルボン酸PC、溶媒S、アニオン的に安定化されたバインダーB、色顔料P、及び中和剤に関しては、本発明のコーティング組成物に関する記載が準用される。
【0125】
マルチコート塗装系を製造するための本発明の方法:
マルチコート塗装系(M)を基材(S)上に製造するための本発明の方法は、以下の工程:
(1) 組成物(Z1)を基材(S)に適用し、その後続いて、適用した組成物(Z1)を硬化させることにより、硬化した第1のコーティング層(S1)を基材(S)上に任意に製造する工程と、
(2) 水性ベースコート材料(bL2a)を第1のコーティング層(S1)に直接適用するか、又は少なくとも2つの水性ベースコート材料(bL2-x)を直接第1のコーティング層(S1)に直接連続して適用することにより、ベースコート層(BL2a)又は少なくとも2つの直接連続したベースコート層(BL2-x)を、直接第1のコーティング層(S1)上に製造する工程と、
(3) クリアコート材料(cm)を直接ベースコート層(BL2a)又は最上部のベースコート層(BL2-z)に適用することにより、クリアコート層(C)を、直接ベースコート層(BL2a)又は最上部のベースコート層(BL2-z)上に製造する工程と、
(4) ベースコート層(BL2a)とクリアコート層(C)とを、又はベースコート層(BL2-x)とクリアコート層(C)とを、一緒に硬化させる工程と、
を含み、
少なくとも1つのベースコート材料(bL2a)又はベースコート材料(bL2-x)の少なくとも1つが、本発明の水性コーティング組成物を含み、及び/又は少なくとも1つのベースコート材料(bL2a)又はベースコート材料(bL2-x)の少なくとも1つが、本発明の製造方法及び水性コーティング組成物により得られたものである。
【0126】
基材(S)は、好ましくは、金属基材、硬化した電着被覆でコーティングされた金属基材、プラスチック基材、強化プラスチック基材、及び金属成分とプラスチック成分とを含む基材から選択され、特に好ましくは、金属基材から選択される。
【0127】
この点で、好ましい金属基材(S)は、鉄、アルミニウム、銅、亜鉛、マグネシウム及びこれらの合金、及び鋼から選択される。好ましい基材は鉄及び鋼のものであり、例として自動車産業分野で使用される典型的な鉄及び鋼の基材が挙げられる。基材自体は如何なる形状でもよく、すなわち、例えば、単純な金属パネルか、或いは複雑な構成要素、例えば特に自動車のボディ及びその部品などでよい。
【0128】
好ましいプラスチック基材(S)は基本的に、(i)極性プラスチック、例えばポリカーボネート、ポリアミド、ポリスチレン、スチレンコポリマー、ポリエステル、ポリフェニレンオキシド及びこれらのプラスチックのブレンド、(ii)合成樹脂、例えばポリウレタンRIM、SMC、BMC、及び(iii)ゴム含量の高いポリエチレン及びポリプロピレン型のポリオレフィン基材、例えばPP-EPDM、及び表面活性化ポリオレフィン基材を含むか、又はこれらからなる基材である。プラスチックはさらに、炭素繊維、特に炭素繊維及び/又は金属繊維を用いて繊維強化されていてよい。
【0129】
基材(S)としてさらに、金属画分及びプラスチック画分の両方を含有するものを使用することも可能である。この種の基材は、例えば、プラスチック部品を含有する車体である。
【0130】
基材(S)は、本発明の方法の工程(1)の前に、又は組成物(Z1)を適用する前に、任意の従来の方法、すなわち、例えば、洗浄(例えば、機械的及び/又は化学的に)、及び/又は既知の変換コーティングの提供(例えば、リン酸塩処理及び/又はクロメート処理)、又は表面活性化前処理(例えば、火炎処理、プラズマ処理及びコロナ放電)で、前処理してよい。
【0131】
工程(1):
本発明の方法の工程(1)では、組成物(Z1)を基材(S)に適用し、続いて組成物(Z1)を硬化させることによって、硬化した第1のコーティング層(S1)を基材(S)上に製造する。この工程は、好ましくは、基材(S)が金属基材である場合に行う。
【0132】
組成物(Z1)は、電着被覆材料であってよく、そしてプライマーコートであってもよい。しかしながら、本発明によるプライマーコートは、本発明の方法の工程(2)で適用されるベースコートではない。本発明の方法は、好ましくは、金属基材(S)を用いて実施する。従って第1の被覆(S1)は、より具体的には硬化した電着被覆(E1)である。よって本発明の方法の好ましい一実施態様では、組成物(Z1)は、基材(S)に電気泳動的に適用される電着被覆材料である。適した電着被覆材料及びその硬化は、WO2017/088988A1に記載されており、そしてヒドロキシ官能性ポリエーテルアミンをバインダーとして含み、且つブロックされたポリイソシアネートを架橋剤として含む。
【0133】
適用された組成物(Z1)は、例えば15~35℃で、例えば0.5~30分の間フラッシュオフし、及び/又は好ましくは40~90℃で、例えば1~60分の期間、中間乾燥させる。適用された組成物(Z1)は、好ましくは、100~250℃、好ましくは140~220℃の温度で5~60分、好ましくは10~45分の期間硬化させ、硬化した第1のコーティング層(S1)が製造される。
【0134】
硬化した第1のコーティング層(C1)の層厚は、例えば10~40μm、好ましくは15~25μmである。
【0135】
工程(2):
本発明の方法の工程(2)は、正確に1つのベースコート層(BL2a)の製造(工程(2)(a))か、又は少なくとも2つの直接連続するベースコート層(BL2-a)及び(BL2-z)の製造(工程(2)(b))のいずれかを含む。層は、(a)水性ベースコート組成物(bL2a)を直接基材(S)又は硬化した第1のコーティング層(S1)に適用するか、又は(b)少なくとも2つのベースコート組成物(bL2-a)及び(bL2-z)を基材(S)又は硬化した第1のコーティング層(S1)に直接連続して適用することにより、生成される。従って製造完了後、工程(2)(a)によるベースコートフィルム(BL2a)が、直接基材(S)上に又は直接硬化した第1のコーティング層(S1)上に配置される。
【0136】
よって、少なくとも2つ、すなわち複数のベースコート組成物を基材(S)又は硬化した第1のコーティング層(S1)に直接連続して適用することは、第1のベースコート組成物(bL2-a)を基材(S)又は硬化した第1のコーティング層(S1)に直接適用し、次いで第2のベースコート組成物(bL2-b)を第1のベースコート組成物の層に直接適用することを意味すると理解される。次いで、任意の第3のベースコート組成物(bL2-c)を、第2のベースコート組成物の層に直接適用する。次いで、この操作を、さらなるベースコート組成物(すなわち、第4、第5等のベースコート組成物)について同様に繰り返すことができる。本発明の方法の工程(2)(b)の後に得られた最上部のベースコート層を、ベースコート層(BL2-z)と示す。
【0137】
このように、ベースコート層(BL2a)又は第1のベースコート層(BL2-a)は、直接基材(S)又は硬化した第1のコーティング層(S1)上に配置される。
【0138】
「ベースコート組成物」及び「ベースコート層」という用語は、本発明の方法の工程(2)で適用されたコーティング組成物及び生成されたコーティングフィルムに関して、より明確にするために使用される。ベースコート層(単数又は複数)は、クリアコート材料と一緒に硬化させるので、硬化は、導入部に記載した標準的な方法で使用されるいわゆるベースコート組成物の硬化と同様に達成される。より具体的には、本発明の方法の工程(2)で使用されるコーティング組成物は、標準的な方法の文脈でプライマー-サーフェイサーと呼ばれるコーティング組成物のように、別々に硬化させない。工程(2)(b)に関連して、ベースコート組成物及びベースコート層は一般に、(bL2-x)及び(BL2-x)によって示され、ここでxは、特定の個々のベースコート組成物及びベースコート層の命名において、他の適切な文字に置き換えられる。
【0139】
本発明の方法の工程(2)の変形例(b)の好ましい実施態様は、正確に2つのベースコート組成物の使用である。よって、2つの水性ベースコート組成物(bL2-a)及び(bL2-z)を直接連続して、硬化した第1のコーティング層(S1)に直接適用して、2つのベースコート層(BL2-a)及び(BL2-z)を直接互いの上に形成する。ベースコート材料は同一であっても異なっていてもよい。また、同じベースコート材料を有する2つ以上のベースコートフィルム(BL2-x)、及び1つ以上の他のベースコート材料を有する1つ以上のさらなるベースコートフィルム(BL2-x)を製造することも可能である。しかしながら、工程(2)(b)で使用される水性ベースコート材料(bL2-x)の少なくとも1つは、本発明の水性コーティング組成物及び/又は本発明の方法によって調製された水性コーティング組成物を含む。
【0140】
工程(2)(b)の特定の好ましい態様において、第1の水性ベースコート組成物(bL2-a)は、本発明のコーティング組成物に対応し、一方、第2のベースコート組成物(bL2-z)は、ベースコート組成物を含有する効果顔料である。この結果、得られたマルチコート塗装系(M)の機械的特性に負の影響を及ぼすことなく、第2のベースコート組成物(bL2-z)として使用される金属コーティング組成物の明度及びフロップ指数が改善される。
【0141】
本発明の方法の工程(2)(b)で使用されるベースコート組成物(bL2-z)は、少なくとも1つのバインダーを含有する。従って好ましい水性ベースコート組成物(bL2-z)は、少なくとも1つのヒドロキシ官能性ポリマーをバインダーとして含み、前記少なくとも1つのヒドロキシ官能性ポリマーは、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアクリレート、それらのコポリマー、及びこれらのポリマーの混合物からなる群から選択される。好ましいポリウレタン-ポリアクリレートコポリマー(アクリレート化ポリウレタン)及びその調製は、例えば、WO91/15528A1、第3頁第21行目~第20頁第33行目、及びDE4437535A1、第2頁第27行目~頁第22行目に記載されている。バインダーは、好ましくは20~200mgKOH/gの範囲、より好ましくは40~150mgKOH/gのOH価を有する。
【0142】
バインダー、好ましくは少なくとも1つのポリウレタン-ポリアクリレートコポリマーの割合は、各場合とも水性ベースコート組成物の総質量に基づいて、好ましくは0.5~20質量%の範囲、より好ましくは1~15質量%、特に好ましくは1.5~10質量%である。
【0143】
本発明の方法の工程(2)(b)で使用されるベースコート組成物(bL2-z)は、好ましく着色されている、すなわち、その組成物は好ましくは少なくとも1つの着色及び/又は効果顔料を含有する。よって水性ベースコート組成物(bL2-z)は、好ましくは少なくとも1つの着色及び/又は効果顔料、より好ましくは少なくとも1つの着色及び効果顔料を含む。少なくとも1つの効果顔料を含むコーティング組成物(bL2-z)の使用は、水性ベースコート組成物(bL2-a)としての本発明のコーティング組成物の使用と組み合わせて、改善された明度及びフロップ指数をもたらす。この改良された明度及びフロップ指数は、第1の水性ベースコート組成物(bL2-a)におけるポリカルボン酸PC、アニオン的に安定化されたバインダーB及び溶媒Sの組み合わせの存在に起因する。
【0144】
この点に関し、好ましい着色顔料は、本発明の水性コーティング組成物中に存在する色顔料Pに関連して記載した顔料である。
【0145】
有用な効果顔料は、(i)血小板状金属効果顔料、例えばラメラアルミニウム顔料、(ii)金ブロンズ、(iii)酸化ブロンズ及び/又は酸化鉄アルミニウム顔料、(iv)真珠光沢顔料、例えば真珠エッセンス、(v)塩基性炭酸鉛、(vi)酸化ビスマス塩化物及び/又は金属酸化物マイカ顔料、(vii)層状顔料、例えば層状黒鉛、層状酸化鉄、(viii)PVDフィルムから構成される多層効果顔料、(ix)液晶ポリマー顔料(x)それらの混合物からなる群から選択される。
【0146】
少なくとも1つの着色及び/又は効果顔料は、好ましくは、各場合とも水性ベースコート組成物(bL2-z)の総質量に基づいて、1~40質量%、好ましくは2~35質量%、より好ましくは5~30質量%の総量で、少なくとも1つの水性ベースコート組成物(bL2-z)中に存在する。
【0147】
さらに、本発明の方法の工程(2)(b)で使用されるベースコート組成物(bL2-z)は、好ましくは、それ自体が既知の少なくとも1つの典型的な架橋剤を含む。好ましくは、水性ベースコート(bL2-z)は、ブロックされたポリイソシアネート及び/又はアミノプラスト樹脂、好ましくはアミノプラスト樹脂からなる群から選択される少なくとも1つの架橋剤を含む。アミノプラスト樹脂の中でも、特にメラミン樹脂が好ましい。
【0148】
架橋剤、特にアミノプラスト樹脂及び/又はブロックされたポリイソシアネート、より好ましくはアミノプラスト樹脂、これらの中でも好ましくはメラミン樹脂の割合は、好ましくは5~50質量%の範囲、より好ましくは7~45質量%、特に好ましくは10~40質量%である(各場合ともコーティング組成物の総バインダー含量に基づく)。
【0149】
好ましくは、本発明の方法の工程(2)(b)で使用されるベースコート組成物(bL2-z)は、少なくとも1つの増粘剤をさらに含む。適した増粘剤は、上記で本発明の水性コーティング組成物に関連して開示されている。特に好ましい増粘剤は、フィロシリケートの群から選択される。増粘剤の割合は、好ましくは、各場合とも水性ベースコート組成物(bL2-z)の総質量に基づいて、0.01~5質量%の範囲、好ましくは0.02~4質量%、より好ましくは0.05~3質量%である。
【0150】
さらに、水性ベースコート組成物(bL2-z)は、少なくとも1つの添加剤を含んでいてもよい。そのような添加剤の例は、残留物なしに又は実質的に残留物なしに、熱により分解することができる塩、物理的に、熱的に及び/又は化学線により硬化可能であり、すでに述べたポリマーとは異なるバインダーとしての樹脂、さらなる架橋剤、有機溶媒、反応性希釈剤、透明顔料、充填剤、分子分散体中に可溶性の染料、ナノ粒子、光安定剤、酸化防止剤、脱気剤、乳化剤、スリップ剤、重合阻害剤、フリーラジカル重合開始剤、付着促進剤、フロー調整剤、膜形成助剤、垂れ調整剤(SCA)、難燃剤、腐食抑制剤、ワックス、乾燥剤、殺生物剤、及びつや消し剤である。前述の種類の適した添加剤は、例えば、ドイツ特許出願DE19948004A1、第14頁第4行~第17頁第5行、ドイツ特許DE10043405C1、第5欄、段落[0031]~[0033]から知られている。これらは、慣例且つ既知の量で使用される。例えば、その割合は、各場合とも水性ベースコート組成物(bL2-z)の総質量に基づいて、1.0~20質量%の範囲であってよい。
【0151】
ベースコート組成物(bL2-z)の固形分含量は、個々の事例の要求事項に従って変化してよい。固形分含量は、適用のため、より具体的にはスプレー適用のための所要の粘度によって主として導かれるので、当業者により自身の一般的な技術知識に基づいて、任意に少数の調査試験の支援を得て調整してもよい。ベースコート組成物(bL2-z)の固形分含量は、好ましくは5~70質量%、より好ましくは8~60質量%、最も好ましくは12~55質量%である。固形分含量は、実施例に記載のように決定することができる。
【0152】
ベースコート組成物(bL2a)及び(bL2-x)は水性であり、そして好ましくは、各場合とも存在する溶媒(すなわち、水及び有機溶媒)の総量に基づいて、少なくとも40質量%、好ましくは少なくとも45質量%、非常に好ましくは少なくとも50質量%の水画分を有する。そして好ましくは、水画分は、各場合とも存在する溶媒の総量に基づいて40~95質量%、より具体的には45~90質量%、非常に好ましくは50~85質量%である。
【0153】
本発明により用いられるベースコート組成物は、ベースコート材料の製造に慣例且つ既知の混合用組立体及び混合技術を使用して製造することができる。
【0154】
ベースコート層(複数可)(BL2a)又は(BL2-x)は、クリアコート層と一緒に硬化させる。特に、本発明の方法の工程(2)で使用されるコーティング組成物は、別々に硬化させない。従ってベースコート層(BL2a)又は(BL2-x)は、好ましくは、100℃を超える温度に1分より長い時間曝露されず、特に好ましくは、100℃を超える温度に全く曝露されない。
【0155】
ベースコート材料(bL2a)及び(bL2-x)は、工程(4)における硬化後、ベースコート層(BL2a)又は個々のベースコート層(BL2-x)それぞれの膜厚が、例えば5~50μm、好ましくは6~40μm、特に好ましくは7~35μmとなるように適用される。工程(2)(a)では、15~50μm、好ましくは15~45μmの比較的高い膜厚を有するベースコート層(BL2a)を製造することが好ましい。工程(2)(b)では、個々のベースコート層(BL2-x)は、やはり1つのベースコート層(BL2a)の規模内である膜厚を有する全体の系と比較すると、低い膜厚を有する傾向がある。例えば、2つのベースコート層の場合、第1のベースコート層(BL2-a)の膜厚は、好ましくは、5~35μm、より具体的には10~30μmであり、第2のベースコート層(BL2-z)の膜厚は、好ましくは、5~35μm、より具体的には10~30μmであり、そして全体の膜厚は通常50μmを超えない。
【0156】
工程(3):
本発明の方法の工程(3)では、クリアコート層(K)を直接ベースコート層(BL2a)上又は最上部のベースコート層(BL2-z)上に生成する。この生成は、クリアコート材料(k)の対応する適用によって達成される。適したクリアコート材料は、例えばWO2006042585A1、WO2009077182A1か、或いはWO2008074490A1に記載されている。
【0157】
クリアコート材料(k)又は対応するクリアコート層(K)は、適用に続き、好ましくは15~35℃で、0.5~30分間、フラッシュ及び/又は中間乾燥する。
【0158】
クリアコート材料(k)は、工程(4)における硬化後のクリアコート層の膜厚が、例えば15~80μm、好ましくは20~65μm、特に好ましくは25~60μmとなるように適用される。
【0159】
工程(4):
本発明の方法の工程(4)では、ベースコート層(BL2a)及びクリアコート層(K)、又はベースコート層(BL2-x)及びクリアコート層(K)を一緒に硬化させる。
【0160】
一緒の硬化は、好ましくは60~250℃の温度、好ましくは80~200℃の温度、より好ましくは80~160℃の温度で、5~60分の持続時間で行われる。
【0161】
本発明の方法により、別個の硬化工程なしで基材上にマルチコート塗装系を製造できる。それにもかかわらず、本発明の方法を適用して得られたマルチコート塗装系は、良好な光学特性及び機械的特性を有する。本発明のコーティング組成物を、後に適用される、金属効果顔料を含むコーティング組成物と組み合わせて使用する場合、コーティング層を含む金属効果顔料のフロップ効果を高めることができる。このマルチコート塗装系における向上したフロップ効果は、第1のベースコート層(BL2-a)を製造するために使用される第1の水性ベースコート組成物(bL2-a)中のポリカルボン酸PC、アニオン的に安定化されたバインダーB、及び任意に溶媒Sの存在によるものである。
【0162】
結果として、フロップ効果に関して仕様外のベースコート組成物を含有する金属効果顔料は、コーティング層として、本発明のコーティング組成物によって得られたコーティング層の直接上で、依然として使用することができる。よって本発明の方法における第1のベースコート層(bL2-a)としての本発明のコーティング組成物の使用は、得られたフロップ効果に関して仕様外のベースコート組成物を含有する金属効果顔料のバッチを配置する必要性を低減する。よって本発明の方法は、向上した環境バランス及び効率を有する。
【0163】
本発明の方法のさらなる好ましい実施態様に関して、特に、そこで使用されるベースコート組成物及びこれらのベースコート組成物の成分に関して、本発明のコーティング組成物に関してなされた陳述が準用される。
【0164】
本発明のマルチコート塗装系:
本発明の方法の工程(4)の終了後、本発明のマルチコート塗装系(M)が結果として得られる。
【0165】
本発明のマルチコート塗装系のさらなる好ましい実施態様に関して、本発明のコーティング組成物及び本発明の方法に関してなされたコメントが準用される。
【0166】
本発明を特に次の実施態様によって記載する:
実施態様1:以下の成分を含む水性コーティング組成物であって、
(a) 少なくとも1つのアニオン的に安定化されたバインダーB、
(b) 少なくとも1つの色顔料P、
(c) 少なくとも1つのポリカルボン酸PC、及び
(d) 任意に少なくとも1つの溶媒S
を該コーティング組成物の総質量に基づいて含み、効果顔料が0質量%である、水性コーティング組成物。
【0167】
実施態様2:少なくとも1つのアニオン的に安定化されたバインダーBが、固形分換算で40~95質量%、好ましくは固形分換算で50~90質量%、より具体的には固形分換算で55~85質量%の総量で、各場合ともコーティング組成物の総バインダー含量に基づいて存在する、実施態様1に記載の水性コーティング組成物。
【0168】
実施態様3:少なくとも1つのアニオン的に安定化されたバインダーBが、アニオン的に安定化されたポリウレタン-ポリウレア粒子(PPP)を含む水性ポリウレタン-ポリウレア分散体からなる群から選択される、実施態様1又は2に記載の水性コーティング組成物。
【0169】
実施態様4:アニオン的に安定化されたポリウレタン-ポリウレア粒子(PPP)が、40nm~2,000nmの平均粒子径及び少なくとも50%のゲル画分を有し、そして前記ポリウレタン-ポリウレア粒子(PPP)が、
(Z.1.1)アニオン性基及び/又はアニオン性基に変換可能な基を含有する少なくとも1つのイソシアネート基含有ポリウレタンプレポリマー、及び
(Z.1.2)2つの第一級アミノ基及び1つ又は2つの第二級アミノ基を含有する少なくとも1つのポリアミン
を、各場合とも反応した形態で含む、実施態様3に記載の水性コーティング組成物。
【0170】
実施態様5:ポリウレタン-ポリウレア粒子(PPP)が、110~500nm、より具体的には130~250nmの平均粒子径、及び/又は60%~100%、好ましくは70%~100%、より具体的には80%~100%のゲル画分を有する、実施態様3又は4に記載の水性コーティング組成物。
【0171】
実施態様6:プレポリマー(Z.1.1)がカルボン酸基を含む、先行する実施態様のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0172】
実施態様7:プレポリマー(Z.1.1)が少なくとも1つのポリエステルジオールを含み、前記ポリエステルジオールがジオール及びジカルボン酸を用いて調製され、但しジカルボン酸の少なくとも50質量%、好ましくは55~75質量%がダイマー脂肪酸であるのが条件である、実施態様4から6のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0173】
実施態様8:ポリアミン(Z.1.2)が、1つ又は2つの第二級アミノ基、2つの第一級アミノ基、及び脂肪族飽和炭化水素基からなる、実施態様4から7のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0174】
実施態様9:少なくとも1つのポリアミン(Z.1.2)が、ジエチレントリアミン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルアミン、ジプロピレントリアミン、N1-(2-(4-(2-アミノエチル)ピペラジン-1-イル)エチル)エタン-1,2-ジアミン、トリエチレンテトラミン、及びN,N’-ビス(3-アミノ-プロピル)エチレンジアミン、好ましくはジエチレントリアミンからなる群から選択される、実施態様4から8のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0175】
実施態様10:水性ポリウレタン-ポリウレア分散体が、pH8.0で、-2.5~-15(μm/s)/(V/cm)、好ましくは-2.5~-10(μm/s)/(V/cm)、より好ましくは-4~-8(μm/s)/(V/cm)、より具体的には-6~-8(μm/s)/(V/cm)の電気泳動移動度を有する、実施態様3から9のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0176】
実施態様11:水性ポリウレタン-ポリウレア分散体が、固形分換算で1~60質量%、好ましくは固形分換算で5~50質量%、より好ましくは固形分換算で10~40質量%、非常に好ましくは固形分換算で15~40質量%の総量で、各場合ともコーティング組成物の総バインダー含量に基づいて存在する、実施態様3から10のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0177】
実施態様12:少なくとも1つの顔料Pが、(i)白色顔料、例えば二酸化チタン、白色亜鉛、硫化亜鉛又はリトポン、(ii)黒色顔料、例えばカーボンブラック、鉄マンガンブラック又はスピネルブラック、(iii)有彩顔料、例えばウルトラマリングリーン、ウルトラマリンブルー、マンガンブルー、ウルトラマリンバイオレット、マンガンバイオレット、酸化鉄レッド、モリブデートレッド、ウルトラマリンレッド、酸化鉄ブラウン、混合ブラウン、スピネル相及びコランダム相、酸化鉄イエロー、ビスマスバナデート、(iv)有機顔料、例えばモノアゾ顔料、ビスアゾ顔料、アントラキノン顔料、ベンズイミダゾール顔料、キナクリドン顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料、ジオキサジン顔料、インダントロン顔料、イソインドリン顔料、イソインドリノン顔料、アゾメチン顔料、チオインジゴ顔料、金属錯体顔料、プリノン顔料、ペリレン顔料、フタロシアニン顔料、アニリンブラック、及び(v)それらの混合物からなる群から選択される、先行する実施態様のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0178】
実施態様13:少なくとも1つの顔料Pが、1~40質量%、好ましくは2~35質量%、より好ましくは5~30質量%の総量で、各場合ともコーティング組成物の総質量に基づいて存在する、先行する実施態様のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0179】
実施態様14:少なくとも1つのポリカルボン酸PCの中和レベルが、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは10~100%である、先行する実施態様のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0180】
実施態様15:少なくとも1つのポリカルボン酸PCがジカルボン酸である、先行する実施態様のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0181】
実施態様16:ジカルボン酸が一般式(I)
+-OOC-R-COO
(式中、
Rは、直鎖状又は分岐状の飽和C~C30アルキル基、直鎖状又は分岐状の不飽和C10~C72アルキル基、シクロアルキル基又は芳香族基、好ましくは直鎖状の飽和Cアルキル基であり、そして
は、水素又はカチオンである)
を有する、実施態様15に記載の水性コーティング組成物。
【0182】
実施態様17: ジカルボン酸が、アゼライン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸及びフタル酸、及びそれらの混合物の群から選択される、先行する実施態様のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0183】
実施態様18:少なくとも1つのポリカルボン酸PC、より具体的には式(I)のジカルボン酸が、0.01~4質量%、より好ましくは0.02~2質量%、より具体的には0.05~1質量%の総量で、各場合ともコーティング組成物の総質量に基づいて存在する、先行する実施態様のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0184】
実施態様19:少なくとも1つの溶媒Sが、水、アルコキシ-C~C10アルコール、ケトン、エステル、アミド、メチラール、ブチラール、1,3-ジオキソラン、グリセロールホルマール、及びこれらの混合物から選択され、より具体的にはアルコキシ-C~C10アルコールから選択される、先行する実施態様のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0185】
実施態様20:少なくとも1つの溶媒S、より具体的には水及び/又はアルコキシ-C~C10アルコールを、0.01~15質量%、好ましくは0.05~10質量%、より好ましくは0.1~5質量%、より具体的には0.2~2質量%の総量で、各場合ともコーティング組成物の総質量に基づいて含む、先行する実施態様のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0186】
実施態様21:少なくとも1つの中和剤をさらに含み、前記中和剤が好ましくは無機塩基、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン及びそれらの混合物からなる群から選択され、より具体的にはN,N’-ジメチルエタノールアミンである、先行する実施態様のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0187】
実施態様22:少なくとも1つの中和剤、好ましくはN,N’-ジメチルエタノールアミンが、0.05~5質量%、好ましくは0.05~4質量%、より好ましくは0.05~1質量%、より具体的には0.05~0.2質量%の総量で、各場合ともコーティング組成物の総質量に基づいて存在する、実施態様20に記載の水性コーティング組成物。
【0188】
実施態様23:コーティング組成物の総質量に基づいて、0質量のフィロシリケート、より具体的には、ナトリウムマグネシウムシリケート及び/又はリチウムアルミニウムマグネシウムシリケート、及び/又はポリアミドを含む、先行する実施態様のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0189】
実施態様24:コーティング組成物が少なくとも1つの架橋剤をさらに含み、前記架橋剤が好ましくは、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂、遊離及び/又はブロックされたポリイソシアネート、ポリカルボジイミド、及びそれらの混合物からなる群から選択され、より具体的にはメラミン-ホルムアルデヒド樹脂である、先行する実施態様のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0190】
実施態様25:少なくとも1つの架橋剤、特にメラミン-ホルムアルデヒド樹脂が、5~50質量%、好ましくは7~45質量%、より好ましくは10~40質量%の総量で、各場合ともコーティング組成物の総バインダー含量に基づいて存在する、実施態様24に記載の水性コーティング組成物。
【0191】
実施態様26:DIN EN ISO3251(2008年6月)に準拠して測定して、15~60質量%の固形分含量を各場合ともコーティング組成物の総質量に基づいて有する、先行する実施態様のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0192】
実施態様27:各場合とも23℃で測定して、7~10、より具体的には7~9のpHを有する、先行する実施態様のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0193】
実施態様28:以下の工程、
(1) 少なくとも1つのポリカルボン酸PC、少なくとも1つの溶媒S、及び任意に少なくとも1つの中和剤を含む溶液を提供する工程、及び
(2) 工程(1)で提供された溶液を、少なくとも1つのアニオン的に安定化されたバインダーB及び少なくとも1つの色顔料Pを含む水性組成物に添加する工程
を含む、水性コーティング組成物の製造方法。
【0194】
実施態様29:基材(S)上にマルチコート塗装系(M)を製造するための方法であって、以下の工程:
(1) 組成物(Z1)を基材(S)に適用し、その後続いて、適用した組成物(Z1)を硬化させることにより、硬化した第1のコーティング層(S1)を基材(S)上に任意に製造する工程と、
(2) 水性ベースコート材料(bL2a)を第1のコーティング層(S1)に直接適用するか、又は少なくとも2つの水性ベースコート材料(bL2-x)を直接第1のコーティング層(S1)に直接連続して適用することにより、ベースコート層(BL2a)又は少なくとも2つの直接連続したベースコート層(BL2-x)を、直接第1のコーティング層(S1)上に製造する工程と、
(3) クリアコート材料(cm)を直接ベースコート層(BL2a)又は最上部のベースコート層(BL2-z)に適用することにより、クリアコート層(C)を、直接ベースコート層(BL2a)又は最上部のベースコート層(BL2-z)上に製造する工程と、
(4) ベースコート層(BL2a)とクリアコート層(C)とを、又はベースコート層(BL2-x)とクリアコート層(C)とを、一緒に硬化させる工程と、
を含み、
少なくとも1つのベースコート材料(bL2a)又はベースコート材料(bL2-x)の少なくとも1つが、実施態様1から27のいずれか1つに記載の組成物を含み、及び/又は少なくとも1つのベースコート材料(bL2a)又はベースコート材料(bL2-x)の少なくとも1つが、実施態様28に記載の方法により得られたものである、方法。
【0195】
実施態様30:基材(S)が、金属基材、硬化した電着被覆でコーティングされた金属基材、プラスチック基材、強化プラスチック基材、及び金属成分とプラスチック成分とを含む基材から選択され、特に好ましくは、金属基材から選択される、実施態様29に記載の方法。
【0196】
実施態様31:第1の水性ベースコート材料(bL2-a)が、実施態様1から27のいずれか1つに記載のコーティング組成物、又は実施態様28に記載の方法によって得られたベースコート材料(bL2-a)を含み、第2のベースコート材料(bL2-z)が、ベースコート組成物を含有する効果顔料を含む、実施態様29又は30に記載の方法。
【0197】
実施態様32:水性ベースコート材料(bL2-z)が、少なくとも1つのヒドロキシ官能性ポリマーをバインダーとして含み、前記少なくとも1つのヒドロキシ官能性ポリマーは、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアクリレート、それらのコポリマー、及びこれらのポリマーの混合物からなる群から選択される、実施態様31に記載の方法。
【0198】
実施態様33:効果顔料が、(i)血小板状金属効果顔料、例えばラメラアルミニウム顔料、(ii)金ブロンズ、(iii)酸化ブロンズ及び/又は酸化鉄アルミニウム顔料、(iv)真珠光沢顔料、例えば真珠エッセンス、(v)塩基性炭酸鉛、(vi)酸化ビスマス塩化物及び/又は金属酸化物マイカ顔料、(vii)層状顔料、例えば層状黒鉛、層状酸化鉄、(viii)PVDフィルムから構成される多層効果顔料、(ix)液晶ポリマー顔料(x)それらの混合物からなる群から選択される、実施態様31又は32に記載の方法。
【0199】
実施態様34:効果顔料が、各場合とも水性ベースコート組成物(bL2-z)の総質量に基づいて、1~40質量%、好ましくは2~35質量%、より好ましくは5~30質量%の総量で、水性ベースコート材料(bL2-z)中に存在する、実施態様31から33のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0200】
実施態様35:ベースコート材料(bL2-z)が、ブロックされたポリイソシアネート及び/又はアミノプラスト樹脂、好ましくはアミノプラスト樹脂からなる群から選択される少なくとも1つの架橋剤を含む、実施態様31から34のいずれか1つに記載の方法。
【0201】
実施態様36:工程(4)での一緒の硬化を60~250℃、好ましくは80~200℃、より好ましくは80~160℃の温度で、5~60分間の持続期間行う、実施態様29から35のいずれか1つに記載の方法。
【0202】
実施態様37:実施態様29から36のいずれか1つに記載の方法によって製造されたマルチコート塗装系(M)。
【実施例
【0203】
本発明を、実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明は決してこれらの実施例に限定されるものではない。さらに、実施例における「部」、「%」及び「比率」とは、別段の記載がない限り、それぞれ「質量部」、「質量%」及び「質量比」を意味する。
【0204】
1. 決定の方法:
1.1 固形分含量(固体、不揮発性画分)
不揮発性画分は、DIN EN ISO3251(日付:2008年6月)に準拠して決定した。これは、あらかじめ乾燥させておいたアルミニウム皿に1gの試料を量り取り、乾燥オーブン中125℃で60分間乾燥させ、デシケーター内で冷却してから再秤量することを伴う。使用した試料の総量に対する残渣は、不揮発性画分に相当する。不揮発性画分の体積は、必要であれば、DIN53219(日付:2009年8月)に準拠して、任意に決定してよい。
【0205】
1.2 粒子径
平均粒子径は、DIN ISO13321(日付:2004年10月)に準拠して動的光拡散(光子相関分光法(PCS))によって決定した。ここで平均粒子径とは、測定された平均の粒子直径(Z平均)を意味する。測定には、Malvern Nano S90(Malvern Instruments社製)を25±1℃で用いた。この装置は、3~3000nmのサイズ範囲をカバーし、633nmの4mWのHe-Neレーザを備えていた。それぞれの試料を、分散媒として粒子を含まない脱イオン水で希釈し、次いで、適した散乱強度で1mlのポリスチレンセル中での測定に供した。評価は、Zetasizer分析ソフトウェアのバージョン7.11(Malvern Instruments社製)を補助として、デジタル相関器を使用して行った。測定を5回行い、測定は2回目に新しく調製した試料で繰り返した。平均粒子径とは、平均粒子径(体積平均)の算術平均をいう。ここで、5回の判定の標準偏差は4%以下であった。
【0206】
1.3 酸価の決定
酸価は、DIN EN ISO2114(日付:2002年6月)に準拠し、「方法A」を用いて決定した。酸価は、DIN EN ISO2114に規定された条件下で、試料1gを中和するのに必要な水酸化カリウムの質量に対応する。ここで、報告された酸価は、DIN規格に示された合計酸価に相当し、且つ固形分含量に基づく。
【0207】
1.4 OH価の決定
OH価は、DIN53240-2(日付:2007年11月)に準拠して決定した。この方法では、OH基をアセチル化によって過剰の無水酢酸と反応させた。その後過剰の無水酢酸を、酢酸を形成するために水の添加によって分解し、全酢酸をエタノール性KOHで逆滴定した。OH価は、mgで表すKOHの量(固体に基づく)を示し、これは試料1gのアセチル化で結合した酢酸の量と同等である。
【0208】
1.5 数平均及び質量平均分子量の決定
数平均分子量(Mn)は、DIN55672-1(日付:2007年8月)に準拠してゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって決定した。数平均分子量の他に、この方法はさらに、質量平均分子量(M)、及び多分散性d(質量平均分子量(M)の数平均分子量(M)に対する比率)の決定にも使用することができる。テトラヒドロフランを溶離剤として使用した。決定は、ポリスチレン標準に対して実施した。カラム材料は、スチレン-ジビニルベンゼンコポリマーからなっていた。
【0209】
1.6 ポリウレタン-ポリウレア粒子(PPP)のゲル画分の決定
本発明の文脈において、ポリウレタン-ポリウレア粒子(PPP)のゲル画分を質量測定で判定した。ここでは、まず第1に、存在するポリマーを水性分散体の試料(初期質量1.0g)から凍結乾燥によって単離した。凝固温度(温度をさらに低下させたときに試料の電気抵抗がさらなる変化を示さない温度)の決定に続き、完全に凍結した試料は、その主乾燥(慣例的に、5mbar~0.05mbarの間の乾燥真空圧力範囲、凝固温度より10℃低い乾燥温度)を受けた。ポリマーの下の加熱された表面の温度を25℃まで徐々に上昇させることにより、ポリマーの急速な凍結乾燥が達成された。典型的には12時間の乾燥時間の後、単離したポリマー(凍結乾燥法で決定した固体画分)の量は一定であり、長時間の凍結乾燥でももはや変化を受けなかった。続いて、周囲圧力を最大程度(典型的には0.05~0.03mbarの間)に低下させた状態で、ポリマーの下の表面を30℃の温度で乾燥させると、ポリマーの最適な乾燥が得られた。
【0210】
次いでその後、単離したポリマーを強制空気オーブン中130℃で1分間焼成し、その後24時間25℃で過剰なテトラヒドロフラン中に抽出した(テトラヒドロフランの固体画分に対する比=300:1)。次いで、単離したポリマーの不溶性画分(ゲル画分)を適したフリット上に分離し、強制空気オーブン中50℃で4時間乾燥させ、その後に再秤量した。
【0211】
130℃の焼結温度において、1分から20分の間で焼結時間を変動させることにより、粒子に関して観察されたゲル画分が、焼結時間とは無関係であることがさらに確認された。従って、ポリマー固体の単離後の架橋反応が、ゲル画分をさらに増加させるということを除外できる。
【0212】
このようにして本発明により判定したゲル画分は、ゲル画分(凍結乾燥)とも呼ばれる。
【0213】
並行して、以下でゲル画分(130℃)とも呼ばれるゲル画分は、ポリマー試料を水性分散体(初期質量1.0g)から130℃で60分間単離することによって、質量測定で判定した(固形分含量)。ポリマーの質量を決定し、その後そのポリマーを、上記の手順と同様に、25℃で24時間過剰のテトラヒドロフラン中で抽出し、不溶性画分(ゲル画分)を分離し、乾燥させ、再秤量した。
【0214】
1.7 水溶解度
有機溶媒の水溶解度は、20℃で以下のように決定した。当該有機溶媒及び水を適したガラス容器内で合わせて混合し、その後続いて混合物を平衡化させた。ここで選択した水及び溶媒の量は、互いに分離した2つの相が平衡によって生成されるものであった。平衡後、シリンジを用いて水性相(すなわち、有機溶媒よりも多くの水を含有する相)から試料を採取し、この試料をテトラヒドロフランを用いて1/10の比で希釈し、ガスクロマトグラフィーに供して溶媒の画分を確認した(条件については、セクション8.溶媒含量を参照)。
【0215】
水及び溶媒の量に関わらず2つの相が形成されない場合、溶媒は水に対して任意の質量比で混和性である。従って、この水に無限に溶解する溶媒(例えばアセトン)は、いずれにせよ溶媒(Z.2)ではない。
【0216】
1.8 電気泳動による表面電荷の決定
表面電荷はMalvern社製のZetasizer Nanoを用いてpH3~10の範囲で決定した。測定は希釈後の試料のpHで開始した。pHはHCl及び/又はNaOHを用いて調整した。試料を10mmol/l KCl中で測定した。
【0217】
1.9 中和度
成分xの中和度は、成分中に存在するカルボン酸基の物質量(酸価により決定)、及び中和剤の使用量から算出した。
【0218】
1.10 マルチコート塗装系の製造
亜鉛めっき圧延鋼の試験板を陰極電着コーティング(CathoGuard(登録商標)CG800、BASF Coatings GmbH社)でコーティングし、180℃で22分間硬化させた。得られた硬化した電着被覆層の乾燥膜厚は、18μmであった。
【0219】
これらのパネル上に、水性ベースコート材料(BC-C1)~(BC-C8)及び(BC-I1)~(BC-I8)のそれぞれを静電的に適用し、23℃で4分間乾燥させて、乾燥膜厚18μmの第1のベースコート層(BL2-a)を得た。
【0220】
その後、効果顔料を含有する水性ベースコート材料(BC-E1)又は(BC-E2)を、ベル-ベルプロセス(bell-bell-process)で2回の後続した静電適用を用いて適用し、得られた第2のベースコート層(BL2-z)の乾燥膜厚が12~14μmになるようにした。ベースコート材料(BC-E1)又は(BC-E2)を23℃で1分間フラッシュ処理し、そして70℃で10分間乾燥させた。
【0221】
ベースコート材料を乾燥させた後、市販のクリアコート材料(2Kクリアコート材料Igloss(登録商標)、BASF Coatings GmbH社製)を、得られる乾燥膜厚が40μmとなるように空気圧で適用した。クリアコート層を23℃で20分間フラッシュし、そしてその後得られたマルチコート系を140℃で20分間硬化させた。
【0222】
1.11 乾燥膜厚の決定
膜厚は、DIN EN ISO2808(日付:2007年5月)、方法12Aに準拠して、ElektroPhysik社からのMiniTest(登録商標)3100-4100装置を使用して決定した。
【0223】
1.12 角度依存明度の決定
明度を決定するために、コーティングされた基材(すなわち、1.10項に記載のマルチコート系)を分光光度計(例えばX-Rite MA60B+BAマルチアングル分光光度計)を用いる測定に供した。表面を光源で照らした。種々の角度で可視領域内でスペクトル検出を行った。このようにして得られたスペクトル測定値は、標準化されたスペクトル値及び使用した光源の反射スペクトルも考慮して、CIEL*a*b*色空間における色値を計算するために使用することができ、L*は明度、a*は赤緑の値、b*は黄青の値を特徴づける。
【0224】
第1のベースコート層(BL2-a)としてBC-C1又はBC-C3、及び第2のベースコート層(BL2-z)としてBC-E1又はBC-E2を含む、本発明によるものではないマルチコート塗装系を標準として使用し、明度(ΔL)、赤緑値(Δa)及び黄青値(Δb)の差を計算した。
【0225】
2. 水性ベースコート材料の調製
本明細書中で下記の表に示す配合物の構成成分及びその量に関して、次のことを考慮すべきである。市販の製品又は他の文献に記載されている調製プロトコルに対する言及がなされる場合、その言及は、当該構成成分に関して選択される原則的呼称とは無関係に、厳密にその市販製品に対するものであるか、又は厳密にその言及されたプロトコルで調整された製品に対するものである。
【0226】
よって配合物の構成成分が、「メラミン-ホルムアルデヒド樹脂」という原則的呼称をもつ場合、及び市販の製品がこの構成成分に関して示される場合、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂は、厳密にこの市販製品の形態で使用される。従って、(メラミン-ホルムアルデヒド樹脂の)活性物質の量について結論が導かれる場合、その市販製品中に存在する任意のさらなる構成成分、例えば溶媒を考慮に入れなければならない。
【0227】
従って、配合物の構成成分の調製プロトコルに対して言及がなされる場合、及びそのような調製によって、例えば、規定の固形分含量を有するポリマー分散体が得られる場合には、厳密にこの分散体が使用される。最重要要因は、選択された原則的呼称が「ポリマー分散体」という用語であるか、又は単に活性物質、例えば「ポリマー」、「ポリエステル」又は「ポリウレタン変性ポリアクリレート」であるかということではない。(ポリマーの)活性物質の量に関して結論が導かれる場合、このことは考慮に入れなければならない。
【0228】
2.1 アニオン的に安定化されたポリウレタン-ポリウレア粒子の水性分散体(D1)の調製
アニオン的に安定化されたポリウレタン-ポリウレア粒子の水性分散体(D1)を、WO2018/011311A1の第75及び76頁の調製例「PD1」のように調製した。この分散体は、pH8.0で-6.7(μm/s)/(V/cm)の電気泳動移動度を有していた(測定については、上記の1.8項を参照)。
【0229】
2.2 カラーペースト及びマイカスラリーの調製
2.2.1 白色ペーストP1の調製
白色ペーストP1は、50質量部のチタンルチルR-960-38、11質量部のポリエステル(DE4009858A1の第16欄、第37~59行目の実施例Dに従い製造した)、16質量部のバインダー分散体(特許EP0228003B2、第8頁、第6~18行目に従い調製した)、1.5質量部のPluriol(登録商標)P900(BASF SE社)、17質量部の脱イオン水、1.5質量部のN,N’-ジメチルエタノールアミン水溶液(脱イオン水中10質量%)及び3質量部のブチルグリコールから調製した。
【0230】
2.2.2 カーボンブラックペーストP2の調製
カーボンブラックペーストP2は、10.1質量部のカーボンブラックFW2、5質量部のポリエステル(DEA4009858A1の第16欄、第37~59行目、実施例Dに従い調製した)、58.9質量部のバインダー分散体(特許出願WO92/15405の第14頁、第13行目~第15頁、第13行目に従い調製した)、2.2質量部のPluriol(登録商標)P900(BASF SE社)、8.4質量部の脱イオン水、7.8質量部のN,N’-ジメチルエタノールアミン水溶液(脱イオン水中10質量%)、及び7.6質量部のブチルグリコールから調製した。
【0231】
2.2.3 イエローペーストP3の調製
イエローペーストP3は、17.3質量部のSicotrans-Gelb L1916、18.3質量部のポリエステル(DE4009858A1、第16欄、第37~59行目の実施例Dに従い調製した)、43.6質量部のバインダー分散体(特許EP0228003B2、第8頁、第6~18行目に従い調製した)、16.5質量部の脱イオン水及び4.3質量部のブチルジグリコールから調製した。
【0232】
2.2.4 レッドペーストP4の調製
レッドペーストP4は、49.7質量部のアクリレート化ポリウレタン分散体(特許出願WO91/15528の「Bindemitteldispersion A」(ポリマーA)に従い調製した)、12質量部のSicotrans(登録商標)Red(BASF SE社)、3質量部のPluriol(登録商標)P900(BASF SE社)、2質量部のブチルグリコール、1質量部のN,N’-ジメチルエタノールアミン水溶液(脱イオン水中10質量%)及び32.3質量部の脱イオン水から調製した。
【0233】
2.2.4 ブルーペーストP5の調製
ブルーペーストP5は、69.8質量部のアクリレート化ポリウレタン分散体(特許出願WO91/15528の「Bindemitteldispersion A」(ポリマーA)に従い調製した)、12.5質量部のPaliogen Blue L6482(BASF SE社)、1.2質量部のPluriol(登録商標)P900(BASF SE社)、1.5質量部のN,N’-ジメチルエタノールアミン水溶液(脱イオン水中10質量%)及び15質量部の脱イオン水から調製した。
【0234】
2.2.5 マイカスラリーMI1の調製
マイカスラリーは、1.5質量部のブチルグリコール、1.5質量部のポリエステル(DE4009858Aの第16欄、第37~59行目、実施例Dに従い調製した)、及び1.3質量部のMica Mearlin ext.Super Orange339Z(Merck KGaA社)を、撹拌装置で混合することによって調製した。
【0235】
2.2.6 マイカスラリーMI2の調製
マイカスラリーは、1.5質量部のブチルグリコール、1.5質量部のポリエステル(DE4009858Aの第16欄、第37~59行目、実施例Dに従い調製した)、及び1.3質量部のIriodin9225SQB(Merck KGaA社)を、撹拌装置で混合することによって調製した。
【0236】
2.3 溶媒S中における様々なカルボン酸の溶液(SOL1)~(SOL11)の調製
カルボン酸、中和剤及び溶媒Sを、表1に列挙したそれぞれの量で混合することによって、溶液SOL1~SOL11を調製した。
【0237】
【表1】
【0238】
2.4 水性ベースコート材料BC-C1~BC-C7(比較例)の製造
表2に列挙した化合物を、記載した順序で混合することにより、水性ベースコート材料BC-C1~BC-C7を製造した。10分間撹拌した後、続いて混合物を、脱イオン水及びN,N’-ジメチルエタノールアミンを使用して、pH8.0、及び回転粘度計(Anton Paar社のC-LTD80/QC調整システムを備えたRheolab QC装置)を使用して23℃で測定して1000s-1の剪断荷重下で85mPasのスプレー粘度に調整した。BC-C1~BC-C3は、如何なるジ-又はモノカルボン酸も含有していなかった。BC-C4~BC-C7はそれぞれ異なるモノカルボン酸を含有していた。
【0239】
【表2】
【0240】
2.5 水性ベースコート材料BC-I1~BC-I8(発明例)の製造
2.3項により調製したポリカルボン酸溶液SOL1~SOL7のそれぞれの量を、比較例の水性ベースコート材料BC-C1~BC-C3のそれぞれの量に撹拌しながら加えることにより、本発明の水性コーティング材料BC-I1~BC-I8を調製した(表3参照)。
【0241】
【表3】
【0242】
2.6 効果顔料を含む水性ベースコート材料BC-E1及びBC-E2の製造
表4で「水性相」に列記した化合物を記載の順番で混合して、水性混合物を得た。さらに、表2で「有機相」に列記した化合物を記載の順番で混合して、有機混合物を得た。有機混合物を水性混合物に撹拌しながら加え、そして撹拌を10分間続けた。その後、混合物を、脱イオン水及びN,N’-ジメチルエタノールアミンを用いて、pH8.0、及び回転粘度計(Anton Paar社のC-LTD80/QC調整システムを備えたRheolab QC装置又はMettler-Toledo社のRheomat RM180)を使用して23℃で測定して1000s-1の剪断荷重下で65mPasのスプレー粘度に調整した。
【0243】
【表4】
【0244】
3. 粘度測定
ポリカルボン酸(アゼライン酸)の添加が水性コーティング材料の粘度に及ぼす影響は、Haake(登録商標)Rheostress装置を用いた振動粘度測定により、以下のように決定することができる:
0.5mlのそれぞれの水性コーティング材料を装置の測定プレート上に加え、1000s-1の剪断応力で5分間剪断した。その後、剪断応力を1s-1に下げ、時間に対するゾル曲線の経過を測定した。重要なパラメータは,剪断応力を1s-1に下げた後1分と8分に得られた値である。
【0245】
得られた結果及び水性ベースコート材料の固形分含量を表5に示す。
【0246】
【表5】
【0247】
溶媒S中のポリカルボン酸の溶液(アゼライン酸(BC-I1、BC-I2、BC-I3)、ピメリン酸(BC-I4)、スベリン酸(BC-I5)、セバシン酸(BC-I6)、ドデカン二酸(BC-I7)及びフタル酸(BC-I8))を、少なくとも1つのアニオン的に安定化されたバインダーBと色顔料Pとを含む水性ベースコート組成物に添加すると、ポリカルボン酸PCを含まない水性ベースコート組成物(BC-C1~BC-C3)又はモノカルボン酸を含む水性ベースコート組成物(BC-C4~BC-C7)と比較して、剪断応力を1s-1に下げた後、粘度が有意に増加した。同時に、1000s-1でのスプレー粘度は実質的に変化しなかったので、本発明のコーティング材料の良好な適用特性が得られた。この粘度の有意な増加により、本発明の水性コーティング材料BC-I1~BC-I8は、ポリカルボン酸を含まない比較例のコーティング材料(BC-C1~BC-C3)又はモノカルボン酸を含む比較例のコーティング材料(BC-C4~BC-C7)よりも良好なレベリング特性を有する。
【0248】
4. 明度測定
1.10項により調製したマルチコート塗装系の明度を、1.12項に記載のように測定した。
【0249】
4.1 第2の金属コーティング層(BL2-z)としてBC-E1を含む多層コーティング
本発明のマルチコート塗装系で得られた、標準(第1のベースコート層(BL2-a)としてBC-C1又はBC-C2を含み、そして第2のベースコート層(BL2-z)としてBC-E1を含むマルチコート塗装系)に対する加重色値を、表6に記載する。
【0250】
【表6】
【0251】
溶媒S中のポリカルボン酸の溶液(アゼライン酸)を、少なくとも1つのアニオン的に安定化されたバインダーBと色顔料Pとを含む水性ベースコート組成物(BC-I1及びBC-I2)に添加すると、第1のベースコート層(BC-C1又はBC-C2)中にポリカルボン酸を使用しないマルチコート塗装系と比較して、15及び25°の測定角度で得られた大きな正のΔL値が原因で、直接上にある金属効果顔料含有ベースコート層のフロップ効果が顕著に向上した。
【0252】
4.2 第2の金属コーティング層(BL2-z)としてBC-E2を含む多層コーティング
本発明のマルチコート塗装系で得られた、標準(第1のベースコート層(BL2-a)としてBC-C3及び第2のベースコート層(BL2-z)としてBC-E2を含むマルチコート塗装系)に対する加重色値を、表7に記載する。
【0253】
【表7】
【0254】
溶媒S中の様々なポリカルボン酸の溶液(アゼライン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸及びフタル酸)を、少なくとも1つのアニオン的に安定化されたバインダーBと色顔料Pとを含む水性ベースコート組成物(BC-I3及びBC-I8)に添加すると、第1のベースコート層(BC-C3)中にポリカルボン酸を使用しないマルチコート塗装系と比較して、15°の測定角度で得られた正のΔL値が原因で、直接上にある金属効果含有顔料ベースコート層のフロップ効果が向上した。さらに、モノカルボン酸を含有する比較例のベースコート組成物(BC-C4~BC-C7)を用いた場合には、15°での正のΔL値が得られないことが原因で、有意なフロップ効果は得られなかった。