(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】アンモニア分解のための触媒組成物
(51)【国際特許分類】
B01J 23/83 20060101AFI20240329BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20240329BHJP
B01J 37/03 20060101ALI20240329BHJP
B01J 37/06 20060101ALI20240329BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240329BHJP
C01B 3/04 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
B01J23/83 M
B01J37/02 101Z
B01J37/03 B
B01J37/06
B01J37/08
C01B3/04 B
(21)【出願番号】P 2022545904
(86)(22)【出願日】2021-02-03
(86)【国際出願番号】 US2021016328
(87)【国際公開番号】W WO2021158606
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2022-08-18
(32)【優先日】2020-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506018363
【氏名又は名称】サウジ アラビアン オイル カンパニー
(73)【特許権者】
【識別番号】523107949
【氏名又は名称】キング アブドゥッラー ユニヴァーシティー オブ サイエンス アンド テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(72)【発明者】
【氏名】カティカネニ,サイ
(72)【発明者】
【氏名】ハレール,アーデッシュ
(72)【発明者】
【氏名】アルソラミ,バンダル
(72)【発明者】
【氏名】ガスコン,ホルヘ
(72)【発明者】
【氏名】サヤス,サルヴァドール
(72)【発明者】
【氏名】モルラネス,ナタリア
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-240646(JP,A)
【文献】特開2010-094668(JP,A)
【文献】特開2007-229619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 23/83
B01J 37/02
B01J 37/03
B01J 37/06
B01J 37/08
C01B 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を生成するためのアンモニア分解の方法であって、
アンモニア流を反応器に導入するステップであって、前記アンモニア流がアンモニアを含み、前記反応器がコバル
ト触媒を含み、前記コバル
ト触媒が、
15重量%
~70重量%のコバルトと、
5重量%
~45重量%のセリウムと、
0.4重量%
~0.5重量%のバリウムを含み、前記コバル
ト触媒の残りの重量が酸素である、ステップと、
前記アンモニア流中の前記アンモニアを前記コバル
ト触媒と接触させるステップであって、前記コバル
ト触媒はアンモニア分解反応
に触媒
作用を及ぼすように使用可能である、ステップと、
前記アンモニア分解反応
に触媒
作用を及ぼして、前記コバル
ト触媒の存在下でアンモニア分解を引き起こして水素を生成するステップと、
前記反応器から生成物流を取り出すステップであって、前記生成物流は水素を含む、ステップと、
を含む方法。
【請求項2】
水素ガス流を前記反応器に導入するステップと、
前記反応器内の温度を毎分2℃の速度で500℃まで上昇させるステップと、
前記アンモニア流を前記反応器に導入するステップの前に、前記反応器内の温度を少なくとも3時間、500℃に維持して、前記コバル
ト触媒上の金属部位を活性化するステップと、をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応器内の温度が250℃~700℃の範囲である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記反応器内の圧力が1バール~40バールの範囲である、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記生成物流が窒素をさらに含む、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
アンモニアの転化率が95%を超える、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
アンモニア分解用コバル
ト触媒を調製する方法であって、
硝酸コバルト六水和物(Co(NO
3)・6H
2O)と硝酸セリウム六水和物(Ce(NO
3)・6H
2O)を蒸留水中に溶解するステップと、
炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)溶液を添加するステップと、
溶液からコバルトとセリウムの炭酸塩が沈殿するまで前記溶液を維持するステップと、
前記コバルトとセリウムの炭酸塩を約0.4バールの圧力下で濾過するステップと、
濾過した前記コバルトとセリウムの炭酸塩を、冷蒸留水を用いてpHが7になるまで洗浄して洗浄沈殿物を生成するステップと、
前記洗浄沈殿物を100℃の温度で少なくとも8時間乾燥させて乾燥沈殿物を生成するステップと、
前記乾燥沈殿物を550℃の温度で少なくとも3時間焼成して黒色粉末を生成するステップであって、焼成時の温度は前記炭酸塩を燃焼させてCo
3O
4/CeO
2の複合酸化物を含む黒色粉末を生成するように操作可能である、ステップと、
前記黒色粉末に硝酸バリウム(Ba(NO
3)
2)の水溶液を含浸させて前駆物質を生成するステップと、
前記前駆物質を120℃の温度で少なくとも8時間乾燥させて乾燥前駆物質を生成するステップと、
前記乾燥前駆物質を550℃の温度で少なくとも3時間焼成して
アンモニア分解用コバル
ト触媒を生成するステップと、
を含む方法。
【請求項8】
前記コバル
ト触媒を粉砕して前記コバル
ト触媒の粒子を生成するステップと、
前記粒子をふるい分けするステップと、
0.3mm~0.5mmの直径を有する前記コバル
ト触媒の前記粒子を捕集するステップと、をさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記コバル
ト触媒が、15重量%
~70重量%のコバルト、5重量%
~45重量%のセリウム、ならびに0.4重量%
~0.5重量%のバリウムを含み、前記コバル
ト触媒の残りの重量が酸素である、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
アンモニア分解用コバル
ト触媒組成物であって、
15重量%
~70重量
%のコバルトと、
5重量%
~45重量%のセリウムと、
0.4重量%
~0.5重量%のバリウムと、を含み、
前記コバル
ト触媒
組成物の残りの重量は酸素である、
アンモニア分解用コバル
ト触媒組成物。
【請求項11】
酸化コバルトを含む、請求項10に記載のコバル
ト触媒組成物。
【請求項12】
酸化セリウムを含む、請求項10または11に記載のコバル
ト触媒組成物。
【請求項13】
前記コバルトが活性金属である、請求項10~12のいずれかに記載のコバルト系触媒組成物。
【請求項14】
前記セリウムが支持体および促進剤として作用するように使用可能である、請求項10~13のいずれかに記載のコバル
ト触媒組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
触媒配合物に関する組成物および方法が開示される。具体的には、アンモニアを分解するための触媒配合物のための組成物および方法が開示される。
【背景技術】
【0002】
アンモニアは、2014年に世界で1億7600万トン量産された化学物質である。アンモニアはその高体積エネルギー密度(20℃および8.6バールで108kg-H2/m3NH3)および高重量エネルギー密度(17.8重量%)のために、効率的な水素担体として登場した。さらに、アンモニアは貯蔵および輸送が容易である。こういった利点により、アンモニアは、燃料電池または水素駆動車両に使用することができる、その触媒分解によるCOxを含まない水素のオンサイト生成に適している。
【0003】
アンモニアを分解する現在の方法は、カーボンナノチューブ支持体上のルテニウム触媒(Ru/CNT)の使用を含む。ルテニウム系触媒は、このような方法を大規模に商業化するには法外なコストがかかる。さらに、支持体としてのCNTは安定性に欠ける。メタン化反応は、摂氏約450度(℃)の温度といったアンモニア分解に必要な反応条件において、炭素系触媒上で生じ得る。メタン化反応は、炭素系触媒中の炭素の水素化を伴うことができるが、触媒の不活性化をもたらす。
【発明の概要】
【0004】
触媒配合物に関する組成物および方法が開示される。具体的には、アンモニアを分解するための触媒配合物のための組成物および方法が開示される。
【0005】
第1の態様では、水素を生成するためのアンモニア分解の方法が提供される。この方法は、アンモニア流を反応器に導入するステップであって、前記アンモニア流はアンモニアを含み、前記反応器はコバルト系触媒を含み、前記コバルト系触媒は15重量%~70重量%のコバルト、5重量%~45重量%のセリウム、ならびに0.4重量%~0.5重量%のバリウムを含み、前記コバルト系触媒の残りの重量は酸素である、ステップを含む。この方法は、アンモニア流中のアンモニアをコバルト系触媒と接触させるステップであって、前記コバルト系触媒はアンモニア分解反応に触媒作用を及ぼすように使用可能である、ステップと、アンモニア分解反応に触媒作用を及ぼしてコバルト系触媒の存在下でアンモニア分解を引き起こして水素を生成するステップと、反応器から生成物流を取り出すステップであって、前記生成物流は水素を含む、ステップと、をさらに含む。
【0006】
特定の態様では、この方法は、水素ガス流を反応器に導入するステップと、反応器内の温度を2℃/分の速度で500℃に上昇させるステップと、アンモニア流を反応器に導入するステップの前に、反応器内の温度を少なくとも3時間、500℃に維持して、コバルト系触媒上の金属部位を活性化するステップと、をさらに含む。
【0007】
特定の態様では、反応器内の温度は250℃~700℃の範囲である。特定の態様では、反応器内の圧力は1バール~40バールの範囲である。特定の態様では、生成物流が窒素をさらに含む。特定の態様では、アンモニアの転化率は95%を超える。
【0008】
第2の態様では、コバルト系触媒を調製する方法が提供される。この方法は、硝酸コバルト六水和物(Co(NO3)・6H2O)と硝酸セリウム六水和物(Ce(NO3)・6H2O)を蒸留水中に溶解するステップと、炭酸ナトリウム(Na2CO3)溶液を添加するステップと、溶液からコバルトとセリウムの炭酸塩が沈殿するまで溶液を維持するステップと、前記コバルトとセリウムの炭酸塩を約0.4バールの圧力下で濾過するステップと、濾過した前記コバルトとセリウムの炭酸塩を、冷蒸留水を用いてpHが7になるまで洗浄して洗浄沈殿物を生成するステップと、前記洗浄沈殿物を100℃の温度で少なくとも8時間乾燥させて乾燥沈殿物を生成するステップと、前記乾燥沈殿物を550℃の温度で少なくとも3時間焼成して黒色粉末を生成するステップであって、焼成時の温度は前記炭酸塩を燃焼させてCo3O4/CeO2の複合酸化物を含む黒色粉末を生成するように操作可能である、ステップと、前記黒色粉末に硝酸バリウム(Ba(NO3)2)の水溶液を含浸させて前駆物質を生成するステップと、前記前駆物質を120℃の温度で少なくとも8時間乾燥させて乾燥前駆物質を生成するステップと、前記乾燥前駆物質を550℃の温度で少なくとも3時間焼成してコバルト系触媒を生成するステップと、を含む。
【0009】
特定の態様では、この方法は、コバルト系触媒を粉砕してコバルト系触媒の粒子を生成するステップと、前記粒子をふるい分けするステップと、0.3mm~0.5mmの直径を有するコバルト系触媒の前記粒子を捕集するステップと、をさらに含む。特定の態様では、コバルト系触媒は、15重量%~70重量%のコバルト、5重量%~45重量%のセリウム、ならびに0.4重量%~0.5重量%のバリウムを含み、コバルト系触媒の残りの重量は酸素である。
【0010】
第3の態様では、コバルト系触媒組成物が提供される。コバルト系触媒組成物は、15重量%~70重量%のコバルト、5重量%~45重量%のセリウム、ならびに0.4重量%~0.5重量%のバリウムを含み、コバルト系触媒の残りの重量は酸素である。
【0011】
特定の態様では、コバルト系触媒組成物は、酸化コバルトを含む。特定の態様では、コバルト系触媒組成物は、酸化セリウムを含む。特定の態様では、コバルトは活性金属である。特定の態様では、セリウムは、支持体および促進剤として作用するように使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本発明の範囲のこれらおよび他の特徴、態様、および利点は、以下の説明、特許請求の範囲、および添付の図面に関してより良く理解されるであろう。しかしながら、図面はいくつかの実施形態のみを示しており、したがって、他の等しく有効な実施形態を認めることができるので、本発明の範囲を限定するものと見なされるべきではないことに留意されたい。
【0013】
【
図1】コバルト含有触媒の粒子のTEM画像である。
【0014】
【0015】
【
図3】市販の3%Ru-10%K/CaO触媒と、0.5%Ba/80%Co-20%Ceのコバルト系触媒とを、1バールおよび40バールで比較したグラフである。
【0016】
【
図4】コバルト含有触媒における促進剤(Ca、Al、Ce)の効果を示すグラフである。
【0017】
【
図5】第1のCo/Ce比の効果を示すグラフである。
【0018】
【
図6】コバルト含有触媒における第2の促進剤(Ba、Cs、K、Na)の効果を示すグラフである。
【0019】
【
図7】コバルト含有触媒中のバリウムの量の効果を示すグラフである。
【0020】
【
図8】80%Co-20%Ceに対するバリウムの効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の範囲はいくつかの実施形態で説明されるが、当業者は本明細書で説明される装置および方法に対する多くの例、変形、および変更が本発明の範囲内にあることを理解するであろう。したがって、説明された実施形態は、一般性を失うことなく、また、その実施形態に制限を課すことなく明記されている。当業者は、この範囲が本明細書に記載された特定の特徴の全ての可能な組み合わせおよび使用を含むことを理解する。
【0022】
本明細書には、アンモニアを分解して窒素および水素を生成する際に使用するための触媒配合物に関する組成物および方法が記載されている。触媒配合物はコバルト系触媒である。有利には、コバルト系触媒は、アンモニアからのオンデマンド水素製造のために使用することができる。有利には、コバルト系触媒は安定であり、長期間にわたって不活性化が観察されることなく、一貫した触媒性能を示す。
【0023】
全体を通して使用されるように、「存在しない(in the absence)」は、その組成物または方法を包含しない、含まない、持たないことを意味する。
【0024】
全体を通して使用されるように、「促進剤(promoter)」は、触媒反応における触媒の性能を改善する触媒中の構成要素を意味するが、単独では触媒作用をほとんどまたは全く有さない。促進剤は、触媒の構造的および物理的特性に影響を及ぼすことができる。促進剤は、触媒の活性成分と相互作用し、触媒される物質に対する活性成分の化学的効果を変化させることができる。
【0025】
コバルト系触媒は、コバルト成分、セリウム成分、およびバリウム成分を含むことができる。コバルト系触媒は複合酸化物である。コバルト系触媒の触媒活性は、活性金属成分の分散に関連する活性金属部位に依存する。
【0026】
コバルト成分は、コバルト系触媒の活性金属成分である。アンモニア分解反応は、コバルト成分上で起こる。コバルト成分は、コバルト金属またはCo
3
O
4
の形態で酸化コバルトとして存在することができる。コバルト系触媒中に存在するコバルトの量は、約15重量%~70重量%、あるいは25重量%~70重量%、あるいは30重量%~70重量%、あるいは35重量%~70重量%、あるいは40重量%~70重量%の範囲とすることができる。コバルト金属の量は、コバルト成分がコバルト金属として存在するか酸化コバルトとして存在するかにかかわらず同じである。コバルト成分の粒径は、20ナノメートル(nm)~30nmの範囲であり得る。
【0027】
セリウム成分は、促進剤および支持体の二重の目的を果たすことができる。セリウム成分はコバルト系触媒中で、コバルトの凝集を妨げてコバルト粒子の分散を増加させる。コバルトの分散度は約5%であり得る。セリウム成分は高度に分散させることができ、これにより、コバルト粒子のサイズを小さくすることができる。セリウムの分散は、コバルト成分の粒子間および粒子上のセリウムの凝集体を示した、
図1および
図2の透過型電子顕微鏡(TEM)画像で観察することができる。
図2は、コバルト成分粒子上のセリウムの単一原子を示す。セリウム成分は、CeO
2の形態の酸化セリウムを含み得る。コバルト系触媒中に存在するセリウムの量は、5重量%~45重量%、あるいは7重量%~42重量%の範囲であり得る。
【0028】
バリウム成分は、促進剤として働くことができる。セリウム成分は、バリウム成分の取り込みを可能にする。バリウム成分の添加により、バリウムを含まない触媒と比較して、さらなるコバルトの分散が可能になり、コバルト系触媒の触媒挙動が増加する。バリウム成分は、触媒性能を向上させることができる。より低い温度においては、バリウム成分を含有することによりアンモニアの転化率を増加させることができる。バリウム成分はバリウムを含み得る。コバルト系触媒中に存在するバリウムの量は、0.4重量%~0.5重量%の範囲であり得る。触媒中のバリウムの量が1重量%を超えると、アンモニア分解反応の活性が劇的に低下する。触媒中のバリウムの量が約9重量%を超えると、バリウムはコバルトの触媒特性を破壊し、アンモニア分解反応が起こるのを妨げ得る。
【0029】
コバルト系触媒は、50~95の範囲のコバルト対セリウムのモル比を有し得る。少なくとも1つの実施形態では、コバルト系触媒は、63/67のコバルト対セリウム質量比を有し、0.5重量%のバリウムと残りの酸素とを含有する。少なくとも1つの実施形態では、コバルト系触媒は、41.4重量%のコバルト、23.5重量%のセリウム、0.5重量%のバリウム、および残りの酸素を含有する。少なくとも1つの実施形態では、コバルト系触媒は、67/37のコバルト対セリウム質量比を有し、0.5重量%のバリウムと残りの酸素とを含有する。
【0030】
コバルト系触媒は、共沈法と含浸法との組み合わせによって調製することができる。有利には、共沈を用いることにより、コバルト充填量が増加し、最終触媒の物理的及び構造的パラメータが改善されて、最終触媒の活性が改善される。
【0031】
共沈段階では、共沈によりコバルトとセリウムの炭酸塩を得た。第一段階では、硝酸コバルト六水和物(Co(NO3)・6H2O)と硝酸セリウム六水和物(Ce(NO3)・6H2O)を蒸留水に溶解し、加温して塩分含有溶液を生成する。硝酸コバルト六水和物の量は、水の量、最終触媒の所望の組成、およびコバルト対セリウムの所望の比率に基づいて選択することができる。硝酸セリウム六水和物の量は、水の量、コバルト系触媒の所望の組成、およびコバルト対セリウムの所望の比率に基づいて選択することができる。次いで、炭酸ナトリウム(Na2CO3)溶液を塩分含有溶液にゆっくりと添加する。添加する炭酸ナトリウムの量は、コバルトとセリウムの炭酸塩が沈殿するように、硝酸コバルト六水和物および硝酸セリウム六水和物の量よりも多い。ナトリウムは触媒中に取り込まれない。コバルトとセリウムの炭酸塩は溶液から沈殿する。得られた炭酸コバルトおよび炭酸セリウムを、約0.4バールの減圧下で濾過し、洗浄水のpHが7になるまで蒸留水で洗浄することができる。蒸留水による洗浄は、炭酸ナトリウムの除去を確実にすることができる。乾燥ステップでは、洗浄した沈殿物を100℃の温度で少なくとも8時間乾燥させ、乾燥沈殿物を生成させる。焼成ステップでは、次に乾燥沈殿物を550℃の温度で約3時間焼成する。炭酸塩は焼成ステップの際に燃焼されて複合酸化物Co3O4 /CeO2を含む黒色粉末を生成する。含浸段階では、黒色粉末に硝酸バリウム(Ba(NO3)2)の水溶液を含浸させて前駆物質を生成する。硝酸バリウムの量は、所望の量のバリウムを得られるよう選択することができる。乾燥ステップでは、前駆物質を120℃の温度で少なくとも8時間乾燥させ、乾燥前駆物質を生成する。焼成ステップでは、乾燥前駆物質を約550℃の温度で約3時間焼成し、コバルト系触媒を生成する。コバルト系触媒は、粉砕され、ふるい分けされ得る。コバルト系触媒は、0.3mm~0.5mmのサイズであり得る。
【0032】
アンモニア分解反応に使用する前に、コバルト系触媒は還元ステップで還元され得る。コバルト系触媒の温度は、大気圧で約3時間水素ガスを流しながら、毎分2℃の速度で約500℃の温度まで上昇させることができる。水素の流量は、毎分約25ミリリットルとすることができる。還元ステップは、コバルト系触媒中に活性金属部位を生成することができる。還元ステップは、コバルト系触媒を含む反応器中で行うことができる。
【0033】
コバルト系触媒は、式1に従って起こるアンモニア分解反応を触媒するために使用することができる。
[式1]
【0034】
【0035】
コバルト系触媒は、反応1におけるアンモニアの選択的分解に使用することができる。
【0036】
アンモニア分解反応は、平衡制御反応である。コバルト系触媒は、反応器に充填することができる。反応器は、触媒を含有し、アンモニア分解反応の操作条件を維持することができる任意のタイプの容器であり得る。反応器の例には、固定反応器および流動床反応器が含まれる。アンモニアを含有するアンモニア流は、コバルト系触媒を含有する反応器に導入することができる。アンモニア分解反応は、コバルト系触媒上で起こるように触媒され得る。アンモニア分解反応は、水素及び窒素を生成することができる。ガスは、生成物流として反応器から除去され得る。生成物流は、窒素、水素、アンモニア、およびそれらの組み合わせを含み得る。
【0037】
コバルト系触媒に対するアンモニアの転化率は、95%を超える場合もあれば、97%を超える場合もあり、99%を超える場合もある。少なくとも1つの実施形態において、転化率は100%であり得る。少なくとも1つの実施形態では、転化率が100%である場合、生成物流はアンモニアの非存在下であり得る。アンモニア分解反応は、約250℃~700℃、あるいは250℃~550℃、あるいは350℃~550℃の温度で起こり得る。アンモニア分解反応は、1バール~40バール、あるいは1バール~30バール、あるいは1バール~20バール、あるいは1バール~10バールの圧力で起こり得る。
【0038】
コバルト系触媒には貴金属が存在しない。コバルト系触媒には、マンガン、ニッケル、銅、鉄、ルテニウム、パラジウム、白金、マグネシウム、ストロンチウム、イットリウム、ランタン、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、およびエルビウムが存在しない。コバルト系触媒には、ペロブスカイト構造が存在しない。
【0039】
実施例
【0040】
実施例1。コバルト系触媒は、共沈法および含浸法により調製した。
【0041】
共沈段階では、共沈によりコバルトとセリウムの炭酸塩を得た。沈殿剤として炭酸ナトリウムを使用した。1.82グラム(g)~3.46gのCo(NO3)2・6H2Oおよび0.27g~2.71gのCe(NO3)2・6H2O(SIGMA-ALDRICH(登録商標)、ミズーリ州セントルイス)を蒸留水に溶かし、加温して、それぞれの化合物、コバルトおよびセリウムは0.0125モルに達した。次に、2.65gのNa2CO3(SIGMA-ALDRICH(登録商標)、ミズーリ州セントルイス)の温かい水溶液を、1分間ゆっくりと加えた。得られた炭酸コバルトおよび炭酸セリウムを含有する共沈物を約0.4バールの減圧下で濾過し、回収した洗浄水のpHが7になるまで冷蒸留水で数回洗浄した。
【0042】
洗浄沈殿物を100℃で一晩乾燥させ、550℃で3時間焼成して、酸化コバルトまたはCo
3
O
4
/CeO2複合酸化物の黒色粉末を生成した。
【0043】
次いで、黒色粉末を、硝酸バリウムの水溶液(SIGMA-ALDRICH(登録商標)、ミズーリ州セントルイス)を用いて含浸させ、前駆物質中の公称濃度0.5重量%を達成した。
【0044】
次いで、得られた前駆物質を120℃で一晩乾燥させ、次いで、550℃で3時間焼成して、コバルト系触媒を生成した。
【0045】
コバルト系触媒を粉砕し、ふるい分けして、0.3~0.5mmの粒子のコバルト系触媒粒子を得た。
【0046】
コバルト系触媒の構造および化学分析を行い、続いて触媒性能の評価を行った。構造パラメータの決定は、N
2およびCO化学吸着、X線回析、XPS、およびHR-TEMによって行った。
図1および
図2に示す高解像度TEM画像は、コバルトおよびセリウムがナノ粒子サイズであり、十分に分散していることを示す。
図1は、還元ステップ後の、63%のCo、37%のCeを含有するコバルト系触媒のTEM画像を示す。
図2は、還元ステップ後の、0.5%のBa、63%のCo、37%のCeを含有するコバルト系触媒のTEM画像を示す。
図2はまた、バリウムが十分に分散していることを示す。ICPを用いて化学組成を得た。
【0047】
実施例2。コバルト系触媒は、0.5%Ba/80%Co-20%Ceを含有する請求項1の方法に従って調製した。コバルト系触媒の触媒性能を、250℃~550℃の温度で、1バール、20バール、および40バールの3つの異なる圧力で、固定床反応器(PIDテクノロジー)中で試験した。比較のために、3%Ru-10%K/CaOの市販の触媒の触媒性能を、同じ方法を用いて試験した。結果は
図3で見ることができる。最良の触媒性能は、1バールで、500℃を超える温度で達成される。
【0048】
実施例3。実施例3は、市販のルテニウム系触媒と比較して、特定の促進剤の有効性を示すための、種々のコバルト含有触媒の試験であった。実施例1に記載の共沈法に従って触媒を調製し、ここで硝酸セリウム六水和物を、アルミニウムおよびカルシウムなどの他の促進剤金属の塩で置き換えた。
図4は、アルミニウム、カルシウム、およびセリウムを含む促進剤を有するコバルト含有触媒と、コバルト触媒および市販のルテニウム系触媒との比較を示す。結果は、セリウム促進剤を有するコバルト含有触媒が最良の触媒性能を有することを示す。
図5は、コバルト中の異なるセリウム量における結果を示す。結果は、80%Co-20%Ce、90%Co-10%Ce、および95%Co-5%Ceを含有する触媒が同様に機能し、70%Co-30%Ceおよび50%Co-50%Ceを含有する触媒よりも良好な触媒性能を有したことを示す。
図6は、コバルト含有触媒とセリウム、およびバリウム、セシウム、カリウム、およびナトリウムを含む他の促進剤との比較を示す。結果は、追加の促進剤としてバリウムを含有する触媒で最も高い触媒性能を示す。
図7は、セリウムを有するコバルト含有触媒中の異なるバリウム量の比較である。結果は、コバルト系触媒が最良の触媒性能を有することを示す。
図4~7の各図において、500℃を超える温度で最良の触媒性能が観察された。
図8は、80%Coおよび20%セリウムを有するコバルト含有触媒に対する、バリウムの有無における触媒性能の結果を示す。
【0049】
本発明の実施形態を詳細に説明してきたが、この実施形態の原理および範囲から逸脱することなく、様々な変更、置換、および改変をここで行うことができることを理解されたい。したがって、この範囲は、以下の特許請求の範囲およびそれらの適切な法的等価物によって決定されるべきである。
【0050】
記載されている様々な要素は特に断りのない限り、本明細書に記載されている他のすべての要素と組み合わせて使用することができる。
【0051】
単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明らかにそうではないと指示しない限り、複数の指示対象を含む。
【0052】
任意の、または、任意に、とは、後に記述される事象または状況が発生する可能性がある、あるいは発生しない可能性もあることを意味する。説明は、その事象または状況が発生する場合と発生しない場合とを含む。
【0053】
範囲はここでは約1つの特定の値から、および/または約別の特定の値までとして表すことができる。そのような範囲を表す場合、別の実施形態は1つの特定の値から、および/または他の特定の値まで、ならびに前記範囲内のすべての組合せであることを理解されたい。
【0054】
特許または刊行物が参照される本出願全体を通して、これらの参照文献の開示は、これらの参照文献が本明細書でなされる記述と矛盾する場合を除いて、実施形態が関係する最新技術をより十分に説明するために、それらの全体が参照によって本出願に組み込まれることが意図される。
【0055】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用されるように、単語「備える(comprise)」、「有する(has)」、および「含む(include)」およびその文法的変形はそれぞれ、追加の要素またはステップを排除しない、オープンで非限定的な意味を有することが意図される。
【0056】
本明細書で使用される「第1の(first)」および「第2の(second)」などの用語は、任意に割り当てられ、装置の2つ以上の構成要素を区別することのみを意図している。「第1の」および「第2の」という用語が他の意味を持たず、構成要素の名称または説明の一部ではなく、構成要素の相対的な場所または位置を必ずしも定義しないことを理解されたい。さらに、「第1の」および「第2の」という用語の単なる使用は「第3の(third)」構成要素が存在することを必要としないが、その可能性は本実施形態の範囲内で考えられることを理解されたい。