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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】新規キメラ抗原受容体とその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20240329BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20240329BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20240329BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240329BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240329BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240329BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240329BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240329BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20240329BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240329BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240329BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240329BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240329BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20240329BHJP
   C12N 15/861 20060101ALI20240329BHJP
   C12N 15/863 20060101ALI20240329BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20240329BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
C12N15/13
A61K31/7088
A61K35/12
A61K35/76
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61K48/00
A61P35/00
A61P35/02
C07K16/28
C07K19/00
C12N5/10
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/86 Z
C12N15/861 Z
C12N15/863 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/867 Z
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022549898
(86)(22)【出願日】2021-02-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-05
(86)【国際出願番号】 CN2021077580
(87)【国際公開番号】W WO2021169977
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】202010128134.7
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】523087364
【氏名又は名称】バイオヘン セラピューティクス リミテッド
【氏名又は名称原語表記】BIOHENG THERAPEUTICS LIMITED
【住所又は居所原語表記】Suite #4-210, Governors Square, 23 Lime Tree Bay Avenue, PO Box 32311, Grand Cayman KY1-1209 (KY)
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】周亜麗
(72)【発明者】
【氏名】呉長順
(72)【発明者】
【氏名】姜小燕
(72)【発明者】
【氏名】陳功
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110615843(CN,A)
【文献】特表2019-516350(JP,A)
【文献】特表2018-532407(JP,A)
【文献】特表2014-507118(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
A61K
A61P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キメラ抗原受容体であって、
抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激ドメイン、細胞内シグナル伝達ドメイン、及びγc鎖の細胞内ドメインから構成され、
前記共刺激ドメインと前記細胞内シグナル伝達ドメインは、互いに異なる種類のドメインであり、
前記γc鎖の細胞内ドメインは、前記共刺激ドメインと異なる種類のドメインであり、かつ、前記細胞内シグナル伝達ドメインと異なる種類のドメインであり、
前記キメラ抗原受容体は、IL2Ra、IL2Rb、IL4Ra、IL7Ra、IL9Ra、IL15Ra、IL21Raの細胞内ドメインを含まず、
細胞膜に近い方から、前記共刺激ドメイン、前記細胞内シグナル伝達ドメイン、及び前記γc鎖の細胞内ドメインの順に配置されている
キメラ抗原受容体。
【請求項2】
前記γc鎖の細胞内ドメインのアミノ酸配列が配列番号16に示される、請求項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項3】
前記抗原結合ドメインは、sdAb、ナノボディ、抗原結合リガンド、組換えフィブロネクチンドメイン、anticalin、及びDARPINから選択される、請求項1に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項4】
前記抗原結合ドメインは、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、組換え抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、マウス抗体及びキメラ抗体から選択される、請求項1に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項5】
前記抗原結合ドメインが結合する標的は、TSHR、CD19、CD123、CD22、BAFF-R、CD30、CD171、CS-1、CLL-1、CD33、EGFRvIII、GD2、GD3、BCMA、GPRC5D、Tn-Ag、PSMA、ROR1、FLT3、FAP、TAG72、CD38、CD44v6、CEA、EPCAM、B7H3、KIT、IL-13Ra2、メソテリン、IL-llRa、PSCA、PRSS21、VEGFR2、LewisY、CD24、PDGFR-β、SSEA-4、CD20、Folate受容体α、ERBB2(Her2/neu)、MUC1、EGFR、NCAM、Claudin18.2、Prostase、PAP、ELF2M、Ephrin B2、IGF-I受容体、CAIX、LMP2、gploo、bcr-abl、チロシナーゼ、EphA2、Fucosyl GMl、sLe、GM3、TGS5、HMWMAA、o-アセチル-GD2、Folate受容体β、TEM1/CD248、TEM7R、CLDN6、GPRC5D、CXORF61、CD97、CD179a、ALK、ポリシアル酸、PLAC1、GloboH、NY-BR-1、UPK2、HAVCR1、ADRB3、PANX3、GPR20、LY6K、OR51E2、TARP、WT1、NY-ESO-1、LAGE-la、MAGE-A1、レグマイン、HPV E6、HPV E7、ETV6-AML、精子タンパク質17、XAGE1、Tie 2、MAD-CT-1、MAD-CT-2、Fos関連抗原1、p53、p53変異体、前立腺特異的タンパク質、サバイビンテロメラーゼ、PCTA-l/Galectin 8、MelanA/MARTl、Ras変異体、hTERT、肉腫転座ブレークポイント、ML-IAP、ERG(TMPRSS2 ETS融合遺伝子)、NA17、PAX3、アンドロゲン受容体、Cyclin Bl、MYCN、RhoC、TRP-2、CYP1B1、BORIS、SART3、PAX5、OY-TES-1、LCK、AKAP-4、SSX2、RAGE-1、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2、腸のカルボキシルエステラーゼ、mut hsp70-2、CD79a、CD79b、CD72、LAIR1、FCAR、LILRA2、CD300LF、CLEC12A、BST2、EMR2、LY75、GPC3、FCRL5、IGLL1、PD1、PDL1、PDL2、TGFβ、APRIL、NKG2D、及びそれらの任意の組み合わせから選択される、請求項1又は2に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項6】
前記膜貫通ドメインは、TCRα鎖、TCRβ鎖、TCRγ鎖、TCRδ鎖、CD3ζサブユニット、CD3εサブユニット、CD3γサブユニット、CD3δサブユニット、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD28、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、及びCD154のタンパク質の膜貫通ドメインから選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項7】
前記細胞内シグナル伝達ドメインは、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζ、CD22、CD79a、CD79b、及びCD66dのタンパク質のシグナル伝達ドメインから選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項8】
前記キメラ抗原受容体は、1つ又は複数の共刺激ドメインを含み、
前記共刺激ドメインは、TLR1、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、TLR9、TLR10、CARD11、CD2、CD7、CD8、CD18(LFA-1)、CD27、CD28、CD30、CD40、CD54(ICAM)、CD83、CD134(OX40)、CD137(4-1BB)、CD150(SLAMF1)、CD152(CTLA4)、CD223(LAG3)、CD270(HVEM)、CD272(BTLA)、CD273(PD-L2)、CD274(PD-L1)、CD276(B7-H3)、CD278(ICOS)、CD357(GITR)、DAP10、LAT、NKG2C、SLP76、LIGHT、TRIM、及びZAP70のタンパク質の共刺激シグナル伝達ドメインから選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体をコードする核酸。
【請求項10】
請求項9に記載の核酸を含むベクター。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体、請求項9に記載の核酸、又は請求項10に記載のベクターを含む免疫細胞。
【請求項12】
前記ベクターは、線状核酸分子、プラスミド、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、ポリオーマウイルス、及びアデノ随伴ウイルス(AAV)、ファージ、コスミド又は人工染色体である、請求項11に記載の免疫細胞。
【請求項13】
前記免疫細胞は、T細胞、マクロファージ、樹状細胞、単球、NK細胞又はNKT細胞から選択される、請求項11又は12に記載の免疫細胞。
【請求項14】
前記免疫細胞は、CD4+/CD8+二重陽性T細胞、CD4+ヘルパーT細胞、CD8+T細胞、腫瘍浸潤細胞、メモリーT細胞、ナイーブT細胞、γδ-T細胞及びαβ-T細胞の、T細胞から選択される、請求項13に記載の免疫細胞。
【請求項15】
前記免疫細胞は、さらに、CD52、GR、TCRα、TCRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD247ζ、HLA-I、HLA-II、PD1及びCTLA-4のいずれかの免疫チェックポイント遺伝子の、不活化遺伝子から選択される少なくとも1つを含む、請求項11に記載の免疫細胞。
【請求項16】
請求項1~8のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体、請求項9に記載の核酸、請求項10に記載のベクター又は請求項11~15のいずれか一項に記載の免疫細胞と、1つ又は複数の薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項17】
前記医薬組成物は、芽細胞腫、肉腫、白血病、基底細胞がん、胆道がん、膀胱がん、骨肉腫、脳がんCNSがん、乳がん、腹膜がん、子宮頸がん、絨毛がん、結腸癌直腸がん、結合組織がん、胃腸がん、子宮内膜がん、食道がん、眼がん、頭頸部がん、胃がん、神経膠芽細胞腫(GBM)、肝臓がん、肝細胞腫瘍、上皮内腫瘍、腎臓がん、喉頭がん、白血病、肝臓腫瘍、肺がん、リンパ腫、メラノーマ、骨髄腫、神経芽細胞腫、口腔がん、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、直腸がん、呼吸器系のがん、唾液腺がん、皮膚がん、扁平細胞がん、胃がん、精巣がん、甲状腺がん、子宮又は子宮内膜がん、泌尿器系の悪性腫瘍、外陰がん及びその他のがんと肉腫、ならびにB細胞リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、エイズ関連リンパ腫Waldenstromマクログロブリン血症、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ性白血病(ALL)、B細胞急性リンパ性白血病(B-ALL)、T細胞急性リンパ性白血病(T-ALL)、B細胞前リンパ性白血病、形質細胞様樹状細胞腫、バーキットリンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、慢性骨髄性白血病(CML)、悪性リンパ増殖性疾患、MALTリンパ腫、有毛細胞白血病、辺縁帯リンパ腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成症、形質芽球性リンパ腫、前白血病、形質細胞様樹状細胞腫瘍、及び移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)から選択されるがんを治療するものである、請求項16に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞性免疫療法の分野に関し、特にサイトカイン受容体の共通γ鎖(γc鎖とも呼ばれる)又はその細胞内ドメインを含む新規キメラ抗原受容体及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、がん免疫療法技術は急速に発展し、特にキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)関連の免疫療法は、血液腫瘍の治療において優れた臨床効果をもたらす。CAR-T細胞免疫療法は、腫瘍抗原を認識できるように、in vitroでのT細胞の遺伝子改変が行われ、一定数に増殖させた後、患者の体内に戻してがん細胞を消滅させ、腫瘍治療の目的を達成する。
【0003】
現在、技術の進歩に伴い、4世代の異なるCAR構造が登場している。第1世代のCARの細胞内シグナル伝達ドメインには、CD3ζのような一次シグナル伝達ドメインしか含まれていないため、CARを含む細胞(例えばCAR-T細胞)の活性は悪く、体内の生存期間は短くなる。第2世代のCARには、CD28又は4-1BBのような共刺激ドメインが導入され、細胞を持続的に増殖させたので、抗腫瘍活性を高めた。第3世代のCARには、2つの共刺激ドメイン(例えば、CD28+4-1BB)が含まれる。第4世代のCARは、サイトカイン又は共刺激リガンドを組み込んでT細胞応答をさらに強化するか、自殺遺伝子を組み込んで、必要に応じてCAR-T細胞を自己破壊させる。現在、臨床研究では、主に第2世代のCAR構造が使用されている。
【0004】
しかしながら、CAR-T細胞療法の臨床使用には、例えば、血液腫瘍の治療で腫瘍の再発が多く、固形腫瘍の治療での奏効率は高くないなど、まだいくつかの問題がある。これらの問題は、複雑な腫瘍微小環境、CAR-T細胞の枯渇などの要因によって引き起こされる可能性がある。
【0005】
したがって、体内のCAR-T細胞の増殖を促進し、腫瘍微小環境の免疫抑制効果を低減し、腫瘍に対するCAR-T細胞療法の全体的な治療効果を改善するために、既存のCAR-T細胞療法を改良する必要である。
【発明の概要】
【0006】
第1の態様において、本発明は、抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激ドメイン、細胞内シグナル伝達ドメイン、及び追加のシグナル伝達ドメインを含む新規キメラ抗原受容体を提供する。前記追加のシグナル伝達ドメインは、γc鎖又はその細胞内ドメインから構成される。好ましい実施形態において、γc鎖のアミノ酸配列は配列番号14に示され、その細胞内ドメインのアミノ酸配列は配列番号16に示されている。
【0007】
一実施形態において、前記共刺激ドメイン、細胞内シグナル伝達ドメイン、及び追加のシグナル伝達ドメインは、細胞膜に近い順に配置されている。
【0008】
一実施形態において、前記抗原結合ドメインは、scFv、Fab、シグナルドメイン抗体、ナノボディ、抗原結合リガンド、組換えフィブロネクチンドメイン、アンチカリン、及びDARPINから選択される。好ましくは、前記抗原結合ドメインは、scFv、Fab、シグナルドメイン抗体、及びナノボディから選択される。
【0009】
一実施形態において、前記抗原結合ドメインは、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、組換え抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、マウス抗体及びキメラ抗体から選択される。
【0010】
一実施形態において、前記抗原結合ドメインが結合する標的は、TSHR、CD19、CD123、CD22、BAFF-R、CD30、CD171、CS-1、CLL-1、CD33、EGFRvIII、GD2、GD3、BCMA、GPRC5D、Tn Ag、PSMA、ROR1、FLT3、FAP、TAG72、CD38、CD44v6、CEA、EPCAM、B7H3、KIT、IL-13Ra2、メソテリン、IL-l lRa、PSCA、PRSS21、VEGFR2、LewisY、CD24、PDGFR-β、SSEA-4、CD20、Folate受容体α、ERBB2(Her2/neu)、MUC1、EGFR、NCAM、Claudin18.2、Prostase、PAP、ELF2M、Ephrin B2、IGF-I受容体、CAIX、LMP2、gploo、bcr-abl、チロシナーゼ、EphA2、Fucosyl GMl、sLe、GM3、TGS5、HMWMAA、o-アセチル-GD2、Folate受容体β、TEM1/CD248、TEM7R、CLDN6、GPRC5D、CXORF61、CD97、CD 179a、ALK、ポリシアル酸、PLAC1、GloboH、NY-BR-1、UPK2、HAVCR1、ADRB3、PANX3、GPR20、LY6K、OR51E2、TARP、WT1、NY-ESO-1、LAGE-la、MAGE-A1、レグマイン、HPV E6、E7、MAGE Al、ETV6-AML、精子タンパク質17、XAGE1、Tie 2、MAD-CT-1、MAD-CT-2、Fos関連抗原1、p53、p53変異体、前立腺特異的タンパク質、サバイビン及びテロメラーゼ、PCTA-l/Galectin 8、MelanA/MARTl、Ras変異体、hTERT、肉腫転座ブレークポイント、ML-IAP、ERG(TMPRSS2ETS融合遺伝子)、NA17、PAX3、アンドロゲン受容体、Cyclin Bl、MYCN、RhoC、TRP-2、CYP1B 1、BORIS、SART3、PAX5、OY-TES 1、LCK、AKAP-4、SSX2、RAGE-1、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2、腸のカルボキシルエステラーゼ、mut hsp70-2、CD79a、CD79b、CD72、LAIR1、FCAR、LILRA2、CD300LF、CLEC12A、BST2、EMR2、LY75、GPC3、FCRL5、IGLL1、PD1、PDL1、PDL2、TGFβ、APRIL、NKG2D、及びそれらの任意の組み合わせから選択される。好ましくは、前記標的は、CD19、CD20、CD22、BAFF-R、CD33、EGFRvIII、BCMA、GPRC5D、PSMA、ROR1、FAP、ERBB2(Her2/neu)、MUC1、EGFR、CAIX、WT1、NY-ESO-1、CD79a、CD79b、GPC3、Claudin18.2、NKG2D、及びそれらの任意の組み合わせから選択される。
【0011】
一実施形態において、前記膜貫通ドメインは、TCRα鎖、TCRβ鎖、TCRγ鎖、TCRδ鎖、CD3ζサブユニット、CD3εサブユニット、CD3γサブユニット、CD3δサブユニット、CD45、CD4、CD5、CD8α、CD9、CD16、CD22、CD33、CD28、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、及びCD154のタンパク質の膜貫通ドメインから選択される。好ましくは、膜貫通ドメインは、CD8α、CD4、CD28、及びCD278の膜貫通ドメインから選択される。
【0012】
一実施形態において、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζ、CD22、CD79a、CD79b、及びCD66dのタンパク質のシグナル伝達ドメインから選択される。好ましくは、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζを含むシグナル伝達ドメインである。
【0013】
一実施形態において、前記共刺激ドメインは、TLR1、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、TLR9、TLR10、CARD11、CD2、CD7、CD8、CD18(LFA-1)、CD27、CD28、CD30、CD40、CD54(ICAM)、CD83、CD134(OX40)、CD137(4-1BB)、CD270(HVEM)、CD272(BTLA)、CD276(B7-H3)、CD278(ICOS)、CD357(GITR)、DAP10、LAT、NKG2C、SLP76、PD-1、LIGHT、TRIM、及びZAP70の、タンパク質から選択される1つ又は複数の共刺激シグナル伝達ドメインである。好ましくは、前記共刺激ドメインは、CD27、CD28、CD134、CD137、又はCD278の共刺激シグナル伝達ドメインである。
【0014】
第2の態様において、本発明は、本発明のキメラ抗原受容体をコードする配列を含む核酸、前記核酸を含むベクター、及び前記核酸又はベクターを含む免疫細胞をさらに提供する。
【0015】
一実施形態において、本発明は、本発明のキメラ抗原受容体をコードする配列を含む核酸を提供する。好ましくは、前記核酸は、DNA又はRNAであり、より好ましくはmRNAである。
【0016】
一実施形態において、本発明は、上記の核酸を含むベクターを提供する。具体的には、前記ベクターは、線状核酸分子、プラスミド、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、ポリオーマウイルス及びアデノ随伴ウイルス(AAV)、ファージ、ファージミド、コスミド又は人工染色体から選択される。いくつかの実施形態において、該ベクターは、さらに、免疫細胞における自律複製のための起点、選択マーカー、制限酵素切断部位、プロモーター、ポリアデニル化テール(polyA)、3’UTR、5’UTR、エンハンサー、ターミネーター、インシュレーター、オペロン、選択マーカー、レポーター遺伝子、ターゲティング配列及び/又はタンパク質精製タグなどのエレメントも含む。特定の実施形態において、前記ベクターは、in vitroで転写されたベクターである。
【0017】
一実施形態において、本発明は、本発明のキメラ抗原受容体を発現することができる、本発明の核酸又はベクターを含む免疫細胞を提供する。特定の実施形態において、前記免疫細胞は、T細胞、マクロファージ、樹状細胞、単球、NK細胞又はNKT細胞から選択される。好ましくは、前記T細胞は、CD4+/CD8+二重陽性T細胞、CD4+ヘルパーT細胞、CD8+T細胞、腫瘍浸潤細胞、メモリーT細胞、ナイーブT細胞、γδ-T細胞又はαβ-T細胞である。
【0018】
第3の態様において、本発明は、上記で定義された本発明のキメラ抗原受容体、それをコードする核酸、ベクター又はそれらを含む免疫細胞と、1つ又は複数の薬学的に許容される賦形剤と、を含む医薬組成物を提供する。
【0019】
第4の態様において、本発明は、有効量の本発明によるキメラ抗原受容体、免疫細胞、又は医薬組成物を被験者に投与することを含む、がんに罹患している被験者を治療する方法を提供する。
【0020】
一実施形態において、前記がんは、芽細胞腫、肉腫、白血病、基底細胞がん、胆道がん、膀胱がん、骨肉腫、脳がん及びCNSがん、乳がん、腹膜がん、子宮頸がん、絨毛がん、結腸癌及び直腸がん、結合組織がん、胃腸がん、子宮内膜がん、食道がん、眼がん、頭頸部がん、胃がん、神経膠芽細胞腫(GBM)、肝臓がん、肝細胞腫瘍、上皮内腫瘍、腎臓がん、喉頭がん、白血病、肝臓腫瘍、肺がん、リンパ腫、メラノーマ、骨髄腫、神経芽細胞腫、口腔がん、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、直腸がん、呼吸器系のがん、唾液腺がん、皮膚がん、扁平細胞がん、胃がん、精巣がん、甲状腺がん、子宮又は子宮内膜がん、泌尿器系の悪性腫瘍、外陰がん及びその他のがんと肉腫、ならびにB細胞リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、エイズ関連リンパ腫、及びWaldenstromマクログロブリン血症、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ性白血病(ALL)、B細胞急性リンパ性白血病(B-ALL)、T細胞急性リンパ性白血病(T-ALL)、B細胞前リンパ性白血病、形質細胞様樹状細胞腫、バーキットリンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、慢性骨髄性白血病(CML)、悪性リンパ増殖性疾患、MALTリンパ腫、有毛細胞白血病、辺縁帯リンパ腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成症、形質芽球性リンパ腫、前白血病、形質細胞様樹状細胞腫瘍、及び移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)から選択される。好ましくは、本発明のキメラ抗原受容体、核酸、ベクター、免疫細胞又は医薬組成物で治療することができる疾患は、白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫、脳神経膠腫、膵臓がん、胃がんなどから選択される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、フローサイトメトリーによって決定されたCAR-T細胞のCAR発現レベルを示す。
図2図2は、標的細胞に対するCAR-T細胞の殺傷効果を示す。二元配置分散分析で分析を行い、T検定で統計分析を行う。*は、P値が0.05未満であり、有意水準に達していることを示す。
図3図3は、CAR-T細胞をそれぞれ標的細胞及び非標的細胞と共培養したIL-2(A)及びIFNγ(B)の放出レベルを示す。
図4図4は、受容されたマウスの時間経過に伴う腫瘍負荷量の変を示す。
図5図5は、21日目のマウス体内のCD3+(A)、CD8+(B)、及びCD4+(C)T細胞の増殖レベルを示す。
図6図6は、受容されたマウスの時間経過に伴う生存率の変化を示す。
図7図7は、標的細胞に対するCAR-T細胞の殺傷効果を示す。二元配置分散分析で分析を行い、T検定で統計分析を行う。*は、P値が0.05未満であり、有意水準に達していることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
特に断りがない限り、本明細書で使用されるすべての科学的用語及び技術的用語は、本発明が属する当業者が通常認識している意味を有する。
【0023】
キメラ抗原受容体
本明細書において、「キメラ抗原受容体」又は「CAR」は、抗原結合ドメイン(例えば、抗体の抗原結合部分)、膜貫通ドメイン、共刺激ドメイン、及び細胞内シグナル伝達ドメインを含む基本構造を有する人工的に構築されたハイブリッドポリペプチドを指す。CARは、モノクローナル抗体の抗原結合特性を利用して、T細胞及びその他の免疫細胞の特異性と反応性を、MHC非拘束的な方法で選択された標的に再方向付けする能力を有する。MHC非拘束性の抗原認識は、CARを発現しているT細胞に、抗原プロセッシングとは無関係に抗原を認識することで、腫瘍回避の主なメカニズムをバイパスする能力を与える。そのうえ、CARは、T細胞内で発現すると、有利には内因性T細胞受容体(TCR)のα鎖及びβ鎖と二量体化しない。本発明の新規キメラ抗原受容体は、抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインを含む基本構造を有するとともに、γc鎖又はその細胞内ドメインからなる追加的なシグナル伝達ドメインも含まれる。
【0024】
本明細書で使用される「抗原結合ドメイン」は、抗原に結合可能な任意の構造又はその機能的変異体を指す。抗原結合ドメインは、抗体構造であってもよく、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、組換え抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体及びその機能的フラグメントを含むが、これらに限定されない。例えば、抗原結合ドメインは、Fab、単鎖抗体(Single Chain Antibody Fragment、scFv)、シグナルドメイン抗体(Single Domain Antibody、sdAb)、ナノボディ(Nanobody、Nb)、抗原結合リガンド、組換えフィブロネクチンドメイン、anticalin、及びDARPINなどを含むが、これらに限定されない。好ましくは、Fab、scFv、sdAb、及びナノボディから選択されるものである。本発明において、抗原結合ドメインは、一価又は二価のものであってもよく、単特異性、二重特異性又は多重特異性の抗体であってもよい。他の実施形態において、抗原結合ドメインは、特定タンパク質の特異的結合ポリペプチド又は受容体構造であってもよい。前記特定タンパク質は、例えばPD1、PDL1、PDL2、TGFβ、APRIL、及びNKG2Dである。
【0025】
「Fab」は、免疫グロブリン分子がパパインで切断されてなる2つの同一のフラグメントのいずれかを指し、ジスルフィド結合しているインタクトな軽鎖及び重鎖のN末端部分からなり、重鎖のN末端部分は、重鎖可変領域とCH1を含む。インタクトなIgGと比較して、Fabは、Fcフラグメントを含まず、移動度と組織浸透性が高く、抗体のエフェクター機能を媒介することなく抗原に一価で結合できる。
【0026】
「単鎖抗体」又は「scFv」は、リンカーで繋がれた抗体重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)から構成される抗体である。リンカーの最適な長さ及び/又はアミノ酸組成を選択することが可能である。リンカーの長さは、scFvの可変領域の折りたたみ方と相互作用のし方に大きく影響し得る。実際、短いリンカーが用いられる場合(例えば、5-10アミノ酸の間)、鎖内の折り畳みが防ぐことができる。リンカーのサイズと構成の選択については、例えば、Hollingeret al.,1993Proc Natl Acad.Sci.U.S.A.90:6444-6448;米国特許出願公開第2005/0100543、2005/0175606、2007/0014794、並びにPCT出願公開WO2006/020258及びWO2007/024715を参照されたい。それらは、参照することによって本明細書に組み込まれる。
【0027】
「シグナルドメイン抗体」又は「sdAb」は、1つの重鎖可変領域(VHH)と2つの従来のCH2及びCH3領域のみを含む、天然で軽鎖を欠く抗体を指し、「重鎖抗体」とも呼ばれる。
【0028】
「ナノボディ」又は「Nb」は、元の重鎖抗体と同じの構造安定性及び抗原結合活性を有し、個別にクローン化され及び発現されたVHH構造を指し、標的抗原に結合可能なものとして知られている最小の単位である。
【0029】
「機能的バリアント」又は「機能的フラグメント」は、親のアミノ酸配列を実質的に含み、また親のアミノ酸配列と比較して少なくとも1つのアミノ酸修飾(即ち、置換、欠失又は挿入)を含む変異体を指し、変異体が親のアミノ酸配列の生物学的活性を保持していることを条件とする。一実施形態において、前記アミノ酸修飾は、好ましくは保存的修飾である。
【0030】
本明細書で使用される「保存的修飾」は、アミノ酸配列を含む抗体又は抗体フラグメントの結合特徴に顕著な影響を与えないか、または変更しないアミノ酸修飾を指す。これらの保存的修飾は、アミノ酸置換、追加、及び欠失を含む。修飾は、部位特異的変異誘発及びPCR媒介変異誘発などの当分野で公知の標準的な技術によって、本発明のキメラ抗原受容体に導入することができる。保存的アミノ酸置換は、アミノ酸残基を、類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置き換えるものである。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当分野で定義されている。アミノ酸残基のファミリーは、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、無荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β-分枝側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)及び芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有する。保存的修飾は、例えば、極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、及び/又は関与する残基の両親媒性の性質の類似性に基づいて選択することができる。
【0031】
したがって、「機能的バリアント」又は「機能的フラグメント」は、親のアミノ酸配列と少なくとも75%同一であり、好ましくは、少なくとも76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有し、親のアミノ酸の生物学的活性、例えば、結合活性を保持する。
【0032】
本明細書で使用される「配列同一性」は、2つの(ヌクレオチド又はアミノ酸)配列がアラインメントの同じ位置に同一の残基を有する程度を指し、通常、パーセンテージとして表される。好ましくは、同一性は、比較される配列の全長にわたって決定される。したがって、まったく同じである配列の2つのコピーは、100%同一性を有する。当業者は、配列の同一性の決定のため、例えばBlast(Altschulet al.(1997)Nucleic Acids Res.25:3389-3402)、Blast2(Altschulet al.(1990)J.Mol.Biol.215:403-410)、Smith-Waterman(Smithet al.(1981)J.Mol.Biol.147:195-197)、及びClustalWなどのいくつかのアルゴリズムを、標準的なパラメータを使用して利用可能であることを認識しているであろう。
【0033】
抗原結合ドメインは、特定の病患状態に関する標的細胞上の細胞表面マーカー、例えば、腫瘍特異的抗原又は腫瘍関連抗原を識別して選択され得る。したがって、一実施形態において、本発明の抗原結合ドメインは、TSHR、CD19、CD123、CD22、CD30、CD171、CS-1、CLL-1、CD33、EGFRvIII、GD2、GD3、BCMA、Tn Ag、PSMA、ROR1、FLT3、FAP、TAG72、CD38、CD44v6、CEA、EPCAM、B7H3、KIT、IL-13Ra2、メソテリン、IL-l lRa、PSCA、PRSS21、VEGFR2、LewisY、CD24、PDGFR-β、SSEA-4、CD20、Folate受容体α、ERBB2(Her2/neu)、MUC1、EGFR、NCAM、Prostase、PAP、ELF2M、Ephrin B2、IGF-I受容体、CAIX、LMP2、gp100、bcr-abl、チロシナーゼ、EphA2、Fucosyl GMl、sLe、GM3、TGS5、HMWMAA、o-アセチル-GD2、Folate受容体β、TEM1/CD248、TEM7R、CLDN6、GPRC5D、CXORF61、CD97、CD 179a、ALK、ポリシアル酸、PLAC1、GloboH、NY-BR-1、UPK2、HAVCR1、ADRB3、PANX3、GPR20、LY6K、OR51E2、TARP、WT1、NY-ESO-1、LAGE-la、MAGE-A1、レグマイン、HPV E6、E7、MAGE Al、ETV6-AML、精子タンパク質17、XAGE1、Tie 2、MAD-CT-1、MAD-CT-2、Fos関連抗原1、p53、p53変異体、前立腺特異的タンパク質、サバイビン及びテロメラーゼ、PCTA-l/Galectin 8、MelanA/MARTl、Ras変異体、hTERT、肉腫転座ブレークポイント、ML-IAP、ERG(TMPRSS2ETS融合遺伝子)、NA17、PAX3、アンドロゲン受容体、Cyclin Bl、MYCN、RhoC、TRP-2、CYP1B 1、BORIS、SART3、PAX5、OY-TES1、LCK、AKAP-4、SSX2、RAGE-1、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2、腸のカルボキシルエステラーゼ、mut hsp70-2、CD79a、CD79b、CD72、LAIR1、FCAR、LILRA2、CD300LF、CLEC12A、BST2、EMR2、LY75、GPC3、FCRL5、IGLL1、PD1、PDL1、PDL2、TGFβ、APRIL、NKG2D、及びそれらの任意の組み合わせから選択される1つまたは複数の標的に結合する。好ましくは、前記標的が、CD19、CD20、CD22、BAFF-R、CD33、EGFRvIII、BCMA、GPRC5D、PSMA、ROR1、FAP、ERBB2(Her2/neu)、MUC1、EGFR、CAIX、WT1、NY-ESO-1、CD79a、CD79b、GPC3、Claudin18.2、NKG2D及びそれらの任意の組み合わせから選択される。本発明のCARは、標的とされる抗原に応じて、その抗原に対する特異的な抗原結合ドメインを含むように設計することができる。例えば、CD19が標的となる抗原である場合、CD19抗体を本発明の抗原結合ドメインとして使用することができる。
【0034】
本明細書で使用される「膜貫通ドメイン」は、免疫細胞(例えば、リンパ球、NK細胞、又はNKT細胞)の表面でキメラ抗原受容体を発現可能にし、標的細胞に対する免疫細胞の細胞応答を導くポリペプチド構造を指す。膜貫通ドメインは、天然又は合成で得られ、任意の膜結合タンパク質又は膜貫通タンパク質に由来し得る。膜貫通ドメインは、キメラ受容体ポリペプチドが標的抗原に結合するときにシグナル伝達することができる。とても適する本発明の膜貫通ドメインは、例えば、TCRα鎖、TCRβ鎖、TCRγ鎖、TCRδ鎖、CD3ζサブユニット、CD3εサブユニット、CD3γサブユニット、CD3δサブユニット、CD45、CD4、CD5、CD8α、CD9、CD16、CD22、CD33、CD28、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154とその機能的フラグメントに由来し得る。または、膜貫通ドメインは、合成で得られるものであり、ロイシン及びバリンなどの疎水性残基を主に含み得る。好ましくは、前記膜貫通ドメインが、ヒトCD8α鎖に由来し、配列番号4に示されるアミノ酸配列と、又は配列番号3に示されるヌクレオチド配列と少なくとも70%、好ましくは、少なくとも80%、より好ましくは、少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有する。
【0035】
一実施形態において、本発明のキメラ抗原受容体は、さらに、抗原結合ドメインと膜貫通ドメインとの間のヒンジ領域を含み得る。本明細書で使用される「ヒンジ領域」は、膜貫通ドメインを抗原結合ドメインに連結するように機能する任意のオリゴペプチド又はポリペプチドを指す。具体的には、ヒンジ領域は、抗原結合ドメインへより大きな柔軟性とアクセス性を提供するためのものである。ヒンジ領域は、最大300アミノ酸を含み得る。好ましくは、10~100アミノ酸を含み、最も好ましくは、25~50アミノ酸を含む。ヒンジ領域は、全体又は一部が天然分子に由来し得、例えば、全体又は一部がCD8、CD4、又はCD28の細胞外領域に由来し、又は全体又は一部が抗体定常領域に由来し得る。または、ヒンジ領域は、天然に存在するヒンジ配列に対応する合成配列であるか、又は完全に合成されたヒンジ配列であってもよい。好ましい実施形態において、ヒンジ領域は、CD8α鎖、FcγRIIIα受容体、IgG4、又はIgG1のヒンジ領域部分を含む。より好ましくは、CD8αヒンジであり、それは、配列番号12に示されるアミノ酸配列、又は配列番号11に示されるヌクレオチド配列と少なくとも70%、好ましくは、少なくとも80%、より好ましくは、少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有する。
【0036】
本明細書において、「細胞内シグナル伝達ドメイン」という用語は、エフェクター機能シグナルを伝達し、細胞に特定な機能を実行するように指示する、タンパク質の部分を指す。細胞内シグナル伝達ドメインは、抗原結合ドメインでの抗原結合後の細胞内の一次シグナル伝達に関与することで、免疫細胞の活性化と免疫応答をもたらす。言い換えれば、細胞内シグナル伝達ドメインは、CARを発現している免疫細胞の正常なエフェクター機能の少なくとも1つを活性化する役割を果たす。例えば、T細胞のエフェクター機能は、サイトカインの分泌を含む細胞溶解活性又はヘルパー活性であり得る。
【0037】
一実施形態において、本発明のキメラ抗原受容体に含まれる細胞内シグナル伝達ドメインは、T細胞受容体及び補助受容体の細胞質配列であり得る。それらは、抗原受容体結合に一緒に作用して、一次シグナル伝達、ならびにこれらの配列の任意の誘導体又は変異体、及び同じ又は類似の機能的を有する任意の合成配列を開始する。細胞内シグナル伝達ドメインは、多数の免疫受容体チロシン活性化モチーフ(Immunoreceptor Tyrosine-based Activation Motifs,ITAM)を含み得る。本発明の細胞内シグナル伝達ドメインの非限定的な例には、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζ、CD22、CD79a、CD79b、及びCD66dに由来するものが含まれるが、これらに限定されない。好ましい実施形態において、本発明のCARのシグナル伝達ドメインは、CD3ζシグナル伝達ドメインを含む。このシグナル伝達ドメインは、配列番号8に示されるアミノ酸配列又は配列番号7に示されるヌクレオチド配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%又は99%又は100%の配列同一性を有する。
【0038】
一実施形態において、本発明のキメラ抗原受容体は、1つ又は複数の共刺激ドメインを含む。共刺激ドメインは、共刺激分子の細胞内部分全体を含む共刺激分子からの細胞内機能的シグナル伝達ドメイン、又はその機能的フラグメントであり得る。「共刺激分子」は、T細胞上の共刺激リガンドに特異的に結合し、それによってT細胞の共刺激応答(例えば、増殖)を媒介する同族の結合パートナーを指す。共刺激分子には、MHCクラス1分子、BTLA、及びTollリガンド受容体が含まれるが、これらに限定されない。本発明の共刺激ドメインの非限定的な例には、TLR1、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、TLR9、TLR10、CARD11、CD2、CD7、CD8、CD18(LFA-1)、CD27、CD28、CD30、CD40、CD54(ICAM)、CD83、CD134(OX40)、CD137(4-1BB)、CD270(HVEM)、CD272(BTLA)、CD276(B7-H3)、CD278(ICOS)、CD357(GITR)、DAP10、LAT、NKG2C、SLP76、PD-1、LIGHT、TRIM、及びZAP70のタンパク質に由来する共刺激シグナル伝達ドメインが含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、本発明CARの共刺激ドメインは、4-1BB及び/又はCD28フラグメントであり、より好ましくは、配列番号6に示されるアミノ酸配列又は配列番号5に示されるヌクレオチド配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%又は99%又は100%の配列同一性を有する。
【0039】
一態様において、シグナル伝達に使用される共刺激ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインに加えて、本発明のキメラ抗原受容体は、γc鎖又はその細胞内ドメイン組成物から構成される少なくとも1つの追加のシグナル伝達ドメインを含む。つまり、本発明のキメラ抗原受容体の細胞内ドメイン(即ち、シグナル伝達のための構造)は、共刺激ドメイン、細胞内シグナル伝達ドメイン、及びγc鎖又はその細胞内ドメインの3つのシグナル伝達ドメインから構成される。これは、本発明のキメラ抗原受容体が、例えば、IL-2Ra、IL2Ra、IL2Rb、IL4Ra、IL7Ra、IL9Ra、IL15Ra、IL21Raなどの細胞内ドメインのような他のサイトカインのシグナル伝達ドメインである第4のシグナル伝達構造を含まないことを意味する。
【0040】
本明細書において、「γc鎖」という用語は、サイトカインIL-2、IL-4、IL-7、IL-9、IL-15、IL-21の受容体によって共有されるγ鎖を指す。γc鎖は、最初にIL-2受容体で同定され、その後、IL-4、IL-7、IL-9、IL-15、IL-21などの受容体の組成に関与していることがわかり、したがって、共通γ鎖とも呼ばれる。例えば、IL-2受容体は、3つの形態を有し、α鎖(IL-2Rαとも称する)、β鎖(IL-2Rβとも称する)、及びγc鎖(IL-2Rγ又はIL-2Rgとも称する)のさまざまな組み合わせからなる。3つの鎖すべてを含むIL-2受容体は、他の組み合わせに比べて、IL-2サイトカインに対して最も高い親和性を示す。IL-2受容体の3つの鎖は、細胞膜に固定されており、IL-2との結合により生化学的シグナルを細胞に伝達させる。これらのγ鎖依存性サイトカインのうち、サイトカイン受容体特異的成分、例えばIL-2Rβ、IL-4Rα、IL-7Rα、IL-9Rα、IL-21RなどはJAK1への結合に関与し、γc鎖がJAK3に結する。これらのサイトカイン受容体がサイトカインに結合すると、MAPキナーゼ、PI3キナーゼ、JAK-STAT経路などの3つの主要なシグナル伝達経路が活性化され、さらに、T細胞とNK細胞の生存と増殖が制御される。
【0041】
γc鎖は、分子量64kDの糖タンパク質であり、232個のアミノ酸の細胞外ドメイン、29個のアミノ酸の膜貫通ドメイン、86個のアミノ酸の細胞内ドメインを含む347個のアミノ酸で構成されている。細胞内ドメインにはSrc相同性領域が含まれており、これは、細胞増殖と、IL-2によって媒介されるc-myc、c-fos、c-junなどの遺伝子の発現を促進するために不可欠である。一実施形態において、本発明に利用されるγc鎖は、配列番号14に示されるアミノ酸配列又は配列番号13に示されるヌクレオチド配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%又は99%又は100%の配列同一性を有する。一実施形態において、本発明に利用されるγc鎖細胞内ドメインは、配列番号16に示されるアミノ酸配列又は配列番号15に示されるヌクレオチド配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%又は99%又は100%の配列同一性を有する。好ましくは、本発明のγc鎖は配列番号14からなり、その細胞内ドメインは配列番号16からなる。
【0042】
一実施形態において、本発明のCARは、さらに、T細胞などの細胞で発現される場合、新生タンパク質が小胞体に導かれ、続いて細胞表面に導かれるシグナルペプチドを含む。シグナルペプチドのコアは、単一のα-ヘリックスを形成する傾向がある長い疎水性アミノ酸セグメントを含む。シグナルペプチドの末端には、通常、シグナルペプチダーゼによって認識及び切断されるアミノ酸のセグメントがある。シグナルペプチダーゼは、転座中又は転座後に切断して、遊離シグナルペプチド及び成熟タンパク質を生成することができる。次に、遊離シグナルペプチドは特定のプロテアーゼによって消化される。本発明に使用されるシグナルペプチドは、周知のものであり、例えば、CD8α、IgG1、GM-CSFRαなどに由来するものである。
【0043】
好ましい実施形態において、本発明のキメラ抗原受容体は、CD8α膜貫通ドメイン、4-1BB共刺激ドメイン、CD3ζシグナル伝達ドメイン、及びγc鎖又はその細胞内ドメインを含む。より好ましくは、前記キメラ抗原受容体は、CD8αシグナルペプチド、CD8αヒンジ領域及び/又はCD28共刺激ドメインをさらに含む。
【0044】
好ましい実施形態において、本発明のキメラ抗原受容体において、共刺激ドメイン、細胞内シグナル伝達ドメイン、及び追加のシグナル伝達ドメインは、細胞膜に近い順に配置されている。即ち、共刺激ドメインは、細胞膜に最も近く、追加のシグナル伝達ドメインは、最も遠い。
【0045】
核酸
本発明は、本発明のキメラ抗原受容体をコードする配列を含む核酸をさらに提供する。
【0046】
本明細書において、「核酸」という用語は、それぞれ一本鎖及び/又は二本鎖形態、線状又は環状、又はそれらの混合物(ハイブリッド分子を含む)である、修飾又は非修飾のRNA又はDNAなどのリボヌクレオチド及びデオキシリボヌクレオチドの配列を含む。したがって、本発明の核酸は、DNA(例えば、dsDNA、ssDNA、cDNA)、RNA(例えば、dsRNA、ssRNA、mRNA、ivtRNA)、それらの組み合わせ又は誘導体(例えば、PNA)を含む。好ましくは、前記核酸は、DNA又はRNAであり、より好ましくはmRNAである。
【0047】
核酸は、通常のホスホジエステル結合又は非通常の結合(例えば、ペプチド核酸(PNA)に発見するアミド結合)を含み得る。本発明の核酸は、例えば、トリチル化塩基及び滅多に見られない塩基(例えば、イノシン)などの1つ又は複数の修飾された塩基をさらに含む。本発明の多鎖CARがポリヌクレオチドから発現され得ば、化学的、酵素的、又は代謝的修飾を含む他の修飾も考えられる。核酸は、単離された形で提供することができる。一実施形態において、核酸は、転写制御エレメント(プロモーター、エンハンサー、オペレーター、リプレッサー、及び転写終結シグナルを含む)、リボソーム結合部位、イントロンなどの調節配列を、さらに含む。
【0048】
本発明の核酸配列は、所望の宿主細胞(例えば、免疫細胞)において最適な発現を行い、又は細菌、酵母、又は昆虫細胞での発現に使用するように、コドン最適化される。コドン最適化は、ターゲット配列に存在する、特定の種の高発現遺伝子でまれなコドンを、その種の高発現遺伝子で一般的なコドンで置き換え、置換前後のコドンが同じアミノ酸をコードすることを指す。したがって、最適なコドンの選択は、宿主ゲノムのコドン使用嗜好によって決められる。
【0049】
ベクター
本発明は、本発明に記載されるような1つ以上の核酸を含むベクターをさらに提供する。
【0050】
本明細書において、「ベクター」という用語は、(外因性)遺伝物質を宿主細胞に移すためのビヒクルとして使用される核酸分子であり、核酸分子が、該宿主細胞において、例えば、複製及び/又は発現され得る。
【0051】
ベクターは、通常、ターゲティングベクターと発現ベクターを含む。「ターゲティングベクター」は、例えば、相同組換えによって、又は特定部位の配列を特異的に標的とするハイブリッドリコンビナーゼを使用することによって、単離された核酸を細胞の内部に送達する培地である。「発現ベクター」は、適切な宿主細胞における異種核酸配列(例えば、本発明のキメラ抗原受容体ポリペプチドをコードする配列)の転写及びそれらのmRNAの翻訳に使用されるベクターである。本発明に適するベクターは、当分野の既知のものであり、多くの市販のものを利用可能である。一実施形態において、本発明のベクターは、線状核酸分子(例えばDNA又はRNA)、プラスミド、ウイルス(例えばレトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、ラウス肉腫ウイルス(RSV、ポリオーマウイルス、及びアデノ随伴ウイルス(AAV)など)、ファージ、ファージミド、コスミド、及び人工染色体(BAC、及びYACを含む)を含むが、これらに限定されない。ベクター自体は、通常、ヌクレオチド配列であり、インサート(導入遺伝子)を含むDNA配列と、ベクターの「バッバックボーン」として機能するより大きな配列とを含むことが一般的である。操作されたベクターは、通常、宿主細胞における自律複製のための起点(ポリヌクレオチドの安定発現が望まれる場合)、選択マーカー、及び制限酵素切断部位(例えば、マルチクローニング部位、MCS)をさらに含む。ベクターは、プロモーター、ポリアデニル化テール(polyA)、3’UTR、エンハンサー、ターミネーター、インシュレーター、オペロン、選択マーカー、レポーター遺伝子、ターゲティング配列及び/又はタンパク質精製タグなどのエレメントもさらに含む。具体的な実施形態において、前記ベクターは、in vitroで転写されたベクターである。
【0052】
操作された免疫細胞とその調製方法
本発明は、キメラ抗原受容体又はそれらをコードする核酸を含む操作された免疫細胞を提供する。
【0053】
本明細書において、「免疫細胞」という用語は、1つ又は複数のエフェクター機能(例えば、細胞毒性細胞死滅活性、サイトカインの分泌、ADCC及び/又はCDCの誘導)を有する免疫系の任意の細胞を指す。例えば、免疫細胞は、T細胞、マクロファージ、樹状細胞、単球、NK細胞及び/又はNKT細胞であり得る。好ましくは、免疫細胞はT細胞である。T細胞は、例えば初代T細胞のようなin vitroで培養されたT細胞、又はJurkat、SupT1などのようなin vitroで培養されたT細胞系からのT細胞、又は被験者から得られたT細胞などの任意のT細胞であり得る。被験者は、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット、及びそれらのトランスジェニック種を含む。T細胞は、様々な供給源から入手可能であり、末梢血単球、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位の組織、腹水、胸膜滲出液、脾臓組織、腫瘍を含む。T細胞は、濃縮又は精製されることも可能である。T細胞は、任意の種類の、任意の発達段階にあるものであってもよく、CD4+/CD8+二重陽性T細胞、CD4+ヘルパーT細胞(例えばTh1、及びTh2細胞)、CD8+T細胞(例えば、細胞毒性T細胞)、腫瘍浸潤細胞、メモリーT細胞、ナイーブT細胞、γδ-T細胞、αβ-T細胞などを含むが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、免疫細胞は、ヒトT細胞である。T細胞は、フィコール分離などの当業者で知られる様々な技術を使用して、被験者の血液から得ることができる。本発明において、免疫細胞は、キメラ抗原受容体ポリペプチドを発現するように操作されたものである。
【0054】
当分野で公知の方法(例えば、形質導入、トランスフェクション、形質転換など)で、キメラ抗原受容体ポリペプチドをコードする核酸配列を免疫細胞に導入して、本発明のキメラ抗原受容体ポリペプチドを発現させることができる。「トランスフェクション」は、核酸分子又はポリヌクレオチド(ベクターを含む)を標的細胞に導入するプロセスである。例えば、RNAトランスフェクションの場合、RNA(例えば、in vitroで転写されたRNA、ivtRNA)を宿主細胞に導入するプロセスである。この用語は、主に真核細胞での非ウイルス法に使用される。「形質導入」という用語は、通常、ウイルスを介した核酸分子又はポリヌクレオチドの転移を説明するために使用される。動物細胞のトランスフェクションは、通常、細胞膜に一過性の細孔又は「穴」を開いて、物質の取り込みを可能にすることに関するものである。トランスフェクションは、リン酸カルシウムを使用して、エレクトロポレーションにより、細胞を圧搾することにより、または、カチオン性脂質を材料と混合してリポソーム(細胞膜と融合し、その運搬物を内部に沈着させる)を製造することにより、実施することができる。真核生物宿主細胞をトランスフェクトするための例示的な技術には、脂質小胞媒介取り込み、熱ショック媒介取り込み、リン酸カルシウム媒介トランスフェクション(リン酸カルシウム/DNA共沈殿)、マイクロインジェクション、及びエレクトロポレーション穿孔が含まれる。「形質転換」という用語は、核酸分子又はポリヌクレオチド(ベクターを含む)の、細菌への、又は非動物の真核細胞(植物細胞を含む)への、非ウイルス性転写を説明するために使用される。したがって、形質転換とは、細菌又は非動物の真核細胞の、その周囲からの細胞膜を介した直接取り込み、それに続く外因性遺伝物質(核酸分子)の取り込みから生じる遺伝学的変化である。形質転換は、人工的手段で実現される。形質転換が起こるためには、細胞又は細菌がコンピテンスの状態になければならない。原核生物の形質転換の技術に、熱ショック媒介取り込み、傷細胞との細菌プロトプラストと無融合、マイクロインジェクション、及びエレクトロポレーションを含み得る。
【0055】
さらに別の実施形態において、本発明の免疫細胞は、CD52、GR、TCRα、TCRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD247ζ、HLA-I、HLA-II遺伝子、並びにPD1及びCTLA-4などの免疫チェックポイント遺伝子から選択される少なくとも1つの不活化遺伝子をさらに含む。より具体的には、免疫細胞の少なくともTCRα又はTCRβ遺伝子が不活性化されている。この不活性化により、TCRは、細胞内で機能的しなくなる。該方法は、移植片対宿主病(GvHD)に対してとても有効である。遺伝子を不活性化する方法は、当分野で公知のものであり、例えば、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEヌクレアーゼ、又はCRISPRシステムにおけるCas酵素媒介によるDNAフラグメント化によって、行われる。
【0056】
医薬組成物
本発明は、本発明のキメラ抗原受容体、核酸、ベクター又は活性剤とする操作された免疫細胞と、1つ又は複数の薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物を、さらに提供する。また、本発明は、医薬組成物又は医薬品の調整におけるキメラ抗原受容体、核酸、ベクター又は操作された免疫細胞の使用をさらに提供する。
【0057】
本明細書において、「薬学的に許容される賦形剤」という用語は、被験者及び有効成分と薬理学的及び/又は生理学的に適合する(即ち、望ましくない局所的又は全身的作用を引き起こすことなく所望の治療効果を引き出すことができる)ベクター及び/又は賦形剤を意味し、当分野で公知のものである(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences.Edited by Gennaro AR,19th ed.Pennsylvania:Mack Publishing Company,1995を参照)。薬学的に許容される賦形剤の例として、充填剤、結合剤、崩壊剤、コーティング剤、吸着剤、付着防止剤、流動促進剤、抗酸化剤、香味剤、着色剤、甘味料、溶媒、共溶媒、緩衝剤、キレート剤、界面活性剤、希釈剤、湿潤剤、防腐剤、乳化剤、コーティング剤、等張剤、吸収遅延剤、安定剤及び張性調整剤を含むが、これに限定されない。当業者であれば、本発明の所望の医薬組成物を調製するために、適切な賦形剤を選択することができる。本発明の医薬組成物に使用される例示的な賦形剤は、生理食塩水、緩衝生理食塩水、デキストロース及び水を含む。通常、適切な賦形剤の選択は、使用される活性剤、治療される疾患、及び医薬組成物の所望の剤形により決められる。
【0058】
本発明による医薬組成物は、様々な経路による投与に適する。通常、投与は、非経口的に達成される。非経口送達方法は、局所、動脈内、筋肉内、皮下、髄内、くも膜下腔内、脳室内、静脈内、腹腔内、子宮内、膣内、舌下又は鼻腔内の投与を含む。
【0059】
本発明による医薬組成物は、さらに、固形剤、液剤、気体剤形、若しくは凍結乾燥剤形などの様々な剤形で調製することができる。特に、軟膏、クリーム、経皮パッチ、ゲル、散剤、錠剤、液剤、エアロゾル、顆粒剤、丸剤、懸濁剤、乳化剤、カプセル剤、シロップ剤、エリキシル剤、エキス剤、チンキ剤または液体エキス剤抽出物の剤形で、又は所望の投入方法に特に適切な剤形で製剤化され得る。医薬品を生産するの本発明の公知のプロセスは、例えば、慣用的な混合、溶解、造粒、糖衣錠作製、研和、乳化、カプセル化、封鎖、又は凍結乾燥プロセスを含み得る。本明細書に記載の免疫細胞を含む医薬組成物は、通常、液剤で提供され、好ましくは薬学的に許容される緩衝液を含む。
【0060】
本発明による医薬組成物は、さらに、疾患の治療及び/又は予防に適した1つ又は複数の他の薬剤と組み合わせて投与され得る。組み合わせに適した薬剤の好ましい例として、次のものが挙げられる。
・公知の抗がん剤、例えば、シスプラチン、メイタンシン誘導体、ラケルマイシン(rachelmycin)、カリケアマイシン(calicheamicin)、ドセタキセル、エトポシド、ゲムシタビン、イホスファミド、イリノテカン、メルファラン、ミトキサントロン、ソルフィマーソディウムホトフィリンII(sorfimer sodiumphotofrin II)、テモゾロマイド、トポテカン、トリメトレキサートグルクロネート(trimetreate glucuronate)、オーリスタチンE(auristatin E)、ビンクリスチン及びドキソルビシン;
・ペプチド細胞毒素、例えば、リシン、ジフテリア毒素、シュードモナス細菌外毒素A、DNase、及びRNaseなど;
・放射性核種、例えば、ヨウ素131、レニウム186、インジウム111、イリジウム90、ビスマス210及び213、アクチニウム225、及びアスタチン213;
・プロドラッグ、例えば、抗体指向酵素プロドラッグなど;
・免疫賦活剤、例えば、IL-2;
・ケモカイン、例えば、IL-8、血小板第4因子、黒色腫増殖刺激タンパク質など;
・抗体又はそのフラグメント、例えば、抗CD3抗体又はそのフラグメント;
・補体活性化物質;
・異種タンパク質ドメイン、同種タンパク質ドメイン、ウイルス性/細菌性タンパク質ドメイン、ウイルス性/細菌性ペプチド。
また、本発明の医薬組成物は、化学療法及び放射線療法などの1つ又は複数の他の治療方法と組み合わせて使用することができる。
【0061】
操作された免疫細胞を調製する方法
本発明は、さらに操作された免疫細胞を調製する方法を提供し、免疫細胞が本発明のキメラ抗原受容体を発現するように、本発明のキメラ抗原受容体又はそのコードする核酸配列を免疫細胞に導入することを含む。
【0062】
一実施形態において、前記免疫細胞は、ヒト免疫細胞、より好ましくはヒトT細胞、マクロファージ、樹状細胞、単球、NK細胞及び/又はNKT細胞である。
【0063】
核酸又はベクターを免疫細胞に導入し、それらを発現する方法は、当分野で公知のものである。例えば、核酸又はベクターを、リン酸カルシウム沈殿、リポフェクション、粒子ボンバードメント、マイクロインジェクション、電気穿孔などの物理的方法によって免疫細胞に導入することができる。また、化学的方法、例えば、巨大分子複合体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズのようなコロイド分散系、並びに水中油型エマルジョン、ミセル、混合ミセル、及びリポソームのような脂質ベースのシステムによって、核酸又はベクターを導入することができる。また、生物学的方法によって核酸又はベクター導入することもできる。例えば、ウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターは、遺伝子を哺乳動物、例えばヒトの細胞に挿入するために広く使用される方法である。他のウイルスベクターは、レンチウイルス、ポックスウイルス、単純ヘルペスウイルスI型、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルスなどに由来することができる。
【0064】
当業者は、核酸又はベクターが免疫細胞に導入された後、公知の技術によって、得られた免疫細胞を増殖及び活性化することができる。
【0065】
治療への応用
本発明は、有効量の免疫細胞又は本発明の医薬組成物を被験者に投与することを含む、がんに罹患している被験者を治療する方法をさらに提供する。
【0066】
一実施形態において、有効量の本発明の免疫細胞及び/又は医薬組成物が被験者に直接投与される。
【0067】
他の実施形態において、本発明の治療方法は、エクスビボ治療である。具体的には、この方法は、免疫細胞を含む被験者のサンプルを提供するステップ(a)と、in vitroで、本発明のキメラ抗原受容体を免疫細胞に導入し、改変された免疫細胞を得るステップ(b)と、改変された免疫細胞を被験者に投与するステップ(c)とを含む。好ましくは、ステップ(a)における免疫細胞は、T細胞、NK細胞及び/又はNKT細胞から選択され、また、当分野で公知の方法によって被験者のサンプル(特に血液サンプル)から得るものである。なお、本発明のキメラ抗原受容体を発現し、本明細書に記載の所望の生物学的エフェクター機能を発揮できる他の免疫細胞も使用することができる。また、免疫細胞として、通常、被験者の免疫系と適合するものが選択され、即ち、好ましくは、免疫原性応答を誘発しないものを選ぶ。例えば、「遍在的なレシピエント細胞」、即ち、in vitroで成長及び増殖することができる所望の生物学的エフェクター機能を発揮する遍在的な適合性のリンパ球を使用することができる。そのような細胞の使用は、被験者自身のリンパ球を入手及び/又は提供する必要性がない。ステップ(c)のエクスビボ導入は、エレクトロポレーションを介して、本明細書に記載の核酸又はベクターを免疫細胞に導入することにより、又は上記のレンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター又はレトロウイルスベクターのようなウイルスベクターで免疫細胞を感染させることにより実施することができる。他の考えられる方法としては、リポソームなどのトランスフェクション試薬の使用、又は一過性RNAトランスフェクションの使用が挙げられる。
【0068】
一実施形態において、前記免疫細胞は、自己細胞又は同種異系細胞、好ましくはT細胞、マクロファージ、樹状細胞、単球、NK細胞及び/又はNKT細胞であり、より好ましくはT細胞、NK細胞又はNKT細胞である。
【0069】
本明細書において、「自己」という用語は、任意の材料であって、後にそれが再導入される個体と同じ個体由来のものを指す。
【0070】
本明細書において、「同種異系」という用語は、任意の材料であって、同じ種の異なる動物、または該材料が導入される個体と異なる患者由来のものを指す。遺伝子が1つ以上の遺伝子座で同一ではない場合、2つ以上の個体は互いに同種異系であると言われる。いくつかの態様において、同じ種の個体由来の同種異系材料は、抗原的に相互作用するのに十分に遺伝学的に異なり得る。
【0071】
本明細書において、「被験者」という用語は、哺乳動物である。哺乳動物は、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、又はウシであり得るが、これらの例に限定されない。ヒト以外の哺乳動物は、癌の動物モデルを表す被験者として有利に使用することができる。好ましくは、被験者は、ヒトである。
【0072】
一実施形態において、前記疾患は、抗原結合ドメインと結合された標的の発現に関連するがんである。例えば、前記がんは、脳神経膠腫、芽細胞腫、肉腫、白血病、基底細胞がん、胆道がん、膀胱がん、骨肉腫、脳がん及びCNSがん、乳がん、腹膜がん、子宮頸がん、絨毛がん、結腸癌及び直腸がん、結合組織がん、消化器系のがん、子宮内膜がん、食道がん、眼がん、頭頸部がん、胃がん(胃腸がんを含む)、神経膠芽細胞腫(GBM)、肝臓がん、肝細胞腫瘍、上皮内腫瘍、腎臓がん、喉頭がん、肝臓腫瘍、肺がん(例えば、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、腺がん、扁平上皮がん)、リンパ腫(ホジキンリンパ腫及び非ホジキンリンパ腫を含む)、メラノーマ、骨髄腫、神経芽細胞腫、口腔がん(例えば、唇、舌、口、咽頭)、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、直腸がん、呼吸器系のがん、唾液腺がん、皮膚がん、扁平細胞がん、胃がん、精巣がん、甲状腺がん、子宮又は子宮内膜がん、泌尿器系の悪性腫瘍、外陰がん及びその他のがんと肉腫、ならびにB細胞リンパ腫(低悪性度/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)、小リンパ球性(SL)NHL、中等度/濾胞性NHL、中等度びまん性NHL、高悪性度免疫芽球性NHL、高悪性度リンパ芽球性NHL、高悪性度の小さな非切断細胞NHL、大きなしこりNHLを含む)、マントル細胞リンパ腫、エイズ関連リンパ腫、及びWaldenstromマクログロブリン血症、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ性白血病(ALL)、B細胞急性リンパ性白血病(B-ALL)、T細胞急性リンパ性白血病(T-ALL)、B細胞前リンパ性白血病、形質細胞様樹状細胞腫、バーキットリンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、慢性骨髓性白血病(CML)、悪性リンパ増殖性疾患、MALTリンパ腫、有毛細胞白血病、辺縁帯リンパ腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成症、形質芽球性リンパ腫、前白血病、形質細胞様樹状細胞腫瘍、及び移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)、及び標的発現に関連する他の疾患が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、本発明の操作された免疫細胞又は医薬組成物で治療することができる疾患は、白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫、脳神経膠腫、膵臓がん、胃がんなどから選択される。
【0073】
一実施形態において、前記方法は、さらに、1つ又は複数の追加の化学療法剤、生物学的薬剤、薬物又は治療を前記被験者に投与することを含む。この実施形態において、化学療法剤、生物学的薬剤、薬物又は治療は、放射線療法、外科手術、抗体剤及び/又は小分子、ならびにそれらの任意の組み合わせから選択される。
【0074】
以下、添付の図面を参照しながら例を挙げて本発明を詳細に説明する。なお、当業者であれば、添付の図面および実施例は、例示的なものにすぎず、本発明を限定するものではないと理解される。本出願の実施例および実施例の特徴は、矛盾がない限り、互いに組み合わせることができる。
【0075】
以下の実施例で使用される配列が表1に示される。
【0076】
表1 本発明で使用される配列
【表1】
【0077】
本発明のすべての実施例で使用されるT細胞は、Ficoll-PaqueTM PREMIUM(GE Healthcare、ロット番号17-5442-02)による白血球アフェレーシスを使用して健康なドナーから単離された初代ヒトCD4+CD8+T細胞であった。Nalm6腫瘍細胞はNanjingJicuiYaokang Biotechnology Co., Ltd.から購入した。
【0078】
実施例1 CART細胞の構築
CD8αシグナルペプチド(配列番号9)、抗CD19scFv(配列番号1)、CD8αヒンジ領域(配列番号11)、CD8α膜貫通領域(配列番号3)、4-1BB共刺激ドメイン(配列番号5)、CD3ζ細胞内シグナル伝達ドメイン(配列番号7)のコード配列を合成し、それらをpGEM-T Easyベクター(Promega、ロット番号A1360)に順にクローニングし、従来のbbz-CARプラスミドを獲得し、シーケンシングによってターゲット配列が正しく挿入されていることを確認した。同じ方法でbbzg-CARプラスミドを獲得した。bbz-CARプラスミドとの唯一の違いは、CD3ζ細胞内シグナル伝達ドメインに結合したガンマ鎖細胞内ドメイン(配列番号15)も含まれていることである。bbzg-CARプラスミドでは、4-1BB共刺激ドメイン、CD3ζ細胞内シグナル伝達ドメイン、γ鎖細胞内ドメインが細胞膜に近い順に配列されている。
【0079】
3ml Opti-MEM(Gibco、ロット番号31985-070)を滅菌チューブに入れ上記のプラスミドを希釈した後、プラスミド:ウイルスパッケージングベクター:ウイルスエンベロープベクター=4:2:1の比例でパッケージングベクターpsPAX2(Addgene、ロット番号12260)及びエンベロープベクターpMD2.G(Addgene、ロット番号12259)を加えた。そして、120ulのX-treme GENE HP DNAトランスフェクション試薬(Roche、ロット番号06366236001)を加え、均一に混合して、室温で15分間インキュベートし、その後、プラスミド/ベクター/トランスフェクション試薬混合物を293T細胞のフラスコに滴下した。ウイルスを24時間及び48時間で収集し、プールし、超遠心分離(25000g、4°C、2.5時間)して、濃縮レンチウイルスを得た。
【0080】
DynaBeads CD3/CD28CTSTM(Gibco,ロット番号40203D)でT細胞を活性化し、37℃、5%COで1日間培養した。そして、濃縮レンチウイルスを添加して3日間培養した後、CD19を標的とする従来のcAR T細胞(対照用)及び本発明のbbzg-CAR T細胞を得た。
【0081】
37℃、5%COで11日間インキュベートした後、一次抗体としてBiotin-SP(long spacer)AffiniPure Goat Anti-Mouse IgG,F(ab’)2Fragment Specific(min X Hu,Bov,Hrs Sr Prot)(jackson immunoresearch、ロット番号115-065-072)を用い、二次抗体としてAPC Streptavidin(BD Pharmingen、ロット番号554067)又はPE Streptavidin(BD Pharmingen、ロット番号554061)を用い、Fite-CAR T細胞でのscFvの発現レベルをフローサイトメトリーで検出した。その結果が図1に示される(NTは、未修飾の野生型T細胞である)。
【0082】
以上の結果から分かるように、本発明のbbzg-CAR T細胞は、scFvを効果的に発現することができ、その発現レベルが従来のbbz-CAR T細胞よりもわずか高く、γ鎖の細胞内ドメインの追加がCAR構造の表面発現に影響を与えないことを示している。
【0083】
実施例2 標的細胞に対するCART細胞の殺傷効果とサイトカイン放出
2.1 標的細胞に対するCAR-T細胞の殺傷効果
【0084】
T細胞が標的細胞を殺すと、標的細胞の数が減少する。ルシフェラーゼを発現する標的細胞とT細胞を共培養した後、標的細胞の数が減少するとともに、分泌されるルシフェラーゼも減少した。ルシフェラーゼは、ルシフェリンの酸化的ルシフェリンへの変換を触媒するものである。酸化中に生物発光が生成され、この発光の強度は、標的細胞によって発現されるルシフェラーゼのレベルに依存する。したがって、検出された蛍光の強度は、標的細胞に対するT細胞の殺傷能力を反映することができる。
【0085】
標的細胞に対するCAR-T細胞の殺傷能力を検出するために、まず、フルオレセイン遺伝子を運ぶNalm6標的細胞を1×10/ウェルで96ウェルプレートにプレーティングし、そして、bbzg-CAR T細胞、Con-CAR T細胞(ポジティブコントロール)、及びトランスフェクトされていないT細胞(ネガティブコントロール)を、32:1のエフェクター対ターゲット比(即ち、エフェクターT細胞と標的細胞の比)で96ウェルプレートで共培養し、16~18時間後にマイクロプレートリーダーで蛍光値を測定した。(標的細胞の蛍光の平均値-サンプルの蛍光の平均値)/標的細胞の蛍光の平均値×100%の式によって、殺傷効率を計算した。その結果が図2に示される。
【0086】
以上の結果からわかるように、NTに比べて、標的細胞に対する本発明のbbzg-CAR T細胞の殺傷効果は、従来のbbz-CAR T細胞よりも著しく高い。
【0087】
2.2 CAR-T細胞からのサイトカイン放出
T細胞が標的細胞を殺すと、標的細胞の数が減少するとともに、IL2、及びIFN-γなどのサイトカインも放出される。Fite-CARX T細胞が標的細胞を殺傷するときに放出されるサイトカインIL2、及びIFNγのレベルを、以下の手順に従って酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)で測定した。
【0088】
(1)細胞共培養上清の収集
標的細胞(Nalm6、及びRaji)及び非標的細胞(193F)を、それぞれ1×10/ウェルで96ウェルプレートにプレーティングした後、bbzg-CAR T、con-CAR T(ポジティブコントロール)及びNT細胞(ネガティブコントロール)をそれぞれ1:1の比例で標的細胞又は非標的細胞と共培養し、18~24時間後に細胞共培養上清を収集した。
【0089】
(2)ELISAによる上清におけるIFNγ分泌量の検出
捕捉抗体Purified anti-human IFN-γ Antibody(Biolegend、ロット番号506502)を用いて96ウェルプレートに播種し、4℃で一晩インキュベートした。その後、抗体溶液を除去し、250μLの2%BSA(sigma、ロット番号V900933-1kg)を含むPBST(0.1%Tweenを含む1XPBS)溶液を加え、37℃で2時間インキュベートした。その後、プレートを250μLのPBST(0.1%Tweenを含む1XPBS)で3回洗浄した。50μLの細胞共培養上清又は標準液を各ウェルに加え、37℃で1時間インキュベートした後、プレートを250μLのPBST(0.1%Tweenを含む1XPBS)で3回洗浄した。その後、各ウェルに50μLの検出抗体Anti-Interferon gamma抗体[MD-1](Biotin)(abcam、ロット番号ab25017)を加え、37℃で1時間インキュベートした後、プレートを250μLのPBST(0.1%Tweenを含む1XPBS)で3回洗浄した。さらにHRP Streptavidin(Biolegend、ロット番号405210)を加え、37℃で30分間インキュベートした後、上清を捨て、250μLのPBST(0.1%Tweenを含む1XPBS)を加え、5回洗浄した。50μLのTMB基質溶液を各ウェルに加えた。室温で暗所で30分間反応させた後、50μLの1mol/L HSOを各ウェルに加えて反応を停止させた。反応を停止してから30分以内に、マイクロプレートリーダーを使用して450nmでの吸光度を検出し、標準曲線(標準の読み取り値と濃度に従って描画されたもの)によって、サイトカインの含有量を算出した。その結果が図3に示される。
【0090】
以上の結果から分かるように、非標的細胞293FではいずれもIFNγ放出も検出されなかった。これは、bbz-CART細胞とbbzg-CART細胞の両方による殺傷が特異的であることを示している。さらに、標的細胞を殺す場合、bbzg-CART細胞のIL2放出レベルが従来のCART細胞よりも著しく低かったが、IFN-γの放出レベルは従来のCART細胞よりも著しく高かった。全体として、本発明のbbzg-CAR T細胞のサイトカイン放出は、従来のCAR-T細胞と同等であった。
【0091】
実施例3 CAR-T細胞の腫瘍抑制効果の検証
腫瘍に対するCAR-T細胞の抑制効果は、マウスモデルで検証された。
【0092】
20匹の8週齢の健康な雌NCGマウスを、PBSグループ、NTグループ(ネガティブコントロール)、bbz-CARTグループ(陽性対照)、及びbbzg-CARTグループの4つのグループに分けた。0日目(D0)に、1×10個のNalm6細胞を各マウスの尾静脈に注射した。7日後(D7)、対応グループの各マウスにPBS溶液、2×10NT細胞、con-CART細胞又はbbzg-CART細胞を尾静脈に注射した。マウスの生存率と腫瘍負荷量の変化を毎週評価した。
【0093】
invivo光学イメージング技術を使用して、各グループのマウスの腫瘍負荷量の変化を評価した。マウスの腫瘍負荷量は、D7、D14、D21、D28、D35、D42、及びD49で検出され、光子/秒で表された。その結果が図4に示される。
【0094】
以上の結果から分かるように、PBS群とNT群では、マウスの腫瘍負荷量が急速に進行し、D21(即死)で最高値に達した。bbz-CARグループのマウスをCAR-T細胞で処置した後、腫瘍負荷量は急速に減少したが、D28又はD35で徐々に回復した。一方、bbzg-CAR Tグループのマウスは、治療後に腫瘍負荷量が急速な減少するとともに、再発することなくD49まで低レベルを維持した。これは、本発明のbbzg-CAR T細胞が腫瘍増殖を効果的に阻害することができ、その効果が従来のbbz-CAR T細胞よりも著しく優れていることを示している。
【0095】
発明者らは、bbz-CART細胞及びbbzg-CAR T細胞で処置された2つのグループのマウスの21日目のT細胞の増殖をさらにモニターした。具体的には、D21でマウスの顎下静脈から採血し、Trucount FACS分析(hCD3、hCD8、hCD4の発現量)を行った。その結果が図5に示される。
【0096】
以上の結果から分かるように、T細胞の増殖は、bbz-CARTマウスとbbzg-CARTマウスの両方で検出された。CD4+T細胞の増殖は、類似していたが、bbzg-CARグループのCD3+及びCD8+ T細胞の増殖は、bbz-CARTグループよりも著しく高かった。したがって、21日目の腫瘍負荷量は2つのグループ間で類似していたが(図4)、bbzg-CAR TグループにおいてT細胞の増殖が著しく多く、腫瘍負荷量を低レベルに保つことができた。一方、bbz-CAR Tグループのマウスの腫瘍負荷量は、T細胞の増殖が少なく、枯渇が続いたため、その後回復した。
【0097】
さらに、発明者らは、されに、実験の終了時(即ち、腫瘍細胞Nalm6の接種後105日目)までに各群のマウスの生存率を算出した(図6)。そのうち、PBS及びNTグループのすべてのマウスが死亡し、bbz-CAR T細胞で治療されたマウスのうちの1匹(20%)のみが生存し、bbzg-CAR T細胞で治療されたマウスの60%が生存した。これも、本発明のbbzg-CAR T細胞が腫瘍を効果的に阻害し、生存率を改善することができることを示している。
【0098】
以上により、従来のCAR T細胞に比べて、本発明のbbzg-CAR T細胞は、サイトカイン受容体の共通γ鎖の導入によりT細胞の増殖を大幅に促進するので、腫瘍細胞の継続的な殺傷を改善し、体内の腫瘍抑制効果を改善し、マウスの生存率を向上させることができる。
【0099】
実施例4.異なる構造を持つCAR-Tセルの調製とそれらの機能の検証
γc鎖細胞内ドメイン(配列番号15)を、bbz-CARプラスミドの4-1BB共刺激ドメインとCD3ζ一次シグナル伝達ドメインの間に挿入して、bbgz-CARプラスミドを得た。bbgz-CARプラスミドとbbzg-CARプラスミドとの相違点は、γc鎖細胞内ドメイン内の位置が異なる。実施例1の調整方法で、bbgz-CARプラスミドを調整した。
【0100】
実施例2に記載された方法で、標的細胞に対するCAR-T細胞の殺傷効果を検出した。その結果が図7に示される。以上の結果から分かるように、標的細胞に対するbbgz-CART細胞の殺傷効果は、従来のbbz-CAR T細胞と同等であったが、両方ともbbzg-CART細胞よりも著しく低かった。これは、CAR構造内の追加のシグナル伝達ドメイン(即ち、γc鎖又はその細胞内ドメイン)の位置が、CART細胞の殺傷活性に重要な影響を与えることを示している。
【0101】
なお、上記は、本発明の好ましい実施形態にすぎず、本発明を限定することを意図するものではないことに留意されたい。当業者にとって、本発明は、様々な変化及び変更を有し得る。本発明の精神及び原理の範囲内で行われる変更、均等置換、改良などは、いずれも本発明の保護範囲に含まれることが当業者であれば理解できる。
【配列表フリーテキスト】
【0102】
配列番号1:CD19 scFv
配列番号2:CD19 scFv
配列番号3:CD8α膜貫通ドメイン
配列番号4:CD8α膜貫通ドメイン
配列番号5:4-1BB共刺激ドメイン
配列番号6:4-1BB共刺激ドメイン
配列番号7:CD3ζシグナル伝達ドメイン
配列番号8:CD3ζシグナル伝達ドメイン
配列番号9:CD8αシグナルペプチド
配列番号10:CD8αシグナルペプチド
配列番号11:CD8αヒンジ領域
配列番号12:CD8αヒンジ領域
配列番号13:γc鎖
配列番号14:γc鎖
配列番号15:γc鎖細胞内ドメイン
配列番号16:γc鎖細胞内ドメイン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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