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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】蒸気濃度エネルギー変換器
(51)【国際特許分類】
   H02N 3/00 20060101AFI20240329BHJP
   A41D 20/00 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
H02N3/00 Z
A41D20/00
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2022553157
(86)(22)【出願日】2021-03-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-19
(86)【国際出願番号】 US2021021207
(87)【国際公開番号】W WO2021178892
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2022-09-05
(31)【優先権主張番号】62/986,177
(32)【優先日】2020-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/193,884
(32)【優先日】2021-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522322723
【氏名又は名称】ジェイテック・エナジー・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ロニー・ジー・ジョンソン
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-176536(JP,A)
【文献】特開2005-116292(JP,A)
【文献】特開2002-206775(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0294668(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107275659(CN,A)
【文献】欧州特許出願公開第1051768(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 3/00
A41D 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高水蒸気分圧領域と低水蒸気分圧領域との間に生じる水蒸気分圧差から電力を生成する蒸気濃度エネルギー変換器であって、
電気負荷コントローラと、
前記高水蒸気分圧領域を前記低水蒸気分圧領域から少なくとも部分的に分離するハウジングと、
前記ハウジングに結合され、前記電気負荷コントローラに電気的に結合されたイオン伝導膜電極アセンブリであって、前記イオン伝導膜電極アセンブリが、高水蒸気分圧領域と流体連通する第1電極と、低水蒸気分圧領域と流体連通する第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に配置されたイオン伝導膜と、分子状水が前記イオン伝導膜電極アセンブリを通過するのを防止するように構成されたイオン伝導性バリア層と、を有し、前記第1電極が前記高水蒸気分圧領域内の水を酸化してプロトン及び電子を生成し、前記プロトンが前記イオン伝導膜及び前記イオン伝導性バリア層を介して前記第2電極に伝導され、前記電子が前記電気負荷コントローラを介して前記第2電極に伝導される、イオン伝導膜電極アセンブリと、
を備えた蒸気濃度エネルギー変換器。
【請求項2】
前記ハウジングが衣類の形態である、請求項1に記載の蒸気濃度エネルギー変換器。
【請求項3】
前記ハウジングがリストバンドの形態である、請求項1に記載の蒸気濃度エネルギー変換器。
【請求項4】
前記ハウジングが内燃機関の排気管の形態である、請求項1に記載の蒸気濃度エネルギー変換器。
【請求項5】
前記ハウジングが管の形態であり、前記蒸気濃度エネルギー変換器が、前記管の上に空気流を生成する送風機を更に含む、請求項1に記載の蒸気濃度エネルギー変換器。
【請求項6】
前記イオン伝導膜がプロトン伝導膜である、請求項1に記載の蒸気濃度エネルギー変換器。
【請求項7】
前記第1電極が触媒を含む、請求項1に記載の蒸気濃度エネルギー変換器。
【請求項8】
前記触媒が白金である、請求項7に記載の蒸気濃度エネルギー変換器。
【請求項9】
前記イオン伝導膜電極アセンブリが、直列に連結された複数のイオン伝導膜電極アセンブリを含む、請求項1に記載の蒸気濃度エネルギー変換器。
【請求項10】
前記イオン伝導性バリア層が、素透過性バリア層である、請求項1に記載の蒸気濃度エネルギー変換器。
【請求項11】
水蒸気圧力差から電力を生成するための蒸気濃度エネルギー変換器であって、
プロトン伝導膜電極アセンブリであって、第1電極、第2電極、前記第1電極と前記第2電極との間に挟持されたイオン伝導膜、及び分子状水が前記プロトン伝導膜電極アセンブリを通過するのを防止するように構成されたイオン伝導性バリア層、を備えたプロトン伝導膜電極アセンブリ、を含み、
前記第1電極は、第1の水蒸気分圧を有する水蒸気潜在ガスの第1の供給源に露出され、
前記第2電極が、第2の水蒸気分圧を有する水蒸気潜在ガスの第2の供給源に露出され、前記第2の水蒸気分圧は前記第1の水蒸気分圧より低く、前水蒸気潜在ガスの第2の供給源は酸素ガスを含み、
前記プロトン伝導膜電極アセンブリの前記第1電極と前記第2電極との間に接続された電気負荷/コントローラと、
を備え、
該負荷/コントローラは、前記第1電極に入る水と前記第2電極を出る水との間の圧力差によって駆動される電気化学反応として前記プロトン伝導膜電極アセンブリから電力を抽出し、前記水蒸気潜在ガスの第1の供給源から前記第1電極に入る蒸気は酸化されてプロトンと電子になり、得られた酸素は前記水蒸気潜在ガスの第1の供給源に放出して戻され、前記電子が前記負荷/コントローラを通って前記第2電極に送られるときに、前記プロトンは前記膜及び前記イオン伝導性バリア層を通って前記第2電極に伝導され、そこで前記電子は酸素と反応して水を生成し、このように生成された前記水は前記第2電極のより低い圧力で放出される、
蒸気濃度エネルギー変換器。
【請求項12】
前記ハウジングが衣類の形態である、請求項11に記載の蒸気濃度エネルギー変換器。
【請求項13】
前記ハウジングがリストバンドの形態である、請求項11に記載の蒸気濃度エネルギー変換器。
【請求項14】
前記ハウジングが内燃機関の排気管の形態である、請求項11に記載の蒸気濃度エネルギー変換器。
【請求項15】
前記ハウジングが管の形態であり、前記蒸気濃度エネルギー変換器が、前記管の上に空気流を生成する送風機を更に含む、請求項11に記載の蒸気濃度エネルギー変換器。
【請求項16】
前記第1電極が触媒を含む、請求項11に記載の蒸気濃度エネルギー変換器。
【請求項17】
前記触媒が白金である、請求項16に記載の蒸気濃度エネルギー変換器。
【請求項18】
前記プロトン伝導膜電極アセンブリが、直列に連結された複数のプロトン伝導膜電極アセンブリを含む、請求項11に記載の蒸気濃度エネルギー変換器。
【請求項19】
前記イオン伝導性バリア層が、水素透過性バリア層である、請求項11に記載の蒸気濃度エネルギー変換器。
【請求項20】
水蒸気圧力差から電力を生成するための蒸気濃度エネルギー変換器であって、
プロトン伝導膜電極アセンブリであって、第1電極、第2電極、前記第1電極と前記第2電極との間に挟持された水素伝導膜、及び分子状水が前記プロトン伝導膜電極アセンブリを通過するのを防止するように構成された水素透過性バリア層、を備えたプロトン伝導膜電極アセンブリ、を含み、
前記第1電極は、第1の水蒸気分圧を有する水蒸気潜在ガスの第1の供給源に露出され、
前記第2電極が、第2の水蒸気分圧を有する水蒸気潜在ガスの第2の供給源に露出され、前記第2の水蒸気分圧は前記第1の水蒸気分圧より低く、前水蒸気潜在ガスの第2の供給源は酸素ガスを含み、
前記プロトン伝導膜電極アセンブリの前記第1電極と前記第2電極との間に接続された電気負荷/コントローラと、
を備え、
該負荷/コントローラは、前記第1電極に入る水と前記第2電極を出る水との間の圧力差によって駆動される電気化学反応として前記プロトン伝導膜電極アセンブリから電力を抽出し、前記水蒸気潜在ガスの第1の供給源から前記第1電極に入る蒸気は酸化されてプロトンと電子になり、得られた酸素は前記水蒸気潜在ガスの第1の供給源に放出して戻され、前記電子が前記負荷/コントローラを通って前記第2電極に送られるときに、前記プロトンは前記膜及び前記水素透過性バリア層を通って前記第2電極に伝導され、そこで前記電子は酸素と反応して水を生成し、このように生成された前記水は前記第2電極のより低い圧力で放出される、
蒸気濃度エネルギー変換器。
【請求項21】
前記ハウジングが衣類の形態である、請求項20に記載の蒸気濃度エネルギー変換器。
【請求項22】
前記ハウジングがリストバンドの形態である、請求項20に記載の蒸気濃度エネルギー変換器。
【請求項23】
前記ハウジングが内燃機関の排気管の形態である、請求項20に記載の蒸気濃度エネルギー変換器。
【請求項24】
前記ハウジングが管の形態であり、前記蒸気濃度エネルギー変換器が、前記管の上に空気流を生成する送風機を更に含む、請求項20に記載の蒸気濃度エネルギー変換器。
【請求項25】
前記第1電極が触媒を含む、請求項20に記載の蒸気濃度エネルギー変換器。
【請求項26】
前記触媒が白金である、請求項25に記載の蒸気濃度エネルギー変換器。
【請求項27】
前記プロトン伝導膜電極アセンブリが、直列に連結された複数のプロトン伝導膜電極アセンブリを含む、請求項20に記載の蒸気濃度エネルギー変換器。
【請求項28】
第1の水蒸気分圧領域と第2の水蒸気分圧領域との間の水蒸気圧力差で作動する蒸気濃度エネルギー変換器であって、
前記第1の水蒸気分圧領域と前記第2の水蒸気分圧領域との間に配置され、電気化学的処理によって前記第1の水蒸気分圧領域と前記第2の水蒸気分圧領域との間に水を伝導するイオン伝導膜電極アセンブリであって、電気化学的処理を行うことなく前記第1の水蒸気分圧領域及び前記第2の水蒸気分圧領域の一方から水分子が移動することを制限するイオン伝導性バリアを有するイオン伝導膜電極アセンブリ、
を備えている蒸気濃度エネルギー変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願との相互参照]
出願人は、2020年3月6日に出願された「蒸気濃度エネルギー変換器(Steam Concentration Energy Converter)」と題する米国仮特許出願第62/986,177号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、蒸気分圧差(steam partial pressure differentials)で作動するエネルギー収集装置(energy harvesting device)に関する。
【背景技術】
【0003】
蒸気圧力差の発生源は多数ある。1つの発生源は、周囲空気中の蒸気濃度(湿度)に比べて炭化水素燃料の燃焼における蒸気濃度が高いことによって生じる。蒸気圧力差は、HVACシステム、発電所、サーバファーム、または工業システムを含む他のシステムから排熱を除去するために使用されるもの等の水蒸発冷却システム(water evaporative cooling systems)によっても生成され得る。蒸気濃度または圧力差も、周囲空気に対する身体の発汗(body perspiration)によって生成される。本発明は、エネルギーを生成するための蒸気圧力差の使用を扱っている。
【0004】
圧力差システムの一例が、米国特許出願公開第2020/0316518号明細書、米国特許出願公開第2021/0359320号明細書及び米国特許出願公開第2021/0249717号明細書に示されている。これらのシステムは、電気化学反応のための膜電極アセンブリ(membrane electrode assembly)を使用した電力の発生を開示している。しかしながら、これらの系は、所望の反応が起こるために、水蒸気圧力差を生じさせるために吸湿性溶液(hygroscopic solution)の使用を必要とする。
【0005】
移植可能な医療機器、フィットネスモニター、更には携帯電話をも含むパーソナルエレクトロニクス用の電源として、身体の排熱で作動するエネルギー収集機器の開発に向けた努力もなされている。一般に、これらの収集装置を通して発生させることができる電力の量が限られているため、これらの装置の有用性は限られていた。これらの装置は、一般に、ゼーベック効果に基づいて動作する従来の半導体ベースの熱電変換器を使用する。これらの装置は効率が低く、電力を生成するために温度差を必要とする。体温と周囲空気との間の数℃の差を用いることは、実用性に限界があった。
【0006】
自動車業界もエネルギーの確保に取り組んでいる。1つのアプローチは、ゼーベック効果に基づく半導体熱電変換器を使用して、排気ガスからエネルギーを回収することである。しかしながら、既存の半導体熱電変換器は、動作中のエンジン排気温度において約6%の変換効率を提供する。更に、必要な温度差要件を生成することに関連する複雑さは、これらのシステムによって回収される少量のエネルギーを考慮すると、法外なコストとなる。
【0007】
特許文献1に開示されている熱電気化学変換器も、エネルギーを収集するための手段として検討されている。従来と同様に、特許文献1の熱電変換器も作動するためにエンジンの排熱に対する温度差を必要とする。冷却は、温度差を維持するために必要であるが、従来の熱電変換器よりも、その高い効率及びそれに伴う高い出力のおかげで、費用効果は高い。しかし、50℃未満の低品位排熱で効果的に運転することは極めて困難である。
【0008】
極低温の熱源で運転する際の課題は、小さな温度差に対する理想的な効率性(カルノーポテンシャル)でさえも非常に小さく、現実世界の損失に割り当てる余裕が殆ど無い、あるいは全く無いという事実に関連している。例えば、37℃のヒト体熱で作動し、25℃の環境への熱を排除する熱電気変換器の理想的な無損失の効率性は、伝達温度差のために変換器が受けるであろう実際の温度差を考慮しない場合、わずか3.9%の理想的な効率性を有する。伝熱損失は容易に効率を1%~2%に低下させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許第7160639号明細書
【文献】米国特許出願公開第2017/237105号明細書
【文献】米国特許第4677038号明細書
【文献】米国特許第5087534号明細書
【文献】米国特許出願公開第2020/014053号明細書
【文献】米国特許出願公開第2018/166724号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、排ガス及び体発汗(animal body perspiration)のような蒸気濃度差の他の源を含む水蒸気圧力差からエネルギーを回収するための改良されたアプローチ及び方法を提供する蒸気濃度セルに対する必要性が存在していることが理解される。従って、本発明が主に対象とするのは、そのようなものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
蒸気濃度エネルギー変換器は、高水蒸気分圧領域(high water vapor partial pressure region)と低水蒸気分圧領域(low water vapor partial pressure region)との間に生じる水蒸気分圧差から電力を生成する。蒸気濃度エネルギー変換器は、電気負荷コントローラと、高水蒸気分圧領域を低水蒸気分圧領域から少なくとも部分的に分離するハウジングと、ハウジングに結合され電気負荷コントローラに電気的に結合されたイオン伝導膜電極アセンブリ(ion conductive membrane electrode assembly)とを備える。イオン伝導膜電極アセンブリは、高水蒸気分圧領域と流体連通する第1電極と、低水蒸気分圧領域と流体連通する第2電極と、第1電極と第2電極との間に配置されたイオン伝導膜とを有する。第1電極は、高水蒸気分圧領域の水を酸化してプロトンと電子を生成し、プロトンはイオン伝導膜を介して第2電極に伝導される。電子は外部回路または負荷を介して第2電極に送られ、そこでプロトンと再結合し、還元反応において酸素と反応して水を生成する。膜電極アセンブリは、プロトンまたは水素を通過させるが、分子水(molecular water)の通過を実質的に防止するバリア層を含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の好ましい形態における蒸気濃度エネルギー変換器の概略図である。
図2】人が装着している図1の蒸気濃度エネルギー変換器の斜視図である。
図3】エンジンの排気に連結されて示された図1の蒸気濃度エネルギー変換器の概略図である。
図4】水蒸発を利用して示された図1の蒸気濃度エネルギー変換器の概略図である。
図5図1の蒸気濃度エネルギー変換器の出力電流密度を示すグラフである
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の好ましい実施形態の以下の詳細な説明は、添付図面と併せて読むとより良く理解されるであろう。本発明を説明するために、図面には現在好ましい実施形態が示されている。しかしながら、本発明は、示された正確な配置及び手段に限定されないことが理解される。
【0014】
次に図面を参照すると、本発明の好ましい形態の蒸気濃度エネルギー変換器1が示されている。「ジョンソン周囲エネルギー変換器(Johnson Ambient Energy Converter)」と題する米国特許出願公開第2021/0249717号明細書は、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。蒸気濃度エネルギー変換器1は、直列に電気的に接続された膜電極アセンブリ(MEA:Membrane Electrode Assembly)セル18のアレイ又はシリーズ(array or series)を有する。MEAセル18のアレイは、高水蒸気分圧領域9と低水蒸気分圧領域13との間のセパレータとして構成されている。また、ハウジング30を利用して、高水蒸気分圧領域9を低水蒸気分圧領域13から分離しても良い。MEAセル18のアレイは、電線管(electrical conduit)3を介して負荷/コントローラ2に電気的に結合される。
【0015】
各MEAセル18は、好ましくはプロトン伝導膜(proton conductive membrane)、特に水素伝導膜(hydrogen conductive membrane)であるイオン伝導膜10によって互いに分離された高水蒸気分圧電極6及び低水蒸気分圧電極8を有する。電極6及び電極8は、電線管3に電気的に結合されている。電極6は、触媒として作用する白金材料で作製されることが好ましいが、多孔質粉末白金材料のような触媒を添加した他の材料から作製することもできる。
【0016】
負荷/コントローラ2はまた、負荷4を含む回路に結合される。
【0017】
使用時、MEAセル18のアレイは、負荷/コントローラ2の有用な要件を満たすのに十分な総電圧を提供する。負荷/コントローラ2は、予め選択された電圧レベル条件下でMEAセル18のアレイから電流を引き出すように動作する。結果として抽出された電力は、それに接続された負荷4に直接的に貯蔵または供給することができる。水蒸気分圧差によって駆動されて水素が高水蒸気分圧領域9から低水蒸気分圧領域13に輸送されると、負荷/コントローラ2への出力電力が生成される。セルの電圧は次式で定義される。
【0018】
【数1】
ここで、P6H2O及びP8H2Oはそれぞれ電極6及び電極8における水の分圧であり、P6O2及びP8O2はそれぞれ電極6及び電極8における酸素の分圧である。Rは世界共通の気体定数、Fはファラデー定数、Tは温度である。
【0019】
蒸気濃度エネルギー変換器1の動作は、MEAセル18のアレイの個々のセルを調べることによって理解することができる。水蒸気12は電極6に入り、酸化されてプロトン4Hになり、得られた酸素Oは、矢印19で示すように、高水蒸気分圧領域9側の環境に放出して戻される。反応からのプロトン(2H)は、矢印21で示すように、膜10を通って電極8に伝導され、電子は矢印15で示すように、負荷/コントローラ2を通って送られる。電極8に入るプロトン及び電子は、低水蒸気分圧領域13側の酸素と反応して水を生成し、この水は、矢印14で示すように、続いて放出される。MEAセル18のアレイの電気的相互接続は、プロトン4Hが水の分圧差の下でアレイ内の各MEAセル18のイオン伝導膜10を通って並行して伝導されるときに、電極6と電極8との間の電子電流の流れを結合する。膜10は、単一の膜または個々に分離した膜のアレイであって良い。正味の効果は、水が高水蒸気分圧領域9側で電極6に入り、電極8で(異なる水分子であるが)低水蒸気分圧領域13側で出る水蒸気圧力差によって駆動される電気化学反応による電力の発生である。
【0020】
イオン伝導膜10は、高いバリア性を有し、電気分解されることなく水分子が低水蒸気分圧領域13側へ移動するのを防止することが理想的である。このような移動を防止するために、薄いイオン伝導性バリア11が含まれても良い。デラウェア州ウィルミントンのE. I. DuPont De Nemours and Companyにより製造された商品名Nafionとして販売されているような多くのプロトン伝導膜材料は、それ自体吸湿性であり、イオン伝導を促進するために必要な成分として水を必要とする。イオン伝導性バリア11は、電気分解されることなく、水が膜を通過すること、膜に水が吸収されること、膜に水が凝縮することを防止する。イオン伝導性バリア11はまた、パラジウムまたはタンタルのような水素透過性金属であっても良く、またはそれはイットリウムをドーピングしたジルコニウム酸バリウム(YBaZrO)のようなプロトン伝導性バリア材料であっても良い。
【0021】
図2は、蒸気濃度エネルギー変換器1を使用して、周囲空気に対する身体の発汗によって生じる水蒸気分圧差を使用して電力を生成することを示している。ヒトの皮膚からの水分の蒸発はかなり連続的なプロセスである。この実施形態では、MEAセル18のアレイは、リストバンド50のような衣服の形態のハウジング内に組み込まれる。リストバンド50の下の皮膚からの水分蒸発は、反対側の周囲空気に露出された側の低水蒸気分圧領域に対して高水蒸気分圧領域を形成する。蒸気濃度エネルギー変換器1は、圧力差の下で前述したように動作する。
【0022】
図3は、蒸気濃度エネルギー変換器1の実施形態を示しており、ここでは、MEAセル18のアレイが、内燃機関の排気管又は管20を含むハウジング内に取り付けられて示されている。化石燃料燃焼排ガスには、水(HO)、二酸化炭素(CO)、窒素(N)、一酸化炭素(CO)、残留未燃焼・部分燃焼燃料(HC)が含まれる。MEAセル18のアレイを介した発電反応/還元プロセスは、前述のように水蒸気分圧差によって駆動される。ただし、この場合、追加のメリットが発生する。水が高水蒸気分圧領域または排気側で電極中で電気分解されるときに水によって放出される酸素は、排気中のCO及びHCと反応するのに利用可能であり、その結果、これらの成分は除去され、追加的なHO及びCOを生じる。
【0023】
図4は、蒸気濃度エネルギー変換器1の実施形態を示しており、MEAセル18のアレイは、水が蒸発する管部分の形態のハウジング内に取り付けられている。液体水が管20を通って流れると、送風機22が管20の外面を横切って空気流又は空気を送り、水の蒸発及び輸送を促進する。管の外側を流れる空気の水蒸気分圧に対して管内の水の蒸気圧が高いほど、発電プロセスが駆動される。管20内の流れは、管18内のMEAセル電極6で水が電気分解され、酸素が流れ中に放出され、水素イオンがプロトン伝導膜10を通って伝導されるので、液体水と酸素の混合物となる。電子は、負荷/コントローラ2及びアレイ内の個々のMEAセルを介して直列に送られ、電極6を出た電子は電極8に入る。プロトン及び電子は、電極8内で周囲の酸素と反応して水を生成し、この水は続いて管20の外面上を流れる周囲空気に放出される。この場合、水の相変化が与えられると、セルの電圧は主に水の蒸発エントロピーによって次のように定義される。
【0024】
【数2】
ここでΔSは水の気化熱、Fはファラデー定数である。水の酸化還元は、以下の式で与えられるように、グラム当たり1600クーロンの電子を生成する。
【0025】
【数3】
ここで、nはプロセスに関与する電子の数(水分子あたり2)、Aはアボガドロ数(6.02×1023)、Eは単一電子の電荷(1.602×10-19)、MWは水の分子量(18g)である。値を代入すると、1グラムあたり1607クーロンになる。0.233Vでは、管から蒸発した水1グラム当たりのエネルギーは374Watt.sec/gであり、これは蒸発した水1kg当たり104Whの電気(104Wh/kg)に相当する。
【0026】
図5に示すように、膜電極アセンブリ(MEAセル18)が可逆プロセスの必要な近似を達成しようとする場合、出力電流密度は比較的低くなる。電流引き込み(current draw)が増加すると、流入電極6及び流出電極8における水の酸化及び還元のためのインピーダンス及び活性化電圧損失は、それぞれセルの開回路電圧(open circuit voltage)から発散する。非常に低い電流では、電力に変換された水の蒸発熱は、水を液体に戻すための凝縮熱入力とほぼ同等である。理想的なシステムでは、生成された電力は入熱(heat input)にほぼ等しい。
【0027】
従来技術は一般に、濃度差が適用されるガスのイオンを伝導する膜を必要とする濃度セル(concentration cell)を教示してきた。本発明は、ガス濃度差からエネルギーを抽出するための手段として、相殺電気分解(canceling electrolyzing)及び還元反応の使用を教示する。一対の電極に挟持されたイオン伝導膜を含む膜電極アセンブリ(MEAセル18)は、異なる蒸気濃度レベルを有し、それによって異なる蒸気圧又は分圧を有するガスの体積を分離する。蒸気がセルの高濃度側の電極に入り、電気分解されて酸素が放出され、プロトンが膜を通って反対側の電極に伝導される。電子は、外部回路または負荷を介して対向電極に送られ、そこでプロトンと再結合し、還元反応において酸素と反応して水を生成する。水素はシステム中でガスとして利用できないが、水素イオン伝導性の膜の使用は、濃度差ガス種(concentration differential gas species)として蒸気を使用するセルの効果的な運転をもたらす。複数のセルは、有用な電圧レベルを達成するために、電気的に直列接続されたアレイに構成される。負荷コントローラは電圧レベルを監視し、電圧レベルが有用なエネルギーを提供するのに十分であるときに電流を抽出する。
【0028】
広範な発明概念から逸脱することなく、上述の実施形態に変更を加えることができることは当業者には理解されるであろう。従って、本発明は開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神及び範囲内の修正をカバーすることが意図されていることが理解される。
図1
図2
図3
図4
図5