(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】IDH1阻害剤耐性対象の治療方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/5365 20060101AFI20240329BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240329BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240329BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
A61K31/5365
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2022557868
(86)(22)【出願日】2021-03-22
(86)【国際出願番号】 US2021023452
(87)【国際公開番号】W WO2021194953
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-12-28
(32)【優先日】2020-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】594197872
【氏名又は名称】イーライ リリー アンド カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【氏名又は名称】呉 英燦
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】ブルックス,ネイサン アーサー
(72)【発明者】
【氏名】ギルモア,レイモンド
【審査官】松浦 安紀子
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-502157(JP,A)
【文献】特表2019-517579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00 ~ 33/44
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IDH1
R132H、R132C、またはR132L変異および1つ以上の二次IDH1変異があるヒト対象における癌の治療に使用するための、下記の式
【化1】
[式中、
R
1は-CH
2CH(CH
3)
2、-CH
2CH
3、-CH
2CH
2OCH
3、または-CH
2-シクロプロピルであり、
R
2は-CH
3または-CH
2CH
3であり、
XはNまたはCHである]
の化合物またはその薬学的に許容される塩を含む、薬学的組成物
であって、前記1つ以上の二次IDH1変異がR119P、G131A、D279N、S280F、G289D、またはH315Dのうちの1つ以上である、薬学的組成物。
【請求項2】
XがNである、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
R
1が-CH
2-シクロプロピルである、請求項1または2に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
R
2が-CH
2CH
3である、請求項1~3のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記化合物が、
7-[[(1S)-1-[4-[(1R)-2-シクロプロピル-1-(4-プロパ-2-エノイルピペラジン-1-イル)エチル]フェニル]エチル]アミノ]-1-エチル-4H-ピリミド[4,5-d][1,3]オキサジン-2-オン、
7-[[(1S)-1-[4-[(1S)-2-シクロプロピル-1-(4-プロパ-2-エノイルピペラジン-1-イル)エチル]フェニル]エチル]アミノ]-1-エチル-4H-ピリミド[4,5-d][1,3]オキサジン-2-オン、または
1-エチル-7-[[(1S)-1-[4-[1-(4-プロパ-2-エノイルピペラジン-1-イル)プロピル]フェニル]エチル]アミノ]-4H-ピリミド[4,5-d][1,3]オキサジン-2-オン、
またはその薬学的に許容される塩である、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記化合物が、
【化2】
またはその薬学的に許容される塩である、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
前記化合物が、
【化3】
である、請求項6に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
前記癌が固形腫瘍癌である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
前記固形腫瘍癌が、胆管癌、頭頸部癌、軟骨肉腫、肝細胞癌、黒色腫、膵臓癌、星状細胞腫、乏突起膠腫、神経膠腫、膠芽腫、膀胱癌、結腸直腸癌、肺癌、または鼻副鼻腔未分化癌である、請求項
8に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
前記固形腫瘍癌が胆管癌である、請求項
9に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
前記癌が血液悪性腫瘍である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項12】
前記血液悪性腫瘍が、急性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群骨髄増殖性腫瘍、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫、T細胞急性リンパ芽球性白血病、真性赤血球増加症、本態性血小板血症、原発性骨髄線維症、または慢性骨髄性白血病である、請求項
11に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
前記血液悪性腫瘍が急性骨髄性白血病である、請求項
12に記載の薬学的組成物。
【請求項14】
前記対象が、下記の式
【化4】
[式中、
R
1は-CH
2CH(CH
3)
2、-CH
2CH
3、-CH
2CH
2OCH
3、または-CH
2-シクロプロピルであり、
R
2は-CH
3または-CH
2CH
3であり、
XはNまたはCHである]
の化合物またはその薬学的に許容される塩、
以外の変異体IDH1阻害剤で治療されていた対象である、請求項1~
13のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項15】
前記対象がイボシデニブで治療されていた対象である、請求項
14に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本明細書に開示される変異体イソクエン酸デヒドロゲナーゼ1(IDH1)阻害剤による対象に対する癌の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
IDH1は、イソクエン酸塩のα-ケトグルタル酸(α-KG)への変換を触媒し、ニコチンアミド・アデニンジヌクレオチドリン酸(NADP+)をNADPHに還元する酵素である(Megias-Vericat Jら、Blood Lymph.Cancer:Targets and Therapy 2019;9:19-32)。
【0003】
IDH1のネオモルフィック(デノボ)変異は、例えばIDH1アミノ酸残基R132において、固形腫瘍および血液悪性腫瘍を含むいくつかのタイプの癌における腫瘍形成に寄与する(Badur MGら、Cell Reports 2018;25:1680)。IDH1変異体は、細胞分化を阻害する高レベルの2-ヒドロキシグルタル酸(2-HG)をもたらすことがあり、変異体IDH1の阻害因子は、細胞分化を促進する2-HGレベルを低下させる可能性がある(Molenaar RJら、Oncogene 2018;37:1949-1960)。
【0004】
例えば、急性骨髄性白血病(AML)は、変異遺伝子の多様なスペクトルと、時間と共に、そして治療の選択圧下で、動的に進化する前白血病および白血病クローンを含むマルチクローナルゲノム構造によって特徴付けられている(Bloomfield CDら、Blood Revs.2018:32:416-425)。
【0005】
シタラビンとアントラサイクリン(「7+3」)による導入化学療法は、新たにAMLと診断された対象にとっての40年を超える標準治療である。近年、AMLを治療するために、ミドスタウリン、エナシデニブ、CPX-351、ゲムツズマブ・オゾガマイシン(BLoomfield CDら、Blood Revs.2018;32:416-425)、およびイボシデニブ(Megias-Vericat Jら,Blood Lymph.Cancer:Targets and Therapy 2019;9:19-32)の5つの治療薬が米国食品医薬品局(FDA)によって承認されている。
【0006】
AMLの成人の約60%から70%は、適切な導入療法の後に完全寛解(CR)状態の獲得を期待でき、AMLの成人の25%超(CRを獲得した人の約45%)は3年以上の生存を期待でき、治癒することもある。
【0007】
しかし、IDH1耐性変異はAML対象の7~14%で観察され、関連する高い2-HGレベルは、エピジェネティックな高メチル化表現型と分化のブロックをもたらし、白血病を発症する可能性がある(Megias-Vericat Jら、Blood Lymph.Cancer:Targets and Therapy 2019;9:19-3)。さらに、FLT3キナーゼの変異は、AML対象の約3分の1で観察されている(Lee HJら、Oncotarget 2018;9:924-936)。
【0008】
本明細書で定義されるいわゆる「二次」IDH1変異は、変異体IDH1阻害剤による治療後の再発に寄与し得る。例えば、現在までに、6つのイボシデニブ治療後二次IDH1変異、R119P、G131A、D279N、S280F、G289D、H315Dが報告されている(Choe S.ら、「分子機構媒介はIDH1変異体の再発または難治性の急性骨髄性白血病の対象における続くイボシデニブ単剤療法を関連付ける」、61st Am.Soc.Hematol.(ASH)年次総会ポスター、2019年12月7~10日、米国フロリダ州オーランド;Choe S.ら、Blood Adv. 2020;4(9):1894-1905)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、特に最初の変異体IDH1阻害剤療法後に二次的なIDH1変異が発生した対象に対しては、代替変異体IDH1関連癌療法の必要性が残る。
【0010】
アロステリック結合ポケット内の単一のシステイン(Cys269)を修飾し、酵素を迅速に不活性化し、α-KGレベルに影響を与えることなく2-HG産生を選択的に阻害する変異体IDH1の共有結合阻害剤である「化合物A」として本明細書で定義される化合物を含む、ある変異体IDH1阻害剤が国際公開第2018/111707号A1に開示されている(国際公開第18/111707 A1)。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、IDH1 R132変異および1以上の二次的IDH1変異を有するヒトの癌対象に、式Iで示される化合物、
【化1】
I
式中、
R
1は、CH
2CH(CH
3)
2、-CH
2CH
3、-CH
2CH
2OCH
3、または-CH
2-シクロプロピル、
R
2は-CH
3または-CH
2CH
3、
XはNまたはCHであり、
またはその薬学的に許容される塩、の治療上有効量を投与することを含む、癌を治療する方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の方法の一実施形態では、式Iの化合物において、XはN、またはその薬学的に許容される塩である。別の実施態様において、XはN、R1が-CH2-シクロプロピル、R2が-CH2CH3、またはその薬学的に許容される塩である。別の実施態様において、XはN、R1は-CH2-シクロプロピル、R2は-CH2CH3である。
【0013】
別の実施態様として、式Iの化合物は、
7-[[(1S)-1-[4-[(1R)-2-シクロプロピル-1-(4-プロップ-2-エノイルピペラジン-1-イルチ)エチル]フェニル]エチル]アミノ]-1-エチル-4H-ピリミド[4,5-d],[1,3]オキサジン-2-オン、
7-[[(1S)-1-[4-[(1S)-2-シクロプロピル-1-(4-プロパ-2-エノイルピペラジン-1-イル)エチル]フェニル]]アミノ]-1-エチル-4H-ピリミド[4,5-d][1,3]オキサジン-2-オン、または
またはそのいずれか1つの薬学的に許容される塩である。
【0014】
別の態様において、式Iの化合物は、7-[[(1S)-1-[4-[(1S)-2-シクロプロピル-1-(4-プロップ-2-エノイルピペラジン-1-イル)エチル]フェニル]エチル]アミノ]-1-エチル-4H-ピリミド[4,5-d][1,3]オキサジン-2-オンである。
【0015】
別の実施態様において、式Iの化合物は、
【化2】
(本明細書において「化合物A」とする)、またはその薬理学的に許容される塩である。
別の実施態様において、前記化合物は化合物Aである。
【0016】
本発明の方法の一実施形態において、前記R132変異はR132Hである。別の実施形態では、IDH1変異はR132Cである。別の実施形態において、IDH1変異はR132Gである。別の実施形態において、IDH1変異はR132Lである。別の実施形態において、IDH1変異はR132Sである。
【0017】
本発明の方法の一実施形態において、前記1以上の二次IDH1変異は、R119PIシステム、G131A、D279N、S280F、G289DまたはH315Dのうちの1以上である。別の実施形態では、前記二次IDH1変異は、R119P、G131A、D279N、S280F、G289DまたはH315Dのうちの2つ以上である。
【0018】
別の実施形態では、対象はR132 IDH1変異があると特定される。別の実施形態において、対象は組織においてR132 変異があると特定される。
【0019】
別の実施形態において、対象は1以上の二次IDH1変異があると特定される。
【0020】
別の実施態様において、癌は血液悪性腫瘍であり、対象は血液、骨髄、リンパ節またはリンパ液においてR132 IDH1変異があると特定される。別の実施形態において、対象は血液細胞、骨髄細胞、または血液細胞、またはリンパ節細胞、またはリンパ液細胞においてR132 IDH1変異があると特定される。別の実施形態において、対象は1以上の二次IDH1変異があると特定される。
【0021】
別の実施形態において、癌は固形腫瘍癌であり、対象は固形腫瘍組織にR132 IDH1変異があると特定される。別の実施態様において、固形腫瘍組織は胆管癌組織である。別の実施形態において、対象は、固形腫瘍組織細胞にR132 IDH1変異があると特定される。別の実施形態において、対象は1以上の二次IDH1変異があると特定される。
【0022】
本発明の方法の一実施形態において、癌は固形腫瘍である。別の実施形態において、固形腫瘍は、胆管癌、頭頸部癌、軟骨肉腫、肝細胞癌、黒色腫、膵臓癌、星状細胞腫、乏突起膠腫、神経膠腫、膠芽腫、膀胱癌、結腸直腸癌、肺癌、または鼻副鼻腔未分化癌である。別の実施形態において、肺癌は非小細胞肺癌である。別の実施形態において、固形腫瘍は胆管癌である。
【0023】
別の態様において、癌は血液悪性腫瘍である。別の態様において、血液悪性腫瘍は、急性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群骨髄増殖性腫瘍、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫、T細胞急性リンパ芽球性白血病、真性赤血球増加症、本態性血小板血症、原発性骨髄線維症または慢性骨髄性白血病である。別の態様において、血液悪性腫瘍は急性骨髄性白血病である。
【0024】
別の実施形態において、対象は式Iの化合物以外の変異体IDH1阻害剤で処置されていた。別の実施形態において、式Iの化合物以外の変異体IDH1阻害剤は、ボラシデニブ、BAY-1436032、AGI-5198、IDH305、またはイボシデニブである。別の実施形態において、式Iの化合物以外の変異体IDH1阻害剤はイボシデニブである。別の態様において、対象は、式Iの化合物で治療する前に、式Iの化合物以外の変異体IDH1阻害剤で治療されていた。
【0025】
本発明はまた、IDH1 R132変異および1以上の二次IDH1変異があるヒト対象における癌の治療において用いられる式Iの化合物:
【化3】
I
式中、
R
1は、-CH
2CH(CH
3)
2、-CH
2CH
3、-CH
2CH
2OCH
3、または-CH
2-シクロプロピルであり、
R
2は-CH
3または-CH
2CH
3であり、
XはNまたはCHであり、
またはその薬学的に許容される塩、を提供する。
【0026】
前記式Iの化合物において、XはN、またはその薬学的に許容される塩であることが好ましく、R1が-CH2-シクロプロピル、またはその薬学的に許容される塩であることが好ましく、そしてR2が-CH2CH3、またはその薬学的に許容される塩であることが好ましく、XがN、R1が-CH2-シクロプロピル、R2が-CH2CH3、またはその薬学的に許容される塩であることがより好ましく、XがN、R1が-CH2-シクロプロピル、そしてR2が-CH2CH3であることが最も好ましい。
【0027】
式Iの好ましい化合物は、
7-[[(1S)-1-[4-[(1R)-2-シクロプロピル-1-(4-プロップ-2-エノイルピペラジン-1-イル)エチル]フェニル]エチル]アミノ]-1-エチル-4H-ピリミド[4,5-d][1,3]オキサジン-2-オン、
7-[[(1S)-1-[4-[(1S)-2-シクロプロピル-1-(4-プロパ-2-エノイルピペラジン-1-イル)エチル]フェニル]エチル]アミノ]-1-エチル-4H-ピリミド[4,5-d][1,3]オキサジン-2-オン、または
1-エチル-7-[[(1S)-1-[4-[1-(4-プロパ-2-エノイルピペラジン-1-イル)プロピル]フェニル]エチル]アミノ]-4H-ピリミド[4,5-d][1,3]オキサジン-2-オン、
またはそのいずれか1つの薬学的に許容される塩である。
【0028】
式Iのより好ましい化合物は、
【化4】
(化合物A)、またはその薬学的に許容される塩である。
【0029】
本発明の別の実施形態において、癌は再発癌である。別の実施形態において、前記再発癌は固形腫瘍癌である。別の実施形態において、前記再発固形腫瘍癌は胆管癌である。別の態様において、前記再発癌は血液悪性腫瘍である。別の態様において、前記再発血液悪性腫瘍は再発AMLである。
【0030】
本発明の別の実施形態において、前記癌は難治性癌である。別の実施形態において、前記難治性癌は固形腫瘍癌である。別の態様において、前記難治性固形腫瘍癌は胆管癌である。別の態様において、前記難治性癌は血液悪性腫瘍である。別の態様において、前記難治性血液悪性腫瘍は難治性AMLである。
【0031】
本発明の別の実施形態において、前記癌は進行癌である。別の実施形態において、前記進行癌は進行性固形腫瘍癌である。別の実施形態において、前記進行性固形腫瘍癌は胆管癌である。別の態様において、前記進行癌は進行性血液悪性腫瘍である。別の態様において、前記進行性血液悪性腫瘍は進行性AMLである。
【0032】
別の態様において、前記AMLは急性前骨髄球性白血病である。
【0033】
上記で使用したように、および本発明の説明全体を通して、以下の用語は、特に示さない限り、以下の意味を有すると理解するものとする。
【0034】
「血液組織」とは、血液、骨髄、脾臓、リンパ節、またはリンパ液を指す。
【0035】
「固形腫瘍組織」とは、血液学的組織ではない組織を指す。固形組織の非限定的な例は、胆管組織、膵臓組織、頭部組織、頸部組織、肝組織、皮膚組織、星状細胞組織、乏突起膠状組織、神経膠組織、脳組織、膀胱組織、結腸直腸組織、肺組織、および鼻副鼻腔未分化癌である。
【0036】
「固形腫瘍癌」とは、前記癌が血液、骨髄、リンパ節またはリンパ液ではない組織に由来することを意味する。
【0037】
「血液悪性腫瘍」とは、血液、骨髄、リンパ節またはリンパ液中の癌に関するものである。
【0038】
「進行性血液悪性腫瘍」とは、リンパ節または血液または骨髄以外の他の組織に広がった悪性腫瘍を指す。
【0039】
「癌対象」とは、癌と診断された対象を意味する。
【0040】
「難治性癌」とは、治療はされたが、ヒトの癌対象が治療に反応しなかった癌を指す。
【0041】
「再発癌」とは、ヒトの癌対象が一定期間治療に反応したが、癌が再発したことを意味する。
【0042】
「進行癌」とは、リンパ節または癌の起点以外の他の組織に転移した癌を指す。例えば、進行性急性骨髄性白血病は、血液または骨髄以外の組織に広がっている急性骨髄性白血病である。
【0043】
「固形腫瘍対象」とは、固形腫瘍癌と診断された対象を意味する。一実施形態において、前記固形腫瘍癌は胆管癌である。
【0044】
「血液悪性腫瘍対象」とは、血液悪性腫瘍と診断された対象を意味する。一実施形態において、前記血液悪性腫瘍対象はAML対象である。「AML対象」とは、AMLと診断された対象を意味する。AMLを診断する方法は当業者に公知であり、例えば、Dohner H.ら、Blood 2017;129:424-447である。
【0045】
「急性骨髄性白血病」、「急性骨髄性白血病」および「急性非リンパ球性白血病」は同義語である。
【0046】
「血液悪性腫瘍(例えば、AML)治療に対する反応性」には、全生存、部分反応、長期にわたる安定した疾患の改善、または完全寛解を特徴とする長期生存の改善((赤血球輸血を必要とせず、末梢好中球絶対数が1,000細胞/μLを超え、血小板数が100,000/μLを超え、髄外疾患がないことから明らかなように)骨髄中5%未満の骨髄芽球、循環芽球の欠如、血液学的回復)を含む(Bloomfield CDら、Blood Revs.2018;32:416-425)。
【0047】
「IDH1 R132変異」とは、例えば、対象の核酸(例えば、DNA)で決定されるような、対象のIDH1遺伝子におけるアミノ酸残基132でのIDH1変異を指す。本明細書において、「IDH1 R132変異」は、「二次IDH1変異」ではない。
【0048】
「二次IDH1変異」とは、本明細書中の式Iの化合物以外の変異体IDH1阻害剤で治療した後にヒト対象において、IDH1酵素で生じるIDH1変異を指す。本発明の方法の一実施形態において、1以上の二次IDH1変異は、IDH1におけるR119P、G131A、D279N、S280F、G289DまたはH315Dのうちの1以上である。しかしながら、将来的には他の二次IDH1変異が報告されることもある。本明細書において、「二次IDH1変異」は、「IDH1 R132変異」ではない。
【0049】
「変異体IDH1阻害剤」とは、変異体IDH1酵素による2-HGの酵素活性および/または産生を阻害する化合物を指す。変異体IDH1酵素活性をアッセイする方法は当業者に公知であり、例えば、国際公開第2018/111707 A1号などである。「変異体IDH1阻害剤」において、「変異体」とはIDH1遺伝子を指し、阻害剤ではない。
【0050】
「IDH1 R132変異があると特定される」とは、ヒト対象がIDH1 R132変異を有するかを決定するために、ヒト対象の組織または細胞からの核酸(例えばDNA)が分析されたことを意味する。一実施形態において、ヒト対象の血液細胞、骨髄細胞、リンパ節、リンパ節細胞、リンパ液またはリンパ液細胞のうちの1以上が、IDH1 R132変異について分析されている。別の実施形態では、ヒト対象の固体組織は、IDH1 R132変異について分析されている。
【0051】
本発明の方法において、IDH1 R132変異があるとヒト対象を特定する当事者は、化合物を投与する当事者とは異なっていてもよい。一実施形態において、IDH1 R132変異があるとヒト対象を特定する当事者は、化合物を投与する当事者とは異なる。
【0052】
「1以上の二次IDH1変異があると特定される」とは、ヒト対象に1以上の二次IDH1変異があるかを決定するために分析された、ヒト対象の血液細胞、骨髄細胞、リンパ節、リンパ節細胞、リンパ液またはリンパ液細胞のうちの1以上からの核酸(例えば、DNA)が分析されたことを意味する。
【0053】
遺伝子変異を特定する分析方法は当業者に公知であり(Clark,O.ら、Clin.Cancer.Res.2016;22:1837-42)、染色体分析(Guller JLら,J.Mol.Diagn.2010;12:3-16)、蛍光in situハイブリダイゼーション(Yeung DTら、Pathology 2011;43:566-579),サンガー配列決定(Lutha,Rら、Haematologica 2014;99:465-473),代謝プロファイリング(Miyata Sら,Scientific Reports 2019;9:9787)、ポリメラーゼ連鎖反応(Ziai,JM and AJ Siddon,Am.J. Clin.Pathol 2015;144:539-554)、および次世代配列決定(例えば、全トランスクリプトー配列決定)(Lutha,Rら,Haematologica 2014;99:465-473;Wang H-Yら、J.Exp.Clin.Cancer Res.2016;35:86)を含むがそれだけには限定されない。
【0054】
「治療」、「治療する」、「治療している」等とは、癌の進行を遅らせる、防ぐ、または止めることを含むことを意味する。これらの用語はまた、癌が実際に排除されない場合であっても、および癌の進行自体を遅らせる、防ぐ、または止めていなくても、障害または疾患の1以上の症状を緩和、改善、減弱、排除、または軽減することを含む。
【0055】
「治療上有効量」は、被験体に対する生物学的もしくは医学的反応または所望の治療効果を惹起する、被験体に投与される化合物またはその薬学的に許容される塩の量を意味する。治療上有効量は、当業者として担当臨床医により、既知の技術を使用して類似の状況下で得られた結果を観察することによって容易に決定することができる。対象の有効量を決定する際に、担当医は、対象の体格、年齢および一般的な健康状態、関与する特定の疾患または障害、疾患または障害の程度や関与または重症度、個々の対象の反応、投与された特定の化合物、投与方法、投与された製剤のバイオアベイラビリティ特性、選択用法、併用薬の使用、およびその他の関連する状況を含むがこれらに限定されない要因を考慮する。
【0056】
本明細書における式Iの化合物は、経口、静脈内、経皮経路を含む、化合物を生物学的に利用可能にする経路によって投与される医薬組成物として任意に製剤化することができる。このような組成物は、経口投与用に製剤化されることが好ましい。このような医薬組成物およびその調製方法は、当該技術分野において周知である。(例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy (D.B. Troy、Editor、21st Edition、Lippincott、Williams&Wilkins,2006)を参照のこと)。
【0057】
「薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤」は、哺乳動物、例えばヒトへの生物学的活性剤の投与のために当技術分野で一般的に受け入れられている媒体である。
【0058】
当業者には、本発明の方法で投与される化合物が塩を形成することができることが理解されよう。化合物は、多数の無機酸および有機酸のいずれかと反応して、薬学的に許容される酸付加塩を形成する。このような薬学的に許容される酸付加塩およびそれらを調製するための一般的な方法論は、当該技術分野において周知である。例えば、P.Stahlら、HANDBOOK OF PHARMACEUTICAL SALTS:PROPERTIES,SELECTION AND USE,(VCHA/Wiley-VCH,2008)を参照のこと。
【0059】
「薬学的に許容される塩類」または「薬学的に許容される塩」は、本発明の化合物類の比較的無毒な無機および有機塩または塩類を指す(S.M.Bergeら、“Pharmaceutical Salts”,Journal of Pharmaceutical Sciences, Vol 66,No. 1,January 1977)。
【実施例】
【0060】
材料、方法および結果
化合物および製剤:イボシデニブおよび化合物Aは、100%DMSO(ジメチルスルホキシド)(SIGMA、D2438)中の20mMストックとして調製され、所望の濃度を達成するために100%DMSO中で順次希釈される。DMSO製剤は、アッセイで添加する前に細胞培養培地でさらに希釈される。
【0061】
細胞株:U-87MG細胞(ATCC、HTB-14)を2mM GlutaMAX(Gibco、35050)、1mMピルビン酸塩(Gibco、11360)、0.1mM NEAA((非必須アミノ酸)Gibco、11140)および10%透析FBS(ウシ胎児血清)(Gibco、26400)を用いて、MEM(Gibco、11095)で培養、アッセイする。Ba/F3細胞(DSMZ、ACC300)をRPMI1640(Gibco,22400)で10%加熱不活性化FBS(Gibco,10082-147)および10ng/mlマウスIL3(R&D Systems,403-ML-025)を用いて培養およびアッセイする。
【0062】
細胞ベースの阻害アッセイ:細胞ベースのアッセイは、IDH変異が発現しているU-87MG細胞またはBa/F3細胞のいずれかで、2-HGを測定することによって行われる。
【0063】
IDH1変異をコードするDNAコンストラクトは、トランスフェクション(Promega FuGENE HD,E2311)またはレンチウイルス形質導入を使用してU-87MG細胞に導入され、IDH変異発現細胞株は、ブラストサイジン(5μG/ml)またはピューロマイシン(1μG/ml)を使用して選択される。U-87MG細胞における化合物処理の場合、1ウェルあたり20,000~50,000細胞を、処理の2時間前に96ウェル細胞培養プレート(Falcon、353377)に播種する。細胞は、標準的な増殖培地中の化合物Aの連続希釈法で処理される。プレートを哺乳類細胞培養インキュベーター(加湿、37℃、5%CO2)で16~72時間培養する。培養期間後、培地を吸引し、30μL/ウェル溶解用緩衝液(25mM TRIS-HCL pH7.5)、150mM NaCl、1mM EDTA、1mM EGTA、1% Triton-X100、2X Haltプロテアーゼ+ホスファターゼ阻害剤(Pierce、78441)(誘導体化LC-MS法用)を添加するか、LC-MS内部標準物質を含む100μL80%メタノール/20%水(1μM13C4α-KG/13C52-HG)を添加することによって細胞を調製する(イオンペアリングLC-MS法用)。96ウェルサンプルプレートをその後密閉し、450rpmで10分間振とうした後、-20℃に置き、LC-MS分析まで保存する。
【0064】
BA/F3細胞は、NEONトランスフェクションシステム(ライフテクノロジーズ、MPK10025)を用いてIDH1R132H-myc、IDH1R132H_S280F-myc、またはIDH1R132C_S280F-myc構成体をエンコードするDNA構成体をトランスフェクトし、ピューロマイシン(2μG/mL)またはブラストサイジン(10μG/mL)を用いて単離する。安定的にトランスフェクトされたラインが阻害剤アッセイに使用され、1ウェルあたり15,000BA/F3細胞を、処理の2時間前に96ウェル細胞培養プレート(Falcon、353377)に播種する。細胞は標準的な増殖培地中で所望の化合物の連続希釈法で処理される。プレートを哺乳類細胞培養インキュベーター(加湿、37℃、5%CO2)中で所望の時間(72または96時間)培養する。培養期間に続いて、各ウェルから馴化培地を回収し、LC-MSによる2-HG分析を行う。
【0065】
馴化培地および細胞溶解物のLC-MS代謝物分析:2-HGの濃度に対する阻害剤の効果は、以下に説明するように、誘導体化法またはイオンペアリング法のいずれかを使用して、細胞溶解物または馴化培地の液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)の分析によって決定される。
【0066】
誘導体化LC-MS法では、2-HGとα-KGをそれぞれ細胞培養培地と細胞溶解バッファーにスパイクすることにより、検量線を作成する。この方法は、LC-MSによる分析の前にO-ベンジルヒドロキシルアミンによる誘導体化を利用する。各標準物質またはサンプル(培地または細胞抽出物)10μLをディープウェル96ウェルプレートに入れ、10μM d5-3-ヒドロキシグルタル酸および10μM d6-αKGを含む100μLの内部標準液と合わせる。ピリジンバッファー(8.6%ピリジン、pH5)中1MO-ベンジルヒドロキシルアミン50μLおよびピリジン緩衝剤中1M N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)50μLを各サンプルに加える。誘導体化反応は室温で1時間進行させる。ベックマンバイオメックFXリキッドハンドラーを使用して、300μLの酢酸エチルを各サンプルに加える。プレートを密閉し、5分間ボルテックスした後、エッペンドルフ5810R遠心分離機で4000rpmにて5分間遠心分離する。上層の220μLを新しい96ウェルプレートに移す。サンプルを50℃の加熱窒素下で乾燥させ、100μLのメタノール/水(1:1)で戻す。1μLの誘導体化サンプルを、島津製作所のProminence 20A HPLCシステムとThermo Quantum Ultra(商標)トリプル四重極質量分析計からなるLC-MSシステムに注入する。分析対象物は、0.6mL/分の流速でWater XBridge(商標)C18カラム(2.1×50mM、3.5μM)に分離される。移動相Aは水中の0.1%ギ酸であり、移動相Bはメタノールである。勾配プロファイルは、0分、5% B;2分、100% B;4.00分、100% B;4.1分、5% B; 5.50分、そして停止である。質量分析計は、陽イオン選択反応モニタリングモードで動作するHESI-IIプローブを利用する。検量線は、分析物濃度vs.分析物/内部標準ピーク面積比をプロットし、Xcalibur(商標)ソフトウェアで1/濃度重み付けを使用してデータの二次適合を実行することによって作成される。未知物質の分析物濃度は、検量線から逆算する。
【0067】
イオンペアリングLC-MS法では、LC-MS内部標準物質(1μM 13C4α-KG/13C52-HG)を含む80%メタノール/20%水に2-HGおよびα-KGをスパイクすることにより検量線を作成する。2-HGおよびα-KGの定量は、ESIプローブを備えたAB Sciex 6500質量分析計を使用して遂行され、負の多重反応モニタリング(MRM)モードでUHPLCシステムと連動する。UHPLCシステムは、Agilent 1290バイナリポンプ、サーモスタットカラムコンパートメント(TCC)、およびサンプラーで構成されている。細胞培養抽出物のための注入量は1μLである。抽出物は、Hypercurbカラム、2.1×20mm、5.0mmジャベリンHTS(サーモサイエンティフィック、PN:35005-022135)を使用してクロマトグラフィーで分解される。移動相Aは水/10mMトリブチルアミン/15mM酢酸である。移動相Bはアセトニトリル/20mMトリブチルアミン/30mM酢酸である。溶媒流量は1.0mL/分である。アイソクラチック条件は26%移動相Bに保たれる。バルブ、サンプルループ、およびニードルを50%アセトニトリル:50%メタノールで20秒間洗浄する。カラム温度は55℃に保たれる。検量線は、1/X重み付けによる最小二乗線形回帰によって計算される。2-HGおよびα-KGは、標準曲線および非被分析物のピーク面積と内部標準の比率を用いて定量される。データ解析は、MultiQuant 3.0(AB Sciex)を用いて行われる。生データはエクセルスプレッドシートにエクスポートされる。
【0068】
IC50曲線の決定:各化合物のIC50曲線は、GraphPad/Prismソフトウェアの4つのパラメータデータ適合解析を使用して取得する。
【0069】
基本的に上記のように実施された実験では、表1に記載の結果がIC50によって得られる。
【0070】
【0071】
表1の結果は、イボシデニブおよび化合物Aの各々が、各R132H細胞株構成体におけるR132H変異体IDH1の阻害に有効であることを示している。しかしながら、化合物Aは各細胞株構成体においてR132H_S280Fの変異体IDH1およびR132C_S280Fを阻害するのに有効であるが、イボシデニブはいずれかの細胞株構成体においてR132H_S280Fの変異体IDH1を阻害するのに有効ではなく、いずれかの細胞株構成においてR132C_S280Fの変異体IDH1を阻害するのにも有効ではない。
【0072】
基本的に上記のように実施された実験では、表2に記載のIC50結果が得られる。
【0073】
【0074】
表2の結果は、化合物AがIDH1 R132H、R132CまたはR132Lドライバー変異の関係においてIDH1の第二点耐性変異体を阻害するのに有効であることを示す。