(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】ワーク加工装置、砥石、およびワーク加工方法
(51)【国際特許分類】
B24B 9/00 20060101AFI20240329BHJP
B24B 41/06 20120101ALI20240329BHJP
B24B 53/07 20060101ALI20240329BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
B24B9/00 601G
B24B41/06 L
B24B53/07
H01L21/304 601B
(21)【出願番号】P 2023119334
(22)【出願日】2023-07-21
【審査請求日】2023-07-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521278782
【氏名又は名称】片山 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】片山 一郎
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-152259(JP,A)
【文献】特開平11-207585(JP,A)
【文献】特開2000-317789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 9/00
B24B 41/06
B24B 53/07
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円板状のワークを所望の断面形状に形成するためのワーク加工装置であって、
前記ワークを支持するワーク支持機構と、前記ワークに対して平行に配置される円板状の砥石と、前記砥石を支持する砥石支持機構と、を有し、
前記ワーク支持機構は前記ワークを回転させ、前記砥石支持機構は前記砥石を回転させ、前記ワーク支持機構による前記ワークの回転の中心となる回転軸と、前記砥石支持機構による前記砥石の回転の中心となる回転軸とは互いに平行であり、
前記ワーク支持機構は、前記ワークの片側の面のみを吸着する吸着部材を有し、前記吸着部材の平面形状は、前記ワークの半径よりも小さい半径の円形状であり、円形状の前記吸着部材の外周部分は、外側に向かうにつれて厚さが薄くなる先薄形状を有し、
前記砥石は外周部に凹状研削部分を有しており、前記凹状研削部分の、前記砥石の前記回転軸に沿う断面における断面形状は、外周側から内周側に向かって窪む凹状であり、少なくとも厚さ方向の両端部にそれぞれ円弧状部分を有し、前記両端部の前記円弧状部分の間に、前記ワークの厚さ以上の厚さを有
し前記ワークの直径を小さくすることと前記ワークの外周部の厚さ方向の中間部を平滑にすることとの少なくとも一方のための研削を行う直線部分を有する形状であり、
前記砥石と前記ワークは、前記砥石支持機構または前記ワーク支持機構によって互いに接近したり離れたりするように相対的に移動可能であり、
前記砥石支持機構または前記ワーク支持機構は、前記凹状研削部分と前記ワークとの接触部分が前記ワークの前記所望の断面形状に沿って移動するように前記砥石の前記円弧状部分の曲率半径に基づいて算出された移動条件に従って、前記砥石を前記ワークに対して相対的に移動させ、
前記砥石の前記円弧状部分が、前記ワークの前記所望の断面形状の面取り部との間に実質的に隙間が生じることなく前記ワークに当接するように、前記砥石の前記円弧状部分の曲率半径は少なくとも前記ワークの厚さの10倍以上であり、
前記ワークの前記吸着部材によって吸着される前記片側の面側に位置する前記円弧状部分は、前記砥石の前記回転軸に沿う断面において、
前記所望の断面形状の前記ワークの、前記片側の面側の前記面取り部の長さ以上であって、かつ、当該円弧状部分の接線が前記吸着部材の前記先薄形状の角度と一致する角度で延びる位置において前記ワークの前記片側の面側の端部と接する状態で前記吸着部材の前記先薄形状に当接する長さ未満
の長さを有していることを特徴とする、ワーク加工装置。
【請求項2】
円板状のワークを所望の断面形状に形成するためのワーク加工装置であって、
前記ワークを支持するワーク支持機構と、前記ワークに対して平行に配置される円板状の砥石と、前記砥石を支持する砥石支持機構と、を有し、
前記ワーク支持機構は前記ワークを回転させ、前記砥石支持機構は前記砥石を回転させ、前記ワーク支持機構による前記ワークの回転の中心となる回転軸と、前記砥石支持機構による前記砥石の回転の中心となる回転軸とは互いに平行であり、
前記ワーク支持機構は、前記ワークの片側の面のみを吸着する吸着部材を有し、前記吸着部材の平面形状は、前記ワークの半径よりも小さい半径の円形状であり、円形状の前記吸着部材の外周部分は、外側に向かうにつれて厚さが薄くなる先薄形状を有し、
前記砥石は外周部に凹状研削部分を有しており、前記凹状研削部分の、前記砥石の前記回転軸に沿う断面における断面形状は、外周側から内周側に向かって窪む凹状であり、少なくとも厚さ方向の両端部にそれぞれ円弧状部分と、前記円弧状部分よりも厚さ方向外側に位置して前記円弧状部分と連続的に繋がっている斜面部分と、を有し、前記両端部の前記円弧状部分の間に
、前記ワークの厚さ以上の厚さを有
し前記ワークの直径を小さくすることと前記ワークの外周部の厚さ方向の中間部を平滑にすることとの少なくとも一方のための研削を行う直線部分を有する形状であり、
前記斜面部分は、前記所望の断面形状の前記ワークの、前記片側の面側の面取り部の角度と一致する、前記円弧状部分と前記斜面部分との境界位置における前記円弧状部分の接線方向に沿って延びており、
前記砥石と前記ワークは、前記砥石支持機構または前記ワーク支持機構によって互いに接近したり離れたりするように相対的に移動可能であり、
前記砥石支持機構または前記ワーク支持機構は、前記凹状研削部分と前記ワークとの接触部分が前記ワークの前記所望の断面形状に沿って移動するように前記砥石の前記円弧状部分の曲率半径に基づいて算出された移動条件に従って、前記砥石を前記ワークに対して相対的に移動させ、
前記砥石の前記円弧状部分の曲率半径は少なくとも前記ワークの厚さの10倍以上であり、
前記ワークの前記吸着部材によって吸着される前記片側の面側に位置する前記斜面部分は、前記砥石の前記回転軸に沿う断面において、
前記所望の断面形状の前記ワークの、前記片側の面側の前記面取り部の長さ以上であって、かつ、前記ワークの前記片側の面に対して当該斜面部分が延びる方向がなす角度が、前記ワークの前記片側の面に対して前記吸着部材の前記先薄形状がなす角度よりも小さい場合に、前記円弧状部分の接線が前記吸着部材の前記先薄形状の角度と一致する角度で延びる位置において前記ワークの前記片側の面側の端部と接する状態で当該斜面部分が前記吸着部材の前記先薄形状に当接する長さ未
満の長さを有していることを特徴とする、ワーク加工装置。
【請求項3】
前記砥石の外周部に、前記凹状研削部分と、前記ワークと対向する面が前記回転軸に沿う断面において前記砥石の厚さ方向と平行な直線状である断面長方形状研削部分とが、厚さ方向に並んで設けられており、前記砥石の前記断面長方形状研削部分は、前記凹状研削部分による研削が行われる前の前記ワークの外周部に当接して、前記砥石が前記ワークの半径方向外側から内側に向けて移動することにより前記ワークの半径を小さくするように前記ワークを研削する部分である、請求項1または2に記載のワーク加工装置。
【請求項4】
前記吸着部材の半径r1は、前記ワークの前記所望の断面形状の半径r2と前記ワークの厚さtとによって表すと、r2-10t≦r1≦r2-5tであり、
前記吸着部材の前記先薄形状の角度θ1は、前記ワークの前記所望の断面形状の前記面取り部の角度θ2によって表すと、θ2-10≦θ1≦θ2+5である、請求項1または2に記載のワーク加工装置。
【請求項5】
前記砥石支持機構は、前記砥石が直接または間接的に取り付けられるスピンドルと、前記スピンドルを回転可能に支持する回転ベアリング部とを有し、前記砥石を、当該砥石の重心が当該砥石の取り付け位置と前記回転ベアリング部との間に位置するように支持する、請求項1または2に記載のワーク加工装置。
【請求項6】
前記砥石支持機構および前記ワーク支持機構は、前記ワークの一方の面側の外周部を研削する際には、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から一方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させ、前記ワークの前記他方の面側の外周部を研削する際には、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記他方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させ、
前記砥石支持機構および前記ワーク支持機構は、前記ワークの前記一方の面側または前記他方の面側の外周部の粗い研削を行う際には、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記一方の面または前記他方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させたら、前記砥石の前記ワークに対する相対的な移動を停止させ、
前記砥石支持機構および前記ワーク支持機構は、前記ワークの前記一方の面側または前記他方の面側の外周部の精密な研削を行う際には、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記一方の面または前記他方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させた後に、前記砥石を前記ワークに対して相対的に直線的に移動させる、請求項1または2に記載のワーク加工装置。
【請求項7】
前記凹状研削部分を有する前記砥石に加えて、前記ワークの外周の接線方向に対して斜めに配置されて前記砥石の前記凹状研削部分による研削よりも精密な研削に用いられる円板状の溝付き砥石と、前記溝付き砥石を支持する溝付き砥石支持機構と、をさらに有し、
前記溝付き砥石支持機構は前記溝付き砥石を回転させる、請求項1または2に記載のワーク加工装置。
【請求項8】
前記ワークに代えて前記ワーク支持機構に取り付け可能なツルーイング砥石をさらに有し、
前記ツルーイング砥石は、前記砥石支持機構または前記ワーク支持機構により、前記移動条件に従って前記砥石に対して相対的に移動させられることによって外形が形成されており、
前記溝付き砥石は、前記ツルーイング砥石に押し当てられて前記ツルーイング砥石の外形が転写されることによって溝が形成または整形されていることを特徴とする、請求項7に記載のワーク加工装置。
【請求項9】
前記ワーク支持機構は、前記ワーク支持機構の前記回転軸の温度を一定に保つための液体または気体の流れを発生させる温度調整機構を有する、請求項1または2に記載のワーク加工装置。
【請求項10】
請求項1または2に記載のワーク加工装置に含まれている前記砥石であって、
前記直線部分は前記円弧状部分よりも砥石粒度が粗い部分であって、前記円弧状部分は前記直線部分による研削よりも精密な研削に用いられる部分であることを特徴とする、砥石。
【請求項11】
請求項3に記載のワーク加工装置に含まれている前記砥石であって、
前記断面長方形状研削部分は前記凹状研削部分よりも砥石粒度が粗い部分であって、前記凹状研削部分は前記断面長方形状研削部分による研削よりも精密な研削に用いられる部分であることを特徴とする、砥石。
【請求項12】
請求項1または2に記載のワーク加工装置に含まれている前記砥石であって、
厚さ方向の一方の端部の前記円弧状部分と他方の端部の前記円弧状部分とは、それぞれの曲率半径の平均値が所望の大きさになるように個別に形成された部分であることを特徴とする、砥石。
【請求項13】
請求項1または2に記載のワーク加工装置に含まれている前記砥石であって、
厚さ方向の一方の端部の前記円弧状部分の曲率半径の最大値と最小値の差と、他方の端部の前記円弧状部分の曲率半径の最大値と最小値の差とが、いずれも第1の所定値以下であり、
厚さ方向の一方の端部の前記円弧状部分の曲率半径の平均値と、他方の端部の前記円弧状部分の曲率半径の平均値との差が、第2の所定値以下であることを特徴とする、砥石。
【請求項14】
請求項1または2に記載のワーク加工装置に含まれている前記砥石であって、
厚さ方向に延びるストレート状またはテーパ状の取付穴を有することを特徴とする、砥石。
【請求項15】
外周部に凹状研削部分を有しており回転可能な円板状の砥石であって、前記凹状研削部分の、前記砥石の回転軸に沿う断面における断面形状は、外周側から内周側に向かって窪む凹状であり、少なくとも厚さ方向の両端部にそれぞれ円弧状部分を有し、前記両端部の前記円弧状部分の間に、前記ワークの厚さ以上の厚さを有
し前記ワークの直径を小さくすることと前記ワークの外周部の厚さ方向の中間部を平滑にすることとの少なくとも一方のための研削を行う直線部分を有する形状である砥石を用いて、円板状のワークを所望の断面形状に形成するためのワーク加工方法であって、
前記ワークと前記砥石とを互いに平行に配置するステップと、
前記砥石を回転させるとともに、前記砥石の前記回転軸と平行な回転軸を中心として前記ワークを回転させつつ、前記凹状研削部分と前記ワークとの接触部分が前記ワークの前記所望の断面形状に沿って移動するように前記砥石の前記円弧状部分の曲率半径に基づいて算出された移動条件に従って、前記砥石を前記ワークに対して相対的に移動させるステップと、を含み、
前記砥石を前記ワークに対して相対的に移動させるステップは、
片側の面のみが吸着部材によって吸着された前記ワークと
、前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から一方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させることにより、前記ワークの前記一方の面側の外周部を研削
して前記ワークの前記所望の断面形状の面取り部を形成することと、
前記砥石を前記ワークの外周端面に沿って前記一方の面側から他方の面側へ前記ワークに対して相対的に移動させることと、
前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記他方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させることにより、前記ワークの前記他方の面側の外周部を研削
して前記ワークの前記所望の断面形状の面取り部を形成することと、を含み、
前記吸着部材の平面形状は、前記ワークの半径よりも小さい半径の円形状であり、円形状の前記吸着部材の外周部分は、外側に向かうにつれて厚さが薄くなる先薄形状を有し、前記砥石の前記円弧状部分が、前記ワークの前記所望の断面形状の前記面取り部との間に実質的に隙間が生じることなく前記ワークに当接するように、前記砥石の前記円弧状部分の曲率半径は少なくとも前記ワークの厚さの10倍以上であり、
前記ワークの前記吸着部材によって吸着される前記片側の面側に位置する前記円弧状部分は、前記砥石の前記回転軸に沿う断面において、前記所望の断面形状の前記ワークの、前記片側の面側の前記面取り部の長さ以上であって、かつ、当該円弧状部分の接線が前記吸着部材の前記先薄形状の角度と一致する角度で延びる位置において前記ワークの前記片側の面側の端部と接する状態で前記吸着部材の前記先薄形状に当接する長さ未満の長さを有しており、
前記ワークの前記一方の面側または前記他方の面側の外周部の粗い研削を行う際には、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記一方の面または前記他方の面に向かって、前記砥石の前記回転軸と前記ワークの前記回転軸とが同一平面内に位置するように、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させたら、前記砥石の前記ワークに対する相対的な移動を停止させ、
前記ワークの前記一方の面側または前記他方の面側の外周部の精密な研削を行う際には、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記一方の面または前記他方の面に向かって、前記砥石の前記回転軸と前記ワークの前記回転軸とが同一平面内に位置するように、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させた後に、曲線的な移動の際に前記砥石の前記回転軸と前記ワークの前記回転軸とが位置していた前記平面に対して垂直または斜めに交差する方向に延びる平面内において前記砥石の前記回転軸と前記ワークの前記回転軸とが相対的に移動するように、前記砥石を前記ワークに対して相対的に直線的に移動させることを特徴とする、ワーク加工方法。
【請求項16】
外周部に凹状研削部分を有しており回転可能な円板状の砥石であって、前記凹状研削部分の、前記砥石の回転軸に沿う断面における断面形状は、外周側から内周側に向かって窪む凹状であり、少なくとも厚さ方向の両端部にそれぞれ円弧状部分と、前記円弧状部分よりも厚さ方向外側に位置して前記円弧状部分と連続的に繋がっている斜面部分と、を有し、前記両端部の前記円弧状部分の間に
、前記ワークの厚さ以上の厚さを有
し前記ワークの直径を小さくすることと前記ワークの外周部の厚さ方向の中間部を平滑にすることとの少なくとも一方のための研削を行う直線部分を有する形状である砥石を用いて、円板状のワークを所望の断面形状に形成するためのワーク加工方法であって、
前記ワークと前記砥石とを互いに平行に配置するステップと、
前記砥石を回転させるとともに、前記砥石の前記回転軸と平行な回転軸を中心として前記ワークを回転させつつ、前記凹状研削部分と前記ワークとの接触部分が前記ワークの前記所望の断面形状に沿って移動するように前記砥石の前記円弧状部分の曲率半径に基づいて算出された移動条件に従って、前記砥石を前記ワークに対して相対的に移動させるステップと、を含み、
前記砥石を前記ワークに対して相対的に移動させるステップは、
片側の面のみが吸着部材によって吸着された前記ワークと
、前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から一方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させることにより、前記ワークの前記一方の面側の外周部を研削
して前記ワークの前記所望の断面形状の面取り部を形成することと、
前記砥石を前記ワークの外周端面に沿って前記一方の面側から他方の面側へ前記ワークに対して相対的に移動させることと、
前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記他方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させることにより、前記ワークの前記他方の面側の外周部を研削
して前記ワークの前記所望の断面形状の面取り部を形成することと、を含み、
前記吸着部材の平面形状は、前記ワークの半径よりも小さい半径の円形状であり、円形状の前記吸着部材の外周部分は、外側に向かうにつれて厚さが薄くなる先薄形状を有し、前記砥石の前記円弧状部分の曲率半径は少なくとも前記ワークの厚さの10倍以上であり、
前記斜面部分は、前記所望の断面形状の前記ワークの、前記片側の面側の前記面取り部の角度と一致する、前記円弧状部分と前記斜面部分との境界位置における前記円弧状部分の接線方向に沿って延びており、
前記ワークの前記吸着部材によって吸着される前記片側の面側に位置する前記斜面部分は、前記砥石の前記回転軸に沿う断面において、前記所望の断面形状の前記ワークの、前記片側の面側の前記面取り部の長さ以上であって、かつ、前記ワークの前記片側の面に対して当該斜面部分が延びる方向がなす角度が、前記ワークの前記片側の面に対して前記吸着部材の前記先薄形状がなす角度よりも小さい場合に、前記円弧状部分の接線が前記吸着部材の前記先薄形状の角度と一致する角度で延びる位置において前記ワークの前記片側の面側の端部と接する状態で当該斜面部分が前記吸着部材の前記先薄形状に当接する長さ未満の長さを有しており、
前記ワークの前記一方の面側または前記他方の面側の外周部の粗い研削を行う際には、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記一方の面または前記他方の面に向かって、前記砥石の前記回転軸と前記ワークの前記回転軸とが同一平面内に位置するように、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させたら、前記砥石の前記ワークに対する相対的な移動を停止させ、
前記ワークの前記一方の面側または前記他方の面側の外周部の精密な研削を行う際には、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記一方の面または前記他方の面に向かって、前記砥石の前記回転軸と前記ワークの前記回転軸とが同一平面内に位置するように、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させた後に、曲線的な移動の際に前記砥石の前記回転軸と前記ワークの前記回転軸とが位置していた前記平面内に前記砥石の前記回転軸と前記ワークの前記回転軸とが位置する状態を維持したまま、前記砥石を前記ワークに対して相対的に直線的に移動させることを特徴とする、ワーク加工方法。
【請求項17】
外周部に凹状研削部分を有しており回転可能な円板状の砥石であって、前記凹状研削部分の、前記砥石の回転軸に沿う断面における断面形状は、外周側から内周側に向かって窪む凹状であり、少なくとも厚さ方向の両端部にそれぞれ円弧状部分を有し、前記両端部の前記円弧状部分の間に、前記ワークの厚さ以上の厚さを有
し前記ワークの直径を小さくすることと前記ワークの外周部の厚さ方向の中間部を平滑にすることとの少なくとも一方のための研削を行う直線部分を有する形状である砥石を用いて、円板状のワークを所望の断面形状に形成するためのワーク加工方法であって、
前記ワークと前記砥石とを互いに平行に配置するステップと、
前記砥石を回転させるとともに、前記砥石の前記回転軸と平行な回転軸を中心として前記ワークを回転させつつ、前記凹状研削部分と前記ワークとの接触部分が前記ワークの前記所望の断面形状に沿って移動するように前記砥石の前記円弧状部分の曲率半径に基づいて算出された移動条件に従って、前記砥石を前記ワークに対して相対的に移動させるステップと、を含み、
前記砥石を前記ワークに対して相対的に移動させるステップは、
片側の面のみが吸着部材によって吸着された前記ワークと
、前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から一方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させることにより、前記ワークの前記一方の面側の外周部を研削
して前記ワークの前記所望の断面形状の面取り部を形成することと、
前記砥石を前記ワークの外周端面に沿って前記一方の面側から他方の面側へ前記ワークに対して相対的に移動させることと、
前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記他方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させることにより、前記ワークの前記他方の面側の外周部を研削
して前記ワークの前記所望の断面形状の面取り部を形成することと、を含み、
前記吸着部材の平面形状は、前記ワークの半径よりも小さい半径の円形状であり、円形状の前記吸着部材の外周部分は、外側に向かうにつれて厚さが薄くなる先薄形状を有し、前記砥石の前記円弧状部分が、前記ワークの前記所望の断面形状の前記面取り部との間に実質的に隙間が生じることなく前記ワークに当接するように、前記砥石の前記円弧状部分の曲率半径は少なくとも前記ワークの厚さの10倍以上であり、
前記ワークの前記吸着部材によって吸着される前記片側の面側に位置する前記円弧状部分は、前記砥石の前記回転軸に沿う断面において、前記所望の断面形状の前記ワークの、前記片側の面側の前記面取り部の長さ以上であって、かつ、当該円弧状部分の接線が前記吸着部材の前記先薄形状の角度と一致する角度で延びる位置において前記ワークの前記片側の面側の端部と接する状態で前記吸着部材の前記先薄形状に当接する長さ未満の長さを有しており、
前記ワークの前記一方の面側または前記他方の面側の外周部の粗い研削を行う際には、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記一方の面または前記他方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させたら、前記砥石の前記ワークに対する相対的な移動を停止させ、
前記ワークの前記一方の面側の外周部の精密な研削を行う際には、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記ワークの回転時に生じる厚さ方向の位置誤差を考慮して前記ワークが回転時に通過する厚さ方向の前記一方の面側において最も外側の位置を基準にして、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記一方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させた後に、移動を停止させ、前記砥石が前記ワークの前記一方の面側の
前記面取り部の斜面に接する位置で、前記ワークの厚さ方向の位置を調整しながら前記ワークの回転速度を遅くして少なくとも1回転以上回転させることで、前記ワークの回転時の位置誤差を打ち消しながら前記ワークの前記一方の面側を研削し、
前記ワークの前記他方の面側の外周部の精密な研削を行う際には、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記ワークの回転時に生じる厚さ方向の位置誤差を考慮して前記ワークが回転時に通過する厚さ方向の前記他方の面側において最も外側の位置を基準にして、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記他方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させた後に、移動を停止させ、前記砥石が前記ワークの前記他方の面側の
前記面取り部の斜面に接する位置で、前記ワークの厚さ方向の位置を調整しながら前記ワークの回転速度を遅くして少なくとも1回転以上回転させることで、前記ワークの回転時の位置誤差を打ち消しながら前記ワークの前記他方の面側を研削することを特徴とする、ワーク加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワーク加工装置、砥石、およびワーク加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体ウェーハ等の円板状のワーク(被加工物)の外周部の面取り加工を行うために、ワークの外周部に砥石を押し当てて研削を行っている。ワークの面取り部の形状および寸法の精度を向上させるために、砥石の外周部に、ワークの完成形状に対応した形状および寸法の溝(総形溝)を形成し、その溝内にワークの外周部を挿入してワークを回転させ、溝の内周面によってワークの外周部を研削する方法がある。しかし、この方法では、製造すべきワークの形状や寸法が変わる度に砥石を交換する必要があり、多品種の少量生産には適していない。また、面取り加工を繰り返すと砥石の外周部の溝の内周面が摩耗または破損して溝の形状および寸法が変化するため、ワークの面取り加工の精度が低下する。従って、長期間にわたってワークの面取り加工を行ったら、砥石を交換または整形し直す必要が生じる。
【0003】
必要に応じて砥石の交換または整形を行うために、特許文献1,2に記載されている方法では、ワークの完成形状に対応する総形溝を有するマスター砥石を作製しておき、砥石材料の外周部をマスター砥石の溝の内周面に当接させて研削することにより、型材であるツルーイング砥石(ツルアー)を作製する。さらに、砥石材料にツルーイング砥石の外周部を当接させてマスター砥石と同様な総形溝を形成することにより、実際のワークの面取り加工に用いるための砥石の形状を整える(整形する)ことができる。ツルーイング砥石は面取り用の砥石(例えばレジンボンド砥石)よりも硬い材料(例えばGC砥石)からなり、マスター砥石はツルーイング砥石よりも硬い材料(例えばメタルボンド砥石)からなる。このようにツルーイング砥石を用いて砥石を整形する工程は、ツルーイングと呼ばれる。
【0004】
特許文献1,2には、円板状のワークに対して平行に配置された円板状の砥石の総形溝を用いて面取り加工を行う方法に加えて、円板状のワークの外周の接線方向に対して斜めに傾けて配置された円板状の砥石の溝を用いてワークの面取りを行う方法(ヘリカル方式の加工方法)も示唆されている。ヘリカル方式の面取り加工方法については、特許文献3にも記載されている。特許文献3に記載された方法では、ワークの外周の接線方向に対して斜めに傾けて配置された砥石は、外周部に凹状の溝が形成されており内側向きの傾斜面を有している。この傾斜面をワークの外周部に当接させて研削を行う。特許文献4には、円板状のワークに対して平行に配置された円板状の砥石により研削を行い、その後に、円板状のワークの外周の接線方向に対して斜めに傾けて配置された円板状の砥石により、ヘリカル方式でより精密な研削を行う加工方法と、ヘリカル方式の精密研削用の砥石をツルーイングするためのツルーイング砥石およびツルーイング方法が開示されている。
【0005】
特許文献1~4に記載されているようにワークの外周の接線方向に対して斜めに傾けて配置された砥石を用いてワークの面取り加工を行うと、砥石の外周部に設けられた溝の内周面とワークの外周部との接触部分の長さが長い状態で研削が行われ、さらにワークを低速で回転させながら研削することにより、ワークの面取り部の表面粗さを小さくすることができる。従って、後で行われる仕上げの研磨工程が実施しやすくなる。
【0006】
特許文献5には、厚さ方向の寸法がワークの厚さよりも大きい溝が外周部に設けられた砥石を用いて、砥石の溝の内周面をワークの外周部に当接させて面取り加工を行う方法が開示されている。また、特許文献5には、ワークよりも厚く外周部に溝が設けられておらず外周部の断面形状が凸状である砥石を用いて、砥石の外周部の凸状部分の一部を構成する傾斜面をワークの外周部に当接させて面取り加工を行う方法も開示されている。
【0007】
特許文献6に記載された方法では、円板状のワークに対して直交するように円板状の砥石を配置する。ワークは、その平面形状の中心に位置する回転軸を中心として回転可能である。砥石は、ワークの回転軸に直交する回転軸を中心として回転可能であるとともに、その回転軸に垂直な方向(円板状のワークに平行な方向)にも、回転軸に平行な方向(円板状のワークに直交する方向)にも移動可能である。ワークを回転させた状態で、砥石を回転させながらワークに接近させて、回転する砥石の外周部を、砥石の回転方向と直交する方向に回転するワークの外周部に当接させつつ砥石を移動させることで、ワークの面取り加工を行う。このような加工工程はコンタリングと呼ばれる。
【0008】
特許文献7に記載された方法では、円板状のワークに対して直交するように配置されたカップ型砥石を用い、特許文献6と同様に、ワークを回転させた状態で、カップ型砥石を回転させながらワークに接近させる。回転するカップ型砥石のカップ形状の先端面を、カップ型砥石の回転方向と直交する方向に回転するワークの外周部に当接させつつカップ型砥石を移動させることで、ワークの面取り加工を行う。
【0009】
特許文献8には、円板状の砥石を2個用いて特許文献6と同様に面取り加工を行う方法と、カップ型砥石を2個用いて特許文献7と同様に面取り加工を行う方法が開示されている。
【0010】
特許文献9に記載された方法では、内周側の砥石要素(カップ形状)と、外周側の、内周側の砥石要素による研削よりも精密な研削のための砥石要素(カップ形状)とを有する大型で二重構造のカップ型である第一砥石と、カップの第二砥石とを用いて、ワークの外周部の加工を行う。
【0011】
特許文献10に記載された方法では、ウェーハの周端縮径加工では2個の溝なし砥石をそれぞれ一定の高さに保持したままでウェーハに接触させて加工し、コンタリング加工ではウェーハ周端部の各面に前記2個の溝なし砥石をそれぞれ各別に移動させ、ウェーハ周端部の径方向の同一箇所を上下から挟み込んでそれぞれの面を同時に加工する。
【0012】
特許文献11に記載された方法では、外周部に凸状研削部分を有する円板状の砥石を用い、円板状のワークと砥石を互いに平行に配置し、砥石とワークを回転させつつ、凸状研削部分とワークとの接触部分がワークの所望の断面形状に沿って移動するように砥石の円弧状部分の曲率半径に基づいて算出された移動条件に従って、砥石をワークに対して相対的に移動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2005-153085号公報
【文献】特開2007-165712号公報
【文献】特開平5-152259号公報
【文献】特開2007-044817号公報
【文献】特開平11-207585号公報
【文献】特開2000-317789号公報
【文献】特開2008-034776号公報
【文献】特開2014-37014号公報
【文献】特開2017-154240号公報
【文献】特開2008-177348号公報
【文献】特許7093875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1~4に記載されているようにワークの外周の接線方向に対して斜めに傾けて配置される砥石の外周部に、精度良くワークを面取りするための溝を形成することは容易ではない。ワークに所望の形状の面取り部を形成するためには、溝の内周面がワークの外周部に適切な角度および適切な接触長さで接触しなければならない。ワークの外周の接線方向に対して傾けて配置される砥石において、このようにワークの外周部に適切な角度および適切な接触長さで正確に接触する内周面を有する溝を形成することは難しい。特に、ワークを回転させる駆動部や、ワークを研削するための砥石を回転させる駆動部を利用してツルーイング砥石を回転させてツルーイングを行う場合には、ワークの外周の接線方向に対して傾いた状態で良好な面取り加工ができる溝を精度良く形成することは難しく、より容易にツルーイングできる方法が求められている。また、製造すべきワークの面取り部の形状や寸法が変わると、ツルーイング砥石を作製するためのマスター砥石の溝の形状も変更する必要があり、作業が煩雑である。
【0015】
ワークの外周の接線方向に対して斜めに傾けて配置された砥石を用いてワークの加工を行う場合には、溝の内周面の形状や寸法は容易に変更できないため、所望の加工形状に近づけるために微細な補正を行うことは困難である。従って、ワークとしてオリエンテーションフラット部を有するウェーハを作製する場合に、ワークの外周の接線方向に対して斜めに傾けて配置された砥石の、主にワークの外周の円弧状の部分を形成するための溝を用いてオリエンテーションフラット部も精度良く形成することはできない。そのため、オリエンテーションフラット部形成用の溝を、円弧状の部分の形成用の溝とは別に形成しておく必要があり、砥石の製造が煩雑になるとともに、2つの溝を使い分けるために加工時間が長くなる。
【0016】
特許文献5に記載されている方法では、砥石の溝の内周面の一部である傾斜面、または砥石の外周の凸状部分の一部である傾斜面にワークの外周部を当接させて研削する。ワークを砥石の傾斜面に沿って相対的に移動させることによりワークの外周面を研削するため、研削されたワークの外周部の形状は砥石の傾斜面に対応した形状になる。砥石の外周の傾斜面の角度を任意に変更することはできないため、ワークの面取り部を任意の形状に形成することは難しい。また、ワークの両面の面取り部と、先端の直線部と、直線部と面取り部との間の曲面部とにおいて、ワークを砥石に沿って相対的に往復動作(トラバース)させながら研削を行うため、加工が煩雑で加工時間が長い。
【0017】
特許文献6に記載された方法では、円板状の砥石が円板状のワークに対して直交するように配置されるため、大型の砥石を用いると、砥石がワークの支持や駆動のための機構(例えば吸着テーブルや回転機構)に干渉するおそれがある。従って、ワークの安定的な支持や円滑な駆動を妨げないようにするため、大型の砥石ではなく小型の砥石が用いられる。その結果、加工効率が悪く加工時間が長くなる。また、小型の砥石は大型の砥石に比べて、同一のワークの面取り加工を行う際に、同一個所がワークの外周部に接触して研削する時間が長いため、砥石の寿命が短い。さらに、ワークは、砥石との接触個所が所望の断面形状に沿うような軌跡で移動するが、ワークのそれぞれの個所が十分に研削されてからワークが移動するので、高効率化のためにはワークは高速で回転する必要がある。このようにワークを高速で回転させながら研削を行い、かつ、ワークの外表面に、ワークの回転方向と直交する方向に回転する砥石の条痕が、ワークの厚さ方向に沿って延びる形状で形成されるため、研削された部分の表面粗さが大きい。この研削工程の後に、より精密な仕上げの研磨工程を行おうとしても、ワークの回転方向と直交する方向に沿う条痕が存在するため研磨しにくい。特に、ワークの傾斜面状になった部分が、後工程である精密な研磨工程において研磨しにくく、十分に研磨されずに条痕が残る可能性がある。
【0018】
特許文献7に記載された方法では、カップ型砥石の作製が煩雑であり、特にツルーイングが困難である。また、カップ形状の先端面がワークの外周部に適切に接触するようにカップ型砥石を配置して駆動することは容易ではなく、カップ型砥石の支持および駆動のための機構が複雑である。
【0019】
特許文献8に記載された方法では、前述した特許文献6,7に記載された方法における問題点に加えて、2個の砥石を同時に駆動するために装置が複雑になるとともに、2個の砥石の間に寸法や形状の違いが生じやすく、安定して高精度の面取り加工を行うことが容易ではないという問題がある。
【0020】
特許文献9に記載された方法では、第一砥石の形状が非常に複雑であり、第一砥石の作製が煩雑である。また、ワークは2本の回転軸を中心としてそれぞれ回転させられるため、ワークの支持および駆動のための機構も複雑である。このように、特許文献9に記載された方法を実施する加工装置は非常に複雑である。
【0021】
特許文献10に記載された方法では、特許文献6に記載された方法と同様に、円板状のワークに対して直交するように配置された円板状の砥石を用いて研削を行う。しかも、この方法では、高速回転するワークの厚さ方向位置を調整するためには、圧電素子を利用する機構が必須であり、加工装置が複雑で高価になるとともに、ワークの厚さ方向位置を常に調整しながらワークを回転させるため、所望の断面形状を形成する精度が悪くなる傾向にある。特に、ワークの所望の断面形状の円弧状の部分の半径(R寸法)を、円板状のワークの全周において一定にすることが困難である。
【0022】
特許文献11に記載された方法では、砥石の外周部の凸状研削部分がワークに近づきながらワークの研削を行うため、研削時の負荷や振動が大きい。そして、凸状研削部分の半径方向体積が大きいため、砥石の重量や回転時の慣性モーメントが大きく、結果として、砥石の回転時の振動が大きくなり易く、砥石の製造コストが高くなる。また、研削時に砥石とワークとの接触部分に研削水(クーラント)を供給しても、凸状研削部分に接触した研削水が飛散し易く、効率良く円滑な研削を行うことが困難である。
【0023】
本発明は、ワークの面取り加工を容易に効率良くかつ高精度に行うことができ、ワークおよび砥石を支持および駆動する機構が簡単であって、しかも砥石の整形が容易にできるワーク加工装置、砥石、およびワーク加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の円板状のワークを所望の断面形状に形成するためのワーク加工装置は、前記ワークを支持するワーク支持機構と、前記ワークに対して平行に配置される円板状の砥石と、前記砥石を支持する砥石支持機構と、を有し、前記ワーク支持機構は前記ワークを回転させ、前記砥石支持機構は前記砥石を回転させ、前記ワーク支持機構による前記ワークの回転の中心となる回転軸と、前記砥石支持機構による前記砥石の回転の中心となる回転軸とは互いに平行であり、前記ワーク支持機構は、前記ワークの片側の面のみを吸着する吸着部材を有し、前記吸着部材の平面形状は、前記ワークの半径よりも小さい半径の円形状であり、円形状の前記吸着部材の外周部分は、外側に向かうにつれて厚さが薄くなる先薄形状を有し、前記砥石は外周部に凹状研削部分を有しており、前記凹状研削部分の、前記砥石の前記回転軸に沿う断面における断面形状は、外周側から内周側に向かって窪む凹状であり、少なくとも厚さ方向の両端部にそれぞれ円弧状部分を有し、前記両端部の前記円弧状部分の間に、前記ワークの厚さ以上の厚さを有し前記ワークの直径を小さくすることと前記ワークの外周部の厚さ方向の中間部を平滑にすることとの少なくとも一方のための研削を行う直線部分を有する形状であり、前記砥石と前記ワークは、前記砥石支持機構または前記ワーク支持機構によって互いに接近したり離れたりするように相対的に移動可能であり、前記砥石支持機構または前記ワーク支持機構は、前記凹状研削部分と前記ワークとの接触部分が前記ワークの前記所望の断面形状に沿って移動するように前記砥石の前記円弧状部分の曲率半径に基づいて算出された移動条件に従って、前記砥石を前記ワークに対して相対的に移動させ、前記砥石の前記円弧状部分が、前記ワークの前記所望の断面形状の面取り部との間に実質的に隙間が生じることなく前記ワークに当接するように、前記砥石の前記円弧状部分の曲率半径は少なくとも前記ワークの厚さの10倍以上であり、前記ワークの前記吸着部材によって吸着される前記片側の面側に位置する前記円弧状部分は、前記砥石の前記回転軸に沿う断面において、前記所望の断面形状の前記ワークの、前記片側の面側の前記面取り部の長さ以上であって、かつ、当該円弧状部分の接線が前記吸着部材の前記先薄形状の角度と一致する角度で延びる位置において前記ワークの前記片側の面側の端部と接する状態で前記吸着部材の前記先薄形状に当接する長さ未満の長さを有していることを特徴とする。
【0025】
本発明の円板状のワークを所望の断面形状に形成するためのもう1つのワーク加工装置は、前記ワークを支持するワーク支持機構と、前記ワークに対して平行に配置される円板状の砥石と、前記砥石を支持する砥石支持機構と、を有し、前記ワーク支持機構は前記ワークを回転させ、前記砥石支持機構は前記砥石を回転させ、前記ワーク支持機構による前記ワークの回転の中心となる回転軸と、前記砥石支持機構による前記砥石の回転の中心となる回転軸とは互いに平行であり、前記ワーク支持機構は、前記ワークの片側の面のみを吸着する吸着部材を有し、前記吸着部材の平面形状は、前記ワークの半径よりも小さい半径の円形状であり、円形状の前記吸着部材の外周部分は、外側に向かうにつれて厚さが薄くなる先薄形状を有し、前記砥石は外周部に凹状研削部分を有しており、前記凹状研削部分の、前記砥石の前記回転軸に沿う断面における断面形状は、外周側から内周側に向かって窪む凹状であり、少なくとも厚さ方向の両端部にそれぞれ円弧状部分と、前記円弧状部分よりも厚さ方向外側に位置して前記円弧状部分と連続的に繋がっている斜面部分と、を有し、前記両端部の前記円弧状部分の間に、前記ワークの厚さ以上の厚さを有し前記ワークの直径を小さくすることと前記ワークの外周部の厚さ方向の中間部を平滑にすることとの少なくとも一方のための研削を行う直線部分を有する形状であり、前記斜面部分は、前記所望の断面形状の前記ワークの、前記片側の面側の面取り部の角度と一致する、前記円弧状部分と前記斜面部分との境界位置における前記円弧状部分の接線方向に沿って延びており、前記砥石と前記ワークは、前記砥石支持機構または前記ワーク支持機構によって互いに接近したり離れたりするように相対的に移動可能であり、前記砥石支持機構または前記ワーク支持機構は、前記凹状研削部分と前記ワークとの接触部分が前記ワークの前記所望の断面形状に沿って移動するように前記砥石の前記円弧状部分の曲率半径に基づいて算出された移動条件に従って、前記砥石を前記ワークに対して相対的に移動させ、前記砥石の前記円弧状部分の曲率半径は少なくとも前記ワークの厚さの10倍以上であり、前記ワークの前記吸着部材によって吸着される前記片側の面側に位置する前記斜面部分は、前記砥石の前記回転軸に沿う断面において、前記所望の断面形状の前記ワークの、前記片側の面側の前記面取り部の長さ以上であって、かつ、前記ワークの前記片側の面に対して当該斜面部分が延びる方向がなす角度が、前記ワークの前記片側の面に対して前記吸着部材の前記先薄形状がなす角度よりも小さい場合に、前記円弧状部分の接線が前記吸着部材の前記先薄形状の角度と一致する角度で延びる位置において前記ワークの前記片側の面側の端部と接する状態で当該斜面部分が前記吸着部材の前記先薄形状に当接する長さ未満の長さを有していることを特徴とする。
【0026】
本発明の、外周部に凹状研削部分を有しており回転可能な円板状の砥石であって、前記凹状研削部分の、前記砥石の回転軸に沿う断面における断面形状は、外周側から内周側に向かって窪む凹状であり、少なくとも厚さ方向の両端部にそれぞれ円弧状部分を有し、前記両端部の前記円弧状部分の間に、前記ワークの厚さ以上の厚さを有し前記ワークの直径を小さくすることと前記ワークの外周部の厚さ方向の中間部を平滑にすることとの少なくとも一方のための研削を行う直線部分を有する形状である砥石を用いて、円板状のワークを所望の断面形状に形成するためのワーク加工方法は、前記ワークと前記砥石とを互いに平行に配置するステップと、前記砥石を回転させるとともに、前記砥石の前記回転軸と平行な回転軸を中心として前記ワークを回転させつつ、前記凹状研削部分と前記ワークとの接触部分が前記ワークの前記所望の断面形状に沿って移動するように前記砥石の前記円弧状部分の曲率半径に基づいて算出された移動条件に従って、前記砥石を前記ワークに対して相対的に移動させるステップと、を含み、前記砥石を前記ワークに対して相対的に移動させるステップは、片側の面のみが吸着部材によって吸着された前記ワークと、前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から一方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させることにより、前記ワークの前記一方の面側の外周部を研削して前記ワークの前記所望の断面形状の面取り部を形成することと、前記砥石を前記ワークの外周端面に沿って前記一方の面側から他方の面側へ前記ワークに対して相対的に移動させることと、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記他方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させることにより、前記ワークの前記他方の面側の外周部を研削して前記ワークの前記所望の断面形状の面取り部を形成することと、を含み、前記吸着部材の平面形状は、前記ワークの半径よりも小さい半径の円形状であり、円形状の前記吸着部材の外周部分は、外側に向かうにつれて厚さが薄くなる先薄形状を有し、前記砥石の前記円弧状部分が、前記ワークの前記所望の断面形状の前記面取り部との間に実質的に隙間が生じることなく前記ワークに当接するように、前記砥石の前記円弧状部分の曲率半径は少なくとも前記ワークの厚さの10倍以上であり、前記ワークの前記吸着部材によって吸着される前記片側の面側に位置する前記円弧状部分は、前記砥石の前記回転軸に沿う断面において、前記所望の断面形状の前記ワークの、前記片側の面側の前記面取り部の長さ以上であって、かつ、当該円弧状部分の接線が前記吸着部材の前記先薄形状の角度と一致する角度で延びる位置において前記ワークの前記片側の面側の端部と接する状態で前記吸着部材の前記先薄形状に当接する長さ未満の長さを有しており、前記ワークの前記一方の面側または前記他方の面側の外周部の粗い研削を行う際には、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記一方の面または前記他方の面に向かって、前記砥石の前記回転軸と前記ワークの前記回転軸とが同一平面内に位置するように、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させたら、前記砥石の前記ワークに対する相対的な移動を停止させ、前記ワークの前記一方の面側または前記他方の面側の外周部の精密な研削を行う際には、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記一方の面または前記他方の面に向かって、前記砥石の前記回転軸と前記ワークの前記回転軸とが同一平面内に位置するように、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させた後に、曲線的な移動の際に前記砥石の前記回転軸と前記ワークの前記回転軸とが位置していた前記平面に対して垂直または斜めに交差する方向に延びる平面内において前記砥石の前記回転軸と前記ワークの前記回転軸とが相対的に移動するように、前記砥石を前記ワークに対して相対的に直線的に移動させることを特徴とする。
【0027】
外周部に凹状研削部分を有しており回転可能な円板状の砥石であって、前記凹状研削部分の、前記砥石の回転軸に沿う断面における断面形状は、外周側から内周側に向かって窪む凹状であり、少なくとも厚さ方向の両端部にそれぞれ円弧状部分と、前記円弧状部分よりも厚さ方向外側に位置して前記円弧状部分と連続的に繋がっている斜面部分と、を有し、前記両端部の前記円弧状部分の間に、前記ワークの厚さ以上の厚さを有し前記ワークの直径を小さくすることと前記ワークの外周部の厚さ方向の中間部を平滑にすることとの少なくとも一方のための研削を行う直線部分を有する形状である砥石を用いて、円板状のワークを所望の断面形状に形成するためのもう1つのワーク加工方法は、前記ワークと前記砥石とを互いに平行に配置するステップと、前記砥石を回転させるとともに、前記砥石の前記回転軸と平行な回転軸を中心として前記ワークを回転させつつ、前記凹状研削部分と前記ワークとの接触部分が前記ワークの前記所望の断面形状に沿って移動するように前記砥石の前記円弧状部分の曲率半径に基づいて算出された移動条件に従って、前記砥石を前記ワークに対して相対的に移動させるステップと、を含み、前記砥石を前記ワークに対して相対的に移動させるステップは、片側の面のみが吸着部材によって吸着された前記ワークと、前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から一方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させることにより、前記ワークの前記一方の面側の外周部を研削して前記ワークの前記所望の断面形状の面取り部を形成することと、前記砥石を前記ワークの外周端面に沿って前記一方の面側から他方の面側へ前記ワークに対して相対的に移動させることと、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記他方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させることにより、前記ワークの前記他方の面側の外周部を研削して前記ワークの前記所望の断面形状の面取り部を形成することと、を含み、前記吸着部材の平面形状は、前記ワークの半径よりも小さい半径の円形状であり、円形状の前記吸着部材の外周部分は、外側に向かうにつれて厚さが薄くなる先薄形状を有し、前記砥石の前記円弧状部分の曲率半径は少なくとも前記ワークの厚さの10倍以上であり、前記斜面部分は、前記所望の断面形状の前記ワークの、前記片側の面側の前記面取り部の角度と一致する、前記円弧状部分と前記斜面部分との境界位置における前記円弧状部分の接線方向に沿って延びており、前記ワークの前記吸着部材によって吸着される前記片側の面側に位置する前記斜面部分は、前記砥石の前記回転軸に沿う断面において、前記所望の断面形状の前記ワークの、前記片側の面側の前記面取り部の長さ以上であって、かつ、前記ワークの前記片側の面に対して当該斜面部分が延びる方向がなす角度が、前記ワークの前記片側の面に対して前記吸着部材の前記先薄形状がなす角度よりも小さい場合に、前記円弧状部分の接線が前記吸着部材の前記先薄形状の角度と一致する角度で延びる位置において前記ワークの前記片側の面側の端部と接する状態で当該斜面部分が前記吸着部材の前記先薄形状に当接する長さ未満の長さを有しており、前記ワークの前記一方の面側または前記他方の面側の外周部の粗い研削を行う際には、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記一方の面または前記他方の面に向かって、前記砥石の前記回転軸と前記ワークの前記回転軸とが同一平面内に位置するように、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させたら、前記砥石の前記ワークに対する相対的な移動を停止させ、前記ワークの前記一方の面側または前記他方の面側の外周部の精密な研削を行う際には、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記一方の面または前記他方の面に向かって、前記砥石の前記回転軸と前記ワークの前記回転軸とが同一平面内に位置するように、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させた後に、曲線的な移動の際に前記砥石の前記回転軸と前記ワークの前記回転軸とが位置していた前記平面内に前記砥石の前記回転軸と前記ワークの前記回転軸とが位置する状態を維持したまま、前記砥石を前記ワークに対して相対的に直線的に移動させることを特徴とする。
【0028】
外周部に凹状研削部分を有しており回転可能な円板状の砥石であって、前記凹状研削部分の、前記砥石の回転軸に沿う断面における断面形状は、外周側から内周側に向かって窪む凹状であり、少なくとも厚さ方向の両端部にそれぞれ円弧状部分を有し、前記両端部の前記円弧状部分の間に、前記ワークの厚さ以上の厚さを有し前記ワークの直径を小さくすることと前記ワークの外周部の厚さ方向の中間部を平滑にすることとの少なくとも一方のための研削を行う直線部分を有する形状である砥石を用いて、円板状のワークを所望の断面形状に形成するためのさらにもう1つのワーク加工方法は、前記ワークと前記砥石とを互いに平行に配置するステップと、前記砥石を回転させるとともに、前記砥石の前記回転軸と平行な回転軸を中心として前記ワークを回転させつつ、前記凹状研削部分と前記ワークとの接触部分が前記ワークの前記所望の断面形状に沿って移動するように前記砥石の前記円弧状部分の曲率半径に基づいて算出された移動条件に従って、前記砥石を前記ワークに対して相対的に移動させるステップと、を含み、前記砥石を前記ワークに対して相対的に移動させるステップは、片側の面のみが吸着部材によって吸着された前記ワークと、前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から一方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させることにより、前記ワークの前記一方の面側の外周部を研削して前記ワークの前記所望の断面形状の面取り部を形成することと、前記砥石を前記ワークの外周端面に沿って前記一方の面側から他方の面側へ前記ワークに対して相対的に移動させることと、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記他方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させることにより、前記ワークの前記他方の面側の外周部を研削して前記ワークの前記所望の断面形状の面取り部を形成することと、を含み、前記吸着部材の平面形状は、前記ワークの半径よりも小さい半径の円形状であり、円形状の前記吸着部材の外周部分は、外側に向かうにつれて厚さが薄くなる先薄形状を有し、前記砥石の前記円弧状部分が、前記ワークの前記所望の断面形状の前記面取り部との間に実質的に隙間が生じることなく前記ワークに当接するように、前記砥石の前記円弧状部分の曲率半径は少なくとも前記ワークの厚さの10倍以上であり、前記ワークの前記吸着部材によって吸着される前記片側の面側に位置する前記円弧状部分は、前記砥石の前記回転軸に沿う断面において、前記所望の断面形状の前記ワークの、前記片側の面側の前記面取り部の長さ以上であって、かつ、当該円弧状部分の接線が前記吸着部材の前記先薄形状の角度と一致する角度で延びる位置において前記ワークの前記片側の面側の端部と接する状態で前記吸着部材の前記先薄形状に当接する長さ未満の長さを有しており、前記ワークの前記一方の面側または前記他方の面側の外周部の粗い研削を行う際には、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記一方の面または前記他方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させたら、前記砥石の前記ワークに対する相対的な移動を停止させ、前記ワークの前記一方の面側の外周部の精密な研削を行う際には、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記ワークの回転時に生じる厚さ方向の位置誤差を考慮して前記ワークが回転時に通過する厚さ方向の前記一方の面側において最も外側の位置を基準にして、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記一方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させた後に、移動を停止させ、前記砥石が前記ワークの前記一方の面側の前記面取り部の斜面に接する位置で、前記ワークの厚さ方向の位置を調整しながら前記ワークの回転速度を遅くして少なくとも1回転以上回転させることで、前記ワークの回転時の位置誤差を打ち消しながら前記ワークの前記一方の面側を研削し、前記ワークの前記他方の面側の外周部の精密な研削を行う際には、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記ワークの回転時に生じる厚さ方向の位置誤差を考慮して前記ワークが回転時に通過する厚さ方向の前記他方の面側において最も外側の位置を基準にして、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記他方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させた後に、移動を停止させ、前記砥石が前記ワークの前記他方の面側の前記面取り部の斜面に接する位置で、前記ワークの厚さ方向の位置を調整しながら前記ワークの回転速度を遅くして少なくとも1回転以上回転させることで、前記ワークの回転時の位置誤差を打ち消しながら前記ワークの前記他方の面側を研削することを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によると、ワークの面取り加工を容易に効率良くかつ高精度に行うことができ、ワークおよび砥石を支持および駆動する機構が簡単であって、しかも砥石の整形が容易にできるワーク加工装置、砥石、およびワーク加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るワーク加工装置を模式的に示す正面図である。
【
図2】
図1に示すワーク加工装置の砥石を示す断面図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係るワーク加工方法の一例を順番に模式的に示す正面図である。
【
図5】
図4に示す工程に続く工程を示す拡大図である。
【
図6】
図5に示す工程に続く工程を示す拡大図である。
【
図7】(A)は本発明の第1の実施形態において加工されたワークの例を示す正面図であり、(B)はワークの上面側の厚さ方向と水平方向の位置ずれの大きさを説明するための説明図であり、(C)はワークの下面側の厚さ方向と水平方向の位置ずれの大きさを説明するための説明図である。
【
図8】本発明の第1の実施形態において加工されたワークの他の例を示す正面図である。
【
図9】従来のワーク加工装置の砥石の一例を示す断面図である。
【
図10】
図1に示すワーク加工装置の砥石および砥石支持機構の一例を詳細に示す断面図である。
【
図11】本発明の第1の実施形態の砥石の好ましい寸法を説明するための説明図である。
【
図12】本発明の第2の実施形態に係るワーク加工装置の砥石を示す断面図である。
【
図13】本発明の第2の実施形態の砥石の好ましい寸法を説明するための説明図である。
【
図14】本発明の第3の実施形態に係るワーク加工装置を模式的に示す正面図である。
【
図15】本発明の第4の実施形態に係るワーク加工装置を示す正面図である。
【
図16】本発明のワーク加工方法の一例を説明するためのワークおよび砥石の平面図である。
【
図17】本発明のワーク加工方法の他の例を説明するためのワークの平面図である。
【
図18】
図17を用いて説明されるワーク加工方法の例を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るワーク加工装置1を模式的に示す正面図である。
図2は、ワーク加工装置1の砥石5を示す断面図である。ワーク加工装置1は、半導体ウェーハやガラス基板やセラミックス等の円板状のワーク2を研削して、ワーク2の外周部の面取りを行う装置である。ワーク加工装置1は、シリコン(Si)やシリコンカーバイド(SiC)や窒化ガリウム(GaN)やヒ化ガリウム(GaAs)やサファイア等を含む高硬度のワーク2の面取り加工に特に適している。ただし、ワーク加工装置1を、その他の種類のワークの加工に用いることもできる。
【0032】
ワーク加工装置1は、円板状のワーク2を支持するとともに回転軸3を中心として回転させるワーク支持機構4と、円板状の砥石5を支持するとともに回転軸6を中心として回転させる砥石支持機構7と、を有している。一例としては、ワーク2は直径が50~300mmで厚さが1mm以下程度の円板状であり、砥石5は直径が100~200mmで厚さが20~60mm程度の円板状である。便宜上、図面中ではワーク2の厚さを厚く図示している。ワーク支持機構4と砥石支持機構7とは、円板状のワーク2と円板状の砥石5とを互いに平行に支持している。ワーク支持機構4は、円板状のワーク2の片側の面2bを吸着部材10によって吸着保持し、ワーク2の平面形状の中心に位置してワーク2に対して直交する回転軸3を中心としてワーク2を回転させることができる。同様に、砥石支持機構7は、円板状の砥石5を、砥石5の平面形状の中心に位置して砥石5に対して直交する回転軸6を中心として回転させることができる。ワーク支持機構4によるワーク2の回転の中心となる回転軸3と、砥石支持機構7による砥石5の回転の中心となる回転軸6とは互いに平行である。砥石5とワーク2は、砥石支持機構7またはワーク支持機構4によって互いに接近したり離れたりするように相対的に移動可能である。一例としては、砥石支持機構7は、砥石5を回転させている状態で、砥石5およびワーク2に対して平行な面内(回転軸3および回転軸6に直交する面内)で、砥石5がワーク2に対して接近する方向にもワーク2から離れる方向にも砥石5を移動させることができ、かつ砥石5およびワーク2に対して直交する面内(回転軸3および回転軸6に平行な面内)で、砥石5がワーク2に対して接近する方向にもワーク2から離れる方向にも砥石5を移動させることができる。従って、砥石5は、砥石支持機構7によって、少なくとも回転軸3,6を含む面内で、ワーク2に対して任意の方向から接近することができ、かつ任意の方向に離れることができる。ワーク支持機構4は、ワーク支持機構4の回転軸3の温度を一定に保つための液体または気体の流れを発生させる温度調整機構15を有している。なお、詳述しないが、ワーク支持機構4および砥石支持機構7は、公知の吸着テーブルや回転モータや可動ステージ等から構成されていてよい。ワーク支持機構4の詳細かつ具体的な構成例については後述する。
【0033】
ワーク加工装置1の砥石5は、
図2に示すように、基体になるベース円板部5aと、ベース円板部5aの外周部に位置する凹状研削部分5bと、凹状研削部分5bと厚さ方向に並んで設けられている断面長方形状研削部分5gと、を有している。ベース円板部5aは、アルミニウムやステンレス等の合金からなり、厚さ方向に延びて回転軸6が挿通されるストレート状の取付穴5cと、砥石支持機構7の図示しない保持部(例えばフランジ部)に取り付けるための凹部5dとが設けられている。砥石5の外周部に位置する凹状研削部分5bはメタルボンド砥石またはレジンボンド砥石等からなり、凹状研削部分5bの、砥石5の回転軸6に沿う断面における断面形状は、半径方向外側(外周側)から内側(内周側)に向かって窪む凹状であり、厚さ方向の両端部にそれぞれ円弧状部分5eを有し、両端部の円弧状部分5eの間に、ワーク2の厚さ以上の厚さを有する直線部分5fを有する形状である。凹状研削部分5bは、半径方向外側に向かって突出する凸形状の部分を含んでいない。断面長方形状研削部分5gは、砥石5の厚さ方向において凹状研削部分5bよりもさらに外側に位置し、ワーク2と対向する面が回転軸6に沿う断面において砥石5の厚さ方向と平行な直線状である。
図2では、円弧状部分5eと直線部分5fとの境界を仮想的な線(2点鎖線)で示している。
【0034】
図1に示すワーク加工装置1を用いたワーク加工方法について説明する。
図3(A)~
図3(D)はこのワーク加工方法の一例を順番に模式的に示す正面図である。
図3(A)~
図3(D)に示すように、砥石5の厚さはワーク2の厚さに比べてはるかに大きい。まず、被加工物であるワーク2(例えば半導体ウェーハ)をワーク支持機構4の吸着部材10により吸着保持して、回転軸3を中心として回転させる。ワーク2は回転させられるが移動はしない。砥石支持機構7に取り付けられている砥石5を、砥石支持機構7によって、回転軸6を中心として回転させるととともに、砥石5の外周部がワーク2の外周部に当接するように移動させる。一例としては、
図3(A)に示すように、砥石支持機構7に取り付けられた砥石5を、ワーク支持機構4の吸着部材10に吸着保持されたワーク2に断面長方形状研削部分5gが対向するように配置する。ワーク2を、回転軸3を中心として回転させるとともに、砥石5を、回転軸6を中心として回転させながら、砥石5の断面長方形状研削部分5gをワーク2の外周部に当接させて研削する。このように断面長方形状研削部分5gを用いてワーク2の外周部の粗い研削(粗研)を行って、ワーク2を所望の大きさに近づけるように径を小さくする。こうして断面長方形状研削部分5gにより粗く研削されたワーク2の外周面を、
図3(B)に示すように、砥石5の凹状研削部分5bの直線部分
5fに当接させてより精密な研削(精研)を行って、ワーク2を所望の大きさ(所望の直径)にする。
【0035】
それから、砥石5を、ワーク2の一方の面側(
図3(A)~
図3(D)に示す例ではワーク2の上方)に移動させつつ、ワーク2の回転と砥石5の回転とを続行したまま、
図3(C)に示すように、砥石5の外周部をワーク2の一方の面の外周部に当接させた状態で、砥石5をワーク2に対して移動させる。具体的には、砥石5をワーク2の厚さ方向の中心付近かつ半径方向
内側から、ワーク2の他方の面側(
図3(A)~
図3(D)に示す例では下面側)かつ半径方向
外側に向けて徐々に移動させる。それにより、砥石5の上側の凹状研削部分5bの円弧状部分5eがワーク2の外周部の一方の面側(上側)のエッジに当接して研削して面取りが行われ、面取り部2aが形成される。
【0036】
ワーク2の外周部の上側のエッジの面取りが完了したら、砥石5の厚さ方向の中心付近がワーク2と対向するように砥石5を一方の面側(
図3(A)~
図3(D)に示す例では上方)に移動(上昇)させる。そして、
図3(D)に示すように、砥石5の凹状研削部分5bの円弧状部分5eをワーク2の他方の面の外周部に当接させ、砥石5を上昇させながら、ワーク2の半径方向
内側から
外側に向けて移動させる。このように、回転する砥石5の下側の凹状研削部分5bの円弧状部分5eをワーク2の外周部に当接させてワーク2を研削することで、ワーク2の外周部の下側のエッジの面取りが行われ、面取り部2aが形成される。最終的には、ワーク2が砥石5の凹状研削部分5bよりも
外側に位置して砥石5がワーク2に接しない状態になり、ワーク2の面取り加工が終了する。
図3(A)~
図3(D)に示すように、ワーク2および砥石5の厚さ方向において、砥石5がワーク2の中心に対向する位置から一方の面側と他方の面側(上下)に往復移動(トラバース)して、ワーク2の外周部の上側のエッジの面取りと下側のエッジの面取りとを行う。ワーク2の外周部の上側のエッジの面取りも下側のエッジの面取りも、ワーク2の半径方向における砥石5の同一方向の移動(ワーク2の半径方向
内側から
外側に向かう移動)によって行われる。本実施形態では、両面の面取り部2aは、砥石5がワーク2の半径方向
内側から
外側に向かう一方向の動作だけで形成される。例えば、特許文献5に記載されているように、ワークの先端の直線部のみならず、直線部と面取り部との間の曲面部や両面の面取り部においても、砥石とワークとが相対的に往復動作(トラバース)して研削する方法に比べて、本実施形態では、研削加工を容易かつ短時間で効率良く実施できる。そして、本実施形態の砥石5の凹状研削部分5bは主に円弧状の曲面であるため、形成する面取り部2aの形状および寸法に合わせて曲面形状の計算および設計が容易である。なお、一部の図面においては、ワーク2の所望の断面形状を判りやすくするために、面取り部2aの形成途中または形成前の段階であっても、ほぼ完成した状態の面取り部2aの形状を図示している場合がある。
【0037】
このワーク加工方法について、
図4~6を参照して、より詳細に説明する。本実施形態の加工方法では、砥石5の凹状研削部分5bとワーク2との接触部分がワーク2の所望の断面形状に沿って移動するように、砥石5とワーク2との相対的な移動の移動条件を計算によって求める。本実施形態の砥石5の寸法は既知であるため、砥石5とワーク2とを相対的に移動させるための移動条件は、砥石5の凹状研削部分5bの厚さ方向の両端部に位置する円弧状部分5eの曲率半径に基づいて算出する。こうして算出された移動条件に従って、砥石支持機構7またはワーク支持機構4が、砥石5をワーク2に対して相対的に移動させる。例えば、ワーク2の所望の断面形状を、ワーク2の回転軸3と砥石5の回転軸6とを含む面内の2次元の座標として表し、砥石5とワーク2との接触部分が各座標の点を辿るように砥石5とワーク2の相対的な移動条件が設定される。こうして、本実施形態では、砥石5とワーク2がNC制御(数値制御)されて相対的に移動することでワーク2の研削が行われる。
【0038】
具体的には、砥石5の断面長方形状研削部分5gをワーク2の外周部に当接させて粗い研削(粗研)を行った後に、
図4に示すように、砥石5の凹状研削部分5bの直線部分5fをワーク2の外周部に当接させてより精密な研削(精研)を行って、ワーク2の直径を小さくする。ワーク2の外周部がほぼ直線状になり、ワーク2の直径が所望の大きさになるまでワーク2を研削する。その後に、
図5に示すように、ワーク2の一方の面側(例えば上側)において予め設定された位置P1から、ワーク2の一方の面側(例えば上側)の角部が砥石5の凹状研削部分5bの円弧状部分5eに沿って相対的に曲線的に摺動するように、砥石5をワーク2に対して相対的に厚さ方向に移動させる。予め算出された移動条件に基づいて、砥石5とワーク2とが相対的に厚さ方向と半径方向とに適切に移動することにより、砥石5はワーク2に対して相対的に所望の曲線軌跡を辿る。そして、ワーク2の半径方向外側から内側に向かう相対的な移動の開始点P1からの角度αが、予め設定された所定の角度になる位置P2に到達したら、砥石5とワーク2との相対的な移動量を一定にして、砥石5をワーク2に対して相対的に直線的に移動させる。それにより、ワーク2の所望の断面形状(2点鎖線にて図示)の直線部分を形成する。角度αは、ワーク2の回転軸3と砥石5の回転軸6とを含む面内でワーク2の内周側から測定される角度である。そして、砥石5はワーク2の厚さ方向の一方の面の外側まで相対的に移動してワーク2と非接触になり、ワーク2の一方の面の研削が完了する。ワーク2の他方の面側においても、
図6に示すように、
図5に示すワーク2の一方の面側における動作を実質的に上下反転した動作を行うことにより、ワーク2の他方の面の研削を行う。
【0039】
砥石5とワーク2の大きさの差は、実際には、
図4~6に示されているよりもはるかに大きく(例えば砥石5の円弧状部分5eの曲率半径はワーク2の厚さの数十倍であり)、砥石5の円弧状部分5eの、ワーク2の外周面に接する部分はほぼ直線状になる場合がある。例えば、砥石5が移動して移動角度αが所定の大きさになった時点(
図5,6参照)で、砥石5の円弧状部分5eが、ワーク2に形成される面取り部2aの所望の形状(
図5,6には2点鎖線にて図示)との間に生じる隙間が無視できるほど非常に小さく、ワーク2の面取り部2a全体を所望の形状に研削できるようにワーク2に接する可能性がある。その場合には、砥石5が移動して移動角度αが所定の大きさになった時点で砥石5の移動を中止して、その後に砥石5をワーク2に対して相対的に直線的に移動させる工程を省略することも考えられる。より精密な研削を行う場合には、移動角度αが所定の大きさになるまで砥石5を曲線的に移動させた後に、砥石5をワーク2に対して相対的に直線的に移動させる工程を行うことが好ましい。しかし、精密な研削の前段階として比較的粗い研削を行う場合には、移動角度αが所定の大きさになるまで砥石5を曲線的に移動させた後に、砥石5をワーク2に対して相対的に直線的に移動させる工程を省略して、作業を簡略化してもよい。本実施形態では、砥石5の円弧状部分
5eが、ワーク2の所望の断面形状の面取り部2aとの間に実質的に隙間が生じることなくワーク2に当接するように、砥石
5の円弧状部分
5eの曲率半径は少なくともワーク2の厚さの10倍以上である。
【0040】
このように、本実施形態では、予め算出した移動条件に従って砥石5とワーク2とを相対的に移動させることにより、砥石5とワーク2との接触部分がワーク2の所望の断面形状に基づいて算出された移動軌跡を辿る。その結果、ワーク2を所望の断面形状に形成することができる。そして、種類の異なるワーク2の加工を行う場合には、新たに加工するワーク2の所望の断面形状に合わせて、そのワーク2を加工するための移動条件を算出する。この時、砥石5の円弧状部分5eの曲率半径に基づいて移動条件を算出するため、同一の砥石5を用いて様々な形状のワーク2を正確に加工することができる。
【0041】
本実施形態の効果について説明する。特許文献6,10に記載されている従来の加工方法では、構造上、あまり大きな(大径の)砥石を用いることは困難であるため、小さい(小径の)砥石で加工を行わなければならない。その結果、砥石の寿命は短く、砥石の交換や整形を行う頻度が高い。しかし、本実施形態では、砥石5および砥石支持機構7が他の部材、具体的にはワーク支持機構4に干渉するおそれが小さいため、構造上の制約が小さく、大きな(大径の)砥石5を用いてワーク2を加工することができる。従って、砥石5の寿命が長く、砥石5の交換や整形の頻度が低い。また、特許文献6,10に記載されている加工方法では、砥石の回転方向と、ワークに対する相対的な移動方向とが、実質的に一致している(いずれもワーク2の厚さ方向である)。そのため、砥石の外周部に大きな凹凸部があると、砥石の回転によりワークの外周面に回転方向(ワークの厚さ方向)に沿う線状痕が生じやすい。この砥石は回転しながら、ワークに対して相対的に、回転方向と同じ方向、すなわち線状痕と実質的に平行な方向に移動するため、線状痕は消されずに残りやすい。砥石の、ワークの外周面に線状痕を生じさせた部分(大きな凹凸部)は、ワークの周方向の位置は変わらないままワークの厚さ方向に相対移動する。従って、ワークには、この大きな凹凸部に当接せず線状痕と同程度に深く研削されることはない部分が残る可能性がある。その結果、砥石が移動しても線状痕は消されずに残りやすい。なお、砥石の回転方向と直交する方向にワークが回転するが、ワークの回転により周方向に移動する長さは、砥石とワークとがワークの厚さ方向に相対移動する長さに比べてはるかに長い。砥石は、ワークの全周の研削と、ワークの厚さ方向への相対移動とを行うため、ワークの加工時間があまり長くならないようにするためには、砥石がワークに対して相対的にワークの厚さ方向に移動する速度があまり遅くならないようにすることが必要である。ワークの砥石に当接する部分は、ワークの周方向の幅が狭く、砥石がワークに対して相対的にワークの厚さ方向に移動する速度が遅くならないようにするためには、ワークの回転速度(周方向の移動速度)を速くして、砥石がワークの全周に当接して研削するのに要する時間を短くすることが求められる。このように、ワークの回転速度を速くすることにより、ワークと砥石とが互いに直交する方向に回転しても、研削後のワークの表面粗さが粗くなる。これに対し、本実施形態では、砥石5の回転方向と、ワーク2に対する相対的な移動方向とが、実質的に直交する。砥石5の回転方向はワーク2の周方向であり、相対移動方向はワーク2の厚さ方向である。砥石5の外周部に大きな凹凸部があると、砥石5の回転によりワーク2の外周面に周方向に沿う線状痕が生じる。この砥石5は回転しながら、ワーク2に対して相対的に、回転方向と直交する方向、すなわち線状痕と実質的に直交する方向に移動するため、線状痕は残りにくい。砥石5の、ワーク2の外周面に線状痕を生じさせた部分(大きな凹凸部)は周方向に回転しながら線状痕に直交する方向に移動するため、この大きな凹凸部はワーク2の外周面のほぼ全体に順次当接する。従って、ワーク2の外周面のほぼ全体が、この大きな凹凸部によって線状痕と同程度に深く研削される。このように、砥石5の回転方向と、ワーク2に対する相対的な移動方向とが実質的に直交することにより、ワーク2の外周面に生じた線状痕は消されて平滑になりやすい。なお、この構成では、ワーク2の回転速度が速くても、砥石5の回転方向(ワーク2の周方向)と砥石5の相対移動方向(ワーク2の厚さ方向)とが直交しており相対移動距離が短いため、砥石5がワーク2の厚さ方向に非常にゆっくりと相対移動しても、加工時間はそれほど長くならない。従って、砥石5のワーク2の厚さ方向の相対移動速度を比較的遅くして、ワーク2の全周を十分に研削することにより、研削後のワークの表面粗さを良好にすることができる。
【0042】
特許文献5に記載されている従来の加工方法では、砥石の外形に沿ってワークを相対的に移動させることにより研削を行うため、加工後のワークの形状は砥石の外形(特に砥石の曲線状または直線状の傾斜面の形状や角度)によって決まる。従って、形状の異なるワークを形成するためには、砥石の交換が必要である。これに対し、本実施形態では、砥石5とワーク2の相対的な移動が、砥石5の外形に沿うように行われるのではなく、砥石5の凹状研削部分5bの円弧状部分5eの曲率半径を考慮して算出された移動条件に従って行われる。そのため、形状の異なるワーク2を形成する際には、砥石5を交換する必要はなく、移動条件を変更すればよい。すなわち、砥石5を交換することなく、同一の砥石5を用いて様々な形状のワーク2を形成できる。移動条件は砥石5の凹状研削部分5bの円弧状部分5eの曲率半径等に基づく計算によって求められ、砥石5とワーク2の相対的な移動はこの移動条件に基づいて数値制御されるため、加工精度は良好である。このように、本実施形態によると、同一の砥石5により様々な形状のワーク2を形成でき、しかも加工精度が良好であり、さらに砥石5の寿命が長いという多くの優れた効果を奏することができる。
【0043】
本実施形態の加工装置および加工方法によると、
図7(A)に示すように、外周部が1対の円弧状部分とそれらを接続する直線部分とよって形成されたいわゆるT形状のワーク2も、
図8に示すように、外周部が半円状であるいわゆるR形状のワーク2も、精度良く形成することができる。
図7(A)に示すT形状のワーク2の場合、外周部の1対の円弧状部分のそれぞれの曲率半径R1,R2と、それぞれの円弧状部分から繋がる直線的な傾斜面部分の長さY1,Y2と、これらの傾斜面部分のワーク2の表面に対する角度θ1,θ2と、1対の円弧状部分の間の直線部分の長さC0と、
図7(A)には示されていない砥石5の凹状研削部分5bの円弧状部分5eの曲率半径とに基づく計算によって求められた移動条件に従って加工が行われる。
図8に示すR形状のワーク2の場合、外周部の半円状の部分の半径Rと、半円状の部分から両側にそれぞれ繋がる直線的な傾斜面部分の長さY1,Y2と、これらの傾斜面部分のワーク2の表面に対する角度θ1,θ2と、
図8には示されていない砥石5の凹状研削部分5bの円弧状部分5eの曲率半径とに基づく計算によって求められた移動条件に従って加工が行われる。このように、
図7(A)に示すT形状のワーク2も、
図8に示すR形状のワーク2も、図示されている所望の断面形状の各部の寸法と、砥石5の凹状研削部分5bの円弧状部分5eの曲率半径とに基づく計算によって求めた移動条件に従う数値制御により、精度良く加工することができる。
【0044】
本実施形態では、砥石支持機構7が、ワーク2の半径方向における、面取り加工開始前の砥石5の位置、すなわち砥石5がワーク2に接触開始する位置と、面取り加工終了時の砥石5の位置、すなわち砥石5のワーク2との接触が終了する位置とを調整することにより、面取り部2aの大きさを調整することができる。また、このように調整された面取り部2aの大きさと、砥石5によってワーク2が研削される速度とを考慮した上で、砥石支持機構7が、砥石5を上昇または下降させる速度と、ワーク2の半径方向に移動させる速度とを調整することによって、ワーク2の面取り部2aの角度や形状等を調整することができる。さらに、砥石5の外周部の曲線部のうちのどの部分をワークに接触させて研削するかによって、砥石5のワーク2に対する接触角度が変わるため、ワーク2の面取り部2aの角度や形状等を調整することができる。このように、主に砥石支持機構7による砥石5の移動の制御によって、ワーク2の面取り部2aの所望の形状や寸法を実現することができる。そのために、砥石支持機構7は、砥石5を数値制御(NC制御)によって駆動することが好ましい。
【0045】
本実施形態の砥石5は凹状研削部分5bを有しており、この凹状研削部分5bによってワーク2の面取り等の研削を行うため、安定的に円滑な研削が可能であるとともに、砥石5の低コスト化および長寿命化が可能である。例えば、図示しないが特許文献11に記載された構成のように砥石が凸状研削部分を有し、この凸状研削部分によってワークの面取り等の研削を行う場合には、凸状研削部分をワークに当接させた状態で、砥石の中心(回転軸)とワークの中心(回転軸)とが互いに近づくように相対移動させながら研削を行う。これは、砥石とワークとが衝突する方向の相対移動であるため、研削中の衝撃および振動が大きく、砥石およびワークにそれぞれ加わる負荷が大きい。また、凸状研削部分を有する砥石は比較的重量が大きく慣性モーメントも大きい。これに対し、本実施形態の砥石5は凹状研削部分5bを有しており、凹状研削部分5bをワーク2に当接させた状態で、砥石5の中心(回転軸6)とワーク2の中心(回転軸3)とが互いに離れる方向に相対移動させながら研削を行う。これは、砥石5とワーク2とが衝突する方向への相対移動に比べて、研削中の衝撃や振動が小さく、砥石5およびワーク2にそれぞれ加わる負荷が小さく、研削面が綺麗になる。また、凸状研削部分と比べて、研削に実際に使用される部分が同程度の大きさを有する凹状研削部分5bは小型化および軽量化でき、慣性モーメントも小さくすることができる。このことも研削中の振動低減に寄与する。このように砥石5の凹状研削部分5bによってワーク2の面取り等の研削を行う構成では、振動や負荷が小さいため劣化が遅く長寿命化する。このことは、砥石5の製作コストの低下にもつながる。
【0046】
例えば特許文献11に記載された構成のように砥石の凸状研削部分によってワークの面取り等の研削を行う場合には、凸状研削部分とワークとの接触部分はほぼ点接触である。しかし、本実施形態のように砥石5の凹状研削部分5bによってワーク2の面取り等の研削を行う場合には、凹状研削部分5bとワーク2との接触部分は面接触であり、効率良く安定して研削でき、研削面が綺麗になる。
【0047】
また、砥石が凸状研削部分を有し、この凸状研削部分によってワークの研削を行う場合には、研削を円滑に行うために砥石とワークとの接触部分に研削水(クーラント)を供給しても、研削水が砥石とワークとの接触部分に保持され難い。従って、効率良く円滑な研削を行うことは容易でなく、多量の研削水が必要になる。それに対し、本実施形態では砥石5が凹状研削部分5bを有しており、この凹状研削部分5bによってワーク2の研削を行う場合には、砥石5とワーク2との接触部分に供給された研削水が凹状研削部分5bの内側において砥石5とワーク2との接触部分に保持される。そのため、効率良く円滑な研削を容易に行え、研削水の使用量は少なくて済み、目詰まりや過剰な摩擦や発熱を生じることなく円滑に研削できる。
【0048】
このように、本実施形態の砥石5は凸状研削部分ではなく凹状研削部分5bを有していることにより、数々の利点を有している。従来、凹状の研削部分を有している砥石が用いられることはあったが、従来の凹状の研削部分は、
図9に示すように、所望の研削後のワークの形状と相補的な形状の溝、いわゆる総形溝16aを有するものであった。従来の総形溝16aを有する砥石16を用いる加工方法の場合、砥石16の特定の部位、例えば総形溝16aの内周面においてワーク2が最初に当接する部分P3に摩耗や損傷を生じる可能性が高い。多数のワーク2の加工を行うと、この部分P3に摩耗や損傷を生じて総形溝16aの形状が変化するため、その砥石16を用いてワーク2を加工すると加工精度が低くなる。その場合、砥石16の交換や整形が必要である。それに対し、本実施形態では、ワーク2に比べてはるかに大きい凹状研削部分5bを有しており、砥石5の凹状研削部分5bの様々な部位がワーク2に当接して研削するため、特定の部位のみが特別に摩耗または損傷しやすいわけではない。従って、砥石5の寿命が比較的長い。さらに、本実施形態では、凹状研削部分5bとは別に断面長方形状研削部分5gが設けられており、この断面長方形状研削部分5gを用いて、ワーク2の大きさを所望の大きさに近づけるための粗い研削を行っている。それにより、凹状研削部分5bの直線部分5fの過剰な摩耗や損傷が抑えられ、砥石5の長寿命化が図られる。ただし、断面長方形状研削部分5gは本発明の必須の構成要件ではなく、ワーク2を所望の直径にするための研削を凹状研削部分5bの直線部分5fのみによって行う構成にすることも可能である。
【0049】
なお、前述した実施形態の構成は、砥石支持機構7が砥石5を回転させつつ移動させ、ワーク支持機構4はワーク2を回転させるが移動させない構成であるが、そのような構成に限定されない。すなわち、砥石支持機構7は砥石5を回転させるのみで移動させず、ワーク支持機構4がワーク2を回転させるとともに、数値制御によってワーク2を移動させる構成にすることもできる。その場合、ワーク支持機構4は、砥石5およびワーク2に対して平行な面内(回転軸3および回転軸6に直交する面内)で、ワーク2が砥石5に対して近づく方向にも砥石5から離れる方向にもワーク2を移動させることができ、かつ砥石5およびワーク2に対して直交する面内(回転軸3および回転軸6に平行な面内)で、ワーク2が砥石5に対して近づく方向にも砥石5から離れる方向にもワーク2を移動させることができる。従って、ワーク2は、砥石支持機構7によって、少なくとも回転軸3,6を含む面内で、砥石5に対して任意の方向から接近することができ、かつ任意の方向に離れることができる。この構成でも、ワーク2と砥石5とが
図3~6に示す各工程と同様の位置関係になるようにワーク2と砥石5とを相対的に移動させることができ、
図3~6に示す加工方法と同様の加工を実施することができる。
【0050】
本実施形態では、砥石5とワーク2とを、互いに直交する方向ではなく同一または正反対の方向に回転させるため、砥石5の回転とワーク2の回転とは相乗効果を生じ、砥石5自体の回転速度はさほど高速にする必要はない。従って、砥石支持機構7は、高速回転駆動可能なものでなくてよく、構造の簡略化や低コスト化が図れる。また、ワーク2を砥石5と平行に回転させながら研削を行うため、ワーク2の面取り部の表面粗さを小さくすることができる。
【0051】
本実施形態によると、砥石5はワーク2に対して平行に配置されるため、砥石5がワーク支持機構4に干渉することなく砥石5を大きくすることができる。それにより、砥石支持機構7を含むワーク加工装置1の構成を複雑にすることなく、大型の砥石5を用いてワーク2の外周部を任意の断面形状に形成することができる。また、大型の砥石5を用いることにより加工効率が良く加工時間を短くできるとともに、砥石5の外周部の広い範囲を利用して加工できるため砥石5の寿命が長くなる。さらに、完成状態のワーク2の形状に対応した形状の溝16a(総形溝)が形成された砥石16を用いて加工する場合には、面取り加工前のワーク2のエッジと当接する溝16aの内周面(特に傾斜面P3の部分)の摩耗や破損を生じやすいが、本実施形態では、面取り加工前のワーク2のエッジに対して砥石5の特定の1個所のみが当接し続ける構成ではないため、砥石5の破損を生じにくく寿命が長い。
【0052】
砥石16に設けられた総形溝16a内にワーク2を挿入して加工する場合には、特定の形状および寸法の面取り部を形成できるが、異なる形状および寸法の面取り部を形成するためには、異なる溝16aを有する砥石16に交換する必要がある。しかし、本実施形態によると、凹状研削部分5bを有する砥石5をワーク2に対して相対的に移動させて面取りを行うため、数値制御によって砥石5の移動の経路を変更することにより、形成される面取り部2aの形状や寸法を変更することができる。すなわち、単一の砥石5によって、様々な形状および寸法の面取り部2aを形成することができる。
【0053】
図1~2に模式的に示す砥石5および砥石支持機構7の詳細な構成例を
図10に示している。この変形例の砥石5は、例えば金属製のベース円板部5aと、その外周部に位置するレジンボンド砥石からなる凹状研削部分5bと、凹状研削部分5bと厚さ方向に並んで設けられている断面長方形状研削部分5gと、を有している。ベース円板部5aは、アルミニウムやステンレス等の合金からなり、回転軸6が挿通される取付穴5cと、凹部5dとが設けられている。凹状研削部分5bは外周側から内周側に向かって窪む凹状であり、厚さ方向の両端部の円弧状部分5eと、円弧状部分5eの間に位置しワーク2の厚さ以上の厚さを有する直線部分5fと、を有する。断面長方形状研削部分5gは、砥石5の厚さ方向において凹状研削部分5bよりもさらに外側に位置し、ワーク2と対向する面が砥石5の厚さ方向と平行な直線状である。
【0054】
図10に示す砥石支持機構7は、ケース7aと、回転ベアリング部7bと、スピンドル7cと、フランジ部7dと、ボルト7eとを有している。ケース7a内に配置された回転ベアリング部7bによってスピンドル7cが回転可能に支持されている。ケース7aの外側に突出するスピンドル7cの先端にフランジ部7dが取り付けられ、ボルト7eによってフランジ部7dがスピンドル7cに固定されている。そして、砥石5の
凹部5dにケース7aが挿通され、砥石5の
取付穴5cがフランジ部7dに固定されている。図示しない駆動手段によってスピンドル7cが回転すると、フランジ部7dおよび砥石5がスピンドル7cと一体的に回転する。すなわち、スピンドル7cが砥石支持機構7の回転軸6になる。その砥石5が取り付けられている取付位置であるフランジ部7dと、スピンドル7cを支持する回転ベアリング部7bとの間に砥石5の重心が位置するように、砥石5が支持されている。このように、砥石5の取付位置(フランジ部7d)と回転ベアリング部7bとの間に砥石5の重心が位置していることにより、砥石5の支持および回転が安定する。
【0055】
本実施形態では、ワーク2の半径を小さくするための研削と、ワーク2を所望の断面形状に形成するためにワーク2の外周部の両面の面取りを行う研削との2段階の研削工程を行う。一般的に、前者の研削は粗研削、後者の研削は精密研削である。精密研削と粗研削とは相対的な表現であり、精密研削は、粗研削に比べて、形状寸法精度が良く、研削された面の表面粗さが小さくなる研削のことである。本実施形態の砥石5には、ベース円板部5aの外周部に、主にワーク2を所望の断面形状に形成するための研削に用いられる凹状研削部分(精密研削部分)5bと、主にワーク2の半径を小さくするための研削に用いられる断面長方形状研削部分(粗研削部分)5gとが設けられている。
【0056】
本実施形態では、未加工のワーク2をワーク支持機構4にセットして回転させ、砥石支持機構7に取り付けられた砥石5を、回転軸6(スピンドル7c)を中心として回転させながら、
図3(A)に示すように断面長方形状研削部分5gをワーク2の外周部に当接させる。これにより、ワーク2の外周部を粗研削し、ワーク2の外径を所望の大きさにする。次いで、
図3(B)に示すように、砥石5の凹状研削部分5bの直線部分5fをワーク2の外周部に当接させてワーク2の外周部を精密研削し、ワーク2の外周部の厚さ方向の中間部を平滑にする。それから、
図3(C)~3(D)に示すように、砥石5の凹状研削部分5bの円弧状部分5eをワーク2の外周部に当接させてワーク2の両面のエッジの面取りを行い、ワーク2を所望の断面形状に形成する。本実施形態の断面長方形状研削部分5gは砥石粒度が粗い部分であって、凹状研削部分5bは砥石粒度が細かく、断面長方形状研削部分5gによるワーク2の半径を小さくするための研削よりも精密な研削を行う部分である。本実施形態では、前述した効果に加えて、2段階の研削工程によって面取り部を行う場合に単一の砥石5のみによって両工程を容易に行うことができ、製造工程が簡単で低コストであるという効果が得られる。
【0057】
一般に半導体ウェーハ等のワーク2の面取りを行う場合、砥石によってワーク2の外周面を研削して半径を小さくし、ワーク2の不要部分を除去しながら所望の大きさにしつつ外形を整えるとともに、中心合わせを行う。その後に、砥石によってワーク2に面取り部2aを形成する。仮に1つの凹状研削部分によってこれらの研削を行う場合には、前段階のワーク2の半径を小さくするための研削(粗研削)は、主に、砥石の凹状研削部分の、厚さ方向の中心付近の部位をワーク2に当接させることによって行う。後段階の面取り部2aを形成するための研削(精密研削)は、凹状研削部分の、厚さ方向の両端の円弧状部分をワーク2に当接させることによって行う。通常、ワーク2の半径を小さくするための研削は、面取り部2aを形成するための研削よりも研削量(研削する体積)が大きい。従って、凹状研削部分の、厚さ方向の中心付近の部位は、厚さ方向の両端の円弧状部分よりも摩耗が激しく、凹状研削部分の全体形状が崩れる。その結果、ワーク2の加工精度が低下するおそれがある。それに対し、本実施形態では、ワーク2の半径を小さくするための研削は、主に断面長方形状研削部分5gによって行い、半径が小さくなったワーク2の外周面を平滑にするための研削は、凹状研削部分5bの直線部分5fによって行い、ワーク2の面取り部2aを形成するための研削は、凹状研削部分5bの円弧状部分5eによって行うことができる。すなわち、ワーク2の半径を小さくするための研削と、ワーク2の外周面を平滑にするための研削と、面取り部2aを形成するための研削とを、砥石5の別の部位によって行うことができる。断面長方形状研削部分5gの形状および寸法と、凹状研削部分5bの直線部分5fおよび円弧状部分5eの形状および寸法とはそれぞれ独立して管理でき、それぞれの摩耗量が異なっていても、加工条件を適宜に調整することにより、良好な加工が行える。そして、凹状研削部分5bの円弧状部分5eは、主に面取り部2aを形成するための研削のみに用いられ、一部分(例えば厚さ方向の中心付近の部位)のみが他の部分に比べて著しく大きな摩耗を生じることはなく、比較的均等に摩耗する。従って、砥石の凹状研削部分5bの形状はさほど大きく変化せず、ワーク2の加工精度の低下を抑えることができる。断面長方形状研削部分5gは大きく摩耗するが、ワーク2と対向する面は砥石5の厚さ方向と平行な直線状であって単純な形状であるため、摩耗を生じても加工精度がさほど低下しない。
【0058】
なお、図示しないが、フランジ部を用いることなく、回転軸6を構成するスピンドル7cのテーパ状部分を、砥石5に設けられたテーパ形状の取付穴5c内に挿入し、ベース円板部5aから突出するスピンドル7cの先端にナット等の固定部材を取り付けることにより、砥石5を、回転軸6を構成するスピンドル7cに固定し、スピンドル7cとともに回転可能に支持することができる。このようにすると、本実施形態の砥石支持機構7において、フランジ部を省略して、砥石5を、回転軸6を構成するスピンドル7cに安定的に固定でき、しかも、砥石5が回転軸6(スピンドル7c)に対して偏心することを抑制することができる。
【0059】
図1,3に示すように、本実施形態のワーク支持機構4は、ワーク2の片側の面(例えば鉛直方向下面)2bのみを吸着する吸着部材10を有している。従って、
図3(B),3(C),3(D)に示すように砥石5の凹状研削部分5bの円弧状部分5eによってワーク2の面取りのための研削を行う際に、吸着部材10が円弧状部分5eに当接することを避けなければならない。吸着部材10の平面形状は、ワーク2の半径よりも小さい半径の円形状であり、円形状の吸着部材10の外周部分は、外側に向かうにつれて厚さが薄くなる先薄形状10aを有している。吸着部材10の半径r1は、ワーク2の所望の断面形状の半径r2とワーク2の厚さtとによって表すと、r2-10t≦r1≦r2-5tであることが好ましい。吸着部材10の先薄形状10aの角度θ1は、ワーク2の所望の断面形状の面取り部
2aの角度θ2によって表すと、θ2-10≦θ1≦θ2+5であることが好ましい。ワーク2の吸着部材10によって吸着される面(例えば鉛直方向下面)2b側に位置する円弧状部分5eの長さは、
図11に模式的に示すように、砥石5の回転軸6に沿う断面において、その円弧状部分5eの接線が吸着部材10の先薄形状10aの角度θ3と一致する角度θ3で延びる位置(
図11の点A)においてワーク2の前述した面(例えば鉛直方向下面)2b側の端部と接する状態で、吸着部材10の先薄形状10aに当接する長さ未満である。
図11に模式的に示す状態で、円弧状部分5eの点Aにおける接線は、水平方向からθ3だけ傾いており、吸着部材10の先薄形状10aの下面と平行である。この状態で、仮に、吸着部材10の先薄形状10aの下面が円弧状部分5eと当接する点Dまで円弧状部分5eが延びていると、それ以上の研削工程ができない。従って、円弧状部分5eの長さは、点Dまで至る長さ未満である。この点Dにおける接線の水平方向からの傾き角度をθ4として、円弧状部分5eの曲率半径をrとする。
図11には、円弧状部分5eの点A,Dを通る半径(各点における接線に直交する半径)が垂直方向に対してそれぞれなす角度として、角度θ3,θ4をそれぞれ示している。ここで、角度θ3は吸着部材10の先薄形状10aの寸法として既知である。そこで、砥石5の円弧状部分5eの曲率半径rと、円弧状部分5eの長さの限界点を示す角度θ4との関係は以下のように表される。なお、円弧状部分5eの点Aにおける接線に平行で、すなわち点Aを通る半径に直交し点Dを通る直線を引いた際に、その直線から、点Aを通る半径に沿って点Aまでの距離をr’とする。
rcos(θ3-θ4)=r-r’
θ3-θ4=cos
-1[(r-r’)/r]
θ4=θ3-cos
-1[(r-r’)/r]
このような計算によって、円弧状部分5eが、その円弧状部分5eの接線が吸着部材10の先薄形状10aの角度θ3と一致する角度θ3で延びる位置においてワーク2の下面側の端部と接する状態で、吸着部材10の先薄形状10aに当接する長さ未満の長さを有するための条件を設定することができる。
【0060】
このように角度θ4を求める計算では、円弧状部分5eの点Aにおける接線に平行で(点Aを通る半径に直交し)点Dを通る直線から、点Aを通る半径に沿って点Aまでの距離r’を用いている。この距離r’を以下のように求めることができる。ここでは、所望の断面形状のワーク2の半径と吸着部材10の半径との差をLとする。そして、この距離Lを3分割し、円弧状部分5eの点Aを通る半径との交点よりも外周側の長さをR2とする。これは、
図7(A),8に示すワーク2の所望の断面形状の下側の曲線部の曲率半径と一致している。そして、距離Lから長さR2を除いた部分を、円弧状部分5eの点Aにおける接線に平行で(点Aを通る半径に直交し)点Dを通る直線との交点を中心として2分割し、その内周側の部分の長さをx1、外周側の部分の長さをx2とする。長さx1の部分と長さx2の部分との区切りになる交点からワーク2の下面までの距離をB2とする。吸着部材10の、ワーク2の下面と接する面から、その下方の
先薄形状10aまでの距離をTとする。
図7(A),8に示すワーク2の所望の断面形状の下面側の円弧状部分5eの開始点から、ワーク2の下面までの距離をB2とする。
x1tanθ3=T+B2
x1=(T+B2)/tanθ3
x2=L-R2-x1=L-R2-(T+B2)/tanθ3
r’=R2+x2sinθ3=R2+[L-R2-(T+B2)/tanθ3]sinθ3
こうして求めたr’を、前述した角度θ4を求める式に代入することにより、
図7(A),8に示すワーク2の所望の断面形状の寸法である曲率半径R2および距離B2と、吸着部材10の既知の寸法である距離Tおよび
先薄形状10aの角度θ3と、ワーク2の所望の断面形状の寸法と吸着部材10の既知の寸法とから求められる距離Lと、砥石5の円弧状部分5eの曲率半径rとに基づいて、円弧状部分5eの長さの上限を決めるための角度θ4が求められる。
【0061】
一方、
図7(A),8に示すように、ワーク2の面取り部2aの、水平方向に投影した長さA2を形成するために必要な円弧状部分5eの長さを求める。円弧状部分5eの長さが必要最小限である場合の角度θ
maxを、ワーク2の面取り部2aの水平方向に対してなす角度θ2と、曲線部分の曲率半径R2とを用いて表すと以下の通りである。
A2=R2-R2sinθ2+rtan(θ2-θ
max)×cosθ2=R2(1-sinθ2)+rtan(θ2-θ
max)×cosθ2
[A2-R2(1-sinθ2)]/rcosθ2=tan(θ2-θ
max)
θ2-θ
max=tan
-1{[A2-R2(1-sinθ2)]/rcosθ2}
θ
max=θ2-tan
-1{[A2-R2(1-sinθ2)]/rcosθ2}
このような計算によって、円弧状部分5eが、所望の断面形状のワーク2の下面側の面取り部2aの長さ以上の長さを有するための条件を設定することができる。
図7(A),8に示すワーク2の所望の断面形状の寸法である曲率半径R2と角度θ2と距離A2とに基づいて、円弧状部分5eの長さの下限を決めるための角度θ
maxが求められる。
【0062】
砥石の円弧状部分5eは、以上のように計算して求めた、垂直方向からの角度θmaxと角度θ4との間の範囲内で終端する構成により、ワーク2を精度良く良好に所望の断面形状に加工することができる。この関係は、角度θ2と角度θ3との大小関係にかかわらずあてはまる。なお、以上の説明は、吸着部材10によってワーク2の下面を吸着する構成において、砥石5によってワーク2の下面を良好に研削するための条件を、所望の断面形状のワーク2の下側の各部の寸法と、砥石5の下側の円弧状部分5eの各部の寸法とに基づいて求めるものである。吸着部材10によってワーク2の上面を吸着する構成に関しては、所望の断面形状のワーク2の下側ではなく上側の各部の寸法と、砥石5の下側ではなく上側の円弧状部分5eの各部の寸法とに基づいて、前述した計算と実質的に同様な方法で、砥石5によってワーク2の上面を良好に研削するための条件を求めるとよい。
【0063】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
図12は、本実施形態のワーク加工装置1の砥石5を示す断面図である。本実施形態の砥石5は、第1の実施形態の砥石5と同様に、ベース円板部5aと、ベース円板部5aの外周部に位置する凹状研削部分5bと、凹状研削部分5bと厚さ方向に並んで設けられている断面長方形状研削部分5gと、を有している。ベース円板部5aおよび断面長方形状研削部分5gは、第1の実施形態のベース円板部5aおよび断面長方形状研削部分5gと実質的に同じ構成であるため、説明を省略する。凹状研削部分5bの、砥石5の回転軸6に沿う断面における断面形状は、半径方向外側(外周側)から内側(内周側)に向かって窪む凹状であり、少なくとも厚さ方向の両端部にそれぞれ円弧状部分5eと、円弧状部分5eよりも厚さ方向外側に位置して円弧状部分5eと連続的に繋がっている斜面部分5hと、を有する。両端部の円弧状部分5eの間にはワーク2の厚さ以上の厚さを有する直線部分5fが設けられている。円弧状部分5eの接線が水平方向に対して傾く角度が、所望の断面形状のワーク2の面取り部2aの水平方向に対してなす角度θ2と一致する点Bにおいて、円弧状部分5eから斜面部分5hに移行している。従って、斜面部分5hは水平方向に対して角度θ2で延びている。
【0064】
本実施形態において、吸着部材10によってワーク2の片側の面(例えば鉛直方向下面)を吸着した状態で、その面を砥石5に当接させて良好に研削を行うための条件を求める。ワーク2の吸着部材10によって吸着される面(例えば鉛直方向下面)側に位置する斜面部分5hの長さは、
図13に模式的に示すように、砥石5の回転軸6に沿う断面において、その円弧状部分5eの接線が吸着部材10の先薄形状10aの角度θ3と一致する角度θ3で延びる位置(
図13の点A)においてワーク2の前述した面(例えば鉛直方向下面)2b側の端部と接する状態で、斜面部分5hが吸着部材10の先薄形状10aに当接する長さ未満である。
図13に模式的に示す状態で、円弧状部分5eの点Aにおける接線は、水平方向からθ3だけ傾いており、吸着部材10の先薄形状10aの下面と平行である。この状態で、吸着部材10の先薄形状10aの下面が斜面部分5hと当接する点Eまで斜面部分5hが延びていると、それ以上の研削ができない。従って、斜面部分5hの長さは、点Eまで至る長さ未満である。円弧状部分5eの曲率中心から点Eまで延びる直線が垂直方向に対してなす角度をθ5とする。円弧状部分5eの点Aにおける接線に平行で、すなわち点Aを通る半径に直交し点Eを通る直線を引いた際に、その直線から、点Bを通る半径に沿って点Bまでの距離をx5とする。また、この直線に沿って、点Aを通る半径と点Bを通る半径との間の距離をx4とする。
x5=r’-x4tan[(θ3-θ2)/2]
x4=(r-r’)tan(θ3-θ2)
x3=rtan(θ2-θ5)=x5/tan(θ3-θ2)
θ5=θ2-tan
-1[x5/rtan(θ3-θ2)]
このような計算によって、斜面部分5hが、円弧状部分5eの接線が吸着部材10の先薄形状10aの角度θ3と一致する角度θ3で延びる位置において凹状研削部分5bがワーク2の下面側の端部と接する状態で、斜面部分5hが吸着部材10の先薄形状10aに当接する長さ未満の長さを有するための条件を設定することができる。従って、砥石5の斜面部分5hが、前述した垂直方向からの角度θ
maxと角度θ5との間の範囲内で終端する構成により、ワーク2を精度良く良好に所望の断面形状に加工することができる。
【0065】
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
図14は、本実施形態のワーク加工装置を模式的に示す正面図である。本実施形態のワーク加工装置は、第1の実施形態の砥石5と類似しているが上面側にのみ断面長方形状研削部分5gを有している砥石5と、円板状のワーク2の外周の接線方向に対して斜めに配置された円板状の溝付き砥石12と、を有している。溝付き砥石12は、溝付き砥石支持機構13によって支持されるとともに回転軸14を中心として回転可能である。このワーク加工装置は、2段階の研削工程によって面取りを行うものであり、前段の粗研削工程を、第1の実施形態と同様な砥石5の断面長方形状研削部分5gと凹状研削部分5bとを用いて、前述した加工方法を実施することによって行う。そして、後段の精密研削工程を、ワーク2の外周の接線方向に対して斜めに配置された溝付き砥石12によって行う。溝付き砥石12の外周部には凹形状の溝12aが設けられており、この溝12a内にワーク2の外周部を挿入することにより、溝12aの内周面をワーク2の外周部に当接させて研削し、面取り部を形成することができる。本実施形態によると、表面粗さが小さいなどのヘリカル方式の加工方法による効果が得られるとともに、回転しながら移動する砥石
5によって粗研削を行うことにより、その後に行う溝付き砥石12を用いたヘリカル方式の精密研削をより短時間で効率良く行うことができるという効果も得られる。
【0066】
本実施形態のワーク加工装置は、ワーク2の代わりにワーク支持機構4に取り付けることができ回転軸3を中心として回転可能な、溝付き砥石12のツルーイング用のツルーイング砥石11を有している。ツルーイング砥石11は、例えばレジンボンド砥石からなる溝付き砥石12よりも硬いGC砥石等からなり、ワーク2とほぼ同等な直径と厚さを有する砥石である。GC砥石等からなるツルーイング砥石11を、通常はメタルボンド砥石からなる砥石5を用いてワーク2の加工と同様な方法で加工して、傾斜した溝付き砥石12に転写したい断面形状(予め設定された溝12aの形状に対応する形状)に形成する。ワーク2の加工と同様な方法とは、砥石5の凹状研削部分5bとツルーイング砥石11との接触部分が、予め設定された溝12aの形状に対応する形状に沿って移動する移動条件を、砥石5の円弧状部分5eの曲率半径に基づいて算出しておき、その移動条件に従って、ツルーイング砥石11を砥石5に対して相対的に移動させることによって、ツルーイング砥石11の外形を形成することである。予め設定された溝12aの形状とは、溝12aの内周面に当接するワーク2を所望の断面形状に形成するために適した形状である。このようにして断面形状が形成されたツルーイング砥石11を、回転軸3を中心として回転させながら、溝が形成または整形される前の傾斜した溝付き砥石12の外周部に押し当てて、ツルーイング砥石11の外形を溝付き砥石12の外周部に転写して、溝12aを形成または整形する。こうして、溝付き砥石12のツルーイングを容易に行うことができる。なお、ツルーイング砥石11は、傾斜した溝付き砥石12のツルーイング時に生じるわずかな断面形状の変化を経験的に予想した上で、予想される断面形状の変化を予め含めた形状に形成される。
【0067】
なお、砥石の摩耗強さは、例えば粒度が#3000のレジンボンド砥石よりも粒度が#320のGC砥石の方が強く、粒度が#320のGC砥石よりも粒度が#800のメタルボンド砥石の方が強い。従って、粒度が#800のメタルボンド砥石で粒度が#320のGC砥石を研削して所望の断面形状に形成することができる。また、粒度が#320のGC砥石を、粒度が#3000のレジンボンド砥石に設けられた溝の内周面に押し付けることで、溝の形状を整形することができる。なお、以下に記載する各砥石は、基本的に、前述した粒度をそれぞれ有するものである。メタルボンド砥石からなり総形溝を有する砥石を用いて粗研削を行い、レジンボンド砥石からなる傾斜した溝付き砥石を用いて精密研削を行う従来のワーク加工装置では、GC砥石からなるツルーイング砥石を、メタルボンド砥石の総形溝の内周面に当接させて総形溝の形状を転写する。その後に、GC砥石からなるツルーイング砥石を、傾斜したレジンボンド砥石に当接させて溝の形成または整形を行う。こうして形成されたレジンボンド砥石からなる傾斜した溝付き砥石の溝によって、ワーク(ウェーハ)の精密研削を行う。そのため、ワークは、メタルボンド砥石の総形溝の形状に依存した断面形状にしか形成できず、異なる断面形状に形成することはできない。
【0068】
これに対し、本発明では、GC砥石からなるツルーイング砥石11は、メタルボンド砥石からなる砥石5の凹状研削部分5bによって任意の断面形状に形成できるため、このツルーイング砥石11によってツルーイングされる溝付き砥石12に、任意の断面形状の溝12aを形成できる。それにより、砥石を交換することなく、様々な断面形状のワーク2の加工を行うことができる。また、溝付き砥石12をツルーイングした後に、ワーク2の加工を一度行い、加工したワーク2の断面形状を実際に測定して、目標の形状と比較してフィードバックすることができる。仮に、加工したワーク2の断面形状が目標の形状と相違している場合には、砥石5の凹状研削部分5bによって整形するツルーイング砥石11の断面形状を変更(補正)し、変更した断面形状を有するツルーイング砥石11によって溝付き砥石12を再ツルーイングする。このようにして、溝付き砥石12によって整形するワーク2の断面形状を、目標の形状に近づけることができる。前述した従来のワーク加工装置では、総形溝を有するメタルボンド砥石を用いているため、加工したワークの断面形状が目標の形状から相違していても、ツルーイング砥石11の断面形状の変更(補正)は不可能である。しかし、本発明の方法によると、加工したワークの断面形状の精度、すなわち、ワーク2の加工精度を格段に向上させることが可能である。
【0069】
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。
図15は、本実施形態のワーク加工装置を模式的に示す正面図である。本実施形態のワーク加工装置は、第3の実施形態と同様な、円板状のワーク2の外周の接線方向に対して斜めに配置された溝付き砥石12を有している。第3の実施形態と同様な砥石5が砥石支持機構7に取り付けられ、回転軸6を中心として回転可能である。ワーク2がワーク支持機構4に取り付けられ、回転軸3を中心として回転可能であるとともに、ワーク2および砥石5に対して平行な面内(回転軸3および回転軸6に直交する面内)で砥石5に対して近づく方向にも砥石5から離れる方向にも移動可能であり、かつ砥石5およびワーク2に対して直交する面内(回転軸3および回転軸6に平行な面内)で砥石5に対して近づく方向にも砥石5から離れる方向にも移動可能である。図
15に示すように、ワーク支持機構4は、X方向移動ステージ4aと、Y方向移動ステージ4bと、Z方向移動ステージ4cと、モータ4dと、を有している。X方向移動ステージ4aは、砥石5およびワーク2に対して平行な面内で、砥石5およびワーク2の幅方向(
図15の紙面に直交する方向)に移動可能である。Y方向移動ステージ4bは、X方向移動ステージ4a上に搭載され、砥石5およびワーク2に対して平行な面内で、砥石5およびワーク2の接離方向(
図15の左右方向)に移動可能である。Z方向移動ステージ4cは、Y方向移動ステージ4b上に搭載され、砥石5およびワーク2に対して直交する面内で高さ方向(
図15の上下方向)に移動可能である。詳述しないが、X方向移動ステージ4aと、Y方向移動ステージ4bと、Z方向移動ステージ4cとは、公知の案内手段(例えばLMガイド)と移動手段(例えばボールねじおよびナットと回転駆動手段)とをそれぞれ有し、前述した各方向に移動可能である。モータ4dは、Z方向移動ステージ4c上に搭載され、回転軸3を介してワーク2を支持するとともに、回転軸3を回転させる駆動手段である。モータ4dは発熱する部材であり、このモータ4dおよび回転軸3の少なくとも一方を覆うように温度調整機構15が設けられている。温度調整機構15は、図示しない流路に液体または気体が流されて、モータ4dおよび回転軸3の少なくとも一方の温度を調整する。
【0070】
このワーク加工装置によると、前述した第1~3の実施形態のそれぞれの効果を奏することができる。また、図示しないが、第3の実施形態と同様なツルーイング砥石11を回転させながら溝付き砥石12に当接するように移動させて、溝付き砥石12のツルーイングを容易かつ効率良く高精度に行うこともできる。
【0071】
ワーク支持機構4は、ワーク2を常に高速回転させるわけではなく、低速回転させる場合や、ワーク2の回転を行わない場合もある。具体的には、砥石5の凹状研削部分5bや断面長方形状研削部分5gによってワーク2の研削を行う時には、ワーク2は高速回転される。円板状のワーク2の外周の接線方向に対して斜めに配置された溝付き砥石12によってワーク2の研削を行う時には、ワーク2は低速回転される。そして、ワーク2の交換時には、ワーク支持機構4は回転運動を行う必要がない。従来、複数のワーク2を連続的に加工する場合には、ワーク支持機構4は、回転軸3を中心とするワーク2の高速回転と、ワーク2の低速回転と、回転運動停止状態とを繰り返す。ワーク支持機構4は、ワーク2の高速回転の際には発熱して高温になり、ワーク2の低速回転時には高速回転時よりも低温になり、回転運動停止状態にはさらに低温になる。ワーク支持機構4がこのような温度変化を繰り返す結果、特に回転軸3が伸縮等の変形を生じる。ワーク2が取り付けられる回転軸3が変形し、ワーク2の厚さ方向の位置が変化すると、前述したように数値制御してワーク2と砥石とを相対移動させても加工精度が大幅に低下する。
【0072】
そこで、本発明の各実施形態では、ワーク支持機構4に付属する温度調整機構15が設けられている。温度調整機構15は、液体または気体の流れを発生させて、ワーク支持機構4の回転軸3の温度の変動を小さくして、回転軸3の変形を抑える。こうして、ワーク2の加工時に、回転軸3の熱による変形を抑えることにより、ワーク2の加工精度の低下を防ぐ。
【0073】
また、回転軸3の温度をできるだけ一定に保つためには、回転軸3を中心とする回転運動を行い続けることが好ましい。例えば、ワーク2の交換や補充の際や作業工程上の問題でワーク2の加工が中断している時であっても、ワーク支持機構4は回転軸3を中心とする回転運動を続行することが好ましい。こうして、ワーク支持機構4を、ワーク2が取り付けられておらずワーク2の加工を行っていない状態で回転軸3を中心とする回転運動を行っている状態(便宜上、アイドリング状態または予備回転動作と称する)に保つことによって、温度の変動を小さく抑えて、短時間で温度が安定し易くなるようにすることができる。さらに、この予備回転動作では、高速回転のみ、または低速回転のみを行うのではなく、実際のワーク2の加工時と同様に高速回転(砥石による加工中のワーク2の高速回転時と同じ速度での回転)と、低速回転(砥石による加工中のワーク2の低速回転時と同じ速度での回転)と、を交互に繰り返すことが、温度変動を小さく抑えられる点で好ましい。それにより、予備回転動作からワーク2の加工に移行する際に、直ちに、回転軸3の温度を安定させることができ、高精度の加工が行える。特に、予備回転動作における高速回転の継続時間と低速回転の継続時間との比を、実際のワーク2の加工における高速回転の継続時間と低速回転の継続時間との比と一致させると、実際のワーク2の加工時に準じた温度管理が可能であるため好ましい。ただし、予備回転動作の高速回転の継続時間と低速回転の継続時間が長時間であると、実際のワーク2の加工を開始する際に、予備回転動作を終了してワーク2の加工に移行するのに適したタイミング(例えば予備回転動作の回転速度が切り替わるタイミング)を待つための待機時間が長くなり、作業効率が低下する可能性がある。そこで、前述したように予備回転動作における高速回転の継続時間と低速回転の継続時間との比を、実際のワーク2の加工における高速回転の継続時間と低速回転の継続時間との比と一致させつつ、予備回転動作における高速回転の継続時間および低速回転の継続時間を、実際のワーク2の加工における高速回転の継続時間と低速回転の継続時間よりもそれぞれ短くすることが好ましい。それにより、実際のワーク2の加工時に準じた温度管理により回転軸3の温度変化を小さく抑えて加工精度の低下を抑えるとともに、さらに、予備回転動作からワーク2の加工に移行する際の待機時間を短くして作業効率の低下を抑えることができる。
【0074】
本発明の砥石5は、凹状研削部分5bの、砥石5の回転軸6を通る断面における断面形状が、厚さ方向の両端部に位置する1対の円弧状部分5eが直線部分5fによって接続された断面形状を有する構成である。砥石5の厚さ方向の一方の端部の円弧状部分5eと、他方の端部の円弧状部分5eとは、それぞれの曲率半径の平均値が所望の大きさになるように個別に形成された部分であることが好ましい。それにより、凹状研削部分5b全体を同一の曲率半径になるように加工する場合よりも、厚さ方向の一方の端部と他方の端部のいずれも高精度に良好に形成できる。そして、厚さ方向の一方の端部の円弧状部分5eの曲率半径と、他方の端部の円弧状部分5eの曲率半径のそれぞれの誤差を、ある程度小さくすることが好ましい。例えば、厚さ方向の一方の端部の円弧状部分5eの曲率半径の最大値と最小値の差と、他方の端部の円弧状部分5eの曲率半径の最大値と最小値の差とが、いずれも許容範囲内に入る、すなわち予め設定された所定の数値(第1の所定値)以下になるようにする。また、厚さ方向の一方の端部の円弧状部分5eの曲率半径の平均値と、他方の端部の円弧状部分5eの曲率半径の平均値との差が許容範囲内に入る、すなわち予め設定された所定の数値(第2の所定値)以下になるようにする。
【0075】
本発明では、前述した通り、外周部に凹状研削部分5bを有する砥石5であって、凹状研削部分5bが、厚さ方向の両端部の円弧状部分5eと、両端部の円弧状部分5eの間の直線部分5fとを有する形状である砥石5を用いて、円板状のワーク2を所望の断面形状に形成する。このワーク加工方法は、ワーク2と砥石5とを互いに平行に配置するステップと、砥石5を回転させるとともに、砥石5の回転軸6と平行な回転軸3を中心としてワーク2を回転させつつ、凹状研削部分5bとワーク2との接触部分がワーク2の所望の断面形状に沿って移動するように砥石5の円弧状部分5eの曲率半径に基づいて算出された移動条件に従って、砥石5をワーク
2に対して相対的に移動させるステップとを含む。砥石5をワーク
2に対して相対的に移動させるステップは、ワーク2と砥石5とを回転させつつ、砥石5の凹状研削部分5bの円弧状部分5eをワーク2の外周端面から一方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけワーク2に対して相対的に曲線的に移動させることにより、ワーク2の一方の面側の外周部を研削することと、砥石5をワーク2の外周端面に沿って一方の面側から他方の面側へワーク2に対して相対的に移動させることと、ワーク2と砥石5とを回転させつつ、砥石5の凹状研削部分5bの円弧状部分5eをワーク2の外周端面から他方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけワーク2に対して相対的に曲線的に移動させることにより、ワーク2の他方の面側の外周部を研削することと、を含む。ワーク2の一方の面側または他方の面側の外周部の粗い研削を行う際には、ワーク2と砥石5とを回転させつつ、砥石5の凹状研削部分5bの円弧状部分5eをワーク2の外周端面から一方の面または他方の面に向かって、砥石5の回転軸6とワーク2の回転軸3とが同一平面内に位置するように(
図16の矢印F1に沿って)、前記移動条件に従って予め算出された角度だけワーク2に対して相対的に曲線的に移動させたら、砥石5のワーク
2に対する相対的な移動を停止させる。それに対し、ワーク2の一方の面側または他方の面側の外周部の精密な研削を行う際には、ワーク2と砥石5とを回転させつつ、砥石5の凹状研削部分5bの円弧状部分5eをワーク2の外周端面から一方の面または他方の面に向かって、砥石5の回転軸6とワーク2の回転軸3とが同一平面内に位置するように(
図16の矢印F1に沿って)、前記移動条件に従って予め算出された角度だけワーク2に対して相対的に曲線的に移動させた後に、曲線的な移動の際に砥石5の回転軸6とワーク2の回転軸3とが位置していた平面に対して垂直または斜めに交差する方向に延びる平面内において砥石5の回転軸6とワーク
2の回転軸3とが相対的に移動するように(例えば
図16の矢印F2,F3,F4,F5のいずれかに沿って)、砥石5をワーク2に対して相対的に直線的に移動させる。
【0076】
この方法によると、ワーク2の研削された部分の粗さが良好になる(より平滑になる)。その理由について説明すると、砥石5の表面(研削に用いられる面)にはダイヤモンド等の砥粒が突出する部分が点在している。ワーク2の砥石5との接触部分において、砥石5のダイヤモンド等の砥粒が突出する部分がワーク2に接触した個所が、他の個所よりも深く刻まれる。その後に砥石5をワーク2に対して相対的に直線的に移動させることで、ワーク2の深く刻まれた部分を含む領域全体を、砥石5の凹状研削部分5bの円弧状部分5eが改めて研削する。それにより、前工程においてダイヤモンド等の砥粒との接触により深く刻まれた部分がそのまま残ることなく、砥石5の凹状研削部分5bの円弧状部分5eに接触して研削されて平滑になる。特に、前工程とは砥石5の回転軸6とワークの回転軸3との相対的な移動方向を変えて、曲線的な移動の際の砥石5とワーク2との相対移動方向に対して垂直または斜めに交差する方向であって、かつワーク2の回転方向に斜めまたは直交する方向に相対移動させることで、前工程においてダイヤモンド等の砥粒との接触により深く刻まれた部分を含む領域を改めて研削することができ、しかもワーク2が砥石5の凹状研削部分5bの円弧状部分5eによって過剰に研削され過ぎて角度が小さくなりすぎることが抑制できる。
【0077】
また、本発明において、外周部に凹状研削部分5bを有する砥石5であって、凹状研削部分5bが、厚さ方向の両端部に、円弧状部分5eと、円弧状部分5eよりも厚さ方向外側に位置して円弧状部分5eと連続的に繋がっている斜面部分5hと、を有し、両端部の円弧状部分5eの間の直線部分5fとを有する形状である砥石5を用いて、円板状のワーク2を所望の断面形状に形成する場合もある。このワーク加工方法は、ワーク2と砥石5とを互いに平行に配置するステップと、砥石5を回転させるとともに、砥石5の回転軸6と平行な回転軸3を中心としてワーク2を回転させつつ、凹状研削部分5bとワーク2との接触部分がワーク2の所望の断面形状に沿って移動するように砥石5の円弧状部分5eの曲率半径に基づいて算出された移動条件に従って、砥石5をワーク
2に対して相対的に移動させるステップとを含む。砥石5をワーク
2に対して相対的に移動させるステップは、ワーク2と砥石5とを回転させつつ、砥石5の凹状研削部分5bの円弧状部分5eをワーク2の外周端面から一方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけワーク2に対して相対的に曲線的に移動させることにより、ワーク2の一方の面側の外周部を研削することと、砥石5をワーク2の外周端面に沿って一方の面側から他方の面側へワーク2に対して相対的に移動させることと、ワーク2と砥石5とを回転させつつ、砥石5の凹状研削部分5bの円弧状部分5eをワーク2の外周端面から他方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけワーク2に対して相対的に曲線的に移動させることにより、ワーク2の他方の面側の外周部を研削することと、を含む。ワーク2の一方の面側または他方の面側の外周部の粗い研削を行う際には、ワーク2と砥石5とを回転させつつ、砥石5の凹状研削部分5bの円弧状部分5eをワーク2の外周端面から一方の面または他方の面に向かって、砥石5の回転軸6とワーク2の回転軸3とが同一平面内に位置するように(
図16の矢印F1に沿って)、前記移動条件に従って予め算出された角度だけワーク2に対して相対的に曲線的に移動させたら、砥石5のワーク
2に対する相対的な移動を停止させる。それに対し、ワーク2の一方の面側または他方の面側の外周部の精密な研削を行う際には、ワーク2と砥石5とを回転させつつ、砥石5の凹状研削部分5bの円弧状部分5eをワーク2の外周端面から一方の面または他方の面に向かって、砥石5の回転軸6とワーク2の回転軸3とが同一平面内に位置するように(
図16の矢印F1に沿って)、前記移動条件に従って予め算出された角度だけワーク2に対して相対的に曲線的に移動させた後に、曲線的な移動の際に砥石5の回転軸6とワーク2の回転軸3とが位置していた平面内に砥石5の回転軸6とワーク2の回転軸3とが位置する状態を維持したまま(引き続き
図16の矢印F1に沿って)、砥石5をワーク
2に対して相対的に直線的に移動させる。
【0078】
この方法によると、砥石5の凹状研削部分5bに斜面部分5hが設けられているため、ダイヤモンド等の砥粒との接触により深く刻まれた部分を含む領域が、砥石5の斜面部分5hによって改めて研削されるため、前工程においてダイヤモンド等の砥粒との接触により深く刻まれた部分がそのまま残ることなく平滑になる。そして、ワーク2は最後に斜面部分5hにより研削されるため、過剰に研削されすぎて角度が小さくなるおそれがない。従って、砥石5とワーク2の曲線的な相対移動と、その後の直線的な相対移動とで移動方向を変える必要はなく、平面的に見てワーク2を真っ直ぐに引き抜いても構わない。
【0079】
また、本発明において、外周部に凹状研削部分5bを有する砥石5であって、凹状研削部分5bが、厚さ方向の両端部の円弧状部分5eと、両端部の円弧状部分5eの間の直線部分5fとを有する形状である砥石5を用いて、円板状のワーク2を所望の断面形状に形成するワーク加工方法は
、ワーク2と砥石5とを互いに平行に配置するステップと、砥石5を回転させるとともに、砥石5の回転軸6と平行な回転軸3を中心としてワーク2を回転させつつ、凹状研削部分5bとワーク2との接触部分がワーク2の所望の断面形状に沿って移動するように砥石5の円弧状部分5eの曲率半径に基づいて算出された移動条件に従って、砥石5をワーク
2に対して相対的に移動させるステップとを含む。砥石5をワーク
2に対して相対的に移動させるステップは、ワーク2と砥石5とを回転させつつ、砥石5の凹状研削部分5bの円弧状部分5eをワーク2の外周端面から一方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけワーク2に対して相対的に曲線的に移動させることにより、ワーク2の一方の面側の外周部を研削することと、砥石5をワーク2の外周端面に沿って一方の面側から他方の面側へワーク2に対して相対的に移動させることと、ワーク2と砥石5とを回転させつつ、砥石5の凹状研削部分5bの円弧状部分5eをワーク2の外周端面から他方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけワーク2に対して相対的に曲線的に移動させることにより、ワーク2の他方の面側の外周部を研削することと、を含む。ワーク2の一方の面側または他方の面側の外周部の粗い研削を行う際には、ワーク2と砥石5とを回転させつつ、砥石5の凹状研削部分5bの円弧状部分5eをワーク2の外周端面から一方の面または他方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけワーク2に対して相対的に曲線的に移動させたら、砥石5のワーク
2に対する相対的な移動を停止させる。ワーク2の一方の面側の外周部の精密な研削を行う際には、ワーク2と砥石5とを回転させつつ、ワーク2の回転時に生じる厚さ方向の位置誤差を考慮してワーク2が回転時に通過する厚さ方向の一方の面側において最も外側の位置(例えば
図18のH
max)を基準にして、砥石5の凹状研削部分5bの円弧状部分5eをワーク2の外周端面から一方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけワーク2に対して相対的に曲線的に移動させた後に、移動を停止させ、砥石5がワーク2の一方の面側の面取り部2aの斜面に接する位置で、ワーク2の厚さ方向の位置を調整しながらワーク2の回転速度を遅くして少なくとも1回転以上回転させることで、ワーク2の回転時の位置誤差を打ち消しながらワーク2の一方の面側を研削する。ワーク2の他方の面側の外周部の精密な研削を行う際には、ワーク2と砥石5とを回転させつつ、ワーク2の回転時に生じる厚さ方向の位置誤差を考慮してワーク2が回転時に通過する厚さ方向の他方の面側において最も外側の位置(例えば
図18のH
min)を基準にして、砥石5の凹状研削部分5bの円弧状部分5eをワーク2の外周端面から他方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけワーク2に対して相対的に曲線的に移動させた後に、移動を停止させ、砥石5がワーク2の他方の面側の面取り部2aの斜面に接する位置で、ワーク2の厚さ方向の位置を調整しながらワーク2の回転速度を遅くして少なくとも1回転以上回転させることで、ワーク2の回転時の位置誤差を打ち消しながらワーク2の他方の面側を研削する。
【0080】
この方法の技術的意義について説明すると、前述した各実施形態のようにワーク2および砥石5を回転させる場合、回転中に回転軸に平行な方向(厚さ方向)の位置がぶれる可能性がある。一般的には、厚さ方向の位置には±1.5μm~±3μm程度の誤差が生じる。このような厚さ方向の誤差に起因して、研削後のワーク2の平面形状も大きく変動する。特に、
図7(A),8に示すワーク2の角度θ1,θ2が小さい場合、厚さ方向の位置ずれは水平方向(面内方向)の大きな位置ずれを生じさせる。具体的には、
図7(B)に模式的に示すように、上側の厚さ方向の位置ずれO1を対辺、水平方向の位置ずれK1を底辺とする直角三角形を想定すると、tanθ1=O1/K1、すなわちK1=O1/tanθ1である。同様に、
図7(C)に模式的に示すように、下側の厚さ方向の位置ずれO2を対辺、水平方向の位置ずれK2を底辺とする直角三角形を想定すると、tanθ2=O2/K2、すなわちK2=O2/tanθ2である。例えば角度θ1,θ2が22°であると、水平方向の位置ずれK1,K2は厚さ方向の位置ずれO1,O2の約2.5倍である。従って、厚さ方向の位置ずれO1,O2が±3μmである時に水平方向の位置ずれK1,K2は約±7.5μmである。
図8に示すR形状のワーク2においても、
図7(A)に示すT形状のワーク2と同様な水平方向の位置ずれK1,K2と厚さ方向の位置ずれO1,O2との関係(
図7(B)~7(C)参照)が生じる。前述したように、ワーク2の上面と下面の寸法(例えば
図7(A),8に示す寸法A1,A2)にそれぞれ最大7.5μm程度の誤差が生じる可能性がある。角度θ1,θ2がより小さい場合には、ワーク2の上面と下面の寸法(例えば寸法A1,A2)の誤差はさらに大きくなる。そこで、ワーク2の回転中の厚さ方向の位置のぶれの傾向を調べ、ワーク支持機構4に図示しない圧電素子等を内蔵させて、ワーク2の回転中に圧電素子を高速で細かく作動させて、厚さ方向の位置のぶれを打ち消すようにワーク2を厚さ方向に移動させることが考えられる。しかし、その場合、ワーク支持機構4の構成が非常に複雑になり、高コスト化を招くとともに故障しやすくなる。ワーク2の高速回転に合わせて高速でワーク2を上下動させると、研削後のワーク2の形状が平滑でなくなり、ワークの寸法(例えば
図7(A),8に示す曲率半径R1,R2等)の精度が悪くなる可能性がある。ワーク2の回転速度を遅くすることによってこれらの問題を解決しようとすると、作業効率が低下して加工コストが高くなる。
【0081】
従って、作業効率をあまり低下させないように、ワーク2を上下動させる装置の作動と、それに伴うワーク2を厚さ方向の移動を、ワーク2の回転中に常時行うのでは無く、必要最小限だけ行うようにすることが好ましい。具体的には、ワーク2の一方の面側(上面側)および他方の面側(下面側)の外周部の精密な研削を行う前に、ワーク支持機構4によるワーク2の回転時の厚さ方向の位置ずれ状態を調べる。すなわち、ワーク支持機構4によってワーク2を実際に回転させながら、例えば
図17に示す8つの点H1~H8の高さ方向のばらつきを測定する。そして、各点H1~H8の高さのうち、それらの高さの中間点からの差が最も大きい正の値H
max(一例としては+3μm程度)と、差が最も大きい負の値H
min(一例としては-3μm程度)とを求める。そして、ワーク2と砥石5とを回転させつつ、厚さ方向の最高点H
maxを基準にして、砥石5の凹状研削部分5bの円弧状部分5eをワーク2の外周端面から上面に向かって、移動条件に従って予め算出された角度だけワーク2に対して相対的に曲線的に移動させた後に、移動を停止させる。そして、砥石5がワーク2の上面側の面取り部2aの斜面に接する位置で、ワーク2の厚さ方向の位置を調整しながらワーク2の回転速度を遅くして少なくとも1回転以上回転させることで、ワーク2の回転時の位置誤差を打ち消しながらワーク2の上面側を研削する。同様に、ワーク2と砥石5とを回転させつつ、厚さ方向の最低点H
minを基準にして、砥石5の凹状研削部分5bの円弧状部分5eをワーク2の外周端面から下面に向かって、移動条件に従って予め算出された角度だけワーク2に対して相対的に曲線的に移動させた後に、移動を停止させる。そして、砥石5がワーク2の下面側の面取り部2aの斜面に接する位置で、ワーク2の厚さ方向の位置を調整しながらワーク2の回転速度を遅くして少なくとも1回転以上回転させることで、ワーク2の回転時の位置誤差を打ち消しながらワーク2の下面側を研削する。
【0082】
この方法によると、研削工程の最終段階において、ワーク2の回転時の位置誤差を打ち消すようにワーク2を厚さ方向に移動させながらワーク2を研削することにより、研削面が平滑になり、所望の断面形状に精度良く形成することができる。しかも、このワーク2の厚さ方向の移動およびワーク2の低速回転は、研削工程の最終段階である1回転または数回転のみであってよく、その前の段階ではワーク2の厚さ方向の移動は行わずワーク2を高速回転させながら研削を行う。従って、厚さ方向のわずかな位置ずれにより生じる断面形状で最も重要な水平方向(面内方向)の寸法での大きな位置ずれを防ぎ、凹状形状砥石による効果と鈍角的接続で断面Rと斜面部のつなぎ目の影響がほとんど無視できることで、高精度の加工が可能であって、しかも作業効率はあまり低下せず、装置の故障は生じにくい。ワーク2の厚さ方向の移動は、ワーク2の低速回転時に行うため、圧電素子等の高価な装置は必要なく、ボールネジ等を用いて行うことができる。このように、この方法によると、ワーク2の加工精度が良く、作業効率が良好で加工コストがあまり高くならない。なお、この方法を、砥石5とワーク2の曲線的な相対移動とその後の直線的な相対移動とを行いつつ研削を行う前述した方法と組み合わせて実施することもできる。
【0083】
[付記1]
円板状のワークを所望の断面形状に形成するためのワーク加工装置であって、
前記ワークを支持するワーク支持機構と、前記ワークに対して平行に配置される円板状の砥石と、前記砥石を支持する砥石支持機構と、を有し、
前記ワーク支持機構は前記ワークを回転させ、前記砥石支持機構は前記砥石を回転させ、前記ワーク支持機構による前記ワークの回転の中心となる回転軸と、前記砥石支持機構による前記砥石の回転の中心となる回転軸とは互いに平行であり、
前記ワーク支持機構は、前記ワークの片側の面のみを吸着する吸着部材を有し、前記吸着部材の平面形状は、前記ワークの半径よりも小さい半径の円形状であり、円形状の前記吸着部材の外周部分は、外側に向かうにつれて厚さが薄くなる先薄形状を有し、
前記砥石は外周部に凹状研削部分を有しており、前記凹状研削部分の、前記砥石の前記回転軸に沿う断面における断面形状は、外周側から内周側に向かって窪む凹状であり、少なくとも厚さ方向の両端部にそれぞれ円弧状部分を有し、前記両端部の前記円弧状部分の間に、前記ワークの厚さ以上の厚さを有する直線部分を有する形状であり、
前記砥石と前記ワークは、前記砥石支持機構または前記ワーク支持機構によって互いに接近したり離れたりするように相対的に移動可能であり、
前記砥石支持機構または前記ワーク支持機構は、前記凹状研削部分と前記ワークとの接触部分が前記ワークの前記所望の断面形状に沿って移動するように前記砥石の前記円弧状部分の曲率半径に基づいて算出された移動条件に従って、前記砥石を前記ワークに対して相対的に移動させ、
前記砥石の前記円弧状部分が、前記ワークの前記所望の断面形状の面取り部との間に実質的に隙間が生じることなく前記ワークに当接するように、前記砥石の前記円弧状部分の曲率半径は少なくとも前記ワークの厚さの10倍以上であり、
前記ワークの前記吸着部材によって吸着される前記片側の面側に位置する前記円弧状部分は、前記砥石の前記回転軸に沿う断面において、当該円弧状部分の接線が前記吸着部材の前記先薄形状の角度と一致する角度で延びる位置において前記ワークの前記片側の面側の端部と接する状態で前記吸着部材の前記先薄形状に当接する長さ未満であって、かつ、前記所望の断面形状の前記ワークの前記片側の面側の前記面取り部の長さ以上の長さを有していることを特徴とする、ワーク加工装置。
【0084】
[付記2]
円板状のワークを所望の断面形状に形成するためのワーク加工装置であって、
前記ワークを支持するワーク支持機構と、前記ワークに対して平行に配置される円板状の砥石と、前記砥石を支持する砥石支持機構と、を有し、
前記ワーク支持機構は前記ワークを回転させ、前記砥石支持機構は前記砥石を回転させ、前記ワーク支持機構による前記ワークの回転の中心となる回転軸と、前記砥石支持機構による前記砥石の回転の中心となる回転軸とは互いに平行であり、
前記ワーク支持機構は、前記ワークの片側の面のみを吸着する吸着部材を有し、前記吸着部材の平面形状は、前記ワークの半径よりも小さい半径の円形状であり、円形状の前記吸着部材の外周部分は、外側に向かうにつれて厚さが薄くなる先薄形状を有し、
前記砥石は外周部に凹状研削部分を有しており、前記凹状研削部分の、前記砥石の前記回転軸に沿う断面における断面形状は、外周側から内周側に向かって窪む凹状であり、少なくとも厚さ方向の両端部にそれぞれ円弧状部分と、前記円弧状部分よりも厚さ方向外側に位置して前記円弧状部分と連続的に繋がっている斜面部分と、を有し、前記両端部の前記円弧状部分の間に前記ワークの厚さ以上の厚さを有する直線部分を有する形状であり、
前記砥石と前記ワークは、前記砥石支持機構または前記ワーク支持機構によって互いに接近したり離れたりするように相対的に移動可能であり、
前記砥石支持機構または前記ワーク支持機構は、前記凹状研削部分と前記ワークとの接触部分が前記ワークの前記所望の断面形状に沿って移動するように前記砥石の前記円弧状部分の曲率半径に基づいて算出された移動条件に従って、前記砥石を前記ワークに対して相対的に移動させ、
前記砥石の前記円弧状部分の曲率半径は少なくとも前記ワークの厚さの10倍以上であり、
前記ワークの前記吸着部材によって吸着される前記片側の面側に位置する前記斜面部分は、前記砥石の前記回転軸に沿う断面において、前記円弧状部分の接線が前記吸着部材の前記先薄形状の角度と一致する角度で延びる位置において前記ワークの前記片側の面側の端部と接する状態で当該斜面部分が前記吸着部材の前記先薄形状に当接する長さ未満であって、かつ、前記所望の断面形状の前記ワークの前記片側の面側の前記面取り部の長さ以上の長さを有していることを特徴とする、ワーク加工装置。
【0085】
[付記3]
前記砥石の外周部に、前記凹状研削部分と、前記ワークと対向する面が前記回転軸に沿う断面において前記砥石の厚さ方向と平行な直線状である断面長方形状研削部分とが、厚さ方向に並んで設けられており、前記砥石の前記断面長方形状研削部分は、前記凹状研削部分による研削が行われる前の前記ワークの外周部に当接して、前記砥石が前記ワークの半径方向外側から内側に向けて移動することにより前記ワークの半径を小さくするように前記ワークを研削する部分である、付記1または2に記載のワーク加工装置。
【0086】
[付記4]
前記吸着部材の半径r1は、前記ワークの前記所望の断面形状の半径r2と前記ワークの厚さtとによって表すと、r2-10t≦r1≦r2-5tであり、
前記吸着部材の前記先薄形状の角度θ1は、前記ワークの前記所望の断面形状の前記面取り部の角度θ2によって表すと、θ2-10≦θ1≦θ2+5である、付記1から3のいずれかに記載のワーク加工装置。
【0087】
[付記5]
前記砥石支持機構は、前記砥石が直接または間接的に取り付けられるスピンドルと、前記スピンドルを回転可能に支持する回転ベアリング部とを有し、前記砥石を、当該砥石の重心が当該砥石の取り付け位置と前記回転ベアリング部との間に位置するように支持する、付記1から4のいずれかに記載のワーク加工装置。
【0088】
[付記6]
前記砥石支持機構および前記ワーク支持機構は、前記ワークの一方の面側の外周部を研削する際には、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から一方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させ、前記ワークの前記他方の面側の外周部を研削する際には、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記他方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させ、
前記砥石支持機構および前記ワーク支持機構は、前記ワークの前記一方の面側または前記他方の面側の外周部の粗い研削を行う際には、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記一方の面または前記他方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させたら、前記砥石の前記ワークに対する相対的な移動を停止させ、
前記砥石支持機構および前記ワーク支持機構は、前記ワークの前記一方の面側または前記他方の面側の外周部の精密な研削を行う際には、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記一方の面または前記他方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させた後に、前記砥石を前記ワークに対して相対的に直線的に移動させる、付記1から5のいずれかに記載のワーク加工装置。
【0089】
[付記7]
前記凹状研削部分を有する前記砥石に加えて、前記ワークの外周の接線方向に対して斜めに配置されて前記砥石の前記凹状研削部分による研削よりも精密な研削に用いられる円板状の溝付き砥石と、前記溝付き砥石を支持する溝付き砥石支持機構と、をさらに有し、
前記溝付き砥石支持機構は前記溝付き砥石を回転させる、付記1から6のいずれかに記載のワーク加工装置。
【0090】
[付記8]
前記ワークに代えて前記ワーク支持機構に取り付け可能なツルーイング砥石をさらに有し、
前記ツルーイング砥石は、前記砥石支持機構または前記ワーク支持機構により、前記移動条件に従って前記砥石に対して相対的に移動させられることによって外形が形成されており、
前記溝付き砥石は、前記ツルーイング砥石に押し当てられて前記ツルーイング砥石の外形が転写されることによって溝が形成または整形されていることを特徴とする、付記7に記載のワーク加工装置。
【0091】
[付記9]
前記ワーク支持機構は、前記ワーク支持機構の前記回転軸の温度を一定に保つための液体または気体の流れを発生させる温度調整機構を有する、付記1から8のいずれかに記載のワーク加工装置。
【0092】
[付記10]
付記1または2に記載のワーク加工装置に含まれている前記砥石であって、
前記直線部分は前記円弧状部分よりも砥石粒度が粗い部分であって、前記円弧状部分は前記直線部分による研削よりも精密な研削に用いられる部分であることを特徴とする、砥石。
【0093】
[付記11]
付記3に記載のワーク加工装置に含まれている前記砥石であって、
前記断面長方形状研削部分は前記凹状研削部分よりも砥石粒度が粗い部分であって、前記凹状研削部分は前記断面長方形状研削部分による研削よりも精密な研削に用いられる部分であることを特徴とする、砥石。
【0094】
[付記12]
付記1から9のいずれかに記載のワーク加工装置に含まれている前記砥石であって、
厚さ方向の一方の端部の前記円弧状部分と他方の端部の前記円弧状部分とは、それぞれの曲率半径の平均値が所望の大きさになるように個別に形成された部分であることを特徴とする、砥石。
【0095】
[付記13]
付記1から9のいずれかに記載のワーク加工装置に含まれている前記砥石であって、
厚さ方向の一方の端部の前記円弧状部分の曲率半径の最大値と最小値の差と、他方の端部の前記円弧状部分の曲率半径の最大値と最小値の差とが、いずれも第1の所定値以下であり、
厚さ方向の一方の端部の前記円弧状部分の曲率半径の平均値と、他方の端部の前記円弧状部分の曲率半径の平均値との差が、第2の所定値以下であることを特徴とする、砥石。
【0096】
[付記14]
付記1から9のいずれかに記載のワーク加工装置に含まれている前記砥石であって、
厚さ方向に延びるストレート状またはテーパ状の取付穴を有することを特徴とする、砥石。
【0097】
[付記15]
外周部に凹状研削部分を有しており回転可能な円板状の砥石であって、前記凹状研削部分の、前記砥石の回転軸に沿う断面における断面形状は、外周側から内周側に向かって窪む凹状であり、少なくとも厚さ方向の両端部にそれぞれ円弧状部分を有し、前記両端部の前記円弧状部分の間に、前記ワークの厚さ以上の厚さを有する直線部分を有する形状である砥石を用いて、円板状のワークを所望の断面形状に形成するためのワーク加工方法であって、
前記ワークと前記砥石とを互いに平行に配置するステップと、
前記砥石を回転させるとともに、前記砥石の前記回転軸と平行な回転軸を中心として前記ワークを回転させつつ、前記凹状研削部分と前記ワークとの接触部分が前記ワークの前記所望の断面形状に沿って移動するように前記砥石の前記円弧状部分の曲率半径に基づいて算出された移動条件に従って、前記砥石を前記ワークに対して相対的に移動させるステップと、を含み、
前記砥石を前記ワークに対して相対的に移動させるステップは、
前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から一方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させることにより、前記ワークの前記一方の面側の外周部を研削することと、
前記砥石を前記ワークの外周端面に沿って前記一方の面側から他方の面側へ前記ワークに対して相対的に移動させることと、
前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記他方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させることにより、前記ワークの前記他方の面側の外周部を研削することと、を含み、
前記ワークの前記一方の面側または前記他方の面側の外周部の粗い研削を行う際には、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記一方の面または前記他方の面に向かって、前記砥石の前記回転軸と前記ワークの前記回転軸とが同一平面内に位置するように、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させたら、前記砥石の前記ワークに対する相対的な移動を停止させ、
前記ワークの前記一方の面側または前記他方の面側の外周部の精密な研削を行う際には、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記一方の面または前記他方の面に向かって、前記砥石の前記回転軸と前記ワークの前記回転軸とが同一平面内に位置するように、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させた後に、曲線的な移動の際に前記砥石の前記回転軸と前記ワークの前記回転軸とが位置していた前記平面に対して垂直または斜めに交差する方向に延びる平面内において前記砥石の前記回転軸と前記ワークの前記回転軸とが相対的に移動するように、前記砥石を前記ワークに対して相対的に直線的に移動させることを特徴とする、ワーク加工方法。
【0098】
[付記16]
外周部に凹状研削部分を有しており回転可能な円板状の砥石であって、前記凹状研削部分の、前記砥石の回転軸に沿う断面における断面形状は、外周側から内周側に向かって窪む凹状であり、少なくとも厚さ方向の両端部にそれぞれ円弧状部分と、前記円弧状部分よりも厚さ方向外側に位置して前記円弧状部分と連続的に繋がっている斜面部分と、を有し、前記両端部の前記円弧状部分の間に前記ワークの厚さ以上の厚さを有する直線部分を有する形状である砥石を用いて、円板状のワークを所望の断面形状に形成するためのワーク加工方法であって、
前記ワークと前記砥石とを互いに平行に配置するステップと、
前記砥石を回転させるとともに、前記砥石の前記回転軸と平行な回転軸を中心として前記ワークを回転させつつ、前記凹状研削部分と前記ワークとの接触部分が前記ワークの前記所望の断面形状に沿って移動するように前記砥石の前記円弧状部分の曲率半径に基づいて算出された移動条件に従って、前記砥石を前記ワークに対して相対的に移動させるステップと、を含み、
前記砥石を前記ワークに対して相対的に移動させるステップは、
前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から一方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させることにより、前記ワークの前記一方の面側の外周部を研削することと、
前記砥石を前記ワークの外周端面に沿って前記一方の面側から他方の面側へ前記ワークに対して相対的に移動させることと、
前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記他方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させることにより、前記ワークの前記他方の面側の外周部を研削することと、を含み、
前記ワークの前記一方の面側または前記他方の面側の外周部の粗い研削を行う際には、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記一方の面または前記他方の面に向かって、前記砥石の前記回転軸と前記ワークの前記回転軸とが同一平面内に位置するように、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させたら、前記砥石の前記ワークに対する相対的な移動を停止させ、
前記ワークの前記一方の面側または前記他方の面側の外周部の精密な研削を行う際には、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記一方の面または前記他方の面に向かって、前記砥石の前記回転軸と前記ワークの前記回転軸とが同一平面内に位置するように、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させた後に、曲線的な移動の際に前記砥石の前記回転軸と前記ワークの前記回転軸とが位置していた前記平面内に前記砥石の前記回転軸と前記ワークの前記回転軸とが位置する状態を維持したまま、前記砥石を前記ワークに対して相対的に直線的に移動させることを特徴とする、ワーク加工方法。
【0099】
[付記17]
外周部に凹状研削部分を有しており回転可能な円板状の砥石であって、前記凹状研削部分の、前記砥石の回転軸に沿う断面における断面形状は、外周側から内周側に向かって窪む凹状であり、少なくとも厚さ方向の両端部にそれぞれ円弧状部分を有し、前記両端部の前記円弧状部分の間に、前記ワークの厚さ以上の厚さを有する直線部分を有する形状である砥石を用いて、円板状のワークを所望の断面形状に形成するためのワーク加工方法であって、
前記ワークと前記砥石とを互いに平行に配置するステップと、
前記砥石を回転させるとともに、前記砥石の前記回転軸と平行な回転軸を中心として前記ワークを回転させつつ、前記凹状研削部分と前記ワークとの接触部分が前記ワークの前記所望の断面形状に沿って移動するように前記砥石の前記円弧状部分の曲率半径に基づいて算出された移動条件に従って、前記砥石を前記ワークに対して相対的に移動させるステップと、を含み、
前記砥石を前記ワークに対して相対的に移動させるステップは、
前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から一方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させることにより、前記ワークの前記一方の面側の外周部を研削することと、
前記砥石を前記ワークの外周端面に沿って前記一方の面側から他方の面側へ前記ワークに対して相対的に移動させることと、
前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記他方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させることにより、前記ワークの前記他方の面側の外周部を研削することと、を含み、
前記ワークの前記一方の面側または前記他方の面側の外周部の粗い研削を行う際には、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記一方の面または前記他方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させたら、前記砥石の前記ワークに対する相対的な移動を停止させ、
前記ワークの前記一方の面側または前記他方の面側の外周部の精密な研削を行う際には、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記一方の面または前記他方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させた後に、移動を停止させ、
前記ワークの前記一方の面側の外周部の精密な研削を行う際には、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記ワークの回転時に生じる厚さ方向の位置誤差を考慮して前記ワークが回転時に通過する厚さ方向の前記一方の面側において最も外側の位置を基準にして、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記一方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させた後に、移動を停止させ、前記砥石が前記ワークの前記一方の面側の面取り部の斜面に接する位置で、前記ワークの厚さ方向の位置を調整しながら前記ワークの回転速度を遅くして少なくとも1回転以上回転させることで、前記ワークの回転時の位置誤差を打ち消しながら前記ワークの前記一方の面側を研削し、
前記ワークの前記他方の面側の外周部の精密な研削を行う際には、前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記ワークの回転時に生じる厚さ方向の位置誤差を考慮して前記ワークが回転時に通過する厚さ方向の前記他方の面側において最も外側の位置を基準にして、前記砥石の前記凹状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から前記他方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させた後に、移動を停止させ、前記砥石が前記ワークの前記他方の面側の面取り部の斜面に接する位置で、前記ワークの厚さ方向の位置を調整しながら前記ワークの回転速度を遅くして少なくとも1回転以上回転させることで、前記ワークの回転時の位置誤差を打ち消しながら前記ワークの前記他方の面側を研削することを特徴とする、ワーク加工方法。
【符号の説明】
【0100】
1 ワーク加工装置
2 ワーク
2a 面取り部
2b 片側の面(吸着される面)
3,6,14 回転軸
4 ワーク支持機構
4a X方向移動ステージ
4b Y方向移動ステージ
4c Z方向移動ステージ
4d モータ
5 砥石
5a ベース円板部
5b 凹状研削部分
5c 取付穴
5d 凹部
5e 円弧状部分
5f 直線部分
5g 断面長方形状研削部分
5h 斜面部分
7 砥石支持機構
7a ケース
7b 回転ベアリング部
7c スピンドル
7d フランジ部
7e ボルト
10 吸着部材
10a 先薄形状
11 ツルーイング砥石(ツルアー)
12 溝付き砥石
12a 溝
13 溝付き砥石支持機構
15 温度調整機構
16 砥石
16a 総形溝