(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】光演算装置
(51)【国際特許分類】
G06E 3/00 20060101AFI20240329BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
G06E3/00
G02B5/18
(21)【出願番号】P 2023500678
(86)(22)【出願日】2022-01-27
(86)【国際出願番号】 JP2022003035
(87)【国際公開番号】W WO2022176554
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2022-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2021024503
(32)【優先日】2021-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】日下 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】柏木 正浩
【審査官】征矢 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-018587(JP,A)
【文献】特開2006-106243(JP,A)
【文献】国際公開第2020/022513(WO,A1)
【文献】特開2003-057422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06E3/00
G02B5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み又は屈折率が個別に設定された複数のマイクロセルを有する1又は複数の光回折素子と、
光信号と、当該光信号を遅延させた光信号である遅延光信号とを、少なくともあるタイミングにおいて、同時に前記1又は複数の光回折素子に入力する光信号入力部と、を備えている、
ことを特徴とする光演算装置。
【請求項2】
前記光信号入力部は、前記光信号が伝送される光路を、第1の光路と、当該第1の光路よりも光路長が長い第2の光路とに分岐し、前記第1の光路から出力される前記光信号、及び、前記第2の光路から出力される前記遅延光信号の各々を前記1又は複数の光回折素子に入力する、
ことを特徴とする請求項1に記載の光演算装置。
【請求項3】
前記第2の光路の光路上には、屈折率が空気の屈折率を上回る材料により構成された高屈折率部材が設けられている、
ことを特徴とする請求項2に記載の光演算装置。
【請求項4】
前記第2の光路は、実空間長が前記第1の光路の実空間長よりも長く、且つ、屈折率が空気以下である媒質により満たされている、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の光演算装置。
【請求項5】
前記光信号が伝送される光路上に設けられたハーフミラーであって、前記光信号の伝送経路を、互いに異なる第1の光路及び第2の光路に分岐させるハーフミラーを更に備えている、
ことを特徴とする請求項2~4の何れか1項に記載の光演算装置。
【請求項6】
前記光信号入力部は、単一の動画像を構成し、且つ、互いに異なるフレームの複数の画像を表示し、各画像を前記1又は複数の光回折素子に入力する、
ことを特徴とする請求項1に記載の光演算装置。
【請求項7】
前記光信号入力部は、前記光信号と前記遅延光信号との間に生じる遅延量を変化させる遅延量可変部を備えている、
ことを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載の光演算装置。
【請求項8】
厚み又は屈折率が個別に設定された複数のマイクロセルを有する1又は複数の光回折素子と、
光信号と、当該光信号を遅延させた光信号である遅延光信号とを、少なくともあるタイミングにおいて、同時に前記1又は複数の光回折素子に入力する光信号入力部と、を備えた光演算装置であって、
前記光信号入力部は、前記光信号が伝送される光路を、第1の光路と、当該第1の光路よりも光路長が長い第2の光路とに分岐し、前記第1の光路から出力される前記光信号、及び、前記第2の光路から出力される前記遅延光信号の各々を前記1又は複数の光回折素子に入力し、
前記第2の光路は、実空間長が前記第1の光路の実空間長よりも長く、且つ、屈折率が空気以下である媒質により満たされている、
ことを特徴とする光演算装置。
【請求項9】
厚み又は屈折率が個別に設定された複数のマイクロセルを有する1又は複数の光回折素子を備える光演算装置が実行する光演算方法であって、
前記光演算装置が光信号の一部を遅延させることにより遅延光信号を生成する遅延工程と、
前記光演算装置が前記光信号と前記遅延光信号とを、少なくともあるタイミングにおいて、同時に
前記1又は複数の光回折素
子に入力する入力工程と、を含んでいる、
ことを特徴とする光演算方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、あらかじめ定められた演算を光学的に実行する光演算装置に関する。
【背景技術】
【0002】
厚み又は屈折率が個別に設定された複数のマイクロセルを有し、各マイクロセルを透過した光を相互に干渉させることによって、予め定められた演算を光学的に実行する光回折構造を基板の一方の主面に形成した光回折素子が知られている。ここで、「マイクロセル」とは、例えば、セルサイズが10μm未満のセルのことを指す。また、「セルサイズ」とは、セルの面積の平方根のことを指す。
【0003】
このような光回折素子には、複数のマイクロセルが設けられている有効領域に対して、光の強度分布が信号を表す光信号が照射される。光回折素子は、上述したように各マイクロセルを透過した光を相互に干渉させることによって光信号の強度分布を異なる強度分布へ変換する。このように、光回折素子においては、予め定められた光学的な演算(光演算)が強度分布の変換というかたちで実行される。
【0004】
複数の光回折素子を用いた光演算装置には、プロセッサを用いた電気的な演算装置と比べて高速且つ低消費電力であるという利点がある。特許文献1には、入力層、中間層、及び出力層を有する光ニューラルネットワークが開示されている。上述した光回折素子は、例えば、このような光ニューラルネットワークの中間層として利用することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1のFig.1に示されているように、従来の光演算装置は、光信号として強度分布が時間的に変動しない画像(すなわち静止画像)を用いることを想定している。
【0007】
静止画像は、一時刻における被写体の状態を切り取った画像である。そのため、単一の静止画像は、その被写体の時間経過に伴う変化(例えば、位置の変化や状態の変化など)に関する情報を含まない。したがって、従来の光演算装置は、光信号が表す情報の時間経過に伴う変化を取り扱うことができなかった。
【0008】
本発明の一態様は、上述した課題に鑑みなされたものであり、その目的は、強度分布が時間変化する光信号を取り扱う光演算装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る光演算装置は、厚み又は屈折率が個別に設定された複数のマイクロセルを有する1又は複数の光回折素子と、光信号と、当該光信号を遅延させた光信号である遅延光信号とを、少なくともあるタイミングにおいて、同時に前記1又は複数の光回折素子に入力する光信号入力部と、を備えている。
【0010】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る光演算方法は、光信号の一部を遅延させることにより遅延光信号を生成する遅延工程と、前記光信号と前記遅延光信号とを、少なくともあるタイミングにおいて、同時に1又は複数の光回折素子であって、厚み又は屈折率が個別に設定された複数のマイクロセルを有する1又は複数の光回折素子に入力する入力工程と、を含んでいる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、強度分布が時間変化する光信号を取り扱う光演算装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】(a)は、本発明の第1の実施形態に係る光演算装置の概略図である。(b)は、(a)に示した光演算装置において実施される光演算方法のフローチャートである。
【
図2】
図1に示した光演算装置が備えている光回折素子の斜視図である。
【
図3】
図1に示した光演算装置の変形例の概略図である。
【
図4】
図1に示した光演算装置の変形例の概略図である。
【
図5】本発明の第2の実施形態に係る光演算装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔第1の実施形態〕
本発明の第1の実施形態に係る光演算装置1について、
図1及び
図2を参照して説明する。
図1の(a)は、光演算装置1の概略図である。
図1の(a)においては、光信号入力部20の各構成要素が配置されているシャシーの表面がzx平面と平行になるように、また、y軸方向が鉛直方向と平行になるように、直交座標系を定めている。また、光信号Sが伝送される方向をz軸正方向と定め、鉛直方向下向きをy軸正方向と定め、これらのy軸正方向及びz軸正方向とともに右手系の直交座標系を構成するようにx軸正方向を定めている。
図1の(b)は、光演算装置1において実施される光演算方法M10のフローチャートである。光演算方法M10も、本発明の一実施形態である。
図2は、光演算装置1が備えている光回折素子11aの斜視図である。
【0014】
図1に示すように、光演算装置1は、5つの光回折素子10a,10b,10c,10d,10eと、光信号入力部20と、レンズ群30と、を備えている。
【0015】
<レンズ群>
レンズ群30は、複数のレンズを備えている(
図1には不図示)。各レンズは、各々の光を透過する領域である有効領域が重なるように、光軸に沿って配置されている。レンズ群30は、所定の範囲内において焦点距離を調整可能に構成されていることが好ましい。
【0016】
レンズ群30は、光信号入力部20に対する相対位置が動かないように、光信号入力部20に対して固定されている。
【0017】
レンズ群30は、最初段のレンズに入射してきた光束の進行方向を整え、当該光束を後述する光回折素子10aの入射面に結像させる。レンズ群30の最後段から光信号入力部20に入力される光束は、レンズ群30の照射面において時間変化する強度分布を有する。以下において、光信号入力部20に入力される光束のことを光信号Sと称する。このように、光信号Sの強度分布を所定の位置(例えばレンズ群30の出射面)において定点観測した場合、当該強度分布は、時間変化する。
【0018】
レンズ群30は、上述した複数のレンズの後段に所定の波長域の光を透過させるバンドパスフィルタを備えていることが好ましい。本実施形態において、このバンドパスフィルタは、通過波長域の中心波長が800nmであり、通過波長域の幅が10nmである。なお、バンドパスフィルタにおける通過波長域の中心波長及び幅は、光演算装置1の用途などに応じて適宜定めることができる。例えば、バンドパスフィルタの中心周波数は、360nm以上1000μm以下の波長域内において適宜定めることができる。この帯域は、可視域(360nm以上830nm未満)、近赤外域(830nm以上2μm未満)、中赤外域(2μm以上4μm未満)、及び、遠赤外域(4μm以上1000μm以下)により構成されている。
【0019】
また、このバンドパスフィルタは、レンズ群30の代わりに光信号入力部20の内部に設けられていてもよい。
【0020】
<光信号入力部>
光信号入力部20は、強度分布が時間変化する光信号Sの異なる時刻における強度分布を、同時に光回折素子10a,10bに入力するように構成されている。換言すれば、光信号入力部20は、基準となる光信号(本実施形態においては、光路OP1から出力される光信号S1)と、当該光信号を遅延させた光信号(本実施形態においては、光路OP2から出力される光信号S2)とを、
常に同時に光回折素子10a,10bに入力するように構成されている。
図2に示すように、光信号入力部20は、ハーフミラー21と、遅延量可変部22と、ミラー23と、シャシーとを備えている。また、
図1の(b)に示すように、光演算方法M10は、遅延工程S11と、入力工程S12とを含んでいる。遅延工程S11は、光信号S1の一部を分岐させることによって得られた光信号S2を遅延させることにより、遅延光信号である光信号S2を生成する工程である。遅延工程S11は、後述する遅延量可変部22において実施される。また、入力工程S12は、光信号S1と光信号S2とを、常に同時に光回折素子10a,10bに入力する工程である。入力工程S12は、後述するハーフミラー21とミラー23とにより実施される。
【0021】
図1に図示していないシャシーは、光信号入力部20、ハーフミラー21、遅延量可変部22、及びミラー23が配置されている板状部材である。シャシーの主面は、zx平面と平行である。
【0022】
レンズ群30から出射された光信号Sは、光信号入力部20の内部をz軸正方向と平行に伝搬する。
図1においては、光信号Sにおける主光線の経路を光路OPIとしている。
【0023】
光路OPIには、ハーフミラー21が設けられている。ハーフミラー21は、鏡面の法線方向に対して45°の入射角で光が入射した場合に、半分の光を正反射し、残りの半分の光を透過させる。ハーフミラー21は、その鏡面がy軸方向と平行であり、且つ、鏡面の法線と光路OPIとのなす角が45°になるように、シャシーの主面に固定されている。したがって、光信号Sは、ハーフミラー21の鏡面に対して45°の入射角で入射する。
【0024】
(第1の光路)
光信号Sの半分である光信号S1は、鏡面において正反射されず、そのままz軸正方向と平行に伝搬し、光回折素子10aに入力される。光信号S1における主光線の経路を光路OP1とする。光路OP1は、第1の光路の一例である。
【0025】
(第2の光路)
光信号Sの残りの半分である光信号S2は、鏡面において正反射され、光路OPIの方向と直交するx軸正方向へ伝搬する。光信号S2における主光線の経路を光路OP2とする。光路OP2は、第2の光路の一例である。
【0026】
光路OP2には、遅延量可変部22と、ミラー23とがこの順番で設けられている。
【0027】
遅延量可変部22は、1軸方向に沿ってテーブル221の位置を移動可能な光学ステージと、2つのミラー222,223とを備えている。
【0028】
光学ステージは、テーブル221がx軸方向と平行に移動可能なように、シャシーの主面に固定されている。
図1においては、テーブル221が移動可能な方向を矢印Aで図示している。
【0029】
テーブル221の主面には、ミラー222,223がこの順番で設けられている。ミラー222,223は、鏡面に入射した光を正反射する。
【0030】
ミラー222は、その鏡面がy軸方向と平行であり、且つ、鏡面の法線と光路OP2とのなす角が45°になるように、テーブル221の主面に固定されている。したがって、光信号S2は、ハーフミラー21の鏡面に対して45°の入射角で入射し、鏡面においてz軸負方向へ正反射される。また、ミラー223は、その鏡面がy軸方向と平行であり、且つ、鏡面の法線と光路OP2とのなす角が45°になるように、テーブル221の主面に固定されている。したがって、ミラー222により正反射された光信号S2は、ミラー223の鏡面に対して45°の入射角で入射し、鏡面においてx軸負方向へ正反射される。
【0031】
ミラー23は、その鏡面がy軸方向と平行であり、且つ、鏡面の法線と光路OP2とのなす角が45°になるように、シャシーの主面に固定されている。したがって、ミラー223により正反射された光信号S2は、ミラー23の鏡面に対して45°の入射角で入射し、鏡面においてz軸正方向へ正反射される。
【0032】
ミラー23により正反射された光信号S2は、z軸正方向と平行に伝搬し、光回折素子10bに入力される。
【0033】
(光路長の差)
以上のように、ハーフミラー21は、光信号Sが伝送される光路OPIを光路OP1と光路OP2とに分岐する。光路OP2の実空間における長さである実空間長は、光路OP1の実空間長と比較して、差ΔLの分だけ長い。ここで、差ΔLは、
図1に示すように、ΔL=L1+2L2+2L3で求められる。
【0034】
光路の光路長は、実空間における差ΔLと、光路を満たす媒質の屈折率との積で求めることができる。本実施形態において、光路OP1と光路OP2とは、何れも空気により満たされている。したがって、光路を満たす媒質の屈折率は、ほぼ1と見做すことができるので、光路OP1及び光路OP2における光路長の差は、差ΔLと概ね等しい。
【0035】
このように、光信号入力部20においては、光路OP2の方が光路OP1よりも光路長が長い。したがって、光信号入力部20は、光信号Sの異なる時刻における強度分布を有する光信号S1,S2を同時に光回折素子10a,10bに入力することができる。光信号S1は、後述する光信号S2に対して基準となる光信号であり、光信号S2は、光信号S1を遅延させた遅延光信号である。
【0036】
(遅延量可変部)
上述したように、遅延量可変部22は、x軸方向に沿ってテーブル221の位置を移動させることができる。テーブル221をx軸負方向側へ移動させた場合(ハーフミラー21及びミラー23に近づけた場合)、差ΔLは小さくなる。一方、テーブル221をx軸正方向側へ移動させた場合(ハーフミラー21及びミラー23から遠ざけた場合)、差ΔLは大きくなる。したがって、遅延量可変部22は、テーブル221の位置を調整することによって、光回折素子10a,10bに入力する各光信号S1,S2における時刻の差である遅延量を変化させることができる。
【0037】
また、光路OP2には、屈折率が空気の屈折率を上回る材料により構成された高屈折率部材が設けられていてもよい。高屈折率部材の一例としては、ハーフミラー21と遅延量可変部22との間、及び、遅延量可変部22とミラー23との間に設けられた透光性を有する樹脂製の板状部材24が挙げられる。
図1においては、板状部材24を仮想線(2点鎖線)により図示している。なお、板状部材24は、ハーフミラー21と遅延量可変部22との間、及び、遅延量可変部22とミラー23との間の何れか一方に設けられていてもよい。また、板状部材24は、ミラー222とミラー223との間に設けられていてもよい。また、高屈折率部材の形状は、板状部材に限られず、適宜さだめることができ、例えばブロック状であってもよい。
【0038】
板状部材24の厚み(x軸方向に沿った長さ)を厚くすれば厚くするほど、あるいは、板状部材24を構成する樹脂の屈折率を大きくすれば大きくするほど、光路OP1及び光路OP2における光路長の差を拡大することができる。したがって、板状部材24は、光回折素子10a,10bに入力する各光信号S1,S2における時刻の差である遅延量を変化させる遅延量可変部としても機能する。
【0039】
(各光信号を光回折素子に入力するタイミング)
図1の(a)のように構成された光演算装置1において、光信号入力部20は、光信号S1と光信号S2とを、常に、光回折素子10a,10bに同時に入力するように構成されている。ただし、本発明の一態様において、光信号入力部20は、光信号S1と光信号S2とを、少なくともあるタイミングにおいて、光回折素子10a,10bに同時に入力するように構成されていてもよい。換言すれば、光信号入力部20は、光信号S1と光信号S2とは、少なくともあるタイミング以外のタイミングにおいて、光信号S1及び光信号S2の何れか一方を光回折素子10a又は光回折素子10bに入力するように構成されていてもよい。
【0040】
なお、任意のタイミングにおいて各光信号S1,S2を各光回折素子10a,10bに入力したり遮断したりする機構としては、各光路OP1,OP2の光路上に設けられたシャッターを用いることができる。
【0041】
なお、光信号S1と光信号S2とを、少なくともあるタイミングにおいて、光回折素子10a,10bに同時に入力するように構成されていてもよい点は、
図1の(b)に示す光演算方法M10においても同様である。
【0042】
<光回折素子>
図1に示すように、光信号入力部20の後段には、光回折素子10a,10b,10c,10d,10eが設けられている。以下では、光回折素子10aを例にして、光回折素子の構造について説明する。光回折素子10b,10c,10dは、光回折素子10aと同一に構成されている。また、光回折素子10eは、光回折素子10aと同様に構成されているが、中央部分113の形状及び大きさが異なる。光回折素子10aにおいて、中央部分113は、一辺の長さL(
図2参照)が200μmの正方形である。一方、光回折素子10eにおいて、中央部分113は、短辺の長さが200μmであり、長辺の長さが400μmである長方形である。
【0043】
(構成)
図2に示すように、光回折素子10aは、基材11と、光回折構造12と、を備えている。
【0044】
基材11は、互いに対向する主面111及び主面112を有する層状の部材(例えばフィルム)であって、透光性を有する材料により構成されている。主面111は、基材11の一方の主面の一例である。なお、以下において、基材11の主面111の中央に位置する一部を中央部分113と称し、中央部分113を取り囲む環状の部分を環状部分114と称する。なお、
図2においては、光回折構造12の下層に中央部分113が位置することを、符号「113」に破線の下線を付すことで示している。
【0045】
本実施形態においては、基材11を構成する材料として、アクリル系樹脂を採用している。ただし、基材11を構成する材料は、信号光として用いる光の波長域において透光性を有していればよく、アクリル系樹脂に代表される樹脂に限定されない。基材11を構成する材料は、石英ガラスに代表されるガラス材料であってもよい。
【0046】
また、基材11を構成する材料は、後述する光回折構造12を主面111に造形した場合に、光回折構造12を構成する樹脂(例えば光硬化樹脂)と良好な密着性を有する材料であることが好ましい。
【0047】
また、本実施形態においては、基材11の厚みとして5μmを採用している。このような厚さの樹脂フィルムは、可撓性を有するため、単体では自立することができない。なお、基材11の厚みは、5μmに限定されない。
【0048】
また、基材11を主面111の法線方向から平面視した場合の形状(以下において平面視形状と称する)は、正方形である。なお、基材11は、後述する中央部分113のサイズを上回っていればよく、サイズ及び形状は適宜定めることができる。
【0049】
光回折構造12は、中央部分113に形成されている。本実施形態において、中央部分113は、例えば、一辺の長さLが200μmである正方形である。光回折構造12は、厚み又は屈折率が互いに独立に設定された複数のマイクロセルAにより構成されている(
図2参照)。本実施形態において、各マイクロセルAは、透光性を有する樹脂(例えば光硬化樹脂)製である。ただし、光回折構造12は、ガラス(例えば石英ガラス)製であってもよい。
【0050】
光回折構造12に信号光が入射すると、各マイクロセルAを透過した信号光が相互に干渉することによって、予め定められた光演算が行われる。光回折構造12から出力される信号光の強度分布は、その光演算の結果を表す。
【0051】
ここで、「マイクロセル」とは、例えば、セルサイズが10μm未満のセルのことを指す。また、「セルサイズ」とは、セルの面積の平方根のことを指す。例えば、マイクロセルの平面視形状が正方形である場合、セルサイズとは、セルの一辺の長さである。セルサイズの下限は、特に限定されないが、例えば1nmである。
【0052】
図1の拡大図に例示した光回折構造12は、マトリックス状に配置された20×20個のマイクロセルAにより構成されている。各マイクロセルAの平面視形状は、例えば、1μm×1μmの正方形であり、光回折構造12の平面視形状は、例えば、200μm×200μmの正方形である。
【0053】
なお、セルサイズ、各マイクロセルAの平面視形状、及び、光回折構造12の平面視形状は、上述した例に限定されず、適宜定めることができる。
【0054】
(光信号に対する光演算)
光回折素子10aは、光路OP1を伝搬してきた光信号S1が入射面に入力されるように配置されている。光回折素子10aは、光信号S1に対して所定の光演算を実行する。
【0055】
光回折素子10bは、光路OP2を伝搬してきた光信号S2が入射面に入力されるように配置されている。光回折素子10bは、光信号S2に対して所定の光演算を実行する。
【0056】
光回折素子10cは、光回折素子10aの後段に、有効領域同士が重なるように配置されている。光回折素子10cは、光回折素子10aが光演算を実行した光信号S1に対して、所定の光演算を実行する。
【0057】
光回折素子10dは、光回折素子10bの後段に、有効領域同士が重なるように配置されている。光回折素子10dは、光回折素子10bが光演算を実行した光信号S2に対して、所定の光演算を実行する。
【0058】
なお、光回折素子10a及び光回折素子10bの各々は、互いに独立した光回折素子である。また、光回折素子10c及び光回折素子10dの各々は、互いに独立した光回折素子である。光回折素子10aと光回折素子10bとの間、及び、光回折素子10cと光回折素子10dとの間には、光を透過しない遮光板14が設けられている。
【0059】
したがって、光回折素子10a及び光回折素子10cは、各マイクロセルを透過した光信号S1のみを干渉させ、光信号S2を干渉させない。換言すれば、光回折素子10a及び光回折素子10cは、光信号S1に対してのみ光演算を実施し、光信号S2に対しては影響を与えない。同様に、光回折素子10b及び光回折素子10dは、各マイクロセルを透過した光信号S2のみを干渉させ、光信号S1を干渉させない。換言すれば、光回折素子10b及び光回折素子10dは、光信号S2に対してのみ光演算を実施し、光信号S1に対しては影響を与えない。
【0060】
光回折素子10eは、光回折素子10c及び光回折素子10dの後段に配置されている。光回折素子10eの有効領域は、光回折素子10cの有効領域と、光回折素子10dの有効領域とに重なっている。
【0061】
光回折素子10eは、光回折素子10a~10dとは異なり、各マイクロセルを透過した光信号S1及び光信号S2を互いに干渉させる。換言すれば、光回折素子10eは、光信号S1及び光信号S2に対して影響を与える。
【0062】
なお、本実施形態においては、3段の光回折素子を採用している。ただし、光回折素子の段数は、3段に限定されず適宜定めることができる。また、本実施形態においては、1段目の光回折素子及び2段目の光回折素子の各々を、光路OP1及び光路OP2の各々に対して独立するように設けている。ただし、1段目の光回折素子及び2段目の光回折素子の各々は、3段目の光回折素子10eのように光路OP1及び光路OP2の各々に対して共通するように設けることもできる。また、本実施形態においては、3段目の光回折素子を、光路OP1及び光路OP2の各々に対して共通するように設けている。ただし、3段目の光回折素子は、光路OP1及び光路OP2の各々に対して独立するように設けることもできる。
【0063】
<変形例>
図1に示した光演算装置1の変形例である光演算装置1Aについて、
図3及び
図4を参照して説明する。
図3及び
図4は、何れも光演算装置1Aの概略図である。
図3は、
図1の場合と同様に、光信号入力部のシャシーを平面視した場合の概略図であり、
図4は、1段目の光回折素子を光信号の入力方向から平面視した場合の概略図である。
【0064】
図3に示すように、光演算装置1Aは、3つの光回折素子101,102,103と、光信号入力部40とを備えている。また、
図3には図示していないが、光演算装置1Aは、光演算装置1のレンズ群30と同じレンズ群を備えている。
【0065】
光演算装置1Aの光回折素子101は、光演算装置1の光回折素子10a,10bに対応し、光演算装置1Aの光回折素子102は、光演算装置1の光回折素子10c,10dに対応し、光演算装置1Aの光回折素子103は、光演算装置1の光回折素子10eに対応する。
【0066】
光回折素子101~103の各々において、マイクロセルAが設けられている中央部分113(
図2参照)は、一辺の長さLが400μmの正方形である。光回折素子101~103の各々は、各マイクロセルAを透過した光信号S1~S4を互いに干渉させる。換言すれば、光回折素子101~103の各々は、光信号S1~S4の何れに対しても影響を与える。
【0067】
(光信号入力部)
光演算装置1Aの光信号入力部40は、光演算装置1の光信号入力部20を変形することによって得られる。光演算装置1は、1つのハーフミラー21を備え、光信号Sの光路OPIを2つの光路である光路OP1,OP2に分岐するように構成されている。一方、光演算装置1Aは、3つのハーフミラー41,42,45を備え、光信号Sの光路OPIを4つの光路である光路OP1,OP2,OP3,OP4に分岐するように構成されている。本変形例の光信号入力部40では、この点について説明する。なお、
図3及び
図4においては、ハーフミラー41,42,45と、ミラー43,44,46とについて、符号の矢印を用いてそれぞれの位置を指し示し、ハーフミラー及びミラーの実質的な形状の図示を省略している。
【0068】
(第1の光路)
光信号入力部20の場合と同様に、光路OPIには、ハーフミラー21に対応するハーフミラー41が設けられている。ハーフミラー41は、鏡面の法線方向に対して45°の入射角で光が入射した場合に、75%の光を正反射し、残りの25%の光を透過させる。光信号Sは、ハーフミラー41の鏡面に対して45°の入射角で入射する。
【0069】
光信号Sの25%である光信号S1は、鏡面において正反射されず、そのままz軸正方向に伝搬し、光回折素子101に入力される。光信号S1における主光線の経路を光路OP1とする。光路OP1は、第1の光路の一例である。
【0070】
(第2の光路)
光信号Sの残りの75%である光信号S1’は、鏡面において正反射され、光路OPIの方向と直交するx軸正方向へ伝搬する。
【0071】
ハーフミラー41により正反射された光信号S1’の光路にはハーフミラー42が設けられている。ハーフミラー42は、鏡面の法線方向に対して45°の入射角で光が入射した場合に、33.3%の光を正反射し、残りの66.6%の光を透過させる。光信号S1’は、ハーフミラー42の鏡面に対して45°の入射角で入射する。
【0072】
光信号S1’の33.3%である光信号S2は、鏡面において正反射され、z軸正方向に伝搬し、光回折素子101に入力される。光信号S1’及び光信号S2における主光線の経路を光路OP2とする。光路OP2は、第2の光路の一例である。
【0073】
(第3の光路)
光信号S1’の残りの66.6%である光信号S2’は、ハーフミラー42の鏡面において正反射されず、そのままx軸正方向に伝搬する。
【0074】
光信号S2’の光路には、ミラー43,44と、ハーフミラー45とが設けられている。ミラー43,44は、
図1に示したミラー222,223と同様に構成されている。したがって、光信号S2’は、ミラー222,223に正反射されx軸負方向へ伝搬する。
【0075】
ハーフミラー45は、鏡面の法線方向に対して45°の入射角で光が入射した場合に、50%の光を正反射し、残りの50%の光を透過させる。光信号S2’は、ハーフミラー43の鏡面に対して45°の入射角で入射する。
【0076】
光信号S2’の50%である光信号S3は、ハーフミラー45の鏡面において正反射され、z軸正方向に伝搬し、光回折素子101に入力される。光信号S2’及び光信号S3における主光線の経路を光路OP3とする。光路OP3は、第3の光路の一例である。
【0077】
(第4の光路)
光信号S2’の残りの50%である光信号S4は、ハーフミラー45の鏡面において正反射されず、そのままx軸負方向に伝搬する。
【0078】
光信号S4の光路には、ミラー46が設けられている。ハーフミラー45を透過した光信号S4は、ミラー46の鏡面に対して45°の入射角で入射し、鏡面においてz軸正方向へ正反射される。
【0079】
ミラー46により正反射された光信号S4は、z軸正方向と平行に伝搬し、光回折素子101に入力される。光信号S4における主光線の経路を光路OP4とする。光路OP4は、第4の光路の一例である。
【0080】
(光路長の差)
以上のように、ハーフミラー41,42,45は、光信号Sが伝送される光路OPIを光路OP1~OP4に分岐する。光路OP1~OP4の各々の実空間における長さである実空間長は、光路OP1,OP2,OP3,OP4の順番で長くなる。
【0081】
このように、光信号入力部40においては、光路OP1~OP4の各々の光路長が異なるため、光信号Sの異なる4つの時刻における強度分布を有する光信号S1,S2,S3,S4を同時に光回折素子101に入力することができる。光信号S1は、後述する光信号S2,S3,S4に対して基準となる光信号である。また、光信号S2,S3,S4は、何れも、光信号S1を遅延させた遅延光信号である。
【0082】
〔第2の実施形態〕
本発明の第2の実施形態に係る光演算装置2について、
図5を参照して説明する。
図5は、光演算装置2の斜視図である。
【0083】
図5に示すように、光演算装置2は、光信号入力部50と、光回折素子101~103とを備えている。光演算装置2の光回折素子101~103は、光演算装置1Aの光回折素子101~103(
図3参照)と同一に構成されている。したがって、本実施形態では、光信号入力部50について説明する。
【0084】
<光信号入力部>
図5に示すように、光信号入力部50は、撮像部51と、画像処理部52と、表示制御部53と、表示部54~57とを備えている。
【0085】
撮像部51は、複数のレンズにより構成されたレンズ群と、撮像素子とを備えている。
【0086】
レンズ群は、最初段のレンズに入射してきた光束の進行方向を整え、当該光束を後述する光回折素子10aの入射面に結像させる。レンズ群の最後段から撮像素子に入力される光束は、その照射面において時間変化する強度分布を有する。以下において、撮像素子に入力される光束のことを光信号Sと称する。
【0087】
撮像素子は、受光面に入射した光信号Sを電気信号に変換し、画像処理部52に供給する。
【0088】
画像処理部52は、撮像素子から供給された電気信号から動画像を生成する。動画像は、各フレームにより表される静止画像を複数含んでいる。各フレームにより表される静止画像は、光信号Sの異なる各時刻における強度分布の一例である。画像処理部52が生成する動画像におけるフレームレートは、限定されず、被写体の動く速度などに応じて適宜定めることができる。被写体の動きが高速である場合には、フレームレートを高く設定することが好ましい。フレームレートの一例としては、100,000fps(フレーム/秒)が挙げられる。
【0089】
表示制御部53は、画像処理部52が生成した単一の動画像を構成するフレームのうち、互いに異なる4つのフレームの画像を表示部54~57の各々に表示させる。この時、表示制御部53は、1つの波長(例えば800nm)の光を用いて4つのフレームの画像を表示部54~57の各々に表示させることが好ましい。
表示制御部53は、各表示部54~57に表示させるフレームのフレーム間隔を適宜定めることができる。例えば、動画像のフレームレートが100,000fpsである場合、1フレーム毎の4つの画像を各表示部54~57に表示させることにより、10μsecオーダーの被写体の動きを検出することができる。また、例えば、100フレーム毎の4つの画像を各表示部54~57に表示させる場合、1msecオーダーの被写体の動きを検出することができる。このように、表示制御部53は、各表示部54~57に表示させるフレームのフレーム間隔を制御することにより、光信号Sにおける時刻の差である遅延量を変化させることができる。したがって、表示制御部53は、遅延量可変部の一例である。
【0090】
各表示部54~57は、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイである。ただし、各表示部54~57は、液晶ディスプレイであってもよい。なお、有機ELディスプレイは、液晶ディスプレイよりも応答速度が高いため、光演算装置2の表示部として好ましい。光回折素子101~103を用いて光演算を実行するためには、光回折素子101~103に入力される画像は、1つの波長の光を用いて表現されていることが好ましい。したがって、各表示部54~57は、カラー表示できる必要はなく、1つの色(例えば波長が800nm)を表示可能なモノクロディスプレイであればよい。各表示部54~57をモノクロディスプレイにより構成することにより、カラーディスプレイの場合よりも解像度を高めることができる。
【0091】
各表示部54~57は、表示制御部53からの制御信号に基づき、互いに異なる4つのフレームの画像を同時に表示する。各表示部54~57は、光回折素子101と対向するように配置されているため、互いに異なる4つのフレームの画像を同時に光回折素子101に入力することができる。動画像における互いに異なる4つのフレームの画像は、光信号の一例である。異なるフレームの4つの画像のうち、時系列的に最も早いフレームの画像(本実施形態では、表示部54が表示する画像)を基準とする光信号とすれば、時系列的に後に続くフレームの画像(本実施形態では、表示部55~57が表示する画像)は、何れも遅延光信号といえる。このように、光演算装置2の光信号入力部50は、基準となる光信号と、当該光信号を遅延させた光信号である遅延光信号と、を同時に光回折素子101に入力することができる。
【0092】
なお、表示部54~57と光回折素子101との間には、レンズなどの光学系が介在していてもよい。
【0093】
〔まとめ〕
本発明の第1の態様に係る光演算装置は、厚み又は屈折率が個別に設定された複数のマイクロセルを有する1又は複数の光回折素子と、光の強度分布が時間変化する光信号の異なる時刻における前記強度分布を、少なくともあるタイミングにおいて、同時に前記1又は複数の光回折素子に入力する光信号入力部と、を備えている。また、本光演算装置の光信号入力部は、光信号と、当該光信号を遅延させた光信号である遅延光信号とを、少なくともあるタイミングにおいて、同時に前記1又は複数の光回折素子に入力する、とも言い替えられる。
【0094】
上記の構成によれば、1又は複数の光回折素子には、光信号の異なる時刻における強度分布が同時に入力される。また、上記の構成によれば、1又は複数の光回折素子には、光信号と、遅延光信号とを同時に入力される、とも言い替えられる。したがって、本光演算装置は、強度分布が時間変化する光信号を取り扱うことができる。
【0095】
また、本発明の第2の態様に係る光演算装置においては、上述した第1の態様に係る光演算装置の構成に加えて、前記光信号入力部は、前記光信号が伝送される光路を、第1の光路と、当該第1の光路よりも光路長が長い第2の光路とに分岐し、前記第1の光路及び前記第2の光路の各々から出力される光信号の各々を前記1又は複数の光回折素子に入力する、構成が採用されている。また、本光演算装置においては、上述した第1の態様に係る光演算装置の構成に加えて、前記光信号入力部は、前記第1の光路から出力される前記光信号、及び、前記第2の光路から出力される前記遅延光信号の各々を前記1又は複数の光回折素子に入力する、構成が採用されている、とも言い替えられる。
【0096】
上記の構成によれば、第2の光路の光路長のほうが第1の光路の光路長よりも長いため、第2の光路から出力される光信号の時刻は、第1の光路から出力される光信号の時刻よりも遅れている。したがって、本光演算装置は、前記第1の光路から出力される光信号を基準とする光信号として、当該光信号を遅延させた光信号である遅延光信を容易に生成することができる。そのため、本光演算装置は、容易に、異なる時刻における強度分布を有する光信号(すなわち、基準となる光信号及び遅延光信号)を同時に1又は複数の光回折素子に入力することができる。
【0097】
また、本光演算装置によれば、第1の光路から出力される光信号の時刻と、第2の光路から出力される光信号の時刻との差である遅延量を容易に小さくすることができる。したがって、本光演算装置は、短い時間内において強度分布が変化する高速な情報を取り扱うことができる。
【0098】
また、本発明の第3の態様に係る光演算装置においては、上述した第2の態様に係る光演算装置の構成に加えて、前記第2の光路の光路上には、屈折率が空気の屈折率を上回る材料により構成された高屈折率部材が設けられている、構成が採用されている。
【0099】
上記の構成によれば、第2の光路により伝送される光信号は、高屈折率部材を透過するときに、第2の光路により伝送される光信号よりも遅延される。したがって、本光演算装置は、第2の光路から出力される光信号の時刻を第1の光路から出力される光信号の時刻よりも確実に遅らせることができる。
【0100】
また、本発明の第3の態様に係る光演算装置においては、上述した第2の態様又は第3の態様に係る光演算装置の構成に加えて、前記第2の光路は、実空間長が前記第1の光路の実空間長よりも長く、且つ、屈折率が空気以下である媒質により満たされている、構成が採用されている。
【0101】
また、本発明の第4の態様に係る光演算装置においては、上述した第2の態様又は第3の態様に係る光演算装置の構成に加えて、前記第2の光路は、実空間長が前記第1の光路の実空間長よりも長く、且つ、屈折率が空気以下である媒質により満たされている、構成が採用されている。
【0102】
上記の構成によれば、簡易な構成を用いて第2の光路の光路長を第1の光路の光路長よりも長くすることができる。なお、光路の光路長は、光路の実空間長と屈折率との積で求めることができる。
【0103】
また、本発明の第5の態様に係る光演算装置においては、上述した第2の態様~第4の態様の何れか一態様に係る光演算装置の構成に加えて、前記光信号が伝送される光路上に設けられたハーフミラーであって、前記光信号の伝送経路を、互いに異なる第1の光路及び第2の光路に分岐させるハーフミラーを更に備えている、構成が採用されている。
【0104】
上記の構成によれば、1つの光信号から、同じ強度分布を有する2つの光信号を容易に生成することができる。
【0105】
また、本発明の第6の態様に係る光演算装置においては、上述した第1の態様に係る光演算装置の構成に加えて、前記光信号入力部は、単一の動画像を構成し、且つ、互いに異なるフレームの複数の画像を表示し、各画像を前記1又は複数の光回折素子に入力する、構成が採用されている。
【0106】
動画像における各フレームの画像は、光信号の一例である。異なるフレームの複数の画像のうち、時系列的に最も早いフレームの画像を基準とする光信号とすれば、時系列的に後に続くフレームの画像は、何れも遅延光信号といえる。上記の構成によれば、容易に、異なる時刻における強度分布を有する複数の光信号を同時に1又は複数の光回折素子に入力することができる。
【0107】
また、本発明の第7の態様に係る光演算装置においては、上述した第1の態様~第6の態様の何れか一態様に係る光演算装置の構成に加えて、前記光信号入力部は、1又は複数の光回折素子に入力する各光信号における時刻の差である遅延量を変化させる遅延量可変部を備えている、構成が採用されている。また、本光演算装置の光信号入力部は、前記光信号と前記遅延光信号との間に生じる遅延量を変化させる遅延量可変部を備えている、とも言い替えられる。
【0108】
上記の構成によれば、1又は複数の光回折素子に入力する各光信号における遅延量を変化さえることができるので、光信号において強度分布が変化する速度に応じた遅延量を採用することができる。
【0109】
本発明の第8の態様に係る光演算方法は、光の強度分布が時間変化する光信号の異なる時刻における前記強度分布を、少なくともあるタイミングにおいて、同時に前記1又は複数の光回折素子に入力する工程を含んでいる。また、本光演算方法は、光信号の一部を遅延させることにより遅延光信号を生成する遅延工程と、前記光信号と前記遅延光信号とを、少なくともあるタイミングにおいて、同時に1又は複数の光回折素子であって、厚み又は屈折率が個別に設定された複数のマイクロセルを有する1又は複数の光回折素子に入力する入力工程と、を含んでいる、とも言い替えられる。
【0110】
このように構成された本光演算方法は、上述した第1の態様に係る光演算装置と同様の効果を奏する。
【0111】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0112】
1,1A,2 光演算装置
10a~10e,101~103 光回折素子
A マイクロセル
20 光信号入力部
21 ハーフミラー
22 遅延量可変部
24 板状部材(遅延量可変部)
OP1,OP2 第1の光路,第2の光路
40,50 光信号入力部
41,42,45 ハーフミラー
51 撮像部
52 画像処理部
53 表示制御部(遅延量可変部)
54~57 表示部