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特許7462863組換え麻疹ウイルスの増殖方法及び宿主細胞
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  • 特許-組換え麻疹ウイルスの増殖方法及び宿主細胞 図1
  • 特許-組換え麻疹ウイルスの増殖方法及び宿主細胞 図2
  • 特許-組換え麻疹ウイルスの増殖方法及び宿主細胞 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】組換え麻疹ウイルスの増殖方法及び宿主細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/00 20060101AFI20240401BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
C12N7/00 ZNA
C12N5/10
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019076777
(22)【出願日】2019-04-15
(65)【公開番号】P2020171264
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】591222245
【氏名又は名称】国立感染症研究所長
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大志
(72)【発明者】
【氏名】竹田 誠
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-086744(JP,A)
【文献】Takashi KAWACHI et al.,Marine Drugs,2019年03月08日,Vol. 17,No. 3,pp. 163 (pp. 1-14)
【文献】I.M. Gordiienko et al.,Experimental Oncology,2021年,Vol. 43, No. 4,pp. 312-316
【文献】Miki YOSHIDA et al.,Biochemical and Biophysical Research Communications,2013年,Vol. 430,No. 1,pp.320-324
【文献】Hiroshi KATO et al.,第66回日本ウイルス学会学術集会プログラム・抄録集,2018年,pp. 236,W3-4-05
【文献】Nir DRAYMAN et al.,mBio,2017年,Vol. 8,No. 6,pp. e01612-17 (pp. 1-18)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
Google/Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項2】
麻疹ウイルスの感染に必要な受容体分子human SLAMを宿主細胞に発現させる受容体分子発現工程と、
前記human SLAMが発現している宿主細胞のRPAP3をノックダウン又はノックアウトさせる改変工程と、
前記RPAP3がノックダウンした宿主細胞を用いて組換え麻疹ウイルスを培養させる培養工程と、
を有することを特徴とする、組換え麻疹ウイルスの増殖方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換え麻疹ウイルスの増殖方法、及び、組換え麻疹ウイルスを増殖させるための宿主細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
麻疹ウイルス(Measles morbilivirus: MeV)は、パラミクソウイルス科モービリウイルス属に属し、ヒトを自然宿主として感染し、免疫抑制や呼吸器症状を引き起こす、非常に病原性の強いウイルスである。
【0003】
麻疹ウイルスは最も研究が進んでいるウイルスの一つであり、ウイルス学的性状や病態発現機構に関する様々な知見が蓄積されている。現在、麻疹ウイルスの特性を活かした遺伝子工学分野や医療分野等への応用が期待されている。実際に、腫瘍溶解性ウイルスとして既に臨床研究が行われている。更に多数の外来遺伝子の発現や、特定の細胞だけに発現させる標的化が可能であるため、遺伝子導入用ベクターとしても用いられている。
【0004】
例えば、麻疹ウイルスが腫瘍細胞に感染し、腫瘍の退縮を誘導することが明らかになったことから(非特許文献1)、麻疹ウイルスは、癌のウイルス治療のツールとして注目されている。現在までのところ、ワクチン株に基づく麻疹ウイルスを用いたウイルス治療の臨床的研究として、卵巣癌、ミエローマについて行われている(非特許文献2)。
【0005】
一方で、麻疹ウイルスは一般的に感染性粒子の産生力が低く、高力価のウイルスを得ることが難しい。更に用途に応じた様々な改変がウイルスゲノムに加えられるため、野生型ウイルスに比べてより増殖能の低下が危惧される。特に医療分野への応用には弱毒化したウイルスを使用するため、高力価のウイルスを得るための産生細胞の改良は重要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Groteら,Blood 97:3746-3754 2001.
【文献】Galanisら, Cancer research 70:875-882 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、高力価の組換え麻疹ウイルスを効率よく産生できる組換え麻疹ウイルスの増殖方法、及び、組換え麻疹ウイルスを増殖するための宿主細胞を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる組換え麻疹ウイルスの増殖方法は、RPAP3をノックダウン又はノックアウトさせた宿主細胞を用いることを特徴とする。
【0009】
本発明にかかる組換え麻疹ウイルスの増殖方法は、麻疹ウイルスの感染に必要な受容体分子human SLAMを宿主細胞に発現させる受容体分子発現工程と、human SLAMが発現している宿主細胞のRPAP3をノックダウン又はノックアウトさせる改変工程と、RPAP3がノックダウンした宿主細胞を用いて組換え麻疹ウイルスを培養させる培養工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
本発明にかかる組換え麻疹ウイルスを増殖するための宿主細胞は、RPAP3をノックダウン又はノックアウトさせた宿主細胞である。
【0011】
本発明にかかる宿主細胞は、麻疹ウイルスの感染に必要な受容体分子human SLAMが発現しており、且つ、RPAP3がノックダウン又はノックアウトされている、組換え麻疹ウイルスを増殖するために用いられることを特徴とする、宿主細胞である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高力価の組換え麻疹ウイルスを効率よく産生できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】R2TP complexを構成するタンパク質を説明する図である。
図2】RPAP3をノックダウンした細胞では対照細胞に比べて細胞内ウイルスRNAの増加が認められることを示す図である。
図3】RPAP3をノックダウンした細胞では対照細胞に比べて約10倍高い力価の麻疹ウイルスが検出されることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0015】
本発明にかかる組換え麻疹ウイルスの増殖方法は、RPAP3をノックダウン又はノックアウトした宿主細胞を用いる。
【0016】
本発明にかかる組換え麻疹ウイルスの増殖方法は、麻疹ウイルスの感染に必要な受容体分子human SLAMを宿主細胞に発現させる受容体分子発現工程と、このhuman SLAMが発現している宿主細胞のRPAP3をノックダウン又はノックアウトさせる改変工程と、このRPAP3がノックダウンした宿主細胞を用いて組換え麻疹ウイルスを培養させる培養工程と、を有する。
【0017】
本発明にかかる宿主細胞は、RPAP3をノックダウン又はノックアウトした、組換え麻疹ウイルスを増殖するための宿主細胞である。
【0018】
本発明にかかる宿主細胞は、麻疹ウイルスの感染に必要な受容体分子human SLAMが発現しており、且つ、RPAP3がノックダウン又はノックアウトされている、組換え麻疹ウイルスを増殖するために用いられる宿主細胞である。
【0019】
図1に示されるように、R2TP complexは、RuvBL1-RuvBL2-RPAP3-PIH1D1という4つの異なるタンパク質で形成されるタンパク質複合体である。宿主因子R2TP complexを構成するRPAP3(RNA polymerase-associated protein 3)をノックダウン又はノックアウトすると、麻疹ウイルスのRNA量が増加し、約10倍高い力価のウイルスが産生することを本発明者は新知見として見出し、かかる事実に基づいて本件発明を完成させた。
【0020】
宿主細胞としては、組換え麻疹ウイルスの増殖が可能であれば特に限定されるものではないが、例えば、細菌細胞(例:ストレプトコッカス、スタフィロコッカス、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌)、昆虫細胞(例:ドロソフィラS2、スポドプテラSF9)、動物細胞(例:Vero、CEF、A549、CHO、COS、HeLa、C127、3T3、BHK、HEK293、Bowes メラノーマ細胞)及び植物細胞を例示することができる。
【0021】
本発明において増殖対象となる組換え麻疹ウイルスは、特に限定されるものではなく、例えばIC323-EGFP、MV-dF-OSKL-EGFP、MV3F、MV4FN、2 seg-MV(Takeda M et al, J. Virol., 80: 4242-8、2006)、SI-AcGFP(Seki F et al, J. Virol., 85: 11871-82, 2011)、AIK-C(Nakayama T et al, J. Gen. Virol., 82: 2143-50, 2001)等が挙げられる。
【0022】
RPAP3をノックダウン又はノックアウトする手法は特に限定されるものではないが、例えば、RPAP3を標的としたsiRNA又はshRNAを用いる手法が挙げられる。siRNAによる発現抑制は人工合成したsiRNAを細胞内に導入することで、遺伝子発現を抑制させるが、その効果は一過性であり例えば1週間程度である。一方でベクターを用いてshRNAの形でsiRNAを細胞に発現させる方法では、薬剤セレクション等で樹立に時間はかかるが、RPAP3が恒常的にノックダウンされた細胞になる。なお、ノックアウトについてはCRISPR-Cas9システムを利用したゲノム編集も可能である。CRISPR-Cas9システムでは標的とする遺伝子に対してguide RNA(gRNA)を設計して、gRNA発現ベクターとCas9発現ベクターを同時に細胞に導入し、薬剤セレクションでノックアウト細胞を樹立する。
【0023】
本発明者らは、RPAP3をノックダウンした宿主細胞ではムンプスウイルスの増殖が抑制されたことから、R2TP complexはムンプスウイルスの増殖に重要なHsp90 のコシャペロンであることを示している(ムンプスウイルス感染におけるR2TP complexの役割, 7th Negative Strand Virus-Japan, 加藤大志ら)。一方で、本願発明では、RPAP3をノックダウンした宿主細胞では組換え麻疹ウイルスの増殖が向上される。これは以下の理由によるものと推察される。即ち、RPAP3はパラミクソウイルス(麻疹ウイルス及びムンプスウイルスを含む)のRNA合成を負に制御する因子であるところ、RPAP3をノックダウンすると、どちらのウイルス感染においてもウイルスRNA量の増加が認められる。しかしながら、ムンプスウイルス感染においては過剰に増加したウイルスRNAが宿主の自然免疫反応を誘導するために、結果としてウイルス増殖は抑制される。一方、麻疹ウイルス感染においては、ムンプスウイルス感染で見られる増殖抑制は見られない。麻疹ウイルスはムンプスウイルスにはない自然免疫を抑制するCタンパク質というアクセサリータンパク質を有しており、自然免疫への抵抗性がパラミクソウイルス種間で異なることが原因であると考えられる。このようにRPAP3をノックダウンした宿主細胞を組換え麻疹ウイルスの増殖に使用する手法は、従来技術とは方向性が全く異なるものである。
【実施例
【0024】
(1)siRNAの導入
A549細胞(ヒト肺胞基底上皮腺癌由来細胞)に麻疹ウイルスの感染に必要な受容体分子human SLAM(signaling lymphocyte-activation molecule)を発現させたA549/hSLAM細胞(Takeda M et al, J. Virol. 74: 6643-7, 2005)を用いた。A549/hSLAM細胞にRPAP3を標的としたsiRNA (5’-uugaaggauaguucugucgaa-3’(配列番号1), Yoshida M et al, Biochem. Biophys. Res. Commun. 430: 320-4, 2013)をLipofectamine RNAiMax (Thermo Fisher Scientific社)を用いて導入した。non-targeting siRNA pool (Dharmacon社)を導入した細胞を陰性対照とした。
【0025】
(2)細胞培養
siRNAの導入48時間後に、細胞を血清非添加培地で1回洗浄し、MOI=0.05になるように組換え麻疹ウイルス(IC323-EGFP)溶液を接種した。37℃で1時間インキュベートした後、細胞を血清非添加培地で3回洗浄し、10%血清添加培地で培養した。
【0026】
(3)ウイルスRNA量及びウイルス力価の測定
0、24、48、72時間後の組換え麻疹ウイルス感染細胞からRNeasy Mini Kit (Qiagen社)を用いて、total RNAを抽出した。逆転写反応はoligo(dT)プライマーとPrimeScript RTase (TaKaRa bio社)を用いて37℃15分で行った。定量的PCR(qPCR)はLightCycler 480 system (Roche社)を採用した。Universal ProbeLibrary Probe #85 (Roche社) 及びプライマー(5’-tcacatgatgatccaagcagt-3’(配列番号2)及び5’-tttccttgttctcgaaccatc-3’(配列番号3)未発表)を用いて、麻疹ウイルスのN遺伝子の検出を行った。また、内部標準遺伝子として、Hypoxanthine phosphoribosyltransferase 1 (HPRT1) 遺伝子をUniversal ProbeLibrary Probe #62 (Roche社) 及びプライマー(5’-gggaggccatcacattgtag-3’(配列番号4)及び5’-cactatttctattcagtgtttga-3’、(配列番号5)「Katoh H et al, J. Virol. 91: e02220-16, 2017)を用いて検出した。麻疹ウイルスのRNA量は内部標準遺伝子の発現量を元に相対定量で算出した。結果、RPAP3ノックダウン細胞では、対照細胞に比べて、細胞内ウイルスRNAの増加が認められた(図2)。
【0027】
0、24、48、72、96時間後に組換え麻疹ウイルス感染細胞の培養上清を回収し、hSLAM発現Vero細胞(Vero/hSLAM細胞、Ono N et al, J. Virol. 75: 4399-401, 2001)を用いて培養上清中の感染性ウイルス力価をフォーカス法によって算出した。Vero/hSLAM細胞を血清非添加培地で1回洗浄し、10倍段階希釈した培養上清をVero/hSLAM細胞に感染させた。37℃で1時間インキュベートした後、0.5%アガロース添加5%血清添加培地で培養した。培養72時間後に、EGFPのシグナルを指標にフォーカス数を測定し、ウイルス力価を算出した。結果、RPAP3をノックダウンすると、感染72時間後及び96時間後の培養上清中には対照細胞を比較して約10倍高い力価の麻疹ウイルスが検出された(図3)。
【産業上の利用可能性】
【0028】
再生医療や遺伝子治療で利用できる。
【配列表フリーテキスト】
【0029】
配列番号1:siRNA
配列番号2~5:プライマー
図1
図2
図3
【配列表】
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