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  • 特許-メンブレンヴェシクル 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】メンブレンヴェシクル
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20240401BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240401BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12N15/12
A61P37/04
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019080136
(22)【出願日】2019-04-19
(65)【公開番号】P2020176221
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-03-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、感染症実用化研究事業「細菌由来メンブレンヴェシクルを利用した粘膜ワクチンの基盤的研究」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】591222245
【氏名又は名称】国立感染症研究所長
(72)【発明者】
【氏名】中尾 龍馬
(72)【発明者】
【氏名】庄子 幹郎
(72)【発明者】
【氏名】中山 浩次
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/096007(WO,A2)
【文献】特表2018-521632(JP,A)
【文献】SCIENTIFIC REPORTS,2016年,Vol.6, Article No.24931,p.1-9
【文献】Vaccine,2016年,Vol.34,p.4626-4634
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N1/00-7/08
C12N15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
9型分泌機構を有する細菌のMVであって、
前記細菌がPorphyromonas gingivalisであり、
前記MVが細胞外へ放出されたメンブレンヴェシクルであり
膜の構成部分であるリポ多糖に外来性タンパク質がアンカリングされており、前記外来性タンパク質が抗原性を有していることを特徴とする、MV。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外来性タンパク抗原を運ぶことができ、ワクチン体に応用できるメンブレンヴェシクルに関する。
【背景技術】
【0002】
細菌は、細胞外へメンブレンヴェシクル(以下、MV:membrane vesicleと称することがある。)と呼ばれるナノサイズの小胞を放出する。歴史的には、グラム陰性で偏性嫌気性非芽胞形成桿菌のBacteroides ruminicolaで類似する構造が電顕写真で1963年に報告された(非特許文献1)、様々なグラム陰性細菌がメンブレンヴェシクルを産生することが明らかとなっている(非特許文献2)。また、モデル生物である大腸菌でも1966年にはリジン要求性変異株をリジン制限下で培養したときの異常形態として報告されている(非特許文献3)。また、細菌の培養時に培養液に1.0~1.2 w/v%のグリシンを添加することにより、細菌由来のMVの産生量が増大する手法(以下、この手法をグリシン誘導法と記載することがある。)が報告されている(非特許文献4、5)。
【0003】
メンブレンヴェシクルは細胞膜由来のリン脂質や膜タンパク質、リポポリサッカライド(本明細書においてLipopolysaccharide:LPSと記載することがある。)等で構成されるほか、核酸や酵素等の様々な物質を含有するため、多面的な機能を有し、新規ワクチン抗原のような応用展開も期待されている。例えば、ターゲットタンパク質を抗原として載せた大腸菌のMVを用いた簡便なワクチン製造として利用されている(非特許文献6)。外来性糖鎖を表層に局在させたMVのワクチン応用の可能性について報告されている(非特許文献7)。しかしながら、9型分泌機構を有する細菌を用いて、この細菌の表層に外来性タンパク質を局在させる技術は確立されていなかった。またこの9型分泌機構を有する細菌のMVをワクチン体として使用された報告はない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】H.A.Bladen & J.F.Waters:J.Bacteriol.、 86、1339(1963).
【文献】Jain S、 Pillai J. Int J Nanomedicin.Bacterial membrane vesicles as novel nanosystems for drug delivery.12:6329-6341(2017)
【文献】K.W.Knox、M.Vesk & E.Work:J.Bacteriol.、92、1206(1966).
【文献】Satoru Hirayama、 Ryoma Nakao.、 Budapest、 Hungary. Glycine strongly enhances immunoactive membrane vesicle production from flagella-deficient E. coli.、 12th Vaccine Congress. 9/16-19(2018)
【文献】平山悟、中尾龍馬、日本農芸化学会2018名古屋.グリシンによる大腸菌メンブレンベシクル産生の増大とその特性解析.3/15-18(2018)
【文献】D.J.Chen、N.Osterrieder、S.M.Metzger、E.Buckles、A.M. Doody、M.P.DeLisa & D.Putnam:Proc.Natl.Acad.Sci.USA、107、3099(2010).
【文献】Price NL、Goyette-Desjardins G、Nothaft H、Valguarnera E、Szymanski CM、Segura M、Feldman MF. Glycoengineered Outer Membrane Vesicles: A Novel Platform for Bacterial Vaccines. Sci Rep. 22;6:24931(2016).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、外来性タンパク抗原を運ぶことができ、ワクチン体に応用できるMVを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかるMVは、9型分泌機構を有する細菌のMVであって、外膜の構成部分であるリポ多糖に外来性タンパク質がアンカリングされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、外来性タンパク抗原を運ぶことができ、ワクチン体に応用できるMVが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】T9SSによるタンパクの外膜へのアンカリングを説明する図である。
図2】GFPを導入したキメラメンブレンヴェシクルの作成を説明する図である。
図3】目的プラスミドがPCR等により導入されていることを確認したELISA解析の写真図である。
図4】GFPを導入したPorphyromonas gingivalis のMVの免疫原性を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0010】
本実施形態にかかるMVは、9型分泌機構を有する細菌のメンブレンヴェシクルであって、外膜の構成部分であるリポ多糖に外来性タンパク質がアンカリングされていることを特徴とする(図1)。
【0011】
LPSはリピドAと呼ばれる脂質に、多分子の糖からなる糖鎖が結合した構造をとる。糖鎖部分は、コア多糖(またはコアオリゴ糖)と呼ばれる部分と、O多糖(O抗原)と呼ばれる部分から構成される。
【0012】
本願発明者は、9型分泌機構を介して運ばれるC末ドメインタンパクは濃縮されてMVとして産生されること、9型分泌機構を有する細菌のMVに含まれるLPSの毒素活性は極めて低いことから、9型分泌機構を有する細菌のMVをワクチン体として使用することに成功し本発明を完成するに至った。例えばPorphyromonas gingivalisのMVに含まれるLPSの内毒素(Lipid A)活性は、大腸菌のMVに含まれるLPSの内毒素(Lipid A)活性の約0.1%程度であり、リポ多糖に外来性タンパク質がアンカリングされている9型分泌機構を有する細菌のMVは非常に安全性が高く、このMVをワクチン体として使用する場合、非常に有益である。
【0013】
MVはグラム陰性菌等の膜が出芽や溶菌等で産生されるが、MV形成を誘発する経路はさまざま存在し、本実施形態にかかるMVの形成経路は特に限定されるものではない。
【0014】
MVを得る細菌は、9型分泌機構を有するBacteriodetes門の細菌であれば特に限定されるものではないが、例えば、Porphyromonas属、Bacteroides属、Prevotella属、Tannerella属、Chlorobium属、又は、Flavobacterium属の細菌である。本実施形態にかかる発明において、9型分泌機構を有する細菌は、好ましくはPorphyromonas属のジンジバリス菌等である。
【0015】
Rgpは2つの遺伝子(rgpA及びrgpB)、Kgpは1つの遺伝子(kgp)にコードされており、rgpAとkgpはプロテアーゼドメイン以外にHgp44やHbR(Hgp15)等のアドヘジンドメインをコードしている。ジンジパインをコードするrgpA、rgpB及びkgpにアドヘジン遺伝子であるhagAを加えた4遺伝子をジンジパイン遺伝子群と呼ぶが、これらの遺伝子の産物がどのように菌体表面及び菌体外に分泌されるかについては不明であった。rgpA rgpB kgp変異株は血液寒天培地上で非黒色集落を形成することはわかっている。トランスポゾン(Tn)変異導入法にて変異体ライブラリーを作製し、血液寒天培地での非黒色集落を形成する変異株を分離し、この非黒色変異株の1つではジンジパイン遺伝子群の産物がペリプラズムに蓄積していることがわかり、この変異遺伝子(porT)が分泌に関与する。porT 遺伝子のホモログ遺伝子を検索したところ、Bacteroidetes門内のCytophaga hutchinsoniiやFlavobacterium johnsoniae には存在するが、Bacteroides thetaiotaomicron やBacteroides fragilisには存在しないことがわかった。そこでこれらの遺伝子についてベン図解析を行い、porTと同様な存在様式を示す遺伝子についてP. gingivalisにて変異株を作製し、porT 変異株と同様な性質を示す11 個の遺伝子を発見した。この中の二成分制御系の2遺伝子を除く9遺伝子はporT同様に直接、ジンジパイン遺伝子群の産物を分泌する経路に関与するタンパク質をコードしていることが示唆され、これらのタンパク質による分泌機構が9型分泌機構(T9SS)である。
【0016】
本発明によれば、9型分泌機構を有する細菌を用いて、この細菌に外来性タンパク質を表層に局在させて、この細菌のMVをワクチン抗原として使用することにより安全に抗体産生を誘導できる。この利点は外来性タンパク質を抗原として載せた大腸菌等の内毒素活性の強いMVを用いたワクチン体では得られない重要な効果である。
【0017】
本実施形態においては、リポ多糖にアンカリングされる外来性タンパク質は、抗原性を有するタンパク質であれば特に限定されるものではない。
【0018】
本実施形態にかかるワクチンは、本実施形態にかかるMV (即ち、9型分泌機構を有する細菌のMVであって、外膜の構成部分であるリポ多糖に外来性タンパク質がアンカリングされていることを特徴とするMV)を含むことを特徴とする。本実施形態にかかるワクチンは、本実施形態にかかるメンブレンヴェシクルを含む凍結乾燥状態のワクチン製剤とすることができ、例えば使用時に溶解して注射または噴霧溶液として、生体内あるいは生体表皮面・粘膜面へ投与される。
【実施例
【0019】
(1)GFP発現ベクターの作製方法
配列番号1記載のヌクレオチド配列からなるN末端モチーフ部分と、配列番号2記載のヌクレオチド配列からなるC末端モチーフ部分とにより、N末端とC末端領域とが付加されたGFPシーケンスの全ヌクレオチド配列(上流にプロモータ配列及び下流にターミネータ配列を含めて)をpTCBベクターへ導入したGFP発現ベクターを作成した(図2)。GFP発現ベクターの配列情報は配列番号3にて示される。
【0020】
(2)菌体への導入
このGFP発現ベクターをエレクトロポレーション法にてPorphyromonas gingivalisへ導入した。0.7マイクログラム/ミリリットルの濃度のテトラサイクリンを含む寒天培地にてセレクションを行い、目的のプラスミドがPCR等により導入されていることを確認した(図3)。これにより菌体へのGFP発現ベクター導入の完了が確認された。
【0021】
(3)GFPを導入したMVの免疫原性
配列番号3にて示される配列からなるGFP発現ベクターを使用してマウスに経鼻免疫した。GFPタンパクを固相化したEnzyme-Linked ImmunoSorbent Assay (ELISA)を実施した。陰性標準プラスミド(空ベクター)を導入したPgのMV (Pg MV)及びGFP発現ベクターを導入したPgのMV (Pg MV -GFP)をマウスに免疫して得られた血清を、それぞれ0.02% Tween 20含有PBS にて200倍希釈したものを血清抗体液として、上記ELISAプレートを用い、通法通りELISAを行なった。二次抗体には、アルカリフォスファターゼ(ALP)標識二次抗体であるAP-labeled anti-マウスIgG (インビトロジェン社製)を、ALP基質パラニトロフェニルリン酸を使用して、吸光値A405にて発色をプレートリーダーで検出した。図4は、Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay (ELISA)によるPorphyromonas gingivalisのメンブレンヴェシクルで免疫したマウス血清におけるGFP抗体の発現の解析結果を示す。図4に示されるように、配列番号3にて示される配列からなるGFP発現ベクターを使用して経鼻免疫したマウスでは、コントロールと比較してGFP抗体の産生が有意に上昇していた。
【産業上の利用可能性】
【0022】
ワクチン体の作成に利用できる。
【配列表フリーテキスト】
【0023】
配列番号1:N末モチーフ
配列番号2:C末モチーフ
配列番号3:ベクター
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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