(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】FMCWレーダ装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/36 20060101AFI20240401BHJP
G01S 13/34 20060101ALI20240401BHJP
G01S 13/931 20200101ALN20240401BHJP
【FI】
G01S7/36
G01S13/34
G01S13/931
(21)【出願番号】P 2019236659
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-11-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、総務省、戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)、電波有効利用促進型研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅比良 正弘
(72)【発明者】
【氏名】武田 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】黒田 浩司
【審査官】渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-144083(JP,A)
【文献】特表2018-514765(JP,A)
【文献】特開2011-232055(JP,A)
【文献】国際公開第2018/163677(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0280854(US,A1)
【文献】特開2019-074527(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1303769(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/51
13/00 - 13/95
17/00 - 17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の掃引周期で周波数が連続的に時間変化するように周波数変調された送信信号を送信し、前記送信信号が対象物で反射された受信信号を受信して前記対象物との距離を測定するFMCWレーダ装置であって、
前記送信信号の送信開始前に、前記掃引周期以上の観測期間内で前記送信信号に干渉する可能性がある干渉信号の検出を行い、前記干渉信号の検出結果に基づく処理を実施する制御部
と、
前記送信信号を生成する発振器と、
前記送信信号の送信を許可または禁止するスイッチと、
前記受信信号または前記干渉信号が入力され、前記送信信号を用いて、前記受信信号による第1のビート信号または前記干渉信号による第2のビート信号を生成するミキサと、
前記第1のビート信号および前記第2のビート信号のうち所定の通過帯域幅の周波数成分を通過させる低域通過フィルタと、を備え
、
前記スイッチは、前記干渉信号の検出を行うときには前記送信信号の送信を禁止し、
前記制御部は、前記低域通過フィルタを通過した前記第2のビート信号の周波数スペクトラムにおいて予め定めたしきい値以上の電力を有する周波数帯域を前記干渉信号として検出し、当該周波数帯域を前記第1のビート信号から除去するFMCWレーダ装置。
【請求項2】
所定の掃引周期で周波数が連続的に時間変化するように周波数変調された送信信号を送信し、前記送信信号が対象物で反射された受信信号を受信して前記対象物との距離を測定するFMCWレーダ装置であって、
前記送信信号の送信開始前に、前記掃引周期以上の観測期間内で前記送信信号に干渉する可能性がある干渉信号の検出を行い、前記干渉信号の検出結果に基づく処理を実施する制御部
と、
前記送信信号を生成する発振器と、
前記送信信号の送信を許可または禁止するスイッチと、
前記受信信号または前記干渉信号が入力され、前記送信信号を用いて、前記受信信号による第1のビート信号または前記干渉信号による第2のビート信号を生成するミキサと、
前記第1のビート信号および前記第2のビート信号のうち所定の通過帯域幅の周波数成分を通過させる低域通過フィルタと、を備え
、
前記スイッチは、前記干渉信号の検出を行うときには前記送信信号の送信を禁止し、
前記制御部は、前記低域通過フィルタを通過した前記第2のビート信号の周波数スペクトラムにおける各周波数の電力値を前記干渉信号として検出し、当該電力値を前記第1のビート信号から周波数ごとに減算するFMCWレーダ装置。
【請求項3】
請求項
1または2に記載のFMCWレーダ装置において、
前記制御部は、前記低域通過フィルタを通過した前記第2のビート信号の電力が予め定めたしきい値以上の場合、前記送信信号の送信開始タイミングおよび掃引周波数の少なくとも一方を変化させるFMCWレーダ装置。
【請求項4】
請求項
1または2に記載のFMCWレーダ装置において、
前記制御部は、前記低域通過フィルタを通過した前記第2のビート信号の周波数スペクトラムにおけるピーク電力が予め定めたしきい値以上の場合、前記送信信号の送信開始タイミングおよび掃引周波数の少なくとも一方を変化させるFMCWレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FMCWレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の自動運転や運転支援システムにおいて利用するために、車両周囲の障害物等を検出するレーダ装置が知られている。自動運転や運転支援システムの普及に伴ってレーダ装置を搭載した車両が増加すると、他の車両のレーダ装置から送信されたレーダ信号が干渉信号として受信されることで、障害物等を正確に検出できない危険性が高まる。そのため、こうしたレーダ装置では、干渉が生じているときにはこれを検出して適切な対処を行うことが求められる。特許文献1には、送信信号と受信信号を混合することにより得られるビート信号の振幅密度を演算し、この振幅密度に基づいてビート信号の許容上限値および許容下限値を設定することで、突発性ノイズを検出して除去するFMCWレーダの信号処理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の信号処理装置では、基準となるビート信号の振幅が変動しないことを前提として、ビート信号の許容上限値および許容下限値を設定し、突発性ノイズを除去している。しかしながら、同一周波数帯のレーダ信号が、ターゲットからの反射信号とほぼ同じタイミングで干渉信号として入力される場合に発生する狭帯域干渉に対しては、これを効果的に抑制するのは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第一の態様によるFMCWレーダ装置は、所定の掃引周期で周波数が連続的に時間変化するように周波数変調された送信信号を送信し、前記送信信号が対象物で反射された受信信号を受信して前記対象物との距離を測定するものであって、前記送信信号の送信開始前に、前記掃引周期以上の観測期間内で前記送信信号に干渉する可能性がある干渉信号の検出を行い、前記干渉信号の検出結果に基づく処理を実施する制御部と、前記送信信号を生成する発振器と、前記送信信号の送信を許可または禁止するスイッチと、前記受信信号または前記干渉信号が入力され、前記送信信号を用いて、前記受信信号による第1のビート信号または前記干渉信号による第2のビート信号を生成するミキサと、前記第1のビート信号および前記第2のビート信号のうち所定の通過帯域幅の周波数成分を通過させる低域通過フィルタと、を備え、前記スイッチは、前記干渉信号の検出を行うときには前記送信信号の送信を禁止し、前記制御部は、前記低域通過フィルタを通過した前記第2のビート信号の周波数スペクトラムにおいて予め定めたしきい値以上の電力を有する周波数帯域を前記干渉信号として検出し、当該周波数帯域を前記第1のビート信号から除去する。
本発明の第二の態様によるFMCWレーダ装置は、所定の掃引周期で周波数が連続的に時間変化するように周波数変調された送信信号を送信し、前記送信信号が対象物で反射された受信信号を受信して前記対象物との距離を測定するものであって、前記送信信号の送信開始前に、前記掃引周期以上の観測期間内で前記送信信号に干渉する可能性がある干渉信号の検出を行い、前記干渉信号の検出結果に基づく処理を実施する制御部と、前記送信信号を生成する発振器と、前記送信信号の送信を許可または禁止するスイッチと、前記受信信号または前記干渉信号が入力され、前記送信信号を用いて、前記受信信号による第1のビート信号または前記干渉信号による第2のビート信号を生成するミキサと、前記第1のビート信号および前記第2のビート信号のうち所定の通過帯域幅の周波数成分を通過させる低域通過フィルタと、を備え、前記スイッチは、前記干渉信号の検出を行うときには前記送信信号の送信を禁止し、前記制御部は、前記低域通過フィルタを通過した前記第2のビート信号の周波数スペクトラムにおける各周波数の電力値を前記干渉信号として検出し、当該電力値を前記第1のビート信号から周波数ごとに減算する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、FMCWレーダ装置における狭帯域干渉を効果的に回避または抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一般的なFMCWレーダ装置の構成を示す図である。
【
図2】従来のレーダ装置において干渉信号がある場合の動作を説明するための図である。
【
図3】従来のレーダ装置において狭帯域干渉が発生したときのビート信号の周波数スペクトルの例を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るレーダ装置の構成を示す図である。
【
図5】比較例のキャリアセンス方式を説明する図である。
【
図6】本発明の第1の実施形態に係るレーダ装置の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図7】本発明の第1の実施形態に係るレーダ装置の動作例を説明する図である。
【
図8】本発明の第2の実施形態に係るレーダ装置の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図9】本発明の第2の実施形態に係るレーダ装置の動作例を説明する図である。
【
図10】本発明の第3の実施形態に係るレーダ装置の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図11】本発明の第3の実施形態に係るレーダ装置の動作例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(FMCWレーダ装置)
レーダ装置の一つに、周波数を掃引したチャープ信号を送信信号として送信するFMCWレーダ装置がある。この送信信号が対象物で反射されると、対象物との距離に応じた時間だけ遅延した信号が受信されるため、送信信号と受信信号を乗算して得られるビート信号の周波数から、対象物との距離を測定することができる。FMCWレーダ装置は、自動車の自動運転において周囲環境を認識する手段の一つとして有望である。
【0009】
図1は、一般的なFMCWレーダ装置の構成例を示す図である。
図1のレーダ装置は、波形発生器101、電圧制御発振器102、増幅器103、低雑音増幅器104、ミキサ105、低域通過フィルタ106、AD変換器107、ディジタルシグナルプロセッサ(DSP)108、送信アンテナ109、および受信アンテナ110を備える。
【0010】
波形発生器101は、DSP108の制御により、所定の周期で電圧が連続的に変化する電圧波形を発生して電圧制御発振器102に出力する。電圧制御発振器102は、波形発生器101から入力した電圧波形に応じて制御された発振周波数の送信信号を生成し、増幅器103およびミキサ105に出力する。増幅器103は、電圧制御発振器102から入力した送信信号を増幅して送信アンテナ109に出力する。送信アンテナ109は、増幅器103から入力した送信信号を空間に放出する。これにより、連続波が周波数変調されたFMCW信号がレーダ装置から送信される。
【0011】
受信アンテナ110は、送信信号が対象物で反射された受信信号を受信し、低雑音増幅器104に出力する。低雑音増幅器104は、受信アンテナ110から入力した受信信号を増幅してミキサ105に出力する。ミキサ105は、乗算器で構成されており、電圧制御発振器102から入力した送信信号と、低雑音増幅器104から入力した受信信号との乗算を行うことで、これらの信号の周波数差に応じたビート信号を生成し、低域通過フィルタ106に出力する。低域通過フィルタ106は、ミキサ105から入力したビート信号の低周波成分を取り出し、AD変換器107に出力する。AD変換器107は、低域通過フィルタ106から入力したビート信号を所定のサンプリング周期ごとにディジタル信号に変換することで、ビート信号のディジタル値を生成し、DSP108に出力する。DSP108は、AD変換器107で得られたビート信号のディジタル値に対して高速フーリエ変換(FFT)を行うことで、ビート信号を周波数成分に分解した信号波形を求める。そして、この信号波形において予め設定された閾値を上回るピークを検出することで、対象物までの距離に応じたビート信号の周波数を求め、対象物までの距離を算出する。
【0012】
図1のFMCWレーダ装置は、たとえば三角波やのこぎり波の電圧波形を波形発生器101で生成し、これを電圧制御発振器102に出力することで、連続波を周波数変調した送信信号を送信する。この送信信号が対象物で反射された反射波は、対象物との距離dに比例した遅延時間の後、ミキサ105に受信信号として入力される。そのため、遅延時間に比例した周波数のビート信号が得られる。
【0013】
近年、自動運転や運転者支援システムの普及に伴い、車両へのレーダ装置の搭載が進められている。こうした車載レーダ装置は、車両の周囲に存在する人、障害物、他車両等を対象物として、対象物との距離や対象物の位置などを車両の周囲環境として検出するために利用されている。レーダ装置を搭載した車両が増加すると、近距離の他車両から送信されるレーダ信号が干渉信号として受信される場合がある。
【0014】
ここで、同一周波数帯の送信信号を用いるFMCWレーダ装置が近距離内に2つ存在する場合を考える。この場合、一方のFMCWレーダ装置の送信信号は、他方のFMCWレーダ装置に対する干渉信号となって干渉が生じる。なお、干渉信号となるレーダ信号はFMCWレーダ方式に限らず、他のレーダ方式、たとえばパルスレーダ方式やCWレーダ方式のレーダ信号であっても、同一周波数帯であれば干渉信号となり得る。
【0015】
図2は、従来のレーダ装置において干渉信号がある場合の動作を説明するための図である。
図2では、上記のようにFMCWレーダ装置が近距離内に2つある場合の一方のFMCWレーダ装置における狭帯域干渉での干渉動作の例を示している。
図2上段には、一方のFMCWレーダ装置の送信信号および受信信号と、当該FMCWレーダ装置において干渉信号として検出される他方のFMCWレーダ装置の送信信号とについて、それぞれの周波数の時間変化の様子を示している。
図2下段には、受信信号と干渉信号によってそれぞれ得られるビート信号における周波数の時間変化の様子を示している。
【0016】
図2上段において、二重線で示した送信信号は、所定の掃引周波数幅Bの範囲内で周波数が上り方向に連続的に時間変化する期間を繰り返すように、その周波数が鋸歯状に変化している。また、実線で示した受信信号は、送信信号から遅延時間τ
1だけ遅れたタイミングで、送信信号と同様に周波数が変化している。一方、破線で示した干渉信号は、送信信号から遅延時間τ
2だけ遅れたタイミングで、これらと同様に周波数が変化している。ここで、受信信号の遅延時間τ
1および干渉信号の遅延時間τ
2は、低域通過フィルタ106の通過帯域幅Fの範囲内に相当する一定値以下であるものとする。
【0017】
一般に、レーダ装置における目標物との距離dは、送信信号に対する受信信号の遅延時間τ1を用いて次の式(1)で与えられる。式(1)において、cは光速を表している。
d=(τ1/2)・c ・・・(1)
【0018】
図2のような鋸歯状の送信信号を用いるFMCWレーダ装置において、周波数が上昇するアップチャープ区間で得られるビート信号の周波数をf
Bとすると、式(1)の遅延時間τ
1は次の式(2)で与えられる。式(2)において、Bは掃引周波数幅、Tはアップチャープ区間の掃引周期をそれぞれ表している。また、式(2)の右辺の分母B/Tは、チャープ率(Hz/s)と呼ばれる。
τ
1=f
B/(B/T) ・・・(2)
【0019】
鋸歯状に周波数掃引を行うFMCWレーダ装置では、アップチャープ区間毎のビート周波数を計測し、その差を計算することで、目標物の距離と相対速度を算出できる。
【0020】
ここで、上記のようなタイミングで送信信号、受信信号および干渉信号がそれぞれ周波数変調されており、これらの掃引周波数幅および掃引周期がそれぞれ等しい場合、受信信号によるビート周波数と、干渉信号によるビート周波数とは、
図2下段において実線と破線でそれぞれ示すように変化する。すなわち、受信信号によるビート周波数は、送信信号と受信信号の周波数がともに上り方向に変化している期間において、低域通過フィルタ106の通過帯域F内で一定となる。同様に、干渉信号によるビート周波数も、送信信号と干渉信号の周波数がともに上り方向に変化している期間において、低域通過フィルタ106の通過帯域F内で一定となる。これらのビート信号をフーリエ変換すると、たとえば
図3の波形例で示すような周波数スペクトルが得られる。
図3の波形例では、ターゲットを示す受信信号によるビート周波数のピークとともに、干渉信号によるビート周波数のピークが含まれているため、これがゴーストターゲットとして誤検出されることとなる。
【0021】
車両に搭載されるFMCWレーダ装置では、以上説明したような狭帯域干渉を低減し、ターゲットの誤検出が発生しないようにすることが求められている。特に、レーダ装置を用いた自動運転等の場面では、ターゲットの誤検出により運転操作に影響を及ぼす可能性がある。また、自動運転の普及が進んでレーダ装置を搭載した車両の数が増加するにつれて、自車両と同一周波数帯の送信信号を用いるレーダ装置を搭載した車両が付近に存在する可能性が高くなるため、狭帯域干渉が発生する確率が増大する。したがって、狭帯域干渉を回避、除去することが極めて重要である。以下では、図面を用いて、FMCWレーダ装置における狭帯域干渉の発生を回避し、同一周波数帯を利用するFMCWレーダ装置の多元接続を実現するための本発明の実施形態について説明する。
【0022】
(第1の実施形態)
図4は、本発明の一実施形態に係るレーダ装置の構成を示す図である。
図4に示すレーダ装置1は、FMCWレーダ装置であり、
図1と同様のハードウェア構成にスイッチ111が追加されている。すなわち、レーダ装置1は、
図1でそれぞれ説明した波形発生器101、電圧制御発振器102、増幅器103、低雑音増幅器104、ミキサ105、低域通過フィルタ106、AD変換器107、DSP108、送信アンテナ109、および受信アンテナ110を備えるとともに、電圧制御発振器102と増幅器103の間にスイッチ111を備える。
【0023】
DSP108は、
図1で説明したように、AD変換器107から入力したビート信号のディジタル値に基づき、対象物までの距離を算出する処理を行う。また、波形発生器101およびスイッチ111の制御を行うと共に、レーダ装置1の動作タイミング等の制御を行う。
【0024】
レーダ装置1は、上記の各機能を、DSP108が実行するソフトウェア処理により実現することができる。なお、DSP108の代わりに、論理回路等を組み合わせたハードウェアにより実現してもよい。
【0025】
波形発生器101は、
図1で説明したように、所定の周期で電圧が連続的に変化する電圧波形を発生し、電圧制御発振器102およびスイッチ111に出力する。電圧制御発振器102は、波形発生器101から入力した電圧波形に基づき、
図2で説明したような鋸波状の送信信号を生成し、スイッチ111およびミキサ105に出力する。
【0026】
スイッチ111は、DSP108の制御に応じて、電圧制御発振器102と増幅器103の間の接続状態をオンからオフに、またはオフからオンに切り替える。これにより、電圧制御発振器102から増幅器103への送信信号の出力を許可または禁止する。増幅器103は、電圧制御発振器102から出力された送信信号がスイッチ111を介して入力されると、入力した送信信号を増幅して送信アンテナ109に出力する。送信アンテナ109は、増幅器103から入力した送信信号を空間に放出する。これにより、スイッチ111がオンである期間にのみ、連続波が周波数変調されたFMCW信号がレーダ装置1から送信され、スイッチ111がオフである期間にはFMCW信号の送信が停止される。すなわち、スイッチ111の動作に応じて、レーダ装置1から対象物への送信信号の送信が許可または禁止される。
【0027】
本実施形態では、送信信号の送信を開始する前に、DSP108において、例えば既送信のレーダ信号など、送信信号に干渉する可能性がある干渉信号の有無を判断し、その判断結果を基に、スイッチ111の切り替えタイミングの制御を行う。具体的には、最初にスイッチ111をオフ状態として、電圧制御発振器102からミキサ105に周波数変調された送信信号を出力し、このときのAD変換器107からの出力に基づいて、干渉信号となる既送信のレーダ信号の有無の検出(キャリアセンス)を行う。その結果、干渉信号が検出されなければ、スイッチ111をオフからオンに切り替えて、レーダ装置1による送信信号の送信を許可する。
【0028】
ここで、本実施形態に係るレーダ装置1の動作を説明する前に、比較例のキャリアセンス方式について説明する。比較例のキャリアセンス方式では、
図4に示したレーダ装置1において、送信信号の送信を開始する前に固定の周波数でキャリアセンスを実施する。その結果、干渉信号が検出されなければ、送信信号の周波数掃引を開始し、スイッチ111をオフからオンに切り替えて送信信号の送信を許可する。一方、干渉信号が検出された場合は、送信信号の周波数掃引を開始するタイミングをずらすことで、狭帯域干渉の発生を回避する。
【0029】
図5は、比較例のキャリアセンス方式を説明する図である。
図5(a)は狭帯域干渉の場合を示しており、
図5(b)は広帯域干渉の場合を示している。
図5(a)では、狭帯域干渉の発生原因となり得る干渉信号として、掃引周波数幅と掃引周期が送信信号の掃引周波数幅B、掃引周期Tとそれぞれ同一であるレーダ信号が、レーダ装置1において受信される場合の様子を示している。一方、
図5(b)では、広帯域干渉の発生原因となり得る干渉信号として、掃引周波数幅が送信信号の掃引周波数幅Bと同一であり、掃引周期が送信信号の掃引周期Tとは異なるレーダ信号が、レーダ装置1において受信される場合の様子を示している。これらの図において、レーダ装置1は、例えば掃引周波数幅B内の所定の検出周波数f
sでキャリアセンスを行うものとする。
【0030】
なお、広帯域干渉とは、干渉信号によるビート信号の周波数が広帯域に渡って変化し、その一部が低域通過フィルタ106の通過帯域内となることで雑音レベルが増加する現象であり、送信信号と干渉信号の周波数が一時的に近接することで発生する。ただし、広帯域干渉が発生した場合でも、受信信号の検出は可能である。
【0031】
図5(a)の場合、干渉信号の周波数がキャリアセンスの検出周波数f
sと一致するタイミングt
sの前後で、干渉信号によるビート信号の周波数が低域通過フィルタ106の通過帯域f
LPF以内となり、AD変換器107に入力される信号の振幅が上昇する。DSP108は、このAD変換器107の入力信号の振幅が所定のしきい値R
th以上になると、狭帯域干渉が発生すると判断し、送信信号の周波数掃引を開始するタイミングを所定の遅延時間wだけ遅延させて、送信信号の送信を開始する。その結果、狭帯域干渉を回避することができる。
【0032】
図5(b)の場合も
図5(a)と同様に、干渉信号の周波数がキャリアセンスの検出周波数f
sと一致するタイミングt
sの前後で、干渉信号によるビート信号の周波数が低域通過フィルタ106の通過帯域f
LPF以内となり、AD変換器107に入力される信号の振幅が上昇する。DSP108は、このAD変換器107の入力信号の振幅が所定のしきい値R
th以上になると、広帯域干渉ではなく、狭帯域干渉が発生すると誤って判断してしまう。その結果、
図5(b)のように直ちに送信信号の送信を開始できる状況にも関わらず、狭帯域干渉の場合と同様の回避動作が行われることで、受信信号の測定開始が遅延してしまうという問題が生じる。
【0033】
以上説明したように、比較例のキャリアセンス方式では、狭帯域干渉と広帯域干渉を互いに区別して検出することができないため、無駄な測定遅延を生じる可能性がある。
【0034】
図6は、本発明の第1の実施形態に係るレーダ装置1の処理の流れを示すフローチャートである。本実施形態のレーダ装置1は、送信信号の送信を開始する際に、DSP108において
図6のフローチャートに示す処理を実行する。
【0035】
ステップS110において、DSP108は、スイッチ111をオフにすることで、レーダ装置1からの送信信号の送信を停止する。これにより、ステップS20以降で既送信のレーダ信号の検出を行うときには、レーダ装置1から空間に送信信号が放出されないようにする。
【0036】
ステップS120において、DSP108は、送信信号の周波数の掃引を開始する掃引開始タイミングt0、掃引開始周波数fminおよび掃引終了周波数fmaxを設定する。
【0037】
ステップS130において、DSP108は、ステップS120で設定した掃引開始タイミングt
0、掃引開始周波数f
minおよび掃引終了周波数f
maxに従って、送信信号の周波数の掃引を開始するように、波形発生器101および電圧制御発振器102を制御する。これにより、所定の周期で電圧が連続的に変化する電圧波形が波形発生器101から電圧制御発振器102に出力され、
図2で示したように周波数が鋸歯状に時間変化する送信信号の出力が、電圧制御発振器102により開始される。なお、ステップS110でスイッチ111をオフにしているため、この送信信号は空間には放出されず、電圧制御発振器102からミキサ105に入力される。
【0038】
ステップS140において、DSP108は、干渉信号の有無を検出するためのキャリアセンスを実施する。ここでは例えば、周波数が連続的に時間変化する送信信号に応じてAD変換器107から出力されるビート信号の電力のサンプリング値を、所定のサンプリング間隔で取得する。
【0039】
ステップS150において、DSP108は、ステップS140でキャリアセンスを開始してからの経過時間に基づき、所定の観測期間を経過したか否かを判定する。観測期間は、狭帯域干渉と広帯域干渉を区別するのに十分な時間として、送信信号の掃引周期T以上の値で予め設定されている。観測期間を経過していなければステップS140に戻ってキャリアセンスを継続し、観測期間を経過したらステップS160に進む。
【0040】
ステップS160において、DSP108は、観測期間内にステップS140で実施したキャリアセンスの結果に基づき、狭帯域干渉を検出したか否かを判定する。たとえば、観測期間内にビート信号の電力のサンプリング値がN個得られた場合、その各サンプリング値に対して、所定のしきい値Rth以上であればカウンタ値を1つインクリメントし、しきい値Rth未満であればカウンタ値をインクリメントしない。そして、最終的に得られたカウンタ値をMとし、Mが所定値(例えば0.8N)以上であれば狭帯域干渉あり、所定値未満であれば狭帯域干渉なしと判断する。あるいは、得られた各サンプリング値を平滑化し、しきい値Rth以上の出力が連続して所定数以上得られた場合は狭帯域干渉あり、そうでない場合は狭帯域干渉なしと判断してもよい。これ以外にも、キャリアセンスの結果から狭帯域干渉の有無を適切に判断できれば、任意の方法でステップS160の処理を実施することができる。ステップS160で狭帯域干渉を検出しなかった場合はステップS170に進み、検出した場合はステップS180に進む。
【0041】
ステップS170において、DSP108は、掃引開始タイミングt0、掃引開始周波数fminおよび掃引終了周波数fmaxをそれぞれ変更する。例えば、以下の式(3)、(4)、(5)に従って、変更後の掃引開始タイミングt0、掃引開始周波数fminおよび掃引終了周波数fmaxを決定する。なお、式(3)、(4)において、m,nはそれぞれ任意の乱数を表し、Δt,Δfは予め設定された調整係数をそれぞれ表す。また、Bは掃引周波数幅を表している。
t0=t0+m・Δt ・・・(3)
fmin=fmin+n・Δf ・・・(4)
fmax=fmin+B ・・・(5)
【0042】
ステップS170を実施したら、DSP108はステップS120に戻り、ステップS170で決定した変更後の掃引開始タイミングt0、掃引開始周波数fminおよび掃引終了周波数fmaxに従って、これらの値を再設定する。そして、再設定後の値で送信信号の周波数の掃引を再開し(ステップS130)、所定の観測期間内でキャリアセンスを再実施する(ステップS140)。これにより、ステップS160で狭帯域干渉が検出されなくなるまで、ステップS120~S170の処理を繰り返し行うようにする。
【0043】
ステップS180において、DSP108は、送信信号の送信を開始する。このときDSP108は、最後に実施したステップS120で設定した掃引開始タイミングt0、掃引開始周波数fminおよび掃引終了周波数fmaxに従い、キャリアセンス時に行った送信信号の周波数の掃引を継続する。そして、スイッチ111をオフからオンに切り替えて、レーダ装置1から送信信号の送信を開始する。
【0044】
ステップS180で送信を開始したら、
図6のフローチャートに示す処理を終了する。その後は、送信信号の周波数を掃引開始周波数f
minから掃引終了周波数f
maxの間で連続的に変化させる動作を掃引周期Tごとに繰り返し、送信信号の送信と受信信号の検出を継続する。
【0045】
図7は、本発明の第1の実施形態に係るレーダ装置1の動作例を説明する図である。
図7(a)は狭帯域干渉の場合を示しており、
図7(b)は広帯域干渉の場合を示している。
図7(a)では、狭帯域干渉の発生原因となり得る干渉信号として、掃引周波数幅と掃引周期が送信信号の掃引周波数幅B、掃引周期Tとそれぞれ同一であるレーダ信号が、レーダ装置1において受信される場合の様子を示している。一方、
図7(b)では、広帯域干渉の発生原因となり得る干渉信号として、掃引周波数幅が送信信号の掃引周波数幅Bと同一であり、掃引周期が送信信号の掃引周期Tとは異なるレーダ信号が、レーダ装置1において受信される場合の様子を示している。
【0046】
図7(a)の場合、干渉信号の掃引開始タイミングと、レーダ装置1における送信信号の掃引開始タイミングt
0との差分τが小さいと、これらがともにアップチャープ区間であるときのビート信号の周波数f
1は、低域通過フィルタ106の通過帯域f
LPF以内となる。したがって、この期間内ではAD変換器107に入力される信号の振幅が大きい状態が継続する。DSP108は、このようにAD変換器107の入力信号の振幅が所定のしきい値R
th以上になる期間が、観測期間に対して所定の割合、例えば80%以上になると、狭帯域干渉が発生すると判断し、送信信号の周波数掃引を開始するタイミングを前述の式(3)に従って遅延させる。その結果、狭帯域干渉を回避することができる。なお、
図7(a)では、掃引開始タイミングt
0を変更し、掃引開始周波数f
minおよび掃引終了周波数f
maxは変更しない場合の例を示している。
【0047】
図7(b)の場合、干渉信号と送信信号の周波数が一致するタイミングの前後では、ビート信号の周波数が低域通過フィルタ106の通過帯域f
LPF以内となり、AD変換器107に入力される信号の振幅がパルス状に上昇する。一方、それ以外の期間では、ビート信号の周波数が低域通過フィルタ106の通過帯域f
LPFから外れるため、AD変換器107に入力される信号の振幅は上昇しない。したがって、AD変換器107の入力信号の振幅が所定のしきい値R
th以上になる期間は、
図7(a)で説明した場合よりも短くなるため、DSP108では狭帯域干渉が発生すると誤って判断することがない。これにより、狭帯域干渉と広帯域干渉の識別が可能となる。
【0048】
なお、以上説明した第1の実施形態では、観測期間中に低域通過フィルタ106を通過してAD変換器107に入力されるビート信号の振幅に基づいて、狭帯域干渉を検出する例を説明したが、それ以外の方法で狭帯域干渉を検出してもよい。例えば、観測期間中に低域通過フィルタ106を通過してAD変換器107に入力されるビート信号に対して高速フーリエ変換(FFT)を行うことで求められるビート信号の周波数スペクトラムを用いて、以下の方法により狭帯域干渉を検出することも可能である。
【0049】
狭帯域干渉の発生原因となり得る干渉信号が存在する場合、レーダ装置1において観測期間中に得られるAD変換器107の入力信号から求められるビート信号の周波数スペクトラムは、例えば
図7(a)に示すように、低域通過フィルタ106の通過帯域f
LPFよりも小さい所定の周波数f
1において高いピーク値をとる。この周波数スペクトラムのピーク電力が所定のしきい値P
th以上の場合、DSP108は
図6のステップS160において狭帯域干渉が発生すると判断し、ステップS170の処理を実行する。このようにしても、狭帯域干渉を検出することができる。
【0050】
一方、広帯域干渉の発生原因となり得る干渉信号が存在する場合、レーダ装置1において観測期間中に得られるAD変換器107の入力信号から求められるビート信号の周波数スペクトラムは、例えば
図7(b)に示すように、特定の周波数でしきい値P
th以上となるような高いピーク値が存在せず、全体的に平坦な形状となる。そのため、DSP108では狭帯域干渉が発生すると誤って判断することがない。これにより、狭帯域干渉と広帯域干渉の識別が可能となる。
【0051】
また、以上説明した第1の実施形態では、
図6のステップS170において、掃引開始タイミングt
0、掃引開始周波数f
minおよび掃引終了周波数f
maxをそれぞれ変更する場合の例を説明したが、これらは必ずしも全て変更する必要がなく、いずれか少なくとも一つを変更してもよい。すなわち、ステップS160で狭帯域干渉が検出された場合、送信信号の送信開始タイミングおよび掃引周波数の少なくとも一方を変化させることで、狭帯域干渉を回避することができる。
【0052】
以上説明した本発明の第1の実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0053】
(1)FMCWレーダ装置であるレーダ装置1は、所定の掃引周期Tで周波数が連続的に時間変化するように周波数変調された送信信号を送信し、送信信号が対象物で反射された受信信号を受信して対象物との距離を測定する。このレーダ装置1は、制御部としてのDSP108を備えており、DSP108は、送信信号の開始前に、掃引周期T以上の観測期間内で送信信号に干渉する可能性がある干渉信号の検出を行い(ステップS160)、この干渉信号の検出結果に基づく処理を実施する(ステップS170)。このようにしたので、FMCWレーダ装置における狭帯域干渉を効果的に回避することができる。
【0054】
(2)レーダ装置1は、送信信号を生成する電圧制御発振器102と、送信信号の送信を許可または禁止するスイッチ111と、低雑音増幅器104を介して受信信号または干渉信号が入力され、送信信号を用いて、受信信号によるビート信号(第1のビート信号)または干渉信号によるビート信号(第2のビート信号)を生成するミキサ105と、これらのビート信号のうち所定の通過帯域幅fLPFの周波数成分を通過させる低域通過フィルタ106とを備える。スイッチ111は、干渉信号の検出を行うときには送信信号の送信を禁止する(ステップS110)。DSP108は、ステップS160において、低域通過フィルタ106を通過した第2のビート信号に基づいて干渉信号を検出する。このようにしたので、受信信号を検出するための構成を流用して、簡易な構成で送信信号の送信前に干渉信号の検出を行うことができる。
【0055】
(3)DSP108は、低域通過フィルタ106を通過した第2のビート信号の電力が予め定めたしきい値Rth以上の場合(ステップS160:Yes)、掃引開始タイミングt0、掃引開始周波数fminおよび掃引終了周波数fmaxのいずれか少なくとも一つを変更する(ステップS170)ことで、送信信号の送信開始タイミングおよび掃引周波数の少なくとも一方を変化させる。このようにしたので、狭帯域干渉が発生する状況の場合、これを確実に検出して回避することができる。
【0056】
(4)DSP108は、低域通過フィルタ106を通過した第2のビート信号の周波数スペクトラムにおけるピーク電力が予め定めたしきい値Pth以上の場合(ステップS160:Yes)、掃引開始タイミングt0、掃引開始周波数fminおよび掃引終了周波数fmaxのいずれか少なくとも一つを変更する(ステップS170)ことで、送信信号の送信開始タイミングおよび掃引周波数の少なくとも一方を変化させてもよい。このようにしても、狭帯域干渉が発生する状況の場合、これを確実に検出して回避することができる。
【0057】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係るレーダ装置について説明する。本実施形態のレーダ装置は、FMCWレーダ装置であり、
図4に示した第1の実施形態に係るレーダ装置1と同一の構成を有している。本実施形態のレーダ装置は、狭帯域干渉を検出した場合の処理が第1の実施形態とは異なる。それ以外の点は、第1の実施形態に係るレーダ装置1と同様である。なお、以下の説明では、本実施形態のレーダ装置を「レーダ装置1A」と称する。
【0058】
図8は、本発明の第2の実施形態に係るレーダ装置1Aの処理の流れを示すフローチャートである。本実施形態のレーダ装置1Aは、送信信号の送信を開始する際に、DSP108において
図8のフローチャートに示す処理を実行する。
【0059】
ステップS210において、DSP108は、
図6のステップS110と同様に、スイッチ111をオフにすることで、レーダ装置1Aからの送信信号の送信を停止する。これにより、ステップS220以降で既送信のレーダ信号の検出を行うときには、レーダ装置1Aから空間に送信信号が放出されないようにする。
【0060】
ステップS220において、DSP108は、
図6のステップS120と同様に、送信信号の周波数の掃引を開始する掃引開始タイミングt
0、掃引開始周波数f
minおよび掃引終了周波数f
maxを設定する。
【0061】
ステップS230において、DSP108は、
図6のステップS130と同様に、ステップS220で設定した掃引開始タイミングt
0、掃引開始周波数f
minおよび掃引終了周波数f
maxに従って、送信信号の周波数の掃引を開始するように、波形発生器101および電圧制御発振器102を制御する。これにより、所定の周期で電圧が連続的に変化する電圧波形が波形発生器101から電圧制御発振器102に出力され、
図2で示したように周波数が鋸歯状に時間変化する送信信号の出力が、電圧制御発振器102により開始される。なお、ステップS210でスイッチ111をオフにしているため、この送信信号は空間には放出されず、電圧制御発振器102からミキサ105に入力される。
【0062】
ステップS240において、DSP108は、干渉信号の有無を検出するためのキャリアセンスを実施する。ここでは
図6のステップS140と同様に、例えば、周波数が連続的に時間変化する送信信号に応じてAD変換器107から出力されるビート信号の電力のサンプリング値を、所定のサンプリング間隔で取得する。
【0063】
ステップS250において、DSP108は、ステップS240でキャリアセンスを開始してからの経過時間に基づき、所定の観測期間を経過したか否かを判定する。観測期間を経過していなければステップS240に戻ってキャリアセンスを継続し、観測期間を経過したらステップS260に進む。
【0064】
ステップS260において、DSP108は、観測期間内にステップS240で実施したキャリアセンスの結果に基づき、ビート信号の周波数スペクトラムにおけるピーク電力が所定のしきい値Pth以上であるか否かを判定する。周波数スペクトラムのピーク電力がしきい値Pth以上の場合、DSP108は狭帯域干渉が発生すると判断してステップS270に進み、しきい値Pth未満の場合はステップS270の処理を実行せずにステップS280に進む。なお、ビート信号の周波数スペクトラムは、前述のように、例えば観測期間中に低域通過フィルタ106を通過してAD変換器107に入力されるビート信号に対して高速フーリエ変換(FFT)を行うことで求められる。観測精度を改善するため、ビート信号の周波数スペクトラムにおける各周波数の電力値に対して複数の掃引を行い、周波数ごとに加算して平均化してもよい。
【0065】
ステップS270において、DSP108は、ステップS260でしきい値Pth以上と判断したピーク電力の周波数帯域を、除去対象帯域として不図示のメモリに記憶する。なお、複数の周波数帯域においてピーク電力がしきい値Pth以上の場合は、各周波数帯域を除去対象帯域としてそれぞれ記憶する。これにより、レーダ装置1Aにおいて、狭帯域干渉が発生し得る周波数帯域が除去対象帯域として記憶保持される。
【0066】
ステップS280において、DSP108は、送信信号の送信を開始する。このときDSP108は、ステップS220で設定した掃引開始タイミングt0、掃引開始周波数fminおよび掃引終了周波数fmaxに従い、キャリアセンス時に行った送信信号の周波数の掃引を継続する。そして、スイッチ111をオフからオンに切り替えて、レーダ装置1Aから送信信号の送信を開始する。
【0067】
ステップS285において、DSP108は、ステップS280でレーダ装置1Aから送信した送信信号が対象物で反射されることにより生成された受信信号を検出する。ここでは前述のように、送信信号と受信信号の周波数差に応じてミキサ105により生成されるビート信号を、低域通過フィルタ106を介してAD変換器107に入力し、これを所定のサンプリング周期ごとにディジタル値に変換することで、受信信号を検出することができる。
【0068】
ステップS290において、DSP108は、レーダ装置1Aにおいて除去対象帯域が記憶されているか否かを判定する。前述のステップS270の処理を実行済みであり、この処理によって除去対象帯域がメモリに記憶されている場合は、ステップS295へ進む。一方、ステップS270の処理を実行しておらず、除去対象帯域がメモリに記憶されていない場合は、ステップS295の処理を実行せず、
図8のフローチャートに示す処理を終了する。この場合、レーダ装置1Aでは、ステップS285で検出した受信信号をそのまま用いて、対象物の検出処理および対象物までの距離算出処理が行われる。
【0069】
ステップS295において、DSP108は、ステップS285で検出した受信信号の周波数スペクトラムから、メモリに記憶されている除去対象帯域を除去する。すなわち、送信信号と受信信号の周波数差に応じて生成されたビート信号に対して高速フーリエ変換(FFT)を行うことで求められるビート信号の周波数スペクトラムから、除去対象帯域に対応する部分を除去することで、当該部分の電力値を0とする。これによりレーダ装置1Aでは、ステップS295で除去対象帯域が除去された受信信号の周波数スペクトラムを用いて、対象物の検出処理および対象物までの距離算出処理が行われる。その際、例えばCFAR(Constant False Alarm Rate)と呼ばれる手法により、対象物に対応するピークを検出するためのしきい値を設定することで、誤検出率を一定にすることができる。あるいは、一定のしきい値を設定してもよい。
【0070】
ステップS295の処理を実行したら、
図8のフローチャートに示す処理を終了する。その後は、送信信号の周波数を掃引開始周波数f
minから掃引終了周波数f
maxの間で連続的に変化させる動作を掃引周期Tごとに繰り返し、送信信号の送信と受信信号の検出を継続する。
【0071】
図9は、本発明の第2の実施形態に係るレーダ装置1Aの動作例を説明する図である。
図9では、狭帯域干渉の発生原因となり得る干渉信号として、
図7(a)と同様のレーダ信号がレーダ装置1Aにおいて受信される場合の様子を示している。
【0072】
図9の場合も
図7(a)と同様に、干渉信号の掃引開始タイミングと、レーダ装置1Aにおける送信信号の掃引開始タイミングt
0との差分τが小さいと、これらがともにアップチャープ区間であるときのビート信号の周波数f
1は、低域通過フィルタ106の通過帯域f
LPF以内となる。したがって、この期間内ではAD変換器107に入力される信号の振幅が大きい状態が継続する。その結果、例えば
図9に示すように、観測期間内に得られたビート信号の周波数スペクトラムにおけるピーク電力値P
iが所定のしきい値P
th以上の場合、DSP108は
図8のステップS270において、このピーク電力値P
iに対応する周波数帯域f
iを除去対象帯域として記憶する。
【0073】
その後、DSP108は、送信信号の送信を開始した後の受信信号により生成されたビート信号の周波数スペクトラムから、除去対象帯域として記憶された周波数帯域f
iを除去する。これにより
図9に示すように、受信信号のビート信号の周波数スペクトラムから、干渉信号に対応する周波数帯域f
iの部分が取り除かれる。本実施形態のレーダ装置1Aは、こうして干渉信号成分が除去されたビート信号の周波数スペクトラムを用いて対象物の検出を行う。したがって、狭帯域干渉の抑圧が可能となる。
【0074】
以上説明した本発明の第2の実施形態によれば、第1の実施形態で説明した(1)、(2)に加えて、さらに以下の作用効果を奏する。
【0075】
(5)DSP108は、低域通過フィルタ106を通過した干渉信号によるビート信号(第2のビート信号)の周波数スペクトラムにおいて予め定めたしきい値Pth以上の電力を有する周波数帯域fiを、受信信号によるビート信号(第1のビート信号)から除去する(ステップS295)。このようにしたので、狭帯域干渉が発生する状況の場合、これを効果的に抑圧することができる。
【0076】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態に係るレーダ装置について説明する。本実施形態のレーダ装置は、FMCWレーダ装置であり、
図4に示した第1の実施形態に係るレーダ装置1と同一の構成を有している。本実施形態のレーダ装置は、狭帯域干渉を検出した場合の処理が第1、第2の実施形態とは異なる。それ以外の点は、第1、第2の実施形態に係るレーダ装置1,1Aと同様である。なお、以下の説明では、本実施形態のレーダ装置を「レーダ装置1B」と称する。
【0077】
図10は、本発明の第3の実施形態に係るレーダ装置1Bの処理の流れを示すフローチャートである。本実施形態のレーダ装置1Bは、送信信号の送信を開始する際に、DSP108において
図10のフローチャートに示す処理を実行する。
【0078】
ステップS310において、DSP108は、
図6のステップS110と同様に、スイッチ111をオフにすることで、レーダ装置1Bからの送信信号の送信を停止する。これにより、ステップS320以降で既送信のレーダ信号の検出を行うときには、レーダ装置1Bから空間に送信信号が放出されないようにする。
【0079】
ステップS320において、DSP108は、
図6のステップS120と同様に、送信信号の周波数の掃引を開始する掃引開始タイミングt
0、掃引開始周波数f
minおよび掃引終了周波数f
maxを設定する。
【0080】
ステップS330において、DSP108は、
図6のステップS130と同様に、ステップS320で設定した掃引開始タイミングt
0、掃引開始周波数f
minおよび掃引終了周波数f
maxに従って、送信信号の周波数の掃引を開始するように、波形発生器101および電圧制御発振器102を制御する。これにより、所定の周期で電圧が連続的に変化する電圧波形が波形発生器101から電圧制御発振器102に出力され、
図2で示したように周波数が鋸歯状に時間変化する送信信号の出力が、電圧制御発振器102により開始される。なお、ステップS310でスイッチ111をオフにしているため、この送信信号は空間には放出されず、電圧制御発振器102からミキサ105に入力される。
【0081】
ステップS340において、DSP108は、干渉信号の有無を検出するためのキャリアセンスを実施する。ここでは
図6のステップS140と同様に、例えば、周波数が連続的に時間変化する送信信号に応じてAD変換器107から出力されるビート信号の電力のサンプリング値を、所定のサンプリング間隔で取得する。
【0082】
ステップS350において、DSP108は、ステップS340でキャリアセンスを開始してからの経過時間に基づき、所定の観測期間を経過したか否かを判定する。観測期間を経過していなければステップS340に戻ってキャリアセンスを継続し、観測期間を経過したらステップS370に進む。
【0083】
ステップS370において、DSP108は、観測期間内にステップS340で実施したキャリアセンスの結果に基づき、ビート信号の周波数スペクトラムにおける各周波数の電力値を、補正電力値として不図示のメモリに記憶する。なお、ビート信号の周波数スペクトラムは、前述のように、例えば観測期間中に低域通過フィルタ106を通過してAD変換器107に入力されるビート信号に対して高速フーリエ変換(FFT)を行うことで求められる。観測精度を改善するため、ビート信号の周波数スペクトラムにおける各周波数の電力値に対して複数の掃引を行い、周波数ごとに加算して平均化してもよい。これにより、レーダ装置1Bにおいて、観測期間中に受信した干渉信号を含む各種信号の電力値が補正電力値として記憶保持される。
【0084】
ステップS380において、DSP108は、送信信号の送信を開始する。このときDSP108は、ステップS320で設定した掃引開始タイミングt0、掃引開始周波数fminおよび掃引終了周波数fmaxに従い、キャリアセンス時に行った送信信号の周波数の掃引を継続する。そして、スイッチ111をオフからオンに切り替えて、レーダ装置1Bから送信信号の送信を開始する。
【0085】
ステップS385において、DSP108は、ステップS380でレーダ装置1Bから送信した送信信号が対象物で反射されることにより生成された受信信号を検出する。ここでは前述のように、送信信号と受信信号の周波数差に応じてミキサ105により生成されるビート信号を、低域通過フィルタ106を介してAD変換器107に入力し、これを所定のサンプリング周期ごとにディジタル値に変換することで、受信信号を検出することができる。
【0086】
ステップS395において、DSP108は、ステップS385で検出した受信信号の周波数スペクトラムから、メモリに記憶されている補正電力値を減算する。すなわち、送信信号と受信信号の周波数差に応じて生成されたビート信号に対して高速フーリエ変換(FFT)を行うことで求められるビート信号の周波数スペクトラムが表す周波数ごとの電力値から、ステップS370で記憶された補正電力値の分を差し引くことで、ビート信号の周波数スペクトラムを補正する。これによりレーダ装置1Bでは、ステップS395で補正された受信信号の周波数スペクトラムを用いて、対象物の検出処理および対象物までの距離算出処理が行われる。その際は第2の実施形態と同様に、例えばCFARと呼ばれる手法により、対象物に対応するピークを検出するためのしきい値を設定してもよいし、あるいは一定のしきい値を設定してもよい。
【0087】
ステップS395の処理を実行したら、
図10のフローチャートに示す処理を終了する。その後は、送信信号の周波数を掃引開始周波数f
minから掃引終了周波数f
maxの間で連続的に変化させる動作を掃引周期Tごとに繰り返し、送信信号の送信と受信信号の検出を継続する。
【0088】
図11は、本発明の第3の実施形態に係るレーダ装置1Bの動作例を説明する図である。
図11では、狭帯域干渉の発生原因となり得る干渉信号として、
図7(a)と同様のレーダ信号がレーダ装置1Bにおいて受信される場合の様子を示している。
【0089】
図11の場合も
図7(a)や
図9と同様に、干渉信号の掃引開始タイミングと、レーダ装置1Bにおける送信信号の掃引開始タイミングt
0との差分τが小さいと、これらがともにアップチャープ区間であるときのビート信号の周波数f
1は、低域通過フィルタ106の通過帯域f
LPF以内となる。したがって、この期間内ではAD変換器107に入力される信号の振幅が大きい状態が継続する。DSP108は
図10のステップS370において、このビート信号の周波数スペクトラムが表す周波数ごとの電力値を補正電力値として記憶する。
【0090】
その後、DSP108は、送信信号の送信を開始した後の受信信号により生成されたビート信号の周波数スペクトラムから、補正電力値を減算する。これにより
図11に示すように、受信信号のビート信号の周波数スペクトラムから、干渉信号やノイズに対応する部分が差し引かれる。本実施形態のレーダ装置1Bは、こうして干渉信号成分やノイズ成分が除去されたビート信号の周波数スペクトラムを用いて、対象物の検出を行う。したがって、狭帯域干渉の抑圧が可能となる。
【0091】
以上説明した本発明の第3の実施形態によれば、第1の実施形態で説明した(1)、(2)に加えて、さらに以下の作用効果を奏する。
【0092】
(6)DSP108は、低域通過フィルタ106を通過した干渉信号によるビート信号(第2のビート信号)の周波数スペクトラムにおける各周波数の電力値を、受信信号によるビート信号(第1のビート信号)から減算する(ステップS395)。このようにしたので、狭帯域干渉が発生する状況の場合、これを効果的に抑圧することができる。
【0093】
なお、以上説明した実施形態では、送信期間において送信信号の周波数が上り方向に連続的に時間変化し、戻り期間において送信信号の周波数が下り方向に連続的に時間変化する例を説明したが、上り方向と下り方向を互いに入れ替えても本発明を適用可能である。すなわち、送信期間においては、送信信号の周波数が所定の送信開始周波数から所定の送信終了周波数まで下り方向に連続的に時間変化し、戻り期間においては、送信信号の周波数が送信終了周波数から送信開始周波数まで上り方向に時間変化することで周波数を戻すような場合についても、本発明の適用範囲に含まれる。
【0094】
以上説明した実施形態や各種変形例はあくまで一例であり、発明の特徴が損なわれない限り、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。また、上記では種々の実施形態や変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0095】
1 レーダ装置
101 波形発生器
102 電圧制御発振器
103 増幅器
104 低雑音増幅器
105 ミキサ
106 低域通過フィルタ
107 AD変換器
108 ディジタルシグナルプロセッサ(DSP)
109 送信アンテナ
110 受信アンテナ
111 スイッチ