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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】加工システム
(51)【国際特許分類】
   B23Q 15/08 20060101AFI20240401BHJP
   G05B 19/18 20060101ALI20240401BHJP
   G05B 19/416 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
B23Q15/08
G05B19/18 W
G05B19/416 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021543756
(86)(22)【出願日】2020-08-31
(86)【国際出願番号】 JP2020032921
(87)【国際公開番号】W WO2021045014
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2019163219
(32)【優先日】2019-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】運天 政貴
【審査官】樋口 幸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-226551(JP,A)
【文献】特開2003-326438(JP,A)
【文献】特開2017-193018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 15/08
G05B 19/18
G05B 19/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のワークピースを順に加工する加工システムであって、
前記ワークピースを加工する工具と、
前記工具又は前記ワークピースを回転させるモータと、
前記モータを制御する制御部と、
前記モータの電気量を取得する測定部とを備え、
前記制御部は、第一の電気量と第二の電気量との第一の差分に基づいて、前記モータの回転数を制御する第一制御部を備え、
前記第一の電気量は、現在加工中の第一のワークピースにおける特定の加工箇所にて前記測定部で取得される電気量であり、
前記第二の電気量は、第二のワークピースにおける前記特定の加工箇所に対応する箇所の加工中に前記測定部で取得された電気量であり、
前記第二のワークピースは、前記第一のワークピースよりも過去に加工されたワークピースであり、
前記特定の加工箇所は、前記工具による加工条件が変化する箇所である
加工システム。
【請求項2】
複数のワークピースを順に加工する加工システムであって、
前記ワークピースを加工する工具と、
前記工具又は前記ワークピースを回転させるモータと、
前記モータを制御する制御部と、
前記モータの電気量を取得する測定部とを備え、
前記制御部は、
第一の電気量と第二の電気量との第一の差分に基づいて、前記モータの回転数を制御する第一制御部と、
前記第一の電気量と第三の電気量との第二の差分に基づいて、前記モータの回転数を制御する第二制御部とを備え、
前記第一の電気量は、現在加工中の第一のワークピースにおける特定の加工箇所にて前記測定部で取得される電気量であり、
前記第二の電気量は、第二のワークピースにおける前記特定の加工箇所に対応する箇所の加工中に前記測定部で取得された電気量であり、
前記第三の電気量は、第三のワークピースにおける前記特定の加工箇所に対応する箇所の加工中に前記測定部で取得された電気量であり、
前記第二のワークピースは、前記第一のワークピースよりも過去に加工されたワークピースであり、
前記第三のワークピースは、新たな前記工具を用いて、前記第一のワークピースよりも過去に加工されたワークピースである
加工システム。
【請求項3】
複数のワークピースを順に加工する加工システムであって、
前記ワークピースを加工する工具と、
前記工具又は前記ワークピースを回転させるモータと、
前記モータを制御する制御部と、
前記モータの電気量を取得する測定部とを備え、
前記制御部は、
第一の電気量と第二の電気量との第一の差分に基づいて、前記モータの回転数を制御する第一制御部と、
前記第一の電気量と第三の電気量との第二の差分に基づいて、前記モータの回転数を制御する第二制御部とを備え、
前記第一の電気量は、現在加工中の第一のワークピースにおける特定の加工箇所にて前記測定部で取得される電気量であり、
前記第二の電気量は、第二のワークピースにおける前記特定の加工箇所に対応する箇所の加工中に前記測定部で取得された電気量であり、
前記第三の電気量は、第三のワークピースにおける前記特定の加工箇所に対応する箇所の加工中に前記測定部で取得された電気量であり、
前記第二のワークピースは、前記第一のワークピースよりも過去に加工されたワークピースであり、
前記第三のワークピースは、新たな前記工具を用いて、前記第一のワークピースよりも過去に加工されたワークピースであり、
前記特定の加工箇所は、前記工具による加工条件が変化する箇所である
加工システム。
【請求項4】
前記電気量は、前記モータの負荷電流である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の加工システム。
【請求項5】
前記第一制御部は、前記第一の差分が所定の閾値以上である場合、前記モータの回転数をゼロとする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の加工システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加工システム、及び加工物の製造方法に関する。
本出願は、2019年9月6日付の日本国出願の特願2019-163219に基づく優先権を主張し、前記日本国出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ワークピースを加工する際、加工装置に装着されたモータの負荷に対応する電気的パラメータの波形から変動値を求め、その変動値によって、工具にチッピングが生じる前にその兆候を検出する技術を開示する。この技術では、変動値が事前に設定された閾値を越えるか否かを計測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-87781号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の加工システムは、
複数のワークピースを順に加工する加工システムであって、
前記ワークピースを加工する工具と、
前記工具又は前記ワークピースを回転させるモータと、
前記モータを制御する制御部と、
前記モータの電気量を取得する測定部とを備え、
前記制御部は、第一の電気量と第二の電気量との第一の差分に基づいて、前記モータの回転数を制御する第一制御部を備え、
前記第一の電気量は、現在加工中の第一のワークピースにおける特定の加工箇所にて前記測定部で取得される電気量であり、
前記第二の電気量は、第二のワークピースにおける前記特定の加工箇所に対応する箇所の加工中に前記測定部で取得された電気量であり、
前記第二のワークピースは、前記第一のワークピースよりも過去に加工されたワークピースである。
【0005】
本開示の加工物の製造方法は、
複数のワークピースを工具で順に加工する加工物の製造方法であって、
前記工具又は前記ワークピースをモータで回転させ、かつ前記モータの電気量を測定部で測定しながら、前記ワークピースを加工する工程と、
第一の電気量と第二の電気量との第一の差分を取得する工程と、
前記第一の差分に基づいて、前記モータの回転数を制御する工程とを備え、
前記第一の電気量は、現在加工中の第一のワークピースにおける特定の加工箇所にて前記測定部で取得される電気量であり、
前記第二の電気量は、第二のワークピースにおける前記特定の加工箇所に対応する箇所の加工中に前記測定部で取得された電気量であり、
前記第二のワークピースは、前記第一のワークピースよりも過去に加工されたワークピースである。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、実施形態の加工システムを示す説明図である。
図2図2は、実施形態の加工システムにおける第一制御部の処理手順を示すフローチャートである。
図3図3は、実施形態の加工システムにおける第二制御部の処理手順を示すフローチャートである。
図4図4は、実施形態の加工システムによって取得したモータの負荷電流の経時変化を示す波形から工具の欠損を検出した一例を示すグラフである。
図5図5は、実施形態の加工システムによって取得したモータの負荷電流をフーリエ変換したスペクトルを示す波形から工具の欠損を検出した一例を示すグラフである。
図6図6は、実施形態の加工システムによって取得したモータの負荷電流の経時変化を示す波形から工具のチッピングを検出した一例を示すグラフである。
図7図7は、実施形態の加工システムによって取得したモータの負荷電流をフーリエ変換したスペクトルを示す波形から工具のチッピングを検出した一例を示すグラフである。
図8図8は、実施形態の加工システムの変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
工具に生じ得る現象として、チッピングや欠損等がある。チッピングは、工具の刃部に微小な欠けが生じることである。刃部にチッピングが生じると、加工抵抗が増加し、上記変動値が増加する。よって、変動値と閾値とを比較することで、チッピングの発生を検出できる。一方、欠損は、刃部に大きな欠けが生じることである。刃部に欠損が生じると、加工自体が困難となる。そのため、刃部に欠損が生じると、上記変動値は増加しない又は増加しても微量である。よって、特許文献1に記載の技術のように、事前に設定された一定の閾値を基準とすると、工具の欠損を検知できないおそれがある。
【0008】
また、モータの負荷は、一つのワークピースの加工過程であっても変化し得る。モータの負荷が変化する場合、事前に設定された一定の閾値を基準にすると、チッピングを精度よく検出できないおそれがある。
【0009】
本開示は、工具のチッピングや欠損を精度よく検出できる加工システムを提供することを目的の一つとする。また、本開示は、工具のチッピングや欠損を精度よく検出できる加工物の製造方法を提供することを目的の一つとする。
【0010】
[本開示の効果]
本開示の加工システムは、工具のチッピングや欠損を精度よく検出できる。また、本開示の加工物の製造方法は、工具のチッピングや欠損を精度よく検出できる。
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
【0012】
(1)本開示に係る加工システムは、
複数のワークピースを順に加工する加工システムであって、
前記ワークピースを加工する工具と、
前記工具又は前記ワークピースを回転させるモータと、
前記モータを制御する制御部と、
前記モータの電気量を取得する測定部とを備え、
前記制御部は、第一の電気量と第二の電気量との第一の差分に基づいて、前記モータの回転数を制御する第一制御部を備え、
前記第一の電気量は、現在加工中の第一のワークピースにおける特定の加工箇所にて前記測定部で取得される電気量であり、
前記第二の電気量は、第二のワークピースにおける前記特定の加工箇所に対応する箇所の加工中に前記測定部で取得された電気量であり、
前記第二のワークピースは、前記第一のワークピースよりも過去に加工されたワークピースである。
【0013】
本開示の加工システムは、第一の電気量と第二の電気量との第一の差分に基づいて、工具のチッピングや欠損を検出できる。第二の電気量は、チッピングや欠損を有さない工具を用いて加工した際に取得された電気量である。よって、第二の電気量を用いて第一の差分を取得することで、工具に生じ得るチッピングや欠損の有無がわかる。具体的には、第一の差分が所定の閾値未満であれば、工具にチッピングや欠損が生じていないことがわかる。一方、第一の差分が所定の閾値以上であれば、工具にチッピングや欠損が生じていることがわかる。
【0014】
工具にチッピングや欠損が生じると、工具にチッピングや欠損が生じていない場合に比較して、測定部で取得される電気量に特定の変化が生じる。例えば、電気量がモータの負荷電流である場合、工具におけるチッピングや欠損の有無によって、負荷電流の経時変化に以下の傾向が表れる。工具に欠損が生じると、第一の電気量の絶対値は、第二の電気量の絶対値に比較して小さくなる。工具に欠損が生じると、ワークピースに対して非接触となる工具の領域が多くなり、加工自体が困難となるからである。一方、工具にチッピングが生じると、第一の電気量の絶対値は、第二の電気量の絶対値に比較して大きくなる。工具にチッピングが生じると、工具のチッピング箇所がワークに接触して、加工抵抗が増加するからである。なお、工具における欠損やチッピングが生じる箇所は、刃先であることが多い。本開示の加工システムは、第一の電気量と第二の電気量との第一の差分となる電気量の特定の変化に基づいて、工具のチッピングや欠損を検出する。よって、本開示の加工システムは、工具に欠損及びチッピングのいずれが生じた場合であっても精度よく検出できる。
【0015】
測定部で取得される電気量は、一つのワークピースの加工過程であっても変化し得る。第一の電気量及び第二の電気量は、第一のワークピース及び第二のワークピースにおける互いに対応する特定の加工箇所を加工している際に取得された電気量である。よって、一つのワークピースにおいて上記電気量が変化する場合であっても、電気量を比較する箇所が互いに対応する特定の箇所であることで、工具に生じたチッピングや欠損を精度よく検出できる。
【0016】
(2)本開示の加工システムの一例として、
前記特定の加工箇所は、前記工具による加工条件が変化する箇所である形態が挙げられる。
【0017】
一つのワークピースの加工過程において、工具による加工条件が変化する箇所では、測定部で取得される電気量に特異な変化が生じる。その特異な変化に着目することで、第一のワークピース及び第二のワークピースにおける互いに対応する特定の加工箇所を設定し易い。よって、上記の特異な変化に着目することで、工具に生じたチッピングや欠損をより精度よく検出できる。工具による加工条件が変化する箇所については、後で詳述する。
【0018】
(3)本開示の加工システムの一例として、
前記電気量は、前記モータの負荷電流である形態が挙げられる。
【0019】
モータは、負荷トルクが大きくなると、負荷電流が大きくなり、負荷トルクが小さくなると、負荷電流が小さくなる。負荷トルクとは、モータに生じる抵抗に対して必要なトルクである。この負荷トルクの推移を把握することで、工具の加工抵抗を把握でき、工具に生じたチッピングや欠損を検知できる。負荷トルクは、上述したように、負荷電流と相関関係にある。よって、モータの負荷電流を測定し、その電流の推移を把握することで、負荷トルクの推移が把握でき、工具に生じたチッピングや欠損を効率的に検出できる。
【0020】
(4)本開示の加工システムの一例として、
前記第一制御部は、前記第一の差分が所定の閾値以上である場合、前記モータの回転数をゼロとする形態が挙げられる。
【0021】
第一制御部がモータの回転数をゼロとすると、工具又はワークピースの回転が停止する。第一の差分が所定の閾値以上である場合、工具にチッピングや欠損が生じている。よって、第一の差分が所定の閾値以上である場合、モータの回転数をゼロとすることで、適正な加工が行われていない不良品を製造し続けることを防止できる。
【0022】
(5)本開示の加工システムの一例として、
前記制御部は、前記第一の電気量と第三の電気量との第二の差分に基づいて、前記モータの回転数を制御する第二制御部を備え、
前記第三の電気量は、第三のワークピースにおける前記特定の加工箇所に対応する箇所の加工中に前記測定部で取得された電気量であり、
前記第三のワークピースは、新たな前記工具を用いて、前記第一のワークピースよりも過去に加工されたワークピースである形態が挙げられる。
【0023】
工具は経年劣化する。劣化した工具であっても、チッピングや欠損が生じていなければ、加工は可能である。しかし、劣化の度合によっては、加工精度に悪影響を及ぼすおそれがある。工具の劣化は、モータの電気量によって把握できる。本開示の加工システムは、第一の電気量と第三の電気量との第二の差分に基づいて、工具の劣化の度合を検出できる。第三の電気量は、新たな工具を用いて加工した際に取得された電気量である。よって、第二の差分が所定の閾値未満であれば、工具の劣化が許容範囲内であることがわかる。一方、第二の差分が所定の閾値以上であれば、工具が寿命に近づいていることがわかる。第二の差分によって工具の劣化の度合が把握できるため、第二の差分に基づいて、モータの回転数を制御することで、加工精度に悪影響を及ぼすことを抑制できる。
【0024】
なお、工具の劣化は、経時的に徐々に生じる。そのため、工具の劣化によって電気量が変化したとしても、第一の電気量と第二の電気量との差異は僅かである。よって、第一制御部で用いる第一の差分において、工具の劣化に起因する電気量の差分は無視できるほど小さいとみなせる。そのため、第一の差分に基づいて、工具にチッピングや欠損が生じているか否かの判定を適切に行うことができる。
【0025】
(6)本開示に係る加工物の製造方法は、
複数のワークピースを工具で順に加工する加工物の製造方法であって、
前記工具又は前記ワークピースをモータで回転させ、かつ前記モータの電気量を測定部で測定しながら、前記ワークピースを加工する工程と、
第一の電気量と第二の電気量との第一の差分を取得する工程と、
前記第一の差分に基づいて、前記モータの回転数を制御する工程とを備え、
前記第一の電気量は、現在加工中の第一のワークピースにおける特定の加工箇所にて前記測定部で取得される電気量であり、
前記第二の電気量は、第二のワークピースにおける前記特定の加工箇所に対応する箇所の加工中に前記測定部で取得された電気量であり、
前記第二のワークピースは、前記第一のワークピースよりも過去に加工されたワークピースである。
【0026】
本開示の加工物の製造方法は、第一の電気量と第二の電気量との第一の差分に基づいて、工具のチッピングや欠損を検出できる。第二の電気量は、チッピングや欠損を有さない工具を用いて加工した際に取得された電気量である。よって、第二の電気量を用いて第一の差分を取得することで、工具に生じ得るチッピングや欠損の有無がわかる。具体的には、第一の差分が所定の閾値未満であれば、工具にチッピングや欠損が生じていないことがわかる。一方、第一の差分が所定の閾値以上であれば、工具にチッピングや欠損が生じていることがわかる。
【0027】
上述したように、工具にチッピングや欠損が生じると、工具にチッピングや欠損が生じていない場合に比較して、測定部で取得される電気量に特定の変化が生じる。本開示の加工物の製造方法は、電気量の特定の変化である第一の差分に基づいて、工具のチッピングや欠損を検出しているため、工具に欠損及びチッピングのいずれが生じた場合であっても精度よく検出できる。
【0028】
また、上述したように、測定部で取得される電気量は、一つのワークピースの加工過程であっても変化し得る。本開示の加工物の製造方法は、一つのワークピースにおいて電気量が変化する場合であっても、第一のワークピースと第二のワークピースにおける電気量を比較する箇所が互いに対応する特定の箇所であることで、工具に生じたチッピングや欠損を精度よく検出できる。
【0029】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態の詳細を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0030】
<概要>
実施形態の加工システムでは、複数のワークピースを順に加工する。以下の説明では、加工システムによって順に加工する複数のワークピースについて、現在加工中のワークピースを第一のワークピースと呼ぶ。また、第一のワークピースよりも過去に加工されたワークピースであって、第一のワークピースの直近で加工されたワークピースを第二のワークピースと呼ぶ。また、第一のワークピースよりも過去に加工されたワークピースであって、新たな工具を用いて加工されたワークピースを第三のワークピースと呼ぶ。第一のワークピース、第二のワークピース、及び第三のワークピースは、同じ工具で加工される。実施形態の加工システムは、第一のワークピースの加工中に取得される第一の電気量と、第二のワークピースの加工中に取得された第二の電気量との第一の差分に基づいて、工具のチッピングや欠損を検出する点を特徴の一つとする。以下、まず加工システム、及び加工システムを用いた加工物の製造方法について説明し、その後に工具のチッピングや欠損を検出した具体例を説明する。
【0031】
<加工システム>
加工システム1Aは、図1に示すように、工具2と、モータ3と、測定部4と、制御部5とを備える。工具2は、ワークピース10を加工する。モータ3は、工具2又はワークピース10を回転させる。測定部4は、モータ3の電気量を取得する。制御部5は、モータ3を制御する。制御部5は、第一の電気量と第二の電気量との第一の差分に基づいて、モータ3の回転数を制御する第一制御部51を備える。第一制御部51によって、工具2に生じ得るチッピングや欠損を検出できる。
【0032】
本例の加工システム1Aでは、更に、制御部5は、第一の電気量と第三の電気量との第二の差分に基づいて、モータ3の回転数を制御する第二制御部52を備える。第三の電気量は、第三のワークピースの加工中に取得された電気量である。第二制御部52によって、工具2が経年劣化によって摩耗した場合にその摩耗を検出できる。
【0033】
≪ワークピース≫
第一のワークピース、第二のワークピース、及び第三のワークピースは、同一形状である。以下では、各ワークピースに共通する特徴を説明する場合は、単にワークピース10と呼ぶことがある。ワークピース10の材質、種類、及び形状は、特に限定されず、適宜選択できる。ワークピース10の材質は、代表的には、金属、樹脂、又はセラミックス等が挙げられる。金属としては、純鉄、鉄合金、又は非鉄金属が挙げられる。ワークピース10の種類は、例えば、圧粉成形体、焼結体、又は溶製材等が挙げられる。本例のワークピース10は、金属製の焼結体である。
【0034】
本例のワークピース10は、壁面11と底面12とで構成される凹部を有する。ワークピース10は、モータ3によって回転される。図1において、ワークピース10とモータ3とをつなぐ二点鎖線は、モータ3によって回転されるワークピース10の回転軸を仮想的に示している。ワークピース10は、この回転軸を中心に自転する。
【0035】
≪工具≫
工具2は、加工の種類に応じて適宜選択できる。本例の工具2は、刃先交換型のバイトである。工具2は、モータ3Aによって、図1の矢印に示すように、上下方向及び左右方向に移動する。本例では、凹部を有するワークピース10において、凹部内の壁面11及び底面12に対して工具2で仕上げ加工を行う例を説明する。また、本例では、ワークピース10をモータ3で回転させ、回転しているワークピース10に工具2を当てて加工を行う旋削加工の例を説明する。ワークピース10の回転及び工具2の移動によって、ワークピース10における凹部内の壁面11及び底面12に仕上げ加工が行われる。
【0036】
≪測定部≫
測定部4は、モータ3の駆動に用いる電気量を取得する。電気量は、モータ3の負荷電流であることが挙げられる。測定部4としては、例えば、電流センサが挙げられる。モータ3の負荷電流は、モータ3の負荷トルクに比例する。モータ3は、負荷トルクが大きくなると、負荷電流が大きくなり、負荷トルクが小さくなると、負荷電流が小さくなる。負荷トルクとは、モータ3に生じる抵抗に対して必要なトルクである。よって、モータ3の負荷トルクの推移を把握することで、工具2の加工抵抗を把握できる。工具2の加工抵抗を把握することで、工具2に生じ得るチッピングや欠損、及び摩耗を検出し易い。
【0037】
例えば、電気量がモータ3の負荷電流である場合、工具2におけるチッピングや欠損の有無によって、負荷電流の経時変化に以下の傾向が表れる。工具2にチッピングが生じると、工具2のチッピング箇所がワークピース10に接触して、加工抵抗が増加する。よって、工具2にチッピングが生じると、工具2の加工抵抗が増加することにより、モータ3の負荷トルクが増加し、モータ3の負荷電流も増加する。工具2に欠損が生じると、ワークピース10に対して非接触となる工具2の領域が多くなり、加工抵抗が減少する。よって、工具2に欠損が生じると、工具2の加工抵抗が減少することにより、モータ3の負荷トルクが減少し、モータ3の負荷電流も減少する。以上より、モータ3の負荷電流を測定することで、工具2に生じたチッピングや欠損を効率的に検出できる。なお、工具2における欠損やチッピングが生じる箇所は、刃先であることが多い。測定部4で取得したモータ3の負荷電流の推移、及びその負荷電流によって工具2のチッピングや欠損を検出した例は、後で詳述する。
【0038】
他に、電気量がモータ3の負荷電流である場合、工具2が摩耗すると、工具2の摩耗箇所がワークピース10に接触して、加工抵抗が増加する。よって、工具2に摩耗が生じると、工具2の加工抵抗が増加することにより、モータ3の負荷トルクが増加し、モータ3の負荷電流も増加する。ただし、工具2の摩耗による加工抵抗の増加の割合、及びモータ3の負荷電流の増加の割合は、工具2のチッピングによる加工抵抗の増加の割合、及びモータ3の負荷電流の増加の割合に比較して非常に小さい。そのため、モータ3の負荷電流を測定することで、工具2に生じたチッピングや欠損に加えて、摩耗も効率的に検出できる。
【0039】
≪制御部≫
制御部5は、第一制御部51を備える。第一制御部51は、工具2に生じ得るチッピングや欠損の検出結果に基づいて、モータ3の回転数を制御する。本例の制御部5は、更に、第二制御部52を備える。第二制御部52は、工具2に生じ得る摩耗の検出結果に基づいて、モータ3の回転数を制御する。
【0040】
制御部5には、例えばコンピュータを利用できる。コンピュータは、代表的にはプロセッサと記憶部とを備える。プロセッサは、例えばCPUである。記憶部は、プロセッサに実行させるための制御プログラムや、各種データが格納されている。制御部5は、記憶部に記憶された制御プログラムがプロセッサによって実行されることで動作される。
【0041】
〔第一制御部〕
第一制御部51は、第一演算部511と第一比較部512とを備える。第一演算部511及び第一比較部512によって、工具2にチッピングや欠損が生じているか否かを判定することができる。第一制御部51は、第一演算部511及び第一比較部512によって得られた第一の差分に基づいて、モータの回転数を制御する。
【0042】
第一制御部51は、第一の差分が第一閾値以上である場合に、モータ3の回転数を下げるようにモータ3に指令する。例えば、第一制御部51は、第一比較部512において第一の差分が第一閾値以上である場合に、モータ3の回転数をゼロとする、つまりモータ3の駆動を停止する。モータ3の駆動を停止したら、チッピング又は欠損が生じた工具2を、新たな工具に交換する。
【0043】
一方、第一制御部51は、第一の差分が第一閾値未満である場合、モータ3の回転数を下げる指令を行わない。そして、複数のワークピースを順に加工し、加工中のワークピースごとに第一制御部51の処理を繰り返し行う。
【0044】
以下、第一演算部511及び第一比較部512を詳しく説明する。
【0045】
(第一演算部)
第一演算部511は、第一の電気量と第二の電気量との第一の差分を演算する。第一の電気量は、第一のワークピースにおける特定の加工箇所にて測定部4で取得される電気量である。第二の電気量は、第二のワークピースにおける上記特定の加工箇所に対応する箇所の加工中に測定部4で取得された電気量である。第二の電気量は、チッピングや欠損を有さない工具2を用いて加工した際に取得された電気量である。なお、測定部4で取得される電気量には、測定値自体は勿論、その測定値から導かれる演算値も含む。演算値には、後述するように、測定値をフーリエ変換した値が挙げられる。
【0046】
第二の電気量は、第三記憶部63に記憶されている。第一の電気量は、一時記憶部60に記憶される。第一演算部511は、第一の電気量が一時記憶部60に記憶されると同時に、第一の電気量と第二の電気量との第一の差分を演算する。つまり、第一演算部511は、第一のワークピースの加工と並行して第一の差分を演算する。
【0047】
第二の電気量は、第一のワークピースの直前の第二のワークピースの加工中に取得された電気量を含むことが好ましい。例えば、第二の電気量は、第一のワークピースの直前の第二のワークピースの加工中に取得された電気量であることが挙げられる。また、第二の電気量は、第一のワークピースの直前の第二のワークピースから更に過去に加工された複数の第二のワークピースをそれぞれ加工した際に取得された電気量の平均値であることが挙げられる。複数の第二のワークピースにおける電気量の平均値を用いる場合、第一のワークピースの直前のワークピースを含む連続した第二のワークピースにおける電気量の平均値とすることが挙げられる。複数の第二のワークピースの個数としては、2個以上10個以下が挙げられる。
【0048】
なお、1個目のワークピースを加工する際は、予め測定された基準の電気量を用いて、第一の差分を演算する。基準の電気量は、チッピング及び欠損を有さない工具を用いて、ワークピース10における特定の加工箇所に対応する箇所を加工した際に取得された電気量である。
【0049】
測定部4で取得される電気量は、一つのワークピース10の加工過程であっても変化し得る。第一の電気量及び第二の電気量は、測定部4で取得される電気量のうち、互いに比較対象として用いる電気量である。そのため、第一の電気量及び第二の電気量は、第一のワークピース及び第二のワークピースにおける互いに対応する特定の加工箇所を加工している際に取得された電気量とする。上記特定の加工箇所は、第一のワークピース及び第二のワークピースにおいて、互いに対応する箇所であれば、特に限定されない。
【0050】
上記特定の加工箇所は、ワークピース10において、工具2によって連続的に加工される所定の範囲であることが好ましい。例えば、凹部を有するワークピース10では、工具2の刃部は、壁面11のみに作用する場合、底面12のみに作用する場合、及び壁面11及び底面12の双方に同時に作用する場合がある。壁面11及び底面12の双方に同時に工具2の刃部が作用するのは、壁面11と底面12とで構成される角部13を加工するからである。上記特定の加工箇所は、壁面11を構成する範囲としたり、底面12を構成する範囲としたり、角部13を構成する範囲としたりすることができる。
【0051】
特に、上記特定の加工箇所は、工具2による加工条件が変化する箇所であることが好ましい。工具2による加工条件とは、工具2の刃部の送り量、切り込み量、工具2又はワークピース10の回転数、送り方向、加工時間等が挙げられる。例えば、凹部を有するワークピース10では、上記特定の加工箇所は、角部13を構成する範囲であることが好ましい。角部13を加工する場合、工具2の刃部は、壁面11から底面12に向かって送り方向が変化する。このように送り方向が変化すると、工具2の刃部におけるワークピース10との接触箇所が変化する。具体的には、角部13を加工する場合、工具2の刃部は、壁面11及び底面12の双方に同時に作用する。よって、角部13を構成する範囲では、工具2の加工抵抗が増加する。例えば、測定部4で取得する電気量がモータ3の負荷電流である場合、図4及び図6に示すように、角部13での負荷電流が壁面11及び底面12での負荷電流に比較して大きくなるような波形を有する。図4及び図6に示すグラフの見方は、後述する。
【0052】
上述したように、一つのワークピース10の加工過程において、工具2による加工条件が変化する箇所では、測定部4で取得される電気量に特異な変化が生じる。その特異な変化に着目することで、第一のワークピース及び第二のワークピースにおける互いに対応する特定の加工箇所を設定し易い。また、凹部を有するワークピース10では、角部13を加工する際、上述したように、壁面11及び底面12の双方に工具2の刃部が同時に作用する。この場合、工具2におけるワークピース10との接触面積が大きくなるため、工具2の加工抵抗が大きくなり、測定部4で取得される電気量の変化も大きくなる。そうすると、相対的に工具2に生じたチッピングや欠損に起因する電気量の変化を検出し易く、工具2に生じたチッピングや欠損をより精度よく検出できる。凹部を有するワークピース10では、上記特定の加工箇所として、角部13を構成する範囲に加えて、壁面11を構成する範囲、及び底面12を構成する範囲を含むことが好ましい。そうすることで、角部13を構成する範囲において生じる特異な変化をより特定し易い。
【0053】
(第一比較部)
第一比較部512は、第一演算部511で得られた第一の差分と、第一閾値とを比較する。第一閾値は、予め設定された値である。第一閾値は、例えば、以下のように決定することができる。まず、チッピング及び欠損を有さない工具を用いて、ワークピース10における特定の加工箇所に対応する箇所を加工し、測定部で電気量を取得する。また、検出したいチッピング又は欠損が生じた工具を用いて、ワークピース10における特定の加工箇所に対応する箇所を加工し、測定部で電気量を取得する。それぞれ取得した電気量の差を算出し、この値を第一閾値とする。本例の第一閾値は、第一記憶部61に記憶されている。第一比較部512は、第一演算部511で第一の差分が演算されるとすぐに、その第一の差分と第一閾値とを比較する。
【0054】
第一比較部512は、第一の差分が第一閾値未満であれば、工具2にチッピングや欠損が生じていないと判定する。この場合、一時記憶部60に記憶した第一の電気量は、第三記憶部63に上書きされる。つまり、第一比較部512において、工具2にチッピングや欠損が生じていないと判定されれば、第一の電気量は、第一のワークピースよりも後に加工されるワークピースにおいて比較対象となる第二の電気量として用いられる。第二の電気量として、複数の第二のワークピースにおける電気量の平均値を用いる場合、一時記憶部60に記憶した第一の電気量を用いて再計算された平均値が、第三記憶部63に上書きされる。第三記憶部63への上書きは、第一の差分と第一閾値との比較後すぐに行ってもよいし、第一のワークピースの加工が全て終わった後に一括して行ってもよい。一方、第一比較部512は、第一の差分が第一閾値以上であれば、工具2にチッピング又は欠損が生じていると判定する。
【0055】
(チッピングや欠損を検出する処理手順)
図2を参照して、第一制御部51によって、工具2のチッピングや欠損を検出する処理手順を説明する。
【0056】
ステップS11では、第一のワークピースにおける特定の加工箇所にて測定部4で測定された第一の電気量を取得する。
ステップS12では、第一演算部511により、第一の電気量と第二の電気量との第一の差分を演算する。第二の電気量は、第三記憶部63から読み込まれる。
ステップS13では、第一比較部512により、第一の差分と第一閾値とを比較する。第一閾値は、第一記憶部61から読み込まれる。
ステップS13において、第一の差分が第一閾値未満である場合、ステップS14において、第一の電気量を第二の電気量として上書きする。上書きした第二の電気量は、第三記憶部63に記憶される。その後は、ステップS11からステップS13を繰り返す。
ステップS13において、第一の差分が第一閾値以上である場合、ステップS15において、モータ3の回転数をゼロとする、つまりモータ3の駆動を停止する。
【0057】
第一閾値として、複数の異なる値の閾値を設定することができる。例えば、第一閾値として、許容できるチッピングや欠損を検出するための中間の閾値と、許容できないチッピングや欠損を検出するための最終の閾値とを設定することができる。複数の閾値を設定すると、チッピング量や欠損量に基づいて、チッピングや欠損を多段階で検知することができる。そうすることで、工具2にチッピング又は欠損が生じていたとしても、モータ3の回転数を下げることで、生産性が劣るものの、加工を行うことができる場合がある。
【0058】
例えば、第一閾値として、上記中間の閾値と最終の閾値とを備える場合、第一制御部51は、以下の制御を行う。第一閾値には、中間の閾値が設定されている。第一比較部512において第一の差分が中間の閾値未満である場合、第一制御部51は、モータ3の回転数を下げる指令を行わない。そして、複数のワークピースが順に加工される際、加工中のワークピースごとに第一制御部51の処理を繰り返し行う。第一比較部512において第一の差分が中間の閾値以上である場合、第一制御部51は、モータ3の駆動を停止しない程度に、モータ3の回転数を下げる。モータ3の回転数を下げた場合、第一閾値として第一記憶部61の値を最終の閾値に上書きする。モータ3の回転数を下げた後は、複数のワークピースを順に加工する。そして、第一比較部512において第一の差分が最終の閾値未満である場合、第一制御部51は、モータ3の回転数を下げる指令を行わず、加工を繰り返す。第一比較部512において第一の差分が最終の閾値以上である場合、第一制御部51は、モータ3の回転数をゼロとする、つまりモータ3の駆動を停止する。
【0059】
〔第二制御部〕
第二制御部52は、第二演算部521と第二比較部522とを備える。第二演算部521及び第二比較部522によって、工具2に摩耗が生じているか否かを判定することができる。第二制御部52は、第二演算部521及び第二比較部522によって得られた第二の差分に基づいて、モータ3の回転数を制御する。
【0060】
第二制御部52は、第二の差分が第二閾値以上である場合に、モータ3の回転数を下げるようにモータ3に指令する。例えば、第二制御部52は、第二比較部522において第二の差分が第二閾値以上である場合に、モータ3の回転数をゼロとする、つまりモータ3の駆動を停止する。モータ3の駆動を停止したら、摩耗が生じた工具2を、新たな工具に交換する。
【0061】
一方、第二制御部52は、第二の差分が第二閾値未満である場合、モータ3の回転数を下げる指令を行わない。そして、複数のワークピースを順に加工し、加工中のワークピースごとに第二制御部52の処理を繰り返し行う。
【0062】
以下、第二演算部521及び第二比較部522を詳しく説明する。
【0063】
(第二演算部)
第二演算部521は、第一の電気量と第三の電気量との第二の差分を演算する。第三の電気量は、第三のワークピースにおける上記特定の加工箇所に対応する箇所の加工中に測定部4で取得された電気量である。第三の電気量は、新たな工具2を用いて加工した際に取得された電気量であり、チッピングや欠損を有さないことは勿論、摩耗も有さない工具を用いて加工した際に取得された電気量である。第三の電気量は、加工システム1Aを開始したときに取得できる。第三の電気量は、第四記憶部64に記憶されている。第二演算部521は、第一演算部511と同様に、第一の電気量が一時記憶部60に記憶されると同時に、第一の電気量と第三の電気量との第二の差分を演算する。つまり、第二演算部521は、第一のワークピースの加工と並行して第二の差分を演算する。
【0064】
第三の電気量は、新たな工具2を用いて、少ない数の第三のワークピースを加工したときに取得される物理量である。例えば、第三の電気量は、未使用の工具2を用いて初めて第三のワークピースを加工した際に取得された電気量であることが挙げられる。また、第三の電気量は、未使用の工具2を用いて1個目の第三のワークピースを加工した後、連続して複数の第三のワークピースを加工することで取得された電気量の平均値とすることが挙げられる。複数の第三のワークピースの個数としては、2個以上10個以下が挙げられる。ワークピースの加工数が10個以下であれば、それらのワークピースを加工した工具は、新たな工具とみなせる。
【0065】
上述したように、一つのワークピース10の加工過程において、工具2による加工条件が変化する箇所では、測定部4で取得される電気量に特異な変化が生じる。その特異な変化に着目することで、第一のワークピース及び第三のワークピースにおける互いに対応する特定の加工箇所を設定し易い。また、凹部を有するワークピース10では、角部13を加工する際、上述したように、壁面11及び底面12の双方に工具2の刃部が同時に作用する。この場合、工具2におけるワークピース10との接触面積が大きくなるため、工具2の加工抵抗が大きくなり、測定部4で取得される電気量の変化も大きくなる。そうすると、相対的に工具2に生じた摩耗に起因する電気量の変化を検出し易く、工具2の摩耗をより精度よく検出できる。
【0066】
(第二比較部)
第二比較部522は、第二演算部521で得られた第二の差分と、第二閾値とを比較する。第二閾値は、予め設定された値である。第二閾値は、例えば、以下のように決定することができる。まず、摩耗が生じていない工具を用いて、ワークピース10における特定の加工箇所に対応する箇所を加工し、測定部で電気量を取得する。また、工具2の寿命に近づいた摩耗量を有する工具を用いて、ワークピース10における特定の加工箇所に対応する箇所を加工し、測定部で電気量を取得する。それぞれ取得した電気量の差を算出し、この値を第二閾値とする。本例の第二閾値は、第二記憶部62に記憶されている。第二比較部522は、第二演算部521で第二の差分が演算されるとすぐに、その第二の差分と第二閾値とを比較する。
【0067】
第二比較部522は、第二の差分が第二閾値未満であれば、工具2に実質的に摩耗が生じていない、又は工具2の使用に伴う許容範囲内の微量の摩耗であると判定する。一方、第二比較部522は、第二の差分が第二閾値以上であれば、工具2に寿命に近づいた摩耗が生じていると判定する。
【0068】
〔摩耗を検出する処理手順〕
図3を参照して、第二制御部52によって、工具2の摩耗を検出する処理手順を説明する。
【0069】
ステップS21では、第一のワークピースにおける特定の加工箇所にて測定部4で測定された第一の電気量を取得する。
ステップS22では、第二演算部521により、第一の電気量と第三の電気量との第二の差分を演算する。第三の電気量は、第四記憶部64から読み込まれる。
ステップS23では、第二比較部522により、第二の差分と第二閾値とを比較する。第二閾値は、第二記憶部62から読み込まれる。
ステップS23において、第二の差分が第二閾値未満である場合、ステップS21からステップS23を繰り返す。
ステップS23において、第二の差分が第二閾値以上である場合、ステップS25において、モータ3の回転数をゼロとする、つまりモータ3の駆動を停止する。
【0070】
第二閾値として、複数の異なる値の閾値を設定することができる。例えば、第二閾値として、許容できる摩耗を検出するための中間の閾値と、許容できない摩耗を検出するための最終の閾値とを設定することができる。複数の閾値を設定すると、摩耗量に基づいて、摩耗を多段階で検知することができる。そうすることで、工具2に摩耗が生じていたとしても、モータ3の回転数を下げることで、生産性が劣るものの、加工を行うことができる場合がある。
【0071】
例えば、第二閾値として、上記中間の閾値と最終の閾値とを備える場合、第二制御部52は、以下の制御を行う。第二閾値には、中間の閾値が設定されている。第二比較部522において第二の差分が中間の閾値未満である場合、第二制御部52は、モータ3の回転数を下げる指令を行わない。そして、複数のワークピースが順に加工される際、加工中のワークピースごとに第二制御部52の処理を繰り返し行う。第二比較部522において第二の差分が中間の閾値以上である場合、第二制御部52は、モータ3の駆動を停止しない程度に、モータ3の回転数を下げる。モータ3の回転数を下げた場合、第二閾値として最終の閾値に上書きする。モータ3の回転数を下げた後は、複数のワークピースを順に加工する。そして、第二比較部522において第二の差分が最終の閾値未満である場合、第二制御部52は、モータ3の回転数を下げる指令を行わず、加工を繰り返す。第二比較部522において第二の差分が最終の閾値以上である場合、第二制御部52は、モータ3の回転数をゼロとする、つまりモータ3の駆動を停止する。
【0072】
なお、制御部5が第二制御部52を備える場合、第二の差分が第二閾値未満であっても、第一の差分が第一閾値以上であれば、モータ3の回転数を制御する。第一の差分が第一閾値以上である場合、モータ3の回転数をゼロとする、つまりモータ3の駆動を停止することが好ましい。
【0073】
他に、制御部5が第二制御部52を備える場合、第一の差分が第一閾値未満であっても、第二の差分が第二閾値以上であれば、モータ3の回転数を制御する。第二制御部は、工具2が経年劣化によって摩耗した場合の制御である。そのため、第二制御部では、第二の差分が第二閾値以上である場合、モータ3の駆動を停止することなく、モータ3の回転数を下げてもよい。
【0074】
<加工物の製造方法>
実施形態の加工物の製造方法は、下記工程を備える。
工程A:ワークピースを加工する工程。
工程B:第一の電気量と第二の電気量との第一の差分を取得する工程。
工程C:第一の差分に基づいて、モータの回転数を制御する工程。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0075】
≪工程A:加工する工程≫
加工する工程では、工具又はワークピースをモータで回転させ、かつモータの駆動に用いる電気量を測定部で測定しながら、ワークピースを加工する。モータの駆動に用いる電気量は、モータの負荷電流が挙げられる。
【0076】
≪工程B:第一の差分を取得する工程≫
第一の差分を取得する工程では、第一の電気量と第二の電気量との第一の差分を取得する。第一の電気量は、第一のワークピースにおける特定の加工箇所にて測定部で取得される電気量である。第二の電気量は、第二のワークピースにおける上記特定の加工箇所に対応する箇所の加工中に測定部で取得された電気量である。第一の差分を取得する工程は、第一のワークピースの加工と並行して行われる。
【0077】
≪工程C:モータの回転数を制御する工程≫
モータの回転数を制御する工程は、第一の差分に基づいて、モータの回転数を制御する。具体的には、第一の差分と第一閾値とを比較し、この比較結果に基づいて、モータの回転数を下げる。第一閾値は、工具にチッピングや欠損を有するか否かを判定する値である。第一の差分が第一閾値以上であれば、工具にチッピング又は欠損が生じていると判定できる。第一の差分が第一閾値以上である場合には、モータの回転数を下げる。例えば、第一の差分が第一閾値以上である場合に、モータの回転数をゼロとする、つまりモータの駆動を停止する。モータの駆動を停止したら、チッピング又は欠損が生じた工具を、新たな工具に交換する。一方、第一の差分が第一閾値未満であれば、工具にチッピングや欠損が生じていないと判定できる。第一の差分が第一閾値未満である場合には、モータの回転数を変えず、複数のワークピースの加工を順に繰り返す。そして、順に加工されるワークピースごとに工程Aから工程Cを繰り返し行う。
【0078】
他に、第一の差分が第一閾値以上である場合には、モータ3の駆動を停止しない程度に、モータの回転数を下げてもよい。工具にチッピング又は欠損が生じていたとしても、モータの回転数を下げることで、生産性が劣るものの、加工を行うことができる場合がある。この場合、モータの回転数を下げた後は、複数のワークピースの加工を順に繰り返す。
【0079】
第一の差分と第一閾値との比較は、第一の差分を取得するとすぐに行う。よって、工具にチッピング又は欠損が生じていれば、そのチッピング又は欠損を第一のワークピースの加工中にほぼリアルタイムに検知することができる。
【0080】
≪その他≫
加工物の製造方法は、更に、下記工程を備えてもよい。
工程D:第一の電気量と第三の電気量との第二の差分を取得する工程。
工程E:第二の差分に基づいて、モータの回転数を制御する工程。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0081】
≪工程D:第二の差分を取得する工程≫
第二の差分を取得する工程では、第一の電気量と第三の電気量との第二の差分を取得する。第三の電気量は、新たな工具を用いて、第三のワークピースにおける上記特定の加工箇所に対応する箇所の加工中に測定部で取得された電気量である。第二の差分を取得する工程は、第一のワークピースの加工と並行して行われる。
【0082】
≪工程E:モータの回転数を制御する工程≫
モータの回転数を制御する工程は、第二の差分に基づいて、モータの回転数を制御する。具体的には、第二の差分と第二閾値とを比較し、この比較結果に基づいて、モータの回転数を下げる。第二閾値は、工具に摩耗が生じているか否かを判定する値である。第二の差分が第二閾値以上であれば、工具に寿命に近づいた摩耗が生じていると判定できる。第二の差分が第二閾値以上である場合には、モータの回転数を下げる。例えば、第二の差分が第二閾値以上である場合に、モータの回転数をゼロとする、つまりモータの駆動を停止する。モータの駆動を停止したら、摩耗が生じた工具を、新たな工具に交換する。一方、第二の差分が第二閾値未満であれば、工具に経年劣化による摩耗が生じていたとしても許容範囲内であると判定できる。第二の差分が第二閾値未満である場合には、モータの回転数を変えず、複数のワークピースの加工を順に繰り返す。そして、順に加工されるワークピースごとに、工程Aから工程Cに加えて、工程D及び工程Eを繰り返し行う。
【0083】
他に、第二の差分が第二閾値以上である場合には、モータの駆動を停止しない程度に、モータの回転数を下げてもよい。工具に摩耗が生じていたとしても、モータの回転数を下げることで、生産性が劣るものの、加工を行うことができる場合がある。この場合、モータの回転数を下げた後は、複数のワークピースの加工を順に繰り返す。
【0084】
第二の差分と第二閾値との比較は、第二の差分を取得するとすぐに行う。よって、工具に許容範囲以上の摩耗が生じていれば、その摩耗を第一のワークピースの加工中にほぼリアルタイムに検知することができる。
【0085】
なお、工程D及び工程Eを備える場合、第二の差分が第二閾値未満であっても、第一の差分が第一閾値以上であれば、モータの回転数を制御する。第一の差分が第一閾値以上である場合、モータの回転数をゼロとする、つまりモータの駆動を停止することが好ましい。
【0086】
他に、工程D及び工程Eを備える場合、第一の差分が第一閾値未満であっても、第二の差分が第二閾値以上であれば、モータの回転数を制御する。工程D及び工程Eは、工具が経年劣化によって摩耗した場合に行う工程である。そのため、第二の差分が第二閾値以上である場合、モータの駆動を停止することなく、モータの回転数を下げてもよい。
【0087】
加工物の製造方法は、工程B及び工程Cの代わりに、工程D及び工程Eを行ってもよい。つまり、加工物の製造方法は、工程A、工程D、及び工程Eを順に行ってもよい。
【0088】
<工具のチッピングや欠損を検出した具体例>
上述した加工システム1Aによって、複数のワークピース10を連続して加工する中で、工具2に生じたチッピングや欠損を検出した具体例を以下に説明する。本例では、図1に示すように、凹部を有するワークピース10において、凹部内の壁面11及び底面12に対して工具2で仕上げ加工を行う過程で、工具2に生じたチッピングや欠損を検出した例を説明する。以下では、まず図4及び図5を参照して、工具2に生じた欠損を検出した例を説明し、その後に図6及び図7を参照して、工具2に生じたチッピングを検出した例を説明する。
【0089】
図4から図7では、第二のワークピースの加工中に測定部4で取得した第二の電気量に関する波形を実線で示し、第一のワークピースの加工中に測定部4で取得した第一の電気量に関するの波形を破線で示す。図4及び図6では、モータ3の電気量として、モータ3の負荷電流を測定した例を示す。以下では、第一のワークピースの加工中に測定部4で取得した第一の電気量を第一の負荷電流と呼ぶ。また、第二のワークピースの加工中に測定部4で取得した第二の電気量を第二の負荷電流と呼ぶ。図4及び図6では、横軸が時間であり、縦軸が負荷電流である。また、図4及び図6では、横軸において、壁面11を加工する領域と、底面12を加工する領域とに、それぞれ矢印を付している。両矢印が重なっている領域は、角部13を加工する領域である。角部13を加工する領域では、工具2の刃部は、壁面11及び底面12の双方に同時に作用する。図5では、図4に示すグラフをフーリエ変換した例を示す。また、図7では、図6に示すグラフをフーリエ変換した例を示す。よって、図5及び図7では、横軸が周波数であり、縦軸が振幅である。
【0090】
≪欠損を検出した例≫
本例のように、凹部内の壁面11及び底面12に対して工具2で仕上げ加工を行う場合、角部13を加工する際の加工抵抗が、壁面11のみ又は底面12のみを加工する際の加工抵抗よりも大きくなる。角部13を加工する領域では、工具2の刃部が、壁面11及び底面12の双方に同時に作用するからである。そのため、工具2にチッピング及び欠損が生じていないときに取得した第二の負荷電流に関する波形は、図4の実線で示すように、角部13を加工する際のモータ3の負荷電流の絶対値が、壁面11のみ又は底面12のみを加工する際のモータ3の負荷電流の絶対値よりも所定量だけ大きくなる。よって、角部13の波形に着目することで、第一のワークピース及び第二のワークピースにおける互いに対応する特定の加工箇所を設定し易い。
【0091】
第一の負荷電流に関する波形は、図4の破線で示すように、角部13での負荷電流の絶対値が、第二の負荷電流に関する波形の対応する箇所での負荷電流の絶対値よりも小さくなっている。つまり、角部13において、第一の負荷電流と第二の負荷電流とで第一の差分が生じる。第一の差分が第一閾値以上であれば、工具2に欠損が生じていると判定できる。図4に示すように、第一の負荷電流の絶対値が第二の負荷電流の絶対値よりも小さくなるのは、工具2の加工抵抗が減少することにより、モータ3の負荷トルクが減少したからと考えられる。工具2の加工抵抗が減少したのは、工具2に欠損が生じ、ワークピース10に対して非接触となる工具2の領域が多くなったからと考えられる。角部13では、上述したように、壁面11及び底面12の双方に工具2の刃部が同時に作用するため、モータ3の負荷電流の変化が顕著となる。
【0092】
以上より、第一の負荷電流と第二の負荷電流との第一の差分を取得し、第一の差分を第一閾値と比較することで、工具2に欠損が生じたことがわかる。具体的には、図4に示すように、第二の負荷電流の絶対値よりも第一の負荷電流の絶対値が小さくなれば、工具2に欠損が生じたことがわかる。
【0093】
図4に示すグラフをフーリエ変換すると、図5に示すように、30Hz近傍にピークを有する山形の波形のフーリエスペクトルとなる。モータ3の回転数と負荷電流の周波数とは比例関係にある。モータ3の回転数の単位はrpmである。フーリエスペクトルのピークの周波数は、モータ3の回転数によって変わる。本例におけるフーリエスペクトルのピークの周波数は一例である。なお、モータ3の回転数は、ワークピース10における加工面の面粗さや、サイクルタイムを考慮して決定される。第一のワークピースにおける波形は、第二のワークピースにおける波形に比較して、フーリエスペクトルのピークの裾に位置する領域のうち、ピークよりも周波数が小さい側の領域において、振幅が小さくなっている。つまり、上記領域において、第一のワークピースにおける振幅と第二のワークピースにおける振幅とで第一の差分が生じる。第一の差分が第一閾値以上であれば、工具2に欠損が生じていると判定できる。図5に示すように、上記領域において、第一のワークピースにおける振幅が第二のワークピースにおける振幅よりも小さくなるのは、工具2の加工抵抗が減少することにより、モータ3の負荷トルクが減少し、モータ3の回転数が低下することがなかったからと考えられる。工具2の加工抵抗が減少したのは、工具2に欠損が生じ、ワークピース10に対して非接触となる工具2の領域が多くなったからと考えられる。
【0094】
≪チッピングを検出した例≫
工具2にチッピング及び欠損が生じていないときに取得した第二の負荷電流に関する波形は、図6の実線で示すように、角部13を加工する際のモータ3の負荷電流の絶対値が、壁面11又は底面12を加工する際のモータ3の負荷電流の絶対値よりも所定量だけ大きくなる。図6に示す第二の負荷電流に関する波形と、図4に示す第二の負荷電流に関する波形とは、若干の測定誤差があるものの、実質的に同様とみなせる。なお、図6では、分かり易いように、第一の負荷電流に関する波形と第二の負荷電流に関する波形との取り込みタイミングをずらしている。この場合であっても、各波形の特異な変化に着目することで、第一の負荷電流と第二の負荷電流との比較は可能である。
【0095】
第一の負荷電流に関する波形は、図6の破線で示すように、角部13での負荷電流の絶対値が、第二の負荷電流に関する波形の対応する箇所での負荷電流の絶対値よりも大きくなっている。つまり、角部13において、第一の負荷電流と第二の負荷電流とで第一の差分が生じる。第一の差分が第一閾値以上であれば、工具2にチッピングが生じていると判定できる。図6に示すように、第一の負荷電流の絶対値が第二の負荷電流の絶対値よりも大きくなるのは、工具2の加工抵抗が増加することにより、モータ3の負荷トルクが増加したからと考えられる。工具2の加工抵抗が増加したのは、工具2にチッピングが生じ、工具2のチッピング箇所がワークピース10に接触したからと考えられる。角部13では、上述したように、壁面11及び底面12の双方に工具2の刃部が同時に作用するため、モータ3の負荷電流の変化が顕著となる。
【0096】
以上より、第一の負荷電流と第二の負荷電流との第一の差分を取得し、第一の差分を第一閾値と比較することで、工具2にチッピングが生じたことがわかる。具体的には、図6に示すように、第二の負荷電流の絶対値よりも第一の負荷電流の絶対値が大きくなれば、工具2にチッピングが生じたことがわかる。
【0097】
図6に示すグラフをフーリエ変換すると、図7に示すように、30Hz近傍にピークを有する山形の波形のフーリエスペクトルとなる。本例におけるフーリエスペクトルのピークの周波数は一例である。第一のワークピースにおける波形は、第二のワークピースにおける波形に比較して、フーリエスペクトルのピークの裾に位置する領域のうち、ピークよりも周波数が小さい側の領域において、振幅が大きくなっている。つまり、上記領域において、第一のワークピースにおける振幅と第二のワークピースにおける振幅とで第一の差分が生じる。第一の差分が第一閾値以上であれば、工具2にチッピングが生じていると判定できる。図7に示すように、上記領域において第一のワークピースにおける振幅が第二のワークピースにおける振幅よりも大きくなるのは、工具2の加工抵抗が増加することにより、モータ3の負荷トルクが増加し、モータ3の回転数が低下したからと考えられる。工具2の加工抵抗が増加したのは、工具2にチッピングが生じ、工具2のチッピング箇所がワークピース10に接触したからと考えられる。
【0098】
≪チッピング又は欠損の検出について≫
電流波形において、図4に示すように、第二の負荷電流に対して第一の負荷電流が小さくなれば、工具2に欠損が生じたことがわかる。また、電流波形において、図6に示すように、第二の負荷電流に対して第一の負荷電流が大きくなれば、工具2にチッピングが生じたことがわかる。つまり、第二の負荷電流に対する第一の負荷電流の大小を把握すれば、工具2に生じた損傷がチッピングなのか欠損なのかまでわかる。
【0099】
同様に、図5に示すように、フーリエスペクトルにおけるピークよりも周波数が小さい側の領域において、第二のワークピースにおける振幅に対して第一のワークピースにおける振幅が小さくなれば、工具2に欠損が生じたことがわかる。また、図7に示すように、フーリエスペクトルにおけるピークよりも周波数が小さい側の領域において、第二のワークピースにおける振幅に対して第一のワークピースにおける振幅が大きくなれば、工具2にチッピングが生じたことがわかる。つまり、第二のワークピースにおける振幅に対する第一のワークピースにおける振幅の大小を把握すれば、工具2に生じた損傷がチッピングなのか欠損なのかまでわかる。
【0100】
そこで、上述した第一演算部511において、第一の差分を演算する際に、第一の電気量と第二の電気量との大小関係を把握し、第一比較部において、第一の差分が第一閾値以上である場合、その大小関係を表示することが挙げられる。
【0101】
なお、工具2にチッピングや欠損が生じていなければ、第一の負荷電流に関する波形は、第二の負荷電流に関する波形と実質的に同様となる。つまり、工具2にチッピングや欠損が生じていなければ、第一の負荷電流と第二の負荷電流とにおいて、角部13での各負荷電流の第一の差分は、第一閾値未満となる。同様に、工具2にチッピングや欠損が生じていなければ、第一のワークピースにおけるフーリエスペクトルは、第二のワークピースにおけるフーリエスペクトルと実質的に同様となる。つまり、工具2にチッピングや欠損が生じていなければ、フーリエスペクトルのピークよりも周波数が小さい側の領域において、第一のワークピースにおける振幅と第二のワークピースにおける振幅との第一の差分は、第一閾値未満となる。
【0102】
<効果>
実施形態の加工システム1A及び加工物の製造方法は、第一の電気量と第二の電気量との第一の差分に基づいて、工具2のチッピングや欠損を検出できる。第二の電気量は、チッピングや欠損を有さない工具を用いて加工した際に取得された電気量である。よって、第二の電気量を用いて第一の差分を取得することで、工具2に生じ得るチッピングや欠損の有無がわかる。具体的には、第一の差分が第一閾値未満であれば、工具2にチッピングや欠損が生じていないことがわかる。一方、第一の差分が第一閾値以上であれば、工具2にチッピングや欠損が生じていることがわかる。上記加工システム1A及び加工物の製造方法では、第一の差分を第一閾値と比較している。そのため、工具2に欠損及びチッピングのいずれが生じた場合であっても精度よく検出できる。また、上記加工システム1A及び加工物の製造方法では、第一のワークピース及び第二のワークピースにおける互いに対応する特定の加工箇所での電気量を比較している。そのため、一つのワークピース10において電気量が変化する場合であっても、電気量を比較する箇所が同じ特定の箇所であることで、工具2に生じたチッピングや欠損を精度よく検出できる。上記加工システム1A及び加工物の製造方法は、加工時に測定部4で取得する電気量の変動幅が比較的大きい粗加工よりも、電気量の変動幅が比較的小さい仕上げ加工に好適に利用できる。
【0103】
実施形態の加工システム1A及び加工物の製造方法は、工具2に生じたチッピングや欠損を検知した場合、モータ3の回転数をゼロとする、つまりモータ3の駆動を停止する。そうすることで、適正な加工が行われていない不良品を製造し続けることを防止できる。
【0104】
実施形態の加工システム1A及び加工物の製造方法は、第一の電気量と第三の電気量との第二の差分に基づいて、工具2の経年劣化による摩耗を検出できる。第三の電気量は、新たな工具2を用いた第三のワークピースの加工中に測定部4で取得した電気量である。よって、第三の電気量を用いて第二の差分を取得することで、工具2に生じ得る摩耗の有無がわかる。具体的には、第二の差分が第二閾値未満であれば、工具2に経年劣化による摩耗が許容範囲内であることがわかる。一方、第二の差分が第二閾値以上であれば、工具2が寿命に近づいていることがわかる。よって、第二の差分が第二閾値以上である場合、モータ3の回転数を制御することで、加工精度に悪影響を及ぼすことを抑制できる。特に、第二の差分が第二閾値以上である場合、モータ3の回転数をゼロとする、つまりモータ3の駆動を停止することで、適正な加工が行われていない不良品を製造し続けることを防止できる。
【0105】
<変形例>
上述した実施形態において、以下の変更が可能である。
【0106】
(1)上述した実施形態では、回転しているワークピース10に工具2を当てて加工を行う旋削加工の例を説明した。それ以外に、図8に示す加工システム1Bのように、ワークピース10を回転させずに、モータ3で工具2を回転させて加工するミーリング加工にも好適に適用できる。図8において、工具2とモータ3とをつなぐ二点鎖線は、モータ3によって回転される工具2の回転軸を仮想的に示している。工具2は、この回転軸を中心に自転する。本例の工具2は、エンドミルである。工具2は、モータ3によって、図8の矢印に示すように、上下方向及び左右方向にも移動する。
【0107】
(2)上述した実施形態では、凹部を有するワークピース10において、凹部内の壁面11及び底面12に対して工具2で仕上げ加工を行う例を説明した。それ以外に、上記加工システム及び加工物の製造方法は、溝入れ加工を行う場合にも好適に利用できる。
【0108】
(3)上述した実施形態では、工具2として、刃先交換型のバイトを用いる例を説明した。それ以外に、工具2として、ドリル、サイドカッター、Tスロットカッター、エンドミル、ボブカッター等が挙げられる。
【符号の説明】
【0109】
1A、1B 加工システム
2 工具
3、3A モータ
4 測定部
5 制御部
51 第一制御部、52 第二制御部
511 第一演算部、521 第二演算部
512 第一比較部、522 第二比較部
60 一時記憶部
61 第一記憶部、62 第二記憶部、63 第三記憶部、64 第四記憶部
10 ワークピース
11 壁面、12 底面、13 角部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8