(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】移乗装置
(51)【国際特許分類】
A61G 7/14 20060101AFI20240401BHJP
A61G 7/12 20060101ALI20240401BHJP
A61G 5/14 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
A61G7/14
A61G7/12
A61G5/14
(21)【出願番号】P 2020080198
(22)【出願日】2020-04-30
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000245830
【氏名又は名称】矢崎化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174207
【氏名又は名称】筬島 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】村上 武康
(72)【発明者】
【氏名】古澤 繁
(72)【発明者】
【氏名】小林 啓教
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/111356(WO,A1)
【文献】特開2013-078482(JP,A)
【文献】特開2017-047091(JP,A)
【文献】米国特許第05001789(US,A)
【文献】国際公開第2017/009946(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 7/14
A61G 7/12
A61G 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
要介護者の立ち上がり動作、座る動作を補助して移乗するための
移乗装置であって、本体アームと上肢保持部及び伸縮機構を備
え、
前記本体アームは、ベース部に傾動中心軸が備えられ、前記傾動中心軸を中心に傾動可能に前記ベース部に連結して起立され、
前記上肢保持部は、前記本体アームの上端近傍位置に設けられた上肢保持部回動軸に回動可能に連結され、
前記ベース部の前側に起立連結部が立設されており、前記伸縮機構は、
傾斜状態で下端が
前記ベース部の前記本体アームから前側方向に突き出して、
前記起立連結部の連結軸に回動可能に連結され
ていると共に、前記伸縮機構の上端が前記上肢保持部回動軸より前側方向にずらした位置で穿設された前記本体アームのガイド穴に沿って移動するガイド軸に回動可能に連結され、
且つ前記上肢保持部回動軸より前側方向にずらした位置で前記ガイド軸が前記上肢保持部に連結されて成り、
前記伸縮機構の動作で、前記本体アームのガイド軸は前記ガイド穴に沿って移動すると共に、前記上肢保持部が上肢保持部回動軸を中心に回動して起き上がる又は元位置に復帰する構成であることを特徴とする移乗装置。
【請求項2】
前記伸縮機構の縮む動作により前記ガイド軸が前記ガイド穴に沿って移動して、前記ガイド軸が前記ガイド穴の下端部に到達すると前記伸縮機構の更なる縮む動作により、前記本体アームが前記傾動中心軸を中心に傾動
し、又は
前記本体アームが傾動している状態で、前記伸縮機構の伸ばす動作により、前記本体アームが起立状態の元位置に復帰する構成であることを特徴とする、請求項1に記載した移乗装置。
【請求項3】
足乗せ板が、前記本体アームの下端部から後方に突出すると共に、
前記本体アームの起立時に前記ベース部より低く且つ床面から僅か上方
のできる限り低い位置に設けられ、
前記本体アームが傾動しない状態で足を乗せ易く構成されていると共に、前記本体アームの傾動動作に応じて
一体で傾動する構成であることを特徴とする、請求項1又は2に記載した移乗装置。
【請求項4】
前記上肢保持部は、要介護者の上肢を保持する一対の保持アーム
を備え、前記保持アームの前方に備わる保持板に保持アーム固定具が設けられ、前記保持アームは、その底面外周近くの一点で前記保持アーム固定具に回動可能に留められ、且つ前記保持アームは、前記保持アーム固定具から所定の回動半径で前記保持板上に左右方向に穿設された、ガイド穴の中を移動するガイド具でも留められており、前記保持アーム固定具を中心に前記ガイド穴に沿って回動する前記ガイド具の移動で、前記一対の保持アームの間隔を調節可能に構成されていること特徴とする、請求項1~3のいずれか一に記載した移乗装置。
【請求項5】
前記本体アームには、要介護者の膝を当接して保持可能な膝当て部と、前記要介護者が前方で把持可能な把持部が設置されていることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一に記載した移乗装置。
【請求項6】
移乗装置の後部に、対象物に対する移乗装置の後部側を位置決めするための位置決め具が設置されていることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一に記載した移乗装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立ち・座りができないか、又はそうした動作が苦手な高齢者や要介護者、障がい者など(以下、総称して要介護者ともいう。)が、ベッドからの移乗、トイレへの移動、便器への移乗や、その逆の便器からの移乗、ベッドへの移動、ベッドへの移乗等を行うことを補助する移乗装置の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
移乗装置に関し、例えば下記特許文献1に係る再表2018/105034公報には、
支持構造体と、受入れ姿勢から持上げ姿勢へ変位することで使用者の身体を持ち上げる持上げ動作と、前記持上げ姿勢から前記受入れ姿勢へ変位することで前記使用者の身体を下ろすための降下動作と、を実行する持上げ機構と、を備え、前記持上げ機構は、前記支持構造体に対して第1揺動軸を中心に揺動可能な支持アームと、前記支持アームに対して第2揺動軸を中心に揺動可能であり前記使用者の上体を支持する上体支持部と、前記支持アームを前記第1揺動軸を中心に揺動させる第1揺動機構と、前記上体支持部を前記第2揺動軸を中心に揺動させる第2揺動機構と、を備え、前記持上げ機構が前記受入れ姿勢にあるとき、前記上体支持部は直立姿勢とされる移乗装置が記載されている(同文献1の請求項1参照)。
また、下記特許文献2に係る特許第6317146号公報には、移動可能な本体部と、被介護者が着座可能な座面部と、前記座面部を前記本体部に着脱可能に連結する連結部と、前記座面部を前記本体部に対して昇降させることが可能な昇降部材と、を具備し、前記本体部は、前記座面部に着座した前記被介護者の上半身を保持可能な上半身保持部と、前記座面部に着座した前記被介護者の膝を保持可能な膝保持部と、前記上半身保持部及び前記膝保持部、並びに当該本体部に連結された前記座面部を一体的に傾斜させることが可能な傾動部と、を具備し、前記連結部は、前記本体部に昇降可能に設けられると共に、前記座面部を受ける受け部材を具備し、前記昇降部材は、前記本体部に対して昇降可能に設けられ、昇降することで前記座面部と当接して前記座面部を前記受け部材に保持し、前記座面部と当接した状態で昇降することで前記座面部を昇降させる、移乗支援装置が記載されている(同文献2の請求項1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】再表2018/105034公報
【文献】特許第6317146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の再表2018/105034公報に記載の移乗装置や、特許文献2の特許第6317146号公報に記載の移乗支援装置は、持ち上げ動作と揺動動作(傾動動作)が別機構になっているため、構造が複雑で動作制御が不可欠である。しかも、装置の製造コストの高騰が余儀なくされる上、電気的制御が必要ゆえに壊れる要素が多い、といった問題点があり、これらの点が解決すべき課題になっている。
【0005】
したがって、本発明の主たる目的は、上記の課題を鑑みてなされたもので、持ち上げ動作と傾動動作を一本の伸縮機構(シリンダー)の機械的要素で行えるシンプルな構造とし、その一本の伸縮機構の縮む動作だけで、持ち上げ動作と傾動動作を連続的に行えて、要介護者を起こす動作が完了し、反対方向の座る動作は伸縮機構を伸ばす動作だけで実現することである。
また、要介護者が足を乗せ易いように足乗せ板を可及的に低くし、傾動動作で一緒に足乗せ板を傾動させ、要介護者が上肢保持部に体を預けやすくする。さらに、保持アームを保持アーム回動軸を中心に回動させ、その間隔を要介護者に合わせて調整自在で使い勝手に優れた移乗装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明は、要介護者Mの立ち上がり動作、座る動作を補助して移乗するための移乗装置であって、本体アーム1と上肢保持部2及び伸縮機構3を備え、
前記本体アーム1は、ベース部4に傾動中心軸10が備えられ、前記傾動中心軸10を中心に傾動可能に前記ベース部4に連結して起立され、
前記上肢保持部2は、前記本体アーム1の上端近傍位置に設けられた上肢保持部回動軸11に回動可能に連結され、
前記ベース部4の前側Pに起立連結部46が立設されており、前記伸縮機構3は、傾斜状態で下端が前記ベース部4の前記本体アーム1から前側P方向に突き出して、前記起立連結部46の連結軸31に回動可能に連結されていると共に、前記伸縮機構3の上端が前記上肢保持部回動軸11より前側P方向にずらした位置で穿設された前記本体アーム1のガイド穴12に沿って移動するガイド軸30に回動可能に連結され、
且つ前記上肢保持部回動軸11より前側P方向にずらした位置で前記ガイド軸30が前記上肢保持部2に連結されて成り、
前記伸縮機構3の動作で、前記本体アーム1のガイド軸30は前記ガイド穴12に沿って移動すると共に、前記上肢保持部2が上肢保持部回動軸11を中心に回動して起き上がる又は元位置に復帰する構成であることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した移乗装置において、前記伸縮機構3の縮む動作により前記ガイド軸30が前記ガイド穴12に沿って移動して、前記ガイド軸30が前記ガイド穴12の下端部に到達すると前記伸縮機構3の更なる縮む動作により、前記本体アーム1が前記傾動中心軸10を中心に傾動し、又は前記本体アーム1が傾動している状態で、前記伸縮機構3の伸ばす動作により、前記本体アーム1が起立状態の元位置に復帰する構成であることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載した発明は、請求項1又は2に記載した移乗装置において、足乗せ板5が、前記本体アーム1の下端部から後方に突出すると共に、前記本体アーム1の起立時に前記ベース部4より低く且つ床面9から僅か上方のできる限り低い位置に設けられ、前記本体アーム1が傾動しない状態で足を乗せ易く構成されていると共に、前記本体アームの傾動動作に応じて一体で傾動する構成であることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載した発明は、請求項1~3のいずれか一に記載した移乗装置において、前記上肢保持部2は、要介護者Mの上肢Kを保持する一対の保持アーム20、20を備え、前記保持アーム20の前方に備わる保持板21に保持アーム固定具22が設けられ、前記保持アーム20は、その底面外周近くの一点で前記保持アーム固定具22に回動可能に留められ、且つ前記保持アーム20は、前記保持アーム固定具22から所定の回動半径で前記保持板21上に左右方向に穿設された、ガイド穴23の中を移動するガイド具22aでも留められており、前記保持アーム固定具22を中心に前記ガイド穴23に沿って回動する前記ガイド具22aの移動で、前記一対の保持アーム20、20の間隔を調節可能に構成されていること特徴とする。
【0010】
請求項5に記載した発明は、請求項1~4のいずれか一に記載した移乗装置において、前記本体アーム1には、要介護者Mの膝Nを当接して保持可能な膝当て部6と、前記要介護者Mが前方で把持可能な把持部7が設置されていることを特徴とする。
請求項6に記載した発明は、請求項1~5のいずれか一に記載した移乗装置において、移乗装置の後部に、対象物に対する移乗装置の後部側を位置決めするための位置決め具が設置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の移乗装置は、持ち上げ動作と傾動動作を、一本の伸縮機構(電動シリンダー)によるシンプルな構造で完成させたので、部品構成を単純化出来、壊れにくくて耐久性に富む上、安価な製作に寄与する。しかも、前記一本の伸縮機構の縮む動作だけで、持ち上げ動作と傾動動作を連続して行って要介護者を起こす動作が完了し、反対方向の座る動作では、伸縮機構を伸ばす動作だけで達成して、シンプルな構成でシンプルな操作での移乗を実現した。その上、その位置から持ち上がりながら前傾姿勢に移るため、要介護者のお尻の位置がずり動かずに、持ち上げられ、座らせる事が可能である。
また、足乗せ板が本体アームの下端部から後方に突出すると共に、ベース部より低く且つ床面から僅か上方位置に設けて足を乗せ易くして、前記本体アームの傾動動作と一緒に傾動する構成とし、要介護者が足を乗せて、膝当て部と一緒に力を掛け易くして体が安定すると共に、本体アームの上肢保持部に体を預けやすくして、要介護者に安心感を与える。
さらに、一対の保持アームが保持アーム固定具を中心に左右方向(
図9で紙面に垂直方向)で拡幅または挟幅方向へ回動し、保持アームの間隔を要介護者に合わせて調整できる使い勝手にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】伸縮機構が収縮された傾動動作時の移乗装置の全体構成を示した斜視図である。
【
図2】スタンバイ状態の移乗装置を斜め後方から示した上方斜視図である。
【
図3】移乗装置の主要部品を分解して示した斜視図である。
【
図4】
図3の分解状態を斜め前方から示した斜視図である。
【
図5】移乗装置のスタンバイ状態の上部構造を示した斜視図である。
【
図6】
図1の移乗装置の上部構造を示した斜視図である。
【
図7】Aは移乗装置を示した平面図、Bは同側面図、Cは同背面図である。
【
図8】Aは移乗装置のスタンバイ状態の下部構造を示した斜視図、Bは伸縮機構の収縮により本体アームが傾動した状態の下部構造を示した斜視図である。
【
図9】移乗装置による利用者(要介護者)姿勢で、Aは利用者が座った姿勢の移乗装置へのスタンバイ状態を示した説明図、BはAの利用者の上肢を起して持ち上げた状態を示した説明図、Cは本体アームが傾動してBの利用者を持ち上げて傾動した状態を示した説明図である。
【
図10】A、Bの各対象物に対する位置決め具(C)を示した使用説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る移乗装置の実施形態を、以下図面にしたがって説明する。
この移乗装置は、
図9に示したような要介護者Mの立ち上がり動作、座る動作を補助して移乗するために、基本的構成としてベース部4に起立する本体アーム1と、上肢保持部2及び伸縮機構3を備えている。
ベース部4は、板状の後半部が後述の足乗せ板5が上下方向に傾動する動きが出来るように開口スペース44がある平面方向視コ字状に形成されている。前記開口スペース44を除く前半部上に左右一対の起立連結部13、13が立設されており、その左右一対の起立連結部13、13の間隔は、後述する本体アーム1の下端が嵌る間隔に設定されている(
図3)。また、その各起立連結部13の前後には通孔13a、13bがそれぞれ穿設されている。
なお、このベース部4の前端には、剛性確保を兼ねて折り曲げた、前記開口スペース44より一段高い面4aが形成されており、そこには段差を乗り越え易い大きな車輪40が付き、それより低い面のその後端と中央部には、小さな車輪41、42が取り付けられていて、この移乗装置を必要な場所に持って行き易くしている。
そして、要介護者Mがこの移乗装置に乗り込む場合等に、不用意に車輪が動いてしまわないように、車輪40、40間の中央にストッパー43が取り付けられている。符号45または符号45’は、移載装置のベース部4の後部が、ベッド(対象物)下の隙間に入り込み過ぎず、移乗装置の後部が所定位置で止まり、要介護者Mのアキレス腱付近がベッドの角で摺れないようにする、または便器(対象物)の前部に当接させて、便器に対し介護者Mのお尻位置を位置決めするための位置決め具を示している。
【0014】
本体アーム1は、
図1~
図4に示したように、略垂直状に起立する垂直部1aと、つづいて同垂直部1aの上端から後方に水平状に左右一対に突き出た水平部1bとで全体形状が倒立L字状に形成されている。前記本体アーム1の垂直部1aの下端部の前方が、前記ベース部4の前記起立連結部13に設け左右一対の前記通孔13a、13aに挿通して備わる傾動中心軸10で軸支され、前記本体アーム1の下端部が左右一対の前記起立連結部13間に嵌って、その傾動中心軸10を中心に傾動可能に前記ベース部4に連結して起立されている(
図8参照)。
と共に、前記本体アーム1の垂直部1aの下端部の後方には、前方に中心をなしてその回動半径の軌跡に沿った円弧状のガイド穴14が穿設されており、一対の前記起立連結部13、13の後方の通孔13bに挿通された傾動規制軸15に軸支され、前記傾動中心軸10を中心に傾動する当該本体アーム1(垂直部1a)の傾動を所定角度(本実施例では約25°程度)で規制する構成となっている(
図7B参照)。
前記本体アーム1の上端近傍位置をなす左右一対の水平部1b、1bの後方部には、
図5に示したように左右一対の水平部1b、1b間にまたがって上肢保持部回動軸11が挿通して設けられており、上肢保持部2が、この上肢保持部回動軸11に回動可能に連結されている(
図6参照)。また、前記本体アーム1の左右一対の水平部1b、1bの前方部には、それより後方側に位置する前記上肢保持部回動軸11を中心とする回動半径の軌跡に沿った円弧状のガイド穴12が、左右一対の水平部1b、1bに穿設されている。
【0015】
図5、
図6が分かり易いが、上肢保持部2は、保持板21と前記保持板21の両端から後方側に突き出す左右一対の保持アーム20、20と、該保持アーム20、20間に位置する胸当てクッション24と、前記保持板21の前側の中央部に設けた連結部25と、この連結部25に一端側が嵌り込んで連結し、他端側が前記本体アーム1の左右一対の水平部1b、1b間に差し込まれる左右一対の連結片26、26とで構成される。
前記保持板21は、前記本体アーム4の水平部1b、1bの後方部近傍に位置し、左右方向に渡した保持板21の両端21a近傍は、前側P方向に向かって所定角度で屈曲しており、その両端21a上から突き出す左右一対の前記保持アーム20、20なので、左右方向に先端が広がって突き出している。
また、
前記保持アーム20の前方に備わる保持板21に保持アーム固定具22が設けられ、前記保持アーム20の底面20aは、その底面外周近くの一点を保持アーム固定具22で回動可能に留められ、かつ前記保持板21上に左右方向に穿設された、所定の回動半径の軌跡に沿ったガイド穴23の中を移動するガイド具22aでも留められており、そこに突き出す前記保持アーム20は、前記保持アーム固定具22を中心にガイド穴23の穴に沿って回動するガイド具22aの移動で、一対の前記保持アーム20、20の間隔を拡幅または挟幅方向へ変えられ、左右方向に位置した一対の前記保持アーム20、20の間隔を調節可能に構成し、前記ガイド具22aを留めれば、その位置で保持アーム20が固定される。
そして、前記連結部25と前記左右一対の連結片26、26の一端側との連結は、前記連結部25の側面に本体アーム1の高さ方向に並ぶ複数の固定穴25aのいずれかに、前記連結片26に通される位置決めピン27を通して位置決めし、前記固定穴25aを適宜選択することで、上肢保持部2の前記保持アーム20の床からの高さ位置を調節可能になっている。
また、前記左右一対の連結片26、26の他端への途中位置で上肢保持部回動軸11が挿通し、更に前記左右一対の連結片26、26の他端近傍位置に前記ガイド軸30が挿通している。
【0016】
伸縮機構3は、本実施形態の場合、電動シリンダーで構成されている。前記ベース部4の前側の一段高い面4aには左右一対の起立連結部46、46が立設されている。そして、この電動シリンダー3は、下端をなす一端3aが傾斜状態で上述した本体アーム1から前側P方向に突き出して、前記一対の起立連結部46、46に穿設された通孔46a、46aに挿通された連結軸31により、前記ベース部4の前側の一段高い面4a上で回動可能に連結されている。一方、前記電動シリンダー3の上端をなす他端3bは、本体アーム1の水平部1bに設けた前記上肢保持部回動軸11の位置より前側P方向に穿設された前記本体アーム1の前記ガイド穴12に沿って移動するガイド軸30に回動可能に連結されている。と共に、前記左右一対の水平部1b、1b間に差し込まれ、前記上肢保持部回動軸11を中点に回動可能な前記上肢保持部2の左右一対の連結片26、26の他端側の間にも、前記ガイド軸30が挿通していて、前記電動シリンダー3の他端3bには前記上肢保持部2も連結している。
よって、一本の前記電動シリンダー3の駆動だけで、持ち上げ動作と傾動動作を連続に発生して、要介護者Mを持ち上げ動作が完了でき、反対方向の要介護者Mを座らせる動作は、一本の電動シリンダー3を伸ばす方向の駆動だけで実現できる。
【0017】
すなわち、電動シリンダー3を縮ませると、前記ガイド軸30が円弧状の前記ガイド穴12に沿って下降し、それに伴って上肢保持部2が起き上がり、前記上肢保持部2が角度50°に起き上がると、前記ガイド軸30が前記ガイド穴12の下端に到達し、更に電動シリンダー3が縮むと、前記ガイド軸30を引っ張る力は本体アーム1の方へ伝達し、今度は、本体アーム1が、前記傾動中心軸10を中心に円弧状のガイド穴14で規制されながら、最終的にガイド穴14の上端の角度25°迄傾き、前側P方向へ傾動する。
そこから反対に電動シリンダー3を伸ばすと、本体アーム1は後方に動いて傾きが戻り、本体アーム1が起立状態に復帰する。
更に電動シリンダー3を伸ばすと、前記ガイド軸30を押す力は、円弧状の前記ガイド穴12で逃げ、本体アーム1の方には力が掛からなくなるので、前記ガイド軸30がガイド穴12に沿ってその下端から上端に移動し、それに伴って上肢保持部2が水平状態に元の位置に復帰する。
ゆえに、一本の電動シリンダー3の動作が、前記上肢保持部2が上肢保持部回動軸11を中心に回動して要介護者Mを起こす(持ち上げる)又は元位置に復帰させるし、本体アーム1が前記傾動中心軸10を中心に傾動して、要介護者Mを傾動させる又は元位置に復帰させる構成を実現している。
なお、この電動シリンダー3は、モーター9によって伸縮自在であると共に、介護者は、操作盤8の操作ボタンの起きるボタン、座るボタンのどちらかを押せば、要介護者Mを起こす動作か、要介護者Mを座らせる動作が好適に実施される。
【0018】
上述した本体アーム1の垂直部1aの下端には、
図9に示したように、要介護者Mの足が乗る足乗せ板5が、その取付部5aを本体アーム1の垂直部1aの外周に嵌め込み、ボルトで固定されて設置されており、前記ベース板4の後方の開口スペース44に配設する形で、当該足乗せ板5が本体アーム1の下端部から後方に突出している(
図1、
図2)。
また、この足乗せ板5は、
図9A、Bに示したように、
本体アーム1の起立時に前記ベース部4より低く且つ床面9から僅か上方のできる限り低い位置に設けられ、要介護者Mが足を乗せ易くして、前記本体アーム1の傾動動作と一体で傾動するように構成されている(
図9C、
図1)。
また、
図3、
図9に示したように、前記本体アーム1の垂直部1aの中段位置に設置された取付板16は、差し込み管16aを有し、要介護者Mの膝Nを当接して保持可能な膝当て部6が、その差し込み部6bの先端にピン6aで、上下に回動可能に簡単に首を振る状態で取付けられており、前記差し込み部6bの他端を、前記差し込み管16aに差し込んで、前記差し込み管16aの穴と差し込み部6b上に設けられた目的の穴位置とを合わせたら、その差し込み管16aの外周から固定具6cを貫通させ、かつ取付板16に当接させて嵌め込み、前記本体アーム1に取付けている。
さらに、本体アーム1の垂直部1aの先端(前方)位置に設置された取付板17に、前記要介護者Mが前方で把持可能な把持部7が設置されている。
【0019】
上述した当該移乗装置の使用方法について説明する。
予め、上肢保持部2の保持アーム20、20の間隔は、利用者である要介護者Mの体の幅に合わせておくと共に、膝当て部6の上下位置も合わせておく。
図2と
図7に示したスタンバイ状態時の移乗装置を、要介護者Mが腰掛けた状態の対象物のベッドや車椅子の所に移動して行く。その時、移乗装置のベース4の後部の位置決め具45をベッドの前面に当接させれば、ベース4の後部が対象物のベッド下の隙間に入り込み過ぎないように、移乗装置が位置決めされる(
図10参照)。
また、
図10の(B)、(C)のように、対象物の便器の前側に、膝当て部6に設けた位置決め具45’を当接させれば、要介護者Mのお尻の位置は、対象物に対して一定になる。
次に、
図9Aに示したように、足乗せ板5へ、座っている要介護者Mに足を乗させながら、把持部7に同要介護者Mの手を掛けさせ、膝Nを膝当て部6に当接させて、同要介護者Mが、移乗装置の上肢保持部2の保持アーム20、20の間に上肢K(胸)を入れるようにして、移乗装置に乗る体勢をつくる。
【0020】
そうして、介護者が、電動シリンダー3が収縮する方向の操作盤8の起きるボタンを押し続けると、
図9Bのように、上肢保持部2が起き上がることによって、要介護者Mの上肢Kを持ち上げる動作につづいて、本体アーム1による傾動動作により、
図9Cのように、要介護者Mを持ち上げる動作が連続して行われる。かくして、要介護者Mの体(上肢K)が前かがみに移乗装置に体が預けられた状態で当該移乗装置により目的の場所(トイレ等)に移動させる。そして、電動シリンダー3の伸びる方向の座るボタンを押し、要介護者を下し、座らせる(
図9C→
図9B→
図9A参照)。
このように、操作が、操作盤8の操作ボタン2つだけで行うシンプルさであるので、年配の要介護者Mに対して、やさしい操作性を実現した。
【0021】
なお、上肢保持部2の保持アーム20の床からの高さ位置も、保持板21の連結部25aの差し込みピン位置を変えれば調節可能である(
図4、
図5参照)し、膝当て部6は、膝の角度に合わせて前後に首を振り、その上、差込み部6bにある穴位置をかえてピンを差せば、突き出す前後に調節ができ、要介護者Mに合わせた調節が可能である(
図3、
図4参照)。
また、一対の保持アーム20、20は、奥に向って先に行くと少し間隔が狭まるように突き出しており、保持アーム20クッション性及び胸当てクッション24とも相まって要介護者Mの上肢Kがすっぽりと固定されるようになっている上、一対の保持アーム20、20の間隔も微調整ができる(
図5~
図7参照)。
【0022】
以上、実施例を図面に基づいて説明したが、本発明は、図示例の限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために言及する。
【符号の説明】
【0023】
M 要介護者
K 上肢
N 膝
1 本体アーム
10 傾動中心軸
11 上肢保持部回動軸
12 ガイド穴
2 上肢保持部
20 保持アーム
21 保持板
22 保持アーム回動軸
23 ガイド穴
3 伸縮機構(電動シリンダー)
3a 一端
3b 他端
30 ガイド軸
31 連結軸
4 ベース部
46 起立連結部
46a 通孔
5 足乗せ板
6 膝当て部
7 把持部
8 操作盤
P 前側