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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】エンドトキシン吸着剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/26 20060101AFI20240401BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20240401BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20240401BHJP
   C08B 37/16 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
B01J20/26 G
B01J20/28 A
B01J20/30
C08B37/16
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020083257
(22)【出願日】2020-05-11
(65)【公開番号】P2021178270
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂田 眞砂代
(72)【発明者】
【氏名】北村 武大
(72)【発明者】
【氏名】森田 祐子
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/018524(WO,A1)
【文献】特開2016-049527(JP,A)
【文献】Masayo Sakata,Sho Kinoshita, Natsumi Hagio,γ-cyclodextrin-immobilized cellulose adsorbent for removal of endotoxin,The 12th SPSJ International Polymer Conference,日本,2018年,446
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/26
B01J 20/28
B01J 20/30
C08B 37/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース担体と、前記セルロース担体に結合したシクロデキストリンと、を備えるエンドトキシン吸着剤であって、アミノ基を有する前記セルロース担体にカルボキシ基を有する前記シクロデキストリンが前記アミノ基と前記カルボキシ基とからなるアミド結合を介して結合され、残存する前記アミノ基がマスキングされた、エンドトキシン吸着剤。
【請求項2】
前記アミノ基を有する前記セルロース担体が、カルボキシ基を有するセルロース担体に多価アミンを反応させてなる、請求項1に記載のエンドトキシン吸着剤。
【請求項3】
前記セルロース担体が粒子状セルロースである、請求項1又は2に記載のエンドトキシン吸着剤。
【請求項4】
前記セルロース担体が繊維状セルロースである、請求項1又は2に記載のエンドトキシン吸着剤。
【請求項5】
前記繊維状セルロースの平均繊維径が10nm未満である、請求項4に記載のエンドトキシン吸着剤。
【請求項6】
前記マスキングが前記アミノ基のアシル化である、請求項1~5のいずれか1項に記載のエンドトキシン吸着剤。
【請求項7】
アミノ基を有するセルロース担体にカルボキシ基を有するシクロデキストリンを前記アミノ基と前記カルボキシ基とからなるアミド結合を介して結合させる工程と、
前記シクロデキストリンが結合した前記セルロース担体における残存する前記アミノ基をマスキング剤でマスキングする工程と、
を含む、エンドトキシン吸着剤の製造方法。
【請求項8】
カルボキシ基を有するセルロース担体に多価アミンを反応させることにより前記アミノ基を有する前記セルロース担体を得る工程を含む、請求項7に記載のエンドトキシン吸着剤の製造方法。
【請求項9】
前記セルロース担体に前記シクロデキストリンを結合させる工程において、前記カルボキシ基を有する前記シクロデキストリンを、活性エステル化法を用いて前記セルロース担体の前記アミノ基に対して反応させることで、前記アミド結合を介して前記セルロース担体に結合させる、請求項7又は8に記載のエンドトキシン吸着剤の製造方法。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか1項に記載のエンドトキシン吸着剤と、エンドトキシンを含有する液体とを接触させることを含む、エンドトキシンの除去された液体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドトキシン吸着剤及びその製造方法、並びにエンドトキシン吸着剤を利用した液体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンドトキシンは、グラム陰性菌の細胞壁を構成するリポ多糖(リポポリサッカライド:LPS)であり、疎水性部分である脂質(リピドA)と親水性部分である多糖とが結合した構造を有する。リピドAが毒性の原因部分であり、微量でもエンドトキシンが血中などの生体内に取り込まれると発熱などの生体反応を引き起こす。そのため、ワクチンや血液製剤などの注射用液中に微量に残存しているエンドトキシンを除去することが求められている。
【0003】
エンドトキシンを除去するための吸着剤として、例えばポリ(ε-リジン)固定化セルロース粒子等のカチオン性のエンドトキシン吸着剤が知られている。かかるカチオン性のエンドトキシン吸着剤は、エンドトキシンの構造中のリン酸基とイオン的相互作用を引き起こすカチオン基(例えばアミノ基)を有しており、核酸や酸性タンパク質等の酸性物質とのイオン的相互作用も同時に引き起こす。そのため、エンドトキシンの選択吸着能に劣っており、酸性物質の共存下でエンドトキシンを選択的に除去するのは困難である。従って、エンドトキシンを選択的に除去可能な吸着剤が求められている。
【0004】
エンドトキシンを選択的に除去可能な吸着剤として、例えば、エンドトキシンを選択的に捕捉可能なシクロデキストリンをセルロースやポリマー等の固体担体に固定化したものが知られている(特許文献1,2参照)。また、アミノ基を有するセルロースナノファイバーをエンドトキシン吸着剤として用いることが知られている(特許文献3参照)。更に、塩化トシルを用いてアミノ化したシクロデキストリンをエポキシ基が導入されたセルロース担体に反応させて固定化し、固定化後に残存するアミノ基をアセチル化によりマスキングしたエンドトキシン吸着剤が知られている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2009-502905号公報
【文献】特開2016-049527号公報
【文献】国際公開第2017/018524号
【非特許文献】
【0006】
【文献】木之下聖、他4名、「エンドトキシン分離剤としてのシクロデキストリン修飾セルロース吸着剤の設計」、第65回高分子学会年次大会予稿集、Polymer Preprints, Japan Vol. 65, No.1, 3Pa095, 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の実施形態は、高い選択性及び吸着性を有するエンドトキシン吸着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係るエンドトキシン吸着剤は、セルロース担体と、前記セルロース担体に結合したシクロデキストリンと、を備えるエンドトキシン吸着剤であって、アミノ基を有する前記セルロース担体にカルボキシ基を有する前記シクロデキストリンが前記アミノ基と前記カルボキシ基とからなるアミド結合を介して結合され、残存する前記アミノ基がマスキングされたものである。
【0009】
本発明の実施形態に係るエンドトキシン吸着剤の製造方法は、アミノ基を有するセルロース担体にカルボキシ基を有するシクロデキストリンを前記アミノ基と前記カルボキシ基とからなるアミド結合を介して結合させる工程と、前記シクロデキストリンが結合した前記セルロース担体における残存する前記アミノ基をマスキング剤でマスキングする工程と、を含む。
【0010】
上記実施形態において、前記アミノ基を有する前記セルロース担体は、カルボキシ基を有するセルロース担体に多価アミンを反応させてなるものでもよい。
【0011】
上記実施形態においては、前記セルロース担体が粒子状セルロースでもよく、繊維状セルロースでもよい。また、前記繊維状セルロースは、平均繊維径10nm未満の微細繊維状セルロースでもよい。
【0012】
上記実施形態においては、前記マスキングが前記アミノ基のアシル化であってもよい。
【0013】
上記実施形態に係る製造方法は、カルボキシ基を有するセルロース担体に多価アミンを反応させることにより前記アミノ基を有する前記セルロース担体を得る工程を含んでもよい。
【0014】
上記実施形態に係る製造方法においては、前記セルロース担体に前記シクロデキストリンを結合させる工程において、前記カルボキシ基を有する前記シクロデキストリンを、活性エステル化法を用いて前記セルロース担体の前記アミノ基に対して反応させることで、前記アミド結合を介して前記セルロース担体に結合させてもよい。
【0015】
本発明の実施形態に係るエンドトキシンの除去された液体の製造方法は、上記エンドトキシン吸着剤と、エンドトキシンを含有する液体とを接触させることを含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明の実施形態であると、高い選択性及び吸着性を有するエンドトキシン吸着剤を提供することができる。そのため、例えば核酸や酸性タンパク質等の酸性物質の共存下でもエンドトキシンを選択的に分離・除去することができ、酸性物質等の目的物質を含みかつエンドトキシンの除去された液体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】シクロデキストリンにカルボキシ基を導入する工程の一例を示す図
図2】セルロース担体にアミノ基を導入する工程の一例を示す図
図3】アミノ基を有するセルロース担体にカルボキシ基を有するシクロデキストリンを結合させる工程の一例を示す図
図4】残存アミノ基をマスキングする工程の一例を示す図
図5】(A)は実施例2,(B)は比較例7についての、LPSを含むDNA水溶液からのLPS選択吸着能に及ぼすイオン強度の影響を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施形態に係るエンドトキシン吸着剤は、セルロース担体と、該セルロース担体に結合したシクロデキストリンとを備える。
【0019】
[セルロース担体]
セルロース担体は、シクロデキストリンを保持可能なセルロースからなる担体である。セルロース担体の形状としては、特に限定されず、繊維状、粒子状、シート状などが挙げられる。
【0020】
一実施形態において、セルロース担体は粒子状セルロースでもよい。粒子状セルロースとしては、例えば球状セルロース粒子でもよく、市販品として例えばJNC株式会社製の「セルファイン」が挙げられる。粒子状セルロースの平均粒径は、特に限定されず、例えば1~1000μmでもよく、10~500μmでもよく、20~200μmでもよく、50~150μmでもよい。
【0021】
本明細書において、平均粒径とは、レーザー回折・散乱法によって得られた粒度分布における積算値50%での粒径をいう。
【0022】
一実施形態において、セルロース担体は繊維状セルロースでもよい。繊維状セルロースとしては、解繊処理によりミクロフィブリル化した微細繊維状セルロースが好ましく用いられる。微細繊維状セルロースとしては、例えば、平均繊維径が1000nm未満であるセルロースナノファイバーを用いることが好ましい。微細繊維状セルロースの平均繊維径は、500nm以下であることが好ましく、より好ましくは100nm以下であり、更に好ましくは30nm以下であり、特に好ましくは10nm未満である。平均繊維径の小さい微細繊維状セルロースを用いることにより、比表面積を高めて、エンドトキシンの吸着率を高めることができる。微細繊維状セルロースの平均繊維径の下限は特に限定されないが、基本となるセルロースミクロフィブリルの幅が3nm程度であるため、通常は3nm以上である。
【0023】
微細繊維状セルロースとしては、天然セルロース繊維の結晶形であるセルロースI型結晶構造を有するものが好ましく用いられる。微細繊維状セルロースがI型結晶構造を有することは、例えば、広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2θ=14°~17°付近と、2θ=22°~23°付近の2つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
【0024】
ここで、微細繊維状セルロースの平均繊維径は、次のようにして測定することができる。すなわち、固形分率で0.05~0.1質量%の微細繊維状セルロースの水分散体を調製し、その水分散体を、親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストして、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察用試料とする。なお、大きな繊維径の繊維を含む場合には、ガラス上へキャストした表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を観察してもよい。また、観察用試料は、例えば2%ウラニルアセテートでネガティブ染色してもよい。そして、構成する繊維の大きさに応じて5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。その際に、得られた画像内に縦横任意の画像幅の軸を想定し、その軸に対し、20本以上の繊維が交差するよう、試料および観察条件(倍率等)を調節する。そして、この条件を満たす観察画像を得た後、この画像に対し、1枚の画像当たり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交錯する繊維の繊維径を目視で読み取っていく。このようにして、最低3枚の重複しない表面部分の画像を、電子顕微鏡で撮影し、各々2つの軸に交錯する繊維の繊維径の値を読み取る(したがって、最低20本×2×3=120本の繊維径の情報が得られる)。このようにして得られた繊維径の相加平均を平均繊維径とする。
【0025】
微細繊維状セルロースの平均アスペクト比は、特に限定されず、例えば2~5000でもよく、また、50~1000以上でもよく、100~500でもよい。
【0026】
ここで、微細繊維状セルロースの平均アスペクト比は、次のようにして測定することができる。すなわち、先に述べた方法に従い平均繊維径を算出する。また、同様の観察画像から微細繊維状セルロースの平均繊維長を算出する。詳細には、繊維の始点から終点までの長さ(繊維長)を最低10本目視で読み取る。このようにして得られた繊維長の相加平均を算出し、平均繊維長とする。そして、これらの値を用いて平均アスペクト比を下記式に従い算出する。
平均アスペクト比=平均繊維長(nm)/平均繊維径(nm)
【0027】
セルロース担体としては、アミノ基を有するセルロース担体が用いられる。アミノ基としては、一級アミノ基(-NH)が好ましい。アミノ基は、セルロース担体にシクロデキストリンを結合させるためにセルロース担体に導入されるものであり、シクロデキストリンのカルボキシ基と反応してアミド結合を形成する。このようにアミノ基はシクロデキストリンとの間で結合を形成するものであり、また結合を形成せずに残存するアミノ基も後述するようにマスキングされるため、マスキング後のシクロデキストリン固定化セルロース担体にはアミノ基は存在しなくてもよい。なお、一部のアミノ基がマスキングされずに残存してもよい。
【0028】
アミノ基を有するセルロース担体としては、例えば、(ア)カルボキシ基を有するセルロース担体に多価アミンを反応させてなるもの、(イ)セルロース担体の水酸基を活性化して多価アミンと反応させてなるもの、(ウ)エポキシ基供与体のグラフト反応によりセルロース担体に導入したエポキシ基に多価アミンを反応させてなるものが挙げられる。これらの中でも、(ア)の実施形態が好ましく、カルボキシ基を有するセルロース担体に多価アミンを反応させることで、セルロース担体にはアミド結合を介してアミノ基が導入される。なお、セルロース担体へのアミノ基の導入方法については、多価アミンの説明も含めて後述する。
【0029】
上記(ア)の実施形態において、カルボキシ基を有するセルロース担体としては、セルロース分子中のグルコースユニットの水酸基を酸化してなる酸化セルロースや、セルロース分子中のグルコースユニットの水酸基をカルボキシメチル化してなるカルボキシメチル化セルロースなどが挙げられる。
【0030】
なお、本明細書において、カルボキシ基は、酸型(-COOH)だけでなく、塩型、即ちカルボン酸塩基(-COOX、ここでXはカルボン酸と塩を形成する陽イオン)も含む概念であり、酸型と塩型が混在してもよい。塩としては、特に限定されず、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。
【0031】
好ましい実施形態において、カルボキシ基を有するセルロース担体としては、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてカルボキシ基に変性された酸化セルロースナノファイバーが挙げられる。該酸化セルロースナノファイバーは、木材パルプなどの天然セルロースをN-オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化させ、解繊(微細化)処理することにより得られる。N-オキシル化合物としては、一般に酸化触媒として用いられるニトロキシラジカルを有する化合物が用いられ、例えばピペリジンニトロキシオキシラジカルであり、特に2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)または4-アセトアミド-TEMPOが好ましい。TEMPOで酸化されたセルロースナノファイバーは、一般にTEMPO酸化セルロースナノファイバー(TOCN)と称されている。
【0032】
[シクロデキストリン]
シクロデキストリン(CyD)は、5~12個のD-グルコースがα-1,4グリコシド結合により結合した環状オリゴ糖である。シクロデキストリンは、円錐台状の筒型構造を有し、その外側が親水性で、内側が疎水性である。そのため、シクロデキストリンは、その疎水性の内部空洞に、エンドトキシンのリピドAの疎水性部分であるアルキル2本鎖を包接することで、エンドトキシンを捕捉する。一方、DNA等の核酸や酸性タンパク質は一般に小さくとも2nm以上であるため、シクロデキストリンの内部空洞には入らない。そのため、エンドトキシンを選択的に捕捉することができる。
【0033】
シクロデキストリンとしては、例えば、グルコースが6個結合したα-シクロデキストリン(α-CyD。空洞径:0.5~0.6nm)、グルコースが7個結合したβ-シクロデキストリン(β-CyD。空洞径:0.7~0.8nm)、グルコースが8個結合したγ-シクロデキストリン(γ-CyD。空洞径:0.9~1.0nm)が挙げられる。これらの中でもエンドトキシンの疎水性部分が入り込みやすいことから、γ-シクロデキストリンが好ましい。
【0034】
シクロデキストリンとしては、カルボキシ基を有するものが用いられる。カルボキシ基は、シクロデキストリンをセルロース担体に接合させるために導入されるものであり、セルロース担体のアミノ基と反応してアミド結合を形成する。このようにカルボキシ基はシクロデキストリンとの間で結合を形成するために導入されるものであるため、セルロース担体への結合後にはカルボキシ基は存在しなくてもよい。
【0035】
カルボキシ基を有するシクロデキストリンとしては、シクロデキストリンが本来有する水酸基をカルボキシメチル化してなるカルボキシメチル化シクロデキストリンが好ましく用いられる。その場合、シクロデキストリン分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基がカルボキシメチル化されたものが好ましい。カルボキシ基の導入量はシクロデキストリン1分子当たり1つ以上であればよく、通常は1つ導入すればよい。
【0036】
[エンドトキシン吸着剤]
本実施形態に係るエンドトキシン吸着剤は、上記セルロース担体に上記シクロデキストリンが、セルロース担体の持つアミノ基とシクロデキストリンの持つカルボキシ基との反応により生じるアミド結合を介して結合され、更に残存するアミノ基がマスキングされたものである。シクロデキストリンがアミド結合を介してセルロース担体に導入されたことにより、アミド結合を持たないものに比べてエンドトキシンの吸着率を高めることができる。また、同吸着剤表面のシクロデキストリンの空孔内にエンドトキシンを捕捉することにより、エンドトキシンを選択的に吸着できる。さらに、同吸着剤は、イオン性相互作用により吸着能を発揮する残存アミノ基がマスキングされていることにより、試料溶液中のDNAおよびタンパク質等の夾雑物をイオン性吸着することなく、エンドトキシンの選択吸着能を更に高めることができる。
【0037】
本実施形態に係るエンドトキシン吸着剤において、シクロデキストリンの含有量は、所望のエンドトキシン吸着能が得られる限り、特に限定されない。例えば、吸着剤1gあたりで0.05~0.7mmol/gでもよく、0.15~0.6mmol/gでもよい。
【0038】
本実施形態に係るエンドトキシン吸着剤において、マスキング後におけるアミノ基の含有量(即ち、マスキングされずに残存するアミノ基の含有量)は特に限定されないが、アニオン交換容量(AEC)として、1.0meq/g以下であることが好ましく、より好ましくは0.5meq/g以下であり、更に好ましくは0.2meq/g以下である。エンドトキシンの選択吸着能を高めるためにはイオン性相互作用による吸着をできるだけ少なくすることが好ましく、そのため、アミノ基の含有量はできるだけ少ないことが好ましい。
【0039】
セルロース担体に導入された全アミノ基を100モル%として、そのうちシクロデキストリンが結合したアミノ基の比率は、100モル%未満であれば特に限定されず、例えば40~90モル%でもよく、50~80モル%でもよい。また、該全アミノ基のうち、マスキング剤によりマスキングされたアミノ基の比率は0モル%よりも多ければ特に限定されず、例えば5~60モル%でもよく、15~45モル%でもよい。
【0040】
[エンドトキシン吸着剤の製造方法]
本実施形態に係るエンドトキシン吸着剤の製造方法は、アミノ基を有するセルロース担体にカルボキシ基を有するシクロデキストリンをアミド結合を介して結合させる工程と、得られたシクロデキストリン結合セルロース担体における残存するアミノ基をマスキングする工程と、を含む。詳細には、アミノ基を有するセルロース担体の調製工程とカルボキシ基を有するシクロデキストリンの調製工程も含めて、次の工程を含むことが好ましい。
【0041】
・工程1:シクロデキストリンにカルボキシ基を導入する工程
・工程2:セルロース担体にアミノ基を導入する工程
・工程3:セルロース担体にシクロデキストリンを結合させる工程
・工程4:残存するアミノ基をマスキングする工程
【0042】
工程1では、シクロデキストリンにカルボキシ基を導入することにより、カルボキシ基を有するシクロデキストリンを得る。カルボキシ基の導入方法は、特に限定されず、例えば、シクロデキストリンが本来有する水酸基をカルボキシメチル化してもよい。カルボキシメチル化する方法としては、シクロデキストリンをアルカリ水溶液に溶解させて、モノクロロ酢酸やモノブロモ酢酸などのハロ酢酸と反応させる方法が挙げられる。
【0043】
図1は、その一例として、γ-シクロデキストリンをモノクロロ酢酸と反応させてカルボキシメチル化シクロデキストリン(CM-CyD)を得る工程を示したものである。
【0044】
工程2では、セルロース担体にアミノ基を導入することにより、アミノ基を有するセルロース担体を得る。なお、工程1と工程2の順序は逆でもよい。アミノ基の導入方法は、特に限定されず、例えば、(ア)カルボキシ基を有するセルロース担体に多価アミンを反応させる方法でもよく、(イ)セルロース担体の水酸基を活性化した後、多価アミンと反応させる方法でもよく、(ウ)エポキシ基供与体のグラフト反応によりセルロース担体にエポキシ基を導入した後、該エポキシ基に多価アミンを反応させる方法でもよい。
【0045】
多価アミンとは、2つ以上のアミノ基を有するアミンである。多価アミンとしては、例えば、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルジシクロヘキシルメタン、ジアミンシクロヘキサン、イソホロンジアミン等の脂環族ジアミン、フェニレンジアミン、ジアミノナフタレン、キシリレンジアミン等の芳香族ジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、トリス(2-アミノエチル)アミン、トリス(3-アミノプロピル)アミン等の3価以上の脂肪族アミン、メラミン等の3価以上の芳香族アミン、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等のアミノ基を有するポリマーが挙げられる。これらはいずれか1種で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0046】
上記(イ)の方法において、水酸基を活性化させる方法としては、例えば、エピクロロヒドリン、p-トルエンスルホン酸クロリド、2-フルオロ-1-メチルピリジニウム等の活性化剤を用いる方法が挙げられる。
【0047】
上記(ウ)の方法において、エポキシ基供与体としては、例えば、メタクリル酸グリシジルやアクリル酸グリシジル等が挙げられる。
【0048】
好ましくは上記(ア)の方法である。その場合、カルボキシ基を有するセルロース担体と多価アミンとを直接反応させてもよいが、反応性を高めるために活性エステル化法を用いることが好ましい。すなわち、カルボキシ基を有するセルロース担体のカルボキシ基を、活性エステル化法を用いて多価アミンのアミノ基と反応させることにより、アミド結合を介してアミノ基を導入することが好ましい。
【0049】
活性エステル化法では、セルロース担体のカルボキシ基を活性化剤と縮合剤で活性化し、次いで活性化されたセルロース担体と多価アミンを縮合させることにより、セルロース担体にアミノ基が導入される。活性化エステル法における活性化および縮合は、適当な液体媒体中で実施することができる。液体媒体としては、例えば、水、水性緩衝液、有機溶媒が挙げられる。
【0050】
活性化剤としては、例えば、N-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)、N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸イミド(HONB)等のN-ヒドロキシ多価カルボン酸イミド類、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)等のN-ヒドロキシトリアゾール類、3-ヒドロキシ-4-オキソ-3,4-ジヒドロ-1,2,3-ベンゾトリアジン(HOOBt)等のN-ヒドロキシトリアジン類、2-ヒドロキシイミノ-2-シアノ酢酸エチルエステル、ペンタフルオロフェノールが挙げられる。
【0051】
縮合剤としては、例えば、ジイソプロピルカルボジイミド(DIPC)、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド(EDAC)、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDAC・HCl)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)等のカルボジイミド系縮合剤が挙げられる。
【0052】
カルボキシ基を有するセルロース担体に多価アミンを反応させてアミノ基を導入する場合、セルロース担体に存在する全てのカルボキシ基に対してアミノ基を導入してもよく、一部のカルボキシ基に対してアミノ基を導入してもよい。但し、カルボキシ基が残存すると、カチオン基を持つ塩基性物質に対してイオン的相互作用による吸着性を発揮することが考えられるため、残存カルボキシ基は少ない方が好ましい。エンドトキシン吸着剤における残存カルボキシ基の量は特に限定されないが、カチオン交換容量(CEC)として、0.5meq/g以下であることが好ましい。
【0053】
カチオン交換容量は、逆滴定および順滴定により測定される。詳細には、試料を精秤後三角フラスコに入れ、0.1mol/Lの塩酸をpHが2.5になるように試料溶液を撹拌しながら加える。溶液が白濁したのを確認したら遠心分離機で30分、14000rpmで遠心する。上澄みとゲルをデカンテーションで分離し、上澄みを0.05mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液でフェノールフタレインを指示薬として滴定し、下記式によりCEC(カチオン交換容量)を算出する。
CEC(meq/g)=(0.1×fa×Va-0.05×fb×Vb)÷W
fa:使用した塩酸のファクター
fb:使用した水酸化ナトリウム水溶液のファクター
Va:塩酸の滴下量(ml)
Vb:水酸化ナトリウムの滴定量(mL)
W:試料の乾燥質量(g)
【0054】
図2は、工程2の一例を示したものであり、セルロース担体としてTEMPO酸化セルロースナノファイバー(TOCN)を用いて、TOCNを緩衝液中に分散させ、TOCNのカルボキシ基にEDAC・HClを反応させ、更にNHSを反応させてカルボキシ基を活性エステル化する。これに多価アミンとしてエチレンジアミン(EDA)を添加し反応させることにより、アミド結合を介してアミノ化されたTOCN(EDA-TOCN)を得ることができる。あるいはまた、活性エステル化したセルロース担体に多価アミンとしてポリアリルアミン(PAA)を添加し反応させることにより、アミド結合を介してアミノ化されたTOCN(PAA-TOCN)を得ることができる。
【0055】
工程3では、アミノ基を有するセルロース担体に、カルボキシ基を有するシクロデキストリンを、アミノ基とカルボキシ基との反応により生じるアミド結合を介して結合(即ち、固定化)させる。これによりシクロデキストリンが固定化されたセルロース担体が得られる。
【0056】
工程3においては、アミノ基を有するセルロース担体とカルボキシ基を有するシクロデキストリンを直接反応させてもよいが、反応性を高めるために活性エステル化法を用いることが好ましい。すなわち、カルボキシ基を有するシクロデキストリンを、活性エステル化法を用いてセルロース担体のアミノ基に対して反応させることにより、アミド結合を介してセルロース担体に結合させることが好ましい。活性エステル化法では、シクロデキストリンのカルボキシ基を活性化剤と縮合剤で活性化し、次いで活性化されたシクロデキストリンとアミノ基を有するセルロース担体とを縮合させることにより、セルロース担体にアミド結合を介してシクロデキストリンが導入される。活性エステル化法を実施する際の液体媒体、活性化剤および縮合剤の具体例などは、工程2で上述したとおりである。
【0057】
工程3において、アミノ基を有するセルロース担体に対するカルボキシ基を有するシクロデキストリンの使用量は、所望のエンドトキシン吸着能が得られる限り、特に限定されない。例えば、アミノ基を有するセルロース担体100質量部に対して、カルボキシ基を有するシクロデキストリンを100~10000質量部用いてもよく、250~8000質量部用いても良く、500~7000質量部用いてもよい。
【0058】
工程3においてセルロース担体にシクロデキストリンを結合させた段階(即ち、工程4のマスキング前)でのアミノ基含有量は、特に限定されず、アニオン交換容量(AEC)として、例えば0.001~2.0meq/gでもよく、0.01~1.0meq/gでもよく、0.1~0.5meq/gでもよい。
【0059】
図3は、工程3の一例を示したものであり、CM-CyDのカルボキシ基にEDAC・HClを反応させ、更にNHSを反応させてカルボキシ基を活性エステル化する。これにEDA-TOCNを反応させることにより、CM-CyDのカルボキシ基とEDA-TOCNのアミノ基との反応により生じるアミド結合を介してCyDがTOCNに結合した結合体(CyD-EDA-TOCN)が得られる。あるいはまた、活性エステル化したCM-CyDにPAA-TOCNを反応させることにより、CM-CyDのカルボキシ基とPAA-TOCNのアミノ基との反応により生じるアミド結合を介してCyDがTOCNに結合した結合体(CyD-PAA-TOCN)が得られる。
【0060】
工程4では、シクロデキストリンが結合したセルロース担体における残存するアミノ基をマスキング剤でマスキングする。シクロデキストリンが結合せずに残存しているアミノ基をマスキングすることにより、残存アミノ基がイオン的相互作用により核酸や酸性タンパク質などの酸性物質を吸着してエンドトキシンの選択吸着能が低下することを抑制することができる。
【0061】
マスキング剤としては、アミノ基をマスキングすることができれば、特に限定されないが、アミノ基をアセチル化などのアシル化することができるアシル化剤を用いることができる。アシル化剤としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸などのカルボン酸無水物、塩化アセチルなどのカルボン酸ハロゲン化物などが挙げられる。好ましくは、無水酢酸を用いてアミノ基をアセチル化することである。
【0062】
マスキング剤の使用量は、特に限定されないが、シクロデキストリンが結合したセルロース担体における残存アミノ基の物質量(mol)以上の物質量で用いることが好ましい。なお、残存アミノ基を全てマスキングすることが好ましいが、全てのアミノ基をマスキングすることは困難であるため、本発明において残存するアミノ基がマスキングされたという場合、一部のアミノ基がマスキングされずに残存する場合も含まれる。
【0063】
図4は、工程4の一例を示したものであり、図4(A)では上記CyD-EDA-TOCNを無水酢酸でマスキングしている。多価アミンとしてEDAのように2価アミンを用いる場合、CyDが結合した2価アミンには残存アミノ基はなく、CyDが結合していない2価アミンにアミノ基が残存している。そのため、該残存アミノ基(-NH)を無水酢酸によりアセチル化(-NH-COCH)する。
【0064】
図4(B)は、上記CyD-PAA-TOCNを無水酢酸でマスキングする工程を示している。多価アミンとしてPAAのように3価以上のアミンを用いる場合、アミノ基は、CyDが結合していない多価アミンだけでなく、CyDが結合した多価アミンにも残存する場合がある。そのため、CyDが結合していない多価アミンの残存アミノ基だけでなく、CyDが結合した多価アミンに残存するアミノ基もマスキングされ得る。図4(B)では、後者、即ちCyDが結合した多価アミンに残存するアミノ基が無水酢酸によりアセチル化された構造を示している。
【0065】
[エンドトキシン吸着剤の利用]
本実施形態に係るエンドトキシン吸着剤は、エンドトキシンを除去するために用いることができる。エンドトキシン吸着剤と、エンドトキシンを含有する液体とを接触させることにより、エンドトキシンがエンドトキシン吸着剤に吸着されるので、エンドトキシンの除去された液体が得られる。そのため、一実施形態に係るエンドトキシンの除去された液体の製造方法は、本実施形態に係るエンドトキシン吸着剤と、エンドトキシンを含有する液体(以下、エンドトキシン含有液という。)とを接触させることを含む。
【0066】
エンドトキシンの除去された液体としては、例えば、エンドトキシンを除去することが求められるワクチンや血液製剤などの注射用液をはじめとする各種医療用液が挙げられる。そのため、処理対象とするエンドトキシン含有液には、エンドトキシンの他に、医療用液として含有されるべき目的物質が通常含まれる。よって、エンドトキシンの除去された液体の製造方法によれば、エンドトキシンの除去された目的物質を含有する液体が得られる。
【0067】
目的物質としては、特に限定されず、例えば、注射用液等の医療用液に含まれる有効成分が挙げられる。本実施形態では、酸性物質の共存下でエンドトキシンを選択的に除去することができるため、処理対象とするエンドトキシン含有液中でアニオン基(例えば、カルボキシル基、硫酸基、リン酸基等の酸性基)を有する物質を目的物質として含むことが好ましい。かかる酸性基を有する酸性物質としては、タンパク質、ペプチド、ホルモン、多糖類、核酸、脂質、ビタミンが挙げられる。例えば、酸性アミノ酸残基を含む酸性タンパク質や酸性ペプチドが挙げられる。また、DNAやRNAなどの核酸が挙げられる。これらの目的物質は、いずれか1種含まれてもよく、2種以上含まれてもよい。
【0068】
処理対象とするエンドトキシン含有液において、エンドトキシン及び目的物質とともに含まれる液体としては、例えば、水、水溶液等の溶液、水性懸濁液等の懸濁液が挙げられる。
【0069】
エンドトキシン吸着剤は、そのままあるいは加工等した形態で、エンドトキシン含有液と接触させることができる。エンドトキシン吸着剤とエンドトキシン含有液とを接触させる方法は、特に限定されず、固体担体で液体試料を処理する公知の方法を適用することができ、例えばバッチ法や流動的分離法が挙げられる。
【0070】
バッチ法とは、容器内でエンドトキシン吸着剤とエンドトキシン含有液とを混合することで、エンドトキシン吸着剤とエンドトキシン含有液とを接触させる方法である。これにより、エンドトキシン吸着剤にエンドトキシンを吸着させることができるので、吸着後に混合液からエンドトキシン吸着剤を取り除くことで、エンドトキシンの除去された液体が得られる。
【0071】
流動的分離法とは、エンドトキシン吸着剤にエンドトキシン含有液を通液することにより、エンドトキシン吸着剤とエンドトキシン含有液とを接触させる方法である。例えば、エンドトキシン吸着剤を充填したカラムにエンドトキシン含有液を通す方法(カラム法)や、エンドトキシン吸着剤からなるフィルターにエンドトキシン含有液を通す方法(フィルター法)が挙げられ、カラムやフィルターでエンドトキシン吸着剤にエンドトキシンが吸着されることにより、エンドトキシン含有液からエンドトキシンが除去される。
【0072】
上記方法により得られるエンドトキシンの除去された液体は、処理対象であるエンドトキシン含有液と比較してエンドトキシンの含有量が低下していればよく、必ずしも全てのエンドトキシンが除去されたものには限定されない。例えば、エンドトキシンの除去された液体中のエンドトキシン含有量が、処理前のエンドトキシン含有液中のエンドトキシン含有量の20%以下、10%以下、または5%以下でもよい。また、エンドトキシンの除去された液体中のエンドトキシン含有量が20EU/mL以下、10EU/mL以下、または5EU/mL以下でもよい。
【0073】
また、エンドトキシンの除去された目的物質を含有する液体を得る場合、当該液体中における目的物質としての酸性物質の含有量は、処理対象とするエンドトキシン含有液中における酸性物質の含有量の90%以上、95%以上、99%以上でもよい。
【実施例
【0074】
以下、実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0075】
[実施例1:Masked-CyD-EDA-TOCNの合成]
(1)工程1:カルボキシメチル化シクロデキストリンの調製
500mLの三ツ口フラスコに、γ-シクロデキストリン(γ-CyD:東京化成工業株式会社)30gを蒸留水100mLに溶解させたγ-CyD水溶液と、水酸化ナトリウム30.08gを蒸留水100mLに溶解させた水酸化ナトリウム水溶液と、更に蒸留水100mLを加えて、攪拌機を用いて50℃、320rpmで10分間攪拌した。50℃、320rpmの攪拌を続けながら、1.15mol/Lモノクロロ酢酸水溶液(モノクロロ酢酸2.1848gを20mLの蒸留水に溶解させて調製)20mLを1時間かけて一滴ずつ添加した。その後、50℃、320rpmの攪拌を24時間続け、次いで、500mLビーカーに移し、室温まで20分間冷却した。
【0076】
冷却後、塩酸で中和してから、エバポレータで濃縮した。濃縮は沈殿が生じ始めるくらいまで行い、中和後450mL程度であった水溶液を濃縮により200mL程度にした。得られた濃縮液を貧溶媒であるアセトンにパスツールピペットを用いて一滴ずつ滴下することで沈殿させ、得られた沈殿物を風乾し、乾燥機で乾燥することにより白色沈殿物を得た。得られた白色沈殿物について、TOF-MS及び1H-NMRにより、シクロデキストリン1分子あたり1つのカルボキシメチル基が導入された1置換体のカルボキシメチル化シクロデキストリン(CM-CyD)が合成されたことを確認した。白色沈殿物は分離精製せず、次の工程に使用した。沈殿物の収量は66dry-g(乾燥状態での質量(以下同じ))、収率は64乾燥質量%であった。
【0077】
(2)工程2:セルロース担体へのアミノ基の導入
セルロース担体としては、TOCN(TEMPO酸化セルロースナノファイバー:レオクリスタI-2SX、第一工業製薬株式会社製、セルロース濃度:2質量%、セルロースI型結晶構造:「あり」、平均繊維径:3nm、平均アスペクト比:280)を用いた。
【0078】
TOCN50.37wet-g(湿潤状態での質量(以下同じ)。乾燥質量換算で1.0g)を500mLビーカーに入れ、0.3mol/LのN-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)溶液(3.453gのNHSを20mmol/LのMESバッファー100mLに溶解して調製)60mLと、0.3mol/Lの1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDAC・HCl)溶液(5.751gのEDAC・HClをMESバッファー100mLに溶解して調製)60mLを加えた。400rpm、室温で1時間攪拌した後、4℃、14000rpmで15分間遠心分離し、上清を除去し、沈殿物にpH6.20のMESバッファー100mLを加えて4℃、14000rpmで15分間遠心分離する操作を、pHが6になるまで行った。これにより得られた活性エステル化されたTOCNを300mL三角フラスコに移し、33%エチレンジアミン(EDA:和光純薬株式会社)溶液(エチレンジアミン50mLを蒸留水100mLで希釈して調製)を150mL添加し、25℃、200rpmで24時間攪拌した。その後、4℃、14000rpmで15分間の遠心とデカンテーションによるEDAの除去を、蒸留水を容器の7割ほど加えながら、上澄み液の色が無色透明になるまで繰り返して洗浄した。これにより、エチレンジアミンでアミノ化されたTOCN(EDA-TOCN)を得た。EDA-TOCNの収量は0.95dry-g、収率は95乾燥質量%であった。また、EDA-TOCNのアミノ基含有量は2.1meq/gであった。
【0079】
(3)工程3:セルロース担体へのCyDの結合
300mLの三ツ口フラスコに、CM-CyD50gをMESバッファー70mLに溶解させたCM-CyD水溶液、2.8gのEDAC・HCl、1.7gのNHSを加えて、25℃、200rpmで1時間攪拌して活性エステル化を行った。これにEDA-TOCN20wet-g(乾燥質量換算で0.8g)を加え、25℃、200rpmで24時間攪拌した。その後、4℃、14000rpmで15分間の遠心とデカンテーションによるEDAC・HClとNHSの除去を、蒸留水を加えながら行った。これにより、CyD固定化EDA-TOCN(CyD-EDA-TOCN)を得た。CyD-EDA-TOCNの収量は22wet-gであった。また、CyD-EDA-TOCNのアミノ基含有量は0.5meq/gに減少したことから、EDA-TOCNにCyDが結合したことが確認できた。
【0080】
(4)工程4:アミノ基のマスキング
200mLの三角フラスコに、蒸留水100mL、酢酸ナトリウム4.34g、炭酸水素ナトリウム8.34gを加えて溶解させた。ここに、CyD-EDA-TOCN12wet-g(乾燥質量換算で0.5g)を入れ、無水酢酸5mLをパスツールピペットを用いて一滴ずつ滴下し、25℃、200rpmで3時間振とうした。その後、4℃、14000rpmで15分間の遠心とデカンテーションによる無水酢酸の除去を、蒸留水を加えながら行った。これにより、無水酢酸で残存アミノ基がマスキングされたCyD-EDA-TOCN(Masked-CyD-EDA-TOCN)を得た。Masked-CyD-EDA-TOCNの収量は8.4wet-g(乾燥質量換算で0.48g)であった。また、Masked-CyD-EDA-TOCNのアミノ基含有量は0.1meq/gに減少したことから、CyD-EDA-TOCNの残存アミノ基がマスキングされたことが確認できた。
【0081】
[実施例2:Masked-CyD-PAA-TOCNの合成]
実施例1の工程2において、33%EDA水溶液150mLを添加して25℃,200rpmで24時間攪拌する代わりに、16.5%ポリアリルアミン塩酸塩(PAA―HCl-01:ニットボーメディカル株式会社、平均分子量約1600)溶液(33%PAA-HCl溶液100mLに4MNaOH溶液100mLを加え、pH11.0に調製)200mLを添加して45℃,200rpmで6時間攪拌し、その他は実施例1と同様にして、CyDがアミド結合を介してTOCNに結合した結合体(CyD-PAA-TOCN)の残存アミノ基をマスキングしてなるMasked-CyD-PAA-TOCNを得た。Masked-CyD-PAA-TOCNの収量は8.0wet-g(乾燥質量換算で0.5g)であった。
【0082】
[実施例3:Masked-CyD-PAA-セルロース粒子の合成]
工程1:実施例1と同様に行った。
【0083】
工程2:セルロース担体としては、セルロース粒子(カルボキシメチルセルロースビーズ:Cellufine C-500、JNC株式会社製、20%エタノール懸濁液、粒径:40~130μm)を用いた。
【0084】
セルロース粒子50wet-g(乾燥質量換算で4.5g)をガラスフィルター17Gに入れ、アスピレーターで吸引しながら400mLの蒸留水で洗浄し、20%エタノール液から蒸留水に置換した。これを300mLの三角フラスコに移し、0.3mol/LのNHS溶液60mLと0.3mol/LのEDAC溶液60mLを加え、25℃、200rpmで1時間撹拌した。撹拌後、ガラスフィルター17Gに入れ、400mLの蒸留水で吸引ろ過洗浄した。活性エステル化されたセルロース粒子を300mL三角フラスコに移し、16.5%PAA-HCl溶液200mLを加えて、25℃、200rpmで19時間攪拌した。撹拌後、ガラスフィルター17Gに入れ、pH7.0付近になるまで蒸留水で吸引ろ過洗浄した。これにより、PAA-HClでアミノ化されたセルロース粒子(PAA-セルロース粒子)を得た。
【0085】
工程3、4:実施例1の工程3、4において、4℃、14000rpmで15分間遠心分離する代わりに、ガラスフィルター17Gを用いてアスピレーターで吸引ろ過洗浄し、その他は実施例1と同様にして、CyDがアミド結合を介してセルロース粒子に結合した結合体(CyD-PAA-セルロース粒子)の残存アミノ基をマスキングしてなるMasked-CyD-PAA-セルロース粒子を得た。Masked-CyD-PAA-セルロース粒子の収量は9.67wet-g(乾燥質量換算で1.25g)であった。
【0086】
[実施例4:Masked-CyD-EDA-CNFの合成]
工程1:実施例1と同様に行った。
【0087】
工程2:セルロース担体としては、微細繊維状セルロース(CNF:セリッシュ ろか名人、ダイセルファインケム株式会社製、セルロース濃度:33~37質量%、セルロースI型結晶構造:「あり」、平均繊維径:53nm、平均アスペクト比:250)を用いた。
【0088】
500mLセパラブルフラスコに蒸留水90mL、水酸化ナトリウム9.96gを加えて溶解させた。ここに、CNF25wet-g(湿潤状態での質量、乾燥質量換算で8.25g)を入れ、水浴中で30℃に保ちつつ300rpmで1時間撹拌した。クロロメチルオキシラン160mLを加え、更に30℃で2時間撹拌した。ガラスフィルター17Gに入れ、アスピレーターで吸引しながらアセトン、エタノール、蒸留水の順で、クロロメチルオキシラン特有の臭いが消えるまで洗浄し、エポキシ化CNFを得た。
【0089】
300ml三角フラスコにEDA溶液100mLを添加して、2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液78mLを添加してpH9にした。ここに、エポキシ化CNFを加え、45℃で4時間撹拌した。ガラスフィルター17Gに入れ、アスピレーターで吸引しながらアセトン、蒸留水、メタノールの順で洗浄し、EDA-CNFを得た。
【0090】
工程3:500mLセパラブルフラスコに、CM-CyD52.7gをMESバッファー200mLに溶解させたCM-CyD水溶液、2.8gのEDAC・HCl、1.7gのNHS、EDA-CNF17wet-gを加えて、25℃、200rpmで24時間攪拌した。その後、ガラスフィルター17Gに入れ、アスピレーターで吸引しながらアセトン、蒸留水、メタノールの順で洗浄し、CyD-EDA-CNFを得た。
【0091】
工程4:500mLの三角フラスコに、蒸留水200mL、酢酸ナトリウム4.34g、炭酸水素ナトリウム8.34gを加えて溶解させた。ここに、CyD-EDA-CNF7wet-g(乾燥質量換算で0.3g)を入れ、無水酢酸5mLをパスツールピペットを用いて一滴ずつ滴下し、25℃、200rpmで6時間振とうした。その後、ガラスフィルター17Gに入れ、アスピレーターで吸引しながらアセトン、蒸留水、メタノールの順で洗浄し、Masked-CyD―EDA-CNFを得た。Masked-CyD-EDA-CNFの収量は5.3wet-g(乾燥質量換算で0.3g)であった。
【0092】
[実施例5:Masked-CyD-PAA-CNFの合成]
実施例4の工程2において、EDA水溶液100mlを添加する代わりに、PAA―HCl溶液120mLを添加した。その他は実施例4と同様にして、CyDがアミド結合を介してCNFに結合した結合体(CyD-PAA-CNF)の残存アミノ基をマスキングしてなるMasked-CyD-PAA-CNFを得た。Masked-CyD-EDA-CNFの収量は5.2wet-g(乾燥質量換算で0.3g)であった。
【0093】
[比較例1:CyD-EDA-TOCN]
実施例1における工程3までで得られる、CyDがEDAを介してTOCNに結合した結合体であり、残存アミノ基がマスキングされていない結合体(CyD-EDA-TOCN)を用いた。
【0094】
[比較例2:CyD-PAA-TOCN]
実施例2における工程3までで得られる、CyDがPAAを介してTOCNに結合した結合体であり、残存アミノ基がマスキングされていない結合体(CyD-PAA-TOCN)を用いた。
【0095】
[比較例3:CyD-PAA-セルロース粒子]
実施例3における工程3までで得られる、CyDがPAAを介してセルロース粒子に結合した結合体であり、残存アミノ基がマスキングされていない結合体(CyD-PAA-セルロース粒子)を用いた。
【0096】
[比較例4:CyD-EDA-CNF]
実施例4における工程3までで得られる、CyDがEDAを介してCNFに結合した結合体であり、残存アミノ基がマスキングされていない結合体(CyD-EDA-CNF)を用いた。
【0097】
[比較例5:CyD-PAA-CNF]
実施例5における工程3までで得られる、CyDがPAAを介してCNFに結合した結合体であり、残存アミノ基がマスキングされていない結合体(CyD-PAA-CNF)を用いた。
【0098】
[比較例6:Masked-CyD-CNF(塩化トシル使用)の合成]
(1)工程1:アミノ化シクロデキストリンの調製
グローブバッグ(GLOVE BAG、Glas-Col、S-20-20)に1L三口丸底フラスコ、100mL滴下ロート、ピリジン試薬、CyD試薬、セプタムキャップ、簡易天秤をいれ、減圧吸引と窒素通気を3回繰り返し行った。その後、グローブバッグ内で、フラスコ内にCyD5.0gをピリジン275mLに溶かし、反応装置を組み立て、グローブバッグから取出した後ドラフトに移動させた。この時、滴下ロートには100mLのピリジンに塩化トシル7.5gを溶かし、フラスコに取り付けた。650rpmで撹拌を開始し、塩化トシル溶液を1滴ずつ17分かけて滴下した。
【0099】
CyDのトシル化の様子を薄層クロマト(TLC)により確認した。TLCの展開溶媒は、1-ブタノール:メタノール:水=5:4:3で作成した。TLCはヨウ素で焼いたものに注目した。CyDについてRf値0.438にスポットが現れ、塩化トシルとピリジンではヨウ素でスポットが確認できず、トシル1置換体はRf値0.615、2置換体は0.671、3置換体は0.715のところにスポットが現れた。トシル置換体が合成され、原料のCyDのスポットが確認されなくなったところでイオン交換水を反応系に加え、トシル化反応を停止させた。反応溶液を濃縮させ、100倍量のアセトンで再沈殿し、遠心分離(1400rpm、30分、4℃)で回収し、真空乾燥させてトシル化CyDを得た。
【0100】
300mLナスフラスコに、トシル化CyD7.65g、EDA100mLを加え、40℃、400rpmで24時間反応させた。その後、エバポレータで反応液が約20mLになるまで濃縮させ、アセトンで再沈殿させた。ここで現れた結晶を遠心分離(1400rpm、30分、4℃)で集め、水13mLとメタノール39mLの混合液に再溶解させた。その後、再びアセトンで再沈殿し、遠心分離で結晶を回収し、真空乾燥させてアミノ化CyDを得た。
【0101】
(2)工程2:セルロース担体へのエポキシ基の導入
200mL三角フラスコに、CNF10wet-gと10(w/w)%NaOH水溶液を125mL加え、30℃、500rpmで1時間撹拌した。次にエピクロロヒドリンを60mL加え、30℃、500rpmで1時間撹拌した。エピクロロヒドリンの臭いが消えるまで、蒸留水で吸引ろ過洗浄し、エポキシ化CNFを得た。
【0102】
(3)工程3:セルロース担体へのCyDの結合
100mL三角フラスコに、エポキシ化CNF、アミノ化CyD1.0g、0.01mol/Lの水酸化ナトリウム100mLを入れ、45℃、500rpmで4時間撹拌した。蒸留水、メタノールの順で吸引ろ過洗浄し、CyD-CNFを得た。
【0103】
(4)工程4:アミノ基のマスキング
500mLの三角フラスコに、蒸留水200mL、酢酸ナトリウム4.34g、炭酸水素ナトリウム8.34gを加えて溶解させた。ここに、CyD-CNF4.0wet-g(乾燥質量換算で0.4g)を入れ、無水酢酸5mLを滴下し、25℃、200rpmで6時間振とうした。その後、吸引ろ過洗浄し、Masked-CyD-CNFを得た。Masked-CyD-CNFの収量は2.8wet-g(乾燥質量換算で0.4g)であった。
【0104】
[比較例7:PAA-TOCN]
実施例2における工程2までで得られる、PAAが導入されたTOCN(PAA-TOCN)を用いた。
【0105】
[比較例8:PAA-セルロース粒子]
実施例3における工程2までで得られる、PAAが導入されたセルロース粒子(PAA-セルロース粒子)を用いた。
【0106】
実施例1~5及び比較例1~8で得られた各吸着剤について、アミノ基含有量およびシクロデキストリン含有量を求めるとともに、吸着性能を評価した。各評価方法は以下のとおりである。
【0107】
[アミノ基含有量]
アミノ基含有量は、アニオン交換容量(AEC:Anion Exchange Capacity)として、逆滴定法により測定した。詳細には、試料を24時間以上減圧乾燥し、精秤後三角フラスコに入れた。ファクター既知の0.1mol/L塩酸30mLを加え、振とう機を用いて25℃、200rpmで2時間振とうした。ろ紙を用いてろ過し、ろ液20mLを蒸留水で100mLに希釈した。希釈溶液10mLを別の三角フラスコにとり、ファクター既知の0.05mol/L水酸化ナトリウム水溶液でフェノールフタレインを指示薬として滴定し、下記式によりAEC(アミノ基含有量)を算出した。
AEC(meq/g)=(0.1×fa×30-0.05×fb×V×30/20)÷W
fa:使用した塩酸のファクター
fb:使用した水酸化ナトリウム水溶液のファクター
V:滴定量(mL)
W:試料の乾燥質量(g)
【0108】
[シクロデキストリン含有量]
上記で算出した、アミノ基導入(工程2)後のAEC値とCyD固定化(工程3)後のAEC値との差から、下記式によりCyD含有量を算出した。
(工程3のAEC値-工程2のAEC値)(mmol)/1000×1297(g/mol)=CyD固定化量(g)
CyD固定化量/(CyD固定化量+セルロース担体1g)=CyD含有量(g/g)
CyD含有量/CyD分子量×1000=CyD含有量(mmol/g)
【0109】
[吸着性能評価]
吸着対象物として以下の物質を用い、これらが負に帯電する条件で吸着性能の評価を行った。
・DNA:D3534、東京化成工業,pKa<2、平均分子量約30万
・BSA:ウシ血清アルブミン、ナカライテスク、pI=4.9、分子量69000
・LPS:エンドトキシン(リポポリサッカライド、大腸菌O55:B5由来)、チャールス・リバー・ラボラトリーズ、pKa<2
【0110】
各吸着剤をガラスフィルター上で、0.2mol/LNaOHin95%EtOH400mLで洗浄した。滅菌済みの純水400mLでろ液が中性になるまで洗浄を繰り返したのち、少量のリン酸バッファーで洗浄した後、以下の吸着性能評価を行った。
【0111】
・DNA吸着性能評価
20mL三角フラスコに、洗浄した各吸着剤0.2wet-gと50μg/mLのDNA溶液(DNA0.005gを0.2mol/Lリン酸バッファー(pH=6.0)100mLに溶解させて調製)2mLを入れて、インキュベーター内で25℃、200rpmで2時間振とうした。吸着剤を含む溶液をシリンジで吸い取り、0.8μmメンブランフィルターでろ過した。分光光度計で波長250~260nmのろ液の吸光度を測定し、残存DNA量を算出した。仕込みのDNA量から差し引くことでDNA吸着率を算出した。
【0112】
・BSA吸着性能評価
20mL三角フラスコに、洗浄した各吸着剤0.2wet-gと1mg/mLのBSA溶液(BSA0.1gを0.2mol/Lリン酸バッファー(pH=6.0)100mLに溶解させて調製)2mLを入れて、インキュベーター内で25℃、200rpmで2時間振とうした。吸着剤を含む溶液をシリンジで吸い取り、0.8μmメンブランフィルターでろ過した。分光光度計で波長260~280nmのろ液の吸光度を測定し、残存BSA量を算出した。仕込みのBSA量から差し引くことでBSA吸着率を算出した。
【0113】
・LPS吸着性能評価
ガラス器具や薬さじはオートクレーブに入れて、250℃で3時間滅菌して用いた。また、ガラスフィルターやリン酸バッファーは121℃で30分蒸気滅菌して用いた。
【0114】
試料中のエンドトキシンの定量は、市販のエンドトキシン測定装置としてEGリーダーSV-12(生化学工業株式会社製)を用い、リムルス試薬としてエンドスペシーES-24Sセット、凍結乾燥品(生化学工業株式会社製)を用いた比色法により行った。LPS定量の直前に、リムルス試薬の入った専用チューブに、付属の希釈緩衝液0.2mLを添加し溶解させたものをリムルス試薬溶液として用いた。
【0115】
20mL三角フラスコに、洗浄した各吸着剤0.2wet-gと50EU/mLのLPS溶液(LPS1μgを0.2mol/Lリン酸バッファー(pH=6.0)100mLに溶解させて調製)2mLを入れて、インキュベーター内で25℃、200rpmで2時間振とうした。吸着剤を含む溶液をシリンジで吸い取り、0.8μmメンブランフィルターでろ過した。ろ液を大塚水(LPSフリーの蒸留水;大塚製薬株式会社製)で100倍希釈したものを試料とする。同試料0.2mLを上記リムルス試薬溶液の入ったEGリーダーSV-12専用チューブに加え、ボルテックスミキサーでよく混合した。チューブをEGリーダーSV-12に設置し、比色法により、LPS残存濃度を測定した。仕込みのLPS濃度から差し引くことでLPS吸着率を算出した。
【0116】
・DNA/LPS混合溶液からのLPS吸着性能評価
20mL三角フラスコに、洗浄した各吸着剤0.2wet-gとDNA/LPS混合溶液(DNA:100μg/mL,LPS:50EU/mL,pH=6.0,イオン強度(μ)=0.05~0.8)2mLを入れて、インキュベーター内で25℃、200rpmで2時間振とうした。試料溶液のイオン強度は、塩化ナトリウムの濃度で調節した。吸着剤を含む溶液をシリンジで吸い取り、0.8μmメンブランフィルターでろ過した。ろ液中の残存DNA量およびLPS量を測定し、仕込みのDNA量およびLPS量から差し引くことでDNA吸着率およびLPS吸着率を算出した。
【0117】
【表1】
【0118】
結果は表1に示すとおりである。リガンドとしてのシクロデキストリンを導入していない比較例7,8では、エンドトキシンとDNAのどちらに対しても高い吸着能を示しており、選択吸着性に劣っていた。比較例1~5では、シクロデキストリンを導入していたため、エンドトキシンに対する高い吸着性が認められたが、残存アミノ基をマスキングしていないため、酸性物質であるDNA及び/又はBSAも吸着しており、選択吸着性に劣っていた。
【0119】
これに対し、アミノ基が導入されたセルロース担体にアミド結合を介してシクロデキストリンを導入し、残存アミノ基をマスキングした実施例1~5であると、エンドトキシンに対する高い吸着性が認められるとともに、DNA及びBSAに対しては吸着性を持たず、そのため選択吸着性に優れていた。実施例1~5の中で比較すると、微細繊維状セルロースを担体とする場合でも、平均繊維径がより小さいTOCNを用いた実施例1,2では、実施例4,5よりもシクロデキストリンの導入量が多く、エンドトキシンの吸着性により優れていた。また、実施例1,2は、セルロース担体としてセルロース粒子を用いた実施例3よりも、エンドトキシンの吸着性に優れていた。
【0120】
比較例6は、塩化トシルを用いてシクロデキストリンをアミノ化し、これをエポキシ化CNFと反応させることでCNFにシクロデキストリンを導入したものであり、アミド結合を介してシクロデキストリンをセルロース担体に導入した実施例1~5とは異なる。実施例1~5及び比較例6ともに、セルロース担体のアミノ基又はエポキシ基に対してシクロデキストリンのカルボキシ基又はアミノ基が過剰になるように仕込んで反応させているにもかかわらず、実施例1~5は比較例6に対してシクロデキストリンの導入量が多かった。実施例1~5では、比較例6に対してエンドトキシンの吸着率が高く、エンドトキシン吸着剤として優れていることが分かった。
【0121】
LPSを含むDNA水溶液からのLPS選択吸着能に及ぼすイオン強度の影響を調べた結果を図5に示す。図5(B)に示すように、比較例7では、負に帯電するLPSとDNAの両方に対して高い吸着能を示しており、イオン強度の増加に伴って両方に対する吸着能が低下する傾向があった。一方、図5(A)に示すように、実施例2では、幅広いイオン強度域で、DNAを吸着することなく、高いLPSの吸着率を保っていた。そのため、実施例2の吸着剤は、CyDの内側キャビティの疎水性を利用してLSPを疎水吸着していることがわかる。
【0122】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
図1
図2
図3
図4
図5