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特許7462913リン含有(メタ)アクリル酸エステル誘導体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】リン含有(メタ)アクリル酸エステル誘導体
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/53 20060101AFI20240401BHJP
   C08F 22/20 20060101ALI20240401BHJP
   C09K 21/12 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
C07F9/53 CSP
C08F22/20
C09K21/12
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2018559594
(86)(22)【出願日】2017-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2017046988
(87)【国際公開番号】W WO2018124205
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-10-06
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2016256290
(32)【優先日】2016-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390016377
【氏名又は名称】片山化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】篠原 広幸
(72)【発明者】
【氏名】美濃 由佳
(72)【発明者】
【氏名】向 健司
(72)【発明者】
【氏名】片山 敏章
(72)【発明者】
【氏名】藤野 博良
(72)【発明者】
【氏名】伊川 英市
【合議体】
【審判長】阪野 誠司
【審判官】瀬良 聡機
【審判官】齊藤 真由美
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105713126(CN,A)
【文献】特開昭63-178257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F,C09K
CAPLUS/REGISTRY STN
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式(I)
【化1】
(I)
(式中、
およびRは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のアリール基であり、
およびRは、それぞれ独立して、水素、または置換もしくは非置換のアルキル基であり、
nは、1または2であり、
ここで、nが2である場合、各Rは、それぞれ同じであっても異なっていても良く、各Rは、それぞれ同じであっても異なっていても良く、
は、水素、または置換もしくは非置換のアルキル基である)
で示される、化合物またはその塩。
【請求項2】
が、水素またはメチル基である、請求項1に記載の化合物またはその塩。
【請求項3】
およびRは、それぞれ独立して、水素またはC1~C4アルキル基である、請求項1または2に記載の化合物またはその塩。
【請求項4】
前記RおよびRにおける前記アリール基上の置換基が、ハロゲン、アルキル、-Oアルキル、-OH、-NO、-NH、-C(=O)H、-C(=O)アルキル、および-C(=O)Oアルキルからなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物またはその塩。
【請求項5】
前記RおよびRにおける前記アリール基上の置換基が、ハロゲン、-C1~C4アルキル、-OC1~C4アルキル、-OH、-NO、-NH、-C(=O)H、-C(=O)C1~C4アルキル、および-C(=O)OC1~C4アルキルからなる群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物またはその塩。
【請求項6】
およびRがともにフェニル基である、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物またはその塩。
【請求項7】
以下の一般式(II)
【化2】
(II)
(式中、
およびRは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のアリール基であり、
およびRは、それぞれ独立して、水素、または置換もしくは非置換のアルキル基であり、
nは、1または2であり、
ここで、nが2である場合、各Rは、それぞれ同じであっても異なっていても良く、各Rは、それぞれ同じであっても異なっていても良く、
は、水素、または置換もしくは非置換のアルキル基である)を構成成分として含むホモポリマーまたはコポリマー。
【請求項8】
が、水素またはメチル基である、請求項7に記載のホモポリマーまたはコポリマー。
【請求項9】
およびRは、それぞれ独立して、水素またはC1~C4アルキル基である、請求項7または8に記載のホモポリマーまたはコポリマー。
【請求項10】
前記RおよびRにおける前記アリール基上の置換基が、ハロゲン、アルキル、-Oアルキル、-OH、-NO、-NH、-C(=O)H、-C(=O)アルキル、および-C(=O)Oアルキルからなる群から選択される、請求項7~9のいずれか一項に記載のホモポリマーまたはコポリマー。
【請求項11】
前記RおよびRにおける前記アリール基上の置換基が、ハロゲン、-C1~C4アルキル、-OC1~C4アルキル、-OH、-NO、-NH、-C(=O)H、-C(=O)C1~C4アルキル、および-C(=O)OC1~C4アルキルからなる群から選択される、請求項7~10のいずれか一項に記載のホモポリマーまたはコポリマー。
【請求項12】
およびRがともにフェニル基である、請求項7~9のいずれか一項に記載のホモポリマーまたはコポリマー。
【請求項13】
(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸ハロゲン化物、(メタ)アクリル酸塩、スチレンまたはアクリロニトリルとのコポリマーである、請求項7~12のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項14】
前記化合物または塩が固体である、請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物または塩。
【請求項15】
前記化合物または塩が粉末である、請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物または塩。
【請求項16】
請求項7~13のいずれか一項に記載のホモポリマーまたはコポリマーを含む、添加剤。
【請求項17】
請求項7~13のいずれか一項に記載のホモポリマーまたはコポリマーを含む、曇り止め剤。
【請求項18】
請求項7~13のいずれか一項に記載のホモポリマーまたはコポリマーを含む、難燃剤。
【請求項19】
請求項7~13のいずれか一項に記載のホモポリマーまたはコポリマーを含む、電気/電子関係用部品、OA関連用部品、自動車用部品、電車用部品、航空機用部品または繊維。
【請求項20】
請求項7~13のいずれか一項に記載のホモポリマーまたはコポリマーを含む、シート、フィルム、またはアクリルガラス。
【請求項21】
請求項7~13のいずれか一項に記載のホモポリマーまたはコポリマーを含む、重合添加剤。
【請求項22】
請求項7~13のいずれか一項に記載のホモポリマーまたはコポリマーを含む、表面改質剤。
【請求項23】
請求項7~13のいずれか一項に記載のホモポリマーまたはコポリマーを含む、リン付与剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン含有(メタ)アクリル酸エステル誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
リン化合物は、その性質に起因して様々な用途において使用されている。アクリル酸またはメタクリル酸とリンを含む化合物は、種々の材料を合成するための原料として有用である。新規なリンを含む化合物を提供することは有意義である。
【0003】
特許文献1および特許文献2は、以下の一般式Aを有するホスフィンオキシド-(メタ)アクリル酸エステル化合物を開示する:
【0004】
【化3】
【0005】
(ここで、RはHまたはCH3である)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-48394号公報
【文献】特開2010-191215号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討をした結果、有用性が高いと考えられるジアリールホスフィンオキシドを含む(メタ)アクリル酸エステル誘導体の新規化合物を合成した。
【0008】
本発明は、特に従来困難と考えられていたジアリールホスフィンオキシドを含む(メタ)アクリル酸エステル誘導体の合成方法を与える。
【0009】
本発明は、また、以下の項目を提供する。
(項目1)
以下の一般式(I)
【0010】
【化1】
【0011】
(I)
(式中、
およびRは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のアリール基であり、
およびRは、それぞれ独立して、水素、または置換もしくは非置換のアルキル基であり、
nは、1または2であり、
ここで、nが2である場合、各Rは、それぞれ同じであっても異なっていても良く、各Rは、それぞれ同じであっても異なっていても良く、
は、水素、または置換もしくは非置換のアルキル基である)
で示される化合物またはその塩。
(項目2)
が、水素またはメチル基である、項目1に記載の化合物またはその塩。
(項目3)
およびRは、それぞれ独立して、水素またはC1~C4アルキル基である、項目1または2に記載の化合物またはその塩。
(項目4)
前記RおよびRにおける前記アリール基上の置換基が、ハロゲン、アルキル、-Oアルキル、-OH、-NO、-NH、-C(=O)H、-C(=O)アルキル、および-C(=O)Oアルキルからなる群から選択される、項目1~3のいずれか一項に記載の化合物またはその塩。
(項目5)
前記RおよびRにおける前記アリール基上の置換基が、ハロゲン、-C1~C4アルキル、-OC1~C4アルキル、-OH、-NO、-NH、-C(=O)H、-C(=O)C1~C4アルキル、および-C(=O)OC1~C4アルキルからなる群から選択される、項目1~4のいずれか一項に記載の化合物またはその塩。
(項目6)
およびRがともにフェニル基である、項目1~3のいずれか一項に記載の化合物またはその塩。
(項目7)
以下の一般式(II)
【0012】
【化2】
【0013】
(II)
(式中、
およびRは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のアリール基であり、
およびRは、それぞれ独立して、水素、または置換もしくは非置換のアルキル基であり、
nは、1または2であり、
ここで、nが2である場合、各Rは、それぞれ同じであっても異なっていても良く、各Rは、それぞれ同じであっても異なっていても良く、
は、水素、または置換もしくは非置換のアルキル基である)を構成成分として含むホモポリマーまたはコポリマー。
(項目8)
が、水素またはメチル基である、項目7に記載のホモポリマーまたはコポリマー。
(項目9)
およびRは、それぞれ独立して、水素またはC1~C4アルキル基である、項目7または8に記載のホモポリマーまたはコポリマー。
(項目10)
前記RおよびRにおける前記アリール基上の置換基が、ハロゲン、アルキル、-Oアルキル、-OH、-NO、-NH、-C(=O)H、-C(=O)アルキル、および-C(=O)Oアルキルからなる群から選択される、項目7~9のいずれか一項に記載のホモポリマーまたはコポリマー。
(項目11)
前記RおよびRにおける前記アリール基上の置換基が、ハロゲン、-C1~C4アルキル、-OC1~C4アルキル、-OH、-NO、-NH、-C(=O)H、-C(=O)C1~C4アルキル、および-C(=O)OC1~C4アルキルからなる群から選択される、項目7~10のいずれか一項に記載のホモポリマーまたはコポリマー。
(項目12)
およびRがともにフェニル基である、項目7~9のいずれか一項に記載のホモポリマーまたはコポリマー。
(項目13)
(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸ハロゲン化物、(メタ)アクリル酸塩、スチレンまたはアクリロニトリルとのコポリマーである、項目7~12のいずれか一項に記載のコポリマー。
(項目14)
前記化合物または塩が固体である、項目1~6のいずれか一項に記載の化合物または塩。
(項目15)
前記化合物または塩が粉末である、項目1~6のいずれか一項に記載の化合物または塩。
(項目16)
項目1~6および14~15のいずれか一項に記載の化合物または塩を含む、添加剤。
(項目17)
項目1~6および14~15のいずれか一項に記載の化合物または塩を含む、曇り止め剤。
(項目18)
項目1~6および14~15のいずれか一項に記載の化合物または塩を含む、難燃剤。
(項目19)
項目1~6および14~15のいずれか一項に記載の化合物または塩を含む、電気/電子関係用部品、OA関連用部品、自動車用部品、電車用部品、航空機用部品または繊維。
(項目20)
項目1~6および14~15のいずれか一項に記載の化合物または塩を含む、シート、フィルム、またはアクリルガラス。
(項目21)
項目1~6および14~15のいずれか一項に記載の化合物または塩を含む、重合添加剤。
(項目22)
項目1~6および14~15のいずれか一項に記載の化合物またはその塩を含む、表面改質剤。
(項目23)
項目1~6および14~15のいずれか一項に記載の化合物または塩を含む、リン付与剤。
(項目24)
項目7~13のいずれか一項に記載のホモポリマーまたはコポリマーを含む、添加剤。
(項目25)
項目7~13のいずれか一項に記載のホモポリマーまたはコポリマーを含む、曇り止め剤。
(項目26)
項目7~13のいずれか一項に記載のホモポリマーまたはコポリマーを含む、難燃剤。
(項目27)
項目7~13のいずれか一項に記載のホモポリマーまたはコポリマーを含む、電気/電子関係用部品、OA関連用部品、自動車用部品、電車用部品、航空機用部品または繊維。
(項目28)
項目7~13のいずれか一項に記載のホモポリマーまたはコポリマーを含む、シート、フィルム、またはアクリルガラス。
(項目29)
項目7~13のいずれか一項に記載のホモポリマーまたはコポリマーを含む、重合添加剤。
(項目30)
項目7~13のいずれか一項に記載のホモポリマーまたはコポリマーを含む、表面改質剤。
(項目31)
項目7~13のいずれか一項に記載のホモポリマーまたはコポリマーを含む、リン付与剤。
(項目32)
以下の一般式(III)
【0014】
【化4】
【0015】
(III)
(ここで、RおよびRは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のアリール基であり、RおよびRは、それぞれ独立して、水素、または置換もしくは非置換のアルキル基である)を製造する方法であって、ジアリールホスフィンオキシド:
【0016】
【化5】
【0017】
(ここで、RおよびRは、上記のとおりである)と、ケトンまたはアルデヒド:
【0018】
【化6】
【0019】
(ここで、RおよびRは、上記のとおりである)とを反応させる工程を包含する、方法。
(項目33)
以下の一般式(IV)
【0020】
【化7】
【0021】
(IV)
(ここで、RおよびRは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のアリール基であり、RおよびRは、それぞれ独立して、水素、または置換もしくは非置換のアルキル基であり、Rは、水素、または置換もしくは非置換のアルキル基である)を製造する方法であって、以下の一般式(III)
【0022】
【化8】
【0023】
(III)
(ここで、R、R、RおよびRは、上記のとおりである)と、(メタ)アクリル酸クロリドまたは(メタ)アクリル酸
【0024】
【化9】
【0025】
または
【0026】
(ここで、Rは、上記のとおりである)
と反応させる工程を包含する、方法。
(項目34)
以下の一般式(V)
【0027】
【化10】
【0028】
(V)
(ここで、RおよびRは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のアリール基であり、Rは、水素、または置換もしくは非置換のアルキル基である)を製造する方法であって、ジアリールホスフィンオキシド:
【0029】
【化11】
【0030】
(ここで、RおよびRは、上記のとおりである)と、エチレンオキシド:
【0031】
【化12】
【0032】
(ここで、Rは、上記のとおりである)とを反応させる工程を包含する、方法。
(項目35)
以下の一般式(VI)
【0033】
【化13】
【0034】
(VI)
(ここで、RおよびRは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のアリール基であり、Rは、水素、または置換もしくは非置換のアルキル基であり、Rは、水素、または置換もしくは非置換のアルキル基である)を製造する方法であって、以下の一般式(V)
【0035】
【化14】
【0036】
(V)
(ここで、R、R、およびRは、上記のとおりである)と、(メタ)アクリル酸クロリドまたは(メタ)アクリル酸
【0037】
【化15】
【0038】
または
【0039】
(ここで、Rは、上記のとおりである)
と反応させる工程を包含する、方法。
(項目36)
項目1~6および14~15のいずれか一項に記載の化合物またはその塩を使用する、表面処理方法であって、該方法が、表面の吸水性を低下させる、表面処理方法。
(項目37)
前記表面に、前記一般式(I)で示される化合物または塩を重合させる工程を包含する、項目36に記載の表面処理方法。
(項目38)
前記表面が、樹脂またはガラスである、項目36または37に記載の表面処理方法。
(項目39)
肥料、農薬、医薬、殺虫剤、火薬、電子材料、触媒、難燃剤、金属表面処理剤、洗剤、不凍液、界面活性剤、消泡剤、および潤滑剤などの製造において使用され得る、項目23に記載のリン付与剤。
【0040】
本発明において、上記の一つまたは複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。本発明のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0041】
本発明により、リンを含有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体である新規化合物が提供される。この新規化合物により調製されるポリマーは、吸水性が低く、様々な用途に使用され得る。本発明のリンを含有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体は、容易なラジカル重合でリンの特性を多くの物質に付与することができる。本発明のリンを含有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体は粉末などの固体であり得、取り扱いが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1図1は、化合物1のGC-MSスペクトルである。縦軸はシグナルの相対強度を示し、横軸はm/z(質量/電荷数)を示す。
図2図2は、化合物2のGC-MSスペクトルである。縦軸はシグナルの相対強度を示し、横軸はm/z(質量/電荷数)を示す。
図3図3は、化合物3のGC-MSスペクトルである。縦軸はシグナルの相対強度を示し、横軸はm/z(質量/電荷数)を示す。
図4図4は、化合物4のGC-MSスペクトルである。縦軸はシグナルの相対強度を示し、横軸はm/z(質量/電荷数)を示す。
図5図5は、化合物5のGC-MSスペクトルである。縦軸はシグナルの相対強度を示し、横軸はm/z(質量/電荷数)を示す。
図6図6は、化合物6のGC-MSスペクトルである。縦軸はシグナルの相対強度を示し、横軸はm/z(質量/電荷数)を示す。
図7図7は、化合物7のGC-MSスペクトルである。縦軸はシグナルの相対強度を示し、横軸はm/z(質量/電荷数)を示す。
図8図8は、化合物8のGC-MSスペクトルである。縦軸はシグナルの相対強度を示し、横軸はm/z(質量/電荷数)を示す。
図9図9は、化合物1のホモポリマーのGPCによる分子量測定を示す。
図10図10は、化合物4のホモポリマーのGPCによる分子量測定を示す。
図11図11は、アクリル酸メチルのホモポリマー(単独重合体1)のGPCによる分子量測定を示す。
図12図12は、アクリル酸メチルと化合物1のコポリマー(共重合体2)のGPCによる分子量測定を示す。
図13図13は、アクリル酸メチルと化合物4のコポリマー(共重合体3)のGPCによる分子量測定を示す。
図14図14は、メタクリル酸メチルと化合物4のコポリマー(共重合体4)のGPCによる分子量測定を示す。
図15図15は、メタクリル酸メチルと化合物4のコポリマー(共重合体5)のGPCによる分子量測定を示す。
図16図16は、スチレンと化合物4のコポリマー(共重合体6)のGPCによる分子量測定を示す。
図17図17は、アクリロニトリルと化合物4のコポリマー(共重合体7)のGPCによる分子量測定を示す。
図18図18は、アクリル酸メチルと化合物8のコポリマー(共重合体8)のGPCによる分子量測定を示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0044】
(用語の定義)
本明細書における用語について以下に説明する。
【0045】
本明細書において「置換」とは、有機化合物のある特定の水素原子をほかの原子あるいは原子団で置き換えることをいう。
【0046】
本明細書において「置換基」とは、化学構造中で、他のものを置換した原子または官能基をいう。
【0047】
本明細書においては、特に言及がない限り、置換は、ある有機化合物または置換基中の1または2以上の水素原子を他の原子または原子団で置き換えるか、または二重結合もしくは三重結合とすることをいう。水素原子を1つ除去して1価の置換基に置換するかまたは単結合と一緒にして二重結合とすることも可能であり、そして水素原子を2つ除去して2価の置換基に置換するか、または単結合と一緒にして三重結合とすることも可能である。
【0048】
本発明における置換基としては、水素、ハロゲン基、アルキル基、アルコキシ基、-OH基、-NO基、-NH基、-C(=O)H基、アルキルカルボニル基、およびアルコキシカルボニル基が挙げられるがそれらに限定されない。本発明における置換基の好ましい群としては、ハロゲン、アルキル、-Oアルキル、-OH、-NO、-NH、-C(=O)H、-C(=O)アルキル、および-C(=O)Oアルキルが挙げられる。本発明における置換基のさらに好ましい群としては、ハロゲン、-C1~C4アルキル(例えば、-CH)、-OC1~C4アルキル(例えば、-OCH)、-OH、-NO、-NH、-C(=O)H、-C(=O)C1~C4アルキル(例えば、-C(=O)CH)、および-C(=O)OC1~C4アルキルが挙げられる。置換基は、すべてが水素以外の置換基を有していても良い。
【0049】
本明細書において、C1、C2、、、Cnは、炭素数を表す(ここで、nは任意の正の整数を示す。)。従って、C1は炭素数1個の置換基を表すために使用される。
【0050】
本明細書において「アルキル」とは、メタン、エタン、プロパンのような脂肪族炭化水素(アルカン)から水素原子が一つ失われて生ずる1価の基をいい、一般にC2n+1-で表される(ここで、nは正の整数である)。アルキルは、直鎖または分枝鎖であり得る。本明細書において「置換アルキル」とは、上に規定する置換基によってアルキルのHが置換されたアルキルをいう。これらの具体例は、C1~C2アルキル、C1~C3アルキル、C1~C4アルキル、C1~C5アルキル、C1~C6アルキル、C1~C7アルキル、C1~C8アルキル、C1~C9アルキル、C1~C10アルキル、C1~C11アルキルまたはC1~C20アルキル、C1~C2置換アルキル、C1~C3置換アルキル、C1~C4置換アルキル、C1~C5置換アルキル、C1~C6置換アルキル、C1~C7置換アルキル、C1~C8置換アルキル、C1~C9置換アルキル、C1~C10置換アルキル、C1~C11置換アルキルまたはC1~C20置換アルキルであり得る。ここで、たとえばC1~C10アルキルとは、炭素原子を1~10個有する直鎖または分枝状のアルキルを意味し、メチル(CH-)、エチル(C-)、n-プロピル(CHCHCH-)、イソプロピル((CHCH-)、n-ブチル(CHCHCHCH-)、n-ペンチル(CHCHCHCHCH-)、n-ヘキシル(CHCHCHCHCHCH-)、n-ヘプチル(CHCHCHCHCHCHCH-)、n-オクチル(CHCHCHCHCHCHCHCH-)、n-ノニル(CHCHCHCHCHCHCHCHCH-)、n-デシル(CHCHCHCHCHCHCHCHCHCH-)、-C(CHCHCHCH(CH、-CHCH(CHなどが例示される。また、たとえば、C1~C10置換アルキルとは、C1~C10アルキルであって、そのうち1または複数の水素原子が置換基により置換されているものをいう。
【0051】
本明細書において「アルコキシ」とは、アルコール類のヒドロキシ基の水素原子が失われて生ずる1価の基をいい、一般にC2n+1O-で表される(ここで、nは1以上の整数である)。「置換アルコキシ」とは、上に規定する置換基によってアルコキシのHが置換されたアルコキシをいう。具体例としては、C1~C2アルコキシ、C1~C3アルコキシ、C1~C4アルコキシ、C1~C5アルコキシ、C1~C6アルコキシ、C1~C7アルコキシ、C1~C8アルコキシ、C1~C9アルコキシ、C1~C10アルコキシ、C1~C11アルコキシ、C1~C20アルコキシ、C1~C2置換アルコキシ、C1~C3置換アルコキシ、C1~C4置換アルコキシ、C1~C5置換アルコキシ、C1~C6置換アルコキシ、C1~C7置換アルコキシ、C1~C8置換アルコキシ、C1~C9置換アルコキシ、C1~C10置換アルコキシ、C1~C11置換アルコキシまたはC1~C20置換アルコキシであり得る。ここで、たとえば、C1~C10アルコキシとは、炭素原子を1~10個含む直鎖または分枝状のアルコキシを意味し、メトキシ(CHO-)、エトキシ(CO-)、n-プロポキシ(CHCHCHO-)などが例示される。
【0052】
本明細書において「アルコキシカルボニル」とは、(アルコキシ)C(=O)-基をいい、アルコキシは、上記「アルコキシ」のとおりである。
【0053】
本明細書において「アリール基」とは、芳香族炭化水素の環に結合する水素原子が1個離脱して生ずる基をいう。ベンゼンからはフェニル基(C-)、トルエンからはトリル基(CH-)、キシレンからはキシリル基((CH-)、ナフタレンからはナフチル基(C10-)が誘導される。炭素数は、6個~12個のものが挙げられる。
【0054】
本明細書において「ハロゲン(基)」とは、周期表17族(最近の定義では、17族と呼んでいる)に属する、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)などの元素の1価の基をいう。
【0055】
本明細書において「アルキルカルボニル基」とは、カルボン酸からOHを除いてできる1価の基をいう。アルキルカルボニル基の代表例としては、アセチル(CHCO-)、CCO-などが挙げられる。アルキル部分の炭素数は、1個~6個などが挙げられる。「置換アルキルカルボニル基」とは、アシルの水素を上に定義される置換基で置換したものをいう。
【0056】
本明細書において「ポリマー」とは、重合体ともいい、1種または数種の原子あるいは原子団を構成単位とし、これが互いに数多く繰り返し連結されている分子からなる物質であって、その分子の構成単位の繰り返し数が非常に多く、その物質のある物理的性質が1個あるいは数個の構成単位の増減によって変化しない物質である。ポリマーとして、ホモポリマーおよびコポリマーを挙げることができる。
【0057】
本明細書において「モノマー」とは、単量体ともいい、重合反応により高分子の基本構造の構成単位となり得る化合物をいう。1種のモノマーが複数種の構成単位を作る場合もある。本発明のモノマーはこの他、ラジカル重合を介して他の物質に結合することもできる。
【0058】
本明細書において「ホモポリマー」とは、単独重合体ともいい、単一のモノマーを用いて行う重合により得られるポリマーをいう。
【0059】
本明細書において「コポリマー」とは、共重合体ともいい、複数のモノマーを用いて行う重合により得られるポリマーをいう。本発明の代表的な実施形態では、本発明のモノマーとは異なるモノマーとの共重合で形成されたものでよい。本発明のモノマーと異なるモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル(例えば、(メタ)アクリル酸メチル)、(メタ)アクリル酸ハロゲン化物、(メタ)アクリル酸塩、スチレンまたはアクリロニトリルなどが挙げられる。
【0060】
本明細書において「重合」とは、低分子化合物(モノマー)から高分子化合物(ポリマー)が生成する反応をいう。
【0061】
本明細書において「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸および/またはメタクリル酸をいう。
【0062】
本明細書において「酸ハロゲン化物」とは、酸ハライドともいい、カルボン酸のカルボキシル基に含まれるOH基をハロゲンで置換した化合物をいう。ハロゲンの種類により、酸フッ化物、酸塩化物、酸臭化物、および酸ヨウ化物の4種が存在する。
【0063】
本明細書において「塩基」とは、ブレンステッド-ローリーの定義によるものを指し、プロトンを受け取る物質をいう。「塩基」には、弱酸とアルカリ金属との塩が挙げられる。炭酸アルカリ金属(例えば、KCO)が挙げられる。
【0064】
本明細書において「アルカリ金属」とは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびフランシウムをいう。
【0065】
本明細書において「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸、メタクリル酸、またはその両方を示す。
【0066】
本明細書において、「添加剤」とは、任意の物質に添加される物質をいう。
【0067】
本明細書において「曇り止め剤」とは、ある材料(例えば、ポリアクリル酸)の透明度を保つ物質をいい、透明性の保持は、代表的に、物質の表面をより疎水性にすることによる。
【0068】
本明細書において「リン付与剤」とは、ある物質に対してリン成分を付与する物質をいい、代表的に、ある物質に対してリンを含む基を結合させることにより達成される。(メタ)アクリル基を有するリン付与剤は、ラジカル重合可能基を有する化合物に対して、ラジカル重合により、リンを含む基を結合させることができる。リン付与剤は、例えば、肥料、農薬、医薬、殺虫剤、火薬、電子材料、触媒、難燃剤、金属表面処理剤、洗剤、不凍液、界面活性剤、消泡剤、および潤滑剤などの製造において使用され得る。
【0069】
本明細書において、「ラジカル重合可能基」とは、ラジカル反応により重合する任意の基をいう。代表的な例としては、置換基において末端に不飽和二重結合を有する基などを挙げることができるがこれに限定されない。このようなラジカル重合可能基としては、アリル、置換アリル、スチレン、置換スチレン、アクリル、置換アクリル、メタクリル、置換メタクリル等を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0070】
本発明の化合物は、塩を包含する。例えば、アルカリ金属(リチウム、ナトリウムまたはカリウム等)、アルカリ土類金属(カルシウム等)、マグネシウム、遷移金属(亜鉛、鉄等)、アンモニウム、有機塩基およびアミノ酸との塩、または無機酸(塩酸、硫酸、硝酸、臭化水素酸、リン酸またはヨウ化水素酸等)、および有機酸(酢酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、マンデル酸、グルタル酸、リンゴ酸、安息香酸、フタル酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸またはエタンスルホン酸等)との塩が挙げられる。特に塩酸、リン酸、酒石酸またはメタンスルホン酸等が挙げられる。これらの塩は、通常行われる方法によって形成させることができる。
【0071】
本発明の化合物は、特定の異性体に限定するものではなく、全ての可能な異性体(ケト-エノール異性体、イミン-エナミン異性体、ジアステレオ異性体、光学異性体および回転異性体等)やラセミ体を含むものである。
【0072】
本発明の化合物の一つ以上の水素、炭素または他の原子は、水素、炭素または他の原子の同位体で置換され得る。本発明の化合物は、本発明の化合物のすべての放射性標識体を包含する。本発明の化合物に組み込まれ得る同位体の例としては、それぞれH、H、11C、13C、14C、15N、18O、17O、31P、32P、35S、18F、123Iおよび36Clのように、水素、炭素、窒素、酸素、リン、硫黄、フッ素、ヨウ素および塩素が包含される。
【0073】
(好ましい実施形態の説明)
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本発明の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができることが理解される。
【0074】
<モノマー>
1つの局面において、本発明は、以下の一般式(I)
【0075】
【化16】
【0076】
(I)
(式中、
およびRは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のアリール基であり、
およびRは、それぞれ独立して、水素、または置換もしくは非置換のアルキル基であり、
nは、1または2であり、
ここで、nが2である場合、各Rは、それぞれ同じであっても異なっていても良く、各Rは、それぞれ同じであっても異なっていても良く、
は、水素、または置換もしくは非置換のアルキル基である)
で示される化合物またはその塩(以下、略して、本発明のモノマーと称することがある)を提供する。
【0077】
本発明のジアリールホスフィンオキシド基を有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体を使用して作製されたポリマーは、ポリアクリル酸メチルよりも吸水性が低く、ジメチル亜リン酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体を使用して作製されたポリマーよりも吸水性が低い。ラジカルを生成する条件を与えると、(メタ)アクリル酸の二重結合部分がラジカル化し、他の分子等に結合することによりリンを付与することができ、リンを含有する化合物を生成することができる。
【0078】
1つの実施形態において、本発明のモノマーにおける前記Rは、水素またはメチルである。別の実施形態において、本発明のモノマーにおける前記Rは、水素である。別の実施形態において、本発明のモノマーにおける前記Rは、メチルである。
【0079】
1つの実施形態において、本発明のモノマーにおけるnは、1である。1つの実施形態において、nは、2である。
【0080】
1つの実施形態において、本発明のモノマーにおけるRおよびRは、それぞれ独立して、水素またはC1~C6アルキル基、C1~C5アルキル基、C1~C4アルキル基、C1~C3アルキル基、C1~C2アルキル基である。別の実施形態において、本発明のモノマーにおけるRおよびRは、それぞれ独立して、水素またはメチル基である。別の実施形態において、RおよびRのうちの少なくとも1つは、置換もしくは非置換のアルキル基である。
【0081】
1つの実施形態において、本発明のモノマーにおけるRおよびRが、それぞれ独立して、フェニル基、またはハロゲン、-C1~C4アルキル、-OC1~C4アルキル、-OH、-NO、-NH、-C(=O)H、-C(=O)C1~C4アルキル、および-C(=O)OC1~C4アルキルからなる群から選択される置換基で置換されたフェニル基である。別の実施形態において、本発明のモノマーにおけるRおよびRが、それぞれ独立して、フェニル基、または-CH、-OCH、-OH、-NO、-NH、-C(=O)H、-C(=O)CH、-C(=O)OCHからなる群から選択される置換基で置換されたフェニル基である。
【0082】
1つの実施形態において、本発明のモノマーにおけるRおよびRがともにフェニル基である。
【0083】
本願において、以下の化合物が合成される。
【0084】
【化17】
【0085】
<ポリマー>
1つの局面において、本発明は、以下の一般式(II)
【0086】
【化18】
【0087】
(II)
(式中、
およびRは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のアリール基であり、
およびRは、それぞれ独立して、水素、または置換もしくは非置換のアルキル基であり、
nは、1または2であり、
ここで、nが2である場合、各Rは、それぞれ同じであっても異なっていても良く、各Rは、それぞれ同じであっても異なっていても良く、
は、水素、または置換もしくは非置換のアルキル基である)を構成成分として含むホモポリマーまたはコポリマーを提供する。
【0088】
前記ホモポリマーまたはコポリマーは、上記一般式(I)で示される化合物またはその塩を重合させることにより得られ得る。本発明のジアリールホスフィンオキシド基を有するポリマーは、ポリアクリル酸メチルよりも吸水性が低く、ジメチル亜リン酸基を有するポリマーよりも吸水性が低い。
【0089】
1つの実施形態において、本発明のポリマーにおける前記Rは、水素またはメチルである。
【0090】
1つの実施形態において、本発明のポリマーにおけるnは、1である。1つの実施形態においてnは、2である。
【0091】
1つの実施形態において、本発明のポリマーにおけるRおよびRは、それぞれ独立して、水素またはC1~C4アルキル基である。別の実施形態において、RおよびRは、それぞれ独立して、水素またはメチル基である。別の実施形態において、RおよびRのうちの少なくとも1つは、置換もしくは非置換のアルキル基である。
【0092】
1つの実施形態において、本発明のポリマーにおけるRおよびRが、それぞれ独立して、フェニル基、またはハロゲン、-C1~C4アルキル、-OC1~C4アルキル、-OH、-NO、-NH、-C(=O)H、-C(=O)C1~C4アルキル、および-C(=O)OC1~C4アルキルからなる群から選択される置換基で置換されたフェニル基である。別の実施形態において、本発明のポリマーにおけるRおよびRが、それぞれ独立して、フェニル基、または-CH、-OCH、-OH、-NO、-NH、-C(=O)H、-C(=O)CH、-C(=O)OCHからなる群から選択される置換基で置換されたフェニル基である。
【0093】
1つの実施形態において、本発明のポリマーにおけるRおよびRがともにフェニル基である。
【0094】
1つの実施形態において、本発明のポリマーが共重合体である場合、ラジカル重合性モノマーと共重合したコポリマーであり得る。ラジカル重合性モノマーは、スチレンおよびアクリル酸エステル類(例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等のアクリル酸アルキル、メチルスチレン、エチルスチレン等のアルキルスチレン等)を挙げることができるがそれらに限定されない。より詳細には、本発明の重合体を製造するために使用されうるラジカル重合モノマーとしては、例えばこのようなラジカル重合モノマーとしては、スチレン、2-メトキシスチレン、3-メトキシスチレン、4-メトキシスチレン、2-t-ブトキシスチレン、3-t-ブトキシスチレン、4-t-ブトキシスチレン、2-クロロメチルスチレン、3-クロロメチルスチレン、4-クロロメチルスチレン、2-クロロスチレン、3-クロロスチレン、4-クロロスチレン、2-ブロモスチレン、3-ブロモスチレン、4-ブロモスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-t-ブチルスチレン;エチレン、ブタジエン、プロピレン;塩化ビニル、塩化ビニリデン;酢酸ビニル;アクリロニトリル;N-ビニルピロリドン;アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸2-メトキシエチル、アクリル酸ブトキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸2-(ジエチルアミノ)エチル、アクリル酸フルフリル、アクリル酸グリシジル;アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド;メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ノニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸n-オクチル、メタクリル酸2-メトキシエチル、メタクリル酸ブトキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2-(ジエチルアミノ)エチル、メタクリル酸フルフリル、メタクリル酸グリシジル;メタクリルアミド;等を挙げることができるがこれらに限定されない。前記コポリマーは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルまたは(メタ)アクリル酸塩とのコポリマーであり得る。
【0095】
本発明は、モノマーの製造方法を提供する。その製造方法の例示と以下が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0096】
(本発明の化合物の製造方法)
(方法1)
1つのP-H結合を有するリン含有化合物(RP(=O)H)をアルデヒドまたはケトン(RC(=O)R)と反応させることにより、RP(=O)-CR-OHの中間体化合物が得られる。
【0097】
【化19】
【0098】
ここで、RおよびRは、それぞれ独立してアリールであり、RおよびRは、それぞれ独立して水素、または置換もしくは非置換のアルキル基である。
【0099】
この反応は、ジアリールホスフィンオキシドとアルデヒドまたはケトンとを溶媒中で加熱することにより行われ得る。
【0100】
この反応において使用され得るアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド(メタナール)、アセトアルデヒド(エタナール)、プロピオンアルデヒド(プロパナール)、ブタナール、ペンタナール、ヘキサナール、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナール等が挙げられる。ホルムアルデヒドとして、パラホルムアルデヒドが使用され得る。
【0101】
この反応において使用され得るケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン等が挙げられる。
【0102】
この反応において使用される溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
【0103】
上記中間体化合物に、(メタ)アクリル酸クロリドを溶媒中、塩基の存在下で反応させると、リン含有(メタ)アクリル酸エステル誘導体が得られる。
【0104】
【化20】
【0105】
この反応において使用される溶媒としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジクロロメタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等が挙げられる。アクリル酸クロリドおよびメタクリル酸クロリド等が使用され得る。使用され得る塩基としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸セシウム、トリメチルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
【0106】
上記中間体化合物に、(メタ)アクリル酸を溶媒中で反応させても、リン含有(メタ)アクリル酸エステル誘導体が得られる。
【0107】
【化21】
【0108】
この反応において使用される溶媒としては、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン(EDC)、ジエチルエーテル、THF、ジオキサン等が挙げられる。アクリル酸およびメタクリル酸等が使用され得る。
【0109】
(方法2)
1つのP-H結合を有するリン含有化合物(RP(=O)H)をエポキシド(オキシラン)
【0110】
【化22】
【0111】
と反応させることにより、RP(=O)-CH-CHR-OHの中間体化合物が得られる。
【0112】
【化23】
【0113】
ここで、RおよびRは、それぞれ独立してアリールであり、Rは、水素、または置換もしくは非置換のアルキル基である。
【0114】
この中間体化合物に、(メタ)アクリル酸クロリドを塩基の存在下で反応させると、リン含有(メタ)アクリル酸エステル誘導体
【0115】
【化24】
【0116】
が得られる。
【0117】
上記中間体化合物に、(メタ)アクリル酸を溶媒中で反応させても、リン含有(メタ)アクリル酸エステル誘導体が得られる。
【0118】
【化25】
【0119】
この反応において使用される溶媒としては、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン(EDC)、ジエチルエーテル、THF、ジオキサン等が挙げられる。アクリル酸およびメタクリル酸等が使用され得る。
【0120】
(ポリマーの製造方法)
本発明のポリマーは、本発明の化合物を重合することにより得られ得る。重合は、単独重合であっても、共重合であっても良い。重合はラジカル重合により行い得る。重合開始剤としては、アゾ化合物系熱重合開始剤として、アゾイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビスジメチルバレロニトリル(ADVN)、アゾビスメチルブチロニトリル(AMBN)等が挙げられ、有機過酸化物系熱重合開始剤として、ジベンゾイルパーオキサイド(BPO)、t-ブチルヒドロペルオキシド(TBHP)、クメンヒドロペルオキシド、ジ-t-ブチルヒドロペルオキシド等が挙げられる。
【0121】
本発明において、化合物4に由来する以下を構成成分として含む重合体が作製され得る。
【0122】
【化26】
【0123】
(A)
本発明はまた、化合物4と、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、スチレンおよびアクリルニトリルとの共重合体を提供する。
【0124】
(用途)
1つの局面において、本発明は、上記本発明の化合物またはその塩、あるいは本発明のホモポリマーまたはコポリマーを含む添加剤を提供する。添加剤の用途としては本明細書に記載される任意のものが挙げられる。
【0125】
本発明は、上記本発明の化合物またはその塩、あるいは本発明のホモポリマーまたはコポリマーを含む物品を提供する。そのような物品としては、曇り止め剤、難燃剤、電気/電子関係用部品、OA関連用部品、自動車用部品、電車用部品、航空機用部品または繊維、シート、フィルム、またはアクリルガラス、重合添加剤、表面改質剤が挙げられる。
【0126】
本発明のホモポリマーまたはコポリマーは、低吸水性であり、曇り止め剤として有用である。本発明の化合物またはその塩も曇り止め剤として使用され得る。本発明の化合物またはその塩が固体(好ましくは粉末)である場合、取り扱いが容易であり、容易に適量で使用することができる。液体である場合よりも無駄を少なくし得る。
【0127】
本発明の化合物またはその塩、あるいは本発明のホモポリマーまたはコポリマーは、リンを含んでおり、難燃剤として有用であり得る。本発明の化合物またはその塩が固体(好ましくは粉末)である場合、取り扱いが容易であり、容易に適量で使用することができる。液体である場合よりも無駄を少なくし得る。
【0128】
本発明のホモポリマーまたはコポリマーは、難燃性であり、電気/電子関係用部品、OA関連用部品、自動車用部品、電車用部品、航空機用部品または繊維等において有用である。
【0129】
本発明のホモポリマーまたはコポリマーは、成形が容易であり、透明性を有するので、シート、フィルム、またはアクリルガラスとして使用され得る。
【0130】
本発明の化合物またはその塩は、重合可能であり、重合添加剤として生成するポリマーの性質を変更させることができる。本発明の化合物またはその塩が固体(好ましくは粉末)である場合、取り扱いが容易であり、容易に適量で使用することができる。液体である場合よりも無駄を少なくし得る。
【0131】
本発明の化合物またはその塩は、物体の表面に結合することが可能であり、表面改質剤として表面の性質を変更させることができる。本発明の化合物またはその塩が固体(好ましくは粉末)である場合、取り扱いが容易であり、容易に適量で使用することができる。液体である場合よりも無駄を少なくし得る。
【0132】
1つの局面において、本発明は、上記本発明の化合物またはその塩を含む、リン付与剤を提供する。本発明のリン付与剤は、肥料、農薬、医薬、殺虫剤、火薬、電子材料、触媒、難燃剤、金属表面処理剤、洗剤、不凍液、界面活性剤、消泡剤、および潤滑剤などの製造において使用され得る。本発明の化合物またはその塩が固体(好ましくは粉末)である場合、取り扱いが容易であり、容易に適量で使用することができる。液体である場合よりも無駄を少なくし得る。
【0133】
本発明の化合物またはその塩は、ラジカル重合を容易に行い得る(メタ)アクリル酸部分を含んでおり、他の物質に容易にリンを付与することが可能である。リンが付与される対象は、(メタ)アクリル酸部分に生じるラジカルが反応し得る任意のものでよい。本発明の化合物またはその塩は、吸水率を低下させる効果があり、低吸水性の化合物を生成するのにも役立つ。本発明の化合物またはその塩が固体(好ましくは粉末)である場合、取り扱いが容易であり、容易に適量で使用することができる。液体である場合よりも無駄を少なくし得る。
【0134】
1つの局面において、本発明は、上記本発明の化合物またはその塩を使用する表面処理方法を提供する。この表面処理方法は、表面の吸水性を低下させ得る。前記方法は、前記表面に、前記一般式(I)で示される化合物または塩を重合させる工程を包含し得る。前記表面は、樹脂またはガラスであり得る。本発明の化合物またはその塩が固体(好ましくは粉末)である場合、取り扱いが容易であり、容易に適量で使用することができる。液体である場合よりも無駄を少なくし得る。
【0135】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0136】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したものではない。したがって、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例
【0137】
以下の実施例・比較例に従って本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定解釈されるものではなく、各実施例に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施例も、本発明の範囲に含まれるものとする。
【0138】
また、本明細書中で用いる略語は以下の意味を表す。
AN:アクリロニトリル
GC-MS:ガスクロマトグラフ質量分析計
MA:アクリル酸メチル
MMA:メタクリル酸メチル
NMR:核磁気共鳴
PMA:ポリアクリル酸メチル
Ph:フェニル
rt:室温(たとえば15℃~25℃)
St:スチレン
THF:テトラヒドロフラン
本発明の化合物およびその合成を、以下の実施例によってさらに説明する。本発明をさらに定義するために以下の実施例を提供するが、本発明はこれらの実施例の特徴に制限されない。特定の例では、一般名を使用し、これらの一般名が当業者に認識されると理解される。
【0139】
プロトン核磁気共鳴(H NMR)スペクトルを、測定溶媒として重クロロホルムを用いて、JEOL社製 JNM-ECX FT NMRシステムまたはJEOL社製 JNM-ECS FT NMRシステムで記録した(400MHz)。リンの核磁気共鳴(31P NMR)スペクトルを、測定溶媒として重クロロホルムを用いて、JEOL社製 JNM-ECX FT NMRシステムまたはJEOL社製 JNM-ECS FT NMRシステムで記録した(162MHz)。化学シフトを百万分率(ppm)で示し、基準として残留溶媒シグナルを使用した。NMRの略語を以下のとおり使用する:s=シングレット、d=ダブレット、dd=ダブルダブレット、m=マルチプレット。
【0140】
GCスペクトルおよびGC-MSスペクトルをバリアン製220-MSを使用し、初期温度50℃、保持時間2分、昇温レート20℃/min、到達温度250℃、保持時間10分、カラム流量 圧力制御(22.3 psi)、使用カラム アジレント・テクノロジー社製DB-5(長さ30m、内径0.25 mm、膜厚0.25 μm)という条件で得た。EI法で測定を行った。
【0141】
溶媒については、その他一般溶剤はシグマアルドリッチジャパン製一級を使用した。
【0142】
リン系化合物については、ジフェニルホスフィンオキシド(片山化学製)、ジブチルホスフィンオキシド(Yantai Gem Chemicals Co. Ltd)を用い、その他のリン化合物は市販品を用いた。
【0143】
<モノマー化合物に関する検討>
(比較例1:(メタ)アクリル酸エステル誘導体(化合物1)の合成)
(工程1.中間体の合成)
【0144】
【化27】
【0145】
亜リン酸ジメチル440.2g、パラホルムアルデヒド126.1g、炭酸カリウム25.8g、メタノール2.0Lを反応容器(3L三ツ口フラスコ)に加えた。40℃で3時間加熱撹拌した後に、反応液を濃縮することで、無色透明の粘性を持つ液体を575.3g得た。収率が100%を超えたが、これは生成物が炭酸カリウムを含むため収量が多くなっているからであると考えられる。
【0146】
(工程2.アクリル酸クロリドとの反応)
【0147】
【化28】
【0148】
工程1の化合物1の中間体210.1gをジクロロメタン1.5Lに溶解させ、炭酸カリウム238.4gを反応容器(3L三ツ口フラスコ)に加えた。反応容器を0℃に氷冷しながらアクリル酸クロリド156.1gを滴下した。反応容器を自然昇温(0℃~室温)で20時間反応させた。反応終了後、1N炭酸ナトリウムを1L加えて30分室温で撹拌後、分液し、有機層を回収した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後に濃縮、真空乾燥することで、目的の(メタ)アクリル酸エステル誘導体(化合物1)242.3gを得た(収率83%)。NMRおよびMS測定を行い、目的生成物を確認した。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 6.5 (dd, 1H), 6.2 (dd, 1H), 5.9 (dd, 1H), 4.5 (d, 2H), 3.8 (d, 6H).
31P NMR (162 MHz, CDCl3) δ 22.1.
MS測定において、目的物(化合物1)はプロトンが一つ付いた[M+H]+ = 195で検出された(図1)。
m/z = 195 [M+H]+ (親ピーク)
m/z = 164, 136, 109, 79, 55 (フラグメント)。
【0149】
(比較例2:(メタ)アクリル酸エステル誘導体(化合物2)の合成)
(工程1.中間体の合成)
比較例1の工程1と同様の手順を用いて、中間体を得た。
【0150】
(工程2.メタクリル酸クロリドとの反応)
【0151】
【化29】
【0152】
アクリル酸クロリド156.1gの代わりにメタクリル酸クロリド180.3gを用いたこと、および反応容器を自然昇温後、50℃まで反応温度を上昇させ、合計36時間反応させたこと以外は、比較例1の工程2と同様の手順を用いて、無色透明の粘性を持つ液体250.5gを得た(収率80%)。NMRおよびMS測定を行い、目的生成物を確認した。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 6.2 (d, 1H), 5.7 (d, 1H), 4.5 (d, 2H), 3.9 (d, 6H), 2.0 (s, 3H).
MS測定において、目的物(化合物2)は[M]+ = 208で検出された(図2)。
m/z = 208 [M]+(親ピーク)
m/z = 176, 150, 139, 109, 79, 69,41 (フラグメント)。
【0153】
(比較例3:(メタ)アクリル酸エステル誘導体(化合物3)の合成)
(工程1.中間体の合成)
【0154】
【化30】
【0155】
ジブチルホスフィンオキシド1.62g、パラホルムアルデヒド0.31g、THF10mLをバイアルに加え、炭酸カリウムを69mg加えた。40℃で12時間加熱撹拌した後に、酢酸エチル/水で分液し、有機層を濃縮、乾燥した。その結果、無色透明の液体1.55gが得られた(収率80.7%)。
【0156】
(工程2.アクリル酸クロリドとの反応)
【0157】
【化31】
【0158】
(EM=Exact Mass;計算精密質量)
工程1で得られた中間体をジクロロメタン10mLに溶解させ、炭酸カリウムを1.52g加えた。容器内を窒素置換し、室温で撹拌しながらアクリル酸クロリド1.06gを加え、18時間撹拌した。得られた反応混合物をジクロロメタン/水で分液し、有機層を回収した。有機層を濃縮、乾燥した後にGC-MS測定により目的物の生成を確認した。
【0159】
MS測定において、目的物(化合物3)はプロトンが一つ付いた[M+H]+ = 247で検出された(図3)。
m/z = 247 [M+H]+(親ピーク)
m/z = 217, 191, 162, 119, 80, 55 (フラグメント)。
【0160】
(実施例1:(メタ)アクリル酸誘導体(化合物4)の合成)
(工程1.中間体の合成)
【0161】
【化32】
【0162】
ジフェニルホスフィンオキシド512.3g、パラホルムアルデヒド75.1g、THF1Lを反応容器(3L三ツ口フラスコ)に加えた。40℃で16時間加熱撹拌し、TLCで反応の進行(反応率)を確認した。反応が進行したことを確認後、放冷し、結晶を析出させた。結晶を吸引濾過で回収し、真空乾燥することで、中間体を555.2gで得た(収率96%)。GC測定を行い、目的生成物を確認した。
【0163】
(工程2.アクリル酸クロリドとの反応)
【0164】
【化33】
【0165】
工程1の化合物4の中間体232.2gをジクロロメタン1.0Lに溶解させ、炭酸カリウム145.1gを反応容器(3L三ツ口フラスコ)に加えた。反応容器を0℃に氷冷しながらアクリル酸クロリド95.0gを1時間かけて滴下した。反応容器を自然昇温(0℃~室温)で20時間反応させた。反応終了後、1N炭酸ナトリウムを1L加えて30分室温で撹拌後、分液し、有機層を回収した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後に濃縮、真空乾燥することで、目的の(メタ)アクリル酸エステル誘導体(化合物4)254.2gの固体を得た(収率89%)。NMRおよびMS測定を行い、目的生成物を確認した。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.7-7.9 (m, 4H), 7.4-7.6 (m, 6H), 6.3 (dd, 1H), 6.1 (dd, 1H), 5.8 (dd, 1H), 5.0 (d, 2H).
31P NMR (162 MHz, CDCl3) δ 27.9.
MS測定において、目的物(化合物4)はプロトンが一つ付いた[M+H]+ = 287で検出された(図4)。
m/z = 287 [M+H]+ (親ピーク)
m/z = 257, 201, 173, 118, 77, 55 (フラグメント)。
【0166】
(実施例2:(メタ)アクリル酸エステル誘導体(化合物5)の合成)
(工程1.中間体の合成)
実施例1の工程1と同様の手順を用いて、中間体を得た。
【0167】
(工程2.メタクリル酸クロリドとの反応)
【0168】
【化34】
【0169】
アクリル酸クロリド95.0gの代わりにメタクリル酸クロリド104.5gを用いたこと、および反応容器を自然昇温度(0℃~室温)で20時間の代わりに、自然昇温後50℃まで反応温度を上昇させ、合計36時間反応させたこと以外は、実施例1の工程2と同様の手順を用いて反応させて、無色透明で粘性のある液体として目的の(メタ)アクリル酸エステル誘導体(化合物5)390.4gを得た。収率が100%を超えたが、これは生成物が副生成物の影響で収量が多くなっているからであると考えられる。NMRおよびMS測定を行い、目的生成物を確認した(図5参照)。化合物5は、純物質として単離した場合、常温常圧で白色の粉末状固体であった。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.8-8.0 (m, 4H), 7.4-7.6 (m, 6H), 6.0 (d, 1H), 5.5 (d, 1H), 5.0 (d, 2H), 1.8 (s, 3 H).
MS測定において、目的物(化合物5)は [M]+ = 300で検出された(図5)。
m/z = 300 [M]+ (親ピーク)
m/z = 270, 241, 223, 201, 183, 132, 77 (フラグメント)。
【0170】
(実施例3:(メタ)アクリル酸エステル誘導体(化合物6)の合成)
(工程1.中間体の合成)
【0171】
【化35】
【0172】
ジフェニルホスフィンオキシド5.0g、アセトン10mL、トルエン5mLをバイアルに入れ、50℃で2.5時間加熱撹拌した。析出した結晶を吸引濾過で回収後、乾燥し、白色固体の中間体6.0gを得た。
【0173】
(工程2.アクリル酸との反応)
【0174】
【化36】
【0175】
反応容器を窒素置換した。窒素気流下、中間体1.0g、THF4mL、アクリル酸263.4mg、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)810.2mgを順番に加えた後、室温で18時間撹拌した。反応溶液をGC-MS測定することにより目的物の生成を確認した。
【0176】
MS測定において、目的物(化合物6)は[M]+ = 314で検出された(図6)。
m/z = 314 [M]+ (親ピーク)
m/z = 301, 258, 224, 202, 155, 77 (フラグメント)。
【0177】
化合物6は、純物質として単離した場合、常温常圧で固体であった。
【0178】
(実施例4:(メタ)アクリル酸エステル誘導体(化合物7)の合成)
(工程1.中間体の合成)
【0179】
【化37】
【0180】
反応容器を窒素置換し、ジフェニルホスフィンオキシド2.0gを加え、トルエン2mL、THF10mLに溶解させた。水酸化ナトリウム400mgを加えて20分間室温で撹拌した後に、プロピレンオキシド872mgを添加し、さらに18時間室温で撹拌した。得られた反応混合物をトルエン/水で分液し、有機層を回収した。有機層をMgSO4で乾燥した後に濃縮、乾燥することで中間体2.3gを得た(収率88%)。
【0181】
(工程2.アクリル酸クロリドとの反応)
【0182】
【化38】
【0183】
得られた中間体をジクロロメタン10mLに溶解させ、炭酸カリウムを1.52g加えた。容器内を窒素置換し、室温で撹拌しながらアクリル酸クロリド1.06gを加え、18時間撹拌した。得られた反応混合物をジクロロメタン/水で分液し、有機層を回収した。有機層を濃縮・乾燥した後にGC-MS測定により目的物を確認した。
【0184】
MS測定において、目的物(化合物7)は[M]+ = 314で検出された(図7)。
※拡大すれば314のピークが確認できる
m/z = 314 [M]+ (親ピーク)
m/z = 270, 243, 201, 155, 77 (フラグメント)。
【0185】
化合物7は、純物質として単離した場合、常温常圧で固体であった。
【0186】
(比較例4:(メタ)アクリル酸エステル誘導体(化合物8)の合成)
化合物1、化合物4と同様の手法でHCA骨格を持つアクリル酸エステル誘導体(化合物8)の合成を行なった。
【0187】
(工程1.中間体の合成)
HCA 216g、トルエン400mLを反応容器に加えた後に、反応容器にDean-Stark装置を取り付けた。90℃に加熱してHCAを溶解させ、パラホルムアルデヒド31.5gを2時間かけて添加した。添加終了後、トルエン還流条件下で18時間加熱還流を行なった。反応液を室温まで放冷し、析出した白色固体を吸引濾過により回収した。
【0188】
【化39】
【0189】
(工程2.アクリル酸クロリドとの反応)
化合物8の中間体230g、ジクロロメタン1.0L、炭酸カリウム152.0gを加えた。反応容器を氷冷しながらアクリル酸クロリド115.0gを滴下した。反応容器を自然昇温で3時間反応させた後に、50℃で30時間反応させた。反応終了後、1N炭酸ナトリウムを1L加えて1時間撹拌してから吸引濾過で固体を取り除き、有機層を回収した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後に濃縮、真空乾燥することで透明で粘性のある液体109.6gを得た。
【0190】
GC-MS測定により化合物8が生成している事を確認した(図8)。
【0191】
【化40】
【0192】
目的物(化合物8)はプロトンが一つ付いた[M]+=300で検出された。
m/z=300[M]+(親ピーク)
m/z=215,199,168(フラグメント)。
【0193】
<ポリマーに関する検討>
(実施例5:ホモポリマー合成)
ホモポリマー合成として、(メタ)アクリル酸エステル誘導体(化合物1、化合物4)を用いて検討した。ポリマー化していることを示すために、GPCによる分子量測定も行った。
【0194】
(実験方法)
化合物1、および化合物4を2g試験管に量り取り、ラジカル開始剤としてAIBN 60mg(3w%)を加えた。
【0195】
AIBNをモノマーに完全に溶解させた後に、80℃に加熱し、10分間反応させた。激しく発砲し、ゴム状のポリマーが生成した。GPCの結果を図9および図10に示す。
【0196】
【表1】
【0197】
(実施例6:コポリマー合成)
化合物1、および化合物4と種々のモノマーを用いてコポリマーを合成した。また、ポリマー化していることを示すために、GPCによる平均分子量の測定も行った。次に、いくつかのコポリマーに関してはリン元素が含有されていることを示すために、ICP発光分光分析によるリン元素の定量、定性試験も行った。さらに、合成したコポリマー(共重合体2、3)の吸水性試験を行った。
【0198】
(重合方法)
以下の表の通りにモノマー、重合開始剤を反応容器に加え、メチルエチルケトン21mLに完全に溶解させた。容器を窒素置換し、70℃で6時間加熱撹拌した。反応液をヘキサンに滴下して再沈殿し、乾燥させることでコポリマーを得た。
【0199】
使用したモノマーは以下の通り。
【0200】
MA・・・アクリル酸メチル
MMA・・・メタクリル酸メチル
St・・・スチレン
AN・・・アクリロニトリル
(分子量測定方法)(GPC)
ポリマーをDMFに、1mg/mLになるように溶解させ、下記のような測定条件で分子量を測定した。
【0201】
【表2】
【0202】
測定の結果、いずれの場合においてもポリマー化が進行していることが明らかとなった。各種分子量については以下の表の通りである。GPCの結果を図11図18に示す。
【0203】
【表3】
【0204】
(リン元素の定量、および定性試験)(ICP発光分光分析装置)
試料0.1mgを硝酸5mLに入れ、380℃で硝酸分解を行った。乾固直前に硝酸5mLを追加し、さらに分解を行った。この操作を何度か繰り返し行った。分解終了後、冷却し、100mLにメスアップした。(1mg/mL)この溶液5mLを50mLにメスアップし、調製した溶液を測定試料とした。(0.5mg/mL)
測定機器:ICP発光分光分析装置Optima7300DV
測定波長:213.617nm(P元素)
測定の結果、共重合体2、3にはそれぞれ2.9%、2.1%のリン原子が含まれており、たしかに共重合していることが示唆された。また、共重合体6、7についてもリン原子が検出されており、スチレン、アクリロニトリルとも共重合していることが示された。
【0205】
上記のように、共重合体6、7については、定性試験により目的とするポリマーの生成を確認した。
【0206】
<吸水性試験>
(1)100℃で8時間乾燥させたポリマー片約0.5gをはかり、ガラス容器に入れた。
(2)ガラス容器にイオン交換水30mLを加えポリマー全体が常に水に浸かっている状態にした。
(3)水温を23℃に保ち、24時間静置した。
(4)ポリマー表面の水を拭き取り、重量を測定した。
【0207】
【表4】
【0208】
ポリアクリル酸メチルをスタンダードとして、化合物4、化合物8を共重合させたコポリマーを上記の方法で吸水性の比較を行った。その結果、化合物4では吸水性が低くなり、化合物4を共重合させることによりポリマーの吸水性が低くなることが示された。化合物4を含むコポリマーは、吸水性が化合物8のコポリマーよりもさらに吸水性が低い事が分かる。
【0209】
また、計算上のモノマー含有率(mol%)と吸水率の増減から、含有量1mol%あたりの吸水率増減を算出した。その結果、性能に大きく差が見られることが分かる。
【0210】
【表5】
【0211】
以上の様に、化合物4は、化合物8と比較して、1mol%当たりの吸水率減少が36%増加した。既存技術である化合物8と比較しても化合物4の疎水性が非常に高い事が示された。
【0212】
<リン付与に関する検討>
本発明のリン化合物4を、ラジカル重合を利用してリンを付与する反応を行った。その結果、リンを含む化合物が容易に得られることが分かった。本発明のリン化合物4は固体であり、取り扱いが容易である。
【0213】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および他の文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。本願は、日本国出願特願2016-256290(2016年12月28日出願)に対して優先権を主張するものであり、その内容はその全体が本明細書において参考として援用される。本明細書において引用した特許、特許出願および他の文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様に、その内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0214】
新規なリン化合物は、様々な用途において使用され得る。例えば、曇り止め剤、難燃剤、電気/電子関係用部品、OA関連用部品、自動車用部品、電車用部品、航空機用部品または繊維、シート、フィルム、またはアクリルガラス、重合添加剤などにおいて使用され得る。リン付与剤としても使用され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9
図10
図11
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