(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】多孔質三次元細胞培養用足場材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20240401BHJP
C12N 11/12 20060101ALI20240401BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20240401BHJP
【FI】
C12M3/00 A ZNM
C12N11/12 ZBP
C12N5/071
(21)【出願番号】P 2020539534
(86)(22)【出願日】2019-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2019033678
(87)【国際公開番号】W WO2020045488
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】P 2018158931
(32)【優先日】2018-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 良樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 健太
(72)【発明者】
【氏名】堀口 智史
(72)【発明者】
【氏名】田原 義朗
(72)【発明者】
【氏名】山本 俊郎
(72)【発明者】
【氏名】岸田 綱郎
(72)【発明者】
【氏名】秋吉 一成
(72)【発明者】
【氏名】松田 修
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0227024(US,A1)
【文献】特表2013-503037(JP,A)
【文献】国際公開第2014/157606(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/132800(WO,A1)
【文献】特開2005-298644(JP,A)
【文献】国際公開第2011/028590(WO,A2)
【文献】TAHARA, Y., et al.,"Nanogel bottom-up gel biomaterials for protein delivery: Photopolymerization of an acryloyl-modified polysaccharide nanogel macromonomer.",REACTIVE & FUNCTIONAL POLYMERS,2013年02月09日,Vol.73,pp.958-964,DOI: 10.1016/j.reactfunctpolym.2013.02.002
【文献】PON-ON, W., et al.,"Mechanical properties, biological activity and protein controlled release by poly(vinyl alcohol)-bioglass/chitosan- collagen composite scaffolds: A bone tissue engineering applications.",MATERIALS SCIENCE AND ENGINEERING C,2014年01月29日,Vol.38,pp.63-72,DOI: 10.1016/j.msec.2014.01.040
【文献】HORIGUCHI, S., et al.,"Osteogenic response of mesenchymal progenitor cells to natural polysaccharide nanogel and atelocollagen scaffolds: A spectroscopic study.",MATERIALS SCIENCE & ENGINEERING C,2019年02月21日,Vol.99,pp.1325-1340,DOI: 10.1016/j.msec.2019.02.043
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
C12N 11/00-11/18
C12N 1/00- 7/08
C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋された疎水化多糖ナノゲル粒子から構成され、
断面における細孔数が70~130個/mm
2であ
り、
多孔質三次元細胞培養用足場材料の断面における平均細孔径が5~250μmである連続した細孔を含む、多孔質三次元細胞培養用足場材料。
【請求項2】
架橋された疎水化多糖ナノゲル粒子が、フィブロネクチンでコーティングされたものである、請求項1に記載の多孔質三次元細胞培養用足場材料。
【請求項3】
架橋性基を有する疎水化多糖ナノゲルが、多糖部分、疎水性部分及び重合性部分を含む、請求項2に記載の多孔質三次元細胞培養用足場材料。
【請求項4】
多糖部分が、プルラン、アミロペクチン、アミロース、デキストラン、ヒドロキシエチルデキストラン、マンナン、レバン、イヌリン、キチン、キトサン、キシログルカンまたは水溶性セルロースである、請求項3に記載の多孔質三次元細胞培養用足場材料。
【請求項5】
疎水性部分が炭素数8~50の炭化水素基またはステリル基を含む、請求項3に記載の多孔質三次元細胞培養用足場材料。
【請求項6】
疎水性部分がコレステリル基を含む、請求項5に記載の多孔質三次元細胞培養用足場材料。
【請求項7】
重合性部分がアクリロイル、メタアクリロイル、ビニルまたはアリルを含む、請求項3に記載の多孔質三次元細胞培養用足場材料。
【請求項8】
疎水化多糖ナノゲル粒子の架橋に用いられる架橋剤がメルカプトエチルポリエチレングリコール誘導体である、請求項2に記載の多孔質三次元細胞培養用足場材料。
【請求項9】
架橋した疎水化多糖ナノゲル粒子を凍結融解し、その後に凍結乾燥することを特徴とする、請求項1~
8のいずれかに記載の多孔質三次元細胞培養用足場材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質三次元細胞培養用足場材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノテクノロジーやマテリアルサイエンスの分野より生まれた新規材料をドラッグデリバリーシステムや再生医療へ応用する試みが盛んに行われている。この中で本発明者らは主に多糖によって構成される物理架橋ナノゲルが、タンパク質医薬を封入できるキャリアとして大変有望であることを明らかにしてきた。これまでの研究によって、ナノゲルは分子シャペロン、臨床レベルの癌免疫療法、細胞内導入、経鼻型ワクチンなどにおける重要な材料として利用できることが明らかとなっている。
【0003】
特許文献1は、医薬品の徐放担体として利用できる架橋された疎水化多糖ナノゲル粒子を開示している。
【0004】
特許文献2は、骨形成促進物質と高分子ナノゲルを含有する骨形成用生体材料を開示している。
【0005】
特許文献3は、自己組織化ナノゲルを開示している。
【0006】
特許文献1~3は、骨形成促進物質などの医薬品の徐放にナノゲル粒子を提案しているが、これらのナノゲルを細胞培養に応用することは提案されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2014/157606
【文献】WO2007/83643
【文献】特開2005-298644
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、細胞増殖が促進され、細胞機能が向上した新たな細胞培養技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の多孔質三次元細胞培養用足場材料及びその製造方法を提供するものである。
項1. 架橋された疎水化多糖ナノゲル粒子から構成される多孔質三次元細胞培養用足場材料。
項2. 架橋された疎水化多糖ナノゲル粒子が、フィブロネクチンでコーティングされたものである、項1に記載の多孔質三次元細胞培養用足場材料。
項3. 架橋性基を有する疎水化多糖ナノゲルが、多糖部分、疎水性部分及び重合性部分を含む、項2に記載の多孔質三次元細胞培養用足場材料。
項4. 多糖部分が、プルラン、アミロペクチン、アミロース、デキストラン、ヒドロキシエチルデキストラン、マンナン、レバン、イヌリン、キチン、キトサン、キシログルカンまたは水溶性セルロースである、項3に記載の多孔質三次元細胞培養用足場材料。
項5. 疎水性部分が炭素数8~50の炭化水素基またはステリル基を含む、項3に記載の多孔質三次元細胞培養用足場材料。
項6. 疎水性部分がコレステリル基を含む、項5に記載の多孔質三次元細胞培養用足場材料。
項7. 重合性部分がアクリロイル、メタアクリロイル、ビニルまたはアリルを含む、項3に記載の多孔質三次元細胞培養用足場材料。
項8. 疎水化多糖ナノゲル粒子の架橋に用いられる架橋剤がメルカプトエチルポリエチレングリコール誘導体である、項2に記載の多孔質三次元細胞培養用足場材料。
項9. 多孔質三次元細胞培養用足場材料の断面における平均細孔径が5~250μmである連続した細孔を含む、項1~8のいずれか1項に記載の多孔質三次元細胞培養用足場材料。
項10. 架橋した疎水化多糖ナノゲル粒子を凍結融解し、その後に凍結乾燥することを特徴とする、項1~9のいずれかに記載の多孔質三次元細胞培養用足場材料の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の多孔質三次元細胞培養用足場材料を用いて細胞を培養することで、細胞の増殖が促進され、かつ、細胞機能の高い培養細胞を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の多孔質三次元細胞培養用足場材料を製造する手順を概略的に示す。
【
図2】NanoCliP gelとNanoCliP FD-gelのPorosity〔縦軸〕(%)を示す。2光子レーザー顕微鏡(820 nm)観察によるCLSMイメージに基づいてPorosityを計算した.*P<0.05 , N=3
【
図3】実施例1で得られた三次元培養組織の細胞生存率を示す。
【
図4】実施例2で得られた三次元培養組織の蛍光顕微鏡写真を示す。
【
図5】実施例3で得られた、三次元培養組織をAlizarin red S染色後溶出した色素の吸光度(405nm)を示す。
【
図6】実施例4で得られたNanoCliP gelとNanoCliP FD-gelの断面における細孔数と細孔径(n = 3)。NanoCliP gelと比較してt検定を行なった。* p<0.05、***p<0.001。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の多孔質三次元細胞培養用足場材料は、公知の架橋した疎水化多糖ナノゲル成形体を凍結融解し、その後に凍結乾燥することにより製造される。公知の架橋した疎水化多糖ナノゲル成形体を凍結融解したもの、或いは凍結乾燥したものを細胞培養の足場材料として使用した場合、培養細胞の細胞増殖や細胞機能が劣ることになる。したがって、架橋した疎水化多糖ナノゲル成形体について、凍結融解と凍結乾燥をこの順に行うことが必要になる。凍結融解により多孔性構造が形成され、それをさらに凍結乾燥することで培養対象の細胞や、フィブロネクチン、サイトカインなどの化学物質の導入が促進される。凍結乾燥により、細孔径はやや大きくなる。
【0013】
本発明に使用する架橋した疎水化多糖ナノゲル成形体は公知であるが、例えば以下のようにして製造することができる。
【0014】
本発明の架橋された疎水化多糖ナノゲル成形体は、架橋性基を有する疎水化多糖ナノゲルと架橋剤を溶媒とともに足場材料として適当な形状の鋳型に導入し、反応させることにより得ることができる。溶媒としては、水、低級アルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノールなど)、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジオキサンなどが挙げられ、水が好ましい。
【0015】
架橋反応の反応温度は、20~40℃、好ましくは25~37℃である。鋳型の形状は任意であり、例えば円筒状、角筒状などの筒状、シート状などの形状が挙げられる。
【0016】
架橋剤は、架橋性基を有する疎水化多糖ナノゲル100質量部に対し、10~300質量部使用される。
【0017】
架橋剤は、2つ以上のチオール基を含む。チオール基は、架橋性基を有する疎水化多糖ナノゲルの架橋性基と反応して架橋を形成する。架橋性基は、チオール基と反応する基であればよく、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸アミド、マレイミドなどのα、β-不飽和カルボニル部分を有する基が挙げられる。
【0018】
架橋剤としてはメルカプトエチルポリエチレングリコール誘導体が使用される。これにはPEG-ジチオール(HS-PEG-SH)の他、3個のアームを有するPEG-トリチオール(グリセリン核)、4個のアームを有するPEG-テトラチオール(ペンタエリスリトール核)、または8個のアームを有するPEG-オクタチオール(ヘキサグリセリン核)などの複数のアームを有するメルカプトエチルポリエチレングリコール誘導体が含まれる。前述の複数のアームを有するPEG試薬は、すべてに満たない数の、チオールで官能化されたアームを有することもできる。他の架橋剤としては、スペーサーとしてPEG基を有していてもよい芳香族多価チオール、ジメルカプトコハク酸、2,3-ジメルカプト-1-プロパンスルホン酸、チオール官能化デキストラン、およびチオール官能化ヒアルロン酸が含まれる。
【0019】
上記は、架橋剤がSH基を有するメルカプトエチルポリエチレングリコール誘導体であり、架橋性基が(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸アミド、マレイミドなどのα、β-不飽和カルボニル部分を有する基の組み合わせを例示しているが、架橋剤を(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸アミド、マレイミドなどのα、β-不飽和カルボニル部分を有する化合物とし、架橋性基をSH基としてもよい。
【0020】
架橋性基を有する疎水化多糖ナノゲルは、多糖部分、疎水性部分、架橋性部分を有しており、疎水性部分は疎水性基とリンカー基から構成され、架橋性部分は架橋性基とリンカー基から構成される。疎水性基及び架橋性基は、直接或いは適当なリンカー基を介して多糖部分に連結されている。多糖部分としては、プルラン、アミロペクチン、アミロース、デキストラン、ヒドロキシエチルデキストラン、マンナン、レバン、イヌリン、キチン、キトサン、キシログルカン、水溶性セルロースなどが挙げられ、プルランが特に好ましい。疎水性部分は、炭素数8~50の炭化水素基、ステリル基などの疎水性基と必要に応じて含まれるリンカー基から構成され、疎水性基としてはステリル基が好ましく、特にコレステリル基が好ましい。架橋性部分は、上記の架橋性基と必要に応じてリンカー基を含む。
【0021】
リンカー基としては、エステル結合(-COO-または-O-CO-)、エーテル基(-O-)、アミド基(-CONH-または-NHCO-)、ウレタン結合(-NHCOO-または-OCONH-)が挙げられ、これらが1個または複数個組み合わせられてもよい。
【0022】
疎水性部分は、質量比で多糖部分の0.1~20%程度、好ましくは0.3~15%程度、より好ましくは0.5~10%程度、特に1~5%程度である。
【0023】
架橋性部分は、質量比で多糖部分の1~50%程度、好ましくは15~30%程度、より好ましくは20~30%程度、特に20~25%程度である。
【0024】
本発明の架橋された多孔質三次元細胞培養用足場材料は、凍結乾燥処理後、多数の微小な細孔が新たに形成される。そのため、多孔質三次元細胞培養用足場材料の全体における体積換算の空孔率(Porosity)は好ましくは70~90%であり、断面における面積換算の平均細孔径は好ましくは約5~250μm程度、より好ましくは50~200μm程度、さらに好ましくは100~200μm程度であり、断面における細孔数は好ましくは30~130(個/mm2)程度、より好ましくは70~90(個/mm2)程度である。凍結乾燥により、単位体積あたりの足場材料中に占める細孔数は約4倍に、径100μmを超える細孔数は微増であるが、その平均径は約1~47%大きくなる。凍結乾燥により100μmを超えたものを除けば、その径は約6~53%増大している。凍結乾燥により、もともと存在していた、凍結融解によって形成された細孔がさらに大きくなっていることが示された。さらに、50μm以下の微小な孔の数はおよそ10倍となっており、こういった微小な細孔を細胞の仮足が捉えることで、細胞の伸展、接着に対して有利に働き、細胞にとってより生体内に近い細胞力覚をとらせることができると考えられる。
【0025】
本発明の架橋された多孔質三次元細胞培養用足場材料は、蛍光標識、生体適合性ポリマーコーティング、機能性ペプチドの複合体化を行うことができる。
【0026】
蛍光標識としては、フルオレセイン又はその誘導体(例えば、FITC)、Alexa 488、Alexa532、cy3、cy5、EDANS(5-(2'-aminoethyl)amino-1-naphthalene sulfonic acid)}、ローダミン(rhodamine)又はその誘導体(例えば、テトラメチルローダミン(TMR)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TMRITC)など)、テキサスレッド、ボディピー(BODIPY)又はその誘導体(例えば、ボディピーTR、ボディピーR6G、ボディピー564、ボディピー581などが挙げられる。
【0027】
生体適合性ポリマーとしては、フィブロネクチン、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、ゼラチン、エラスチン、ビトロネクチン、エンタクチン、テナシン、アビジン、カドヘリンなどが挙げられる。
【0028】
機能性ペプチドとしては、RGD、RGDC、RGDV、RGDSなどのインテグリン受容体を標的化するペプチドが挙げられる。
【0029】
本発明の足場材料で培養される細胞としては、特に限定されないが、例えば幹細胞(ES細胞、iPS細胞、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、皮膚幹細胞、筋幹細胞、生殖幹細胞など)、線維芽細胞、ケラチノサイト、口腔粘膜上皮細胞、気道粘膜上皮細胞、胃粘膜上皮細胞、腸管粘膜上皮細胞、血管内皮細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、歯肉細胞(歯肉線維芽細胞、歯肉上皮細胞)、白血球、リンパ球、筋細胞、結膜上皮細胞、骨芽細胞、破骨細胞などが挙げられる。
【0030】
本発明の多孔質三次元細胞培養用足場材料には、ポリ-L-リシン、ポリ-L-アルギニン、コラーゲン、ラミニン、及びフィブロネクチンなどの細胞接着を促進する材料、アスコルビン酸およびニコチンアミドなどのビタミン類、NGFおよびBDNFなどの神経栄養因子、BMPなどの骨形成因子、上皮細胞成長因子、塩基性線維芽細胞成長因子、インスリン様成長因子、IL-2などのサイトカインなどを付着させておいてもよい。
【0031】
本発明の多孔質三次元細胞培養用足場材料を用いた細胞の培養温度は37℃程度であり、培養期間は1~6週間程度、好ましくは2~5週間程度、より好ましくは3~4週間程度である。また、培地には、DMSOなどの溶媒を使用してもよい。
【0032】
培養される細胞は、ヒトだけでなく、イヌ、ネコ等の愛玩動物やマウス、ラット、ハムスター、ウシ、ウマ、ブタ、サル、ヒツジなどが挙げられる。
【0033】
本発明の多孔質三次元細胞培養用足場材料を用いて細胞培養したものは、そのまま生体内に埋入する移植材料とすることができる。したがって、多孔質三次元細胞培養用足場材料の形状は、埋入される場所に応じた形状とすることができる。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を示すが、本発明はこの実施例だけに限定されるものではない。
*NanoClik gel: Nanogel-crosslinked gel (凍結融解前の架橋ナノゲルであって、この時点では多孔質ではない)
*NanoCliP gel: Nanogel-crosslinked Porous gel (凍結融解により多孔質になった架橋ナノゲル)
*NanoCliP-FD matrix: Nanogel-crosslinked Porous freeze-dried matrix (凍結融解して得られたNanoCliP gelをさらに凍結乾燥したもの。乾燥しているので長期保存に適している。)
*NanoCliP-FD gel: Nanogel-crosslinked Porous freeze-dried gel (NanoCliP-FD matrixに溶液または細胞懸濁液等を加えてhydrationした架橋ナノゲル。NanoCliP-FD gelはNanoCliP gelよりも、凍結乾燥を行ったことで細孔数と細孔径が増大している)
*CHP:コレステリルプルラン
*CHPOA:アクリロイル基(エステル、OA)で修飾されたコレステリルプルラン
*CHPOA-Rh:アクリロイル基で修飾され、ローダミン(Rh)で標識されたコレステリルプルラン
【0035】
製造例1
図1のように、CHPOA を自己組織化させることでCHPOA nanogelを調製することができ、CHPOA naogelをPEGSHで架橋してNanoClik gelを調製することができる。NanoClik gelは多孔質ではない。NanoClik gelを凍結融解し、多孔質のNanoCliP gelを調製することができる。さらにNanoCliP gelを凍結乾燥してNanoCliP-FD matrixを調製することができ、NanoCliP-FD matrixを溶液または細胞懸濁液等でhydrationすることによってNanoCliP-FD gelを調製することができる。
【0036】
CHPOA の代わりにRhodamine-labelled CHPOA(CHPOA-Rh)を用いて上記と同様に作成すると、Rhodamine-labelled NanoClik gel, Rhodamine-labelled NanoCliP gel, Rhodamine-labelled NanoCliP-FD matrix , Rhodamine-labelled NanoCliP-FD gelを調製することができる。
【0037】
表1と
図2に、Rhodamine-labelled NanoClik gel, Rhodamine-labelled NanoCliP gel, およびRhodamine-labelled NanoCliP-FD gelのwater contentと、2光子レーザー顕微鏡(820 nm)観察によるCLSMイメージに基づいて計算したPosorityを示す。Rhodamine-labelled NanoCliP-FD gelの方がRhodamine-labelled NanoCliP gelよりも、高いporosityを有することが分かる。
【0038】
また、CHPOAナノゲルにPEGSHを添加する際(
図1)に同時に、合成RGCDペプチド (Arg-Gly-Asp-Cys) (SCRUM Inc., Tokyo, Japan) を以下のように加える。CHPOA, PEGSH と RGDC ペプチドの最終濃度がそれぞれ20 mg/mL, 35 mg/mL と 2 mg/mLである。これによって、RGDC-conjugated NanoClik gelを調製することができる。その後、RGDC-conjugated NanoCliP gel、RGDC-conjugated NanoCliP-FD matrix と RGDC-conjugated NanoCliP-FD galの調製は、RGDC 結合を行わないものと同様の方法で実施できる。
【0039】
【0040】
製造例2
Fibronectin-coated NanoCliP-FD gelの調製法。
図1のように、1×1×10 mmの大きさのNanoCliP gelをFreeze-dryし、NanoCliP-FD matrix を調製した。これを50μg/mLのhuman Fibronectin solution中に 6hr 浸漬した後、70%エタノールにて2回洗浄し、真空乾燥した。これがFibronectin-coated NanoCliP-FD matrixである。これをhydrationして、Fibronectin-coated NanoCliP-FD gelとした。
【0041】
Fibronectin-coated NanoCliP gelの調製法。
図1のように、1×1×10 mmの大きさのNanoCliP gelを調製した。純水にて洗浄後、 50μg/mLのhuman Fibronectin solution で 6hr 浸漬した。その後70%エタノールにて2回洗浄し、Fibronectin-coated NanoCliP gelとし、PBS中で保存した。
【0042】
KUSA-A1 細胞を1.0×10^5 cells/20μL となるように細胞懸濁液を調整した。24ウェルプレートに静置したFibronectin-coated NanoCliP-FD matrixに1.0×10^5 cells/20 μLを播種し、Fibronectin-coated NanoCliP-FD gelとした。また、Fibronectin-coated NanoCliP gelにも1.0×10^5 cells/20 μL を播種した。約2時間CO2インキュベーターにて静置した後、各ウェルに1mLずつ基礎培地(Dulbecco’s minimum essential medium (DMEM) supplemented with 100 mM non-essential amino acids, 100 U/ml penicillin 100 μg/ml streptomycin, and 10% fetal bovine serum (FBS))を加えた。その後さらにCO2インキュベーターにて培養し、実施例1~3に用いた。
KUSA-A1 : Japanese Collection of Research Bio-resources Cell Bank (JCRB, Osaka, Japan).
Cell Count Reagent SF (Nacalai) Lot:V9F0261
Hoechst 33342 (Dojindo) Lot:KR057
Alexa FluorTM 488 phalloidin (Life Technologies Corporation, Eugene, Oregon ) Lot : 1834338
Alizarin Red S (Sigma Aldrich)
【0043】
実施例1
約16時間培養後、各スキャフォールドを新しい24ウェルプレートに移し替え、PBSにてWash後、基礎培地を添加し、Cell Count Reagent SF (Nacalai) Lot:V9F0261を用いて 細胞のviabilityを検討した。各ウェルに培地の10%になるように上記試薬を添加し、2時間呈色反応を行い、吸光度を比較した。結果を
図3に示す。
【0044】
Fibronectin-coated NanoCliP-FD gel内で培養したKUSA-A1 細胞は、Fibronectin-coated NanoCliP gel内で培養したKUSA-A1 細胞よりも、有意に高い細胞のviabilityを示すことが示された。
【0045】
実施例2
約16時間培養後、各スキャフォールドをPBSにて2回洗浄し、4%PFAにて30分固定した。その後PBSにて2回洗浄し、下記で染色した。
Hoechst 33342 (Dojindo) Lot:KR057
Alexa FluorTM 488 phalloidin (Life Technologies Corporation, Eugene, Oregon ) Lot : 1834338
染色はそれぞれの製品のプロトコルに従った。
【0046】
【0047】
Fibronectin-coated NanoCliP gel内で培養したKUSA-A1 細胞とFibronectin-coated NanoCliP-FD gel内で培養したKUSA-A1 細胞を比較すると、後者の方がより多くの細胞の仮足が伸展して接着していることがわかった。
【0048】
実施例3
播種翌日、各ウェルの培地を基礎培地から骨分化培地(osteogenic medium:DMEM medium supplemented with 50 μg/mL ascorbic acid, 10 mM β-glycerol phosphate, 100 nM dexamethasone and 10% FBS)に交換した。3日に1度、同じ培地にて培地交換を行い、Day7にて各スキャフォールドを回収した。実施例2と同様に4%PFAにて固定後、Alizarin red S solution (Sigma Aldrich)を用いてアリザリンレッドS染色を行った。
【0049】
乾燥後、10%蟻酸溶液を用いて色素を溶出し、吸光度を測定した。
【0050】
【0051】
Fibronectin-coated NanoCliP-FD gel 内で培養したKUSA-A1 細胞の方が Fibronectin-coated NanoCliP gel内で培養したKUSA-A1 細胞よりも、有意に多量に石灰化基質を産生したことがわかる。
【0052】
実施例4
Rhodamine-labelled NanoCliP gelおよびRhodamine-labelled NanoCliP-FD gelを調製し、共焦点レーザー顕微鏡によって3次元的に撮影を行なった。画像はxy方向として667×667 μm、z方向として31.4 μm間隔で3枚の断面画像を取得した。この撮影をxy(およびz)の位置が異なる3箇所について行った(n = 3)。得られた画像についてImageJ(NIH無償提供ソフト)のAnalyze Particles機能によって、各断面に存在する細孔の数と面積を算出した。この面積を円の面積として換算した時の各細孔の直径(細孔径)を計算した。この中で直径が5 μm以下の細孔を除外し、最大径を400 μmとして各細孔を20 μm間隔に20の集団に分割したヒストグラムを作成した。各間隔にNx個の細孔が含まれており、各間隔の平均直径Dxを用いたとき、以下の式により面積平均の細孔径を算出した。
【0053】
【0054】
断面1 mm
2あたりRhodamine-labelled NanoCliP gelは32.8 ± 1.0個、Rhodamine-labelled NanoCliP-FD gelは79.6 ± 1.8個の細孔が存在した(n = 3)(
図6)。両者の値はt検定によってp<0.001で有意差が存在した。さらに面積平均の細孔径は、Rhodamine-labelled NanoCliP gelが121.4 ± 14.5 μm、Rhodamine-labelled NanoCliP-FD gelが178.2 ± 14.6 μmであった(n = 3)。両者の値はt検定によってp<0.05で有意差が存在した。従ってRhodamine-labelled NanoCliP-FD gelはRhodamine-labelled NanoCliP gelより、一断面における細孔の数が多く、細孔の占める面積も大きいということが分かった。