(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】耐性澱粉およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 30/00 20060101AFI20240401BHJP
A23C 9/13 20060101ALI20240401BHJP
A23L 3/00 20060101ALI20240401BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20240401BHJP
A23L 23/00 20160101ALI20240401BHJP
A23L 29/00 20160101ALI20240401BHJP
A23L 35/00 20160101ALI20240401BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20240401BHJP
A23L 29/212 20160101ALN20240401BHJP
【FI】
C08B30/00
A23C9/13
A23L3/00 101C
A23L5/00 N
A23L23/00
A23L29/00
A23L35/00
A61K8/73
A23L29/212
(21)【出願番号】P 2020554046
(86)(22)【出願日】2019-10-31
(86)【国際出願番号】 JP2019042870
(87)【国際公開番号】W WO2020090994
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-03-24
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2018206925
(32)【優先日】2018-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591173213
【氏名又は名称】三和澱粉工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】砂子 道弘
(72)【発明者】
【氏名】上田 泰徳
(72)【発明者】
【氏名】松本 典子
【合議体】
【審判長】井上 典之
【審判官】阪野 誠司
【審判官】関 美祝
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-229515(JP,A)
【文献】特開2010-163582(JP,A)
【文献】国際公開第2009/110610(WO,A1)
【文献】特開2011-211922(JP,A)
【文献】特開2005-113(JP,A)
【文献】特開2012-235737(JP,A)
【文献】特開2015-149948(JP,A)
【文献】特開平11-46709(JP,A)
【文献】特開平9-278802(JP,A)
【文献】特開平6-145203(JP,A)
【文献】特開平4-130102(JP,A)
【文献】貝沼圭二 等,澱粉工業学会誌,1965年,第12巻,第2号,第69-79頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
JSTPlus(JDreamIII)
JMEDPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐性澱粉を製造するための方法であって、該方法は、
原料澱粉と
、果汁またはそれと同等の溶液とを混合し、加熱に供する工程であって、
該果汁またはそれと同等の該溶液は、果糖、アスパラギン、および酸を含み、ここで該酸はクエン酸および/またはリンゴ酸であって、かつ該澱粉に対する等倍換算された該果糖の添加量が0.0025~0.25重量%であり、該アスパラギンの添加量が0.002~0.2重量%であり、かつ
該酸の添加量が0.022~2.2重量%である、工程、
該加熱に供する工程の後に、生成物を水で洗浄する工程、ならびに
超純水中で33%に懸濁し、2000×gで10分間遠心分離を行うことによって得られた上清が、350μS/cm未満の電気伝導度を示す生成物を選択する工程
を含み、
該果汁が柑橘類または核果果実類の果汁であり、該加熱に供する工程の前に、混合物のpHが、pH
3~
8に調整され、該混合により生成した混合物中の水分量は15~35%である、方法。
【請求項2】
前記
果汁はレモン、ライム、シークワサーまたは梅の果汁を含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、耐性澱粉およびその製造方法に関する。さらに本開示は、耐性澱粉を含む食品、化粧品、医薬および工業用製品などにも関する。
【背景技術】
【0002】
澱粉は、広範囲な用途に利用されており、澱粉の熱膨潤を抑制するためにエピクロルヒドリン、グリオキザール、トリメタリン酸などの架橋剤を用いた化学的架橋等の化学加工などが利用されている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。一方、澱粉に有機酸塩類を0.1~10%含有させ、加熱処理することにより澱粉を変性させて、澱粉の熱膨潤を抑制する方法も提案されている(特許文献1)。
【0003】
食品衛生法は、澱粉を処理した場合、処理の方法によっては、「食品、添加物等の規格基準」において「加工でんぷん」という「食品添加物」の一種として取り扱うこととしている。そして、近年食の安全・安心への関心の高まりから、「加工でんぷん」を避ける消費者が増加している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】貝沼圭二ら、「澱粉の構造と物性に関する研究」、澱粉科学、日本澱粉学会、1975年、第22巻、第3号、p.66-71
【文献】木原芳次郎ら、「澱粉に対するアルデヒドの作用(その1)」、澱粉工業学会誌、日本応用糖質科学会、1962年、第10巻、第1号、p.1-6
【文献】大隈一裕、「澱粉の加工と食品利用」、応用糖質科学、日本応用糖質科学会、2011年、第1巻、第1号、p.34-38
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、澱粉を酸(例えば果汁)の存在下で加熱処理を行うことにより、澱粉の物性・機能を制御出来ることを見出し、本発明を完成させた。デンプンを、加工でんぷんとしてではなく、食品として扱うことのできる酸(例えば果汁)と接触させて加熱するという単純な方法によって、膨潤抑制効果を付与することは、これまでに示唆も開示もされておらず、驚くべき効果である。
【0007】
一つの局面では、本開示は、原料澱粉と酸とを混合し、耐性澱粉が生成する条件に供する工程を含む製造方法によって作製された耐性澱粉およびその製造方法を提供する。さらに本開示の耐性澱粉は、風味の指標である電気伝導度(超純水中で33%に懸濁し、2000×gで10分間遠心分離を行うことによって得られた上清における電気伝導度)が350μS/cm未満であることを特徴とし、風味を劣化させることなく飲食品を製造することが可能になる。
【0008】
上記目的を達成するために、本開示は、例えば以下の項目を提供する。
(項目X1) 膨潤抑制澱粉であって、該膨潤抑制澱粉は、超純水中で33%に懸濁し、2000×gで10分間遠心分離を行うことによって得られた上清が、350μS/cm未満の電気伝導度を示すことを特徴とする、膨潤抑制澱粉。
(項目X2) 耐レトルト性が24%以上であることを特徴とする、上記項目に記載の膨潤抑制澱粉。
(項目X3) 耐熱性が90%以上であることを特徴とする、上記項目のいずれか一項に記載の膨潤抑制澱粉。
(項目X4) 耐酸性が58%以上であることを特徴とする、上記項目のいずれか一項に記載の膨潤抑制澱粉。
(項目X5) 膨潤抑制加工澱粉の代替として使用するための、上記項目のいずれか一項に記載の膨潤抑制澱粉を含む組成物。
(項目X6) 風味を損なわずにレトルト食品を製造するための、上記項目のいずれか一項に記載の膨潤抑制澱粉を含む組成物。
(項目X7) 高温・高シェア条件下で使用するための、上記項目のいずれか一項に記載の膨潤抑制澱粉を含む組成物。
(項目X8) 膨潤抑制澱粉を製造するための方法であって、該方法は、
原料澱粉と酸とを混合し、膨潤抑制澱粉が生成する条件に供する工程
を含む、方法。
(項目X9) 前記原料澱粉は、アミノ酸、糖またはその組み合わせとも混合される、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目X10) 前記原料澱粉がアミノ酸、糖および酸と混合される、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目X11) 前記アミノ酸、前記糖および/または前記酸が果汁として提供される、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目X12) 前記果汁が柑橘類または核果果実類の果汁である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目X13) 前記果汁がレモン、ライム、シークワサーまたは梅のものである、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目X14) 前記糖が単糖または二糖である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目X15) 前記糖が果糖である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目X16) 前記アミノ酸が中性アミノ酸である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目X17) 前記アミノ酸が、アスパラギンまたはシステインである、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目X18) 前記酸が有機酸である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目X19) 前記酸がクエン酸および/またはリンゴ酸である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目X20) 前記膨潤抑制澱粉が生成する条件に供する前に、前記原料澱粉と前記酸とを含む混合物のpHが、pH3~7に調整される、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目X21) 前記pHが、6未満である、上記項目に記載の方法。
(項目X22) 前記膨潤抑制澱粉が生成する条件に供した後に、該加熱後の生成物を水で洗浄する工程をさらに含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目X23) 前記膨潤抑制澱粉が生成する条件は、加熱する工程を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目X24) 前記加熱する工程が、120~200℃で実施される、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目X25) 前記加熱する工程が、140~180℃で実施される、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目X26) 前記加熱する工程が、40時間以下で実施される、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目X27) 上記項目のいずれか一項に記載の方法によって製造される、膨潤抑制澱粉。
(項目X28) 酸を含む、膨潤抑制澱粉を製造するための組成物。
(項目X29) アミノ酸もしくは糖、またはそれらの組み合わせをさらに含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目X30) 前記アミノ酸、前記糖および/または前記酸が果汁として提供される、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目X31) 上記項目のいずれか一項に記載の膨潤抑制澱粉を含む食品。
(項目X32) 前記食品が、ヨーグルト、ソースまたはレトルト製品である、上記項目のいずれか一項に記載の食品。
(項目X33) 上記項目のいずれか一項に記載の膨潤抑制澱粉を含む化粧品。
(項目X34) 上記項目のいずれか一項のいずれか一項に記載の膨潤抑制澱粉を含む工業用製品。
【0009】
本開示はまた、以下を提供する。
(項目1) 耐性澱粉であって、該耐性澱粉は、超純水中で33%に懸濁し、2000×gで10分間遠心分離を行うことによって得られた上清が、350μS/cm未満の電気伝導度を示すこと、および耐レトルト性が20%以上であることを特徴とする、耐性澱粉。
(項目2) 前記耐レトルト性が30%以上であることを特徴とする、上記項目に記載の耐性澱粉。
(項目3) 前記耐レトルト性が40%以上であることを特徴とする、上記項目のいずれか一項に記載の耐性澱粉。
(項目4) 耐熱性が90%以上であることを特徴とする、上記項目のいずれか一項に記載の耐性澱粉。
(項目5) 耐酸性が58%以上であることを特徴とする、上記項目のいずれか一項に記載の耐性澱粉。
(項目6) 膨潤抑制加工澱粉の代替として使用するための、上記項目のいずれか一項に記載の耐性澱粉を含む組成物。
(項目7) 風味を損なわずにレトルト食品を製造するための、上記項目のいずれか一項に記載の耐性澱粉を含む組成物。
(項目8) 高温・高シェア条件下で使用するための、上記項目のいずれか一項に記載の耐性澱粉を含む組成物。
(項目9) 耐性澱粉を製造するための方法であって、該方法は、
原料澱粉、酸、ならびに、糖およびアミノ酸のうちの少なくとも一つを混合し、加熱に供する工程、ならびに該加熱に供する工程の後に、生成物を水で洗浄する工程を含み、
該酸は、カルボン酸である、方法。
(項目10) 前記原料澱粉が前記酸、前記糖および前記アミノ酸と混合される、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目11) 前記酸、前記糖および/または前記アミノ酸が果汁として提供される、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目12) 前記原料澱粉、前記酸、および前記糖が混合される場合、前記加熱に供する工程の前に、混合物のpHが、pH3.7以上に調整される、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目13) 前記原料澱粉、前記酸、および前記アミノ酸が混合される場合、前記加熱に供する工程の前に、混合物のpHが、pH3以上に調整される、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目14) 前記原料澱粉、前記酸、前記糖および前記アミノ酸が混合される場合、前記加熱に供する工程の前に、混合物のpHが、pH3以上に調整される、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目15) 超純水中で33%に懸濁し、2000×gで10分間遠心分離を行うことによって得られた上清が、350μS/cm未満の電気伝導度を示す生成物を選択する工程をさらに包含する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目16) 上記項目のいずれか一項に記載の方法によって製造される、耐性澱粉。
(項目17) 酸を含む、耐性澱粉を製造するための組成物。
(項目18) アミノ酸もしくは糖、またはそれらの組み合わせをさらに含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目19) 前記アミノ酸、前記糖および/または前記酸が果汁として提供される、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目20) 上記項目のいずれか一項に記載の耐性澱粉を含む食品。
(項目21) 前記食品が、ヨーグルト、ソースまたはレトルト製品である、上記項目のいずれか一項に記載の食品。
(項目22) 上記項目のいずれか一項に記載の耐性澱粉を含む化粧品。
(項目23) 上記項目のいずれか一項に記載の耐性澱粉を含む工業用製品。
【0010】
本開示において、上記1または複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供されうることが意図される。本開示のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、原料澱粉と比較して顕著に膨潤性が抑制された耐性澱粉およびその製造法が提供される。したがって、本開示の耐性澱粉は、高温・高シェア条件下でも使用することができる。特に、本開示は、耐レトルト性が改善されており、高い耐レトルト性が要求されるレトルト食品、ソースやヨーグルトなどの幅広い食品用途において顕著な効果を奏する。さらに、本開示の耐性澱粉は、日本国の食品衛生法や他国の同等の法制において「食品」として扱うことが可能である。また、本開示は、膨潤抑制加工澱粉で問題となっている風味劣化を起こさずに食品の製造に使用可能なことから、膨潤抑制加工澱粉の代替として有利に使用することができる。さらに、本開示の耐性澱粉は、化粧品、医薬品、工業用製品等の様々な製品の製造に使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本開示の耐性澱粉の製造スキームの一例を示す図である。
【
図2】
図2は、実施例Bに記載の方法にしたがって測定された、原料澱粉および耐性澱粉の、Viscograph-Eにより測定された粘度曲線を示す図である。グラフの縦軸は粘度または温度を示し、横軸は時間を示す。薄い曲線は原料澱粉の粘度曲線を示し、濃い曲線は耐性澱粉の粘度曲線を示す。最も濃い線分は、時間経過での温度変化を示す。グラフ中の矢印は、ブレイクダウンの範囲を示す。
【
図3】
図3は、実施例Bに記載の方法にしたがって作製された、原料澱粉および耐性澱粉の、澱粉の粒子の顕微鏡写真を示す図である。左側は原料澱粉の写真であり、右側は耐性澱粉の写真である。スケールバーは50μmを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0014】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0015】
(用語の定義)
本明細書中で使用される場合、用語「耐性澱粉」、「耐レトルト性澱粉」および「膨潤抑制澱粉」とは、同一の意味を表すものとして互換可能に使用され、原料澱粉よりも耐レトルト性が向上した澱粉をいう。したがって、本明細書中において、澱粉の「耐性」(本明細書において「膨潤抑制」のレベル)は、代表的には耐レトルト性を測定することによって評価される。本明細書中における耐性澱粉は、好ましくは、7%以上、10%以上、16%以上、20%以上、24%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、または100%以上の耐レトルト性を有する。本明細書中で使用される場合、用語「耐レトルト性」とは、当技術分野において慣用されている(例えば、高橋禮治著、「でん粉製品の知識」、幸書房、1996年5月、p. 187-190では、「レトルト処理前」と「レトルト処理後」の「粘性変化の状態」を「レトルト耐性」との用語で表現している)とおり、澱粉の高温高圧条件下での安定性を示す指標であり、例えば以下の方法によって測定される。すなわち、無水換算で5重量%の澱粉をpH4.5の0.1Mクエン酸緩衝液に懸濁し澱粉スラリーとする。澱粉スラリーは、95℃に設定した恒温槽中で20分間、ステンレスビーカー中で円盤型攪拌羽根を用いて攪拌する。その後澱粉スラリーを25℃の恒温槽で1時間静置し、容器に入れる。レトルト処理は、オートクレーブ(株式会社トミー精工社製)にて120℃、20分間レトルト処理する。得られた糊液を用いて、レオメーター(Anton Parr社製)で動的粘弾性測定を行い、せん断速度3.16s-1の時の粘度を抽出し、以下の式で耐レトルト性を算出する。
耐レトルト性=(レトルト後の粘度/レトルト前の粘度)×100(%)
(式中、レトルト後の粘度は120℃で20分間のレトルト処理後の澱粉スラリーの粘度であり、レトルト前の粘度はレトルト処理前の澱粉スラリーの粘度である。)
なお、本開示の耐性澱粉は、代表的にはレトルト処理後に5~100,000mPa・s、好ましくは10~50,000mPa・s、好ましくは100~30,000mPa・s、好ましくは200~20,000mPa・s、好ましくは500~15,000mPa・s、より好ましくは1,000~10,000mPa・sの粘度を有する。上記レトルト処理によって澱粉スラリーの粘度が5mPa・s未満、好ましくは10mPa・s未満、より好ましくは20mPa・s未満になるものおよびゲル化するもの(概ね200,000mPa・s、好ましくは150,000mPa・s、より好ましくは100,000mPa・sよりも高い粘度を有する)は、粘度を正確に測定することが不可能である。
【0016】
追加的または代替的に、澱粉の耐性(本明細書において、膨潤抑制のレベル)は、例えば以下の方法(耐性測定方法A)によって測定することができる。
a)澱粉2gを70gの水と共に5分間・85℃の恒温槽内で攪拌・加熱を行う。
b)工程aの生成物を100mlのメスシリンダーに注ぎ、100mlにメスアップしたあと一晩放置し、目盛を測る。
工程bにおいて沈降した澱粉層の容積を、澱粉の重量で除算したもの(mL/g)が膨潤性である。したがって、膨潤性の値が小さな値であるほど、澱粉の粒子の膨潤が抑制されていることを示す。理論に束縛されることを望まないが、この耐性測定方法Aによる測定結果は、本明細書で代表的に採用する耐レトルト性と実質的に関連した数値を示すことが理解される。本明細書において、「耐性」および「膨潤抑制」は、代表的な耐レトルト性のほか、この測定抑制Aでの測定値、「耐熱性」、「耐酸性」、「耐せん断性」の指標によっても代替的にまたは追加的に評価され得る。理論に束縛されることを望まないが、本開示において、酸の存在下で、加熱、加圧などの耐性澱粉が生成する条件に原料澱粉を供することにより、膨潤性を示す指標が抑制されることが見いだされた。
【0017】
本明細書中で使用される場合、用語「耐熱性」とは、当技術分野において慣用されている(例えば、高橋禮治著、「でん粉製品の知識」、幸書房、1996年5月、p. 122-123を参照のこと)とおり、澱粉の高温条件下での安定性を示す指標であり、「耐性」の指標の1つとして代替的にまたは追加的に測定される。本明細書で使用される場合、「耐熱性」は、以下の方法によって測定される。すなわち、無水換算で6重量%の澱粉をpH4.5の0.1Mクエン酸緩衝液に懸濁し澱粉スラリーとする。ラピッド・ビスコ・アナライザー(Perten Instruments製)で、澱粉スラリーを35℃から95℃まで13分間かけて昇温し、10分間あるいは30分間保持した後、14分間かけて25℃まで冷却処理する。直後に澱粉スラリーを、レオメーター(Anton Parr社製)によって動的粘弾性測定を行い、せん断速度3.16s-1の時の粘度を抽出し、以下の式で耐熱性を算出する。
耐熱性(%)=(95℃で30分間加熱時の粘度/95℃で10分間加熱時の粘度)×100
【0018】
本明細書中で使用される場合、用語「耐酸性」とは、当技術分野において慣用されている(例えば、高橋禮治著、「でん粉製品の知識」、幸書房、1996年5月、p. 116-118を参照のこと)とおり、澱粉の酸性条件下での安定性を示す指標であり、「耐性」の指標の1つとして代替的にまたは追加的に測定される。本明細書で使用される場合、「耐酸性」は、以下の方法によって測定される。すなわち、無水換算で6重量%の澱粉をpH4.5あるいはpH3.0の0.1Mクエン酸緩衝液に懸濁し澱粉スラリーとする。ラピッド・ビスコ・アナライザー(Perten Instruments製)で、澱粉スラリーを35℃から95℃まで13分間かけて昇温し、10分間保持した後、14分間かけて25℃まで冷却処理する。直後に澱粉スラリーを、レオメーター(Anton Parr社製)によって動的粘弾性測定を行い、せん断速度3.16s-1の時の粘度を抽出し、以下の式で耐酸性を算出する。
耐酸性=(pH3.0における粘度/pH4.5における粘度)×100(%)
【0019】
本明細書中で使用される場合、用語「耐せん断性」とは、澱粉の高シェア条件下での安定性を示す指標であり、「耐性」の指標の1つとして追加的または代替的に測定される。本明細書で使用される場合、「耐せん断性」は、以下の方法によって測定される。すなわち、無水換算で5重量%の澱粉をpH4.5の0.1Mクエン酸緩衝液に懸濁し澱粉スラリーとする。澱粉スラリーは、95℃に設定した恒温槽中で20分間、ステンレスビーカー中で円盤型攪拌羽根を用いて攪拌する。その後澱粉スラリーを25℃の恒温槽で1時間静置し、容器に入れる。せん断処理は、ホモミクサーMARKII(プライミクス株式会社製)を使用し、3000rpmで2分間のせん断処理を行う。得られた糊液を用いて、レオメーター(Anton Parr社製)で動的粘弾性測定を行い、せん断速度3.16s-1の時の粘度を抽出し、以下の式で耐せん断性を算出する。
耐せん断性=(せん断後の粘度/せん断前の粘度)×100(%)
【0020】
本明細書中で使用される場合、用語「電気伝導度」とは、「導電率」および「電気伝導率」などの用語は、互換可能に使用され、電気の流れやすさを示す指標である。本明細書中で使用される場合、「電気伝導度」は、以下の方法によって測定される。すなわち、対象物(例えば澱粉)を、25℃で超純水中で重量比で33%となるように懸濁し、2000×gで10分間遠心分離を行うことによって得られた上清において、伝導率計B-173(堀場製作所製)を用いることによって測定することができる。電気伝導度の測定条件において、懸濁は、25℃で超純水中で重量比で無水33%(なお、当該分野で周知されるように、本明細書では、単に33%と称した場合も無水33%であることが理解される)。となるように実施される。なお、澱粉の物性値としては、水に溶解した場合のパラメータを測定することによっても広く評価されているため(例えば、「日本食品標準成分表2015年版(七訂)(いも及びでん粉類/(でん粉類)/じゃがいもでん粉)」(https://fooddb.mext.go.jp/details/details.pl?ITEM_NO=2_02034_7)、日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアル(http://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/detail/__icsFiles/afieldfile/2016/03/25/1368932_01_1.pdf)、および鈴木繁男、中村道徳著、「澱粉科学実験法」、朝倉書店、1979年10月、p. 279-283等を参照のこと)、上記測定方法によって測定される「電気伝導度」は、澱粉自体に固有の物性値であるといえる。理論に拘束されるものではないが、電気伝導度は、風味に関係するといわれており(例えば、特許第3513047号および特開2016-178892号公報)、本開示の耐性澱粉は、原料澱粉および加工澱粉よりも電気伝導性が顕著に改善されていることから、本開示の耐性澱粉の風味が改善されたものであると考えられる。実際、本発明者らが知るところによると、電気伝導度が高い澱粉は風味が悪く、電気伝導度が低い澱粉は風味がよいことが分かっており、官能試験などによってもこれらを知ることができる。本開示において、電気伝導度は、350μS/cm未満が好ましい。
【0021】
本明細書中で使用される場合、用語「粘度挙動」とは、「アミログラフ」等と同様の意味を有し、Brabender社から入手可能なViscograph(登録商標)-E等の粘度測定計を用いて測定される粘度の時間経過(およびそのデータ)を意味する。本明細書における粘度挙動は、無水換算で6重量%の澱粉を蒸留水に懸濁し澱粉スラリーとし、Viscograph-E(Brabender GmbH & Co KG社製)などの粘度測定計で、澱粉スラリーを50℃から95℃まで30分間かけて昇温し、30分間保持した後、30分間かけて50℃まで冷却したときの、粘度変化を経時的にに記録することによって測定される。本開示での最高粘度は上記濃度の澱粉スラリーを上記熱履歴で加熱、または加熱保持して糊化させた時の粘度曲線における最高値を指す。ただし膨潤抑制の程度が強くなると、ピーク粘度が消失し、粘度履歴は連続的に上昇する場合もある(加熱温度・時間が、180℃-4時間、200℃-1時間、や原料澱粉と酸との混合物のpHが4.51における特定例の場合)。また最低粘度は、ピーク粘度が現れて以降最も低い粘度を指す。ブレイクダウンは、最高粘度と最低粘度との差を指す。
【0022】
本明細書中で使用される場合、用語「レトルト食品」または「レトルト製品」とは、一般に、プラスチックフィルムもしくは金属はくまたはこれらを多層に合わせたものを、袋状その他の形に成形した容器(気密性および遮光性を有するものに限る)に調製した食品を詰め、熱溶融により密封し、加圧加熱殺菌したものである。本開示において「レトルト食品」とは、上記のもののほか、気密性のある容器に食品を入れ、密封した後、加圧加熱殺菌したものを含み、例えば缶詰やびん詰等、容器包装食品全体を含む。
【0023】
本明細書中で使用される場合、用語「高温・高シェア条件」とは、高温および/またはせん断性の高い条件をいい、例えば、95℃以上の温度および/または3000rpm以上の撹拌が実行される条件をいう。高温・高シェア条件で使用可能なことは、具体的には、澱粉を95℃で30分間加熱保持した後の粘度を測定することによって、耐熱性を測定する、澱粉をホモミクサーを用いて3000rpmで2分間撹拌した後の粘度を測定することによって、耐シェア性を測定する、または澱粉を120℃で20分間レトルト処理を行った後の粘度を測定することによって、耐レトルト性を測定する、といった方法によって調べることができる。
【0024】
本明細書中で使用される場合、用語「原料澱粉」とは、耐性澱粉を製造するための原料となる任意の澱粉をいう。本明細書において、「原料澱粉」とは、食品、化粧品、医薬品、工業用製品の用途において使用されるものであれば特に限定されず、例えばコーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、米澱粉、サゴ澱粉、甘藷澱粉、えんどう豆澱粉、緑豆澱粉、およびこれらに何らかの処理(例えば湿熱処理)等を施した澱粉が挙げられる。これらは、単独であっても、複数のものの組合せでも良い。本明細書における「原料澱粉」は、加工澱粉ではない。
【0025】
本明細書中で使用される場合、用語「膨潤抑制加工澱粉」とは、澱粉の膨潤が抑制された加工澱粉を意味する。本明細書において、「加工澱粉」とは、酢酸澱粉、リン酸化澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、酸化澱粉、アセチル化酸化澱粉、リン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、デンプングリコール酸ナトリウム澱粉またはデンプンリン酸エステルナトリウム澱粉、あるいは、日本国食品衛生法上「加工でんぷん」に指定され表示が義務付けられている他の澱粉または他国の同等の法制において「加工でんぷん」に相当するものをいう。
【0026】
本明細書中で使用される場合、用語「酸」とは、本技術分野で通常使用される意味で使用され、プロトン(H+)を与える、または電子対を受け取る化学種をいう。「酸」には、無機酸および有機酸が包含される。「無機酸」とは、無機化合物の酸の総称であり、水素および1つの非金属元素またはその基群からなる化合物である。無機酸としては、例えば、塩酸、硝酸、ホウ酸、硫酸、炭酸およびリン酸等が挙げられる。「有機酸」とは、有機化合物の酸の総称である。「有機酸」には、カルボキシ基を有するカルボン酸、およびスルホ基を有するスルホン酸が包含される。カルボン酸は、分子内のカルボキシ基の数によってさらに分類され、モノカルボン酸(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、キナ酸等)、ジカルボン酸(例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸等)、トリカルボン酸(例えば、クエン酸、アコニット酸等)等が挙げられる。さらにカルボン酸には、単糖の酸素基がカルボン酸に置換された化合物である、糖酸(例えば、アスコルビン酸、グルコン酸、グルクロン酸、酒石酸、クエン酸等)も包含される。本開示においては、有機酸、より好ましくはカルボン酸が使用され、特に、果汁に含まれる有機酸(例えば、クエン酸、リンゴ酸など)が好ましく利用され得るがこれらに限定されない。
【0027】
本明細書中で使用される場合、用語「アミノ酸」とは、アミノ基(NH2)またはイミノ基(>C=NH)とカルボキシル基(COOH)とを有する有機化合物をいう。本明細書中で使用される場合、「アミノ酸」には、アミノ基(NH2)またはイミノ基とカルボキシル基(COOH)とを有する有機化合物が、塩の形態であるもの、アミノ基、イミノ基および/またはカルボキシル基が結合(例えば、アミド結合、エステル結合)に利用されているもの(例えば、タンパク質中のもの)、およびアミノ基に替えてイミノ基を含むもの(例えば、プロリン)が含まれる。ある実施形態においては、「アミノ酸」は、アミノ基およびカルボキシル基が同一の炭素原子に結合する、α―アミノ酸である。本明細書中で使用される場合、「アミノ酸」としては、生物内で見られるタンパク質を主に構成するアミノ酸(アラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、スレオニン、バリン、トリプトファン、チロシン)が包含される。アミノ酸は、側鎖の種類に基づいて分類することが可能であり、塩基性アミノ酸(リジン、アルギニン、ヒスチジン、トリプトファン)、酸性アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸)、中性アミノ酸(アスパラギン、アラニン、イソロイシン、グリシン、グルタミン、システイン、スレオニン、セリン、チロシン、フェニルアラニン、プロリン、バリン、メチオニン、ロイシン)、芳香族アミノ酸(チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)、ヒドロキシアミノ酸(セリン、スレオニン、チロシン)、および含硫アミノ酸(システイン、メチオニン)等が挙げられ、理論に束縛されることを望まないが、アスパラギン、アスパラギン酸、システインなどが有利に使用され得る。
【0028】
本明細書中で使用される場合、用語「糖」とは、本技術分野で通常使用される意味で使用され、ケトン基(>C=O)またはアルデヒド基(-CHO)を有し、複数のヒドロキシル基(-OH)を有する化合物をいう。「糖」は、含まれる単糖分子の数に応じて、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖等に分類することができる。本明細書において、特に言及しない限り「糖」という場合、通常、「澱粉」は除外して解釈されるものとする。単糖としては、ブドウ糖(グルコース)、ガラクトース、マンノース、果糖(フルクトース)等が挙げられる。二糖としては、乳糖(ラクトース)、ショ糖(スクロース)、麦芽糖(マルトース)等が挙げられる。多糖としては、グリコーゲン等が挙げられ、本開示において用いることができ、好ましくは、単糖または二糖が用いられる。
【0029】
本明細書中で使用される場合、用語「果汁」とは、果物または野菜由来の汁をいう。本明細書で使用される場合、「果汁」としては、ストレートのもの、濃縮還元によって作製されるもののいずれも使用することができ、果汁以外の成分(例えば、保存料、添加物、糖類、ハチミツ、食塩等)が添加されたものであってもよい。本開示に使用される果汁としては、特に制限されないが、例えば、梅果汁、ライム果汁、シークワーサー果汁、グレープフルーツ果汁、オレンジ果汁、りんご果汁、レモン果汁、メロン果汁、ブドウ果汁、キウイ果汁、マンゴー果汁、パイナップル果汁、ライチ果汁、ナシ果汁、モモ果汁、チェリー果汁、スイカ果汁、アセロラ果汁、ゆず果汁、すだち果汁、かぼす果汁、ブラックカラント果汁、レッドラズベリー果汁などを使用することができる。本開示において使用される果汁は、単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。本開示において使用される果汁としては、果汁中に含まれるクエン酸、リンゴ酸および酒石酸の合計が0.30%以上である果汁が好ましいがこれに限定されず、同等の機能を有するものであれば、これらの果汁と同程度の耐レトルト性を付与し得る果汁の混合物や、果汁とそれ以外の成分との混合物、あるいは、人工的に構成された果汁(例えば、濃縮果汁還元物なども含む)なども、本開示の範囲内に包含されることが理解される。より具体的には、柑橘類(例えば、ライム、シークワサー、グレープフルーツ、オレンジ、レモン、ゆず、すだち、かぼす等)バラ科サクラ属の果実類(例えば、アンズ、梅、サクランボ、スモモ、モモ、プルーン、ネクタリン等)または核果果実類(例えば、梅、マンゴー、モモ、チェリー等)の果汁が好ましく、それらの代表例としてはレモン、ライム、シークワサーまたは梅の果汁を挙げることができる。
【0030】
(好ましい実施形態)
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本開示の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができることが理解される。
【0031】
また、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、ステップ、ステップの順序などは一例であり、請求の範囲を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0032】
(耐性澱粉)
一つの局面において、本開示は、耐性澱粉であって、該耐性澱粉は、超純水中で33%に懸濁し、2000×gで10分間遠心分離を行うことによって得られた上清が、350μS/cm未満の電気伝導度(本明細書において「風味用電気伝導度」ということがある)を示すことを特徴とする、耐性澱粉を提供する。風味用電気伝導度は、澱粉の風味を示す指標として広く用いられるものであり、本開示でも風味の指標として用いる。理論に束縛されることを望まないが、風味用電気伝導度が350μS/cm未満の場合に、風味の体感が感じられることが判明しているが、この数値は場合により変動し得る。したがって、本開示の耐性澱粉の風味用電気伝導度としては、代表的に、350μS/cm未満、300μS/cm未満、250μS/cm未満を挙げることができる。本開示の耐性澱粉は、優れた膨潤抑制特性を示すことに加え、食品用に使用した場合に風味を損なわずに使用することができる。
【0033】
本開示の耐性澱粉は、日本国の食品衛生法や他国の同等の法制において「食品」として扱うことが可能であるとの利点も有する。本開示の耐性澱粉は、本出願の出願当初の日本国の食品衛生法において「加工デンプン」として「食品添加物」としての表示が義務付けられている、化学処理された澱粉(すなわち、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、酢酸デンプン、酸化デンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、リン酸架橋デンプン、リン酸化デンプン、およびリン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン)に該当するものではない。したがって、本開示の耐性澱粉は、上記の化学処理を行わずに膨潤抑制効果を達成した点で有利な効果を奏する。
【0034】
(耐性澱粉の製造方法)
本開示の耐性澱粉は、原料澱粉と酸とを混合し、この混合物を耐性澱粉が生成する条件に供することによって製造される。上記原料澱粉は、食品、化粧品、医薬品、工業用製品の用途において使用されるものであれば特に限定されず、植物から製造してもよく、市販の澱粉を使用してもよい。使用される原料澱粉としては、代表的に未処理の澱粉が挙げられ、湿熱処理澱粉などの処理された澱粉を用いることもできる。処理された澱粉を用いる場合は、加工でんぷんに分類されないものが利用される。原料澱粉として、好ましいものとしては、例えば、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉、うるち米澱粉、もち米澱粉が挙げられる。
【0035】
上記製造方法における原料澱粉と酸との混合は、一般に使用される方法によって実施することができる。混合方法としては、例えば、リボンミキサー、ナウターミキサーなどの装置によって攪拌混合する方法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
一部の実施形態では、上記製造方法における酸は、有機酸である。1つの好ましい実施形態では、上記酸は、クエン酸および/またはリンゴ酸である。澱粉に対する酸の添加量は、固形分重量比で0.022~2.2重量%が好ましく、さらに好ましくは0.088~0.88重量%、最も好ましくは0.22~0.44重量%である。これらの酸は、果汁として提供されてもよく、果汁から抽出された酸または酸含有調製物として提供されてもよい。したがって、一つの実施形態では、本開示で利用される酸は、果汁に含まれる任意の酸を好ましく用いることができる。
【0037】
一部の実施形態では、上記製造方法における酸、アミノ酸および糖は、果汁として提供される。澱粉に対する等倍換算された果汁の添加量は、固形分重量比で0.5~50重量%が好ましく、さらに好ましくは2.0~20重量%、最も好ましくは5.0~10重量%である。これらの酸は、果汁として提供されてもよく、果汁から抽出された酸または酸含有調製物として提供されてもよい。したがって、一つの実施形態では、本開示で利用される酸は、果汁に含まれる任意の酸を好ましく用いることができる。
【0038】
一部の実施形態では、上記製造方法における原料澱粉は、酸に加えて、アミノ酸、糖またはその組み合わせとも混合される。一つの実施形態では、アミノ酸の種類としては、中性アミノ酸および酸性アミノ酸が好ましく、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミンまたはシステインが特に好ましい。糖の種類としては、単糖または二糖が好ましく、果糖が特に好ましい。アミノ酸の添加量は、澱粉に対する固形分重量比で、0.002~0.2重量%が好ましく、さらに好ましくは0.008~0.08重量%、最も好ましくは0.02~0.04重量%である。糖の添加量は、澱粉に対する固形分重量比で、0.0025~0.25重量%が好ましく、さらに好ましくは0.01~0.1重量%、最も好ましくは0.025~0.05%重量である。アミノ酸、糖またはその組み合わせを含む場合においても、果汁として提供されてもよく、果汁から抽出された酸とアミノ酸、糖またはその組み合わせとの混合物、または酸、アミノ酸、糖またはその組み合わせを含有する調製物として提供されてもよい。
【0039】
原料澱粉が酸、アミノ酸および糖と混合される実施形態の一部において、酸、アミノ酸および糖は、果汁として提供される。果汁の種類は特に限定されないが、柑橘類または核果果実類の果汁が好ましい。一つの好ましい実施形態では、果汁はレモン、ライム、シークワサーまたは梅、あるいはこれらの同等の果物の果汁である。
【0040】
本明細書において使用される製造方法における耐性澱粉が生成する条件は、加熱、加圧、それらの組合せを挙げることができるがそれらに限定されない。一部の実施形態では、上記製造方法における耐性澱粉が生成する条件は、加熱処理に供することである。加熱処理は、一般に使用される方法によって実施することができる。具体的には、棚式乾燥機および流動層式の焙焼装置等を使用することができる。特に好ましくは、例えばパドルドライヤー等の間接加熱式の加熱装置を使用した加熱処理であり、この方法によれば、均一に効率的に加熱を行うことが可能となる。
【0041】
一部の実施形態では、本開示において利用され得る加熱処理は、120~200℃、好ましくは140℃~200℃、さらに好ましくは140℃~180℃の温度で実施される。加熱処理の温度に関し、120℃より低温では、反応速度が遅く製造効率が悪くなり、200℃以上では澱粉分子の分解や澱粉への着色が生じ、所望の耐性澱粉が得られないと考えられるため好ましくない。加熱処理の時間は、加熱処理の温度に依存するが、1~40時間、特に好ましくは1~4時間で実施される。加熱処理の時間が短い場合には反応程度が低くなり、長い場合には澱粉分子の分解や澱粉への着色が生じ、所望の耐性澱粉が得られないと考えられるため好ましくない。
【0042】
ある実施形態では、澱粉と酸との混合物は、耐性澱粉が生成する条件の前に、予備乾燥によって無水状態にする必要がなく、そのまま耐性澱粉が生成する条件に供することができる。澱粉と酸との混合物中の水分量は15~35%が好ましく、さらに好ましくは20~30%、特に好ましくは25~30%である。水分量が15%よりも低い場合には耐性澱粉の生成効率が低下し、35%よりも高い場合にはライン適性が著しく悪化するが、本開示は、これらの特定の数値に限定されるものではない。
【0043】
一部の実施形態では、上記製造方法は、耐性澱粉が生成する条件に供する前に、原料澱粉と酸とを含む混合物のpHを調整する工程をさらに含む。原料澱粉と酸との混合物のpHは、通常、pH3~8であり、上限は、pH8以下、pH8未満、pH7以下、pH7未満、pH6以下、pH6未満などであり得、下限は、pH3以上、pH3.7以上、pH4以上、pH5以上、pH6以上などであり得、ある実施形態ではpH4~7、別の実施形態ではpH6~7である。一つの局面では、原料澱粉、酸、および糖が混合される場合、加熱に供する工程の前に、混合物のpHが、pH3.7以上に調整される。別の局面では、原料澱粉、酸、およびアミノ酸が混合される場合、加熱に供する工程の前に、混合物のpHが、pH3以上に調整される。さらに別の局面では、原料澱粉、酸、糖およびアミノ酸が混合される場合、加熱に供する工程の前に、混合物のpHが、pH3以上に調整される。原料澱粉と酸との混合物のpHが4よりも低い場合には、耐性澱粉が生成する条件下で澱粉の分解が起こり、pHが8以上の場合には、膨潤抑制の程度に大きな差は見られなくなる。
【0044】
一部の実施形態では、上記製造方法は、耐性澱粉が生成する条件に供した後に、この条件により生じた生成物(すなわち、耐性澱粉)を水で洗浄する工程をさらに含む。理論に拘束されるものではないが、洗浄する工程を行うことによって、生成物中の果汁成分、アルカリ不純物が除去され、生成物が脱色されることによって、生成物の電気伝導度が改善され、風味が改善するため、洗浄する工程は、有利な効果を奏するものである。理論に束縛されることを望まないが、水洗による風味改善効果は、本開示において見出された予想外の効果であるといえる。
【0045】
一部の実施形態では、本開示は、上記製造方法によって製造された耐性澱粉を提供する。
【0046】
(耐性澱粉の用途)
一つの局面において、本開示の耐性澱粉は、膨潤抑制加工澱粉の代替として使用することができることから、本開示は、膨潤抑制加工澱粉の代替として使用するための組成物を提供する。一つの実施形態において、本開示の耐性澱粉によって代替可能な膨潤抑制加工澱粉としては、例えばエステル化、エーテル化、酸化処理を施した澱粉やこれらの反応を組み合わせて得られる澱粉(例えば、酢酸澱粉、リン酸化澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、酸化澱粉、アセチル化酸化澱粉、リン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、デンプングリコール酸ナトリウム澱粉、デンプンリン酸エステルナトリウム澱粉など)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
別の局面において、本開示の耐性澱粉は、風味を損なわずにレトルト食品を製造するために使用することができることから、本開示は、風味を損なわずにレトルト食品を製造するための組成物を提供する。
【0048】
別の局面において、本開示の耐性澱粉は、高温・高シェア条件下で使用することができることから、本開示は、高温・高シェア条件下で使用するための組成物を提供する。したがって、本開示の耐性澱粉は、原料澱粉を使用することができなかった厳しい条件(例えば、一部のレトルト食品などでの使用)下であっても使用することができる。
【0049】
別の局面において、本開示の耐性澱粉は、食品の製造に使用することができることから、本開示は本開示の耐性澱粉を含む食品を提供する。本明細書において「食品」とは、当該分野で日常的に使用される意味を有し、人間が食することができるすべての食料(飲料を含む)を指し、一実施形態としては加工品を挙げることができる。本開示の耐性澱粉は、風味を要求される食品に特に有用である。本開示の耐性澱粉を使用して製造される食品としては、ヨーグルト、ソースまたはレトルト製品が好ましいが、これらに限定されない。本開示の食品としては、通常の食品に加え、機能性が強化された食品、例えば、特定保健用食品、機能性表示食品、栄養機能食品および他の国における同等または類似の機能を標榜する食品を挙げることができる。
【0050】
別の局面において、本開示の耐性澱粉は、化粧品の製造にも使用することができることから、本開示は本開示の耐性澱粉を含む化粧品を提供する。本明細書において「化粧品」とは、当該分野で日常的に使用される意味を有し、人の身体を清潔にし、美化する、魅力を増す、容貌を変える、または皮膚もしくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物であって、人体に対する作用が緩和なものをいう。本開示の耐性澱粉は、膨潤が抑制されていることから、泡、クリーム、およびローション中で使用され得る増粘剤、および懸濁剤として特に有用である。
【0051】
別の局面において、本開示の耐性澱粉は、工業用製品の製造にも使用することができることから、本開示は本開示の耐性澱粉を含む工業用製品を提供する。本明細書において「工業用製品」とは、当該分野で日常的に使用される意味を有し、原材料を消費して製品する工程に関わるあらゆる物品を意味する。本開示の耐性澱粉は、製紙、接着剤、繊維、建築材料、肥料、医薬、鋳物、ゴム、皮革等の様々な工業に利用可能である。
【0052】
一つの実施形態において、本開示の耐性澱粉は、医薬の製造にも使用することができることから、本開示は本開示の耐性澱粉を含む医薬を提供する。医薬としては、各国の法制化で規制対象となっているもの(例えば、医薬品、医薬部外品、再生医療等製品、サプリメント等)の任意のものに利用可能である。
【0053】
(注記)
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値の範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0054】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0055】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0056】
以下に本開示の実施例を記載する。なお、実施例中特に言及しない限り、%の表示は、重量%(w/w%)を示すことが理解される。
【0057】
(実施例A:耐性澱粉の作製)
実施例で使用した原料澱粉は、以下の供給元から入手した:三和澱粉工業株式会社、長田産業株式会社、THAI WAH(タイ)、JA清里町、上越スターチ株式会社、株式会社J-オイルミルズ。実施例で使用した果汁は、以下の供給元から入手した:中野BC株式会社、雪印メグミルク株式会社、小川香料株式会社、ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社、JAおきなわ。酸含有調製物は、等倍換算で5部の果汁と10部の水とを混合することによって得た。質量換算で100部の原料澱粉を、15部の酸含有調製物と混合し、水酸化ナトリウムを用いてpHを調整し、この混合物を、棚式乾燥機(エスペック株式会社製)を用いて150℃で4時間の加熱処理を行った。その後200部の水で2度洗浄し、脱水、乾燥し、耐性澱粉を得た(
図1)。
【0058】
(実施例B:耐性澱粉の粘度挙動および澱粉の粒子の状態)
(実験手法)
ワキシーコーンスターチを原料澱粉として、実施例Aにしたがって作製された耐性澱粉および原料澱粉を、それぞれ無水換算で6重量%となるように蒸留水中に懸濁し、澱粉スラリーを得た。Viscograph-E(Brabender GmbH & Co KG社製)で、澱粉スラリーを50℃から95℃まで30分間かけて昇温し、30分間保持した後、30分間かけて50℃まで冷却した。その間の粘度を経時的に記録した。さらに、加熱後の澱粉の状態を顕微鏡により観察した。
【0059】
(結果)
実施例Bの粘度挙動の結果を
図2に示す。
図2の結果から、本開示の耐性澱粉は、原料澱粉よりもブレイクダウン値が顕著に低減しており、澱粉の膨潤が顕著に抑制されていることが示された。さらに、
図3に示す澱粉の顕微鏡観察の結果において、原料澱粉は加熱後に澱粉の膨潤が生じ、澱粉の形態が変化しているのに対し、耐性澱粉では澱粉の形態を保持していることから、耐性澱粉では澱粉の膨潤が顕著に抑制されていることが示された。
【0060】
(実施例C:原料澱粉の種類と膨潤抑制特性との関連)
(実験手法)
原料澱粉として、コーンスターチ、タピオカ澱粉、うるち米澱粉、もち米澱粉、馬鈴薯澱粉およびワキシーコーンスターチを使用し、梅果汁を酸含有調製物として使用し、質量換算で100部の原料澱粉を、5部または15部の酸含有調製物と混合したことを除き、実施例Aに記載の方法と同一の方法によって、耐性澱粉を作製した。その後、原料澱粉および耐性澱粉の耐熱性、耐酸性、耐せん断性、耐レトルト性および電気伝導度を測定した。
【0061】
(結果)
実施例Cの結果を表Cに示す。原料澱粉としてコーンスターチを使用して作製された耐性澱粉は、優れた耐熱性、耐酸性および耐レトルト性を示し、優れた膨潤抑制特性を示すことが示された。また、電気伝導度も低く、風味に優れるものであった。これに対し、コーンスターチの原料澱粉は、耐熱性および耐レトルト性がゲル化によって測定できず、膨潤抑制特性に優れないものであった。他の原料澱粉を使用して作製された耐性澱粉においても同様の結果がもたらされた。馬鈴薯澱粉は、5部の酸含有調製物と混合した場合には、耐レトルト性が24%であったが、15部の酸含有調製物と混合した場合には、耐レトルト性が70%まで上昇した。したがって、本開示に係る製造方法は、いずれの種類の原料澱粉に対しても適用可能であることが示された。
【表C】
【0062】
(実施例D:果汁の種類と膨潤抑制特性との関連)
(実験手法)
ライム、シークワサー、グレープフルーツ、オレンジ、リンゴ、レモン、梅の果汁を酸含有調製物として使用し、果汁の種類および質量換算で100部の原料澱粉を、5部または15部の酸含有調製物と混合したことを除き、実施例Aに記載の方法と同じ方法によって、原料澱粉としてワキシーコーンスターチを使用して耐性澱粉を作製した。その後、ワキシーコーンスターチの原料澱粉と各酸含有調製物を使用して作製された耐性澱粉との耐熱性、耐酸性、耐せん断性、耐レトルト性および電気伝導度を測定した。
【0063】
(結果)
実施例Dの結果を表Dに示す。ライム、シークワサー、レモンおよび梅の果汁を酸含有調製物として使用して作製された耐性澱粉は、優れた耐熱性、耐酸性、耐せん断性および耐レトルト性を示し、優れた膨潤抑制特性を示すことが示された。リンゴの果汁を酸含有調製物として使用して作製された耐性澱粉は、5部の酸含有調製物と混合した場合には、耐レトルト性が16%であったが、15部の酸含有調製物と混合した場合には、耐レトルト性が34%まで上昇した。また、電気伝導度も低く、風味に優れるものであった。これに対し、ワキシーコーンスターチの原料澱粉の耐熱性、耐酸性、耐せん断性および耐レトルト性は、いずれの果汁を使用して作製された耐性澱粉よりも低いものであった。
【表D】
【0064】
(実施例E:果汁のpHと膨潤抑制特性との関連)
(実験手法)
実施例Aにしたがって、梅の果汁を酸含有調製物として使用し、原料澱粉としてワキシーコーンスターチを使用して耐性澱粉を作製した。本実施例では、原料澱粉と酸含有調製物との混合物に対して、加熱処理を行う前に、水酸化ナトリウムを使用してpHを3.42~7.20(実施例1~8)または2.48および8.22(比較例1および2)に調整する工程を追加した。その後、各pHに調整されて作製された耐性澱粉の耐熱性、耐酸性、耐せん断性、耐レトルト性および電気伝導度を測定した。基準粘度(mPa・s)は、レトルト処理前の粘度を示す。
【0065】
(結果)
実施例Eの結果を表Eに示す。原料澱粉と酸含有調製物との混合物をpH3.42~7.20に調整して作製された耐性澱粉は、優れた耐熱性、耐酸性、耐せん断性、耐レトルト性および基準粘度を示し、優れた膨潤抑制特性を示すことが示された。また、電気伝導度も低く、風味に優れるものであった。
【表E】
【0066】
(実施例F:加熱条件と膨潤抑制特性との関連)
(実験手法)
梅の果汁を酸含有調製物として使用し、原料澱粉としてワキシーコーンスターチを使用して、耐性澱粉を作製した。耐性澱粉の作製方法は、加熱条件を100℃、120℃、150℃、180℃または200℃で、1時間、4時間、20時間または40時間に変更したこと以外は、実施例Aに記載の方法と同様である。その後、100℃で4時間、20時間または40時間の加熱処理を行うことによって作製された澱粉と耐性澱粉との耐熱性、耐酸性、耐せん断性、耐レトルト性および電気伝導度を測定した。
【0067】
(結果)
実施例Fの結果を表Fに示す。150℃および180℃で4時間の加熱処理を行うことによって作製された耐性澱粉は、優れた膨潤抑制効果を示し、特に耐せん断性と耐レトルト性の観点から、150℃で4時間の加熱処理が実用的で優れた効果を奏することが示された。また、これらの澱粉は、電気伝導度も低く、風味に優れるものであった。データは示さないが、100℃で20~40時間の加熱処理を行うことによって作製された耐性澱粉も、耐酸性および耐レトルト性が向上しており、膨潤抑制特性を有していた。
【表F】
【0068】
(実施例G:水分量と膨潤抑制特性との関連)
(実験手法)
実施例Aにしたがって、梅の果汁を酸含有調製物として使用し、原料澱粉としてワキシーコーンスターチを使用して、耐性澱粉を作製した。耐性澱粉の作製方法は、加熱処理の工程の前に、原料澱粉の反応前水分量を12.5%、18.4%、23.0%または34.7%に調整したことを除き、実施例Aに記載の方法と同様である。その後、作製された耐性澱粉の耐熱性、耐酸性、耐せん断性、耐レトルト性および電気伝導度を測定した。
【0069】
(結果)
実施例Gの結果を表Gに示す。反応前水分量を23.0%に調整して作製された耐性澱粉は、優れた耐熱性、耐酸性、耐せん断性および耐レトルト性を示し、優れた膨潤抑制特性を示すことが示された。また、電気伝導度も低く、風味に優れるものであった。これに対し、反応前水分量を12.5%に調整して作製された澱粉の耐熱性、耐酸性、耐せん断性および耐レトルト性は、18.4%、23.0%または34.7%のいずれに調整して作製された耐性澱粉よりも低いものであった。
【表G】
【0070】
(実施例H:酸含有調製物添加量と膨潤抑制特性との関連)
(実験手法)
実施例Aにしたがって、梅の果汁を酸含有調製物として使用し、原料澱粉としてワキシーコーンスターチを使用して、耐性澱粉を作製した。耐性澱粉の作製方法は、原料澱粉と混合する梅果汁の添加量を、原料澱粉の質量に対して0.2%、0.5%、2.0%、5.0%、20%または50%となるように変更したことを除き、実施例Aに記載の方法と同様である。その後、作製された耐性澱粉および原料澱粉の耐熱性、耐酸性、耐せん断性、耐レトルト性および電気伝導度を測定した。
【0071】
(結果)
実施例Hの結果を表Hに示す。梅果汁を2.0%、5.0%、20%、50%添加して作製された耐性澱粉は、優れた耐熱性、耐酸性、耐せん断性および耐レトルト性を示し、優れた膨潤抑制特性を示すことが示された。また、電気伝導度も低く、風味に優れるものであった。データは示さないが、梅果汁を0.2%添加して作製された耐性澱粉も、耐酸性および耐せん断性が向上しており、膨潤抑制特性を有していた。
【表H】
【0072】
(実施例I:有機酸、糖およびアミノ酸の量と膨潤抑制特性との関連)
(実験手法)
本実施例では、果汁の主要な成分である、有機酸、糖およびアミノ酸と、澱粉の膨潤抑制特性との関連を調べた。果糖(実施例1)、アスパラギン(Asn)(実施例2)、クエン酸およびリンゴ酸(実施例3)、果糖およびAsn(実施例4)、クエン酸、リンゴ酸および果糖(実施例5)、クエン酸、リンゴ酸およびAsn(実施例6)、クエン酸、リンゴ酸、果糖およびAsn(実施例7)を使用して、酸含有調製物を作製した。添加した有機酸類の量は、0.739%(梅果汁16.8%相当)、0.220%(梅果汁5%相当)、0.025%(梅果汁0.57%相当)または0.0220%(梅果汁0.5%相当)となるように添加した。果糖(実施例1)、Asn(実施例2)、クエン酸単独(実施例3)、果糖およびAsn(実施例4)、クエン酸および果糖(実施例5)、クエン酸およびAsn(実施例6)、クエン酸、果糖およびAsn(実施例7)を使用して、添加した有機酸類の量が0.220%(梅果汁5%相当)となるように調整した酸含有調製物も作製した。なお、糖(果糖)およびアミノ酸(Asn)の量は表中に記載されるとおりである。この酸含有調製物を使用して、実施例Aにしたがって、原料澱粉としてワキシーコーンスターチを使用して耐性澱粉を作製した。その後、作製された耐性澱粉および原料澱粉の耐レトルト性および電気伝導性を測定した。
【0073】
(結果)
実施例Iの結果を表Iに示す。0.739%となるように有機酸を添加し、クエン酸、リンゴ酸およびAsn、またはクエン酸、リンゴ酸、果糖およびAsnを添加して作製された耐性澱粉は、優れた耐レトルト性を示し、優れた膨潤抑制特性を示すことが示された。実施例3(酸含有調製物として有機酸のみを使用したもの)は、また、電気伝導度も低く、風味に優れるものであった。これに対し、原料澱粉は、耐レトルト性に優れないものであった。有機酸として、クエン酸のみを添加した酸含有調製物を使用して調製された耐性澱粉も、クエン酸のみ、クエン酸および果糖、クエン酸およびAsn、ならびにクエン酸、果糖およびAsnの条件で優れた耐レトルト性を示し、電気伝導度も低かった。果糖のみ、Asnのみ、ならびに果糖およびAsnを含む酸含有調製物を使用して調製された耐性澱粉は、耐レトルト性が原料澱粉と同程度であり、耐レトルト性が付与されていなかった。
【表I-1】
【表I-2】
【表I-3】
【表I-4】
【表I-5】
【0074】
(実施例J:有機酸の種類と膨潤抑制特性との関連)
(実験手法)
本実施例では、有機酸類の種類と澱粉の膨潤抑制特性との関連を調べた。クエン酸(実施例1)、リンゴ酸(実施例2)、酒石酸(実施例3)、キナ酸(実施例4)を使用して、酸含有調製物を作製した。添加した有機酸類の量は、0.165%となるように添加した。この酸含有調製物を使用して、実施例Aにしたがって、原料澱粉としてワキシーコーンスターチを使用して耐性澱粉を作製した。その後、作製された耐性澱粉および原料澱粉の耐レトルト性および電気伝導度を測定した。
【0075】
(結果)
実施例Jの結果を表Jに示す。クエン酸、リンゴ酸および酒石酸を使用して作製された耐性澱粉は、同程度の耐レトルト性を示した。また、電気伝導度も低く、風味に優れるものであった。キナ酸を使用して作製された耐性澱粉は、電気伝導度は良好であったが、耐レトルト性が低かった。これに対し、原料澱粉は、耐レトルト性に優れないものであった。
【表J】
【0076】
(実施例K:酸の種類と膨潤抑制特性との関連)
(実験手法)
本実施例では、酸の種類と澱粉の膨潤抑制特性との関連を調べた。トリカルボン酸として、クエン酸(実施例1)およびアコニット酸(実施例2)、ジカルボン酸として、リンゴ酸(実施例3)、酒石酸(実施例4)、シュウ酸(実施例5)およびコハク酸(実施例6)、モノカルボン酸として、酢酸(実施例7)およびキナ酸(実施例8)、スルホン酸として、メタンスルホン酸(実施例9)およびタウリン(実施例10)、糖酸として、アスコルビン酸(実施例11)、グルコン酸(実施例12)およびグルクロン酸(実施例13)を使用して、さらに、複数種の有機酸の添加系として、クエン酸とリンゴ酸との混合物(実施例14)、ならびにクエン酸とアスコルビン酸との混合物(実施例15)を使用して、酸含有調製物を作製した。有機酸類は、0.22%となるように添加した。比較例として、無機酸である塩酸および硫酸を使用して、酸含有調製物を作製した。これらの酸含有調製物を使用して、実施例Aにしたがって、原料澱粉としてワキシーコーンスターチを使用して耐性澱粉を作製した。その後、作製された耐性澱粉および原料澱粉の耐レトルト性および電気伝導度を測定した。
【0077】
(結果)
実施例Kの結果を表Kに示す。トリカルボン酸、ジカルボン酸、モノカルボン酸、糖酸および複数種の有機酸の混合物を使用して作製された耐性澱粉は、優れた耐レトルト性を示した。スルホン酸を使用して作製された耐性澱粉も、耐レトルト性が付与されていた。また、これらの耐性澱粉は、電気伝導度も低く、風味に優れるものであった。これに対し、無機酸を使用して作製された耐性澱粉は、耐レトルト性に優れないものであった。
【表K】
【0078】
(実施例L:糖の種類と膨潤抑制特性との関連)
(実験手法)
本実施例では、糖の種類と澱粉の膨潤抑制特性との関連を調べた。クエン酸0.554%およびリンゴ酸0.185%と、ショ糖(実施例1)、ブドウ糖(実施例2)または果糖(実施例3)との混合物、および糖を含まないもの(比較例2)を使用して、酸含有調製物を作製した。この酸含有調製物を使用して、実施例Aにしたがって、原料澱粉としてワキシーコーンスターチを使用して耐性澱粉を作製した。その後、作製された耐性澱粉および原料澱粉の耐レトルト性および電気伝導度を測定した。
【0079】
(結果)
実施例Lの結果を表Lに示す。糖としてブドウ糖を含む酸含有調製物を使用して作製された耐性澱粉は、優れた耐レトルト性を示した。また、電気伝導度も低く、風味に優れるものであった。これに対し、原料澱粉は、耐レトルト性に優れないものであった。
【表L】
【0080】
(実施例M:酸の存在下で添加した糖の種類と膨潤抑制特性との関連)
(実験手法)
本実施例では、クエン酸の存在下で添加した糖の種類と澱粉の膨潤抑制特性との関連を調べた。クエン酸0.739%と、ショ糖(実施例1)、ブドウ糖(実施例2)または果糖(実施例3)との混合物、および糖を含まないもの(比較例2)を使用して、酸含有調製物を作製した。この酸含有調製物を使用して、実施例Aにしたがって、原料澱粉としてワキシーコーンスターチを使用して耐性澱粉を作製した。その後、作製された耐性澱粉および原料澱粉の耐レトルト性および電気伝導度を測定した。
【0081】
(結果)
実施例Mの結果を表Mに示す。クエン酸と組み合わせていずれの糖を使用して酸含有調製物を調製した場合であっても、作製された耐性澱粉は、優れた耐レトルト性を示した。さらに、これらの耐レトルト性は、クエン酸単独を使用した場合よりも高い耐レトルト性であった。また、電気伝導度も低く、風味に優れるものであった。これに対し、原料澱粉は、耐レトルト性に優れないものであった。
【表M】
【0082】
(実施例N:酸およびアミノ酸の存在下で添加した糖の種類と膨潤抑制特性との関連)
(実験手法)
本実施例では、クエン酸、リンゴ酸およびアミノ酸の存在下で添加した糖の種類と澱粉の膨潤抑制特性との関連を調べた。クエン酸0.554%、リンゴ酸0.185%およびアミノ酸(アスパラギン)0.067%と、ショ糖(実施例1)、ブドウ糖(実施例2)または果糖(実施例3)との混合物、ならびに糖を含まないもの(比較例2)を使用して、酸含有調製物を作製した。この酸含有調製物を使用して、実施例Aにしたがって、原料澱粉としてワキシーコーンスターチを使用して耐性澱粉を作製した。その後、作製された耐性澱粉および原料澱粉の耐レトルト性および電気伝導度を測定した。
【0083】
(結果)
実施例Nの結果を表Nに示す。クエン酸およびリンゴ酸およびアミノ酸と組み合わせていずれの糖を使用して酸含有調製物を調製した場合であっても、作製された耐性澱粉は、優れた耐レトルト性を示した。さらに、これらの耐レトルト性は、クエン酸およびアミノ酸のみを使用した場合よりも高い耐レトルト性であった。また、電気伝導度も低く、風味に優れるものであった。これに対し、原料澱粉は、耐レトルト性に優れないものであった。
【表N】
【0084】
(実施例O:アミノ酸の種類と膨潤抑制特性との関連)
(実験手法)
本実施例では、アミノ酸の種類と澱粉の膨潤抑制特性との関連を調べた。クエン酸0.165%およびリンゴ酸0.055%と、Asn(実施例1)、Gln(実施例2)、Glu(実施例3)、Arg(実施例4)、Ser(実施例5)、Trp(実施例6)、Cys(実施例7)、Ala(実施例8)またはPro(実施例9)との混合物、およびアミノ酸を含まないもの(比較例2)を使用して、酸含有調製物を作製した。この酸含有調製物を使用して、実施例Aにしたがって、原料澱粉としてワキシーコーンスターチを使用して耐性澱粉を作製した。その後、作製された耐性澱粉および原料澱粉の耐レトルト性および電気伝導度を測定した。
【0085】
(結果)
実施例Oの結果を表Oに示す。アミノ酸としてAsnまたはCysを含む酸含有調製物を使用して作製された耐性澱粉は、優れた耐レトルト性を示した。また、電気伝導度も低く、風味に優れるものであった。この結果から、中性アミノ酸が耐性澱粉の製造に有用である可能性が示された。これに対し、原料澱粉は、耐レトルト性に優れなかった。
【表O】
【0086】
(実施例P:酸の存在下でのアミノ酸の種類と膨潤抑制特性との関連)
(実験手法)
本実施例では、酸の存在下で添加したアミノ酸の種類と澱粉の膨潤抑制特性との関連を調べた。クエン酸0.22%と、Asn(実施例1)、Gln(実施例2)、Glu(実施例3)、Arg(実施例4)、Ser(実施例5)、Trp(実施例6)、Cys(実施例7)、Ala(実施例8)またはPro(実施例9)との混合物、およびアミノ酸を含まないもの(比較例2)を使用して、酸含有調製物を作製した。この酸含有調製物を使用して、実施例Aにしたがって、原料澱粉としてワキシーコーンスターチを使用して耐性澱粉を作製した。その後、作製された耐性澱粉および原料澱粉の耐レトルト性および電気伝導度を測定した。
【0087】
(結果)
実施例Pの結果を表Pに示す。クエン酸と組み合わせていずれのアミノ酸を使用して酸含有調製物を調製した場合であっても、作製された耐性澱粉は、優れた耐レトルト性を示した。さらに、これらの耐レトルト性は、クエン酸単独を使用した場合よりも高い耐レトルト性であった。また、電気伝導度も低く、風味に優れるものであった。これに対し、原料澱粉は、耐レトルト性に優れないものであった。これに対し、原料澱粉は、耐レトルト性に優れなかった。
【表P】
【0088】
(実施例Q:酸および糖の存在下でのアミノ酸の種類と膨潤抑制特性との関連)
(実験手法)
本実施例では、酸および糖の存在下で添加したアミノ酸の種類と澱粉の膨潤抑制特性との関連を調べた。クエン酸0.165%、リンゴ酸0.055%、ならびに糖(果糖)0.025%と、Asn(実施例1)、Gln(実施例2)、Glu(実施例3)、Arg(実施例4)、Ser(実施例5)、Trp(実施例6)、Cys(実施例7)、Ala(実施例8)またはPro(実施例9)との混合物、ならびにアミノ酸を含まないもの(比較例2)を使用して、酸含有調製物を作製した。この酸含有調製物を使用して、実施例Aにしたがって、原料澱粉としてワキシーコーンスターチを使用して耐性澱粉を作製した。その後、作製された耐性澱粉および原料澱粉の耐レトルト性および電気伝導度を測定した。
【0089】
(結果)
実施例Qの結果を表Qに示す。酸および糖と組み合わせていずれのアミノ酸を使用して酸含有調製物を調製した場合であっても、作製された耐性澱粉は、優れた耐レトルト性を示した。さらに、これらの耐レトルト性は、Arg(実施例4)を除き、酸および糖のみを使用した場合よりも高い耐レトルト性であった。また、電気伝導度も低く、風味に優れるものであった。これに対し、原料澱粉は、耐レトルト性に優れないものであった。
【表Q】
【0090】
(実施例R:酸、糖およびアミノ酸の量を変動させた場合の膨潤抑制特性)
(実験手法)
本実施例では、酸、糖およびアミノ酸の量を変動させて作製された膨潤抑制特性の比較を行った。クエン酸を0.022%、0.22%および3.45%、果糖を0.0025%、0.025%および1.6%、Asnを0.0015%、0.02%および0.2%の量に変動させて、酸含有調製物を調製し、この酸含有調製物を使用して、実施例Aにしたがって、原料澱粉としてワキシーコーンスターチを使用して耐性澱粉を作製した。対照として、ワキシーコーンスターチの原料澱粉を使用した。その後、作製された耐性澱粉および原料澱粉の耐レトルト性および電気伝導度を測定した。
【0091】
(結果)
実施例Rの結果を表Rに示す。クエン酸、果糖およびAsnをいずれの量で組み合わせた場合であっても、作製された耐性澱粉は、優れた耐レトルト性を示した。また、電気伝導度も低く、風味に優れるものであった。これに対し、原料澱粉は、耐レトルト性に優れないものであった。
【表R】
【0092】
(実施例S:酸、糖およびアミノ酸の量を変動させた場合の膨潤抑制特性)
(実験手法)
本実施例では、酸を含み、糖およびアミノ酸のいずれかを含まず、酸および糖またはアミノ酸の量を変動させて作製された膨潤抑制特性の比較を行った。クエン酸を0.022%、0.22%および3.45%、果糖を0%、0.0025%、0.025%および1.6%、Asnを0%、0.0015%、0.02%および0.2%の量に変動させて、酸含有調製物を調製し、この酸含有調製物を使用して、実施例Aにしたがって、原料澱粉としてワキシーコーンスターチを使用して耐性澱粉を作製した。対照として、ワキシーコーンスターチの原料澱粉を使用した。その後、作製された耐性澱粉および原料澱粉の耐レトルト性および電気伝導度を測定した。
【0093】
(結果)
実施例Sの結果を表Sに示す。本実施例におけるいずれの条件であっても、作製された耐性澱粉は、優れた耐レトルト性を示した。また、電気伝導度も低く、風味に優れるものであった。これに対し、原料澱粉は、耐レトルト性に優れないものであった。
【表S】
【0094】
(実施例T:洗浄の有無と膨潤抑制特性との比較)
(実験手法)
本実施例では、実施例Aに記載の本開示の耐性澱粉の製造方法において、洗浄を行ったものと行っていないものとで、膨潤抑制特性の比較を行った。耐性澱粉は、(1)梅果汁5.0%、(2)梅果汁5.0%相当の果糖、アスパラギン、クエン酸およびリンゴ酸の混合物、(3)レモン果汁5.0%のいずれかの酸含有調製物を、原料澱粉であるワキシーコーンスターチまたはタピオカ澱粉と混合し、水による洗浄を行ったものと行っていないものとを作製した。その後製造された耐性澱粉の電気伝導性、風味および匂いを測定した。
【0095】
電気伝導度は、無水で3.0gの澱粉に超純水を入れて合計で9.0gとし(無水33%)、遠心分離を2000×gで10分行った後上清を測定した。ラピッド・ビスコ・アナライザー(Perten Instruments製)で、5質量%の澱粉スラリー30gを、35℃から95℃まで13分間かけて昇温し、10分間保持した後、14分間かけて25℃まで冷却した。完成した糊液の風味、匂いを4人のパネラーが評価した。評価は1~5の5段階評価(評価が高いほど高得点)で点数をつけた。比較対象として、他社の製品(Novation2600)についても評価を行った。
【0096】
(結果)
実施例Tの結果を表Tに示す。梅果汁5.0%、または梅果汁5.0%相当の果糖、アスパラギン、クエン酸およびリンゴ酸の混合物で処理したワキシーコーンスターチ、ならびにレモン果汁5.0%で処理したタピオカ澱粉のいずれも、未洗浄では電気伝導度が1000以上であった。未洗浄の澱粉は、風味および匂いの評価が1~3であり、加熱に起因すると考えられる焦げっぽい味、匂いが強かった。これに対し、洗浄を行ったいずれの澱粉も、電気伝導度が240以下であり、風味および匂いの評価は4であり、未洗浄品よりも良好な風味および匂いを有していた。さらに、洗浄を行ったいずれの澱粉も、Novation2600よりも良好な電気伝導度、風味および匂いを有していた。
【表T】
【0097】
(実施例U:他社製品との比較)
(実験手法)
本実施例では、本開示の耐性澱粉と他社の膨潤抑制澱粉とで、膨潤抑制特性の比較を行った。本開示の耐性澱粉は、ワキシーコーンスターチおよびタピオカ澱粉を原料澱粉として使用し、梅果汁を酸含有調製物として使用して、実施例Aに記載の方法にしたがって製造した。他社の膨潤抑制澱粉として、Novation(登録商標)2300、2600、2700、、3300およびPrima 600(Ingredion)ならびにClaria(登録商標)PlusおよびElite(Tate&Lyle)を使用した。その後製造された耐性澱粉、他社の膨潤抑制澱粉および原料澱粉の耐熱性、耐酸性、耐せん断性、耐レトルト性、電気伝導性を測定した。
【0098】
(結果)
実施例Uの結果を表Uに示す。本開示の耐性澱粉は、耐熱性、耐酸性、耐せん断性、耐レトルト性、電気伝導性のいずれにおいても良好な値を示した。一方で、他社の膨潤抑制澱粉は、電気伝導度が高く、風味に優れないことが示された。原料澱粉は、耐熱性、耐酸性、耐せん断性および耐レトルト性に優れないものであった。
【表U】
【0099】
(実施例V:官能評価)
本開示の耐性澱粉を使用して作製された食品の官能評価を行った。本開示の耐性澱粉の比較対象として、Novation(登録商標)(Ingredion;他社物理加工澱粉)およびコルフロ(登録商標)67(Ingredion;加工澱粉)を使用した。官能評価は、4名のパネラーによって実施した。マンゴーソースおよびみたらしのタレは、風味の良さを評価し、焼き鳥のタレについては風味の良さに加え、鶏肉に絡めて食した時の後味を評価し、5段階評価(評価が高いほど高得点)で点数をつけた。
【0100】
(実施例W:マンゴーソースの官能評価)
(実験手法)
本実施例では、本開示の耐性澱粉を使用して作製されたマンゴーソースの官能評価を示す。耐性澱粉は、原料澱粉としてワキシーコーンスターチを使用し、梅果汁を酸含有調製物として使用して作製された。マンゴーソースは、以下の配合表に記載の材料を使用して作製した。
【表W-1】
【0101】
液体材料と、あらかじめ混ぜ合わせておいた粉類をステンレスビーカーに入れて、温度計で混合しながら95℃の恒温槽で60℃まで加温する。加温後は95℃の恒温槽内で、750rpmで20分間加熱しながら2枚羽の撹拌羽を使用して攪拌を行い、完成したマンゴーソースは氷水中で冷ました。作製されたマンゴーソースの風味を官能評価した。
【0102】
(結果)
実施例Wの結果を表W-2に示す。本開示の耐性澱粉を使用して作製されたマンゴーソースは、原料澱粉を使用して作製されたものよりも穀物臭が低減された。そして、本開示の耐性澱粉を使用して作製されたマンゴーソースは、他社物理加工澱粉および加工澱粉よりもえぐみが少なく、マイルドな風味であった。
【表W-2】
【0103】
(実施例W-3:マンゴーソースの官能評価)
(実験手法)
本実施例では、酸含有調製物として使用する果汁を変化させて、耐性澱粉を作製した場合のマンゴーソースの官能評価を示す。耐性澱粉は、原料澱粉としてワキシーコーンスターチを使用し、レモン、ライム、シークワサー、オレンジ、グレープフルーツまたはリンゴの果汁を酸含有調製物として使用して作製された。マンゴーソースは、実施例W-1に記載の配合表の材料および調理方法にしたがって作製した。作製されたマンゴーソースの風味を官能評価した。
【0104】
(結果)
実施例W-3の結果を表W-3に示す。レモンの果汁を用いて作製した酸含有調製物を使用した場合に最も高い評価が得られ、ライム、シークワサー、オレンジ、グレープフルーツおよびリンゴの果汁を用いて作製した酸含有調製物を使用した場合であっても高い評価が得られた。そして、いずれの果汁を用いて作製した酸含有調製物を使用した場合であっても、他社物理処理澱粉および加工澱粉で認められたえぐみがなく、他社物理処理澱粉および加工澱粉よりもよい風味を有していた。
【表W-3】
【0105】
(実施例X:みたらしのタレの官能評価)
(実験手法)
本実施例では、本開示の耐性澱粉を使用して作製されたみたらしのタレの官能評価を示す。耐性澱粉は、原料澱粉としてワキシーコーンスターチを使用し、梅果汁を酸含有調製物として使用して作製された。みたらしのタレは、以下の配合表に記載の材料を使用して作製した。配合表中のグルタミン酸ソーダは、味の素株式会社から入手した。
【表X-1】
【0106】
配合表中の全ての材料をステンレスビーカーに入れて、温度計で混合しながら95℃の恒温槽で60℃まで加温した。加温後は95℃恒温槽内で、750rpmで20分間加熱しながら攪拌を行い、完成したタレは氷水中で冷却した。作製されたみたらしタレの風味を官能評価した。
【0107】
(結果)
実施例Xの結果を表X-2に示す。本開示の耐性澱粉を使用して作製されたみたらしのタレは、原料澱粉を使用して作製されたものよりも穀物臭が少なく、醤油の風味立ちが強かった。そして、本開示の耐性澱粉を使用して作製されたマンゴーソースは、他社物理加工澱粉および加工澱粉よりもえぐみが少なく、マイルドな風味がより際立って感じられた。
【表X-2】
【0108】
(実施例Y:焼き鳥のタレの官能評価)
(実験手法)
本実施例では、本開示の耐性澱粉を使用して作製された焼き鳥のタレの官能評価を示す。耐性澱粉は、原料澱粉としてワキシーコーンスターチを使用し、梅果汁を酸含有調製物として使用して作製された。焼き鳥のタレは、以下の配合表に記載の材料を使用して作製した。
【表Y-1】
【0109】
液体材料と、あらかじめ混ぜ合わせておいた粉類をステンレスビーカーに入れた。温度計で混合しながら95℃の恒温槽で60℃まで加温した。加温後は95℃の恒温槽内で、750rpmで20分間加熱しながら、プロペラ羽を用いて攪拌を行い、完成したタレは氷水中で冷却した。
【0110】
官能評価は、焼き鳥のタレ単体、または焼き鳥のタレを鶏肉に絡めた場合の2通りで評価した。焼き鳥のタレを鶏肉に絡めた場合は、以下のとおりの調理を行った。
1.鶏モモ肉を15g/個に分割した。
2.フライパンにサラダ油を3g入れて、鶏肉4個をIH(中火)で5分間焼いた。
3.焼き鳥のタレを70g加えて1分絡めながら焼いた。
4.粗熱を取り、官能評価を行った。
【0111】
(結果)
実施例Yの結果を表Y-2に示す。本開示の耐性澱粉を使用して作製された焼き鳥のタレは、単独で官能評価を行った場合に、原料澱粉、他社物理加工澱粉または加工澱粉を使用して作製されたものよりもえぐみが少なく、マイルドな風味がより際立って感じられて、穀物臭もほぼ感じられなかった。焼き鳥のタレを鶏肉に絡めた場合には、本開示の耐性澱粉を使用して作製された焼き鳥のタレは、原料澱粉と同程度の風味であり、他社物理加工澱粉または加工澱粉を使用して作製されたものよりも風味が弱いものの、素材本来の風味を活かせるものであった。
【表Y-2】
【0112】
(実施例Z:カスタードの官能評価)
(実験手法)
本実施例では、本開示の耐性澱粉を使用して作製されたカスタードの官能評価を示す。耐性澱粉は、原料澱粉としてコーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、もち米澱粉、うるち米澱粉および馬鈴薯澱粉を使用し、梅果汁を酸含有調製物として使用して作製された。カスタードは、以下の配合表に記載の材料を使用して作製した。配合表中のオリゴトースは、三和澱粉工業株式会社から入手した。官能評価は、4名のパネラーによって実施した。官能評価では、風味の良さおよび滑らかさを評価し、5段階評価(評価が高いほど高得点)で点数をつけた。
【表Z-1】
【0113】
(結果)
実施例Zの結果を表Z-2に示す。本開示の耐性澱粉を使用して作製されたカスタードは、いずれの原料澱粉から作製されたものであっても、原料澱粉を使用して作製されたものよりも穀物臭が低減された。本開示の耐性澱粉を使用して作製されたカスタードは、他社物理加工澱粉で認められる異味や、強いべたつきは認められなかった。
【表Z-2】
【0114】
(実施例AA:ヨーグルトの官能評価)
(実験手法)
本実施例では、本開示の耐性澱粉を使用して作製されたヨーグルトの官能評価を示す。耐性澱粉は、原料澱粉としてタピオカ澱粉を使用し、梅果汁およびレモン果汁を酸含有調製物として使用して作製した。ヨーグルトは、以下の配合表に記載の材料を使用して作製した。配合表中のスターターは、明治ブルガリアヨーグルト(プレーン)(株式会社明治)を使用し、比較対象としてNovation3300およびC☆CreamTex75720(カーギル社;加工澱粉)を使用した。
【表AA-1】
【0115】
ヨーグルトの製造工程は、以下のとおりである。
1. ステンビーカーに牛乳、澱粉、グラニュー糖を入れる。
2. 加熱攪拌(200rpm、15分間、65℃、1枚羽根)。
3. ホモジナイズする(180bar/50bar、1pass)。
4. 加熱殺菌する(静置、10分間、95℃)。
5. 43℃になるまで氷水で冷却する。
6. 全体量の4%になるようにスターターを添加し、軽く攪拌する。
7. 発酵し、(温度:42℃、湿度:65%、4時間)pHを測定する。
8. 氷水で冷却する。60meshの篩で濾し、カードを破砕する。
9. 充填し、冷蔵庫(4℃)で保存する。7日後の食感、風味を評価した。
【0116】
官能評価は、4名のパネラーによって実施した。官能評価では、食感および風味の良さを評価し、5段階評価(評価が高いほど高得点)で点数をつけた。
【0117】
(結果)
実施例AAの結果を表AA-2に示す。本開示の耐性澱粉を使用して作製されたヨーグルトは、いずれの果汁を使用して作製されたものであっても、原料澱粉を使用して作製されたもので認められた粘つきが改善され、ざらつきのない滑らかな食感であった。食感の改善は、Novationにおいても同様に認められた。本開示の耐性澱粉を使用して作製されたヨーグルトは、加工澱粉のもので認められた後味のぼやつきが改善され、風味立ちがよく、後味の酸味が強く残った。
【表AA-2】
【0118】
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本開示の具体的な好ましい実施形態の記載から、本開示の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。本願は、日本国特許庁に2018年11月1日に提出された特願2018-206925に対して優先権主張を伴うものであり、その内容はすべて本明細書に対する参照として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本開示は、日本国における「食品、添加物等の規格基準」または他国の該当基準において「食品」として扱うことが可能であり、かつ風味を劣化させずに食品を製造することに使用可能な耐性澱粉を提供することにおいて有用性を有する。