(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】アルコール飲料及びアルコール飲料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12H 6/02 20190101AFI20240401BHJP
C12G 3/02 20190101ALI20240401BHJP
【FI】
C12H6/02
C12G3/02
(21)【出願番号】P 2021153975
(22)【出願日】2021-09-22
【審査請求日】2022-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】307048284
【氏名又は名称】大口酒造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100195051
【氏名又は名称】森田 海幹
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸口 智子
(72)【発明者】
【氏名】神渡 巧
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】日本醸造協会誌,2009年,vol.104, no.1,pp.49-56
【文献】日本醸造協会誌,2020年,vol.115, no.8,pp.479-492
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12H 6/00-6/04
C12G 3/00-3/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料の少なくとも一部がアントシアニンを30mg/100g(乾物)以上含有した紫芋であり、ジアセチル濃度が6.9~9mg/L、リナロール濃度が285μg/L以上、であることを特徴とするアルコール飲料
。
【請求項2】
請求項1に記載のアルコール飲料の製造方法であって、もろみの原料に少なくともアントシアニンを30mg/100g(乾物)以上含有した紫芋を用い、前記もろみを蒸留する際に分画を行なうことを特徴とするアルコール飲料の製造方法。
【請求項3】
分画によって得られた複数の個別留出液を任意に抽出し混合することを特徴とする請求
項2に記載のアルコール飲料の製造方法。
【請求項4】
もろみの原料に少なくともアントシアニンを30mg/100g(乾物)以上含有した紫芋を用い、前記もろみを蒸留する際に分画によって得られた複数の個別留出液
である請求項1に記載のアルコール飲料を任意に抽出し混合するこ
とを特徴とす
るアルコール飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、紫芋を原料に用いたアルコール飲料及びアルコール飲料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、芋焼酎の原料であるサツマイモの品種毎による酒質の違いが明確になりつつある中で、芋焼酎の特徴香がサツマイモの果肉色によって分類できることから色別にグループ分けした品質評価が行われるようになり、有色サツマイモが芋焼酎における酒質の多様性の一翼を担うものとなっている。
【0003】
例えば、芋焼酎の原料として一般的なコガネセンガン(農林水産省 認定番号:かんしょ農林31号)は果肉色が黄白色であり、白色であれば「ジョイホワイト」(農林水産省 品種登録番号:4712号)、橙色であれば「ハマコマチ」(農林水産省委託 認定番号:かんしょ農林58号)、「九系243」(系統番号)等、紫色であれば「アヤムラサキ」(農林水産省委託 認定番号:かんしょ農林47号)や「アケムラサキ」(農林水産省 品種登録番号:19253号)、「九州139号」(品種系統名)等、といった形でグループ分けされる。
【0004】
そして、黄白系サツマイモ焼酎であれば、芋の風味や独特の甘味といった酒質であり、白系サツマイモ焼酎であれば、さわやかな柑橘的果実香を持つ軽快な酒質と評価されており、また、橙系サツマイモ焼酎であれば、「蒸しカボチャ」や「にんじんジュース」等といった個性的な酒質として評価されている。
【0005】
また、紫系サツマイモ焼酎であれば、好意的な評価として「ヨーグルトの香り」「赤ワインの香り」等が、好ましくない評価として「つわり香」「甘酸っぱい」「重い」等の評価があり、嗜好の分かれる酒質と言われており、また、このような上述したサツマイモの果肉色の違いによって各々特有の香味を醸すことから、これらを原料とした芋焼酎が市場に流通している。
【0006】
しかしながら、焼酎業界では製造技術の進歩により、従来の原料や製法を用いただけでは製造会社ごとに独特な特徴を醸し出すような酒質の差異化が難しくなりつつあり、焼酎業界の成長には、新たな製法による新たな酒質を備えた焼酎の開発が望まれている。
【0007】
このような状況において発明者らは、2006年に紫系サツマイモ(紫芋)にはアントシアニンを含み、嗜好の分かれる酒質と言われる紫系サツマイモ焼酎の特徴香成分がジアセチルであることを報告した(非特許文献1、参照)。
【0008】
また、発明者らは、2011年に紫系サツマイモの品種に起因(紫色の濃さ)したアントシアニン含量と製品である芋焼酎のジアセチル濃度の関係を示し、品種毎に異なるアントシアニンの含量に応じてジアセチル濃度も直線的に増加する範囲があるものの最終的にジアセチル濃度が2mg/L程度で頭打ちになってしまう二次曲線の挙動であることを報告している(非特許文献2、参照)。
【0009】
また、蒸留酒の蒸留においては、蒸留の条件や留出のタイミング等により回収した蒸留酒の香味が大きく変化することが知られていることから、発明者らは、紫系サツマイモ焼酎の香味の形成に関与する特徴香成分の研究を行ないながら蒸留方法に着目し、ジアセチル濃度が効果的に増加した新たな酒質を備えた焼酎の開発を鋭意進めていた。
【0010】
また、蒸留に関する技術においては、例えば、特許文献1に係る「蒸留酒」では、柑橘類果実を浸漬させたエタノール水溶液を、留出液のエタノール濃度が50~80%である間に常圧で蒸留することを含む、蒸留酒の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【非特許文献】
【0012】
【文献】神渡巧、瀬戸口智子、他3名、「芋焼酎の酒質に及ぼすサツマイモ品種の影響と特徴香成分の検索」、「日本醸造協会誌」、日本醸造学会、2006年、第101巻、第6号、p.437-445
【文献】神渡巧、瀬戸口智子、「芋焼酎の香りに及ぼすサツマイモ品種の影響」、「生物工学会誌」、公益社団法人日本生物工学会、2011年、第89巻12号、p.724-727
【文献】神渡巧、瀬戸口智子、他6名、「原料サツマイモの特性と芋焼酎の特徴香成分」、「日本醸造協会誌」、日本醸造学会、2009年、第104巻、第1号、p.49-56
【文献】通商産業省基礎産業局アルコール課監修、社団法人アルコール協会、財団法人バイオインダストリー協会編、「第9版 アルコールハンドブック」、技法堂出版、1997年
【文献】瀬戸口智子、神渡巧、「芋焼酎における蒸留時の各種成分の留出挙動」、「日本醸造協会誌」、日本醸造学会、2020年、第115巻、第8号、p.479-492
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
確かに、特許文献1に係る技術では、柑橘類を浸漬したエタノール水溶液からの蒸留において、留出液への好ましくない臭いの移行を防止しつつ、柑橘類の香気成分をより多く取得することを可能とする点で優れている。
【0014】
しかしながら、本技術では柑橘類に限定し、蒸留時の留出のタイミングにより回収した蒸留酒の香味が大きく変化するという経験的知見から柑橘類の香気成分をより多く取得できるエタノール濃度の範囲を限定的に絞り込んだに過ぎず、従来技術の延長線上の技術と言わざるを得ない。
【0015】
また、紫系サツマイモのアントシアニンの含量の増加に対してジアセチル濃度が頭打ちになるような上述(非特許文献2、参照)した紫系サツマイモ焼酎においては、特徴香成分であるジアセチルの濃度を所定濃度以上にした蒸留酒を製造することはできない。
【0016】
従って、紫系サツマイモを原料としつつ蒸留の際に特徴香成分であるジアセチルの濃度が頭打ちとなってしまうような多様な香味を醸す蒸留酒に対しては、香気成分のバランスを制御した独特な特徴を醸し出すような酒質を製造することはできない。
【0017】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、もろみの原料に紫芋を用いた蒸留酒においてジアセチル濃度のバランスが制御されたアルコール飲料及びアルコール飲料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
以上のような目的を達成するために、本発明は以下のようなものを提供する。
【0019】
請求項1に係る発明では、原料の少なくとも一部がアントシアニンを30mg/100g(乾物)以上含有した紫芋であり、ジアセチル濃度が6.9~9mg/L、リナロール濃度が285μg/L以上、であることを特徴とするアルコール飲料を提供せんとする。
【0020】
請求項2に係る発明では、請求項1に記載のアルコール飲料の製造方法であって、もろみの原料に少なくともアントシアニンを30mg/100g(乾物)以上含有した紫芋を用い、前記もろみを蒸留する際に分画を行なうことを特徴とするアルコール飲料の製造方法を提供せんとする。
【0021】
請求項3に係る発明では、分画によって得られた複数の個別留出液を任意に抽出し混合することを特徴とする請求項2に記載のアルコール飲料の製造方法を提供せんとする。
【0022】
請求項4に係る発明では、もろみの原料に少なくともアントシアニンを30mg/100g(乾物)以上含有した紫芋を用い、前記もろみを蒸留する際に分画によって得られた複数の個別留出液である請求項1に記載のアルコール飲料を任意に抽出し混合することを特徴とするアルコール飲料の製造方法を提供せんとする。
【発明の効果】
【0024】
請求項1記載の発明によれば、原料の少なくとも一部がアントシアニンを30mg/100g(乾物)以上含有した紫芋であり、ジアセチル濃度が6.9~9mg/L、リナロール濃度が285μg/L以上、であることより、従来製品にはない高いジアセチル濃度と共に高いリナロール濃度のアルコール飲料を提供することができ、一般的な芋焼酎らしい香りを保ちつつ紫系サツマイモ焼酎らしい香りが際立ったアルコール飲料を提供することが可能となる。
【0025】
請求項2記載の発明によれば、請求項1に記載のアルコール飲料の製造方法であって、もろみの原料に少なくともアントシアニンを30mg/100g(乾物)以上含有した紫芋を用い、前記もろみを蒸留する際に分画を行なうことより、従来製品にはない極めて高いジアセチル濃度のアルコール飲料を製造することができ、紫系サツマイモ焼酎らしい香りが特に際立ったアルコール飲料を提供することが可能となる。
【0026】
請求項3記載の発明によれば、分画によって得られた複数の個別留出液を任意に抽出し混合することより、個別留出液の混合バランスを制御することで紫系サツマイモ焼酎らしい香りである好意的な香りや好ましくない香りの強弱等を自在に調整することが可能となる。
【0027】
請求項4記載の発明によれば、もろみの原料に少なくともアントシアニンを30mg/100g(乾物)以上含有した紫芋を用い、前記もろみを蒸留する際に分画によって得られた複数の個別留出液である請求項1に記載のアルコール飲料を任意に抽出し混合することより、個別留出液の混合バランスを制御することで紫系サツマイモ焼酎らしい香りである好意的な香りや好ましくない香りの強弱等を自在に調整することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本実施形態に係るアルコール飲料の製造方法の簡易フロー図である。
【
図2】画分毎のジアセチルとエタノールの留出曲線である。
【
図3】画分毎のリナロールとエタノールの留出曲線である。
【
図4】画分毎のβ-ダマセノンとエタノールの留出曲線である。
【
図5】本実施形態に係る官能評価の棒グラフである。
【
図6】一般的な芋焼酎の製造方法を示す簡易フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明に係るアルコール飲料の製造方法の要旨は、もろみの原料に少なくとも紫芋を用い、もろみを蒸留する際に分画を行なうことでジアセチル濃度が2~9mg/Lの範囲で任意の濃度の留出液を得ることを特徴とする。すなわち、従来製品にはない高いジアセチル濃度のアルコール飲料を幅広く製造することができ、紫系サツマイモ焼酎らしい香りが際立ったアルコール飲料の提供を図ろうとするものである。
【0031】
また、本発明に係るアルコール飲料の要旨は、上述した製造方法からなるアルコール飲料であることを特徴とする。すなわち、従来製品にはない高いジアセチル濃度のアルコール飲料の提供を図ろうとするものである。
【0032】
ここで、本実施形態に係るアルコール飲料は芋焼酎として説明しており、蒸留前までの工程は
図6の簡易フロー図に示す一般的な芋焼酎の製造方法を採用している。
【0033】
また、本実施形態では麹は米麹(白麹菌)を使用し、酵母は鹿児島5号酵母を使用しているが、アルコール飲料の種類によっては、例えば、麹は麦等であってもよく、麹や酵母の種類については限定されるものではない。
【0034】
また、本実施形態に係る「もろみ」とは「二次もろみ」を示しており、その原料となる「紫芋(紫系サツマイモ)」とは、「アヤムラサキ」(農林水産省委託 認定番号:かんしょ農林47号)や「アケムラサキ」(農林水産省 品種登録番号:19253号)、「九州139号」(品種系統名)等の果肉色が紫色のサツマイモであって、本実施形態では「アヤムラサキ」を用いて説明している。
【0035】
なお、本発明に係る紫芋とは、厳密には色価1以上、すなわち、30mg/100g(乾物)以上のアントシアニンを含有したサツマイモを対象としている。
【0036】
ここで、表1は本実施形態に係る紫芋のアヤムラサキと、芋焼酎の原料として一般的な黄白系サツマイモのコガネセンガンのデンプン価とアントシアニン含量を示しており、アヤムラサキは紫芋の色素であるアントシアニンの含量がコガネセンガンに比して300倍以上含有していることが分かる。
【0037】
【0038】
なお、表1に記載のデンプン価はアルコールハンドブック(非特許文献4)に準じて分析したものであり、デンプン価とアントシアニン含量は発明者らによる非特許文献3の記載に基づくものである。
【0039】
このような原料と水を用いて上述した工程により仕込量を少なくした小仕込み試験を行い、一次もろみと二次もろみの温度は30℃一定で管理し、発酵は一次もろみが7日間、二次もろみが9日間として発酵した二次もろみを得ている。
【0040】
表2に小仕込み試験の仕込み配合を示している。
【0041】
【0042】
また、表3に発酵終了後の二次もろみの酸度、pH、揮発性酸、直接還元糖、残全糖、及びアルコール濃度の分析値を示すが、この分析値の全てにおいて異常が認められないことから、発酵は雑菌汚染を受けずに順調に進行したと判断される。なお、分析値は酒類総合研究所標準分析法に従って分析した。
【0043】
【0044】
このようにして製造された二次もろみに対し、本発明に係る技術によって蒸留の際に分画を行なうことでジアセチル濃度のバランスが制御されたアルコール飲料及びアルコール飲料の製造方法を提供することが可能となる。
【0045】
以下、本実施形態に係るアルコール飲料及びアルコール飲料の製造方法について表と図を参照しながら具体的に詳述する。
【0046】
図1は本実施形態に係るアルコール飲料の製造方法を示す簡易フロー図で、蒸留時に分画を行なうことに特徴を有する。
【0047】
蒸留の方法や条件等については本実施形態に限定されるものではないが、本実施形態では、酒類を製造する際の一般的な製法である常圧蒸留の蒸気吹き込み法を採用した。
【0048】
蒸留機は、小型ステンレス製蒸留機(NK6型、もろみ張り込み量6L~8L用、南日汽缶工業株式会社製)を使用し、当該蒸留機に二次もろみ7Kgを投入して蒸留を行なった。
【0049】
一般的な蒸留の終点が画分8(8分画め)となるよう蒸留により抽出した留出液を300mL毎に分画し、13画分を得た時点で蒸留を完了すると共に、得られた画分については濾過を行なわずに分析試料とした。
【0050】
図2は、分析試料である13画分の各々のジアセチル濃度(実線)とエタノール濃度(破線)を示す留出曲線であり、留出曲線の画分8には縦の仕切り線を記載し、画分1~3を初留区分、画分4~6を中留区分、画分7~8を後留区分とした。なお、画分9~13は、通常は原酒に含まれない部分である。
【0051】
なお、エタノール濃度は、振動式密度計(京都電子工業株式会社製:DA-155)を用いて測定したものであり、蒸留を完了した時点(画分13)でのエタノール濃度は1%程度であることが分かる。
【0052】
また、この留出曲線によりエタノール濃度は蒸留初期から後期にかけて徐々に低下するなだらかな曲線を示すことが分かる。
【0053】
また、
図2に示すアヤムラサキ焼酎のエタノールの留出曲線は、黄白系サツマイモのコガネセンガン焼酎と同様の留出曲線を示し(非特許文献5、参照)、以下説明を割愛するが、エタノールの留出挙動に二次もろみのアルコール濃度の違いは影響しないことが分かると共に、これら2品種の焼酎は一定条件下で蒸留・分画できたと判断した。
【0054】
また、本発明の主要な構成として着目する揮発性成分のジアセチルについては、ガスクロマトグラフィー質量分析計(Agilent社製:5973MSD)を使用し、分析試料とジアセチルの標準物質の両方の分析を行ないジアセチルを同定し、その濃度を測定してエタノールの留出曲線と共にジアセチルの留出曲線を
図2の通り併記している。
【0055】
また、表4は、
図2に示した留出曲線を構成するジアセチル濃度とエタノール濃度の測定値を示している。
【0056】
【0057】
このように、紫芋であるアヤムラサキをもろみの原料として蒸留時に分画すると、
図2と表4に示したようにジアセチルが初留区分で最高濃度を示し、その後徐々にジアセチルの留出濃度が低下した初留区分頂点型の挙動となる。
【0058】
なお、通常の蒸留では原酒として回収しない画分9以降もジアセチルの留出が続いており、ジアセチルの一部は焼酎粕に残留していることが分かる。
【0059】
以上より、従来、紫芋で品種毎に異なるアントシアニンの含量に応じてジアセチル濃度も直線的に増加する範囲があるものの最終的にジアセチル濃度が2mg/L程度で頭打ちになってしまう(非特許文献2、参照)のは、蒸留時に分画されずに一括して留出液を得ることで結果としてジアセチル濃度が平均化されていたことに起因することが分かる。
【0060】
次に、上述した分析試料である13画分の留出液について芋焼酎の特徴香成分であり微量成分であるリナロールとβ-ダマセノンについて定量した。
【0061】
定量は、各画分のアルコール濃度が25%になるようにエタノールまたは水で調製し、得られたリナロール濃度とβ-ダマセノン濃度を画分の元のアルコール濃度における値に換算している。
【0062】
具体的には、試料100mLに内部標準(0.1%オクタノール)100μLを加えポラパック(登録商標)Qカラムに注入後、純水20mLで洗浄し、ジエチルエーテル50mLで溶出し、溶出液を無水硫酸ナトリウムで脱水後、窒素気流下で200μLまで濃縮し、得られた香気成分濃縮物を上述のガスクロマトグラフィー質量分析計で分析することでリナロール濃度とβ-ダマセノン濃度を定量している。
【0063】
なお、リナロールは「さわやかな柑橘的な香り」が、β-ダマセノンは「甘い香り」が特徴で、「一般的な芋焼酎らしい香り」を醸す特徴香成分とされている。
【0064】
図3は、分析試料である13画分の各々のリナロール濃度(実線)とエタノール濃度(破線)を示す留出曲線であり、上述した
図2(表4)に示したエタノールの留出曲線と共にリナロールの留出曲線を併記したものである。
【0065】
また、表5は、
図3に示した留出曲線を構成するリナロール濃度とエタノール濃度の測定値を示している。
【0066】
【0067】
このように、紫芋であるアヤムラサキをもろみの原料として蒸留時に分画すると、リナロールが中留区分で最高濃度を示す中留区分頂点型の挙動となる。
【0068】
図4は、分析試料である13画分の各々のβ-ダマセノン濃度(実線)とエタノール濃度(破線)を示す留出曲線であり、上述した
図2(表4)に示したエタノールの留出曲線と共にβ-ダマセノンの留出曲線を併記したものである。
【0069】
また、表6は、
図4に示した留出曲線を構成するβ-ダマセノン濃度とエタノール濃度の測定値を示している。
【0070】
【0071】
このように、紫芋であるアヤムラサキをもろみの原料として蒸留時に分画すると、β-ダマセノンが中留区分で最高濃度を示す中留区分頂点型の挙動となる。
【0072】
次に、得られた各画分について官能評価を行なった結果を
図5に示す。なお、評価者は出願人の社員4名とした。
【0073】
官能評価は、紫系サツマイモ焼酎らしい香り、すなわち、好意的な香りとして「ヨーグルトの香り」「赤ワインの香り」等、好ましくない香りとして「つわり香」「甘酸っぱい」「重い」等を指摘した人数を各画分毎に示している。
【0074】
紫系サツマイモ焼酎らしさは、画分2~4において全員が指摘し、その後、画分5~7では指摘人数が減少し、画分8以降では確認されなかった。
【0075】
このように、
図2で示したジアセチルの留出曲線と官能評価の結果は相似している。
【0076】
従って、もろみの原料に少なくとも紫芋を用い、もろみを蒸留する際に分画を行なうことでジアセチル濃度が2~9mg/Lの範囲、すなわち、本実施形態においては画分1~画分8までの範囲で任意の濃度の留出液を得ることで従来製品にはない高いジアセチル濃度のアルコール飲料を幅広く製造することができ、紫系サツマイモ焼酎らしい香りが際立ったアルコール飲料を提供することが可能となる。
【0077】
また、もろみの原料に少なくとも紫芋を用い、もろみを蒸留する際に分画を行なうことでジアセチル濃度が5~9mg/Lの範囲、すなわち、本実施形態においては画分1~画分5までの範囲で任意の濃度の留出液を得ることで従来製品にはない極めて高いジアセチル濃度のアルコール飲料を製造することができ、紫系サツマイモ焼酎らしい香りが特に際立ったアルコール飲料を提供することが可能となる。
【0078】
また、
図5に示す官能評価においては、上述した紫系サツマイモ焼酎らしい香り以外に画分4、5において2名が「一般的な芋焼酎らしい香りがある」と評価しており、ジアセチル濃度との関係において中留区分での濃度が高いリナロールとβ-ダマセノンが起因していると判断される。
【0079】
従って、ジアセチル濃度と共に、350μg/L以上のリナロールと124μg/L以上のβ-ダマセノンを含有した留出液を得ることで従来製品にはない高いジアセチル濃度とリナロール濃度、及びβ-ダマセノン濃度のアルコール飲料を幅広く製造することができ、一般的な芋焼酎らしい香りを保ちつつ紫系サツマイモ焼酎らしい香りが際立ったアルコール飲料を提供することが可能となる。
【0080】
また、分画によって得られた複数の個別留出液を任意に抽出し混合することで任意のジアセチル濃度の留出液を得ることができるため、個別留出液の混合バランスを制御することで紫系サツマイモ焼酎らしい香りである好意的な香りや好ましくない香りの強弱等を自在に調整したアルコール飲料を提供することが可能となる。
【0081】
なお、本発明に係る技術は、もろみの原料に紫芋を用いたものであるが、一次もろみや二次もろみの原料によらず紫色色素であるアントシアニンを用いて発酵した場合も、紫芋を原料に用いた本願と同様の結果を得ることができる。
【0082】
以上、本発明の本実施形態に係るアルコール飲料及びアルコール飲料の製造方法の好ましい実施形態について説明したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形・変更が可能である。