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  • 特許-プラズマ着火装置及びプラズマ着火方法 図1
  • 特許-プラズマ着火装置及びプラズマ着火方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】プラズマ着火装置及びプラズマ着火方法
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/46 20060101AFI20240401BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20240401BHJP
   H01J 37/32 20060101ALI20240401BHJP
   C23C 16/505 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
H05H1/46 L
H01L21/302 101H
H01J37/32
C23C16/505
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023188945
(22)【出願日】2023-11-02
【審査請求日】2023-11-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522448735
【氏名又は名称】東亜電子機材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161300
【弁理士】
【氏名又は名称】川角 栄二
(72)【発明者】
【氏名】津川 孝浩
(72)【発明者】
【氏名】古瀬 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】小川 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】松野 賢治
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/201853(WO,A1)
【文献】特許第7246802(JP,B1)
【文献】特開2013-211187(JP,A)
【文献】特開2016-222980(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00 - 1/54
H01L 21/30
21/46
H01J 37/00 - 37/36
C23C 16/00 - 16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部のガスに電圧を印加してプラズマ化する真空槽と、
前記真空槽にガスを供給するガス源と、
前記ガス源と前記真空槽とを結びガスが流れる流路と、
前記流路に設けられ、前記ガス源から前記真空槽に向けて流れるガスの流量を絞る絞り手段と、
前記絞り手段と前記真空槽との間の前記流路に設けられ、前記流路を開閉する開閉弁と、
前記絞り手段と前記開閉弁との間の前記流路に設けられ、所定量のガスを貯留するガス貯留部とを備え
前記真空槽の内部が低圧でありかつ前記真空槽に所定の電圧が印加された状態で、前記開閉弁が開放され前記ガス貯留部のガスが前記真空槽に導入される
ことを特徴とするプラズマ着火装置。
【請求項2】
前記ガス貯留部が、前記絞り手段と前記開閉弁との間の前記流路自体からなる
ことを特徴とする請求項1に記載のプラズマ着火装置。
【請求項3】
前記絞り手段が、長手方向に貫通する孔を有するパイプからなり、当該孔をガスが流れる際に抵抗が働く
ことを特徴とする請求項2に記載のプラズマ着火装置。
【請求項4】
前記パイプの前記孔の断面積が、前記絞り手段と前記開閉弁との間の前記流路の断面積より小さい
ことを特徴とする請求項3に記載のプラズマ着火装置。
【請求項5】
前記絞り手段が開度を調整可能なバルブである
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のプラズマ着火装置。
【請求項6】
前記ガス源が大気である
ことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のプラズマ着火装置。
【請求項7】
ガス源から供給されたガスを真空槽の内部でプラズマ化するプラズマ着火方法であって、
上流の前記ガス源と下流の前記真空槽とを結ぶ流路に設けられた開閉弁を閉鎖するステップと、
前記開閉弁より上流側に設けられたガス貯留部に所定量のガスを貯留するステップと、
前記真空槽の内部を低圧にするステップと、
前記真空槽の内部が低圧の状態で、前記真空槽に所定の電圧を印加するステップと、
前記真空槽の内部が低圧でありかつ前記真空槽に所定の電圧が印加された状態で、前記開閉弁を開放して前記ガス貯留部のガスを前記真空槽に導入するステップとを備える
ことを特徴とするプラズマ着火方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ着火装置及びプラズマ着火方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡における試料室の汚染の除去や、フォトレジストを剥離するプロセス(アッシング)等に、プラズマが利用される。例えば電子顕微鏡に関しては、プラズマクリーナーと呼ばれるプラズマ生成装置を使用して洗浄される(特許文献1参照)。特許文献1に示すようなプラズマ生成装置は、酸素が導入された低圧雰囲気の真空槽に高周波電圧を印加することで、プラズマが生成されるよう構成されている。
【0003】
プラズマクリーナーが適用される電子顕微鏡のうち、CD-SEM(測長走査型電子顕微鏡:Critical Dimension-Scanning Electron Microscope)は、半導体ウェハーに形成された微細パターンの寸法測定などに使用される装置である。CD-SEMを用いて半導体デバイスの配線幅を測定する際に、真空槽の中に汚染物質であるハイドロカーボンが存在すると、測定誤差が生じてしまう。そのため、CD-SEMの真空槽内のハイドロカーボンを除去する目的で、プラズマクリーナーが利用される。
【0004】
ところで、半導体素子であるトランジスタの構造は近年微細化が進んでおり、Fin-FET構造やGAA-FET構造と呼ばれる複雑な三次元的構造が出現している。このような複雑な半導体の構造を測定するためには、一般的にはCD-SEMでは足りず、FIB-SEM(集束イオンビーム走査型電子顕微鏡:Focused Ion Beam-Scanning Electron Microscope)が必要となる。
【0005】
FIB-SEMでは、CD-SEMより広範囲にクリーニングを行う必要がある。そのため、高真空で高密度のプラズマが必要となる。しかし、パッシェンの法則によれば、高真空の下でプラズマを着火させるために必要な電圧は、急激に高くなる。そのため、プラズマ着火の際だけ必要となる高い電圧に対応して、大容量の電源が必要となる。
【0006】
一方で、プラズマを着火する方法であって、原料ガスの圧力を調整することで、印加する電圧を抑えるような方法が知られている(特許文献2参照)。特許文献2に開示される方法は、印加する電圧を一定に保った状態で、原料ガスの圧力を調整することによってプラズマを着火するよう構成されている(特許文献2の段落0036~0038参照)。この方法では、原料ガスの圧力は、真空槽内の圧力を検出した上で、圧力制御部が圧力調整部(マスフローコントローラなど)を時々刻々と制御することで調整されるよう構成されている。すなわち、この方法は、マスフローコントローラのような装置及びそれを制御する装置を必要とし、プラズマを着火する装置全体が複雑となるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-54136号公報
【文献】特開2017-174730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記問題点を鑑みて、本発明は、簡易な構成でありながら、印加する電圧が低く抑えられるようなプラズマ着火装置及びプラズマ着火方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るプラズマ着火装置は、内部のガスに電圧を印加してプラズマ化する真空槽と、前記真空槽にガスを供給するガス源と、前記ガス源と前記真空槽とを結びガスが流れる流路と、前記流路に設けられ、前記ガス源から前記真空槽に向けて流れるガスの流量を絞る絞り手段と、前記絞り手段と前記真空槽との間の前記流路に設けられ、前記流路を開閉する開閉弁と、前記絞り手段と前記開閉弁との間の前記流路に設けられ、所定量のガスを貯留するガス貯留部とを備え、前記真空槽の内部が低圧でありかつ前記真空槽に所定の電圧が印加された状態で、前記開閉弁が開放され前記ガス貯留部のガスが前記真空槽に導入されることを特徴とする
【0010】
この発明によれば、印加する電圧が低く抑えられ、確実な着火が可能なプラズマ着火装置を提供することができる。
【0011】
本発明に係る他のプラズマ着火装置は、前記ガス貯留部が、前記絞り手段と前記開閉弁との間の前記流路自体からなることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、簡易な構成で確実な着火が可能なプラズマ着火装置を提供することができる。
【0013】
本発明に係る他のプラズマ着火装置は、前記絞り手段が、長手方向に貫通する孔を有するパイプからなり、当該孔をガスが流れる際に抵抗が働くことを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、簡易な構成で安定した流量のガスをプラズマ化することが可能なプラズマ着火装置を提供することができる。
【0015】
本発明に係る他のプラズマ着火装置は、前記パイプの前記孔の断面積が、前記絞り手段と前記開閉弁との間の前記流路の断面積より小さいことを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、簡易な構成でガスの流量が絞られるプラズマ着火装置を提供することができる。
【0017】
本発明に係る他のプラズマ着火装置は、前記絞り手段が開度を調整可能なバルブであることを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、真空槽内の圧力の変化の仕方を調整可能なプラズマ着火装置を提供することができる。
【0019】
本発明に係る他のプラズマ着火装置は、前記ガス源が大気であることを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、簡易な構成で確実な着火が可能なプラズマ着火装置を提供することができる。
【0021】
本発明に係るプラズマ着火方法は、ガス源から供給されたガスを真空槽の内部でプラズマ化するプラズマ着火方法であって、上流の前記ガス源と下流の前記真空槽とを結ぶ流路に設けられた開閉弁を閉鎖するステップと、前記開閉弁より上流側に設けられたガス貯留部に所定量のガスを貯留するステップと、前記真空槽の内部を低圧にするステップと、前記真空槽の内部が低圧の状態で、前記真空槽に所定の電圧を印加するステップと、前記真空槽の内部が低圧でありかつ前記真空槽に所定の電圧が印加された状態で、前記開閉弁を開放して前記ガス貯留部のガスを前記真空槽に導入するステップとを備えることを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、印加する電圧が低く抑えられ、確実な着火が可能なプラズマ着火方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、印加する電圧が低く抑えられ、確実に着火が可能なプラズマ着火装置及びプラズマ着火方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施形態に係るプラズマ着火装置を示す模式図である。
図2】本発明の実施形態に係るプラズマ着火装置の絞り手段の一例を示す斜視模式図である。
図3】本発明の実施形態に係るプラズマ着火装置のガス貯留部の一例を示す斜視模式図である。
図4】本発明の実施形態に係るプラズマ着火装置における、パッシェン曲線と、真空槽内の圧力及び印加する電圧とを重ねて示す図である。
図5】本発明の実施形態に係るプラズマ着火装置において、開閉弁を開放した後の真空槽内の圧力の変化を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明を適用したプラズマ着火装置及びプラズマ着火方法の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な実施形態であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
【0026】
本発明の実施形態に係るプラズマ着火装置及びプラズマ着火方法について、図1~5に基づき説明する。図1は、本発明の実施形態に係るプラズマ着火装置を示す模式図である。図2は、本発明の実施形態に係るプラズマ着火装置の絞り手段の一例を示す斜視模式図である。図3は、本発明の実施形態に係るプラズマ着火装置のガス貯留部の一例を示す斜視模式図である。図4は、本発明の実施形態に係るプラズマ着火装置における、パッシェン曲線と、真空槽内の圧力及び印加する電圧とを重ねて示す図である。図5は、本発明の実施形態に係るプラズマ着火装置において、開閉弁を開放した後の真空槽内の圧力の変化を模式的に示す図である。
【0027】
<プラズマ着火装置>
本実施形態に係るプラズマ着火装置1は、図1に示すように、主たる構成要素として、内部のガスがプラズマ化される真空槽10、真空槽10にガスを供給するガス源20、ガス源20と真空槽10とを結びガスが流れる流路30を有している。
【0028】
真空槽10には、その内部をほぼ真空まで減圧する真空ポンプ70がつながれている。真空槽10の周囲には高周波コイル81が配置されており、これに高周波電源82がつながれて高周波電圧が印加される。高周波コイル81及び高周波電源82が、真空槽10内のガスに電圧を印加する電圧印加手段80を構成する。印加される電圧のエネルギーにより、ガス源20から真空槽10内に供給されたガスがプラズマ化する。なお真空槽10には圧力を計測する真空計(図示省略)が接続されている。またこの真空槽10は単体の容器に限られず、複数の容器を繋げて構成することも可能である。例えば、複数の容器で構成された真空槽10の一の容器で生成されたプラズマを、他の容器に移送して使用(クリーニングなど)することも可能である。
【0029】
ガス源20は、真空槽10内でプラズマ化するガスを収容したガスボンベなどで構成することができる。ガスボンベで構成する際には、圧力を調整するレギュレータ(図示省略)を介して、ガスを供給することができる。またガス源20を、大気とすることもできる。
【0030】
流路30には、上流より順に、絞り手段40、ガス貯留部60、開閉弁50が設けられている。絞り手段40は、ガス源20から真空槽10に向けて流れるガスの流量を絞るよう構成されている。本実施形態では、絞り手段40として、パイプ41(図2参照)が使用されている。図2に示すように、パイプ41は長手方向に貫通する孔41aを有しており、その径d1は充分に小さい。そのため、孔41aをガスが流れる際に抵抗が働き、これによりガスの流量が絞られる。なお、パイプ41のコンダクタンスは、孔41aの径d1及び長さL1によって決まる。すなわち、d1が小さいほどコンダクタンスが小さくなり、またL1が長いほどコンダクタンスは小さくなる。流路30を流れるガスの流量は、絞り手段40であるパイプ41によって絞られるよう構成されている。すなわち、パイプ41のコンダクタンスは、流路30のコンダクタンスより充分に小さくなるよう設定されている。
【0031】
なお、パイプ41のうち、ガス源20に近い端部は高圧であるため、孔41aにおける流れは、この端部付近では粘性流である。これに対して、真空槽10が真空に近い低圧であって開閉弁50が開放されている場合、パイプ41のうち、真空槽10に近い端部は真空に近い低圧であるため、孔41aにおける流れは、この端部付近では分子流である。パイプ41は圧力差に耐えられるよう充分な強度を有する。
【0032】
次に開閉弁50について説明する。開閉弁50は、絞り手段40と真空槽10との間の流路30に設けられており、流路30を開閉する、すなわち全開状態と全閉状態とを切り替えるよう構成されている。開閉弁50として、好適には電磁弁を使用することができ、またその他の適宜な弁も使用することができる。
【0033】
絞り手段40と開閉弁50との間の流路30には、所定量のガスを貯留するガス貯留部60が設けられている。ガス貯留部60は適宜に構成することができるが、本実施形態におけるガス貯留部60は、流路30における絞り手段40と開閉弁50との間の部分30b自体から構成されている。具体的には、絞り手段40と開閉弁50との間に、図3に示す管61が設けられており、管61の孔61aが、流路30の部分30bを構成している。管61の孔61aは、所定量のガスを貯留し、その量は孔61aの径d2及び長さL2によって決まる。
【0034】
本実施形態では、絞り手段40としてのパイプ41の下流側に、ガス貯留部60としての管61が繋がれている。管61は流路30の部分30bを構成しており、パイプ41よりコンダクタンスが大きくなるよう設定されている。すなわち、管61の孔61aの径d2は、パイプ41の孔41aの径d1より充分に大きい。すなわち、パイプ41の孔41aの断面積は、流路30の部分30bの断面積より小さい。
【0035】
<プラズマ着火方法>
次に、プラズマ着火装置1を用いてプラズマを着火する方法について説明する。
【0036】
まず、流路30に設けられた開閉弁50を閉鎖する。
【0037】
このときガス源20に連通する流路30の部分30aから、絞り手段40、流路30の部分30b(ガス貯留部60)までが、ガス源20と同じ圧力となり、ガスで満たされる。すなわち、開閉弁50より上流側のガス貯留部60に、所定量のガスが貯留される。
【0038】
次に真空ポンプ70を作動させて、真空槽10内をほぼ真空となるような低圧にする。すると開閉弁50より下流側の流路30の部分30cも、真空槽10と同じく真空に近い低圧となる。このときの真空槽10内の圧力は、図4に示すp1である。
【0039】
なお、開閉弁50を閉鎖する前に、ガス貯留部60に所定量のガスを貯留することももちろん可能である。また、真空ポンプ70を作動させて真空槽10内を低圧にするステップの途中で開閉弁50を閉鎖し、それからガス貯留部60に所定量のガスを貯留することももちろん可能である。
【0040】
次に電圧印加手段80の高周波電源82を作動させ、高周波コイル81を介して真空槽10に電圧を印加する。このとき印加される電圧は、図4に示すVsである。図4に示すパッシェン曲線と、真空槽10内の圧力及び印加する電圧のプロットの関係より、この段階での圧力及び電圧ではプラズマは着火しない。
【0041】
ここで図4のパッシェン曲線について説明する。放電は、外部エネルギーにより加速された電子が気体分子と衝突して気体が電離することにより発生する。ここで気体が少ない(すなわち圧力が低い)と、衝突が起こりにくくなる。また気体が多い(すなわち圧力が高い)と、電子が気体分子に衝突するまで充分に加速されない。すなわち、圧力が高すぎても低すぎても放電に必要な外部エネルギーは大きくなり、その中間の圧力において放電に必要な外部エネルギーが最小になる(パッシェンの法則)。図4のパッシェン曲線は、圧力と放電に必要な外部エネルギーとの関係を示している。パッシェン曲線は気体の種類によって形状が異なる。なお、本実施形態における外部エネルギーは高周波電圧である。そのため、図4における縦軸は印加する電圧となっている。また図4の軸は対数目盛となっている。
【0042】
次に開閉弁50を開放する。ここではまず、開閉弁50を開放してからの真空槽10内の圧力の変化について、図5に基づき説明する。開閉弁50を開放する前の圧力はp1である。開閉弁50を開放すると、ガス貯留部60のガスが真空槽10に一気に導入される。これにより真空槽10内の圧力は、一時的に上昇してp2に達する。真空槽10内の圧力は一時的に上昇するものの、真空ポンプ70が作動しており、またガス源20から流入するガスの流量は絞り手段40で絞られているため、真空槽10内の圧力は低下する。その後は絞り手段40を経由して流入するガスの流量と、真空ポンプ70により排出されるガスの流量が等しくなる圧力p3で、真空槽10内の圧力がほぼ一定に維持される。なお一つの実施例では、開閉弁50を開放して約0.3秒後に圧力が最大の約1.2Paとなり、その後圧力が低下して、開閉弁50を開放して約0.7秒後に圧力が約0.1Paで一定となった。
【0043】
次に真空槽10のプラズマ着火について図4に基づき説明する。先述の通り開閉弁50を開放する前の真空槽10内の圧力はp1であり、印加されている電圧はVsであり、この点はパッシェン曲線より下にあるため放電が発生せず、プラズマは着火しない。開閉弁50を開放した後、真空槽10内の圧力は一時的にp2まで上昇する。このとき印加されている電圧はVsのままである。この点はパッシェン曲線より上にあるため放電が発生し、すなわちプラズマが着火する。
【0044】
この後、真空槽10内の圧力は再度低下しp3(図5参照)となるが、一旦着火したプラズマは消えることなく、ガス源20から供給されるガスがプラズマ化し続ける。
【0045】
このように、本実施形態に係るプラズマ着火方法においては、開閉弁50を開放するだけでプラズマを着火することができ、その後はプラズマの生成を維持することができる。この間、真空槽10に印加する電圧は一定としたままである。また、真空槽10内の圧力は、ガス貯留部60と開閉弁50との作用によって変化するのであり、圧力を検出したうえで圧力を時々刻々と制御するような装置は不要である。
【0046】
なお真空槽10内の圧力は、図5に示すように変化するが、この変化の仕方はガス貯留部60に貯留されるガスの量、真空槽10の容積、絞り手段40のコンダクタンスなどを変えることで設定することができる。もちろん印加する電圧も適宜に設定することができる。これらの量を適宜に設定することによって、開閉弁50を開放した後に、真空槽10内の圧力が一時的にパッシェン曲線を上回るように設定することができる。
【0047】
<変形例>
先述の実施形態では、真空槽10内のガスには高周波コイル81を介して高周波電圧が印加されていたが、高周波コイルに代えて、一対の電極に高周波電圧を印加するよう構成することも可能である。また印加する電圧も高周波に限られず適宜に選択することができる。また直流電圧を印加することも可能である。なお、電極を使用した場合は、図4に相当するグラフの横軸が、真空槽内の圧力と電極間距離との積になるが、パッシェン曲線の形状は図4に示したものと同様となる。
【0048】
また先述の実施形態では、流路30のうち、絞り手段40から開閉弁50までの部分30b全体をガス貯留部60としていたが、これに代えて、部分30bのいずれかの位置を局部的に膨らませるなどしてガスを貯留させるよう構成することもできる。また、部分30bを含め流路30の形状や構造は、適宜に設定できる。また先述の実施形態では、絞り手段40としてパイプ41を使用していたが、この構成に代えて、リークバルブのような、開度を調整可能なバルブを使用することも可能である。これによって、ガス源20から真空槽10に流れるガス流量を変更することができる。また、このバルブの開度を調整することによって、プラズマを着火させるプロセスにおいて、開閉弁50を開放した後の真空槽10内の圧力の変化の仕方(図5参照)を変えることができる。
【符号の説明】
【0049】
1 プラズマ着火装置
10 真空槽
20 ガス源
30 流路
30a,30b,30c 部分
40 絞り手段
41 パイプ
41a 孔
50 開閉弁
60 ガス貯留部
61 管
61a 孔
70 真空ポンプ
80 電圧印加手段
81 高周波コイル
82 高周波電源
【要約】
【課題】 簡易な構成でありながら、印加する電圧が低く抑えられるようなプラズマ着火装置及びプラズマ着火方法を提供する。
【解決手段】 プラズマ着火装置1は、内部のガスに電圧を印加してプラズマ化する真空槽10と、真空槽10にガスを供給するガス源20と、ガス源20と真空槽10とを結びガスが流れる流路30と、流路30に設けられ、ガス源20から真空槽10に向けて流れるガスの流量を絞る絞り手段40と、絞り手段40と真空槽10との間の流路30に設けられ、流路30を開閉する開閉弁50と、絞り手段40と開閉弁50との間の流路30に設けられ、所定量のガスを貯留するガス貯留部60とを備えることを特徴とする。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5