(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】滑り抵抗測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 19/02 20060101AFI20240401BHJP
【FI】
G01N19/02 B
(21)【出願番号】P 2021008501
(22)【出願日】2021-01-22
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】521033066
【氏名又は名称】株式会社モアグリップ
(74)【代理人】
【識別番号】100130281
【氏名又は名称】加藤 道幸
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100214813
【氏名又は名称】中嶋 幸江
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100165489
【氏名又は名称】榊原 靖
(72)【発明者】
【氏名】名倉 孝次
(72)【発明者】
【氏名】富田 和宏
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-236733(JP,A)
【文献】特開2010-122019(JP,A)
【文献】特開2010-085350(JP,A)
【文献】特開2009-198276(JP,A)
【文献】特開平05-117008(JP,A)
【文献】国際公開第2009/077733(WO,A1)
【文献】米国特許第5107448(US,A)
【文献】米国特許第4187714(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床面、路面等の測定面の滑り抵抗値を測定するための滑り抵抗測定装置において、
物体を牽引することで該物体の荷重を測定する荷重測定器と、
該測定面に載置し、該荷重測定器を移動させることで該荷重測定器によって牽引される滑り片台座と、
該荷重測定器と該滑り片台座との間に、コイルバネからなる引張荷重速度調整器とを備え、
該滑り片台座の該測定面との接地面に、該滑り片台座が牽引される方向に沿って伸びる少なくとも2筋の所定の硬度を有する滑り片が配置されていることを特徴とする滑り抵抗測定装置。
【請求項2】
前記滑り片が、1筋が、幅8mm~15mm、長さ50mm~120mmであることを特徴とする請求項1記載の滑り抵抗測定装置。
【請求項3】
前記滑り片が、硬度(タイプA JIS K 6253-3:2012)が40~80の、樹脂製、シリコーン製、ゴム製又は革製であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の滑り抵抗測定装置。
【請求項4】
前記滑り片台座の重量が1.5kg~5.0kgであることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかに記載の滑り抵抗測定装置。
【請求項5】
前記滑り片台座が、台座本体と積み重ね可能な積層部材とからなり、
該積層部材を着脱することで、該滑り片台座の重量を可変可能なことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれかに記載の滑り抵抗測定装置。
【請求項6】
前記荷重測定器を略直線的に移動させるための荷重測定器用台車を備えることを特徴とする請求項1~請求項5のいずれかに記載の滑り抵抗測定装置。
【請求項7】
前記荷重測定器が、測定した荷重値を電子データで出力可能なデジタルフォースゲージであり、携帯用情報端末に該電子データを受け渡すことが可能であることを特徴とする請求項1~請求項6のいずれかに記載の滑り抵抗測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床面、路面等の測定面の滑り抵抗値を測定するための滑り抵抗測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、床面、路面等の測定面の滑り抵抗値を測定するための滑り抵抗測定装置が提供されている。具体的には、測定方法や測定装置に関して、JIS A 1454:2010(非特許文献1)で定められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】JIS A 1454:2010 高分子系張り床材試験方法
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、JISで定められている滑り抵抗測定装置は、大きさが大きく重量もあることから、実際に存在する階段の踏み板のような狭いスペースの滑り抵抗を図ることは、基本的にできない。また、JISで定められている滑り抵抗測定装置を用いて厳格に滑り抵抗値を測定しようとすると、測定の準備が煩雑で測定したい現場で容易に測定することが困難である。実際の滑り抵抗を測定する必要がある場面では、床面等の滑り具合を目安として簡易的に測定すれば良い機会が多い。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、簡易的な仕組みで容易に滑り抵抗値を測定可能な滑り抵抗測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の滑り抵抗測定装置は、物体を牽引することで物体の荷重を測定する荷重測定器と、測定面に載置し、荷重測定器を移動させることで荷重測定器によって牽引される滑り片台座と、荷重測定器と滑り片台座との間に、コイルバネからなる引張荷重速度調整器とを備え、滑り片台座の測定面との接地面に、滑り片台座が牽引される方向に沿って伸びる少なくとも2筋の所定の硬度を有する滑り片が配置されていることを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の滑り抵抗測定装置は、滑り片が、1筋が幅8mm~15mm、長さ50mm~120mmであることを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の滑り抵抗測定装置は、滑り片が、硬度(タイプA JIS K 6253-3:2012)が40~80の、樹脂製、シリコーン製、ゴム製又は革製であることを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の滑り抵抗測定装置は、滑り片台座の重量が1.5kg~5.0gであることを特徴とする。
【0010】
請求項5記載の滑り抵抗測定装置は、滑り片台座が、台座本体と積み重ね可能な積層部材とからなり、積層部材を着脱することで、滑り片台座の重量を可変可能なことを特徴とする。
【0011】
請求項6記載の滑り抵抗測定装置は、荷重測定器を略直線的に移動させるための荷重測定器用台車を備えることを特徴とする。
【0012】
請求項7記載の滑り抵抗測定装置は、荷重測定器が、測定した荷重値を電子データで出力可能なデジタルフォースゲージであり、携帯情報端末に電子データを受け渡すことが可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本願の発明によれば、荷重測定器と滑り片台座と引張荷重速度調整器とを備え、滑り片台座の接地面に、滑り片台座が牽引される方向に沿って伸びる少なくとも2筋の所定の硬度を有する滑り片が配置されている程度で、簡易的な仕組みで容易に滑り抵抗値を測定可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る滑り抵抗測定装置の構成の一例を示す説明図である。
【
図2】同滑り抵抗測定装置の滑り片台座及び滑り片を示す説明図である。
【
図3】同滑り抵抗測定装置の滑り片台座及び滑り片を示す説明図である。
【
図4】同滑り抵抗測定装置の滑り片台座と積層部材を示す説明図である。
【
図5】同滑り抵抗測定装置で測定した滑り抵抗値を示す説明図である。
【
図6】同滑り抵抗測定装置で測定した滑り抵抗値を示す説明図である。
【
図7】同滑り抵抗測定装置のシステムの構成の一例を示す説明図である。
【
図8】同滑り抵抗測定装置の荷重測定器用台車の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
図1は、本発明に係る滑り抵抗測定装置の構成の一例を示す説明図である。
図2及び
図3は、同滑り抵抗測定装置の滑り片台座及び滑り片を示す説明図である。
図4は、同滑り抵抗測定装置の滑り片台座と積層部材を示す説明図である。
図5及び
図6は、同滑り抵抗測定装置で測定した滑り抵抗値を示す説明図である。
図7は、同滑り抵抗測定装置のシステムの構成の一例を示す説明図である。
図8は、同滑り抵抗測定装置の荷重測定器用台車の一例を示す説明図である。
【0016】
図における滑り抵抗測定装置1は、床面、路面等の測定面の滑り抵抗値を測定するためのものである。滑り抵抗測定装置1は、荷重測定器であるデジタルフォースゲージ30、滑り片台座10、引張荷重速度調整器であるコイルバネ40、牽引ワイヤ42等で構成されている。
【0017】
デジタルフォースゲージ30は、フック30aの部分に加えられた引っ張り力を荷重値として測定するもので、測定した荷重値を電子データで外部に出力可能なものである。尚、本実施の形態では、荷重測定器としてデジタルフォースゲージを使用しているが、電子データを出力可能なものでなくても滑り抵抗測定装置1の荷重測定器としては使用可能である。
【0018】
滑り片台座10は、測定面Fに載置し、荷重測定器であるデジタルフォースゲージ30を移動させることでデジタルフォースゲージ30によって牽引されるものである。滑り片台座10が、測定面Fの上を引き摺られるような状態になり、滑り片台座10と測定面Fとの間に滑り抵抗値を計測することになる(実際に、測定面Fに接しているのは、後述する滑り片20)。
【0019】
滑り片台座10は、測定面Fとの接地面側(接地側面10aa)が、ほぼ平坦な面を有していれば良いが、本実施の形態の滑り片台座10では、滑り片台座10が牽引される側が、少し上昇した傾斜を有する形状になっている。また、滑り片台座10の材質は、特に限定されるものではないが、後述する所定の重さを必要となるため、金属製であることが望ましい。
【0020】
滑り片台座10は、滑り片台座10が牽引される側にフック12を有し、引張荷重速度調整器であるコイルバネ40、牽引ワイヤ42を介して、デジタルフォースゲージ30のフック30aに連結されている。引張荷重速度調整器は、デジタルフォースゲージ30を移動させた場合に、牽引される滑り片台座10が、同時に急峻に移動したりして慣性力の影響を受けてしまったりといった他の力学的な作用を極力排除して、より正確な滑り抵抗値の測定を可能にするための仕組みである。尚、引張荷重速度調整器の構成としては、コイルバネ40と牽引ワイヤ42とで構成されるものに限定されず、同様な作用・効果が見込めるものであれば、どのような構成であってもよい。
【0021】
滑り片台座10の測定面Fとの接地面(接地側面10aa)に、滑り片台座10が牽引される方向に沿って伸びる2筋の所定の硬度を有する滑り片20が配置されている。図に示す滑り片20は、滑り片台座10の接地側面10aaの両脇に、2本設けられているが、少なくとも2筋(2本)で、滑り片台座10が牽引される方向に対して左右均等になるように配置されていれば本数にこだわるものではないが、滑り片20は、接地側面10aaの全面に配置されている必要はない。
【0022】
滑り片20は、1筋(1本)が幅8mm~15mm、長さ50mm~120mmであることが望ましく、また、硬度(タイプA JIS K 6253-3:2012 ショアA硬度)が40~80の、樹脂製、シリコーン製、ゴム製又は革製であることが望ましい。さらに、滑り片台座10の重量が1.5kg~5.0kgであることが望ましい。尚、より厳密には、滑り片20は、1筋(1本)が幅9mm~15mm、長さ60mm~110mm、また、硬度(タイプA JIS K 6253-3:2012 ショアA硬度)は樹脂製、シリコーン製、ゴム製又は革製で50~70、滑り片台座10の重量が2.0kg~5.0kgに限定してもよい。
【0023】
尚、本実施の形態の滑り片台座10は、1つの部材で構成させるようにしても良いが、本実施の形態では、
図4に示すように、滑り片台座10が、台座本体10aと積み重ね可能な積層部材10b~10dとからなり、積層部材10b~10dを着脱することで、滑り片台座10の重量を可変可能な構成にするようにしてもよい。台座本体10a及びそれぞれの積層部材10b~10dは、積層方向に穿設された孔を有し、その孔に円柱状の連結ピン14a~14cを挿嵌させて、各積層部材10b~10dがずれないように固定される形態になっている。
【0024】
また、荷重測定器として、測定した荷重値を電子データで出力可能なデジタルフォースゲージ30を用いることにより、
図7に示すように、デジタルフォースゲージ30と携帯情報端末100とプリンタ120とからなる構成にし、デジタルフォースゲージ30が、携帯情報端末100に電子データを受け渡すことが可能な構成で使用するようにしてもよい。具体的には、例えば、デジタルフォースゲージ30で測定した荷重値のデジタルデータを、有線又は無線で、携帯情報端末100に送り、携帯情報端末100側で、受け取った荷重値を滑り抵抗値に計算し(何回かの平均を行ったり、複数回の計測値の最大と最小を切り捨てたり等の計算処理を行ってもよい)、滑り抵抗値を携帯情報端末100に表示させる。さらに、滑り抵抗値を、携帯情報端末100から、有線又は無線で、プリンタ120に送り、プリンタ120で印刷させるようにしてもよい。
【0025】
さらに、
図8に示すように、デジタルフォースゲージ30を略直線的に移動させるための荷重測定器用台車32を設けるようにしてもよい。荷重測定器用台車32は、上面にデジタルフォースゲージ30を載置可能で、また下面には車輪34を備えている。
図8に示すように、荷重測定器用台車32も測定面Fに置き、デジタルフォースゲージ30を、荷重測定器用台車32に乗せた状態で測定面Fの上を走らせるように移動させると、デジタルフォースゲージ30を容易に略直線的に移動させることができる。
【0026】
このような構成の滑り抵抗測定装置1によれば、荷重測定器であるデジタルフォースゲージ30と滑り片台座10と引張荷重速度調整器(コイルバネ40)とを備え、滑り片台座10の接地側面10aaに、滑り片台座10が牽引される方向に沿って伸びる少なくとも2筋の所定の硬度を有する滑り片20が配置されている程度で、簡易的な仕組みで容易に滑り抵抗値を測定可能である。
【実施例】
【0027】
以下の実施例では、測定実験を実際に行った滑り片台座10及び滑り片20による滑り抵抗測定装置1による滑り抵抗値と、従来測定装置であるJIS(JIS A 1454:2010 高分子系張り床材試験方法)で定められた方法に厳格な滑り抵抗測定装置による滑り抵抗値と対比を説明する。
【0028】
滑り抵抗測定装置1は、滑り片台座10の重さが2kg、滑り片台座10の幅が80mmであるが、滑り片20は、幅10mmで長さが85mmで、ゴムで、硬度は、シェアA硬度で70と50の2種類で、左右に同じ硬度のものを2筋貼付して各測定を行った。
【0029】
尚、対比対象の従来測定装置は、東北測器社製のONO-PPSMで、滑り片台座の重さが20kg、滑り片が滑り片台座の幅方向の全面に貼付され、その幅が50mmで最長部分の長さが60mm、滑り片の材質は、ゴムで、硬度は、シェアA硬度で80である。
【0030】
測定面Fは、御影石の平滑な床材用のタイル面で、床面での転倒を防止するための塗布材である防滑材(株式会社名倉ルーフの商品名:クリアグリップ)を塗布していない未施工、当該防滑材を塗布してCG#70相当、CG#40相当、CG#30相当の荒さに整えた面で、それぞれ測定を行った(CG#は、サンドペーパーの表面の目の粗さを示す番手を目安にした値)。
【0031】
また、
図5に示すグラフは、測定面Fが乾燥した状態で、
図6に示すグラフは、測定面Fに霧吹きで水滴を塗布して湿潤状態にした場合のものである。
【0032】
さらに、測定自体は、各5回測定を行って、最大値と最小値を落として中央値3回分を平均した値であるが、この各5回測定を行って、最大値と最小値を落として中央値3回分を平均した値を求めること自体を各2回行って、その2回の平均を行った値のグラフが
図5及び
図6に示すものである。
【0033】
図5及び
図6のグラフから明らかなように、本願の滑り抵抗測定装置1で測定した滑り抵抗値であっても、従来測定装置で測定した滑り抵抗値であっても、
図5の乾燥状態に比べ、
図6の湿潤状態での滑り抵抗値の方が小さく、湿潤状態の方が滑りやすいことを共に示している。また、乾燥状態にしても湿潤状態にしても、本願の滑り抵抗測定装置1で測定した滑り抵抗値であっても、従来測定装置で測定した滑り抵抗値であっても、CG#の番手が大きい方が目が細かく滑り抵抗値が小さくて滑りやすいことを共に示している。
【0034】
このように、本願の滑り抵抗測定装置1で測定した滑り抵抗値が、従来測定装置で測定した滑り抵抗値と一定の相関関係を持ったといえる値になっており、滑り抵抗値の簡易測定においては、本願の滑り抵抗測定装置1の測定が妥当性を有しているといえる。
【0035】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、請求の範囲によって示される。そして、請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上のように、本発明によれば、簡易的な仕組みで容易に滑り抵抗値を測定可能な滑り抵抗測定装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0037】
1・・・・・・滑り抵抗測定装置
10・・・・・滑り片台座
10a・・・・台座本体
10aa・・・接地側面
10b・・・・積層部材
10c・・・・積層部材
10d・・・・積層部材
12・・・・・フック
14a・・・・連結ピン
14b・・・・連結ピン
14c・・・・連結ピン
20・・・・・滑り片
30・・・・・デジタルフォースゲージ
30a・・・・フック
32・・・・・荷重測定器用台車
34・・・・・車輪
40・・・・・コイルバネ
42・・・・・牽引ワイヤ
100・・・・携帯情報端末
120・・・・プリンタ