(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】無線通信システム
(51)【国際特許分類】
H04W 16/00 20090101AFI20240401BHJP
H04W 24/08 20090101ALI20240401BHJP
【FI】
H04W16/00
H04W24/08
(21)【出願番号】P 2020003868
(22)【出願日】2020-01-14
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141678
【氏名又は名称】佐藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小野 芳人
【審査官】石田 信行
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-17025(JP,A)
【文献】特表2009-520394(JP,A)
【文献】国際公開第2012/108450(WO,A1)
【文献】特開平10-336103(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の基地局と、
前記基地局から送信される無線信号を受信する端末と、を有し、
前記端末が、前記基地局から送信されるアイドル信号を受信するはずの所定の時間のうちに前記アイドル信号を受信せず、かつ、前記所定の時間経過後に前記アイドル信号を受信した場合に、前記基地局に対して移相要求信号を出力する移相要求部を備え、
前記複数の基地局のうちの少なくとも1つが、前記端末から送信された前記移相要求信号を受信した場合に当該の基地局から送信される無線信号の位相を変更する移相部を備える、
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記所定の時間の間は前記複数の基地局が同期して前記アイドル信号を送信するとともに前記所定の時間経過後に前記複数の基地局のうちの一部の基地局のみが前記アイドル信号を送信することにより、
前記端末が、前記複数の基地局から送信される前記無線信号が干渉し合う位置に居る場合に、前記所定の時間のうちに前記アイドル信号を受信せず、かつ、前記所定の時間経過後に前記アイドル信号を受信する、
ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
複数の基地局と、
前記基地局から送信される無線信号を受信する端末と、を有し、
前記端末が、前記基地局から送信されるアイドル信号を受信する状態と受信しない状態とが交互に繰り返された場合に、前記基地局に対して移相要求信号を出力する移相要求部を備え、
前記複数の基地局のうちの少なくとも1つが、前記端末から送信された前記移相要求信号を受信した場合に当該の基地局から送信される無線信号の位相を変更する移相部を備える、
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項4】
前記複数の基地局が同期して前記アイドル信号を連続して送信する際に、前記複数の基地局のうちの少なくとも1つが、当該の基地局から送信される前記アイドル信号の位相を一定周期で変更しながら連続して送信することにより、
前記端末が、前記複数の基地局から送信される前記無線信号が干渉し合う位置に居る場合に、前記端末において、前記基地局から送信される前記アイドル信号を受信する状態と受信しない状態とが交互に繰り返される、
ことを特徴とする請求項3に記載の無線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信システムに関し、特に複数の基地局から送信される無線信号同士の干渉を回避する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の基地局から同一の信号を端末へと向けて送信する無線通信システムが知られている。例えば、第1のセルを形成する第1の張り出し基地局と第2のセルを形成する第2の張り出し基地局とが、第1のセルに位置するユーザ端末に対して、同一のデータを送信する協力通信を行う無線通信システムが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、複数の基地局から同一の信号を同一周波数でフレーム同期して端末へと向けて送信する無線通信システムでは、基地局から送信される無線信号(電波)を端末が受信できない事態を防ぐために、各基地局から送信される無線信号(電波)が届く範囲(即ち、通信エリア)の一部が相互に重なるように調整される。このため、複数の基地局それぞれから送信される無線信号(電波)同士が相互に干渉するエリア(「干渉エリア」と呼ぶ)が生じる。そして、干渉エリア内では、或る受信地点で、複数の無線信号(電波)が同一レベルかつ逆相になって合成されると、同一波干渉(即ち、ビート干渉)によって信号が消失してしまう。ビート干渉による信号消失が発生する地点は、通信エリア(通信エリアのうちの特に、干渉エリア)の一部に縞状に分布する。この縞とは、距離軸でみたとき、複数(例えば、2つ)の基地局から送信される無線信号(電波)の合成波の節にあたる部分である。この節にあたる位置に端末があると、当該端末は時間軸でみると信号はずっとゼロのままで、なんら情報を受取ることができない。この場合さらに、端末側では、信号消失が、通信エリアを逸脱したことによるものであるのか、或いは、ビート干渉が生じたことによるものであるのか、を判別することができない。
【0005】
そこで本発明は、複数の基地局から同一の信号を同一周波数でフレーム同期して端末へと向けて送信する際のビート干渉の発生を回避することが可能な無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、複数の基地局と、前記基地局から送信される無線信号を受信する端末と、を有し、前記端末が、前記基地局から送信されるアイドル信号を受信するはずの所定の時間のうちに前記アイドル信号を受信せず、かつ、前記所定の時間経過後に前記アイドル信号を受信した場合に、前記基地局に対して移相要求信号を出力する移相要求部を備え、前記複数の基地局のうちの少なくとも1つが、前記端末から送信された前記移相要求信号を受信した場合に当該の基地局から送信される無線信号の位相を変更する移相部を備える、ことを特徴とする無線通信システムである。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の無線通信システムにおいて、前記所定の時間の間は前記複数の基地局が同期して前記アイドル信号を送信するとともに前記所定の時間経過後に前記複数の基地局のうちの一部の基地局のみが前記アイドル信号を送信することにより、前記端末が、前記複数の基地局から送信される前記無線信号が干渉し合う位置に居る場合に、前記所定の時間のうちに前記アイドル信号を受信せず、かつ、前記所定の時間経過後に前記アイドル信号を受信する、ことを特徴とする。
【0008】
また、請求項3に記載の発明は、複数の基地局と、前記基地局から送信される無線信号を受信する端末と、を有し、前記端末が、前記基地局から送信されるアイドル信号を受信する状態と受信しない状態とが交互に繰り返された場合に、前記基地局に対して移相要求信号を出力する移相要求部を備え、前記複数の基地局のうちの少なくとも1つが、前記端末から送信された前記移相要求信号を受信した場合に当該の基地局から送信される無線信号の位相を変更する移相部を備える、ことを特徴とする無線通信システムである。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の無線通信システムにおいて、前記複数の基地局が同期して前記アイドル信号を連続して送信する際に、前記複数の基地局のうちの少なくとも1つが、当該の基地局から送信される前記アイドル信号の位相を一定周期で変更しながら連続して送信することにより、前記端末が、前記複数の基地局から送信される前記無線信号が干渉し合う位置に居る場合に、前記端末において、前記基地局から送信される前記アイドル信号を受信する状態と受信しない状態とが交互に繰り返される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1や請求項3に記載の発明によれば、信号消失が通信エリアの逸脱によるものではなくてビート干渉によるものであることを端末側で判別することができるとともに、複数の基地局から送信される無線信号(電波)の位相を、端末からの要求に応じて、前記端末の地点において無線信号(電波)が逆相で打ち消し合うような位相関係を解消するように変更することができるので、複数の基地局から同一の信号を同一周波数でフレーム同期して端末へと向けて送信する際のビート干渉が発生する地点を移動させて端末におけるビート干渉の発生を回避することが可能となる。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、一部の基地局のみがアイドル信号を送信することにより、ビート干渉の発生を回避して端末にアイドル信号を受信させることができ、信号消失が通信エリアの逸脱によるものではなくてビート干渉によるものであることを端末に判別させることが可能となる。
【0012】
請求項4に記載の発明によれば、一部の基地局が位相を一定周期で変更しながら連続してアイドル信号を送信することにより、ビート干渉の発生を回避して端末にアイドル信号を受信させることができ、信号消失が通信エリアの逸脱によるものではなくてビート干渉によるものであることを端末に判別させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】この発明の実施の形態に係る無線通信システムを示す概略構成図である。
【
図2】
図1の無線通信システムの基地局3Aの概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】
図1の無線通信システムの基地局3Bの概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図4】
図1の無線通信システムの端末4の概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図5】実施の形態1の無線通信システムの動作例を示す動作概念図である。
【
図6】実施の形態1の無線通信システムの他の動作例を示す動作概念図である。
【
図7】実施の形態2の無線通信システムの動作例を示す動作概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0015】
図1は、この発明の実施の形態に係る無線通信システム1を示す概略構成図である。この無線通信システム1は、無線通信を行うためのシステムであり、統制局2と、複数の基地局3と、これら基地局3との間で無線通信を行う端末4とを有する。なお、この発明に係る無線通信システム1は、狭帯域なシングルキャリア信号を用いる、例えば防災無線などの業務用無線を対象として適用され得る。また、複数の基地局の各々を区別する必要がない場合には「基地局3」と表記し、複数の基地局の各々を区別する場合には「基地局3A」,「基地局3B」などと表記する。
【0016】
この実施の形態に係る無線通信システム1は、主として、所定の場合にビート干渉が生じていると端末4が判断するとともに基地局3が無線信号の位相の変更を行う点が従来の無線通信システムと構成が異なる。一方で、統制局2としては従来の無線通信システムと同等の構成が用いられ、また、基地局3および端末4も無線通信を行うための構成としては従来の無線通信システムと同等の構成が用いられ、特定の構成に限定されるものではないものの、この実施の形態では概略は次のような構成となっている。
【0017】
統制局2は、各基地局3を統制したり制御したりしつつ、これら基地局3を介して、端末4との間でデータ(具体的には、デジタルデータ信号やデジタル音声信号)を送受信する。統制局2は、端末4へと送信するデータ(フレームデータ)を生成して各基地局3へとデジタル伝送し、また、統制局2に、端末4から送信されるデータ(フレームデータ)が各基地局3を介してデジタル伝送される。
【0018】
複数の基地局3のそれぞれは、例えば光回線や無線によるエントランス回線21によって統制局2と通信可能に接続されている。この実施の形態では、基地局3Aと基地局3Bとの2つの基地局が統制局2と通信可能に接続されている。
【0019】
各基地局3は、統制局2からの統制に基づいたり制御に基づいたりして、統制局2から伝送されるデータを端末4への送信用の送信データに変換して端末4へと無線により送信し、また、端末4から無線により送信されるデータを統制局2への伝送用の受信データに変換して統制局2へと伝送する。端末4は、1つもしくは複数の基地局3を介して、他の端末4と通信可能であり、また、統制局2とも通信可能である。
【0020】
基地局3Aから端末4へと向けて送信される無線信号(電波)が届く範囲(即ち、通信エリア)と基地局3Bから端末4へと向けて送信される無線信号(電波)が届く範囲(即ち、通信エリア)とは一部が相互に重なるように調整される。統制局2と通信可能に接続している基地局3Aと基地局3Bとは、統制局2からデジタル伝送されるデータ(即ち、同一のフレームデータ、別言すると、同一の信号)を、端末4に対して、同一の周波数を使用した無線通信により、統制局2から供給されるクロック信号(或いは、タイミング信号)を使用してフレーム同期して送信する。
【0021】
上記の構成のため、端末4は、複数の基地局3との位置関係により、1つの基地局3から送信された1つの無線信号(電波)を受信したり、複数の基地局3からフレーム同期して送信された複数の無線信号(電波)を受信したりする。この実施の形態では、端末4は、基地局3Aから送信された1つの無線信号(電波)を受信したり、基地局3Bから送信された1つの無線信号(電波)を受信したり、基地局3Aと基地局3Bとからフレーム同期して送信された内容が同一の2つの無線信号(電波)を受信したりする。
【0022】
各基地局3は、この発明に関係する主な構成(機能ブロック)として、符号化部31と、変調部32と、送受信部33と、復調部34と、復号部35と、アンテナ38とを備える(
図2参照)。
【0023】
端末4への下り通信に纏わる処理として、基地局3の符号化部31は、統制局2から伝送される送信データの入力を受け、送信データに対して誤り訂正符号化処理を施してデータ系列(「符号系列」と呼ぶ)を生成して、変調部32へと転送する。誤り訂正符号化処理の具体的な仕法は、特定の手法に限定されるものではなく、従来周知の若しくは新規の手法の中から適当な手法が適宜選択される。
【0024】
変調部32は、符号化部31から転送される符号系列の入力を受け、符号系列に対して変調処理を施してデータ系列(「変調系列」と呼ぶ)を生成して、送受信部33へと転送する。変調処理の具体的な仕法は、特定の変調方式に限定されるものではなく、従来周知の若しくは新規の変調方式の中から適当な変調方式が適宜選択される。具体的には例えば、周波数変調方式が用いられて変調処理が行われるようにしてもよい。
【0025】
送受信部33は、変調部32から転送される変調系列の入力を受け、変調系列を無線信号に変換して、アンテナ38から端末4へと向けて無線送信する。
【0026】
また、端末4からの上り通信に纏わる処理として、送受信部33は、端末4から送信されてアンテナ38を介して受信した無線信号(電波)に対して信号処理を施してベースバンド信号に変換して、復調部34へと転送する。
【0027】
復調部34は、送受信部33から転送されるベースバンド信号の入力を受け、ベースバンド信号に対して復調処理を施してデータ系列(「復調系列」と呼ぶ)を生成して、復号部35へと転送する。
【0028】
復号部35は、復調部34から転送される復調系列の入力を受け、復調系列に対して誤り訂正復号化処理を施して受信データを生成する。この受信データは、統制局2へと伝送される。
【0029】
さらに、複数の基地局3から同期して送信される複数の無線信号(電波)を端末4が受信する可能性がある場合の、前記複数の基地局3のうちの少なくとも1つの基地局3に、移相設定部36および移相部37が備えられる。この実施の形態では、基地局3Aと基地局3Bとから同期して送信される内容が同一の2つの無線信号(電波)を端末4が受信する可能性があるので、基地局3Bに移相設定部36および移相部37が備えられる(
図3参照)。
【0030】
移相設定部36および移相部37は、この発明に係る特徴的構成であり、所定の場合に端末4へと向けて送信する無線信号(電波)の位相を変更するための仕組みである。
【0031】
移相設定部36は、復号部35における処理後の、端末4から基地局3への上り通信の内容を監視し、端末4から送信される無線信号が、アンテナ38から送信される無線信号(電波)の位相を変更することを要求する信号(「移相要求信号」と呼ぶ)であるか否かを判定する。そして、移相設定部36は、端末4から送信される無線信号が移相要求信号である場合に、移相機能を有効化する指令(「移相有効化指令」と呼ぶ)を移相部37に対して出力する。
【0032】
移相部37は、無線信号(電波)を生成する仕組みの一部として送受信部33内に組み込まれ、移相設定部36から移相有効化指令が入力されて移相機能が有効化されている場合に、アンテナ38から送信される無線信号(電波)の搬送波の位相を変更する。
【0033】
移相部37は、移相設定部36から移相有効化指令が入力された場合に、アンテナ38から送信される無線信号(電波)の位相を変更する機能を備える。そして、この実施の形態では、基地局3Bの移相部37が、基地局3Bから送信される無線信号(電波)が端末4の地点において逆相で打ち消し合うような位相関係を解消するために、基地局3Bから送信される無線信号(電波)の位相を変更する。移相部37は、具体的には例えば移相器によって構成され得る。
【0034】
なお、基地局3Aと基地局3Bとに加えて他の基地局3C(図示していない)からも同期して送信される3つの無線信号(電波)を端末4が受信する可能性がある場合には、基地局3Bに加えて基地局3Aと基地局3Cとのうちのどちらか一方にも移相設定部36および移相部37が備えられるようにしてもよい。さらに言えば、N個の基地局3から同期して送信されるN個の無線信号(電波)を端末4が受信する可能性がある場合には、多くてもN-1個の基地局3に、移相設定部36および移相部37が備えられるようにすればよい(但し、Nは自然数)。また、すべての基地局3に移相設定部36および移相部37が備えられるようにしてもよく、その場合には、少なくとも一つの移相部37による位相の変更量が他の移相部37による位相の変更量と相互に異なる値になるように調整される。
【0035】
端末4は、基地局3から送信される無線信号(電波)を受信して所定の変換処理を行って当該端末4の利用者へと伝達するとともに、当該端末4の利用者から伝達される情報・データに対して所定の変換処理を行って無線信号(電波)により基地局3へと送信する。端末4は、複数の基地局3との位置関係により、1つの基地局3から送信された1つの無線信号(電波)を受信したり、複数の基地局3から同期して送信された複数の無線信号(電波)を受信したりする。この実施の形態では、端末4は、基地局3Aから送信された1つの無線信号(電波)を受信したり、基地局3Bから送信された1つの無線信号(電波)を受信したり、基地局3Aと基地局3Bとから同期して送信された内容が同一の2つの無線信号(電波)を受信したりする。
【0036】
そして、端末4は、ビート干渉が生じる位置に居るために基地局3Aおよび基地局3Bが同期して送信する無線信号(電波)を受信することができない場合に、基地局3Bから送信される無線信号(電波)が端末4の地点において逆相で打ち消し合うような位相関係を解消するためにアンテナ38から送信される無線信号(電波)の位相を変更することを要求する信号(即ち、移相要求信号)を基地局3に対して送信する。
【0037】
端末4は、この発明に関係する主な構成(機能ブロック)として、符号化部41と、変調部42と、送受信部43と、復調部44と、復号部45と、判定部46と、移相要求部47と、アンテナ48とを備える(
図4参照)。
【0038】
基地局3への上り通信に纏わる処理として、端末4の符号化部41は、端末4が備えている入力機能(例えば、マイク)および所定の変換機能(図示していない)を介して端末4の利用者から伝達される情報・データに対して誤り訂正符号化処理を施してデータ系列(「符号系列」と呼ぶ)を生成して、変調部42へと転送する。誤り訂正符号化処理の具体的な仕法は、特定の手法に限定されるものではなく、従来周知の若しくは新規の手法の中から適当な手法が適宜選択される。
【0039】
変調部42は、符号化部41から転送される符号系列の入力を受け、符号系列に対して変調処理を施してデータ系列(「変調系列」と呼ぶ)を生成して、送受信部43へと転送する。変調処理の具体的な仕法は、特定の変調方式に限定されるものではなく、従来周知の若しくは新規の変調方式の中から適当な変調方式が適宜選択される。具体的には例えば、周波数変調方式が用いられて変調処理が行われるようにしてもよい。
【0040】
送受信部43は、変調部42から転送される変調系列の入力を受け、変調系列を無線信号に変換して、アンテナ48から基地局3へと向けて無線送信する。
【0041】
また、基地局3からの下り通信に纏わる処理として、送受信部43は、基地局3から送信されてアンテナ48を介して受信した無線信号(電波)に対して信号処理を施してベースバンド信号に変換して、復調部44へと転送する。
【0042】
復調部44は、送受信部43から転送されるベースバンド信号の入力を受け、ベースバンド信号に対して復調処理を施してデータ系列(「復調系列」と呼ぶ)を生成して、復号部45へと転送する。
【0043】
復号部45は、復調部44から転送される復調系列の入力を受け、復調系列に対して誤り訂正復号化処理を施して受信データを生成する。この受信データは、端末4が備えている所定の変換機能および出力機能(例えば、スピーカ)(図示していない)を介して端末4の利用者へと伝達される。
【0044】
判定部46および移相要求部47は、この発明に係る特徴的構成であり、所定の場合にビート干渉が生じていると判断するとともに端末4へと向けて送信する無線信号(電波)の位相の変更を基地局3に対して要求するための仕組みである。
【0045】
判定部46は、復号部45における処理後の、基地局3から端末4への下り通信の内容を監視し、基地局3から送信されるアイドル信号を受信するはずのタイミングで、言い換えると、通信終了から所定の時間のうちに、アイドル信号を受信せず、かつ、前記タイミングの後に、言い換えると、通信終了から前記所定の時間経過後に、アイドル信号を受信したか否かを判定する。そして、判定部46は、前記所定の時間のうちにアイドル信号を受信せず且つ前記所定の時間経過後にアイドル信号を受信した場合に、移相要求信号を基地局3に対して送信する指令(「移相要求送信指令」と呼ぶ)を移相要求部47に対して出力する。
【0046】
端末4がアイドル信号を受信するはずの所定の時間は、基地局3および端末4の機器構成や基地局3と端末4との間での通信に用いられる通信規格などに応じて様々であるが、例えば、数十~数百ms程度であることが考えられる。
【0047】
判定部46は、あるいは、復号部45における処理後の、基地局3から端末4への下り通信の内容を監視し、基地局3から送信されるアイドル信号を受信する状態と受信しない状態とが交互に繰り返されたか否かを判定する。そして、判定部46は、基地局3から送信されるアイドル信号を受信する状態と受信しない状態とが交互に繰り返された場合に、移相要求信号を基地局3に対して送信する指令(即ち、移相要求送信指令)を移相要求部47に対して出力する。
【0048】
移相要求部47は、判定部46から出力される移相要求送信指令の入力を受けた場合に、移相要求信号を符号化部41へと転送する。この移相要求信号は、変調部42や送受信部43において所定の変換処理が行われて基地局3に対して送信される。
【0049】
(実施の形態1)
実施の形態1に係る無線通信システム1は、複数の基地局3と、基地局3から送信される無線信号(電波)を受信する端末4と、を有し、端末4が、基地局3から送信されるアイドル信号を受信するはずの所定の時間のうちにアイドル信号を受信せず、かつ、前記所定の時間経過後にアイドル信号を受信した場合に、基地局3に対して移相要求信号を出力する移相要求部47を備え、複数の基地局3のうちの少なくとも1つが、端末4から送信された移相要求信号を受信した場合に当該の基地局3から送信される無線信号(電波)の位相を変更する移相部37を備え、その上で、前記所定の時間の間は複数の基地局3が同期してアイドル信号を送信するとともに前記所定の時間経過後に複数の基地局3のうちの一部の基地局のみがアイドル信号を送信することにより、端末4が、複数の基地局3から送信される無線信号(電波)が干渉し合う位置に居る場合に、前記所定の時間のうちにアイドル信号を受信せず、かつ、前記所定の時間経過後にアイドル信号を受信する、ようにしている。
【0050】
基地局3と端末4との間では、基地局3と端末4との間でのデータの送受信の終了時やデータの送受信が行われていない期間に、アイドル信号の送受信が行われる。アイドル信号の送受信が行われるきっかけやアイドル信号の送受信の仕法は、基地局3および端末4の機器構成や基地局3と端末4との間での通信に用いられる通信規格などに応じて様々な態様があり得る。あくまで例としては、端末4で終話操作が行われることにより、端末4がプレストークオンからプレストークオフに推移したことを基地局3が認識し、基地局3が端末4に対してアイドル信号を送信する態様が挙げられる(
図5参照)。また、統制局2がプレストークオンからプレストークオフに推移したことを基地局3が認識し、基地局3が端末4に対してアイドル信号を送信する態様が挙げられる(
図6参照)。
【0051】
このとき、基地局3Aと基地局3Bとは、通常は同期してアイドル信号を送信する。ここで、複数の基地局3のすべてから同期して送信されるアイドル信号のことを「共通アイドル信号」と呼ぶ。
【0052】
基地局3Aと基地局3Bとのそれぞれから同一周波数で同期して無線送信される共通アイドル信号(電波)は、これら基地局3Aと基地局3Bとの各々の通信エリアの一部が相互に重なって基地局3Aから送信される無線信号(電波)と基地局3Bから送信される無線信号(電波)とが干渉し合うエリアである干渉エリア内で同一レベルかつ逆相(即ち、位相が相互に180°反転した状態)になって合成されると、同一波干渉(即ち、ビート干渉)によって消失する。このため、端末4は共通アイドル信号(電波)を受信することができない。この場合さらに、端末4は、信号消失が、通信エリアを逸脱したことによるものであるのか、或いは、ビート干渉が生じたことによるものであるのか、を判別することができない。
【0053】
このとき、信号消失が通信エリアの逸脱によるものである場合には、基地局3Aと基地局3Bとのうちのどちらか一方のみからアイドル信号を送信しても、端末4はアイドル信号を引き続き受信することができない一方で、信号消失がビート干渉によるものである場合には、基地局3Aと基地局3Bとのうちのどちらか一方のみからアイドル信号を送信すると、ビート干渉は生じないので、端末4はアイドル信号を受信することができるようになる。ここで、複数の基地局3のうちの一部の基地局3のみから送信されるアイドル信号のことを「個別アイドル信号」と呼ぶ。
【0054】
上記も踏まえ、実施の形態1の無線通信システム1の動作、作用などについて、
図5および
図6も用いて説明する。なお、下記では、この発明に関係する主な処理内容を説明し、無線通信を行うための従来周知の汎用的な処理については説明を省略する。
【0055】
実施の形態1では、端末4がアイドル信号を受信するはずのタイミングで、言い換えると、通信終了(具体的には、通信の終了フレームの送受信)から所定の時間の間は、複数の基地局3のすべてが同期してアイドル信号(即ち、共通アイドル信号)を送信するとともに、前記タイミングの後に、言い換えると、通信終了(具体的には、通信の終了フレームの送受信)から前記所定の時間経過後に、複数の基地局3のうちの一部の基地局3(この実施の形態では、基地局3B)のみがアイドル信号(即ち、個別アイドル信号)を送信する。なお、端末4がアイドル信号を受信するはずのタイミング、言い換えると、通信終了からの所定の時間の長さは、基地局3および端末4の機器構成や基地局3と端末4との間での通信に用いられる通信規格などに応じて様々な設定があり得る。
【0056】
実施の形態1では、まず、端末4において終話操作が行われて端末4から基地局3へと通信の終了フレームが送信される(ステップS1)ことによって端末4がプレストークオンからプレストークオフに推移したことを基地局3が認識すると(
図5)、或いは、統制局2がプレストークオンからプレストークオフに推移した(ステップS1)ことを基地局3が認識すると(
図6)、基地局3Aと基地局3Bとが同期して端末4に対して共通アイドル信号を送信する(ステップS2)。このとき、端末4の地点において基地局3Aから送信される無線信号(電波)と基地局3Bから送信される無線信号(電波)とが干渉し合ってビート干渉が生じると、端末4は共通アイドル信号(電波)を受信することができない(ステップS3)。
【0057】
続いて、基地局3Bのみが端末4に対してアイドル信号(即ち、個別アイドル信号)を送信する(ステップS4)。このとき、基地局3Aはアイドル信号を送信しないので、基地局3Aから送信される無線信号(電波)と基地局3Bから送信される無線信号(電波)とが干渉し合うことがなくビート干渉は生じないので、端末4は基地局3Bからの個別アイドル信号を受信することができる(ステップS5)。
【0058】
なお、基地局3Aと基地局3Bとに加えて他の基地局3C(図示していない)からも同期して送信される3つのアイドル信号(電波)を端末4が受信する可能性がある場合には、基地局3Bのみが個別アイドル信号を送信するようにしてもよく、或いは、基地局3Bに加えて基地局3Aと基地局3Cとのうちのどちらか一方が個別アイドル信号を送信するようにしてもよい。さらに言えば、N個の基地局3から同期して送信されるN個のアイドル信号(電波)を端末4が受信する可能性がある場合には、多くてもN-1個の基地局3が個別アイドル信号(電波)を送信するようにすればよい(但し、Nは自然数)。N個の基地局3から同期して送信されるN個の無線信号(電波)が干渉し合ってビート干渉が生じている場合には、N個の無線信号(電波)のうちの1つでも送信されないことにより、ビート干渉が解消されることがある。したがって、N個の基地局3から同期して送信されるN個のアイドル信号(電波)を端末4が受信する可能性がある場合には、前記N個の基地局3のうちの1個の基地局3のみから個別アイドル信号を送信することが特に確実性の観点から好ましいものの、最大でN-1個の基地局3から個別アイドル信号を送信するようにしてもよい。
【0059】
ステップS4の処理に係る個別アイドル信号を端末4が受信する(ステップS5)ことにより、端末4の判定部46は、アイドル信号を受信するはずのタイミングで、言い換えると、通信終了(具体的には、通信の終了フレームの送受信)から所定の時間のうちに、アイドル信号(ここでは、共通アイドル信号)を受信せず、かつ、前記タイミングの後に、言い換えると、通信終了から前記所定の時間経過後に、アイドル信号(ここでは、個別アイドル信号)を受信したことを認識する。これにより、判定部46は、基地局3Aから送信される無線信号(電波)と基地局3Bから送信される無線信号(電波)とが干渉し合ってビート干渉が生じていると判断し、移相要求送信指令を移相要求部47に対して出力する。そして、端末4の移相要求部47は移相要求信号を符号化部41へと転送し、変調部42や送受信部43において所定の変換処理が行われて基地局3に対して移相要求信号が送信される(ステップS6)。移相要求信号は、例えば、通信フレームを構成する通信スロットに割り当てられている、制御フレーム中の制御チャネルが用いられて、制御情報の一種として、端末4から基地局3へと無線送信される。
【0060】
移相要求信号を受信した基地局3Bの移相設定部36は、移相部37に対して移相有効化指令を出力する。移相設定部36から移相有効化指令が入力された移相部37は、基地局3Bから送信される無線信号(電波)の位相を変更する(具体的には、アンテナ38から送信される無線信号(電波)の搬送波の位相を変更する)(ステップS7)。
【0061】
これにより、基地局3Aから送信される無線信号(電波)と基地局3Bから送信される無線信号(電波)とが干渉し合ってビート干渉が生じる位置が、基地局3Bから送信される無線信号の位相を変更する前と変わる。このため、端末4は、基地局3Aと基地局3Bとから同一周波数で同期して送信される2つの無線信号(電波)を受信することができるようになる(ステップS8)。
【0062】
基地局3Bの移相部37の移相機能は、無効化されることなく継続されるようにしてもよく、或いは、一定時間経過後に無効化されるようにしてもよい。
【0063】
なお、ビート干渉が生じていると判定部46が判断した端末4が無線信号を送信する場合に、送信のたびに、通信フレームを構成する通信スロットに割り当てられている、制御フレーム中の制御チャネルに、制御情報の一種として、移相要求信号が含められるようにしてもよい。この場合には、基地局3Bの移相設定部36は、制御チャネルに移相要求信号が含められている通信フレームを受信するたびに、移相部37に対して移相有効化指令を出力する。そして、移相部37は、当該の通信フレームに関係する通信を行う場合に無線信号(電波)の位相を変更し、当該の通信フレームに関係する通信が終了したときに無線信号(電波)の位相の変更を無効化する。
【0064】
また、基地局3Bの移相部37の移相機能が既に有効化されている状態で、端末4(移相要求信号を既に送信した端末、または、移相要求信号を送信していない端末)から移相要求信号がさらに送信された場合には、移相部37は、位相の変更量を変化させる。
【0065】
また、基地局3Aと基地局3Bとに加えて他の基地局3C(図示していない)からも同期して送信される3つの無線信号(電波)を端末4が受信する可能性がある場合には、基地局3Bのみが無線信号(電波)の位相を変更するようにしてもよく、或いは、基地局3Bに加えて基地局3Aと基地局3Cとのうちのどちらか一方が無線信号(電波)の位相を変更するようにしてもよい。さらに言えば、N個の基地局3から同期して送信されるN個の無線信号(電波)を端末4が受信する可能性がある場合には、多くてもN-1個の基地局3が無線信号(電波)の位相を変更するようにすればよい(但し、Nは自然数)。N個の基地局3から同期して送信されるN個の無線信号(電波)が干渉し合ってビート干渉が生じている場合には、N個の無線信号(電波)のうちの1つでも位相が変更されることにより、ビート干渉が解消されることがある。したがって、N個の基地局3から同期して送信されるN個の無線信号(電波)を端末4が受信する可能性がある場合には、前記N個の基地局3のうちの1個の基地局3のみが無線信号(電波)の位相を変更するようにしてもよく、或いは、最大でN-1個の基地局3が無線信号(電波)の位相を変更するようにしてもよい。また、すべての基地局3が無線信号(電波)の位相を変更するようにしてもよく、その場合には、少なくとも一つの基地局3における位相の変更量が他の基地局3における位相の変更量と相互に異なる値になるように調整される。
【0066】
実施の形態1に係る無線通信システム1によれば、信号消失が通信エリアの逸脱によるものではなくてビート干渉によるものであることを端末4側で判別することができるとともに、複数の基地局3から送信される無線信号(電波)の位相を、端末4からの要求に応じて、端末4の地点において無線信号(電波)が逆相で打ち消し合うような位相関係を解消するように変更することができるので、複数の基地局3から同一の信号を同一周波数でフレーム同期して端末4へと向けて送信する際のビート干渉が発生する地点を移動させて端末4におけるビート干渉の発生を回避することが可能となる。
【0067】
実施の形態1に係る無線通信システム1によれば、さらに、一部の基地局3のみがアイドル信号を送信することにより、ビート干渉の発生を回避して端末4にアイドル信号を受信させることができ、信号消失が通信エリアの逸脱によるものではなくてビート干渉によるものであることを端末4に判別させることが可能となる。
【0068】
(実施の形態2)
実施の形態2に係る無線通信システム1は、複数の基地局3と、基地局3から送信される無線信号(電波)を受信する端末4と、を有し、端末4が、基地局3から送信されるアイドル信号を受信する状態と受信しない状態とが交互に繰り返された場合に、基地局3に対して移相要求信号を出力する移相要求部47を備え、複数の基地局3のうちの少なくとも1つが、端末4から送信された移相要求信号を受信した場合に当該の基地局3から送信される無線信号(電波)の位相を変更する移相部37を備え、その上で、複数の基地局3が同期してアイドル信号を連続的に継続して送信する際に、複数の基地局3のうちの少なくとも1つが、当該の基地局3から送信されるアイドル信号の位相を一定周期で変更しながら連続的に継続して送信することにより、端末4が、複数の基地局3から送信される無線信号(電波)が干渉し合う位置に居る場合に、端末4において、基地局3から送信されるアイドル信号を受信する状態と受信しない状態とが交互に繰り返される、ようにしている。
【0069】
基地局3および端末4の機器構成や基地局3と端末4との間での通信に用いられる通信規格などによっては、基地局3と端末4との間で実質の通信が行われていないとき(即ち、ビジー状態でないとき)に、常時、基地局3Aおよび基地局3Bから端末4に対して同期してアイドル信号が送信される場合がある。言い換えると、実施の形態1のように、複数の基地局3のうちの一部の基地局3が個別アイドル信号を送信する一方で残りの基地局3はアイドル信号を送信しないという手順を採用することができない場合がある。
【0070】
上記も踏まえ、実施の形態2の無線通信システム1の動作、作用などについて、
図7も用いて説明する。なお、下記では、この発明に関係する主な処理内容を説明し、無線通信を行うための従来周知の汎用的な処理については説明を省略する。
【0071】
実施の形態2では、複数の基地局3が同期してアイドル信号を連続的に継続して送信する際に、前記複数の基地局3のうちの一部の基地局3(この実施の形態では、基地局3B)がアイドル信号の位相を一定周期で少しずつ変更しながら送信する。ここで、基地局3Aから送信される、位相が操作されていない(言い換えると、位相が固定されている)アイドル信号のことを「非操作アイドル信号」と呼ぶ。また、基地局3Bから送信される、位相が一定周期で少しずつ変更されたアイドル信号のことを「移相アイドル信号」と呼ぶ。
【0072】
実施の形態2では、まず、基地局3が端末4との通信の終了を認識すると、基地局3Aと基地局3Bとが同期して、かつ、基地局3Bは位相を一定周期で少しずつ変更しながら、端末4に対してアイドル信号を送信する(ステップS1)。すなわち、基地局3Aは非操作アイドル信号を送信し、基地局3Bは移相アイドル信号を送信する。このとき、端末4の地点において基地局3Aから送信される無線信号(即ち、非操作アイドル信号)(電波)と基地局3Bから送信される無線信号(即ち、移相アイドル信号)(電波)とが逆相で打ち消し合ってビート干渉が生じると、端末4は非操作アイドル信号(電波)および移相アイドル信号(電波)を受信することができない(ステップS2)。なお、
図7に示す例では、基地局3Bから送信される移相アイドル信号の位相の変更量は、0°から270°までの範囲で、周期的に増減するようにしている。
【0073】
一方で、基地局3Bから送信される無線信号(電波)の位相の変更量が変化して端末4の地点において無線信号(電波)が逆相で打ち消し合うような位相関係が解消されると(ステップS3)、端末4は非操作アイドル信号および移相アイドル信号を受信することができるようになる(ステップS4)。その後、基地局3Bは一定周期で位相を少しずつ変更しながら移相アイドル信号を送信するので、端末4の地点において無線信号(電波)が逆相で打ち消し合うような位相関係になると(ステップS5)、2つの無線信号(電波)が干渉し合ってビート干渉が生じて、端末4は非操作アイドル信号および移相アイドル信号を受信することができなくなる(ステップS6)。さらにその後、基地局3Bから送信される無線信号(電波)の位相の変更量が変化して端末4の地点において無線信号(電波)が逆相で打ち消し合うような位相関係が解消され(ステップS7)、端末4は非操作アイドル信号および移相アイドル信号を受信することができるようになる(ステップS8)。
【0074】
なお、基地局3Aと基地局3Bとに加えて他の基地局3C(図示していない)からも同期して送信される3つのアイドル信号(電波)を端末4が受信する可能性がある場合には、基地局3Bのみが移相アイドル信号(電波)の位相を変更するようにしてもよく、或いは、基地局3Bに加えて基地局3Aと基地局3Cとのうちのどちらか一方が移相アイドル信号(電波)の位相を変更するようにしてもよい。さらに言えば、N個の基地局3から同期して送信されるN個のアイドル信号(電波)を端末4が受信する可能性がある場合には、多くてもN-1個の基地局3が移相アイドル信号(電波)の位相を変更するようにすればよい(但し、Nは自然数)。N個の基地局3から同期して送信されるN個の無線信号(電波)が干渉し合ってビート干渉が生じている場合には、N個の無線信号(電波)のうちの1つでも位相が変更されることにより、端末4の地点におけるビート干渉が解消されることがある。したがって、N個の基地局3から同期して送信されるN個のアイドル信号(電波)を端末4が受信する可能性がある場合には、前記N個の基地局3のうちの1個の基地局3のみが移相アイドル信号(電波)の位相を変更するようにしてもよく、或いは、最大でN-1個の基地局3が移相アイドル信号(電波)の位相を変更するようにしてもよい。また、すべての基地局3が移相アイドル信号(電波)の位相を変更するようにしてもよく、その場合には、少なくとも一つの基地局3における位相の変更量が他の基地局3における位相の変更量と相互に異なる値になるように調整される。
【0075】
ステップS7の処理に係る移相アイドル信号を端末4が受信する(ステップS8)ことにより、端末4の判定部46は、基地局3から送信されるアイドル信号(ここでは、非操作アイドル信号、移相アイドル信号)を受信する状態(ステップS4,S8)と受信しない状態(ステップS2,S6)とが交互に繰り返されたことを認識する(尚、
図7に示す例では、受信しない状態と受信する状態との組み合わせが2回繰り返されるようにしているが、この繰り返しの回数は2回には限定されない)。これにより、判定部46は、基地局3Aから送信される無線信号(電波)と基地局3Bから送信される無線信号(電波)とが干渉し合ってビート干渉が生じていると判断し、移相要求送信指令を移相要求部47に対して出力する。そして、端末4の移相要求部47は移相要求信号を符号化部41へと転送し、変調部42や送受信部43において所定の変換処理が行われて基地局3に対して移相要求信号が送信される(ステップS9)。移相要求信号は、例えば、通信フレームを構成する通信スロットに割り当てられている、制御フレーム中の制御チャネルが用いられて、制御情報の一種として、端末4から基地局3へと無線送信される。
【0076】
移相要求信号を受信した基地局3Bの移相設定部36は、移相部37に対して移相有効化指令を出力する。移相設定部36から移相有効化指令が入力された移相部37は、基地局3Bから送信される無線信号(電波)の位相を変更し(具体的には、アンテナ38から送信される無線信号(電波)の搬送波の位相を変更し)、その上で、複数の基地局3が同期してアイドル信号を連続的に継続して送信する(ステップS10)。
【0077】
この際、移相部37は、端末4の地点において無線信号(電波)が逆相で打ち消し合うような位相関係を解消するために、位相の変更量を例えば90°~270°程度の範囲のうちのいずれかの値で固定する。つまり、この実施の形態では、基地局3Bは、端末4から送信された移相要求信号を受信するまでは位相の変更量を一定周期で少しずつ変化させて位相アイドル信号を送信し、端末4から送信された移相要求信号を受信した場合には位相の変更量を固定して端末4への送信を行う。なお、ステップS9の処理において、端末4は基地局3Bへと向けて、移相要求信号に、どの位相に固定するかに関する固定要求値を付随させてもよい。ただし、端末4は、ステップS1からS8までの処理が行われる期間のうち、アイドル信号を受信できた時刻において、実際に基地局3Bが送信した移相アイドル信号の位相が何度であったかは知り得ない。そこで、ステップS9の処理における端末4のプレストークの時刻より何秒前における移相アイドル信号の位相に固定して欲しいかを固定要求値とする。ステップS9の処理で移相要求信号と固定要求値とを受信した基地局3Bは、おおよそどの位相に固定すれば良いか、ステップS9の処理の時刻から算出することができる。固定要求値は、ステップS9の処理からアイドル信号何フレームぶん前という値でも良い。こうすることで、ステップS11の処理において端末4がより確実に受信できるようになる。
【0078】
これにより、基地局3Aから送信される無線信号(電波)と基地局3Bから送信される無線信号(電波)とが端末4の地点において逆相で打ち消し合うような位相関係が解消される。このため、端末4は、基地局3Aと基地局3Bとから同一周波数で同期して送信される2つの無線信号(電波)を受信することができるようになる(ステップS11)。
【0079】
なお、基地局3Aと基地局3Bとに加えて他の基地局3C(図示していない)からも同期して送信される3つの無線信号(電波)を端末4が受信する可能性がある場合には、基地局3Bのみが無線信号(電波)の位相の変更量を一定周期で少しずつ変化させたり固定したりするようにしてもよく、或いは、基地局3Bに加えて基地局3Aと基地局3Cとのうちのどちらか一方が無線信号(電波)の位相の変更量を一定周期で少しずつ変化させたり固定したりするようにしてもよい。さらに言えば、N個の基地局3から同期して送信されるN個の無線信号(電波)を端末4が受信する可能性がある場合には、多くてもN-1個の基地局3が無線信号(電波)の位相の変更量を一定周期で少しずつ変化させたり固定したりするようにすればよい(但し、Nは自然数)。N個の基地局3から同期して送信されるN個の無線信号(電波)が干渉し合ってビート干渉が生じている場合には、N個の無線信号(電波)のうちの1つでも位相が変更されることにより、ビート干渉が解消されることがある。したがって、N個の基地局3から同期して送信されるN個の無線信号(電波)を端末4が受信する可能性がある場合には、前記N個の基地局3のうちの1個の基地局3のみが無線信号(電波)の位相の変更量を一定周期で少しずつ変化させたり固定したりするようにしてもよく、或いは、最大でN-1個の基地局3が無線信号(電波)の位相の変更量を一定周期で少しずつ変化させたり固定したりするようにしてもよい。また、すべての基地局3が無線信号(電波)の位相の変更量を一定周期で少しずつ変化させたり固定したりするようにしてもよく、その場合には、少なくとも一つの基地局3における位相の変更量が他の基地局3における位相の変更量と相互に異なる値になるように調整される。
【0080】
実施の形態2に係る無線通信システム1によれば、信号消失が通信エリアの逸脱によるものではなくてビート干渉によるものであることを端末4側で判別することができるとともに、複数の基地局3から送信される無線信号(電波)の位相を、端末4からの要求に応じて、端末4の地点において無線信号(電波)が逆相で打ち消し合うような位相関係を解消するように変更することができるので、複数の基地局3から同一の信号を同一周波数でフレーム同期して端末4へと向けて送信する際のビート干渉が発生する地点を移動させて端末4におけるビート干渉の発生を回避することが可能となる。
【0081】
実施の形態2に係る無線通信システム1によれば、さらに、一部の基地局3が位相を一定周期で変更しながら連続的に継続してアイドル信号を送信することにより、ビート干渉の発生を回避して端末4にアイドル信号を受信させることができ、信号消失が通信エリアの逸脱によるものではなくてビート干渉によるものであることを端末4に判別させることが可能となる。
【0082】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では基地局3が移相設定部36および移相部37を備えるとともに端末4が判定部46および移相要求部47を備えるようにしているが、基地局3や端末4の具体的な構成は上記の実施の形態における具体的な構成に限定されるものではなく、基地局3については、端末4から送信された移相要求信号を受信した場合に無線信号の位相を変更し得る仕組みであればどのような構成でもよく、また、端末4については、アイドル信号を受信するはずの所定の時間のうちにアイドル信号を受信せず、かつ、所定の時間経過後にアイドル信号を受信した場合や、基地局3から送信されるアイドル信号を受信する状態と受信しない状態とが交互に繰り返された場合に、基地局3に対して移相要求信号を出力し得る仕組みであればどのような構成でもよい。
【符号の説明】
【0083】
1 無線通信システム
2 統制局
21 エントランス回線
3 基地局
3A 基地局
3B 基地局
3C 基地局
31 符号化部
32 変調部
33 送受信部
34 復調部
35 復号部
36 移相設定部
37 移相部
38 アンテナ
4 端末
41 符号化部
42 変調部
43 送受信部
44 復調部
45 復号部
46 判定部
47 移相要求部
48 アンテナ