(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】ハイブリッドリング回路
(51)【国際特許分類】
H01P 5/22 20060101AFI20240401BHJP
【FI】
H01P5/22 B
(21)【出願番号】P 2020095859
(22)【出願日】2020-06-02
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000227892
【氏名又は名称】日本アンテナ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102635
【氏名又は名称】浅見 保男
(74)【代理人】
【識別番号】100199820
【氏名又は名称】西脇 博志
(72)【発明者】
【氏名】新井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】星 宏幸
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-091842(JP,A)
【文献】特開2007-228169(JP,A)
【文献】特開2007-201596(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用中心周波数をFoとしFoの波長をλoとした時に、それぞれλo/4の電気長とされた4本の分布定数線路が第1接続点ないし第4接続点で接続されてリング状とされた第1ハイブリッドリングと、
それぞれλo/4の電気長とされた4本の分布定数線路が第5接続点ないし第8接続点で接続されてリング状とされ、前記第1ハイブリッドリングに連結された第2ハイブリッドリングと、
第1端子と前記第1ハイブリッドリングの第1接続点とを結合するFoで共振する第1直列共振回路と、
第2端子と前記第1ハイブリッドリングの第2接続点とを結合するFoで共振する第2直列共振回路と、
前記第1ハイブリッドリングの第3接続点と前記第2ハイブリッドリングの第6接続点とを結合するFoで共振する第3直列共振回路と、
前記第1ハイブリッドリングの第4接続点と前記第2ハイブリッドリングの第5接続点とを結合するFoで共振する第4直列共振回路と、
前記第2ハイブリッドリングの第7接続点と第3端子とを結合するFoで共振する第5直列共振回路と、
前記第2ハイブリッドリングの第8接続点と第4端子とを結合するFoで共振する第6直列共振回路とを備え、
インダクタンスとキャパシタンスとが直列に接続されて構成された前記第1直列共振回路ないし前記第6直列共振回路により、前記第1ハイブリッドリングおよび前記第2ハイブリッドリングのインピーダンス特性が補償されて、Foを中心周波数とする通過周波数帯域における電気的特性が改善されることを特徴とするハイブリッドリング回路。
【請求項2】
前記第1直列共振回路ないし前記第6直列共振回路を構成するインダクタンスとキャパシタンスとの値が、Foより低域の周波数であって最も低域の周波数において所定のアイソレーションが得られる値とされることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッドリング回路。
【請求項3】
前記第1端子ないし前記第4端子のインピーダンスをZoとした時に、前記第1直列共振回路と前記第2直列共振回路と前記第5直列共振回路と前記第6直列共振回路とにおけるキャパシタンスの値がA/(Fo・Zo)と、前記第3直列共振回路と前記第4直列共振回路とにおけるキャパシタンスの値がB(Fo・Zo)と、前記第1直列共振回路と前記第2直列共振回路と前記第5直列共振回路と前記第6直列共振回路とにおけるインダクタンスの値が(C・Zo)/Foと、前記第3直列共振回路と前記第4直列共振回路とにおけるインダクタンスの値が(D・Zo)/Foと正規化され、定数Aないし定数Dが得ようとする所定のアイソレーションの値に応じた値となることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッドリング回路。
【請求項4】
前記第1ハイブリッドリングおよび前記第2ハイブリッドリングを構成しているλo/4の電気長とされた前記分布定数線路を、集中定数のインダクタンスとキャパシタンスとからなる低域通過型の90°位相回路で構成したことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッドリング回路。
【請求項5】
nを2以上の整数とした時に、90°/nの位相の単位位相回路をn段縦続接続して前記90°位相回路を構成したことを特徴とする請求項4に記載のハイブリッドリング回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広帯域化を図ることのできるハイブリッドリング回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のハイブリッドリング回路が特許文献1に開示されており、従来の原理的なハイブリッドリング回路の回路構成を
図21に示す。
図21に示すハイブリッドリング回路100は、高周波の分配や合成に用いられており、使用中心周波数Foの波長をλoとすると、それぞれλo/4の電気長とされた4本の分布定数線路D101,D102,D103,D104がリング状に接続されて構成されている。一周がλoの電気長を有するハイブリッドリング回路100において、D101とD104との接続点が第1端子P101、D101とD102との接続点が第2端子P102、D102とD103との接続点が第3端子P103、D103とD104との接続点が第4端子P104とされている。分布定数線路D101,D102,D103,D104の各々の特性インピーダンスをW12,W23,W34,W14とし、第1端子P101と第2端子P102を入力端子として接続されるインピーダンスすなわち入力インピーダンスをZaとし、第3端子P103と第4端子P104を出力端子として接続されるインピーダンスすなわち出力インピーダンスをZbとする。そして、第2端子P102をZaで終端し、第1端子P101より電力「1」を印加したとき第1端子P101に対向する第4端子P104に現れる電力比をN、第1端子P101の対角の第3端子P103に現れる電力比を(1-N)と規定すると、分布定数線路D101,D102,D103,D104の各々の特性インピーダンスW12,W34,W14,W23は次の(1)~(4)式で表される。但し、1>N≧0.5とする。以下の記載では、Nを分配比という。
W12=Za√{N/(1-N)} (1)
W34=Zb√{N/(1-N)} (2)
W14=√(Za×Zb×N) (3)
W23=√(Za×Zb×N) (4)
【0003】
図21の回路では、第1端子P101を基準とした場合のFoにおける端子間の位相は、通過端子に相当する対向側の第4端子P104に対しては-90°、結合端子に相当する対角方向の第3端子P103に対しては-180°となる。また、終端した第2端子P102には電力は現れずアイソレーション端子となる。基準端子を第1端子P101以外とした場合の位相においても、基準入力端子の対向側の端子に対しては-90°、対角方向の端子に対しては-180°となり、残りの端子がアイソレーション端子となる。ハイブリッドリングは、入力端子から見て対向側と対角方向の端子に出力される電力が、相対的に90°の位相差になることを特徴としている。
【0004】
ハイブリッドリング回路100において、Za=Zb=Zoとし、均等分配のハイブリッドリング回路となるよう設定するとN=0.5となる。ここで、Zo=50Ωとした時の4本の分布定数線路D101,D102,D103,D104の特性インピーダンスW12,W34,W14,W23を(1)~(4)式から求めると、W12=W34=50Ωと求められ、W14=W23≒35.355339Ωと求められる。ハイブリッドリング回路100において、特性インピーダンスW12,W34,W14,W23が上記の値とされ、Foが150MHzとされたときの電気的特性を
図22ないし
図24に示す。
図22はP101-P104端子間の挿入損失特性と結合損失特性を示す図であり、
図23はP101-P102端子間のアイソレーション特性を示す図であり、
図24は相対位相偏差特性を示す図である。
図22では、実線でP101-P104端子間の挿入損失の周波数特性が示され、破線でP101-P103端子間の結合損失の周波数特性が示されており、周波数範囲は100~200MHzとされている。
図22を参照すると、Foにおいて挿入損失および結合損失が約3dBとなって均等分配されていることが分かる。また、
図23を参照すると、周波数範囲は100~200MHzとされ、P101-P102端子間のアイソレーションはFoにおいて最大となっており、アイソレーションが20dB得られる周波数範囲は約142~約158MHzとされていることが分かる。さらに、
図24にはP101-P103端子間の位相からP101-P104端子間の位相を差し引いた相対位相偏差の周波数特性が示されており、周波数範囲は100~200MHzとされている。
図24を参照すると、約142~約158MHzの周波数範囲においてほぼ-90°の位相が得られていることが分かる。
【0005】
図21に示すハイブリッドリング回路100を広帯域化することを目的として、
図21に示すハイブリッドリング回路100を2連結したハイブリッドリング回路が提案されている。2連結したハイブリッドリング回路110の回路構成を
図25に示す。
図25に示すハイブリッドリング回路110は、
図21に示すハイブリッドリング回路100が実質的に2連結されて構成されており、それぞれλo/4の電気長とされた4本の分布定数線路D111,D112,D113,D114がリング状に接続されたハイブリッドリングと、それぞれλo/4の電気長とされた4本の分布定数線路D113,D115,D116,D117がリング状に接続されたハイブリッドリングとが2段縦続に連結されて接続されている。2連結されたハイブリッドリング回路110において、D111とD114との接続点を第1端子P111、D111とD112との接続点を第2端子P112とし、D115とD116との接続点を第3端子P113、D116とD117との接続点を第4端子P114とする。第1端子P111の対向側が第4端子P114となり、第1端子P111の対角方向が第3端子P113となる。
ここで、ハイブリッドリング回路110を均等分配に設定すると、第1端子P111と第2端子P112との間に接続されている分布定数線路D111の特性インピーダンスと、第3端子P113と第4端子P114との間に接続されている分布定数線路D116との特性インピーダンスは等しくなりZ1とする。また、第1端子P111と第4端子P114との間に縦続に接続されている2本の分布定数線路D114,D117の特性インピーダンスは等しくZ2となり、第2端子P112と第3端子P113との間に縦続に接続されている2本の分布定数線路D112,D115の特性インピーダンスも等しくZ2となる。さらに、分布定数線路D112,D115との接続点と分布定数線路D114,D117との接続点との間を接続している分布定数線路D113の特性インピーダンスはZ2’となる。
【0006】
ハイブリッドリング回路110の分布定数線路D111~D117の特性インピーダンスZ1,Z2,Z2’を求めるために、
図25に示す2連結したハイブリッドリング回路110を分解したハイブリッドリング回路120を
図29に示す。
図29に示すハイブリッドリング回路120は、それぞれλo/4の電気長とされた4本の分布定数線路D111,D112,D113’,D114がリング状に接続された第1ハイブリッドリングと、それぞれλo/4の電気長とされた4本の分布定数線路D113’,D115,D116,D117がリング状に接続された第2ハイブリッドリングとが2段縦続に連結されて接続されている。ハイブリッドリング回路120において、D111とD114との接続点aを第1端子P111、D111とD112との接続点を第2端子P112とし、D115とD116との接続点eを第3端子P113、D116とD117との接続点cを第4端子P114とする。また、第1ハイブリッドリングのD114と第2ハイブリッドリングのD117との接続点をb、第1ハイブリッドリングのD112と第2ハイブリッドリングのD115との接続点をdとする。第1端子P111の対向側が第4端子P114となり、第1端子P111の対角方向が第3端子P113となる。
【0007】
ここで、ハイブリッドリング回路120を均等分配に設定すると、第1ハイブリッドリングの分布定数線路D111の特性インピーダンスと、第2ハイブリッドリングの分布定数線路D116との特性インピーダンスは等しくなりZ1となる。また、第1ハイブリッドリングのD114と第2ハイブリッドリングのD117との特性インピーダンスは等しくZ2となり、第1ハイブリッドリングのD112と第2ハイブリッドリングのD115との特性インピーダンスも等しくZ2となる。さらに、第1ハイブリッドリングのD113’と第2ハイブリッドリングのD113’との特性インピーダンスは等しくZ3となる。
【0008】
ハイブリッドリング回路120では入出力端子間の伝送経路が4系統存在し、各々の伝送量と位相遅延量を求めてみる。ここでは、ハイブリッドリング回路120において、第1端子P111と第2端子P112を入力端子として入力インピーダンスをZoとし、第3端子P113と第4端子P114を出力端子として出力インピーダンスをZoとする。そして、第2端子P112をZoで終端し、第1ハイブリッドリングと第2ハイブリッドリングの分配比をそれぞれNとする。
すると、接続点a→接続点cへの対向経路においては、接続点a→接続点b→接続点cの第1経路と、接続点a→接続点d→接続点cの第2経路とがある。第1経路では、接続点a→接続点bへの第1ハイブリッドリングの分配比がNで位相遅延量が-90°となり、接続点b→接続点cへの第2ハイブリッドリングの分配比がNで位相遅延量が-90°となるから、第1経路の分配比はN2で位相遅延量が-180°となる。また、第2経路では、接続点a→接続点dへの第1ハイブリッドリングの分配比が(1-N)で位相遅延量が-180°となり、接続点d→接続点cへの第2ハイブリッドリングの分配比が(1-N)で位相遅延量が-180°となるから、第1経路の分配比は(1-N)2で位相遅延量が-360°となる。
【0009】
さらに、接続点a→接続点eへの対角経路においては、接続点a→接続点b→接続点eの第3経路と、接続点a→接続点d→接続点eの第4経路とがある。第3経路では、接続点a→接続点bへの第1ハイブリッドリングの分配比がNで位相遅延量が-90°となり、接続点b→接続点eへの第2ハイブリッドリングの分配比が(1-N)で位相遅延量が-180°となるから、第3経路の分配比はN(1-N)で位相遅延量が-270°となる。また、第4経路では、接続点a→接続点dへの第1ハイブリッドリングの分配比が(1-N)で位相遅延量が-180°となり、接続点d→接続点eへの第2ハイブリッドリングの分配比がNで位相遅延量が-90°となるから、第4経路の分配比はN(1-N)で位相遅延量が-270°となる。
対向経路における合成電圧比と対角経路の合成電圧比を求めて、求めた合成電圧比からNを求めると、
N=(2+√2)/4 (5)
と求められ、第1ハイブリッドリングおよび第2ハイブリッドリングは不等分配のハイブリッドリングとなることが分かる。
すなわち、それぞれ(5)式で示す分配比Nの不等分配の第1ハイブリッドリングおよび第2ハイブリッドリングとを縦続接続することにより、均等分配のハイブリッドリング回路120とすることができる。
【0010】
次に、接続点bと接続点dのインピーダンスをZkとして、
Zk=Zo/(1+√0.5) (6)
とおいてみる。そして、ハイブリッドリング回路120の分布定数線路D111~D117の特性インピーダンスZ1,Z2,Z3を上記(1)式ないし(4)式から求める。この場合、Z1=W12と、Z2=W23=W14と、Z3=W34と置き換えられると共に、Nは上記(5)式で示される。Z1を求めると、
Z1=W12=Zo√{N/(1-N)}=(1+√2)Zo (7)
と求められる。また、Z3を求めると、
Z3=W34=Zk√{N/(1-N)}=(1+√2)Zk=Zo√2 (8)
と求められる。さらに、Z2を求めると、
Z2=W14=W23=√(Zo×Zk×N)=Zo/√2 (9)
と求められる。なお、ハイブリッドリング回路110におけるZ2’は、Z3の並列接続となるから、
Z2’=Z3/2 (10)
となる。
【0011】
ここで、ハイブリッドリング回路110において、Zo=50Ωとした時の特性インピーダンスZ1,Z2,Z2’を上記(7)式ないし(10)式から求めると、Z1≒120.711Ωと求められ、Z2≒35.355Ωと求められ、Z2’はZ2に等しくZ2≒35.355Ωと求められる。ハイブリッドリング回路110において、特性インピーダンスZ1,Z2,Z2’が上記の値とされ、Foが150MHzとされたときの電気的特性を
図26ないし
図28に示す。
図26はP111-P114端子間の挿入損失特性と結合損失特性を示す図であり、
図27はP111-P112端子間のアイソレーション特性を示す図であり、
図28は相対位相偏差特性を示す図である。
図26では、実線でP111-P114端子間の挿入損失の周波数特性が示され、破線でP101-P113端子間の結合損失の周波数特性が示されており、周波数範囲は100~200MHzとされている。
図26を参照すると、Foにおいて挿入損失および結合損失が約3dBとなって均等分配されていることが分かる。また、
図27を参照すると、周波数範囲は100~200MHzとされ、P111-P112端子間のアイソレーションはFoにおいて最大値が得られており、アイソレーションが25dB得られる周波数範囲は約132~約167MHzとハイブリッドリング回路100より広帯域とされていることが分かる。さらに、
図28にはP111-P113端子間の位相からP111-P114端子間の位相を差し引いた相対位相偏差の周波数特性が示されており、周波数範囲は100~200MHzとされている。
図28を参照すると、約132~約167MHzの周波数範囲においてほぼ-90°の位相が得られていることが分かる。このように、ハイブリッドリング回路110では、ハイブリッドリング回路100より広帯域化されていることが分かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来の広帯域化されたハイブリッドリング回路110において、
図27に示すアイソレーションの周波数特性において、アイソレーションが25dB以上となる約132MHz~ 約167MHzを有効な通過周波数帯域とする。すると、約132MHz~ 約167MHzの帯域におけるP111-P114端子間の挿入損失とP111-P113端子間の結合損失との差である端子間分配偏差の最大値を
図26を参照して読み取ると約0.5dBとなる。また、P111-P113端子間の結合損失の最大帯域内振幅偏差を
図26を参照して読み取ると、約0.5dBとなり、偏差がない理想的な0dBにはなっていないと云う問題点があった。
そこで、本発明は通過周波数帯域における電気的特性を改善することのできるハイブリッドリング回路を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明のハイブリッドリング回路は、使用中心周波数をFoとしFoの波長をλoとした時に、それぞれλo/4の電気長とされた4本の分布定数線路が第1接続点ないし第4接続点で接続されてリング状とされた第1ハイブリッドリングと、それぞれλo/4の電気長とされた4本の分布定数線路が第5接続点ないし第8接続点で接続されてリング状とされ、前記第1ハイブリッドリングに連結された第2ハイブリッドリングと、第1端子と前記第1ハイブリッドリングの第1接続点とを結合するFoで共振する第1直列共振回路と、第2端子と前記第1ハイブリッドリングの第2接続点とを結合するFoで共振する第2直列共振回路と、前記第1ハイブリッドリングの第3接続点と前記第2ハイブリッドリングの第6接続点とを結合するFoで共振する第3直列共振回路と、前記第1ハイブリッドリングの第4接続点と前記第2ハイブリッドリングの第5接続点とを結合するFoで共振する第4直列共振回路と、前記第2ハイブリッドリングの第7接続点と第3端子とを結合するFoで共振する第5直列共振回路と、前記第2ハイブリッドリングの第8接続点と第4端子とを結合するFoで共振する第6直列共振回路とを備え、インダクタンスとキャパシタンスとが直列に接続されて構成された前記第1直列共振回路ないし前記第6直列共振回路により、前記第1ハイブリッドリングおよび前記第2ハイブリッドリングのインピーダンス特性が補償されて、Foを中心周波数とする通過周波数帯域における電気的特性が改善されることを最も主要な特徴としている。
【0015】
上記本発明のハイブリッドリング回路において、前記第1直列共振回路ないし前記第6直列共振回路を構成するインダクタンスとキャパシタンスとの値が、Foより低域の周波数であって最も低域の周波数において所定のアイソレーションが得られる値とされる。
また、上記本発明のハイブリッドリング回路において、前記第1端子ないし前記第4端子のインピーダンスをZoとした時に、前記第1直列共振回路と前記第2直列共振回路と前記第5直列共振回路と前記第6直列共振回路とにおけるキャパシタンスの値がA/(Fo・Zo)と、前記第3直列共振回路と前記第4直列共振回路とにおけるキャパシタンスの値がB(Fo・Zo)と、前記第1直列共振回路と前記第2直列共振回路と前記第5直列共振回路と前記第6直列共振回路とにおけるインダクタンスの値が(C・Zo)/Foと、前記第3直列共振回路と前記第4直列共振回路とにおけるインダクタンスの値が(D・Zo)/Foと正規化され、定数Aないし定数Dが得ようとする所定のアイソレーションの値に応じた値となる。
さらに、上記本発明のハイブリッドリング回路において、前記第1ハイブリッドリングおよび前記第2ハイブリッドリングを構成しているλo/4の電気長とされた前記分布定数線路を、集中定数のインダクタンスとキャパシタンスとからなる低域通過型の90°位相回路で構成することができる。
さらに、上記本発明のハイブリッドリング回路において、nを2以上の整数とした時に、90°/nの位相の単位位相回路をn段縦続接続して前記90°位相回路を構成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、第1端子ないし第4端子と2連結されたハイブリッドリングとをFoで共振する直列共振回路でそれぞれ結合し、ハイブリッドリング間をFoで共振する直列共振回路で結合して2連結することにより、通過周波数帯域における電気的特性が改善されて広帯域化されるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施例のハイブリッドリング回路の構成を示す回路図である。
【
図2】本発明の第1実施例のハイブリッドリング回路の挿入損失および結合損失の周波数特性を示す図である。
【
図3】本発明の第1実施例のハイブリッドリング回路のリターンロスの周波数特性を示す図である。
【
図4】本発明の第1実施例のハイブリッドリング回路のアイソレーションの周波数特性を示す図である。
【
図5】本発明の第1実施例のハイブリッドリング回路の位相の周波数特性を示す図である。
【
図6】本発明の第1実施例のハイブリッドリング回路の他の位相の周波数特性を示す図である。
【
図7】本発明の第1実施例のハイブリッドリング回路の位相差の周波数特性を示す図である。
【
図8】本発明にかかるハイブリッドリング回路の回路定数を求める説明をするためのハイブリッドリング回路の他の構成を示す回路図である。
【
図9】
図8に示すハイブリッドリング回路の回路定数に対する電気的特性を示す図表である。
【
図10】
図8に示すハイブリッドリング回路のアイソレーションの周波数特性の一例と対比する周波数特性とを示す図である。
【
図11】本発明にかかるハイブリッドリング回路の回路定数を求める説明をするためのハイブリッドリング回路のさらに他の構成を示す回路図である。
【
図12】
図11に示すハイブリッドリング回路のアイソレーションの周波数特性の一例と対比する周波数特性とを示す図である。
【
図13】集中定数回路とされた90°の位相回路の回路図である。
【
図14】本発明の第2実施例のハイブリッドリング回路の構成を示す回路図である。
【
図15】本発明の第2実施例のハイブリッドリング回路の挿入損失および結合損失の周波数特性を示す図である。
【
図16】本発明の第2実施例のハイブリッドリング回路のリターンロスの周波数特性を示す図である。
【
図17】本発明の第2実施例のハイブリッドリング回路のアイソレーションの周波数特性を示す図である。
【
図18】本発明の第2実施例のハイブリッドリング回路の位相の周波数特性を示す図である。
【
図19】本発明の第2実施例のハイブリッドリング回路の他の位相の周波数特性を示す図である。
【
図20】本発明の第2実施例のハイブリッドリング回路の位相差の周波数特性を示す図である。
【
図21】従来のハイブリッドリング回路の構成を示す回路図である。
【
図22】従来のハイブリッドリング回路の挿入損失および結合損失の周波数特性を示す図である。
【
図23】従来のハイブリッドリング回路のアイソレーションの周波数特性を示す図である。
【
図24】従来のハイブリッドリング回路の位相差の周波数特性を示す図である。
【
図25】従来の他のハイブリッドリング回路の構成を示す回路図である。
【
図26】従来の他のハイブリッドリング回路の挿入損失および結合損失の周波数特性を示す図である。
【
図27】従来の他のハイブリッドリング回路のアイソレーションの周波数特性を示す図である。
【
図28】従来の他のハイブリッドリング回路の位相差の周波数特性を示す図である。
【
図29】従来の他のハイブリッドリング回路を分解したハイブリッドリング回路の構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第1実施例>
本発明の第1実施例のハイブリッドリング回路の構成を示す回路図を
図1に示す。
図1に示す第1実施例のハイブリッドリング回路1は、高周波の分配や合成に用いられており、使用中心周波数Foの波長をλoとすると、それぞれλo/4の電気長とされた4本の分布定数線路D1,D2,D3,D4がリング状に接続されて構成された一周がλoの電気長を有する第1ハイブリッドリングと、それぞれλo/4の電気長とされた4本の分布定数線路D5,D6,D7,D8がリング状に接続された一周がλoの電気長を有する第2ハイブリッドリングとが2段縦続に連結されて構成されている。また、第1実施例のハイブリッドリング回路1の第1端子P1と第1ハイブリッドリングのD1とD4との第1接続点とがキャパシタンスCsとインダクタンスLsが直列接続されたFoで共振する第1直列共振回路で結合され、第2端子P2と第1ハイブリッドリングのD1とD2との第2接続点とがキャパシタンスCsとインダクタンスLsが直列接続されたFoで共振する第2直列共振回路で結合されている。さらに、第1実施例のハイブリッドリング回路1の第3端子P3と第2ハイブリッドリングのD6とD7との第7接続点とがキャパシタンスCsとインダクタンスLsが直列接続されたFoで共振する第3直列共振回路で結合され、第4端子P4と第2ハイブリッドリングのD7とD8との第8接続点とがキャパシタンスCsとインダクタンスLsが直列接続されたFoで共振する第4直列共振回路で結合されている。さらにまた、第1実施例のハイブリッドリング回路1の第1ハイブリッドリングのD2とD3との第3接続点と第2ハイブリッドリングのD6とD5との第6接続点とがキャパシタンスCoとインダクタンスLoが直列接続されたFoで共振する第5直列共振回路で結合され、第1ハイブリッドリングのD3とD4との第4接続点と第2ハイブリッドリングのD5とD8との第5接続点とがキャパシタンスCoとインダクタンスLoが直列接続されたFoで共振する第6直列共振回路で結合されている。
【0019】
上記したようにハイブリッドリングが2連結された第1実施例のハイブリッドリング回路1において、第1ハイブリッドリングのD1とD4との第1接続点に他端が接続された第1直列共振回路の一端が第1端子P1とされ、D1とD2との第2接続点に他端が接続された第2直列共振回路の一端が第2端子P2とされ、第2ハイブリッドリングのD6とD7との第7接続点に他端が接続された第3直列共振回路の一端が第3端子P3とされ、D7とD8との第8接続点に他端が接続された第4直列共振回路の一端が第4端子P4とされている。第1端子P1の対向側が第4端子P4となり、第1端子P1の対角方向が第3端子P3となる。
第1実施例のハイブリッドリング回路1において、第1端子P1を基準とした場合のFoにおける端子間の位相は、通過端子に相当する対向側の第4端子P4に対しては-180°、結合端子に相当する対角方向の第3端子P3に対しては-270°となる。また、第2端子P2には電力は現れずアイソレーション端子となる。基準端子を第1端子P1以外とした場合の位相においても、基準入力端子の対向側の端子に対しては-180°、対角方向の端子に対しては-270°となり、残りの端子がアイソレーション端子となる。
【0020】
第1実施例のハイブリッドリング回路1において、第1端子P1と第2端子P2を入力端子として接続されるインピーダンスすなわち入力インピーダンスをZoとし、第3端子P3と第4端子P4を出力端子として接続されるインピーダンスすなわち出力インピーダンスもZoとする。そして、第2端子P2をZoで終端し、第1端子P1より電力「1」を印加したとき第1端子P1に対向する第4端子P4に現れる電力比をN、第1端子P1の対角の第3端子P3に現れる電力比を(1-N)と規定して、分配比とされるNを0.5とすると均等分配のハイブリッドリング回路1となる。この場合、第1ハイブリッドリングおよび第2ハイブリッドリングの分配比を所定の分配比Nとすることにより、第1実施例のハイブリッドリング回路1を均等分配に設定することができる。第1ハイブリッドリングおよび第2ハイブリッドリングの所定の分配比Nは、
図29で説明したように上記(5)で求められる。(5)式を再掲すると、
N=(2+√2)/4 (5)
となる。この(5)式で示す分配比Nとなる第1ハイブリッドリングにおける分布定数線路のD2とD3との第3接続点および分布定数線路のD3とD4との第4接続点におけるインピーダンスは
図29で説明したインピーダンスZkとなり、(5)式で示す分配比Nとなる第2ハイブリッドリングにおける分布定数線路のD5とD6との第6接続点および分布定数線路のD5とD8との第5接続点におけるインピーダンスも同様にZkとなり、Zkは上記(6)で求められる。(6)式を再掲すると、
Zk=Zo/{1+√0.5} (6)
となる。なお、上記(6)式で求められるZkとすると、第1実施例のハイブリッドリング回路1を最も広帯域とすることができる。
【0021】
また、第1ハイブリッドリングにおける分布定数線路のD1と第2ハイブリッドリングにおけるD7の特性インピーダンスはZ1と等しくなり、Z1は上記した(7)式で求められる。(7)式を再掲すると、
Z1=(1+√2)Zo (7)
となる。さらに、第1ハイブリッドリングにおける分布定数線路のD3と第2ハイブリッドリングにおけるD5の特性インピーダンスはZ3と等しくなり、Z3は上記した(8)式で求められる。(8)式を再掲すると、
Z3=(1+√2)Zk=Zo√2 (8)
さらにまた、第1ハイブリッドリングにおける分布定数線路のD2,D4と第2ハイブリッドリングにおける分布定数線路のD6,D8の特性インピーダンスはZ2と等しくなり、Z2は上記した(9)式で求められる。(9)式を再掲すると、
Z2=Zo/√2 (9)
となる。
【0022】
Zo=50Ωとした時のZkは上記(6)式から約29.289322Ωと求められ、特性インピーダンスZ1,Z2,Z3を上記(7)(8)(9)から求めると、
Z1≒ 120.710678Ω
Z2≒ 35.3553391Ω
Z3≒ 70.7106781Ω
と求められる。
【0023】
ここで、第1端子P1と第2端子P2と第1ハイブリッドリングとの間と、第1ハイブリッドリングと第2ハイブリッドリングとの間と、第2ハイブリッドリングと第3端子P3と第4端子P4との間をFoで共振する第1直列共振回路ないし第6直列共振回路で結合している理由を説明する。
図25に示す従来の広帯域化されたハイブリッドリング回路110において、端子間分配偏差および結合損失の最大帯域内振幅偏差の偏差が生じるのは、第1端子P111から見たインピーダンス特性がFoの低域からFoまでは誘導性を示すが、FoからFoの高域に向かって容量性に変動することが原因であることが分かった。これに対して、キャパシタンスCs(Co)とインダクタンスLs(Lo)が直列接続されたFoで共振する第1直列共振回路ないし第6直列共振回路は、Foの低域からFoまでは容量性を示すが、FoからFoの高域に向かって誘導性に逆方向に変動する。そこで、第1端子P1および第2端子P2と第1ハイブリッドリングとの間と、第1ハイブリッドリングと第2ハイブリッドリングとの間と、第2ハイブリッドリングと第3端子P3および第4端子P4との間をFoで共振する第1直列共振回路ないし第6直列共振回路で結合することにより、第1ハイブリッドリングおよび第2ハイブリッドリングのインピーダンス特性を第1直列共振回路ないし第6直列共振回路のインピーダンス特性により補償されるようになる。これにより、端子間分配偏差および結合損失の最大帯域内振幅偏差の偏差が極力生じないようにすることができる。
【0024】
第1直列共振回路ないし第4直列共振回路におけるキャパシタンスCsとインダクタンスLsおよび第5直列共振回路と第6直列共振回路におけるキャパシタンスCoとインダクタンスLoの値を求める条件として、Foで共振する条件に加えてFoの低域の周波数帯域拡張が最大となる時の周波数FLにおけるLs,LoとCs,Coとする。なお、第1ハイブリッドリングおよび第2ハイブリッドリングは、不等分配である上、入出力インピーダンスが異なっていることから、第1ハイブリッドリングの入力側および第2ハイブリッドリングの出力側の直列共振回路におけるキャパシタンスCsとインダクタンスLsならびに第1ハイブリッドリングの出力側および第2ハイブリッドリングの入力側の直列共振回路におけるキャパシタンスCoとインダクタンスLoの値の最適定数を代数的に求めるのは、パラメータの多さから困難となる。そこで、インピーダンス特性と連動する関係にあるアイソレーション特性に着目して、キャパシタンスCsとインダクタンスLsと、キャパシタンスCoとインダクタンスLoとに分けて求めるものとする。
キャパシタンスCoとインダクタンスLoとの値を求めるためのハイブリッドリング回路の構成を示す回路図を
図8に示し、キャパシタンスCsとインダクタンスLsとの値を求めるためのハイブリッドリング回路の構成を示す回路図を
図11に示す。
【0025】
図8に示すハイブリッドリング回路11は、使用中心周波数Foの波長をλoとすると、それぞれλo/4の電気長とされた4本の分布定数線路D1,D2,D3,D4がリング状に接続されて構成された一周がλoの電気長を有するハイブリッドリングから構成されている。このハイブリッドリング回路11の第1端子P21はハイブリッドリングのD1とD4との第1接続点に接続され、第2端子P22はハイブリッドリングのD1とD2との第2接続点に接続され、第3端子P23とハイブリッドリングのD2とD3との第3接続点とがキャパシタンスC2とインダクタンスL2が直列接続されたFoで共振する第11直列共振回路で結合され、第4端子P24とハイブリッドリングのD3とD4との第4接続点とがキャパシタンスC2とインダクタンスL2が直列接続されたFoで共振する第12直列共振回路で結合されている。
【0026】
ハイブリッドリング回路11において、第1端子P21と第2端子P22を入力端子として接続されるインピーダンスすなわち入力インピーダンスをZoとし、第3端子P23と第4端子P24を出力端子として接続されるインピーダンスすなわち出力インピーダンスをZkとする。そして、第3端子P23および第4端子P24をZkで終端し、第1端子P21より電力「1」を印加したとき第1端子P21に対向する第4端子P24に現れる電力比をN、第1端子P21の対角の第3端子P23に現れる電力比を(1-N)と規定して、分配比とされるNを上記(5)で示す分配比とする。すなわち、ハイブリッドリング回路11では、P21-P24端子間の挿入損失が約0.687693081dBで、P21-P23端子間の結合損失が約8.343206788dBの不等分配としている。なお、ハイブリッドリング回路11では、P21-P22端子間のアイソレーションが最適化する出力側の第11直列共振回路および第12直列共振回路のキャパシタンスC2とインダクタンスL2の値を、Fo=150MHzの共振周波数を条件に選定する。また、ハイブリッドリング回路11の入力側には直列共振回路が接続されていないが、直列共振回路を省略したことによる不整合損失はアイソレーションの値に対して微小なので、キャパシタンスC2とインダクタンスL2の定数決定には殆ど影響しない。
【0027】
キャパシタンスCを30.0pFから90.0pFまで変化した際の直列共振周波数が150MHzとなるインダクタンスLの値と、その際にハイブリッドリング回路11のアイソレーションが20dBとなるFoより低域側の周波数FLおよびFoより高域側の周波数FHとをシミュレーションし、その結果を
図9の図表に示す。
図9に示す図表を参照すると、FLが最も低くなって低域側に周波数帯域が最も拡張される周波数は110.9430MHzとなり、この時のキャパシタンスCは59.8pFでインダクタンスLは約18.826nHとなる。また、FHが最も高くなって高域側に周波数帯域が最も拡張される周波数は189.054MHzとなり、この時のキャパシタンスC2は45.0pFでインダクタンスL2は約25.018nHとなる。
ところで、第11直列共振回路のように集中定数の共振回路では、低域側が共振周波数から直流までのインピーダンス変化が急激なのに対して、高域側は共振周波数から無限大周波数までの広い帯域で緩やかにインピーダンスが変化する。従って、インピーダンス変化が周波数に対して対称な分布定数線路に集中定数回路を付加して、インピーダンス特性の補償を行う場合は、低域側の帯域拡大を優先した方が、対象となるハイブリッドリング全体の周波数帯域の対称性が良好になる。
【0028】
そこで、最適条件をアイソレーションが20dBとなる低域周波数をFL、高域周波数をFHとしたとき、FLが最も低い周波数まで拡張される時のキャパシタンスC2とインダクタンスL2の値と定めると、キャパシタンスC2が59.8pFと、インダクタンスL2が18.826nHと選定される。この値とした際のハイブリッドリング回路11のP21~P22端子間におけるアイソレーションの周波数特性を
図10に実線で示し、キャパシタンスC2とインダクタンスL2とを接続する前のP21~P22端子間におけるアイソレーションの周波数特性を
図10に破線で示し、周波数範囲は100~200MHzとされている。この場合、
R=Zk≒29.289322 Ω
C2=59.8pF
L2≒18.826nH
とされており、
図10に実線で示すアイソレーションの周波数特性を参照すると、
FL≒110.943MHz
FH≒187.619MHz
BW=76.676MHz
と読み取れる。なお、BWは(FH-FL)で算出される帯域幅である。
また、
図10に破線で示すアイソレーションの周波数特性を参照すると、
FL≒129.5MHz
FH≒170.84MHz
BW=41.34MHz
と読み取れる。
図10に実線で示すアイソレーションの周波数特性と、
図10に破線で示すアイソレーションの周波数特性とを対比すると、直列接続されたキャパシタンスC2とインダクタンスL2とを有するハイブリッドリング回路11では帯域幅が約1.85倍に拡大していることが分かる。
以上のことからキャパシタンスCoとインダクタンスLoとの値を求めると、ハイブリッドリング回路11における第11直列共振回路および第12直列共振回路が2段直列接続されたのが、第1実施例のハイブリッドリング回路1における第5直列共振回路と第6直列共振回路となるから、キャパシタンスCoはキャパシタンスC2の1/2倍となり、インダクタンスLoはインダクタンスL2の2倍となる。すなわち、
Co=C2/2=29.9pF
Lo=2L2≒37.65nH
と求められる。
【0029】
次に、
図11に示すハイブリッドリング回路12は、使用中心周波数Foの波長をλoとすると、それぞれλo/4の電気長とされた4本の分布定数線路D1,D2,D3,D4がリング状に接続されて構成された一周がλoの電気長を有するハイブリッドリングから構成されている。このハイブリッドリング回路12では、第1端子P31とハイブリッドリングのD1とD4との第1接続点とがキャパシタンスC1とインダクタンスL1が直列接続されたFoで共振する第21直列共振回路で結合され、第2端子P32とハイブリッドリングのD1とD2との第2接続点とがキャパシタンスC1とインダクタンスL1が直列接続されたFoで共振する第22直列共振回路で結合され、第3端子P33はハイブリッドリングのD2とD3との第3接続点に接続され、第4端子P34はハイブリッドリングのD3とD4との第2接続点に接続されている。
【0030】
ハイブリッドリング回路12において、第1端子P31と第2端子P32を出力端子として接続されるインピーダンスすなわち出力インピーダンスをZoとし、第3端子P33と第4端子P34を入力端子として接続されるインピーダンスすなわち入力インピーダンスをZkとする。そして、第1端子P31および第2端子P32をZoで終端し、第4端子P34より電力「1」を印加したとき第4端子P34に対向する第1端子P31に現れる電力比をN、第4端子P34の対角の第2端子P32に現れる電力比を(1-N)と規定して、分配比とされるNを上記(5)で示す分配比とする。すなわち、ハイブリッドリング回路12では、P34-P31端子間の挿入損失が約0.687693081dBで、P34-P32端子間の結合損失が約8.343206788dBの不等分配としている。なお、ハイブリッドリング回路12では、P34-P32端子間のアイソレーションが最適化する出力側の第21直列共振回路および第22直列共振回路のキャパシタンスC1とインダクタンスL1の値を、Fo=150MHzの共振周波数を条件に選定する。また、ハイブリッドリング回路12の入力側には直列共振回路が接続されていないが、直列共振回路を省略したことによる不整合損失はアイソレーションの値に対して微小なので、キャパシタンスC1とインダクタンスL1の定数決定には殆ど影響しない。
【0031】
図表を示さないが、キャパシタンスCを変化した際の直列共振周波数が150MHzとなるインダクタンスLの値と、その際にハイブリッドリング回路12のアイソレーションが20dBとなるFoより低域側の周波数FLおよびFoより高域側の周波数FHとをシミュレーションして、その結果を求める。このシミュレーションの結果の図表を図示しないが結果から、FLが最も低くなって低域側に周波数帯域が最も拡張される周波数は122.248MHzとなり、この時のキャパシタンスCは22.1pFでインダクタンスLは約50.941nHとなる。この場合の最適条件は、上記と同様であってアイソレーションが20dBとなる低域周波数をFL、高域周波数をFHとしたとき、FLが最も低い周波数まで拡張される時のキャパシタンスC1とインダクタンスL1の値と定める。そうすると、キャパシタンスC1が22.1pFと、インダクタンスL1が約50.941nHと選定される。この値とした際のハイブリッドリング回路12のP33~P34端子間におけるアイソレーションの周波数特性を
図12に実線で示し、キャパシタンスC1とインダクタンスL1とを接続する前のP33~P34端子間におけるアイソレーションの周波数特性を
図12に破線で示し、周波数範囲は100~200MHzとされている。この場合、
R=Zo=50 Ω
C1=22.1pF
L1≒50.941nH
とされており、
図12に実線で示すアイソレーションの周波数特性を参照すると、
FL≒122.2483MHz
FH≒177.072MHz
BW=54.824MHz
と読み取れる。
また、
図12に破線で示すアイソレーションの周波数特性を参照すると、
FL≒136.07MHz
FH≒163.99MHz
BW=27.92MHz
と読み取れる。
図12に実線で示すアイソレーションの周波数特性と、
図12に破線で示すアイソレーションの周波数特性とを対比すると、直列接続されたキャパシタンスC1とインダクタンスL1とを有するハイブリッドリング回路12では帯域幅が約1.96倍に拡大していることが分かる。
【0032】
以上のことからキャパシタンスCsとインダクタンスLsとの値を求めると、ハイブリッドリング回路12における第21直列共振回路および第22直列共振回路は、第1実施例のハイブリッドリング回路1における第5直列共振回路と第6直列共振回路となるから、キャパシタンスCsはキャパシタンスC1となり、インダクタンスLsはインダクタンスL21となる。すなわち、
Cs=C1=22.1pF
Ls=L1≒50.941nH
と求められる。
【0033】
第1実施例のハイブリッドリング回路1における第1直列共振回路ないし第6直列共振回路の定数の値をまとめると、次のようになる。ただし、Fo=150MHz、Zo=50Ωとした時の実定数である。
Cs=22.1pF
Ls≒50.941nH
Co=29.9pF
Lo≒37.65nH
また、上記の値をFo[Hz] とZo[Ω] で正規化して一般式にすると、次のようになる。
Cs[F] ≒ 0.16575 /(Fo・Zo)
Ls[H] ≒(0.15282・Zo)/ Fo
Co[F] ≒ 0.22425/(Fo・Zo)
Lo[H] ≒(0.11296・Zo)/ Fo
第1実施例のハイブリッドリング回路1は、
図8に示すハイブリッドリング回路11と
図11に示すハイブリッドリング回路12を連結したハイブリッドリング回路に相当し、分布定数線路D1~D7の特性インピーダンスは次のとおりとなる。
Z1≒ 120.710678Ω
Z2≒ 35.3553391Ω
Z3≒ 70.7106781Ω
なお、第1直列共振回路ないし第6直列共振回路におけるキャパシタンスとインダクタンスの配列は
図1に示す配列と逆の配列であっても電気的には等価であるから、製品化する際は設計上の都合等によって配列を決定することが好適である。
【0034】
第1実施例のハイブリッドリング回路1において、Fo=150MHz、Zo=50Ωとして、第1直列共振回路ないし第6直列共振回路の定数の値および分布定数線路D1~D7の特性インピーダンスの値を上記の値としたときの電気的特性を
図2ないし
図7に示す。
図2はP1-P4端子間の挿入損失特性と結合損失特性を示す図であり、
図3は第1端子P1のリターンロス特性を示す図であり、
図4はP1-P2端子間のアイソレーション特性を示す図であり、
図5はP1-P4端子間の位相特性を示す図であり、
図6はP1-P3端子間の位相特性を示す図であり、
図7は相対位相偏差特性を示す図である。
図2では、実線でP1-P4端子間の挿入損失の周波数特性が示され、破線でP1-P3端子間の結合損失の周波数特性が示されており、周波数範囲は100MHz~200MHzとされている。
図2を参照すると、Foにおいて挿入損失および結合損失が約3dBとなって均等分配されており、約126MHz~176MHzの広帯域において挿入損失および結合損失もほぼ3dBとなっていることが分かる。また、
図3に示す周波数範囲が100MHz~200MHzとされた第1端子P1のリターンロスの周波数特性を参照すると、約126MHz~176MHzの広帯域においてリターンロスが25dB以上得られていることが分かる。
【0035】
また、
図4に示す周波数範囲が100MHz~200MHzとされたP1-P2端子間のアイソレーションの周波数特性を参照すると、P1-P2端子間のアイソレーションはFoにおいて最大値となっており、アイソレーションが25dB得られる周波数範囲は約126~176MHzの広帯域とされていることが分かる。さらに、
図5に示す周波数範囲が100MHz~200MHzとされたP1-P4端子間の位相の周波数特性を参照すると、Foにおいて-180°の位相とされている。さらにまた、
図6に示す周波数範囲が100MHz~200MHzとされたP1-P3端子間の位相の周波数特性を参照すると、Foにおいて-270°の位相とされている。さらにまた、
図7に示す相対位相偏差特性は、
図6に示すP1-P3端子間の位相から
図5に示すP1-P4端子間の位相を差し引いた相対位相偏差の周波数特性が示されており、周波数範囲は100~200MHzとされている。
図7を参照すると、約126~176MHzの広帯域の周波数範囲においてほぼ-90°の位相が得られていることが分かる。
【0036】
図2ないし
図7に示す第1実施例のハイブリッドリング回路1の電気的特性と、従来の広帯域化されたハイブリッドリング回路110の電気的特性とを対比すると、リターンロス特性、アイソレーション特性、相対位相偏差特性の全てで改善されており、特に、挿入損失と結合損失特性における端子間及び帯域内振幅偏差が、大幅に改善されている。
図2と
図26とに示す挿入損失特性と結合損失特性を対比すると、アイソレーション及びリターンロスが約25dB以上となる126MHz~176MHzの帯域幅50MHzを使用周波数帯域とした場合、挿入損失と結合損失の偏差が、従来のハイブリッドリング回路110では
図26に示すように1.3dB程度となるが、第1実施例のハイブリッドリング回路1では
図2に示すように、挿入損失と結合損失の偏差が0.1dB以下まで改善されていることが分かる。
【0037】
ところで、上記の説明ではアイソレーションが20dBとなるFoより低域側の周波数FLを算出したが、FLを算出する際に設定するアイソレーションを20dBに限定する必要はない。そこで、FLを算出する際に設定するアイソレーションを15dBに設定した場合と30dBに設定した場合とにおいて、上記した手順と同じ手順で求めた直列共振回路の定数を求めると、次に示すようになる。なお、Fo=150MHz、Zo=50Ωとしている。
アイソレーションを15dBに設定した場合は、
Cs=29.1pF
Ls≒38.690nH
Co=44.3pF
Lo≒25.413nH
と求められ、上記の値をFo[Hz] とZo[Ω] で正規化して一般式にすると、
Cs[F] ≒ 0.21825 /(Fo・Zo)
Ls[H] ≒(0.11606・Zo)/ Fo
Co[F] ≒ 0.33225/(Fo・Zo)
Lo[H] ≒(0.076239・Zo)/ Fo
となる。
【0038】
また、アイソレーションを30dBに設定した場合は、
Cs=17.1pF
Ls≒65.836nH
Co=22.1pF
Lo≒50.941nH
と求められ、上記の値をFo[Hz] とZo[Ω] で正規化して一般式にすると、
Cs[F] ≒ 0.12825 /(Fo・Zo)
Ls[H] ≒(0.19751・Zo)/ Fo
Co[F] ≒ 0.16575/(Fo・Zo)
Lo[H] ≒(0.15282・Zo)/ Fo
となる。
図示は省略するが、第1実施例のハイブリッドリング回路1における直列共振回路の定数を、アイソレーションを15dBに設定した場合と30dBに設定した場合とにおいて算出したFLに基づいて求めた直列共振回路の定数とした場合の電気特性は、アイソレーションを20dBと設定した場合と大きな差異はないが、15dBに設定した場合は全般的に広帯域となるものの、挿入損失と結合損失の偏差が拡大する。一方、30dBに設定した場合は全般的に狭帯域となるが、挿入損失と結合損失の偏差が殆ど無い理想的な伝送特性となる。このことから、所望する周波数特性に応じて、設定するアイソレーションを選択することが好適となる。
【0039】
<第2実施例>
本発明の第2実施例のハイブリッドリング回路の構成を示す回路図を
図14に示す。
図14に示す第2実施例のハイブリッドリング回路2は、第1実施例のハイブリッドリング回路1における分布定数線路を集中定数化したハイブリッドリング回路とされている。分布定数線路を集中定数化することにより、小型化することができると共に、ハイブリッドリング回路を容易に実現することができる。すなわち、第1実施例のハイブリッドリング回路1では、第1ハイブリッドリングおよび第2ハイブリッドリングを構成する分布定数線路の数は合計で8本と多く、それぞれ1/4波長の線路長とされることから、使用周波数によっては大型になることがある。また、分布定数線路D1,D7の特性インピーダンスは100Ωを超える高インピーダンスとなるので、分布定数線路をマイクロストリップ線路で形成する場合には線路幅が非常に細くなることから作成が困難になる場合があるが、第2実施例のハイブリッドリング回路2ではこれらの問題は生じない。
【0040】
第2実施例のハイブリッドリング回路2を説明するに当たり、分布定数線路を集中定数化することについて説明する。1/4波長の分布定数線路は電気的には90°の位相回路と考えられ、
図13に集中定数回路とされた90°の位相回路PHの回路図の一例を示す。
図13に示す90°の位相回路PHは、LPF回路を応用したπ型接続回路を2段縦続接続されて構成されている。1段目のπ型接続回路は2つのキャパシタンスCd101,Cd102がアースとの間にシャント接続され、1つのインダクタンスLd101がキャパシタンスCd101,Cd102の間に直列に接続された3素子からなる45°の位相回路とされ、2段目のπ型接続回路は2つのキャパシタンスCd102,Cd103がアースとの間にシャント接続され、1つのインダクタンスLd102がキャパシタンスCd102,Cd103の間に直列に接続された3素子からなる45°の位相回路とされている。これにより、位相回路PHは全体の位相が90°となる。LPF回路構成のπ型接続回路において、キャパシタンスをC、インダクタンスをL、使用中心周波数をFo、回路全体の特性インピーダンスをZt、所望する位相量をθoとすると、π型接続回路のキャパシタンスCおよびインダクタンスをLの定数は、次の(11)式と(12)式で求められる。
C=(1-cosθo)/(2πFo・Zt・sinθo) (11)
L=(Zt・sinθo)/(2πFo) (12)
【0041】
図14に戻り第2実施例のハイブリッドリング回路2は、第1実施例のハイブリッドリング回路1の分布定数線路D1~D7がLPF回路構成のπ型接続回路を2段縦続接続した
図13に示す90°位相回路で構成されている。すなわち、第2実施例のハイブリッドリング回路2においては、ハイブリッドリング回路1の第1ハイブリッドリングの分布定数線路D1がアースとの間にシャント接続された3つのキャパシタンスCd1,Cd2と、3つのキャパシタンスCd1,Cd2の間に直列接続された2つのインダクタンスLd1からなる90°位相回路で構成され、第1ハイブリッドリングの分布定数線路D2がアースとの間にシャント接続された3つのキャパシタンスCd2,Cd3,Cd4と、3つのキャパシタンスCd2,Cd3,Cd4の間に直列接続された2つのインダクタンスLd2からなる90°位相回路で構成され、第1ハイブリッドリングの分布定数線路D3がアースとの間にシャント接続された3つのキャパシタンスCd4,Cd5と、3つのキャパシタンスCd4,Cd5の間に直列接続された2つのインダクタンスLd3からなる90°位相回路で構成され、第1ハイブリッドリングの分布定数線路D4がアースとの間にシャント接続された3つのキャパシタンスCd2,Cd3,Cd4と、3つのキャパシタンスCd2,Cd3,Cd4の間に直列接続された2つのインダクタンスLd2からなる90°位相回路で構成されている。これにより、第1ハイブリッドリングは一周がλoの電気長を有するようになる。
【0042】
また、第2実施例のハイブリッドリング回路2においては、ハイブリッドリング回路1の第2ハイブリッドリングの分布定数線路D5がアースとの間にシャント接続された3つのキャパシタンスCd4,Cd5と、3つのキャパシタンスCd4,Cd5の間に直列接続された2つのインダクタンスLd3からなる90°位相回路で構成され、第2ハイブリッドリングの分布定数線路D6がアースとの間にシャント接続された3つのキャパシタンスCd2,Cd3,Cd4と、3つのキャパシタンスCd2,Cd3,Cd4の間に直列接続された2つのインダクタンスLd2からなる90°位相回路で構成され、第2ハイブリッドリングの分布定数線路D7がアースとの間にシャント接続された3つのキャパシタンスCd1,Cd2と、3つのキャパシタンスCd1,Cd2の間に直列接続された2つのインダクタンスLd1からなる90°位相回路で構成され、第2ハイブリッドリングの分布定数線路D8がアースとの間にシャント接続された3つのキャパシタンスCd2,Cd3,Cd4と、3つのキャパシタンスCd2,Cd3,Cd4の間に直列接続された2つのインダクタンスLd2からなる90°位相回路で構成されている。これにより、第2ハイブリッドリングは一周がλoの電気長を有するようになる。
【0043】
さらに、第2実施例のハイブリッドリング回路2の第1端子P41と第1ハイブリッドリングの第1接続点AとがキャパシタンスCsとインダクタンスLsが直列接続されたFoで共振する第1直列共振回路で結合され、第2端子P42と第1ハイブリッドリングの第2接続点BとがキャパシタンスCsとインダクタンスLsが直列接続されたFoで共振する第2直列共振回路で結合されている。さらに、第2実施例のハイブリッドリング回路2の第3端子P43と第2ハイブリッドリングの第7接続点GとがキャパシタンスCsとインダクタンスLsが直列接続されたFoで共振する第3直列共振回路で結合され、第4端子P44と第2ハイブリッドリングの第8接続点HとがキャパシタンスCsとインダクタンスLsが直列接続されたFoで共振する第4直列共振回路で結合されている。さらにまた、第2実施例のハイブリッドリング回路2の第1ハイブリッドリングの第3接続点Cと第2ハイブリッドリングの第6接続点FとがキャパシタンスCoとインダクタンスLoが直列接続されたFoで共振する第5直列共振回路で結合され、第1ハイブリッドリングの第4接続点Dと第2ハイブリッドリングの第5接続点EとがキャパシタンスCoとインダクタンスLoが直列接続されたFoで共振する第6直列共振回路で結合されている。
【0044】
上記したように第1ハイブリッドリングと第2ハイブリッドリングとが2連結された第2実施例のハイブリッドリング回路2において、第1ハイブリッドリングの第1接続点Aに他端が接続された第1直列共振回路の一端が第1端子P41とされ、第2接続点Bに他端が接続された第2直列共振回路の一端が第2端子P42とされ、第2ハイブリッドリングの第7接続点Gに他端が接続された第3直列共振回路の一端が第3端子P43とされ、第8接続点Hに他端が接続された第4直列共振回路の一端が第4端子P44とされている。第1端子P41の対向側が第4端子P44となり、第1端子P41の対角方向が第3端子P43となる。
第2実施例のハイブリッドリング回路2において、第1端子P41を基準とした場合のFoにおける端子間の位相は、通過端子に相当する対向側の第4端子P44に対しては-180°、結合端子に相当する対角方向の第3端子P43に対しては-270°となる。また、第2端子P42には電力は現れずアイソレーション端子となる。基準端子を第1端子P41以外とした場合の位相においても、基準入力端子の対向側の端子に対しては-180°、対角方向の端子に対しては-270°となり、残りの端子がアイソレーション端子となる。
【0045】
第2実施例のハイブリッドリング回路2において、第1端子P41と第2端子P42を入力端子として接続されるインピーダンスすなわち入力インピーダンスをZoとし、第3端子P43と第4端子P44を出力端子として接続されるインピーダンスすなわち出力インピーダンスもZoとする。そして、第2端子P42をZoで終端し、第1端子P41より電力「1」を印加したとき第1端子P41に対向する第4端子P44に現れる電力比をN、第1端子P41の対角の第3端子P43に現れる電力比を(1-N)と規定して、分配比とされるNを0.5とすると均等分配のハイブリッドリング回路2となる。この場合、第1ハイブリッドリングおよび第2ハイブリッドリングの分配比を所定の分配比Nとすることにより、第2実施例のハイブリッドリング回路2を均等分配に設定することができる。第1ハイブリッドリングおよび第2ハイブリッドリングの所定の分配比Nは上記(5)式で求められる不等分配の分配比となる。上記(5)式で示す分配比Nとなる第1ハイブリッドリングにおける第3接続点Cおよび第4接続点DにおけるインピーダンスはインピーダンスZkとなり、第2ハイブリッドリングにおける第6接続点Fおよび第5接続点Eにおけるインピーダンスも同様にZkとなり、Zkは上記(6)式で求められる。
【0046】
第2実施例のハイブリッドリング回路2におけるキャパシタンスCd1~Cd5とインダクタンスLd1~Ld3を、Fo=150MHzおよびZo=50Ωとして上記(11)式および(12)式から求めると、
Cd1≒7.2818pF
Cd2≒16.072pF
Cd3≒24.862pF
Cd4≒18.646pF
Cd5≒12.431pF
Ld1≒90.565nH
Ld2≒26.526nH
Ld3≒53.052nH
と求められる。また、第1直列共振回路ないし第4直列共振回路のキャパシタンスCsとインダクタンスLsおよび第5直列共振回路と第6直列共振回路のキャパシタンスCoとインダクタンスLoとの値は、第1実施例のハイブリッドリング回路1と同じ手順で求めることができ、次のように求められる。
Cs=20.9pF
Ls≒53.866nH
Co=27.6pF
Lo≒40.790nH
【0047】
上記求められた値をFo[Hz] とZo[Ω] で正規化して一般式にすると、次のようになる。
Cd1 [F] ≒ 0.054613/(Fo・Zo)
Cd2 [F] ≒ 0.12054/(Fo・Zo)
Cd3 [F] ≒ 0.18646/(Fo・Zo)
Cd4 [F] ≒ 0.13985/(Fo・Zo)
Cd5 [F] ≒ 0.10073/(Fo・Zo)
Ld1 [H] ≒(0.27169・Zo)/ Fo
Ld2 [H] ≒(0.079577・Zo)/ Fo
Ld3 [H] ≒(0.15915・Zo)/ Fo
Cs [F] ≒ 0.15675/(Fo・Zo)
Ls [H] ≒(0.16160・Zo)/ Fo
Co [F] ≒ 0.20700/(Fo・Zo)
Lo [H] ≒(0.12237・Zo)/ Fo
【0048】
第2実施例のハイブリッドリング回路2において、Fo=150MHz、Zo=50Ωとして、キャパシタンスCd1~Cd5とインダクタンスLd1~Ld3の値および第1直列共振回路ないし第6直列共振回路の定数の値を上記の値としたときの電気的特性を
図15ないし
図20に示す。
図15はP41-P44端子間の挿入損失特性と結合損失特性を示す図であり、
図16は第1端子P41のリターンロス特性を示す図であり、
図17はP41-P42端子間のアイソレーション特性を示す図であり、
図18はP41-P44端子間の位相特性を示す図であり、
図19はP41-P43端子間の位相特性を示す図であり、
図20は相対位相偏差特性を示す図である。
図15では、実線でP41-P44端子間の挿入損失の周波数特性が示され、破線でP41-P43端子間の結合損失の周波数特性が示されており、周波数範囲は100MHz~200MHzとされている。
図15を参照すると、Foにおいて挿入損失および結合損失が約3dBとなって均等分配されており、約130MHz~175MHzの広帯域において挿入損失および結合損失がほぼ3dBとなっていることが分かる。また、
図16に示す周波数範囲が100MHz~200MHzとされた第1端子P41のリターンロスの周波数特性を参照すると、約130MHz~175MHzの広帯域においてリターンロスが25dB以上得られていることが分かる。
【0049】
また、
図17に示す周波数範囲が100MHz~200MHzとされたP41-P42端子間のアイソレーションの周波数特性を参照すると、P41-P42端子間のアイソレーションはFoにおいて最大値となっており、アイソレーションが25dB得られる周波数範囲は約130~175MHzの広帯域とされていることが分かる。さらに、
図18に示す周波数範囲が100MHz~200MHzとされたP41-P44端子間の位相の周波数特性を参照すると、Foにおいて-180°の位相とされている。さらにまた、
図19に示す周波数範囲が100MHz~200MHzとされたP41-P43端子間の位相の周波数特性を参照すると、Foにおいて-270°の位相とされている。さらにまた、
図20に示す相対位相偏差特性は、
図19に示すP41-P43端子間の位相から
図18に示すP41-P44端子間の位相を差し引いた相対位相偏差の周波数特性が示されており、周波数範囲は100~200MHzとされている。
図20を参照すると、約130~175MHzの広帯域の周波数範囲においてほぼ-90°の位相が得られていることが分かる。
【0050】
第2実施例のハイブリッドリング回路2は
図15ないし
図20に示す電気的特性を参照すると、第1実施例のハイブリッドリング回路1の電気的特性がほぼ得られていることが分かる。また、入力端子をP41とした場合、対向側のP44端子に対しては-180°となり、対角方向のP43端子に対しては-270°となるので、入力端子から見て対角方向の出力端子は、対向側の端子に対して90°遅れの位相となる「90°ハイブリッド回路」として機能することが分かる。
第2実施例のハイブリッドリング回路2において、nを2以上の整数とした時に、90°/nの位相の単位位相回路をn段縦続接続して90°位相回路を構成してもよい。例えば30°の単位位相回路を3段縦続接続して構成した90°位相回路とすると、さらに第1実施例のハイブリッドリング回路1の特性に近づけることができる。このように、90°位相回路の集中定数素子数を増やせば、90°位相回路の特性を分布定数線路の特性に漸近させることができる。また、90°位相回路は、π型接続回路に替えてLPF回路構成のT型接続回路を用いて構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上説明した本発明にかかる実施例のハイブリッドリング回路において、電気定数とされるパラメータ値は、上記記載したパラメータ値に限定されるものではなく、各ハイブリッドリング回路において上記記載した機能および作用と同等の機能および作用を奏することができるパラメータ値とされていれば、上記記載したパラメータ値に限定されるものではない。すなわち、このパラメータ値には、上記記載したパラメータ値の上下に許容範囲があり、この許容範囲は各ハイブリッドリング回路において上記記載した機能および作用と同等の機能および作用を奏する範囲とされている。
以上説明した本発明にかかる実施例のハイブリッドリング回路は、第1ハイブリッドリングと第2ハイブリッドリングとを連結して、第1端子および第2端子と第1ハイブリッドリングとの間、第3端子および第4端子と第2ハイブリッドリングとの間、第1ハイブリッドリングと第2ハイブリッドリングとの間を、それぞれ使用中心周波数Foで共振する直列共振回路で結合している。直列共振回路で結合することにより、第1ハイブリッドリングおよび第2ハイブリッドリングのインピーダンス特性が補償されて、Foを中心周波数とする通過周波数帯域における電気的特性が改善される。この場合、直列共振回路を構成するインダクタンスとキャパシタンスとの値を、Foより低域の周波数であって最も低域の周波数において所定のアイソレーションが得られる値とすることにより、ハイブリッドリング全体の周波数帯域の対称性を極力改善して広帯域とすることができる。これに替えて、Foより高域の周波数であって最も高域の周波数において所定のアイソレーションが得られる値とすることもでき、この場合でもハイブリッドリング全体の周波数帯域の対称性を改善することができる。
【0052】
以上説明した本発明にかかる実施例のハイブリッドリング回路では、直列共振回路の回路定数をFoおよび第1端子ないし第4端子のインピーダンスZoで正規化して一般式で表すことができる。また、第1ハイブリッドリングおよび第2ハイブリッドリングを構成しているλo/4の電気長とされた分布定数線路を、集中定数のインダクタンスとキャパシタンスとからなる低域通過型の90°位相回路で構成することができる。この場合、nを2以上の整数とした時に、90°/nの位相の単位位相回路をn段縦続接続して90°位相回路を構成することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 ハイブリッドリング回路、2 ハイブリッドリング回路、11 ハイブリッドリング回路、12 ハイブリッドリング回路、100 ハイブリッドリング回路、110 ハイブリッドリング回路、120 ハイブリッドリング回路、D1,D2,D3,D4 分布定数線路、D5,D6,D7,D8 分布定数線路、P1,P21,P31,P41 第1端子、P2,P22,P32,P42 第2端子、P3,P23,P33,P43 第3端子、P4,P24,P34,P44 第4端子、D101,D102,D103,D104 分布定数線路、D111,D112,D113,D114,D115,D116,D117 分布定数線路、P101,P111 第1端子、P102,P112 第2端子、P103,P113 第3端子、P104,P114 第4端子、PH 位相回路