IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カゴメ株式会社の特許一覧

特許7463045アブラナ科属間雑種の苗の生産方法及びアブラナ科属間雑種の不定芽の水浸状化抑制方法
<>
  • 特許-アブラナ科属間雑種の苗の生産方法及びアブラナ科属間雑種の不定芽の水浸状化抑制方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】アブラナ科属間雑種の苗の生産方法及びアブラナ科属間雑種の不定芽の水浸状化抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A01H 4/00 20060101AFI20240401BHJP
   A01H 6/20 20180101ALI20240401BHJP
   A01G 22/15 20180101ALI20240401BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
A01H4/00
A01H6/20
A01G22/15
A01G7/00 604Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022179551
(22)【出願日】2022-11-09
(62)【分割の表示】P 2021509382の分割
【原出願日】2020-03-23
(65)【公開番号】P2023010775
(43)【公開日】2023-01-20
【審査請求日】2022-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2019065129
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000104113
【氏名又は名称】カゴメ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 亮太
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-337128(JP,A)
【文献】特開平05-146232(JP,A)
【文献】特開2019-024497(JP,A)
【文献】特開2007-097432(JP,A)
【文献】特開2012-196221(JP,A)
【文献】J. Japan. Soc. Hort. Sci.,1991年,Vol. 60, Issue 2,pp.369-377
【文献】“Raphanus sativus L. × Brassica oleracea L. var. acephala DC.”, [online], 2018.11.13公表, 品種登録迅速化総合電子化システム, [2020.6.3検索], インターネット<URL: http://www.hinshu2.maff.go.jp/vips/cmm/apCMM111.aspx?SHUTSUGAN_NO=33291&LANGUAGE=Japanese>
【文献】Sci. Hortic.,2017年,Vol. 217,pp.285-296
【文献】Breed. Sci.,2015年,Vol. 65,pp.396-402
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01H 1/00-17/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アブラナ科属間雑種の苗の生産方法であって、それを構成するのは、少なくとも、次の工程である:
調整:ここで調整されるのは、培地でのサイトカイニン類の濃度であり、前記培地で培養されるのは、不定芽(カルスから生じたものを除く)であり、前記調整が実施されるのは、継代培養時であり、それによって抑制されるのは、培養される不定芽の水浸状化であり、
前記濃度の調整範囲は、0.016mg/L乃至12.000mg/Lであり、
第2の調整:ここで調整されるのは、前記不定芽の大きさであり、調整の結果得られるのは、培養に使用する不定芽であり、
前記大きさの調整範囲は、2.5cm以下であり、
前記アブラナ科属間雑種は、サンテヴェール48(農林水産省品種登録出願番号第33291号)である。
【請求項2】
アブラナ科属間雑種の苗の生産方法であって、それを構成するのは、少なくとも、次の工程である:
継代培養:ここで置床されるのは、不定芽(カルスから生じたものを除く)であり、かつ、調整されるのは、継代培地におけるサイトカイニン類の濃度であり、それによって抑制されるのは、前記不定芽の水浸状化であり、
前記濃度の調整範囲は、0.016mg/L乃至12.000mg/Lであり、
前記継代培養においてさらに調整されるのは、前記不定芽の大きさであり、調整の結果得られるのは、培養に使用する不定芽であり、
前記大きさの調整範囲は、2.5cm以下であり、
前記アブラナ科属間雑種は、サンテヴェール48(農林水産省品種登録出願番号第33291号)である。
【請求項3】
アブラナ科属間雑種の不定芽の水浸状化抑制方法であって、それを構成するのは、少なくとも、次の工程である:
継代培養:ここで置床されるのは、不定芽(カルスから生じたものを除く)であり、かつ、調整されるのは、継代培地におけるサイトカイニン類の濃度であり、
前記濃度の調整範囲は、0.016mg/L乃至12.000mg/Lであり、
前記継代培養においてさらに調整されるのは、前記不定芽の大きさであり、調整の結果得られるのは、培養に使用する不定芽であり、
前記大きさの調整範囲は、2.5cm以下であり、
前記アブラナ科属間雑種は、サンテヴェール48(農林水産省品種登録出願番号第33291号)である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明が関係するのは、アブラナ科属間雑種の苗の生産方法及びアブラナ科属間雑種不定芽の水浸状化抑制方法である。
【背景技術】
【0002】
近年、市場で求められているのは、新しい価値をもった野菜である。特許文献1に開示されているのは、十字花科(アブラナ科)植物の新芽であり、例示すると、ブロッコリースプラウトである。この新芽に多く含まれているのは、スルフォラファングルコシノレート(以下、「SGS」という。)である。SGSが代謝されると、スルフォラファンになる。特許文献2に開示されているのは、ケールの一種「ハイパール」(登録商標、農林水産省品種登録第20555号)である。このケールに多く含まれているのは、グルコシノレート類である。前述のとおり、グルコシノレート類は、スルフォラファンの前駆体である。特許文献3に開示されているのは、スルフォラファンの作用であり、具体的には、解毒作用や抗酸化作用等である。
【0003】
新規な野菜の開発にあたり、その候補の一つは、アブラナ科野菜である。アブラナ科野菜を一つの候補とするのは、食経験のある野菜が多く存在しているからである。アブラナ科野菜に含まれるのは、アブラナ属の野菜(例えば、ハクサイ、カブ、キャベツ、ブロッコリー、ケールなど)、ダイコン属の野菜(例えば、ダイコンなど)、オランダガラシ属の野菜(例えば、クレソンなど)、キバナスズシロ属の野菜(例えば、ルッコラなど)、ワサビ属の野菜(例えば、山葵など)である。
【0004】
アブラナ科の野菜を開発する方法は、様々であるが、例示すると、種間交配や属間交配などである。アラブナ科の種間雑種は、広く普及しており、例示すると、菜種などである。例えば、特許文献4に開示されているのは、アラブナ科の種間雑種「プチヴェール」である。他方、アラブナ科の属間雑種は、普及していない。
【0005】
アラブナ科の属間雑種が普及していないのは、不稔性を示すからである。不稔性を示す植物を増殖させることは難しい。これを解決する方法の一つは、組織培養である。アブラナ科野菜の組織培養は、稀である。なぜなら、開発されたアブラナ科野菜の多くは、種間雑種だからである。言い換えると、アブラナ科野菜を増殖させる一般的な方法は、種子繁殖である。敢えて組織培養を例示すると、特許文献5に開示されているのは、ワサビ幼苗の増殖方法である。特許文献6に開示されているのも、ワサビの培養法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開WO97/09889
【文献】国際公開WO2015/163442
【文献】特開2009‐148240号
【文献】特開2009‐213451号
【文献】特開平5-130815号
【文献】特許第2632631号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、アブラナ科属間雑種の不定芽の水浸状化を抑制することである。植物を組織培養によって増殖させ、苗を生産する場合、不定芽の水浸状化を抑制することが非常に重要である。なぜなら、水浸状化した不定芽は生育が止まってしまい、苗にすることができないからである。つまり、不定芽の水浸状化は、不定芽の増殖効率を悪化させる。不定芽の増殖効率の悪化は、苗の生産効率の悪化に直結する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上を踏まえて、本願発明者が鋭意検討して見出したのは、サイトカイニン類の濃度を調製することで、不定芽の水浸状化を抑制することである。すなわち、サイトカイニン類の濃度を高めていくと、不定芽が水浸状化する割合が高くなるが、水浸状化した不定芽は、生育しないため、増殖効率を悪化させる。この観点から、本発明を定義すると、以下のとおりである。
【0009】
本発明に係るアブラナ科属間雑種の苗の生産方法を構成するのは、少なくとも、調整である。調整において、培地でのサイトカイニン類の濃度が調整され、それによって、培養される不定芽の水浸状化が抑制される。
【0010】
本発明に係るアブラナ科属間雑種の苗の生産方法を構成するのは、少なくとも、継代培養である。継代培養において、不定芽が置床され、かつ、継代培地におけるサイトカイニン類の濃度が調整され、それによって、不定芽の水浸状化が抑制される。
【0011】
本発明に係るアブラナ科属間雑種の不定芽の水浸状化抑制方法を構成するのは、少なくとも、継代培養である。継代培養において、不定芽が置床され、かつ、継代培地におけるサイトカイニン類の濃度が調整される。
【発明の効果】
【0012】
本発明が可能にするのは、アブラナ科属間雑種の不定芽の水浸状化の抑制である。すなわち、アブラナ科属間雑種の不定芽の増殖効率を高めることである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施の形態に係る生産方法の流れ図
【発明を実施するための形態】
【0014】
<アブラナ科属間雑種>
アブラナ科属間雑種とは、アブラナ科(Brassicacear)に属する植物であって、互いに異なる属に属する植物同士を交雑して生まれた植物を表す。アブラナ科に属する植物を例示すると、アブラナ属植物(ハクサイ、カブ、チンゲンサイ、コマツナ、タカナ、ミズナ、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、メキャベツ、コールラビ、ケール等)、ダイコン属植物(ダイコン等)、オランダガラシ属植物(クレソン等)、シロガラシ属植物(シロガラシ等)、キバナスズシロ属植物(ルッコラ等)、セイヨウワサビ属植物(ホースラディッシュ等)、ワサビ属植物(ワサビ等)である。好ましくは、アブラナ属植物とダイコン属植物の属間雑種であり、さらに好ましくは、ケールとダイコンの属間雑種である。最も好ましくは、農林水産省品種登録出願番号第33291号(出願品種の名称:サンテヴェール48)である。
【0015】
<多芽体>
多芽体とは、複数の芽を有する植物組織である。多芽体を得る手段を例示すると、植物の茎の頂端にできる頂芽、植物の葉腋にできる腋芽(脇芽)、又はその他の場所にできる不定芽等を切り取って、培養することである。
【0016】
<不定芽>
不定芽とは、植物の茎の頂端や葉腋以外の場所に生じる芽である。本発明では、特に、多芽体が有する個々の芽を意味する。なぜなら、培養により得られる多芽体には、茎や葉腋がないからである。
【0017】
<本苗の生産方法>
図1が示すのは、本苗の生産方法(以下、「本生産方法」という。)の流れである。本生産方法を構成するのは、主に、生長点摘出(S10)、初代培養(S20)、継代培養(S30)、苗化(S40)である。ここで、本明細書が参照のために適宜取り込むのは、「野菜の組織・細胞培養と増殖」(最新バイオテクノロジー全書編集委員会編)の内容である。
【0018】
<生長点摘出(S10)>
生長点を含む組織から生長点を摘出する。生長点を摘出する目的は、多芽体の形成を簡易化することである。生長点は細胞分裂が活発な組織を含むため、容易に多芽体を形成させることができる。生長点は、茎頂分裂組織であることが好ましい。生長点を含む組織は特に限定されない。生長点を含む組織を例示すると、茎の頂端にできる頂芽、葉腋にできる腋芽(側芽ともいう。)、多芽体が有する不定芽等である。生長点を含む組織は、必要に応じて公知の方法で殺菌される。殺菌の具体的な方法を例示すると、エタノールや次亜塩素酸等の殺菌剤への浸漬である。殺菌剤の濃度や浸漬時間は、生長点を含む組織の殺菌が適切に行われるよう、適宜設定する。殺菌剤は、単体で使用してもよい。殺菌剤は、複数種類を組合せてもよい。生長点を含む組織を殺菌する場合は、殺菌後、滅菌水等で洗浄することが好ましい。生長点の摘出は、好ましくは、無菌条件下で行われる。摘出する組織の大きさは、生長点が含まれていればよい。摘出する組織の大きさは、好ましくは、0.1mmから1.0mmである。
【0019】
<初代培養(S20)>
摘出された生長点を、無菌条件下において、初代培地に置床して培養する。培養した生長点から多芽体を形成させる。初代培養の目的は、生長点から多芽体を得ることである。初代培地は、公知の植物培養用の培地であればよい。例示すると、MS培地、B5培地、ホワイト培地、LS培地等である。初代培地は、公知の植物培養用の培地組成そのままでよい。初代培地は、公知の植物培養用の培地を適宜希釈し、濃度を変化させてもよい。また、初代培地は、固形培地でも液体培地でもよい。好ましくは、以下のとおりである。初代培地は、少なくとも、糖類、固化材、植物ホルモンを含む。さらに好ましくは、以下のとおりである。糖類はショ糖であり、その濃度は10g/Lから100g/Lである。固化材は寒天であり、その濃度は5g/Lから15g/Lである。植物ホルモンは、サイトカイニン類及び/又はオーキシン類であり、サイトカイニン類の濃度は0.016mg/Lから12.000mg/Lであり、オーキシン類の濃度は2.000mg/L以下である。オーキシン類は、含まれていなくてもよい。培養条件は、多芽体が形成されればよい。好ましくは、温度は20℃から30℃、照度は2000ルクスから15000ルクス、日長は12時間から16時間である。多芽体が有する不定芽は、無菌条件下で切り出される。
【0020】
<継代培養(S30)>
切り出された不定芽を、無菌条件下において、継代培地に置床して培養する。培養した不定芽から多芽体を形成させる。継代培養の目的は、不定芽を増殖させることである。継代培地は、公知の植物培養用の培地であればよい。例示すると、MS培地、B5培地、ホワイト培地、LS培地等である。継代培地は、公知の植物培養用の培地組成そのままでよい。継代培地は、公知の植物培養用の培地を適宜希釈し、濃度を変化させてもよい。また、継代培地は、固形培地でも液体培地でもよい。継代培地は、サイトカイニン類を含む。
【0021】
ここで調整されるのは、継代培地でのサイトカイニン類の濃度である。その目的は、不定芽の水浸状化の抑制である。サイトカイニン類の濃度の調整範囲は、不定芽の水浸状化が抑制される範囲で行えばよい。好ましくは、0.016mg/Lから12.000mg/Lである。より好ましくは、0.016mg/Lから6.000mg/Lである。さらに好ましくは、0.016mg/Lから4.000mg/Lである。最も好ましくは、0.100mg/Lから2.500mg/Lである。
【0022】
さらにここで、第2の調整を行ってもよい。第2の調整で調整されるのは、置床する不定芽の大きさである。その目的は、不定芽の水浸状化の抑制である。不定芽の大きさの調整範囲は、不定芽の水浸状化が抑制される範囲で行えばよい。好ましくは、2.5cm以下である。さらに好ましくは、0.5cm以上2.5cm以下である。
【0023】
継代培地は、サイトカイニン類に加え、糖類、固化材、サイトカイニン類以外の植物ホルモンを含んでもよい。好ましくは、以下のとおりである。糖類はショ糖であり、その濃度は10g/Lから100g/Lである。固化材は寒天であり、その濃度は5g/Lから15g/Lである。サイトカイニン類以外の植物ホルモンは、オーキシン類であり、その濃度2.000mg/L以下である。オーキシン類は、含まれていなくてもよい。培養条件は、多芽体が形成されればよい。好ましくは、温度は20℃から30℃、照度は2000ルクスから15000ルクス、日長は12時間から16時間である。多芽体が有する不定芽は、無菌条件下で切り出される。必要な数の不定芽が得られるまで、継代培養の工程を繰り返してもよい。
【0024】
<水浸状化率>
水浸状化率とは、継代培地に置床した不定芽のうち、水浸状化し生育が止まったものの割合である。水浸状化(vitrification)とは、組織が半透明化する現象である(ガラス化とも言う)。水浸状化した組織は、通常組織にみられる組織が欠如している等の理由で、生育不良を引き起こすことが多い。一旦水浸状化した組織は、培養条件下において正常な状態に戻ることはほとんどない。植物の組織培養による増殖においては、この水浸状化を如何に抑制させるかが特に重要である。
【0025】
本願発明において水浸状化率は、30%未満であることが好ましい。水浸状化率が30%未満であれば、実用化が見込める。つまり、水浸状化が抑制されているとは、水浸状化率が30%未満であることを指す。
【0026】
<増殖効率>
増殖効率とは、継代培養で形成した多芽体が有する不定芽の数を、継代培地に置床した不定芽の数で除した値である。つまり、継代培養において、1つの不定芽が何倍に増殖したかを表している。増殖効率は、2倍以上であることが好ましい。増殖効率が2倍以上あれば、実用化が見込める。つまり、増殖効率が高いとは、増殖効率が2倍以上であることを指す。
【0027】
<苗化(S40)>
切り出された不定芽を苗へ生長させる。苗化の目的は、外部環境でも生育可能な状態まで生長させることである。苗化は1工程であってもよい。苗化は2工程以上であってもよい。好ましくは、以下のとおりである。
【0028】
まず、切り出された不定芽を、無菌条件下において、苗化培地で培養する。培養した不定芽をある程度の大きさまで生長させる。苗化培地は、公知の植物培養用の培地であればよい。例示すると、MS培地、B5培地、ホワイト培地、LS培地等である。苗化培地は、公知の植物培養用の培地組成そのままでよい。苗化培地は、公知の植物培養用の培地を適宜希釈し、濃度を変化させてもよい。また、苗化培地は、固形培地でも液体培地でもよい。好ましくは、以下のとおりである。苗化培地は、少なくとも、糖類、固化材、植物ホルモンを含む。さらに好ましくは、以下のとおりである。糖類はショ糖であり、その濃度は10g/Lから100g/Lである。固化材は寒天であり、その濃度は5g/Lから15g/Lである。植物ホルモンは、オーキシン類であり、その濃度は2.000mg/L以下である。オーキシン類は、含まれていなくてもよい。培養条件は、不定芽が生長すればよい。好ましくは、温度は20℃から30℃、照度は2000ルクスから15000ルクス、日長は12時間から16時間である。また、苗化培地で不定芽を発根させてもよい。
【0029】
次に、不定芽を苗化培地から抜き取る。抜き取った不定芽は、栽培用土を充填した栽培容器に移植して、生長させる。栽培用土は、有機質であっても無機質であってもよい。例えば、赤玉土、黒ぼく土、焼成赤玉土、バーミキュライト、ゼオライト、モンモリロナイト等である。これら栽培用土は、単独で用いてもよい。複数を混合して用いてもよい。生長させる手段は公知の方法でよい。例えば、温度、湿度、照度等を適宜調整し、必要に応じて肥料を与える。不定芽は、外部環境でも生育可能な状態まで生長させる。
【0030】
<無機成分>
無機成分は、植物の生長に必要な成分である。無機成分は、培地に配合される。例えば、窒素、リン、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、ホウ素、マンガン、亜鉛、ヨウ素、モリブデン、銅、コバルト、鉄、塩素、硫黄等が挙げられる。各無機成分を混合させて用いてもよい。市販の混合塩類を用いてもよい。
【0031】
<糖類>
糖類は、植物の生長に必要な成分である。糖類は、培地に配合される。例えば、スクロース、グルコース、フルクトース、マルトース、トレハロース、ラクトース、ガラクトース、キシロース、マンニトール、ソルビトール、キシリトース、エリスリトール等が挙げられる。好ましくは、スクロース、グルコース、フルクトース、マルトースであり、さらに好ましくは、スクロースである。糖類は、単一のものを用いてもよい。糖類は、複数を組み合わせてもよい。また、これらの糖類を含む果汁や野菜汁、エキス類を用いてもよい。
【0032】
<固化材>
固化材は、培地を固化させるために、培地に配合される。例えば、寒天、ジェランガム、ゲルライト等が挙げられる。好ましくは、寒天である。固化材は、単一のものを用いてもよい。複数を組み合わせてもよい。固化材は、必ずしも配合する必要はない。
【0033】
<植物ホルモン>
植物ホルモンとは、植物の成長調節機能を持った天然成分又は合成物を意味する。例えば、サイトカイニン類や、オーキシン類等が挙げられる。サイトカイニン類としては、ベンジルアミノプリン(ベンジルアデニン)、カイネチン、ゼアチン、イソペンテニルアミノプリン、チジアズロン、イソペンテニルアデニン、ゼアチンリボシド、ジヒドロゼアチン等が挙げられる。好ましくは、ベンジルアミノプリン、カイネチン、ゼアチンであり、さらに好ましくは、ベンジルアミノプリン、カイネチンである。オーキシン類としては、インドール-3-酢酸、インドール-3-酪酸、1-ナフタレン酢酸、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、インドールプロピオン酸、クロロフェノキシ酢酸、ナフトキシ酢酸、フェニル酢酸、2,4,5‐トリクロロフェノキシ酢酸、パラクロロフェノキシ酢酸、2‐メチル‐4‐クロロフェノキシ酢酸、4‐フルオロフェノキシ酢酸、2‐メトキシ‐3,6‐ジクロロ安息香酸、2‐フェニル酸、ピクロラム、ピコリン酸等が挙げられる。好ましくは、インドール-3-酢酸、インドール-3-酪酸、1-ナフタレン酢酸、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸であり、さらに好ましくは、1‐ナフタレン酢酸である。
【0034】
<pH>
本生産方法で用いられる培地のpHは、植物が生育することが可能なpHである。好ましくは、4.0乃至10.0である。さらに好ましくは、5.0乃至7.0である。
【実施例
【0035】
<不定芽の大きさと水浸状化率の関係>
<生長点摘出>
ケールを花粉親、ダイコンを柱頭親とした属間雑種(日本国品種登録出願番号第33291号、出願品種の名称:サンテヴェール48)の植物体から、頂芽を採取した。頂芽を殺菌するために、採取した頂芽を70%エタノールに5秒間浸漬した。次いで、0.2%次亜塩素酸ナトリウム溶液に5分間浸漬した。クリーンベンチ内で、殺菌した頂芽の先端(生長点)約0.5mmを摘出した。
【0036】
<初代培養>
摘出された生長点を初代培地に置床した。初代培地に置床した生長点を無菌条件下で培養した。初代培地の組成は、スクロースを60g/L、寒天を8g/L、ベンジルアミノプリンを1.000mg/L、ナフタレン酢酸を0.020mg/L含むpH5.8のMS培地とした。培養条件は、温度25℃、照度12500ルクス、日長 16時間とした。生長点を1か月間培養して、多芽体を形成させた。当該多芽体から、無菌条件下で1本ずつ不定芽を切り出した。
【0037】
<継代培養>
切出された不定芽のうち、不定芽の大きさが2.5cm以下のものと2.6cm以上のものとに分け、それぞれを継代培地に置床した。継代培地に置床した不定芽を無菌条件下で培養した。継代培地の組成は、スクロースを20g/L、寒天を12g/L、ナフタレン酢酸を0.050mg/L含むpH5.8のMS培地とした。継代培地のサイトカイニン類の濃度は、0.500mg/Lとした。培養条件は、温度25℃、照度12500ルクス、日長16時間とした。不定芽を3週間培養して、多芽体を形成させた。
【0038】
<不定芽の大きさと水浸状化率>
不定芽の大きさと水浸状化率の関係を表1に示す。表1からわかることは、継代培地に置床する不定芽の大きさによって、水浸状化率が変わることである。つまり、大きい不定芽は水浸状化率が高く、小さい不定芽は水浸状化率が低い。すなわち、継代培地に置床する不定芽の大きさを調製することで、不定芽の水浸状化を抑制することが可能である。
【0039】
【表1】
【0040】
<サイトカイニン類の濃度と水浸状化率の関係>
<初代培養>
前述と同様の方法で行った。
【0041】
<継代培養>
切り出された不定芽のうち、不定芽の大きさが2.5cm以下のものを、継代培地に置床した。継代培地に置床した不定芽を無菌条件下で培養した。継代培地の組成は、スクロースを20g/L、寒天を12g/L、ナフタレン酢酸を0.050mg/L含むpH5.8のMS培地とした。区分1から区分9におけるサイトカイニン類の濃度は、表2に示す濃度とした。培養条件は、温度25℃、照度12500ルクス、日長16時間とした。不定芽を3週間培養して、多芽体を形成させた。当該多芽体から、無菌条件下で1本ずつ不定芽を切り出した。
【0042】
【表2】
【0043】
<水浸状化率と増殖効率>
サイトカイニン類の濃度ごとの水浸状化率及び増殖効率を表2に示す。表2からわかることは、サイトカイニン類の濃度が12.000mg/L以下であれば、水浸状化率は低い。逆に、サイトカイニン類の濃度が12.000mg/Lを超えると、水浸状化率は急激に高くなり、その結果、増殖効率が低くなる。また、サイトカイニン類の濃度が0.016mg/L以上であれば、増殖効率は高い。他方、サイトカイニン類の濃度が0.002mg/L以下だと、水浸状化率は低いものの、継代培養で形成した多芽体が有する不定芽の数自体が少なくなるため、結果として増殖効率は低くなる。
【0044】
以上から、継代培養において、サイトカイニン類の濃度を0.016mg/L以上12m.000g/L以下とすることで、不定芽の増殖効率を高くすることが可能となり、効率的な苗の生産に繋がる。
【0045】
<継代培養の反復>
区分3から区分5で継代培養した不定芽に対して、継代培養をさらに2回(合計3回)反復して行った。各区分の培養条件は、1回目の継代培養と同じ条件とした。継代培養の反復を実施した区分における水浸状化率と増殖効率を表3に示す。表3からわかることは、継代培養を反復しても、水浸状化の抑制が可能である。
【0046】
<カイネチン>
区分10から区分12は、サイトカイニン類としてカイネチンを用いた。区分10から区分12について、継代培養を3回反復した場合の水浸状化率及び増殖効率を確認した。各区分のカイネチン濃度を表3に示す。初代培養は、前述と同様の方法で行った。継代培養は、サイトカイニン類の種類及び濃度の条件を除き、区分1から9と同じ条件で行った。区分10から区分12における水浸状化率と増殖効率を表3に示す。表3からわかることは、サイトカイニン類の種類に限らず、水浸状化の抑制が可能である。
【0047】
【表3】
【0048】
<苗化>
一部の不定芽を、苗化培地に置床した。苗化培地に置床した不定芽を無菌条件下で培養した。苗化培地の組成は、スクロースを30g/L、寒天を10g/L、ナフタレン酢酸を0.500mg/L含むpH5.8のMS培地とした。培養条件は、温度25℃、照度12500ルクス、日長16時間とした。不定芽を2週間培養して、発根させた。発根した不定芽を、バーミキュライトを充填したセルトレイへ移植した。不定芽が移植されたセルトレイに希釈したハイポネックスを適宜施肥しながら温室内で苗化させた。1か月間苗化させることで、定植可能な苗を生産することができた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明が有用な分野は、種苗の生産である。
図1