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特許7463056蓄電システム及び蓄電デバイスの制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】蓄電システム及び蓄電デバイスの制御方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/14 20130101AFI20240401BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20240401BHJP
   H01G 11/42 20130101ALI20240401BHJP
   H01G 11/50 20130101ALI20240401BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
H01G11/14
H01G11/06
H01G11/42
H01G11/50
H02J7/00 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018246614
(22)【出願日】2018-12-28
(65)【公開番号】P2020107774
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-07-26
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荻原 信宏
(72)【発明者】
【氏名】蛭田 修
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 正樹
(72)【発明者】
【氏名】上野 幸義
【合議体】
【審判長】篠原 功一
【審判官】山田 正文
【審判官】畑中 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-187487(JP,A)
【文献】特開2017-22186(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G11/00-11/86
H01M4/00-4/62
H01M10/05-10/0587
H01M10/36-10/39
H02J7/00-7/12
H02J7/34-7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンを吸着脱離することにより電気二重層容量としてのエネルギーを貯蔵放出する正極活物質を有する正極と、イオンを吸蔵放出する負極活物質を有する負極と、前記正極と前記負極との間に介在しイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えた蓄電デバイスと、
前記蓄電デバイスの充放電曲線から導出される電気容量変化量(△Ah)に対する電圧変化量(△V)である微分容量dQ/dV(F)において、充電曲線での微分容量dQ/dVの極小値及び放電曲線での微分容量dQ/dVの極大値のうちいずれかを下限電圧とする電圧範囲で前記蓄電デバイスを充放電する制御部と、を備え
前記負極は、芳香族環構造を有する芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と前記有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを含み、前記芳香族ジカルボン酸アニオンとしてのビフェニルジカルボン酸アニオン及びナフタレンジカルボン酸アニオンのうちいずれかを含む層状構造体を負極活物質として有し、
前記制御部は、前記負極が前記ビフェニルジカルボン酸アニオンを含むときには前記蓄電デバイスの下限電圧を2.3V以上の範囲として充放電し、前記負極が前記ナフタレンジカルボン酸アニオンを含むときには前記蓄電デバイスの下限電圧を2.2V以上の範囲として充放電する、
蓄電システム。
【請求項2】
前記蓄電デバイスは、リチウム、ナトリウム及びカリウムのうち1以上の前記アルカリ金属元素を含む前記層状構造体を前記負極活物質として有する、請求項に記載の蓄電システム。
【請求項3】
前記蓄電デバイスは、比表面積が1000m2/g以上の活性炭を前記正極活物質として有する、請求項1又は2に記載の蓄電システム。
【請求項4】
イオンを吸着脱離することにより電気二重層容量としてのエネルギーを貯蔵放出する正極活物質を有する正極と、イオンを吸蔵放出する負極活物質を有する負極と、前記正極と前記負極との間に介在しイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えた蓄電デバイスを用い、前記蓄電デバイスの充放電曲線から導出される電気容量変化量(△Ah)に対する電圧変化量(△V)である微分容量dQ/dV(F)において、充電曲線での微分容量dQ/dVの極小値及び放電曲線での微分容量dQ/dVの極大値のうちいずれかを下限電圧とする電圧範囲で前記蓄電デバイスを充放電するステップ、をみ、
前記負極は、芳香族環構造を有する芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と前記有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを含み、前記芳香族ジカルボン酸アニオンとしてのビフェニルジカルボン酸アニオン及びナフタレンジカルボン酸アニオンのうちいずれかを含む層状構造体を負極活物質として有し、
前記ステップでは、前記負極が前記ビフェニルジカルボン酸アニオンを含むときには前記蓄電デバイスの下限電圧を2.3V以上の範囲として充放電し、前記負極が前記ナフタレンジカルボン酸アニオンを含むときには前記蓄電デバイスの下限電圧を2.2V以上の範囲として充放電する、
蓄電デバイスの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、蓄電システム及び蓄電デバイスの制御方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池などの蓄電デバイスとしては、2以上の芳香族環構造を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含む有機骨格層と、カルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層と、を有する層状構造体を負極活物質に用いたものが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。この蓄電デバイスでは、セルの上限電圧を3.8Vとし、セルの下限電圧を1.5Vとして充放電を行っている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】J.Mater.Chem.A,2016,4,3398-3405
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の非特許文献1の蓄電デバイスでは、リチウムイオンキャパシタとして充放電することができるが、例えば、充放電サイクル特性など、その電池特性をより高めることが求められていた。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、充放電サイクル特性をより向上することができる蓄電システム及び蓄電デバイスの制御方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、正極にイオンを吸着脱離する活物質を有し、負極にイオンを吸蔵放出する蓄電デバイスにおいて、
蓄電デバイスの充放電曲線から導出される微分容量dQ/dV(F)の値に基づいて、充放電の下限電圧を設定すると、充放電サイクル特性をより向上することができることを見いだし、本明細書で開示する発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本明細書で開示する蓄電システムは、
イオンを吸着脱離することにより電気二重層容量としてのエネルギーを貯蔵放出する正極活物質を有する正極と、イオンを吸蔵放出する負極活物質を有する負極と、前記正極と前記負極との間に介在しイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えた蓄電デバイスと、
前記蓄電デバイスの充放電曲線から導出される電気容量変化量(△Ah)に対する電圧変化量(△V)である微分容量dQ/dV(F)において、充電曲線での微分容量dQ/dVの極小値及び放電曲線での微分容量dQ/dVの極大値のうち1以上を下限電圧とする電圧範囲で前記蓄電デバイスを充放電する制御部と、
を備えたものである。
【0008】
本明細書で開示する蓄電デバイスの制御方法は、
イオンを吸着脱離することにより電気二重層容量としてのエネルギーを貯蔵放出する正極活物質を有する正極と、イオンを吸蔵放出する負極活物質を有する負極と、前記正極と前記負極との間に介在しイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えた蓄電デバイスを用い、前記蓄電デバイスの充放電曲線から導出される電気容量変化量(△Ah)に対する電圧変化量(△V)である微分容量dQ/dV(F)において、充電曲線での微分容量dQ/dVの極小値及び放電曲線での微分容量dQ/dVの極大値のうち1以上を下限電圧とする電圧範囲で前記蓄電デバイスを充放電するステップ、
を含むものである。
【発明の効果】
【0009】
本明細書で開示する蓄電システム及び蓄電デバイスの制御方法では、蓄電デバイスの充放電サイクル特性をより向上することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推測される。例えば、正極活物質の充放電反応において、充電曲線での微分容量dQ/dVの極小値や放電曲線での微分容量dQ/dVの極大値を境にして、低電位側はイオン半径の大きい溶媒和のカチオンの吸着反応を利用する一方、高電位側はアニオンの吸着反応を利用するものと推察される。この蓄電システムでは、微分容量dQ/dVにより定められた下限電圧の電圧範囲で蓄電デバイスを充放電させることにより、正極活物質の充放電反応において、アニオンのみの吸着反応を利用することで、正極活物質の劣化を抑制可能であり、充放電サイクルの容量劣化を防ぎ、容量維持率が向上するものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】層状構造体の構造の一例を示す説明図。
図2】蓄電システム10の一例を示す模式図。
図3】評価セルの充放電カーブ及び微分容量dQ/dV曲線。
図4】実験例1~4の1~1000サイクルの充放電曲線。
図5】実験例1~4のサイクル数に対する容量維持率の関係図。
図6】実験例1~4の容量維持率。
図7】各実験例のセル容量(mAh)及びセルエネルギー(mWh)の説明図。
図8】実験例1、5の層状構造体のX線回折測定結果。
図9】実験例5の微分容量dQ/dV曲線。
図10】実験例6の層状構造体のX線回折測定結果。
図11】実験例6の微分容量dQ/dV曲線。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(蓄電システム)
本明細書で開示する蓄電システムは、蓄電デバイスと、制御部とを備えている。蓄電デバイスは、正極と、負極と、イオン伝導媒体と、を備えたイオンキャパシタとしてもよい。この蓄電デバイスにおいて、正極は、イオンを吸着脱離することにより電気二重層容量としてのエネルギーを貯蔵放出する正極活物質を有する。負極は、イオンを吸蔵放出する負極活物質を有する。イオン伝導媒体は、正極と負極との間に介在し、イオンを伝導する。制御部は、所定の電圧範囲で蓄電デバイスを充放電する。この蓄電デバイスのキャリアは、例えばアルカリ金属イオンや第2族元素イオンなどが含まれる。アルカリ金属イオンとしては、例えば、Liイオン、Naイオン及びKイオンなどが挙げられる。第2族元素イオンとしては、例えば、Mgイオン、Caイオン、Srイオン及びBaイオンなどが挙げられる。ここでは、説明の便宜のため、キャリアをLiイオンとするリチウムイオンキャパシタを主として説明する。
【0012】
負極は、キャリアであるイオンを吸蔵放出する負極活物質を有してる。この負極は、負極活物質と集電体とを密着させて形成したものとしてもよいし、例えば負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。負極活物質としては、例えば、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、複数の元素を含む複合酸化物、芳香族環構造を有する層状構造体、導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素質材料は、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が、金属リチウムに近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電が可能であり、好ましい。また、複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物やリチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。この負極において、負極活物質は、できるだけ多く含まれることが好ましく、例えば、負極合材中に60質量%以上95質量%以下の範囲で含まれるものとしてもよい。
【0013】
この負極活物質は、有機骨格層とアルカリ金属元素層とを備える層状構造体であるものとしてもよい。この層状構造体は、1又は2以上の芳香族環構造が接続した有機骨格層を有するものとしてもよい。図1は、層状構造体の構造の一例を示す説明図である。この層状構造体は、芳香族化合物のπ電子相互作用により層状に形成され、空間群P21/cに帰属される単斜晶型の結晶構造を有するものとすることが、構造的に安定であり、好ましい。この層状構造体は、式(1)~(3)のうち1以上で表される構造を有するものとしてもよい。但し、この式(1)~(3)において、aは1以上5以下の整数であり、bは0以上3以下の整数であり、これらの芳香族化合物は、この構造中に置換基、ヘテロ原子を有してもよい。具体的には、芳香族化合物の水素の代わりに、ハロゲン、鎖状又は環状のアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、スルホニル基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、アシル基、アミド基、水酸基を置換基として持っていてもよいし、芳香族化合物の炭素の代わりに、窒素、硫黄、酸素が導入された構造であってもよい。より具体的には、この層状構造体は、式(4)~(6)に示す芳香族化合物としてもよい。なお、式(1)~(6)において、Aはアルカリ金属である。また、層状構造体は、異なるジカルボン酸アニオンの酸素4つとアルカリ金属元素とが4配位を形成する次式(7)の構造を備えているものとすることが、構造的に安定であり、好ましい。但し、この式(7)において、Rは1又は2以上の芳香族環構造を有し、複数あるRのうち2以上が同じであってもよいし、1以上が異なっていてもよい。また、Aはアルカリ金属である。このように、アルカリ金属元素によって有機骨格層が結合した構造を有することが好ましい。
【0014】
【化1】
【0015】
【化2】
【0016】
【化3】
【0017】
この層状構造体において、有機骨格層は、2以上の芳香族環構造を有する場合、例えば、ビフェニルなど2以上の芳香環が結合した芳香族多環化合物としてもよいし、ナフタレンやアントラセン、ピレンなど2以上の芳香環が縮合した縮合多環化合物としてもよい。この芳香環は、五員環や六員環、八員環としてもよく、六員環が好ましい。また、芳香環は、2以上5以下とするのが好ましい。芳香環が2以上では層状構造を形成しやすく、芳香環が5以下ではエネルギー密度をより高めることができる。この有機骨格層は、芳香環に1又は2以上のカルボキシアニオンが結合した構造を有するものとしてもよい。有機骨格層は、ジカルボン酸アニオンのうちカルボン酸アニオンの一方と他方とが芳香族環構造の対角位置に結合されている芳香族化合物を含むものとするのが好ましい。カルボン酸が結合されている対角位置とは、一方のカルボン酸の結合位置から他方のカルボン酸の結合位置までが最も遠い位置としてもよく、例えば芳香族環構造がナフタレンであれば2,6位が挙げられる。
【0018】
アルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属は、例えば、Li,Na及びKなどのうちいずれか1以上とすることができるが、Liが好ましい。なお、蓄電デバイスのキャリアであり、充放電により層状構造体に吸蔵・放出される金属イオンは、アルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属元素と異なるものとしてもよいし、同じものとしてもよく、例えば、Li,Na及びKなどのうちいずれか1以上とすることができる。また、アルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属元素は、層状構造体の骨格を形成することから、充放電に伴うイオン移動には関与しないもの、すなわち、充放電時に吸蔵放出されないものと推察される。エネルギー貯蔵メカニズムにおいては、層状構造体の有機骨格層はレドックス(e-)サイトとして機能する一方、アルカリ金属元素層はキャリアである金属イオンの吸蔵サイト(アルカリ金属イオン吸蔵サイト)として機能するものと考えられる。この層状構造体は、例えば、2、6-ナフタレンジカルボン酸アルカリ金属塩、4、4’-ビフェニルジカルボン酸アルカリ金属塩及びテレフタル酸アルカリ金属塩のうち1以上が好ましい。
【0019】
負極に含まれる導電材は、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエン共重合体(SBR)の水分散体等を用いることもできる。この負極合材は、カルボキシメチルセルロース及びポリビニルアルコールのうち少なくとも一方である水溶性ポリマーを2質量%以上8質量%以下の範囲で含むことが好ましい。また、負極合材は、導電材を、5質量%以上15質量%以下の範囲で含むことが好ましい。更に、負極合材は、スチレンブタジエン共重合体を、8質量%以下の範囲で含むことが好ましい。このような範囲で水溶性ポリマーや導電材、SBRなどを含むものとすると、充放電特性をより向上することができ好ましい。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどを用いることができる。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。
【0020】
蓄電デバイスにおいて、正極は、電気二重層容量を発現するものであれば特に限定されず、電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタなどに用いられている公知の正極を用いてもよい。正極は、例えば、炭素材料を含むものとしてもよい。炭素材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、活性炭類、コークス類、ガラス状炭素類、黒鉛類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維類、カーボンナノチューブ類、ポリアセン類などが挙げられる。このうち、高比表面積を示す活性炭類が好ましい。炭素材料としての活性炭は、比表面積が1000m2/g以上であることが好ましく、1500m2/g以上であることがより好ましい。比表面積が1000m2/g以上では、放電容量をより高めることができる。この活性炭の比表面積は、作製の容易性から3000m2/g以下であることが好ましく、2000m2/g以下であることがより好ましい。なお、正極では、イオン伝導媒体に含まれるアニオン及びカチオンの少なくとも一方を吸着、脱離して蓄電するものと考えられるが、さらに、イオン伝導媒体に含まれるアニオン及びカチオンの少なくとも一方を挿入、脱離して蓄電するものとしてもよい。
【0021】
正極は、例えば上述した正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極に用いる導電材、結着材、溶剤、集電体は、例えば、負極で例示したものなどを適宜用いることができる。
【0022】
この蓄電デバイスにおいて、イオン伝導媒体は、例えば、支持塩(支持電解質)と有機溶媒とを含む非水系電解液としてもよい。支持塩としては、例えば、キャリアをリチウムイオンとした場合、公知のリチウム塩を含むものとしてもよい。このリチウム塩としては、例えば、LiPF6,LiBF4、LiClO4,LiAsF6,Li(CF3SO22N,LiN(C25SO22などが挙げられ、このうちLiPF6やLiBF4などが好ましい。この支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩を溶解する濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。有機溶媒としては、例えば、非プロトン性の有機溶媒を用いることができる。このような有機溶媒としては、例えば環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル、環状エーテル、鎖状エーテル等が挙げられる。環状カーボネートとしては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等がある。鎖状カーボネートとしては、例えばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等がある。環状エステルとしては、例えばガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトン等がある。環状エーテルとしては、例えばテトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等がある。鎖状エーテルとしては、例えばジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル等がある。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。また、非水系電解液としては、そのほかにアセトニトリル、プロピルニトリルなどのニトリル系溶媒やイオン液体、ゲル電解質、固体電解質などを用いてもよい。
【0023】
この蓄電デバイスは、正極と負極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、蓄電デバイスの使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の微多孔フィルムが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複合して用いてもよい。
【0024】
この蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
【0025】
制御部は、蓄電デバイスの上限電圧及び下限電圧を特定の範囲に制御して充放電させるものである。この制御部は、蓄電デバイスの充放電曲線から導出される電気容量変化量(△Ah)に対する電圧変化量(△V)である微分容量dQ/dV(F)において、充電曲線での微分容量dQ/dVの極小値及び放電曲線での微分容量dQ/dVの極大値のうち1以上を下限電圧とする電圧範囲で蓄電デバイスを充放電する。微分容量dQ/dVを求める充放電曲線は、より低レートで求めることが好ましく、例えば、1Cレート以下が好ましい。低レートで得られた充放電曲線では、充電曲線での微分容量の極小値と放電曲線での微分容量の極大値とが同じ値となる。充電曲線での微分容量の極小値及び放電曲線での微分容量の極大値は、正極活物質の充放電反応において、イオン半径の大きい溶媒和のカチオンの吸着反応を利用するか、アニオンの吸着反応を利用するかの閾値であるものと推察される。この閾値より高電圧側で充放電を行うと、容量維持率をより向上することができる。
【0026】
具体的には、制御部は、層状構造体の負極活物質を有する蓄電デバイスでは、2.2Vを下限電圧として充放電するものとしてもよい。また、制御部は、ビフェニルジカルボン酸アニオンを含む層状構造体の負極活物質を有する蓄電デバイスでは、蓄電デバイスの充放電の電圧範囲の下限電圧を2.3V以上の範囲として充放電するものとしてもよい。また、制御部は、ナフタレンジカルボン酸アニオンを含む層状構造体の負極活物質を有する蓄電デバイスでは、蓄電デバイスの充放電の電圧範囲の下限電圧を2.2V以上の範囲として充放電するものとしてもよい。Li金属に対する上記層状構造体の電位は0.7V~0.8V程度であることから、下限電圧はこの範囲とすることができる。この下限電圧は、より低いほどセルエネルギーをより高めることができ、好ましい。
【0027】
また、制御部は、蓄電デバイスの充放電の電圧範囲の上限電圧を3.1V以上3.4V以下の範囲とするものとしてもよい。この範囲では、蓄電デバイスの内部抵抗の低下や出力特性の向上を図ることができる。この上限電圧は、より高いほどセルエネルギーをより高めることができ、好ましい。
【0028】
この蓄電システムは、例えば、設置型の電源としてもよいし、移動する移動用電源としてもよい。また、蓄電デバイスを装着、取り外し可能としてもよいし、固定としてもよい。設置型の電源としては、例えば、発電施設用電源や家庭用電源などが挙げられる。移動用電源としては、航空機用電源、列車用電源、自動車用電源などが挙げられる。図2は、蓄電システム10の一例を示す模式図である。この蓄電システム10は、蓄電デバイス20と、制御部12とを備えている。蓄電デバイス20は、正極23と、負極26と、セパレータ27と、イオン伝導媒体28とを備えている。正極23は、正極集電体21と、正極集電体21上に形成された正極活物質を有する正極合材層22とを有している。負極26は、負極集電体24と、負極集電体24上に形成された負極活物質を有する負極合材層25とを有している。イオン伝導媒体28は、正極23と負極26との間に介在しアルカリ金属イオンを伝導するものであり、例えば非水系電解液としてもよい。正極23は、電気二重層容量を奏する正極活物質を有する。負極26は、芳香族ジカルボン酸金属塩の層状構造体を負極活物質として有する。制御部12は、蓄電デバイスの充放電曲線から導出される電気容量変化量(△Ah)に対する電圧変化量(△V)である微分容量dQ/dV(F)において、充電曲線での微分容量dQ/dVの極小値及び放電曲線での微分容量dQ/dVの極大値のうち1以上を下限電圧とする電圧範囲で蓄電デバイスを充放電する。
【0029】
以上詳述した蓄電システムでは、イオンを吸着脱離することにより電気二重層容量としてのエネルギーを貯蔵放出する正極活物質を有する正極と、イオンを吸蔵放出する負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に介在しイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えた蓄電デバイスの充放電サイクル特性をより向上することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推測される。例えば、イオンを吸着脱離する正極活物質の充放電反応において、充電曲線での微分容量dQ/dVの極小値や放電曲線での微分容量dQ/dVの極大値を境にして、低電位側はイオン半径の大きい溶媒和のカチオンの吸着反応を利用する一方、高電位側はアニオンの吸着反応を利用するものと推察される。この蓄電システムでは、微分容量dQ/dVにより定められた下限電圧の電圧範囲で蓄電デバイスを充放電させることにより、正極活物質の充放電反応において、アニオンのみの吸着反応を利用することで、正極活物質の劣化を抑制可能であり、充放電サイクルの容量劣化を防ぎ、容量維持率が向上する。
【0030】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0031】
例えば、上述した実施形態では、蓄電システムとして説明したが、特にこれに限定されず、蓄電デバイスの制御方法としてもよい。この制御方法は、上述した蓄電デバイスを用い、蓄電デバイスの充放電曲線から導出される電気容量変化量(△Ah)に対する電圧変化量(△V)である微分容量dQ/dV(F)において、充電曲線での微分容量dQ/dVの極小値及び放電曲線での微分容量dQ/dVの極大値のうち1以上を下限電圧とする電圧範囲で蓄電デバイスを充放電するステップ、を含むものとすればよい。また、このステップにおいて、蓄電デバイスの上限電圧を3.1V以上3.4V以下の範囲として蓄電デバイスを充放電してもよいし、蓄電デバイスの下限電圧を2.2V以上や2.3V以上の範囲として充放電するものとしてもよい。この蓄電デバイスの制御方法においても、上述した蓄電システムと同様の効果を得ることができる。
【実施例
【0032】
以下には、蓄電システムを具体的に実施した例を実験例として説明する。なお、実験例4が比較例に相当し、実験例1~3、5~6が実施例に相当する。
【0033】
(電極活物質:4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウムの層状構造体の合成)
4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウムの合成には、出発原料として4,4’-ビフェニルジカルボン酸および水酸化リチウム1水和物(LiOH・H2O)を用いた。0.44mol/Lとなるように水に水酸化リチウムを加え撹拌し、水溶液を調製した。そして、4,4’-ビフェニルジカルボン酸のモル数A(mol)に対する水酸化リチウムのモル数B(mol)であるモル比B/Aが2.2となるように、すなわち、4,4’-ビフェニルジカルボン酸が0.20mol/Lとなるように水溶液を調整した。調製した水溶液を用いてスプレードライヤー(Mini Spray Dryer B-290、日本ビュッヒ製)を用いて噴霧乾燥させ、4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウムを析出させた。用いたスプレードライヤーのノズル直径は1.4mm、溶液の噴霧量は0.4L/時間、乾燥温度は150℃で行い、4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウムを合成した。
【0034】
(負極:4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウム電極の作製)
上記手法で作製した4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウムを79質量%、粒子状炭素導電材としてカーボンブラック(東海カーボン、TB5500)を14質量%、水溶性ポリマーであるカルボキシメチルセルロース(ダイセル,CMC1120)を2.8質量%、スチレンブタジエン共重合体(JSR、TRD102A)を4.2質量%を混合し、分散剤として水を適量添加、分散してスラリー状合材とした。このスラリー状合材を10μm厚の銅箔集電体に単位面積当たりの4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウム活物質が2.5mg/cm2となるように均一に塗布し、120℃で真空加熱乾燥させて塗布シートを作製した。その後、塗布シートを加圧プレス処理し、10cm2(2.5cm×4.0cm)のシート状の電極を準備した。
【0035】
(蓄電デバイス:評価セルの作製)
正極は以下のように作製した。正極活物質である活性炭(BET比表面積2000~2500m2/g)を83質量%、カーボンブラックを10.7質量%、カルボキシメチルセルロースを4質量%、スチレンブタジエン共重合体を2.3質量%を混合し、分散剤として水を適量添加、分散してスラリー状合材とした。このスラリー状合材を20μm厚のAl箔集電体に単位面積当たりの活物質が4mg/cm2となるように均一に塗布し、120℃で真空加熱乾燥させて塗布シートを作製した。その後、塗布シートを加圧プレス処理し、10cm2(2.5cm×4.0cm)のシート状の電極を準備した。エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比で30:40:30の割合で混合した非水溶媒に、支持電解質の六フッ化リン酸リチウムを1.1mol/Lになるように添加して非水電解液を作製した。上記の手法にて作製した負極は、事前にLi金属を対極としてセルを組み、SOC=75%となるようにプレドープを行ったのち、このセルから取りだしたものを用いた。この負極と上記作製した正極とをセパレータ(セルガード製2500,ポリプロピレン)を介して対向させ、非水電解液を充填して蓄電デバイス(リチウムイオンキャパシタ)とした。
【0036】
(蓄電デバイスの評価:実験例1~4)
作製した蓄電デバイスを用いて以下の評価を行った。電極面積は10cm2とし、定電流充放電試験を行った。下限電圧を2.3Vとし上限電圧を3.1Vとして評価したものを実験例1とした。また、下限電圧を2.3Vとし上限電圧を3.4Vとして評価したものを実験例2とした。また、下限電圧を2.3Vとし上限電圧を3.8Vとして評価したものを実験例3とした。また、下限電圧を1.5Vとし上限電圧を3.1Vとして評価したものを実験例4とした。充放電サイクル試験では、上記電圧範囲にて、測定温度を20℃とし、電流値を10mAとする高レート(10C)で1000サイクル行い、この充放電操作の1回目の放電容量をQi、1000回目の放電容量をQcとし、Qc/Qi×100を充放電サイクル後の容量維持率(%)として評価した。また、充放電サイクル試験の前後に電流値を1.5mAとする低レート(1C)で充放電を1サイクル行い、サイクル前の放電容量(mAh)とサイクル後の放電容量(mAh)とから低レートで確認したセル容量維持率(%)を求めた。同様に、サイクル前の放電容量(mAh)とサイクル後の放電容量(mAh)と電圧(mV)とからセルエネルギー(mWh)を求め、低レートで確認したセルエネルギー維持率(%)を求めた。
【0037】
[実験例5]
(電極活物質:4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウムの層状構造体の合成)
実験例1とは異なる製造方法により4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウムを合成した。実験例5では、出発原料として4,4’-ビフェニルジカルボン酸および水酸化リチウム1水和物(LiOH・H2O)を用いた。まず、水酸化リチウム1水和物にメタノールを加え、撹拌した。水酸化リチウム1水和物を溶解したのち、4,4’-ビフェニルジカルボン酸を加え1時間撹拌した。撹拌後溶媒を除去し、真空下150℃で16時間乾燥することにより白色の粉末試料を得た。得られた粉末をX線回折測定にて評価したところ、実験例1と同じ2θ(°)の位置に回折ピークが得られた。得られた粉体を用いて、実験例1と同様に蓄電デバイスを作製し、下限電圧を1.8V、上限電圧を3.0Vとして充放電を行った。
【0038】
[実験例6]
(2,6-ナフタレンジカルボン酸ジリチウムの合成)
層状構造体としての2,6-ナフタレンジカルボン酸リチウムを合成した。この合成では、出発原料として2,6-ナフタレンジカルボン酸および水酸化リチウム1水和物(LiOH・H2O)を用いた。まず、水酸化リチウム1水和物(0.556g)にメタノール(100mL)を加え撹拌した。水酸化リチウム1水和物がとけた後に2,6-ナフタレンジカルボン酸(1.0g)を加え1時間撹拌した。撹拌後溶媒を除去し、真空下150℃で16時間乾燥することにより白色の粉末試料の2,6-ナフタレンジカルボン酸リチウムを合成した。得られた粉体を用いて、実験例1と同様に蓄電デバイスを作製し、下限電圧を1.5V、上限電圧を3.0Vとして充放電を行った。
【0039】
(X線回折測定)
実験例1、5、6の層状構造体のX線回折測定を、X線回折装置(リガク製RINT2200)を用いて行った。測定条件は、放射線としてCuKα線を用い、グラファイトの単結晶モノクロメーターによりX線の単色化を用い、印加電圧を40kV、電流を30mAに設定し、4°/分の走査速度で2θ=5°~90°の角度範囲とした。実験例1の層状構造体は、120℃で真空加熱乾燥させたのち測定した。
【0040】
(結果と考察)
図3は、評価セルを1.5V~3.1Vの電圧範囲にて低レート(1.5mA)で充放電させた評価結果であり、図3Aが充放電カーブ、図3B図3Aの充放電曲線から導出された電気容量変化量(△Ah)に対する電圧変化量(△V)である充電曲線及び放電曲線での微分容量dQ/dV(F)の曲線、図3C図3Bの拡大図である。図4は、実験例1~4の1~1000サイクルの充放電曲線であり、図4Aが実験例1、図4Bが実験例2、図4Cが実験例3、図4Dが実験例4である。図5は、実験例1~4のサイクル数に対する容量維持率の関係図である。図5は、実験例1~4のサイクル数に対する容量維持率の関係図である。図6は、実験例1~4の容量維持率である。図7は、実験例1~4の低レートで確認したセル容量(mAh)及びセルエネルギー(mWh)の説明図であり、図7Aがセル容量(mAh)、図7Bがセル容量維持率(%)、図7Cがセルエネルギー(mWh)、図7Dがセルエネルギー維持率(%)である。また、表1には、実験例1~4の上限電圧(V)、下限電圧(V)、平均電圧(V)、高レートでの容量維持率(%)、低レートで確認したセル容量維持率(%)及びセルエネルギー維持率(%)をまとめた。
【0041】
図3に示すように、ビフェニル骨格を含む層状構造体を負極活物質とする場合、蓄電デバイスの充電曲線での微分容量dQ/dVの極小値(図3Cの上図)及び放電曲線での微分容量dQ/dVの極大値(図3Cの下図)は、2.3Vであることがわかった。また、図4図6に示すように、実験例3,4では、サイクル数の増加に伴い、容量が低下することがわかった。その一方、実験例1,2では、1000サイクルを経ても高い容量維持率を示すことがわかった。図7Cに示すように、実験例1では、初期のセルエネルギーが実験例4に対して低いが、図5に示すように、サイクル数の増加に伴う容量維持率の低下が小さいため、最終的には実験例4に比して高いセルエネルギーを維持することができると推察された。また、実験例3では、図6に示すように高レートでの維持率が大きく低下したが充放電サイクル前後で低レートでの充放電を行ったところ、図7に示すように、セル容量維持率やセルエネルギー維持率は実験例4に比して高く、実験例1,2を同等であると評価できた。即ち、実験例3は、上限電位が高く設定されており、高レートで充放電する場合の容量維持率は低下するが、低レートでは十分充放電可能であることがわかった。この理由は、以下のように推察された。例えば、実験例3は、充放電する上限電圧が高いため、電解液の分解などが顕著に発生し、内部抵抗の増加する被膜などが形成されるものと推察された。実験例3では、この内部抵抗の増加により、高レートでの充放電特性が低下したものと推察された。
【0042】
実験例1~3では、図3に示す微分容量曲線の充電曲線での極小値や放電曲線での極大値である2.3Vを下限電圧として充放電を行うため、容量維持率が向上するものと推察された。この理由は、例えば、正極活物質の充放電反応において、充電曲線での微分容量dQ/dVの極小値や放電曲線での微分容量dQ/dVの極大値を境にして、低電位側はイオン半径の大きい溶媒和のLiイオンの吸着反応を利用する一方、高電位側はアニオンの吸着反応を利用するものと推察される。この蓄電デバイスは、微分容量dQ/dVにより定められた下限電圧の電圧範囲で蓄電デバイスを充放電させることにより、正極活物質の充放電反応において、アニオンのみの吸着反応を利用することで正極活物質の劣化を抑制可能であり、充放電サイクルの容量劣化を防ぎ、容量維持率が向上するものと推察された。
【0043】
【表1】
【0044】
図8は、実験例1、5のX線回折測定結果である。図9は、実験例5の微分容量dQ/dV曲線である。図8に示すように、実験例1及び実験例5では、同じ2θの位置にピークが出現したため、これらは同じ結晶構造を有するものであると推察された。また、図9に示すように、製造方法を変えて4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウムを作製した場合においても、実験例1~4と同じ2.3Vに充電曲線での微分容量の極小値や放電曲線での微分容量の極大値が得られた。したがって、充放電の下限値として設定すべき値は、作製方法によらず層状構造体の固有の値であることがわかった。図10は、実験例6の層状構造体のX線回折測定結果である。図11は、実験例6の微分容量dQ/dV曲線である。図10に示すように、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジリチウムは、空間群P21/cに帰属される単斜晶を仮定したときの(001)、(111)、(102)、(112)ピークが明確に現れた。このため、実験例6の粉体においても、図1と同様に、リチウム層と有機骨格層からなる層状構造を形成していると推察された。また、図11に示すように、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジリチウムの層状構造体では、充電曲線での微分容量の極小値や放電曲線での微分容量の極大値は、2.2Vであった。したがって、充放電の下限値として設定すべき値は、層状構造体の種別に応じた固有の値であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本開示は、電池産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0046】
10 蓄電システム、12 制御部、20 蓄電デバイス、21 正極集電体、22 正極合材層、23 正極、24 負極集電体、25 負極合材層、26 負極、27 セパレータ、28 イオン伝導媒体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11