(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】アルコキシシラン基含有イソシアネートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 7/18 20060101AFI20240401BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240401BHJP
【FI】
C07F7/18 P
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2019064316
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2022-03-25
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マンフレート クレツィンスキー
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン コールシュトルーク
(72)【発明者】
【氏名】エマヌイル スピロウ
(72)【発明者】
【氏名】ディアク ホッペ
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-525673(JP,A)
【文献】特表平01-503627(JP,A)
【文献】特表2015-533842(JP,A)
【文献】特表平08-505871(JP,A)
【文献】特表2018-501206(JP,A)
【文献】特表2009-503068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシシラン基含有イソシアネートの製造方法であって、以下の工程A)~D):
A)アルコキシシラノ(シクロ)アルキルアミンを塩基性触媒の存在下にジアルキルカーボネートと反応させて、アルコキシシラノ(シクロ)アルキルウレタンを生成させる工程、
B)以下のことを同時にまたは順に行う工程:
- 前記触媒の分離除去および/または失活、および
- 低沸点物、固形物、塩負荷物および/または高沸点物の除去、
C)工程B)の後に得られたアルコキシシラノ(シクロ)アルキルウレタンを熱解離させて、アルコキシシラン基含有イソシアネートおよび副生成物を遊離させるとともに、底部材料が残留
し、その際、
i)前記底部材料を完全にまたは部分的に解離装置から排出し、
ii)熱処理し、かつ/または精製し、かつ/またはアルコールの存在下で後処理に供し、そして
iii)前記熱処理および/または精製および/または後処理の後に取り出した材料を、再度工程A)、B)またはC)に供給する工程、ならびに
D)アルコキシシラン基含有イソシアネートおよび副生成物を、互いに分離させるとともに前記底部材料からも分離して回収する工程
の順序で行う方法において、
工程C)およびD)を連続的に実施し、かつ前記塩基性触媒は、グアニジン塩基であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記アルコキシシラノ(シクロ)アルキルアミンは、式(1)
R
3
m(OR
2)
3-mSi-R
1-NH
2 (1)
[式中、
R
3、R
2およびR
1は、互いに独立して、炭素原子を1~6個有する同一または異なる炭化水素基を表し、該基は、直鎖状であっても分岐状であっても環状であってもよく、かつ
mは、0~2を表す]を有することを特徴とする、請求項
1記載の方法。
【請求項3】
使用されるジアルキルカーボネートは、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネートおよび/またはジブチルカーボネートから選択されることを特徴とする、請求項
1または2記載の方法。
【請求項4】
前記グアニジン塩基は、中性の形態で、以下の構造式(I)
【化1】
[式中、
R
1、R
2、R
3、R
4およびR
5は、
- それぞれ互いに独立して、置換されていてもよいC
1~C
14-アルキル基から選択され、かつ/または
- R
1およびR
2ならびに/あるいはR
3およびR
4は、一緒になって、置換されていてもよいC
2-アルキレン基、C
3-アルキレン基もしくはC
4-アルキレン基を表すか、または好ましくはNもしくはOで置換されていてもよい相応するヘテロアルキレン基を表し、かつ/または
- R
5は、Hである]を有することを特徴とする、請求項1から
3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記グアニジン塩基は、
a.バートン塩基、マーフィーグアニジン、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(TBD)、ペンタメチルグアニジン、tert-ブチルテトラメチルグアニジン(BTMG)、
b.以下の反応生成物:
i.オリゴカルボジイミドもしくはポリカルボジイミドとアミンとの反応生成物、または
ii.ポリアミンとカルボジイミドとの反応生成物
からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1から
4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
工程B)において、以下の工程i)~iv):
i)前記触媒を分離除去し、かつ/または失活させる工程、
ii)低沸点物を留去する工程、
iii)任意に、固形物および/または塩負荷物をろ過または遠心分離により除去する工程、および
iv)高沸点物を液膜式蒸発により分離除去する工程
の順序で行うことを特徴とする、請求項1から
5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記液膜式蒸発の残留物を、前記ウレタン合成の工程A)または前記任意のろ過の工程B)iii)に返送することを特徴とする、請求項
6記載の方法。
【請求項8】
前記熱解離の工程C)を、無溶媒でかつ触媒の存在下に、150~280℃の温度において0.5~200ミリバールの圧力で行うことを特徴とする、請求項1から
7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記触媒の濃度は、0.5~100ppmであることを特徴とする、請求項
8記載の方法。
【請求項10】
工程C)において、フィードに対して1~90重量%に相当する量の底部材料を底部から排出して、再度工程A)、B)またはC)に添加することを特徴とする、請求項1から
9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記排出された底部材料を、
- 150~250℃の温度で0.2~4時間にわたって熱処理し、かつ/または
- 減圧下に150~250℃の温度で蒸留し、かつ/または
- 式R
2OH[式中、R
2は、炭素原子を1~6個有する直鎖状、分岐状または環状の炭化水素基である]のアルコールの存在下に、25~100℃で、触媒の存在下または非存在下で反応させる
ことを特徴とする、請求項
1または
10記載の方法。
【請求項12】
アルコールとの反応を行わないことを特徴とする、請求項
10記載の方法。
【請求項13】
得られた留出物を、工程B)またはC)に供給することを特徴とする、請求項
11記載の方法。
【請求項14】
前記工程D)における分離は、精留であることを特徴とする、請求項1から
13までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコキシシラン基含有イソシアネートの製造方法に関する。
【0002】
アルコキシシラン基含有イソシアネートは、ヘテロ官能単位として多くの用途で使用することが可能であり、これらの使用分野に限定されるものではないが、例えばコーティング、シーラント、接着剤およびエラストマー材料において使用可能である。
【0003】
アルコキシシラン基含有イソシアネートの製造方法は公知である。アルコキシシラン基含有イソシアネートは例えば、第三級アミンの存在下でアルコキシシラノアルキルアミンとホスゲンとを反応させることによって得ることができるが(独国特許発明第3544601号明細書(DE 3544601 C2)、米国特許第9,309,271号明細書(US 9,309,271 B2))、しかしホスゲンの毒性に加え、塩素含有副生成物および塩が形成される点が不利である。
【0004】
またアルコキシシラン基含有イソシアネートの入手は、貴金属触媒の存在下でオレフィン基含有イソシアネートをヒドロシリル化することによっても達成可能である(欧州特許第0709392号明細書(EP 0709392 B1))。この場合には、総じて選択率が十分でなく、また必要な触媒の量が多いことが欠点である。
【0005】
アルコキシシラン含有イソシアネートへのさらなる経路は、ハロアルキルアルコキシシランと金属のシアン酸塩との反応によりアルコキシシラノアルキルウレタンを形成させ、次いで該ウレタンを熱解離させて、対応するイソシアネートを遊離させるというものである(米国特許第3,821,218号明細書(US 3,821,218 A)、米国特許第3,598,852号明細書(US 3,598,852 A)、独国特許出願公開第3524215号明細書(DE 3524215 A1))。この場合には、多量の塩が形成される点や、溶媒の使用が必要であり、通常はジメチルホルムアミドを使用しなければならない点が不利である。
【0006】
米国特許第5,218,133号明細書(US 5,218,133 A)には、アルコキシシラノアルキルウレタンの製造方法であって、障害となる化学量論量の塩の形成が回避される方法が記載されている。このために、アルコキシシラノアルキルアミンが、塩基性のアルカリ金属アルコキシド触媒の存在下でアルキルカーボネートと反応され、次いで反応混合物が中和される。
【0007】
また、ハロゲン含有中和剤を用いて反応混合物中の塩基性触媒の失活を行うことも可能である(国際公開第2007/037817号(WO 2007/037817 A2))。しかしこれには、後述の解離反応において、過度に腐食性の高いハロゲン含有物質および中和生成物が生じることによって反応器材料に対して非常に高い要求が課され、したがって資本コストおよび保守コストが増大するという欠点がある。
【0008】
米国特許第5,393,910号明細書(US 5,393,910 A)には、好ましくは米国特許第5,218,133号明細書(US 5,218,133 A)に従って製造されたアルコキシシラノアルキルウレタンを気相中、高温で熱解離させる方法が記載されている。この方法の欠点は、高温に対して安定性があり、したがって費用がかかる特別な装置が必要とされる点にある。さらに、シラノイソシアネートには特に関連性のない特許において、必要とされる高温が反応器の炭化を招くことが報告されている。このことは、プラント稼働率が低下することから不利である。
【0009】
気相中でのウレタン解離の代替法として、熱により誘導されるアルコキシシラン基含有イソシアネートの遊離を、不活性溶媒中に希釈した状態で行うことも可能である(米国特許第5,886,205号明細書(US 5,886,205 A)、米国特許第6,008,396号明細書(US 6,008,396 A)参照)。この場合、アルコキシシラノアルキルウレタンが不活性溶媒に添加され、該溶媒の温度は、一方ではウレタン解離が促進されるものの、他方では望ましくない副反応が可能な限り回避されるような高温となるように選択される。米国特許第5,886,205号明細書(US 5,886,205 A)には、バッチ式でも連続式でも実施可能な反応について、8未満のpH値、350℃以下の温度、ならびにSn、Sb、Fe、Co、Ni、Cu、Cr、TiおよびPbから選択される少なくとも1種の金属またはこれらの金属を含む少なくとも1種の金属化合物を含む触媒が開示されている。気相での解離と比較して溶媒の精製にコストを要することや、溶媒の損失が避けられない点が不利である。
【0010】
米国特許第9,663,539号明細書(US 9,663,539 B2)には、高い貯蔵安定性を示す淡色のアルコキシシラン基含有イソシアネートを得ることを目的とした、アルコキシシラノアルキルウレタンの製造およびその後の熱解離のための方法が記載されている。イソシアナトオルガノシランの製造方法であって、
a)アミノオルガノシランを塩基性触媒の存在下に有機炭酸エステルと反応させてシリルオルガノカルバメートを生成させ、ここで、該触媒は特に、金属アルコキシド触媒またはスズ含有触媒であってよく、
b)該混合物のpH値を、有機カルボン酸により6.0以上のpH値に調整し、
c)得られた混合物を80~130℃の温度でストリッピングすることにより、生じたアルコールを分離除去し、そして炭酸エステル含分が約5.0重量%未満となるように調節し、
d)c)で得られた混合物をろ過し、
e)任意に有機カルボン酸を添加して、pH値を6.0以上に調整し、
f)d)またはe)で得られた混合物を熱解離させて、イソシアナトオルガノシランおよび対応する副生成物を得て、
g)前記イソシアナトオルガノシランと、f)で得られた副生成物とを分離し、そして
h)g)で得られたイソシアナトオルガノシランを回収する
方法が開示されている。
【0011】
これまで従来技術で使用されていた触媒は、通常の反応条件では該触媒がアミノオルガノシランのウレタン化だけでなく、そのアルキル化も触媒してしまうという欠点を抱えている。副反応の際に生じるN-アルキルアミノシランによって、プロセスのさらなる進行において望ましくない副反応が助長され、これによって、方法の選択率が損なわれるとともに、さらに後処理コストが増大する。
【0012】
したがって本発明の課題は、望ましくないアミノオルガノシランのアルキル化、およびそれに付随する欠点を回避することである。
【0013】
驚くべきことに、上述の課題は、アルコキシシラン基含有イソシアネートの本発明による製造方法であって、以下の工程A)~D):
A)アルコキシシラノ(シクロ)アルキルアミンを塩基性触媒の存在下にジアルキルカーボネートと反応させてアルコキシシラノ(シクロ)アルキルウレタンを生成させる工程、
B)以下のことを同時にまたは順に行う工程:
- 前記触媒の分離除去および/または失活、および
- 低沸点物、固形物、塩負荷物および/または高沸点物の除去、
C)工程B)の後に得られたアルコキシシラノ(シクロ)アルキルウレタンを熱解離させて、アルコキシシラン基含有イソシアネートおよび副生成物を遊離させるとともに、底部材料が残留する工程、ならびに
D)アルコキシシラン基含有イソシアネートおよび副生成物を、互いに分離させるとともに前記底部材料から分離して回収する工程
の順序で行い、前記塩基性触媒はグアニジン塩基である方法により解決できることが判明した。
【0014】
アルコキシシラノ(シクロ)アルキルアミンおよびジアルキルカーボネートからアルコキシシラン基含有イソシアネートを製造する方法とは、本明細書において以下では、1種または複数種のアルコキシシラノ(シクロ)アルキルアミンおよび1種または複数種のジアルキルカーボネートからまず1種または複数種のアルコキシシラノ(シクロ)アルキルウレタンを製造し、これを次いで熱により反応させて、1種または複数種のアルコキシシラン基含有イソシアネートと、1種または複数種の副生成物、特にジアルキルカーボネートのアルキル基に対応するアルコールとを生成させる方法であると理解されるべきである。好ましくは、本発明による方法は、1種のアルコキシシラノ(シクロ)アルキルアミンおよび1種のジアルキルカーボネートからまず1種のアルコキシシラノ(シクロ)アルキルウレタンを製造し、これを次いで熱により反応させて、1種のアルコキシシラン基含有イソシアネートと、1種の副生成物、特にジアルキルカーボネートのアルキル基に対応するアルコールとを生成させる方法である。
【0015】
個々の工程A)~D)は、それぞれバッチ式で行うことも連続式で行うことも可能である。しかし、特に工程C)およびD)については、連続的な方法操作はこれまでに開示されていなかった。したがって、これまでに不十分であった選択率を向上させ、そして非効率的な原材料の利用効率を高めるために、さらに好ましくは、工程C)を以下のとおりに行うことによって、少なくとも工程C)およびD)を連続的に行うことが可能である:
C)工程B)の後に得られたアルコキシシラノ(シクロ)アルキルウレタンを熱解離させて、アルコキシシラン基含有イソシアネートおよび副生成物を遊離させるとともに、底部材料が残留し、その際、
i)前記底部材料を完全にまたは部分的に解離装置から排出し、
ii)熱処理し、かつ/または精製し、かつ/またはアルコールの存在下で後処理/再ウレタン化に供し、そして
iii)前記熱処理および/または精製および/または後処理/再ウレタン化の後に取り出した材料を、工程A)、B)またはC)に再度供給する。
【0016】
従来、工程A)およびB)のみについては連続的に行うことが可能であったが、特に解離工程C)については不可能であった。したがって前記方法については、工程A)およびB)をバッチ式で行って工程C)およびD)を連続的に行う、というように実施することが可能である。工程A)~D)をすべて連続的に行うことも可能である。また、工程A)またはB)のうちの1つのみをバッチ式で行い、次いで工程C)およびD)を連続的に行うことも考えられる。
【0017】
この場合、工程C)において底部材料を完全にまたは部分的に解離装置から排出し、次いでこれを熱処理し、かつ/または精製し、かつ/またはアルコールの存在下で後処理(再ウレタン化)に供し、そして工程A)、B)またはC)に再度供給することによって、工程C)~D)の連続的な方法操作が可能となる。底部材料を排出し、熱処理し、かつ/または精製し、かつ/または底部材料中に存在するイソシアネートを再度アルコールとともに熱によりウレタン化させることにより、底部材料中の高沸点物の割合が低下し、かつ/または有価物の割合が高まる。排出され、熱処理され、かつ/または精製され、かつ/または再ウレタン化された流れは、本プロセスの工程A)、B)またはC)に再循環される。好ましくは、排出、熱処理および/または精製および/またはアルコールによる後処理および底部材料の供給もまた、連続的に行われる。特に好ましくは、底部材料が排出されて精製され、そして底部材料中に存在するイソシアネートが再度アルコールで処理され、この精製された底部材料が、工程A)、B)またはC)に再度供給される。極めて特に好ましくは、底部材料が排出されて熱処理され、精製され、そしてこの精製された底部材料が工程A)、B)またはC)に再度供給される。
【0018】
驚くべきことに、対応するアルコキシシラノ(シクロ)アルキルアミンからアルコキシシラン基含有イソシアネートを連続的に製造する場合、アルコキシシラノ(シクロ)アルキルアミンとジアルキルカーボネートとの反応によりアルコキシシラノ(シクロ)アルキルウレタンを合成した後に、該ウレタンから低沸点物および存在し得る固形物、塩負荷物および高沸点物を除去し、そのようにして精製されたアルコキシシラノ(シクロ)アルキルウレタンを熱解離させて所望のアルコキシシラン基含有イソシアネートを遊離させ、解離底部材料の一部を解離装置から好ましくは連続的に排出し、これを熱による後処理に供することで、高沸点物の割合を低下させ、かつ材料混合物の有価物の割合を高め、これから高沸点成分を分離除去し、かつ有価物成分をプロセスに再循環させることが有利であることが判明した。このようにして、一方では、ウレタン合成、ウレタン精製およびウレタン解離の全シーケンスにわたって高沸点成分の比較的低い定常濃度が実現され、その結果、特に本質的に比較的高粘度である高沸点成分により促進される堆積物を回避できるとともに、長期にわたって良好なプラント稼働率および良好なプロセス収率が保証されることが判明した。他方では、熱解離反応の後に行われる熱による後処理、例えば反応蒸留による後処理は、後処理を行わない方法と比較して驚くべきことにさらなる収率向上が達成可能であり、このようにして原材料のより効率的な利用が促進される、という利点を有する。
【0019】
本明細書における「アルコキシシラノ(シクロ)アルキルアミン」なる上位概念は特に、ケイ素原子においてアルコキシ基および任意にアルキル基によって置換されたシラノアルキルアミンを意味すると理解されるべきである。この場合、(シクロ)アルキルアミノ基は、直鎖状、分岐状または環状のアルキレン基を有するアルキルアミノ基であってよい。したがって、アルコキシシラノ(シクロ)アルキルアミンなる概念には、アルコキシシラノアルキルアミンおよびアルコキシシラノシクロアルキルアミンが包含される。得られるアルコキシシラノ(シクロ)アルキルウレタンにも同じことが該当する。
【0020】
好ましくは、工程A)で使用されるアルコキシシラノ(シクロ)アルキルアミンは、式(1)
R3
m(OR2)3-mSi-R1-NH2 (1)
[式中、
R3、R2およびR1は、互いに独立して、炭素原子を1~6個有する同一または異なる炭化水素基を表し、該基は、直鎖状であっても分岐状であっても環状であってもよく、かつ
mは、0~2を表す]を有する。好ましくは、mは0であり、かつR1はメチルまたはプロピルであり、かつR2はメチルまたはエチルである。
【0021】
好ましくは、使用されるジアルキルカーボネートは、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネートおよび/またはジブチルカーボネートから選択される。さらに好ましくは、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネートおよびジブチルカーボネートから選択された1種のみのジアルキルカーボネートが使用される。
【0022】
塩基性触媒は、グアニジン塩基である。以下、グアニジン塩基とは好ましくは、中性の形態で、以下の構造式(I)
【化1】
[式中、
R
1、R
2、R
3、R
4およびR
5は、
- それぞれ互いに独立して、置換されていてもよいC
1~C
14-アルキル基から選択され、かつ/または
- R
1およびR
2ならびに/あるいはR
3およびR
4は、一緒になって、置換されていてもよいC
2-アルキレン基、C
3-アルキレン基もしくはC
4-アルキレン基を表すか、または好ましくはNもしくはOで置換されていてもよい相応するヘテロアルキレン基を表し、かつ/または
- R
5は、Hである]を有する化合物であると理解されるべきである。
【0023】
R
1およびR
2のみならずR
3およびR
4も置換されていてもよいC
3-アルキレン基を表す場合には、好ましいグアニジン塩基は、以下の式(II)
【化2】
[式中、
- R
5~R
17は、互いに独立して、置換されていてもよいC
1~C
14-基およびHから選択されていてよく、かつ/または
- R
6およびR
7ならびに/あるいはR
8およびR
9ならびに/あるいはR
10およびR
11ならびに/あるいはR
12およびR
13ならびに/あるいはR
14およびR
15ならびに/あるいはR
16およびR
17は、一緒になって、それぞれ、置換されていてもよいC
3-アルキレン基、C
4-アルキレン基、C
5-アルキレン基もしくはC
6-アルキレン基を表すか、または好ましくはNもしくはOで置換されていてもよい相応するヘテロアルキレン基を表し、かつ/または
- R
7およびR
8ならびに/あるいはR
9およびR
10ならびに/あるいはR
11およびR
12ならびに/あるいはR
13およびR
14ならびに/あるいはR
15およびR
16ならびに/あるいはR
17およびR
5は、一緒になって、それぞれ、置換されていてもよいC
2-アルキレン基、C
3-アルキレン基、C
4-アルキレン基もしくはC
5-アルキレン基を表すか、または好ましくはNもしくはOで置換されていてもよい相応するヘテロアルキレン基を表す]を有する。
【0024】
好ましいグアニジン塩基はさらに、バートン塩基(2-tert-ブチル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン)、マーフィーグアニジン(Murphys Guanidin)、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(TBD)、ペンタメチルグアニジン、tert-ブチルテトラメチルグアニジン(BTMG)、およびオリゴカルボジイミドもしくはポリカルボジイミドとアミンとの反応生成物、またはポリアミンとカルボジイミドとの反応生成物である。
【0025】
グアニジン塩基はモノマーであってよい。有利には該モノマーは、115g/モル以上のモル質量を有する。しかし、例えばオリゴカルボジイミドまたはポリカルボジイミドとアミンとの反応の際に、またはポリアミンとカルボジイミドとの反応の際に生じるような、オリゴマーまたはポリマーのグアニジンを使用することも可能である。グアニジン塩基はまた、ポリマーに結合した(「担持された」)形態で、例えばポリスチレン結合TBDとして使用されてもよいし、ポリマーで修飾された形態で、例えばStratoSpheres(登録商標)PL-TBD樹脂として使用されてもよい。シリカゲル結合グアニジン塩基、例えばシリカ結合TBDも適しており、またイオン液体官能化グアニジン塩基、例えば1-メチル-3-(4’-TBD-ブチル)イミダゾリウムブロミドも適している。
【0026】
触媒の濃度は好ましくは、反応混合物に含まれる他のすべての成分の全量に対して0.01~10重量%であり、好ましくは0.05~5重量%である。
【0027】
アルコキシシラノ(シクロ)アルキルアミンとジアルキルカーボネートとのモル比は、好ましくは1:10未満であり、有利には1:5未満である。ジアルキルカーボネートとの反応は、好ましくは5~100℃、有利には15~85℃の温度で、1~20時間、有利には2~10時間にわたって行われる。この反応は好ましくは大気圧で行われる。
【0028】
反応段階A)におけるアルコキシシラノ(シクロ)アルキルアミンの反応は、好ましくは以下のように行われ、すなわち、式(1)のアルコキシシラノ(シクロ)アルキルアミンを、任意で、特に後続の解離反応の底部材料から生じる式(2)
R3
m(OR2)3-mSi-R1-NH-(C=O)-OR4 (2)
[式中、
R4、R3、R2およびR1は、互いに独立して、炭素原子を1~6個有する同一または異なる炭化水素基を表し、ここで、該基は、直鎖状であっても分岐状であっても環状であってもよく、かつ
mは、0~2を表す]
のアルコキシシラノ(シクロ)アルキルウレタンの混入下に、触媒としてのグアニジン塩基の存在下で、ジアルキルカーボネートと、5~100℃、有利には15~85℃で1~20時間、有利には2~10時間にわたって反応させ、その際、アルコキシシラノ(シクロ)アルキルアミンとジアルキルカーボネートとのモル比が、1:10未満、有利には1:5未満となるように行われる。
【0029】
反応混合物へのアルコキシシラノ(シクロ)アルキルウレタンの任意の混入は、反応開始の際に行われてもよいし、反応の過程で逐次または連続的に行われてもよい。さらに、アルコール、有利にはメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノールまたはヘキサノールを同様に反応混合物に混入させることができる。
【0030】
反応は、バッチ式反応器内で行われてもよいし、連続運転式カスケード型槽内で行われてもよいし、管状反応器内で行われてもよい。好ましくは、反応は、連続運転式カスケード型槽または管状反応器内で行われる。
【0031】
工程B)において、i)触媒の分離除去および/失活と、ii)低沸点物、iii)固形物および塩負荷物ならびに/またはiv)高沸点物の除去とが、同時にまたは順に行われる。したがって、最初に触媒を分離除去し、かつ/または失活させ、次いで低沸点物、固形物、塩負荷物および/または高沸点物を除去することが可能である。また、最初に低沸点物、固形物、塩負荷物および/または高沸点物を除去し、次いで触媒を分離除去し、かつ/または失活させることも可能である。これら双方の部分工程を同時に行うことも可能である。しかし、最初にi)触媒を分離除去し、かつ/または失活させ、次いでii)低沸点物、iii)固形物および塩負荷物ならびに/またはiv)高沸点物を除去することが好ましい。
【0032】
工程B)における触媒の失活は、好ましくは中和によって行うことができる。無機酸または有機酸、好ましくは1~20個の炭素原子を有するポリ-またはモノカルボン酸を用いて触媒を中和することが好ましい。触媒を酢酸で中和させることが好ましく、A)で使用される触媒の量に対して化学量論的過剰量の酢酸で中和させることがさらに好ましい。
【0033】
反応した反応混合物の無機酸または有機酸による中和は、酸と触媒とのモル比が0.6:1~4:1、有利には0.9:1~3.5:1で行われるのが好ましい。この場合、反応混合物の温度を5℃~85℃、有利には15℃~75℃に保つように留意する。この温度範囲を保つために、反応混合物を、例えば熱交換器による能動的な冷却に供することができ、または中和剤の計量供給速度によって温度の推移が制御される。中和剤として、好ましくは有機酸が使用される。好ましいのは、酢酸、プロパン酸、ブタン酸、ヘキサン酸、コハク酸、マレイン酸、セバシン酸、ベンゼンスルホン酸およびMarlon(登録商標)ASである。
【0034】
しかし、触媒の失活は必ずしも必要というわけではない。特に、高分子でありしたがって高沸点を有するグアニジン塩基を触媒として使用する場合には、該触媒は極めて容易に再循環可能であって塩負荷物が回避されることから、中和を行わないことが好ましい。したがって、相応する好ましい方法では、触媒の分離除去のみを行い、中和は行わない。
【0035】
低沸点物、固形物、塩負荷物および/または高沸点物の除去を、3つの別々の部分工程で行うことが好ましい。さらに好ましくは、低沸点物を蒸留により分離除去し、任意に固形物および/または塩負荷物をろ過または遠心分離により分離除去し、かつ高沸点物を液膜式蒸発により分離除去することができる。この場合、最初に工程B)ii)において低沸点物を留去し、次に任意に工程B)iii)において固形物および/または塩負荷物をろ過または遠心分離により除去し、そしてB)iv)において最後に高沸点物を液膜式蒸発により分離除去することが有利である。特に、固形物が生じず、また中和による触媒の失活も行われず、それゆえ塩負荷物も生じない場合には、ろ過または遠心分離による固形物および/または塩負荷物の除去を省略することもできる。
【0036】
好ましくはアルコールおよびジアルキルカーボネートからなる低沸点物の留去の工程B)ii)は、好ましくは40~200℃、さらに好ましくは50~180℃、極めて特に好ましくは55~75℃の温度で減圧下に行われる。
【0037】
低沸点物、例えば反応の過程で遊離されるアルコールおよび余剰のジアルキルカーボネートは、好ましくは40~200℃、さらに好ましくは50~180℃、特に好ましくは55~75℃で、好ましくは20~800ミリバール、さらに好ましくは50~600ミリバールで留去することができる。こうした留去は、単段で行われても多段で行われてもよい。これは原則として、バッチ式で、上方に設置された蒸留塔を用いて行うことができるが、流下液膜式蒸発装置、液膜式蒸発装置または循環式蒸発装置を使用することが有利である。
【0038】
任意のろ過または遠心分離B)iii)は、好ましくは30~90℃、さらに好ましくは50~70℃、極めて特に好ましくは60℃の温度で行われる。
【0039】
ろ過は、30~90℃、有利には50~70℃、特に好ましくは60℃の温度範囲内で、真空ろ過または加圧ろ過により、膜、吸着剤または繊維マットにより行うことができる。ろ過の代わりに、遠心分離機を用いて固-液相分離を行うことも可能である。
【0040】
任意のろ過または遠心分離B)iii)によって十分に除去されなかった不純物は、さらなる任意の精製によって除去することができる。この目的のために、混合物が、1~30ミリバール、有利には2~20ミリバールの圧力で、そして80~220℃、好ましくは100~200℃の温度で、ショートパス式蒸発装置または液膜式蒸発装置に通され、これにより、留出物および流出物が、80重量%超:20重量%、有利には85重量%超:15重量%の比率で生じる。
【0041】
B)ii)で得られた留出物、または任意の工程B)iii)で得られたろ液もしくは透過液の液膜式蒸発は好ましくは、1~30ミリバール、有利には2~20ミリバールの圧力で、80重量%超:20重量%、有利には85重量%超:15重量%の留出物/残留物のカット比で行われる。この場合、残留物を、好ましくはウレタン合成A)または精製工程B)に返送することができる。好ましくは、残留物は、ウレタン合成A)または任意のろ過工程B)iii)へと導かれる。
【0042】
熱解離C)において、アルコキシシラン基含有イソシアネートと、副生成物、好ましくはアルコールとが生じる。溶媒を添加せずに熱解離を行うことが好ましい。
【0043】
工程C)における熱解離は、好ましくは触媒の存在下で、連続的かつ無溶媒で、150~280℃、有利には165~265℃の温度で、0.5~200ミリバール、有利には1.0~100ミリバールの圧力下で行われる。触媒の濃度は、好ましくは0.5~100ppmであり、有利には1~60ppmであり、特に好ましくは2~30ppmである。
【0044】
熱解離の際に、反応混合物の一部を、好ましくはフィードに対して1~90重量%、有利にはフィードに対して5~60重量%を、底部から常に排出することが好ましい。したがって好ましくは、対応する量の底部材料が解離装置から排出される。
【0045】
この場合、熱解離は好ましくは部分的に行われ、すなわち、工程B)で得られた生成物/留出物からアルコキシシラン基含有イソシアネートへの転化率は自由に選択され、通常は、供給量(フィード)の10~95重量%、有利には20~85重量%の範囲である。好ましくは、式(2)の未反応ウレタンに加え、高沸点副生成物ならびに他の再利用可能および再利用不可能な副生成物を含む反応混合物の一部を、底部から連続的に排出する。排出量は、特に所望の転化率および所望の解離反応能力に依存し、実験により容易に求めることができる。排出量は通常は、フィードに対して1~90重量%、有利には5~60重量%である。
【0046】
アルコキシシラン基含有ウレタンの化学的解離の触媒としては、例えばウレタン形成を触媒する無機および有機化合物が使用される。亜鉛またはスズの塩化物および亜鉛、マンガン、鉄またはコバルトの酸化物を使用することが有利であり、その際、本質的にウレタンを含む精製工程B)で得られた物質流、特に工程B)iv)で得られた物質流、および任意にさらなる循環流を、0.01~25重量%、有利には0.05~10重量%のアルコール溶液またはアルコール懸濁液として解離に供給する前に、これらの流れに、0.5~100ppm、有利には1~60ppm、特に好ましくは2~30ppmの量で触媒が添加される。好ましくはないが原則的に、触媒を添加せずにウレタン解離を行うことも可能である。驚くべきことに、触媒濃度が低いと、目的生成物の遊離を伴う所望の熱解離に有利になるように解離底部で起こる化学反応の選択率が向上し、一方で、触媒濃度が高すぎる場合であっても解離触媒が存在しない場合であっても、副生成物形成の増大を招くことが判明した。この観察に基づいて、最適な触媒濃度を実験により容易に求めることができる。
【0047】
解離装置としては、好ましくは円筒状解離反応器、例えば管状炉、または有利には蒸発装置、例えば流下液膜式、液膜式またはバルク式蒸発装置、例えばロバート(Robert)蒸発装置、ハーバート(Herbert)蒸発装置、キャドル式蒸発装置、オスカー(Oskar)蒸発装置および加熱カートリッジ式蒸発装置が適している。
【0048】
基本的に、アルコールの脱保護の際に必然的に遊離されるイソシアネート基の解離ゾーンにおける平均滞留時間をできるだけ短く抑え、それによって望ましくない副反応を最小限に抑えることが重要である。解離と精留とを組み合わせた塔であって、エネルギー供給のために底部には流下液膜式蒸発装置を備え、上部には生成物または粗生成物を抜き出すための設備を備え、頂部には還流およびアルコールの抜出しのための凝縮器を備えた塔において解離を行うことが好ましい。必要に応じてさらに、追加のエネルギー入力のための設備が下方3分の1の箇所に設置されていてもよい。
【0049】
熱解離の際に形成される解離生成物であって、特にアルコールとアルコキシシラン基含有イソシアネートとから構成されるものを好ましくは、150~280℃、有利には165~265℃の温度および0.5~200ミリバール、有利には1~100ミリバールの圧力での精留によって、アルコールとアルコキシシラン基含有イソシアネートとに分離することができ、その際、特にイソシアネートは、場合によっては依然として副次的な割合のウレタンを含有する。この分離は、例えば、上述の解離と精留とを組み合わせた塔の解離塔内で行うことができる。
【0050】
次いで解離装置の高沸点物を含有する底部材料を、好ましくは熱処理し、かつ/または精製し、かつ/またはアルコールの存在下で後処理に供することができ、次いでこれを好ましくは工程A)、B)またはC)に再度供給する。それにより、高沸点物の割合を低下させ、かつ材料混合物の有価物の割合を高めることができる。特に好ましくは、底部材料を排出し、精製し、かつ底部材料中に存在するイソシアネートをアルコールで再度処理し、精製された底部材料を工程A)、B)またはC)に再度供給する。極めて特に好ましくは、底部材料を排出し、熱処理し、精製し、精製された底部材料を工程A)、B)またはC)に再度供給する。
【0051】
特に好ましくは、熱処理され、かつ/または精製され、かつ/またはアルコールで後処理された底部材料を、工程B)またはC)に再度供給する。なぜならば、そうした場合、ウレタン合成における堆積を回避することができ、また収率がより高いためである。
【0052】
熱による後処理は、好ましくは150~250℃の温度で0.2~4時間にわたって、さらに好ましくは190~250℃で0.5~1.5時間にわたって標準圧力で行われる。
【0053】
精製工程は好ましくは、蒸留により行われる。この場合、排出された底部材料が、減圧下で、さらに好ましくは真空下で、150~250℃の温度で次のように蒸留されることが好ましく、すなわち、底部で生じたアルコキシシラノ(シクロ)アルキルイソシアネートおよび/またはアルコキシシラノ(シクロ)アルキルウレタンから高沸点物が分離除去されるように蒸留されることが好ましい。得られた留出物を、本方法の工程B)またはC)に供給することができる。好ましくは、得られた留出物は、液膜式蒸発工程B)iv)または解離工程D)に供給される。
【0054】
解離段階C)で得られた底部排出物は、未反応ウレタン以外にさらに、高沸点副生成物ならびに他の再利用可能および再利用不可能な副生成物を含有する。熱による狙い通りの後処理と、蒸留による材料の精製、特に反応蒸留による材料の精製とを組み合わせることによって、材料混合物の再利用可能物質の割合、すなわち有価物の割合を高めることができ、ひいては本方法の全収率を高めることができる。材料は、有価物流と廃棄物流とに分離され、その際、高沸点物に富む廃棄物流は、プロセスから排出されて廃棄または再循環される。好ましくは、熱処理および精製による底部材料の後処理は、反応蒸留である。
【0055】
アルコキシシラノ(シクロ)アルキルイソシアネートおよび/またはアルコキシシラノ(シクロ)アルキルウレタンを含む排出された底部材料を、さらに好ましくは、先行する精製工程を行うかまたは行わずに、任意にさらなる後処理に供することができ、それにより、材料混合物の有価物の割合が高められる。この目的のために、必要に応じて蒸留された底部材料を、式R2OH[式中、R2は、炭素原子を1~6個有する直鎖状、分岐状または環状の炭化水素基である]のアルコールの存在下で、25~100℃で、触媒の存在下または非存在下で反応させる。触媒としては、例えばオクタン酸スズ、ラウリン酸ジブチルスズ、二塩化スズ、二塩化亜鉛またはトリエチルアミンといった、NCO/OH-反応を促進するいずれの固体触媒も対象となる。NCO基とOH基とのモル比は、有利には1:100まで、有利には1:60まで、特に好ましくは1:30までである。反応は、触媒の存在下または非存在下で、バッチ式反応器、カスケードまたはさらには管状反応器内で行うことができる。反応をカスケードまたは管状反応器内で行うことが好ましい。この場合、生じたアルコキシシラノ(シクロ)アルキルイソシアネートが、対応するウレタンに転化される(「再ウレタン化」)。得られた生成物流を、好ましくはウレタン合成工程A)、精製工程B)または解離工程C)に供給することができる。特に好ましくは、得られた生成物流を、ウレタン合成工程A)、蒸留工程B)ii)または解離工程C)に供給することができる。その場合には、余剰分のアルコールを、予め好ましくは完全にまたは部分的に分離除去しておく。
【0056】
熱による後処理の工程、有価物流と廃棄物流とへの分離の工程、および再ウレタン化の工程は、連続して行われてもよいし並行して行われてもよい。熱による後処理には例えばバッチ式反応器が適しており、その際、各成分の分離を、引き続き蒸留塔内で行ってもよいし、流下液膜式、ショートパス式または液膜式蒸発装置を用いて行ってもよく、例えば高沸点物の分離除去B)iv)への返送により行ってもよい。さほど好ましくはないが、分離操作を抽出によっても行うこともできる。あるいは、これらの工程を、流下液膜式、液膜式またはショートパス式蒸発装置で行うこともでき、直列または並列に接続された複数の蒸発装置を使用することも可能である。
【0057】
熱による後処理は、典型的なウレタン化触媒の存在下で行うことも、該触媒の非存在下で行うこともできる。熱による後処理を完全に省くことも可能であるが、この措置によって、収率向上の機会を逃してしまう。
【0058】
所与の容量で有価物の割合を可能な限り最適に高めるためには、特に熱による後処理の滞留時間および温度のパラメーターが重要であり、その最適条件は、プロセス技術の構成の寸法および基本構造に依存し、当業者はこれを実験により容易に求めることができる。
【0059】
本発明による特に好ましい変法では、解離段階C)で得られた底部排出物を、好ましくは150~250℃、さらに好ましくは165~235℃で、1~40ミリバール、有利に2~20ミリバールの圧力での液膜式蒸発に供する。それにより、本質的に高沸点物を含む液膜式蒸発装置の流出物をプロセスから排出することができ、有価物を含む留出物がプロセスに再循環される。
【0060】
工程D)において、アルコキシシラン基含有イソシアネートおよび副生成物、好ましくはアルコールを底部材料から分離して回収する。さらに好ましくは、アルコキシシラン基含有イソシアネートおよび副生成物を、互いに、好ましくは精留により分離する。
【0061】
さらに好ましくは、精留により得られたイソシアネートを、蒸留によりさらに精製し、そして単離する(「純粋なイソシアネート」)。
【0062】
有利には精留により得られたアルコキシシラン基含有イソシアネートを、必要に応じて80~220℃、有利には100~200℃の温度で、0.5~200ミリバール、有利には1~100ミリバールの圧力下での蒸留によってさらに精製し、高純度の生成物として単離することができる。
【0063】
本方法により製造可能なイソシアネートは、好ましくは、式(3)
R3
m(OR2)3-mSi-R1-NCO (3)
[式中、
R3、R2およびR1は、互いに独立して、炭素原子を1~6個有する同一または異なる炭化水素基を表し、ここで、該基は、分岐状であっても環状であってもよく、また一緒になって環式系を形成してもよく、かつ
mは、0~2を表す]を有する。好ましくは、m=0である。R1は、好ましくはプロピルである。R2は、好ましくはメチルまたはエチルである。mが0であり、R1がメチルまたはプロピルであり、かつR2がメチルまたはエチルである化合物が、非常に特に好ましい。
【0064】
本発明による方法は、イソシアナトプロピルトリメトキシシランおよびイソシアナトプロピルトリエトキシシランの製造に非常に特に適している。
【0065】
本発明による方法の利点は特に、アルコキシシラン基含有イソシアネートを、高いプラント稼働率で連続運転により高収率で製造できることにある。本発明による多段法での利点は特に、アルコキシシラン基含有イソシアネートの連続的製造の出発材料として式(1)のアルコキシシラノ(シクロ)アルキルアミンを使用した場合、特に本質的に比較的高粘度である高沸点成分によって助長される堆積物を大幅に回避することができ、さらに長期にわたって良好なプラント稼働率および良好なプロセス収率が保証されることにある。さらに本発明による多段法の利点は、該方法によって、下流の熱による後処理ゆえに、例えば反応蒸留による後処理ゆえに、プロセス収率をさらに向上させることができ、このようにして原材料のより効率的な利用を促進できる点にある。
【0066】
底部排出物の熱による後処理、例えば反応蒸留による後処理、有価物と廃棄物とへの分離、有価物のウレタン化、およびウレタン化された有価物流のプロセスへの返送から構成される上述の任意のシーケンスは、原則として以下の順序で行われてもよい:底部排出物のウレタン化、熱による後処理、有価物と廃棄物とへの分離、およびプロセスへの返送。
【0067】
副生成物を返送および排出させてアルコキシシラン基含有イソシアネートを連続的に製造するための本発明による多段法を用いることにより、高選択率で障害なく進行するプロセスを長期間にわたって保証することができる。本発明による方法は、ケイ素原子とイソシアネート基との間に1~16個の炭素原子を有するアルコキシシラン基含有イソシアネートの製造に適しているが、特にイソシアナトプロピルトリメトキシシランおよびイソシアナトプロピルトリエトキシシランの製造に適している。
【0068】
製造されたアルコキシシラン基含有イソシアネートは、これらの使用分野に限定されるものではないが、様々な基材へのコーティング、シーラント、接着剤およびエラストマー材料における使用にも、樹脂または離散分子の狙い通りの変性にも適している。
【0069】
本発明を、以下の実施例によって詳細に説明する。
【0070】
ウレタン製造用触媒
触媒1:
1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン
触媒2:
1リットルのテトラヒドロフラン(無水)中の412gのジシクロヘキシルカルボジイミドおよび245gのJeffamine D-230の溶液を、すべてのカルボジイミド基が完全に反応するまで室温で撹拌した。その後、溶媒を真空下で除去し、形成されたグアニジン基含有触媒(触媒2)を保護ガス下で貯蔵した。
【0071】
例1:3-(トリメトキシシリル)プロピルイソシアネートの製造 - 底部排出物の再ウレタン化および液膜式蒸発への返送
15.10kgのAMMO(アミノプロピルトリメトキシシラン)を、0.38kgの触媒2の存在下で、15.18kgのDMC(ジメチルカーボネート)と60℃で8時間反応させた。反応器排出物から、142℃で260ミリバールでの液膜式蒸発によって低沸点物を除去し、粗製UPMSを50℃でカートリッジフィルターに通してろ過し、ろ液流を、182℃で5ミリバールでの液膜式蒸発によるさらなる精製工程に供した。この液膜式蒸発の留出物(23.5kg/h)を、解離および精留塔の循環部に連続的に搬送し、その際、脱保護反応を、195℃の温度で55ミリバールの底部圧力で、55ppmの二塩化スズの定常濃度の存在下で行った。解離ガスであるIPMS(3-(トリメトキシシリル)プロピルイソシアネート)およびメタノールを、2つの連続した凝縮器で凝縮し、その際、頂部生成物として生じるメタノールを、さらなる蒸留後に原料として再度使用することが可能であり、IPMSを、>98%の純度で14.82kg/hの量で側方抜出し部において取り出した。これは、84%の連続収率に相当する。解離および精留塔内での物質収支を維持し、解離装置の被覆および場合により閉塞を回避し、そして有価物を再生するために、部分流を循環路から連続的に排出し、冷却し、メタノールと合し、そしてこの合した流れ(10.0kg/h)を、すべてのNCO基が完全にウレタン化されるまで65℃において管状反応器内で反応させた。この再ウレタン化流を、液膜式蒸発段階に再循環させた。
【0072】
例2:3-(トリメトキシシリル)プロピルイソシアネートの製造 - 底部排出物の熱による後処理および分離、再ウレタン化およびウレタン製造への返送
12.25kgのAMMO(アミノプロピルトリメトキシシラン)を、0.31kgの触媒2の存在下で、12.93kgのDMC(ジメチルカーボネート)と60℃で9時間反応させた。反応器排出物から、138℃で250ミリバールでの液膜式蒸発によって低沸点物を除去し、粗製UPMS(メチル3-(トリメトキシシリル)プロピルカルバメート)を、185℃で5ミリバールでの液膜式蒸発によるさらなる精製工程に供した。この液膜式蒸発の留出物(18.86kg/h)を、解離および精留塔の循環部に連続的に搬送し、その際、193℃の温度で55ミリバールの底部圧力において、47ppmの二塩化スズの定常濃度の存在下で脱保護反応を行った。解離ガスであるIPMS(3-(トリメトキシシリル)プロピルイソシアネート)およびメタノールを、2つの連続した凝縮器で凝縮し、その際、頂部生成物として生じるメタノールを、さらなる蒸留後に原料として再度使用することが可能であり、IPMSを、>98%の純度で12.32kg/hの量で側方抜出し部において取り出した。これは、86%の連続収率に相当する。解離および精留塔内での物質収支を維持し、解離装置の被覆および場合により閉塞を回避し、そして有価物を再生するために、部分流を循環路から連続的に排出し、215℃において5ミリバールで液膜式蒸発装置に通した。留出物流をメタノールと合し、そしてこの合した流れ(7.5kg/h)を、すべてのNCO基が完全にウレタン化されるまで65℃において管状反応器内で反応させた。この再ウレタン化流を、UPMS製造に再循環させた。
【0073】
例3:3-(トリメトキシシリル)プロピルイソシアネートの製造 - 底部排出物の熱による後処理および分離、ならびにウレタン解離への返送
13.92kgのAMMO(アミノプロピルトリメトキシシラン)を、0.18kgの触媒1の存在下で、15.38kgのDMC(ジメチルカーボネート)と60℃で7時間反応させ、次いで0.13kgの酢酸の添加によってこれを中和した。反応器排出物から、140℃で255ミリバールでの液膜式蒸発によって低沸点物を除去し、粗製UPMSを、185℃で5ミリバールでの液膜式蒸発によるさらなる精製工程に供した。この液膜式蒸発の留出物を、解離および精留塔の循環部に連続的に搬送し、その際、脱保護反応を、196℃の温度で60ミリバールの底部圧力で、29ppmの二塩化スズの定常濃度の存在下で行った。解離ガスであるIPMS(3-(トリメトキシシリル)プロピルイソシアネート)およびメタノールを、異なる温度レベルで運転した2つの連続した凝縮器で凝縮し、その際、頂部生成物として生じるメタノールを、さらなる蒸留後に原料として再度使用することが可能であり、IPMSを、>98%の純度で14.01kg/hの量で側方抜出し部において取り出した。これは、88%の連続収率に相当する。解離および精留塔内での物質収支を維持し、解離装置の被覆および場合により閉塞を回避し、そして有価物を再生するために、部分流を循環路から連続的に排出し、220℃で、滞留時間70分間で熱により後処理し、次いで5ミリバールで液膜式蒸発装置に通した。留出物流を循環路に再循環させた。
【0074】
例4:3-(トリメトキシシリル)プロピルイソシアネートの非連続的な製造 - バッチ式での脱保護
13.39kgのAMMO(アミノプロピルトリメトキシシラン)を、0.17kgの触媒1の存在下で、12.69kgのDMC(ジメチルカーボネート)と60℃で7時間反応させ、次いで0.12kgの酢酸の添加によってこれを中和した。反応器排出物から、140℃で252ミリバールでの液膜式蒸発によって低沸点物を除去し、粗製UPMSを、183℃で5ミリバールでの液膜式蒸発によるさらなる精製工程に供した。この液膜式蒸発の留出物350gを、蒸留装置、撹拌機および温度計を備えた3リットル丸底フラスコ内で107ppmの二塩化スズの存在下で60ミリバールの圧力で195℃の温度に加熱した。生じた解離ガスを蒸留により分離し、そして凝縮した。6.5時間後、蒸留においてそれ以上生成物流が生じなくなった後に実験を停止した。合計で208.2gのIPMSが97.5%の純度で得られ(収率約67%)、丸底フラスコには95.8gの高沸点物が残った。
【0075】
例5:3-(トリメトキシシリル)プロピルイソシアネートの製造 - 底部での排出は行うが、プロセスへの返送は行わない
12.93kgのAMMO(アミノプロピルトリメトキシシラン)を、0.34kgの触媒2の存在下で、12.05kgのDMC(ジメチルカーボネート)と60℃で6時間反応させた。反応器排出物から、145℃で250ミリバールでの液膜式蒸発によって低沸点物を除去し、粗製UPMSを、185℃で5ミリバールでの液膜式蒸発によるさらなる精製工程に供した。この液膜式蒸発の留出物(16.08kg/h)を、解離および精留塔の循環部に連続的に搬送し、その際、脱保護反応を、195℃の温度で55ミリバールの底部圧力で、110ppmの二塩化スズの定常濃度の存在下で行った。解離ガスであるIPMSおよびメタノールを、2つの連続した凝縮器で凝縮し、その際、頂部生成物として生じるメタノールを、さらなる蒸留後に原料として再度使用することが可能であり、IPMSを、>98%の純度で9kg/hの量で側方抜出し部において取り出した。これは、61%の連続収率に相当する。解離および精留塔内での物質収支を維持し、解離装置の被覆および場合により閉塞を回避するために、部分流を循環路から連続的に排出した。