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特許7463061石油残渣焚きボイラシステムおよび石油残渣焚きボイラを用いた石油残渣の燃焼制御方法
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  • 特許-石油残渣焚きボイラシステムおよび石油残渣焚きボイラを用いた石油残渣の燃焼制御方法 図1
  • 特許-石油残渣焚きボイラシステムおよび石油残渣焚きボイラを用いた石油残渣の燃焼制御方法 図2
  • 特許-石油残渣焚きボイラシステムおよび石油残渣焚きボイラを用いた石油残渣の燃焼制御方法 図3
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  • 特許-石油残渣焚きボイラシステムおよび石油残渣焚きボイラを用いた石油残渣の燃焼制御方法 図5
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  • 特許-石油残渣焚きボイラシステムおよび石油残渣焚きボイラを用いた石油残渣の燃焼制御方法 図7
  • 特許-石油残渣焚きボイラシステムおよび石油残渣焚きボイラを用いた石油残渣の燃焼制御方法 図8
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】石油残渣焚きボイラシステムおよび石油残渣焚きボイラを用いた石油残渣の燃焼制御方法
(51)【国際特許分類】
   F22B 35/00 20060101AFI20240401BHJP
   F23N 3/00 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
F22B35/00 H
F23N3/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019073134
(22)【出願日】2019-04-05
(65)【公開番号】P2020169794
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹中 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】森 宏之
(72)【発明者】
【氏名】俣野 岳生
【審査官】大谷 光司
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-087973(JP,A)
【文献】特開2002-287821(JP,A)
【文献】特開2002-168437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F22B 35/00
F23N 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石油残渣が生成される石油残渣供給施設と、
前記石油残渣供給施設から搬送された前記石油残渣を燃料とする石油残渣焚きボイラを備えた石油残渣利用施設と、
制御装置と、を備え、
前記石油残渣焚きボイラは、バーナが設置される第1燃焼ゾーンと、前記第1燃焼ゾーンから流出した燃焼ガスが流入する第2燃焼ゾーンと、を含む燃焼室を備え、
前記制御装置は、
前記石油残渣供給施設から搬送される前記石油残渣の種類、成分または性状に関する残渣情報を取得し、
前記残渣情報が窒素比率を含み、取得した前記窒素比率が基準値より高い場合に、前記第1燃焼ゾーンにおける空気比を下げ、前記第2燃焼ゾーンにおける空気比を上げつつ、前記燃焼室全体における空気比が前記基準値における空気比と等しくなるように調整する、または、
前記残渣情報が残留炭素比率を含み、取得した前記残留炭素比率が基準値より高い場合に、前記第1燃焼ゾーンにおける空気比を上げ、前記第2燃焼ゾーンにおける空気比を下げつつ、前記燃焼室全体における空気比が前記基準値における空気比と等しくなるように調整する、石油残渣焚きボイラシステム。
【請求項2】
前記石油残渣利用施設は、前記石油残渣供給施設とは離隔して設けられる、請求項1に記載の石油残渣焚きボイラシステム。
【請求項3】
前記石油残渣供給施設と前記制御装置とは、通信可能に接続され、
前記石油残渣供給施設は、前記残渣情報として原油または石油残渣の成分分析を行うことにより得られた前記石油残渣の成分または性状の情報を取得し、前記残渣情報を前記制御装置に送信する、請求項1または2に記載の石油残渣焚きボイラシステム。
【請求項4】
石油残渣が生成される石油残渣供給施設と、
前記石油残渣供給施設から搬送された前記石油残渣を燃料とする石油残渣焚きボイラを備えた石油残渣利用施設と、
制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記石油残渣供給施設から搬送される前記石油残渣の種類、成分または性状に関する残渣情報を取得し、
取得した前記残渣情報に基づいて、前記石油残渣焚きボイラを用いた前記石油残渣の燃焼制御を行い、
前記石油残渣は、前記石油残渣供給施設から前記石油残渣利用施設に所定の収容体に収容された状態で搬送され、
前記石油残渣供給施設において原油または石油残渣の成分分析を行うことにより得られた前記石油残渣の成分または性状の情報が、前記残渣情報として、前記収容体に付属される、石油残渣焚きボイラシステム。
【請求項5】
石油残渣が生成される石油残渣供給施設と、
前記石油残渣供給施設から搬送された前記石油残渣を燃料とする石油残渣焚きボイラを備えた石油残渣利用施設と、
制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記石油残渣供給施設から搬送される前記石油残渣の種類、成分または性状に関する残渣情報を取得し、
取得した前記残渣情報に基づいて、前記石油残渣焚きボイラを用いた前記石油残渣の燃焼制御を行い、
前記石油残渣供給施設で生じた石油残渣を性状の違いに応じて個別に貯留する複数の貯留設備と、
前記複数の貯留設備に貯留される互いに性状の異なる石油残渣を指定された混合比となるようにそれぞれ投入して混合する混合機と、を備えた、石油残渣焚きボイラシステム。
【請求項6】
石油残渣が生成される石油残渣供給施設から搬送される石油残渣を燃料とする石油残渣焚きボイラを用いた石油残渣の燃焼制御方法であって、
前記石油残渣焚きボイラは、バーナが設置される第1燃焼ゾーンと、前記第1燃焼ゾーンから流出した燃焼ガスが流入する第2燃焼ゾーンと、を含む燃焼室を備え、
前記燃焼制御方法は、
前記石油残渣供給施設から搬送される前記石油残渣の種類、成分または性状に関する残渣情報を取得し、
前記残渣情報が窒素比率を含み、取得した前記窒素比率が基準値より高い場合に、前記第1燃焼ゾーンにおける空気比を下げ、前記第2燃焼ゾーンにおける空気比を上げつつ、前記燃焼室全体における空気比が前記基準値における空気比と等しくなるように調整する、または、
前記残渣情報が残留炭素比率を含み、取得した前記残留炭素比率が基準値より高い場合に、前記第1燃焼ゾーンにおける空気比を上げ、前記第2燃焼ゾーンにおける空気比を下げつつ、前記燃焼室全体における空気比が前記基準値における空気比と等しくなるように調整する、燃焼制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油残渣を燃料とする石油残渣焚きボイラを含む石油残渣焚きボイラシステムおよび石油残渣焚きボイラを用いた石油残渣の燃焼制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、製油所等の石油精製施設では、常圧蒸留装置を用いて原油を、沸点に応じて異なる複数種類の留分(例えば、ナフサ、ガソリン、軽油、重油等)に分離している。このうち、重油は、ボイラまたは船舶の燃料として利用されているが、重油には、硫黄、窒素等の不純物が含まれているため、燃焼時にSOxまたはNOx等の排出が懸念される環境負荷が大きい燃料と言える。このため、今後は重油を燃料としてそのまま利用しなくなり、重油の需要が低下することが予想される。
【0003】
これに関し、常圧蒸留装置で分離された重油をさらに精製してガソリン等のより低い沸点の留分を取り出す分解装置が知られている(例えば、下記特許文献1参照)。このような分解装置により、重油から再度需要の高い留分を取り出すことができるが、それにより難燃性の石油残渣が残留分として排出される。したがって、今後はこのような石油残渣の排出量が増加することが予想される。
【0004】
石油残渣の利用態様として、これを燃料とする専焼ボイラ(以下、石油残渣焚きボイラ)が知られている(例えば、下記特許文献2参照)。上述した通り、今後は石油残渣の排出量の増加が見込まれるため、石油残渣焚きボイラの数および規模が増大することが予想される。したがって、石油残渣焚きボイラにおけるさらなる燃焼効率の上昇および石油残渣の燃焼によるSOx、NOx、煤塵等の大気汚染物質のさらなる排出抑制が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-297471号公報
【文献】特開2012-107825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、石油残渣焚きボイラにおいて燃焼効率を上昇させつつ、大気汚染物質の排出を抑制することができる石油残渣焚きボイラシステムおよび石油残渣焚きボイラを用いた石油残渣の燃焼制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の一態様に係る石油残渣焚きボイラシステムは、石油残渣が生成される石油残渣供給施設と、前記石油残渣供給施設から搬送された前記石油残渣を燃料とする石油残渣焚きボイラを備えた石油残渣利用施設と、制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記石油残渣供給施設から搬送される前記石油残渣の種類、成分または性状に関する残渣情報を取得し、取得した前記残渣情報に基づいて、前記石油残渣焚きボイラを用いた前記石油残渣の燃焼制御を行うよう構成されている。
【0008】
上記構成によれば、石油残渣焚きボイラに投入される石油残渣の種類、成分または性状(以下、性状等)に関する残渣情報に基づいて石油残渣焚きボイラを用いた石油残渣の燃焼が制御される。石油残渣焚きボイラの燃料である石油残渣は、性状等が、原油の採掘地等や採掘時期(ロット)等に応じて種々変化し得る。石油残渣焚きボイラにおいて、石油残渣の性状等が予期せず変化すると、燃焼時に生じる大気汚染物質の量が想定されている量より多くなったり、過剰に燃焼することにより燃焼効率が悪化したりする。
【0009】
このため、石油残渣焚きボイラの制御装置において石油残渣供給施設から石油残渣の性状等に関する残渣情報を取得することにより、石油残渣焚きボイラに燃料として投入される石油残渣の性状等を事前に把握してその性状等に応じた燃焼制御を実行することができる。したがって、石油残渣焚きボイラにおいて燃焼効率を上昇させつつ、大気汚染物質の排出を抑制することができる。
【0010】
前記石油残渣利用施設は、前記石油残渣供給施設とは離隔して設けられてもよい。互いの施設に作業者が行き来し難い場合でも石油残渣焚きボイラに燃料として投入される石油残渣の性状等を事前に把握してその性状等に応じた燃焼制御を実行することができる。
【0011】
前記石油残渣供給施設と前記制御装置とは、通信可能に接続され、前記石油残渣供給施設は、前記残渣情報として原油または石油残渣の成分分析を行うことにより得られた前記石油残渣の成分または性状の情報を取得し、前記残渣情報を前記制御装置に送信してもよい。また、前記石油残渣は、前記石油残渣供給施設から前記石油残渣利用施設に所定の収容体に収容された状態で搬送され、前記石油残渣供給施設において原油または石油残渣の成分分析を行うことにより得られた前記石油残渣の成分または性状の情報が、前記残渣情報として、前記収容体に付属されてもよい。
【0012】
このような構成により、石油残渣供給施設において原油または石油残渣の成分分析を行った結果を用いて石油残渣の燃焼制御を行うことができる。
【0013】
前記石油残渣の成分または性状の情報は、硫黄比率、窒素比率、残留炭素比率、および粘度の少なくとも何れか1つを含んでもよい。
【0014】
前記石油残渣利用施設は、搬送された前記石油残渣の粘度を計測する粘度計を備え、前記制御装置は、前記粘度計で得られた前記石油残渣の粘度を前記残渣情報として取得してもよい。これによれば、石油残渣利用施設において石油残渣焚きボイラに燃料として投入される石油残渣の粘度が取得できる。このため、石油残渣供給施設から情報を得ることなく、簡単な構成で、石油残渣燃料の粘度に応じた石油残渣の燃焼制御を行うことができる。
【0015】
前記石油残渣焚きボイラシステムは、前記石油残渣供給施設で生じた石油残渣を性状の違いに応じて個別に貯留する複数の貯留設備と、前記複数の貯留設備に貯留される互いに性状の異なる石油残渣を指定された混合比となるようにそれぞれ投入して混合する混合機と、を備えてもよい。これによれば、性状が異なる複数種類の石油残渣を混合することにより、石油残渣焚きボイラに供給される石油残渣の性状を安定させることができる。
【0016】
前記制御装置は、前記残渣情報に応じて前記石油残渣焚きボイラの燃焼室における空気比を調整してもよい。
【0017】
本発明の他の態様に係る石油残渣焚きボイラを用いた石油残渣の燃焼制御方法は、石油残渣が生成される石油残渣供給施設から搬送される石油残渣を燃料とする石油残渣焚きボイラを用いた石油残渣の燃焼制御方法であって、前記燃焼制御方法は、前記石油残渣供給施設から搬送される前記石油残渣の種類、成分または性状に関する残渣情報を取得し、取得した前記残渣情報に基づいて、前記石油残渣焚きボイラを用いた石油残渣の燃焼制御を行う。
【0018】
上記方法によれば、石油残渣焚きボイラに投入される石油残渣の種類、成分または性状(以下、性状等)に関する残渣情報に基づいて石油残渣焚きボイラを用いた石油残渣の燃焼が制御される。石油残渣焚きボイラの燃料である石油残渣は、性状等が、原油の採掘地等や採掘時期(ロット)等に応じて種々変化し得る。石油残渣焚きボイラにおいて、石油残渣の性状等が予期せず変化すると、燃焼時に生じる大気汚染物質の量が想定されている量より多くなったり、過剰に燃焼することにより燃焼効率が悪化したりする。
【0019】
このため、石油残渣焚きボイラの燃焼を制御するために、石油残渣供給施設から石油残渣の性状等に関する残渣情報を取得することにより、石油残渣焚きボイラに燃料として投入される石油残渣の性状等を事前に把握してその性状等に応じた燃焼制御を実行することができる。したがって、石油残渣焚きボイラにおいて燃焼効率を上昇させつつ、大気汚染物質の排出を抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、石油残渣焚きボイラにおいて燃焼効率を上昇させつつ、大気汚染物質の排出を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の一実施の形態に係る石油残渣焚きボイラシステムの概略構成を示すブロック図である。
図2図2は、図1に示す石油残渣焚きボイラにおける燃焼室の概略構成を示す図である。
図3図3は、図1に示す石油残渣焚きボイラシステムにおける制御系の構成を示すブロック図である。
図4図4は、図1に示す石油残渣利用施設における第2追従制御を説明するためのブロック図である。
図5図5は、図1に示す石油残渣利用施設における第3追従制御を説明するためのブロック図である。
図6図6は、図1に示す石油残渣利用施設における第4追従制御を説明するためのブロック図である。
図7図7は、図1に示す石油残渣利用施設における第5追従制御を説明するためのブロック図である。
図8図8は、図1に示す石油残渣利用施設における第6追従制御を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施の形態に係る石油残渣焚きボイラシステムについて説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係る石油残渣焚きボイラシステムの概略構成を示すブロック図である。なお、図1においては、原油ないし石油残渣の燃料の流れを一点鎖線の矢印で示し、後述する石油残渣焚きボイラで生成された蒸気の流れを破線の矢印で示し、制御の流れを実線の矢印で示している。
【0023】
石油残渣焚きボイラシステム1は、石油残渣が生成される石油残渣供給施設2と、少なくとも1つの石油残渣利用施設3に設けられた石油残渣焚きボイラ7とを含んでいる。石油残渣供給施設2は、例えば石油精製装置を備えた製油所等である。石油残渣供給施設2は、重油を分解して石油残渣を生じる分解装置4を備えている。本実施の形態において、石油残渣供給施設2は、常圧蒸留装置5をさらに備えている。常圧蒸留装置5は、原油を沸点に応じて異なる複数種類の留分(例えば、ナフサ、ガソリン、軽油、重油等)に分離するように構成されている。常圧蒸留装置5で分離された重油が分解装置4に供給される。常圧蒸留装置5は、各留分を分離した残りの残留物である常圧残油を排出する。分解装置4は、重油を分解してガソリン等のより低い沸点の留分を取り出すように構成されている。この際、分解装置4は、重油から低沸点の留分を取り出した残りの残留物を石油残渣として排出する。石油残渣供給施設2は、図示しない減圧蒸留装置を備えていてもよい。減圧蒸留装置は、常圧蒸留装置5で分離された常圧残油をさらに蒸留分離して、減圧軽油を取り出す。減圧蒸留装置は、減圧軽油を分離した残りの残留物である減圧残油を排出する。石油精製装置は、上記のような常圧蒸留装置5、分解装置4および減圧蒸留装置の少なくとも何れか1つを含んでいる。
【0024】
さらに、石油残渣供給施設2は、管理装置6を備えている。管理装置6は、図示しない演算装置、記憶装置等を備えたコンピュータとして構成される。管理装置6は、原油ないし石油残渣の種類、成分または性状(以下、性状等)のデータを取得し、管理する。例えば、石油残渣供給施設2は、供給される原油のロットごとに成分分析を行い、その性状等をロット番号とともに管理装置6に記憶させる。これに加えて、または、これに代えて、原油の採掘地が異なるごとに原油ないし石油残渣に対して成分分析を行ってもよい。
【0025】
石油残渣利用施設3は、石油残渣を燃料とする石油残渣焚きボイラ7を備えている。石油残渣焚きボイラ7は、石油残渣を燃料として燃焼することにより、蒸気を生成する。石油残渣利用施設3は、石油残渣焚きボイラ7で生成された蒸気を用いて製品の製造等を行う蒸気利用プラント8を備えている。
【0026】
石油残渣利用施設3は、石油残渣供給施設2とは別に設けられている。本実施の形態において、石油残渣利用施設3は、石油残渣供給施設2とは、離隔して設けられる。石油残渣供給施設2と石油残渣利用施設3とは、互いに異なる区画として明確に区画されている。図1の例では、石油残渣供給施設2と石油残渣利用施設3とは、少なくとも1つの公道R1により隔てられている。なお、区画の態様は、これに限定されない。例えば、石油残渣供給施設2と石油残渣利用施設3とは、少なくとも1つのフェンス、少なくとも1つの私道により隔てられていてもよい。また、石油残渣供給施設2と石油残渣利用施設3とは、所有者または当該施設2,3における事業者または利用者が異なっていてもよい。石油残渣利用施設3は、例えば、石油化学工場、製鉄工場、製紙工場、発電所等、蒸気を大量に使用する工場施設である。例えば、石油残渣利用施設3は、工場地帯に設けられる。
【0027】
石油残渣供給施設2にも石油残渣焚きボイラ9が設けられる。石油残渣供給施設2は、石油残渣焚きボイラ9で生成された蒸気を用いて石油の精製等を行う蒸気利用プラント10を備えている。なお、図1においては、蒸気利用プラント10を分解装置4および常圧蒸留装置5とは別の設備として示しているが、この蒸気利用プラント10には、分解装置4および常圧蒸留装置5も含まれる。さらに、石油残渣供給施設2が減圧蒸留装置を備えている場合には、減圧蒸留装置も蒸気利用プラント10に含まれる。
【0028】
なお、以下では、石油残渣供給施設2に設けられる石油残渣焚きボイラ9と石油残渣利用施設3に設けられる石油残渣焚きボイラ7とを区別して説明する場合には、石油残渣供給施設2に設けられる石油残渣焚きボイラ9を第1石油残渣焚きボイラ9と称し、石油残渣利用施設3に設けられる石油残渣焚きボイラ7を第2石油残渣焚きボイラ7と称する。なお、図面において、第1石油残渣焚きボイラ9を第1ボイラと表記し、第2石油残渣焚きボイラ7を第2ボイラと表記する。
【0029】
石油残渣供給施設2の分解装置4で生じた石油残渣は、同施設内の第1石油残渣焚きボイラ9に搬送されるとともに、石油残渣利用施設3の第2石油残渣焚きボイラ7にも搬送される。第1石油残渣焚きボイラ9または第2石油残渣焚きボイラ7への石油残渣の搬送は、石油残渣が固体(塊状または粉体)の場合、例えばベルトコンベヤ(図示せず)により行われ、石油残渣が液状の場合、例えば残渣供給配管(図示せず)を通じて行われてもよい。また、石油残渣利用施設3が石油残渣供給施設2から比較的遠隔地にある場合には、例えば固体または液状の石油残渣が収容される所定の収容体を備えたトラック、または、所定の収容体が積載されるトラック等により搬送してもよい。
【0030】
石油残渣供給施設2には、主に第1石油残渣焚きボイラ9を制御する制御装置(第1制御装置)11が設けられる。同様に、石油残渣利用施設3には、主に第2石油残渣焚きボイラ7を制御する制御装置(第2制御装置)12が設けられる。これらの制御装置11,12は、マイクロコントローラ、記憶装置、操作入力装置等を備えている。
【0031】
石油残渣供給施設2は、外部の蒸気利用施設(図示せず)に第1石油残渣焚きボイラ9で生成された蒸気を供給可能である。同様に、石油残渣利用施設3は、外部の蒸気利用施設(図示せず)に第2石油残渣焚きボイラ7で生成された蒸気を供給可能である。なお、外部の蒸気利用施設は、1または複数設けられていてもよいし、設けられていなくてもよい。また、石油残渣供給施設2および石油残渣利用施設3の何れからも蒸気が供給可能な外部の蒸気利用施設が存在してもよい。
【0032】
さらに、石油残渣供給施設2および石油残渣利用施設3には、それぞれ、石油残渣焚きボイラ9,7で生成された蒸気を用いて発電を行う発電装置(蒸気発電装置)51,52が設けられている。発電装置51,52は、石油残渣供給施設2内または石油残渣利用施設3内に設けられていてもよいし、施設外に設けられていてもよい。発電装置51,52に供給された蒸気は、発電に利用された後に排気される。この排気が、蒸気利用プラント10,8に供給されてもよい。
【0033】
なお、図1には、石油残渣焚きボイラシステム1として、1つの石油残渣供給施設2と1つの石油残渣利用施設3とを備えた構成が示されている。これに代えて、1つの石油残渣供給施設2と複数の石油残渣利用施設3とを備えていてもよい。複数の石油残渣利用施設3の構成は、上述した石油残渣利用施設3の構成と同様の構成を有していてもよいし、ボイラ7以外の構成が異なっていてもよい。
【0034】
このように、石油残渣利用施設3として蒸気を大量に使用する工場施設に、第2石油残渣焚きボイラ7が設けられることにより、当該工場施設(石油残渣利用施設3)における蒸気の安定供給を実現することができる。また、石油残渣利用施設3において使用される蒸気量の変動に柔軟に対応して、蒸気生成量の調整を行うことができる。また、第2石油残渣焚きボイラ7で生成される蒸気のうち、工場施設で使用する割合および発電装置52での発電に供給される割合をより直接的に計画、設定することができる。
【0035】
図2は、図1に示す石油残渣焚きボイラにおける燃焼室の概略構成を示す図である。図2においては、第2石油残渣焚きボイラ7を例示するが、第1石油残渣焚きボイラ9の構成も同様である。
【0036】
図2に示す石油残渣焚きボイラ7は、高温燃焼ゾーン21および二段燃焼ゾーン22を含む燃焼室を備えている。燃焼室の下方に位置する高温燃焼ゾーン21には、石油残渣を燃焼するためのバーナ24が設けられる。高温燃焼ゾーン21には炉内側全面に約2000℃の炉内温度に対応させるための耐火材25が貼設されている。
【0037】
高温燃焼ゾーン21の上部における燃焼ガス流出部には、絞り部23が形成されている。絞り部23により、高温燃焼ゾーン21から二段燃焼ゾーン22へ燃焼ガスが通過する断面積が、高温燃焼ゾーン21における燃焼ガス通過断面積よりも20~50%縮小される。絞り部23の燃焼ガス流入側の炉内に面する側にも、高温燃焼ゾーン21と同様に耐火材25が貼設されている。これにより、熱伝達によって高温燃焼ゾーン21内の温度が低下することが防止される。
【0038】
絞り部23の上方には、水冷壁構造からなる二段燃焼ゾーン22が形成されている。二段燃焼ゾーン22の上方には蒸気過熱器27が配設されている。また、二段燃焼ゾーン22の側壁には、高温燃焼ゾーン21から排出される燃焼ガス中に含まれる未燃分を燃焼させるための空気を供給する二段燃焼用空気ノズル26が単段あるいは複数段配設される。
【0039】
このような石油残渣焚きボイラ7において、まずバーナ24に供給された石油残渣は、高温燃焼ゾーン21における空気比が1未満(例えば0.7程度)の還元雰囲気に維持されるように燃焼される。高温燃焼ゾーン21の内面は二段燃焼ゾーン22の開口部を除いて全面が耐火材25によって覆われていることにより、燃焼室内部は平均約1500℃の高温に保持される。
【0040】
このような条件下においては、先ず燃料中のN分の酸化に基づくフューエルNOxと、大気中のN分酸化に基づくサーマルNOxとが生成される。しかし、高温燃焼ゾーン21内が高温還元雰囲気中であることにより、その大部分は分解してNとなり、その他の一部はNH(アンモニア)あるいはHCN(シアン)等の有機窒素化合物の形で存在する。
【0041】
これらのNHあるいはHCNは酸素と反応して可燃分が燃焼し、フューエルNOxを発生する。しかし、燃焼室内酸素濃度が低く保たれていることにより、フューエルNOxへの転換率は低く抑えられる。また、生成されたNOxはさらに高温還元雰囲気内に保持されることにより、窒素に熱分解される。
【0042】
高温燃焼ゾーン21から流出した燃焼ガスは、絞り部23を通じて二段燃焼ゾーン22に流入する。二段燃焼ゾーン22には、二段燃焼用空気ノズル26から燃焼用空気が導入される。これにより、二段燃焼ゾーン22は、空気比が1以上(例えば、1.1程度)の酸化雰囲気に維持される。二段燃焼ゾーン22内に流入した燃焼ガスは、二段燃焼用空気ノズル26から送入される燃焼用空気と接触してガス中の未燃分の燃焼を完結させ(完全燃焼し)、蒸気過熱器27を通じて燃焼室から流出される。
【0043】
一般に、石油残渣燃料の燃焼におけるNOxの発生量は、燃焼温度と空気比に強く依存する。すなわち、還元雰囲気下では高温燃焼になるほどNOx発生量が少なく、酸化雰囲気下では低温燃焼になるほどNOx発生量が少ない。本実施の形態に係る石油残渣焚きボイラ7では、高温燃焼ゾーン21の高温還元雰囲気下で燃料を燃焼させることによりフューエルNOxの発生が抑制され、二段燃焼ゾーン22の低温酸化雰囲気下で燃焼ガス中の未燃分を完全に燃焼させることによりサーマルNOxの発生が抑制される。本実施の形態に係る石油残渣焚きボイラ7では、上記のような二段燃焼方式を採用することにより、効果的にNOx発生量を低減することができる。
【0044】
本実施の形態において、第2制御装置12は、石油残渣供給施設2から搬送される石油残渣の種類、成分または性状に関する残渣情報を取得し、取得した残渣情報に基づいて、第2石油残渣焚きボイラ7における燃焼制御を行うよう構成されている。本実施の形態において、第2制御装置12は、以下に示す、長期の残渣情報追従制御(第1~第4追従制御)および短期の残渣情報追従制御(第5および第6追従制御)を実行する。
【0045】
ここで、石油残渣の種類には、例えば、床積みコークス(bed cokes)、湿潤コークス(wet cokes)、減圧残油(VR:Vacuum Residue)、SDA(Solvent De-Asphalting)ピッチ等が含まれる。また、石油残渣の成分には、硫黄成分、窒素成分、残留炭素、その他の不純物等が含まれる。また、性状には、粘度(動粘度)、温度等が含まれる。
【0046】
なお、これらの制御態様は何れも独立して実行可能かつ並存可能である。したがって、下記制御態様のうちの少なくとも1つのみを実行してもよいし、6つの追従制御のうちのいくつかの制御態様を適宜組み合わせてもよい。また、一の石油残渣供給施設2に対して複数の石油残渣利用施設3が存在する場合に、石油残渣利用施設3によって実施される制御態様が異なってもよい。また、以下では第2石油残渣焚きボイラ7およびこれを制御する第2制御装置12における動作を中心に説明するが、第1石油残渣焚きボイラ9およびこれを制御する第1制御装置11においても同様に適用可能である。
【0047】
[長期の残渣情報追従制御1(第1追従制御)]
図3は、図1に示す石油残渣焚きボイラシステムにおける制御系の構成を示すブロック図である。図3に示すように、石油残渣供給施設2の管理装置6は、石油残渣供給施設2内の第1石油残渣焚きボイラ9を制御する第1制御装置11と通信可能に接続されている。管理装置6と第1制御装置11とは、LAN等により接続されてもよいし、下記所定の通信網15を介して接続されてもよい。
【0048】
さらに、管理装置6は、インターネット等の所定の通信網15を介して石油残渣利用施設3内の第2石油残渣焚きボイラ7を制御する第2制御装置12と通信可能に接続されている。石油残渣供給施設2の管理装置6は、上述のように原油または石油残渣の成分分析を行うことにより得られた石油残渣の性状等の情報を記憶する。管理装置6は、所定のタイミングで記憶された石油残渣の性状等の情報を読み出し、残渣情報として第2石油残渣焚きボイラ7の第2制御装置12に送信する。長期の残渣情報追従制御において利用される石油残渣の性状等としては、特に、硫黄比率、窒素比率、残留炭素比率および粘度(動粘度)が用いられる。
【0049】
管理装置6からの残渣情報の送信タイミングは、特に限定されないが、例えば、原油のロット変更時、原油の採掘地変更時、所定の期間(例えば1か月または1週間等)ごと、第2制御装置12からの問い合わせ信号を受信したとき、または、これらの組み合わせ等、種々設定され得る。このように、管理装置6における残渣情報の送信は、定期的に行われてもよいし、不定期的に行われてもよい。
【0050】
残渣情報には、上記石油残渣の性状等の情報に加えて、当該性状を有する石油残渣の石油残渣利用施設3(第2石油残渣焚きボイラ7)に搬送される時期(搬送が開始される月日等)の情報が含まれる。第2制御装置12は、残渣情報を受信した場合、その残渣情報を記憶する。例えば、1月の残渣情報には、1月に搬送される石油残渣の種類、成分比率等の情報が含まれ、2月の残渣情報には、2月に搬送される石油残渣の種類、成分比率等の情報が含まれる。
【0051】
その後、石油残渣が石油残渣供給施設2から石油残渣利用施設3へ搬送される。搬送手段は、上述したような、ベルトコンベヤ、残渣供給配管、トラック等が採用可能であり、特に限定されない。なお、搬送される石油残渣は、固体(塊状または粉体)または液状の何れでもよい。固体の場合は、ベルトコンベヤ、トラック等で搬送される。液状の場合は残渣供給配管、トラック等で搬送される。石油残渣利用施設3に搬送された固体の石油残渣は、固体(塊状または粉体)のまま第2石油残渣焚きボイラ7に投入され得る。また、後述するように、石油残渣は、第2石油残渣焚きボイラ7に投入される前に加熱され得る。固体の石油残渣を加熱することにより石油残渣を液状化し、液状の石油残渣が第2石油残渣焚きボイラ7に投入されてもよい。
【0052】
石油残渣利用施設3には、図3に示すように、搬送された石油残渣を一時貯留する複数の貯留設備(複数区画を有する貯留ピットまたは複数の貯留タンク等)16が設けられている。搬送された石油残渣は、その石油残渣の搬送時期に応じて異なる貯留設備に貯留される。例えば、1月に搬送された石油残渣は、第1貯留設備(第1ピット)に貯留され、2月に搬送された石油残渣は、第2貯留設備(第2ピット)に貯留される。
【0053】
第1貯留設備に貯留された石油残渣が燃料として使用され、第1貯留設備に貯留された石油残渣が例えば2か月でなくなれば、3月に搬送された石油残渣は、第1貯留設備に貯留され得る。また、今回搬送された石油残渣の性状等が以前に搬送され、一の貯留設備16に貯留されている石油残渣と同様である場合には、今回搬送された石油残渣を当該貯留設備16に貯留してもよい。すなわち、石油残渣の性状等に応じて石油残渣が貯留される貯留設備(貯留設備番号)が決定されてもよい。
【0054】
各貯留設備16に貯留された石油残渣の搬送時期(貯留時期)の情報は、第2制御装置12に入力される。第2制御装置12は、入力された貯留設備16の情報(貯留設備16ごとに割り振られた貯留設備番号等の情報)と、残渣情報とを、石油残渣の搬送時期によって対応付けて記憶する。これにより、第2制御装置12は、各貯留設備16に貯留されている石油残渣の性状等の情報を取得可能となる。
【0055】
第2制御装置12は、第2石油残渣焚きボイラ7に供給される石油残渣が貯留されていた貯留設備16に対応付けられている残渣情報を読み出す。例えば、一月ごとに石油残渣が搬送される場合、第2制御装置12は、その月の初めに、第2石油残渣焚きボイラ7に供給される石油残渣が貯留される貯留設備16の番号と、当該貯留設備16に対応付けられている残渣情報を読み出す。第2制御装置12は、読み出した残渣情報に基づいて第2石油残渣焚きボイラ7を用いた石油残渣の燃焼制御を行う。
【0056】
より具体的には、第2制御装置12は、第2石油残渣焚きボイラ7における燃焼制御として残渣情報に応じて第2石油残渣焚きボイラ7の燃焼室における空気比を調整する。例えば、第2石油残渣焚きボイラ7に投入される石油残渣燃料において窒素比率が基準値より高い場合、高温燃焼ゾーン21における空気比を下げて還元雰囲気を促進させるとともに、二段燃焼用空気ノズル26から二段燃焼ゾーン22に導入される空気量を増やして二段燃焼ゾーン22の空気比を上げる。このとき、高温燃焼ゾーン21および二段燃焼ゾーン22を含む燃焼室全体の空気比は窒素比率が基準値である場合とほぼ等しくなるように調整される。
【0057】
また、投入される石油残渣燃料において残留炭素比率が基準値より高い場合、高温燃焼ゾーン21における空気比を上げて還元雰囲気を抑制させるとともに、二段燃焼用空気ノズル26から二段燃焼ゾーン22に導入される空気量を減らして二段燃焼ゾーン22の空気比を下げる。このとき、高温燃焼ゾーン21および二段燃焼ゾーン22を含む燃焼室全体の空気比は残留炭素比率が基準値である場合とほぼ等しくなるように調整される。なお、投入される石油残渣燃料において硫黄比率が基準値より高い場合には、図示しない脱硫設備において脱硫処理に用いられる吸着剤の量を増やす。同様に、投入される石油残渣燃料において窒素比率が基準値より高い場合には、図示しない脱硝設備において脱硝処理に用いられる添加剤の量を増やす。また、残渣情報に粘度が含まれている場合には、後述する第3追従制御と同様の制御が行われ得る。
【0058】
このように、本明細書における第2石油残渣焚きボイラ7を用いた石油残渣の燃焼制御には、第2石油残渣焚きボイラ7における燃焼制御(燃焼中の制御)だけでなく、第2石油残渣焚きボイラ7における燃焼前後の制御(燃焼の前処理または後処理における制御)を含み得る。すなわち、本実施の形態における制御対象は、第2石油残渣焚きボイラ7だけでなく、第2石油残渣焚きボイラ7に付随する装置(例えば上述した脱硫設備、脱硝設備、後述する加熱機42等)をも含み得る。言い換えると、第2制御装置12は、石油残渣焚きボイラシステム1の制御装置として構成される。なお、以下では、単に第2石油残渣焚きボイラ7の燃焼制御と略記する場合がある。
【0059】
原油のロット変更時、原油の採掘地変更等により、原油の組成が変化すると、当該原油から得られる石油残渣の成分も変化する。また、常圧蒸留装置5または分解装置4における原油の処理過程の一部に休止期間が存在した場合等、原油から石油残渣の生成プロセスにおいて石油残渣の成分または性状が変化する場合もある。このような石油残渣の性状等の変化の情報が石油残渣利用施設3に伝わらないと、第2石油残渣焚きボイラ7における燃焼制御がその変化に追従できず、例えばNOxやSOx等の環境汚染物質が一時的に増加する等の問題を生じる。
【0060】
そこで、本制御態様では、比較的長期(例えば1週間ないし1か月以上)の期間ごとの石油残渣の性状等の残渣情報を事前に取得し、取得した残渣情報に基づいて、第2石油残渣焚きボイラ7における燃焼制御を行っている。すなわち、本制御態様によれば、石油残渣供給施設2において、石油残渣利用施設3に供給する石油残渣の性状等の情報を残渣情報として生成し、石油残渣利用施設3における第2制御装置12にその石油残渣を送ることにより、石油残渣利用施設3に設けられた第2石油残渣焚きボイラ7の燃焼制御が残渣情報に基づいて行われる。立場を変えると、石油残渣利用施設3において、供給される石油残渣の性状等の情報を残渣情報として石油残渣供給施設2から取得し、第2石油残渣焚きボイラ7の燃焼制御を残渣情報に基づいて行う。これにより、第2石油残渣焚きボイラ7において石油残渣の性状等の変化に応じた燃焼制御を行うことができ、燃焼効率を上昇させて、大気汚染物質および灰の排出を抑制することができる。
【0061】
さらに、本制御態様においては、石油残渣供給施設2において原油または石油残渣の成分分析を行った結果が残渣情報として石油残渣利用施設3に送信されるため、この残渣情報を用いて第2石油残渣焚きボイラ7の燃焼制御を行うことができる。これにより、石油残渣利用施設3において燃料となる石油残渣の成分分析を改めて行う必要がなくなる。したがって、石油残渣利用施設3における設備を追加することなく、石油残渣の性状等に応じた石油残渣焚きボイラ7の燃焼制御を行うことができる。また、詳細な成分分析の結果に基づいて石油残渣の性状等を事前に取得して第2石油残渣焚きボイラ7の燃焼制御(フィードフォワード制御)を行うことにより、より効率的かつ追従性のよい制御を実現することができる。
【0062】
なお、本制御態様においては、複数の貯留設備16の情報(貯留設備番号等)と、各貯留設備16に貯留される石油残渣に対応する残渣情報を対応付ける態様に基づいて説明したが、第2石油残渣焚きボイラ7に投入される石油残渣に対応する残渣情報を第2制御装置12で取得可能な限り、これに限られない。
【0063】
[長期の残渣情報追従制御2(第2追従制御)]
図4は、図1に示す石油残渣利用施設における第2追従制御を説明するためのブロック図である。本制御態様に際して、石油残渣は、石油残渣供給施設2から石油残渣利用施設3に所定の収容体17に収容された状態で搬送される。図4の例では、石油残渣の収容体17が搭載されたトラック(タンクローリ等)18によって石油残渣が搬送される。
【0064】
収容体17には、収容される石油残渣の残渣情報として、石油残渣供給施設2において原油または石油残渣の成分分析を行うことにより得られた石油残渣の性状等の情報が、付属される。例えば、収容体17には、性状等の情報を記載したラベル19が貼付される。ラベル19には、性状等の情報(成分比率等)自体が記載されていてもよいし、当該情報がバーコードまたは二次元コード等のコンピュータにより読み取り可能なコードとして記載されていてもよい。
【0065】
収容体17に添付される情報は、石油残渣供給施設2の管理装置6により作成され、ラベル19として印刷される。印刷されたラベル19は、石油残渣供給施設2の作業者により、対応する収容体17に貼付される。
【0066】
なお、収容体17にラベル19を貼付する代わりに、収容体17にフラッシュメモリ等の記憶媒体が取り付けられていてもよい。この場合、管理装置6は、記憶媒体に石油残渣の性状等の情報を記憶させる。
【0067】
トラック18が石油残渣利用施設3に到着すると、石油残渣利用施設3の作業者により、ラベル19の情報が読み取られ、第2制御装置12に入力される。例えば、ラベル19が二次元コードである場合、石油残渣利用施設3の作業者は、二次元コードリーダ(図示せず)を用いてラベル19を読み取ることにより、ラベル19の情報が第2制御装置12に送られる。これに代えて、ラベル19が性状等の情報自体が記載されているものである場合、作業者は、所定の入力装置を用いて、ラベル19に記載された性状等の情報を手入力してもよい。
【0068】
第2制御装置12は、入力された石油残渣の性状等の情報を残渣情報として記憶する。残渣情報を利用した第2石油残渣焚きボイラ7の制御態様については、上記第1追従制御と同様である。
【0069】
第2追従制御においても第1追従制御と同様に、石油残渣供給施設2において原油または石油残渣の成分分析を行った結果を残渣情報として石油残渣利用施設3において取得することができるため、この残渣情報を用いて第2石油残渣焚きボイラ7の燃焼制御を行うことができる。これにより、石油残渣利用施設3において燃料となる石油残渣の成分分析を改めて行う必要がなくなる。したがって、石油残渣利用施設3における設備を追加することなく、石油残渣の性状等に応じた石油残渣焚きボイラ7の燃焼制御を行うことができる。また、詳細な成分分析の結果に基づいて石油残渣の性状等を事前に取得して第2石油残渣焚きボイラ7の燃焼制御(フィードフォワード制御)を行うことにより、より効率的かつ追従性のよい制御を実現することができる。
【0070】
[長期の残渣情報追従制御3(第3追従制御)]
図5は、図1に示す石油残渣利用施設における第3追従制御を説明するためのブロック図である。本制御に際しては、石油残渣が石油残渣供給施設2から石油残渣利用施設3へ搬送される。液状の石油残渣の搬送手段は、上述したような、残渣供給配管、トラック等が採用可能であり、特に限定されない。また、固体の石油残渣の搬送手段は、上記に加えて、ベルトコンベヤ等でもよい。
【0071】
石油残渣利用施設3は、搬送された石油残渣の粘度を計測する粘度計(第1粘度計)20aを備えている。第1粘度計20aによって計測される石油残渣の粘度は、計測時における石油残渣の温度(所定の第1温度)における粘度となる。液状の石油残渣において、図5に示すように、第1粘度計20aは、貯留設備16に貯留される前の石油残渣の粘度(所定の第1温度における粘度)を測定する。なお、これに代えて、第1粘度計20aは、貯留設備16から第2石油残渣焚きボイラ7に供給される際の(貯留設備16から取り出した)石油残渣の粘度を計測するように構成されてもよい。
【0072】
貯留設備16は、石油残渣の性状等を均一化するための撹拌機構および加温機構(何れも図示せず)を備えていてもよい。固体の石油残渣の場合、貯留設備16において攪拌および加温(予熱)されることにより、液状化する。したがって、固体の石油残渣において、第1粘度計20aは、貯留設備16の出口における石油残渣の粘度を測定する。すなわち、この場合の第1温度は、貯留設備16の出口における石油残渣の温度となる。なお、貯留設備16において加熱を行わない場合においては、貯留設備16に貯留される石油残渣をサンプリングして加熱等の所定の液化処理を行った後に粘度を計測してもよい。
【0073】
また、石油残渣利用施設3は、石油残渣を指定された加熱温度まで加熱する加熱機42を備えている。加熱機42は、第2石油残渣焚きボイラ7の排ガスを導入することにより、石油残渣を加熱するよう構成されていてもよい。第2石油残渣焚きボイラ7には、加熱機42で加熱された後の石油残渣が投入される。加熱機42は、図1から図4においては図示を省略している。
【0074】
第1粘度計20aで計測された石油残渣の粘度の情報は、第2制御装置12に送られる。第2制御装置12は、第1粘度計20aで得られた石油残渣の粘度を残渣情報(石油残渣の粘度に関する情報)として取得し、記憶する。このとき、図5の例において、第2制御装置12は、残渣情報(第1温度における粘度の情報)とともに、その石油残渣が貯留される貯留設備16の情報(貯留設備番号)を対応付けて記憶する。これにより、第2制御装置12は、各貯留設備16に貯留されている石油残渣の粘度の情報を取得可能となる。
【0075】
第2制御装置12は、第2石油残渣焚きボイラ7に供給される石油残渣が貯留されていた貯留設備16に対応付けられている残渣情報を読み出す。第2制御装置12は、読み出した残渣情報に基づいて第2石油残渣焚きボイラ7における燃焼制御を行う。具体的な制御態様は、後述する第5追従制御と同様である。このように、本制御態様によれば、石油残渣利用施設3において、石油残渣供給施設2から供給された石油残渣を計測または分析することにより、石油残渣の性状等の情報を残渣情報として取得し、第2石油残渣焚きボイラ7の燃焼制御を残渣情報に基づいて行う。これにより、第2石油残渣焚きボイラ7において石油残渣の性状等の変化に応じた燃焼制御を行うことができ、燃焼効率を上昇させて、大気汚染物質および灰の排出を抑制することができる。
【0076】
なお、第1粘度計20aは、石油残渣供給施設2に設けられ、石油残渣供給施設2における石油残渣の粘度を計測するように構成されてもよい。例えば、第1粘度計20aは、分解装置4から生成された石油残渣における粘度(分解装置4における石油残渣の出口温度)を計測してもよい。また、第1粘度計20aは、石油残渣利用施設3への搬送直前における石油残渣の粘度を計測してもよい。
【0077】
[長期の残渣情報追従制御4(第4追従制御)]
図6は、図1に示す石油残渣利用施設における第4追従制御を説明するためのブロック図である。本制御に際しては、石油残渣が石油残渣供給施設2から石油残渣利用施設3へ搬送されるとともに残渣情報が第2制御装置12に入力される。第2制御装置12における残渣情報の取得態様は、上記第1~第3追従制御の何れでもよい。
【0078】
本制御態様においては、上記第1~第3追従制御の何れかにより取得した残渣情報に基づいて、石油残渣供給装置2で生じた石油残渣が、複数の貯留設備16に、石油残渣の性状等の違いに応じて個別に貯留される。さらに、石油残渣利用施設3は、石油残渣を混合する混合機41と、混合後の石油残渣を指定された加熱温度まで加熱する加熱機42と、を備えている。混合機41は、図1から図5においては図示を省略している。加熱機42は、図1から図4においては図示を省略している。第1~第3追従制御において、混合機41には、一の貯留設備16に貯留されていた石油残渣が投入され、石油残渣の均質化処理が行われる(貯留設備16における撹拌機能に準ずる処理が行われる)。
【0079】
上記第1~第3追従制御において第2制御装置12が取得した残渣情報に含まれる石油残渣の性状等に関する値が所定の上限値を超える場合、混合機41は、互いに性状等が異なる複数の貯留設備16に貯留された石油残渣を混合するように構成される。なお、所定の上限値は、第2石油残渣焚きボイラ7における燃焼に関する制御では、対応できない(例えば環境基準等の制限を超えてしまう)値として、性状等の種類ごとに設定される。
【0080】
本制御態様によれば、取得した残渣情報に基づいて、複数の貯留設備16の中から混合する2以上の貯留設備16に貯留される石油残渣の組み合わせおよび各石油残渣の割合(混合比)が決定される。
【0081】
例えば、第1の貯留設備16に貯留される石油残渣を第2石油残渣焚きボイラ7に投入する場合、当該石油残渣において硫黄比率または窒素比率が上限値を超えるか否かが判定される。何れかの比率が上限値を超える場合、対応する硫黄比率または窒素比率が低い石油残渣が貯留されている第2の貯留設備16が選択される。この結果、混合機41において、第1の貯留設備16に貯留される石油残渣に、選択された第2の貯留設備16に貯留される石油残渣が、混合される。この際、混合される石油残渣のそれぞれの残渣情報から混合比が決定される。混合比は、混合後の硫黄比率および窒素比率が上限値以下である割合に決定される。なお、3つ以上の貯留設備16から石油残渣が混合されてもよい。
【0082】
このように、本制御態様によれば、性状が異なる複数種類の石油残渣を事前に混合することにより、第2石油残渣焚きボイラ7に供給される石油残渣の性状を安定させることができる。したがって、第2石油残渣焚きボイラ7において燃焼効率を上昇させつつ、大気汚染物質の排出を抑制することができる。
【0083】
なお、上限値を超えるか否かの判定、混合比の決定、および、混合する石油残渣(に対応する貯留設備16)の選択は、第2制御装置12が行ってもよいし、少なくとも何れか1つを石油残渣利用施設3の作業者が行ってもよい。例えば、第2制御装置12は、一の貯留設備16に貯留された石油残渣に関する残渣情報を取得した場合、当該残渣情報に含まれる性状等の値がそれぞれ予め設定された上限値より大きいか否かを判定する。上限値より大きいと判定した場合、第2制御装置12は、石油残渣利用施設3の作業者に、複数の貯留設備16に貯留された石油残渣を混合するべき旨、報知する。
【0084】
この際、第2制御装置12は、上限値より大きいと判定された性状等の値が上限値より小さい石油残渣が貯留された貯留設備16の情報を抽出し、その情報を合わせて報知してもよい。さらに、第2制御装置12は、一の貯留設備16と抽出した貯留設備16とを混合させる際の混合比を演算により決定してもよい。
【0085】
[短期の残渣情報追従制御1(第5追従制御)]
図7は、図1に示す石油残渣利用施設における第5追従制御を説明するためのブロック図である。本制御に際しては、石油残渣利用施設3において液状の石油残渣が第2石油残渣焚きボイラ7に供給される。ただし、石油残渣供給施設2から石油残渣利用施設3へ搬送される石油残渣は液状であっても固体であってもよい。
【0086】
上述したように、本実施の形態において、石油残渣利用施設3は、搬送された石油残渣の粘度を計測する粘度計(第2粘度計)20bを備えている。なお、本明細書では、計測場所の違いによって異なる粘度計(第1粘度計20a、第2粘度計20bおよび後述する第3粘度計20c)としているが、これらを共通の粘度計としてもよい。さらに、石油残渣利用施設3は、石油残渣を指定された粘度となるように加熱する加熱機42を備えている。本制御態様において、図6に示す混合機41はあってもなくてもよい。
【0087】
第2粘度計20bで計測された石油残渣の第1温度における粘度は、第2制御装置12に送られる。第2制御装置12は、第2粘度計20bで計測された石油残渣の第1温度における粘度を、第2石油残渣焚きボイラ7に供給される石油残渣の粘度に関する情報として取得する。
【0088】
第2制御装置12は、第2粘度計20bで計測された石油残渣の第1温度における粘度に基づいて加熱機42で加熱した後の石油残渣の粘度が所定の値になるように、加熱機42において石油残渣を加熱する温度を制御する。本制御態様において、第2粘度計20bは、加熱機42で加熱される前の第1温度における石油残渣の粘度を計測する。より具体的には、第2粘度計20bは、貯留設備16の出口における石油残渣の粘度を計測する。すなわち、第2粘度計20bが計測する石油残渣の温度(第1温度)は、貯留設備16の出口における石油残渣の温度となる。前述したように、貯留設備16は、撹拌機構および加温機構を備えており、貯留設備16の出口における石油残渣は、石油残渣が液状になる程度に加温(予熱)されている。
【0089】
第2石油残渣焚きボイラ7に投入される石油残渣の粘度(動粘度)は、所定の値(例えば25cSt)を維持することが好ましい。そのため、第2制御装置12は、第1温度における粘度が異なる石油残渣に対して加熱機42により石油残渣を加熱するための加熱温度を変化させる。これにより、加熱後の石油残渣の粘度を所定の値にする(第1温度における粘度によらず加熱機42における加熱後の粘度を一定値に保つ)制御を行う。
【0090】
このために、第2制御装置12の記憶部には、予め温度に対する粘度の相関関係のデータ(例えば相関関数または相関マップ等)が記憶されている。第2制御装置12は、第2石油残渣焚きボイラ7に石油残渣を供給する貯留設備16に貯留される石油残渣について第2粘度計20bで計測された第1温度における粘度の情報を取得する。そして、第2制御装置12は、相関関係のデータを用いて、粘度が所定の値になるときの温度(第2温度)を決定(算出)する。第2制御装置12は、石油残渣が決定された第2温度となるように、加熱機42を制御する。
【0091】
本制御態様によれば、第2石油残渣焚きボイラ7に燃料として投入される石油残渣が、第2石油残渣焚きボイラ7に投入される前に加熱機42で加熱されることにより、所定の粘度に維持される。これにより、石油残渣供給施設2から搬送される石油残渣の粘度が変化しても第2石油残渣焚きボイラ7において安定した燃焼を行うことができる。したがって、第2石油残渣焚きボイラ7において燃焼効率を上昇させつつ、大気汚染物質の排出を抑制することができる。また、加熱機42による加熱前の石油残渣の粘度から第2石油残渣焚きボイラ7への投入時の石油残渣の粘度を維持するように加熱機42における加熱温度を制御(フィードフォワード制御)することにより、より効率的かつ追従性のよい制御を実現することができる。
【0092】
さらに、第2制御装置12は、第2石油残渣焚きボイラ7の燃焼室における空気比を、加熱機42で加熱後の石油残渣の温度(第2温度)に応じて設定する。例えば、第2制御装置12は、第2石油残渣焚きボイラ7に投入される石油残渣の第2温度が基準値より高い場合には、空気比を高く設定する。これにより、燃え難い、硬い性状を有する石油残渣を燃え易くする。また、第2制御装置12は、第2石油残渣焚きボイラ7に投入される石油残渣の第2温度が基準値より低い場合には、空気比を低く設定する。これにより、燃え易い、軟らかい性状を有する石油残渣を燃え難くする。
【0093】
本制御態様によれば、第2石油残渣焚きボイラ7に燃料として投入される石油残渣は、第2石油残渣焚きボイラ7に投入される前に加熱機42で加熱されることにより、所定の粘度に維持される。しかし、加熱後の石油残渣の粘度を均一化した場合であっても、元の石油残渣の性状によっては、第2石油残渣焚きボイラ7に投入されるときの石油残渣の温度(第2温度)は、一定であるとは限らない。すなわち、第2石油残渣焚きボイラ7に投入されるときの石油残渣の粘度が同じでも、石油残渣の燃え易さには変化が生じ得る。したがって、第2石油残渣焚きボイラ7の燃焼室における空気比を、加熱機42による加熱後の石油残渣の第2温度に応じて設定することにより、より均質な燃焼を行うことができる。
【0094】
さらに、加熱機42によって加熱された後の石油残渣の実際の粘度が所定の値からずれるような場合等においても、第2制御装置12は、当該粘度に応じて第2石油残渣焚きボイラ7の燃焼室における空気比を調整してもよい。例えば、第2石油残渣焚きボイラ7に投入される石油残渣の粘度が基準値より高い場合、高温燃焼ゾーン21における空気比を上げて還元雰囲気を抑制させるとともに、二段燃焼用空気ノズル26から二段燃焼ゾーン22に導入される空気量を減らして二段燃焼ゾーン22の空気比を下げる。このとき、高温燃焼ゾーン21および二段燃焼ゾーン22を含む燃焼室全体の空気比は粘度が基準値である場合とほぼ等しくなるように調整される。一方、第2石油残渣焚きボイラ7に投入される石油残渣の粘度が基準値より低い場合、高温燃焼ゾーン21における空気比を下げて還元雰囲気を促進させるとともに、二段燃焼用空気ノズル26から二段燃焼ゾーン22に導入される空気量を増やして二段燃焼ゾーン22の空気比を上げる。このとき、高温燃焼ゾーン21および二段燃焼ゾーン22を含む燃焼室全体の空気比は粘度が基準値である場合とほぼ等しくなるように調整される。
【0095】
本制御態様によれば、石油残渣利用施設3において第2石油残渣焚きボイラ7に燃料として投入される石油残渣の粘度が取得できる。石油残渣の粘度が変わると、未燃灰が増減し、燃焼効率が変化する。そこで、本制御態様では、残渣情報として石油残渣の粘度の情報を取得し、その粘度に基づいて、第2石油残渣焚きボイラ7における燃焼制御を行っている。これにより、石油残渣の粘度の変化による未燃灰の増加を抑制し、燃焼効率を上昇させることができる。
【0096】
また、石油残渣利用施設3において粘度の計測を行うことにより、石油残渣供給施設2から情報を得ることなく、簡単な構成で、石油残渣の粘度に応じた第2石油残渣焚きボイラ7の燃焼制御を行うことができる。また、粘度という比較的測定容易な尺度に基づいて第2石油残渣焚きボイラ7の燃焼制御(フィードフォワード制御)を行うことにより、より効率的かつ追従性のよい制御を実現することができる。
【0097】
また、加熱機42は、石油残渣利用施設3に設けられる。したがって、第2石油残渣焚きボイラ7が設けられる石油残渣利用施設3に加熱機42を設置することにより、その第2石油残渣焚きボイラ7に投入される石油残渣の粘度を第2石油残渣焚きボイラ7に投入する直前に調整することができ、定常的な燃焼を確実に行うことができる。
【0098】
[短期の残渣情報追従制御2(第6追従制御)]
図8は、図1に示す石油残渣利用施設における第6追従制御を説明するためのブロック図である。本制御態様が第5追従制御と異なる点は、粘度計(第3粘度計)20cが加熱機42で加熱した後、かつ第2石油残渣焚きボイラ7に投入される前の第2温度における石油残渣の粘度を計測することである。
【0099】
第2制御装置12は、第2粘度計20bで計測された石油残渣における粘度を、第2石油残渣焚きボイラ7に供給される石油残渣の粘度に関する情報として取得する。第2制御装置12は、第3粘度計20cで計測される石油残渣の粘度が所定の値になるように加熱機42における加熱制御(フィードバック制御)を行う。
【0100】
本制御態様によれば、第2石油残渣焚きボイラ7に投入される直前の石油残渣の粘度に基づいたフィードバック制御が行われるため、第2石油残渣焚きボイラ7に投入される石油残渣の粘度を、実際の粘度を計測しながら現実的に近づけることができる。
【0101】
なお、本制御態様においても、第2制御装置12は、第2石油残渣焚きボイラ7の燃焼室における空気比を、第3粘度計20cで計測される石油残渣の粘度に応じて設定してもよい。これにより、第2石油残渣焚きボイラ7に投入される石油残渣の粘度が所定の値に一致していない過渡状態においても、第2石油残渣焚きボイラ7において適切な燃焼を行うことができる。
【0102】
以上のような、第1~第6追従制御のうちの少なくとも1つを実行することにより、第2石油残渣焚きボイラ7に投入される石油残渣の性状等に関する残渣情報に基づいて第2石油残渣焚きボイラ7の燃焼が調整される。第2石油残渣焚きボイラ7の燃料である石油残渣は、性状等が、原油の採掘地等や採掘時期(ロット)等に応じて種々変化し得る。
【0103】
第2石油残渣焚きボイラ7において、石油残渣の性状等が予期せず変化すると、燃焼時に生じる大気汚染物質の量が想定されている量より多くなったり、過剰に燃焼することにより燃焼効率が悪化したりする。特に、上記構成における第2石油残渣焚きボイラ7を備えた石油残渣利用施設3は、石油残渣供給施設2とは離隔しているため、石油残渣利用施設3は、石油残渣供給施設2とは別の施設として構成されている、例えば、これらの施設2,3は、別事業者によって運営される。
【0104】
このため、第2石油残渣焚きボイラ7を制御する第2制御装置12において石油残渣供給施設2から搬送される石油残渣の性状等に関する残渣情報を取得することにより、第2石油残渣焚きボイラ7に燃料として投入される石油残渣の性状等を事前に把握してその性状等に応じた燃焼制御を実行することができる。したがって、石油残渣供給施設2とは離隔した石油残渣利用施設3に設けられる第2石油残渣焚きボイラ7において、燃焼効率を上昇させつつ、大気汚染物質の排出を抑制することができる。
【0105】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更、修正が可能である。
【0106】
例えば、上記実施の形態において、石油残渣焚きボイラ7,9として図2に示すような二段燃焼方式の専焼ボイラを例示したが、石油残渣焚きボイラは、石油残渣を燃料とする限り、どのようなボイラを用いてもよい。
【0107】
石油残渣供給施設2に第1石油残渣焚きボイラ9が設けられる例を示したが、石油残渣供給施設2に石油残渣焚きボイラ以外のボイラが設けられてもよい。例えば、所定のガスを燃料とするガス焚きボイラ、石炭焚きボイラ等の化石燃料を用いたボイラ、焼却炉等の排熱を利用する排熱ボイラ等、種々のボイラが石油残渣供給施設2に設けられてもよい。また、石油残渣供給施設2には、第1石油残渣焚きボイラ9の代わりにガスタービン等を利用したボイラ以外の蒸気生成装置が設けられていてもよいし、種々のボイラを含む蒸気生成装置が設けられていなくてもよい。
【0108】
また、上記実施の形態において、石油残渣供給施設2は、常圧蒸留装置5および分解装置4を備えた石油精製施設として構成されているが、石油残渣供給施設2は、常圧蒸留装置5等の石油精製設備を備えていなくてもよい。すなわち、石油残渣供給施設2は、石油精製施設とは別の施設として構成されてもよい。逆に、石油残渣供給施設2は、常圧蒸留装置5を備え、分解装置4を備えていなくてもよい。この場合、常圧蒸留装置5で生じた常圧残油等を石油残渣として石油残渣利用施設3に搬送してもよい。また、石油残渣供給施設2が減圧蒸留装置を備えている場合、減圧蒸留装置で生じた減圧残油等を石油残渣として石油残渣利用施設3に搬送してもよい。このように、本明細書および特許請求の範囲における石油残渣は、石油精製工程における蒸留装置、分解装置または溶剤脱れき装置等の各種装置において生成される残油または難燃性油を含む。
【0109】
また、上記実施の形態において、石油残渣供給施設2と石油残渣利用施設3とが離隔していることによって、石油残渣供給施設2と石油残渣利用施設3とが別に設けられている石油残渣焚きボイラシステム1を例示した。これに代えて、石油残渣供給施設2と石油残渣利用施設3とが同じエリアに設けられてもよい。例えば、一の事業者等が所有する一の敷地内にこれらの施設2,3が設けられていてもよい。この場合でも石油残渣供給施設2と石油残渣利用施設3とがそれぞれ独立して運用されている場合(連係して制御されていない場合)には、石油残渣供給施設2と石油残渣利用施設3とが離隔していると言える。また、例えば、石油残渣供給施設2と石油残渣利用施設3とが連係して制御されている場合であっても各施設2,3が別の建屋として存在している場合等には、石油残渣供給施設2と石油残渣利用施設3とが互いに別に設けられていると言える。したがって、これらの場合であっても、上記実施の形態を適用し得る。
【0110】
上記第4追従制御において、混合機41が石油残渣利用施設3に設けられる構成に基づいて説明したが、混合機41は、石油残渣供給施設2に設けられてもよい。
【0111】
上記実施の形態においては、第1および第2追従制御を行う場合には、石油残渣供給施設2における成分分析の結果を用いるとしたが、これに限られない。例えば、石油残渣利用施設3またはその他の施設において原油、重油または石油残渣の成分分析が行われてもよい。この場合、石油残渣供給施設2の管理装置6または石油残渣利用施設3の第2制御装置12は、石油残渣利用施設3またはその他の施設による分析結果(石油残渣の性状等の情報)を、取得するように構成されてもよい。すなわち、石油残渣利用施設3において、石油残渣供給施設2から供給される石油残渣の性状等の情報を残渣情報として取得し、第2石油残渣焚きボイラ7の燃焼制御を残渣情報に基づいて行う限り、残渣情報を生成する(原油または石油残渣を分析する)施設はどこにあってもよい。
【0112】
例えば、石油残渣利用施設3において成分分析を行う場合、成分分析を行う間(2~3日程度)、石油残渣を貯留設備16に一時貯留してもよい。すなわち、貯留設備16を、成分分析を行う間に石油残渣を一時貯留するためのバッファタンクとして使用してもよい。
【0113】
また、上記実施の形態において、第2制御装置12が管理装置6からの残渣情報を受信する態様および粘度計20a,20b,20cの計測結果を残渣情報として受信する態様について説明したが、石油残渣利用施設3の作業者が石油残渣供給施設3から搬送される石油残渣の種類、成分または性状に関する残渣情報を取得し、取得した残渣情報に基づいて、第2石油残渣焚きボイラ7における燃焼制御に関する入力を手動で行うようにしてもよい。
【0114】
また、上記実施の形態において、石油残渣の粘度に関する情報として、石油残渣利用施設3に設けられた粘度計20a,20b,20cで計測された石油残渣の粘度を用いる態様を説明したが、石油残渣の粘度を別の施設で計測された石油残渣の粘度が石油残渣の粘度に関する情報として第2制御装置12に送られてもよい。このとき、計測時の石油残渣の温度の情報も石油残渣の粘度に関する情報に含まれていることが好ましい。別の施設は、石油残渣供給施設2でもよいし、石油残渣供給施設2および石油残渣利用施設3以外の施設でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明は、石油残渣焚きボイラにおいて燃焼効率を上昇させつつ、大気汚染物質の排出を抑制するために有用である。
【符号の説明】
【0116】
1 石油残渣焚きボイラシステム
2 石油残渣供給施設
3 石油残渣利用施設
7 第2石油残渣焚きボイラ(石油残渣焚きボイラ)
12 第2制御装置(制御装置)
20a 第1粘度計(粘度計)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8