(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】末端圧力制御支援装置、末端圧力制御支援方法及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G05D 16/20 20060101AFI20240401BHJP
G05B 13/04 20060101ALI20240401BHJP
G05B 13/02 20060101ALI20240401BHJP
E03B 1/00 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
G05D16/20 N
G05B13/04
G05B13/02 L
E03B1/00 A
(21)【出願番号】P 2019192986
(22)【出願日】2019-10-23
【審査請求日】2022-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山原 裕之
(72)【発明者】
【氏名】松本 隼
(72)【発明者】
【氏名】横川 勝也
(72)【発明者】
【氏名】横山 雄
【審査官】大古 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-268703(JP,A)
【文献】国際公開第2016/067483(WO,A1)
【文献】特開2019-87030(JP,A)
【文献】特開2005-135287(JP,A)
【文献】国際公開第2019/189016(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 16/00 -16/20
G05B 1/00 - 7/04
G05B 11/00 -13/04
G05B 17/00 -17/02
G05B 21/00 -21/02
G05B 23/00 -23/02
E03B 1/00 -11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配水管網の状態に相関する状態情報と前記配水管網の末端圧力を示す末端圧力情報との学習用データを用いて前記配水管網の状態情報から前記配水管網の末端圧力を推定するための推定モデルを複数の推定アルゴリズムのそれぞれについて生成する末端圧力学習部と、
前記学習用データを用いて前記末端圧力学習部が生成した各推定モデルの推定精度の誤差
を取得し、取得した前記誤差と、各推定モデルの生成に用いられた前記状態情報とに基づいて、前記複数の推定アルゴリズムから末端圧力の推定に用いる推定アルゴリズムを決定する
ためのアルゴリズム決定モデルを
予め生成し、推定対象の時点における前記配水管網の状態情報と
予め生成された前記アルゴリズム決定モデルとに基づいて前記時点での末端圧力の推定に用いる推定アルゴリズムを決定する推定モデル決定部と、
決定された前記推定アルゴリズムで生成された推定モデルを用いて前記時点における前記配水管網の末端圧力を推定する末端圧力推定部と、
を備える末端圧力制御支援装置。
【請求項2】
配水管網の状態に相関する状態情報と前記配水管網の末端圧力を示す末端圧力情報との学習用データを用いて前記配水管網の状態情報から前記配水管網の末端圧力を推定するための推定モデルを複数の推定アルゴリズムのそれぞれについて生成する末端圧力学習部と、
前記学習用データを用いて前記末端圧力学習部が生成した各推定モデルの推定精度の誤差
を取得し、取得した前記誤差と、各推定モデルの生成に用いられた前記状態情報とに基づいて、前記複数の推定アルゴリズムから末端圧力の推定に用いる推定アルゴリズムを決定する
ためのアルゴリズム決定モデルを
予め生成し、推定対象の時点における前記配水管網の状態情報と
予め生成された前記アルゴリズム決定モデルとに基づいて末端圧力の推定に用いる推定アルゴリズムを決定する推定モデル決定部と、
決定された前記推定アルゴリズムで生成された推定モデルを用いて前記時点における前記配水管網の末端圧力を推定する末端圧力推定部と、
を備え、
前記推定モデル決定部は、前記推定モデルの生成に用いる推定アルゴリズムとして複数の推定アルゴリズムを選択し、選択した前記複数の推定アルゴリズムと前記学習用データとに基づいて各推定アルゴリズムの重みを決定し、
前記末端圧力推定部は、選択された前記複数の推定アルゴリズムに基づいて生成される複数の推定モデルによって得られる各推定値について、それぞれの推定モデルを生成した推定アルゴリズムの重みに基づく各推定値の重み付け和を最終的な末端圧力の推定値とする、
末端圧力制御支援装置。
【請求項3】
前記状態情報は、前記配水管網の状態に相関する値、前記値の変化量、又は前記値の変化率を示す情報を含む、
請求項1または2に記載の末端圧力制御支援装置。
【請求項4】
前記推定精度の誤差は、前記推定モデルを用いた末端圧力のシミュレーションに用いられるデータの組み合わせごとに得られる推定精度の平均誤差、最大誤差、符号付最大誤差又は誤差の分散の少なくとも1つを含む、
請求項1から3のいずれか一項に記載の末端圧力制御支援装置。
【請求項5】
配水管網の状態に相関する状態情報と前記配水管網の末端圧力を示す末端圧力情報との学習用データを用いて前記配水管網の状態情報から前記配水管網の末端圧力を推定するための第1推定モデルを複数の推定アルゴリズムのそれぞれについて生成する末端圧力学習部と、
前記学習用データを用いて前記末端圧力学習部が生成した各第1推定モデルの推定精度の誤差
を取得し、取得した前記誤差と、各第1推定モデルの生成に用いられた前記状態情報とに基づいて、前記複数の推定アルゴリズムから末端圧力の推定に用いる複数の推定アルゴリズムを決定する
ためのアルゴリズム決定モデルを
予め生成し、推定対象の時点における前記配水管網の状態情報と
予め生成された前記アルゴリズム決定モデルとに基づいて前記時点での末端圧力の推定に用いる複数の推定アルゴリズムを決定する推定モデル決定部と、
決定された前記複数の推定アルゴリズムで生成された第1推定モデルを用いて前記時点における前記配水管網の末端圧力を推定する末端圧力推定部と、
を備え、
前記推定モデル決定部は、前記アルゴリズム決定モデルにより決定した前記複数の推定アルゴリズムの重みを、各第1推定モデル
について取得された前記推定精度の誤差に基づいて
予め決定し
ておくものであり、
前記末端圧力推定部は、前記複数の推定アルゴリズムについて決定された重みに基づいて前記複数の推定アルゴリズムを混合することによって生成された第2推定モデルを用いて推定対象の時点における前記配水管網の末端圧力を推定する、
末端圧力制御支援装置。
【請求項6】
前記末端圧力推定部が推定した前記末端圧力について、前記複数の推定アルゴリズムによる推定の根拠を説明する説明情報を生成する末端圧力推定説明部と、
前記説明情報を表示する表示部と、
をさらに備え、
前記説明情報には、前記推定モデル決定部が前記複数の推定アルゴリズムについて決定した前記重みの時系列情報が含まれ、
前記表示部は、前記説明情報に基づいて、各時点における前記複数の推定アルゴリズムの各重みを、それぞれの重みに応じた大きさを有する領域に対応付けて時系列に表示させる、
請求項5に記載の末端圧力制御支援装置。
【請求項7】
配水管網の状態に相関する状態情報と前記配水管網の末端圧力を示す末端圧力情報との学習用データを用いて前記配水管網の状態情報から前記配水管網の末端圧力を推定するための推定モデルを複数の推定アルゴリズムのそれぞれについて生成する末端圧力学習ステップと、
前記学習用データを用いて前記末端圧力学習ステップにおいて生成された各推定モデルの推定精度の誤差
を取得し、取得した前記誤差と、各推定モデルの生成に用いられた前記状態情報とに基づいて、前記複数の推定アルゴリズムから末端圧力の推定に用いる推定アルゴリズムを決定する
ためのアルゴリズム決定モデルを
予め生成し、推定対象の時点における前記配水管網の状態情報と
予め生成された前記アルゴリズム決定モデルとに基づいて前記時点での末端圧力の推定に用いる推定アルゴリズムを決定する推定モデル決定ステップと、
決定された前記推定アルゴリズムで生成された推定モデルを用いて前記時点における前記配水管網の末端圧力を推定する末端圧力推定ステップと、
を有する末端圧力制御支援方法。
【請求項8】
配水管網の状態に相関する状態情報と前記配水管網の末端圧力を示す末端圧力情報との学習用データを用いて前記配水管網の状態情報から前記配水管網の末端圧力を推定するための推定モデルを複数の推定アルゴリズムのそれぞれについて生成する末端圧力学習ステップと、
前記学習用データを用いて前記末端圧力学習ステップにおいて生成された各推定モデルの推定精度の誤差
を取得し、取得した前記誤差と、各推定モデルの生成に用いられた前記状態とに基づいて、前記複数の推定アルゴリズムから末端圧力の推定に用いる推定アルゴリズムを決定する
ためのアルゴリズム決定モデルを
予め生成し、推定対象の時点における前記配水管網の状態情報と
予め生成された前記アルゴリズム決定モデルとに基づいて末端圧力の推定に用いる推定アルゴリズムを決定する推定モデル決定ステップと、
決定された前記推定アルゴリズムで生成された推定モデルを用いて前記時点における前記配水管網の末端圧力を推定する末端圧力推定ステップと、
を有し、
前記推定モデル決定ステップにおいて、前記推定モデルの生成に用いる推定アルゴリズムとして複数の推定アルゴリズムを選択し、選択した前記複数の推定アルゴリズムと前記学習用データとに基づいて各推定アルゴリズムの重みを決定し、
前記末端圧力推定ステップにおいて、選択された前記複数の推定アルゴリズムに基づいて生成される複数の推定モデルによって得られる各推定値について、それぞれの推定モデルを生成した推定アルゴリズムの重みに基づく各推定値の重み付け和を最終的な末端圧力の推定値とする、
末端圧力制御支援方法。
【請求項9】
配水管網の状態に相関する状態情報と前記配水管網の末端圧力を示す末端圧力情報との学習用データを用いて前記配水管網の状態情報から前記配水管網の末端圧力を推定するための第1推定モデルを複数の推定アルゴリズムのそれぞれについて生成する末端圧力学習ステップと、
前記学習用データを用いて前記末端圧力学習ステップにおいて生成された各第1推定モデルの推定精度の誤差
を取得し、取得した前記誤差と、各第1推定モデルの生成に用いられた前記状態とに基づいて、前記複数の推定アルゴリズムから末端圧力の推定に用いる複数の推定アルゴリズムを決定する
ためのアルゴリズム決定モデルを予め生成し、推定対象の時点における前記配水管網の状態情報と
予め生成された前記アルゴリズム決定モデルとに基づいて前記時点での末端圧力の推定に用いる複数の推定アルゴリズムを決定する推定モデル決定ステップと、
決定された前記複数の推定アルゴリズムで生成された第1推定モデルを用いて前記時点における前記配水管網の末端圧力を推定する末端圧力推定ステップと、
を有し、
前記推定モデル決定ステップにおいて、前記アルゴリズム決定モデルにより決定した前記複数の推定アルゴリズムの重みを、各第1推定モデル
について取得された前記推定精度の誤差に基づいて
予め決定し
ておくものであり、
前記末端圧力推定ステップにおいて、前記複数の推定アルゴリズムについて決定された重みに基づいて前記複数の推定アルゴリズムを混合することによって生成された第2推定モデルを用いて推定対象の時点における前記配水管網の末端圧力を推定する、
末端圧力制御支援方法。
【請求項10】
コンピュータを、請求項1から6のいずれか一項に記載の末端圧力制御支援装置として機能させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、末端圧力制御支援装置、末端圧力制御支援方法及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
水道事業者は、配水管網の末端圧力を把握することで、末端の水圧(以下「末端圧力」という。)が不足していないことを把握できる。また、必要な末端圧力は維持した上で、配水圧力を適正化して過度な圧力で配水管に負担をかけている状況を回避し、配水管の劣化を遅らせたり、漏水を抑制することができる。ポンプ圧送の場合は、必要以上の電力やエネルギーを使わずに配水することができる。圧力を把握するために圧力計を常設することが考えられるが、その導入に関してはコスト制約、設置スペースの制約、地理的制約、スケジュール制約など様々な制約が存在する可能性があるため、必ずしも所望の地点に圧力計を常設できるとは限らない。そこで、圧力計を常設せずに、圧力を推定することも考えられる。従来、事前に設定されたポリシーに基づいて末端圧力の推定方法を変更することにより、末端圧力の推定精度を向上させる試みがなされている。しかしながら、従来の方法では、事前のポリシー設定に多くの労力を要し、末端圧力の推定に多くのコストが必要になる可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-188614号公報
【文献】特許第3851783号公報
【文献】特許第5010504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、より精度よく末端圧力を推定することができる末端圧力制御支援装置、末端圧力制御支援方法及びコンピュータプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の末端圧力制御支援装置は、末端圧力学習部と、推定モデル決定部と、末端圧力推定部と、を持つ。末端圧力学習部は配水管網の状態に相関する状態情報と前記配水管網の末端圧力を示す末端圧力情報との学習用データを用いて前記配水管網の状態情報から前記配水管網の末端圧力を推定するための推定モデルを複数の推定アルゴリズムのそれぞれについて生成する。推定モデル決定部は前記状態情報と前記末端圧力学習部が生成した各推定モデルの推定精度の誤差とに基づいて、前記複数の推定アルゴリズムから末端圧力の推定に用いる推定アルゴリズムを決定するアルゴリズム決定モデルを生成し、推定対象の時点における前記配水管網の状態情報と前記アルゴリズム決定モデルとに基づいて末端圧力の推定に用いる推定アルゴリズムを決定する。末端圧力推定部は決定された前記推定アルゴリズムで生成された推定モデルを用いて前記時点における前記配水管網の末端圧力を推定する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】第1の実施形態における配水システム100のシステム構成の具体例を示すシステム構成図。
【
図2】第1の実施形態の末端圧力制御支援装置1の機能構成の具体例を示す機能ブロック図。
【
図3】第1の実施形態の末端圧力制御支援装置1が末端圧力を学習する処理の流れを示すフローチャート。
【
図4】第1の実施形態の末端圧力制御支援装置1が配水管網PNにおける現在の末端圧力を推定する処理の流れを示すフローチャート。
【
図5】第1の実施形態における説明情報の具体例を示す図。
【
図6】第1の実施形態における説明情報の具体例を示す図。
【
図7】第2の実施形態の末端圧力制御支援装置1aの機能構成の具体例を示す機能ブロック図。
【
図8】第2の実施形態の末端圧力制御支援装置1aが末端圧力を学習する処理の流れを示すフローチャート。
【
図9】第2の実施形態の末端圧力制御支援装置1aが配水管網PNにおける現在の末端圧力を推定する処理の流れを示すフローチャート。
【
図10】第2の実施形態における説明情報の具体例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の末端圧力制御支援装置、末端圧力制御支援方法及びコンピュータプログラムを、図面を参照して説明する。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態における配水システム100のシステム構成の具体例を示すシステム構成図である。配水システム100は、配水管網PNを介して水を1以上の需要家WCに供給するシステムである。具体的には配水システム100は、末端圧力制御支援装置1、監視制御システム2、1以上の配水場3、1以上の末端圧力計測装置4、1以上の常設末端圧力計測装置5を備える。
図1に示す配水場3-1及び3-2は1以上の配水場3の一例である。また、末端圧力計測装置4-1及び4-2は1以上の末端圧力計測装置4の一例である。需要家WC-1~WC-3は1以上の需要家WCの一例である。末端圧力制御支援装置1は、監視制御システム2、各配水場3、各末端圧力計測装置4のそれぞれと通信可能に接続される。なお、配水システム100には送水場等の送水施設(図示せず)が含まれても良いし、配水場3、末端圧力計測装置4及び需要家WCの数は
図1の例と異なってもよい。
【0009】
末端圧力制御支援装置1は、配水管網PNに配水する配水場3の監視又は制御を行う監視制御システム2に対して、その制御又は監視を支援する情報(以下「支援情報」という。)を提供する。具体的には、末端圧力制御支援装置1は、末端圧力情報と、状態情報と水需要情報とに基づいて支援情報を生成する。例えば、支援情報には、配水管網PNの各末端における末端圧力の推定値が含まれる。また、支援情報には、末端圧力の推定値に基づいて生成された情報や、末端圧力の推定値に基づく判定結果等が含まれてもよい。
【0010】
ここで末端圧力情報は、配水管網PNの末端圧力を示す情報である。状態情報は配水管網PNの状態に相関する末端圧力以外の事象を表す情報である。例えば、状態情報には、配水管網PNそのものの状態を示す情報(以下「管網情報」という。)と、配水管網PNの状態に影響する配水場3の状態を示す情報(以下「配水場情報」という。)とが含まれる。例えば、管網情報は配水管網PNの一部に設けられた止水バルブの開度や、配水管網PNの特定地点における水圧又は流量等を示す情報である。例えば配水管網PNには管網情報を取得する各種センサ(図示せず)が設備されており、各センサの計測データが管網情報として末端圧力制御支援装置1に供給される。例えば管網情報は監視制御システム2を介して末端圧力制御支援装置1に送信される。
【0011】
また配水場情報は、配水の流量や吐出圧力、配水ポンプの稼働の有無、配水ポンプの運転台数等を示す情報である。例えば各配水場3には配水場情報を取得する各種センサ(図示せず)が設備されており、各センサの計測データが配水場情報として末端圧力制御支援装置1に供給される。例えば配水場情報は各配水場3から末端圧力制御支援装置1に送信されてもよいし、監視制御システム2を介して末端圧力制御支援装置1に送信されてもよい。水需要情報は各需要家WCの水の需要量を示す情報である。例えば水需要情報は、需要家宅等に設置されるスマートメータによって取得される。なお、配水場情報には監視制御システム2が保持する配水場3の監視又は制御に関する情報が含まれてもよい。
【0012】
監視制御システム2は、末端圧力制御支援装置1から提供される支援情報を用いて配水場3の監視又は制御を行うシステムである。例えば、監視制御システム2は、各配水場3における配水ポンプの稼働台数や出力強度の調整、水の供給源である配水池の水位の監視等を行う。
【0013】
配水場3は、需要家WCに供給する水を貯える配水池や、配水池の水を配水管網PNに送り出す配水ポンプ等の各種設備(図示せず)を有し、配水池の水を配水管網PNを介して各需要家WCに供給する施設である。配水場3が有する各種設備は、監視制御システム2によって監視又は制御される。また、配水場3は、配水場情報を取得して末端圧力制御支援装置1に送信する。
【0014】
一般に、配水管網PNの末端圧力は、配水場3におけるポンプの吐出流量又は吐出圧力との相関性が高いと考えられる。そのため、配水場情報には少なくともポンプの吐出流量又は吐出圧力を示す情報が含まれる。また、配水管網PNの末端圧力は、配水場3における配水池の水位にも相関すると考えられるため、配水場情報には配水池の水位を示す情報が含まれてもよい。
【0015】
なお、上述のとおり、配水場情報は配水管網PNの状態に影響する配水場3の状態を示す情報であればよい。そのため、配水場情報には、ここで述べた情報に代えて他の情報が含まれてもよい。例えば、配水にポンプを使用しておらず、配水場の配水池から需要家までの高低差を利用した自然流下により水を配る場合には、配水池出口での配水圧力及び配水流量を示す情報を配水場情報として取得してもよい。また、例えば、配水場から需要家までの配水管網全体ではなく、一部のブロックのみを末端圧力を推定する対象とする場合、水をブロックに流入させる管路における水の圧力及び流量を示す情報を配水場情報として取得してもよい。
【0016】
末端圧力計測装置4及び常設末端圧力計測装置5は、配水管網PNの末端圧力を計測する装置である。一般に、標高が高く、配水場からの距離が遠い地点の圧力を一定以上に保つことで、配水区内の全需要家に水を安定して配ることができる。このような地点を末端と呼ぶ。末端における水圧が末端圧力である。末端圧力計測装置4は配水管網PNの末端に一時的に設けられるのに対して、常設末端圧力計測装置5は配水管網PNの末端に常設される。末端圧力計測装置4は、末端圧力の推定方法を表すモデル(以下単に「推定モデル」という。)を構築するのに必要な末端圧力情報が得られた後に撤去される。末端圧力計測装置4及び常設末端圧力計測装置5は、配水管網PNに複数設けられてもよい。末端圧力計測装置4及び常設末端圧力計測装置5は、計測した末端圧力の計測値を示す末端圧力情報を末端圧力制御支援装置1に送信する。
【0017】
図2は、第1の実施形態の末端圧力制御支援装置1の機能構成の具体例を示す機能ブロック図である。末端圧力制御支援装置1は、バスで接続されたCPU(Central Processing Unit)やメモリや補助記憶装置などを備え、プログラムを実行する。末端圧力制御支援装置1は、プログラムの実行によって通信部11、入力部12、表示部13、記憶部14及び制御部15を備える装置として機能する。なお、末端圧力制御支援装置1の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0018】
通信部11は、ネットワークインタフェースを含んで構成される。通信部11は監視制御システム2、配水場3、末端圧力計測装置4及び常設末端圧力計測装置5と通信する。通信部11は、例えば無線LAN(Local Area Network)、有線LAN、Bluetooth(登録商標)又はLTE(Long Term Evolution)(登録商標)等の通信方式で通信してもよい。
【0019】
入力部12は、タッチパネル、マウス及びキーボード等の情報入力装置を用いて構成される。入力部12は、情報入力装置を末端圧力制御支援装置1に接続するためのインタフェースであってもよい。例えば入力部12は、末端圧力制御支援装置1に対する指示情報を入力する。
【0020】
表示部13は、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の情報出力装置である。表示部13は、情報出力装置を末端圧力制御支援装置1に接続するためのインタフェースであってもよい。この場合、表示部13は、映像データから生成された映像信号を自身に接続されている映像出力装置に出力する。
【0021】
記憶部14は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置等の記憶装置を用いて構成される。記憶部14は、支援情報の生成に必要な情報を記憶する。具体的には記憶部14は、末端圧力情報記憶部141、状態情報記憶部142、推定モデル情報記憶部143及びアルゴリズム情報記憶部144を備える。
【0022】
末端圧力情報記憶部141は末端圧力情報を記憶する。状態情報記憶部142は状態情報を記憶する。推定モデル情報記憶部143は推定モデルを示す情報(以下「推定モデル情報」という。)を記憶する。アルゴリズム情報記憶部144は、推定モデルの生成に用いられるアルゴリズム(以下「推定アルゴリズム」という。)を示す情報を記憶する。以下、この推定アルゴリズムを表す情報を「アルゴリズム情報」という。
【0023】
制御部15は、末端圧力制御支援装置1の各部の動作を制御する。具体的には制御部15は、情報取得部151、末端圧力学習部152、末端圧力推定部153、推定モデル決定部154、支援情報生成部155、末端圧力推定説明部156及び画面生成部157及びを備える。
【0024】
情報取得部151は、支援情報の生成に必要な情報を取得する。具体的には、情報取得部151は、各配水場3から配水場情報を取得する。情報取得部151は、監視制御システム2を介して管網情報を取得する。情報取得部151は、取得された配水場情報及び管網情報を状態情報として状態情報記憶部142に記録する。また、情報取得部151は、各末端圧力計測装置4及び常設末端圧力計測装置5から末端圧力情報を取得する。情報取得部151は、取得した末端圧力情報を末端圧力情報記憶部141に記録する。情報取得部151は、状態情報及び末端圧力情報を所定のタイミングで繰り返して取得することによって、状態情報及び末端圧力情報を末端圧力情報記憶部141及び状態情報記憶部142に蓄積する。
【0025】
末端圧力学習部152は、状態情報記憶部142に蓄積された状態情報と、末端圧力情報記憶部141に蓄積された末端圧力情報とを教師データとして、末端圧力と状態情報との相関を機械学習の手法を用いて学習する。より具体的には、末端圧力学習部152は、状態情報が示す諸量を説明変数とし、末端圧力情報が示す末端圧力を目的変数としてこれらの関係性を学習することにより、状態情報を入力として末端圧力の推定値を出力する推定モデルを生成する。末端圧力学習部152は、生成した推定モデルを示す推定モデル情報を推定モデル情報記憶部143に記録する。以下、このような関係性の学習を必要に応じて「末端圧力の学習」という。
【0026】
末端圧力推定部153は、末端圧力学習部152によって生成された推定モデルを用いて、与えられた状態情報が得られた状況における配水管網PNの末端圧力を推定する。具体的には、末端圧力推定部153は、推定モデル決定部154によって決定された推定モデルを用いて末端圧力を推定する。これにより、末端圧力推定部153は、末端圧力学習部152によって末端圧力の学習が行われた末端の末端圧力を推定することができる。末端圧力推定部153は、推定された末端圧力を示す情報を支援情報生成部155に出力する。
【0027】
推定モデル決定部154は、実際の運用において末端圧力を推定する際に使用される推定モデルを決定する。具体的には、推定モデル決定部154は、アルゴリズム決定モデルに基づいて複数の推定アルゴリズムのうちから1つの推定アルゴリズムを1つ選択し、選択した推定アルゴリズムに基づいて生成された推定モデルを末端圧力の推定に用いる推定モデルとして決定する。
【0028】
アルゴリズム決定モデルとは、複数の推定アルゴリズムのうちから、そのときの配水管網PNの状態に応じた末端圧力の推定アルゴリズムを決定する方法を表すモデルである。推定モデル決定部154は、実際の運用において末端圧力の推定を行う前に予めアルゴリズム決定モデルを生成しておく。なお、アルゴリズム決定モデルの生成方法は後述する。推定モデル決定部154は、決定した推定モデルを末端圧力推定部153に通知する。
【0029】
支援情報生成部155は、末端圧力推定部153によって推定された末端圧力に基づいて支援情報を生成する。支援情報生成部155は、生成した支援情報を監視制御システム2に送信する。
【0030】
末端圧力推定説明部156は、推定モデルの生成において使用された推定アルゴリズムを示す情報と、その推定アルゴリズムを決定したアルゴリズム決定モデルを示す情報と、そのアルゴリズム決定モデルに対して入力された情報と、入力された情報に対して当該推定アルゴリズムが決定された根拠を示す情報と、の少なくとも1つを含む説明情報を生成する。説明情報には、決定された推定アルゴリズムによって生成された推定モデルを説明する情報と、その推定モデルによって推定された推定結果を示す情報とが含まれてもよい。末端圧力推定説明部156は、生成した説明情報を画面生成部157に出力する。
【0031】
画面生成部157は、説明情報に基づいて、説明情報を可視化した画面情報を生成する。画面生成部157は生成した画面情報を表示部13に表示させる。
【0032】
次に、第1の実施形態について、3つの配水場3から供給される水を配水する配水管網において、推定対象地点の末端圧力を推定するための推定モデルを生成する方法を具体的に説明する。以下では、配水場3-1、3-2、3-3をそれぞれ第1配水場、第2配水場、第3配水場という。
【0033】
図3は、第1の実施形態の末端圧力制御支援装置1が末端圧力を学習する処理の流れを示すフローチャートである。フローチャートの開始時点において末端圧力制御支援装置1の記憶部14には末端圧力の学習に必要な学習用データ(ここでは末端圧力情報及び状態情報とする。)が蓄積されているものとする。まず、末端圧力学習部152がアルゴリズム情報記憶部144に記憶されている全ての推定アルゴリズムのうちから1つの推定アルゴリズムを選択する(ステップS101)。
【0034】
続いて末端圧力学習部152は、記憶部14に蓄積されている末端圧力情報及び状態情報を用いて、ステップS101で選択した推定アルゴリズムに基づく推定モデルを生成する(ステップS102)。末端圧力学習部152は、生成して推定モデルを示す推定モデル情報を推定モデル情報記憶部143に記録する。
【0035】
続いて末端圧力学習部152は、生成した推定モデルを用いて末端圧力の推定シミュレーションを実行する(ステップS103)。ここでいう末端圧力の推定シミュレーションとは、生成した推定モデルによる推定精度の誤差情報を取得する処理である。
【0036】
具体的には、まず、生成した推定モデルの生成に用いた学習用データを訓練用データと評価用データとに分割し、推定モデルの生成に用いた推定アルゴリズムと訓練用データを用いて評価用の推定モデルを生成し、生成した評価用の推定モデルを評価用データを用いて評価する。この処理を、学習用データを訓練用データと評価用データとに分割する組み合わせのパターンを変えながら複数回実施し、推定精度の平均誤差を取得する。これは、機械学習モデルの評価方法として一般的に用いられている交差検定(クロスバリデーション)と同様の処理である。
【0037】
なお、平均誤差は誤差情報として用いることができる統計誤差の一例であり、誤差をとるときの基準をどこにおくかによって別の統計誤差が用いられてもよい。具体的には、統計誤差は、推定シミュレーションに用いられるデータの組み合わせごとに得られる推定精度の平均誤差、最大誤差又は符号付最大誤差、誤差の分散の少なくとも1つを含む。
【0038】
続いて末端圧力学習部152は、全ての推定アルゴリズムについて推定モデルの生成と、推定シミュレーションを行ったか否かを判定する(ステップS104)。ここで未処理の推定アルゴリズムがあると判定した場合(ステップS104-NO)、末端圧力学習部152は未処理の推定アルゴリズムのうちから1つの推定アルゴリズムを選択し(ステップS105)、ステップS102に処理を戻す。
【0039】
一方、全ての推定アルゴリズムについて推定モデルの生成と、推定シミュレーションを行ったと判定した場合(ステップS104-YES)、推定モデル決定部154が各推定アルゴリズムについて取得された誤差情報と、推定モデルの生成に用いられた状態情報とに基づいてアルゴリズム決定モデルを生成する(ステップS106)。例えば、推定モデル決定部154は、決定木アルゴリズムにより、状態情報を入力情報として、統計誤差が最も小さい推定アルゴリズムを複数の推定アルゴリズムのうちから選択する決定木を生成する。推定モデル決定部154は生成したアルゴリズム決定モデルを記憶部14に記録して処理を終了する。
【0040】
図4は、第1の実施形態の末端圧力制御支援装置1が配水管網PNにおける現在の末端圧力を推定する処理の流れを示すフローチャートである。まず、情報取得部151が現在の状態情報を取得する(ステップS201)。具体的には、情報取得部151は監視制御システム2から現在の管網情報を取得するとともに、配水場3から現在の配水場情報を取得する。情報取得部151は、取得した管網情報及び配水場情報を現在の状態情報として状態情報記憶部142に記録する。
【0041】
続いて推定モデル決定部154が、ステップS201において取得された現在の状態情報に基づいて、現在の末端圧力の推定に用いる推定モデルを決定する(ステップS202)。具体的には、推定モデル決定部154は、アルゴリズム決定モデルに基づいて、複数の推定アルゴリズムのうちから現在の状態情報に応じた推定アルゴリズムを1つ決定する。推定モデル決定部154は、決定した推定アルゴリズムに基づいて生成された推定モデルを、現在の末端松力の推定に用いる推定モデルとして決定する。推定モデル決定部154は、決定した推定モデルを末端圧力推定部153に通知する。
【0042】
続いて末端圧力推定部153が、ステップS202において決定された推定モデルを用いて現在の末端圧力を推定する(ステップS203)。具体的には、末端圧力推定部153は、決定された推定モデルに現在の状態情報を入力することにより、その出力として現在の末端圧力の推定値を得る。
【0043】
続いて末端圧力推定説明部156が、ステップS203において推定された末端圧力の説明情報を生成する(ステップS204)。具体的には、末端圧力推定説明部156は、末端圧力の推定に用いられた推定モデルの生成に使用された推定アルゴリズムを示す情報と、その推定アルゴリズムを決定したアルゴリズム決定モデルを示す情報と、そのアルゴリズム決定モデルに対して入力された情報と、入力された情報に対して当該推定アルゴリズムが決定された根拠を示す情報と、の少なくとも1つを含む説明情報を生成する。そして、末端圧力推定説明部156は、生成した説明情報を表示部13に表示させる(ステップ205)。
【0044】
続いて支援情報生成部155が、ステップS203において推定された末端圧力に基づいて支援情報を生成する(ステップS206)。具体的には、支援情報生成部155は、取得された末端圧力の推定値や、その推定値に基づいて生成された情報、その推定値に基づく判定結果等を含む情報を支援情報として生成する。なお、支援情報にはステップS204において生成された説明情報が含まれてもよいし、説明情報を可視化した画面情報が含まれてもよい。支援情報生成部155は、このようにして生成した支援情報を監視制御システム2に送信する(ステップS207)。なお、支援情報の提供先は監視制御システム2に限定されない。支援情報は、支援情報を必要とする任意のシステムや装置に提供されてよい。
【0045】
図5及び
図6は、第1の実施形態における説明情報の具体例を示す図である。例えば、
図5はアルゴリズム決定モデルを示す説明情報の一例を示し、
図6は末端圧力の推定に用いられた推定アルゴリズムを示す説明情報の一例を示す。具体的には、
図5は決定木を用いて生成されたアルゴリズム決定モデルの具体例を示している。
図5は、状態情報に示される各種説明変数の値を順に閾値で判定していき、終端ノードにおいて推定アルゴリズムを得る決定木の具体例を示している。
【0046】
一方、
図6は、過去や現在における末端圧力の推定において決定された推定アルゴリズムを時系列に表示したものである。このような説明情報が提示されることにより、ユーザは得られた末端圧力の推定根拠を把握することができる。なお、
図5の各ノード又は終端ノードには、学習用データのサンプル数や、MSE(Mean Squared Error)の値が付加情報として表示されていてもよい。
【0047】
このように構成された第1の実施形態の末端圧力制御支援装置1は、配水管網PNに関する状態情報と、配水管網PNにおける末端圧力の推定に用いられる推定モデルの推定誤差に基づいて複数のアルゴリズムから推定アルゴリズムを決定するためのアルゴリズム決定モデルを生成する推定モデル決定部154を備える。そして実際の末端圧力を推定する際には、推定モデル決定部154が配水管網PNに関する現在の状態情報と、予め生成されたアルゴリズム決定モデルとに基づいて、現在の末端圧力の推定に用いる推定アルゴリズムを決定し、末端圧力推定部153が決定された推定アルゴリズムで生成された推定モデルを用いて現在の末端圧力を推定する。このような第1の実施形態の末端圧力制御支援装置1によれば、配水管網PNの状態に応じた推定モデルを用いて末端圧力を推定することができるため、より精度よく末端圧力を推定することが可能となる。
【0048】
(変形例)
なお、第1の実施形態ではアルゴリズム決定モデルの一例として決定木を示したが、これは一例であり、これは機械学習の手法の一例であり、アルゴリズム決定モデルを決定木に限定するものではない。また、末端圧力の学習によって生成される推定モデルも特定の学習モデルに限定されない。例えば、アルゴリズム決定モデルには、決定木のほか、ニューラルネットワークやディープラーニング等の手法が用いられてもよいし、推定モデルには、線形回帰モデルをはじめとする任意の回帰モデルが用いられてもよい。
【0049】
また、末端圧力の学習や、アルゴリズム決定モデルの生成においては、状態情報そのものに加えて、状態情報の変化量や変化率との相関が重要になる場合もある。このような場合、末端圧力制御支援装置1は、取得した状態情報の変化量や変化率を示す時系列データ(以下「変化情報」という。)を生成し、生成した変化情報と状態情報とに基づいて推定モデルの生成又はアルゴリズム決定モデルの生成を行うように構成されてもよい。
【0050】
学習用データとしての末端圧力情報をオフラインで取得する場合、末端圧力計測装置4は必ずしも通信機能を備えていなくてもよい。例えば、末端圧力計測装置4が着脱可能な記憶装置に末端圧力情報を記録する場合、所定期間の末端圧力情報を蓄積した記憶装置が人手で回収されてもよい。
【0051】
第1の実施形態では、1つ以上の末端圧力計測装置4と、1つ以上の常設末端圧力計測装置5とを備える配水システム100(
図1)を示したが、末端圧力の学習には、末端圧力計測装置4によって取得された末端圧力情報が用いられてもよいし、常設末端圧力計測装置5によって取得された末端圧力情報が用いられてもよい。また、末端圧力の学習には、末端圧力計測装置4によって取得された末端圧力情報と、常設末端圧力計測装置5によって取得された末端圧力情報との両方が用いられても良い。なお、常設末端圧力計測装置5の設置は必須ではない。
【0052】
(第2の実施形態)
図7は、第2の実施形態の末端圧力制御支援装置1aの機能構成の具体例を示す機能ブロック図である。末端圧力制御支援装置1aは、末端圧力推定部153に代えて末端圧力推定部153aを備える点、推定モデル決定部154に代えて推定モデル決定部154aを備える点で第1の実施形態における末端圧力制御支援装置1と異なる。末端圧力制御支援装置1aのその他の構成は、第1の実施形態における末端圧力制御支援装置1と同様である。そこで、
図7では、末端圧力制御支援装置1と同様の構成については
図2と同じ符号を付すことにより、これらの説明を省略する。
【0053】
また、
図8は、第2の実施形態の末端圧力制御支援装置1aが末端圧力を学習する処理の流れを示すフローチャートである。また、
図9は、第2の実施形態の末端圧力制御支援装置1aが配水管網PNにおける現在の末端圧力を推定する処理の流れを示すフローチャートである。以下、
図8及び
図9を適宜参照しながら末端圧力推定部153a及び推定モデル決定部154aの機能について説明する。なお、
図8及び
図9において、第1の実施形態と同様の処理には
図3及び
図4と同じ符号を付すことにより、これらの説明を省略する。
【0054】
第1の実施形態における推定モデル決定部154が各推定アルゴリズムについて取得した誤差情報と、推定モデルの生成に用いた状態情報とに基づいて1つの推定アルゴリズムを決定するアルゴリズム決定モデルを生成したのに対して、推定モデル決定部154aは、アルゴリズム決定モデルの生成に加えて、アルゴリズム決定モデルによって決定した複数の推定アルゴリズムに基づく末端圧力の推定値から最終的な末端圧力の推定値(以下「最終推定値」という。)を算出する推定結果混合モデルを生成する(ステップS301)。
【0055】
例えば、推定モデル決定部154aは、アルゴリズム決定モデルに基づいて第1の推定アルゴリズムと第2の推定アルゴリズムとの2つの推定アルゴリズムを決定した場合、最終推定値を次の式(1)で表す推定結果混合モデルを生成する。
【0056】
P=α×Pmodel1+β×Pmodel2 (1)
【0057】
式(1)において、Pは末端圧力の最終推定値を表す。Pmodel1は第1のアルゴリズムに基づいて生成された推定モデルによる末端圧力の推定値(以下「第1の推定値」という。)を表し、Pmodel2は第2のアルゴリズムに基づいて生成された推定モデルによる末端圧力の推定値(以下「第2の推定値」という。)を表す。αは第1の推定値に対する重みを表し、βは第2の推定値に対する重みを表す。
【0058】
なお、式(1)は末端圧力の最終推定値を各推定モデルによる推定値の重み付け線形和で表す推定結果混合モデルの例を示したものであり、推定結果混合モデルをこれに限定するものではない。例えば、推定結果混合モデルは、各推定モデルによる推定値の高次式によって最終推定値を近似するものであってもよい。
【0059】
例えば、推定モデル決定部154aは、決定木アルゴリズムにより、状態情報を入力情報として、統計誤差が小さいものから順に複数の推定アルゴリズムを選択する決定木を生成する。さらに、推定モデル決定部154aは、学習用データとしての末端圧力情報が示す末端圧力の値と、学習用データとしての状態情報に基づいて決定された各推定モデルによって得られる末端圧力の推定値との回帰分析により、その状態情報に応じたα及びβの値を決定する。
【0060】
例えば、推定モデル決定部154aは、各推定モデルの組み合わせのパターンごとに一組のα及びβの値を決定する。この場合、推定モデル決定部154aは、学習用データの全データを用いて1つの回帰曲線を決定する。
【0061】
また例えば、推定モデル決定部154aは、各推定モデルの組み合わせのパターンごとに複数組のα及びβの値を決定してもよい。例えば、推定モデル決定部154aは、時間帯ごとに異なるα及びβの値を決定してもよい。この場合、推定モデル決定部154aは、学習データを時間帯ごとに分割し、分割した各時間帯の学習データごとに1つの回帰曲線を決定することにより、各時間帯ごとに一組のα及びβを決定する。このように決定された推定結果混合モデルを用いることにより、時間帯に応じた変動特性を持つ末端圧力をより精度良く推定することができる。なお、時間帯をさらに細かくしていけば、α及びβの値を時刻ごとに決定することも可能である。
【0062】
推定モデル決定部154aは、このように生成したアルゴリズム決定モデル及び推定結果混合モデルを記憶部14に記録する。なお、アルゴリズム決定モデルの最終ノードにおいて、推定アルゴリズムの組み合わせとともに、各推定アルゴリズムに対する重みを出力することにより、推定結果混合モデルをアルゴリズム決定モデルの一部として表してもよい。
【0063】
その一方で推定モデル決定部154aは、現在の状態情報をアルゴリズム決定モデルに入力することにより、現在の末端圧力の推定に用いる複数の推定アルゴリズムを決定する(ステップS401)。続いて末端圧力推定部153aは、推定モデル決定部154aによって決定された各推定アルゴリズムに基づいて生成された推定モデルを用いて現在の末端圧力を推定する(ステップS402)。末端圧力推定部153aは、各推定モデルによって算出した末端圧力の推定値を推定結果混合モデルに入力することにより、現在の末端圧力の最終推定値を算出する(ステップS403)。
【0064】
図10は、第2の実施形態における説明情報の具体例を示す図である。例えば、
図10はアルゴリズム決定モデルを示す説明情報の一例として、推定モデル決定部154aによって選択された推定アルゴリズムを、それぞれの重みとともに時系列に表した図である。このような説明情報が提示されることにより、ユーザは、複数の推定アルゴリズムに基づいて得られた末端圧力の推定根拠を把握することができる。
【0065】
このように構成された第2の実施形態の末端圧力制御支援装置1aは、配水管網PNに関する状態情報に基づいて、そのときの配水管網PNの状態に応じた複数の推定アルゴリズムをその状態に応じた割合で混合して末端圧力の最終推定値を得る。このような第2の実施形態の末端圧力制御支援装置1aによれば、配水管網PNの状態に応じた推定モデルを用いて末端圧力を推定することができるため、より精度よく末端圧力を推定することが可能となる。
【0066】
(変形例)
第2の実施形態では、末端圧力制御支援装置1aにおいて、推定モデル決定部154aが複数の推定アルゴリズムを決定するアルゴリズム決定モデルを生成するとともに、アルゴリズム決定モデルによって決定した複数の推定アルゴリズムに基づく末端圧力の推定値から末端圧力の最終推定値を算出する推定結果混合モデルを生成することについて説明した。これに対して変形例の推定モデル決定部154aは、アルゴリズム決定モデルによる推定アルゴリズムの選択を行わないように構成されてもよい。この場合、推定モデル決定部154aは、予め記憶されている全ての(複数の)推定アルゴリズムに基づく末端圧力の推定値と、全ての推定アルゴリズムについて求めた重みとに基づいて、末端圧力の最終推定値を算出する推定結果混合モデルを生成するように構成されてもよい。なお、各推定アルゴリズムに対する重みは、第2の実施形態と同様に、推定アルゴリズムと学習用データとに基づいて決定されればよい。
【0067】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、配水管網の状態に相関する状態情報と配水管網の末端圧力を示す末端圧力情報との学習用データを用いて配水管網の状態情報から配水管網の末端圧力を推定するための推定モデルを複数の推定アルゴリズムのそれぞれについて生成する末端圧力学習部と、状態情報と末端圧力学習部が生成した各推定モデルの推定精度の誤差とに基づいて、複数のアルゴリズムから末端圧力の推定に用いる推定アルゴリズムを決定するアルゴリズム決定モデルを生成し、推定対象の時点における配水管網の状態情報とアルゴリズム決定モデルとに基づいて末端圧力の推定に用いる推定アルゴリズムを決定する推定モデル決定部と、決定された推定アルゴリズムで生成された推定モデルを用いて時点における配水管網の末端圧力を推定する末端圧力推定部と、を持つことにより、より精度よく末端圧力を推定することができる。
【0068】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0069】
100…配水システム、1,1a…末端圧力制御支援装置、11…通信部、12…入力部、13…表示部、14…記憶部、141…末端圧力情報記憶部、142…状態情報記憶部、143…推定モデル情報記憶部、144…アルゴリズム情報記憶部、15…制御部、151…情報取得部、152…末端圧力学習部、153,153a…末端圧力推定部、154,154a…推定モデル決定部、155…支援情報生成部、156…末端圧力推定説明部、157…画面生成部、2…監視制御システム、3,3-1~3-3…配水場、4,4-1,4-2…末端圧力計測装置、5…常設末端圧力計測装置、PN…配水管網、WC,WC-1~WC-3…需要家