(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】診断装置、診断方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/12 20200101AFI20240401BHJP
【FI】
G01R31/12 A
(21)【出願番号】P 2019219507
(22)【出願日】2019-12-04
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】長 広明
(72)【発明者】
【氏名】竪山 智博
(72)【発明者】
【氏名】近藤 淳一
(72)【発明者】
【氏名】水出 隆
【審査官】越川 康弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-015172(JP,A)
【文献】国際公開第2016/157912(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/091926(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
箱体に収納された真空バルブ内で第1期間に発生した第1信号を分解して、第1周波数帯域の第2信号と、前記第1周波数帯域よりも高い第2周波数帯域の第3信号とを生成し、
前記真空バルブ内で前記第1期間よりも後の第2期間に発生した第4信号を分解して、前記第1周波数帯域の第5信号と、前記第2周波数帯域の第6信号とを生成する処理部と、
前記第2信号に含まれる第1部分放電パルス信号の第1強度と第1放電発生頻度とを算出し、
前記第3信号に含まれる第2部分放電パルス信号の第2強度を算出し、
前記第5信号に含まれる第3部分放電パルス信号の第3強度を算出し、
前記第6信号に含まれる第4部分放電パルス信号の第4強度と第2放電発生頻度とを算出する算出部と、
前記第1強度が第1閾値以上であり、且つ前記第1放電発生頻度が第1範囲内であるか否かを判定し、
前記第4強度が第2閾値以上であり、且つ前記第2放電発生頻度が第2範囲内であるか否かを判定し、
前記第1強度が前記第1閾値以上であり、且つ前記第1放電発生頻度が前記第1範囲内である場合であって、前記第4強度が第2閾値以上であり、且つ前記第2放電発生頻度が前記第2範囲内である場合に、前記真空バルブ内で部分放電が発生したことを示す診断結果を出力する診断部と、
を具備し、
前記第1範囲の上限値は、前記第2範囲の上限値よりも大きい、診断装置。
【請求項2】
前記真空バルブ内で放電が発生した場合の部分放電パルス信号の特徴量の変遷を示す情報を格納する格納部をさらに具備し、
前記診断部は、前記情報と、算出された前記第1強度、前記第1放電発生頻度、前記第2強度、前記第3強度、前記第4強度、および前記第2放電発生頻度とを用いて、前記真空バルブ内で部分放電が発生したことを示す前記診断結果を出力する、
請求項1記載の診断装置。
【請求項3】
前記診断部は、前記第1強度が第1閾値以上であり、且つ前記第1放電発生頻度が第1範囲内である場合に、前記真空バルブ内で部分放電が発生した可能性があることを示す前記診断結果を出力する、
請求項1記載の診断装置。
【請求項4】
前記診断部は、前記第1強度が
前記第1閾値未満であることと、前記第1放電発生頻度が
前記第1範囲外であることの少なくとも一方に該当する場合であって、前記第
4強度が
前記第2閾値以上であり、且つ前記第
2放電発生頻度が
前記第2範囲内である場合に、前記真空バルブ以外の構成に異常が発生した可能性があることを示す前記診断結果を出力する、
請求項1記載の診断装置。
【請求項5】
前記処理部は、
増幅器とフィルタを用いて前記第1信号を分解して、前記第2信号と前記第3信号とを生成し、
前記増幅器と前記フィルタを用いて前記第4信号を分解して、前記第5信号と前記第6信号とを生成する、
請求項1記載の診断装置。
【請求項6】
箱体に収納された真空バルブ内で第1期間に発生した第1信号を分解して、第1周波数帯域の第2信号と、前記第1周波数帯域よりも高い第2周波数帯域の第3信号とを生成し、
前記真空バルブ内で前記第1期間よりも後の第2期間に発生した第4信号を分解して、前記第1周波数帯域の第5信号と、前記第2周波数帯域の第6信号とを生成し、
前記第2信号に含まれる第1部分放電パルス信号の第1強度と第1放電発生頻度とを算出し、
前記第3信号に含まれる第2部分放電パルス信号の第2強度を算出し、
前記第5信号に含まれる第3部分放電パルス信号の第3強度を算出し、
前記第6信号に含まれる第4部分放電パルス信号の第4強度と第2放電発生頻度とを算出し、
前記第1強度が第1閾値以上であり、且つ前記第1放電発生頻度が第1範囲内であるか否かを判定し、
前記第4強度が第2閾値以上であり、且つ前記第2放電発生頻度が第2範囲内であるか否かを判定し、
前記第1強度が前記第1閾値以上であり、且つ前記第1放電発生頻度が前記第1範囲内である場合であって、前記第4強度が第2閾値以上であり、且つ前記第2放電発生頻度が前記第2範囲内である場合に、前記真空バルブ内で部分放電が発生したことを示す診断結果を出力し、
前記第1範囲の上限値は、前記第2範囲の上限値よりも大きい、
診断方法。
【請求項7】
コンピュータにより実行されるプログラムであって、前記プログラムは前記コンピュータに、
箱体に収納された真空バルブ内で第1期間に発生した第1信号を分解して、第1周波数帯域の第2信号と、前記第1周波数帯域よりも高い第2周波数帯域の第3信号とを生成する手順と、
前記真空バルブ内で前記第1期間よりも後の第2期間に発生した第4信号を分解して、前記第1周波数帯域の第5信号と、前記第2周波数帯域の第6信号とを生成する手順と、
前記第2信号に含まれる第1部分放電パルス信号の第1強度と第1放電発生頻度とを算出する手順と、
前記第3信号に含まれる第2部分放電パルス信号の第2強度を算出する手順と、
前記第5信号に含まれる第3部分放電パルス信号の第3強度を算出する手順と、
前記第6信号に含まれる第4部分放電パルス信号の第4強度と第2放電発生頻度とを算出する手順と、
前記第1強度が第1閾値以上であり、且つ前記第1放電発生頻度が第1範囲内であるか否かを判定する手順と、
前記第4強度が第2閾値以上であり、且つ前記第2放電発生頻度が第2範囲内であるか否かを判定する手順と、
前記第1強度が前記第1閾値以上であり、且つ前記第1放電発生頻度が前記第1範囲内である場合であって、前記第4強度が第2閾値以上であり、且つ前記第2放電発生頻度が前記第2範囲内である場合に、前記真空バルブ内で部分放電が発生したことを示す診断結果を出力する手順と、
を実行させ、
前記第1範囲の上限値は、前記第2範囲の上限値よりも大きい、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、診断装置、診断方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
真空遮断器の主要な構成として真空バルブがある。真空バルブ内の真空度が高く保たれていることは、真空遮断器の絶縁性能を保つ上で重要な要因となる。
【0003】
真空バルブの真空度が低下すると、真空遮断器の絶縁性能が低下して、事故電流の遮断が不可能になる。そのため、真空遮断器の健全性を監視するために、真空バルブの真空度が定期的にチェックされる。
【0004】
真空バルブの真空度をチェックする方法としては、例えば真空度の劣化に伴って発生する放電をアンテナで検出するものが知られている。また、真空バルブにアンテナを近接して配置し、信号処理にバンドパスフィルタを用い、真空度の劣化に伴って発生するマイクロ波帯の電磁波を検出するものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-184275号公報
【文献】特開平7-318447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、真空バルブ内で発生する放電による電磁波の周波数帯域が、真空バルブ外の放電や外来ノイズによる電磁波の周波数帯域と重なっている場合、アンテナで検出した電磁波が、いずれに起因するものかを特定することは困難である。そのため、真空バルブ外の放電や外来ノイズと、真空バルブ内の放電とを区別できる新たな機能の実現が必要とされる。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、真空バルブ外の放電や外来ノイズと、真空バルブ内の放電とを区別できる診断装置、診断方法、およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態によれば、診断装置は、処理部と、算出部と、診断部とを具備する。処理部は、箱体に収納された真空バルブ内で第1期間に発生した第1信号を分解して、第1周波数帯域の第2信号と、前記第1周波数帯域よりも高い第2周波数帯域の第3信号とを生成し、前記真空バルブ内で前記第1期間よりも後の第2期間に発生した第4信号を分解して、前記第1周波数帯域の第5信号と、前記第2周波数帯域の第6信号とを生成する。算出部は、前記第2信号に含まれる第1部分放電パルス信号の第1強度と第1放電発生頻度とを算出し、前記第3信号に含まれる第2部分放電パルス信号の第2強度を算出し、前記第5信号に含まれる第3部分放電パルス信号の第3強度を算出し、前記第6信号に含まれる第4部分放電パルス信号の第4強度と第2放電発生頻度とを算出する。診断部は、前記第1強度が第1閾値以上であり、且つ前記第1放電発生頻度が第1範囲内であるか否かを判定し、前記第4強度が第2閾値以上であり、且つ前記第2放電発生頻度が第2範囲内であるか否かを判定し、前記第1強度が前記第1閾値以上であり、且つ前記第1放電発生頻度が前記第1範囲内である場合であって、前記第4強度が第2閾値以上であり、且つ前記第2放電発生頻度が前記第2範囲内である場合に、前記真空バルブ内で部分放電が発生したことを示す診断結果を出力する。前記第1範囲の上限値は、前記第2範囲の上限値よりも大きい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る診断装置の構成を示すブロック図。
【
図2】真空バルブの真空度と耐電圧の相関を説明するための図。
【
図3】真空バルブが第1真空度である場合の放電波形とセンサ検出波形を示す図。
【
図4】真空バルブが第2真空度である場合の放電波形とセンサ検出波形を示す図。
【
図5】真空度と放電周波数の相関と、真空度と放電発生頻度の相関とを説明するための図。
【
図6】同実施形態の診断装置によって実行される診断処理の手順の例を示すフローチャート。
【
図7】同実施形態の診断装置によって実行される診断処理の別の手順の例を示すフローチャート。
【
図8】第2実施形態に係る診断装置の構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態について図面を参照して説明する。
【0011】
(第1実施形態)
まず
図1を参照して、第1実施形態に係る診断装置1の構成を説明する。診断装置1は、金属製の箱体(以下、金属容器とも称する)6に収納された真空バルブ61の絶縁性能を監視する。真空バルブ61は真空遮断器に搭載されている。診断装置1は、例えば真空バルブ61の内部で部分放電(partial discharge:PD)が発生したかどうかを診断する。真空バルブ61の内部で発生した部分放電は、真空放電とも称される。
【0012】
金属容器6は電気機器を収納可能な箱である。金属容器6は、例えば遮断器や主回路導体等の電気機器を収納する。電気機器は経年劣化等によって部分放電を発生させ得る。
【0013】
金属容器6内には、真空バルブ61に対して近接して、電磁波検出センサ62が設けられている。電磁波検出センサ62は、例えば特定の周波数帯域の電磁波を検出するように構成されたループアンテナである。この特定の周波数帯域には、真空バルブ61内で発生した放電による電磁波を検出するために適した周波数帯域が設定される。
【0014】
電磁波検出センサ62は、検出した電磁波に基づく電気信号を診断装置1に出力するように、診断装置1に接続されている。なお、電磁波検出センサ62の代わりに、部分放電に伴う接地電位の変動を検出するTransient Earth Voltage(TEV)センサ、または接地電流を検出する高周波Current Transformer(CT)のセンサを設けて、電気信号が取得されてもよい。取得される電気信号が示す物理量は、真空バルブ61内の部分放電に応じて得られる物理量であれば、どのような物理量であってもよい。物理量は、例えば電磁波、接地電位、接地電流、振動、または音である。
【0015】
診断装置1は、例えば、パーソナルコンピュータ、スマートフォンやタブレットコンピュータのような携帯情報端末、または各種電子機器に内蔵される組み込みシステムとして実現され得る。診断装置1は電磁波検出センサ62から受け取った電気信号に基づいて、診断対象の電気機器の状態を診断する。具体的には、診断装置1は、真空バルブ61内での部分放電の発生の有無を診断する。
【0016】
診断装置1は、制御部11、通信部12、入力部13、出力部14、信号情報記憶部15、および診断データベース(DB)16を備える。制御部11は、診断装置1内の各部を制御する。制御部11は、プロセッサや回路のようなハードウェアとして、プロセッサによって実行されるソフトウェア(すなわちプログラム)として、あるいはそれらハードウェアとソフトウェアの組み合わせとして、実現され得る。制御部11は、信号処理部111、パルス信号解析部112、部分放電診断部113を備える。信号処理部111、パルス信号解析部112、および部分放電診断部113は直列に接続されている。
【0017】
通信部12はネットワークインタフェースである。通信部12はネットワークを介して、通信機能を有する外部の電子機器と通信する。通信部12は、例えば無線ローカルエリアネットワーク(LAN)、有線LAN、Bluetooth(登録商標)、またはセルラー網を介して通信し得る。外部の電子機器は、例えばパーソナルコンピュータ、サーバコンピュータ等の電子機器であってもよいし、クラウドコンピューティングシステムであってもよい。
【0018】
入力部13は、キーボードや、タッチパネル、マウス等のポインティングデバイスを含む入力装置で構成される。入力部13は、入力装置を診断装置1に接続するためのインタフェースであってもよい。その場合、入力部13は、入力装置を用いた操作に基づく入力信号から入力データを生成し、診断装置1に送出する。入力データは、例えば、診断装置1の動作に関する指示を示す。
【0019】
出力部14は、Cathode Ray Tube(CRT)ディスプレイ、液晶ディスプレイ(LCD)、有機Electro Luminescence(EL)ディスプレイ等の出力装置である。出力部14は、出力装置を診断装置1に接続するためのインタフェースであってもよい。その場合、出力部14は映像データから映像信号を生成して、出力装置に送出する。出力装置は映像信号に基づく画面イメージを表示する。なお、出力装置は、特定の状態を通知するためのランプ(例えばLED)、音声出力のためのスピーカであってもよい。
【0020】
信号情報記憶部15は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置等の記憶装置で構成される。信号情報記憶部15は、電磁波検出センサ62を用いて電気信号が取得された日時と電気信号が表す物理量とを関連付けて保存してもよいし、その日時と電気信号を処理して得られた特徴量とを関連付けて保存してもよい。
【0021】
診断DB16は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置等の記憶装置で構成される。なお、ある記憶装置の一部の記憶領域が信号情報記憶部15として割り当てられ、別の一部の記憶領域が診断DB16として割り当てられてもよい。
【0022】
診断DB16は、真空バルブ61内で部分放電が発生したかを診断するために用いられる参照データを格納する。参照データは、電気信号の少なくとも一部の特徴量を用いて、真空バルブ61内の部分放電と判断すべき条件を示す情報を含む。この条件は、例えば真空バルブ61内で部分放電が発生した場合の特徴量の変遷として表される。この変遷に従う特徴量が電気信号から取得された場合、真空バルブ61内で部分放電が発生したと判断される。
【0023】
次いで、制御部11内の各部について説明する。
信号処理部111は電磁波検出センサ62によって検出された電気信号(以下、検出信号とも称する)を受信する。信号処理部111は検出信号を分解して、1つ以上の周波数帯域にそれぞれ対応する1つ以上の信号を生成する。
【0024】
信号処理部111は、異なる周波数帯域の信号をそれぞれ抽出する複数の増幅器とフィルタの組111A,111Bを備える。信号処理部111は増幅器とフィルタの組111A,111Bを用いて検出信号を分解して、1つ以上の周波数帯域にそれぞれ対応する1つ以上の信号を生成する。
【0025】
より具体的には、第1の増幅器とフィルタの組111Aは検出信号から、例えば数100kHz帯の信号を抽出し、パルス信号解析部112に送出する。第2の増幅器とフィルタの組111Bは検出信号から、例えば数MHz帯から数10MHz帯の信号を抽出し、パルス信号解析部112に送出する。各々の増幅器とフィルタの組111A,111Bで抽出される信号は、真空バルブ61内の放電の特性に応じて変更されてもよい。以下では、第1の増幅器とフィルタの組111Aによって抽出された信号を第1信号と称し、第2の増幅器とフィルタの組111Bによって抽出された信号を第2信号とも称する。
【0026】
パルス信号解析部112は信号処理部111から1つ以上の周波数帯域にそれぞれ対応する1つ以上の信号を受信し、各々の信号に含まれる部分放電パルス信号の特徴量を算出する。パルス信号解析部112は特徴量として、例えば、第1信号に含まれる第1部分放電パルス信号の強度および放電発生頻度と、第2信号に含まれる第2部分放電パルス信号の強度および放電発生頻度を計測し、部分放電診断部113に送出する。パルス信号解析部112は、取得した特徴量を、対応する信号が検出された日時と関連付けて、信号情報記憶部15に保存してもよい。なお、部分放電パルス信号の強度は、波高値、レベルとも称される。放電発生頻度は、ある期間に発生した放電の回数を示す。また、特徴量として、第1および第2信号それぞれの振幅の最大値が用いられてもよい。
【0027】
部分放電診断部113は周波数帯域毎の部分放電パルス信号の特徴量を用いて、特徴量の時間的な変化に基づく診断結果を出力する。部分放電診断部113は、周波数帯域毎の部分放電パルス信号の特徴量と診断DB16とを用いて、真空バルブ61内で部分放電が発生したかどうかを診断する。より詳しくは、部分放電診断部113は特徴量の時間的な変化と、診断DB16に格納された、真空バルブ61内で部分放電が発生した場合の特徴量の変遷を示す情報(すなわち真空バルブ61内の部分放電と判断すべき条件)とを用いて、真空バルブ61内で部分放電が発生したかどうかを判定し、その判定結果を出力する。
【0028】
部分放電診断部113は、真空バルブ61内で部分放電が発生したと判断した場合、真空バルブ61内で放電が発生したことを示す診断結果を出力する。一方、真空バルブ61内で部分放電が発生していないと判断した場合、部分放電診断部113は、真空バルブ61以外の構成による放電や外来ノイズが発生している可能性を示す診断結果を出力する。したがって、部分放電診断部113は、真空バルブ61外の放電や外来ノイズと、真空バルブ61内の放電とが区別された診断結果を出力できる。
【0029】
以下では、真空バルブ61内の部分放電と判断すべき条件について、
図2から
図5を参照して説明する。
【0030】
図2は真空バルブ61の真空度と耐電圧の相関を示す。
図2において、垂直方向の軸は真空バルブ61の耐電圧を示し、水平方向の軸は真空バルブ61の真空度を示す。耐電圧は、真空バルブ61が正常に動作する電圧の限界値である。
【0031】
図2に示すように、真空リークの進展に伴って、すなわち真空度の低下に伴って、真空バルブ61の耐電圧は低下する。このような真空度と耐電圧との関係は、パッシェンカーブ21として知られている。
【0032】
パッシェンカーブ21において、真空バルブ61の耐電圧が運転電圧を下回った場合、運転電圧の印加に応じて真空バルブ61内で部分放電が発生する。運転電圧は、金属容器6内の電気機器の運転中に、真空バルブ61に対して印加されている電圧である。
【0033】
本実施形態では、運転電圧の印加に応じて真空放電が発生する状態を、その真空放電の形態によって第1真空度領域22と第2真空度領域23とに二分する。第1真空度領域22に対応する真空度の範囲は、例えば1Paから10Pa程度である。第2真空度領域23に対応する真空度の範囲は、例えば10Paから大気圧程度である。
【0034】
図3は、真空バルブ61の真空度が第1真空度領域22に含まれる場合の放電波形とセンサ検出波形との一例を示す。ここでは、真空バルブ61の真空度が第1真空度領域22に含まれる2.95Paである場合を例示する。
【0035】
図3(A)は、真空バルブ61に印加された運転電圧の波形(運転電圧波形)31と、真空バルブ61内の放電の波形(放電波形)32とを示す。第1真空度領域22では、運転電圧波形31に示される運転電圧の印加に応じて、放電波形32に示される部分放電が発生する。この放電は、例えばグロー放電である。
【0036】
また
図3(B)は、電磁波検出センサ62によって検出された波形(センサ検出波形)33を示す。電磁波検出センサ62は、放電波形32そのものを検出することはできず、発生した放電波形32を観測して得られるセンサ検出波形33を検出する。センサ検出波形33の周波数帯域(以下、第1周波数帯域とも称する)は、例えば数100kHz帯である。
【0037】
放電波形32に示されるように、真空バルブ61の真空度が第1真空度領域22に含まれる場合、高い頻度で部分放電が発生する。放電波形32では、例えば運転電圧波形31の1サイクル(すなわち1周期)に対応する期間に数十回の放電が発生している。
【0038】
なお、
図3(A)と
図3(B)とでは、スケールが異なる振幅および時間の軸を用いて放電波形32とセンサ検出波形33とがそれぞれ示されているが、これら波形32,33は対応するものである。より具体的には、例えば、放電波形32における、部分放電が発生した際の波形部分32Aは、センサ検出波形33における、部分放電が検出された際の波形部分33A(すなわち部分放電パルス信号を含む部分)に対応している。つまり、運転電圧波形31における1サイクル中に、放電波形32内の波形部分32Aに示される部分放電が発生した場合、電磁波検出センサ62は、この発生した部分放電を観測することによって、センサ検出波形33内の波形部分33Aを検出する。
【0039】
電磁波検出センサ62は、発生した部分放電を観測することによってセンサ検出波形33を検出した後、センサ検出波形33を診断装置1に出力する。診断装置1は、センサ検出波形33を処理することにより、例えば真空バルブ61の内部で部分放電が発生したかどうかを診断する。より具体的には、診断装置1は、真空バルブ61の真空度が第1真空度領域22に含まれる場合に、(1-1)電磁波検出センサ62によって第1周波数帯域のセンサ検出波形33が検出されていること、および(1-2)第1周波数帯域のセンサ検出波形33におけるパルスの発生回数に基づき、高い頻度で部分放電が発生していることを、認識できる。
【0040】
図4は、真空バルブ61の真空度が第2真空度領域23に含まれる場合の放電波形とセンサ検出波形との一例を示す。ここでは、真空バルブ61の真空度が第2真空度領域23に含まれる20Paである場合を例示する。
【0041】
図4(A)は、真空バルブ61に印加された運転電圧波形41と、真空バルブ61内の放電による放電波形42とを示す。第2真空度領域23では、運転電圧波形41に示される運転電圧の印加に応じて、放電波形42に示される部分放電が発生する。この部分放電は、例えば火花放電である。
【0042】
また
図4(B)は、電磁波検出センサ62によって検出されたセンサ検出波形43を示す。電磁波検出センサ62は、放電波形42そのものを検出することはできず、発生した放電波形42を観測して得られるセンサ検出波形43を検出する。センサ検出波形43の周波数帯域(以下、第2周波数帯域とも称する)は、例えば数MHz帯から数10MHz帯である。
【0043】
放電波形42に示されるように、真空バルブ61の真空度が第2真空度領域23に含まれる場合、低い頻度で部分放電が発生する。放電波形42では、例えば運転電圧波形41の1サイクルに対応する期間に2回の放電が発生している。
【0044】
なお、
図4(A)と
図4(B)とでは、スケールが異なる振幅および時間の軸を用いて放電波形42とセンサ検出波形43とがそれぞれ示されているが、これら波形42,43は対応するものである。より具体的には、例えば、放電波形42における、部分放電が発生した際の波形部分42Aは、センサ検出波形43における、部分放電が検出された際の波形部分43A(すなわち部分放電パルス信号を含む部分)に対応している。つまり、運転電圧波形41における1サイクル中に、放電波形42内の波形部分42Aに示される部分放電が発生した場合、電磁波検出センサ62は、この発生した部分放電を観測することによって、センサ検出波形43内の波形部分43Aを検出する。
【0045】
電磁波検出センサ62は、発生した部分放電を観測することによってセンサ検出波形43を検出した後、センサ検出波形43を診断装置1に出力する。診断装置1は、センサ検出波形43を処理することにより、例えば真空バルブ61の内部で部分放電が発生したかどうかを診断する。より具体的には、診断装置1は、真空バルブ61の真空度が第2真空度領域23に含まれる場合に、(2-1)電磁波検出センサ62によって第2周波数帯域のセンサ検出波形43が検出されていること、および(2-2)第2周波数帯域のセンサ検出波形43におけるパルスの発生回数に基づき、低い頻度で部分放電が発生していることを、認識できる。
【0046】
図5は真空度の低下に伴う、真空バルブ61内の部分放電の特性を説明するための図を示す。より詳しくは、
図5の上段には、
図2と同様の、真空バルブ61の真空度と耐電圧の相関(パッシェンカーブ)21を示している。
図5の中段には真空度と放電周波数の相関51を示している。そして、
図5の下段には真空度と放電発生頻度の相関52を示している。
【0047】
真空度と放電周波数の相関51は、真空バルブ61の真空度の低下(すなわち真空リークの進展)に伴って、電磁波検出センサ62によって検出されるセンサ検出波形33,43の周波数帯域が上昇することを示している。より具体的には、真空度と放電周波数の相関51は、真空バルブ61の真空度が低下して、第1真空度領域22から第2真空度領域23に遷移する場合に、センサ検出波形33,43の周波数帯域が第1周波数帯域53から第2周波数帯域54に遷移することを示している。
【0048】
また、真空度と放電発生頻度の相関52は、真空バルブ61の真空度の低下に伴って、真空バルブ61内の放電発生頻度が低下することを示している。より具体的には、真空度と放電発生頻度の相関52は、真空バルブ61の真空度が低下して、第1真空度領域22から第2真空度領域23に遷移する場合に、センサ検出波形33,43における放電発生頻度がしだいに低下することを示している。
【0049】
センサ検出波形33,43の周波数帯域が第1周波数帯域53から第2周波数帯域54に遷移することと、センサ検出波形33,43における放電発生頻度がしだいに低下することとは、センサ検出波形33,43にそれぞれ含まれる部分放電パルス信号の特徴量に、真空バルブ61の真空度の低下に応じた時間的な変化が存在することを示している。
【0050】
このような時間的な変化は、すなわち、真空度と放電周波数の相関51、および真空度と放電発生頻度の相関52によって示される真空バルブ61内の部分放電の特性は、真空バルブ61以外の電気機器による部分放電や外来ノイズには無い特性である。本実施形態では、この特性を利用して、真空バルブ61内の部分放電を、他の構成(電気機器)による部分放電や外来ノイズと区別する。つまり、真空バルブ61内で発生する部分放電の信号が有する周波数帯域と、それ以外の構成で発生する部分放電や外来ノイズの周波数帯域とが重なる場合にも、検出されている信号がこの特性に合致するかどうかに応じて、その信号が、真空バルブ61内の部分放電と、他の構成による部分放電や外来ノイズのいずれに起因しているかを判断できる。
【0051】
以下では、第1真空度領域22を劣化初期と称し、第2真空度領域23を劣化後期とも称する。劣化初期においては、第1周波数帯域53の第1信号(
図3(B)のセンサ検出波形33に相当)に含まれる第1部分放電パルス信号の強度が大きく、且つ第1部分放電パルス信号の放電発生頻度が高い。一方、劣化後期においては、第1周波数帯域53よりも高い第2周波数帯域54の第2信号(
図4(B)のセンサ検出波形43に相当)に含まれる第2部分放電パルス信号の強度が大きく、且つ第2部分放電パルス信号の放電発生頻度が低い。第2部分放電パルス信号の放電発生頻度は、例えば第1部分放電パルス信号の放電発生頻度よりも低い。
【0052】
上記の劣化初期から劣化後期にわたる特徴量(例えば、部分放電パルス信号の強度、放電発生頻度)の時間的な変化を利用した、信号処理部111、パルス信号解析部112、および部分放電診断部113の動作について、より具体的に説明する。
【0053】
信号処理部111は、第1期間に発生し、電磁波検出センサ62によって検出された検出信号を分解して、第1周波数帯域53の第1信号を生成する。また、信号処理部111は、第1期間よりも後の第2期間に発生し、電磁波検出センサ62によって検出された検出信号を分解して、第2周波数帯域54の第2信号を生成する。
図5を参照して上述した通り、第2周波数帯域54は第1周波数帯域53よりも高い。
【0054】
パルス信号解析部112は、第1信号に含まれる第1部分放電パルス信号の第1特徴量を算出する。第1特徴量は、例えば第1部分放電パルス信号の第1強度と第1放電発生頻度とを含む。また、パルス信号解析部112は、第2信号に含まれる第2部分放電パルス信号の第2特徴量を算出する。第2特徴量は、例えば第2部分放電パルス信号の第2強度と第2放電発生頻度とを含む。
【0055】
部分放電診断部113は、第1特徴量から第2特徴量への変化に基づく診断結果を出力する。部分放電診断部113は、第1特徴量から前記第2特徴量への変化に基づいて、真空バルブ61内で部分放電が発生したか否かを示す診断結果を出力する。
【0056】
より詳しくは、部分放電診断部113は、第1強度が第1閾値以上であり、且つ第1放電発生頻度が第1範囲内である場合であって、第2強度が第2閾値以上であり、且つ第2放電発生頻度が第2範囲内である場合に、真空バルブ61内で部分放電が発生したことを示す診断結果を出力する。また、部分放電診断部113は、第1強度が第1閾値以上であり、且つ第1放電発生頻度が第1範囲内である場合に、真空バルブ61内で部分放電が発生した可能性があることを示す診断結果を出力してもよい。第1範囲の上限値は、第2範囲の上限値よりも大きい。例えば、第1範囲には50から100までの範囲が設定され、第2範囲には1から5までの範囲が設定される。
【0057】
あるいは、信号処理部111は、第1期間に発生し、電磁波検出センサ62によって検出された検出信号を分解して、第1周波数帯域53の第3信号と第2周波数帯域54の第4信号とを生成してもよい。この場合、パルス信号解析部112は、第3信号に含まれる第3部分放電パルス信号の第3特徴量と、第4信号に含まれる第4部分放電パルス信号の第4特徴量を算出する。第3特徴量は、例えば第3部分放電パルス信号の第3強度と第3放電発生頻度とを含む。第4特徴量は、例えば第4部分放電パルス信号の第4強度と第4放電発生頻度とを含む。
【0058】
部分放電診断部113は、第3強度が第1閾値未満であることと、第3放電発生頻度が第1範囲外であることの少なくとも一方に該当する場合であって、第4強度が第2閾値以上であり、且つ第4放電発生頻度が第2範囲内である場合に、真空バルブ61以外の構成に異常が発生した可能性があることを示す診断結果を出力する。
【0059】
なお、部分放電診断部113は診断結果を、出力部14または通信部12を介して出力してもよい。部分放電診断部113は診断結果を、例えば管理者等に通知する。この通知は、管理者への通知が可能ないずれの手段を用いてもよく、例えば、ディスプレイの画面への表示、LED等のランプの点灯または点滅、スピーカによる音声出力、およびこれらの任意の組み合わせが用いられ得る。また、ディスプレイ、ランプ、およびスピーカは、診断装置1に設けられているものであってもよいし、あるいは診断装置1に出力部14または通信部12を介して接続された電子機器に設けられているものであってもよい。
【0060】
以上の構成により、診断装置1は、電磁波検出センサ62から得られた検出信号が、真空バルブ外の放電や外来ノイズと、真空バルブ内の放電のいずれに起因するものであるかを区別して、診断結果を通知できる。したがって、管理者は、診断結果に応じて、例えば真空バルブ61内の放電であるかどうかに応じて、適切な対処を行うことができる。
【0061】
より具体的には、本実施形態によれば、真空バルブ61を収納した金属容器6内で発生し、電磁波検出センサ62によって検出された電気信号を分解して、数100kHz帯である第1周波数帯域と数MHzから数10MHz帯である第2周波数帯域とにそれぞれ対応する信号を生成し、生成された各信号の少なくとも一部(例えば波形部分33A,43A)に現れる特徴量(例えば強度、放電発生頻度)の時間的な変化に基づいて、真空バルブ61内で部分放電が発生したと判断する。つまり、真空バルブ61において真空リークが進展する間の特徴量の時間的変化から、高い強度を有する信号の周波数帯域がしだいに上昇し、且つ高い強度を有する信号における放電発生頻度がしだいに低下するという特性を見出し、この特性を有する電気信号が検出された場合に真空バルブ61内で部分放電が発生したと判断できるようになった。
【0062】
なお、増幅器とフィルタの組111A,111Bを用いることにより、電磁波検出センサ62によって検出された電気信号を分解して、第1周波数帯域と第2周波数帯域とにそれぞれ対応する信号を生成できる。また、真空バルブ61内で部分放電が発生した場合の特徴量の変遷を示す参照データを診断DB16に予め格納し、この参照データに従う特徴量の時間的な変化が電気信号から取得された場合に、真空バルブ61内で部分放電が発生したと判断できる。
【0063】
あるいは、本実施形態によれば、第1期間に真空バルブ61を収納した金属容器6内で発生し、電磁波検出センサ62によって検出された電気信号を分解して、数100kHz帯である第1周波数帯域の信号を生成し、第1期間よりも後の第2期間にその金属容器6内で発生し、電磁波検出センサ62によって検出された電気信号を分解して、数MHzから数10MHz帯である第2周波数帯域の信号を生成し、第1周波数帯域の信号の少なくとも一部(例えば波形部分33A)に現れる特徴量(例えば強度、放電発生頻度)から、第2周波数帯域の信号の少なくとも一部(例えば波形部分43A)に現れる特徴量への変化に基づいて、真空バルブ61内で部分放電が発生したと判断する。つまり、真空バルブ61において真空リークが進展する間の特徴量の時間的変化から、第1周波数帯域の信号が高い強度を有し、且つ第1周波数帯域の信号において放電発生頻度が高い第1期間の後に、第2周波数帯域の信号が高い強度を有し、且つ第2周波数帯域の信号において放電発生頻度が低い第2期間が存在するという特性を見出し、この特性を有する電気信号が検出された場合に、真空バルブ61内で部分放電が発生したと判断できるようになった。この場合、第1期間における第1周波数帯域の信号の放電発生頻度は第1範囲内であり、第2期間における第2周波数帯域の信号の放電発生頻度は第2範囲内である。第1範囲の上限値は第2範囲の上限値よりも大きいので、第1周波数帯域の信号の放電発生頻度が、第2周波数帯域の信号の放電発生頻度よりも高いかどうかを判断できる。
【0064】
また、第1周波数帯域の信号の少なくとも一部に現れる特徴量に基づいて、真空バルブ61内で部分放電が発生した可能性があると判断してもよい。つまり、真空バルブ61において真空リークが進展する間の特徴量から、第1周波数帯域の信号が高い強度を有し、且つ第1周波数帯域の信号において放電発生頻度が高い第1期間が存在するという特性を見出し、この特性を有する電気信号が検出された場合に、真空バルブ61内で部分放電が発生した可能性があると判断できるようになった。
【0065】
さらに、本実施形態によれば、第1期間に真空バルブ61を収納した金属容器6内で発生し、電磁波検出センサ62によって検出された電気信号を分解して、数100kHz帯である第1周波数帯域の信号を生成し、第1期間よりも後の第2期間にその金属容器6内で発生し、電磁波検出センサ62によって検出された電気信号を分解して、数MHzから数10MHz帯である第2周波数帯域の信号を生成し、第1周波数帯域の信号の少なくとも一部に現れる特徴量(例えば強度、放電発生頻度)から、第2周波数帯域の信号の少なくとも一部に現れる特徴量への変化に基づいて、真空バルブ61以外の構成に異常が発生した可能性があると判断する。つまり、真空バルブ61以外の構成に異常が発生している間の特徴量の時間的変化から、第1周波数帯域の信号が低い強度を有することと、第1周波数帯域の信号において放電発生頻度が低いこと(例えば第1範囲外であること)の少なくとも一方に該当する第1期間の後に、第2周波数帯域の信号が高い強度を有し、且つ第2周波数帯域の信号において放電発生頻度が低い第2期間が存在するという特性を見出し、この特性を有する電気信号が検出された場合に、真空バルブ61以外の構成で異常が発生した可能性があると判断できるようになった。この場合、第1期間における第1周波数帯域の信号の放電発生頻度は第1範囲外であり得、第2期間における第2周波数帯域の信号の放電発生頻度は第2範囲内である。第1範囲の上限値は、第2範囲の上限値よりも大きい。
【0066】
図6は、診断装置1によって実行される診断処理の手順の例を示すフローチャートである。診断装置1は、例えば電磁波検出センサ62から得られる検出信号を常時監視し、一定時間毎に診断処理を実行する。この一定時間は、例えば1時間、1日のような任意の時間である。
【0067】
信号処理部111は電磁波検出センサ62から検出信号を受信する(ステップS101)。そして、信号処理部111は増幅器およびフィルタ111A,111Bを用いて、受信した検出信号から、第1周波数帯域53の第1信号と、第2周波数帯域54の第2信号とを取得する(ステップS102)。第1周波数帯域53は、例えば数100kHz帯である。また、第2周波数帯域54は、例えば数MHz帯から数10MHz帯である。
【0068】
パルス信号解析部112は、第1信号に含まれる第1部分放電パルス信号と第2信号に含まれる第2部分放電パルス信号の各々の特徴量を取得する(ステップS103)。特徴量は各部分放電パルス信号の、例えば強度と放電発生頻度である。
【0069】
次いで、部分放電診断部113は劣化初期フラグが立っているが否かを判定する(ステップS104)。劣化初期フラグが立っていることは、劣化初期に相当する第1部分放電パルス信号が既に検出されたことを示す。劣化初期フラグが立っていないこと(すなわち劣化初期フラグがリセットされていること)は、劣化初期に相当する第1部分放電パルス信号がまだ検出されていないことを示す。
【0070】
劣化初期フラグが立っていない場合(ステップS104のNO)、部分放電診断部113は、パルス信号解析部112によって取得された第1部分放電パルス信号の特徴量を用いて、第1部分放電パルス信号が劣化初期に相当する信号であるか否かを判定する(ステップS105)。より具体的には、部分放電診断部113は、第1部分放電パルス信号の強度が第1閾値以上であり、且つ第1部分放電パルス信号の放電発生頻度が第1範囲内である場合に、第1部分放電パルス信号が劣化初期に相当する信号であると判断する。これに対して、第1部分放電パルス信号の強度が第1閾値未満であることと、第1部分放電パルス信号の放電発生頻度が第1範囲外であることの少なくとも一方に該当する場合に、部分放電診断部113は、第1部分放電パルス信号が劣化初期に相当する信号でないと判断する。
【0071】
第1部分放電パルス信号が劣化初期に相当する信号である場合(ステップS105のYES)、部分放電診断部113は劣化初期フラグを立て、第1部分放電パルス信号が検出された時刻を記録する(ステップS106)。部分放電診断部113は真空バルブ61内で部分放電が発生している可能性があることを管理者に通知して(ステップS107)、ステップS101に戻り、電磁波検出センサ62から受信される検出信号を用いた監視(診断)を続行する。
【0072】
また、第1部分放電パルス信号が劣化初期に相当する信号でない場合(ステップS105のNO)、部分放電診断部113は、パルス信号解析部112によって取得された第2部分放電パルス信号の特徴量を用いて、第2部分放電パルス信号が劣化後期に相当する信号であるか否かを判定する(ステップS108)。より具体的には、部分放電診断部113は、第2部分放電パルス信号の強度が第2閾値以上であり、且つ第2部分放電パルス信号の放電発生頻度が第2範囲内である場合に、第2部分放電パルス信号が劣化後期に相当する信号であると判断する。これに対して、第2部分放電パルス信号の強度が第2閾値未満であることと、第2部分放電パルス信号の放電発生頻度が第2範囲外であることの少なくとも一方に該当する場合に、部分放電診断部113は、第2部分放電パルス信号が劣化後期に相当する信号でないと判断する。
【0073】
第2部分放電パルス信号が劣化後期に相当する信号である場合(ステップS108のYES)、部分放電診断部113は、金属容器6や金属容器6を用いるシステムの異常に関する詳細な診断が必要であることを管理者に通知して(ステップS109)、ステップS101に戻り、電磁波検出センサ62から受信される検出信号を用いた監視を続行する。つまり、部分放電診断部113は真空バルブ61内の異常を検知していないものの、真空バルブ61以外の別の構成に異常が発生している可能性があることを管理者に通知する。
【0074】
第2部分放電パルス信号が劣化後期に相当する信号でない場合(ステップS108のNO)、ステップS101に戻る。
【0075】
また、劣化初期フラグが立っている場合(ステップS104のYES)、部分放電診断部113は、パルス信号解析部112によって取得された第2部分放電パルス信号の特徴量を用いて、第2部分放電パルス信号が劣化後期に相当する信号であるか否かを判定する(ステップS110)。第2部分放電パルス信号が劣化後期に相当する信号である場合(ステップS110のYES)、部分放電診断部113は真空バルブ61内で部分放電が発生したことを管理者に通知する(ステップS111)。
【0076】
このように、部分放電診断部113は、劣化初期フラグによって劣化初期に相当する第1部分放電パルス信号が既に検出されたことが示されている場合に、劣化後期に相当する第2部分放電パルス信号が検出されたならば、真空バルブ61内で部分放電が発生していると判断する。部分放電診断部113は真空バルブ61内で部分放電が発生しているので、真空バルブ61(真空遮断器)の絶縁性能が低下していることを管理者に通知してもよい。また、部分放電診断部113は、真空遮断器よりも上方の構成で遮断する必要があることや、真空バルブ61の交換を促すメッセージのような、真空バルブ61内の部分放電に対処するための情報を通知してもよい。
【0077】
なお、第2部分放電パルス信号が劣化後期に相当する信号でない場合(ステップS110のNO)、ステップS101に戻る。
【0078】
以上の診断処理により、真空バルブ61以外の部分の部分放電や外来ノイズと、真空バルブ61内の部分放電とを区別して、管理者に異常を通知できる。診断装置1は、例えば、真空バルブ61内で部分放電が発生したことを示す異常と、真空バルブ61内で部分放電が発生した可能性があることを示す異常と、真空バルブ61とは別の部分で発生した可能性がある異常とを、管理者に通知できる。
【0079】
図7は、診断装置1によって実行される診断処理の手順の別の例を示すフローチャートである。この診断処理のステップS201からステップS211までの手順は、
図6のフローチャートを参照して上述した診断処理のステップS101からステップS111までの手順とそれぞれ同様であり、説明を省略する。
【0080】
第2部分放電パルス信号が劣化後期に相当する信号でない場合(ステップS210のNO)、部分放電診断部113は劣化初期に相当する第1放電パルス信号の検出時刻(以下、劣化初期の検出時刻とも称する)から、閾値時間以上が経過したか否かを判定する(ステップS212)。この閾値時間は、真空バルブ61の特性、真空バルブ61を用いた実験データに基づく統計情報等を用いて決定され、例えば診断DB16に保存されている。閾値時間は、例えば1年である。
【0081】
劣化初期の検出時刻から閾値時間以上が経過した場合(ステップS212のYES)、部分放電診断部113は劣化初期フラグをリセットする(ステップS213)。一方、劣化初期の検出時刻からの経過時間が閾値時間未満である場合(ステップS212のNO)、ステップS201に戻り、電磁波検出センサ62から受信される検出信号を用いた監視(診断)を続行する。
【0082】
このように、劣化初期の検出時刻から閾値時間以上が経過した場合、部分放電診断部113は劣化初期フラグをリセットしてもよい。つまり、部分放電診断部113は、劣化初期に相当する第1部分放電パルス信号が検出されてから閾値時間が経過しても、劣化後期に相当する第2部分放電パルス信号が検出されない場合には、真空バルブ61内で部分放電は発生していないと判断する。そして、劣化初期フラグがリセットされた初期状態に戻って、監視を続行する。
【0083】
(第2実施形態)
第1実施形態では、信号処理部111により、電磁波検出センサ62によって検出された検出信号から、特定の周波数帯域の信号が取得される。そして、パルス信号解析部112により、その特定の周波数帯域の信号に含まれる部分放電パルス信号の特徴量(例えば強度および放電発生頻度)が取得される。これに対して、第2実施形態では、ウェーブレット解析部114が、検出信号の周波数帯域と放電発生頻度を算出する。
【0084】
第2実施形態に係る診断装置1の構成は第1実施形態の診断装置1と同様であり、第2実施形態と第1実施形態とでは、ウェーブレット解析部114によって実行される処理の手順のみが異なる。以下、第1実施形態と異なる点について主に説明する。
【0085】
ウェーブレット解析部114は、電磁波検出センサ62によって検出された検出信号を受信する。ウェーブレット解析部114はウェーブレット解析により検出信号を時間-周波数分解して、検出された信号の周波数帯域と放電発生頻度とを算出する。
【0086】
パルス信号解析部112はウェーブレット解析部114による処理結果を用いて、第1実施形態と同様に、特定の周波数帯域の信号に含まれる部分放電パルス信号の特徴量を取得する。パルス信号解析部112は、例えば、例えば、第1周波数帯域53の信号に含まれる第1部分放電パルス信号の強度および放電発生頻度と、第2周波数帯域54の信号に含まれる第2部分放電パルス信号の強度および放電発生頻度を取得し、部分放電診断部113に送出する。
【0087】
以降の部分放電診断部113による動作は第1実施形態で説明した通りである。
【0088】
以上説明したように、第1および第2実施形態によれば、真空バルブ外の放電や外来ノイズと、真空バルブ内の放電とを区別できる。信号処理部111は、電気機器(例えば真空バルブ61)を収納した金属容器6内で発生した第1信号を分解して、1つ以上の周波数帯域にそれぞれ対応する1つ以上の第2信号を生成する。パルス信号解析部112は、1つ以上の第2信号にそれぞれ含まれる1つ以上の部分放電パルス信号の特徴量を算出する。部分放電診断部113は、1つ以上の部分放電パルス信号の特徴量の時間的な変化に基づく診断結果を出力する。
【0089】
これにより、真空バルブ61外の放電や外来ノイズと、真空バルブ61内の放電とが区別された診断結果を出力できる。
【0090】
なお、第1および第2実施形態の各種処理はコンピュータプログラムによって実現することができるので、このコンピュータプログラムを格納したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体を通じてこのコンピュータプログラムをコンピュータにインストールして実行するだけで、第1および第2実施形態と同様の効果を容易に実現することができる。
【0091】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0092】
1…診断装置、11…制御部、12…通信部、13…入力部、14…出力部、15…信号情報記憶部、16…診断データベース、111…信号処理部、112…パルス信号解析部、113…部分放電診断部、114…ウェーブレット解析部、6…金属容器、61…真空バルブ、62…電磁波検出センサ。