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特許7463127ポリマー架橋体、ゲル状組成物、細胞培養材料、細胞群の製造方法、及び細胞群の分離方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】ポリマー架橋体、ゲル状組成物、細胞培養材料、細胞群の製造方法、及び細胞群の分離方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20240401BHJP
   C08F 8/42 20060101ALI20240401BHJP
   C08F 20/20 20060101ALI20240401BHJP
   C08F 20/58 20060101ALI20240401BHJP
   C12N 5/00 20060101ALI20240401BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C08F8/42
C08F20/20
C08F20/58
C12N5/00
C12N5/10
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020029545
(22)【出願日】2020-02-25
(65)【公開番号】P2021132542
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】田畑 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 直記
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-532477(JP,A)
【文献】国際公開第2021/177950(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第112062946(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108484832(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112480417(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108341944(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 3/00
C08F 8/42
C08F 20/20
C08F 20/58
C12N 5/00
C12N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BOH基を含むホウ素化合物又はその塩により、下記式(II)で表される構造単位(A)を含む重合体が架橋された構造を有し、
前記重合体における前記構造単位(A)の含有量は、重合体の総量に対して、50質量%以上である、架橋体。
【化1】

式(II)中、*は前記構造単位(A)の結合位置を表し、Rは水素原子又はメチル基であり、Xは-O-又は-NH-であり、Zは2つ以上の水酸基を有する炭素数1~8の有機基である。)
【請求項2】
Zが水酸基により置換された炭化水素基である、請求項1に記載の架橋体。
【請求項3】
Zにおける炭素数に対する水酸基の個数の比が、0.3以上である、請求項1又は2に記載の架橋体。
【請求項4】
Zが下記式(III)で表される基(III)である、請求項1~のいずれか一項に記載の架橋体。
【化2】

(式(III)中、Rは-CH(OH)CHOH又は-CHOHであり、Rは、水素原子又は-CHOHであり、Rは、水素原子又は-CHOHであり、*は前記基(III)の結合位置を表す。)
【請求項5】
前記ホウ素化合物又はその塩以外の架橋剤により前記重合体が架橋された構造を更に有する、請求項1~のいずれか一項に記載の架橋体。
【請求項6】
前記ホウ素化合物又はその塩が、ホウ酸又はその塩、ポリホウ酸又はその塩、メタホウ酸又はその塩、フェニルホウ酸又はその塩、及び1,4-フェニレンジボロン酸又はその塩から選択される少なくとも一種の化合物である、請求項1~のいずれか一項に記載の架橋体。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の架橋体を含む、ゲル状組成物。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の架橋体を含む、細胞培養材料。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の架橋体を含む細胞培養基材上で細胞を培養して細胞群を形成する工程と、
解離剤水溶液で前記細胞培養基材を溶解し、前記細胞群を分離する工程と、を備える、細胞群の製造方法。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載の架橋体を含むゲル状基材を解離剤水溶液で溶解し、当該ゲル状基材に接触している細胞群を分離する工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー架橋体、ゲル状組成物、細胞培養材料、細胞群の製造方法、及び細胞群の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インジェクタブルゲル、細胞培養材料等に使用される刺激応答性材料として、ポリビニルアルコール等の水酸基を有する重合体を、ホウ酸等のBOH基(ボロン酸基)を有するホウ素化合物により架橋したゲル状組成物が知られている(特許文献1及び2)。このような刺激応答性材料上で細胞群を培養し、培養した細胞群を刺激応答性材料から分離する場合、細胞へ悪影響のあるpH、温度、光等の刺激ではなく、細胞群への悪影響を考慮し、細胞への毒性の少ない、糖若しくは糖類縁体、又はポリビニルアルコール等の水酸基を有する化合物(解離剤)の水溶液により刺激応答性材料を溶解させて除去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-130720号公報
【文献】特開2019-19185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2のゲル状組成物は、重合体とホウ素化合物との結合力が強く、解離剤水溶液の濃度を高めなければ溶解させにくいという問題がある。
【0005】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、より温和な条件で解離剤水溶液に溶解することができる架橋体を提供することを目的とする。また、本発明は、上記架橋体を含むゲル状組成物、及び細胞培養材料、並びにそれらを用いた細胞群の製造方法、及び細胞群の分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の架橋体は、BOH基を含むホウ素化合物又はその塩により下記式(I)で表される基(I)を含む重合体が架橋された構造を有する。
【化1】

(式(I)中、*は前記基(I)の結合位置を表し、Xは-O-又は-NH-であり、Zは水酸基を有する炭素数1~8の有機基である。)
【0007】
上記重合体が、下記式(II)で表される構造単位(A)を含むと好ましい。
【化2】

(式(II)中、Rは水素原子又はメチル基であり、*は前記構造単位(A)の結合位置を表す。)
【0008】
Zが水酸基により置換された炭化水素基であると好ましい。
【0009】
Zが2つ以上の水酸基を有すると好ましい。
【0010】
Zにおける炭素数に対する水酸基の個数の比が、0.3以上であると好ましい。
【0011】
Zが下記式(III)で表される基(III)であると好ましい。
【化3】

(式(III)中、Rは-CH(OH)CHOH又は-CHOHであり、Rは、水素原子又は-CHOHであり、Rは、水素原子又は-CHOHであり、*は前記基(III)の結合位置を表す。)
【0012】
上記架橋体が、ホウ素化合物又はその塩以外の架橋剤により前記重合体が架橋された構造を更に有すると好ましい。
【0013】
上記ホウ素化合物又はその塩が、ホウ酸又はその塩、ポリホウ酸又はその塩、メタホウ酸又はその塩、フェニルホウ酸又はその塩、及び1,4-フェニレンジボロン酸又はその塩から選択される少なくとも一種の化合物であると好ましい。
【0014】
本発明のゲル状組成物は、上記架橋体を含む。
【0015】
本発明の細胞培養材料は、上記架橋体を含む。
【0016】
本発明の細胞群の製造方法は、上記架橋体を含む細胞培養基材上で細胞を培養して細胞群を形成する工程と、解離剤水溶液で細胞培養基材を溶解し、細胞群を分離する工程と、を備える。
【0017】
本発明の細胞群の分離方法は、上記架橋体を含むゲル状基材を解離剤水溶液で溶解し、当該ゲル状基材に接触している細胞群を分離する工程を含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、より温和な条件で解離剤水溶液に溶解することができる架橋体を提供することができる。また、本発明によれば、上記架橋体を含むゲル状組成物、及び細胞培養材料、並びにそれらを用いた細胞群の製造方法、及び細胞群の分離方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<架橋体>
本実施形態の架橋体は、上記基(I)を有する重合体が、BOH基を含むホウ素化合物又はその塩により架橋された構造を有する。なお、架橋体は、上記基(I)を有する重合体(以下、重合体(A)とも呼ぶ。)が、上記ホウ素化合物により架橋された構造を有していればよく、実際に基(I)を有する重合体を上記ホウ素化合物により架橋して製造されたものに限定されない。
【0020】
<重合体(A)>
重合体(A)は、上記基(I)を有する重合体であれば特に限定されない。重合体(A)は、ポリエステル化合物、ポリエーテル化合物、ポリアミド化合物、ポリイミド化合物、ポリアミドイミド化合物、ポリアミド酸化合物、ポリビニル化合物及びこれらの組み合わせであってよい。また、重合体(A)は、ホモポリマーであってもよく、共重合体であってもよい。基(I)は、重合体(A)の末端に結合していてもよく、末端以外の部分に結合していてもよい。重合体(A)が主鎖とグラフト鎖を有する場合、基(I)は、主鎖に結合していても、グラフト鎖に結合していてもよい。また、ゼラチン、ヒアルロン酸、アルギン酸等の天然高分子に基(I)を導入したものも重合体(A)として使用できる。
【0021】
基(I)は、重合体(A)中に、ホウ素化合物による架橋を十分に確保する観点から、0.001mol/g以上含まれていると好ましく、0.0025mol/g以上含まれているとより好ましく、0.005mol/g以上含まれていると更に好ましい。なお、単位mol/gは、重合体(A)1g当たりの基(I)のモル数である。
【0022】
重合体(A)は、基(I)が有する水酸基以外に水酸基を有していてもよいが、有していなくてもよい。重合体(A)は、水酸基を0.002mol/g以上含むと好ましく、0.005mol/g以上含むとより好ましく、0.01mol/g以上含むと更に好ましい。なお、単位mol/gは、重合体1g当たりの水酸基のモル数である。
【0023】
式(I)中、Xは-O-又は-NH-であり、Zは水酸基を有する炭素数1~8の有機基である。Zは、水酸基により置換された炭化水素基であると好ましい。当該炭化水素基は、芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基であってよく、脂肪族炭化水素基であってよい。また、Zが有する炭素数は、1~6であることが好ましく、2~6であることがより好ましい。式(I)、*は基(I)の結合位置を表す。つまり、基(I)は、*の位置でXに結合する。
【0024】
Zが有する水酸基の個数としては、1以上であればよいが、2以上であると好ましい。また、Zにおける炭素数に対する水酸基の個数の比が、0.3以上であると好ましく、0.4以上であるとより好ましく、0.5以上であると更に好ましく、0.6以上であると特に好ましい。Zにおける炭素数に対する水酸基の個数の比は、1以下であってよい。
【0025】
Zが有する水酸基が2以上の場合の水酸基同士の間隔は、4原子以下が好ましい、2原子又は3原子がより好ましい。なお、水酸基同士の間隔とは、一の水酸基が直接結合している炭素原子から他の水酸基が結合している炭素とを結ぶ原子鎖に含まれる原子数の最小値を言う。なお、上記原子数の計算には、当該水酸基が結合している炭素も含むものとする。Zの化学構造内において、Zが有する各水酸基から4原子以下の間隔で別の水酸基が存在すると好ましく、2原子又は3原子の間隔で別の水酸基が存在すると好ましい。
【0026】
より具体的には、Zは、上記式(III)で表される基(III)であると好ましい。式(III)中、Rは-CH(OH)CHOH又は-CHOHであり、Rは、水素原子又は-CHOHであり、Rは、水素原子又は-CHOHであり、*は前記基(III)の結合位置を表す。
【0027】
重合体(A)は、基(I)を有するビニル化合物に由来する構造単位を有すると好ましい。そのような構造単位としては、上記式(II)で表される構造単位(A)が挙げられる。式(II)中、Rは、水素原子又はメチル基である。式(II)におけるX及びZは、式(I)のものと同じ意味である。式(II)における*は、構造単位(A)の結合位置を表す。つまり、個々の構造単位(A)は、*の位置で他の構造単位と結合する。
【0028】
重合体(A)が構造単位(II)を有する場合、重合体(A)は、エチレン性不飽和基を有する単量体に由来する構造単位を有するものであると好ましい。なお、「エチレン性不飽和基を有する単量体に由来する構造単位」とは、エチレン性不飽和基を有する単量体をラジカル重合したと仮定した場合に得られる構造と同じ構造を指すものとする。つまり、重合体(A)には、実際にエチレン性不飽和基を有する単量体をラジカル重合して製造されたものだけでなく、他の方法で製造されたものであってもエチレン性不飽和基を有する単量体をラジカル重合したと仮定した場合に得られる構造と同じ化学構造を有するものであれば、エチレン性不飽和基を有する単量体に由来する構造単位に含まれる。
【0029】
構造単位(A)は、下記式(IIA)で表される単量体Aに由来する構造単位であってよい。
【0030】
【化4】

式(IIA)中、R、X及びZは、それぞれ式(II)のR、X及びZと同じ意味である。単量体(A)としては、具体的には、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、[トリス(ヒドロキシメチル)メチル](メタ)アクリレート、N-(2,3-ジヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(1,3-ジヒドロキシプロパン-2-イル)(メタ)アクリルアミド、N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル](メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0031】
重合体(A)は、構造単位(A)以外の構造単位(構造単位(B)とも呼ぶ。)を有していてよい。構造単位(B)としては、不飽和カルボン酸に由来する構造単位、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位、ビニル基を有するアミド化合物に由来する構造単位、芳香族ビニル単量体に由来する構造単位、等の構造単位(A)を誘導する単量体以外の単量体(以下、単量体(Bとも呼ぶ。))が挙げられる。
【0032】
不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、けい皮酸、イタコン酸、シトラコン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノブチル、無水イタコン酸、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノブチル、ビニル安息香酸、シュウ酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、アリルオキシメチルアクリル酸等の環化重合性不飽和カルボン酸などを挙げることができる。これらは1種又は2種以上を適宜選択し用いることができる。
【0033】
芳香族ビニル単量体としては、スチレン及びその誘導体が挙げられ、具体的には、スチレン、α-メチルスチレン、ハロゲン化スチレン等が挙げられる。また、ビニル基を有するアミド化合物としては、(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド及びその誘導体、N-ビニルピロリドン、N-ビニル-5-メチルピロリドン、N-ビニルピペリドン、N-ビニル-ε-カプロラクタム、1-(2-プロペニル)-2-ピペリドン等のビニル基及び環状アミド基を有する化合物、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のビニル基及び環状アミド基を有する化合物などが挙げられる。ビニルエステル化合物としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。
【0034】
(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位としては、以下の式(IV)で表される構造単位が挙げられる。
【0035】
【化5】

(式(IV)中、R31は、水素原子又はメチル基を表し、R32は、炭素数1~30の炭化水素基を表す。)
【0036】
32の炭化水素基としては、直鎖のアルキル基、分岐鎖のアルキル基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。R32の炭素数は、1~20であってよく、1~18であってよい。R32としては、より具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、2-エチルヘキシル基、ラウリル基、ステアリル基、シクロヘキシル基、イソボルニル基等が挙げられる。
【0037】
重合体(A)における構造単位(A)の含有量は、重合体(A)の総量に対して、50質量%以上であると好ましく、60質量%以上であると好ましく、70質量%以上であると更に好ましく、80質量%以上であるとより更に好ましく、90質量%以上であると特に好ましい。
【0038】
重合体(A)における構造単位(B)の含有量は、重合体(A)の総量に対して、50質量%未満であると好ましく、35質量%以下であると好ましく、25質量%以下であると更に好ましく、10質量%以下であるとより更に好ましく、5質量%以下であると特に好ましい。重合体(A)は、構造単位(B)を含まなくてもよい。
【0039】
重合体(A)の重量平均分子量は、特に制限はないが、例えば、10,000~5,000,000であると好ましく、100,000~3,000,000であるとより好ましい。重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)等で測定することができる。
【0040】
<ホウ素化合物>
ホウ素化合物は、BOH基(ボロン酸基)を含む化合物又はその塩である。ホウ素化合物は、重合体(A)の水酸基と反応して重合体(A)を架橋させる架橋剤として作用する。ホウ素化合物としては、BOH基を有する化合物としては、特に制限はなく、無機ホウ素化合物及び有機ホウ素化合物のいずれであってもよい。ホウ素化合物の塩としては特に制限されないが、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩などが挙げられる。ホウ素化合物は、一種又は二種以上を使用することができる。
【0041】
無機ホウ素化合物としては、ホウ酸又はその塩、メタホウ酸又はその塩、ポリホウ酸(硼砂等)又はその塩等が挙げられる。有機ホウ素化合物としては、フェニルホウ酸又はその塩、及び1,4-フェニレンジボロン酸又はその塩、m-アミノフェニルボロン酸又はその塩、ボロン酸基を有する構造単位を有する重合体又はその塩等が挙げられる。
【0042】
ボロン酸基を有する構造単位を誘導するための単量体としては、4-(アクリロイルアミノ)フェニルボロン酸、3-(アクリロイルアミノ)フェニルボロン酸、3-(メタクリロイルアミノ)フェニルボロン酸、4-ビニルフェニルボロン酸、4-(ビニルカルバモイル)フェニルボロン酸、2-メトキシピリジン-5-ボロン酸、5-カルボキシチオフェン-2-ボロン酸、それらの芳香族水素原子がフッ素原子で単数または複数置換された化合物、及び、それらのアミノフェニルボロン酸構造がN-アルキルアミノメチルフェニルボロン酸に置換された化合物等が挙げられる。ボロン酸基を有する構造単位を有する重合体は、これらの単量体の(共)重合体、又は他のビニル化合物との共重合体であってよい。
【0043】
ホウ素化合物の使用量は、重合体(A)100質量部に対して、ホウ素化合物は0.1~1000質量部が好ましく、1~500質量部がより好ましく、10~200質量部であると更に好ましい。また、ホウ素化合物の使用量は、重合体(A)における水酸基1モルに対して0.025~250モルが好ましく、0.25~125モルがより好ましく、2.5~50モルが更に好ましい。なお、ホウ素化合物のモル数は、ホウ素化合物に含まれるホウ素原子のモル数とする。
【0044】
<その他の架橋剤>
架橋体は、BOH基を含むホウ素化合物又はその塩以外の架橋剤(その他の架橋剤)により架橋された構造を有していてもよい。その他の架橋剤としては、重合体(A)に構造単位として組み込まれる内部架橋剤と、重合体(A)が有する官能基と反応して直接又はホウ素化合物を介して間接的に複数の重合体(A)の分子同士を架橋する外部架橋剤とが挙げられる。また、その他の架橋剤は、化学構造内に重合体(A)に構造単位として組み込まれる部分と、重合体(A)が有する官能基又はホウ素化合物と反応する部分を有するもの(つまり、内部架橋剤と外部架橋剤の両方の機能を有するもの)であってもよい。架橋構造としては、例えば、多価金属イオンによる架橋構造、多価アルコールによる架橋構造、分子性の内部架橋剤による架橋構造が挙げられる。
【0045】
内部架橋剤としては、化学構造内に重合反応の反応点を複数有する化合物が挙げられる。例えば、重合体(A)がビニル化合物に由来する構造単位を有するものである場合、内部架橋剤としては、多官能ビニル化合物が挙げられる。言い換えれば、重合体(A)は、多官能ビニル化合物に由来する構造単位を有するものであってもよい。
【0046】
多官能ビニル化合物としては、分子性の多官能ビニル化合物が挙げられる。分子性の多官能ビニル化合物としては、分子内に二つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物であれば、特に限定されないが、具体的には、多官能(メタ)アクリル酸アミド、多官能(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ポリビニル化合物等が挙げられる。多官能ビニル化合物は、1種又は2種以上を使用できる。
【0047】
多官能(メタ)アクリル酸エステルとしては、エチレングリコールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、シクロヘキサンジメタノールジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、デンドリマーアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等が挙げられる。
【0048】
また、多官能(メタ)アクリル酸エステルとしては、上記の化合物以外にも下記式(V)の化合物も挙げることができる。
【化6】

(式(V)中、R21及びR22は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、rは、2~10の整数を表し、R23は、炭素数2又は3のアルキレン基を表す。)
【0049】
式(V)中、rは、2~7が好ましく、3~5がより好ましい。
【0050】
式(V)の化合物としては、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0051】
多官能(メタ)アクリル酸アミドとしては、N,N’-メチレンビスアクリルアミド等が挙げられる。
【0052】
芳香族ポリビニル化合物としては、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0053】
上記重合体(A)における、架橋剤に由来する構造単位の含有量は、重合体(A)100質量部に対して、0.5~20質量部であると好ましく、1~10質量部であるとより好ましい。
【0054】
また、多官能ビニル化合物としては、不飽和カルボン酸と多価金属イオンとの塩も挙げられる。不飽和カルボン酸と多価金属イオンとの塩に由来する構造単位を重合体(A)に導入すると、複数の重合体(A)の分子同士を多価金属イオンにより架橋した構造を形成することができる。多価金属イオンとしては、2価以上の金属イオンであれば特に制限はないが、2価又は3価の金属イオンが好ましく、亜鉛イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、ネオジムイオンが挙げられる。不飽和カルボン酸としては、上述の単量体(B)として例示したものが挙げられるが、(メタ)アクリル酸が好ましい。不飽和カルボン酸と多価金属イオンとの塩としては、(メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸カルシウム、(メタ)アクリル酸マグネシウム、(メタ)アクリル酸アルミニウム、(メタ)アクリル酸ネオジム等が好ましい。
【0055】
上記重合体(A)における、不飽和カルボン酸と多価金属イオンとの塩に由来する構造単位の含有量は、重合体(A)100質量部に対して、0.5~20質量部であると好ましく、1~10質量部であるとより好ましい。
【0056】
なお、多価金属イオンは、外部架橋剤として導入することもできる。例えば、不飽和カルボン酸に由来する構造単位を有する重合体(A)を合成後、多価金属イオン添加して後架橋することにより架橋構造を形成してもよい。
【0057】
外部架橋剤としては、多価金属イオン以外に、多価アルコールが挙げられる。多価アルコールは、ホウ素化合物と反応して間接的に重合体(A)を架橋することができる。これにより、架橋体内に多価アルコールに由来する構造を導入することができる。多価アルコールとしては、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール(カチオン性、アニオン性、反応型のいずれであってもよい)、ポリグリセリン等が挙げられる。カチオン性の変性ポリビニルアルコールとしては、第四級アンモニウム基等のカチオン性の官能基を導入したポリビニルアルコールが挙げられ、具体的には、三菱ケミカル株式会社製の「ゴーセネックス(登録商標)K-434」等のゴーセネックス(登録商標)Kシリーズが挙げられる。アニオン性の変性ポリビニルアルコールとしては、スルホン酸基、カルボキシル基等のアニオン性の官能基を導入したポリビニルアルコールが挙げられ、具体的には、三菱ケミカル株式会社製の「ゴーセネックス(登録商標)L-3266」等のゴーセネックス(登録商標)Lシリーズ、「ゴーセネックス(登録商標)T-330」等のゴーセネックス(登録商標)Tシリーズなどが挙げられる。反応型の変性ポリビニルアルコールとしては、アセトアセチル基等の反応性の官能基を導入したポリビニルアルコールが挙げられ、具体的には、三菱ケミカル株式会社製の「ゴーセネックス(登録商標)Z-100」等のゴーセネックス(登録商標)Zシリーズが挙げられる。多価アルコールの使用量は、重合体(A)100質量部に対して、好ましくは1~200質量部、より好ましくは10~150質量部であると好ましく、更に好ましくは50~120質量部の多価アルコールに由来する構造を有する。
【0058】
<重合体(A)の製造方法>
本実施形態の架橋体は、重合体(A)をホウ素化合物により架橋することによって製造することができる。重合体(A)の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、基(I)を有する単量体を重合することによって製造することができる。
【0059】
重合体(A)の製造方法としては、例えば、重合体(A)が構造単位(A)を有する場合、重合体(A)は、単量体(A)、任意成分として単量体(B)又は多官能ビニル化合物を含む単量体組成物を重合する方法が挙げられる。
【0060】
単量体組成物を重合させる際には、重合開始剤を用いることができる。
【0061】
重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤(特に熱重合開始剤)が好ましく、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、オクタノイルパーオキシド、オルトクロロベンゾイルパーオキシド、オルトメトキシベンゾイルパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、シクロヘキサノンパーオキサイド、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(商品名:パーヘキシルO(登録商標))、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン(商品名:パーヘキサHC(登録商標))、クメンヒドロパーオキシド、t-ブチルヒドロパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド等の過酸化物系重合開始剤;2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,3-ジメチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス-(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,3,3-トリメチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-イソプロピルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2-(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリン酸)、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート等のアゾ化合物系重合開始剤;が挙げられる。
これらは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用いてもよい。
【0062】
重合開始剤の使用量は、特に限定されないが、通常、重合体(A)の原料モノマー100質量部あたり、好ましくは0.001~20質量部、より好ましくは0.01~10質量部である。
【0063】
単量体組成物は、溶媒を含んでいてもよい。つまり、単量体組成物は、溶媒の存在下で、重合してもよい。溶媒としては、特に限定されず、水及び有機溶媒が挙げられるが、水が好ましい。
【0064】
重合体(A)をホウ素化合物により架橋させる方法は、特に制限されないが、水中で重合体(A)とホウ素化合物を架橋反応させる方法が挙げられる。例えば、重合体(A)の水溶液にホウ素化合物又はその水溶液を添加することによって重合体(A)を架橋させることができる。水中で重合体(A)をホウ素化合物により架橋させた場合、架橋体は、水溶液又はゲル状組成物の形態で得ることができる。得られた架橋体の水溶液又はゲル状組成物は、凍結乾燥等により乾燥させて乾燥体としてもよい。乾燥体は、例えば、紐状、シート状等の形状であってよいが、粉砕して粉末としてもよい。
【0065】
なお、ゲル状組成物は、完全に流動性のなくなったゲルの状態のものでなくてもよく、高粘度の水溶液(粘性水溶液)であってもよい。粘性水溶液の粘度は、特に限定されないが、10Pa・s以上であってよい。また、ゲル状組成物は、紐状、シート状、粉末状等の固形物であってもよいが、ハイドロゲルであってもよい。
【0066】
本実施形態の架橋体を含むゲル状組成物は、細胞培養材料、癒着防止剤、薬剤担体等の医用材料、(農業用)保水材、物質吸着剤、玩具、化粧料、空洞形成材料などに使用できる。
【0067】
ゲル状組成物を細胞培養材料に使用する場合、ゲル状組成物は、細胞培養に使用する添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、L-グルタミン、アラニルグルタミン等のアミノ酸又はアミノ酸誘導体;アルブミン、インスリン、トランスフェリン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン(EGF、FGF等のホルモン、成長因子、サイトカイン、など)、コラーゲン、ゼラチン等のタンパク質;ウシ血清、ウマ血清、ブタ血清、ウサギ血清、ヤギ血清、ヒト血清等の血清;炭酸水素ナトリウム、亜セレン酸ナトリウム等の無機塩;ピルビン酸ナトリウム、HEPES(N’-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N’-2-エタンスルホン酸)等の有機塩などが挙げられる。
【0068】
また、細胞培養材料を、シート状、チューブ状、円筒状、粒子状等の所望の形状として、細胞培養基材として使用することができる。細胞培養基材の形状は特に限定されず、目的に応じて適宜変更できる。
【0069】
<細胞群の製造方法>
上記細胞培養基材を用いて、細胞群を製造することができる。すなわち、本実施形態の細胞群の製造方法は、上記細胞培養基材上で細胞を培養して細胞群を形成する工程(培養工程)と、解離剤水溶液で上記細胞培養基材を溶解し、細胞群を分離する工程(分離工程)と、を備えるものであってよい。
【0070】
本実施形態の細胞培養基材は、上記架橋体を含むため、解離剤水溶液への溶解性に優れ、容易に解離剤水溶液に溶解させて細胞群と分離できる。また、解離剤は、糖、糖の類縁体など、細胞毒性の低いものであるものの、解離剤水溶液に高濃度に含まれていると、解離剤水溶液の浸透圧が高まり、分離工程において、分離すべき細胞の脱水などにより悪影響を及ぼす場合がある。しかしながら、本実施形態の細胞培養基材は、解離剤水溶液への溶解性に優れるため、低濃度の解離剤水溶液を使用できる。
【0071】
解離剤としては、特に限定されず、架橋体におけるホウ素化合物と重合体(A)との間の結合を解離させ、架橋体の溶解を促す作用のあるものであれば、特に制限はないが、ゼラチン、糖、糖類縁体、多価アルコール、ポリフェノール、ヌクレオチド又はその誘導体等が挙げられ、糖又は糖類縁体が好ましい。
【0072】
糖としては、単糖類、二糖類、オリゴ糖、多糖類のいずれであってもよいが、単糖類が好ましく、五炭糖又は六炭糖が好ましく、リボース又はグルコールが更に好ましい。糖類縁体としては、ソルビトール等の炭素数5~6の糖アルコールが好ましい。多価アルコールとしては、カテコール等の低分子化合物、ポリビニルアルコール等の高分子化合物が挙げられる。ヌクレオチドとしては、ATP(アデノシン三リン酸)、アデノシン二リン酸(ADP)、アデノシン一リン酸(AMP)等が挙げられる。ヌクレオチド誘導体としては、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+、又はその還元型のNADH)等が挙げられる。
【0073】
解離剤水溶液における解離剤の濃度は特に限定されないが、解離剤水溶液の全量に対して0.1~10質量%であると好ましく、0.1~5質量%であるとより好ましく、0.1~3質量%であると更に好ましく、0.1~2質量%であると特に好ましい。
【0074】
製造される細胞群の形状としては、特に限定されず、塊状、チューブ状、円筒状、シート状のいずれであってもよい。細胞群の形状は、例えば、使用する細胞培養基材の形状を変更することにより適宜調節できる。
【0075】
分離工程において、細胞培養基材を溶解させる方法としては、特に限定されず、例えば、細胞群が形成された細胞培養基材を解離剤水溶液に浸漬する方法等が挙げられる。浸漬時間は、10分~20時間が好ましく、30分~4時間が好ましい。また、細胞培養基材を浸漬している間、解離剤水溶液の温度は、20~40℃であると好ましい。
【0076】
また、本実施形態の細胞群の製造方法により製造することのできる細胞群は、特に限定されず、あらゆる細胞(例えば、表皮細胞、上皮細胞、内皮細胞、繊維芽細胞、脂肪細胞、免疫細胞、筋細胞、軟骨細胞、骨髄細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、血球系細胞、神経細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞などの細胞種もしくはこれら細胞の前駆細胞、幹細胞、癌細胞など)、又はそれらの細胞が存在するあらゆる組織・器官(例えば、皮膚、筋肉、骨、関節、骨格筋、血管、脊髄、心臓、胸腺、脾臓、肺、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、消化管など)の培養に使用することができる。
【0077】
<細胞群の分離方法I>
本実施形態の細胞群の分離方法は、上記架橋体を含むゲル状基材を解離剤水溶液で溶解し、当該ゲル状基材に接触している細胞群を分離する工程を含むものであってよい。上述のとおり、本実施形態のゲル状基材は、上記架橋体を含むため、解離剤水溶液に容易に溶解させることができるため、当該ゲル状基材に接触(付着)する細胞群と容易に分離できる。ゲル状基材としては、特に限定されないが、ハイドロゲルであってよく、細胞培養基材であってもよい。ゲル状基材を解離剤水溶液で溶解する方法としては、特に制限はないが、上記細胞培養基材を溶解させる方法と同様の方法を採用できる。
【0078】
<細胞群の分離方法II>
また、本実施形態の細胞群の分離方法は、ゲル状基材を0.1~5質量%(0.2~3質量%であると好ましく、0.3~2質量%であるとより好ましい。また、0.5~5質量%であってもよい。)の解離剤水溶液で溶解し、当該ゲル状基材に接触している細胞群を分離する工程を含むものであってもよい。ゲル状基材としては、特に限定されないが、上記架橋体を含むものであってよい。また、ゲル状基材としては、特に限定されないが、ハイドロゲルであってよく、細胞培養基材であってもよい。ゲル状基材を解離剤水溶液で溶解する方法としては、特に制限はないが、上記細胞培養基材を溶解させる方法と同様の方法を採用できる。
【0079】
<空洞形成材料>
本実施形態の架橋体は、解離剤水溶液により容易に溶出することができるため、他の材料に空洞を形成するための材料(空洞形成材料)として使用することができる。例えば、架橋体を含まない基材中に、架橋体を含むゲル構造物(ハイドロゲル等)を封入してゲル封入基材を作製し、次いで、解離剤水溶液でゲルを溶出することにより、空洞が形成された基材を作製することができる。空洞が形成された基材としては特に制限はなく、細胞培養基材等であってよい。空洞が形成された基材が細胞培養基材である場合、基材に空洞が形成された後に細胞培養基材として用いてもよいが、細胞培養中、又は細胞培養後に解離剤水溶液で架橋体を含むゲルを溶出してもよい。基材の材質としては、架橋体を含むゲルよりも解離剤水溶液に対する溶解度が高いものであれば特に制限はないが、ゼラチン等が挙げられる。
【0080】
基材に形成される空洞は、架橋体を含むゲル構造物の形状に相補的な形状である。例えば、ゲル構造物として紐状のものを用いれば、円筒状、チューブ状等の形状の空洞を形成できる。また、ゲル構造物の形状が粒子状であれば、基材に細孔を形成することができ、多孔質基材を得ることもできる。本実施形態の架橋体は、解離剤水溶液で容易に溶出できるため、溶出中に基材に溶出液による悪影響を及ぼすことが少ない。
【実施例
【0081】
合成例1(P(GLMA)の合成)
攪拌子を入れた反応容器にガス導入管、温度計、冷却管を付し、単量体としてグリセロールモノアクリレート(GLMA)10g、溶媒として精製水90g、アゾ系ラジカル重合開始剤0.05g(和光純薬社製、商品名:V-50)を仕込み、窒素ガスを流しながら攪拌と昇温を開始した。内温65℃で重合を開始し、6時間反応を行った。
得られた反応液を大量のアセトン中に撹拌しながら投入することで再沈した。沈殿物を真空乾燥機によって、減圧下、40℃で12時間減圧乾燥し、固体の重合体P(GLMA)を得た。
得られた重合体P(GLMA)の重量平均分子量は582000であった。なお、重量平均分子量は、GPCにより測定した値である。
【0082】
合成例2(P(1,3-DHPMA)の合成)
単量体としてN-(1,3-ジヒドロキシプロパン2-イル)メタクリルアミド(1,3-DHPMA)10gを用いた以外は合成例1と同様にして、固体の重合体P(1,3-DHPMA)を得た。
得られた重合体P(1,3-DHPMA)の重量平均分子量は525000であった。
【0083】
合成例3(P(GAz05)の合成
単量体としてグリセロールモノアクリレート(GLMA)9.5g、アクリル酸亜鉛(AA-Zn)0.5を用いた以外は合成例1と同様にして、固体の重合体P(GAz05)を得た。
得られた重合体P(GAz05)の重量平均分子量は839000であった。
【0084】
実施例1
合成例1で得られたP(GLMA)の10質量%水溶液200μlと硼砂の飽和水溶液100μlを混合し激しく攪拌することで、ハイドロゲルが得られた。
【0085】
<溶解試験>
得られたハイドロゲル5mgに2質量%グルコース水溶液1000μlを加え37℃で静置した。また、得られたハイドロゲル5mgに2質量%ソルビトール水溶液1000μlを加え37℃で静置した。
グルコース水溶液及びソルビトール水溶液のいずれを用いた場合であっても、60分後には完全にハイドロゲルが溶解及び消失した。
【0086】
実施例2
合成例1で得られたP(GLMA)の10質量%と水溶液100μlとポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名:「PVA217」)の10質量%水溶液100μlとを混合し、さらに硼砂の飽和水溶液100μlを混合し激しく攪拌することで、ハイドロゲルが得られた。得られたハイドロゲルに対して実施例1と同様に溶解試験を行った。結果を表1に示す。
【0087】
実施例3
P(GLMA)の10質量%水溶液に代えて合成例3で得られたP(GAz05)の10質量%水溶液を用いた以外は実施例1と同様にしてハイドロゲルを得た。得られたハイドロゲルに対して実施例1と同様に溶解試験を行った。結果を表1に示す。
【0088】
実施例4
P(GLMA)の10質量%水溶液に代えて合成例2で得られたP(1,3-DHPMA)の10質量%水溶液を用いた以外は実施例1と同様にしてハイドロゲルを得た。得られたハイドロゲルに対して実施例1と同様に溶解試験を行った。結果を表1に示す。
【0089】
実施例5
ホウ砂の飽和水溶液に代えてメタホウ酸ナトリウムの3質量%水溶液を用いた以外は実施例3と同様にしてハイドロゲルを得た。得られたハイドロゲルに対して実施例1と同様に溶解試験を行った。結果を表1に示す。
【0090】
比較例1
P(GLMA)の10質量%水溶液に代えてポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名:「PVA217」)の10質量%水溶液を用いた以外は実施例1と同様にしてハイドロゲルを得た。得られたハイドロゲルに対して実施例1と同様に溶解試験を行った。結果を表1に示す。
【0091】
実施例1~5及び比較例1の結果を表1にまとめる。なお、表1における溶解試験の評価基準は以下のとおりである。
A:ハイドロゲルが60分後に完全に溶解及び消失した。
B:ハイドロゲルが60分後には残存していたものの、24時間後に完全に溶解及び消失した。
C:ハイドロゲルが24時間後に残存した。
【0092】
【表1】
【0093】
実施例6
合成例3で得られたP(GAz05)の10質量%水溶液200μlをCostar(登録商標)細胞培養プレート24ウェル(コーニング社製)に加え、そこにメタホウ酸ナトリウムの3質量%水溶液100μlを添加し、オービタルシェイカーで一晩攪拌することで、ゲル化させた。そこに37℃に温めたゼラチンの10質量%水溶液を加え1時間かけて浸透させた後、紫外線照射装置で滅菌処理を行い、細胞培養基材を作製した。
【0094】
作製した細胞培養基材に、MC3T3-E1細胞を懸濁した培地を1×106cells/wellで播種し、5体積%CO、37℃の条件で培養した。培養細胞が増殖してシート状になったのを確認したのち、2質量%ソルビトール水溶液1000μlを加え37℃で1時間処理したところ、ゲルが溶解し、剥離した細胞シートを回収することができた。なお、培地には約0.1質量%のグルコースが含まれていた。
【0095】
実施例7
実施例1で得られたP(GLMA)10質量%水溶液と硼砂飽和水溶液で作製したハイドロゲルを、ポジティブディスプレイスメント方式のマイクロピペットを用いて押し出して紐状にした。液体窒素で凍結後、減圧乾燥を行い、紐状構造物を得た。
ゼラチン溶液をホモジナイザーを用いて攪拌して泡立てた後、グルタルアルデヒド溶液を加えて攪拌し、ポリプロピレン製の型に注ぎ、その中に紐状構造物を封入した。ゼラチンがグルタルアルデヒドで架橋されたのを確認後、凍結乾燥して紐状構造物封入ゼラチンスポンジを得た。
ゼラチンスポンジを2質量%グルコース水溶液に60分間浸漬した後、紐状構造物が溶解して連通した空洞が形成していることが確認された。