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特許7463128導電性部材、プロセスカートリッジ並びに電子写真画像形成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】導電性部材、プロセスカートリッジ並びに電子写真画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/00 20060101AFI20240401BHJP
   G03G 15/02 20060101ALI20240401BHJP
   G03G 21/18 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
G03G15/00 550
G03G15/02 101
G03G15/00 551
G03G21/18
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020031853
(22)【出願日】2020-02-27
(65)【公開番号】P2021067924
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2023-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2019191565
(32)【優先日】2019-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】西岡 悟
(72)【発明者】
【氏名】山内 一浩
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 宏暁
(72)【発明者】
【氏名】古川 匠
(72)【発明者】
【氏名】伏本 康宏
(72)【発明者】
【氏名】倉地 雅大
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼嶋 健二
(72)【発明者】
【氏名】菊池 裕一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 加奈
【審査官】飯野 修司
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-166209(JP,A)
【文献】特開2012-163954(JP,A)
【文献】特開2002-003651(JP,A)
【文献】特開2017-072833(JP,A)
【文献】特開2004-151695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/00
G03G 15/02
G03G 21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の外表面を有する支持体と、
該支持体の外表面上に設けられた導電層と、を有する電子写真用の導電性部材であって、
該導電層は、第1のゴムの架橋物を含むマトリックスと、該マトリックス中に分散された複数個のドメインとを有し、
該ドメインは、第2のゴムの架橋物および導電性粒子を含み、
該ドメインの少なくとも一部は、該導電性部材の外表面に露出し、該導電性部材の外表面に凸部を生じさせており、
該導電性部材の外表面は、該マトリックスと、該導電性部材の外表面に露出している該ドメインとで構成され、
該導電性部材の外表面に直接白金電極を設け、温度23℃、相対湿度50%の環境下で、該支持体の該外表面と該白金電極との間に振幅が1V、周波数1.0Hzの交流電圧を印加したときのインピーダンスが、1.0×10Ω以上1.0×10Ω以下であり、かつ、
該導電層の長手方向の長さをL、該導電層の厚さをTとし、該導電層の長手方向の中央、及び該導電層の両端から中央に向かってL/4の3か所における、該導電層の厚さ方向の断面の各々について、該導電層の外表面から深さ0.1T~0.9Tまでの厚み領域の任意の3か所に15μm四方の観察領域を置いたときに、全9個の該観察領域の各々で観察されるドメインのうちの80個数%以上が、下記要件(1)および要件(2)を満たすことを特徴とする導電性部材:
要件(1)ドメインの断面積に対する該ドメインが含む該導電性粒子の断面積の割合が、20%以上であること;
要件(2)ドメインの周囲長をA、該ドメインの包絡周囲長をBとしたとき、A/Bが、1.00以上、1.10以下であること。
【請求項2】
前記マトリックスの体積抵抗率ρmが、1.0×10Ωcm以上1.0×1017Ωcm以下である請求項1に記載の導電性部材。
【請求項3】
前記要件(1)および要件(2)を満たしている前記ドメインの最大フェレ径Dfの平均が、0.1μm以上5.0μm以下の範囲内である請求項1または2に記載の導電性部材。
【請求項4】
前記要件(1)におけるドメインの断面積に対する導電性粒子の断面積の割合が25%以上30%以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の導電性部材。
【請求項5】
前記導電性粒子が導電性カーボンブラックである請求項1~4のいずれか1項に記載の導電性部材。
【請求項6】
前記導電性カーボンブラックのDBP吸収量は、40cm/100g以上80cm/100g以下である請求項5に記載の導電性部材。
【請求項7】
前記要件(1)および要件(2)を満たしている前記ドメインの各々に含まれる前記導電性カーボンブラックの算術平均壁面間距離Cが、110nm以上130nm以下であり、かつ該導電性カーボンブラック壁面間距離の標準偏差をσmとしたときに、σm/Cが0.0以上0.3以下である請求項5または6に記載の導電性部材。
【請求項8】
前記第1のゴムと前記第2のゴムの溶解度パラメーターの絶対値の差が0.4(J/cm0.5以上4.0(J/cm0.5以下である請求項1~7のいずれか1項に記載の導電性部材。
【請求項9】
前記凸部の高さが50nm以上200nm以下である請求項1~8のいずれか1項に記載の導電性部材。
【請求項10】
前記凸部を生じさせているドメインの壁面間距離の算術平均値Dmが、2.00μm以下である請求項1~9のいずれか1項に記載の導電性部材。
【請求項11】
前記マトリックスの体積抵抗率ρmが、1.0×1010Ωcm以上1.0×1017Ωcm以下である請求項1~10のいずれか1項に記載の導電性部材。
【請求項12】
前記マトリックスの体積抵抗率ρmが、1.0×1012Ωcm以上1.0×1017Ωcm以下である請求項1~11のいずれか1項に記載の導電性部材。
【請求項13】
電子写真画像形成装置の本体に着脱可能であるプロセスカートリッジであって、請求項1~12のいずれか1項に記載の導電性部材を具備することを特徴とする電子写真用のプロセスカートリッジ。
【請求項14】
前記導電性部材を帯電部材として具備する請求項13に記載のプロセスカートリッジ。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか一項に記載の導電性部材を具備することを特徴とする電子写真画像形成装置。
【請求項16】
前記導電性部材を帯電部材として具備する請求項15に記載の電子写真画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子写真用の導電性部材、プロセスカートリッジ並びに電子写真画像形成装置に向けたものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を採用した画像形成装置(以下、電子写真画像形成装置)においては、帯電部材、転写部材、現像部材などの導電性部材が使用されている。導電性部材は、導電性支持体の外周面に被覆された導電層から構成されており、導電性支持体から導電性部材表面まで電荷を輸送し、当接物体に対して、放電などによって電荷を与える役割を担う。
例えば、帯電部材は、感光体との間に放電を発生させ、感光体表面を帯電させる部材である。また転写部材は、感光体から、印刷媒体、あるいは中間転写体に現像剤を転写させると同時に、放電を発生させて転写後の現像剤を安定化させる部材である。
近年の電子写真画像形成装置の高画質化の要求に対し、高コントラストを達成するために、導電性部材への印加電圧を増加させることが考えられている。このような高電圧印加条件では、これらの導電性部材は、感光体や、中間転写体、印刷媒体などの当接物体に対し、より一層の均一な帯電が求められている。
【0003】
特許文献1には、イオン導電性ゴム材料からなるポリマー連続相と、電子導電性ゴム材料からなるポリマー粒子相とを含んでなる海島構造のゴム組成物であって、該イオン導電性ゴム材料は、体積固有抵抗率1×1012Ω・cm以下の原料ゴムAより主になり、該電子導電性ゴム材料は、原料ゴムBに導電粒子を配合することにより導電化されている帯電部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-3651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の一態様は、帯電バイアスを高めた場合にも電子写真画像への「かぶり」の発生を、安定的に抑制し得る電子写真用の導電性部材の提供に向けたものである。
また、本開示の他の態様は、高品位な電子写真画像の安定的な形成に資するプロセスカートリッジの提供に向けたものである。さらに本開示の他の態様は、高品位な電子写真画像を安定して形成することのできる電子写真画像形成装置の提供に向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様によれば、
導電性の外表面を有する支持体と、
該支持体の外表面上に設けられた導電層と、を有する電子写真用の導電性部材であって、
該導電層は、第1のゴムの架橋物を含むマトリックスと、該マトリックス中に分散された複数個のドメインとを有し、
該ドメインは、第2のゴムの架橋物および導電性粒子を含み、
該ドメインの少なくとも一部は、該導電性部材の外表面に露出し、該導電性部材の外表面に凸部を生じさせており、
該導電性部材の外表面は、該マトリックスと、該導電性部材の外表面に露出している該ドメインとで構成され、
該導電性部材の外表面に直接白金電極を設け、温度23℃、相対湿度50%の環境下で、該支持体の該外表面と該白金電極との間に振幅が1V、周波数1.0Hzの交流電圧を印加したときのインピーダンスが、1.0×10Ω以上1.0×10Ω以下であり、かつ、
該導電層の長手方向の長さをL、該導電層の厚さをTとしたとき、該導電層の長手方向の中央、及び該導電層の両端から中央に向かってL/4の3か所における、該導電層の厚さ方向の断面の各々について、該弾性層の外表面から深さ0.1T~0.9Tまでの厚み領域の任意の3か所に15μm四方の観察領域を置いたときに、全9個の該観察領域の各々で観察されるドメインのうちの80個数%以上が、下記要件(1)および要件(2)を満たす導電性部材が提供される:
(1)ドメインの断面積に対する該ドメインが含む該導電性粒子の断面積の割合が、20%以上であること;
(2)ドメインの周囲長をA、該ドメインの包絡周囲長をBとしたとき、A/Bが、1.00以上、1.10以下であること。
【0007】
また本開示の他の態様によれば、電子写真画像形成装置の本体に着脱可能に構成されているプロセスカートリッジであって、上記の導電性部材を具備しているプロセスカートリッジが提供される。
更に本開示の他の態様によれば、上記の導電性部材を具備している電子写真画像形成装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、帯電バイアスを高めた場合にもかぶりを抑制し得る帯電部材として用いることができる電子写真用の導電性部材を得ることができる。
また、本開示の他の態様によれば、高品位な電子写真画像の形成に資するプロセスカートリッジを得ることができる。
更に、本開示の他の態様によれば、高品位な電子写真画像を形成することができる電子写真画像形成装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の一態様に係る導電性部材の長手方向に対して垂直な方向の断面図である。
図2】本開示の一態様に係る導電性部材の導電層の長手方向に対して垂直な方向の断面図である。
図3】導電性部材の導電層のインピーダンス測定の説明図である。
図4】本開示に係るドメインの最大フェレ径を説明する概念図である。
図5】本開示に係るドメインの包絡周囲長を説明する概念図である。
図6】本開示に係るドメイン形状を測定する切片の概念図である。
図7】本開示の一態様に係るプロセスカートリッジの断面図である。
図8】本開示の一態様に係る電子写真画像形成装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、特許文献1に係る帯電部材を用いて電子写真画像を形成するにあたり、コントラストがより高い電子写真画像を得ることを試みた。具体的には、当該帯電部材と電子写真感光体との間の帯電バイアスを、一般的な帯電バイアス(例えば、-1000V)よりも高い電圧(例えば、-1500V以上)に高めた。その結果、例えば、本来、トナーが現像されない感光ドラム上の白ベタ部分にも反転トナーが現像され、所謂「かぶり」が生じた画像が形成されることがあった。また、所謂転写残トナーが、当該帯電部材の表面に付着していき、経時的に帯電性能が変化する場合があった。
本発明者らは、特許文献1に係る帯電部材が、帯電バイアスを高めたときに、電子写真画像にかぶりを生じさせる理由について検討した。その過程で、特許文献1に係る帯電部材において、電子導電ゴム材料からなるポリマー粒子相の役割に着目した。すなわち、ポリマー粒子相は、弾性体層内において、近傍に存在するポリマー連続相の間での電子の授受によって弾性体層に電子導電性を付与しているものと考えられる。そして、帯電バイアスを高めたときのかぶりの発生が、電界集中に起因しているものと推測した。電界集中とは、特定の箇所に通電時の電流が集中する現象である。
【0011】
すなわち、本発明者らの観察によれば、特許文献1に係るポリマー粒子相は、形状が異形であり、かつ、外表面に凹凸が存在していた。このようなポリマー粒子相間では、電子の授受が、ポリマー粒子相の凸部に集中し、帯電部材の帯電バイアスが印加される導電性支持体近から帯電部材の外表面に至るまでの電流の流れが不均一となる。そのため、帯電部材の外表面から被帯電体である電子写真感光体への放電が不均一となり、電子写真感光体の表面電位も不均一化する。その結果、電子写真画像にかぶりが生じるものと推測した。
そこで、本発明者らは、帯電バイアスを高めた場合におけるポリマー粒子相間の電子の授受の集中点をなくすことが、電子写真画像のかぶりの改善に有効であると認識した。
そして、かかる認識に基づき、検討を重ねた結果、導電性の外表面を有する支持体と、
該支持体の外表面上に設けられた導電層と、を有し、下記の要件(A)及び要件(B)を満たす導電性部材によれば、高い帯電バイアスを印加した場合にも、電子写真画像へのかぶりを有効に抑制し得ることを見出した。
要件(A):
導電層が、第1のゴムの架橋物を含むマトリックスと、該マトリックス中に分散された複数個のドメイン(海島構造)とを有し、該ドメインは、第2のゴムの架橋物および導電性粒子を含むこと。さらに、導電性部材の外表面に直接白金電極を設け、温度23℃、相対湿度50%の環境下で、支持体の外表面と白金電極との間に振幅が1V、周波数1.0Hzの交流電圧を印加したときのインピーダンスが、以下の範囲であること。
1.0×10Ω以上1.0×10Ω以下。
【0012】
要件(B):
導電層の長手方向の長さをL、導電層の厚さをT、とする。該導電層の長手方向の中央、及び該導電層の両端から中央に向かってL/4の3か所における、該導電層の厚さ方向の断面の各々について、該弾性層の外表面から深さ0.1T~0.9Tまでの厚み領域の任意の3か所に15μm四方の観察領域を置く。そのときに、全9個の該観察領域の各々で観察されるドメインのうちの80個数%以上が、下記要件(B1)および要件(B2)を満たすこと:
要件(B1)ドメインの断面積に対する該ドメインが含む該導電性粒子の断面積の割合が、20%以上であること;
要件(B2)ドメインの周囲長をA、該ドメインの包絡周囲長をBとしたとき、A/Bが、1.00以上、1.10以下であること。
【0013】
以下、各要件について詳細に説明する。
要件(A)について:
要件(A)は、導電層の導電性の程度を表すものである。導電性部材の導電性は、1Hzのインピーダンスが、10Ω以上10Ω以下の範囲内である。インピーダンスを10Ω以上にすることで、過度に放電電流量が増加することを抑制し、その結果、異常放電起因の電位ムラが発生するのを防ぐことができる。またインピーダンスを10Ω以下にすることで、放電電荷量の総量が不足による帯電不足を抑制し得る。
【0014】
要件(A)に係るインピーダンスは次のような方法によって測定することができる。
インピーダンスの測定に際し、帯電部材と測定電極との間の接触抵抗の影響を排除するために、白金の薄膜を帯電部材の外表面に形成し、当該薄膜を電極として使用し、一方で導電性の支持体を接地電極として2端子でインピーダンスを測定することが好ましい。
当該薄膜の形成方法としては、金属蒸着、スパッタリング、金属ペーストの塗布、金属テープを貼付するなどの金属膜の形成方法を挙げることができる。これらの中でも、帯電部材との接触抵抗の低減という観点で、白金の薄膜を蒸着によって形成する方法が好ましい。
帯電部材の表面に白金薄膜を形成する場合、その簡便さおよび薄膜の均一性を考慮すると、真空蒸着装置に対して帯電部材を把持できる機構を付与し、断面が円柱状の帯電部材に対しては、さらに回転機構を付与した、真空蒸着装置を使用することが好ましい。
断面が円柱状の帯電部材に対しては、円柱状形状の軸方向としての長手方向で10mm程度の幅の白金電極を形成し、当該白金電極に対して接触するよう巻き付けた金属シートを測定装置から出ている測定電極と接続して測定を行うことが好ましい。これにより、帯電部材の外径の振れや、表面形状に影響されずに、インピーダンス測定を実施することができる。金属シートとしては、アルミホイルや金属テープ等を用いることができる。
インピーダンスの測定装置は、インピーダンスアナライザ、ネットワークアナライザ、スペクトルアナライザ等のインピーダンスを測定できる装置であればよい。これらの中でも帯電部材の電気抵抗域から、インピーダンスアナライザによって測定することが好ましい。
図3に導電性部材に測定電極を形成した状態の概要図を示す。図3において、31が導電性支持体、32が導電層、33が測定電極である白金蒸着層、34がアルミシートである。図3(a)は斜視図、図3(b)は断面図を示す。同図のように、導電性支持体31と、測定電極の導体層33によって導電層32を挟む状態にすることが重要である。
【0015】
そしてインピーダンス測定装置(ソーラトロン126096W型誘電体インピーダンス測定システム 東陽テクニカ社製、不図示)に、当該アルミシート34から測定電極33と、導電性支持体31に接続して、インピーダンス測定を行う。
インピーダンスの測定は、温度23℃、相対湿度50%環境において、振動電圧1Vpp、周波数1.0Hzで測定し、インピーダンスの絶対値を得る。
導電性部材を長手方向に5個の領域に5等分し、それぞれの領域内から任意に1回ずつ、計5回の、上記測定を行う。その平均値を、導電性部材のインピーダンスとする。
【0016】
要件(B)
要件(B)中、要件(B1)は、該導電層が含むドメインの各々が含む導電性粒子の量を規定している。また、要件(B2)は、ドメインの外周面に凹凸が少ない、又は凹凸がないことを規定している。
特許文献1に記載の導電性部材を分析したところ、ドメインが、凹凸を有する場合やアスペクト比の高い形状をしていることが確認された。鋭意検討した結果、ドメインの形状を凹凸の少ない真円形状に近づけることで上記課題の高電圧印加時におけるかぶりを、飛躍的に抑制できることを突き止めた。
前記したようにドメインのみが導電性をもつ、導電性ドメイン/非導電性マトリックス構成においては、導電性部材内部では、複数個のドメインが導電性を担い、ドメイン-ドメイン間で電荷の授受を行う。ドメインに凸部が存在する場合、凸部に電界が集中し隣接するドメインとの間の電荷の授受が凸部で生じやすくなり、該凸部に過大な電流が流れる。つまり、ドメインの凸部から該凸部に近接するドメインに電荷が流れやすくなる。この現象により、導電性部材表面から局所的に強い放電が発生し、導電性部材を帯電部材として使用する際に、感光体の電位ムラを生じさせる。
【0017】
すなわち、ドメインをなるべく真円形状に近づけることが効果的である。
要件(B1)に関して、本発明者らは、1個のドメインに着目したときに、該ドメインに含まれる導電性粒子の量が、ドメインの外形形状に影響を与えているとの知見を得た。すなわち、1個のドメインの導電性粒子の充填量が増えるにつれて、該ドメインの外形形状がより球体に近くなるとの知見を得た。球体に近いドメインの数が多いほど、ドメイン間での電子の授受の集中点を少なくすることができる。その結果、特許文献1に係る帯電部材において観察された電子写真画像へのかぶりを軽減することができる。
そして、本発明者らの検討によれば、1つのドメインの断面の面積を基準として、当該断面において観察される導電性粒子の断面積の総和の割合が20%以上であるドメインは、ドメイン間での電子の授受の集中を有意に緩和し得る外形形状を取り得る。具体的には、より、球体に近い形状を取り得る。
要件(B2)は、ドメインの外周面における、電子の授受の集中点となり得るような凹凸の存在の程度を規定している。
すなわち、ドメインの周囲長をA、該ドメインの包絡周囲長をBとしたとき、凹凸の度合いを示す要件(B2)の値(A/B)が、1.00のとき、凹凸が無いことを示し、電界の集中をより確実に抑制し得る。また要件(B2)の値が大きくなるほど凹凸した形状であることを示す。この値が大きいドメイン程、凹凸形状を有しているため凸部で電界集中しやすい。要件(B2)の値が1.10以下にすることで、ドメイン形状の凸部に起因する電界集中を抑制できることを見出した。なお、包絡周囲長とは、図5に示したように、観察領域内で観察されるドメイン51の凸部同士を結び、凹部の周長を無視したときの周囲長(破線52)である。
【0018】
以上の結果より本発明者らは、全9個の観察領域の各々で観察される導電層断面のドメインのうち80個数%以上が、要件(A)と(B)を同時に満たす時、導電性部材の内部の電界集中を抑制し、均一放電を達成できることを突き止めた。その結果、帯電部材として高電圧印加時の、感光体におけるカブリを抑制できる。なお、要件(B)では、ドメインの観察対象を、導電層の厚み方向の断面における、導電層の外表面から深さ0.1T~0.9Tの範囲内とした。その意味としては、導電層中を導電性支持体側から該導電層の外表面側に向かう電子の移動は、主に当該範囲内に存在するドメインによって主に支配されていると考えられるためである。
【0019】
本発明者らは、更に、特許文献1に係る帯電部材の帯電性能を経時的に変化させるトナーの表面への付着について検討した。転写プロセスを経た後にも感光体上に残留しているトナー(以降、「転写残トナー」ともいう)は、転写プロセスの電圧の極性と同極性(正極性)に帯電していることが多い。そのため、感光体と帯電部材とのニップ部に到達した転写残トナーは、帯電部材の表面に静電的に付着する。その結果、帯電部材の表面は、転写残トナーで徐々に汚染され、帯電部材の表面からの安定的な放電を阻害する場合がある。そして、帯電部材の外表面への転写残トナーの静電的な付着の抑制には、転写残トナーの有する電荷を反転させることが有効である。
【0020】
ここで、本発明者らは、高い帯電バイアスを印加した場合にも、電子写真画像へのかぶりを有効に抑制し得る、前記要件(A)及び要件(B)を備えた導電性部材を用いて、転写残トナーの電荷を反転させることを検討した。その結果、前記要件(A)及び要件(B)に加えて、さらに、該ドメインの少なくとも一部を、導電性部材の外表面に露出させ、該導電性部材の外表面に該ドメインに由来する凸部を生じさせること(以降、要件(C)ともいう)が、転写残トナーの電荷を反転させるうえで極めて有効であることを見出した。
【0021】
導電性部材の外表面に該ドメインを露出させ、かつ、凸部を形成させることで、帯電部材と感光ドラムとのニップ部に到達した転写残トナーは、凸部と物理的に接触しやすい。加えて、正に帯電している転写残トナーは、負電荷を蓄積している凸部に静電的に引き付けられる。これらの作用により、転写残トナーとドメイン由来の凸部との接触確率が高くなる。そして、凸部と接触した転写残トナーには、負電荷が注入され、ネガ化される。
また、転写残トナーとの接触によって転写残トナーに電荷を受け渡したドメインは、導電層中に存在している他のドメインから安定的かつ継続的に電荷の供給を受けることができる。そのため、ニップ部に到達する転写残トナーを、より確実にネガ化させることが可能となると考えられる。
【0022】
導電性部材の外表面のドメイン由来の凸部の高さは、具体的には50nm以上200nm以下であることが好ましい。凸部を50nm以上の高さにすることで、導電性の凸部と反転トナーとの接触機会を増大できる。さらに100nm以上の高さにすることでさらに接触機会を大きくし、反転トナーカブリを低減することができる。一方で、放電領域において凸部由来の放電のムラが形成されるため、凸部の高さは200nm以下であることが好ましい。
【0023】
また導電性部材の外表面のドメインの壁面間距離の算術平均値Dm(以降、単に「ドメイン間距離Dm」ともいう)は、2.00μm以下であることが好ましい。ドメイン間距離Dmを2.00μm以下にすることで、導電ドメイン由来の凸部と反転トナーとの接触機会を増大できる。
【0024】
よって、該導電性部材によって、前記要件(A)及び(B)により、ドメインを真円形状に近づけて導電層内の電界の集中を抑制し、さらに前記要件(C)により、ドメイン由来の凸部による注入帯電によって反転トナー付着を抑制する。そのことで、帯電バイアスが高くても、カブリを大きく低減することが可能である。
【0025】
<導電性部材>
本開示に係る電子写真用の導電性部材の一態様として、特にローラ形状を有する導電性部材(以降、「導電性ローラ」ともいう)について図を用いて説明する。
図1は、導電性ローラの軸に沿う方向(以降、「長手方向」ともいう)に対して垂直な断面図である。導電性ローラ1は、円柱状の導電性支持体2、支持体2の外周、すなわち支持体の外表面に形成された導電層を有している。
図2に導電性ローラの長手方向に対して垂直な方向の導電層3の断面図を示す。導電層3は、マトリックス3aとドメイン3bとを有するマトリックス-ドメイン構造を有する。また、ドメイン3bは、不図示の導電性粒子を含む。さらに、導電性部材の外表面、すなわち、感光体の如き被帯電体と対向する面には、ドメイン3bの一部が露出している。そして、外表面に露出しているドメイン3bは、導電性部材の外表面に凸部を生じさせている。
【0026】
<マトリックス-ドメイン構造の確認方法>
マトリックス-ドメイン構造の存在は、例えば次のように確認することができる。具体的には、導電性部材から、導電層の薄片を作製して、詳細観察を行えばよい。薄片化する手段としては、例えば、鋭利なカミソリや、ミクロトーム、FIBなどが挙げられる。また、マトリックス-ドメイン構造の観察を好適に実施するために、染色処理、蒸着処理など、導電性の相と絶縁性の相とのコントラストが好適に得られる前処理を施してもよい。破断面の形成、前処理を行った薄片に対して、レーザー顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察することができる。
【0027】
該導電性部材の導電性は、1Hzのインピーダンス測定によって評価すればよく、具体的には、1Hzのインピーダンスが、10Ω以上10Ω以下の範囲にあることが好ましい。10Ω以上にすることで、放電電流量が過大になり、その結果、異常放電起因の電位ムラが発生するのを防ぐことができる。10Ω以下にすることで、放電電荷量の総量が不足による帯電不足を抑制できる。
【0028】
<導電性支持体>
支持体を構成する材料としては、電子写真用の導電性部材の分野で公知なものや、導電性部材として利用できる材料から適宜選択して用いることができる。一例として、アルミニウム、ステンレス、導電性を有する合成樹脂、鉄、銅合金などの金属又は合金が挙げられる。
さらに、これらに対して、酸化処理やクロム、ニッケルなどで鍍金処理を施してもよい。鍍金の種類としては電気鍍金、無電解鍍金のいずれも使用することができる。寸法安定性の観点から無電解鍍金が好ましい。ここで使用される無電解鍍金の種類としては、ニッケル鍍金、銅鍍金、金鍍金、その他各種合金鍍金を挙げることができる。鍍金厚さは、0.05μm以上が好ましく、作業効率と防錆能力のバランスを考慮すると、鍍金厚さは0.10μm以上30.00μm以下であることが好ましい。支持体の円柱状の形状は、中実の円柱状でも、中空の円柱状(円筒状)でもよい。また、支持体の外径は、3mm以上10mm以下の範囲が好ましい。
【0029】
<導電層>
<マトリックス>
マトリックスは、第1のゴム架橋物を含む。マトリックスの体積抵抗率ρmは1.0×10Ωcm以上1.0×1017Ωcm以下が好ましい。
マトリックスの体積抵抗率が1.0×10Ωcm以上の場合、マトリックスの導電性が導電性のドメイン間の電荷の授受に対して与える影響を抑制できる。特に、マトリックスの導電性が高く(体積抵抗率が低く)、イオン伝導性を示す場合、マトリックスが導電性のドメイン間の電荷の授受を過度に助長し、また、ドメイン形状のわずかな変化により電界集中が発生した場合、過大な電流が流れる傾向にある。よって、マトリックスのイオン伝導性を抑えるためにも、体積抵抗率ρmは1.0×10Ωcm以上であることが好ましい。
体積抵抗率ρmが1.0×1017Ωcm以下である場合、導電ドメイン間の電荷の授受を妨げることなく、導電層全体として必要な導電性を得ることができるため、帯電不足による画像弊害を防止することができる。
体積抵抗率ρmは、より好ましくは、1.0×1010Ωcm以上1.0×1017Ωcm以下である。この範囲であれば、マトリックスのイオン伝導性の影響を抑制し、導電性部材に必要な体積抵抗率を得ることができる。体積抵抗率ρmの、最も好ましい範囲としては、1.0×1012Ωcm以上1.0×1017Ωcm以下である。この範囲であれば、高電圧印加時においても、電界集中を強く抑制できると共に、導電性部材に必要な体積抵抗率を得ることができる。
【0030】
<マトリックスの体積抵抗率ρm>
マトリックスの体積抵抗率ρmは、例えば、導電層から、マトリクスドメイン構造が含まれれている所定の厚さ(例えば、1μm)の薄片を切り出し、当該薄片中のマトリクスに走査型プローブ顕微鏡(SPM)や原子間力顕微鏡(AFM)の微小探針を接触させることによって計測することができる。
弾性層からの薄片の切り出しは、例えば、図6(a)に示したように、導電性部材の長手方向をX軸、導電層の厚み方向をZ軸、周方向をY軸とした場合において、薄片が、XZ平面と平湖な断面62aの少なくとも一部を含むように切り出す。または、図6(b)に示すように、薄片が、導電性部材の軸方向に対して垂直なYZ平面(例えば、63a、63b、63c)の少なくとも一部を含むように切り出す。例えば、鋭利なカミソリや、ミクロトーム、収束イオンビーム法(FIB)などが挙げられる。
体積抵抗率の測定は、導電層から切り出した薄片の片面を接地する。次いで、当該薄片の接地面とは反対側の面のマトリクスの部分に走査型プローブ顕微鏡(SPM)や原子間力顕微鏡(AFM)の微小の美装探針を接触させ、50VのDC電圧を5秒間印加し、接地電流値を5秒間測定した値から算術平均値を算出し、その算出した値で印加電圧を除することで電気抵抗値を算出する。最後に薄片の膜厚を用いて、抵抗値を体積抵抗率に変換する。このとき、SPMやAFMは、抵抗値と同時に当該薄片の膜厚も計測できる。
円柱状の帯電部材におけるマトリックスの体積抵抗率の値は、例えば、導電層を周方向に4分割、長手方向に5分割した領域のそれぞれから各1つずつ薄片サンプルを切り出し、上記の測定値を得た後に、合計20サンプルの体積抵抗率の算術平均値を算出することによって求める。
【0031】
<第1のゴム>
第1のゴムは、導電層形成用のゴム混合物中、最も配合割合が多い成分であり、第1のゴムの架橋物は導電層の機械的強度を支配する。従って、第1のゴムは、架橋後において、導電層に、電子写真用の導電性部材に要求される強度を発現するものであり、後述の第2のゴムと相分離し、マトリックス-ドメイン構造を形成し得るものが用いられる。
【0032】
第1のゴムの好ましい例は、以下に挙げる。
天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエン3元共重合ゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、NBRの水素添加物(H-NBR)及びシリコーンゴムなどを挙げることができる。
<補強材>
また、マトリックスには、補強剤として、マトリックスの導電性に影響がない程度に、補強性カーボンブラックを配合することも可能である。ここで使用する補強性カーボンブラックとしては、導電性が低い、FEF、GPF、SRF、MTカーボン等を挙げることができる。
さらに、マトリックスを形成する第1のゴムには、必要に応じて、ゴムの配合剤として一般に用いられている充填剤、加工助剤、加硫助剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫遅延剤、老化防止剤、軟化剤、分散剤、着色剤等を添加してもよい。
【0033】
<ドメイン>
ドメインは導電性であり、第2のゴム架橋物、および、導電性粒子を含む。ここで導電性とは体積抵抗率が1.0×10Ωcm未満であることを指す。
【0034】
<第2のゴム>
第2のゴムの具体例としては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クルルプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H-NBR)、シリコーンゴム、及びウレタンゴム(U)からなる群から選択される少なくとも一が好ましい。
【0035】
<導電性粒子>
ドメインに配合される導電性粒子としては、導電性カーボンブラック、グラファイト等の炭素材料;酸化チタン、酸化錫等の酸化物;Cu、Ag等の金属;酸化物または金属が表面に被覆され導電化された粒子等の電子導電剤が例として挙げられる。また、必要に応じて、これらの導電性粒子の2種類以上を適宜量配合して使用してもよい。
そして、ドメインに配合される導電性粒子は、要件(B1)で規定したように、ドメインの断面積に対する導電性粒子の断面積の割合が少なくとも20%以上、好ましくは25%以上30%以下となる添加量が好ましい。上記範囲にあることで、ドメイン中に導電性粒子を高密度に充填できる。そして、ドメインの外形形状を球体に近づけることができると共に、前記要件(B2)に規定したように凹凸が小さいものとすることができる。さらには高速プロセス下においても、十分な電荷供給量を可能とすることができる。
以上の様な導電性粒子のうち、導電化効率が高い、ゴムとの親和性が大きい、導電性粒子間の距離の制御を容易とする等の理由により、導電性カーボンブラックを主成分として含む導電性粒子が好ましい。ドメインに配合される導電性カーボンブラックの種類については、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、ガスファーネスブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。中でも、後述するように、DBP吸収量が40cm/100g以上80cm/100g以下であるカーボンブラックを特に好適に用い得る。
【0036】
<導電性ドメインの形状>
本発明者らは、導電性ドメインを、より円形状に近づけることにより、導電性ドメインの凸形状起因の電界集中を最小限にすることで、高電圧印加時でも、過剰な電荷の移動を抑制し、感光体を均一帯電できること、その結果としてかぶりを抑制できることを見出した。
ドメインの形状とは、導電層の長手方向の長さをL、導電層の厚さをTとしたとき、該導電層の長手方向の中央、及びその両端から中央に向かってL/4の2か所の計3か所を決める。その3か所における、図6(b)に示されるような導電層の厚さ方向の断面の各々について、該導電層の外表面から深さ0.1T以上0.9T以下までの厚み領域の任意の3か所に15μm四方の観察領域を置く。そのときに、全9個の該観察領域の各々で観察されるドメインの形状で定義される。
ドメインの形状は、これまで説明してきたように円形に近いほうが好ましい。具体的には、導電層の厚さ方向の断面の15μm四方の領域における該ドメインのうちの80個数%以上の該ドメインが、下記要件(B1)および要件(B2)を満たす必要がある。
要件(B1):ドメインの断面積に対する該ドメインが含む該導電性粒子の断面積の割合が、20%以上であること;
要件(B2):ドメインの周囲長をA、該ドメインの包絡周囲長をBとしたとき、A/Bが、1.00以上、1.10以下であること。
【0037】
要件(B2)のドメインの周長と、ドメインの包絡周囲長との比は1.00が最小値であり、1.00である状態は、ドメインが真円或いは楕円であることを示す。比が、1.10を越えると、ドメインに大きな凹凸形状が存在することとなり、すなわち、電界集中が発生しやすくなる。上記要件(B2)を満たす場合、当該電界集中が抑制されるため、かぶりを抑制することが可能となる。
最大フェレ径Dfとは、図4に示されるように、観察されたドメイン41の外周を2本の平行線で挟み、その2本の平行線間を垂線で結んだとき垂線長が最も長くなる時の値である。
ドメインのサイズは、一定の範囲内にあることが好ましく、ドメインサイズを表す指標である最大フェレ径は、0.1μm以上5.0μm以下であることが好ましい。最大フェレ径がこの範囲であれば、ドメインが円形状になりやすくなる。
その結果、かぶりが低減される。また導電性のドメインの微細化により、放電も微細化し、高画質化が可能となるためである。
【0038】
<ドメインの最大フェレ径、面積、周囲長、包絡周囲長、及びドメイン個数の測定方法>
ドメインの最大フェレ径、面積、周囲長、包絡周囲長、及びドメイン個数の測定方法は、次のように実施すればよい。まず、前述のマトリックスの体積抵抗率の測定における方法と同様の方法で切片を作製する。次いで、下凍結破断法、クロスポリッシャー法、収束イオンビーム法(FIB)などの手段で破断面を有する薄片を形成することができる。破断面の平滑性と、観察のための前処理を考慮すると、FIB法が好ましい。また、マトリックス-ドメイン構造の観察を好適に実施するために、染色処理、蒸着処理など、導電性の相と絶縁性の相とのコントラストが好適に得られる前処理を施してもよい。
破断面の形成、前処理を行った薄片に対して、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察することができる。これらの中でも、ドメインの面積の定量化の正確性から、SEMで1,000倍~100,000倍で観察を行うことが好ましい。
ドメインの最大フェレ径、面積、周囲長、包絡周囲長、及びドメイン個数の測定は、上記で撮影画像を定量化することによって得ることができる。すなわち、SEMでの観察により得られた破断面画像に対し、画像処理ソフト(商品名:ImageProPlus、Media Cybernetics社製)等を使用して、8ビットのグレースケール化を行い、256諧調のモノクロ画像を得る。次いで、破断面内のドメインが白くなるように、画像の白黒を反転処理し、2値化を実施する。次いで、画像内のドメイン群のそれぞれから、最大フェレ径、面積、周囲長、包絡周囲長及びドメイン個数を算出すればよい。
上記の測定のためにサンプルは、導電性部材の該導電層の長手方向の長さをLとしたとき、導電層の長手方向の中央、及び該導電層の両端から中央に向かってL/4の2か所の計3か所から切片を切り出す。切片を切り出す方向としては、導電層の長手方向に対して垂直な断面となる方向である。
上記のように導電層の長手方向に対して垂直な断面におけるドメインの形状を評価する理由について図6を参照しながら説明する。
図6では、導電性部材61を、3軸、具体的にはX、Y、Z軸の3次元としてその形状を示した図を示す。図6においてX軸は導電性部材の長手方向(軸方向)と平行な方向、Y軸、Z軸は導電性部材の軸方向と垂直な方向を示す。
【0039】
図6(a)は、導電性部材に対して、XZ平面62と平行な断面62aで導電性部材を切り出すイメージ図を示す。XZ平面は導電性部材の軸を中心として、360°回転することができる。導電性部材が感光体ドラムに対して当接されて回転し、感光ドラムとの隙間を通過する際に放電することを考慮すると、当該XZ平面62と平行な断面62aは、あるタイミングに同時に放電が起きる面を示していることになる。したがって、一定量の断面62aに相当する面が通過することによって、感光ドラムの表面電位が形成される。導電性部材内の電界集中による局所的に大きな放電によって、感光ドラム表面上が局所的に増大し、かぶりとなるため、一定量の断面62aが1枚ではなく、断面62aの集合が通過して形成する、感光ドラム表面電位と相関する評価が必要である。したがって、断面62aのようなある一瞬において同時に放電が発生する断面の解析ではなく、一定量の断面62aを含むドメイン形状の評価ができる導電性部材の軸方向と垂直なYZ平面63と平行な断面(63a~63c)での評価が必要である。断面63a~63cは、該導電層の長手方向の長さをLとしたとき、導電層の長手方向の中央での断面63bと、及び該導電層の両端から中央に向かってL/4の2か所の断面(63a及び63c)の計3か所を選択する。
また、当該断面63a~63cのそれぞれの切片断面の観察位置に関しては、以下のとおりである、すなわち、導電層の厚さをTとしたとき、各切片のそれぞれ外表面から深さ0.1T以上0.9T以下までの厚み領域の任意の3か所を特定する。その任意の3か所で15μm四方の観察領域を置いたときの、合計9か所で測定を行えばよい。
【0040】
<ドメイン形状の制御>
マトリックス-ドメイン構造において円形状に近いドメインの形成は、本開示の効果を発現する上で重要なポイントである。円形状に近いドメインの形成や最大フェレ径のサイズムラの低減は、電界集中やドメインの変形を抑制するため、抵抗変動が低減される。
本発明者らはドメインの断面形状を円形状、すなわち、ドメイン形状を球形状に近づける手法を検討した。その結果以下の2つの手法を用いることで達成できることが判明した。
・ドメインサイズ(最大フェレ径)を小さくする。
・ドメイン中のカーボンゲル量を増やす。
ドメインサイズ(最大フェレ径)を小さくすることで、ドメインが球形状に近づく理由として以下のように推測している。同じドメイン体積分率でもドメインサイズが小さい場合、ドメインの表面積が増加し、その結果マトリックスとの界面が増加する。界面近傍の分子は、周囲を取り囲む異なる分子の数がマトリックス内部より多くなるために、ドメイン内部の分子より大きい自由エネルギーを持つことになる。この界面自由エネルギーを低下させるために、界面を小さくしようとする界面張力が働き、ドメインが球形状(導電層の厚さ方向の断面では円形状)に近づくと考えられる。その結果、電界集中を抑制できる。
【0041】
・ドメインサイズ(最大フェレ径)を小さくする手法
非相溶のポリマー2種を溶融混練させた場合の分散粒子径(ドメインサイズ)Dについて、下記式(4)~(7)に示すTaylorの式、Wuの経験式およびTokitaの式が提案されている(住友化学 技術誌 2003-II、42参照)。
・Taylorの式
式(4)
D=[C・σ/ηm・γ]・f(ηm/ηd)
・Wuの経験式
式(5)
γ・D・ηm/σ=4(ηd/ηm)0.84・ηd/ηm>1
式(6)
γ・D・ηm/σ=4(ηd/ηm)-0.84・ηd/ηm<1
【0042】
【数1】
【0043】
式(4)~(7)において、
D:ドメインサイズ、C:定数、σ:界面張力、
ηm:マトリックスの粘度、ηd:ドメインの粘度、
γ:せん断速度、η:混合系の粘度、P:衝突合体確率、φ:ドメイン相体積、EDK:ドメイン相切断エネルギー:を表す。
【0044】
上記式に示す通りに、球形状に近いドメインの形成には、主に下記4点で制御することが可能である。
1.ドメインとマトリックス間の界面張力差
2.ドメインとマトリックスの粘度比
3.混合時のせん断速度/せん断時のエネルギー量
4.ドメインの体積分率
【0045】
1.ドメインとマトリックス間の界面張力差
一般的に二種の高分子を混合した場合、相分離する。この現象は異種高分子間の相互作用より、同一高分子間の相互作用が強いため、同一高分子同士で凝集し、自由エネルギーを低下させ安定化しようとするため生じる。相分離構造の界面は異種高分子と接触するため、同一分子同士の相互作用で安定化されている内部より、自由エネルギーが高くなる。その結果、界面の自由エネルギーを低減させるために、異種高分子と接触する面積を小さくしようとする界面張力が発生する。この界面張力が小さい場合、エントロピーを増大させるために異種高分子でもより均一に混合しようとする方向に向かう。均一に混合した状態とは溶解であり、溶解度の目安となるSP値と界面張力は相関する傾向にある。つまりドメインとマトリックス間の界面張力差は、ドメインとマトリックスを構成するゴム材料のSP値差と相関すると考えられるため、マトリックスとドメインの原料ゴム等の選択で制御することが可能である。第1のゴムと第2のゴムの溶解度パラメーターの絶対値の差は、0.4(J/cm0.5以上4.0(J/cm0.5以下であれば安定した相分離構造を形成できる。より好ましくは、0.4(J/cm0.5以上2.2(J/cm0.5以下である。この範囲であれば安定した相分離構造を形成できる上、ドメインの最大フェレ径も小さくすることができる。
【0046】
2.ドメインとマトリックスの粘度比
ドメインとマトリックスの粘度比(ηd/ηm)は、1に近い程ドメインの最大フェレ径を小さくすることができる。ドメインとマトリックスの粘度比は、ゴム原料のムーニー粘度の選択や、充填剤の種類や量の配合によって調整が可能である。また、相分離構造の形成を妨げない程度に、パラフィンオイルなどの可塑剤を添加することでも可能である。また混練時の温度を調整することで、粘度比の調整を行うことができる。なおドメインやマトリックスの粘度は、JIS K6300-1:2013に基づきムーニー粘度ML(1+4)を混練時のゴム温度で測定することで得られる。また原料ゴムのカタログ値で代替えしてもよい。
【0047】
3.混合時のせん断速度/せん断時のエネルギー量
混合時のせん断速度/せん断時のエネルギー量は、多い程ドメインの最大フェレ径を小さくすることができる。せん断速度は、混練機のブレードやスクリュウといった撹拌部材の内径を大きくし、撹拌部材の端面から混練機内壁までの間隙を小さくすることや、回転数を大きくすることで上げることができる。またせん断時のエネルギーを上げるには、撹拌部材の回転数を上げることや、ドメイン原料ゴムとマトリックス原料ゴムの粘度を上げることで達成できる。
【0048】
4.ドメインの体積分率
導電層におけるドメインの体積分率は、ドメインとマトリックスの衝突合体確率と相関する。具体的には、導電層における体積分率を低減させると、ドメインとマトリックスの衝突合体確率が低下する。つまり必要な導電性を得られる範囲において、ドメインの体積分率を減らすことでドメインサイズを小さくできる。
【0049】
<SP値の測定方法>
マトリックスとドメインを構成するゴムのSP値は、SP値が既知の材料を用いて、検量線を作成することで、精度良く算出することが可能である。この既知のSP値は、材料メーカーのカタログ値を用いることもできる。例えば、本開示で使用できるNBR及びSBRは、分子量に依存せず、アクリロニトリルおよびスチレンの含有比率でSP値がほぼ決定される。従って、マトリックスおよびドメインを構成するゴムを、熱分解ガスクロマトグラフィー(Py-GC)及び固体NMR等の分析手法を用いて、アクリロニトリルまたはスチレンの含有比率を解析する。そのことにより、SP値が既知の材料から得た検量線から、SP値を算出することができる。
また、イソプレンゴムは、1,2-ポリイソプレン、1,3-ポリイソプレン、3,4-ポリイソプレン、およびcis-1,4-ポリイソプレン、trans-1,4-ポリイソプレンなどの、異性体構造でSP値が決定される。従って、SBRおよびNBRと同様にPy-GC及び固体NMR等で異性体含有比率を解析し、SP値が既知の材料から、SP値を算出することができる。
SP値が既知の材料のSP値は、Hansen球法で求めたものである。
【0050】
次に、ドメイン中のカーボンゲル量を増やすことでドメインが球形状に近づく理由について説明する。カーボンゲルとは、カーボンブラックにゴム分子が吸着されることにより、疑似架橋状態となった粒子状の物質である。カーボンゲルは、原料ゴムを溶解させる有機溶剤でも溶解しない。つまりカーボンブラック表面へのゴム分子の物理吸着や化学吸着により三次元架橋しており、ゴム粒子としてふるまうと考えられる。その結果、カーボンゲルで形成されたゴム粒子が核となり、ドメインを形成するためと推測している。カーボンゲルを増やすことで、前記要件(B2)にかかる、ドメインの凹凸形状を抑制でき、電界集中を抑制できる。
【0051】
カーボンゲルを増やすには、カーボンブラックを、ゴムに対して多量に配合することが好ましく、吸着剤として機能するカーボンブラックを増やせばいい。
ドメイン内に多量のカーボンブラックを配合するための指標として、DBP吸収量に着目した。DBP吸収量(cm/100g)とは、100gのカーボンブラックが吸着し得るジブチルフタレート(DBP)の体積であり、JIS K 6217に準じて測定される。
一般に、カーボンブラックは、平均粒径10nm以上50nm以下の一次粒子がアグリゲートした房状の高次構造を有している。この房状の高次構造はストラクチャーと呼ばれ、その程度はDBP吸収量(cm/100g)で定量化される。
一般的に、ストラクチャーが発達したカーボンブラックは、ゴムに対し補強性が高く、ゴムへのカーボンブラックの取り込みが悪くなる上、混練時のシェアトルクが非常に高くなるため、高充填することが難しい。
本開示で使用される導電性カーボンブラックとしては、DBP吸収量が、40cm/100g以上80cm/100g以下であるカーボンブラックを用いることが好ましい。DBP吸収量を、上記の範囲にすることで、カーボンブラックをゴムに多量配合することで、カーボンゲル量が増える。
さらに、DBP吸収量が上記範囲であれば、導電性カーボンブラックのストラクチャーが小さいためカーボンブラックのゴムへの分散性が良好であるため、カーボンブラックの凝集が少なく、またカーボンブック単体においても凹凸形状が少ない。そのためドメイン形状を丸くしやすい。ストラクチャーが発達したカーボンブラックを用いた場合、ゴムに対し均一な分散が難しく、カーボンブラックが凝集した状態で分散してしまう傾向がある。もともと、カーボンブラックは前述したように房状の高次構造を有しているため凹凸形状をしているが、それらが凝集することでより大きな凸凹構造を有する塊となりやすい。このカーボンブラックの凝集体がドメイン外縁部に存在する場合、ドメイン形状にまで影響を与え凹凸構造を形成する場合がある。
【0052】
また、ドメインに配合される導電性カーボンブラックの添加量としては、隣接するカーボン間の距離の算術平均であるC(以下、「算術平均壁面間距離C」とも称する)が、110nm以上130nm以下となる添加量が好ましい。算術平均壁面間距離Cが110nm以上130nm以下であれば、トンネル効果によるカーボンブラック粒子間の電子の受け渡しが、ドメイン内のほぼすべてのカーボンブラック間で可能となる。つまり上記算術平均壁面間距離を満たしていれば、ドメインの体積抵抗率がほぼ一定となり、電界集中が抑制されるためである。また画像出力の繰り返しによるカーボンブラック壁面間距離の変化による、抵抗変動が抑えられるためである。さらにはカーボンブラックを分散させたゴム中に架橋ゴム的な性質を示すカーボンゲルが増え、形状を維持しやすくなり、成形時ドメインを円形状に維持しやすくなる。その結果、電界集中や、ドメイン凸部変形によるドメイン間距離の変化が抑制され、均一放電を達成しやすくなる。
さらに、導電性カーボンブラックの算術平均壁面間距離Cが110nm以上130nm以下であり、かつ、導電性カーボンブラック壁面間距離の分布の標準偏差をσmする。そのときに、導電性カーボンブラック壁面間距離の変動係数σm/Cが0.0以上0.3以下であることがさらに好ましい。変動係数は、導電性カーボンブラック壁面間距離のばらつきを示す値であり、導電性カーボンブラックの壁面間距離がすべて同じである場合、0.0となる。
変動係数σm/Cが、0.0以上0.3以下を満たす場合、カーボンブラック間の壁面間距離のばらつきが少ないため、ドメイン内のカーボンブラック間でトンネル効果による電子の授受が可能となり体積抵抗率がほぼ一定になりやすい。さらに、カーボンブラックが均一分散されているためドメイン内の導電パスの偏在を抑制できるため、ドメイン内での電界集中を抑制できる。その結果、ドメイン形状に加え、ドメイン内での電界集中を抑制できるため、より均一放電を達成しやすくなる。
【0053】
ドメイン内の導電性カーボンブラック壁面間距離の算術平均値C及びドメイン断面積に対するカーボンブラック断面の割合は次のようにして測定すればよい。まず、導電層の薄片を作製する。マトリックス-ドメイン構造の観察を好適に実施するために、染色処理、蒸着処理など、導電性の相と絶縁性の相とのコントラストが好適に得られる前処理を施してもよい。
破断面の形成、前処理を行った薄片に対して、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察することができる。これらの中でも、導電相であるドメインの面積の定量化の正確性から、SEMで1,000倍~100,000倍で観察を行うことが好ましい。得られた観察画像に対し画像解析装置等を用いて、2値化し解析することで上記算術平均壁面間距離及び上記割合が得られる。
【0054】
<ドメイン由来の凸部の形成方法>
ドメイン由来の凸部は、導電性部材の表面を研削することによって形成ことができる。また、マトリックス-ドメイン構造を有する導電層であるからこそ、砥石による研削工程によってドメイン由来の凸部を好適に形成することができると発明者らは考えている。ドメイン由来の凸部は、プランジ方式研磨機で、研磨砥石によって研削する方法によって形成することが好ましい。
砥石研磨によってドメイン由来の凸部が形成できる推測メカニズムを示す。まず、マトリックス中に分散しているドメインはカーボンブラックなどの導電性粒子が充填されており、導電性粒子が充填されていないマトリックスよりも補強性が高くなっている。すなわち、同じ砥石による研削加工を行った場合、ドメインは補強性が高いために、マトリックスよりも研削されにくく、凸部が形成されやすい。この補強性の違いが生む研削性の違いを利用して、ドメイン由来の凸部を形成することができる。特に、本実施形態に係る導電性部材は、ドメインに多くの導電性粒子を充填した構成であるため、当該凸部を好適に形成することが可能である。
【0055】
ここで、研磨に用いられるプランジ方式研磨機用の研磨砥石について説明する。研磨砥石は、研磨効率や導電層の構成材料の種類に応じて、適宜、表面の粗さを選択することができる。この砥石表面の粗さは、砥粒の種類、粒度、結合度、結合剤、組織(砥粒率)などによって調節することができる。
なお、上記「砥粒の粒度」とは砥粒の大きさを示し、例えば、#80と表記する。この場合の数字は、砥粒を選別するメッシュの1インチ(25.4mm)あたり幾つの目があるかを意味しており、数字が大きくなるほど砥粒が細かいことを示す。上記「砥粒の結合度」とは硬さを示し、アルファベットAからZで表す。この結合度はAに近いほど軟らかく、Zに近いほど硬いことを表す。砥粒中に結合剤を多量に含むほど、結合度の硬い砥石となる。上記「砥粒の組織(砥粒率)」とは、砥石の全容積中に占める砥粒の容積比を表し、この組織の大小により組織の粗密を表す。組織を示す数字が大きいほど、粗であること示す。この組織の数字が大きく、大きな空孔を有する砥石を多孔性砥石と呼び、目詰まり、砥石焼けを防ぐ等の利点を有する。
【0056】
一般的に、この研磨砥石は、原料(砥材、結合剤、気孔剤、等)を混合し、プレス成形、乾燥、焼成、仕上げにより製造することができる。砥粒としては、緑色炭化ケイ素質(GC)、黒色炭化ケイ素質(C)、白色アルミナ質(WA)、かっ色アルミナ質(A)、ジルコニアアルミナ質(Z)などを使用することができる。これらの材料は単体で、又は複数種を混合して用いることができる。また、上記結合剤としては、ビトリファイド(V)、レジノイド(B)、レジノイド補強(BF)、ゴム(R)、シリケート(S)、マグネシア(Mg)、シェラック(E)などを用途に応じて適宜、使用することができる。
ここで、研磨砥石の長手方向の外径形状としては、導電性ローラをクラウン形状に研磨できるように、端部から中央部に向けて徐々に外径が小さくなる逆クラウン形状とすることが好ましい。研磨砥石の外径形状は、長手方向に対して円弧曲線又は2次以上の高次曲線の形状となることが好ましい。また、これ以外にも、研磨砥石の外径形状は4次曲線やサイン関数等、様々な数式で表される形状となっていても良い。研磨砥石の外形形状は外径の変化が滑らかに変化するものが好ましいが、円弧曲線等を直線による多角形状に近似した形状としてもよい。この研磨砥石の軸方向に相当する方向の幅は、導電性ローラの軸方向の幅と同等か、それ以上であることが好ましい。
上記にあげた要因を考慮して砥石を適宜選択し、ドメインとマトリックスの研削性の違いを助長する条件によって研削工程を実施することによって、ドメイン由来の凸部を形成することができる。
【0057】
具体的には、磨きを抑えた条件、切れ味が悪い砥粒を用いた条件が好ましく、例えば、粗削りをした後の精密磨き工程の時間を短くした、処理済の砥石を用いて研磨するなどの手段をとることによって、ドメイン由来の凸部を好適に形成するこができる。
前記処理済みの砥石としては、例えば、ゴム部材で処理した砥石、具体的には、砥粒を配合したゴム部材でドレッシングした砥石の表面を磨くことによって砥粒を摩滅させるなどの処理を行った砥石が挙げられる。
【0058】
<ドメイン由来の凸部の計測方法>
導電層から表面を含む薄片を取り出し、微小探針によってドメインによる凸形状の確認及び凸形状の計測を実施できる。導電性部材からサンプリングした薄片に対し、SPMで表面プロファイル及び電気抵抗プロファイルを測定する。これにより、凸部がドメイン由来の凸部であることを確認できる。同時に、形状プロファイルから、凸部の高さを定量化して評価することが可能である。具体的な手順は後述する。
【0059】
<導電性部材の外表面のドメイン間距離Dmの計測方法>
導電層の長手方向の長さをL、導電層の厚さをTとしたとき、導電層の長手方向の中央、及び導電層の両端から中央に向かってL/4の3か所から、カミソリを用いて帯電部材の外表面が含まれるようにサンプルを切り出す。サンプルのサイズは、帯電部材の周方向、及び長手方向に各々2mm、厚みは、導電層の厚さTとした。得られた3つのサンプルの各々について、帯電部材の外表面に該当する面の任意の3ヶ所に50μm四方の解析領域を置き、当該3つの解析領域を、走査型電子顕微鏡(商品名:S-4800、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて倍率5000倍で撮影する。得られた合計9枚の撮影画像の各々を、画像処理ソフト(商品名:LUZEX;ニレコ社製)を使用して2値化する。
2値化の手順は以下のように行う。撮影画像に対し、8ビットのグレースケール化を行い、256階調のモノクロ画像を得る。そして、撮影画像内のドメインが黒くなるように、2値化し、撮影画像の2値化画像を得る。次いで、9枚の2値化画像の各々について、ドメインの壁面間距離を算出し、さらにそれらの算術平均値を算出する。この値をDmとする。なお、壁面間距離とは、最も近接しているドメイン同士の壁面間の距離であり、上記画像処理ソフトにおいて、測定パラメーターを隣接壁面間距離と設定することで求めることができる。
【0060】
<導電性部材の製造方法>
本開示に係る導電性部材の製造方法の一例を以下に示す。この例においては、製造方法として、下記工程(A)~(C)を含むことが特徴であるが、本開示の構成を達成できる範囲であれば、特に限定されるものではない。
【0061】
工程(A):カーボンブラックおよびゴムを含む、ドメイン形成用のカーボンマスターバッチ(以下、「CMB」とも称する)を調製する工程;
工程(B):マトリックス形成用ゴム組成物(以下、「MRC」とも称する)を調製する工程;
工程(C):該CMBと該MRCとを混練して、マトリックス-ドメイン構造を有するゴム組成物を調製する工程。
工程(D):(A)~(C)の工程で調製したゴム組成物を用いて、押出成形、射出成形、圧縮成形等の公知の方法により導電性支持体上に導電層を形成する工程。
尚、導電層は必要に応じて接着剤を介して導電性支持体上に接着されてもよい。導電性支持体上に形成された導電層は必要に応じて加硫処理され、研磨処理後、紫外線処理の表面処理を行うこともできる。
【0062】
<プロセスカートリッジ>
図7は本開示の一実施形態に係る導電性部材を帯電部材(帯電ローラ)として具備している電子写真用のプロセスカートリッジ100の概略断面図である。このプロセスカートリッジは、現像装置と帯電装置とを一体化し、電子写真装置の本体に着脱可能に構成されたものである。現像装置は、少なくとも現像ローラ103とトナー容器106、トナー109、とを一体化したものであり、必要に応じてトナー供給ローラ104、現像ブレード108、攪拌羽110を備えていてもよい。帯電装置は、感光ドラム1-1、および帯電ローラ102を少なくとも一体化したものであり、クリーニングブレード105、廃トナー容器107を備えていてもよい。帯電ローラ102、現像ローラ103、トナー供給ローラ104、および現像ブレード108は、それぞれ電圧が印加されるようになっている。
【0063】
<電子写真画像形成装置>
図8は、本開示の一実施形態に係る導電性部材を帯電部材(帯電ローラ)として用いた電子写真画像形成装置200の概略構成図である。この装置は、四つの前記プロセスカートリッジ100が着脱可能に装着されたカラー電子写真装置である。各プロセスカートリッジには、ブラック、マゼンダ、イエロー、シアンの各色のトナーが使用されている。感光ドラム201は矢印方向に回転し、帯電バイアス電源から電圧が印加された帯電ローラ202によって一様に帯電され、露光光211により、その表面に静電潜像が形成される。一方トナー容器206に収納されているトナー209は、攪拌羽210によりトナー供給ローラ204へと供給され、現像ローラ203上に搬送される。そして現像ローラ203と接触配置されている現像ブレード208により、現像ローラ203の表面上にトナー209が均一にコーティングされると共に、摩擦帯電によりトナー209へと電荷が与えられる。上記静電潜像は、感光ドラム101に対して接触配置される現像ローラ203によって搬送されるトナー209が付与されて現像され、トナー像として可視化される。
【0064】
可視化された感光ドラム上のトナー像は、一次転写バイアス電源により電圧が印加された一次転写ローラ212によって、テンションローラ213と中間転写ベルト駆動ローラ214に支持、駆動される中間転写ベルト215に転写される。各色のトナー像が順次重畳されて、中間転写ベルト上にカラー像が形成される。
転写材219は、給紙ローラにより装置内に給紙され、中間転写ベルト215と二次転写ローラ216の間に搬送される。二次転写ローラ216は、二次転写バイアス電源から電圧が印加され、中間転写ベルト215上のカラー像を、転写材219に転写する。カラー像が転写された転写材219は、定着器218により定着処理され、装置外に廃紙されプリント動作が終了する。
一方、転写されずに感光ドラム上に残存したトナーは、クリーニングブレード205により掻き取られて廃トナー収容容器207に収納され、クリーニングされた感光ドラム201は、上述の工程を繰り返し行う。また転写されずに一次転写ベルト上に残存したトナーもクリーニング装置217により掻き取られる。
なお一例としてカラー電子写真装置を示したが、モノクロ電子写真装置(不図示)では、プロセスカートリッジはブラックのトナー使用品のみである。中間転写ベルトを介さず、プロセスカートリッジと一次転写ローラ(二次転写ローラなし)により、モノクロ像が直接に転写材へ形成される。その後、定着器により定着されて、装置外に排紙されることでプリント動作が終了する。
【実施例
【0065】
続いて、以下に本開示の実施例および比較例における、導電性部材を、下記に示す材料を用いて作製した。
【0066】
<NBR>
・NBR(1)(商品名:JSR NBR N230SV、アクリロニトリル含有量:35%、ムーニー粘度ML(1+4)100℃:32、SP値:20.0(J/cm0.5、JSR株式会社製、略称:N230SV)
・NBR(2)(商品名:JSR NBR N215SL、アクリロニトリル含有量:48%、ムーニー粘度ML(1+4)100℃:45、SP値:21.7(J/cm0.5、JSR株式会社製、略称:N215SL)
・NBR(3)(商品名:Nipol DN401LL、アクリロニトリル含有量:18.0%、ムーニー粘度ML(1+4)100℃:32、SP値:17.4(J/cm0.5、日本ゼオン株式会社製、略称:DN401LL)
<イソプレンゴムIR>
・イソプレンゴム(商品名:Nipol IR2200L、ムーニー粘度ML(1+4)100℃:70、SP値:16.5(J/cm0.5、日本ゼオン株式会社製、略称:IR2200L)
<ブタジエンゴムBR>
・ブタジエンゴム(1)(商品名:UBEPOL BR130B、ムーニー粘度ML(1+4)100℃:29、SP値:16.8(J/cm0.5、宇部興産株式会社製、略称:BR130B)
・ブタジエンゴム(2)(商品名:UBEPOL BR150B、ムーニー粘度ML(1+4)100℃:40、SP値:16.8(J/cm0.5、宇部興産社製、略称:BR150B)
<SBR>
・SBR(1)(商品名:アサプレン303、スチレン含有量:46%、ムーニー粘度ML(1+4)100℃:45、SP値:17.4(J/cm0.5、旭化成株式会社製、略称:A303)
・SBR(2)(商品名:タフデン2003、スチレン含有量:25%、ムーニー粘度ML(1+4)100℃:33、SP値:17.0(J/cm0.5、旭化成株式会社製、略称:T2003)
・SBR(3)(商品名:タフデン2100R、スチレン含有量:25%、ムーニー粘度ML(1+4)100℃:78、SP値:17.0(J/cm0.5、旭化成株式会社製、略称:T2100R)
・SBR(4)(商品名:タフデン2000R、スチレン含有量:25%、ムーニー粘度ML(1+4)100℃:45、SP値:17.0(J/cm0.5、旭化成株式会社製、略称:T2000R)
・SBR(5)(商品名:タフデン1000、スチレン含有量:18%、ムーニー粘度ML(1+4)100℃:45、SP値:16.8(J/cm0.5、旭化成株式会社製、略称:T1000)
<クロロプレンゴム(CR)>
・クロロプレンゴム(商品名:SKYPRENE B31、ムーニー粘度ML(1+4)100℃:40、SP値:17.4(J/cm0.5、東ソー株式会社製、略称:B31)
<EPDM>
・EPDM(商品名: Esprene505A、ムーニー粘度ML(1+4)100℃:47、SP値:16.0(J/cm0.5、住友化学株式会社製、略称:E505A)
【0067】
<導電性粒子>
・カーボンブラック(1)(商品名:TOKABLACK♯5500、DBP吸収量:155cm/100g、東海カーボン株式会社製、略称:♯5500)
・カーボンブラック(2)(商品名:TOKABLACK♯7360SB、DBP吸収量:87cm/100g、東海カーボン株式会社製、略称:♯7360)
・カーボンブラック(3)(商品名:TOKABLACK♯7270SB、DBP吸収量:62cm/100g、東海カーボン株式会社製、略称:♯7270)
・カーボンブラック(4)(商品名:#44、DBP吸収量:78cm/100g、三菱ケミカル株式会社製、略称:#44)
・カーボンブラック(5)(商品名:旭#35、DBP吸収量:50cm/100g、旭カーボン株式会社製、略称:#35)
・カーボンブラック(6)(商品名:#45L、DBP吸収量:45cm/100g、三菱ケミカル株式会社製、略称:#45L)
・錫系酸化物(商品名:S-2000、三菱マテリアル電子化成社製、略称:酸化錫)
<加硫剤>
・加硫剤(1)(商品名:SULFAX PMC、硫黄分97.5%、鶴見化学工業株式会社製、略称:硫黄)
<加硫促進剤>
・加硫促進剤(1)(商品名:サンセラーTBZTD、テトラベンジルチウラムジスルフィド、三新化学工業株式会社製、略称:TBZTD)
・加硫促進剤(2)(商品名:ノクセラーTBT、テトラブチルチウラムジスルフィド、大内新興化学工業株式会社製、略称:TBT)
・加硫促進剤(3)(商品名:ノクセラーEP-60、加硫促進剤混合物、大内新興化学工業株式会社製、略称:EP-60)
・加硫促進剤(4)(商品名:SANTOCURE-TBSI、N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾルスルフェンイミド、FLEXSYS社製、略称:TBSI)
<充填剤>
・充填剤(1)(商品名:ナノックス#30、炭酸カルシウム、丸尾カルシウム株式会社製、略称:#30)
・充填剤(2)(商品名:Nipsil AQ、シリカ、東ソー株式会社製、略称:AQ)
【0068】
以下に、本開示の導電性部材、プロセスカートリッジ、電子写真画像形成装置を具体的に詳細に説明するが、本開示の技術的範囲はこれらに限定されるものではない。まず、本開示の実施例および比較例における導電性部材の作製方法を具体的に例示して説明する。
<実施例1>
[1-1.ドメイン形成用カーボンマスターバッチ(CMB)の調製]
表1に示す種類と配合量の各材料を6L加圧式ニーダー(製品名:TD6-15MDX、株式会社トーシン製)で混合しドメイン形成用CMBを得た。混合条件は、充填率70vol%、ブレード回転数30rpm、16分間とした。
【0069】
【表1】
【0070】
[1-2.マトリックス形成用ゴム組成物の調製]
表2に示す種類と配合量の各材料を6L加圧式ニーダー(製品名:TD6-15MDX、株式会社トーシン製)で混合してマトリックス形成用ゴム組成物を得た。混合条件は、充填率70vol%、ブレード回転数30rpm、18分間とした。
【0071】
【表2】
【0072】
表3に示す種類と配合量の各材料をオープンロールにて混合し導電性樹脂層形成用ゴム組成物を調製した。混合機は、ロール径12インチのオープンロールを用いた。混合条件は、前ロール回転数10rpm、後ロール回転数8rpmで、ロール間隙2mmとして合計20回左右の切り返しを行った後、ロール間隙を1.0mmとして10回薄通しを行った。
【0073】
【表3】
【0074】
<2.導電性部材の成形>
快削鋼の表面に無電解ニッケルメッキ処理を施した全長252mm、外径6mmの丸棒を用意した。次にロールコーターを用いて、前記丸棒の両端部11mmずつを除く230mmの範囲の全周にわたって、接着剤(商品名:メタロックU-20、株式会社東洋化学研究所製)を塗布した。本実施例において、前記接着剤を塗布した丸棒を導電性支持体として使用した。
次に、導電性支持体の供給機構、及び未加硫ゴムローラの排出機構を有するクロスヘッド押出機の先端に内径10.0mmのダイスを取付け、押出機とクロスヘッドの温度を100℃に、導電性の支持体の搬送速度を60mm/secに調整した。この条件で、押出機より導電性樹脂層形成用ゴム組成物を供給して、クロスヘッド内にて導電性支持体の外周部を導電性樹脂層形成用ゴム組成物で被覆し、未加硫ゴムローラを得た。
次に、170℃の熱風加硫炉中に前記未加硫ゴムローラを投入し、60分間加熱することで未加硫ゴム組成物を加硫し、導電性支持体の外周部に導電性樹脂層が形成された導電性ローラを得た。その後、導電性樹脂層の両端部を各10mm切除して、導電性樹脂層部の長手方向の長さを232mmとした。
【0075】
[2-1.導電層の研磨]
次に、導電層の表面を下記研磨条件1に記載の研磨条件にて研磨することにより、中央部の直径が、8.5mm、中央部から両端部側へ各90mmの位置における各直径が8.44mmである、クラウン形状を有する導電性部材1を得た。
(研磨条件1)
砥石として、直径305mm、長さ235mmの円筒形状の砥石(テイケン社製)を用意した。砥粒の種類、粒度、結合度、結合剤、及び、組織(砥粒率)砥粒の材質は、以下の通りである。
・砥粒材質:GC(緑色炭化ケイ素質)、(JIS R6111-2002)
・砥粒の粒度:#80(平均粒径177μm JIS B4130)
・砥粒の結合度:HH (JIS R6210)
・結合剤:V4PO(ビトリファイド)
・砥粒の組織(砥粒率):23 (砥粒の含有率16% JIS R6242)
研磨条件は、砥石の回転数を2100rpm、導電性部材の回転数を250rpmとし、粗削り工程として導電性部材への砥石の侵入スピード20mm/秒で導電性部材の外周面に接触してから0.24mm侵入させる。
精密磨き工程として侵入スピードを0.5mm/秒に変更し、0.01mm侵入させた後、砥石を導電性部材から離して研磨を完了する。
研磨方式としては、砥石と導電性部材の回転方向を同一方向とするアッパーカット方式を採用する。
【0076】
導電性部材2~45は、表4-1、表4-2及び表4-3に示す出発原料、下記に示す研磨条件に変更した以外は、導電性部材1と同様の方法で作製した。各々の導電性部材の作製に用いた出発原料の質量部と物性を表4-1、表4-2及び表4-3に示す。
【0077】
下記に研磨条件2から5について詳細を示す。
(研磨条件2)
精密磨き工程における侵入スピードを2.0mm/秒とした以外は、研磨条件1と同じである。
(研磨条件3)
精密磨き工程における侵入スピードを1.0mm/秒とした以外は、研磨条件1と同じである。
(研磨条件4)
精密磨き工程における侵入スピードを0.2mm/秒とした以外は、研磨条件1と同じである。
(研磨条件5)
精密磨き工程における侵入スピードを0.1mm/秒に変更し、0.01mm侵入させた後、4秒間、研磨を継続した以外は、研磨条件1と同じである。
得られた結果を表5-1及び表5-2に示す。
【0078】
【表4-1】
【0079】
【表4-2】
【0080】
【表4-3】
【0081】
<3.特性評価>
続いて、以下に本開示の実施例、比較例中における下記項目に対する特性評価に関して説明する。
<マトリックス-ドメイン構造の確認>
導電層におけるマトリックス-ドメイン構造の形成の有無について以下の方法により確認を行う。
カミソリを用いて導電性部材の導電層の長手方向と垂直な断面が観察できるように切片(厚さ500μm)を切り出す。次いで、白金蒸着を行い、走査型電子顕微鏡(SEM)(商品名:S-4800、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて1000倍で撮影し、断面画像を得る。
さらに、得られた撮影画像を定量化するために、SEMでの観察により得られた破断面画像に対し、画像処理ソフト(商品名:ImageProPlus、Media Cybernetics社製)を使用して、8ビットのグレースケール化を行い、256階調のモノクロ画像を得る。次いで、破断面内のドメインが白くなるように、画像の白黒を反転処理した後、画像の輝度分布に対して大津の判別分析法のアルゴリズムに基づいて、2値化の閾値を設定し、2値化画像を得る。
当該2値化画像に対してカウント機能によって、50μm四方の領域内に存在し、かつ、2値化画像の枠線に接点を持たないドメインの総数に対して、上記のように、ドメイン同士が接続せずに孤立しているドメインの個数パーセントKを算出する。
具体的には、画像処理ソフトのカウント機能において、当該2値化画像の4方向の端部の枠線に接点を有するドメインがカウントされないよう設定する。
導電性部材の導電層を長手方向に均等に5等分し、周方向に均等に4等分して得られた領域のそれぞれから任意に1点ずつ、合計20点から当該切片を作製して上記測定を行った際のKの算術平均値(個数%)を算出する。
Kの算術平均値(個数%)が80以上の場合に、マトリックスドメイン構造を「有」すると評価し、Kの算術平均値(個数%)が80を下回る場合に「無」と評価する。
【0082】
<ドメインの最大フェレ径、周囲長、包絡周囲長の測定方法>
本開示に係るドメインの最大フェレ径、周囲長、包絡周囲長の測定方法は、次のように実施すればよい。
まず導電性部材の導電層から、ミクロトーム(商品名:Leica EM FCS、ライカマイクロシステムズ社製)を用いて、切削温度-100℃にて、1μmの厚みを有する薄片を切り出す。
導電層からの切り出し位置は、導電層の長手方向の長さをL、導電層の厚さをTとしたとき、長手方向の中央、及び導電層の両端から中央に向かってL/4の3か所とする。
上記手法で得られた切片に対し、白金を蒸着させ蒸着切片を得た。次いで当該蒸着切片の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)(商品名:S-4800、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて5,000倍で撮影し、表面画像を得た。
本開示に係るドメインの最大フェレ径、周囲長、包絡周囲長は、上記で撮影した画像を定量化することによって得られることができる。得られた破断面画像に対し、画像ソフト(商品名:ImageProPlus、 Media Cybernetics社製)を使用して、8ビットのグレースケール化を行い、256諧調のモノクロ画像を得る。次いで、破断面内のドメインが白くなるように、画像の白黒を反転処理し、2値化を実施する。次いで、画像内のドメインのそれぞれから、最大フェレ径、周囲長A、包絡周囲長Bを算出した。
上記の測定は、導電層の厚さをTとしたとき、3つの切片のそれぞれ外表面から深さ0.1T~0.9Tまでの厚み領域の任意の3か所、合計9か所における15μm四方の観察領域について行った。
各観察領域で観察されるドメインの各々について測定された、周囲長、包絡周囲長を用いて、A/Bの値を算出する。全観察ドメインのうち、要件(B2)を満たしているドメインの個数%を求めた。
また、要件(B1)及び要件(B2)を満たすドメインについて、ドメインの凹凸形状の指標であるA/Bの算術平均値、及び最大フェレ径の算術平均値を算出した。評価結果を表5-2に示す。
【0083】
<マトリックスの体積抵抗率の測定方法>
マトリックスの体積抵抗率は、走査型プローブ顕微鏡(SPM)(商品名:Q-Scope250、Quesant Instrument Corporation社製)を用い、コンタクトモードで操作する。
まず、ドメインの最大フェレ径、周囲長、包絡周囲長、及びドメイン個数の測定方法と同様の位置及び手法で、切片を切り出した。次に、温度23℃、湿度50%RH環境において、当該切片を金属プレート上に設置し、金属プレートに直接接触している箇所の中を選び、マトリックスに該当する箇所をSPMのカンチレバーを接触させ、次いで、カンチレバーに50Vの電圧を印加し、電流値を測定した。
当該SPMで当該測定切片の表面形状を観察して、得られる高さプロファイルから測定箇所の厚さを算出した。当該厚さと電流値から体積抵抗率を算出し、マトリックスの体積抵抗率とした。
なお、測定位置は、導電層の厚さをTとしたとき、各切片のそれぞれ外表面から深さ0.1T~0.9Tまでの厚み領域のマトリックス部分の任意の3か所、合計9か所で測定を行った。その平均値を、マトリックスの体積抵抗率とした。評価結果を表5-1に示す。
【0084】
<カーボンブラックのDBP吸収量の測定方法>
カーボンブラックのDBP吸収量は、JIS K 6217に準じて測定した。またメーカーカタログ値を用いてもよい。
<ドメイン内の導電性カーボンブラック壁面間距離の算術平均C、標準偏差σm、変動係数σm/C及びドメイン面積に対するドメインがカーボンブラックの断面積の割合の測定方法>
ドメイン内の導電性カーボンブラック壁面間距離の算術平均C、標準偏差σm、変動係数σm/C及びドメイン面積に対するドメインが含むカーボンブラックの断面積の割合は下記のようにし、測定すればよい。
まず、前述のドメインの最大フェレ径、面積、周囲長、包絡周囲長の測定方法における方法と同様の方法で切片を作製する。
前記手法で得られた切片に対し、白金を蒸着させ蒸着切片を得た。次いで当該蒸着切片の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)(製品名:S-4800、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて20,000倍で撮影し、表面画像を得た。
ドメイン内のカーボンブラックの算術平均壁面間距離及びカーボンブラックの面積は、上記で撮影画像を定量化することによって得られることができる。SEMでの観察により得られた破断面画像に対し、画像解析装置(製品名:LUZEX-AP、ニレコ社製)を使用して、8ビットのグレースケール化を行い、256諧調のモノクロ画像を得る。次いで、破断面内のドメインが白くなるように、画像の白黒を反転処理し、2値化を実施する。
次いで、上記のSEM像からドメイン1個が少なくとも収まる大きさの観察領域を抽出する。そして、ドメイン内のカーボンブラックの壁面間距離Ciを算出する。そして、壁面間距離の算術平均を求めることで算術平均壁面間距離Cを算出する。
またドメインの断面積及びドメイン内のカーボンブラックの断面積も、上記のSEM像から算出する。
上記ドメイン断面積及びドメイン内のカーボンブラックの算術平均壁面間距離及び断面積は、以下のようにして求められる。すなわち、導電層の厚さをTとしたとき、3つの切片のそれぞれ外表面から深さ0.1T~0.9Tまでの厚み領域の任意のドメイン部の3か所、合計9か所を測定し、その測定値の算術平均から算出すればよい。
得られたドメイン内の導電性カーボンブラック壁面間距離とその算術平均Cより標準偏差をσmを求める。そして標準偏差σmを算術平均Cで除すことで変動係数σm/Cが得られる。全観察ドメインのうち、要件(B1)を満たしているドメインの個数%を求めた。
また要件(1)及び要件(2)を満たすドメインについて、カーボンブラックの算術平均壁面間距離C、変動係数σm/C及び、ドメインの断面積に対するカーボンブラックの断面積の割合の算術平均値を算出した。
その結果を表5-2に示す。
【0085】
<マトリックスおよびドメインを構成するゴムのSP値>
SP値は従来の膨潤法を用いて、測定することができる。マトリックスおよびドメインを構成するゴムを各々、マニュピレーター等を用いて分取し、SP値の異なる溶媒に浸漬し、ゴムの質量変化から膨潤度を測定する。各溶媒に対する膨潤度の値を用いて解析することで、Hansenの溶解度パラメータ(HSP)を算出することができる。また、SP値が既知の材料を用いて、検量線を作成することで、精度良く算出することが可能である。この既知のSP値の値は、材料メーカーのカタログ値を用いることもできる。評価結果を表5-1に示す。
【0086】
<第1のゴムおよび第2のゴムの化学組成の解析>
材料の特定、第1のゴムおよび第2のゴム、SBR中のスチレン含有量およびNBR中のアクリロニトリル含有量は、従来のFT-IRおよび1H-NMRなどの分析装置を用いて、行うことができる。評価結果を表5-1に示す。
<導電性部材のインピーダンスの測定方法>
該導電性部材のインピーダンスは、下記の測定方法で行った。
まず、前処理として、導電性部材に対し、回転しながら真空白金蒸着をすることよって、測定電極を作製した。この時、マスキングテープを使用して、幅1.5cm、周方向に均一な電極を作製した。当該電極を形成することによって、導電性部材の表面粗さによって、測定電極と導電性部材の接触面積の寄与を極力低減することができる。次に、当該電極に、アルミシートが白金蒸着膜に接触するように巻きつけ、図3に示す測定サンプルを形成した。
そして、当該アルミシートから測定電極に、また導電性支持体にインピーダンス測定装置(ソーラトロン126096W 東陽テクニカ社製)を接続した。
インピーダンスの測定は、温度23℃、相対湿度50%環境において、振動電圧1Vpp、周波数1.0Hzで測定し、インピーダンスの絶対値を得た。
導電性部材(長手方向の長さ:232mm)を長手方向に5個の領域に5等分し、それぞれの領域内から任意に1点ずつ、合計5点に測定電極を形成し、上記測定を行った。その平均値を、導電性部材のインピーダンスとした。評価結果を表5-1に示す。
【0087】
<ドメイン由来の凸部の計測>
導電性部材の導電層から、ミクロトーム(商品名:Leica EM FCS、ライカマイクロシステムズ社製)を用いて、切削温度-100℃にて、1μmの厚みを有する薄片を切り出す。この時、薄片は導電性の支持体の軸と垂直な面とする。
導電層からの切り出し位置は、導電層の長手方向の長さをLとして、長手方向の中央、及び導電層の両端から中央に向かってL/4の3か所とする。
このとき、ドメイン由来の凸形状を確認するためには、導電性部材の表面に対しては、いずれの加工も加えられないよう留意する。次に、上記のようにして得た導電性部材表面を含む切片に対して、SPM(MFP-3D-Originオックスフォード・インストゥルメンツ株式会社製)を用いて、下記条件で導電性部材の表面を計測した。当該計測により、電気抵抗値のプロファイル及び形状プロファイルを計測した。
・オックスフォード・インストゥルメンツ株式会社製MFP-3D-Origin
・測定モード:AM-FMモード
・探針:オリンパス製OMCL-AC160TS
・共振周波数:251.825~261.08kHz
・バネ定数:23.59~25.18N/m
・スキャン速度:0.8~1.5Hz
・スキャンサイズ:10μm、5μm、3μm
・Target Amplitude:3V及び4V
・Set Point:すべて2V
次いで、上記の計測で得られた表面形状のプロファイルにおける凸部が、電気抵抗値のプロファイル中で周囲よりも導電性が高いドメイン由来であることを確認する。
さらに、当該プロファイルから凸形状の高さを、算出する。
算出方法は、ドメイン由来の形状のプロファイルの算術平均値と、隣接するマトリックスの形状プロファイルの算術平均値との差分を取ることにより、求める。なお当該算術平均値は、上記3か所から切り出した切片のそれぞれにおいて、ランダムに選択した20個の凸部を測定した値から算出する。
その値を表5-2に示す。
【0088】
<導電性部材の外表面のドメイン間距離Dmの計測>
導電性部材の外表面のドメイン間距離Dmは以下のように測定する。
導電性部材の外表面を観察し、Dmを測定する場合、測定サンプルは、導電性部材の表面に対して、カミソリを用い、導電性部材の導電層の周方向、及び長手方向に各々約2mmの長さ、深さ方向には導電性部材の表面を含む約500μmの深さで切片を切り出す。導電層からの切り出し位置は、導電層の長手方向の長さをLとして、長手方向の中央、及び導電層の両端から中央に向かってL/4の3か所とする。
得られた切片に対し、導電性部材の外表面に該当する切片表面に白金を蒸着させ蒸着切片を得る。次いで、蒸着切片の表面を、走査型電子顕微鏡(商品名:S-4800、(株)日立ハイテクノロジーズ製)による5000倍の観察画像を得る。得られた観察画像に対し、画像処理ソフトLUZEX(株式会社ニレコ社製)を使用して、2値化画像を得る。
2値化の手順は以下のように行う。観察画像に対し、8ビットのグレースケール化を行い、256諧調のモノクロ画像を得る。そして、破断面内のドメインが白くなるように、画像の白黒を反転処理し、2値化を実施する。次いで、当該2値化画像に対し、ドメインの壁面間距離の分布を算出した後、当該分布の算術平均値Dmを算出する。壁面間距離は、近接したドメイン間の最短距離である。
具体的には、画像処理ソフトにおいて、測定パラメーターを隣接壁面間距離と設定する。
なお、導電性部材の外表面をランダムに選択した10点の観察画像の算術平均値を採用する。
その値を表5-2に示す。
【0089】
<4.画像評価>
[4-1]かぶり評価
得られた導電性部材を用いて、以下のように画像形成を行い、導電性部材の放電ムラを確認するためにかぶり評価を行った。電子写真画像形成装置としては、外部電源(商品名:Model615;トレックジャパン社製)から帯電部材及び現像部材にそれぞれ高電圧を印加できるよう改造したHP社製のLaserjet M608dn(商品名)を用意した。
次に、導電性部材および改造した電子写真画像形成装置、プロセスカートリッジを、30℃80%RHの環境に48時間放置した。そして、当該プロセスカートリッジの帯電部材として、導電性部材を組み込んだ。そして導電性部材の導電性支持体に、-1700Vの直流電圧を印加し、Vback(感光体の表面電位から現像部材への印加電圧を除した電圧)が-350Vになるよう、現像部材へ電圧を印加して、全面白画像を出力した。
この電子写真画像形成装置の現像剤は、ネガ帯電性なので、通常、全面白画像を出力した場合、本来ならば感光体および紙上に現像剤は移行しない。しかし現像剤中にポジ帯電した現像剤が存在する場合、帯電部材からの局所的に強い放電に起因する、感光体表面の過帯電部に、ポジ帯電した現像剤が移行する所謂反転かぶりが発生する。その結果、紙上カブリとして顕在化する。この現象は、-350VのようにVbackが大きい場合、顕著に起こりやすくなる。
このように設定した電子写真画像形成装置により、30℃/80%RHの環境下で、全面白画像を出力し、紙上のかぶり量を測定した。かぶり量は以下の方法により測定した。(紙上かぶり量の測定)
全面白画像を印字し、画像形成後の紙の任意の9点を光学顕微鏡で500倍にて観察し、400μm四方の観察領域に存在する現像剤を数え、その個数を紙上かぶり量とした。なお紙上かぶり量が60個以下であれば、かぶりが少なく良好な画像が得られる。より好ましくは50個以下である。評価結果を表5に示す。
【0090】
<実施例2~5>
実施例1の研磨条件を研磨条件2~5に変更した以外は、実施例1と同様にして導電性部材2~5を作製し、実施例1と同様の評価を行った。実施例2~5における各評価の結果を表5-1及び表5-2に示す。
【0091】
<実施例6~45>
実施例1の導電性部材1と同様に、導電性部材6~45を帯電ローラとして用いて、実施例1と同様の評価を行った。実施例6~45における、各評価の結果を表5-1及び表5-2に示す。
【0092】
<実施例46>
実施例1の導電性部材1に、表面処理として紫外線処理を施し、導電性部材46を作製した。それ以外は実施例1と同様の評価を行った。各評価結果を表5-1及び表5-2に示す。
(表面紫外線処理)
導電性部材を回転させながら、導電性部材表面に低圧水銀ランプ(ハリソン東芝ライティング製)による紫外線照射を5分間行った。低圧水銀ランプに関しては、主に254nmの波長を代表とする紫外線で、この時の紫外線積算光量は約10000mJ/cmであった(紫外線強度は35mW/cm)。
【0093】
【表5-1】
【0094】
【表5-2】
【0095】
<比較例1>
導電性支持体として、実施例1と同様の丸棒を用いて、ドメイン形成用カーボンマスターバッチ(CMB)、マトリックス形成用ゴム組成物(MRC)、導電層形成用ゴム組成物を表6に示すものに変更し、マトリックス形成用MRCを使用しなかった以外は実施例1と同様に導電層を製造し、そして、導電層上に下記の通り表面層を形成して導電性ローラを製造した。
【0096】
【表6】
【0097】
上記表6中の原料は以下の通りである。
・CG102:エピクロルヒドリンゴム(EO-EP-AGE三元共化合物)(商品名:エピクロマーCG102、SP値:18.5(J/cm)0.5、株式会社大阪ソーダ製)
・LV:四級アンモニウム塩(商品名:アデカサイザーLV70、株式会社ADEKA製)
・P202:脂肪族ポリエステル系可塑剤(商品名:ポリサイザーP-202、DIC株式会社製)
・MB:2-メルカプトベンズイミダゾール(商品名:ノクラックMB、大内新興化学工業株式会社製)
・TS:テトラメチルチウラムモノスルフィド(商品名:ノクセラーTS、大内新興化学工業株式会社製)
・DM:ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド(DM)(商品名:ノクセラーDM-P(DM)、大内新興化学工業株式会社製)
・EC600JD:ケッチェンブラック(商品名:ケッチェンブラックEC600JD、 ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)
・PW380:パラフィンオイル(商品名:PW-380、 出光興産株式会社製)
・25-B-40:2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン(商品名:パーヘキサ25B-40、日本油株式会社製)
TAIC-M60:トリアリルイソシアヌレート(商品名:TAIC-M60 三菱ケミカル株式会社製)
次いで、以下の方法に従って、さらに上記で得られた導電層ローラの導電層上に表面層を設け二層系導電性部材C1を製造し、実施例1と同様に評価した。評価結果を表8に示す。
先ず、カプロラクトン変性アクリルポリオール溶液にメチルイソブチルケトンを加え、固形分が10質量%となるように調整した。このアクリルポリオール溶液1000質量部(固形分100質量部)に対して、下記の表7に示す材料を用いて混合溶液を調製した。このとき、ブロックHDIとブロックIPDIとの混合物は、「NCO/OH=1.0」であった。
【0098】
【表7】
【0099】
次いで、450mLのガラス瓶に上記混合溶液210gと、メディアとして平均粒径0.8mmのガラスビーズ200gとを混合し、ペイントシェーカー分散機を用いて24時間前分散を行い、表面層形成用の塗料を得た。
前記で得られた導電性ローラを、その長手方向を鉛直方向にして、前記表面層形成用の塗料中に浸漬してディッピング法で塗工した。ディッピング塗布の浸漬時間は9秒間、引き上げ速度は、初期速度が20mm/sec、最終速度が2mm/sec、その間は時間に対して直線的に速度を変化させた。得られた塗工物を常温で30分間風乾し、次いで90℃に設定した熱風循環乾燥機中において1時間乾燥し、更に160℃に設定した熱風循環乾燥機中において1時間乾燥した。
【0100】
【表8】
【0101】
本比較例においては、導電性部材C1は、イオン伝導性の導電層と電子伝導性の表面層の2層構成であるが、表面層では、マトリックス-ドメイン構造を有さない。このため、導電性粒子の分散均一性が低下して電界集中が発生し、導電パスに過剰な電荷が流れやすい構成となっている。したがって紙上カブリが95個となった。
<比較例2>
ドメイン形成用CMBを表6に示すものに変更し、マトリックス形成用MRCを使用しなかった以外は実施例1と同様に導電性部材C2を製造し、評価した。評価結果を表8に示す。
本比較例においては、導電性部材C2の導電層がマトリックス-ドメイン構造を有さず、ドメイン材料のみの構成のため、導電層中で、電界集中が発生し導電パスに過剰な電荷が流れやすい構成となっている。したがって、紙上カブリが121となり、顕著なカブリ画像が確認された。
【0102】
<比較例3>
ドメイン形成用CMB、マトリックス形成用MRCを表6に示すものに変更した以外は実施例1と同様に導電性部材C3を製造し、評価した。評価結果を表8に示す。
本比較例においては、導電性部材C3は、ドメインとマトリックスを有するが、要件(B1)及び要件(B2)を満たすドメインの個数が少なく、ドメイン形状がいびつであるため、ドメイン形状由来の電界集中による電荷の過剰移動が発生する。したがって、紙上カブリが103個となった。
【0103】
<比較例4>
ドメイン形成用CMB、マトリックス形成用MRCを表6に示すものに変更した以外は実施例1と同様に導電性部材C4を製造し、評価した。評価結果を表8に示す。
本比較例においては、導電性部材C4のマトリックスに導電性粒子が添加されているため体積抵抗率が低く、導電性部材として単一の導電パスを持つ構成となっており、導電層中で、電界集中が発生し導電パスに過剰な電荷が流れやすい構成となっている。したがって、紙上カブリが110個となった。
【0104】
<比較例5>
ドメイン形成用CMB、マトリックス形成用MRCを表6に示すものに変更した以外は実施例1と同様に導電性部材C5を製造し、評価した。評価結果を表8に示す。
本比較例においては、導電性部材C5は、マトリックス-ドメイン構造を有するが、ドメインに導電剤が添加されていないため体積抵抗率が高く、マトリックスは導電性粒子が添加されているため、体積抵抗率が低い。すなわち、導電性部材として単一の導電パスを持つ構成となっているため、導電層中で電界集中が発生し導電パスに過剰な電荷が流れやすい構成となっている。したがって、紙上カブリが105個となった。
【0105】
<比較例6>
ドメイン形成用CMB、マトリックス形成用MRCを表6に示すものに変更した以外は実施例1と同様に導電性部材C6を製造し、評価した。評価結果を表8に示す。
本比較例においては、導電性部材C6は、マトリックス-ドメイン構造ではなく、導電相と絶縁相が共連続構造を有している。すなわち、導電性部材として単一の導電パスを持つ構成となっているため、導電層中で電界集中が発生し導電パスに過剰な電荷が流れやすい構成となっている。したがって、紙面カブリが107個となった。
【0106】
<比較例7>
ドメイン形成用CMB、マトリックス形成用MRCを表6に示すものに変更した以外は実施例1と同様に導電性部材C7を製造し、評価した。評価結果を表8に示す。
本比較例においては、導電性部材C7は、マトリックス-ドメイン構造を有しているが、要件(B1)及び(B2)を満たすドメインが80個数%以下であった。この理由としてドメインに添加されているカーボンブラックが少なく、カーボンゲル量が十分に形成できなかったため、ドメイン形状が円形状にならず、凸凹やアスペクト比が大きくなったと考えられる。その結果、導電層中で電界集中が発生し導電パスに過剰な電荷が流れやすい構成となっている。したがって、紙上カブリが97個となった。
【0107】
<比較例8>
ドメイン形成用CMB、マトリックス形成用MRCを表6に示すものに変更した以外は実施例1と同様に導電性部材C8を製造し、評価した。評価結果を表8に示す。
本比較例においては、導電性部材C8は、マトリックス-ドメイン構造を有しているが、要件(B1)及び(B2)を満たすドメインが0個数%であった。この理由として以下の2点のためと考えられる。
(1)補強性を有するシリカが添加されているためドメインを形成するカーボンマスターバッチの粘度が大きく、マトリックス形成用ゴム組成物との粘度差が大きい。
(2)第1のゴムと第2のゴムのSP値差が大きい。
そのため、ドメイン形状が円形状にならず、凸凹やアスペクト比が大きくなったと考えられる。その結果、導電層中で電界集中が発生し導電パスに過剰な電荷が流れやすい構成となっている。したがって、紙上カブリが132個となり、顕著なカブリが確認された。
【0108】
<比較例9>
ドメイン形成用CMBを、比較例2の導電層形成用ゴムを単独で加熱加硫した後に凍結粉砕したゴム粒子に変更し、マトリックス形成用MRCを表6に示すものに変更した以外は実施例1と同様に導電性部材C9を製造し、評価した。評価結果を表8に示す。
本比較例においては、導電性部材C9は、マトリックス-ドメイン構造を有しているが、要件(B1)及び(B2)を満たすドメインが0個数%であった。この理由は、凍結粉砕によって形成した、サイズが大きく、異方性のある導電ゴム粒子を分散しているためである。その結果、導電層中で電界集中が発生し導電パスに過剰な電荷が流れやすい構成となっている。したがって紙上カブリが126個となり、顕著なカブリが確認された。
【符号の説明】
【0109】
1 導電性部材
2 導電性支持体
3 導電層
3a マトリックス
3b ドメイン
3c 導電性粒子


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8