(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】電動アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20240401BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20240401BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
F16H1/32 A
F16H57/04 J
H02K7/116
(21)【出願番号】P 2020042979
(22)【出願日】2020-03-12
【審査請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆英
(72)【発明者】
【氏名】石川 慎太朗
【審査官】山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/077886(WO,A1)
【文献】特開平04-312213(JP,A)
【文献】実開昭57-134410(JP,U)
【文献】特開2013-210025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16H 57/04
H02K 7/116
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力を供給可能な電動モータと、回転軸を中心として回転可能な入力回転体と、自転可能でかつ前記回転軸を中心として公転可能な遊星回転体と、前記回転軸を中心として回転可能な出力回転体とを有し、前記遊星回転体が入力回転体および出力回転体のそれぞれと噛み合い、入力回転体に対する出力回転体の回転位相差を変更する減速機を備え、
前記減速機は、前記入力回転体および前記出力回転体の外周に設けられた外歯部と、前記遊星回転体の内周に設けられた内歯部とで構成され、
前記減速機はグリースで潤滑され、
前記減速機は、その周方向に、前記外歯部と前記内歯部が噛み合った領域と、前記外歯部と内歯部が噛み合っていない領域とを備え、前記外歯部と前記内歯部が噛み合った領域では、前記外歯部および前記内歯部の間に形成される空間の容積が前記遊星回転体の自転および公転に伴って変化し、
前記外歯部と前記内歯部との噛み合い部に潤滑剤溜りを設け、
前記外歯部と内歯部が噛み合った領域では、前記潤滑剤溜りを除いて前記外歯部と前記内歯部が密着することを特徴とする電動アクチュエータ。
【請求項2】
前記潤滑剤溜りは、前記外歯部および前記内歯部の少なくとも一方に形成された円周方向溝で構成されている請求項1に記載の電動アクチュエータ。
【請求項3】
前記潤滑剤溜りは、前記外歯部および前記内歯部の軸方向中央位置に円周方向溝が形成されている請求項2に記載の電動アクチュエータ。
【請求項4】
前記潤滑剤溜りは、前記外歯部および前記内歯部の少なくとも一方に形成された軸方向溝で構成されている請求項1に記載の電動アクチュエータ。
【請求項5】
前記潤滑剤溜りは、前記外歯部および前記内歯部の底部に軸方向溝が形成されている請求項4に記載の電動アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
外部から駆動力が入力される入力側と、入力された駆動力を出力する出力側とで、回転位相差を変化させることが可能な電動アクチュエータがある。
【0003】
この電動アクチュエータとして、例えば、自動車のエンジンの吸気バルブと排気バルブの一方または両方の開閉タイミングを変更する可変バルブタイミング装置に用いられるものが知られている。
【0004】
一般的に、この種の電動アクチュエータは、電動モータと、電動モータによる駆動力を得て回転力を減速して伝達する減速機とを備えている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
電動モータによって減速機が駆動されない時は、入力側部材(例えば、スプロケット)と出力側部材(例えば、カムシャフト)とが同期回転する。
【0006】
電動モータによって減速機が駆動される時は、減速機によって入力側部材に対する出力側部材の回転位相差が変更され、これによってバルブの開閉タイミングが調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に記載の電動アクチュエータでは、入力回転体と出力回転体との間に配設された内歯車が偏心回転運動を行うことにより、入力回転体に対する出力回転体の回転位相差を変更する偏心型減速機を採用している。
【0009】
この偏心型減速機は、入力回転体および出力回転体の外周に設けられた外歯部と、内歯車の内周に設けられた内歯部との噛み合い構造となっている。
【0010】
この外歯部と内歯部との噛み合いによる内歯車の偏心回転運動を円滑に行うため、電動アクチュエータのハウジング内にグリース等の潤滑剤を封入している。この潤滑剤により減速機の効率および耐久性の向上を図っている。
【0011】
しかしながら、外歯部と内歯部との噛み合いによる内歯車の偏心回転運動では、ポンプ作用により外歯部と内歯部との噛み合い部(歯面)で潤滑剤が流動し易くなっている。そのため、噛み合い部から潤滑剤が流出して枯渇するおそれがある。
【0012】
このように、外歯部と内歯部との噛み合い部で潤滑剤が枯渇すると、潤滑性能を維持することが困難となり、噛み合い部での摺動抵抗が大きくなる。その結果、減速機の効率および耐久性の低下を招来する。
【0013】
そこで、本発明は前述の課題に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、簡便な構造により、偏心型減速機の噛み合い部からの潤滑剤の流出を抑制し、潤滑剤の枯渇を防止し得る電動アクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る電動アクチュエータは、駆動力を供給可能な電動モータと、回転軸を中心として回転可能な入力回転体と、自転可能でかつ回転軸を中心として公転可能な遊星回転体と、回転軸を中心として回転可能な出力回転体と有し、遊星回転体が入力回転体および出力回転体のそれぞれと噛み合い、入力回転体に対する出力回転体の回転位相差を変更する減速機を備えている。
【0015】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明の減速機は、入力回転体および出力回転体の外周に設けられた外歯部と、遊星回転体の内周に設けられた内歯部とで構成され、外歯部と内歯部との噛み合い部に潤滑剤溜りを設けたことを特徴とする。
【0016】
本発明では、外歯部と内歯部との噛み合い部に潤滑剤溜りを設けたことにより、外歯部と内歯部との噛み合いによる遊星回転体の偏心回転運動が行われても、外歯部と内歯部との噛み合い部で潤滑剤を保持し易くなる。
【0017】
このように、外歯部と内歯部との噛み合い部で潤滑剤を保持し易くなることから、潤滑性能を維持することが容易となり、噛み合い部での摺動抵抗を小さくすることができる。
【0018】
本発明の潤滑剤溜りは、外歯部および内歯部の少なくとも一方に形成された円周方向溝で構成されていることが望ましい。
【0019】
このような構造を採用すれば、潤滑剤溜りを円周方向溝という簡易な構造で実現できる。このように、円周方向溝に潤滑剤を貯留させることにより、外歯部と内歯部との噛み合い部で潤滑剤を保持することが容易となる。
【0020】
本発明の潤滑剤溜りは、外歯部および内歯部の軸方向中央位置に円周方向溝が形成されている構造が望ましい。
【0021】
このような構造を採用すれば、外歯部および内歯部の軸方向中央位置にある円周方向溝に潤滑剤を貯留させることにより、外歯部と内歯部との噛み合い部で潤滑剤を確実に保持することができる。
【0022】
本発明の潤滑剤溜りは、外歯部および内歯部の少なくとも一方に形成された軸方向溝で構成されていることが望ましい。
【0023】
このような構造を採用すれば、潤滑剤溜りを軸方向溝という簡易な構造で実現できる。このように、軸方向溝に潤滑剤を貯留させることにより、外歯部と内歯部との噛み合い部で潤滑剤を保持することが容易となる。
【0024】
本発明の潤滑剤溜りは、外歯部および内歯部の底部に軸方向溝が形成されている構造が望ましい。
【0025】
このような構造を採用すれば、外歯部および内歯部の底部がトルク伝達に寄与しないことから、減速機の効率を低下させることなく、外歯部と内歯部との噛み合い部で潤滑剤を確実に保持することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、外歯部と内歯部との噛み合いによる遊星回転体の偏心回転運動が行われても、外歯部と内歯部との噛み合い部で潤滑剤を保持し易くなる。これにより、潤滑性能を維持することが容易となり、噛み合い部での摺動抵抗を小さくすることができる。その結果、減速機の効率および耐久性の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施形態で、電動アクチュエータの全体構成を示す断面図である。
【
図4】
図1の入力回転体、出力回転体および遊星回転体を示す要部拡大断面図である。
【
図5】
図1の入力回転体、出力回転体および遊星回転体を示す組立分解斜視図である。
【
図6】本発明の他の実施形態で、電動アクチュエータの全体構成を示す断面図である。
【
図9】
図6の入力回転体、出力回転体および遊星回転体を示す組立分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に係る電動アクチュエータの実施形態を図面に基づいて詳述する。以下の実施形態では、可変バルブタイミング装置に適用される電動アクチュエータを例示するが、可変バルブタイミング装置以外にも適用可能である。
【0029】
図1は電動アクチュエータの全体構成を示す断面図、
図2は
図1のP-P線に沿う断面図、
図3は
図1のQ-Q線に沿う断面図である。この実施形態の特徴的な構成を説明する前に電動アクチュエータの全体構成を説明する。
【0030】
この実施形態の電動アクチュエータ1は、
図1~
図3に示すように、入力回転体2と、出力回転体3と、電動モータ4と、減速機5と、これらを収容するケーシング6とを主要な構成要素として備えている。
【0031】
入力回転体2は、外部の駆動源(図示せず)から駆動力が入力されて回転駆動する部材である。入力回転体2は、小径部11と、小径部11よりも大径の大径部12とを一体に有する。
【0032】
入力回転体2は、ケーシング6に対してシール付き転がり軸受7によって回転可能に支持されている。シール付き転がり軸受7で、ケーシング6と入力回転体2との間の空間が密封されている。
【0033】
出力回転体3は、入力回転体2に入力された駆動力を外部へ出力する部材である。出力回転体3は、ボルト8により出力軸としてのシャフト9が一体に回転するように締結される。出力回転体3は、入力回転体2に対して回転軸Xを中心として同軸上に配置されると共に相対回転可能に構成されている。
【0034】
入力回転体2の大径部12の内周には、シール付き転がり軸受10が配置されている。シャフト9は、入力回転体2に対してシール付き転がり軸受10によって回転可能に支持されている。シール付き転がり軸受10で、入力回転体2とシャフト9との間の空間が密封されている。
【0035】
ケーシング6は、組み立て性の向上を図るため、有底円筒状の本体部13と、本体部13を閉塞する蓋部14とに分割されている。本体部13と蓋部14とは、ボルト等の締結手段(図示せず)を用いて一体化されている。
【0036】
蓋部14には、電動モータ4へ給電するための給電線や、電動モータ4の回転数を検知する回転数検知センサ(図示せず)に接続される信号線を外部へ引き出すための筒状突起15が設けられている。
【0037】
ケーシング6の蓋部14と出力回転体3との間の空間は、シール付き転がり軸受16で密封されている。シーツ付き転がり軸受16によって、出力回転体3は、ケーシング6の蓋部14に対して回転可能に支持されている。
【0038】
電動モータ4は、ケーシング6の本体部13に固定されたステータ17と、ステータ17の径方向内側に隙間をもって対向配置されたロータ18とを有するラジアルギャップ型モータである。ステータ17とロータ18との間に作用する励磁力により、ステータ17に対してロータ18が回転軸Xを中心として回転する。
【0039】
減速機5の主要部は、入力回転体2の外周に形成された第一外歯部19と、出力回転体3の外周に形成された第二外歯部20と、ロータ18と一体に回転する偏心部材21と、偏心部材21の内周に配置された遊星回転体22と、偏心部材21と遊星回転体22との間に配置された針状ころ軸受23とで構成されたサイクロイド減速機である。
【0040】
偏心部材21は、ロータ18の内周に固定された小径筒部24と、小径筒部24よりも大径に形成されてロータ18から軸方向に突出する大径筒部25とを一体に有する。小径筒部24および大径筒部25は、ケーシング6に対して転がり軸受26,27によって回転自在に支持されている。
【0041】
偏心部材21の外周面は、回転軸Xと同軸に形成されている。小径筒部24の内周面は、入力回転体2および出力回転体3の各中心軸(回転軸X)に対して偏心するように配置されている。これに対して、大径筒部25の内周面は、入力回転体2および出力回転体3の各中心軸(回転軸X)と同軸上に配置されている。
【0042】
遊星回転体22は、小径筒部28と、小径筒部28よりも大径の大径筒部29とを一体に有する。大径筒部29の内周に第一内歯部30が形成され、小径筒部28の内周に第二内歯部31が形成されている。
【0043】
第一内歯部30と第二内歯部31は、何れも径方向の断面が曲線(例えばトロコイド系曲線)を描く複数の歯で構成されている。第二内歯部31のピッチ円径は、第一内歯部30のピッチ円径よりも小さい。また、第二内歯部31の歯数は、第一内歯部30の歯数よりも少ない。
【0044】
入力回転体2の外周には、遊星回転体22の第一内歯部30と噛み合うように第一外歯部19が対向して形成されている。また、出力回転体3の外周には、遊星回転体22の第二内歯部31と噛み合うように第二外歯部20が対向して形成されている。
【0045】
第一外歯部19と第二外歯部20は、何れも径方向の断面が曲線(例えばトロコイド系曲線)を描く複数の歯で構成されている。第二外歯部20のピッチ円径は、第一外歯部19のピッチ円径よりも小さい。また、第二外歯部20の歯数は、第一外歯部19の歯数よりも少ない。
【0046】
第一外歯部19の歯数は、互いに噛み合う第一内歯部30の歯数よりも少なく、好ましくは一つ少ない。同様に、第二外歯部20の歯数も、互いに噛み合う第二内歯部31の歯数よりも少なく、好ましくは一つ少ない。
【0047】
この実施形態では、第一内歯部30の歯数を24個、第二内歯部31の歯数を20個、第一外歯部19の歯数を23個、第二外歯部20の歯数を19個としている。
【0048】
遊星回転体22は、大径筒部29と偏心部材21の大径筒部25との間に配置された転がり軸受32と、小径筒部28と偏心部材21の小径筒部24との間に配置された針状ころ軸受23とによって、偏心部材21に対して回転可能に支持されている。
【0049】
このように、転がり軸受32と針状ころ軸受23とによって、遊星回転体22を偏心部材21に対して支持することにより、遊星回転体22の径方向の振れを低減し、遊星回転体22の径方向の振れに伴う動力伝達効率の低下を抑制している。
【0050】
また、遊星回転体22は、針状ころ軸受23および転がり軸受32を介して偏心部材21の内周に配置されていることで、入力回転体2および出力回転体3の各中心軸(回転軸X)に対して偏心して配置されている。
【0051】
遊星回転体22が回転軸Xに対して偏心して配置されているため、
図2に示すように、第一内歯部30の中心軸Yは、回転軸Xに対して径方向に距離Eだけ偏心している。これにより、第一内歯部30と第一外歯部19とは、周方向一部の領域(
図2の左側)で噛み合った状態となり、径方向反対側の領域(
図2の右側)で噛み合わない状態となる。
【0052】
また、
図3に示すように、第二内歯部31の中心軸Yも、回転軸Xに対して径方向に距離Eだけ偏心している。これにより、第二内歯部31と第二外歯部20とは、周方向一部の領域(
図3の右側)で噛み合った状態となり、径方向反対側の領域(
図3の左側)で噛み合わない状態となる。
【0053】
なお、
図2および
図3では、互いの矢視方向が異なっているため、第一内歯部30と第二内歯部31とのそれぞれの偏心方向が各図において互いに左右逆方向に示されているが、第一内歯部30と第二内歯部31は同じ方向に同じ距離Eだけ偏心している。
【0054】
以上のような構造を具備する電動アクチュエータ1の動作例を以下に説明する。
【0055】
電動モータ4に通電されず、電動モータ4から減速機5へ駆動力が供給されない状態では、外部からの駆動力によって入力回転体2が回転駆動すると、入力回転体2の回転が遊星回転体22を介して出力回転体3に伝達される。これにより、出力回転体3は入力回転体2と同期して回転する。
【0056】
つまり、入力回転体2と遊星回転体22は、第一外歯部19と第一内歯部30との噛み合い部33でのトルク伝達により、この噛み合い状態を保持したまま一体に回転する。同様に、遊星回転体22と出力回転体3も、第二内歯部31と第二外歯部20の噛み合い位置を保持したまま一体に回転する。そのため、入力回転体2と出力回転体3とは同じ回転位相を保持しながら回転する。
【0057】
これに対して、電動モータ4に通電されて、電動モータ4から減速機5へ駆動力が供給された場合は、ロータ18と偏心部材21とが一体に回転することで、遊星回転体22が入力回転体2および出力回転体3に対して偏心回転運動する。
【0058】
すなわち、電動モータ4の作動によりロータ18に結合された偏心部材21が回転軸Xを中心として一体に回転する。偏心部材21の回転に伴う押圧力が針状ころ軸受23および転がり軸受32を介して遊星回転体22に作用する。この押圧力により、第一内歯部30と第一外歯部19との噛み合い部33で周方向の分力が生じるため、遊星回転体22が入力回転体2に対して相対的に偏心回転運動を行う。
【0059】
つまり、遊星回転体22が回転軸Xを中心として公転しながら、第一内歯部30および第二内歯部31の中心Yを中心として自転する。この際、遊星回転体22が一回公転するごとに、第一内歯部30と第一外歯部19との噛み合い位置が一歯分ずつ周方向にずれるため、遊星回転体22は減速されつつ回転(自転)する。
【0060】
また、この遊星回転体22の偏心回転運動により、遊星回転体22が一回公転するごとに、第二内歯部31と第二外歯部20との噛み合い位置が一歯分ずつ周方向にずれる。これにより、出力回転体3が遊星回転体22に対して減速されつつ回転する。
【0061】
このように、遊星回転体22を電動モータ4で駆動することにより、入力回転体2から入力される駆動力に電動モータ4からの駆動力が重畳され、出力回転体3の回転が電動モータ4からの駆動力の影響を受ける状態となる。そのため、入力回転体2に対する出力回転体3の相対的な回転位相差を正逆方向で変更することが可能となる。
【0062】
ここで、減速機5による減速比をI、電動モータ4の回転速度をNm、入力回転体2の回転速度をNsとすると、出力回転体3の位相角度差は(Nm-Ns)/Iとなる。また、第一外歯部19の減速比をi1、第二外歯部20の減速比をi2とすると、減速機5による減速比Iは、I=i1×i2/|i1-i2|によって求められる。
【0063】
例えば、第一外歯部19の減速比(i1)が24、第二外歯部20の減速比(i2)が20の場合、上式から減速比は120となる。このように、この実施形態における減速機5では、大きな減速比によって高トルクを得ることが可能となる。
【0064】
この実施形態における電動アクチュエータ1の全体構成は、前述のとおりであるが、その特徴的な構成である潤滑構造について、以下に詳述する。
【0065】
この実施形態の電動アクチュエータ1では、入力回転体2と出力回転体3との間に配設された遊星回転体22が偏心回転運動を行うことにより、入力回転体2に対する出力回転体3の回転位相差を変更する偏心型減速機5を採用している。
【0066】
この偏心型減速機5は、入力回転体2の第一外歯部19と遊星回転体22の第一内歯部30との噛み合い構造、および出力回転体3の第二外歯部20と遊星回転体22の第二内歯部31との噛み合い構造を有する。
【0067】
この噛み合い構造による遊星回転体22の偏心回転運動を円滑に行うため、電動アクチュエータ1のハウジング6内にグリース等の潤滑剤(図示せず)をシール付き転がり軸受7,10,16(
図1参照)によって封入している。
【0068】
この遊星回転体22の偏心回転運動では、ポンプ作用により、第一外歯部19と第一内歯部30との噛み合い部33、および第二外歯部20と第二内歯部31との噛み合い部34で潤滑剤が流動し易くなっている。
【0069】
そこで、この実施形態の電動アクチュエータ1では、簡便な構造により、偏心型減速機5の噛み合い部33,34からの潤滑剤の流出を抑制し、潤滑剤の枯渇を防止する手段を講じている。つまり、第一外歯部19と第一内歯部30との噛み合い部33、および第二外歯部20と第二内歯部31との噛み合い部34に潤滑剤溜りを設ける。
【0070】
この実施形態の潤滑剤溜りは、
図4および
図5に示すように、入力回転体2の第一外歯部19と出力回転体3の第二外歯部20に形成された円周方向溝35,36で構成されている。この円周方向溝35,36は、第一外歯部19および第二外歯部20の軸方向中央位置に形成されている。
【0071】
このように、第一外歯部19および第二外歯部20に円周方向溝35,36を設けたことにより、その円周方向溝35,36が噛み合い部33,34で潤滑剤溜りとなるので、遊星回転体22の偏心回転運動(ポンプ作用)により流動する潤滑剤(
図4の破線矢印参照)が円周方向溝35,36に貯留される。
【0072】
この円周方向溝35,36での潤滑剤の貯留により、第一外歯部19と第一内歯部30との噛み合い部33、および第二外歯部20と第二内歯部31との噛み合い部34で潤滑剤を保持し易くなる。
【0073】
このように、第一外歯部19と第一内歯部30との噛み合い部33、および第二外歯部20と第二内歯部31との噛み合い部34で潤滑剤を保持し易くなることから、潤滑性能を維持することが容易となり、噛み合い部33,34での摺動抵抗を小さくすることができる。その結果、減速機5の効率および耐久性の向上が図れる。
【0074】
また、潤滑剤溜りを円周方向溝35,36という簡易な構造で実現できる。このように、円周方向溝35,36に潤滑剤を貯留させることにより、第一外歯部19と第一内歯部30との噛み合い部33、および第二外歯部20と第二内歯部31との噛み合い部34で潤滑剤を保持することが容易となる。
【0075】
さらに、潤滑剤が貯留される円周方向溝35,36を第一外歯部19および第二外歯部20の軸方向中央位置に配したことにより、第一外歯部19と第一内歯部30との噛み合い部33、および第二外歯部20と第二内歯部31との噛み合い部34で潤滑剤を確実に保持することができる。
【0076】
なお、以上の実施形態では、入力回転体2の第一外歯部19と出力回転体3の第二外歯部20に円周方向溝35,36を形成した場合を例示したが、遊星回転体22の第一内歯部30および第二内歯部31に円周方向溝を形成することにより潤滑剤溜りを構成するようにしてもよい。
【0077】
また、以上の実施形態では、潤滑剤溜りとして円周方向溝35,36を例示したが、本発明はこれに限定されることなく、他の実施形態の潤滑剤溜りとして軸方向溝であってもよい。
【0078】
図6は他の実施形態における電動アクチュエータ1の全体構成を示す断面図、
図7は
図6のR-R線に沿う断面図、
図8は
図6のS-S線に沿う断面図である。
図6~
図8において、
図1~
図3と同一部分には同一参照符号を付して重複説明は省略する。
【0079】
図6に示す他の実施形態の電動アクチュエータ1では、
図7のA部拡大部分で示すように、入力回転体2の第一外歯部19および遊星回転体22の第一内歯部30に、潤滑剤溜りとしての軸方向溝37,38を形成している(
図9参照)。
【0080】
同様に、
図8のB部拡大部分で示すように、出力回転体3の第二外歯部20および遊星回転体22の第二内歯部31に、潤滑材溜りとしての軸方向溝39,40を形成している(
図9参照)。
【0081】
このように、第一外歯部19および第一内歯部30に軸方向溝37,38を設けると共に、第二外歯部20および第二内歯部31に軸方向溝39,40を設けたことにより、軸方向溝37~40が噛み合い部33,34で潤滑剤溜りとなるので、遊星回転体22の偏心回転運動により流動する潤滑剤が軸方向溝37~40に貯留される。
【0082】
この軸方向溝37~40での潤滑剤の貯留により、第一外歯部19と第一内歯部30との噛み合い部33、および第二外歯部20と第二内歯部31との噛み合い部34で潤滑剤を保持し易くなる。
【0083】
このように、第一外歯部19と第一内歯部30との噛み合い部33、および第二外歯部20と第二内歯部31との噛み合い部34で潤滑剤を保持し易くなることから、潤滑性能を維持することが容易となり、噛み合い部33,34での摺動抵抗を小さくすることができる。その結果、減速機5の効率および耐久性の向上が図れる。
【0084】
また、潤滑剤溜りを軸方向溝37~40という簡易な構造で実現できる。このように、軸方向溝37~40に潤滑剤を貯留させることにより、第一外歯部19と第一内歯部30との噛み合い部33、および第二外歯部20と第二内歯部31との噛み合い部34で潤滑剤を保持することが容易となる。
【0085】
さらに、軸方向溝37~40は、第一外歯部19および第一内歯部30、第二外歯部20および第二内歯部31の底部に設けられている。これにより、第一外歯部19と第一内歯部30、第二外歯部20と第二内歯部31とが相互に噛み合う際に、一方の歯部の軸方向溝37~40から他方の歯部に潤滑剤が付着することで潤滑剤の枯渇を防止できる。
【0086】
第一外歯部19および第一内歯部30、第二外歯部20および第二内歯部31の底部は、トルク伝達に寄与しない箇所である。このように、トルク伝達に寄与しない底部に軸方向溝37~40を設けることで、減速機5の効率に悪影響を及ぼすことはない。
【0087】
なお、この実施形態では、第一外歯部19と第一内歯部30の両方、第二外歯部20と第二内歯部31の両方に軸方向溝37~40を設けた場合を例示しているが、第一外歯部19と第一内歯部30のいずれか一方、また、第二外歯部20と第二内歯部31のいずれか一方に軸方向溝を設けてもよい。
【0088】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0089】
1 電動アクチュエータ
2 入力回転体
3 出力回転体
4 電動モータ
5 減速機
19,20 外歯部
22 遊星回転体
30,31 内歯部
33,34 噛み合い部
35,36 潤滑剤溜り(円周方向溝)
37~40 潤滑剤溜り(軸方向溝)
X 回転軸