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特許7463144半導電性ポリエチレン系樹脂組成物及びこれを用いた成形体、シームレスベルト
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  • 特許-半導電性ポリエチレン系樹脂組成物及びこれを用いた成形体、シームレスベルト 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】半導電性ポリエチレン系樹脂組成物及びこれを用いた成形体、シームレスベルト
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/04 20060101AFI20240401BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240401BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20240401BHJP
   C08L 77/02 20060101ALI20240401BHJP
   C08L 77/06 20060101ALI20240401BHJP
   G03G 15/00 20060101ALI20240401BHJP
   G03G 15/16 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
C08L23/04
C08K3/04
C08L23/26
C08L77/02
C08L77/06
G03G15/00 552
G03G15/16
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020046773
(22)【出願日】2020-03-17
(65)【公開番号】P2021147447
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000206473
【氏名又は名称】大倉工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】武智 重利
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-029480(JP,A)
【文献】特開2018-162337(JP,A)
【文献】特開2005-112993(JP,A)
【文献】特開2015-180714(JP,A)
【文献】国際公開第2018/147250(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107973952(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109929175(CN,A)
【文献】特開平08-113678(JP,A)
【文献】特開2001-195919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/04
C08K 3/04
C08L 23/26
C08L 77/02
C08L 77/06
G03G 15/00
G03G 15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレン系樹脂(A)とポリアミド系樹脂(B)とを、70重量%~92重量%:30重量%~8重量%の割合で含有し、
さらに、前記ポリエチレン系樹脂(A)と前記ポリアミド系樹脂(B)との合計量100重量部に対して、相溶化剤(C)を0.3~5重量部と、導電剤(D)を8~20重量部とを含有する樹脂組成物であって、
前記ポリアミド系樹脂(B)は、ナイロン6、ナイロン12、ナイロン6,12から選ばれた1種以上であり、前記相溶化剤(C)は、エポキシ基、カルボキシル基又は無水酸基を有する変性ポリエチレンであり、前記導電剤(D)は、炭素系フィラーであって、
表面抵抗率が10 ~10 Ω/□であることを特徴とする半導電性ポリエチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリエチレン系樹脂(A)は、高密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレンを含有することを特徴とする請求項1記載の半導電性ポリエチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記導電剤(D)は、カーボンブラックであることを特徴とする請求項1または2記載の半導電性ポリエチレン系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれか記載の半導電性ポリエチレン系樹脂組成物から形成された成形体。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれか記載の半導電性ポリエチレン系樹脂組成物から形成されたシームレスベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット方式や電子写真方式を用いた画像形成装置に用いられているシームレスベルト等に好適に使用することができる半導電性ポリエチレン系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットプリンター用の紙搬送ベルトには、導電剤等により半導電性を示すように調整された基材層と、導電剤を含まない絶縁性の表面層からなる多層ベルトが使用されている。例えば、ポリフッ化ビニリデンを用いて紙搬送ベルトを製造する場合は、基材層には導電剤を添加したポリフッ化ビニリデンを用い、表面層には導電剤を添加していないポリフッ化ビニリデンを用いる。この場合、表面層の表面抵抗率は1013Ω/□程度である。
【0003】
しかしながら、近年、高速で用紙を搬送する必要があり、表面層には高度な絶縁性が求められており、上述したインクジェット用の紙搬送ベルトでは絶縁性が足りないなどの課題があった。そこで、本発明者らは、絶縁性(表面抵抗率は1014Ω/□以上を示す)に優れ安価なポリエチレン系樹脂に着目し、これを用いて基材層を成形することを検討した。しかしながら、基材層の樹脂をポリエチレン系樹脂とする場合、ポリエチレン系樹脂を用いて半導電性の中抵抗領域(表面抵抗率は10~10Ω/□を示す)の電気抵抗を安定的に出現させる方法は知られていなかった。なお、紙搬送ベルトは、前述の如く多層ベルトであることが求められるが、各層の線膨張率が異なると多層ベルトに反りが発生するという問題があり、各層の線膨張率を調整するには、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレンなどの様々な種類のあるポリエチレン系樹脂を選択するのが好ましいと判断した。
【0004】
樹脂に導電性を付与する技術としては、例えば特許文献1には、導電性フィラーと熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Aと非相溶の熱可塑性樹脂Bとを含み、熱可塑性樹脂Bと熱可塑性樹脂Aの表面張力の差が2mJ/m以上である導電性樹脂成形体が記載されている。具体的には、導電性フィラーとしてケッチェンブラックが、熱可塑性樹脂としてポリプロピレン樹脂とナイロン66が例示され、得られた成形体の体積抵抗率は1×103Ω・cm程度で導電性が高い。しかしながら熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bとが非相溶であるにも関わらず、相溶性を高める方法については記載されていない。
【0005】
また、特許文献2には、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、導電性カーボンブラック、テルペンフェノール樹脂、相溶化剤および有機過酸化物からなる熱可塑性樹脂組成物が記載されている。具体的にはポリプロピレン、ポリアミド、導電性カーボンブラック、テルペンフェノール樹脂、無水マレイン酸などの相溶化剤および有機過酸化物よりなる熱可塑性樹脂組成物を用いて成形された、吸水による寸法変化率が小さく耐衝撃性のバランスに優れる導電性燃料タンク用キャップ(体積抵抗率は10~10Ω・cm)が例示されている。
【0006】
さらに、特許文献3には、導電性フィラーを樹脂A中に分散してなる組成物(1)を(樹脂Aとは異なる)樹脂B中に分散せしめて得られる導電性樹脂組成物(2)が開示されている。組成物(1)は体積抵抗率が1~100Ω・cm、全体の導電性樹脂組成物(2)は体積抵抗率が10~10Ω・cmで、樹脂Aとしてポリエステルエラストマーやナイロン12が、樹脂Bとしてポリプロピレン系樹脂が例示されている。
【0007】
特許文献4には、ポリオレフィン樹脂にカーボンブラックと液状ポリアミド化合物とを添加することにより体積固有抵抗を10~1010Ω・cmとした樹脂組成物が記載され、ポリオレフィンとしてはエチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンエチルアクリレート、α-オレフィン重合体、ポリブテン-1、エチレンプロピレンゴムが例示されているが、相溶化剤に関しては記載されていない。
これらの従来技術には、ポリエチレン系樹脂に中抵抗領域の導電性を安定的に付与する技術は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2018-123266号公報
【文献】特開2004-26869号公報
【文献】特開平11-35835号公報
【文献】特開昭58-42636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、中抵抗領域の半導電性を示すポリエチレン系樹脂組成物を得るために、カーボンブラックの配合量の適正化を試みたが、中抵抗領域を示すポリエチレン系樹脂組成物中のカーボンブラックの配合量の範囲は狭く、わずかなカーボンブラックの配合量の変動で電気抵抗が大きく変化することが判明した。そのため得られる成形体中の電気抵抗は表面抵抗率のバラつきが大きいという課題があった。
本発明はこのような問題に鑑みなされたものであり、中抵抗領域の表面抵抗率を示し、バラつきが小さい半導電性ポリエチレン系樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、
(1)ポリエチレン系樹脂(A)とポリアミド系樹脂(B)とを、70重量%~92重量%:30重量%~8重量%の割合で含有し、
さらに、前記ポリエチレン系樹脂(A)と前記ポリアミド系樹脂(B)との合計量100重量部に対して、相溶化剤(C)を0.3~5重量部と、導電剤(D)を8~20重量部とを含有する樹脂組成物であって、
前記相溶化剤(C)は、エポキシ基、カルボキシル基又は無水酸基を有する変性ポリエチレンであり、前記導電剤(D)は、炭素系フィラーであることを特徴とする半導電性ポリエチレン系樹脂組成物が提供され、
(2)前記ポリエチレン系樹脂(A)は、高密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレンを含有することを特徴とする(1)記載の半導電性ポリエチレン系樹脂組成物が提供され、
(3)前記導電剤(D)は、カーボンブラックであることを特徴とする(1)または(2)記載の半導電性ポリエチレン系樹脂組成物が提供され、
(4)前記ポリアミド系樹脂(B)は、ナイロン6、ナイロン12、ナイロン6,12から選ばれた1種以上であることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれか記載の半導電性ポリエチレン系樹脂組成物が提供され、
(5)(1)乃至(4)のいずれか記載の半導電性ポリエチレン系樹脂組成物から形成された成形体が提供され、
(6)(1)乃至(4)のいずれか記載の半導電性ポリエチレン系樹脂組成物から形成されたシームレスベルトが提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の半導電性ポリエチレン系樹脂組成物から得られた成形体は、安定的に中抵抗領域の電気抵抗を示し、表面抵抗率のバラつきが小さいため、中抵抗領域の電気抵抗を有するシームレスベルトとして好適に使用することができる。
また、本発明の半導電性ポリエチレン系樹脂からなる基材層とポリエチレン系樹脂からなる絶縁性の表面層で構成されたシームレスベルトは、表面層の絶縁性が優れているため、特にインクジェットプリンター用の紙搬送ベルトに好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の半導電性ポリエチレン系樹脂組成物から得られた成形体の表面抵抗率と導電剤配合量の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において、「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/またはメタクリルの意味で用いる。また、本発明において、「MD方向」とは、押出機を用いてフィルムを成形する場合の押出方向を意味し、「TD方向」とは、MD方向と直交する方向を意味する。
【0014】
[ポリエチレン系樹脂(A)]
本発明に用いられるポリエチレン系樹脂(A)は、エチレンからなる重合体のことであり、ポリエチレンを部分構造として持つ共重合体も含む。ポリエチレン系樹脂(A)は、例えば、高密度ポリエチレン(密度:0.92~0.96)、低密度ポリエチレン(密度:0.91~0.92)、超低密度ポリエチレン(密度:0.91以下)、直鎖状低密度ポリエチレン等が挙げられ、ポリエチレンを部分構造として持つ共重合体の例としては、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体であるエチレン―酢酸ビニル共重合体(EVAと呼ばれる)等が挙げられる。
【0015】
また、本発明の半導電性ポリエチレン系樹脂組成物の用途の一つであるシームレスベルトは、一定の張力をかけてロール間に張架されて用いられるが、プリンター等の停止時にシームレスベルトはロール間に張架された状態で放置されるため、曲げ癖が付く。そうすると、プリンター等を起動すると曲げ癖が付いた場合が凸状になるという課題がある。熱可塑性樹脂よりなるフィルムは長時間、同じ形状のまま放置されると、曲げ癖が付く事は避けられないが、引張弾性率が低いシームレスベルトはプリンター等の起動時にロール間に張架されたシームレスベルトの曲げ癖の部分にも張力がかかり、曲げ癖部分の凸部が小さくなる。このことより、ポリエチレン系樹脂(A)の引張弾性率は1100MPa以下であることが好ましい。一方、ポリエチレン系樹脂(A)の引張弾性率が400MPaを下回るとシームレスベルトをロール間の張架した際、伸びが大きくなるので好ましくない。上記のように、ポリエチレン系樹脂には様々な種類があるが、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレンは引張弾性率が200~300MPa程度であるため、高密度ポリエチレンを用いることが好適である。また用途に応じて柔軟性を付与する必要がある場合は、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレンなどを併用することができる。
【0016】
[ポリアミド系樹脂(B)]
本発明に用いられるポリアミド系樹脂(B)は、ジアミンとジカルボン酸との重縮合、ω―アミノカルボン酸の自己縮合、ラクタム類の開環重合などによって得られ、十分な分子量を有する熱可塑性樹脂である。
【0017】
ポリアミド系樹脂(B)としては、例えば、ナイロン6、ナイロン4、ナイロン6,6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6,10、ナイロン6,12、ナイロン6/6,6、ナイロン6/6,6/12、ナイロン6,MXD(MXDはm-キシリレンジアミン成分を表す)、ナイロン6,6T(Tはテレフタル酸成分を表す)、ナイロン6,6I(Iはイソフタル酸成分を示す)などが挙げられる。
【0018】
ジアミンとジカルボン酸の重縮合により得られるポリアミド系樹脂(B)の場合、ジアミンの具体例としては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、1,9-ノナンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、イソホロンジアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミンなどの脂肪族および芳香族ジアミンが挙げられる。ジカルボン酸の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂肪族、脂環族、芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
【0019】
これらの中でも、吸水率が低いポリアミド系樹脂が好ましく、吸水率が低いポリアミド系樹脂は、カーボンブラックの分散性に優れるとともに、湿潤環境における電気抵抗の安定性に優れる。ポリアミド系樹脂の吸水率は、1.5%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがより好ましい。吸水率が1.5%以下のポリアミド系樹脂としては、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6,10、ナイロン6,12などが挙げられ、吸水率が1.0%以下のポリアミド系樹脂としては、ナイロン11、ナイロン12が挙げられる。なお、これらのポリアミドは単独、或いは2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0020】
[相溶化剤(C)]
本発明に用いられる相溶化剤(C)は、エポキシ基、カルボキシル基又は無水酸基を有する変性ポリエチレンであることを特徴とする。ポリアミド系樹脂(B)の末端基であるアミノ基と反応性があるエポキシ基、カルボキシル基又は無水酸基を有する変性ポリエチレンを相溶化剤として用いることにより、得られる成形体はポリエチレン系樹脂(A)マトリクス中にポリアミド系樹脂(B)が微分散した海島構造を呈し、導電剤(D)が均一に分散することとなる。
【0021】
本発明に用いられる相溶化剤(C)は、例えばエチレン―エチルアクリレート―無水マレイン酸の3元共重合体、エチレン―ブチルアクリレート―無水マレイン酸の3元共重合体、エチレン―グリシジルメタクリレートの共重合体などが例示される。
本発明に用いられる相溶化剤(C)は、その他の単量体に由来する構成単位を含んでいても良い。その他の単量体としては、例えば、プロピレン、ブテン等のα-オレフィン、スチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。その他の単量体は単独、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。その他の単量体の含有量は、0~15モル%であり、好ましくは0~10モル%であり、さらに好ましくは0~5モル%である。
【0022】
本発明に用いられる相溶化剤(C)の数平均分子量は、3000以上であることが好ましい。相溶化剤(C)の数平均分子量が3000未満であると、未反応の相溶化剤(C)が成形体表面へブリードアウトすること(ブリード現象)がある。このブリード現象は、シームレスベルト等において用紙や他の部品を汚染する要因となる。
【0023】
[導電剤(D)]
本発明では導電剤(D)としては、カーボンブラック(CB)、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)、カーボンファイバ(CF)等のナノレベルの炭素系フィラーを用いる。導電性やコスト等に鑑みて特に好ましいのは、カーボンブラックである。
カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックおよびアセチレンブラック等の導電性カーボンブラックを挙げることができ、特に、平均粒子径50nm以下のカーボンブラックが少量の配合で電気抵抗を下げることができるので好ましい。また、本発明においては、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、オキサゾリン基、から選ばれる1種以上の官能基を有するポリマーがグラフト付加されたグラフト化カーボンブラック、或いは低分子量化合物で表面処理したカーボンブラックも用いることができる。
【0024】
本発明の半導電性ポリエチレン系樹脂組成物には、必要に応じてその特性を損なわない範囲でその他の樹脂や添加剤を配合しても良い。樹脂としては、セルロース系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレン系樹脂以外のポリオレフィン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂等が挙げられる。添加剤としては、イオン伝導性材料、グラファイト等の電子伝導性材料、酸化防止剤、熱安定剤、有機フィラーや無機フィラー、アンチブロッキング剤、可塑剤、滑剤、キレート化剤、加工助剤、染料や顔料等の着色剤が挙げられる。これらの樹脂や添加剤は、目的に応じて適量を使用することができる。
【0025】
[半導電性ポリエチレン系樹脂組成物]
次に、本発明の半導電性ポリエチレン系樹脂組成物を構成する各成分の組成比について説明する。本発明の半導電性ポリエチレン系樹脂組成物は、ポリエチレン系樹脂(A)とポリアミド系樹脂(B)とを、ポリエチレン系樹脂(A):ポリアミド系樹脂(B)=70重量%~92重量%:30重量%~8重量%の割合で含有する。ポリエチレン系樹脂(A)とポリアミド系樹脂(B)の合計量100重量%におけるポリアミド系樹脂(B)の割合は、10~25重量%が好ましく、12~20重量%がより好ましい。ポリエチレン系樹脂(A)とポリアミド系樹脂(B)との組成比を上記範囲とすることにより、ポリエチレン系樹脂マトリクス中にポリアミド系樹脂が微分散した海島構造を呈し、これにより導電剤(D)が均一に分散し、優れた電気抵抗の均一性を示す。ポリアミド系樹脂(B)の含有量が8重量%未満であると、海島構造の中で島の間隔が大きくなるため、電気抵抗の均一性が悪くなる恐れがある。
【0026】
相溶化剤(C)の配合量は、ポリエチレン系樹脂(A)とポリアミド系樹脂(B)との合計量100重量部に対して、0.3~5重量部であり、0.5~3重量部が好ましく、0.5~2重量部がより好ましい。相溶化剤(C)の配合量を上記範囲とすることにより、ポリエチレン系樹脂マトリクス中にポリアミド系樹脂が微分散した海島構造を呈し、これにより導電剤(D)が組成物中に均一に分散し、優れた電気抵抗の均一性を示す。相溶化剤(C)の配合量が0.3重量部未満の場合は海島構造における島のサイズが大きくなり、中抵抗領域における安定的な電気抵抗を得られず、またフィルムの破断伸びが低下する。一方、5重量部を超える場合は、海島構造における島のサイズが小さくなり過ぎ、中抵抗領域の電気抵抗を得るのに必要な導電剤の配合量が多くなり、ひいてはフィルム状に成形する場合、TD方向の厚み変動が大きくなるので好ましくない。これらの事より、本発明の半導電性ポリエチレン系樹脂組成物中の海島構造における島のサイズは0.5~5μmが好ましく、更には0.8~3μmがより好ましい。
【0027】
導電剤(D)の配合量は、ポリエチレン系樹脂(A)とポリアミド系樹脂(B)との合計量100重量部に対して、8~20重量部であり、10~15重量部がより好ましい。導電剤の配合量が8重量部未満であると、想定の半導電性を示す樹脂組成物を得られず好ましくなく、20重量部を超えると溶融粘度が高くなり、溶融押出が困難となる。
【0028】
[半導電性ポリエチレン系樹脂組成物の製造方法]
本発明の半導電性樹脂組成物の製造方法には特に制限はないが、例えば、ポリエチレン系樹脂(A)、ポリアミド系樹脂(B)を予め溶融混練し、ここに所定量の相溶化剤(C)、導電剤(D)及び必要に応じて用いられる添加剤を配合し混錬する方法、ポリエチレン系樹脂(A)、ポリアミド系樹脂(C)、相溶化剤(C)、導電剤(D)及び必要に応じて用いられる添加剤を配合してドライブレンドした後に溶融混練する方法、ポリエチレン系樹脂(A)またはポリアミド系樹脂(B)の一方に所定量の導電剤(D)を配合し、溶融混練して予めマスターバッチを作製し、次いで該マスターバッチとポリエチレン系樹脂(A)またはポリアミド系樹脂(B)の他方と相溶化剤(C)とを溶融混練する方法等が挙げられる。
【0029】
溶融混練するための装置としては、バッチ式混練機、ニーダー、コニーダー、バンバリーミキサー、ロールミル、単軸もしくは二軸押出機等、公知の種々の混錬機が挙げられる。これらの中でも、混練能力や生産性に優れる点から単軸押出機や二軸押出機が好ましく用いられる。
【0030】
溶融混練時の温度は、使用するポリエチレン系樹脂(A)、ポリアミド系樹脂(B)の種類や溶融粘度等により適宜選択できるが、通常、185~300℃の範囲であり、樹脂の劣化防止の観点から、好ましくは190~280℃である。
【0031】
[フィルム]
以下、本発明の半導電性ポリエチレン系樹脂組成物からなる層を少なくとも一層有するフィルムについて説明するが、本発明の樹脂組成物の用途はこれに限定されるものではない。本発明の半導電性ポリエチレン系樹脂組成物を用いて、従来公知の成形方法により各種成形体を製造することができる。当該方法としては、例えば射出成形、押出成形、圧縮成形、真空成形、プレス成形等の成形法を例示することができる。また、本発明における「フィルム」とは、シート状のもの、チューブ状のもの、ベルト状のものを含む。
【0032】
シート状のフィルムを製造する場合、フラットダイを用いた押出成形法を採用することが好ましい。具体的には、押出機と、該押出機の下方に配置されるフラットダイと、該フラットダイの下方に配置され、該フラットダイから押し出される溶融樹脂を冷却する冷却ロールと、必要に応じ採用されるタッチロールとを備える成形装置を用いるとよい。半導電性ポリエチレン系樹脂組成物を押出機に供給して、これを溶融してフラットダイの先端からフィルム状に押出し、冷却ロールにて冷却固化することでシート状のフィルムとする方法が挙げられる。
【0033】
一方、チューブ状又はベルト状のフィルムを製造する場合、インフレーション押出成形法によることが好ましい。インフレーション押出成形法とは、押出機と、該押出機の下流に該押出機に連通して配置される環状ダイスと、該環状ダイスの下流に配置される、該環状ダイスから押し出される溶融樹脂を冷却固化する手段を備える押出成形装置を用い、半導電性ポリエチレン系樹脂組成物を押出機に供給して、溶融状態とし、環状ダイスからチューブ状に押出し、冷却固化することによりチューブ状のフィルムとする方法である。また、その際、チューブ状の成形体を所望の幅に切断することでベルト状の成形体とすることができる。
【0034】
なお、これらの説明は単層のフィルムに関するものであったが、2層フィルムの場合は更に別の押出機を配設し、2層用のダイスにそれぞれの押出機から溶融状態の組成物を供給し、2層用のダイスから2層同時に押し出して得ることができる。また、3層以上の時は、層数に応じた押出機及びダイスを準備すれば良い。
【0035】
本発明のフィルムは、中間転写ベルト、転写搬送ベルト、紙搬送ベルト等のOA機器部品や、自動車関連部品、電子・電気部品、機械部品、半導体包装用フィルム等として好適に用いることができる。
【実施例
【0036】
以下、本発明について、実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例において行った物性の測定方法は次の通りである。
(1)溶融粘度
本発明の樹脂組成物について、長さ10mm×直径1mmのダイを取り付けた島津製作所製高化式フローテスターを用いて溶融粘度を測定した。
(2)電気抵抗(表面抵抗率)
各実施例・比較例により得られたフィルムのMD方向に異なる位置から、460mm×400mmの試験片を20点切り出し、URSプローブを取り付けたハイレスタUP(MCP-HT450、ダイヤインスツルメンツ社製)を用い、各試験片の表面抵抗率を測定した。20点の試験片における表面抵抗率の平均値、最大値、最小値を表に記載した。
また、表面抵抗率のバラつきは以下の式で求めた。
表面抵抗率のバラつき[桁]=log10(表面抵抗率の最大値/表面抵抗率の最小値)
(3)島のサイズ
各実施例・比較例により得られたフィルムから、ロータリミクロトーム(ST-102型、株式会社ミクロトーム社製)を用いて厚さ2~5μmに試験片を切出した後、得られた試験片をデジタルマイクロスコープ(VHX-500、株式会社キーエンス社製)を用いて試験片断面の観察を行った。試験片の相分離構造が海島構造であった場合、分散相のサイズは測定サンプル上のランダムに選択した点を中心に低倍率から徐々に倍率を上げ、ポリアミド系樹脂の分散相(島)が50個以上100個未満観察されたときに、島のサイズの粒径を10点測定し、その平均値を島のサイズとした。(島のサイズの粒径は、長軸の長さと短軸の長さとの平均値とする)
(4)引張弾性率及び破断伸び
100kgのセルを取り付けたオートグラフを用いてMD方向(試料幅10mm、チャック間100mm、引張速度50mm/分)の引張弾性率及び破断伸びを測定した。
【0037】
原料としては、下記のものを用いた。
<ポリエチレン系樹脂(A)>
・高密度ポリエチレン系樹脂(A-1)[融点:132℃、溶融粘度:9240poise(測定温度200℃、荷重100kg)]
・高密度ポリエチレン系樹脂(A-2)[融点:131℃、溶融粘度:2590poise(測定温度200℃、荷重100kg)]
・低密度ポリエチレン(A-3)[融点:111℃、溶融粘度:2300poise(測定温度200℃、荷重100kg)]
<ポリアミド系樹脂(B)>
・ナイロン12(B-1)[融点:178℃、溶融粘度:5000poise(測定温度200℃、荷重100kg)]
<相溶化剤(C)>
・相溶化剤(C-1)[エチレン―エチルアクリレート―無水マレイン酸の3元共重合体(配合割合;エチレン:エチルアクリレート:無水マレイン酸=92:5:3、融点:107℃、溶融粘度:830poise(測定温度200℃、荷重100kg))]
・相溶化剤(C-2)[エチレン―ブチルアクリレート―無水マレイン酸の3元共重合体(配合割合;エチレン:ブチルアクリレート:無水マレイン酸=90:6.5:3.5、融点:105℃、溶融粘度:430poise(測定温度200℃、荷重100kg))]
<導電剤(D)>
・カーボンブラック(D-1)[給油量:190ml/100g、BET表面積:70m2/g]
【0038】
[実施例・比較例]
表1及び表2に示した配合比となるように、ポリエチレン系樹脂とポリアミド系樹脂と相溶化剤と導電剤とをスクリュー径38Φmmの二軸混錬押出機を用いて溶融混錬し、コンパウンドを得た。次いで、得られたコンパウンドを環状ダイスを備えた単軸押出機(設定温度:210℃、押出径:50Φmm)に供給し、溶融状態でチューブ状に押出すことで厚さ140μmのチューブ状のフィルムを得た。得られたフィルムの表面抵抗率とそのバラつき、島のサイズを評価し、その結果を表1及び表2に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
表1及び表2に示すように、ポリエチレン系樹脂とポリアミド系樹脂に、相溶化剤としてエポキシ基、カルボキシル基又は酸無水物を含有した変性ポリエチレンを含有し、導電剤として炭素系フィラーを含有した本発明の半導電性ポリエチレン系樹脂組成物から成形した実施例1乃至11のチューブ状のフィルムは、10~10Ω/□の中抵抗領域を示し、さらに表面抵抗率のバラつき(均一性)が良好であった。なお、実施例4記載のフィルムのMD方向の引張弾性率は632MPa、MD方向の破断伸びは50%以上であり良好な値を示した。さらに、実施例8は表面抵抗率が10Ω/□で安定的な中抵抗領域を示し、実施例11は表面抵抗率が10Ω/□で安定的な中抵抗領域を示すため、用途に応じて中抵抗領域を制御可能である(例えば、表面抵抗率が10Ω/□はインクジェット用紙搬送ベルトに好適であり、表面抵抗率は10Ω/□は電子写真用シームレスベルトに好適である。)。
また、ポリアミド系樹脂を含有していない比較例1乃至4は、表面抵抗率の均一性が0.5桁を超え、表面抵抗率が安定せずに均一な中抵抗領域を示さなかった。
【0042】
図1は、実施例1乃至3(導電剤の量を変化)と比較例2乃至4(導電剤の量を変化)をグラフ化(縦軸:表面抵抗率、横軸:導電剤の配合量)したものであるが、ポリアミド系樹脂を含有していない比較例の表面抵抗率は導電剤の配合量を変えると表面抵抗率が大きく変化していることが分かる。更に、相溶化剤の配合量を0.5重量%とした実施例4乃至7は導電剤の配合量が約11重量部で表面抵抗率が10の6乗台を示しているが、相溶加剤の配合量を1.5重量%に増やした実施例1は同程度の表面抵抗を示すのに必要な導電剤の配合量を15重量部に増やす必要があることが分かる。
図1