IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エドワーズ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-真空ポンプ及び真空ポンプ用部品 図1
  • 特許-真空ポンプ及び真空ポンプ用部品 図2
  • 特許-真空ポンプ及び真空ポンプ用部品 図3
  • 特許-真空ポンプ及び真空ポンプ用部品 図4
  • 特許-真空ポンプ及び真空ポンプ用部品 図5
  • 特許-真空ポンプ及び真空ポンプ用部品 図6
  • 特許-真空ポンプ及び真空ポンプ用部品 図7
  • 特許-真空ポンプ及び真空ポンプ用部品 図8
  • 特許-真空ポンプ及び真空ポンプ用部品 図9
  • 特許-真空ポンプ及び真空ポンプ用部品 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】真空ポンプ及び真空ポンプ用部品
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20240401BHJP
【FI】
F04D19/04 E
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020049766
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021148088
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107238
【弁理士】
【氏名又は名称】米山 尚志
(74)【代理人】
【識別番号】100102761
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 元也
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 賢哉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 春樹
(72)【発明者】
【氏名】時 永偉
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-184785(JP,A)
【文献】特開2007-198153(JP,A)
【文献】特開平02-009994(JP,A)
【文献】特開2003-193987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気口と排気口を有するケーシングと、前記ケーシング内で回転するロータとを備え、前記ロータの回転により前記吸気口から前記排気口へのガスの排気を行う真空ポンプであって、
前記ロータの形状を略円筒形状とし、前記ロータの内周面と前記ロータの前記内周面の少なくとも一部に対向する固定部の外周面との間に略円筒形状のガス流通空間が区画され、前記ガス流通空間に不活性ガスを流すとともに、
前記ガス流通空間に前記不活性ガスの流れを乱す複数の流乱部を設け、
前記不活性ガスは、前記ロータの軸方向に対して傾斜するとともに前記ガス流通空間の周方向に対して傾斜する方向に沿って、前記ガス流通空間の軸方向の一側から他側へ流れ、
前記複数の流乱部は、前記ロータの前記軸方向に沿って互いに離間して並ぶとともに、前記ガス流通空間の前記周方向に沿って互いに離間して並ぶように、前記ガス流通空間の前記一側から前記他側までの領域に配置されている
ことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記複数の流乱部の各々は、前記固定部の前記外周面もしくは前記ロータの前記内周面に形成された突起部からなる
ことを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記突起部は、板体形状である
ことを特徴とする請求項2に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記突起部は、前記不活性ガスの流れ方向に対して湾曲した部分を有する
ことを特徴とする請求項2または3に記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記突起部は、前記固定部の前記外周面または前記ロータの前記内周面に前記軸方向から所定角度傾斜し形成される
ことを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記突起部は、前記固定部の前記外周面または前記ロータの前記内周面に前記軸方向から所定角度傾斜した方向に対して互いに間隙を設けて複数配列されている
ことを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項7】
前記複数の流乱部の各々は、前記固定部の前記外周面または前記ロータの前記内周面に形成された凹部からなる
ことを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項8】
前記凹部は、前記固定部の前記外周面または前記ロータの前記内周面に前記軸方向から所定角度傾斜した方向に対して互いに間隙を設けて複数配列されている
ことを特徴とする請求項7に記載の真空ポンプ。
【請求項9】
吸気口と排気口を有するケーシングと、前記ケーシング内で回転するロータとを備え、前記ロータの回転により前記吸気口から前記排気口へのガスの排気を行う真空ポンプであって、前記ロータの形状を略円筒形状とし、前記ロータの内周面と前記ロータの前記内周面の少なくとも一部に対向する固定部の外周面との間に略円筒形状のガス流通空間が区画され、前記ガス流通空間に不活性ガスを流すとともに、前記ガス流通空間に前記不活性ガスの流れを乱す複数の流乱部を設けた真空ポンプで用いられる前記固定部に対応する真空ポンプ用部品において、
前記ロータの前記内周面に対向する前記外周面上に前記不活性ガスの流れを乱す前記複数の流乱部を設け、
前記不活性ガスは、前記ロータの軸方向に対して傾斜するとともに前記ガス流通空間の周方向に対して傾斜する方向に沿って、前記ガス流通空間の軸方向の一側から他側へ流れ、
前記複数の流乱部は、前記ロータの前記軸方向に沿って互いに離間して並ぶとともに、前記ガス流通空間の前記周方向に沿って互いに離間して並ぶように、前記ガス流通空間の前記一側から前記他側までの領域に配置されている
ことを特徴とする真空ポンプ用部品。
【請求項10】
吸気口と排気口を有するケーシングと、前記ケーシング内で回転するロータとを備え、前記ロータの回転により前記吸気口から前記排気口へのガスの排気を行う真空ポンプであって、前記ロータの形状を略円筒形状とし、前記ロータの内周面と前記ロータの前記内周面の少なくとも一部に対向する固定部の外周面との間に略円筒形状のガス流通空間が区画され、前記ガス流通空間に不活性ガスを流すとともに、前記ガス流通空間に前記不活性ガスの流れを乱す複数の流乱部を設けた真空ポンプで用いられる前記ロータに対応する真空ポンプ用部品において、
前記固定部の前記外周面に対向する前記内周面上に前記不活性ガスの流れを乱す前記複数の流乱部を設け、
前記不活性ガスは、前記ロータの軸方向に対して傾斜するとともに前記ガス流通空間の周方向に対して傾斜する方向に沿って、前記ガス流通空間の軸方向の一側から他側へ流れ、
前記複数の流乱部は、前記ロータの前記軸方向に沿って互いに離間して並ぶとともに、前記ガス流通空間の前記周方向に沿って互いに離間して並ぶように、前記ガス流通空間の前記一側から前記他側までの領域に配置されている
ことを特徴とする真空ポンプ用部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置、フラット・パネル・ディスプレイ製造装置、ソーラー・パネル製造装置等におけるプロセスチャンバやその他の密閉チャンバのガス排気手段として利用される真空ポンプ及び真空ポンプ用部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、気体分子に運動エネルギーを与えることにより気体の圧縮を行い、吸気したガスを排気口へ放出する真空ポンプとしては、ハウジング内壁にとりつけられた複数のステータ翼と、前記ステータ翼に対向する複数の回転翼ブレードを有するロータと、前記ロータの内周面に所定の間隙を設けて対向する固定部(ステータコラム)と、を有し、複数の回転翼ブレードを高速回転することによりガスの吸引、排気を行う真空ポンプが知られている。
【0003】
また、上記真空ポンプにおいては、上記構成の真空ポンプの後段にネジ溝ポンプを組み合わせたものも提案されている。
【0004】
ところで、この種の真空ポンプを半導体製造で用いる場合、最近は半導体製造技術が発展にともない、固体化し易いプロセスガスが使用されるようになっており、この場合、特に生成物の堆積を防ぐためネジ溝ポンプの高温化が必要になる。
【0005】
一方、ロータの複数の回転翼ブレードは、気体分子の衝突熱などにより高温になるので、このロータ部で発生した熱を適切に放熱する必要がある。
【0006】
ロータ部で発生した熱を放熱する技術としては、回転翼ブレード表面からの輻射熱を固定翼で受け、その熱を固定翼スペーサやケーシングを通して外部に放熱する方法が一般的であり、その1つとして、従来、特許文献1に記載された「分子ポンプ」が知られている。
【0007】
この特許文献1に記載された「分子ポンプ」は、最上段に設けられたロータ翼より下流に、ロータ部と対向し、かつ、ガスの流路と面する領域のステータブレード32の表面に、ガスの流路に向けて張り出した板状のフィン51を形成し、このフィン51の形成によりステータブレード32の表面積を広げ、回転翼ブレード表面からの輻射熱を受けやすくするのと同時に、これにより更にステータ翼22を通過してしまう気体分子の数を低減し、ステータブレード32に衝突し、低温となった気体分子の数を増加させることによりロータ翼21の冷却効率を向上させるように構成されている。
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載された「分子ポンプ」においては、ステータブレードの表面に、板状のフィンを形成する等の構造の変更が必要になる。
【0009】
さて、ロータの内周面とこのロータの内周面に対向するステータコラムとの間に不活性ガスを流す「真空ポンプ」が特許文献2に開示されている。
【0010】
この特許文献2の「真空ポンプ」によれば、ステータブレード等の構造の変更は必要なく、また、回転翼の材料や構造を変更する等の必要もないが、ロータの内周面とステータコラムとの間を流れる不活性ガスが層流となるので、この不活性ガスの対流熱伝達を利用した効率の良いロータの放熱ができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2004-278500号公報
【文献】特開2003-184785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、固定翼、回転翼の材料や構造を変更することなくロータの効率の良い放熱ができるようにした真空ポンプ及び真空ポンプ用部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、吸気口と排気口を有するケーシングと、前記ケーシング内で回転するロータとを備え、前記ロータの回転により前記吸気口から前記排気口へのガスの排気を行う真空ポンプであって、前記ロータの形状を略円筒形状とし、前記ロータの内周面と前記ロータの前記内周面の少なくとも一部に対向する固定部の外周面との間に略円筒形状のガス流通空間が区画され、前記ガス流通空間に不活性ガスを流すとともに、前記ガス流通空間に前記不活性ガスの流れを乱す流乱部を設け、前記不活性ガスは、前記ロータの軸方向に対して傾斜するとともに前記ガス流通空間の周方向に対して傾斜する方向に沿って、前記ガス流通空間の軸方向の一側から他側へ流れ、前記複数の流乱部は、前記ロータの前記軸方向に沿って互いに離間して並ぶとともに、前記ガス流通空間の前記周方向に沿って互いに離間して並ぶように、前記ガス流通空間の前記一側から前記他側までの領域に配置されていることを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記複数の流乱部の各々は、前記固定部の前記外周面もしくは前記ロータの前記内周面に形成された突起部からなることを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記突起部は、板体形状であることを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項2または3に記載の発明において、前記突起部は、前記不活性ガスの流れ方向に対して湾曲した部分を有することを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項2乃至4のいずれか1項に記載の発明において、前記突起部は、前記固定部の前記外周面または前記ロータの前記内周面に前記軸方向から所定角度傾斜し形成されることを特徴とする。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項2乃至5のいずれか1項に記載の発明において、前記突起部は、前記固定部の前記外周面または前記ロータの前記内周面に前記軸方向から所定角度傾斜した方向に対して互いに間隙を設けて複数配列されていることを特徴とする。
【0019】
請求項7に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記複数の流乱部の各々は、前記固定部の前記外周面または前記ロータの前記内周面に形成された凹部からなることを特徴とする。
【0022】
請求項に記載の発明は、請求項7に記載の発明において、前記凹部は、前記固定部の前記外周面または前記ロータの前記内周面に前記軸方向から所定角度傾斜した方向に対して互いに間隙を設けて複数配列されていることを特徴とする。
【0023】
請求項9に記載の発明は、吸気口と排気口を有するケーシングと、前記ケーシング内で回転するロータとを備え、前記ロータの回転により前記吸気口から前記排気口へのガスの排気を行う真空ポンプであって、前記ロータの形状を略円筒形状とし、前記ロータの内周面と前記ロータの前記内周面の少なくとも一部に対向する固定部の外周面との間に略円筒形状のガス流通空間が区画され、前記ガス流通空間に不活性ガスを流すとともに、前記ガス流通空間に前記不活性ガスの流れを乱す複数の流乱部を設けた真空ポンプで用いられる前記固定部に対応する真空ポンプ用部品において、前記ロータの前記内周面に対向する前記外周面上に前記不活性ガスの流れを乱す前記複数の流乱部を設け、前記不活性ガスは、前記ロータの軸方向に対して傾斜するとともに前記ガス流通空間の周方向に対して傾斜する方向に沿って、前記ガス流通空間の軸方向の一側から他側へ流れ、前記複数の流乱部は、前記ロータの前記軸方向に沿って互いに離間して並ぶとともに、前記ガス流通空間の前記周方向に沿って互いに離間して並ぶように、前記ガス流通空間の前記一側から前記他側までの領域に配置されていることを特徴とする。
【0024】
請求項10に記載の発明は、吸気口と排気口を有するケーシングと、前記ケーシング内で回転するロータとを備え、前記ロータの回転により前記吸気口から前記排気口へのガスの排気を行う真空ポンプであって、前記ロータの形状を略円筒形状とし、前記ロータの内周面と前記ロータの前記内周面の少なくとも一部に対向する固定部の外周面との間に略円筒形状のガス流通空間が区画され、前記ガス流通空間に不活性ガスを流すとともに、前記ガス流通空間に前記不活性ガスの流れを乱す複数の流乱部を設けた真空ポンプで用いられる前記ロータに対応する真空ポンプ用部品において、前記固定部の前記外周面に対向する前記内周面上に前記不活性ガスの流れを乱す前記複数の流乱部を設け、前記不活性ガスは、前記ロータの軸方向に対して傾斜するとともに前記ガス流通空間の周方向に対して傾斜する方向に沿って、前記ガス流通空間の軸方向の一側から他側へ流れ、前記複数の流乱部は、前記ロータの前記軸方向に沿って互いに離間して並ぶとともに、前記ガス流通空間の前記周方向に沿って互いに離間して並ぶように、前記ガス流通空間の前記一側から前記他側までの領域に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、吸気口と排気口を有するケーシングと、前記ケーシング内で回転するロータと、前記ロータの回転により前記吸気口から前記排気口へのガスの排気を行う真空ポンプであって、前記ロータの形状を略円筒形状とし、前記ロータの内周面と前記ロータの前記内周面の少なくとも一部に対向する固定部との間に、電装品を内蔵する前記固定部の内部に排気ガスが流れ込むのを防止する為に不活性ガスを流場合であっても、前記不活性ガスの流路に前記不活性ガスの流れを乱す流乱部を設けて構成したので、回転翼の材料や構造を変更することなく効率の良いロータの放熱ができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明が適用される真空ポンプの断面図である。
図2図2は、図1に示した真空ポンプの不活性ガスの流れを説明する図である。
図3図3は、本願発明に係る真空ポンプの実施例1を示す図である。
図4図4に示すは、図3に示した真空ポンプの要部拡大図である。
図5図5は、図3に示した真空ポンプで採用する不活性ガスの流れを乱す流乱部の他の例を示す図である。
図6図6は、本願発明に係る真空ポンプの実施例2の要部拡大図である。
図7図7は、本願発明に係る真空ポンプの実施例3を示す図である。
図8図8は、図7に示した真空ポンプで採用する溝の一例を示す図である。
図9図9は、図7に示した真空ポンプで採用する不活性ガスの流れを乱す流乱部の他の例を示す図である。
図10図10は、本願発明に係る真空ポンプの実施例4の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための実施例について、願書に添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0028】
図1は、本発明が適用される真空ポンプの断面図である。同図の真空ポンプPは、半導体製造装置、フラット・パネル・ディスプレイ製造装置、ソーラー・パネル製造装置におけるプロセスチャンバやその他の密閉チャンバのガス排気手段等として利用される。
【0029】
同真空ポンプPは、外装ケース1内に、回転翼ブレード13と固定翼ブレード14により気体を排気する翼排気部Ptと、ネジ溝16を利用して気体を排気するネジ溝排気部Psと、これらの駆動系とを有している。
【0030】
外装ケース(ケーシング)1は、筒状のポンプケース1Aと有底筒状のポンプベース1Bとをその筒軸方向にボルトで一体に連結した有底円筒形になっている。ポンプケース1Aの上端部側はガス吸気口2として開口しており、ポンプベース1Bの下端部側面にはガス排気口3を設けてある。
【0031】
ガス吸気口2は、ポンプケース1A上縁のフランジ1Cに設けた図示しないボルトにより、例えば半導体製造装置のプロセスチャンバ等、高真空となる図示しない密閉チャンバに接続される。ガス排気口3は、図示しない補助ポンプに連通するように接続される。
【0032】
ポンプケース1A内の中央部には各種電装品を内蔵する円筒状のステータコラム4が設けられており、ステータコラム4はその下端側がポンプベース1B上にネジ止め固定される形態で立設してある。
【0033】
ステータコラム4の内側にはロータ軸5が設けられており、ロータ軸5は、その上端部がガス吸気口2の方向を向き、その下端部がポンプベース1Bの方向を向くように配置してある。また、ロータ軸5の上端部はステータコラム4の円筒上端面から上方に突出するように設けてある。
【0034】
ロータ軸5は、ラジアル磁気軸受10とアキシャル磁気軸受11の磁力で径方向と軸方向が回転可能に浮上支持され、モータ20により回転駆動される。また、このロータ軸5の上下端側には保護ベアリングB1、B2を設けている。
【0035】
ステータコラム4の外側にはロータ6が設けられている。ロータ6は、ステータコラム4の外周を囲む円筒形状であって、ロータ軸5に一体化されていて、かつ、そのロータ軸5を回転軸心としてポンプケース1A内で回転するように構成してある。
【0036】
従って、図1の真空ポンプPでは、ロータ軸5、ラジアル磁気軸受10、10及びアキシャル磁気軸受11が、ロータ6をその軸心周りに回転可能に支持する支持手段として機能する。また、このロータ6はロータ軸5と一体に回転するので、ロータ軸5を回転駆動するモータ20がロータ6を回転駆動する駆動手段として機能する。
【0037】
保護ベアリングB1とB2、ラジアル磁気軸受10及びアキシャル磁気軸受11の詳細構成については業界周知の内容のため、説明を省略する。
【0038】
図1の真空ポンプPでは、ロータ6の略中間より上流(ロータ6の略中間からロータ6のガス吸気口2側端部までの範囲)が翼排気部Ptとして機能する。以下、この翼排気部Ptの詳細構成を説明する。
【0039】
ロータ6の略中間より上流側のロータ6外周面には回転翼ブレード13が一体に複数設けられている。これら複数の回転翼ブレード13は、ロータ6外周面からロータ径方向に突出した形態になっていて、かつ、ロータ6の回転軸心(ロータ軸5)若しくは外装ケース1の軸心(以下「ポンプ軸心」という)を中心として放射状に配置してある。また、回転翼ブレード13は、ロータ6の外径加工部と一体的に切削加工で切り出し形成した切削加工品であって、気体分子の排気に最適な角度で傾斜している。
【0040】
ポンプケース1Aの内周面側には固定翼ブレード14が複数設けられており、これらの固定翼ブレード14は、ポンプケース1A内周面からロータ6外周面に向って突出した形態になっていて、かつ、ポンプ軸心を中心として放射状に配置してある。これらの固定翼ブレード14もまた、回転翼ブレード13と同じく、気体分子の排気に最適な角度で傾斜している。
【0041】
そして、図1の真空ポンプPにおいては、前記のような複数の回転翼ブレード13と固定翼ブレード14とがポンプ軸心に沿って交互に多段に配置されることによって多段の翼排気部Ptを形成している。
【0042】
以上の構成からなる翼排気部Ptでは、モータ20の起動により、ロータ軸5、ロータ6および複数の回転翼ブレード13が一体に高速回転し、最上段の回転翼ブレード13がガス吸気口2から入射した気体分子に下向き方向の運動量を付与する。この下向き方向の運動量を有する気体分子が固定翼14によって次段の回転翼ブレード13側へ送り込まれる。このような気体分子への運動量の付与と送り込み動作とが繰り返し多段に行われることにより、ガス吸気口2側の気体分子はロータ6の下流に向かって順次移行するように排気される。
【0043】
図1の真空ポンプPでは、ロータ6の略中間より下流(ロータ6の略中間からロータ6のガス排気口3側端部までの範囲)がネジ溝排気部(ネジ溝ポンプ)Psとして機能する。以下、このネジ溝排気部Psの詳細構成を説明する。
【0044】
ロータ6の略中間より下流側のロータ6は、ネジ溝排気部Psの回転部材として回転する部分であり、ネジ溝排気部ステータ15の内側に配置されている。
【0045】
ネジ溝排気部ステータ15は、筒形の固定部材であって、ロータ6の外周(ロータ6の略中間より下流)を囲むように配置されている。また、このネジ溝排気部ステータ15はその下端部がポンプベース1Bで支持されるように設置してある。
【0046】
ネジ溝排気部ステータ15の内周部には、深さが下方に向けて小径化したテーパコーン形状に変化するネジ溝16を形成してある。このネジ溝16は、ネジ溝排気部ステータ15の上端から下端にかけて螺旋状に刻設してあり、かかるネジ溝16により、ロータ6とネジ溝排気部ステータ15との間には、螺旋状のネジ溝排気通路Sが設けられる構成になっている。なお、図示は省略するが、先に説明したネジ溝16をロータ6の内周面に形成することで、ネジ溝排気通路Sが設けられる構成も採用し得る。
【0047】
ネジ溝排気部Psでは、ネジ溝16とロータ6の外周面でのドラッグ効果により気体を圧縮しながら移送するため、ネジ溝16の深さは、ネジ溝排気通路Sの上流入口側(ガス吸気口2に近い方の通路開口端)で最も深く、その下流出口側(ガス排気口3に近い方の通路開口端)で最も浅くなるように設定してある。
【0048】
ネジ溝排気通路Sの上流入口は、前述のように多段に配置されている回転翼ブレード13と固定翼ブレード14のうち、最下段の翼(図1の例では、最下段の固定翼ブレード14)の下流に形成される隙間に連通しており、また、そのネジ溝排気通路Sの下流出口は、ガス排気口3側に連通するように構成してある。
【0049】
先に説明した翼排気部Ptの排気動作による移送で最下段の翼(図1の例では、回転翼ブレード13)に到達した気体分子は、ネジ溝排気通路Sの上流入口から同ネジ溝排気通路Sに移行する。移行した気体分子は、ロータ6の回転によって生じる効果、すなわちロータ6の外周面とネジ溝16でのドラッグ効果によって、遷移流から粘性流に圧縮されながらガス排気口3に向って移行し、最終的に図示しない補助ポンプを通じて外部へ排気される。
【0050】
図2は、図1に示した真空ポンプで採用される本発明に係る不活性ガス(パージガス)の流れを説明する図である。
【0051】
前述したように、各種電装品を内蔵する円筒状のステータコラム4の外周は、円筒形状のロータ6で囲まれており、パージガスPGは、外部からパージガス注入路30を通ってポンプケース1A内に注入され、ロータ軸5の外壁とステータコラム4の内壁との間隙からステータコラム4の外壁とロータ6の内壁との間隙にかけて連通する通路を流れ、ガス排気口3から排気される。
【0052】
ここで、パージガスPGとしては熱伝導率の高い例えば窒素ガス等が用いられ、ロータ6に蓄積された圧縮熱は、ロータ6の内壁面からパージガスPGを介してステータコラム4の外壁面へ放熱され、ロータ6及び回転翼ブレード13の冷却が行われる。
【0053】
ところで、ステータPGコラム4の外壁とロータ6の内壁との間隙を流れるパージガスPGは従来の構成においては層流を形成しており、パージガスPGとして熱伝導率の高い例えば窒素ガス等を用いてもロータ6及び回転翼ブレード13の冷却効果としては満足するものが得られなかった。
【0054】
そこで、本発明の真空ポンプにおいては、パージガスPGの流路にパージガスPGの流れを乱す流乱部を形成し、これによりパージガスPGの流れを層流からできるだけ乱流に変換するようにしてロータ6及び回転翼ブレード13の冷却効果を改善しようとしている。
【0055】
以下、本発明の真空ポンプの種々の実施例について詳細に説明する。
【実施例1】
【0056】
図3は、本願発明に係る真空ポンプの一実施例を示す図であり、図4は、図3に示した真空ポンプの要部拡大図である。図3及び図4において、この実施例1の真空ポンプは、ステータコラム4の外周面(周面)に複数の突起41を形成して構成される。その他の構成は図1及び図2で説明したものと同一である。
【0057】
このような構成によると、ステータコラム4の外壁とロータ6の内壁との間隙を流れるパージガスPGは、複数の突起41に衝突することにより、その流れが乱れ、その結果、ステータコラム4の外壁とロータ6の内壁との間隙を流れるパージガス流が層流から乱流若しくは乱流に近い流れに遷移する。複数の突起41を設ける利点としては、上流側の突起41によって乱流に近い流に遷移した流れが下流側で再び層流に遷移した場合であっても、複数の突起41によって再び乱流に近い流れに遷移させることが出来る為、広い領域において乱流に近い流を形成することが可能であることが挙げられる。
【0058】
このようにして、ステータコラム4の外壁とロータ6の内壁との間隙を流れるパージガスPGが乱流若しくは乱流に近い流れに遷移するとパージガスPGによる対流熱伝達は大幅に改善され、固定翼、回転翼の材料や構造を変更することなく効率の良いロータの放熱が可能になる。
【0059】
なお、図3及び図4に示す実施例においては、突起41として直方体形状の板体からなる突起を用いたが、この突起41としては図5(A)に示すようなパージガスPGの流れ方向に窪んだ断面おわん型の板体からなる突起411、図5(B)に示すようなパージガスPGの流れ方向に膨らんだ断面逆おわん型の板体からなる突起412、図5(C)に示すようなパージガスPGの流れ方向に膨らんだ断面弓型の板体413を用いても同様に構成することができる。
【0060】
また、図3及び図4に示す実施例においては、突起41として複数の突起を形成する構成を示したが、1つの突起41を形成してもある程度のパージガスPGの流れを乱すことができ、パージガスPGによる対流熱伝達を改善することができる。
【実施例2】
【0061】
図6は、本願発明に係る真空ポンプの実施例2の要部拡大図で、図4に示す真空ポンプの要部拡大図に対応する。
【0062】
図6に示す実施例2においては、図4に示した突起41の代わりに、半球状の凸部42を採用して構成される。図6に示す実施例2の真空ポンプにおいては、ステータコラム4の外壁とロータ6の内壁との間隙を流れるパージガスPGは、複数の半球状の凸部42に衝突することにより、その流れが乱れ、その結果、ステータコラム4の外壁とロータ6の内壁との間隙を流れるパージガス流が層流から乱流若しくは乱流に近い流れに遷移する。
【0063】
これにより、実施例2の真空ポンプにおいてもステータコラム4の外壁とロータ6の内壁との間隙を流れるパージガスPGによる対流熱伝達は大幅に改善され、固定翼、回転翼の材料や構造を変更することなく効率の良いロータの放熱が可能になる。
【実施例3】
【0064】
図7は、本願発明に係る真空ポンプの実施例3を示す図である。
【0065】
図7に示す実施例3の真空ポンプにおいては、ステータコラム4の外周面(周面)に複数の溝43を形成して構成される。その他の構成は図1及び図2で説明したものと同一である。
【0066】
図7に示す溝43の形状をステータコラム4の断面図で示すと図8(A)に示すようになる。すなわち、図8(A)に示すように溝43の形状は、ステータコラム4の軸と直交する方向の断面形状は矩形となるように形成されている。この溝43を形成してもステータコラム4の外壁とロータ6の内壁との間隙を流れるパージガス流は、この溝43により乱れ、層流から乱流若しくは乱流に近い流れに遷移する。これによりステータコラム4の外壁とロータ6の内壁との間隙を流れるパージガスPGによる対流熱伝達は大幅に改善され、固定翼、回転翼の材料や構造を変更することなく効率の良いロータの放熱が可能になる。
【0067】
なお、パージガスの所定角度の流れ方向は、上流側と下流側の圧力差によって生じるステータコラム4の軸方向の速度成分と、ロータ6の内周面による流体のドラック効果で生じる回転の接線方向の速度成分の関係によって生じる。
【0068】
図7に示す溝43の形状は、図8(B)に示すようにステータコラム4の軸と直交する方向の断面形状が不活性ガスの流れ方向に沿って立ち上がる傾斜部を有する鋸形形状の溝44を形成するようにしてもよい。この鋸形形状の溝44を形成しても、ステータコラム4の外壁とロータ6の内壁との間隙を流れるパージガス流は、この溝44により乱れ、層流から乱流若しくは乱流に近い流れに遷移する。これによりステータコラム4の外壁とロータ6の内壁との間隙を流れるパージガスPGによる対流熱伝達は大幅に改善され、固定翼、回転翼の材料や構造を変更することなく効率の良いロータの放熱が可能になる。
【0069】
なお、図7に示す実施例3では溝43をステータコラム4の軸方向に沿って形成したが、図9に示すように、ステータコラム4の周面にその軸方向から所定角度傾斜したパージガスPGの流れ方向を妨げる方向に沿って形成した溝45を形成するようにしてもよい。この溝45により、ステータコラム4の外壁とロータ6の内壁との間隙を流れるパージガス流は乱れ、層流から乱流若しくは乱流に近い流れに遷移し、これによりステータコラム4の外壁とロータ6の内壁との間隙を流れるパージガスPGによる対流熱伝達は大幅に改善され、固定翼、回転翼の材料や構造を変更することなく効率の良いロータの放熱が可能になる。
【0070】
ここで、溝45の形状としては、図8(A)に示すようにステータコラム4の軸と直交する方向の断面形状は矩形となるもの若しくは図8(B)に示すようにステータコラム4の軸と直交する方向の断面形状が不活性ガスの流れ方向に沿って立ち上がる傾斜部を有する鋸形となるものを用いることができる。
【実施例4】
【0071】
図10は、本願発明に係る真空ポンプの実施例4の要部拡大図で、図6に示す真空ポンプの要部拡大図に対応する。
【0072】
図6に示した真空ポンプにおいては、ステータコラム4の表面に複数の半球状の凸部42を採用して構成したが、図10に示す実施例4においては、ステータコラム4の表面に複数の半球状の凹部46を採用して構成される。その他の構成は図6で説明したものと同一である。
【0073】
このステータコラム4の表面に複数の半球状の凹部46を形成する構成においても、ステータコラム4の外壁とロータ6の内壁との間隙を流れるパージガス流は乱れ、層流から乱流若しくは乱流に近い流れに遷移し、これによりステータコラム4の外壁とロータ6の内壁との間隙を流れるパージガスPGによる対流熱伝達は大幅に改善され、固定翼、回転翼の材料や構造を変更することなく効率の良いロータの放熱が可能になる。
【0074】
なお、上記実施例においては、パージガスPGの流れを乱す流乱部として、ステータコラム4の周面に複数の突起41、411、412、413、凸部42、溝43、43、44、45、凹部46を形成する構成を説明したが、パージガスPGの流れを乱す流乱部として、上記複数の突起41、411、412、413、凸部42、溝43、43、44、45、凹部46に対応する流乱部をロータ6の内壁に形成するように構成してもよい。
【0075】
このような構成によっても、ステータコラム4の外壁とロータ6の内壁との間隙を流れるパージガス流は乱れ、層流から乱流若しくは乱流に近い流れに遷移し、これによりステータコラム4の外壁とロータ6の内壁との間隙を流れるパージガスPGによる対流熱伝達は大幅に改善され、固定翼、回転翼の材料や構造を変更することなく効率の良いロータの放熱が可能になる。
【0076】
なお、上記実施例ではパージガスPGの流れを乱す流乱部として、ステータコラム4の表面又はロータ6の内周面に複数の突起又は溝等を形成する構成を示したが、ステータコラム4の表面又はロータ6の内周面を表面処理等に粗面化してパージガスPGの流れを乱すように構成してもよい。
【0077】
また、ステータコラム4の表面又はロータ6の内周面に設けられる流乱部は、パージガスPGの流れを乱すものであればどのような形状のものでもよく、その個数及び形成領域も種々のものが採用できる。
【0078】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内であれば、当業者の通常の創作能力によって多くの変形が可能である。
【符号の説明】
【0079】
1 ポンプ外装ケース
1A ポンプケース
1B ポンプベース
1C フランジ
2 ガス吸気口
3 ガス排気口
4 ステータコラム
5 ロータ軸
6 ロータ
7 ボス孔
9 肩部
10 ラジアル磁気軸受
11 アキシャル磁気軸受
13 回転翼ブレード
14 固定翼ブレード
15 ネジ溝排気部ステータ
16 ネジ溝
20 モータ
30 パージガス注入路
41、411、412、413 突起
42 凸部
43、44、45 溝
46 凹部
B1、B2 保護ベアリング
P 真空ポンプ
Pt 翼排気部
Ps ネジ溝排気部
S ネジ溝排気通路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10