(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】ショベル
(51)【国際特許分類】
F15B 21/0427 20190101AFI20240401BHJP
E02F 9/22 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
F15B21/0427
E02F9/22 Z
(21)【出願番号】P 2020059013
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】502246528
【氏名又は名称】住友建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】三崎 陽二
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-043219(JP,A)
【文献】特開2001-019291(JP,A)
【文献】特開平11-117914(JP,A)
【文献】特開2013-139852(JP,A)
【文献】特開2003-239907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 21/0427
E02F 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体と、
前記下部走行体に旋回可能に搭載される上部旋回体と、
前記上部旋回体に搭載される油圧ポンプと、
前記上部旋回体に搭載されるコントロールバルブユニットと、
前記コントロールバルブユニットを構成するバルブハウジング内に形成された油路を流れる作動油の温度上昇率を制御するコントローラと、を有
し、
前記コントローラは、前記油圧ポンプの吸収トルクを増大させることによって温度上昇率を増大させ、且つ、吸収トルクを低減させることによって温度上昇率を低減させながら、作動油の温度上昇率を制御する、
ショベル。
【請求項2】
前記コントローラは、前記バルブハウジング内に形成された油路の温度上昇を抑制する、
請求項1に記載のショベル。
【請求項3】
前記コントローラは、前記バルブハウジング内に形成された油路を流れる作動油の温度の上昇に応じ、前記油圧ポンプの吸収トルクを下げるために、前記油圧ポンプの吐出圧又は吐出量を制御する、
請求項1又は2に記載のショベル。
【請求項4】
前記コントローラは、前記バルブハウジング内に形成された油路を流れる作動油の温度上昇率が所定値を上回る場合に温度を制御する、
請求項1乃至3の何れかに記載のショベル。
【請求項5】
前記コントローラは、前記バルブハウジング内に形成された油路に関するリリーフ圧、前記油圧ポンプの動き、又は、前記油圧ポンプを駆動するエンジンの動きを制限することによって、前記バルブハウジング内に形成された油路を流れる作動油の温度上昇率を制御する、
請求項1乃至4の何れかに記載のショベル。
【請求項6】
前記コントローラは、作動油の温度状態を取得し、前記温度状態が所定の条件を満たす場合に作動油の温度上昇率の制御を開始する、
請求項1乃至5の何れかに記載のショベル。
【請求項7】
前記コントローラは、所定期間の開始時における温度と該所定期間の終了時における温度との差が所定値を上回った場合に、作動油の温度上昇率の制御を開始する、
請求項1乃至6の何れかに記載のショベル。
【請求項8】
前記コントローラは、所定幅の温度変化に要する時間が所定時間を下回った場合に、作動油の温度上昇率の制御を開始する、
請求項1乃至6の何れかに記載のショベル。
【請求項9】
前記コントローラは、前記バルブハウジング内に形成された油路を流れる作動油の温度上昇率が目標値で維持されるようにする、
請求項1乃至8の何れかに記載のショベル。
【請求項10】
前記バルブハウジング内に形成された油路を流れる作動油の温度を検出する油温センサを有し、
前記コントローラは、リリーフ弁を通じた作動油の放出が継続されて暖機作業が行われていると判定した後で、前記油温センサの出力に基づき、所定の温度上昇率を超えないように作動油の温度上昇率を制御する、
請求項1乃至9の何れかに記載のショベル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ショベル(掘削機)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ショベルに搭載されている油圧ポンプが吐出する作動油をリリーフ弁から流出させ、作動油がリリーフ弁を通過する際の摩擦によって作動油を暖める暖機作業が知られている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような暖機作業では、作動油の温度が急上昇してしまい、コントロールバルブユニット内のスプール部がスプール穴に固着してしまうおそれがある。
【0005】
そこで、暖機作業の際にスプール部がスプール穴に固着してしまうのを防止できるショベルを提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態に係るショベルは、下部走行体と、前記下部走行体に旋回可能に搭載される上部旋回体と、前記上部旋回体に搭載される油圧ポンプと、前記上部旋回体に搭載されるコントロールバルブユニットと、前記コントロールバルブユニットを構成するバルブハウジング内に形成された油路を流れる作動油の温度上昇率を制御するコントローラと、を有し、前記コントローラは、前記油圧ポンプの吸収トルクを増大させることによって温度上昇率を増大させ、且つ、吸収トルクを低減させることによって温度上昇率を低減させながら、作動油の温度上昇率を制御する。
【発明の効果】
【0007】
上述の手段により、暖機作業の際にスプール部がスプール穴に固着してしまうのを防止できるショベルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係るショベルの側面図である。
【
図2】
図1に示すショベルに搭載される駆動システムの構成例を示す図である。
【
図3】
図1に示すショベルに搭載される油圧システムの構成例を示す図である。
【
図5】暖機作業が行われているときの作動油の温度の時間的推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は本発明の実施形態に係るショベル100の側面図である。ショベル100の下部走行体1には旋回機構2を介して上部旋回体3が旋回可能に搭載されている。上部旋回体3にはブーム4が取り付けられている。ブーム4の先端にはアーム5が取り付けられている。アーム5の先端にはエンドアタッチメントとしてのバケット6が取り付けられている。
【0010】
ブーム4、アーム5、及びバケット6は、アタッチメントの一例としての掘削アタッチメントを構成している。ブーム4は、ブームシリンダ7により駆動され、アーム5は、アームシリンダ8により駆動され、バケット6は、バケットシリンダ9により駆動される。
【0011】
上部旋回体3には運転室であるキャビン10が設けられ且つエンジン11等の動力源が搭載されている。
【0012】
キャビン10内にはコントローラ30が設置されている。コントローラ30は、ショベル100の駆動制御を行う主制御部として機能するように構成されている。本実施形態では、コントローラ30は、CPU、RAM、及びROM等を含むコンピュータで構成されている。コントローラ30の各種機能は、ROMに格納されたプログラムをCPUが実行することで実現される。
【0013】
図2は、
図1に示すショベル100に搭載される駆動システムの構成例を示すブロック図であり、機械的動力伝達ライン、作動油ライン、パイロットライン、及び電気制御ラインをそれぞれ二重線、実線、破線、及び一点鎖線で示している。
【0014】
ショベル100の駆動システムは、主に、エンジン11、レギュレータ13、メインポンプ14、パイロットポンプ15、コントロールバルブユニット17、操作装置26、吐出圧センサ28、操作圧センサ29、コントローラ30、及び油温センサS1等を含む。
【0015】
エンジン11は、ショベル100の駆動源である。本実施形態では、エンジン11は、例えば、所定の回転数を維持するように動作するディーゼルエンジンである。また、エンジン11の出力軸は、メインポンプ14及びパイロットポンプ15のそれぞれの入力軸に連結されている。
【0016】
メインポンプ14は、作動油ラインを介して作動油をコントロールバルブユニット17に供給するように構成されている。本実施形態では、メインポンプ14は、斜板式可変容量型油圧ポンプである。
【0017】
レギュレータ13は、メインポンプ14の吐出量を制御するように構成されている。本実施形態では、レギュレータ13は、コントローラ30からの制御指令に応じてメインポンプ14の斜板傾転角を調節することによってメインポンプ14の吐出量(押し退け容積)を制御する。
【0018】
パイロットポンプ15は、パイロットラインを介して操作装置26を含む各種油圧制御機器に作動油を供給するように構成されている。本実施形態では、パイロットポンプ15は、固定容量型油圧ポンプである。但し、パイロットポンプ15は、省略されてもよい。この場合、パイロットポンプ15が担っていた機能は、メインポンプ14によって実現されてもよい。すなわち、メインポンプ14は、コントロールバルブユニット17に作動油を供給する機能とは別に、絞り等により作動油の圧力を低下させた後で操作装置26等に作動油を供給する機能を備えていてもよい。
【0019】
コントロールバルブユニット17は、メインポンプ14から受け入れた作動油を1又は複数の油圧アクチュエータに選択的に供給できるように構成されている。本実施形態では、コントロールバルブユニット17は、バルブハウジング17Hと、バルブハウジング17H内に摺動可能に配置される制御弁170~176を含む。コントロールバルブユニット17は、制御弁170~176を通じ、メインポンプ14が吐出する作動油を1又は複数の油圧アクチュエータに選択的に供給できる。制御弁170~176は、メインポンプ14から油圧アクチュエータに流れる作動油の流量、及び、油圧アクチュエータから作動油タンクに流れる作動油の流量を制御するように構成されている。油圧アクチュエータは、走行用油圧モータ1M、旋回用油圧モータ2A、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9を含む。走行用油圧モータ1Mは、左走行用油圧モータ1ML及び右走行用油圧モータ1MRを含む。
【0020】
操作装置26は、操作者が油圧アクチュエータの操作のために用いる装置である。本実施形態では、操作装置26は、パイロットラインを介して、パイロットポンプ15が吐出する作動油を油圧アクチュエータのそれぞれに対応する制御弁のパイロットポートに供給する。パイロットポートのそれぞれに供給される作動油の圧力(パイロット圧)は、油圧アクチュエータのそれぞれに対応する操作装置26の操作方向及び操作量に応じた圧力である。但し、操作装置26は、このようなパイロット圧制御式の操作装置ではなく、電気制御式の操作装置であってもよい。
【0021】
吐出圧センサ28は、メインポンプ14の吐出圧を検出するように構成されている。本実施形態では、吐出圧センサ28は、検出した値をコントローラ30に対して出力する。
【0022】
操作圧センサ29は、操作装置26の操作内容を検出するように構成されている。本実施形態では、操作圧センサ29は、油圧アクチュエータのそれぞれに対応する操作装置26の操作方向及び操作量を圧力(操作圧)の形で検出し、検出した値をコントローラ30に対して出力する。操作装置26の操作内容は、操作レバーの傾斜角を検出する角度センサ等の操作圧センサ以外の他のセンサを用いて検出されてもよい。
【0023】
油温センサS1は、作動油の温度を検出できるように構成されている。
図2に示す例では、油温センサS1は、メインポンプ14に関する吸い込み油路である油路41に取り付けられ、メインポンプ14が作動油タンクから吸い込む作動油の温度を検出できるように構成されている。そして、油温センサS1は、検出した値をコントローラ30に対して出力するように構成されている。但し、油温センサS1は、別の油路に取り付けられていてもよい。
【0024】
次に、
図3を参照し、ショベル100に搭載される油圧システムの構成例について説明する。
図3は、
図1に示すショベル100に搭載される油圧システムの構成例を示す概略図である。
図3は、
図2と同様に、作動油ライン、パイロットライン、及び電気制御ラインを、それぞれ、実線、点線、及び一点鎖線で示している。
【0025】
図3に示す油圧システムは、エンジン11によって駆動されるメインポンプ14から、油路40、油路42、又は油路43を経て作動油タンクまで作動油を循環させている。メインポンプ14は、左メインポンプ14L及び右メインポンプ14Rを含む。
【0026】
油路40は、コントロールバルブユニット17内に配置された複数の制御弁のそれぞれを貫通する作動油ラインであり、左油路40L及び右油路40Rを含む。左油路40Lは、コントロールバルブユニット17内に配置された制御弁171L、172、173、175L、及び176Lのそれぞれを貫通する作動油ラインである。右油路40Rは、コントロールバルブユニット17内に配置された制御弁170、171R、174、175R、及び176Rのそれぞれを貫通する作動油ラインである。
【0027】
油路41は、メインポンプ14の吸い込み油路であり、左メインポンプ14Lに関する吸い込み油路である左油路41L、及び、右メインポンプ14Rに関する吸い込み油路である右油路41Rを含む。
図3に示す例では、油温センサS1は、左油路41Lに取り付けられている。但し、油温センサS1は、右油路41Rに取り付けられていてもよい。また、油温センサS1は、メインポンプ14の上流側にある油路41ではなく、油路40、油路42、又は油路43等の、メインポンプ14の下流側にある別の油路に取り付けられていてもよい。また、油温センサS1は、作動油タンクに取り付けられていてもよい。
【0028】
油路42は、コントロールバルブユニット17内に配置された複数の制御弁のそれぞれをメインポンプ14と作動油タンクとの間で並列に接続する作動油ラインであり、左油路42L及び右油路42Rを含む。左油路42Lは、コントロールバルブユニット17内に配置された制御弁171L、172、173、175L、及び176Lのそれぞれを左メインポンプ14Lと作動油タンクとの間で並列に接続する作動油ラインである。右油路42Rは、コントロールバルブユニット17内に配置された制御弁170、171R、174、175R、及び176Rのそれぞれを右メインポンプ14Rと作動油タンクとの間で並列に接続する作動油ラインである。
【0029】
油路43は、メインポンプ14の吐出圧が所定圧に達したときに作動油を作動油タンクに放出するための作動油ラインであり、中央油路43C、左油路43L、及び右油路43Rを含む。左油路43Lは、左油路42Lと中央油路43Cとを繋ぐ作動油ラインであり、右油路43Rは、右油路42Rと中央油路43Cとを繋ぐ作動油ラインである。
【0030】
制御弁170は、走行直進弁として機能するスプール弁である。制御弁170は、下部走行体1の直進性を高めるべくメインポンプ14から走行用油圧モータ1Mに適切に作動油が供給されるように作動油の流れを切り換えるように構成されている。具体的には、走行用油圧モータ1Mと他の何れかの油圧アクチュエータとが同時に操作されている場合、左メインポンプ14Lが左走行用油圧モータ1ML及び右走行用油圧モータ1MRの双方に作動油を供給できるように制御弁170は切り換えられる。他の油圧アクチュエータが何れも操作されていない場合には、左メインポンプ14Lが左走行用油圧モータ1MLに作動油を供給でき、且つ、右メインポンプ14Rが右走行用油圧モータ1MRに作動油を供給できるように、制御弁170は切り換えられる。
【0031】
制御弁171は、メインポンプ14が吐出する作動油を走行用油圧モータ1Mへ供給し、且つ、走行用油圧モータ1Mが吐出する作動油を作動油タンクへ排出するために作動油の流れを切り換えることができるように構成されている。
図3に示す例では、制御弁171は、制御弁171L及び制御弁171Rを含む。制御弁171Lは、左メインポンプ14Lが吐出する作動油を左走行用油圧モータ1MLへ供給し、且つ、左走行用油圧モータ1MLが吐出する作動油を作動油タンクへ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。制御弁171Rは、左メインポンプ14L又は右メインポンプ14Rが吐出する作動油を右走行用油圧モータ1MRへ供給し、且つ、右走行用油圧モータ1MRが吐出する作動油を作動油タンクへ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。
【0032】
制御弁172は、メインポンプ14が吐出する作動油をエンドアタッチメント駆動用の油圧アクチュエータ(図示せず。)へ供給し、且つ、エンドアタッチメント駆動用の油圧アクチュエータが吐出する作動油を作動油タンクへ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。エンドアタッチメント駆動用の油圧アクチュエータは、例えば、グラップル、ブレーカ、又はカッタ等のエンドアタッチメントを駆動するための油圧シリンダである。
【0033】
制御弁173は、メインポンプ14が吐出する作動油を旋回用油圧モータ2Aへ供給し、且つ、旋回用油圧モータ2Aが吐出する作動油を作動油タンクへ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。
【0034】
制御弁174は、右メインポンプ14Rが吐出する作動油をバケットシリンダ9へ供給し、且つ、バケットシリンダ9内の作動油を作動油タンクへ排出するためのスプール弁である。
【0035】
制御弁175は、メインポンプ14が吐出する作動油をブームシリンダ7へ供給し、且つ、ブームシリンダ7内の作動油を作動油タンクへ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。
図3に示す例では、制御弁175は、制御弁175L及び制御弁175Rを含む。制御弁175Lは、左メインポンプ14L又は右メインポンプ14Rが吐出する作動油をブームシリンダ7のボトム側油室へ供給するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。制御弁175Rは、右メインポンプ14Rが吐出する作動油をブームシリンダ7へ供給し、且つ、ブームシリンダ7内の作動油を作動油タンクへ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。
【0036】
制御弁176は、メインポンプ14が吐出する作動油をアームシリンダ8へ供給し、且つ、アームシリンダ8内の作動油を作動油タンクへ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。
図3に示す例では、制御弁176は、制御弁176L及び制御弁176Rを含む。制御弁176Lは、左メインポンプ14L又は右メインポンプ14Rが吐出する作動油をアームシリンダ8へ供給し、且つ、アームシリンダ8内の作動油を作動油タンクへ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。制御弁176Rは、右メインポンプ14Rが吐出する作動油をアームシリンダ8へ供給し、且つ、アームシリンダ8内の作動油を作動油タンクへ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。
【0037】
図3は、コントロールバルブユニット17を構成するバルブハウジング17Hの範囲を点線で示している。すなわち、
図3は、制御弁170~176、油路40、油路42、油路43、及びリリーフ弁50等がバルブハウジング17H内に配置されていることを示している。但し、
図3に示すバルブハウジング17Hの範囲は、バルブハウジング17Hの実際の形状を表すものではない。バルブハウジング17Hは、典型的には、略直方体形状を有する。また、
図3に示す、バルブハウジング17H内における各油路は、接続関係を表すのみであり、実際の油路の経路を表すものではない。
【0038】
レギュレータ13は、メインポンプ14の斜板傾転角を調節することによって、メインポンプ14の吐出量(押し退け容積)を制御する。
図3に示す例では、レギュレータ13は、左レギュレータ13L及び右レギュレータ13Rを含む。コントローラ30は、例えば、左メインポンプ14Lの吐出圧の増大に応じて左メインポンプ14Lの斜板傾転角を左レギュレータ13Lで調節して左メインポンプ14Lの吐出量を減少させる。右メインポンプの吐出量についても同様である。吐出圧と吐出量との積で表されるメインポンプ14の吸収パワー(吸収馬力)がエンジン11の出力パワー(出力馬力)を超えないようにするためである。
【0039】
左操作レバー26Lは、操作装置26の1つであり、旋回用油圧モータ2A及びアームシリンダ8を操作するために用いられる。具体的には、操作者は、左操作レバー26Lを前後方向に操作することでアームシリンダ8を伸縮させることができ、左操作レバー26Lを左右方向に操作することで旋回用油圧モータ2Aを回転させることができる。
【0040】
左操作レバー26Lは、前後方向に操作された場合、パイロットポンプ15が吐出する作動油を利用し、レバー操作量に応じたパイロット圧を制御弁176のパイロットポートに作用させる。具体的には、左操作レバー26Lは、アーム閉じ方向(後方)に操作された場合に、制御弁176Lの右側パイロットポートに作動油を導入させ、且つ、制御弁176Rの右側パイロットポートに作動油を導入させる。また、左操作レバー26Lは、アーム開き方向(前方)に操作された場合には、制御弁176Lの左側パイロットポートに作動油を導入させ、且つ、制御弁176Rの左側パイロットポートに作動油を導入させる。左右方向に操作された場合についても同様である。
【0041】
右操作レバー26Rは、操作装置26の1つであり、ブームシリンダ7及びバケットシリンダ9を操作するために用いられる。具体的には、操作者は、右操作レバー26Rを前後方向に操作することでブームシリンダ7を伸縮させることができ、右操作レバー26Rを左右方向に操作することでバケットシリンダ9を伸縮させることができる。
【0042】
右操作レバー26Rは、前後方向に操作された場合、パイロットポンプ15が吐出する作動油を利用し、レバー操作量に応じたパイロット圧を制御弁175のパイロットポートに作用させる。具体的には、右操作レバー26Rは、ブーム上げ方向(後方)に操作された場合に、制御弁175Lの右側パイロットポートに作動油を導入させ、且つ、制御弁175Rの左側パイロットポートに作動油を導入させる。また、右操作レバー26Rは、ブーム下げ方向(前方)に操作された場合には、制御弁175Lの左側パイロットポートに作動油を導入させ、且つ、制御弁175Rの右側パイロットポートに作動油を導入させる。左右方向に操作された場合についても同様である。
【0043】
吐出圧センサ28は、メインポンプ14の吐出圧を検出し、検出した値をコントローラ30に対して出力する。
図3に示す例では、吐出圧センサ28は、左吐出圧センサ28L及び右吐出圧センサ28Rを含む。左吐出圧センサ28Lは、左メインポンプ14Lの吐出圧を検出し、検出した値をコントローラ30に対して出力する。右吐出圧センサ28Rは、右メインポンプ14Rの吐出圧を検出し、検出した値をコントローラ30に対して出力する。
【0044】
操作圧センサ29は、操作装置26に対する操作者の操作内容を圧力の形で検出し、検出した値をコントローラ30に対して出力する。
図3に示す例では、操作圧センサ29は、左操作圧センサ29L及び右操作圧センサ29Rを含む。左操作圧センサ29Lは、左操作レバー26Lに対する操作者の操作内容を圧力の形で検出し、検出した値をコントローラ30に対して出力する。右操作圧センサ29Rは、右操作レバー26Rに対する操作者の操作内容を圧力の形で検出し、検出した値をコントローラ30に対して出力する。操作内容は、例えば、レバー操作方向及びレバー操作量(レバー操作角度)等である。
【0045】
走行操作装置(図示せず。)は、下部走行体1を走行させるための操作装置である。走行操作装置は、典型的には、左走行レバー、右走行レバー、左走行ペダル、及び右走行ペダルを含む。走行操作装置は、左操作レバー26L及び右操作レバー26Rと同様に、パイロットポンプ15が吐出する作動油を利用し、レバー操作量又はペダル操作量に応じたパイロット圧を制御弁171のパイロットポートに作用させる。走行操作装置に対する操作者の操作内容は、対応する操作圧センサによって圧力の形で検出され、検出値がコントローラ30に対して出力される。
【0046】
コントローラ30は、吐出圧センサ28及び操作圧センサ29等の出力を受信し、必要に応じてレギュレータ13に対して制御指令を出力し、メインポンプ14の吐出量を変化させるように構成されている。
【0047】
次に、
図3に示す油圧システムで採用されるネガティブコントロール制御について説明する。油路40には、最も下流にある制御弁176と作動油タンクとの間に絞り18が配置されている。制御弁176を通過して作動油タンクに至る作動油の流れは、絞り18で制限される。そして、絞り18は、レギュレータ13を制御するための制御圧、すなわち、メインポンプ14の吐出量を制御するための制御圧を発生させる。なお、絞り18を通過する作動油の流量は、「ブリード流量」と称される。制御圧センサ19は、制御圧を検出するためのセンサであり、検出した値をコントローラ30に対して出力する。
【0048】
図3に示す例では、絞り18は、開口面積が変化しない固定絞りであり、左油路40Lにおいて、制御弁176Lと作動油タンクとの間に配置される左絞り18Lと、右油路40Rにおいて、制御弁176Rと作動油タンクとの間に配置される右絞り18Rとを含む。制御圧センサ19は、左絞り18Lが発生させた制御圧を検出する左制御圧センサ19Lと、右絞り18Rが発生させた制御圧を検出する右制御圧センサ19Rとを含む。
【0049】
コントローラ30は、制御圧に応じてメインポンプ14の斜板傾転角を調節することによって、メインポンプ14の吐出量を制御する。以下では、制御圧とメインポンプ14の吐出量との関係を「ネガティブコントロール特性」と称する。ネガティブコントロール特性に基づく吐出量の制御は、例えば、ROM等に記憶されている参照テーブルを利用することで実現されてもよく、所定の計算式を利用することで実現されてもよい。コントローラ30は、例えば、所定のネガティブコントロール特性を表す参照テーブルを参照し、制御圧が大きいほどメインポンプ14の吐出量を減少させ、制御圧が小さいほどメインポンプ14の吐出量を増大させる。
【0050】
具体的には、
図3に示すような、操作装置26が何れも操作されておらず油圧アクチュエータが何れも動作していない場合、すなわち、油圧システムが待機状態にある場合、左メインポンプ14Lが吐出する作動油は、制御弁176Lを通って左絞り18Lに至る。そして、左絞り18Lに至る作動油の流量が所定流量以上であれば、左絞り18Lの上流で発生する制御圧は所定圧に達する。制御圧が所定圧に達すると、コントローラ30は、左メインポンプ14Lの吐出量を所定の許容最小吐出量まで減少させ、吐出された作動油が左油路40Lを通過する際の圧力損失(ポンピングロス)を抑制する。待機状態におけるこの所定の許容最小吐出量は、「スタンバイ流量」と称される。コントローラ30は、右メインポンプ14Rの吐出量も同様に制御する。
【0051】
一方、左走行用油圧モータ1ML、エンドアタッチメント駆動用の油圧アクチュエータ、旋回用油圧モータ2A、ブームシリンダ7、及びアームシリンダ8のうちの何れかの油圧アクチュエータが操作された場合、左メインポンプ14Lが吐出する作動油は、操作対象の油圧アクチュエータに対応する制御弁を通って操作対象の油圧アクチュエータに流れ込む。そのため、制御弁176Lを通って左絞り18Lに至る作動油の流量は減少し、左絞り18Lの上流で発生する制御圧は低下する。その結果、コントローラ30は、左メインポンプ14Lの吐出量を増大させ、操作対象の油圧アクチュエータに十分な作動油を供給し、操作対象の油圧アクチュエータの駆動を確かなものとする。コントローラ30は、右メインポンプ14Rの吐出量も同様に制御する。なお、以下では、油圧アクチュエータに流れ込む作動油の流量は、「アクチュエータ流量」と称される。この場合、左メインポンプ14Lが吐出する作動油の流量は、左油路40Lに関するアクチュエータ流量と左油路40Lに関するブリード流量の合計に相当する。右メインポンプ14Rが吐出する作動油の流量についても同様である。
【0052】
上述のような構成により、
図3に示す油圧システムは、油圧アクチュエータを作動させる場合には、メインポンプ14から必要十分な作動油を作動対象の油圧アクチュエータに確実に供給できる。また、待機状態においては、
図3に示す油圧システムは、油圧エネルギの無駄な消費を抑制できる。ブリード流量をスタンバイ流量まで低減させることができるためである。
【0053】
リリーフ弁50は、油路40における作動油の圧力が所定のリリーフ圧を超えたときに作動油を作動油タンクに放出するように構成されている。油路40における作動油の圧力の過度の上昇は、油圧システムを構成する油圧機器又は構造物の破損をもたらすおそれがあるためである。
図3に示す例では、リリーフ弁50は、油路40と作動油タンクとを繋ぐ油路43に配置されている。また、油路43にはチェック弁51が配置されている。なお、
図3に示す例では、リリーフ弁50は、リリーフ圧が固定的に設定されている固定リリーフ弁であるが、リリーフ圧が可変である可変リリーフ弁であってもよい。
【0054】
チェック弁51は、油路43から油路40への作動油の流れを止めるように構成されている。
図3に示す例では、チェック弁51は、左油路43Lから左油路40Lへの作動油の流れを止める左チェック弁51Lと、右油路43Rから右油路40Rへの作動油の流れを止める右チェック弁51Rとを含む。
【0055】
図3に示す例では、リリーフ弁50は、中央油路43Cに配置され、左チェック弁51Lは、左油路43Lに配置され、右チェック弁51Rは、右油路43Rに配置されている。
【0056】
このように、
図3に示す油圧システムは、1つのリリーフ弁50により、左油路40L及び右油路40Rのそれぞれにおける作動油を作動油タンクに放出できるように構成されている。但し、
図3に示す油圧システムは、左油路40Lにおける作動油を作動油タンクに放出するための左リリーフ弁と、右油路40Rにおける作動油を作動油タンクに放出するための右リリーフ弁とを別々に備えていてもよい。この場合、左リリーフ弁は、左油路40Lと作動油タンクとを繋ぐ油路に配置され、右リリーフ弁は、右油路40Rと作動油タンクとを繋ぐ油路に配置される。
【0057】
次に、ショベル100で実行される暖機作業について説明する。暖機作業は、コントロールバルブユニット17を循環する作動油の温度を上昇させるための作業である。典型的には、ショベル100の操作者は、寒冷地でショベル100を始動させたときにこの暖機作業を実行する。作動油の温度の上昇は、例えば、リリーフ弁50から作動油を放出することによって実現される。典型的には、操作者は、右操作レバー26Rを左方向に倒してバケット6を閉じ、更に、バケット6が完全に閉じた後も、右操作レバー26Rを左方向に倒し続ける。すなわち、操作者は、バケットシリンダ9が最大限に伸長した後も、バケットシリンダ9のボトム側油室に向けて作動油を供給し続ける。この場合、右メインポンプ14Rが吐出する作動油は、バケット6が完全に閉じられるまでは、制御弁174を介してバケットシリンダ9のボトム側油室に流入するが、バケット6が完全に閉じられた後は、バケットシリンダ9のボトム側油室に流入できず、右油路40R内の作動油の圧力を上昇させる。そして、右油路40R内の作動油の圧力がリリーフ弁50のリリーフ圧を上回るとリリーフ弁50が開き、右メインポンプ14Rが吐出する作動油は、右油路43R、右チェック弁51R、リリーフ弁50、及び中央油路43Cを通じて作動油タンクに放出される。その結果、右メインポンプ14Rが吐出する作動油は、リリーフ弁50を通過する際の摩擦によって加熱される。この放出が継続されると、作動油タンク内の作動油の温度は上昇する。
【0058】
このように、操作者は、典型的には、バケット閉じ操作を継続させることによって暖機作業を実行するが、バケット開き操作、アーム閉じ操作、又はアーム開き操作等を継続させることによって暖機作業を実行してもよい。
【0059】
操作者は、キャビン10内に設置されている表示装置に表示された作動油の温度に関する情報を見ながら、作動油の温度が所望の温度に達したか否かを判断できる。コントローラ30は、油温センサS1から取得した作動油の温度に関する情報を表示装置に表示させるように構成されている。操作者は、作動油の温度が所望の温度に達したと判断すると、右操作レバー26Rを中立位置に戻し、リリーフ弁50を通じた作動油の放出を停止させることで、暖機作業を終了させる。
【0060】
しかしながら、この暖機作業では、右メインポンプ14Rが吐出する作動油は、右油路43R及び中央油路43Cを通過するのみである。そのため、作動油タンク内の作動油の温度が所望の温度まで上昇した時点では、コントロールバルブユニット17は、右油路43R及び中央油路43Cに近い部分では暖まっているが、右油路43R及び中央油路43Cから遠い部分では冷えたままである。この傾向は、作動油タンク内の作動油の温度が所望の温度まで上昇するのに要した時間が短いほど顕著である。
【0061】
コントロールバルブユニット17の一部のみが局所的に暖まっているこのような状態のときに、作動油が十分に暖まったとしてショベル100の通常動作が開始されてしまうと、コントロールバルブユニット17における冷たい部分に高温の作動油が供給され、ショベル100の動きが不安定になってしまうおそれがある。例えば、ブーム4を上昇させるために操作者が右操作レバー26Rを後方に傾けると、高温の作動油が制御弁175に接触して制御弁175のスプール部が熱膨張し、コントロールバルブユニット17のバルブハウジング17H内に形成されているスプール穴にそのスプール部が固着してしまうおそれがある。この場合、ブーム4は、右操作レバー26Rが中立位置に戻されたとしても、スプール部が中立弁位置に戻らないため、上昇し続けてしまうおそれがある。
【0062】
この問題は、スプール部の熱容量(サイズ)とバルブハウジング17Hの熱容量(サイズ)との違いに起因するものと考えられる。すなわち、この問題は、スプール部の熱容量がバルブハウジング17Hの熱容量よりも顕著に小さいため、スプール部の熱膨張がスプール穴の熱膨張よりも速く進行することによって引き起こされると考えられる。
【0063】
そこで、本発明の実施形態に係るショベル100は、暖機作業中にコントロールバルブユニット17におけるより広い部分が暖まるようにすることで、ショベル100の動きが不安定になるといった問題が発生するのを抑制できるように構成されている。
【0064】
本実施形態では、ショベル100は、暖機作業が行われているときの作動油の温度を監視し、作動油の温度の上昇率が所定値を上回った場合に、その上昇率を下げるようにする。すなわち、ショベル100は、作動油タンク内の作動油の温度が所望の温度に達するまでに要する時間を長くすることで、上述のような問題の発生を抑制する。暖機作業が行われる時間が延長されると、バルブハウジング17Hのうちの右油路43R及び中央油路43Cに近い部分の熱が熱伝導によってバルブハウジング17Hの他の部分におけるより広い範囲に伝わるためである。
【0065】
ここで、
図4を参照し、暖機作業が行われているときにコントローラ30が作動油の温度の上昇を抑制する処理(以下、「温度抑制処理」とする。)について説明する。
図4は、温度抑制処理のフローチャートである。
図4に示す例では、コントローラ30は、暖機作業が行われているときに、所定の制御周期で繰り返しこの温度抑制処理を実行し、その後に暖機作業が停止されたときに温度抑制処理の実行を停止するように構成されている。そして、コントローラ30は、操作圧センサ29及び油温センサS1等の出力に基づいて暖機作業が行われているか否かを判定している。具体的には、コントローラ30は、所定時間にわたって右操作レバー26Rがバケット閉じ方向に継続的に操作されていることを検知し、且つ、作動油の温度が所定温度以下であることを検知した場合に、暖機作業が行われていると判定する。なお、コントローラ30は、操作圧センサ29の出力に基づき、右操作レバー26Rがバケット閉じ方向に操作されているか否かを検出できる。また、操作装置26が電気制御式である場合、コントローラ30は、操作装置26が出力する電気信号に基づき、右操作レバー26Rがバケット閉じ方向に操作されているか否かを検出できる。
【0066】
最初に、コントローラ30は、作動油の温度上昇率ΔTが所定値αを上回っているか否かを判定する(ステップST1)。
図4に示す例では、作動油の温度上昇率ΔTは、前回の温度抑制処理でコントローラ30が取得した作動油の温度と、今回の温度抑制処理でコントローラ30が取得した作動油の温度との差である。油温センサS1は、検出した値を所定の制御周期毎にコントローラ30に対して出力するように構成されている。なお、コントローラ30は、前々回以前の温度抑制処理で取得した作動油の温度と、今回の温度抑制処理で取得した作動油の温度との差を作動油の温度上昇率ΔTとしてもよい。
【0067】
その後、コントローラ30は、温度上昇率ΔTが所定値αを上回っていると判定した場合(ステップST1のYES)、温度抑制機能を実行する(ステップST2)。一方で、コントローラ30は、温度上昇率ΔTが所定値αを上回っていないと判定した場合には(ステップST1のNO)、温度抑制機能を実行することなく、今回の温度抑制処理を終了させる。
【0068】
温度抑制機能は、油路43を流れる作動油の過度な温度上昇を抑制する機能である。
図4に示す例では、コントローラ30は、メインポンプ14が消費するトルクである吸収トルクを下げることによって作動油の過度な温度上昇を抑制するように構成されている。メインポンプ14の吸収トルクは、典型的には、メインポンプ14の吐出量と吐出圧の積で表される。そのため、コントローラ30は、メインポンプ14の吐出量及び吐出圧の少なくとも一方を下げることでメインポンプ14の吸収トルクを下げることができる。
【0069】
図4に示す例では、コントローラ30は、レギュレータ13に制御指令を出力し、メインポンプ14の1回転当たりの吐出量(押し退け容積)を下げることによってメインポンプ14の吸収トルクを下げる。
【0070】
コントローラ30は、メインポンプ14の吸収トルクの上限を設定するように構成されていてもよい。この場合、メインポンプ14の吐出量は、メインポンプ14の吸収トルクが設定された上限値で維持されるよう、吐出圧が増加したときに低減され、吐出圧が低下したときに増大される。
【0071】
或いは、コントローラ30は、エンジン11の単位時間当たりの回転数を下げてメインポンプ14の単位時間当たりの回転数を下げてもよい。すなわち、コントローラ30は、メインポンプ14による単位時間当たりの吐出量を下げることによってメインポンプ14の単位時間当たりの吸収トルクを下げてもよい。
【0072】
或いは、リリーフ弁50として可変リリーフ弁が採用されている場合、コントローラ30は、リリーフ弁50に制御指令を出力し、リリーフ圧を下げることによってメインポンプ14の吸収トルクを下げてもよい。メインポンプ14の吐出圧は、リリーフ弁50のリリーフ圧が小さいほど小さくなるためである。
【0073】
或いは、コントローラ30は、メインポンプ14の吸収トルクを下げるための上述の方法の2つ以上を同時に実行してもよい。
【0074】
なお、コントローラ30は、典型的には、暖機作業が停止されたときに温度抑制機能を停止させるように構成されている。言い換えれば、コントローラ30は、暖機作業が継続される限り、温度抑制機能を継続的に実行するように構成されている。但し、コントローラ30は、暖機作業が継続されている場合であっても、所定の終了条件が満たされた場合に温度抑制機能を停止させるように構成されていてもよい。所定の終了条件は、例えば、作動油の温度が所定の温度に達したことである。
【0075】
ここで、
図5を参照し、温度抑制機能による効果について説明する。
図5は、暖機作業が行われているときの作動油の温度の時間的推移の一例を示す。また、
図5は、温度抑制機能が実行されたときの作動油の温度の時間的推移を実線で示し、温度抑制機能が実行されないときの作動油の温度の時間的推移を点線で示す。
【0076】
図5に示すように、時刻t1において暖機作業が開始されると、作動油の温度は上昇し始める。
【0077】
本実施形態では、コントローラ30は、時刻t1から所定期間Δtが経過したときの時刻t2において、時刻t1での作動油の温度K1と時刻t2での作動油の温度K2との差を温度上昇率ΔTとして算出する。すなわち、コントローラ30は、所定期間Δtの開始時における温度K1と所定期間Δtの終了時における温度K2との差を温度上昇率ΔTとして算出する。そして、コントローラ30は、作動油の温度状態が所定の条件を満たしていると判定すると、すなわち、温度上昇率ΔTが所定値αを上回っていると判定すると、温度上昇率を下げるように構成されている。
【0078】
或いは、コントローラ30は、時刻t1での作動油の温度K1から所定の温度だけ上昇するのに要した時間が所定時間を下回っていると判定したときに、温度上昇率を下げるように構成されていてもよい。すなわち、コントローラ30は、作動油の温度状態が所定の条件を満たしていると判定すると、すなわち、所定幅の温度変化に要する時間が所定時間を下回っていると判定すると、温度上昇率を下げるように構成されていてもよい。
【0079】
具体的には、コントローラ30は、例えば、温度上昇率の目標値に基づいてメインポンプ14の吸収トルクを制御してもよい。より具体的には、コントローラ30は、温度上昇率が目標値で維持されるように吸収トルクを増減させてもよい。典型的には、コントローラ30は、吸収トルクを増大させることによって温度上昇率を増大させ、吸収トルクを低減させることによって温度上昇率を低減させることができる。なお、温度上昇率の目標値は、予め設定された値であってもよく、動的に算出される値であってもよい。
【0080】
温度抑制機能が実行されない場合、作動油の温度は、
図5の点線で示すように上昇し、時刻t3において温度Kthに達する。温度Kthは、暖機作業を終了させる目安となる温度である。暖機作業を行う操作者は、典型的には、表示装置に表示された作動油の温度に関する情報を見ることにより、作動油の温度が温度Kthに達したことを認識すると暖機作業を終了させる。
【0081】
温度抑制機能が実行される場合、作動油の温度は、
図5の実線で示すように、温度抑制機能が実行されない場合に比べて緩やかに上昇するため、時刻t3では温度Kthに達することはない。具体的には、時刻t2と時刻t3との間における、実線の傾きが点線の傾きよりも小さいことから明らかなように、
図5に示す例では、作動油の温度は、時刻t3よりも時間ΔDだけ遅い時刻t4において温度Kthに達する。暖機作業を行う操作者は、時刻t3で暖機作業を終了させることなく、時刻t4まで暖機作業を継続する。
【0082】
そのため、作動油の温度が温度Kthに達したときの、バルブハウジング17Hにおける、油路43から遠い部分の温度は、温度抑制機能が実行されない場合に比べて高くなる。バルブハウジング17Hと高温の作動油とが接している時間が長くなり、油路43に近い部分の熱が熱伝導によって油路43から遠い部分に伝わるためである。
【0083】
このように、コントローラ30は、温度抑制機能を実行することで、作動油の温度が温度Kthに達したときのバルブハウジング17Hの平均温度を高くすることができる。そのため、コントローラ30は、暖機作業が終了した直後にショベル100の通常動作が開始されたとしても、ショベル100の動きが不安定になってしまうのを抑制できる。コントローラ30は、温度抑制機能を実行しない場合に比べ、バルブハウジング17Hのより広い部分を暖めることができるためである。具体的には、コントローラ30は、例えば、バルブハウジング17Hに形成されたスプール穴に制御弁のスプール部が固着してしまうのを抑制できる。スプール部の熱膨張が発生するときのバルブハウジング17H(スプール部に対応するスプール穴が形成された部分)の温度を前もって高めておくことができるためである。すなわち、スプール部の熱膨張が発生するときには、バルブハウジング17H(スプール部に対応するスプール穴が形成された部分)においてもある程度の熱膨張が既に発生しているためである。
【0084】
上述の構成により、コントローラ30は、温度抑制機能を実行しない場合に比べ、暖機作業の際にバルブハウジング17Hのより広い部分を暖めることができる。そのため、コントローラ30は、スプール部とスプール穴との間のクリアランスを広くするといった対策が取られるまでもなく、スプール穴とスプール部との固着に起因してショベル100の動きが不安定になってしまうのを抑制できる。すなわち、コントローラ30は、スプール部とスプール穴との間の隙間から作動油が漏れることに起因する問題を引き起こすことなく、ショベル100の動きが不安定になってしまうのを抑制できる。なお、スプール部とスプール穴との間の隙間から作動油が漏れることに起因する問題は、例えば、ブーム上げ動作の開始時にブームが下がる問題、燃費が悪化する問題、又は、操作していない油圧シリンダが動く問題等である。
【0085】
上述のように、本発明の実施形態に係るショベル100は、下部走行体1と、下部走行体1に旋回可能に搭載される上部旋回体3と、上部旋回体3に搭載される油圧ポンプとしてのメインポンプ14と、上部旋回体3に搭載されるコントロールバルブユニット17と、コントロールバルブユニット17を構成するバルブハウジング17H内に形成された油路43を流れる作動油の温度上昇率を制御するコントローラ30と、を有する。コントローラ30は、バルブハウジング17H内に形成された油路43を流れる作動油の温度上昇ではなく、バルブハウジング17H内に形成された油路43の温度上昇を抑制するように構成されていてもよい。この構成により、ショベル100は、暖機作業の際にバルブハウジング17Hのより広い部分を暖めることができる。
【0086】
コントローラ30は、望ましくは、バルブハウジング17H内に形成された油路43を流れる作動油の温度の上昇に応じ、メインポンプ14の吸収トルクを下げるために、メインポンプ14の吐出圧又は吐出量を制御する。この構成により、コントローラ30は、メインポンプ14の吸収トルクを簡易に且つ確実に下げることができ、バルブハウジング17H内に形成された油路43を流れる作動油の温度上昇を抑制することができる。
【0087】
コントローラ30は、望ましくは、バルブハウジング17H内に形成された油路43を流れる作動油の温度上昇率が所定値を上回る場合に温度を制御するように構成されている。この構成により、コントローラ30は、温度上昇率が過度に抑制されてしまうのを防止でき、暖機作業に要する時間が過度に延長されてしまうのを防止できる。
【0088】
コントローラ30は、バルブハウジング17H内に形成された油路43に関するリリーフ圧、メインポンプ14の動き、又は、メインポンプ14を駆動するエンジン11の動きを制限することによって、バルブハウジング17H内に形成された油路43を流れる作動油の温度上昇率を制御するように構成されていてもよい。
【0089】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳説した。しかしながら、本発明は、上述した実施形態に制限されることはない。上述した実施形態は、本発明の範囲を逸脱することなしに、種々の変形又は置換等が適用され得る。また、別々に説明された特徴は、技術的な矛盾が生じない限り、組み合わせが可能である。
【0090】
例えば、上述の実施形態では、コントローラ30は、メインポンプ14に関する吸い込み油路である油路41に取り付けられた油温センサS1の出力に基づいて作動油の温度上昇率を制御するように構成されているが、油路40又は油路43等に取り付けられた油温センサの出力に基づいて作動油の温度上昇率を制御するように構成されていてもよい。或いは、コントローラ30は、バルブハウジング17Hの温度を検出する温度センサの出力に基づいて作動油の温度上昇率を制御するように構成されていてもよい。或いは、コントローラ30は、上述のような複数の温度センサの出力の組み合わせに基づいて作動油の温度上昇率を制御するように構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0091】
1・・・下部走行体 1M・・・走行用油圧モータ 1ML・・・左走行用油圧モータ 1MR・・・右走行用油圧モータ 2・・・旋回機構 2A・・・旋回用油圧モータ 3・・・上部旋回体 4・・・ブーム 5・・・アーム 6・・・バケット 7・・・ブームシリンダ 8・・・アームシリンダ 9・・・バケットシリンダ 10・・・キャビン 11・・・エンジン 13・・・レギュレータ 13L・・・左レギュレータ 13R・・・右レギュレータ 14・・・メインポンプ 14L・・・左メインポンプ 14R・・・右メインポンプ 15・・・パイロットポンプ 17・・・コントロールバルブユニット 17H・・・バルブハウジング 18・・・絞り 18L・・・左絞り 18R・・・右絞り 19・・・制御圧センサ 19L・・・左制御圧センサ 19R・・・右制御圧センサ 26・・・操作装置 26L・・・左操作レバー 26R・・・右操作レバー 28・・・吐出圧センサ 28L・・・左吐出圧センサ 28R・・・右吐出圧センサ 29・・・操作圧センサ 29L・・・左操作圧センサ 29R・・・右操作圧センサ 30・・・コントローラ 40~43・・・油路 40~43L・・・左油路 40R~43R・・・右油路 43C・・・中央油路 50・・・リリーフ弁 51・・・チェック弁 51L・・・左チェック弁 51R・・・右チェック弁 100・・・ショベル 170~176・・・制御弁 S1・・・油温センサ