(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】クラッチ装置
(51)【国際特許分類】
F16D 13/52 20060101AFI20240401BHJP
F16D 13/60 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
F16D13/52 Z
F16D13/60 T
(21)【出願番号】P 2020065998
(22)【出願日】2020-04-01
【審査請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】北澤 秀訓
(72)【発明者】
【氏名】松吉 典子
【審査官】中野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-016060(JP,A)
【文献】特開平04-125317(JP,A)
【文献】特開2005-024014(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0315505(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 13/52
F16D 13/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に間隔をあけて配置された複数の歯を有するクラッチプレートと、
クラッチプレートよりも径が大きい円板状の底部、前記底部の外周縁部から軸方向に延びて前記歯をカバーし且つ周方向に間隔をあけて配置される複数のカバー部、及び、隣り合う前記カバー部間に配置され且つ径方向に開口する複数の開口部、を有する、クラッチアウターと、
を備え、
前記クラッチアウターは、隣り合う前記カバー部の先端部同士を連結する複数の連結部を含み、
前記複数のカバー部と前記複数の連結部とによって構成される外周面は、軸方向視において円形状である、
クラッチ装置。
【請求項2】
前記カバー部は、径方向内側の面において、凹部を有し、
前記歯は、前記凹部内に配置される、
請求項1に記載のクラッチ装置。
【請求項3】
前記凹部の深さは、前記歯の高さよりも寸法が大きい、
請求項2に記載のクラッチ装置。
【請求項4】
前記カバー部の前記凹部を画定する面のうち、前記底部側の面は、径方向外側から径方向内側にかけて前記底部に近づくよう傾斜している、
請求項2又は請求項3に記載のクラッチ装置。
【請求項5】
前記連結部は、カバー部の径方向内側の面よりも径方向外側に配置される、
請求項
1から4のいずれかに記載のクラッチ装置。
【請求項6】
前記底部と、前記カバー部と、は一体成形されている、
請求項1~請求項
5のいずれかに記載のクラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動二輪車及びバギーなどのモータサイクルには、エンジンからの動力をトランスミッションに伝達又は遮断するためにクラッチ装置が用いられている。このクラッチ装置は、エンジンのクランク軸側に連結されるクラッチアウターと、トランスミッション側に連結されるクラッチセンタと、それらの間で動力の伝達、遮断を行うためのクラッチプレートと、クラッチプレートを押圧するためのプレッシャプレートとを有している。
【0003】
クラッチプレートは、径方向外側に突出する歯を含む。この歯は、クラッチアウターとの係合のために用いられる。この歯は、クラッチアウターとの摺動により、激しく摩耗する。そのため、クラッチプレートの歯の摩耗を低減することが求められている。
【0004】
特許文献1にクラッチプレートの歯の摩耗を低減する技術が提案されている。このクラッチ装置は、鋼板製のクラッチアウターにおいて、クラッチプレートの歯をカバーする形状、かつ、クラッチプレートの径方向外側に突出する形状の係合歯部を設けたクラッチアウターを提案する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のクラッチ装置では、クラッチアウターが鋼板製である。特許文献1では、クラッチアウターの軽量化を目的として、クラッチアウターの径方向外側に突出する形状の係合歯部を設けている。つまり、クラッチプレートの歯の形状に合わせて係合歯部を径方向外側に突出させている。しかしながら、クラッチアウターが鋼板製でない場合、この突出した係合歯部に遠心力が作用したとき、応力が集中して、クラッチアウターが破損する恐れがある。
【0007】
本発明の課題は、クラッチプレートの耐摩耗性を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の一側面に係るクラッチ装置は、クラッチプレートと、クラッチアウターと、を備える。クラッチプレートは、周方向に間隔をあけて配置された複数の歯を有する。クラッチアウターは、底部、複数のカバー部、及び、複数の開口部、を有する。底部は、クラッチプレートよりも径が大きい円板状である。カバー部は、底部の外周縁部から軸方向に延びて歯をカバーする。カバー部は、周方向に間隔をあけて配置される。開口部は、隣り合うカバー部間に配置される。開口部は、径方向に開口する。
【0009】
この装置では、クラッチアウターがカバー部を有する。カバー部は、クラッチプレートの歯をカバーする。そのため、クラッチプレートの耐摩耗性が高まる。
【0010】
(2)カバー部は、径方向内側の面において、凹部を有する。上記歯は、上記凹部内に配置される。
【0011】
ここでは、カバー部が、径方向内側の面において、凹部を有する。そのため、この凹部に潤滑油を溜めて、歯の摩耗を抑制することができる。
【0012】
(3)上記凹部の深さは、上記歯の高さよりも寸法が大きい。
【0013】
ここでは、凹部の深さが歯の高さより高いため、カバー部は、歯の付け根部分までカバーすることができる。
【0014】
(4)クラッチアウターは、複数の連結部を含む。連結部は、隣り合うカバー部の先端部同士を連結する。
【0015】
ここでは、連結部が隣り合うカバー部の先端部同士を連結するため、クラッチアウターに遠心力が作用しても、カバー部の先端が径方向外側に広がっていかない。そのため、クラッチアウターの強度が高まる。
【0016】
(5)連結部は、カバー部の径方向内側の面よりも径方向外側に配置される。
【0017】
ここでは、連結部を有していても、潤滑油を排出しやすい。
【0018】
(6)カバー部の凹部を画定する面のうち、底部側の面は、径方向外側から径方向内側にかけて上記底部に近づくよう傾斜している。
【0019】
(7)上記底部と、上記カバー部と、は一体成形されている。
【発明の効果】
【0020】
以上のような本発明では、クラッチプレートの耐摩耗性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態によるクラッチ装置の断面図。
【
図2】クラッチアウター及びクラッチプレートの外観斜視図。
【
図4】クラッチアウターのカバー部の凹部の断面図。
【
図6】プレッシャプレートを軸方向の第1側から視た外観斜視図。
【
図7】プレッシャプレートを軸方向の第2側から視た外観斜視図。
【
図10】他の実施形態によるプッシュタイプのクラッチ装置の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[全体構成]
図1は、本発明の一実施形態によるクラッチ装置としてのモータサイクル用クラッチ装置10である。
図1の断面図において、O-O線が回転軸線である。なお、以下の説明において、「軸方向」とは回転軸Oが延びる方向を示し、
図1に示すように、
図1の右側を「軸方向の第1側」、逆を「軸方向の第2側」とする。また、「径方向」とは、回転軸Oを中心とした円の半径方向を意味し、「周方向」とは、回転軸Oを中心とした円の周方向を意味する。
【0023】
クラッチ装置10は、エンジンからの動力をトランスミッションに伝達したり、その伝達を遮断したりするように構成されている。このクラッチ装置10は、クラッチプレート11、クラッチアウター12、クラッチセンタ13、プレッシャプレート14、サポートプレート16、及び、複数の押圧用のコイルスプリング19をさらに備えている。
【0024】
[クラッチプレート11]
クラッチプレート11は、クラッチアウター12の径方向内側に配置されている。
【0025】
図1に示すように、クラッチプレート11は、複数のドライブプレート51と、複数のドリブンプレート52と、を有する。ドライブプレート51及びドリブンプレート52によって、クラッチアウター12とクラッチセンタ13及びプレッシャプレート14との間で動力を伝達したり、その動力の伝達が遮断されたりする。これらのドライブプレート51及びドリブンプレート52はともに環状に形成されており、軸方向に交互に配置されている。
【0026】
ドライブプレート51には、周方向に間隔をあけて配置された複数の歯51aが形成されている。歯51aは、ドライブプレート51の径方向外側において、径方向外側に突出する。ドライブプレート51には両面に摩擦材が貼付されている。
【0027】
ドリブンプレート52は、複数の第1ドリブンプレート521及び1枚の第2ドリブンプレート522を有している。第1ドリブンプレート521及び第2ドリブンプレート522は、それぞれ内周端部に複数の係合凹部521a,522aを有している。
【0028】
[クラッチアウター12]
図1~
図3を参照して、クラッチアウター12は、底部12aと、複数のカバー部12bと、複数の開口部12xと、複数の連結部12cと、を備える。底部12aと、複数のカバー部12bと、は、アルミダイキャストにより一体成形されている。クラッチアウター12は、入力ギア20に連結されている。入力ギア20はエンジン側のクランク軸に固定された駆動ギア(図示せず)に噛み合っている。
【0029】
底部12aは、円板状である。底部12aは、クラッチプレート11よりも径が大きい。底部12aは、クラッチプレート11と同心に配置されている。底部12aには、複数のコイルスプリング29を介して入力ギア20が連結されている。複数のコイルスプリング29は、入力ギア20に形成された孔に挿入され、エンジンからの振動を吸収するために設けられたものである。
【0030】
カバー部12bは、底部12aの外周縁部から軸方向の第1側に延びるように形成されている。各カバー部12bは、互いに周方向に間隔をあけて配置される。
【0031】
カバー部12bは、径方向内側の面において、凹部12eを有する。クラッチプレート11(ドライブプレート51)の歯51aは、この凹部12eに配置される。この凹部12eにドライブプレート51が噛み合うことにより、ドライブプレート51がクラッチアウター12と一体的に回転する。ドライブプレート51は、クラッチアウター12に対して、軸方向に移動可能であり、かつ相対回転不能である。
【0032】
図3を参照して、凹部12eは、カバー部12bの一対の側壁部121eと、底面部122eと、により画定される。なお、凹部12eは、軸方向第1側において開口している。
【0033】
図4を参照して、凹部12eの深さd
1は、歯51aの高さよりも寸法が大きい。凹部12eの深さとは、凹部12eの径方向の寸法である。また、カバー部12bの凹部12eを画定する面のうち、底面部122eの面122e’は、径方向外側から径方向内側にかけて底部12aに近づくよう傾斜している。
【0034】
開口部12xは、隣り合うカバー部12b間に配置される。開口部12xは、潤滑油をクラッチアウター12の内側から外側に抜くように、径方向に開口する。また、開口部12xは、凹部12eよりも軸方向の第2側に延びている。
【0035】
連結部12cは、隣り合うカバー部12bの先端部同士を連結する。
【0036】
連結部12cは、隣り合う側壁部121eの間に配置される。連結部12cは、カバー部12bの径方向内側の面よりも径方向外側に位置している。詳細には、連結部12cの径方向内側の面は、側壁部121eの径方向内側の面よりも径方向外側に位置している。
【0037】
複数のカバー部12bの径方向外側の面と、複数の連結部12cの径方向外側の面とは、ひとつの外周面を形成している。つまり、カバー部12bの径方向外側の表面は、連結部12cの径方向外側の表面に対して、径方向外側に突出しない。
【0038】
[クラッチセンタ13]
図1及び
図5を参照して、クラッチセンタ13は、クラッチアウター12の内部、すなわちクラッチアウター12のカバー部12bの径方向内側に配置されている。クラッチセンタ13は略円板状である。クラッチセンタ13は、中央部に形成されたボス部25と、底部26と、筒状部27と、受圧部28と、を有している。
【0039】
ボス部25は軸方向に延びている。ボス部25の中央部には軸方向に延びるスプライン孔(図示省略)が形成されている。このスプライン孔には、トランスミッションの入力軸(図示省略)が係合する。なお、クラッチセンタ13は、軸方向において移動しない。
【0040】
底部26は、径方向において、ボス部25から外側に延びている。底部26には、複数の第1突起部30が形成されている。なお、本実施形態では、底部26は、3つの第1突起部30を有する。複数の第1突起部30は、底部26の径方向の中間部に、周方向に間隔をあけて配置されている。第1突起部30は、軸方向の第1側に突出している。また、複数の第1突起部30は、筒状部27の内周面27aから離れて配置されている。第1突起部30の外周面と、筒状部27の内周面27aと、の間には隙間が確保されている。
【0041】
図5を参照して、第1突起部30は、第1カム用突起31と、第1固定用突起32と、を有している。第1カム用突起31と第1固定用突起32とは、周方向に配列されている。第1カム用突起31と第1固定用突起32とは、一つの部材として形成されている。
【0042】
第1カム用突起31は、CC・カム面18aを有している。
【0043】
第1固定用突起32の高さは、第1カム用突起31の高さより高い。すなわち、第1固定用突起32の先端面32a(軸方向の第1側の端面)は、第1カム用突起31の先端面31aよりも、軸方向の第1側に位置している。なお、第1固定用突起32の高さは、軸方向において、第1固定用突起32の長さである。
【0044】
また、第1固定用突起32の中心部には、軸方向に延びるねじ孔32bが形成されている。
【0045】
筒状部27は、底部26の外側部から軸方向の第1側に延びて形成されている。筒状部27は、円筒状の本体271と、本体271の外周面に形成された係合用の複数の第1歯272と、を有している。第1歯272に、第1ドリブンプレート521の係合凹部521aが係合している。したがって、第1ドリブンプレート521は、クラッチセンタ13に対して、軸方向に移動可能であり、かつ相対回転不能である。すなわち、第1ドリブンプレート521は、クラッチセンタ13と一体的に回転する。
【0046】
受圧部28は、筒状部27の外周側においてさらに外周側に延びて形成されている。受圧部28は、環状である。受圧部28は、クラッチプレート11と対向している。
【0047】
[プレッシャプレート14]
図1、
図6及び
図7に示すように、プレッシャプレート14は、円板状の部材である。プレッシャプレート14は、軸方向において、クラッチセンタ13の第1側に配置されている。
【0048】
プレッシャプレート14は、クラッチセンタ13に対して軸方向に移動自在である。プレッシャプレート14は、中央部に形成されたボス部40と、筒状部41と、押圧部42と、を有している。
【0049】
ボス部40は、軸方向の第1側に突出するように延びている。ボス部40の径方向内周側の壁により、貫通孔40aが確定されている。この貫通孔40aに、図示しないレリーズ部材が挿入される。
【0050】
筒状部41は、径方向において、ボス部40の外側に形成される。筒状部41は、軸方向の第2側に突出している。筒状部41は、径方向視で、クラッチセンタ13の筒状部27と重なるように配置されている。また、筒状部41は、クラッチセンタ13の筒状部27と、第1突起部30と、の間の隙間に挿入されるように配置される。
【0051】
筒状部41は、円筒状の本体411と、複数の第2歯412と、を有している。第2歯412は、本体411の外周面に形成されている。複数の第2歯412は、本体411の外周面において、軸方向の第1側の端部に設けられている。複数の第2歯412の軸方向長さは、本体411の軸方向長さよりも短い。
【0052】
第2歯412に、第2ドリブンプレート522の係合用の係合凹部522aが係合している。したがって、第2ドリブンプレート522は、プレッシャプレート14に対して、軸方向に移動可能であり、かつ相対回転不能である。すなわち、第2ドリブンプレート522は、プレッシャプレート14と一体的に回転する。
【0053】
また、筒状部41は、中央部に形成された概略円形の孔41bと、複数のカム用孔41cと、複数の有底孔41dと、を有している。なお、本実施形態では、筒状部41は、3つのカム用孔41cと、3つの有底孔41dと、を有する。
【0054】
プレッシャプレート14は、アシストカム機構17用のPPa・カム面17bと、スリッパカム機構18用のPPs・カム面18bとを有している。PPa・カム面17b及びPPs・カム面18bは、カム用孔41cを画定する内壁面によって構成されている。PPa・カム面17bと、PPs・カム面18bとは、周方向において対向している。PPa・カム面17bは、軸方向の第1側を向く。PPs・カム面18bは、軸方向の第2側を向く。
【0055】
有底孔41dは、軸方向の第1側の面から所定の深さで形成されている。
図1に示すように、この有底孔41dに、コイルスプリング19が配置されている。
【0056】
押圧部42は、環状に形成され、プレッシャプレート14の外側部に形成されている。押圧部42は、軸方向において、受圧部28と間隔をあけて配置されている。押圧部42は、クラッチプレート11と対向している。
【0057】
プレッシャプレート14とクラッチセンタ13との間に、クラッチプレート11が配置されている。すなわち、軸方向の第2側から第1側に向かって、受圧部28、クラッチプレート11、押圧部42の順に並んでいる。クラッチプレート11のドライブプレート51及びドリブンプレート52は、受圧部28と押圧部42との間に配置されている。
【0058】
[サポートプレート16]
図1及び
図8に示すように、サポートプレート16は、円板状の部材であり、プレッシャプレート14よりも、軸方向の第1側に配置されている。サポートプレート16は、中央部に孔16aを有している。孔16aを、プレッシャプレート14のボス部40が貫通する。
【0059】
また、サポートプレート16は、複数の第2突起部55と、複数の凹部56と、を有する。なお、本実施形態では、サポートプレート16は、3つの第2突起部55と、3つの凹部56と、を有する。
【0060】
複数の第2突起部55は、周方向に間隔をあけて配置されている。好ましくは、複数の第2突起部55は、周方向に等間隔で配置されている。第2突起部55は、軸方向の第2側に突出している。第2突起部55は、第2カム用突起61と、第2固定用突起62と、を有している。第2カム用突起61と第2固定用突起62とは、周方向に配列されている。第2カム用突起61と第2固定用突起62とは、一つの部材として形成されている。
【0061】
第2カム用突起61は、SP・カム面17aを有している。
【0062】
第2固定用突起62の高さは、第2カム用突起61の高さより高い。すなわち、第2固定用突起62の先端面62a(軸方向の第2側の端面)は、第2カム用突起61の先端面61aよりも、軸方向の第2側に位置している。なお、第2固定用突起62の高さとは、軸方向における第2固定用突起62の長さである。
【0063】
第2固定用突起62の径方向内周側の壁は、軸方向に延びる貫通孔62bを画定する。
【0064】
第2固定用突起62の外側部には、第2固定用突起62の先端面62aよりもさらに軸方向の第2側に突出する位置決め部62cが形成されている。
【0065】
サポートプレート16はさらに、凹部56を有する。凹部56は、サポートプレート16の軸方向の第2側の側面に、所定の深さで形成されている。凹部56は、軸方向に開口する。凹部56は、軸方向視において、周方向に延びる楕円形である。
【0066】
クラッチセンタ13の第1固定用突起32の先端面32aとサポートプレート16の第2固定用突起62の先端面62aとを当接させ、第2固定用突起62の貫通孔62bを貫通するボルト63(
図1参照)をクラッチセンタ13の第1固定用突起32のねじ孔32bに螺合する。これにより、サポートプレート16にクラッチセンタ13が固定される。
【0067】
第1固定用突起32の外周面は、サポートプレート16の位置決め部62cの径方向内周側の面に沿った形状であり、両者は当接している。この両者の当接によって、サポートプレート16はクラッチセンタ13に対して径方向に位置決めされている。
【0068】
[アシストカム機構17及びスリッパカム機構18]
図9に示すように、アシストカム機構17は、サポートプレート16とプレッシャプレート14との軸方向間に配置されている。アシストカム機構17は、プレッシャプレート14及びクラッチセンタ13に駆動力が作用したときに(正側、つまり
図9の+R側のトルクが作用したときに)、クラッチプレート11の結合力を増加させるための機構である。また、スリッパカム機構18は、プレッシャプレート14とクラッチセンタ13の軸方向間に配置されている。スリッパカム機構18は、クラッチセンタ13及びプレッシャプレート14に逆駆動力が作用したときに(負側、つまり
図9の-R側のトルクが作用したときに)、クラッチプレート11の結合力を低減させるための機構である。
【0069】
<アシストカム機構17>
アシストカム機構17は、サポートプレート16に設けられた複数(ここでは3個)のSP・カム面17aと、プレッシャプレート14に設けられた複数(ここでは3個)のPPa・カム面17bと、を有する。
【0070】
SP・カム面17aはサポートプレート16の第2カム用突起61に形成されている。第2突起部55はプレッシャプレート14のカム用孔41cに挿入されている。そして、周方向において、第2突起部55の一方の端面にSP・カム面17aが形成されている。
【0071】
PPa・カム面17bは、プレッシャプレート14のカム用孔41cに形成されている。具体的には、カム用孔41cは、周方向の一方の端面(壁面)にPPa・カム面17bを有している。SP・カム面17aは、周方向を向くとともに、軸方向の第2側を向くように傾斜している。PPa・カム面17bは、周方向を向くとともに、軸方向の第1側を向くように傾斜している。そして、このPPa・カム面17bに、SP・カム面17aが当接可能である。
【0072】
<スリッパカム機構18>
スリッパカム機構18は、複数(ここでは3個)のクラッチセンタ13に設けられたCC・カム面18aと、複数(ここでは3個)のプレッシャプレート14に設けられたPPs・カム面18bと、を有する。
【0073】
CC・カム面18aはクラッチセンタ13の第1カム用突起31に形成されている。第1突起部30はプレッシャプレート14のカム用孔41cに挿入されている。そして、第1突起部30の周方向の一方の端面にCC・カム面18aが形成されている。
【0074】
PPs・カム面18bは、プレッシャプレート14のカム用孔41cに形成されている。具体的には、カム用孔41cにおいて、PPa・カム面17bが形成された側面(壁面)と周方向において対向する逆側の端面(壁面)が、PPs・カム面18bとなっている。ただし、PPa・カム面17bとPPs・カム面18bとは軸方向にずれて形成されている。CC・カム面18aは、周方向を向くとともに、軸方向の第1側を向くように傾斜している。PPs・カム面18bは、周方向を向くとともに、軸方向の第2側を向くように傾斜している。そして、このPPs・カム面18bに、CC・カム面18aが当接可能である。
【0075】
[動作]
クラッチ装置10においてレリーズ操作がなされていない状態では、サポートプレート16とプレッシャプレート14とは、コイルスプリング19によって互いに離れる方向に付勢されている。サポートプレート16は、クラッチセンタ13に固定されて軸方向に移動しないため、プレッシャプレート14が軸方向の第2側に移動する。この結果、クラッチプレート11がクラッチオン状態となる。
【0076】
このような状態では、エンジンからのトルクがクラッチプレート11を介してクラッチセンタ13及びプレッシャプレート14に伝達される。
【0077】
次にアシストカム機構17及びスリッパカム機構18の動作について詳細に説明する。
【0078】
クラッチセンタ13及びプレッシャプレート14に駆動力が作用しているとき、すなわち正側のトルクが作用しているときには、入力されたトルクは、クラッチプレート11を介してクラッチセンタ13とプレッシャプレート14に出力される。プレッシャプレート14に入力されたトルクは、アシストカム機構17を介してサポートプレート16に出力される。サポートプレート16に入力されたトルクは、各固定用突起62、32を介してクラッチセンタ13に出力される。このようにしてプレッシャプレート14からサポートプレート16にトルクが伝達されると同時に、アシストカム機構17が作動する。
【0079】
具体的には、駆動力が作用しているときには、サポートプレート16に対してプレッシャプレート14が相対回転する。すると、SP・カム面17aに対してPPa・カム面17bが押圧される。ここで、クラッチセンタ13は軸方向に移動しないために、サポートプレート16も移動せず、SP・カム面17aに沿ってPPa・カム面17bが移動する結果、プレッシャプレート14は軸方向の第2側に移動する。すなわち、プレッシャプレート14の押圧部42は、クラッチセンタ13の受圧部28に向かって移動する。この結果、押圧部42と受圧部28とによってクラッチプレート11が強固に挟持されることになり、クラッチの結合力が増加する。
【0080】
一方、アクセルを緩めた場合はクラッチセンタ13を介して逆駆動力が作用し、この場合はスリッパカム機構18が作動する。すなわち、トランスミッション側からのトルクによって、クラッチセンタ13がプレッシャプレート14に対して相対回転する。この相対回転によって、CC・カム面18aとPPs・カム面18bとが互いに押圧される。クラッチセンタ13は軸方向に移動しないために、この押圧により、CC・カム面18aに沿ってPPs・カム面18bが移動し、プレッシャプレート14は軸方向の第1側に移動する。この結果、押圧部42が受圧部28から離れる方向に移動することになり、クラッチの結合力が低減する。
【0081】
以上のような各カム機構17、18の作動時には、クラッチセンタ13及びサポートプレート16と、プレッシャプレート14と、は所定角度相対回転する。すなわち、クラッチセンタ13及びサポートプレート16と、プレッシャプレート14と、の間には、回転方向の位相のずれが発生する。したがって、コイルスプリング19の端面は、相手部材との間で滑ることになる。
【0082】
次に、ライダーがクラッチレバーを握ると、その操作力はクラッチワイヤ等を介してレリーズ機構(図示せず)に伝達される。このレリーズ機構によって、プレッシャプレート14がコイルスプリング19の付勢力に抗して軸方向の第1側に移動する。プレッシャプレート14が軸方向の第1側に移動すると、プレッシャプレート14のクラッチプレート11への押圧力が解除され、クラッチプレート11はオフ状態になる。このクラッチオフ状態では、トルクはクラッチセンタ13には伝達されない。
【0083】
このクラッチ装置10では、クラッチアウター12がカバー部12bを有する。カバー部12bは、クラッチプレート11の歯51aをカバーする。そのため、クラッチプレート11の耐摩耗性が高まる。
【0084】
さらに、カバー部12bは、径方向内側の面において、凹部12eを有する。上記歯51aは、上記凹部12e内に配置される。そのため、凹部12e内に潤滑油を溜めることができ、クラッチプレート11の耐摩耗性が高まる。
【0085】
上記凹部12eの深さは、上記歯51aの高さよりも寸法が大きい。ここでは、凹部12eの深さが歯51aの高さより高いため、カバー部12bは、歯51aの付け根部分までカバーし、潤滑油を溜めることができる。
【0086】
しかしながら、潤滑油が過剰に蓄積されると、潤滑油の粘度が高まり、かえって耐摩耗性が低下する。そこで、クラッチアウター12はさらに、開口部12xを有する。開口部12xから、過剰な潤滑油を排出することができる。
【0087】
クラッチアウター12は、複数の円環状の連結部12cを含む。連結部12cは、隣り合うカバー部12bの先端部同士を連結する。連結部12cが隣り合うカバー部12bの先端部同士を連結するため、クラッチアウター12に遠心力が作用しても、カバー部12bの先端が径方向外側に広がっていかない。そのため、クラッチアウター12の強度が高まる。
【0088】
複数のカバー部12bの径方向外側の面と、複数の連結部12cの径方向外側の面は、ひとつの外周面を形成している。つまり、カバー部12bの径方向外側の表面は、連結部12cの径方向外側の表面に対して、径方向外側に突出しない。そのため、クラッチアウター12に対して遠心力が作用した場合であっても、カバー部12bに応力が集中しにくい。そのため、クラッチアウター12の強度が高まる。
【0089】
連結部12cは、隣り合う側壁部121eの間に配置される。連結部12cは、側壁部121eの径方向内側の面よりも径方向外側に位置している。ここでは、連結部12cを有していても、潤滑油を排出しやすい。詳細には、最も第1側に位置するクラッチプレート11は、連結部12cが対向して存在しているため、開口部12xに面していない。そのため、開口部12xから潤滑油を排出しにくい。過剰な潤滑油は、かえって耐摩耗性を低下させる。連結部12cの径方向内側の面がカバー部12bの径方向の内側の面よりも径方向外側に凹んでいれば、この凹んだ部分から潤滑油を排出することができる。
【0090】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0091】
変形例1
上記実施形態では、クラッチアウター12は、連結部12cを有したが、特にこれに限定されない。クラッチアウター12は、連結部12cを有さなくてもよい。この場合、クラッチアウター12を軽量化することができる。
【0092】
変形例2
上記実施形態では、第1回転体の一例としてクラッチセンタ13を、第2回転体の一例としてプレッシャプレート14を、例にとって説明した。すなわち、上記実施形態では、プレッシャプレート14を軸方向の第1側に移動させ、クラッチプレート11をオフする、いわゆるプルタイプのクラッチ装置に本発明を適用したが、いわゆるプッシュタイプのクラッチ装置にも本発明を同様に適用することができる。
【0093】
図10にプッシュタイプのクラッチ装置110を示している。
【0094】
プッシュタイプのクラッチ装置110では、第1回転体はプレッシャプレート114に、第2回転体はクラッチセンタ113に、支持部材はサポートプレート116に相当する。
【0095】
具体的には、プッシュタイプのクラッチ装置110では、軸方向の第2側から第1側に向けて、プレッシャプレート114、クラッチセンタ113、及びサポートプレート116が配置されている。プレッシャプレート114とサポートプレート116とは、クラッチセンタ113に形成された開口113aを通して、ボルト163により互いに固定されている。そして、クラッチセンタ113とサポートプレート116との間に、コイルスプリング119が配置されている。また、プレッシャプレート114の押圧部142と、クラッチセンタ113の受圧部128と、の間に、クラッチプレート111が配置されている。これらの各部材は、プルタイプのクラッチ装置10と同様に、クラッチアウター112の内部に収容されている。
【0096】
クラッチセンタ113は軸方向に移動しないので、コイルスプリング119によってサポートプレート116が軸方向の第1側に付勢されている。すなわち、サポートプレート116に固定されたプレッシャプレート114が軸方向の第1側に付勢され、プレッシャプレート114がクラッチセンタ113に対して押圧されて、クラッチプレート111がオン状態になっている。
【0097】
そして、サポートプレート116及びプレッシャプレート114を、コイルスプリング119の付勢力に抗して軸方向の第2側に移動させることによって、クラッチプレート111がオフされる。
【0098】
変形例3
クラッチアウター12の構成は上記実施形態に限定されない。例えば、前記実施形態では、クラッチアウター12の底部12aとカバー部12bとを一体で形成したが、それぞれ別の部材で形成してもよい。クラッチアウター12の底部12aとカバー部12bとを形成する方法は、アルミダイキャストに限定されない。
【0099】
変形例4
上記実施形態では、プレッシャプレート14をコイルスプリング19により付勢するようにしたが、コイルスプリング19の代わりに皿バネなどを使用してもよい。
【符号の説明】
【0100】
10,110 クラッチ装置
11,111 クラッチプレート
12,112 クラッチアウター
12a 底部
12b カバー部
12c 連結部
12x 開口部
13,113 クラッチセンタ
14,114 プレッシャプレート
27 クラッチセンタの筒状部(第1筒状部)
28 受圧部
30 第1突起部
31 第1カム用突起
41 プレッシャプレートの筒状部(第2筒状部)
42 押圧部