(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】企業価値及び事業価値算定装置並びに企業価値及び事業価値算定方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 40/12 20230101AFI20240401BHJP
G06Q 10/0639 20230101ALI20240401BHJP
【FI】
G06Q40/12
G06Q10/0639
(21)【出願番号】P 2020066207
(22)【出願日】2020-04-01
【審査請求日】2023-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】502125108
【氏名又は名称】株式会社アバント
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】大久保 一樹
(72)【発明者】
【氏名】シドハート シャルマ
【審査官】樋口 龍弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-257436(JP,A)
【文献】特開2016-170722(JP,A)
【文献】特開2003-099576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
会計情報に基づいて、処理の対象となる対象企業のセグメント別事業価値を、前記対象企業のセグメントごとに算出し、当該算出した前記セグメント別事業価値を総計して前記対象企業の第1企業価値を算出する第1算出部と、
前記会計情報に基づいて、前記対象企業の第2企業価値を算出する第2算出部と、
前記第2算出部により算出された前記対象企業の第2企業価値を、前記第1算出部により算出された前記対象企業の第1企業価値で除算する第3算出部と、
前記第3算出部により算出された値に基づいて、前記対象企業に対する企業グループとしての企業価値を判定する判定部と、
を備える企業価値及び事業価値算定装置。
【請求項2】
前記第1算出部は、
前記会計情報に含まれるセグメント情報に基づいて、前記対象企業のセグメントごとにEBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization)を算出し、
前記会計情報に基づいて、当該会計情報に対応する企業ごとに、当該企業の企業価値及び当該企業のEBITDAを算出し、
前記企業のEBITDAに対する前記企業の企業価値の倍率を、前記企業ごとに算出し、
前記企業と予め設定した業種区分とを関連付けるテーブルを利用して、前記倍率の代表値を前記業種区分ごとに算出し、
前記対象企業のセグメントごとに算出したEBITDAに、前記業種区分ごとに算出した前記倍率の代表値を乗算することで、前記セグメント別事業価値を算出する、
請求項1記載の企業価値及び事業価値算定装置。
【請求項3】
前記会計情報に基づいて、前記対象企業に属するグループ会社ごとに、グループ会社別企業価値を算出する第4算出部を、さらに備え、
前記第3算出部は、前記第2算出部により算出された前記対象企業の第2企業価値を、前記第4算出部により算出された前記グループ会社別企業価値を総計した値で除算する、
請求項1記載の企業価値及び事業価値算定装置。
【請求項4】
前記第4算出部は、
前記会計情報に含まれる前記グループ会社の財務諸表データに基づいて、前記グループ会社ごとにEBITDAを算出し、
前記会計情報に基づいて、当該会計情報に対応する企業ごとに、当該企業の企業価値及び当該企業のEBITDAを算出し、
前記企業のEBITDAに対する前記企業の企業価値の倍率を、前記企業ごとに算出し、
前記企業と予め設定した業種区分とを関連付けるテーブルを利用して、前記倍率の代表値を前記業種区分ごとに算出し、
前記グループ会社ごとに算出したEBITDAに、前記業種区分ごとに算出した前記倍率の代表値を乗算することで、前記グループ会社別企業価値を算出する、
請求項3記載の企業価値及び事業価値算定装置。
【請求項5】
前記第4算出部は、前記グループ会社別企業価値を算出する際に、
前記グループ会社ごとに算出したEBITDAに、前記企業ごとに算出した前記倍率のうち、前記グループ会社の事業と類似する事業を営む前記企業の前記倍率を、乗算する、
請求項4記載の企業価値及び事業価値算定装置。
【請求項6】
前記会計情報に基づいて、貸借対照表を構成する資産に対する負債の割合及び前記資産に対する純資産の割合を、前記企業ごとに算出する第5算出部と、
前記企業と前記業種区分とを関連付けるテーブルを利用して、前記第5算出部により算出された前記企業ごとの前記資産に対する負債及び純資産の各割合の平均値を、前記業種区分ごとに算出する第6算出部と、
前記会計情報に含まれる前記対象企業のセグメント別の資産情報を取得し、当該取得したセグメント別の資産情報、及び前記第6算出部により算出された前記資産に対する負債及び純資産の各割合の平均値に基づいて、セグメント別の貸借対照表を算出する第7算出部と、
前記第7算出部により算出されたセグメント別の貸借対照表を構成する資産、負債及び純資産のそれぞれにおけるセグメント間の比率に基づいて、前記会計情報に含まれる前記対象企業の貸借対照表のデータから、前記対象企業のセグメントごとの貸借対照表のデータを算出する第8算出部と、
をさらに備える請求項2又は4記載の企業価値及び事業価値算定装置。
【請求項7】
プロセッサにより実行される企業価値及び事業価値算定方法であって、
会計情報に基づいて、処理の対象となる対象企業のセグメント別事業価値を、前記対象企業のセグメントごとに算出し、当該算出した前記セグメント別事業価値を総計して前記対象企業の第1企業価値を算出する第1算出ステップと、
前記会計情報に基づいて、前記対象企業の第2企業価値を算出する第2算出ステップと、
前記第2算出ステップにおいて算出された前記対象企業の第2企業価値を、前記第1算出ステップにおいて算出された前記対象企業の第1企業価値で除算する第3算出ステップと、
前記第3算出ステップにおいて算出された値に基づいて、前記対象企業に対する企業グループとしての企業価値を判定する判定ステップと、
を含む企業価値及び事業価値算定方法。
【請求項8】
前記第1算出ステップは、
前記会計情報に含まれるセグメント情報に基づいて、前記対象企業のセグメントごとにEBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization)を算出し、
前記会計情報に基づいて、当該会計情報に対応する企業ごとに、当該企業の企業価値及び当該企業のEBITDAを算出し、
前記企業のEBITDAに対する前記企業の企業価値の倍率を、前記企業ごとに算出し、
前記企業と予め設定した業種区分とを関連付けるテーブルを利用して、前記倍率の代表値を前記業種区分ごとに算出し、
前記対象企業のセグメントごとに算出したEBITDAに、前記業種区分ごとに算出した前記倍率の代表値を乗算することで、前記セグメント別事業価値を算出する、
ことを含む、請求項7記載の企業価値及び事業価値算定方法。
【請求項9】
前記会計情報に基づいて、前記対象企業に属するグループ会社ごとに、グループ会社別企業価値を算出する第4算出ステップを、さらに含み、
前記第3算出ステップは、前記第2算出ステップにおいて算出された前記対象企業の第2企業価値を、前記第4算出ステップにおいて算出された前記グループ会社別企業価値を総計した値で除算する、
請求項7記載の企業価値及び事業価値算定方法。
【請求項10】
前記第4算出ステップは、
前記会計情報に含まれる前記グループ会社の財務諸表データに基づいて、前記グループ会社ごとにEBITDAを算出し、
前記会計情報に基づいて、当該会計情報に対応する企業ごとに、当該企業の企業価値及び当該企業のEBITDAを算出し、
前記企業のEBITDAに対する前記企業の企業価値の倍率を、前記企業ごとに算出し、
前記企業と予め設定した業種区分とを関連付けるテーブルを利用して、前記倍率の代表値を前記業種区分ごとに算出し、
前記グループ会社ごとに算出したEBITDAに、前記業種区分ごとに算出した前記倍率の代表値を乗算することで、前記グループ会社別企業価値を算出する、
ことを含む請求項9記載の企業価値及び事業価値算定方法。
【請求項11】
前記第4算出ステップは、前記グループ会社別企業価値を算出する際に、
前記グループ会社ごとに算出したEBITDAに、前記企業ごとに算出した前記倍率のうち、前記グループ会社の事業と類似する事業を営む前記企業の前記倍率を、乗算する、
請求項10記載の企業価値及び事業価値算定方法。
【請求項12】
前記会計情報に基づいて、貸借対照表を構成する資産に対する負債の割合及び前記資産に対する純資産の割合を、前記企業ごとに算出する第5算出ステップと、
前記企業と前記業種区分とを関連付けるテーブルを利用して、前記第5算出ステップにおいて算出された前記企業ごとの前記資産に対する負債及び純資産の各割合の平均値を、前記業種区分ごとに算出する第6算出ステップと、
前記会計情報に含まれる前記対象企業のセグメント別の資産情報を取得し、当該取得したセグメント別の資産情報、及び前記第6算出ステップにおいて算出された前記資産に対する負債及び純資産の各割合の平均値に基づいて、セグメント別の貸借対照表を算出する第7算出ステップと、
前記第7算出ステップにおいて算出されたセグメント別の貸借対照表を構成する資産、負債及び純資産のそれぞれにおけるセグメント間の比率に基づいて、前記会計情報に含まれる前記対象企業の貸借対照表のデータから、前記対象企業のセグメントごとの貸借対照表のデータを算出する第8算出ステップと、
をさらに含む請求項8又は10記載の企業価値及び事業価値算定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、企業価値及び事業価値算定装置並びに企業価値及び事業価値算定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より企業の会計データを用いて財務諸表を作成する会計システムがある(例えば、下記特許文献1参照)。財務諸表の情報は、企業の業績や財産の状態を示すため、財務諸表の情報を分析することで、企業の経営状況や経営の健全性等を評価することが可能となる。このような評価は、企業の業務改善や事業強化に役立てることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、企業の中には、例えば、親会社、子会社及び関連会社等からなる企業グループを形成し、多種多様な分野に経営活動を広げながら事業の多角化を進める企業が増えている。一般的に、企業の成長性等を判断する場合、経営活動を行う事業ごとに判断基準等が異なる。したがって、企業グループを評価する際に、事業を個別に考慮して評価することが望まれる。しかしながら、事業を個別に考慮して企業グループを評価する手法はまだ標準化されていないこともあり、担当者がノウハウやスキルを習得する必要がある等、手間がかかる。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、事業を個別に考慮して企業グループを評価することができる企業価値及び事業価値算定装置並びに企業価値及び事業価値算定方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様である企業価値及び事業価値算定装置は、会計情報に基づいて、処理の対象となる対象企業のセグメント別事業価値を、前記対象企業のセグメントごとに算出し、当該算出した前記セグメント別事業価値を総計して前記対象企業の第1企業価値を算出する第1算出部と、前記会計情報に基づいて、前記対象企業の第2企業価値を算出する第2算出部と、前記第2算出部により算出された前記対象企業の第2企業価値を、前記第1算出部により算出された前記対象企業の第1企業価値で除算する第3算出部と、前記第3算出部により算出された値に基づいて、前記対象企業に対する企業グループとしての企業価値を判定する判定部と、を備える。
【0007】
上記態様において、前記第1算出部は、前記会計情報に含まれるセグメント情報に基づいて、前記対象企業のセグメントごとにEBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization)を算出し、前記会計情報に基づいて、当該会計情報に対応する企業ごとに、当該企業の企業価値及び当該企業のEBITDAを算出し、前記企業のEBITDAに対する前記企業の企業価値の倍率を、前記企業ごとに算出し、前記企業と予め設定した業種区分とを関連付けるテーブルを利用して、前記倍率の平均値を前記業種区分ごとに算出し、前記対象企業のセグメントごとに算出したEBITDAに、前記業種区分ごとに算出した前記倍率の平均値を乗算することで、前記セグメント別事業価値を算出することとしてもよい。
【0008】
上記態様において、前記会計情報に基づいて、前記対象企業に属するグループ会社ごとに、グループ会社別企業価値を算出する第4算出部を、さらに備え、前記第3算出部は、前記第2算出部により算出された前記対象企業の第2企業価値を、前記第4算出部により算出された前記グループ会社別企業価値を総計した値で除算することとしてもよい。
【0009】
上記態様において、前記第4算出部は、前記会計情報に含まれる前記グループ会社の財務諸表データに基づいて、前記グループ会社ごとにEBITDAを算出し、前記会計情報に基づいて、当該会計情報に対応する企業ごとに、当該企業の企業価値及び当該企業のEBITDAを算出し、前記企業のEBITDAに対する前記企業の企業価値の倍率を、前記企業ごとに算出し、前記企業と予め設定した業種区分とを関連付けるテーブルを利用して、前記倍率の代表値を前記業種区分ごとに算出し、前記グループ会社ごとに算出したEBITDAに、前記業種区分ごとに算出した前記倍率の代表値を乗算することで、前記グループ会社別企業価値を算出することとしてもよい。
【0010】
上記態様において、前記第4算出部は、前記グループ会社別企業価値を算出する際に、前記グループ会社ごとに算出したEBITDAに、前記企業ごとに算出した前記倍率のうち、前記グループ会社の事業と類似する事業を営む前記企業の前記倍率を、乗算することとしてもよい。
【0011】
上記態様において、前記会計情報に基づいて、貸借対照表を構成する資産に対する負債の割合及び前記資産に対する純資産の割合を、前記企業ごとに算出する第5算出部と、前記企業と前記業種区分とを関連付けるテーブルを利用して、前記第5算出部により算出された前記企業ごとの前記資産に対する負債及び純資産の各割合の代表値を、前記業種区分ごとに算出する第6算出部と、前記会計情報に含まれる前記対象企業のセグメント別の資産情報を取得し、当該取得したセグメント別の資産情報、及び前記第6算出部により算出された前記資産に対する負債及び純資産の各割合の代表値に基づいて、セグメント別の貸借対照表を算出する第7算出部と、前記第7算出部により算出されたセグメント別の貸借対照表を構成する資産、負債及び純資産のそれぞれにおけるセグメント間の比率に基づいて、前記会計情報に含まれる前記対象企業の貸借対照表のデータから、前記対象企業のセグメントごとの貸借対照表のデータを算出する第8算出部と、をさらに備えることとしてもよい。
【0012】
本発明の他の態様である企業価値及び事業価値算定方法は、プロセッサにより実行される企業価値及び事業価値算定方法であって、会計情報に基づいて、処理の対象となる対象企業のセグメント別事業価値を、前記対象企業のセグメントごとに算出し、当該算出した前記セグメント別事業価値を総計して前記対象企業の第1企業価値を算出する第1算出ステップと、前記会計情報に基づいて、前記対象企業の第2企業価値を算出する第2算出ステップと、前記第2算出ステップにおいて算出された前記対象企業の第2企業価値を、前記第1算出ステップにおいて算出された前記対象企業の第1企業価値で除算する第3算出ステップと、前記第3算出ステップにおいて算出された値に基づいて、前記対象企業に対する企業グループとしての企業価値を判定する判定ステップと、を含むことである。
【0013】
上記態様において、前記第1算出ステップは、前記会計情報に含まれるセグメント情報に基づいて、前記対象企業のセグメントごとにEBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization)を算出し、前記会計情報に基づいて、当該会計情報に対応する企業ごとに、当該企業の企業価値及び当該企業のEBITDAを算出し、前記企業のEBITDAに対する前記企業の企業価値の倍率を、前記企業ごとに算出し、前記企業と予め設定した業種区分とを関連付けるテーブルを利用して、前記倍率の代表値を前記業種区分ごとに算出し、前記対象企業のセグメントごとに算出したEBITDAに、前記業種区分ごとに算出した前記倍率の代表値を乗算することで、前記セグメント別事業価値を算出することを含むこととしてもよい。
【0014】
上記態様において、前記会計情報に基づいて、前記対象企業に属するグループ会社ごとに、グループ会社別企業価値を算出する第4算出ステップを、さらに含み、前記第3算出ステップは、前記第2算出ステップにおいて算出された前記対象企業の第2企業価値を、前記第4算出ステップにおいて算出された前記グループ会社別企業価値を総計した値で除算することとしてもよい。
【0015】
上記態様において、前記第4算出ステップは、前記会計情報に含まれる前記グループ会社の財務諸表データに基づいて、前記グループ会社ごとにEBITDAを算出し、前記会計情報に基づいて、当該会計情報に対応する企業ごとに、当該企業の企業価値及び当該企業のEBITDAを算出し、前記企業のEBITDAに対する前記企業の企業価値の倍率を、前記企業ごとに算出し、前記企業と予め設定した業種区分とを関連付けるテーブルを利用して、前記倍率の代表値を前記業種区分ごとに算出し、前記グループ会社ごとに算出したEBITDAに、前記業種区分ごとに算出した前記倍率の代表値を乗算することで、前記グループ会社別企業価値を算出することを含むこととしてもよい。
【0016】
上記態様において、前記第4算出ステップは、前記グループ会社別企業価値を算出する際に、前記グループ会社ごとに算出したEBITDAに、前記企業ごとに算出した前記倍率のうち、前記グループ会社の事業と類似する事業を営む前記企業の前記倍率を、乗算することとしてもよい。
【0017】
上記態様において、前記会計情報に基づいて、貸借対照表を構成する資産に対する負債の割合及び前記資産に対する純資産の割合を、前記企業ごとに算出する第5算出ステップと、前記企業と前記業種区分とを関連付けるテーブルを利用して、前記第5算出ステップにおいて算出された前記企業ごとの前記資産に対する負債及び純資産の各割合の平均値を、前記業種区分ごとに算出する第6算出ステップと、前記会計情報に含まれる前記対象企業のセグメント別の資産情報を取得し、当該取得したセグメント別の資産情報、及び前記第6算出ステップにおいて算出された前記資産に対する負債及び純資産の各割合の平均値に基づいて、セグメント別の貸借対照表を算出する第7算出ステップと、前記第7算出ステップにおいて算出されたセグメント別の貸借対照表を構成する資産、負債及び純資産のそれぞれにおけるセグメント間の比率に基づいて、前記会計情報に含まれる前記対象企業の貸借対照表のデータから、前記対象企業のセグメントごとの貸借対照表のデータを算出する第8算出ステップと、をさらに含むこととしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、事業を個別に考慮して企業グループを評価することができる企業価値及び事業価値算定装置並びに企業価値及び事業価値算定方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態に係る企業価値及び事業価値算定装置を含む企業価値算定システムの構成を例示する図である。
【
図2】
図1に示す企業価値及び事業価値算定装置の物理的な構成を例示する図である。
【
図3】
図1に示す企業価値及び事業価値算定装置の機能的な構成を例示する図である。
【
図4】セグメント別事業価値に基づいて企業グループの企業価値を算定する処理手順の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図5】グループ会社の企業価値を算定する処理手順の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図6】サム・オブ・ザ・パーツ分析により企業価値を判定する処理手順の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図7】企業グループのセグメント別貸借対照表を算出する処理手順の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図8A】貸借対照表の構成比率を示す割合表を例示する模式図である。
【
図8B】業種区分ごとの資産に対する負債及び純資産の割合の平均値を示す平均値表を例示する模式図である。
【
図8C】企業グループのセグメント別の資産情報を例示する模式図である。
【
図8D】業種ごとの平均的な構成割合に従ったセグメント別貸借対照表を例示する模式図である。
【
図8E】調整後のセグメント別貸借対照表のデータを算出する際の手順を例示する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る企業価値及び事業価値算定装置1を含む企業価値算定システム100の概略構成図である。同図に示すように、本実施形態における企業価値算定システム100は、企業価値及び事業価値算定装置1と、連結会計システム2と、開示書類DB装置3とを備える。
【0022】
企業価値及び事業価値算定装置1は、例えば、企業価値を算出する処理を実行する機能を有する。この機能の詳細については後述する。企業価値及び事業価値算定装置1は、例えば、演算処理能力の高いコンピュータによって構成され、そのコンピュータにおいて所定のサーバ用プログラムが動作することにより、サーバ機能を実現する。
【0023】
連結会計システム2は、企業グループの連結決算処理を実行し、連結財務諸表データを算出して記憶するシステムである。企業グループは、例えば、多種多様な企業を統合して形成される企業群であり、親会社、子会社及び関連会社を含む。本実施形態では、多種多様な企業を統合して形成される企業群を、企業グループと称して説明するが、これに限定されず、例えば、コングロマリットや複合企業と称することもできる。
【0024】
連結財務諸表データには、例えば、セグメント情報、及び企業グループを構成する企業(以下、「グループ会社」ともいう。)の財務諸表データが含まれる。セグメント情報は、例えば、売上高、利益(又は損失)、減価償却費、資本的支出、資産等の財務情報を、セグメント別に集約した情報である。セグメントは、例えば、事業の種類や、事業所の所在地、営業対象となる地域等によって企業の会計情報等を区分けするための区分である。本実施形態では、例示的に、事業の種類で区分けする区分としてセグメントを設定している場合について説明する。
【0025】
連結決算処理では、グループ会社の財務諸表データに基づき、グループ会社間の取引を内部取引として相殺した上で、企業グループ全体の連結財務諸表データを生成する。グループ会社の財務諸表データは、グループ会社の会計システム21から取得することができる。
【0026】
開示書類DB装置3は、金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類データをデータベースに記憶する装置である。開示書類データは、企業価値算定システム100で用いられる各社の開示書類データであり、例えば、金融庁のEDINET(Electronic Disclosure for Investors' Network)から取得することができる。開示書類データには、例えば、上場企業の財務諸表データが含まれる。
【0027】
なお、企業価値及び事業価値算定装置1は、上記の連結財務諸表データ、各社の財務諸表データ及び開示書類データを、会計情報としてまとめて管理することとしてもよい。
【0028】
ネットワークNは、企業価値及び事業価値算定装置1と連結会計システム2と開示書類DB装置3との間で相互に情報を送受信可能な通信網を含む。ネットワークNは、例えば、インターネット、LAN、専用線、電話回線、企業内ネットワーク、移動体通信網、ブルートゥース(登録商標)、WiFi(Wireless Fidelity)、その他の通信回線、それらの組み合わせ等のいずれであってもよく、有線であるか無線であるかを問わない。
【0029】
図2に示すように、企業価値及び事業価値算定装置1は、物理的な構成として、例えば、プロセッサ11と、通信インタフェース12と、記憶装置13とを備える。
【0030】
プロセッサ11は、算術演算、論理演算、ビット演算等を処理する算術論理演算ユニット及び各種レジスタから構成され、記憶装置13に格納されているコンピュータプログラム130を実行することで、後述する各種機能を実現する。
【0031】
通信インタフェース12は、ネットワークNに接続し、ネットワークN上の他の端末と通信をするハードウェアモジュールである。
【0032】
記憶装置13は、例えば、ディスクドライブ又は半導体メモリ等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。この記憶装置13には、例えば、コンピュータプログラム130や、データベース131に登録される各種のテーブル及びデータ等が格納される。
【0033】
コンピュータプログラム130は、所定の処理を行うためのプログラムであり、企業価値及び事業価値算定装置1のメインプログラム130aや、そのメインプログラム130aの動作中に適宜呼び出されて実行される複数のソフトウェアモジュール130bを有する。ソフトウェアモジュール130bは、それぞれ特定の処理を実行するためにモジュール化されたサブプログラムであり、例えば、プロシージャ、サブルーチン、メソッド、関数及びデータ構造等を用いて作成される。
【0034】
データベース131に登録される各種のテーブルとして、例えば、業種区分テーブル131aがある。業種区分テーブル131aは、企業と業種区分とを関連付けるテーブルである。業種区分テーブル131aは、データ項目として、例えば、企業コードと業種区分コードとを有する。企業コードは、企業を特定する識別コードである。業種区分コードは、業種を特定するコードである。業種区分コードにより特定される業種は、企業価値算定システム100の管理者が独自に設定することができ、例えば、大分類、中分類、小分類等のように階層を形成して設定することができる。企業価値算定システム100の管理者は、各企業のセグメントに基づいて、そのセグメントに対応する業種区分コードを、その企業の企業コードに対応付けて登録する。このような業種区分テーブル131aを設けることにより、それぞれの企業が営む各事業(セグメント)に対応する企業価値算定システム内での業種をそれぞれ特定することができる。
【0035】
なお、連結会計システム2が記憶する連結財務諸表データ及び開示書類DB装置3が記憶する開示書類データを、企業価値及び事業価値算定装置1のデータベース131に記憶させることとしてもよい。
【0036】
ここで、本実施形態で用いる用語について、以下の(a)~(d)に説明する。
【0037】
(a)企業価値(EV):企業の価値を表す指標であり、例えば、以下のように算出する。
企業価値=時価総額+有利子負債-現金
【0038】
(b)EBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization):企業の収益性を表す指標であり、例えば、以下の(b-1)又は(b-2)のように算出することができる。
(b-1)EBITDA=営業利益+減価償却費+のれん償却費
(b-2)EBITDA=税引前利益+支払利息+減価償却費
EBITDAをセグメント別に算出する場合には、例えば、以下のように算出する。
セグメント別EBITDA=セグメント別の利益+セグメント別の減価償却費
【0039】
(c)EV/EBITDA倍率:企業のEBITDAに対する企業価値の倍率を表す指標であり、例えば、以下のように算出する。
EV/EBITDA倍率:企業価値÷企業のEBITDA
【0040】
(d)セグメント別事業価値:セグメントに対応する事業の価値を表す指標であり、例えば、以下のように算出する。
セグメント別事業価値=セグメント別EBITDA×当該セグメントに対応する事業区分の平均EV/EBITDA倍率
【0041】
図3を参照し、企業価値及び事業価値算定装置1のコンピュータプログラム130を実行することで実現される機能について説明する。企業価値及び事業価値算定装置1は、機能的な構成として、例えば、算出部1301及び判定部1302を有する。これらの機能的な構成により実行される処理(1)乃至(4)の手順を、以下において順に説明する。
【0042】
(1)セグメント別事業価値に基づいて企業グループの企業価値を算定する処理について、
図4のフローチャートを参照して説明する。
【0043】
最初に、企業価値及び事業価値算定装置1の算出部1301は、連結会計システム2に記憶されている連結財務諸表データに含まれるセグメント情報から、処理の対象となる企業グループ(以下、「対象企業グループ」(対象企業)ともいう。)に対応するセグメント別の利益及びセグメント別の減価償却費を取得する(ステップS101)。
【0044】
続いて、企業価値及び事業価値算定装置1の算出部1301は、セグメントごとに、上記ステップS101で取得したセグメント別の利益に、上記ステップS101で取得したセグメント別の減価償却費を加算することにより、対象企業グループのセグメント別EBITDAを算出する(ステップS102)。
【0045】
続いて、企業価値及び事業価値算定装置1の算出部1301は、開示書類DB装置3に記憶されている開示書類データから、上場企業に対応する時価総額、有利子負債及び現金を取得する(ステップS103)。
【0046】
なお、開示書類データから取得するデータは、上場企業のデータに限定されない。例えば、開示書類データに、上場企業以外の企業のデータが含まれる場合には、それらの企業のデータを含めて取得することができる。この場合、以降にある上場企業との記載を、開示書類データに対応する企業と置き換えることとすればよい。
【0047】
続いて、企業価値及び事業価値算定装置1の算出部1301は、上場企業ごとに、上記ステップS103で取得した時価総額に、上記ステップS103で取得した有利子負債を加算し、加算後の値から上記ステップS103で取得した現金を減算することにより、各上場企業の企業価値をそれぞれ算出する(ステップS104)。
【0048】
続いて、企業価値及び事業価値算定装置1の算出部1301は、開示書類DB装置3に記憶されている開示書類データから、上場企業に対応する営業利益、減価償却費及びのれん償却費を取得する(ステップS105)。
【0049】
続いて、企業価値及び事業価値算定装置1の算出部1301は、上場企業ごとに、上記ステップS105で取得した営業利益に、上記ステップS105で取得した減価償却費及びのれん償却費を加算することにより、各上場企業のEBITDAをそれぞれ算出する(ステップS106)。
【0050】
続いて、企業価値及び事業価値算定装置1の算出部1301は、上場企業ごとに、上記ステップS104で算出した上場企業ごとの企業価値を、上記ステップS106で算出した上場企業ごとのEBITDAで除算することにより、各上場企業のEV/EBITDA倍率をそれぞれ算出する(ステップS107)。
【0051】
続いて、企業価値及び事業価値算定装置1の算出部1301は、上記ステップS107で算出した上場企業ごとのEV/EBITDA倍率、及び業種区分テーブル131aに基づいて、業種区分ごとの平均EV/EBITDA倍率を算出する(ステップS108)。このステップS108の処理について、以下に具体的に説明する。
【0052】
最初に、算出部1301は、上場企業ごとに、上記ステップS107で算出した上場企業ごとのEV/EBITDA倍率を、その上場企業に対応付けて業種区分テーブル131aに登録されている各業種区分に対し、それぞれ積算する。続いて、算出部1301は、全ての上場企業に対する積算処理が終了した後に、各業種区分にそれぞれ積算した値を、それぞれの積算に要した上場企業数で除算することにより、業種区分ごとの平均EV/EBITDA倍率を算出する。
【0053】
上記ステップS108に続き、企業価値及び事業価値算定装置1の算出部1301は、セグメントごとに、当該セグメントに対応する業種区分を特定し、上記ステップS102で算出したセグメント別EBITDAに、上記ステップS108で算出した業種区分ごとの平均EV/EBITDA倍率を乗算することによって、対象企業グループのセグメント別事業価値を算出する(ステップS109)。
【0054】
続いて、企業価値及び事業価値算定装置1の算出部1301は、上記ステップS109で算出した対象企業グループの各セグメント別事業価値を総計することにより、対象企業グループの理想的な企業価値(第1企業価値)を算出する(ステップS110)。そして、本処理を終了する。
【0055】
このように、企業価値及び事業価値算定装置1の算出部1301は、連結財務諸表データ及び開示書類データに基づいて、対象企業グループのセグメント別事業価値を、セグメントごとに算出し、それらのセグメント別事業価値を総計することで、対象企業グループの理想的な企業価値を算出する。
【0056】
(2)グループ会社の企業価値を算定する処理について、
図5のフローチャートを参照して説明する。
【0057】
最初に、企業価値及び事業価値算定装置1の算出部1301は、連結会計システム2に記憶されている連結財務諸表データに含まれるグループ会社の財務諸表データから、対象企業グループに属するグループ会社(以下、「対象グループ会社」ともいう。)の営業利益、減価償却費及びのれん償却費をそれぞれ取得する(ステップS201)。
【0058】
続いて、企業価値及び事業価値算定装置1の算出部1301は、対象グループ会社ごとに、上記ステップS201で取得した営業利益に、上記ステップS201で取得した減価償却費及びのれん償却費を加算することにより、各対象グループ会社のEBITDAをそれぞれ算出する(ステップS202)。
【0059】
続いて、企業価値及び事業価値算定装置1の算出部1301は、開示書類DB装置3に記憶されている開示書類データから、上場企業に対応する時価総額、有利子負債及び現金を取得する(ステップS203)。
【0060】
続いて、企業価値及び事業価値算定装置1の算出部1301は、上場企業ごとに、上記ステップS203で取得した時価総額に、上記ステップS203で取得した有利子負債を加算し、加算後の値から上記ステップS203で取得した現金を減算することにより、各上場企業の企業価値をそれぞれ算出する(ステップS204)。
【0061】
続いて、企業価値及び事業価値算定装置1の算出部1301は、開示書類DB装置3に記憶されている開示書類データから、上場企業に対応する営業利益、減価償却費及びのれん償却費を取得する(ステップS205)。
【0062】
続いて、企業価値及び事業価値算定装置1の算出部1301は、上場企業ごとに、上記ステップS205で取得した営業利益に、上記ステップS205で取得した減価償却費及びのれん償却費を加算することにより、各上場企業のEBITDAをそれぞれ算出する(ステップS206)。
【0063】
続いて、企業価値及び事業価値算定装置1の算出部1301は、上場企業ごとに、上記ステップS204で算出した上場企業ごとの企業価値を、上記ステップS206で算出した上場企業ごとのEBITDAで除算することにより、各上場企業のEV/EBITDA倍率をそれぞれ算出する(ステップS207)。
【0064】
続いて、企業価値及び事業価値算定装置1の算出部1301は、上記ステップS207で算出した上場企業ごとのEV/EBITDA倍率、及び業種区分テーブル131aに基づいて、業種区分ごとの平均EV/EBITDA倍率を算出する(ステップS208)。このステップS208の処理について、以下に具体的に説明する。
【0065】
最初に、算出部1301は、上場企業ごとに、上記ステップS207で算出した上場企業ごとのEV/EBITDA倍率を、その上場企業に対応付けて業種区分テーブル131aに登録されている各業種区分に対し、それぞれ積算する。続いて、算出部1301は、全ての上場企業に対する積算処理が終了した後に、各業種区分にそれぞれ積算した値を、それぞれの積算に要した上場企業数で除算することにより、業種区分ごとの平均EV/EBITDA倍率を算出する。
【0066】
上記ステップS208に続き、企業価値及び事業価値算定装置1の算出部1301は、対象グループ会社ごとに、当該対象グループ会社に対応する業種区分を特定し、上記ステップS202で算出した各グループ会社のEBITDAに、上記ステップS208で算出した業種区分ごとの平均EV/EBITDA倍率をそれぞれ乗算することによって、グループ会社別企業価値をそれぞれ算出する(ステップS209)。そして、本処理を終了する。
【0067】
なお、上記ステップS209において、グループ会社別企業価値を算出する際に、業種区分ごとの平均EV/EBITDA倍率を乗算しているが、乗算するEV/EBITDA倍率は、これに限定されない。例えば、上記ステップS207で算出した上場企業ごとのEV/EBITDA倍率のうち、対象グループ会社の事業と類似する事業を営む上場企業のEV/EBITDA倍率を乗算することとしてもよい。
【0068】
(3)サム・オブ・ザ・パーツ(Sum of the Parts)分析により企業価値を判定する処理について、
図6のフローチャートを参照して説明する。
【0069】
最初に、企業価値及び事業価値算定装置1の算出部1301は、開示書類DB装置3に記憶されている開示書類データから、対象企業グループに対応する時価総額、有利子負債及び現金を取得する(ステップS301)。
【0070】
続いて、企業価値及び事業価値算定装置1の算出部1301は、上記ステップS301で取得した時価総額に、上記ステップS301で取得した有利子負債を加算し、加算後の値から上記ステップS301で取得した現金を減算することにより、対象企業グループの企業価値(第2企業価値)を算出する(ステップS302)。
【0071】
続いて、企業価値及び事業価値算定装置1の算出部1301は、上記ステップS110(
図4)において算出した対象企業グループの理想的な企業価値を取得する(ステップS303)。
【0072】
続いて、企業価値及び事業価値算定装置1の算出部1301は、上記ステップS302で算出した対象企業グループの企業価値を、上記ステップS303で取得した対象企業グループの理想的な企業価値で除算する(ステップS304)。
【0073】
続いて、企業価値及び事業価値算定装置1の判定部1302は、上記ステップS304で除算した結果に基づいて、以下のように、対象企業グループの企業価値を判定する。
【0074】
上記ステップS304で算出された値が1よりも大きい場合に、企業価値及び事業価値算定装置1の判定部1302は、コングロマリットプレミアムであると判定する(ステップS305)。そして、本処理を終了する。
【0075】
上記ステップS304で算出された値が1よりも小さい場合に、企業価値及び事業価値算定装置1の判定部1302は、コングロマリットディスカウントであると判定する(ステップS306)。そして、本処理を終了する。
【0076】
上記ステップS304で算出された値が1である場合には、本処理を終了する。
【0077】
ここで、コングロマリットプレミアムである場合には、市場から評価されている対象企業グループの企業価値が理想的な企業価値を上回っている状態であるとみなすことができる。他方、コングロマリットディスカウントである場合には、市場から評価されている対象企業グループの企業価値が理想的な企業価値を下回っている状態であるとみなすことができる。
【0078】
なお、上記ステップS303で取得する対象企業グループの理想的な企業価値は、上記ステップS110(
図4)で算出した対象企業グループの理想的な企業価値であることに限定されない。例えば、上記ステップS209(
図5)で算出したグループ会社別企業価値を総計した値を、対象企業グループの理想的な企業価値として取得することとしてもよい。
【0079】
(4)対象企業グループのセグメント別貸借対照表を算出する処理について、
図7のフローチャートを参照して説明する。
【0080】
最初に、企業価値及び事業価値算定装置1の算出部1301は、開示書類DB装置3に記憶されている開示書類データに基づいて、貸借対照表を構成する資産に対する負債の割合及び資産に対する純資産の割合を、上場企業ごとに算出する(ステップS401)。なお、資産に対する負債の割合及び資産に対する純資産の割合に加え、資産に対する各勘定科目の割合を算出することとしてもよい。
図8Aを参照し、上記ステップS401の処理内容について具体的に説明する。
【0081】
図8AにあるA社の貸借対照表Daに例示するように、A社の資産が“300”であり、負債が“200”であり、純資産が“100”であるとする。資産は、負債と純資産との合計で表される。したがって、資産を“1”とすると、資産に対する負債の割合は、200/300=“0.67”となり、資産に対する純資産の割合は、100/300=“0.33”となる。そして、このような貸借対照表の構成比率を示す割合表Dbのデータが、上場企業ごとに算出される。なお、資産に対する各勘定科目の割合を算出する場合には、上記の資産に対する負債の割合及び資産に対する純資産の割合と同様にして算出することができる。また、
図7のフローチャートにおけるこれ以降の処理でも、資産に対する負債の割合及び資産に対する純資産の割合と同様に、資産に対する各勘定科目の割合を扱うことができる。
【0082】
図7の説明に戻る。上記ステップS401に続き、企業価値及び事業価値算定装置1の算出部1301は、上記ステップS401で算出した上場企業ごとの資産に対する負債及び純資産の各割合、並びに業種区分テーブル131aに基づいて、資産に対する負債及び純資産の各割合の業種区分ごとの平均値を、それぞれ算出する(ステップS402)。このステップS402の処理について、以下に具体的に説明する。
【0083】
最初に、算出部1301は、上場企業ごとに、上記ステップS401で算出した上場企業ごとの資産に対する負債及び純資産の各割合を、その上場企業に対応付けて業種区分テーブル131aに登録されている各業種区分に対し、それぞれ積算する。続いて、算出部1301は、全ての上場企業に対する積算処理が終了した後に、各業種区分にそれぞれ積算した値を、それぞれの積算に要した上場企業数で除算することにより、業種区分ごとの資産に対する負債及び純資産の各割合の平均値をそれぞれ算出する。
図8Bを参照して、さらに説明する。
【0084】
図8Bに例示するように、業種区分テーブル131aにおいて、A社の業種区分が“音楽”及び“金融”に設定されているとする。この場合、割合表DbにあるA社の資産“1”、負債“0.67”及び純資産“0.33”が、“音楽”の資産、負債及び純資産にそれぞれ積算され、さらに“金融”の資産、負債及び純資産にも積算される。この積算処理が、全ての上場企業に対して行われた後に、“音楽”や“金融”等を含む業種区分ごとの資産、負債及び純資産にそれぞれ積算された値が、それぞれの積算に要した上場企業数で除算される。その結果、貸借対照表の構成比率の平均値を示す平均値表Dc,Ddのデータが、“音楽”や“金融”等を含む業種区分ごとに算出される。
【0085】
図8Bの平均値表Dcは、業種区分が“音楽”であり、資産の比率の平均値が“1”であり、資産に対する負債の割合の平均値が“0.3”であり、資産に対する純資産の割合の平均値が“0.7”であることを例示する。また、平均値表Ddは、業種区分が“金融”であり、資産の比率の平均値が“1”であり、資産に対する負債の割合の平均値が“0.5”であり、資産に対する純資産の割合の平均値が“0.5”であることを例示する。
【0086】
図7の説明に戻る。上記ステップS402に続き、企業価値及び事業価値算定装置1の算出部1301は、連結会計システム2に記憶されている連結財務諸表データに含まれるセグメント情報から、対象企業グループのセグメント別の資産情報を取得する(ステップS403)。
図8Cを参照して、具体的に説明する。
【0087】
図8Cに例示するように、企業グループであるA社のセグメント情報として、“音楽”及び“金融”の資産が記憶されているとする。同図では、A社のセグメント別の資産として、例えば、“音楽”セグメントの資産が“100”であり、“金融”セグメントの資産が“200”であることを示すセグメント別の資産情報Deが取得される。
【0088】
図7の説明に戻る。上記ステップS403に続き、企業価値及び事業価値算定装置1の算出部1301は、上記ステップS403で取得した対象企業グループのセグメント別の資産情報に、上記ステップS402で算出した業種区分ごとの資産に対する負債及び純資産の各割合の平均値を乗算することで、業種ごとの平均的な構成割合に従ったセグメント別貸借対照表を算出する(ステップS404)。
図8Dを参照して、具体的に説明する。
【0089】
図8Dに例示するように、企業グループであるA社のセグメント別資産情報Deには、“音楽”セグメントの資産が“100”であり、“金融”セグメントの資産が“200”であることを示す情報が含まれる。また、業種区分が“音楽”である平均値表Dcには、資産に対する負債の割合の平均値として“0.3”、資産に対する純資産の割合の平均値として“0.7”がそれぞれ例示されている。この場合、“音楽”業種の平均的な構成割合に従ったA社の“音楽”セグメントの貸借対照表として、同図の貸借対照表Dfが算出される。この貸借対照表Dfの資産は、100×1=“100”として算出され、負債は、100×0.3=“30”として算出され、純資産は、100×0.7=“70”として算出される。同様に、“金融”業種の平均的な構成割合に従ったA社の“金融”セグメントの貸借対照表として、貸借対照表Dgが算出される。
【0090】
なお、上述したステップS402において、資産に対する負債及び純資産の各割合の業種区分ごとの平均値を算出し、上述したステップS404において、ステップS402で算出した平均値を乗算しているが、算出及び乗算するのは、平均値であることに限定されない。例えば、中央値や最頻値等であってもよい。つまり、平均値、中央値及び最頻値等のいずれかの代表値を算出及び乗算することができる。
【0091】
図7の説明に戻る。上記ステップS404に続き、企業価値及び事業価値算定装置1の算出部1301は、上記ステップS404で算出したセグメント別貸借対照表を構成する資産、負債及び純資産のそれぞれにおけるセグメント間の比率に基づいて、開示書類データに含まれるA社の貸借対照表のデータから、A社のセグメントごとの貸借対照表のデータを算出する(ステップS405)。
図8Eを参照して、具体的に説明する。
【0092】
図8Eに例示するように、“音楽”業種の平均的な構成割合に従ったA社の“音楽”セグメントの貸借対照表Df及び“金融”業種の平均的な構成割合に従ったA社の“金融”セグメントの貸借対照表Dgに基づいて、資産、負債及び純資産のそれぞれにおけるセグメント間の比率Rが算出される。同図では、資産の比率として“100:200”、負債の比率として“30:100”、純資産の比率として“70:100”がそれぞれ算出される。そして、比率Rに従って、開示書類データに含まれるA社の貸借対照表Daのデータから、A社の“音楽”セグメントの貸借対照表Dh及びA社の“金融”セグメントの貸借対照表Diのデータがそれぞれ算出される。
【0093】
例えば、A社の“音楽”セグメントの貸借対照表Dhの資産データは、開示書類データの貸借対照表Daの資産データである“300”に対し、比率Rに基づいた“100/300”が乗算され、“100”となる。同様に、A社の“音楽”セグメントの貸借対照表Dhの負債データは、開示書類データの貸借対照表Daの負債データである“200”に対し、比率Rに基づいた“30/130”が乗算され、“46”となる。さらに、A社の“音楽”セグメントの貸借対照表Dhの純資産データは、開示書類データの貸借対照表Daの純資産データである“100”に対し、比率Rに基づいた“70/170”が乗算され、“41”となる。
【0094】
また、A社の“金融”セグメントの貸借対照表Diの資産データは、開示書類データの貸借対照表Daの資産データである“300”に対し、比率Rに基づいた“200/300”が乗算され、“200”となる。同様に、A社の“金融”セグメントの貸借対照表Diの負債データは、開示書類データの貸借対照表Daの負債データである“200”に対し、比率Rに基づいた“100/130”が乗算され、“154”となる。さらに、A社の“金融”セグメントの貸借対照表Diの純資産データは、開示書類データの貸借対照表Daの純資産データである“100”に対し、比率Rに基づいた“100/170”が乗算され、“59”となる。
【0095】
上述したように、実施形態における企業価値及び事業価値算定装置1によれば、連結財務諸表データ及び開示書類データに基づいて、対象企業グループのセグメント別事業価値を算出し、この算出したセグメント別事業価値を総計することで対象企業グループの理想的な企業価値を算出することができる。そして、開示書類データに基づいて算出する対象企業グループの企業価値を、対象企業グループの理想的な企業価値で除算することで、その除算結果に基づいて、対象企業グループに対する企業グループとしての企業価値を判定することができる。
【0096】
また、上記の対象企業グループの理想的な企業価値を、連結財務諸表データ及び開示書類データに基づいて、対象企業グループに属するグループ会社ごとに、グループ会社別企業価値を算出し、この算出したグループ会社別企業価値を総計することによって算出することもできる。
【0097】
したがって、実施形態における企業価値及び事業価値算定装置1によれば、セグメントに対応する事業を個別に考慮して企業グループを評価することができる。
【0098】
加えて、実施形態における企業価値及び事業価値算定装置1によれば、開示書類データの貸借対照表に基づいて上場企業ごとに算出する資産に対する負債の割合及び資産に対する純資産の割合と、業種区分テーブル131aとを用いて、業種区分ごとの資産に対する負債及び純資産の各割合の平均値を算出し、この算出した業種区分ごとの各割合の平均値を、連結財務諸表データにある対象企業グループのセグメント別の資産に乗算することで、業種ごとの平均的な構成割合に従ったセグメント別貸借対照表を算出することができる。そして、この算出したセグメント別貸借対照表を構成する資産、負債及び純資産のそれぞれにおけるセグメント間の比率に従って、開示書類データにある対象企業グループの貸借対照表から、対象企業グループのセグメントごとの貸借対照表を生成することができる。
【0099】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、他の様々な形で実施することができる。このため、上記実施形態はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。例えば、前述した各処理ステップは処理内容に矛盾を生じない範囲で任意に順番を変更し、又は並列に実行することができる。
【符号の説明】
【0100】
1…企業価値及び事業価値算定装置、2…連結会計システム、3…開示書類DB装置、11…プロセッサ、12…通信インタフェース、13…記憶装置、21…会計システム、100…企業価値算定システム、130…コンピュータプログラム、130a…メインプログラム、130b…ソフトウェアモジュール、131…データベース、131a…業種区分テーブル、1301…算出部、1302…判定部、N…ネットワーク