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特許7463176インバータ制御装置、インバータ制御方法、及びインバータ制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】インバータ制御装置、インバータ制御方法、及びインバータ制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240401BHJP
【FI】
H02M7/48 F
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020070464
(22)【出願日】2020-04-09
(65)【公開番号】P2021168543
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】高田 潤一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雄
(72)【発明者】
【氏名】清水 健志
(72)【発明者】
【氏名】角藤 清隆
(72)【発明者】
【氏名】近藤 拓真
【審査官】栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-217776(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0028460(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転状態に応じて変化する運転情報を取得する情報取得部と、
前記運転情報に基づいて、周期の異なる複数の波形要素の組み合わせから構成される周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うか否かを判定する判定部と、
前記周波数拡散キャリア波を生成可能とされ、前記判定部の判定結果に応じたキャリア波を出力するキャリア波生成部と、
前記キャリア波生成部から出力されたキャリア波を用いてPWM信号を生成するPWM信号生成部と、
を具備し、
前記判定部は、前記情報取得部によって取得された圧縮機回転数が予め設定されている閾値以下の場合に、前記周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うと判定するインバータ制御装置。
【請求項2】
運転状態に応じて変化する運転情報を取得する情報取得部と、
前記運転情報に基づいて、周期の異なる複数の波形要素の組み合わせから構成される周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うか否かを判定する判定部と、
前記周波数拡散キャリア波を生成可能とされ、前記判定部の判定結果に応じたキャリア波を出力するキャリア波生成部と、
前記キャリア波生成部から出力されたキャリア波を用いてPWM信号を生成するPWM信号生成部と、
を具備し、
前記判定部は、前記情報取得部によって取得されたファン回転数が予め設定されている閾値以下の場合に、前記周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うと判定するインバータ制御装置。
【請求項3】
運転状態に応じて変化する運転情報を取得する情報取得部と、
前記運転情報に基づいて、周期の異なる複数の波形要素の組み合わせから構成される周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うか否かを判定する判定部と、
前記周波数拡散キャリア波を生成可能とされ、前記判定部の判定結果に応じたキャリア波を出力するキャリア波生成部と、
前記キャリア波生成部から出力されたキャリア波を用いてPWM信号を生成するPWM信号生成部と、
を具備し、
前記判定部は、前記情報取得部によって取得された環境温度と設定温度との温度差が予め設定されている閾値以下の場合に、前記周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うと判定するインバータ制御装置。
【請求項4】
前記キャリア波生成部は、前記周波数拡散キャリア波とは異なる少なくとも一つの他のキャリア波を生成可能であり、前記判定部の判定結果に応じたいずれかの前記キャリア波を出力する請求項1から3のいずれか1項に記載のインバータ制御装置。
【請求項5】
前記情報取得部によって取得される前記運転情報は、圧縮機回転数、ファン回転数、及び環境温度と設定温度の温度差の少なくともいずれか1つを含む請求項1から4のいずれか1項に記載のインバータ制御装置。
【請求項6】
前記判定部は、前記情報取得部によって取得されたユーザによる指令に基づいて、周期の異なる複数の波形要素の組み合わせから構成される前記周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うか否かを判定する請求項1からのいずれか1項に記載のインバータ制御装置。
【請求項7】
圧縮機モータを駆動するインバータと、
請求項1からのいずれか1項に記載のインバータ制御装置と、
を備えるモータ駆動装置。
【請求項8】
請求項に記載のモータ駆動装置を備える空気調和機。
【請求項9】
運転状態に応じて変化する運転情報を取得する工程と、
前記運転情報に基づいて、周期の異なる複数の波形要素の組み合わせから構成される周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うか否かを判定する工程と、
前記周波数拡散キャリア波を生成可能とされ、判定部の判定結果に応じたキャリア波を出力する工程と、
キャリア波生成部から出力されたキャリア波を用いてPWM信号を生成する工程と、
を有し、
PWM制御を行うか否かを判定する前記工程において、運転情報を取得する前記工程において取得された圧縮機回転数が予め設定されている閾値以下の場合、又は、運転情報を取得する前記工程において取得されたファン回転数が予め設定されている閾値以下の場合、又は、運転情報を取得する前記工程において取得された環境温度と設定温度との温度差が予め設定されている閾値以下の場合に、前記周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うと判定するインバータ制御方法。
【請求項10】
周期の異なる複数の波形要素の組み合わせから構成される周波数拡散キャリア波を用いてPWM信号を生成する周波数拡散制御モードを有し、
運転状態に応じて変化する運転情報に基づいて、前記周波数拡散制御モードのオンオフを切り替え
圧縮機回転数が予め設定されている閾値以下の場合、又は、ファン回転数が予め設定されている閾値以下の場合、又は、環境温度と設定温度との温度差が予め設定されている閾値以下の場合に、前記周波数拡散制御モードをオンに切替えるインバータ制御方法。
【請求項11】
周期の異なる複数の波形要素の組み合わせから構成される周波数拡散キャリア波を生成する処理と、
運転条件に応じて変化する運転情報を取得する処理と、
前記運転情報に基づいて、前記周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うか否かを判定する処理と、
前記周波数拡散キャリア波を生成可能とされ、判定部の判定結果に応じたキャリア波を出力する処理と、
キャリア波生成部から出力されたキャリア波を用いてPWM信号を生成する処理と、
をコンピュータに実行させ
PWM制御を行うか否かを判定する前記処理において、運転情報を取得する前記処理において取得された圧縮機回転数が予め設定されている閾値以下の場合、又は、運転情報を取得する前記処理において取得されたファン回転数が予め設定されている閾値以下の場合、又は、運転情報を取得する前記処理において取得された環境温度と設定温度との温度差が予め設定されている閾値以下の場合に、前記周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うと判定するインバータ制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インバータ制御装置、インバータ制御方法、及びインバータ制御プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気調和機に搭載される圧縮機のモータは、インバータにより制御されている。インバータは、キャリア波を用いて生成されたPWM信号により制御されている(PWM制御)。
【0003】
特許文献1には、商用電源の電圧等によってキャリア周波数を切り替えることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4352883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、キャリア波を用いてPWM信号を生成する場合には、インバータから出力される電流において、キャリア波の周波数に起因した高周波リップル成分が含まれる。このため、該電流が流入するモータにおいて、電磁的または振動的な音(キャリア音)が発生する場合がある。特に、キャリア周波数は数kHz程度である場合が多く、人間が感知し易いことがわかっている。
【0006】
特許文献1では、商用電源の電圧等によりキャリア周波数を切り替えているものの、一定の動作条件(例えば商用電源の電圧が一定の場合)では一定のキャリア周波数が用いられるため、依然としてキャリア音を十分に抑制できず、ユーザに不快感を与えかねない。
【0007】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって聴感改善を図ることのできるインバータ制御装置、インバータ制御方法、及びインバータ制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第1態様に係るインバータ制御装置は、運転状態に応じて変化する運転情報を取得する情報取得部と、前記運転情報に基づいて、周期の異なる複数の波形要素の組み合わせから構成される周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うか否かを判定する判定部と、前記周波数拡散キャリア波を生成可能とされ、前記判定部の判定結果に応じたキャリア波を出力するキャリア波生成部と、前記キャリア波生成部から出力されたキャリア波を用いてPWM信号を生成するPWM信号生成部と、を備える。
【0009】
本開示の第2態様に係るインバータ制御方法は、運転状態に応じて変化する運転情報を取得する工程と、前記運転情報に基づいて、周期の異なる複数の波形要素の組み合わせから構成される周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うか否かを判定する工程と、前記周波数拡散キャリア波を生成可能とされ、判定部の判定結果に応じたキャリア波を出力する工程と、キャリア波生成部から出力されたキャリア波を用いてPWM信号を生成する工程と、を有する。
【0010】
本開示の第3態様に係るインバータ制御プログラムは、運転状態に応じて変化する運転情報を取得する処理と、前記運転情報に基づいて、周期の異なる複数の波形要素の組み合わせから構成される周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うか否かを判定する処理と、前記周波数拡散キャリア波を生成可能とされ、判定部の判定結果に応じたキャリア波を出力する処理と、キャリア波生成部から出力されたキャリア波を用いてPWM信号を生成する処理と、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、聴感改善を図ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示の第1実施形態に係る空気調和機を示した概略構成を示す図である。
図2】本開示の第1実施形態に係る空気調和機におけるモータ駆動装置の概略構成を示す図である。
図3】本開示の第1実施形態に係る空気調和機におけるモータ駆動装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
図4】本開示の第1実施形態に係るインバータ制御装置が備える機能を示した機能ブロック図である。
図5】本開示の第1実施形態に係る空気調和機におけるモータ駆動装置の概略構成を示す図である。
図6】本開示の第1実施形態に係るキャリア波の構成例を示す図である。
図7】本開示の第1実施形態に係るキャリア波の構成例を示す図である。
図8】本開示の第1実施形態に係るPWM信号の状態例を示す図である。
図9】本開示の第1実施形態に係るキャリア波の構成例を示す図である。
図10】本開示の第1実施形態に係るキャリア波の構成例を示す図である。
図11】本開示の第1実施形態に係るインバータ制御装置によるPWM信号生成処理のフローチャートを示した図である。
図12】本開示の第1実施形態に係るインバータ制御装置による周波数拡散キャリア波を用いたPWM信号生成処理の判定処理のフローチャートを示した図である。
図13】本開示の第1実施形態に係るPWM信号生成処理の効果を示した図である。
図14】本開示の第2実施形態に係る発生確率の設定例を示す図である。
図15】本開示の第2実施形態に係るキャリア波の構成例を示す図である。
図16】本開示の第3実施形態に係るキャリア波の構成例を示す図である。
図17】本開示の第4実施形態に係る共振特性の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔第1実施形態〕
以下に、本開示に係るインバータ制御装置、インバータ制御方法、及びインバータ制御プログラムを空気調和機の圧縮機制御に適用する場合の第1実施形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
(空気調和機の構成)
図1は、本実施形態に係る空気調和機の概略構成を示した図である。図1に示すように、空気調和機101は、室外機101aと、室外機101aと共通の冷媒配管により接続される室内機101bとを備える。図1では、便宜上、1台の室外機101aに、1台の室内機101bが接続されている構成を例示しているが、室外機101aの設置台数及び室内機101bの接続台数については限定されない。
【0015】
室外機101aは、例えば、冷媒を圧縮して送出する圧縮機103、冷媒の循環方向を切り換える四方弁104、冷媒と外気との間で熱交換を行う室外熱交換器105、室外ファン106、冷媒の機液分離等を目的として圧縮機103の吸入側配管に設けられたアキュムレータ107、及び室外機制御装置102a等を備えている。
室内機101bは、室内熱交換器108、室内ファン109、電子膨張弁110、及び室内機制御装置102b等を備えている。
室外機制御装置102a及び室内機制御装置102bは、互いに情報の送受が可能な構成とされ、情報の授受を行いながら空気調和機101を制御する。室外機制御装置102aは、例えば、圧縮機の回転数制御や室外ファンの回転数制御などを行う。室内機制御装置102bは、例えば、室内ファン109の回転数制御や電子膨張弁110の弁開度制御等を行う。
なお、空気調和機の動作については公知であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0016】
室外機制御装置102a、及び室内機制御装置102bは、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memoly)、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体等を備えて構成されている。室外機制御装置102a、及び室内機制御装置102bが各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラム(例えば、制御プログラム)の形式で記憶媒体等に記憶されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。なお、プログラムは、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0017】
(モータ駆動装置の構成)
図2は、本開示の第1実施形態に係る空気調和機101におけるモータ駆動装置1の概略構成を示す図である。
【0018】
図2は、圧縮機モータ(圧縮機103を駆動するモータ)9を駆動するモータ駆動装置1の概略構成を示している。
【0019】
モータ駆動装置1は、交流電源4から供給される電力に基づいて圧縮機モータ9を駆動する。モータ駆動装置1は、コンバータ及びインバータ8を主な構成として備えている。
コンバータは、交流電源4から供給される交流電圧を整流して直流電圧へ変換する装置である。コンバータは、例えば、整流回路5と、インダクタンス部6と、コンデンサ部7とを有している。
【0020】
整流回路5は、交流電源4に対して並列接続されており、交流電源4より供給された交流電圧を整流する。例えば、整流回路5は、ダイオードを用いたブリッジ整流回路等で構成され、交流電源4から供給された交流電圧を全波整流する。なお、整流方式については、半波整流等の他の整流方式としてもよい。
【0021】
インダクタンス部6は、整流回路5の出力側の正極直流電路に直列接続されている。なお、インダクタンス部6は、整流回路5の出力側の負極直流電路に直列接続されることとしてもよい。コンデンサ部7は、インダクタンス部6を介して、整流回路5に並列に接続されている。整流回路5から出力された電圧は整流されているものの、脈流している(高周波成分を含んでいる)ため、整流回路5の出力側にインダクタンス部6及びコンデンサ部7を設けることによって、脈流成分を抑制し、平滑化する。
【0022】
インバータ8は、コンバータから供給された直流電圧に基づいて三相交流電圧を生成し、圧縮機モータ(負荷)9を駆動する。インバータ8は、例えば、6個のスイッチング素子により構成されるブリッジ回路であり、各スイッチング素子が後述するインバータ制御装置20から入力されるPWM信号に基づいてスイッチング制御される。なお、インバータ8は、駆動する負荷に応じて、単相型としてもよいし、多相型としてもよい。
【0023】
インバータ制御装置20は、上位制御装置である室外機制御装置102a、室内機制御装置102bからの制御信号に基づいて、圧縮機を所定の回転数で回転させるためのPWM信号を生成し、インバータ8を制御する。
【0024】
(インバータ制御装置のハードウェア構成図)
図3は、本実施形態に係るインバータ制御装置20のハードウェア構成の一例を示した図である。
図3に示すように、インバータ制御装置20は、コンピュータシステム(計算機システム)であり、例えば、CPU11と、CPU11が実行するプログラム等を記憶するためのROM(Read Only Memory)12と、各プログラム実行時のワーク領域として機能するRAM(Random Access Memory)13と、大容量記憶装置としてのハードディスクドライブ(HDD)14と、ネットワーク等に接続するための通信部15とを備えている。これら各部は、バス18を介して接続されている。
【0025】
なお、CPU11が実行するプログラム等を記憶するための記憶媒体は、ROM12に限られない。例えば、磁気ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリ等の他の補助記憶装置であってもよい。
【0026】
後述の各種機能を実現するための一連の処理の過程は、プログラムの形式でハードディスクドライブ14等に記録されており、このプログラムをCPU11がRAM13等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、後述の各種機能が実現される。なお、プログラムは、ROM12やその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0027】
(インバータ制御装置の機能構成図)
図4は、インバータ制御装置20が備える機能を示した機能ブロック図である。図4に示されるように、インバータ制御装置20は、電流取得部21aと、情報取得部21bと、判定部25と、キャリア波生成部23と、PWM信号生成部22とを備えている。
【0028】
電流取得部21aは、電流センサ24によって検出される電流情報を取得する。図2は、電流検出方法として1シャント方式を用いた場合を例示している。すなわち、図2では、インバータ8に流れる電流(各相電流の合成電流)が電流センサ24によって検出され、電流取得部21aに出力される。すなわち、電流取得部21aは、各相電流の合成電流を取得する。なお、本実施形態では、インバータ8を多相型としているため、電流取得部21aは、各相電流の合成電流を取得しているが、インバータ8が単相型である場合には、電流取得部21aは電流センサ24によって該相の電流自体を検出する。
【0029】
電流取得部21aは、各相電流の合成電流の検出結果から、各相の電流(Iu、Iv、Iw)を算出する。具体的には、電流取得部21aは、取得した合成電流と、後述するPWM信号生成部22において生成されたPWM信号とに基づいて、各相電流(Iu、Iv、Iw)を算出し、PWM信号生成部22へ出力する。なお、合成電流から各相電流を算出することができれば、PWM信号に基づかなくてもよい。
【0030】
なお、電流検出方法として3シャント方式を用いる場合には、モータ駆動装置1は、図5のような構成となる。すなわち、インバータ8の出力位置における各相に対応した電流が電流センサ24によって検出され、電流取得部21aに出力される。すなわち、電流取得部21aでは、各相電流を取得することができる。このため、電流取得部21aは、取得した各相電流を、PWM信号生成部22へ出力する。
【0031】
なお、電流の取得方法については、各相電流を取得することができれば、上記のような1シャント方式や3シャント方式に限定されない。
【0032】
情報取得部21bは、インバータ制御装置20の運転状態に応じた運転情報を取得し、取得した情報を判定部25へ出力する。情報取得部21bは、例えば、圧縮機回転数、ファン回転数、及び環境温度と設定温度の温度差の少なくともいずれか1つを運転情報として取得する。ここで、ファン回転数は、室内ファン回転数または室外ファン回転数の少なくとも一つを用いることが可能である。なお、ユーザによる指令があった場合には、ユーザによる指令を取得結果として判定部25へ出力する。ユーザによる指令とは、例えば、ユーザ側のリモコン操作によって行われる。
【0033】
判定部25は、情報取得部21bが取得した運転情報に基づいて、周期の異なる複数の波形要素の組み合わせから構成される周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御(以下「キャリア周波数拡散制御」という)を行うか否かを判定し、判定結果をキャリア波生成部23へ出力する。なお、周波数拡散キャリア波の詳細については後述する。
【0034】
例えば、判定部25は、圧縮機回転数が予め設定された閾値以下の場合に、周波数拡散キャリア波を用いたキャリア周波数拡散制御を行うと判定する。例えば、圧縮機回転数が閾値よりも大きい場合、キャリア波による騒音よりも、圧縮機回転数に起因する騒音の方が大きいことが考えられる。このような場合には、周波数拡散キャリア波を用いてキャリア音による騒音を抑制しても騒音低下効果が期待できないこととなる。その一方で、圧縮機回転数が閾値以下の場合には、圧縮機回転数に起因する騒音はそれほど大きくなく、キャリア波に基づく騒音が耳障りに感じる場合がある。したがって、圧縮機回転数が閾値以下の場合においては、周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うことにより騒音の更なる低下を期待でき、また、圧縮機回転数が閾値よりも大きい場合には、例えば、他のキャリア波を用いたPWM制御、例えば、単一キャリア波を用いたPWM制御を行うことにより、より高効率な運転を実現することが可能となる。上記「閾値」は、圧縮機回転数に起因する騒音の大きさに応じて適宜設定される値である。
【0035】
また、判定部25は、例えば、室外ファン回転数が所定の閾値以下の場合に、周波数拡散キャリア波を用いたキャリア周波数拡散制御を行うと判定する。また、判定部は、室内ファン回転数が所定の閾値以下の場合に、周波数拡散キャリア波を用いたキャリア周波数拡散制御を行うと判定する。また、判定部は、環境温度と設定温度の温度差が所定の閾値以下の場合に、周波数拡散キャリア波を用いたキャリア周波数拡散制御を行うと判定する。
室外ファン回転数が所定の回転数を超える場合、室内ファン回転数が所定の回転数を超える場合、また、環境温度と設定温度の温度差が所定の閾値を超える場合は、いずれもこれらに起因する騒音が大きい状況と考えることができる。従って、圧縮機回転数の場合と同様に、ファン回転数等が閾値以下であり、ファン回転数等に起因する騒音がそれほど大きくない場合には、周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うことにより騒音の更なる低下を期待できる。また、ファン回転数等が閾値を超えており、ファン回転数等に起因する騒音がキャリア波による騒音よりも大きい場合には、周波数拡散キャリア波以外のキャリア波、例えば、単一周波数のキャリア波を用いることにより、運転効率の低下を抑制することができる。
【0036】
キャリア波生成部23は、複数種類のキャリア波を生成可能な構成とされている。複数種類のキャリア波の一つには、周期の異なる複数の波形要素の組み合わせから構成される周波数拡散キャリア波が含まれる。また、キャリア波生成部23は、例えば、一定の周波数、一定の振幅及び一定の位相を有する単一キャリア波の生成が可能な構成とされている。
例えば、キャリア波生成部23は、それぞれの種類のキャリア波を生成する複数の波形生成部(例えば、周波数拡散キャリア波を生成する波形生成部と、単一キャリア波を生成する波形生成部等)を備えており、これら複数の波形生成部によって生成されたキャリア波を切り替えて出力することで、いずれか一つの種類のキャリア波をPWM信号生成部に出力することとしてもよい。
また、キャリア波生成部23は、キャリア波の周波数や振幅などを連続的に変更できる構成とされていてもよい。
このように、キャリア波生成部23の具体的な構成については、公知の技術を用いて適宜に設計することが可能である。
判定部25によってキャリア周波数拡散制御を行うと判定された場合には、キャリア波生成部23は、周波数拡散キャリア波をPWM信号生成部へ出力する。判定部25によってキャリア周波数拡散制御を行わないと判定された場合には、他のキャリア波、例えば、一定の周波数、振幅、及び位相を有する単一キャリア波をPWM信号生成部へ出力する。
【0037】
次に、キャリア波生成部23によって生成される周波数拡散キャリア波について説明する。本実施形態では、キャリア波として三角波を用いる場合について説明するが、のこぎり波等の他の波形のキャリア波を用いることとしてもよい。
周期の異なる複数の波形要素とは、予め選定された複数種類の周期波形における1周期分の波形である。すなわち、波形要素は、複数の周期(周波数)に対応して設けられている。例えば、周期波形が三角波である場合には、三角形状の波形が一定の周期で繰り返されるが、該三角形状の波形(1周期分の波形)が、該周期(周波数)に対応した波形要素となる。本実施形態において、キャリア波生成部23には、3.15kHz(fa)、4kHz(fb)、5kHz(fc)、6.3kHz(fd)、8kHz(fe)に対応した5種類の周波数(キャリア周波数)の波形要素が設定されているものとする。なお、キャリア波の周波数に起因してキャリア音(キャリア波の周波数に起因して発生する電磁騒音)が発生する。このため、周波数拡散キャリア波を構成する波形要素の周期は、インバータ8の出力側に設けられた構造体(例えば、圧縮機や圧縮機モータ9)の共振特性に基づいて選定されることとしてもよい。
【0038】
キャリア波生成部23は、複数種類の周期に対応する各波形要素を組み合わせることによって、周波数拡散キャリア波を生成する。すなわち、キャリア波が、一定の波形形状が一定周期で繰り返される波形でなくなるため、ある特定の周波数でキャリア音が大きくなることを抑制することができる。なお、周波数拡散キャリア波については、複数の波形要素を組み合わせて1周期分(キャリア波における1周期分)の波形を構成して繰り返すことで構成することとしてもよいし、キャリア波の周期性に基づかずに複数の波形要素を組み合わせて構成することとしてもよい。
【0039】
特定の周波数に大きなキャリア音を発生させないためには、周波数拡散キャリア波は、なるべく多くの周期に対応した波形要素が分散して組み合わされることが好ましい。すなわち、隣り合う波形要素は、それぞれ周期が異なることが好ましい。しかしながら、等しい周期の波形要素を複数連続して構成する場合であっても、連続数を少なく設定することで、キャリア音の周波数分散を行うことができる。
【0040】
等しい周期の波形要素の連続数については、例えば電流値取得に影響を受ける。なお、本実施形態では、電流取得を一例として説明するが、等しい周期の波形要素の連続数に影響を与える要因であれば電流取得に限定されない。電流取得とは、具体的には、1シャント方式や3シャント方式である。図2に示す構成は、1シャント方式である。そして、図5に示す方式は、3シャント方式である。すなわち、3シャント方式は、各相電流を直接的に取得可能な方法であり、1シャント方式は、各相電流の合成電流を取得する方法である。
【0041】
図6及び図7は、電流検出方式が1シャント方式(図2)に対応した場合の周波数拡散キャリア波の構成例である。1シャント方式では、各相電流の合成電流を検出しているため、3シャント方式と比較して検出に時間を要する場合がある。具体的には、1シャント方式では、まず電流の読み取りタイミングを決定し(第1周期)、電流の読み取りを実行し(第2周期)、その後、例えば読み取った電流に基づき制御(PWM制御)を行う(第3周期)。図8は、各相のPWM信号の変化状態を例示した図である。図8では、縦軸を各信号の値(電圧値)とし、横軸を時間としている。図8のように、キャリア波における1周期のうちに各相のPWM信号は変化し、信号状態によって、1シャント方式で取得可能な電流は異なる。図8では、1周期のうちにu相の電流(Iu)とw相の電流(-Iw)が現れる場合(モード)を例示しており、モードはキャリア波と変調波との関係によって異なるため、各周期で変化する(図8はモードの一例)。すなわち、A及びDのタイミングで電流センサ24よりIuが取得でき、B及びCのタイミングで電流センサ24より-Iwが取得できる。このため、1シャント方式では、まず次の周期におけるモード(どのタイミングで何の相の電流が検出可能か)を決定し(第1周期)、次の周期において決定したタイミングで電流を検出する(第2周期)。そして、次の周期で、取得した電流に基づいて制御を行う(第3周期)。そして、次の周期で再度第1周期の処理が行われる。このように、1シャント方式では、電流の取得から制御まで行う場合には、第1周期、第2周期、及び第3周期(3周期分)が必要となる。このため、1シャント方式において周波数拡散キャリア波を生成する場合には、等しい周期の波形要素を3回連続して構成することによって、第1周期、第2周期、及び第3周期(3周期分)を確保して処理を行うことが可能となる。また、3周期分は等しい周期を用いるため、制御の複雑化を抑制することができる。
【0042】
図6は、3.15kHz(fa)及び4kHz(fb)の波形要素を用いて周波数拡散キャリア波を構成した例である。3.15kHz(fa)及び4kHz(fb)の各波形要素が3つ連続して構成されている。図6では、キャリア波の周期はT1となっている。
【0043】
図7は、3.15kHz(fa)、4kHz(fb)、5kHz(fc)、6.3kHz(fd)、及び8kHz(fe)の波形要素を用いて周波数拡散キャリア波を構成した例である。3.15kHz(fa)、4kHz(fb)、5kHz(fc)、6.3kHz(fd)、及び8kHz(fe)の各波形要素が3つ連続して構成されている。図7では、周波数拡散キャリア波の周期はT2となっている。
【0044】
なお、1シャント方式を適用する場合に、電流の取得のみで、電流に基づいて各相電流に影響を及ぼすような制御を行わない場合や、第2周期内で制御を実行することができる等の場合には、上記のような第3周期を不要とすることができる。すなわち、周波数拡散キャリア波について、第1周期と第2周期とを確保するために、等しい周期の波形要素を2回連続して構成することとしてもよい。また、1シャント方式を適用する場合であっても、等しい周期の波形要素を連続して構成する必要がない場合には、図9図10のように各波形要素を組み合させることとしてもよい。
【0045】
図9及び図10は、電流検出方式が3シャント方式に対応した場合の周波数拡散キャリア波の構成例である。3シャント方式では、各相電流を直接的に取得することができる。このため、等しい周期の波形要素を連続させることなく、周期の異なる波形要素が隣り合うように構成することが可能である。図9は、3.15kHz(fa)及び4kHz(fb)の波形要素を用いて周波数拡散キャリア波を構成した例である。隣り合う波形要素を異なる周期とすることができるため、3.15kHz(fa)及び4kHz(fb)の波形要素が互いに隣り合う構成となっている。図9では、周波数拡散キャリア波の周期はT3となっている。
【0046】
図10は、3.15kHz(fa)、4kHz(fb)、5kHz(fc)、6.3kHz(fd)、及び8kHz(fe)の波形要素を用いて周波数拡散キャリア波を構成した例である。隣り合う波形要素を異なる周期とすることができるため、3.15kHz(fa)、4kHz(fb)、5kHz(fc)、6.3kHz(fd)、及び8kHz(fe)の波形要素が隣り合う構成となっている。図10では、周波数拡散キャリア波の周期はT4となっている。なお、3シャント方式の場合であっても、等しい周期の波形要素が連続してもよい。
【0047】
PWM信号生成部22は、単一キャリア波又は周波数拡散キャリア波及び所定の変調波を用いて、比較方式によりインバータ8に対するPWM信号を生成する。単一キャリア波又は周波数拡散キャリア波は、キャリア波生成部23において生成されたキャリア波である。変調波とは、キャリア波と比較される信号であって、本実施形態では、3相に対応するPWM信号を生成するため、3相電圧変調波(基準信号)となる。すなわち、1つのキャリア波と、3つの変調波(3相の各相に対応した変調波)が比較されることによって、各相に対応したPWM信号が生成される。生成されたPWM信号によってインバータ8が駆動されることによって、3相電圧信号を出力し、圧縮機モータ9を駆動する。
【0048】
具体的には、PWM信号生成部22は、指令演算部31と、変調波生成部32と、比較部33とを備えている。
【0049】
指令演算部31は、電流取得部21aから出力された各相電流に基づいて、電圧指令を演算する。具体的には、指令演算部31は、電流取得部21aから入力された各相電流から、各相に対応した電圧指令である3相電圧指令を生成し、変調波生成部32へ出力する。
【0050】
変調波生成部32は、3相電圧指令に基づいて、変調波を生成する。具体的には、変調波生成部32は、指令演算部31から入力された3相電圧指令から、各相に対応した変調波である3相変調波を生成し、比較部33へ出力する。
【0051】
比較部33は、キャリア波生成部23において生成された周波数拡散キャリア波と、変調波生成部32において生成された各相に対応した変調波とを比較し、3相PWM信号を生成する。具体的には、比較部33では、比較方式を用いたPWM信号の生成方法(三角波比較方式)によりPWM信号を生成する。例えば、u相に対応するPWM信号は、周波数拡散キャリア波がu相に対応する変調波以上の値となっている間、u相に対応するPWM信号をON状態(High)として生成される。周波数拡散キャリア波がu相に対応する変調波未満の値となっている間には、u相に対応するPWM信号をOFF状態(Low)として生成される。他の相に対応するPWM信号についても同様に生成される。
【0052】
上記のようにPWM信号が生成され、インバータ8における各相のスイッチング素子へ入力される。インバータ8の各スイッチング素子がPWM信号によって制御されることによって、3相電圧が出力され、圧縮機モータ9を駆動する。
【0053】
(インバータ制御装置による処理の流れ)
次に、上述のインバータ制御装置20によるPWM信号生成処理の一例について図11を参照して説明する。図11は、本実施形態に係るPWM信号生成処理の手順の一例を示すフローチャートである。図11に示すフローは、例えば、空気調和機が稼働している場合において所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0054】
まず、インバータ8における所定位置の電流を取得する(S101)。なお、電流取得については、1シャント方式や3シャント方式等の取得方式によって、取得位置が異なる。
【0055】
次に、各相電流を算出する(S102)。S102についは、3シャント方式の場合には省略可能である。
【0056】
次に、各相電流に基づいて、電圧指令を演算し、電圧指令に基づいて、変調波を生成する(S103)。
【0057】
次に、キャリア波生成部23から出力されるキャリア波と変調波とを比較し、3相PWM信号を生成し、インバータ8へ出力する(S104)。
【0058】
(キャリア周波数拡散制御実施の判定処理の流れ)
次に、判定部25において行われる判定処理について図12を参照して説明する。図12は、本実施形態に係る周波数拡散キャリア波を用いたPWM信号生成処理の判定処理の手順の一例を示したフローチャートである。図12に示すフローは、例えば、空気調和機101が稼働している場合において所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0059】
まず、情報取得部21bによって取得された圧縮機回転数が第1閾値Pth1以下であるかを判定する(S201)。ここで、圧縮機回転数が第1閾値Pth1以下である(Yes判定)場合には、続いて、室外ファン回転数が第1閾値Fth1以下であるかを判定する(S202)。この結果、室外ファン回転数が第1閾値Fth1以下である場合には、キャリア周波数拡散制御をオン(ON)にする(S203)。
【0060】
そして、キャリア周波数拡散制御がオンである状態において、圧縮機回転数が第1閾値Pth1よりも大きな値に設定されている第2閾値Pth2以上または室外ファン回転数が第1閾値よりも大きな値に設定されている第2閾値Fth2以上であるか否かを判定する。この結果、否定判定の場合には(S204:NO)、否定判定となるまで、キャリア周波数拡散制御のオン判定が継続される。
一方、ステップS204の判定処理において、肯定判定の場合には(S204:YES)、キャリア周波数拡散をオフ(OFF)にし(S205)、処理を終了する。
【0061】
一方、ステップS201において、圧縮機回転数が第1閾値Pth1より大きい(No判定)場合や、ステップS202において、室外ファン回転数が第1閾値Fth1よりも大きい場合(NO判定)には、キャリア周波数拡散制御をOFFにし(S205)、処理を終了する。
上述した判定処理において、キャリア周波数拡散制御がONと判定された場合には、キャリア波生成部23によって周波数拡散キャリア波が生成され、この周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御信号がPWM信号生成部22によって生成されることとなる。一方、例えば、判定処理において、キャリア波周波数拡散制御がOFFと判定された場合には、キャリア波生成部23によって周波数拡散キャリア波以外のキャリア波、例えば、本実施形態においては、単一キャリア波が生成され、単一キャリア波を用いたPWM制御信号がPWM信号生成部22によって生成されることとなる。
【0062】
このように、判定部25が運転状態に応じてキャリア周波数拡散制御を行うか否かを判定するので、運転状態に応じたキャリア波を用いて適切なPWM信号を生成することができ、インバータ制御装置20を適切に駆動制御することが可能となる。なお、本開示では、圧縮機回転数が第1閾値Pth1以下、かつ(AND)、室外ファン回転数が第1閾値Fth1以下であることを条件としてキャリア周波数拡散制御をオンとしているが、この例に限らず、上記条件式をオア(OR)の条件としてもよい。また、上述したように、キャリア周波数拡散制御を行うか否かの判定は、室内ファン回転数、環境温度と設定温度の温度差に基づいて行うこととしてもよい。
また、ユーザからキャリア周波数拡散制御を常に行うことが指令として入力された場合、例えば、静音運転モードが解除された場合には、キャリア周波数拡散制御を常にオフとし、騒音よりも運転効率を優先させたPWM制御を行うこととしてもよい。
【0063】
(キャリア周波数拡散制御による効果)
次に、上述のPWM信号生成処理による効果について図13を参照して説明する。図13では、縦軸をキャリア音の強度とし、横軸を周波数としている。そして、図13には、参考例におけるキャリア音特性(図13のL1)と、本実施形態におけるキャリア音特性(図13のL2)との一例を示している。参考例とは、一定の周期で同じ波形を繰り返した場合における周波数拡散キャリア波に基づいて、PWM信号を生成した場合である。
【0064】
図13に示すように、参考例(図13のL1)では、周波数拡散キャリア波が一定の周期で同じ波形を繰り返しているため、該周期に対応した周波数f1において、キャリア音が突出している。すなわち、特定の周波数f1のキャリア音が大きい状態となっており、聴感が低下してしまう可能性がある。
【0065】
一方で、本実施形態(図13のL2)では、複数種類の周期に対応する各波形要素が組み合わされた周波数拡散キャリア波を使用しているため、キャリア音の強度特性を周波数領域において拡散することができる。具体的には、図13のように、キャリア音が大きくなる凸点を、複数の周波数(f2、f3、f4、f5)に分散することができる。このため、特定の周波数のキャリア音が突出してしまうことを抑制することができ、聴感を向上させることができる。
【0066】
以上説明したように、本実施形態に係るインバータ制御装置、インバータ制御方法、及びインバータ制御プログラムによれば、PWM信号を生成するための周波数拡散キャリア波が、周期の異なる複数の波形要素の組み合わせから構成されるため、単一キャリア波の周波数に起因して発生する電磁騒音であるキャリア音を周波数拡散することができる。すなわち、特定の周波数において大きなキャリア音が発生することを抑制することができる。このため、聴感を向上することが可能となる。
【0067】
また、3シャント方式のように、インバータ8の出力位置における出力電流を取得する場合には、1つの波形要素の周期内で電流取得を行うことができるため、キャリア波を、周期の異なる波形要素が隣り合うように構成することができる。このため、キャリア音における周波数拡散効果を高め、聴感を向上することが可能となる。
【0068】
また、1シャント方式のように、インバータ8が多相型であり各相電流の合成電流を取得する場合には1つの波形要素の周期内で電流取得を行うことが困難な場合があるが、キャリア波が周期の等しい波形要素が複数回連続して構成されることによって、より安定的に電流取得を行うことが可能なる。また、周期の等しい波形要素が複数回連続している間に電流取得を行うため、連続する波形要素の周期が変化する場合と比較して、制御の複雑化を抑制することができる。
【0069】
本実施形態に係るインバータ制御装置20によれば、情報取得部21bによって運転状態に応じて変化する運転情報が取得され、この運転情報に基づいて、周期の異なる複数の波形要素の組み合わせから構成される周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うか否かが判定部25によって判定される。この結果、判定部25によって周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うと判定された場合には、周波数拡散キャリア波がキャリア波生成部23から出力され、PWM信号生成部22において、この周波数拡散キャリア波を用いたPWM信号が生成される。
周波数拡散キャリア波は、周期の異なる複数の波形要素の組み合わせから構成されるため、特定の周波数で大きなキャリア音が発生することを抑制することが可能である。本開示によれば、判定部25が運転状態に応じて波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うか否かを判定するので、運転状態に応じたキャリア波を用いて適切なPWM信号を生成することができ、インバータを適切に駆動制御することが可能となる。
【0070】
また、情報取得部21bによって取得される運転情報は、圧縮機回転数、ファン回転数(室外ファン回転数及び/又は室内ファン回転数)、及び環境温度と設定温度の温度差の少なくともいずれか1つを含む。これにより、圧縮機回転数、ファン回転数、及び環境温度と設定温度の温度差の少なくともいずれか1つが所定の条件を満たす場合に、周期の異なる複数の波形要素の組み合わせから構成される周波数拡散キャリア波を用いてPWM信号が生成されることとなり、特定の周波数で大きなキャリア音が発生することを抑制する運転を実現することが可能となる。
【0071】
例えば、圧縮機回転数が予め設定されている閾値以下の場合に周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御が行われることとなる。例えば、圧縮機回転数が閾値よりも大きい場合、キャリア波による騒音よりも、圧縮機回転数に起因する騒音の方が大きいことが考えられる。このような場合には、周波数拡散キャリア波を用いてキャリア音による騒音を抑制しても騒音低下効果が期待できないこととなる。その一方で、圧縮機回転数が閾値以下の場合には、圧縮機回転数に起因する騒音はそれほど大きくなく、キャリア波に基づく騒音が耳障りに感じる場合がある。したがって、圧縮機回転数が閾値以下の場合においては、周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うことにより騒音の更なる低下を期待でき、また、圧縮機回転数が閾値よりも大きい場合には、例えば、他のキャリア波を用いたPWM制御を行うことにより、より高効率な運転を実現することが可能となる。上記「閾値」は、圧縮機回転数に起因する騒音の大きさに応じて適宜設定される値である。
【0072】
また、室外ファン回転数または室内ファン回転数が予め設定されている閾値以下の場合に周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御が行われることとなる。例えば、ファン回転数が閾値よりも大きい場合、キャリア波による騒音よりも、ファン回転数に起因する騒音の方が大きいことが考えられる。このような場合には、周波数拡散キャリア波を用いてキャリア音による騒音を抑制しても騒音低下効果が期待できないこととなる。その一方で、ファン回転数が閾値以下の場合には、ファン回転数に起因する騒音はそれほど大きくなく、キャリア波に基づく騒音が耳障りに感じる場合がある。したがって、ファン回転数が閾値以下の場合においては、周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うことにより騒音の更なる低下を期待でき、また、ファン回転数が閾値よりも大きい場合には、例えば、他のキャリア波を用いたPWM制御を行うことにより、より高効率な運転を実現することが可能となる。上記「閾値」は、ファン回転数に起因する騒音の大きさに応じて適宜設定される値である。
【0073】
また、インバータ制御装置20は、環境温度と設定温度との温度差が予め設定されている閾値以下の場合に周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御が行われることとなる。例えば、環境温度と設定温度との温度差が閾値よりも大きい場合、温度差を小さくするために駆動する圧縮機やファンの各回転数が大きくなることが考えられる。この時、キャリア波による騒音よりも、環境温度と設定温度と温度差を小さくするために駆動する圧縮機やファンの各回転数に起因する騒音の方が大きいことが考えられる。このような場合には、周波数拡散キャリア波を用いてキャリア音による騒音を抑制しても騒音低下効果が期待できないこととなる。その一方で、環境温度と設定温度との温度差が閾値以下の場合には、環境温度と設定温度との温度差を小さくするために駆動する圧縮機やファンの各回転数に起因する騒音はそれほど大きくなく、キャリア波に基づく騒音が耳障りに感じる場合がある。したがって、環境温度と設定温度との温度差が閾値以下の場合においては、周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うことにより騒音の更なる低下を期待でき、また、環境温度と設定温度との温度差が閾値よりも大きい場合には、例えば、他のキャリア波を用いたPWM制御を行うことにより、より高効率な運転を実現することが可能となる。上記「閾値」は、温度差を小さくするために駆動する圧縮機やファンの各回転数に起因する騒音の大きさに応じて適宜設定される値である。
【0074】
また、情報取得部21bによって取得されたユーザの指令に基づいて、周期の異なる複数の波形要素の組み合わせから構成される周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うか否かが判定部25によって判定される。これにより、ユーザの好みに応じた運転を実現することが可能となる。例えば、ユーザが騒音を気にしない場合には、周波数拡散キャリア波を用いたPMW制御を行わずに、より運転効率の高いキャリア波を用いたPWM制御を行うことにより、運転効率の向上を実現することが可能となる。
【0075】
インバータ制御方法によれば、運転状態に応じて変化する運転情報に基づいて、周波数拡散制御モードのオンオフが切り替えられる。周波数拡散キャリア波は、周期の異なる複数の波形要素の組み合わせから構成されるため、周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行う周波数拡散制御モードがオンとなった場合には、特定の周波数で大きなキャリア音が発生することを抑制する運転を実現することが可能となる。このように、運転状態に応じて変化する運転情報に基づいて、周波数拡散制御モードのオンオフを適切に切り替えることで、効率的なインバータの制御を実現することが可能となる。
【0076】
〔第2実施形態〕
次に、本開示の第2実施形態に係るインバータ制御装置、インバータ制御方法、及びインバータ制御プログラムについて説明する。
本実施形態では、各波形要素の発生時間を考慮してキャリア波を構成する。以下、本実施形態に係るインバータ制御装置、インバータ制御方法、及びインバータ制御プログラムについて、第1実施形態と異なる点について主に説明する。
【0077】
本実施形態において、キャリア波生成部23は、各波形要素の発生時間を均等化するように構成されたキャリア波を生成する。例えば、波形要素を、3.15kHz(fa)、4kHz(fb)、5kHz(fc)、6.3kHz(fd)、8kHz(fe)に対応して設けた場合、各波形要素の1周期分の時間は、それぞれ0.317msec、0.25msec、0.2msec、0.159msec、0.125msecとなる。このように、低周波数ほど周期が長くなるため、各波形要素の発生時間の比率は、それぞれ30.2%、23.8%、19.0%、15.1%、11.9%となる。すなわち、各波形要素の回数が等しく用いられる場合には、低周波数に対応した波形要素に起因するキャリア音の強度が、他の波形要素に起因するキャリア音に対して相対的に大きくなる可能性がある。そこで、キャリア波の生成において、各波形要素の発生時間を均等化するように構成することによって、周波数分散効果をより向上させることが可能となる。
【0078】
このため、キャリア波生成部23は、各波形要素に対応する周波数に基づいて確率が設定された発生確率を用い、各波形要素を組み合わせてキャリア波を生成する。各波形要素に対応する周波数とは、各波形要素に対応する周期の逆数である。
【0079】
具体的には、キャリア波生成部23では、各波形要素に対応する周波数と確率とが正の相関関係を有するように、各波形要素に対して発生確率が設定されている。すなわち、高周波数に対応する波形要素ほど、高い発生確率が設定される。正の相関関係となるように発生確率を設定する場合には、例えば、確率を周波数に比例して設定することとしてもよいし、確率を周波数の平方根に比例して設定することとしてもよいし、確率を周波数の2乗に比例して設定することとしてもよい。すなわち、周波数の増加に伴い確率が増加するように設定されれば発生確率の設定方法は限定されない。
【0080】
図14は、周波数と確率とが正の相関関係を有するように発生確率を設定した場合の一例を示している。図14には、確率を周波数に比例して設定した場合(S1)、確率を周波数の平方根に比例して設定した場合(S2)、確率を周波数の2乗に比例して設定した場合(S3)を示している。このように、周波数の増加に伴い確率が増加するように発生確率が設定されることで、各波形要素の発生時間が均等化される。
【0081】
例えば、3.15kHz(fa)の発生確率が10%(発生比率が2)、4kHz(fb)の発生確率が15%(発生比率が3)、5kHz(fc)の発生確率が20%(発生比率が4)、6.3kHz(fd)の発生確率が25%(発生比率が5)、8kHz(fe)の発生確率が30%(発生比率が6)のように設定される。図15は、上記のように発生確率が設定された場合におけるキャリア波の構成例を示している。発生確率に基づいてキャリア波が構成されることによって、図15のように各波形要素の発生時間が均等化される。このため、周波数分散効果が向上する。
【0082】
このように、キャリア波生成部23は、設定された発生確率に基づいて各波形要素を組み合わせることでキャリア波を生成する。発生確率に基づいてキャリア波が生成されることで、各波形要素の発生時間が均等化され、周波数分散効果が向上する。
【0083】
以上説明したように、本実施形態に係るインバータ制御装置、インバータ制御方法、並びにインバータ制御プログラムによれば、キャリア波が各波形要素の発生時間を均等化するように構成されるため、特定の周期(周波数)の波形要素の出現頻度が高くなり、該周波数のキャリア音が突出してしまうことを抑制することができる。すなわち、各波形要素の周波数に対応するキャリア音の大きさを均等化し、周波数拡散効果を高めることができる。このため、聴感を向上することが可能となる。
【0084】
また、キャリア波が、各波形要素に対応する周波数に基づいて確率が設定された発生確率を用い、各波形要素が組み合わされることで、特定の周期(周波数)の波形要素の出現頻度が高くなり、該周波数のキャリア音が突出してしまうことを抑制することができる。すなわち、各波形要素の周波数に対応するキャリア音の大きさを均等化し、周波数拡散効果を高めることができる。
【0085】
〔第3実施形態〕
次に、本開示の第3実施形態に係るインバータ制御装置、インバータ制御方法、及びインバータ制御プログラムについて説明する。
上述した第1実施形態では、1周期分の波形要素を組み合わせてキャリア波を構成していたが、本実施形態では、立ち上がりと立ち下がりを考慮して、キャリア波を構成する。以下、本実施形態に係るインバータ制御装置、インバータ制御方法、及びインバータ制御プログラムについて、第1実施形態と異なる点について主に説明する。なお、本実施形態については、第2実施形態と組み合わせることも可能である。
【0086】
本実施形態におけるキャリア波生成部23は、周期の異なる波形要素の立ち上がりと立ち下がりとで構成された変形波形要素を用いてキャリア波を生成する。すなわち、キャリア波生成部23は、上述の各波形要素に加えて、ある周期の波形要素の立ち上がりと他の周期の波形要素の立ち下がりとを用いて構成した変形波形要素を用いることによって、キャリア波を生成する。換言すると、キャリア波は、各波形要素と、生成した変形波形要素とを組み合わせることによって構成している。例えば、変形波形要素は、3.15kHz(fa)の波形要素の立ち上がりと、8kHz(fe)の波形要素の立ち下がりとを用いて波形が構成される。
【0087】
図16は、本実施形態におけるキャリア波の構成例を示している。図16のように、キャリア波は、一定の周期をもつ波形要素と、変形波形要素とで構成される。具体的には、W1及びW2が変形波形要素であり、W3、W4、及びW5が波形要素である。W3は5kHz(fc)に対応しており、W4は6.3kHz(fd)に対応しており、W5は8kHz(fe)に対応している。そして、W1は立ち上がりが3.15kHz(fa)の波形要素の立ち上がりに対応しており、立ち下がりが8kHz(fe)の波形要素の立ち下がりに対応している。W2は立ち上がりが4kHz(fb)の波形要素の立ち上がりに対応しており、立ち下がりが8kHz(fe)の波形要素の立ち下がりに対応している。なお、キャリア波の周期はT5となっている。
【0088】
このように、立ち上がりと立ち下がりとを、異なる周期の波形要素に対応させることで、周波数分散効果を高めることができる。また、変形波形要素の立ち上がりと立ち下がりとを、第2実施形態に記載の発生確率に基づいて構成することで、各波形要素(周波数)の発生時間の均等化を行うことも可能である。また、変形波形要素の立ち上がりと立ち下がりとを、後述の第4実施形態に記載の発生確率に基づいて構成することとしてもよい。
【0089】
以上説明したように、本実施形態に係るインバータ制御装置、インバータ制御方法、及びインバータ制御プログラムによれば、周期の異なる波形要素の立ち上がりと立ち下がりとで構成された変形波形要素を用いてキャリア波を生成することで、周波数拡散効果を高め、聴感を向上することが可能となる。
【0090】
〔第4実施形態〕
次に、本開示の第4実施形態に係るインバータ制御装置、インバータ制御方法、及びインバータ制御プログラムについて説明する。
本実施形態では、構造体の共振特性を考慮して発生確率を設定する。以下、本実施形態に係るインバータ制御装置、インバータ制御方法、及びインバータ制御プログラムについて、第1実施形態と異なる点について主に説明する。なお、本実施形態については、第2実施形態及び/または第3実施形態と組み合わせることも可能である。
【0091】
特定の周波数においてキャリア音が発生し、該周波数が圧縮機等のインバータ8の出力側に設けられた構造体の共振点(固有周波数)に一致または近い場合には、キャリア音が突出して聞こえてしまう可能性がある。例えば、圧縮機の固有周波数が4kHz(fb)である場合には、4kHz(fb)に対応する波形要素の発生回数が少なかったとしても、4kHz(fb)のキャリア音が目立ってしまう可能性がある。
【0092】
そこで、本実施形態におけるキャリア波生成部23は、インバータ8の出力側に設けられた構造体(例えば、圧縮機)の共振特性に基づいて設定された発生確率に応じて各波形要素が組み合わされたキャリア波を生成する。すなわち、構造体の共振特性に基づいて、共振周波数と一致または近い(共振周波数を含む所定の帯域幅)に対応する波形要素については発生確率を低く設定する。
【0093】
図17は、共振特性(スイープ特性)の一例を示した図である。図17では、縦軸をキャリア音の強度(音圧レベル)とし、横軸を周波数とし、共振特性(図17のC1)を示している。また、図17には、縦軸に確率をとり、共振特性に対応する発生確率(図17のP1)を示している。
【0094】
図17の例では、fc1や、fc2、fc3、fc4が共振周波数となっており、キャリア音の強度が高くなっている。このような共振特性に対応して発生確率を設定すると、図17のP1となる。すなわち、発生確率は、共振特性に応じて強度が高くなる周波数の発生確率が低くなるように設定される。
【0095】
このように、共振特性に基づいて発生確率を設定し、設定した発生確率に基づいて各波形要素を組み合わせ周波数拡散キャリア信号を生成することによって、より効果的に特定の周波数のキャリア音が突出してしまうことを抑制することができる。すなわち、共振特性を考慮してより効率的に周波数拡散を行い、聴感をより向上させることが可能となる。
【0096】
以上説明したように、本実施形態に係るインバータ制御装置、インバータ制御方法、及びインバータ制御プログラムによれば、共振特性により共振が発生し易い周波数の発生確率を低く設定することができ、共振により特定の周波数のキャリア音が突出することを抑制することができる。また、周波数拡散効果を高め、聴感を向上することが可能となる。
【0097】
本開示は、上述の実施形態のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々変形実施が可能である。なお、各実施形態を組み合わせることも可能である。すなわち、上記の第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態、及び第4実施形態については、それぞれ組み合わせることも可能である。
【0098】
例えば、各実施形態では、インバータ8を用いて圧縮機モータ9を駆動する場合について説明したが、インバータ8が駆動する対象については上記に限定されない。これに伴い、インバータ8が駆動する対象の構造体の共振特性を考慮して、適切に波形要素の設定や、発生確率の設定を行うことが可能となる。
【0099】
以上説明した各実施形態に記載のインバータ制御装置、インバータ制御方法、及びインバータ制御プログラムは例えば以下のように把握される。
本開示に係るインバータ制御装置(20)は、運転状態に応じて変化する運転情報を取得する情報取得部(21b)と、運転情報に基づいて、周期の異なる複数の波形要素の組み合わせから構成される周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うか否かを判定する判定部(25)と、周波数拡散キャリア波を生成可能とされ、前記判定部の判定結果に応じたキャリア波を出力するキャリア波生成部(23)と、キャリア波生成部から出力されたキャリア波を用いてPWM信号を生成するPWM信号生成部(22)と、を具備する。周期の異なる複数の波形要素とは、予め選定された複数種類の周期波形における1周期分の波形である。波形要素の具体的な波形形状については、例えば三角波であるが、のこぎり波等とすることとしてもよく、三角波に限定されない。
【0100】
本開示に係るインバータ制御装置(20)によれば、情報取得部(21b)によって運転状態に応じて変化する運転情報が取得され、この運転情報に基づいて、周期の異なる複数の波形要素の組み合わせから構成される周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うか否かが判定部(25)によって判定される。この結果、判定部(25)によって周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うと判定された場合には、周波数拡散キャリア波がキャリア波生成部(23)から出力され、PWM信号生成部(22)において、この周波数拡散キャリア波を用いたPWM信号が生成される。
周波数拡散キャリア波は、周期の異なる複数の波形要素の組み合わせから構成されるため、特定の周波数で大きなキャリア音が発生することを抑制することが可能である。本開示によれば、判定部(25)が運転状態に応じて波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うか否かを判定するので、運転状態に応じたキャリア波を用いて適切なPWM信号を生成することができ、インバータを適切に駆動制御することが可能となる。
【0101】
本開示に係るインバータ制御装置(20)において、キャリア波生成部(23)は、周波数拡散キャリア波とは異なる少なくとも一つの他のキャリア波を生成可能であり、判定部(25)の判定結果に応じたいずれかのキャリア波を出力することとしてもよい。
【0102】
本開示に係るインバータ制御装置(20)によれば、キャリア波生成部(23)は、周波数拡散キャリア波とは異なる少なくとも一つの他のキャリア波の生成が可能とされるので、運転状態に応じて適切なキャリア波を用いてPWM制御を行うことが可能となる。このように、キャリア波生成部(23)が周波数拡散キャリア波とは異なる少なくとも一つの他のキャリア波を生成可能とすることで、キャリア波生成部(23)を複数備える必要がなく、1つのキャリア波生成部(23)によって判定部(25)の判定結果に応じたキャリア波を出力することでき、簡易的な構成でインバータ(8)を適切に駆動制御することが可能となる。
【0103】
本開示に係るインバータ制御装置(20)において、情報取得部(21b)によって取得される運転情報は、圧縮機回転数、ファン回転数、及び環境温度と設定温度の温度差の少なくともいずれか1つを含むこととしてもよい。
【0104】
本開示に係るインバータ制御装置(20)によれば、情報取得部(21b)によって取得される運転情報は、圧縮機回転数、ファン回転数、及び環境温度と設定温度の温度差の少なくともいずれか1つを含む。これにより、圧縮機回転数、ファン回転数、及び環境温度と設定温度の温度差の少なくともいずれか1つが所定の条件を満たす場合に、周期の異なる複数の波形要素の組み合わせから構成される周波数拡散キャリア波を用いてPWM信号が生成されることとなり、特定の周波数で大きなキャリア音が発生することを抑制する運転を実現することが可能となる。
【0105】
本開示に係るインバータ制御装置(20)において、判定部(25)は、情報取得部(21b)によって取得された圧縮機回転数が予め設定されている閾値以下の場合に、周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うと判定することとしてもよい。
【0106】
本開示に係るインバータ制御装置(20)によれば、圧縮機回転数が予め設定されている閾値以下の場合に周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御が行われることとなる。例えば、圧縮機回転数が閾値よりも大きい場合、キャリア波による騒音よりも、圧縮機回転数に起因する騒音の方が大きいことが考えられる。このような場合には、周波数拡散キャリア波を用いてキャリア音による騒音を抑制しても騒音低下効果が期待できないこととなる。その一方で、圧縮機回転数が閾値以下の場合には、圧縮機回転数に起因する騒音はそれほど大きくなく、キャリア波に基づく騒音が耳障りに感じる場合がある。したがって、圧縮機回転数が閾値以下の場合においては、周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うことにより騒音の更なる低下を期待でき、また、圧縮機回転数が閾値よりも大きい場合には、例えば、他のキャリア波を用いたPWM制御を行うことにより、より高効率な運転を実現することが可能となる。上記「閾値」は、圧縮機回転数に起因する騒音の大きさに応じて適宜設定される値である。
【0107】
本開示に係るインバータ制御装置(20)において、判定部(25)は、情報取得部(21b)によって取得されたファン回転数が予め設定されている閾値以下の場合に、周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うと判定することとしてもよい。
【0108】
本開示に係るインバータ制御装置(20)によれば、ファン回転数が予め設定されている閾値以下の場合に周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御が行われることとなる。例えば、ファン回転数が閾値よりも大きい場合、キャリア波による騒音よりも、ファン回転数に起因する騒音の方が大きいことが考えられる。このような場合には、周波数拡散キャリア波を用いてキャリア音による騒音を抑制しても騒音低下効果が期待できないこととなる。その一方で、ファン回転数が閾値以下の場合には、ファン回転数に起因する騒音はそれほど大きくなく、キャリア波に基づく騒音が耳障りに感じる場合がある。したがって、ファン回転数が閾値以下の場合においては、周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うことにより騒音の更なる低下を期待でき、また、ファン回転数が閾値よりも大きい場合には、例えば、他のキャリア波を用いたPWM制御を行うことにより、より高効率な運転を実現することが可能となる。上記「閾値」は、ファン回転数に起因する騒音の大きさに応じて適宜設定される値である。
【0109】
本開示に係るインバータ制御装置(20)において、判定部(25)は、情報取得部(21b)によって取得された環境温度と設定温度との温度差が予め設定されている閾値以下の場合に、前記周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うと判定することとしてもよい。
【0110】
本開示に係るインバータ制御装置(20)によれば、環境温度と設定温度との温度差が予め設定されている閾値以下の場合に周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御が行われることとなる。例えば、環境温度と設定温度との温度差が閾値よりも大きい場合、温度差を小さくするために駆動する圧縮機やファンの各回転数が大きくなることが考えられる。この時、キャリア波による騒音よりも、環境温度と設定温度と温度差を小さくするために駆動する圧縮機やファンの各回転数に起因する騒音の方が大きいことが考えられる。このような場合には、周波数拡散キャリア波を用いてキャリア音による騒音を抑制しても騒音低下効果が期待できないこととなる。その一方で、環境温度と設定温度との温度差が閾値以下の場合には、環境温度と設定温度との温度差を小さくするために駆動する圧縮機やファンの各回転数に起因する騒音はそれほど大きくなく、キャリア波に基づく騒音が耳障りに感じる場合がある。したがって、環境温度と設定温度との温度差が閾値以下の場合においては、周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うことにより騒音の更なる低下を期待でき、また、環境温度と設定温度との温度差が閾値よりも大きい場合には、例えば、他のキャリア波を用いたPWM制御を行うことにより、より高効率な運転を実現することが可能となる。上記「閾値」は、温度差を小さくするために駆動する圧縮機やファンの各回転数に起因する騒音の大きさに応じて適宜設定される値である。
【0111】
本開示に係るインバータ制御装置(20)において、判定部(25)は、情報取得部(21b)によって取得されたユーザによる指令に基づいて、周期の異なる複数の波形要素の組み合わせから構成される周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うか否かを判定することとしてもよい。
【0112】
本開示に係るインバータ制御装置(20)によれば、情報取得部(21b)によって取得されたユーザの指令に基づいて、周期の異なる複数の波形要素の組み合わせから構成される周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うか否かが判定部(25)によって判定される。これにより、ユーザの好みに応じた運転を実現することが可能となる。例えば、ユーザが騒音を気にしない場合には、周波数拡散キャリア波を用いたPMW制御を行わずに、より運転効率の高いキャリア波を用いたPWM制御を行うことにより、運転効率の向上を実現することが可能となる。
【0113】
本開示に係るモータ駆動装置(1)は、圧縮機モータ(9)を駆動するインバータ(8)と、上記のインバータ制御装置(20)と、を備える。
【0114】
本開示に係る空気調和機は、圧縮機モータ(9)を駆動するインバータ(8)と、上記のインバータ制御装置(20)と、を備える。
【0115】
本開示に係るインバータ制御方法は、運転条件に応じて変化する運転情報を取得する工程と、運転情報に基づいて、いずれかのキャリア波生成部周期の異なる複数の波形要素の組み合わせから構成される周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うか否かを判定する工程と、周波数拡散キャリア波を生成可能とされ、判定部(25)の判定結果に応じたキャリア波を出力する工程と、キャリア波生成部(23)から出力されたキャリア波を用いてPWM信号を生成する工程と、有する。
【0116】
本開示に係るインバータ制御方法は、周期の異なる複数の波形要素の組み合わせから構成される周波数拡散キャリア波を用いてPWM信号を生成する周波数拡散制御モードを有し、運転状態に応じて変化する運転情報に基づいて、前記周波数拡散制御モードのオンオフを切り替える。
【0117】
本開示に係るインバータ制御方法によれば、運転状態に応じて変化する運転情報に基づいて、周波数拡散制御モードのオンオフが切り替えられる。周波数拡散キャリア波は、周期の異なる複数の波形要素の組み合わせから構成されるため、周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行う周波数拡散制御モードがオンとなった場合には、特定の周波数で大きなキャリア音が発生することを抑制する運転を実現することが可能となる。このように、運転状態に応じて変化する運転情報に基づいて、周波数拡散制御モードのオンオフを適切に切り替えることで、効率的なインバータの制御を実現することが可能となる。
【0118】
本開示に係るインバータ制御プログラムは、運転条件に応じて変化する運転情報を取得する工程と、運転情報に基づいて、いずれかのキャリア波生成部周期の異なる複数の波形要素の組み合わせから構成される周波数拡散キャリア波を用いたPWM制御を行うか否かを判定する工程と、周波数拡散キャリア波を生成可能とされ、判定部(25)の判定結果に応じたキャリア波を出力する工程と、キャリア波生成部(23)から出力されたキャリア波を用いてPWM信号を生成する工程と、をコンピュータに実行させる。
【符号の説明】
【0119】
1 :モータ駆動装置
4 :交流電源
5 :整流回路
6 :インダクタンス部
7 :コンデンサ部
8 :インバータ
9 :圧縮機モータ
11 :CPU
12 :ROM
13 :RAM
15 :通信部
18 :バス
20 :インバータ制御装置
21a :電流取得部
21b :情報取得部
22 :PWM信号生成部
23 :キャリア波生成部
24 :電流センサ
25 :判定部
31 :指令演算部
32 :変調波生成部
33 :比較部
101 :空気調和機
102a:室外機制御装置
102b:室内機制御装置
103 :圧縮機
104 :四方弁
105 :室外熱交換器
106 :室外ファン
107 :アキュムレータ
108 :室内熱交換器
109 :室内ファン
110 :電子膨張弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17