(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】震度推定システム及び震度推定方法
(51)【国際特許分類】
G01V 1/01 20240101AFI20240401BHJP
G01V 1/28 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
G01V1/01 100
G01V1/28
(21)【出願番号】P 2020092061
(22)【出願日】2020-05-27
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000143396
【氏名又は名称】株式会社高見沢サイバネティックス
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】神定 健二
(72)【発明者】
【氏名】高橋 功
(72)【発明者】
【氏名】篠原 芳紀
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-231064(JP,A)
【文献】特開2018-044784(JP,A)
【文献】特開2003-287574(JP,A)
【文献】特開2014-215208(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0340912(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに離れた複数の観測地点のそれぞれにおいて地動を観測し、前記地動の地震動を検出する複数の地震計と、
P波最大加速度値を含む前記地震動に関する情報を前記複数の地震計から受ける上位装置と、
を備え、
前記上位装置において、各観測地点を中心とする複数の地域区画が予め設定されており、
前記複数の地域区画のうち二以上の前記地域区画のそれぞれには、震度を予測すべき対象施設が含まれており、
前記上位装置は、各観測地点にS波が到達するまでの間、前記P波最大加速度値を各地震計から周期的に受け、前記P波最大加速度値に基づいて各観測地点における工学基盤の震度又はS波最大加速度値を推測演算し、各地域区画における工学基盤の震度又はS波最大加速度値が個々の前記地域区画内において均一であるとの仮定の下、各地域区画内における表層地盤増幅率の分布に基づいて、地表面の震度を各地域区画内において面的に推定
し、
各地域区画は、隣り合う少なくとも一つの前記地域区画と接するか又は縁部同士において重なり合っており、
前記複数の観測地点を一本の線にて結んだとき、その線上において互いに隣り合う観測地点間の距離は全て等しく、
前記複数の地域区画における地表面の震度の分布を視覚的に表示する一又は複数の表示部を更に備える、震度推定システム。
【請求項2】
前記複数の地域区画における地表面の震度の分布に関するデータを記録する記録部を更に備える、請求項
1に記載の震度推定システム。
【請求項3】
予測震度別に前記対象施設をグループ分けしたデータを出力する出力部を更に備える、請求項1
または2に記載の震度推定システム。
【請求項4】
前記複数の地域区画の形状は四角形である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の震度推定システム。
【請求項5】
前記複数の地域区画の面積は互いに等しい、請求項1~
4のいずれか1項に記載の震度推定システム。
【請求項6】
隣り合う前記地域区画の縁部同士が重なり合っている地域においては、前記隣り合う地域区画それぞれにおいて推定された前記地表面の震度のうち値が最も大きいものを用いる、請求項1~
5のいずれか1項に記載の震度推定システム。
【請求項7】
前記上位装置は、各地震計から周期的に受ける前記P波最大加速度値から各観測地点におけるS波最大加速度値を推測演算し、前記S波最大加速度値から各観測地点における震度の推定を行い、該震度に基づいて各観測地点における工学基盤の震度を推測演算する、請求項1~
6のいずれか1項に記載の震度推定システム。
【請求項8】
前記対象施設は鉄道設備である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の震度推定システム。
【請求項9】
互いに離れた複数の観測地点のそれぞれを中心とする複数の地域区画を予め設定する設定ステップと、
各観測地点において地動を観測し、前記地動の地震動を検出する検出ステップと、
各観測地点にS波が到達するまでの間、各観測地点のP波最大加速度値に基づいて各観測地点における工学基盤の震度又はS波最大加速度値を推測演算し、各地域区画における工学基盤の震度又はS波最大加速度値が個々の前記地域区画内において均一であるとの仮定の下、各地域区画内における表層地盤増幅率の分布に基づいて、地表面の震度を各地域区画内において面的に推定する推定ステップと、
前記複数の地域区画における地表面の震度の分布を視覚的に表示するステップと、
を含み、
各地域区画は、隣り合う少なくとも一つの前記地域区画と接するか又は縁部同士において重なり合っており、
前記複数の地域区画のうち二以上の前記地域区画のそれぞれには、震度を予測すべき対象施設が含まれて
おり、
前記複数の観測地点を一本の線にて結んだとき、その線上において互いに隣り合う観測地点間の距離は全て等しい、震度推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、震度推定システム及び震度推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、地震計に関する技術が開示されている。この地震計は、計測部、記録部及び演算部を備える。計測部は、観測地点において地動を観測し、地動の地震動を検出する。記録部には、過去に発生した地震データのS波の加速度の最大値と、P波が到達してから連続する複数の予測期間における地震データのP波の加速度の最大値との相関関係が、各予測期間ごとに記録されている。演算部は、各予測期間における相関関係と、計測部により計測された地震動のP波の加速度の最大値とを用いて、観測地点に到達する地震動のS波の加速度の最大値を各予測期間が経過するごとに推定する。
【0003】
特許文献2には、地震報知システムに関する技術が開示されている。この地震報知システムは、震度計及びFM多重表示装置を備える。震度計は、地震波のうち初期微動を検知することにより、地震の予測情報を演算し、演算された予測情報に基づいて地震警報信号を出力する。FM多重表示装置は、震度計に接続され、FM多重放送の文字情報をスクロール表示する。FM多重表示装置は、地震警報信号を入力したときに、地震に関する地震文字情報をFM多重放送の文字情報より優先して表示させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-044784号公報
【文献】特開2011-065496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の地震検知システムにおいては、地震が発生すると、分散配置された複数の観測地点におけるP波の振幅および到達時刻から震源位置及び地震規模(マグニチュード)を算出し、その震源位置を基準とする距離減衰の経験式に基づいて、各地の震度を地震発生直後に推定する。しかしながら、このような方式では、震源位置からの距離が遠い地点ほど推定誤差が大きくなるという問題がある。実際、多くの地点において震源位置からの距離は数十キロないし数百キロに及び、推定誤差を無視できない場合がある。また、地震計を設置している観測地点においては、地震計により検出されたP波の加速度の最大値に基づく経験式からS波の加速度の最大値を推定することも可能であるが(特許文献1を参照)、観測地点ではない地点における正確な震度を推定することが求められる場合もある。例えば、鉄道設備においては、地震が発生した際、鉄道の運行を停止するか否かを正確に決定する為に、各駅における震度、及び駅間の線路上における震度を精度良く推定することが望まれる。通常、これらの鉄道設備においては鉄道の走行による地面の揺れが頻繁に発生するので、これらの鉄道設備は地震計の設置に適さない。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、観測地点ではない地点における震度を精度良く推定することが可能な震度推定システム及び震度推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明の震度推定システムは、互いに離れた複数の観測地点のそれぞれにおいて地動を観測し、地動の地震動を検出する複数の地震計と、P波最大加速度値を含む地震動に関する情報を複数の地震計から受ける上位装置と、を備える。上位装置においては、各観測地点を中心とする複数の地域区画が予め設定されている。複数の地域区画のうち二以上の地域区画のそれぞれには、震度を予測すべき対象施設が含まれている。上位装置は、各観測地点にS波が到達するまでの間、P波最大加速度値を各地震計から周期的に受ける。そして、上位装置は、P波最大加速度値に基づいて各観測地点における工学基盤の震度又はS波最大加速度値を推測演算し、各地域区画における工学基盤の震度又はS波最大加速度値が個々の地域区画内において均一であるとの仮定の下、各地域区画内における表層地盤増幅率の分布に基づいて、地表面の震度を各地域区画内において面的に推定する。
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明の震度推定方法は、互いに離れた複数の観測地点のそれぞれを中心とする複数の地域区画を予め設定する設定ステップと、各観測地点において地動を観測し、地動の地震動を検出する検出ステップと、各観測地点にS波が到達するまでの間、各観測地点のP波最大加速度値に基づいて各観測地点における工学基盤の震度又はS波最大加速度値を推測演算し、各地域区画における工学基盤の震度又はS波最大加速度値が個々の地域区画内において均一であるとの仮定の下、各地域区画内における表層地盤増幅率の分布に基づいて、地表面の震度を各地域区画内において面的に推定する推定ステップと、を含む。各地域区画は、隣り合う少なくとも一つの地域区画と接するか又は縁部同士において重なり合っている。複数の地域区画のうち二以上の地域区画のそれぞれには、震度を予測すべき対象施設が含まれている。
【0009】
これらの震度推定システム及び震度推定方法によれば、地表面の震度を各地域区画内において面的に推定するので、観測地点の周辺における観測地点ではない地点においても震度を精度良く推定することが可能であり、各地域区画に含まれる予測対象施設の震度を精度良く推定することができる。また、各地域区画内の単一の観測地点における観測結果(P波最大加速度値)に基づいて当該地域区画内の震度を推定するので、複数の観測地点における観測結果に基づいて震源位置及び地震規模を算出してから各地の震度を推定する方式と比較して、地震が発生してから震度を推定するまでの所要時間を短くすることができる。
【0010】
上記の震度推定システム及び震度推定方法において、各地域区画は、隣り合う少なくとも一つの地域区画と接するか又は縁部同士において重なり合っていてもよい。この場合、連続して延在する広い地域において震度を面的に推定できるので、例えば鉄道設備といった、長い距離にわたって連続する設備の各地点における震度を精度良く推定することができる。
【0011】
上記の震度推定システムは、複数の地域区画における地表面の震度の分布を視覚的に表示する一又は複数の表示部を更に備えてもよい。この場合、各地域区画内において面的に推定された地表面の震度を、視覚情報によって容易に且つ短時間で理解することができる。
【0012】
上記の震度推定システムは、複数の地域区画における地表面の震度の分布に関するデータを記録する記録部を更に備えてもよい。この場合、各地域区画内において面的に推定された地表面の震度に関するデータを、地震の解析に用いることができる。
【0013】
上記の震度推定システムは、予測震度別に対象施設をグループ分けしたデータを出力する出力部を更に備えてもよい。この場合、推定震度が大きい(すなわち地震被害が大きいと推定される)対象施設を容易に且つ短時間で判別することができる。
【0014】
上記の震度推定システム及び震度推定方法において、複数の地域区画の形状は四角形であってもよい。日本の地震ハザードステーションが提供する表層地盤増幅率のデータの区画は四角形状であるので、地域区画の形状が四角形であることによって演算を容易にできる。
【0015】
上記の震度推定システム及び震度推定方法において、複数の地域区画の面積は互いに等しくてもよい。この場合、各地域区画内における震度の推定時間及び推定精度を複数の地域区画間で均一に近づけることができる。
【0016】
上記の震度推定システム及び震度推定方法において、隣り合う地域区画の縁部同士が重なり合っている地域においては、隣り合う地域区画それぞれにおいて推定された地表面の震度のうち値が最も大きいものを用いてもよい。この場合、当該地域において地震被害を過小に推定することを回避できる。
【0017】
上記の震度推定システムにおいて、上位装置は、各地震計から周期的に受けるP波最大加速度値から各観測地点におけるS波最大加速度値を推測演算し、S波最大加速度値から各観測地点における震度の推定を行い、該震度に基づいて各観測地点における工学基盤の震度を推測演算してもよい。同様に、上記の震度推定方法の推定ステップでは、各観測地点から周期的に受けるP波最大加速度値から各観測地点におけるS波最大加速度値を推測演算し、S波最大加速度値から各観測地点における震度の推定を行い、該震度に基づいて各観測地点における工学基盤の震度を推測演算してもよい。この場合、P波最大加速度値に基づく工学基盤の震度の推測演算を精度良く行うことができる。
【0018】
上記の震度推定システム及び震度推定方法において、対象施設は鉄道設備であってもよい。上述したように、本発明の震度推定システム及び震度推定方法によれば、鉄道設備のような広い範囲に延在する設備であっても、対象施設の震度を精度良く推定することができる。したがって、地震が発生した際、鉄道の運行を停止するか否かの正確な決定に寄与できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明による震度推定システム及び震度推定方法によれば、観測地点ではない地点における震度を精度良く推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる震度推定システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】上位装置の演算部において予め設定されている、各観測地点を中心とする複数の地域区画を示す図である。
【
図3】S波最大加速度値と、複数の予測期間におけるP波最大加速度値との相関関係を示す散布図である。
【
図4】S波最大加速度値と、複数の予測期間におけるP波最大加速度値との相関関係を示す散布図である。
【
図5】S波最大加速度値と、複数の予測期間におけるP波最大加速度値との相関関係を示す散布図である。
【
図6】地震動のS波最大加速度値を推定する方法を説明するためのグラフである。
【
図7】或る地域区画における、地表面と工学基盤とを模式的に示す図である。
【
図9】印刷部から出力される印刷物の内容例を示す。
【
図10】一実施形態による震度推定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照しながら本発明による震度推定システム及び震度推定方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態にかかる震度推定システム1の構成を示すブロック図である。
図1に示されるように、本実施形態の震度推定システム1は、複数の地震計2と、上位装置3と、情報端末4と、通信回路5とを備えている。
【0023】
複数の地震計2は、互いに離れた複数の観測地点のそれぞれにおいて地動を観測し、地動の地震動を検出する。本実施形態の地震計2は、観測部21と、処理部22とを有する。観測部21は、3つの加速度計23と、A/D変換器を含む計測基板24とを含んで構成されている。加速度計23は、観測地点の表層において地動を観測し、地動の地震動を検出する。具体的には、3つの加速度計23が、東西(E-W)方向、南北(N-S)方向、上下(U-D)方向の地震動の加速度を計測する。3つの加速度計23は、上記3方向の地震動の加速度の大きさを示すアナログ信号を、所定のサンプリング周期に同期させて計測基板24に出力する。加速度計23は、サーボ加速度計であってもよく、或いは、サーボ加速度計に代えてMEMS(Micro Electro Mechanical System)加速度センサであってもよい。なお、サーボ加速度計或いはMEMS加速度センサを用いることにより、上記3方向の地震動の加速度について所定の精度が得られることが望ましい。また、加速度計23は、上記3方向の加速度の大きさを計測できれば、4つ以上設けられてもよい。
【0024】
計測基板24は、3つの加速度計23に電気的に接続されている。計測基板24のA/D変換器は、アナログ信号をデジタル信号(加速度データ)に変換する。A/D変換器は、所定の周期で加速度データを生成する。A/D変換器は、加速度データを所定のデータに細分化したのち処理部22に出力する。
【0025】
処理部22は、計測基板24と電気的に接続されている。処理部22には、計測基板24のA/D変換器から出力された加速度データが入力される。処理部22は、地震動の発生を監視する。具体的には、処理部22は、観測データ処理部25を含んで構成されている。観測データ処理部25は、加速度データから地震動のP波及びS波の到達を判定する。観測データ処理部25は、地震動のP波又はS波が到達したと判定した後、加速度データの解析処理を行う。観測データ処理部25は、地震動のP波が到達したと判定した時刻以降の加速度データから、地震動のP波の加速度の最大値を、トリガ時刻以降の連続する複数の予測期間ごとに抽出する。また、観測データ処理部25は、地震動のS波が到達したと判定した時刻(トリガ時刻)以降の加速度データから、地震動のS波の加速度の最大値を、トリガ時刻以降の連続する複数の計測期間ごとに抽出する。処理部22は、観測データ処理部25において抽出したP波最大加速度値又はS波最大加速度値を含む地震動に関する情報(以下、地震情報という)を、通信回路5を介して上位装置3へ出力する。なお、観測データ処理部25がP波及びS波のいずれでもないと判定した場合には、処理部22は、上位装置3への地震情報の出力を行わない。処理部22が地震情報を出力する周期は、例えば1秒以上3秒以下であり、一実施例では1秒である。
【0026】
上位装置3は、演算部31と、入出力部32と、表示部33と、操作部34と、時刻校正部35とを有する。演算部31は、通信回路5と接続されており、通信回路5を介して複数の地震計2から地震情報を周期的に受ける。演算部31は、各観測地点にS波が到達するまでの間、P波最大加速度値に基づいて、各観測地点及びその周辺の地表面のS波最大加速度値及び震度を推定する。また、演算部31は、各観測地点にS波が到達して以降、S波最大加速度値に基づいて、各観測地点及びその周辺の地表面の震度を推定する。演算部31は、例えばCPU及び記憶装置(ROM、ハードディスク等)を含むコンピュータにより構成され得る。演算部31の各機能は、記憶装置に記憶されたプログラムをCPUが読み込んで実行することにより実現される。
【0027】
ここで、
図2は、上位装置3の演算部31において予め設定されている、各観測地点Qを中心とする複数の地域区画Rを示す図である。
図2には、震度を予測すべき対象施設としての鉄道設備(鉄道駅Ta、鉄道線路Tbおよび変電所Tc)が併せて示されている。また、
図2には、図の中心を震源と仮定したときの、P波の1秒ごとの平均的な広がりを示す同心円C1~C3が併せて示されている。複数の鉄道駅Taのうち、2つの路線が結合する鉄道駅Ta1は、特に重要な対象施設である。他の鉄道駅Ta2は、鉄道駅Ta1に次いで重要な対象施設である。各観測地点Qには、地震計2が設置される。観測地点Qは、当該地域区画R内の対象施設に近接する(但し、一致しない)位置に設定される。
【0028】
各地域区画Rは、例えば多角形または円形といった任意の様々な形状とされ得る。一例では、各地域区画Rは四角形であり、図示例の各地域区画Rは正方形である。複数の地域区画Rの面積は互いに等しいことが好ましいが、互いに異なっていてもよい。地域区画Rの形状が正方形である場合、一辺の長さは例えば0.25km以上1km以下である。複数の地域区画Rのうち二以上の地域区画Rのそれぞれには、震度を予測すべき対象施設である鉄道駅Ta及び鉄道線路Tbが含まれている。なお、図示例では全ての地域区画Rに鉄道駅Ta及び鉄道線路Tbの双方が含まれているが、一部の地域区画Rには鉄道駅Ta及び鉄道線路Tbのうち鉄道線路Tbのみが含まれてもよい。各地域区画Rは、隣り合う少なくとも一つの地域区画Rと接するか、又は、隣り合う少なくとも一つの地域区画Rと縁部同士において重なり合っている。
【0029】
また、
図2に示されるように、複数の観測地点Qを一本の線Lにて結んだとき、その線L上において互いに隣り合う観測地点Q間の距離は全て等しい。言い換えると、線L上において互いに隣り合う観測地点Q同士を線分で結んだとき、全ての線分の長さは互いに等しい。線L上において互いに隣り合う観測地点Q間の距離は、例えば1km以上6km以下である。対象施設が鉄道設備である場合、その距離は例えば5kmである。なお、複数の観測地点Qを一本の線Lにて結ぶ場合、その結び方(観測地点Qの結合順序)は複数通りあるが、そのうちの少なくとも一通りの結び方においてこの条件を満たしていればよい。線L上には、通信回線が敷設されてもよい。
【0030】
演算部31は、各観測地点QにS波が到達するまでの間、各地震計2から周期的に受けるP波最大加速度値に基づいて、まず各観測地点QにおけるS波最大加速度値を推測演算する。次に、演算部31は、各観測地点QにおけるS波最大加速度値に基づいて、各観測地点Qにおける震度の推定を行う。そして、演算部31は、推定した震度に基づいて、各観測地点Qの直下における工学基盤の震度を推測演算する。或いは、演算部31は、各観測地点QにおけるS波最大加速度値に基づいて、各観測地点Qの直下における工学基盤のS波最大加速度値を推測演算してもよい。演算部31は、各地域区画Rにおける工学基盤の震度又はS波最大加速度値が個々の地域区画R内において均一であるとの仮定の下、各地域区画R内における表層地盤増幅率(ARV)の分布に基づいて、地表面の震度を各地域区画R内において面的に推定する。以下、このような演算部31の処理について詳細に説明する。
【0031】
まず、演算部31は、各観測地点QにおけるP波最大加速度値に基づいて、当該観測地点QにおけるS波最大加速度値の推測演算を行う。この処理において、演算部31は、各地震計2から周期的に受けるP波最大加速度値、及び、過去に発生した地震データのP波最大加速度値とS波最大加速度値との相関関係を示す関係式を用いて、S波最大加速度値を各周期毎に推定する。この関係式は、演算部31が有する記憶装置に記憶されている。或いは、この関係式は、入出力部32が有する記録部32a(後述)に記憶されてもよい。
【0032】
この相関関係は、過去に発生した複数の地震における、S波最大加速度値と、P波が到達してから連続する複数の予測期間におけるP波最大加速度値との相関関係である。なお、過去に発生した複数の地震に関するデータとしては、例えば国立研究開発法人防災科学技術研究所(NIED)が所有する国内地震の地震データを用いることができる。
【0033】
図3(a)、
図3(b)、
図4(a)、
図4(b)、
図5(a)、及び
図5(b)は、S波最大加速度値と、複数の予測期間T
1~T
6におけるP波最大加速度値との相関関係を示す散布図である。
図3(a)はP波の到達後から0.50秒経過時までの予測期間T
1、
図3(b)はP波の到達後0.51秒経過時から1.00秒経過時までの予測期間T
2、
図4(a)はP波の到達後1.01秒経過時から2.00秒経過時までの予測期間T
3、
図4(b)はP波の到達後2.01秒経過時から3.00秒経過時までの予測期間T
4、
図5(a)はP波の到達後3.01秒経過時から4.00秒経過時までの予測期間T
5、
図5(b)はP波の到達後4.01秒経過時から5.00秒経過時までの予測期間T
6における関係を示す。これらの散布図において、横軸はP波最大加速度値(単位:Gal、ただし1Gal=0.01m/s
2)の対数値を表し、縦軸はS波最大加速度値(単位:Gal)の対数値を表している。グラフG10~G15は、これらの散布図の直線近似式である。これらの散布図に示されるように、S波最大加速度値Yと、複数の予測期間T
1~T
6におけるP波最大加速度値Xとの間には、有意な相関関係が存在する。
【0034】
相関関係を示す関係式は、例えばこれらの散布図において、グラフG10~G15に示される直線近似式である。関係式は、次の数式のように表される。
【数1】
係数a及びbは、S波最大加速度値YとP波最大加速度値Xとを直線近似したときに得られる係数である。なお、これらの散布図に示されるように、地震データのP波が到達してから、予測期間T
6に近づくほど、相関関係は収束している。すなわち、地震データのP波が到達してから時間が経過するほど、S波最大加速度値Yを精度良く推定することができる。演算部31は、各地震計2から提供されたP波最大加速度値を、(1)式のP波最大加速度値Xに当て嵌めることにより、のちに観測地点Qに到達する地震動のS波最大加速度値を推定することができる。
【0035】
ここで、地震動のS波最大加速度値を推定する具体的な方法について説明する。
図6は、地震動のS波最大加速度値を推定する方法を説明するためのグラフである。
図6において、横軸は時間(単位:秒)を表し、縦軸は地震動のP波及びS波の加速度(単位:Gal)を表している。T
Pは、地震動のP波が到達した時刻であり、T
Sは、地震動のS波が到達した時刻である。S
MAXは、地震動のS波最大加速度値を示す。
図6において、時刻T
Pから時刻T
Sの間には、連続する複数の予測期間T
1~T
4が含まれる。すなわち、各予測期間T
1~T
4は、地震動のP波が到達してから地震動のS波が到達するまでのP波の継続期間に含まれる。
図6に示されるように、地震動のS波最大加速度値S
MAXに対して、各予測期間T
1~T
4における地震動のP波最大加速度値は、それぞれa1倍、b1倍、c1倍、d1倍である。a1、b1、c1、d1は互いに異なる。したがって、各予測期間T
1~T
4に対応する(1)式をそれぞれ用いることにより、地震動のS波最大加速度値を推定することができる。具体的には、各予測期間T
1~T
4に対応する(1)式に、各予測期間T
1~T
4における地震動のP波最大加速度値Xをそれぞれ代入することによって、前述したように各予測期間T
1~T
4ごとに地震動の時間が経過するほど、S波最大加速度値Yを精度良く推定することができる。
【0036】
次に、演算部31は、各観測地点Qに関する推定したS波最大加速度値に基づいて、各観測地点Qにおける震度の推定を行う。S波最大加速度値に基づく震度の算出は、震度計算アルゴリズムを用いて行うことができる。震度計算アルゴリズムは、気象庁により制定された、震度計が満たすべき性能の技術基準に基づいて定められている。
【0037】
続いて、演算部31は、推定した震度に基づいて、各観測地点Qの直下における工学基盤の震度を推測演算する。ここで、
図7は、或る地域区画Rにおける、地表面Gaと、工学基盤Gbとを模式的に示す図である。
図7には、更に、地表面Gaにおいて一つの地域区画Rを分割して成る複数の単位区画Raと、各単位区画Raに対して個別に与えられている表層30mの平均S波速度データ(AVS30、防災科学技術研究所提供の地震ハザードステーション(J-SHIS)の観測点データとして公開)Daとが模式的に示されている。各単位区画Raの平面形状は正方形であり、各単位区画Raの一辺の長さは例えば250mである。地域区画Rにおいて、単位区画Raは複数行及び複数列の二次元状に配列されている。各単位区画Raにおける表層地盤増幅率ARVは、AVS30に基づいて、経験的に、下記の数式(2)により求められる。
【数2】
また、工学基盤Gbにおける震度Irbは、地表面Gaにおける震度Iraと表層地盤増幅率ARVとに基づいて、経験的に、下記の数式(3)により求められる。
【数3】
演算部31は、数式(2)を用いて、観測地点Qにおける表層地盤増幅率ARVを算出する。そして、演算部31は、既に推定した観測地点Qにおける震度Iraを数式(3)に当て嵌めることにより、観測地点Qの直下の地点Qbにおける震度Irbを推定する(図中の矢印A1)。
【0038】
或いは、演算部31は、観測地点Qにおける推定したS波最大加速度値に基づいて、各観測地点Qの直下における工学基盤GbのS波最大加速度値を推測演算してもよい。この演算もまた、上記数式(3)に準じた関係によって行われる。この場合、各観測地点Qに関する推定したS波最大加速度値に基づく、各観測地点Qにおける震度の推定は不要である。
【0039】
続いて、演算部31は、各地域区画Rにおける工学基盤Gbの震度Irb又はS波最大加速度値が個々の地域区画R内において均一であるとの仮定の下、各地域区画R内における表層地盤増幅率ARVの分布に基づいて、地表面Gaの震度Iraを各地域区画R内において面的に推定する。震源からの地震波は、地震基盤及び工学基盤Gbを経由して地表面Gaの観測地点Qに到達する。工学基盤Gbまでは比較的均質であるので、工学基盤Gbでの震度Irb及びS波最大加速度値は、或る限定された区画(地域区画R)の範囲内ではほぼ均一であると仮定することができる。また、面的に推定するとは、地域区画Rを分割して成る複数の単位区画Raのそれぞれにおいて震度Iraを推定することにより、地域区画Rの全域において震度Iraを推定することをいう。
【0040】
すなわち、演算部31は、数式(2)を用いて、観測地点Qを含む単位区画Raを除く他の単位区画Raにおける表層地盤増幅率ARVを算出する。これにより、地域区画R内における表層地盤増幅率ARVの分布が得られる。そして、演算部31は、算出した各単位区画Raの表層地盤増幅率ARVと、工学基盤Gbの震度Irbとを数式(3)に当て嵌めることにより(すなわち地域区画R内における表層地盤増幅率ARVの分布に基づいて)、各単位区画Raの震度Iraを推定する(図中の矢印A2)。或いは、演算部31は、算出した各単位区画Raの表層地盤増幅率ARVと、工学基盤GbのS波最大加速度値とを数式(3)に準ずる数式に当て嵌めることにより、各単位区画Raの地表面GaにおけるS波最大加速度値を推定し、そのS波最大加速度値から各単位区画Raの震度Iraを求める。演算部31は、このような推定演算を、全ての地域区画Rについて行う。
図2に示された対象設備(鉄道駅Ta、鉄道線路Tbおよび変電所Tc)はいずれかの単位区画Raに必ず含まれるので、このような推定演算により、対象設備における震度Iraを推定することができる。
【0041】
なお、各観測地点にS波が到達した後においては、演算部31は、各地震計2から周期的に提供されるS波最大加速度値に基づいて、各観測地点Qにおける震度Iraを算出する。そして、演算部31は、算出した震度Iraに基づいて(又は、各観測地点QにおけるS波最大加速度値に基づいて)、各観測地点Qの直下における工学基盤の震度Irb(又はS波最大加速度値)を演算する。演算部31は、各地域区画Rにおける工学基盤の震度Irb(又はS波最大加速度値)が個々の地域区画R内において均一であるとの仮定の下、各地域区画R内における表層地盤増幅率ARVの分布に基づいて、各単位区画Raの震度Iraを推定(すなわち各地域区画R内において震度Iraを面的に推定)する。
【0042】
また、
図2において隣り合う地域区画Rの縁部同士が重なり合っている地域においては、隣り合う地域区画Rそれぞれにおいて推定された地表面Gaの震度Iraのうち値が最も大きいものを、その地域の震度とする。
【0043】
再び
図1を参照する。入出力部32は、通信回路5を介して複数の情報端末4と通信を行うための通信インターフェイスである。また、入出力部32は、上位装置3が有する演算部31、表示部33、操作部34、及び時刻校正部35と電気的に(例えばデータバスを介して)接続されている。更に、入出力部32は、警報部6及び外部表示部7と電気的に(又は無線通信手段を通じて)接続されている。入出力部32は、これらの構成要素間の通信に用いられる通信プロトコルの変換、及びこれらの構成要素に入出力する信号を論理レベル変換する機能を有する。入出力部32は、演算部31が推定した震度Iraに関するデータを演算部31から受け取る。そして、入出力部32は、震度Iraに関するデータを、通信回路5を介して複数の情報端末4へ出力し、更に表示部33及び外部表示部7へ出力する。
【0044】
入出力部32は、記録部32aを含む。記録部32aとしては、例えばCFカードなどの記憶媒体が用いられる。記録部32aは、演算部31により推測された、複数の地域区画Rにおける地表面Gaの震度Iraの分布に関するデータを記録する。なお、記録部32aに記録されるデータは、例えばパソコンを用いて閲覧が可能なフォーマットにて記録される。このように、震度分布に関するデータを記録することにより、当該データの二次的利用や、震度に基づく地域または施設のグループ分けが容易となる。
【0045】
表示部33は、複数の地域区画Rにおける地表面Gaの震度Iraの分布を、例えば時間変化を含む動画画像として視覚的に表示することができる。この表示画像により、地震動の広がりや各施設の被害状況などの推測が視覚に基づいて可能となる。操作部34は、使用者が表示部33の表示画面の操作を行う為に設けられている。具体的には、保守運用の操作、警報解除信号の出力、画面表示のクリア、及び、例えば推定データや実測データを含む地震情報の一覧の表示といった操作が行われる。
【0046】
時刻校正部35には、時刻を管理する高精度時計が内蔵されている。屋外に設置されているGPSレシーバから1秒ごとに出力されるパルス信号によって、高精度時計の校正処理が自動的に行われる。3つの加速度計23のサンプリング周期は、高精度時計に同期している。サンプリング周期の同期は、3つの加速度計23に対して同時に行われる。
【0047】
警報部6は、回転灯及び警報音により警報を発生する機能を有する。また、警報部6は、例えば利用者の携帯機器であってもよく、その場合、携帯機器を無線通信により入出力部32に接続して、警報を発生する機能を有する。警報部6は、各予測期間が経過するごとに、入出力部32から入力される警報発生信号或いは警報解除信号に従って、警報を発生するか、或いは警報の発生を解除する。警報部6は、警報発生信号が入力された場合に警報を発生し、警報解除信号が入力された場合に警報を解除する。
【0048】
外部表示部7は、演算部により推定された震度等の地震情報を表示する機能を有する。外部表示部7は、上位装置3が設置されている場所とは異なる場所に設置され、地震動のS波が到達するまで予測データを表示する早期地震表示盤であってもよく、或いは、観測地点Qから離れた場所に設置され、地震情報を表示する遠隔表示盤であってもよい。
【0049】
各情報端末4は、例えば主要施設(指令・保守区など)に配置される。各情報端末4は、対象施設の管理者が携帯可能な大きさを有してもよい。各情報端末4は、通信回路5を介して上位装置3と接続されており、上位装置3において推測された震度等の連絡情報を上位装置3から受け取る。各情報端末4は、入出力部41と、表示部42と、印刷部43とを有する。入出力部41は、通信回路5を介して上位装置3と通信を行うための通信インターフェイスである。また、入出力部41は、当該情報端末4が有する表示部42及び印刷部43と電気的に(例えばデータバスを介して)接続されている。
【0050】
表示部42は、上位装置3の表示部33と同様の表示を行う。すなわち、表示部42は、複数の地域区画Rにおける地表面Gaの震度Iraの分布を、例えば時間変化を含む動画画像として視覚的に表示することができる。また、表示部42は、例えば推定データや実測データを含む地震情報の一覧の表示を行うこともできる。一例では、表示部33及び42はカラー液晶ディスプレイとタッチパネルとを含む。タッチパネルは、カラー液晶ディスプレイの表示画面を視認可能な状態にて、カラー液晶ディスプレイに取り付けられる。タッチパネルは、利用者のタッチ操作を受け付ける。タッチパネルがタッチ操作されることにより、カラー液晶ディスプレイの表示画面の操作が行われる。
【0051】
図8は、表示部33及び42における表示例を示す図である。この例では、対象施設(鉄道駅Ta、鉄道線路Tbおよび変電所Tc)を含む地図が示され、各対象施設の近傍に、その対象施設における推定震度を施設名称(A~I及びX)とともに示す表示領域が設けられている。推定震度の表示領域は、推定震度の大きさに応じて色分けして示される。また、推定震度の表示領域は、タッチパネルにおける震度表示選択部B1を兼ねる。震度表示選択部B1は、画面中の部分Dにおいて詳細な地震情報を表示する施設を切り替えるための入力を受け付ける。
【0052】
また、タッチパネルは、路線選択部B2及びB3、画面表示クリア部B4、地震履歴切り替え部B5、及び印刷操作部B6を含む。路線選択部B2及びB3は、カラー液晶ディスプレイに表示する路線を切り替えるための入力を受け付ける。画面表示クリア部B4は、画面表示をクリア(初期化)するための入力を受け付ける。地震履歴切り替え部B5は、カラー液晶ディスプレイに表示する情報として地図情報と地震履歴情報とを相互に切り替えるための入力を受け付ける。印刷操作部B6は、印刷部43による印刷を行うための入力を受け付ける。
【0053】
前述した平均S波速度データDaには、観測点データと、緯度及び経度のデータとが含まれる。そこで、表示部33及び42には、対象施設を含む所定範囲における地図情報の緯度及び経度と、各単位区画Raの緯度及び経度とを一致させて、推定震度を示す情報を地図に重ね合わせて表示してもよい。また、地図上において震度分布を色分けして表示してもよい。その場合、所定範囲の推定震度を視覚情報として容易に認識することができる。
【0054】
印刷部43は、本実施形態における出力部の例であり、例えば推定震度別に対象施設をグループ分けしたデータ等、推定震度に関するデータを印刷して出力することができる。
図9は、印刷部43から出力される印刷物の内容例を示す。一例として、印刷部43は、震度情報(地震発生を最初に観測した地震計の設置場所、日時、ガル値)、推定震度、重要施設に対する規制(停止、警戒、又は規制なし)、及び区域別規制内容(重要施設と対応して示す)を印刷する。なお、各情報端末4は、表示部42及び印刷部43のうち一方のみを有してもよい。各情報端末4が表示部42を有しない場合、表示部は上位装置3にのみ設けられてもよい。
【0055】
通信回路5は、例えばインターネット、電話回線等の情報通信網である。通信回路5は、有線及び無線のいずれであってもよい。
【0056】
図10は、本実施形態による震度推定方法を示すフローチャートである。この震度推定方法は、例えば上述した震度推定システム1を用いて実施することができる。この震度推定方法では、まず、上位装置3において、互いに離れた複数の観測地点Qのそれぞれを中心とする複数の地域区画Rを設定する(設定ステップST1)。次に、複数の地震計2において地動を観測し、地動の地震動を検出する(検出ステップST2)。この検出ステップST2において、各地震計2は、3つの加速度計23から得られる加速度データから、地震動のP波の到達を判定する。各地震計2がP波の到達を判定した場合(検出ステップST2:YES)、上位装置3は、これらの地震計2に対応する観測地点Qの地表面GaにおけるS波最大加速度値を推測演算する(第1の推定ステップST3)。このとき、上位装置3は、必要に応じて、観測地点Qの地表面GaにおけるS波最大加速度値から、観測地点Qの地表面Gaにおける震度を求める。また、上位装置3は、J-SHISから予め取得した、各観測地点Qにおける表層30mの平均S波速度データ(AVS30)を読み出す(ステップST4)。そして、上位装置3は、第1の推定ステップST3において演算した各観測地点Qにおける震度(又はS波最大加速度値)と、ステップST4において読み出した各観測地点QのAVS30とに基づいて、各観測地点Qの直下における工学基盤Gbの震度(又はS波最大加速度値)を推測演算する(第2の推定ステップST5)。
【0057】
続いて、上位装置3は、J-SHISから予め取得した、各観測地点Qを除く他の単位区画RaのAVS30を読み出す(ステップST6)。そして、上位装置3は、各地域区画Rにおける工学基盤Gbの震度(又はS波最大加速度値)が個々の地域区画R内において均一であるとの仮定の下、第2の推定ステップST5において演算した工学基盤Gbの震度(又はS波最大加速度値)と、ステップST6において読み出した各単位区画RaのAVS30とに基づいて、観測地点Qを除く他の単位区画Raの地表面Gaの震度を推定する(第3の推定ステップST7)。そして、上位装置3は、推定した震度等の連絡情報を、情報端末4へ発信する(ステップST8)。また、上位装置3は、所定地域の面的震度分布を作成し、記録する(ステップST9)。上位装置3は、以上のステップST3~ST9を、所定の予測時間が経過する毎に繰り返す(ステップST10)。
【0058】
以上に説明した本実施形態による震度推定システム1及び震度推定方法によって得られる効果について説明する。地震被害をもたらす地震波には、P波とS波とがある。P波の伝搬速度は約6km/秒であり、S波の伝搬速度は約3.5km/秒である。これらの地震波をリアルタイムで捉えて強震動の予測及び情報発信を行うためには、観測網における観測点間の距離を地震波の伝搬速度と同等もしくはそれ以下とし、データ取得の時間間隔を1秒以下とすることが望ましい。また、地震被害は、主にS波及び表面波によりもたらされる。一方、P波の振幅とS波の振幅との間には相関関係が存在し、P波の振幅に基づいて、S波の振幅ひいては震度を予測することができる。P波を用いた震度予測は、震央からの距離および震源の深さが増すほど、時間的な余裕をもって揺れに備えることができるので有用である。また、地殻内にて発生するマグニチュード7程度かそれ以上の地震の場合、その震源の深さは少なくとも10km程度あり、P波とS波との到達時間差は1.7秒以上ある。加えて、破壊の成長時間による強震動の到達の遅れを考慮すると、P波の到達から強震動の到達までは3~4秒の時間がある。この時間は、回避行動のためには過小ではあるが、最も被害が大きい震源地付近に対しても強震動の到達前に予測の伝達が可能であることを意味する。例えば、鉄道の自動管制その他の稼働施設のシャットダウンのために予測情報を用いることにより、被害を軽減することが可能となる。
【0059】
本実施形態の震度推定システム1及び震度推定方法によれば、地表面Gaの震度を各地域区画R内において面的に推定するので、観測地点Qの周辺における観測地点Qではない地点においても震度を精度良く推定することが可能であり、各地域区画Rに含まれる対象施設の震度を精度良く推定することができる。また、各地域区画R内の単一の観測地点Qにおける観測結果(P波最大加速度値)に基づいて当該地域区画R内の震度を推定するので、複数の観測地点Qにおける観測結果に基づいて震源位置及び地震規模(マグニチュード)を算出してから各地の震度を推定する方式と比較して、地震が発生してから震度を推定するまでの所要時間を短くすることができる。よって、被害状況の早期把握が可能となる。
【0060】
また、震源位置及び地震規模を算出してから各地の震度を推定する方式では、3点以上の観測地点における観測結果に基づいて震源位置及び地震規模を算出するので、震源及びその周辺地域は、震度予測が不可能な、いわゆる“ブラインドゾーン”となる。すなわち、震源位置及び地震規模を算出するには約6km/秒で伝播するP波を3つ以上の観測地点で捉える必要があるので、例えば観測地点間の平均間隔が20kmである場合、震源を中心とする半径30km~40kmの地域では震度予測が不可能となる。震源及びその周辺の地域は被害が集中する破壊域であるので、この地域の震度予測が不可能であることは大きな問題である。これに対し、本実施形態では、一つの観測地点における観測結果に基づいて、該観測地点の周辺の震度分布を推定するので、このようなブラインドゾーンの問題は生じない。したがって、震源付近の震度予測も可能となる。
【0061】
また、従来の震度推定方式では、震度の過小評価を回避して対象施設の安全を優先するために、震度を比較的高めに推定する傾向がある。対象施設が鉄道設備等である場合、推定した震度を高めとすると運行再開判断のランクも高くなり、運転中止や保守点検を必要する範囲が広くなってしまう。これに対し、本実施形態では、対象施設の近傍に位置する観測地点QにおけるP波最大加速度値の実測データを利用して対象施設の震度を推定するので、震度をより正確に推定することができ、運転中止や保守点検を必要する範囲が無駄に広がることを抑制できる。
【0062】
また、本実施形態によれば、観測地点Qに設置される地震計2の機能は少なくともP波到達判断とP波最大振幅値の計測とが可能であれば足りるので、システム全体のコスト削減を図ることができる。
【0063】
本実施形態のように、各地域区画Rは、隣り合う少なくとも一つの地域区画Rと接するか又は縁部同士において重なり合っていてもよい。この場合、連続して延在する広い地域において震度を面的に推定できるので、例えば鉄道設備といった、長い距離にわたって連続する設備の各地点における震度を精度良く推定することができる。
【0064】
本実施形態のように、震度推定システム1は、複数の地域区画Rにおける地表面Gaの震度の分布を視覚的に表示する表示部33及び42を備えてもよい。この場合、各地域区画R内において面的に推定された地表面Gaの震度を、視覚情報によって容易に且つ短時間で理解することができる。そして、表示部33及び42に表示された情報に基づいて、対象施設の規制や地震防災対策を迅速に実施することが可能となる。
【0065】
本実施形態のように、震度推定システム1は、複数の地域区画Rにおける地表面Gaの震度の分布に関するデータを記録する記録部32aを備えてもよい。この場合、各地域区画R内において面的に推定された地表面Gaの震度に関するデータを、地震の解析に用いることができる。
【0066】
本実施形態のように、震度推定システム1は、予測震度別に対象施設をグループ分けしたデータを出力する出力部(印刷部43)を備えてもよい。この場合、推定震度が大きい(すなわち地震被害が大きいと推定される)対象施設を容易に且つ短時間で判別することができる。そして、出力されたデータに基づいて、対象施設の規制や地震防災対策を迅速に実施することが可能となる。
【0067】
本実施形態のように、複数の地域区画Rの形状は四角形であってもよい。J-SHISが提供するAVS30の区画は四角形状であるので、地域区画Rの形状が四角形であることによって演算を容易にできる。
【0068】
本実施形態のように、複数の地域区画Rの面積は互いに等しくてもよい。この場合、各地域区画R内における震度の推定時間及び推定精度を複数の地域区画R間で均一に近づけることができる。
【0069】
本実施形態のように、隣り合う地域区画Rの縁部同士が重なり合っている地域においては、隣り合う地域区画Rそれぞれにおいて推定された地表面Gaの震度のうち値が最も大きいものを用いてもよい。この場合、当該地域において地震被害を過小に推定することを回避できる。
【0070】
本実施形態のように、上位装置3は(推定ステップST3,ST5,ST7では)、各地震計2から周期的に受けるP波最大加速度値から各観測地点QにおけるS波最大加速度値を推測演算し、S波最大加速度値から各観測地点Qにおける震度の推定を行い、該震度に基づいて各観測地点Qにおける工学基盤Gbの震度を推測演算してもよい。この場合、P波最大加速度値に基づく工学基盤Gbの震度の推測演算を精度良く行うことができる。
【0071】
本実施形態のように、対象施設は鉄道設備(鉄道駅Ta、鉄道線路Tbおよび変電所Tc)であってもよい。上述したように、本実施形態の震度推定システム1及び震度推定方法によれば、鉄道設備のような広い範囲に延在する設備であっても、対象施設の震度を精度良く推定することができる。したがって、地震が発生した際、鉄道の運行を停止するか否かの正確な決定に寄与でき、また、運行再開判断の支援を行うことができる。なお、対象施設は鉄道設備に限られず、例えば鉄道以外の建造物や道路といった様々な施設を対象施設とすることができる。
【0072】
本発明による震度推定システム及び震度推定方法は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では、P波最大加速度値に基づく震度又はS波最大加速度値の推定を上位装置3が行っているが、震度又はS波最大加速度値を推定するための各演算の少なくとも一部を各地震計2が行ってもよい。言い換えると、上位装置3の演算部31の機能の少なくとも一部を各地震計2が担ってもよい。
【符号の説明】
【0073】
1…震度推定システム、2…地震計、3…上位装置、4…情報端末、5…通信回路、6…警報部、7…外部表示部、21…観測部、22…処理部、23…加速度計、24…計測基板、25…観測データ処理部、31…演算部、32…入出力部、32a…記録部、33…表示部、34…操作部、35…時刻校正部、41…入出力部、42…表示部、43…印刷部、B1…震度表示選択部、B2…路線選択部、B3…路線選択部、B4…画面表示クリア部、B5…地震履歴切り替え部、B6…印刷操作部、Da…平均S波速度データ、Ga…地表面、Gb…工学基盤、L…線、Q…観測地点、Qb…観測地点の直下の地点、R…地域区画、Ra…単位区画、T1~T6…予測期間、TP,TS…時刻、Ta,Ta1,Ta2…鉄道駅、Tb…鉄道線路、Tc…変電所。