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特許7463198平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキ及びインキ硬化物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキ及びインキ硬化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/101 20140101AFI20240401BHJP
   B41M 1/30 20060101ALI20240401BHJP
   B41M 1/06 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
C09D11/101
B41M1/30 D
B41M1/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020103644
(22)【出願日】2020-06-16
(65)【公開番号】P2021195468
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】310000244
【氏名又は名称】DICグラフィックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(72)【発明者】
【氏名】松尾 育男
(72)【発明者】
【氏名】三品 彰義
(72)【発明者】
【氏名】山本 博之
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-174994(JP,A)
【文献】国際公開第2019/017270(WO,A1)
【文献】特開2017-066348(JP,A)
【文献】特開2019-143136(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
B41M 1/30
B41M 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和二重結合を有するモノマー、金属錯体、顔料、極性基含有分散剤、及び融点90℃以上のワックスを含有し、以下を満たすことを特徴とする平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキ。
(1)金属錯体の添加量は、平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキ全量に対し0.03-2質量%である。
(2)極性基含有分散剤の添加量は、平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキ全量に対し0.02-7質量%である。
(3)融点90℃以上のワックスの添加量は、平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキ全量に対し0.3-10質量%である。
【請求項2】
前記ワックスの融点が、融点113℃以上である請求項1に記載の平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキ。
【請求項3】
前記ワックスが、炭化水素系ワックス及び/又はフッ素系ワックスである請求項1又は2に記載の平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化性インキ。
【請求項4】
前記金属錯体の中心金属が、アルミニウム、チタニウム、ジルコニウムのいずれかである請求項1~3のいずれか1つに記載の平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化性インキ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキを用いてオフセット印刷し、印刷されたインキを、活性エネルギー線を用いて硬化させることを特徴とするインキ硬化物の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のインキ硬化物の製造方法で得られた印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は印刷インキ用途に好適に用いることができる組成物及びこれを用いた印刷インキ、前記印刷インキを印刷してなる印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキは、紫外線等のエネルギー線照射により瞬時に硬化し得るため作業性に優れること、基本的に無溶剤で用いられるために環境負荷が比較的低いこと等の利点から、紙面印刷の他、プラスチック包装材等様々な用途に用いられている。
【0003】
フォーム輪転印刷は、一般的に、固定絵柄をフォーム輪転印刷機で単色又は多色でプレプリントし、オフライン工程で可変データを入力する印刷分野で用いられており、主に連続伝票、配送伝票などの各種伝票類や、ダイレクトメール、ラベル、請求書、領収書等の印刷に用いられている。 フォーム輪転印刷では、平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキを基材に印刷してなる印刷物は、フォーム輪転印刷分野における熱転写方式のオフライン加工に対する優れた適性(耐熱転移性)が求められる。また、印刷適性の他、長時間印刷に耐えうるインキ流動性が求められる。しかし、活性エネルギー線硬化型インキは、酸化重合型インキと比較して印刷機上にインキを溜めるインキつぼ中での流動性(静置流動性)が劣っていた。すなわち、インキを印刷版上に安定的に供給することが難しかったため印刷紙面上の濃度が安定せず、インキつぼ内の頻繁な撹拌がなければ安定した品質の印刷物を生産することができず生産性が低かった。そのため、連続印刷性(初期の印刷品質と後期の印刷品質に差が少ないこと)が酸化重合型インキより劣っていた。
【0004】
耐熱転移性を改良する方法として高融点ワックスであるポリテトラフルオロエチレンワックスを添加することは公知であり、例えば特許文献1では、特定の黄顔料であるC.I Pigment Yellow 151及び/又はC.I Pigment Yellow 174を使用するインキにおいて、平均粒子径が2~8μmのポリテトラフルオロエチレンワックスと、4官能以上のエチレン性二重結合を有する化合物と、光重合開始剤、重合禁止剤とを含有する活性エネルギー線硬化型黄インキが、表面硬化性、耐スクラッチ性、印刷物の熱転移性に優れることが記載されている(例えば特許文献1参照)。
しかしながら特許文献1には、ポリテトラフルオロエチレンワックス以外のワックスを使用した場合の知見についてはなんら記載されてはおらず、またインキ流動性についての知見も記載されていない。
【0005】
インキ流動性については、(メタ)アクリレート化合物と、有機金属化合物(ただし、顔料を除く)と、極性基含有分散剤と、顔料とを含み、前記有機金属化合物が、アルミニウム、チタンおよびジルコニウムからなる群より選択される金属のアルコシキド、そのアシレート、またはその錯体である、活性エネルギー線硬化型印刷インキが知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-210868号公報
【文献】特開2017-66348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、フォーム輪転印刷に適し、耐スクラッチ性、印刷物の耐熱転移性、連続印刷適性とインキ流動性とのバランスに優れた平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、エチレン性不飽和二重結合を有するモノマー、金属錯体、顔料、極性基含有分散剤、及び特定のワックスを、各々特定量含有する平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキが上記課題を解決することを見出した。
【0009】
即ち本発明は、エチレン性不飽和二重結合を有するモノマー、金属錯体、顔料、極性基含有分散剤、及び融点90℃以上のワックスを含有し、以下を満たすことを特徴とする平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキであって下記(1)~(3)を兼備するものである。
(1)金属錯体の添加量は、平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキ全量に対し0.03-2質量%である。
(2)極性基含有分散剤の添加量は、平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキ全量に対し0.02-7質量%である。
(3)融点90℃以上のワックスの添加量は、平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキ全量に対し0.3-10質量%である。
【0010】
また本発明は、前記ワックスの融点が、融点113℃以上である平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキに関する。
【0011】
また本発明は、前記ワックスが、炭化水素系ワックス及び/又はフッ素系ワックスである平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化性インキに関する。
【0012】
また本発明は、前記金属錯体の中心金属が、アルミニウム、チタニウム、ジルコニウムのいずれかである平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化性インキに関する。
【0013】
また本発明は、該平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキを用いてオフセット印刷し、印刷されたインキを、活性エネルギー線を用いて硬化させることを特徴とするインキ硬化物の製造方法に関する。
【0014】
また本発明は、前記インキ硬化物の製造方法で得られた印刷物に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、さらなる流動性と耐スクラッチ性、印刷物の耐熱転移性、連続印刷適性に優れた平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(言葉の定義)
本発明において(メタ)アクリレート樹脂とは、分子中にアクリロイル基、メタクリロイル基、或いはその両方を有する樹脂のことを言う。また、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基、メタクリロイル基の一方或いは両方のことを言い、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートの総称である。
【0017】
(エチレン性不飽和二重結合を有するモノマー)
本発明で使用するエチレン性不飽和二重結合を有するモノマー及び/又はオリゴマーは、活性エネルギー線硬化性技術分野で使用されるモノマー及び/又はオリゴマーであれば特に限定なく使用することができる。特に反応基として(メタ)アクリロイル基、ビニルエーテル基等を有するものが好ましい。また反応基数や分子量にも特に限定はなく、反応基数の多いものほど反応性は高いが、粘度も高くなる傾向にあり、また分子量が高いものほど粘度が高くなる傾向にあることから、所望の物性に応じて適宜組み合わせて使用することができる。例えばUV-LEDのような低エネルギー照射で好適に硬化させるという点では、より反応性の高い3官能以上のエチレン性不飽和二重結合を有するモノマーを組み合わせ、用途に応じて印刷基材への接着性、皮膜の柔軟性等の必要物性を得る為に、適宜単官能、2官能のモノマーを単独もしくは併用することが好ましい。
【0018】
具体的には例えば、単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、重合性オリゴマー等の、ランプ方式で実績のあるものが、本発明で述べる紫外線発光ダイオード方式においてもそのまま使用することが可能である。
【0019】
単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシー3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチルテトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0020】
2官能以上の(メタ)アクリレートとしては、例えば、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2-メチル-1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、2-ブチルー2-エチルー1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の2価アルコールのジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール1モルに4モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA1モルに2モルのエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレート等の3価以上の多価アルコールのポリ(メタ)アクリレート、グリセリン1モルに3モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリオールのトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン1モルに3モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリオールのジ又はトリ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA1モルに4モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレンポリオールのポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0021】
重合性オリゴマーとしては、アミン変性ポリエーテルアクリレート、アミン変性エポキシアクリレート、アミン変性脂肪族アクリレート、アミン変性ポリエステルアクリレート、アミノ(メタ)アクリレートなどのアミン変性アクリレート、チオール変性ポリエステルアクリレート、チオール(メタ)アクリレートなどのチオール変性アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリオレフィン(メタ)アクリレート、ポリスチレン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0022】
また前記エチレン性不飽和二重結合を有するモノマー及び/又はオリゴマーとして、4官能以上の(メタ)アクリレートは、上質紙、コート紙、アート紙、模造紙、薄紙、厚紙等の紙への印刷用途において、硬化性や強度の向上に大きく寄与するため使用することが好ましく、インキ全量に対し5~70質量%の範囲で使用することが好ましい。一方、プラスチックへの印刷用途においては、硬化塗膜の架橋密度が上昇するに従って、基材と硬化塗膜との密着性が減少するため、4官能以上の(メタ)アクリレートの含有量を適宜減少させる必要がある。この場合、4官能以上の(メタ)アクリレートはインキ固形分全量に対し0~50質量%の範囲で使用することが好ましい。
【0023】
(金属錯体)
本発明で使用する金属錯体は、キレート剤と称される場合もある。具体的には例えば、アルミニウムトリエチレートアルミニウムトリプロピレート、アルミニウムジプロピレートモノブチレート、アルミニウムトリブチレート等のアルミニウムトリアルキレート;アルミニウムアセチルアセテートジプロピレート、アルミニウムアセチルアセテートジブチレート、アルミニウムトリアセチルアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテートジプロピレート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、アルミニウムオクタデシルアセトアセテートジプロピレート等のアルミニウムアルキルアセトアセテート;チタンテトラプロピレート、チタンテトラブチレート等のチタンテトラアルキレート;チタンビス(アセチルアセテート)ジプロピレート等のチタンアルキルアセトアセテート;ジルコニウムテトラブチレート等のジルコニウムテトラアルキレート等が挙げられる。これらの具体的な市販製品としては、例えば、川研ファインケミカル株式会社製のアルミニウム有機化合物シリーズ(「AMD」、「ASBD」、「AIPD」、「PADM」、「アルミニウムエトキサイド」、「ALCH」、「ALCH-TR」、「アルミキレートM」、「アルミキレートD」、「アルミキレートA、A(W)」)、味の素ファインテクノ株式会社製「プレンアクト」シリーズ(「AL-M」、「TTS」)、松本ファインケミカル株式会社製「オルガチックス」シリーズ(「AL-3001」、「AL-3100」、「AL-3200」、「AL-3215」、「TA-8」、「TA-21」、「TA-23」、「TA-30」、「TC-100」、「TC-401」、「TC-710」、「TC-750」、「ZA-45」、「ZA-65」、「AC-150」、「ZC-540」)等が挙げられる。前記金属錯体は一種類を単独で用いてもよいし、二種類以上を併用してもよい。
【0024】
また、金属アルコキシドや金属アシレート等の金属化合物も使用することができる。具体的には、アルミニウム、チタンおよびジルコニウムからなる群より選択される金属のアルコシキド、そのアシレートである。
金属アルコキシドとしては、例えばアルミニウムエチレート、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムジソプロピレートモノセカンダリーブチレート、アルミニウムセカンダリーブトキシド、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ターシャリーアミルチタネート、テトラターシャリーブチルチタネート、テト ラステアリルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラオクチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ノルマルプロピルジルコネート、ノルマルブチルジルコネート等が挙げられる。
【0025】
金属アシレートとしては、例えばアルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、アルミニウムアルキルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネート、アルミニウムトリスアセチルアセトネート、チタンイソステアレート、オクチル酸ジルコニウム、ステアリン酸ジルコニウム等が挙げられる。
【0026】
前記金属錯体の配合量は、所望のインキ性能等に応じて適宜調整可能であるが、特に、流動性が高く印刷面の光沢に優れ、かつ、耐ミスチングや乳化適正等のその他の性能も十分に高い印刷インキとなることから、平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキに対し0.03~2.0質量部の範囲であることが好ましく、0.05~1.0質量部の範囲であることが特に好ましい。
【0027】
(バインダー樹脂)
本発明においては、前記以外の、バインダーとなりうる樹脂を含有することもできる。ここで述べるバインダー樹脂とは、適切な顔料親和性と分散性を有し、印刷インキに要求されるレオロジー特性を有する樹脂全般を示しており、例えば非反応性樹脂としては、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、エポキシエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、石油樹脂、ロジンエステル樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、セルロース誘導体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリアマイド樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ブタジエン-アクリルニトリル共重合体等を挙げることができ、また前述以外のエポキシ(メタ)アクリレートやウレタン(メタ)アクリレートやポリエステル(メタ)アクリレート等を使用することもできる。
【0028】
前記ジアリルフタレート樹脂としては、オルソ、イソ、テレの3種の異性体が存在するが、本発明の平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキで用いるバインダー樹脂としてジアリルオルソフタレート樹脂(単にジアリルフタレート樹脂と称されることが多い)、ジアリルイソフタレート樹脂を使用する事ができる。
前記ジアリルイソフタレート樹脂としては、例えば、主剤としてのフタル酸等の多塩基酸、硬化剤としてのアリルアルコール等、架橋剤等を含む組成物等が挙げられる。前記架橋剤としては、例えば、スチレン、酢酸ビニル等が挙げられる。
ジアリルオルソフタレート樹脂、ジアリルイソフタレート樹脂は、優れた紙剥け性、耐乳化適性、ロングランでの印刷適性を付与するために特に有用である。
ジアリルオルソフタレート樹脂としては、具体的には、ダイソーダップA(大阪ソーダ社製)、ジアリルイソフタレート樹脂としては、ダイソーイソダップ(大阪ソーダ社製)が挙げられる。
【0029】
(ワックス)
本発明において使用するワックスは、融点90℃以上のワックスであり、具体的には炭化水素系ワックス及び/又はフッ素系ワックスで、特に平均粒子径が3~6μmであることが好ましい。
炭化水素系ワックスとしては、炭化水素系樹脂で形成されたワックスであれば特に限定されず、例えばポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、フィッシャー・トロプシュ・ワックス、パラフィンワックス、マイクロスタリンワックス等が挙げられる。
また、フッ素系ワックスとしては、フッ素系樹脂により形成されたワックスであれば特に制限されず、例えばポリテトラフルオロエチレンワックス、ポリテトラフルオロエチレン変性ポリエチレンワックスなどが挙げられる。
これらのワックスは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
ワックスの総添加量は、平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキに対して0.1~12質量%の範囲であればよく、0.3~10質量%の範囲がなお好ましく、0.3~8質量%の範囲がさらに好ましく、0.5~5質量%の範囲が最も好ましい。
【0030】
ワックスは市販されており、市販ワックスの融点には幅がある。本発明においては融点90℃以上のワックスを使用するが、これはカタログ値において融点に幅がある場合は、幅の中央融点が90℃以上であるワックスであることが好ましい。融点は中でも113℃以上であることが好ましい。一方上限には特に限定はないが、市販ワックスの上限は概ね350℃以下であることが多い。
【0031】
特に好ましい組み合わせとしては、ポリエチレンワックスと、ポリテトラフルオロエチレンワックスとの組み合わせである。
ポリエチレンワックスと、ポリテトラフルオロエチレンワックスとの好ましい配合比率は、ポリエチレンワックス/ポリテトラフルオロエチレンワックス=1/5~5/1の範囲が好ましく1/2~2/1の範囲がなお好ましい。またポリエチレンワックスと、ポリテトラフルオロエチレンワックスは、各々平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキに対して0.2~10質量%添加していることが好ましく0.3~5質量%添加していることがなお好ましい。
また、特に好ましい配合比率は、平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキに対してそれぞれ0.5~3%程度を併用した状態である。
【0032】
(顔料)
本発明で使用する顔料は、公知公用の着色用有機顔料を挙げることができ、例えば「有機顔料ハンドブック(著者:橋本勲、発行所:カラーオフィス、2006年初版)」に掲載される印刷インキ用有機顔料等が挙げられ、溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、金属フタロシアニン顔料、無金属フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、イソインドリノン顔料、イソインドリン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、アンスラキノン系顔料、キノフタロン顔料、金属錯体顔料、ジケトピロロピロール顔料、カーボンブラック顔料、その他多環式顔料等が使用可能である。
【0033】
また、本発明の平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキには、体質顔料として無機微粒子を用いてもよい。無機微粒子としては、酸化チタン、グラファイト、亜鉛華等の無機着色顔料;炭酸石灰粉、沈降性炭酸カルシウム、石膏、クレー(ChinaClay)、シリカ粉、珪藻土、タルク、カオリン、アルミナホワイト、硫酸バリウム、ステアリン酸アルミニウム、炭酸マグネシウム、バライト粉、砥の粉等の無機体質顔料; 等の無機顔料や、シリコーン、ガラスビーズなどがあげられる。これら無機微粒子は、インキ中に0.1~60重量%の範囲で使用することにより、着色やインキのレオロジー特性を調整したりすることが可能である。
【0034】
(顔料分散剤)
本発明で使用する顔料分散剤は、極性基含有分散剤であると顔料の分散性とインキ流動性をより向上できることから好ましい。極性基は、酸性基、塩基性基、その他の官能基が挙げられる。
酸性基は、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基等が挙げられる。塩基性基は、アミノ基等が挙げられる。その他の官能基は、ヒドロキシル基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。極性基含有分散剤は、2種類以上の極性基を有していることもできる。なお、極性基含有分散剤は、ジアリルフタレート樹脂、極性基を含有する光重合開始剤、光重合開始剤の触媒を含まない。特に塩基性基含有分散剤を使用することが好ましい。
【0035】
酸性基含有分散剤は、市販品では、ソルスパース26000等の酸価を有するソルスパースシリーズ(ルーブリゾール社製)等が挙げられる。
塩基性基含有分散剤は、市販品では、例えばアジスパーPB821等のアミン価を有するアジスパーシリーズ、ソルスパース24000、ソルスパース32000等のアミン価を有するソルスパースシリーズ(ルーブリゾール社製)等が挙げられる。その他の官能基含有分散剤は、例えばビニルアルコールの共重合体等が挙げられる。
【0036】
極性基含有分散剤は、活性エネルギー線硬化型印刷インキ全量に対して、0.02~7質量%含有することが好ましい。この範囲で含有すると静置流動性、および連続印刷性能がより向上する。この範囲を超えると極性官能基の影響により印刷インキの乳化率が過剰となり連続印刷性能が損なわれる。なお、含有量は、平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキ全量に対して0.02~5質量%がより好ましい。極性基含有分散剤は、単独または2種類以上併用できる。
【0037】
印刷インキは、さらに極性基含有顔料誘導体を含むことができる。極性基含有顔料誘導体は、極性基含有分散剤以外の化合物であり、有機顔料を変性する方法、または顔料の原料に置換基をあらかじめ導入し、その後合成することによって極性基を導入する方法等によって得られる化合物である。
極性基含有顔料誘導体を含む印刷インキは、極性基含有顔料誘導体により顔料の分散状態がさらに安定化するため、静置流動性と連続印刷性能がさらに向上する。極性基含有有機顔料誘導体の構造は、印刷インキに使用する顔料と親和性が高ければ任意に組み合わせて使用できる。
かかる効果は、特にフタロシアニン系顔料を用いた印刷インキでより効果的である。
【0038】
極性基は、酸性基、塩基性基、その他の官能基が挙げられる。極性基は、酸性基、塩基性基が好ましく塩基性基がより好ましい。酸性基は、例えばカルボキシル基、スルホニル基が挙げられる。塩基性基は、アミノ基が挙げられる。
有機顔料の変性方法は、例えば特開2007-191699に記載された方法等の公知の方法で行えばよい。シアン顔料の場合は、例えばフタロシアニン顔料を変性して極性基含有顔料誘導体を合成する。マゼンタ顔料の場合は、例えばピグメントレッド(PR)57:1の原料に置換基を導入し極性基含顔料誘導体を合成する。イエロー顔料の場合は、例えばピグメントイエロー(PY)12の原料に置換基を導入し極性基含顔料誘導体を合成する。
【0039】
極性基含有顔料誘導体は、平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキ全量に対し0.02~5質量%含有することが好ましい。この範囲であれば静置流動性と連続印刷能をさらに向上する。
【0040】
(重合禁止剤)
本発明で使用する重合禁止剤としては、特に限定はなく例えば、(アルキル)フェノール、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、p -メトキシフェノール、t -ブチルカテコール、t -ブチルハイドロキノン、ピロガロール、1,1-ピクリルヒドラジル、フェノチアジン、p -ベンゾキノン、ニトロソベンゼン、2,5-ジ-tert-ブチル-p -ベンゾキノン、ジチオベンゾイルジスルフィド、ピクリン酸、クペロン、アルミニウムN-ニトロソフェニルヒドロキシルアミン、トリ-p -ニトロフェニルメチル、N-(3-オキシアニリノ-1,3-ジメチルブチリデン)アニリンオキシド、ジブチルクレゾール、シクロヘキサノンオキシムクレゾール、グアヤコール、o-イソプロピルフェノール、ブチラルドキシム、メチルエチルケトキシム、シクロヘキサノンオキシム等の重合禁止剤が挙げられる。
【0041】
(光重合開始剤)
本発明で使用する光重合開始剤は特に限定はなく、汎用の光重合開始剤を併用することができる。具体的には例えば、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、フェニル グリオキシリック アシッド メチル エステル、オキシフェニル酢酸、2-[2-オキソ-2-フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステルとオキシフェニル酢酸、2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチルエステルの混合物、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-,2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(0-アセチルオキシム)、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-ピペリジノフェニル)-ブタン-1-オン、1-([1,1’-ビフェニル]-4-イル)-2-メチル-2-モルフォリノプロパン-1-オン、1-(4-メトキシフェニル)-2-メチル― 2 ― (4-モルフォリニル―1-プロパノンなどの化合物が挙げられる。
【0042】
また、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルフォスフィンオキサイド、エチル-(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィネート等のアシルフォスフィンオキサイド化合物が挙げられる。
【0043】
また、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、4-ジイソプロピルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、4-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、2-クロロチオキサントン、1-クロロ-4-プロポキシチオキサントン、2-ヒドロキシ-3-(3,4-ジメチル-9-オキソ-9Hチオキサントン-2-イロキシ-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミン塩酸塩等のチオキサントン化合物が挙げられる。
【0044】
また、4,4´-ビス-(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4´-ビス-(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等の4,4’-ジアルキルアミノベンゾフェノン類、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルスルフィド等のベンゾフェノン化合物が挙げられる。
【0045】
それ以外には、例えばベンゾフェノン、4-メチル-ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、2,3,4-トリメチルベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、3,3‘-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン、4-(1,3-アクリロイル-1,4,7,10,13-ペンタオキソトリデシル)ベンゾフェノン、メチル-o-ベンゾイルベンゾエート、〔4-(メチルフェニルチオ)フェニル〕フェニルメタノン、ジエトキシアセトフェノン、ジブトキシアセトフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインノルマルブチルエーテルなどが挙げられる。
前記汎用の光重合開始剤は、1種でも数種併用して使用してもよい。
【0046】
〔増感剤・光開始助剤〕
本発明においては、光増感剤や三級アミン等の光開始助剤を併用しても良く、好ましい。光増感剤としては、特に限定されないが、チオキサントン系、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン系、アントラキノン系、クマリン系などが挙げられる。
これらの中でも、特に2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、1-クロロ-4-プロポキシチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントンなどのチオキサントン系化合物や、ミヒラーケトン、4,4´-ビス-(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンなど4,4’-ジアルキルアミノベンゾフェノン類が好ましく、性能、安全性や入手しやすさなどの観点から、2,4-ジエチルチオキサントン,2-イソプロピルチオキサントン、4,4´-ビス-(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンが特に好ましい。
【0047】
増感剤や光開始助剤を併用する場合は、平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキに対して0.05~20質量%が好ましく、0.1~15質量%の範囲がより好ましい。0.05質量%未満の場合は、十分な硬化性の向上効果が得られず、20質量%を超える場合は、硬化塗膜の色相が許容できないくらい黄味に変色したり、増感剤が析出したり、インキの流動性が著しく低下したりする。
【0048】
(その他添加剤)
その他の添加剤としては、例えば耐摩擦性、ブロッキング防止性、スベリ性、スリキズ防止性を付与する添加剤としては、カルナバワックス、木ろう、ラノリン、モンタンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの天然ワックス、フィッシャートロプスワックス、ポリプロピレンワックス、ポリアミドワックス、およびシリコーン化合物などの合成ワックス等を例示することができる。
【0049】
その他、要求性能に応じて、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、抗菌剤等の添加剤を添加することができる。
【0050】
本発明の平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキは、無溶剤で使用することもできるし、必要に応じて適当な溶媒を使用する事も可能である。溶媒としては、上記各成分と反応しないものであれば特に限定されるものではなく、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0051】
(平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキの製造方法)
本発明の平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキは、従来と同様の方法によって製造すればよく、例えば、常温から100℃の間で、前記ワックス、金属錯体、極性基含有分散剤、顔料、樹脂、アクリル系モノマーもしくはオリゴマー、重合禁止剤、開始剤およびアミン化合物等の増感剤、その他添加剤などインキ組成物成分を、ニーダー、三本ロール、アトライター、サンドミル、ゲートミキサーなどの練肉、混合、調整機を用いて製造される。
【0052】
(インキ硬化物の製造方法、印刷物)
本発明のインキ硬化物は、基材上に、平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキを用いてオフセット印刷し、印刷されたインキを活性エネルギー線を用いて硬化させることを特徴とする。
【0053】
(印刷方法)
本発明の平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキは、前述の通り平版印刷(湿し水を使用する平版印刷や湿し水を使用しない水無し平版印刷)を該版に付けられたインキをブランケット等の中間転写体に転写した後被印刷体に印刷する転写(オフセット)方式を組み合わせた平版オフセット印刷方式で好ましく使用できる。
【0054】
(印刷基材)
本発明の印刷物で使用する印刷基材としては、特に限定は無く、例えば、上質紙、コート紙、アート紙、模造紙、薄紙、厚紙等の紙、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンビニルアルコール共重合体、エチレンメタクリル酸共重合体、ナイロン、ポリ乳酸、ポリカーボネート等のフィルム又はシート、セロファン、アルミニウムフォイル、その他従来から印刷基材として使用されている各種基材を挙げることが出来る。
【0055】
またプラスチック基材や軟包装基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ乳酸(PLA)などのポリエステル樹脂フィルム;OPP(2軸延伸ポリプロピレン)フィルム等のポリオレフィン樹脂フィルム;ポリスチレン樹脂フィルム;ナイロン6、ポリ-p-キシリレンアジパミド(MXD6ナイロン)などのポリアミド樹脂フィルム;ポリカーボネート樹脂フィルム;ポリアクリルニトリル樹脂フィルム;ポリイミド樹脂フィルム;これらの複層体(例えば、ナイロン6/MXD6/ナイロン6、ナイロン6/エチレン-ビニルアルコール共重合体/ナイロン6)や混合体等や、特にシーラントフィルムとして使用される低密度ポリエチレン(LDPE)や直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)や高密度ポリエチレン(HDPE)などのポリエチレン、酸変性ポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、酸変性ポリプロピレン、共重合ポリプロピレン、VMCPP(アルミ蒸着無延伸ポリプロピレン)、VMLDPE(アルミ蒸着低密度ポリエチレン)、エチレン-ビニルアセテート共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、アイオノマーなどのポリオレフィン樹脂等の樹脂フィルムがあげられる。
また前記樹脂フィルムに各種バリア機能等の機能性を付与するための、アルミニウム箔などの軟質金属箔、アルミ蒸着、シリカ蒸着、アルミナ蒸着、シリカアルミナ2元蒸着などの蒸着層、塩化ビニリデン系樹脂、変性ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、MXDナイロンなどからなる有機バリア層等が設けられた複合フィルムも挙げられる。
【0056】
前記基材において、プラスチック基材や軟包装基材に使用される樹脂フィルムは一般的に表面エネルギーが低く、活性エネルギー線硬化型インキに対する濡れが悪いため、密着性不良を引き起こしやすい。その為、高周波電源により供給される高周波・高電圧出力を、コロナ処理装置が備える放電電極とアースロールとの間に印加することでコロナ放電を発生させ、このコロナ放電下に前記フィルムを通過させることにより、前記基材の表面エネルギーを向上させることが好ましい。
【0057】
また、一般的にプライマーもしくはアンカー(コート剤)と称される密着性付与剤を予め前記プラスチック基材、軟包装基材上に塗布してもよく好ましい。
【0058】
これら基材に、平版オフセット印刷方式により本発明の平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキを転写印刷しインキ層を設ける。
平版オフセット印刷方式による印刷は、カラープロセスインキや特色インキを、単色や多色使いで刷重ね印刷を行う方法が一般的である。
平版オフセット印刷機は多数の印刷機メーカーによって製造販売されており、一例としてハイデルベルグ社、小森コーポレーション社、リョービMHIグラフィックテクノロジー社、マンローランド社、KBA社等を挙げることができ、またシート形態の印刷用紙を用いる枚葉オフセット印刷機、リール形態の印刷用紙を用いるオフセット輪転印刷機、いずれの用紙供給方式においても本発明を好適に利用することが可能である。更に具体的には、ハイデルベルグ社製スピードマスターシリーズ、小森コーポレーション社製リスロンシリーズ、リョービMHIグラフィックテクノロジー社製RMGTシリーズ等のオフセット印刷機を挙げることができる。
【0059】
(光源)
前記印刷されたインキを硬化させる目的で使用する活性エネルギー源としては、例えば、殺菌灯、紫外線用蛍光灯、紫外線発光ダイオード(UV-LED)、カーボンアーク、キセノンランプ、複写用高圧水銀灯、中圧又は高圧水銀灯、超高圧水銀灯、無電極ランプ、メタルハライドランプ、自然光等を光源とする紫外線が挙げられる。前記紫外線発光ダイオード(UV-LED)としては、そのピーク波長が350~420nm程度であるものが好ましく350~400nmの範囲であるものがより好ましく、積算光量が5mJ/cm~200mJ/cm程度であり、より好ましくは、10~100mJ/cmであることが好ましい。
【0060】
また紫外線発光ダイオード光源より印刷基材上のUV硬化性組成物へ照射される紫外線の照射強度(mW/cm)に関しては、印刷方向に並べる紫外線発光ダイオード光源の個数、光源から組成物までの照射距離等の諸条件によっても適切な照射強度範囲が変動することから特に規定はしないが、本発明で述べる印刷方式における印刷基材の移動速度は60~400m/min.程度であるから、該印刷速度で移動する印刷基材上のUV硬化性組成物に対して、積算光量値が先に述べた程度となる照射強度であることが好ましい。
【0061】
本発明の活性エネルギー線硬化型印刷インキは、通常湿し水を使用する平版オフセット印刷に適用されるが、湿し水を使用しない水無し印刷にも好適に用いることができる。また本発明の平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型印刷インキは、フォーム用印刷物、各種書籍用印刷物、カルトン紙等の各種包装用印刷物、各種プラスチック印刷物、シール/ラベル用印刷物、美術印刷物、金属印刷物(美術印刷物、飲料缶印刷物、缶詰等の食品印刷物)などの印刷物に適用される。
【実施例
【0062】
以下に、本発明の内容および効果を実施例により更に詳細に説明する。
【0063】
(実施例1)平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキの作製
ジアリルフタレート(大阪ソーダ社 ダイソーダップA)13質量部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(東亞合成株式会社 アロニックスM-400)24.8質量部、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(東亞合成株式会社 アロニックスM-408)25.0質量部、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート(東亞合成株式会社 アロニックスM-350)10.0質量部、アルミニウムイソプロピレート0.2質量部、Solsperse 24000 (ルーブリゾール社製)1.0質量部、ポリエチレンワックス(SHAMROCK TECHNOLOGIE社 S-395 N1) 2質量部、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン(IGM Resins B.V.社製 Omnirad 907)3.0質量部、4,4´-ビス-(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン大同化成株式会社 EAB-SS)2.0質量部、2,4-ジエチルチオキサントン(日本化薬(株)社製 KAYACURE DETX-S)1.0質量部、ピグメントレッド57:1(DIC社製 SYMULER BRILLIANT CARMINE 6b 426SD)18質量部を測り取り、攪拌した後、3本ロールミルにて分散しろ過を行うことで、平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキを得た。
【0064】
(実施例2~20)
実施例1の配合を表1、表3,表5に記載された通り変更した以外は実施例1と同様の方法で行い、それぞれ実施例2~20のインキを得た。
【0065】
(比較例1~13)
実施例1の配合を表2、表4,表6に記載された通り変更した以外は実施例1と同様の方法で行い、それぞれ比較例1~13のインキを得た。
【0066】
( 性能評価試験)
<静置流動性>
得られたインキを25℃雰囲気で60°に傾けた真鍮製の傾斜板の上に1.3g垂らし、インキの着地点から10分間に流動した距離を測定し静置流動性として評価した。なお、評価基準は、下記の通り表記する。
5:86mm 以上
4:61-85mm
3:46-60mm
2:21-45mm
1:20mm以下
【0067】
<印刷物の熱転移性>
IRテスター、4分割ロール、インキ量0.75mlの条件にて展色物を作成し、水冷メタルハライドランプ(出力100W/cm1灯)およびベルトコンベアを搭載したUV照射装置(アイグラフィックス社製)を用いて、完全に乾燥するまで紫外線の照射を行った。乾燥して得られた展色面上に、1cm×1.7cm×0.1cm四方に切った消しゴムを載せ、220℃の鉄板を加重で10秒間押し当て、消しゴムへ転移したインキの付着量を目視にて表4の基準に基づいて5段階評価の相対評価を実施した。消しゴムへ転移したインキの付着量が少ない程、熱転写方式におけるフューザーロールでの熱定着工程時に、印刷物上のインキがフューザーロールへ転移する量が少ないと判断でき、実用性に基づいて、以下のように評価した。
5:印刷面上に当てた消しゴムへインキがほとんど移らない。
4:印刷面上に当てた消しゴムへインキが余り移らない。
3:印刷面上に当てた消しゴムへの移りは通常程度である。
2:印刷面上に当てた消しゴムへインキが多く移る。
1:印刷面上に当てた消しゴムへインキが極めて多く移る。
【0068】
<耐スクラッチ性>
IRテスター、4分割ロール、インキ量0.75mlの条件にて展色物を作成し、水冷メタルハライドランプ(出力100W/cm1灯)およびベルトコンベアを搭載したUV照射装置(アイグラフィックス社製)を用いて、120W/cmで紫外線を照射させ、上質紙によるラビングテストにより硬化皮膜の強度を確認した。皮膜に傷が発生し始めるコンベアスピード(m/min.)を評価した。
5:100m/min 以上
4:90m/min
3:50m/min
2:20m/min
1:5m/min以下
【0069】
<連続印刷性>
得られたインキについて、下記印刷機を使用して連続印刷テストを行い、それぞれ3000枚、8000枚、12000枚、16000枚毎にサンプリングを行い、印刷物の汚れの有無を目視観察することで連続印刷性を評価した。なお、評価基準は下記の通りである。
5:16000枚時点で良好な印刷物が得られた。
4:12000枚時点で良好な印刷物が得られたが、16000枚では良好な印刷物が得られなかった。
3:8000枚時点で良好な印刷物が得られたが、12000枚では良好な印刷物が得られなかった。
2:3000枚時点で良好な印刷物が得られたが、8000枚では良好な印刷物が得られなかった。
1:3000枚時点で良好な印刷物が得られなかった。
【0070】
(印刷条件)
・オフセット印刷機:LITHRONEG40(小森コーポレーション製)
・PS版:XP-F (富士ファイルグローバルグラフィックスシステムズ製)
・用紙:OKトップコートプラス(王子製紙製)
・湿し水:水道水/アストロマーク3(株式会社日研化学研究所社製)/イソプロピルアルコール=95質量%/2質量%/3質量%の組成で混合
・印刷条件:室温25±1℃、印刷速度 8000枚/時
・印刷操作条件:湿し水供給装置の目盛りを印刷物に汚れが生じない程度に湿し水の供給量を可能な限り低く設定した。
【0071】
結果を表1~表6に示す。
なお、表1と表2は使用するワックスの量や種類を比較した結果であり、表3と表4は金属錯体の種類や量を比較した結果であり、表5と表6は極性基含有分散剤の種類や量、顔料種を比較した結果である。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】
【0076】
【表5】
【0077】
【表6】
【0078】
表中の略語は次の通りである。また、空欄は未配合であることを示す。
・Solsperse 24000:アミン価を有する塩基性含有分散剤、ルーブリゾール社製
・Solsperse 26000:酸性基含有分散剤、ルーブリゾール社製
・Solsperse 5000:極性基含有顔料誘導体 ルーブリゾール社製
・S-395 N1:高融点ポリエチレンワックス 融点126℃ SHAMROCK TECHNOLOGIE社製
・S-394 N1:高融点ポリエチレンワックス 融点113℃ SHAMROCK TECHNOLOGIE社製
・S-381 N1:低融点ポリエチレンワックス 融点97℃ SHAMROCK TECHNOLOGIE社製
・KTL-4N: 四フッ化エチレン樹脂を用いたワックス 融点300℃以上 株式会社喜多村製
【0079】
この結果、本発明の平版オフセット印刷用活性エネルギー線硬化型インキは、静置流動性、連続印刷適性、耐熱転移性、耐スクラッチ性全てに優れることが明らかである。
一方、金属錯体及び極性基含有分散剤を含まない比較例1、7、金属錯体または極性基含有分散剤を含まないあるいは特定量の範囲外である比較例2~6、10、11,12,13は、耐熱転移性や耐スクラッチ性に優れるが静置流動性及び連続印刷適性に劣る結果であった。またワックス量は多すぎると流動性に欠け、少なすぎる場合は耐スクラッチ性等が得られない結果となった(比較例8,9参照)。