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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】凍結防止剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/18 20060101AFI20240401BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20240401BHJP
   C23F 11/12 20060101ALI20240401BHJP
   C23F 11/18 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
C09K3/18
C09K3/00 102
C23F11/12 101
C23F11/12 102
C23F11/18 102
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020115031
(22)【出願日】2020-07-02
(65)【公開番号】P2022012880
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000211020
【氏名又は名称】ジャパンコーティングレジン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】玉置 就策
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-169459(JP,A)
【文献】特表2006-501322(JP,A)
【文献】特開2004-59793(JP,A)
【文献】特表2005-505646(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104059610(CN,A)
【文献】特開平11-61095(JP,A)
【文献】特開昭58-45384(JP,A)
【文献】特公昭51-44095(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/18
C09K3/00
C23F11/00-11/18
C23F14/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凍結防止成分と防錆成分とを含む凍結防止剤組成物であって、
前記凍結防止成分が塩化カルシウムを含み、前記防錆成分がオキシカルボン酸塩及び重合リン酸塩を含み、
オキシカルボン酸塩/重合リン酸塩で表される、前記オキシカルボン酸塩と前記重合リン酸塩の質量比が99.9/0.1~99.99/0.01である、凍結防止剤組成物。
【請求項2】
さらに、pH調整剤として、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩及び炭酸水素塩、並びにアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩及び炭酸水素塩からなる群より選ばれる1種類以上を含有する、請求項1に記載の凍結防止剤組成物。
【請求項3】
さらに水を含有する、請求項1又は2に記載の凍結防止剤組成物。
【請求項4】
pHが5~9である、請求項3に記載の凍結防止剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化カルシウムを含む凍結防止剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
積雪寒冷地では冬場の交通安全、道路環境の確保のため路面の融雪や凍結防止が重要である。路面の融雪や凍結防止対策としては、ロードヒーティング、消雪パイプ等の道路消融雪施設を設ける方法があるが、建設コストが高いという欠点があり、適用が必要とされるケースの一部に制限されているのが実情である。
一方、凍結防止剤の散布は特別な設備投資を必要とせず、比較的安価により広い範囲に適用することができる。
【0003】
凍結防止剤としては、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム等の塩化物;尿素;CMA(酢酸カルシウム及び酢酸マグネシウムを主成分とするもの)やKAC(酢酸カリウム溶液を主成分とするもの)等の酢酸塩;が市販されている。
これらのうち、経済性、凍結防止効果等の観点から、日本国内では塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム等の塩化物が広く使用されている。
【0004】
しかしながら、塩化物は金属に対する腐食性が強く、路上に散布した場合に自動車の車体や道路標識等の金属部品を腐食するため、防錆剤の添加が不可欠である。
特許文献1の実施例には、凍結防止成分として塩化カルシウムを用い、防錆成分として(A)グルコン酸ナトリウム、又はこれと酒石酸ナトリウムとの併用、及び(B)ヘキサメタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、又はヘキサメタリン酸ナトリウムとトリポリリン酸ナトリウムとの併用を、(A)/(B)の質量比が30:70~75:25となるように配合した例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5274751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、路面の融雪や凍結防止策として、凍結防止成分と防錆成分を水に溶解させた散布液を散布する方法がある。特許文献1の実施例では、散布した後の環境を想定して、低濃度の水溶液を用いて腐食試験を行っている。
凍結防止成分として塩化カルシウムを用いる場合、十分な凍結防止効果を得るために、散布液における塩化カルシウム濃度は比較的高く設定される。
本発明者の知見によれば、塩化カルシウムと防錆成分の両方を含む凍結防止剤を水に溶解させた水溶液において、経時的に析出物が発生する場合がある。散布液に析出物が発生すると、散布する配管やノズルに堆積して、散布効率の低下、散布時間の延長、又は閉塞による散布不能等の問題が生じやすい。
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、金属に対する腐食を抑制できるとともに、水溶液における析出物の発生を防止できる、凍結防止剤組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の態様を有する。
[1] 凍結防止成分と防錆成分とを含む凍結防止剤組成物であって、前記凍結防止成分が塩化カルシウムを含み、前記防錆成分がオキシカルボン酸塩及び重合リン酸塩を含み、
オキシカルボン酸塩/重合リン酸塩で表される、前記オキシカルボン酸塩と前記重合リン酸塩の質量比が99.9/0.1~99.99/0.01である、凍結防止剤組成物。
[2] さらに、pH調整剤として、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩及び炭酸水素塩、並びにアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩及び炭酸水素塩からなる群より選ばれる1種類以上を含有する、[1]の凍結防止剤組成物。
[3] さらに水を含有する、[1]又は[2]の凍結防止剤組成物。
[4] pHが5~9である、[3]の凍結防止剤組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の凍結防止剤組成物は、金属に対する腐食を抑制でき、水溶液として用いる場合にも経時的な析出物の発生を防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態の凍結防止剤組成物は、凍結防止成分と防錆成分を含む。さらにpH調整剤を含んでもよい。
<凍結防止成分>
凍結防止成分は塩化カルシウムを含む。塩化カルシウム以外の凍結防止成分として公知の他の塩化物(塩化ナトリウム、塩化マグネシウム等)をさらに含んでもよい。
塩化カルシウムは凍結防止性能が高く、CMAや尿素等と比較して安価であり、経済性にも優れる点で好ましい。
凍結防止成分の総質量に対して、塩化カルシウムの含有量は15質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、25質量%以上がさらに好ましい。100質量%が特に好ましい。
【0010】
<防錆成分>
防錆成分は、オキシカルボン酸塩及び重合リン酸塩を含む。オキシカルボン酸塩と重合リン酸塩を併用することで、腐食性の高い塩化カルシウムを凍結防止成分として使用しても効果的に防錆性能を発揮する。
オキシカルボン酸塩及び重合リン酸塩以外の公知の防錆成分を、本発明の効果を損なわない範囲でさらに含んでもよい。
【0011】
オキシカルボン酸としては、乳酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、ヘプトン酸、リンゴ酸等が挙げられる。
オキシカルボン酸の塩としては、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩が好ましい。溶解性及び入手し易さ、経済性に優れる点でナトリウム塩がより好ましい。
オキシカルボン酸塩は1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0012】
重合リン酸としては、ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラリン酸、トリメタリン酸、ヘキサメタリン酸等が挙げられる。
重合リン酸の塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が好ましい。溶解性及び入手し易さ、経済性に優れる点でナトリウム塩がより好ましい。
重合リン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩において、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の一部が水素置換されていてもよい。
重合リン酸塩は1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
オキシカルボン酸塩と重合リン酸塩の質量比(オキシカルボン酸塩/重合リン酸塩)は、99.9/0.1~99.99/0.01である。上記範囲内であると、塩化カルシウムと防錆成分を含む水溶液における、経時的な析出物の発生防止に優れる。
防錆成分の総質量に対して、オキシカルボン酸塩と重合リン酸塩の合計の含有量は90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0014】
凍結防止成分の総質量100質量部に対して、防錆成分の総質量は0.1質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、3質量部以上がさらに好ましい。上記下限値以上であると十分な防錆効果が得られやすい。また経済的な観点より、凍結防止成分の総質量100質量部に対して、防錆成分の総質量は50質量部以下が好ましい。
【0015】
<pH調整剤>
pH調整剤としては、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩及び炭酸水素塩、並びにアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩及び炭酸水素塩からなる群より選ばれる1種類以上が好ましい。
pH調整剤の配合量は所望のpHに応じて設定できる。
【0016】
<その他の成分>
凍結防止剤組成物は、上述した凍結防止成分、防錆成分及びpH調整剤の他に、本発明の効果を損なわない範囲でその他の成分を配合することができる。また、原料に由来する目的成分(純分)以外の不純物を含んでもよい。
その他の成分は、人体や地球環境への負担が小さい成分であることが好ましい。例えば食品添加物として認可されている物質が好ましい。
凍結防止剤組成物の固形分に対して、その他の成分の合計の含有量は5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
【0017】
<凍結防止剤組成物>
凍結防止剤組成物は、凍結防止成分、防錆成分、必要に応じたpH調整剤及びその他の成分を混合した固体状の凍結防止剤組成物(以下、固体凍結防止剤ともいう。)でもよく、さらに水を含む水溶液(以下、液体凍結防止剤ともいう。)でもよい。
凍結防止剤組成物は、固体状(固体凍結防止剤)で輸送、保管、散布を行うことができる。固体状で輸送、保管し、必要に応じて水に溶解して水溶液としてもよい。また、水溶液(液体凍結防止剤)の状態で輸送、保管、散布を行うこともできる。
凍結防止剤組成物を水溶液の状態で散布する場合、散布液(液体凍結防止剤)のpHは5~9であることが、舗装道路材料や環境への負担を低減しやすい点で好ましい。本明細書におけるpHは20℃における値である。
液体凍結防止剤の総質量に対して、凍結防止成分の含有量は15~35質量%が好ましく、20~30質量%がより好ましく、25~30質量%がさらに好ましい。上記範囲の下限値以上であると十分な凍結防止性能が発揮されやすく、また上限値以下であると凍結防止成分の安定性に優れ、凍結防止成分の析出等の不具合が発生しにくい。
【0018】
本実施形態の凍結防止剤組成物は、水溶液として用いる場合にも経時的な析出物の発生を防止できる。
具体的に、後述の実施例に示されるように、固体凍結防止剤を水に溶解させた散布液(液体凍結防止剤)を、5℃で3時間保持しても析出が生じない。
したがって、例えば路面凍結防止のために、貯留タンク内で固体凍結防止剤を水に溶解させて散布液を調製し、散布車に小分けして路上に散布する場合にも、経時的な析出物の発生が防止される。
【0019】
また、本実施形態の凍結防止剤組成物は、塩化カルシウムを含みながら、金属に対する腐食を抑制できる。
具体的に、後述の実施例に示されるように、凍結防止剤組成物の水溶液中に連続的に浸漬させる腐食試験、及び自然環境において浸漬状態と乾燥状態が繰り返し現れることを想定した乾湿繰り返し方法による腐食試験において、腐食速度が水と同等のレベル以下という優れた防食効果を発揮することができる。
【0020】
さらに、本実施形態の凍結防止剤組成物は、揮発性有機溶剤(VOC)、酢酸化合物、アンモニウム塩を使用しなくても製造できる。これら不使用とすると、悪臭の発生がなく、地球環境や人体への悪影響も少ない。人体や地球環境への配慮として、本実施形態の凍結防止剤組成物を構成する各成分を食品添加物として認可されている物質のみで構成することも可能である。
【実施例
【0021】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<評価方法>
[析出試験]
固体凍結防止剤の水溶液を、5℃に保持し3時間経過後に析出物の有無を目視で確認した。水溶液における凍結防止成分の含有量は29.7質量%とした。
【0022】
[連続浸漬腐食試験による金属腐食速度算出方法]
(1)冷間圧延鋼板製試験片(長さ50mm×幅30mm×厚さ2mm、表面積33.2cm)を#400エメリークロスで研磨後、アセトンで脱脂して乾燥させた。
(2)固体凍結防止剤の水溶液を、腐食速度が加速されるように50℃に保持した。この水溶液中に、上記試験片を全面が浸漬するよう吊り下げた。
(3)7日間(168時間)保持した後、試験片を取り出し表面の腐食生成物を除去し、乾燥した。
(4)浸漬前後の試験片の質量を測定し、下記式により腐食速度を算出した。
腐食速度(単位:mdd)=(A-B)/C/7
A:試験前の試験片の質量(単位:mg)
B:試験後の試験片の質量(単位:mg)
C:試験片の表面積(単位:dm
なお、腐食速度の単位である「mdd」は、「mg/(dm・day)」を表す。
また、試験片の表面積である「33.2cm」は「0.332dm」とする。
【0023】
[乾湿繰返し腐食試験による金属腐食速度算出法]
(1)冷間圧延鋼板製試験片(長さ50mm×幅30mm×厚さ2mm、表面積33.2cm)を#400エメリークロスで研磨後、アセトンで脱脂して乾燥させた。
(2)固体凍結防止剤の水溶液を、腐食速度が加速されるように23℃に保持した。この水溶液中に、上記試験片を全面が浸漬するよう吊り下げた。
(3)24時間浸漬後試験片を取り出し、24時間風乾した。
(4)この浸漬と乾燥を7日間(168時間)繰り返した後、8日目に試験片を取り出し表面の腐食生成物を除去し、乾燥した。
(5)上記サイクル前後の試験片の質量を測定し、上記同様により腐食速度を算出した。
【0024】
<原料>
表に示す原料は以下の通りである。
(凍結防止成分)
塩化カルシウム::粒状。
塩化ナトリウム:岩塩。塩化ナトリウム含有量95質量%以上、そのほかにカルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩等を含む。以下の例の配合では塩化ナトリウム100質量%とみなした。
(オキシカルボン酸塩)
グルコン酸Na:グルコン酸ナトリウム、粉末。
酒石酸Na:酒石酸ナトリウム、粉末。
(重合リン酸塩)
ヘキサメタリン酸Na:ヘキサメタリン酸ナトリウム、粉末。
トリポリリン酸Na:トリポリリン酸ナトリウム、粉末。
ピロリン酸Na:ピロリン酸ナトリウム、粉末。
【0025】
(実施例1~8、比較例1~9)
表1、2の配合で、各原料を混合した固体凍結防止剤を水に溶解して水溶液を調製し、上記の方法で析出試験及び腐食試験を行った。結果を表1、2に示す。
なお、各例の固体凍結防止剤は、析出試験に用いる水溶液のpHが5~9になるように、必要に応じて水酸化ナトリウムを含有する。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
比較例1の腐食速度は、水の腐食速度であり目標値とされる。
表1、2の結果に示されるように、オキシカルボン酸塩/重合リン酸塩の質量比を99.9/0.1~99.99/0.01とした実施例1~4では、経時的な析出物の発生が防止された。実施例5~8の析出試験は未実施であるが、実施例1~4の結果に基づけば、析出物は発生しないと予測できる。したがって実施例1~8の固体凍結防止剤は、液体凍結防止剤として使用するときも経時的な析出物の発生が防止され、安定性に優れる。
また、実施例1~8は、連続浸漬腐食試験及び乾湿繰返し腐食試験において比較例1よりも腐食速度が遅く、優れた防食性能を示した。
【0029】
一方、比較例4~9は、防錆成分としてオキシカルボン酸塩と重合リン酸塩を含み、防食性を有するものの、実施例1~8よりも重合リン酸塩の含有割合が高く、析出試験において析出物が発生した。したがって、液状凍結防止剤として使用する場合の安定性に劣る。
なお、比較例6~9は、析出試験において析出物が発生したため、腐食試験は行わなかった。
【0030】
また、凍結防止成分として塩化物を含み、防錆成分を含まない比較例2、3は、析出試験において析出物の発生はなかったが、連続浸漬腐食試験及び乾湿繰返し腐食試験において比較例1よりも腐食速度が大幅に速く腐食性が高かった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の凍結防止剤組成物は、凍結防止剤、融雪剤、防塵剤等として使用できる。