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特許7463220繊維試料の弾性率の算出方法、繊維試料の弾性率の算出システム、毛髪化粧料の評価方法、毛髪化粧料の製造方法及び毛髪化粧料の決定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】繊維試料の弾性率の算出方法、繊維試料の弾性率の算出システム、毛髪化粧料の評価方法、毛髪化粧料の製造方法及び毛髪化粧料の決定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/00 20060101AFI20240401BHJP
   G01N 3/20 20060101ALI20240401BHJP
   G01N 19/00 20060101ALI20240401BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20240401BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
G01N3/00 F
G01N3/00 G
G01N3/20
G01N19/00 F
G01N33/15 Z
A61Q5/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020125544
(22)【出願日】2020-07-22
(65)【公開番号】P2022021759
(43)【公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-06-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.発行日 令和 2年 6月 3日 2.刊行物 2020年繊維学会年次大会予稿集 3.公開者 礒辺真人
(73)【特許権者】
【識別番号】306018376
【氏名又は名称】クラシエ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100217836
【弁理士】
【氏名又は名称】合田 幸平
(72)【発明者】
【氏名】礒辺 真人
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-532411(JP,A)
【文献】特開2012-225652(JP,A)
【文献】特開平06-003236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00
G01N 3/20
G01N 19/00
G01N 33/15
A61Q 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異種材料からなる複数の層を有する繊維試料の各層の弾性率を算出する方法であって、
同一の被験体から採取した複数の繊維試料であって、前記繊維試料が有する層の数以上の数の繊維試料を準備する工程と、
各繊維試料が有する各層の断面二次モーメントを特定する工程と、
各繊維試料について、前記繊維試料の一端側のみを固定し他端に所定の荷重をかけた状態で、前記繊維試料の固定位置と前記他端との間の長さ及び前記他端のたわみ量を測定する工程と、
各繊維試料の断面二次モーメント、前記繊維試料の固定位置と他端との間の長さ及び前記他端のたわみ量から、前記繊維試料の各層の弾性率を算出する工程と、を備える、繊維試料の弾性率の算出方法。
【請求項2】
前記各層の断面二次モーメントを特定する工程は、前記繊維試料の外径及び各層の厚さを測定する工程を含む、請求項に記載の繊維試料の弾性率の算出方法。
【請求項3】
前記繊維試料を準備する工程において、準備される前記繊維試料の数は、前記繊維試料が有する層の数より多い、請求項またはに記載の繊維試料の弾性率の算出方法。
【請求項4】
前記繊維試料は、哺乳類の体毛である、請求項1乃至のいずれか一項に記載の繊維試料の弾性率の算出方法。
【請求項5】
毛髪の弾性率を請求項1乃至のいずれか一項に記載の繊維試料の弾性率の算出方法で算出する工程と、
前記毛髪を毛髪化粧料で処理する工程と、
前記毛髪化粧料で処理された後の前記毛髪の弾性率を請求項1乃至のいずれか一項に記載の繊維試料の弾性率の算出方法で算出する工程と、
前記毛髪化粧料で処理する前の前記毛髪の弾性率と前記毛髪化粧料で処理した後の前記毛髪の弾性率とを比較する工程と、を備える、毛髪化粧料の評価方法。
【請求項6】
請求項に記載の毛髪化粧料の評価方法に基づいて毛髪化粧料の成分を調節する工程を備える、毛髪化粧料の製造方法。
【請求項7】
毛髪の提供を受ける工程と、
提供された前記毛髪の弾性率を請求項1乃至のいずれか一項に記載の繊維試料の弾性率の算出方法で算出する工程と、
前記毛髪を毛髪化粧料で処理する工程と、
前記毛髪化粧料で処理された後の前記毛髪の弾性率を請求項1乃至のいずれか一項に記載の繊維試料の弾性率の算出方法で算出する工程と、
前記毛髪化粧料で処理する前の前記毛髪の弾性率と前記毛髪化粧料で処理した後の前記毛髪の弾性率との比較から、提供された前記毛髪への前記毛髪化粧料の適性を評価する工程と、を備える、毛髪化粧料の決定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維試料の弾性率の算出方法、繊維試料の弾性率の算出方法に用いる繊維試料の弾性率の算出システム、繊維試料の弾性率の算出することを用いた毛髪を処理する毛髪化粧料の評価方法、評価結果に基づく毛髪化粧料の製造方法及び毛髪化粧料の決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維材料からなる物の手触りは、繊維材料の曲げ剛性や弾性率によって変化する。繊維材料に含まれる各繊維試料の弾性率の曲げ剛性を測定する方法としては、例えば非特許文献1に記載されている方法が知られている。
【0003】
また、繊維材料の一部である繊維試料の弾性率を測定する方法としては、例えば特許文献1,2及び非特許文献2に記載されている方法が知られている。これらの文献では、典型的な繊維試料として、毛髪の弾性率を算出する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-225652号公報
【文献】特開2005-331283号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Journal of the Society of Cosmetic Chemists, Vol 29, No.8 p469-485
【文献】J. Soc. Cosmet. Chem. Jpn Vol.36, No3 p207-p216
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されている方法では、繊維試料の弾性率の算出のために、多くの回数の測定が必要である。また、特許文献2に記載されている方法では、原子間力顕微鏡を用いた繊維試料の断面の観察から弾性率を算出している。原子間力顕微鏡を用いた断面の観察は容易ではない。さらに、非特許文献2に記載されている方法では、毛髪の層ごとの弾性率を測定するために、毛髪の外側の層を剥離している。毛髪の外側の層を剥離する作業は容易ではなく、手間がかかる。すなわち、これらの方法では、繊維試料の弾性率の算出に手間がかかったり、精密な観察や作業を要することになり、繊維試料の弾性率を求めることが容易ではない。
【0007】
本発明はこのような点を考慮してなされたものであり、繊維試料の弾性率を容易に算出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の繊維試料の弾性率の算出方法は、
繊維試料の断面二次モーメントを特定する工程と、
前記繊維試料の一端側のみを固定し他端に所定の荷重をかけた状態で、前記繊維試料の固定位置と前記他端との間の長さ及び前記他端のたわみ量を測定する工程と、
前記繊維試料の断面二次モーメント、前記繊維試料の固定位置と前記他端との間の長さ及び前記他端のたわみ量から、前記繊維試料の弾性率を算出する工程と、を備える。
【0009】
本発明の第1の繊維試料の弾性率の算出方法において、前記断面二次モーメントを特定する工程は、前記繊維試料の外径を測定する工程を含んでもよい。
【0010】
本発明の第2の繊維試料の弾性率の算出方法は、異種材料からなる複数の層を有する繊維試料の各層の弾性率を算出する方法であって、
同一の被験体から採取した複数の繊維試料であって、前記繊維試料が有する層の数以上の数の繊維試料を準備する工程と、
各繊維試料が有する各層の断面二次モーメントを特定する工程と、
各繊維試料について、前記繊維試料の一端側のみを固定し他端に所定の荷重をかけた状態で、前記繊維試料の固定位置と前記他端との間の長さ及び前記他端のたわみ量を測定する工程と、
各繊維試料の断面二次モーメント、前記繊維試料の固定位置と他端との間の長さ及び前記他端のたわみ量から、前記繊維試料の各層の弾性率を算出する工程と、を備える。
【0011】
本発明の第2の繊維試料の弾性率の算出方法において、前記各層の断面二次モーメントを特定する工程は、前記繊維試料の外径及び各層の厚さを測定する工程を含んでもよい。
【0012】
本発明の第2の繊維試料の弾性率の算出方法において、前記繊維試料を準備する工程において、準備される前記繊維試料の数は、前記繊維試料が有する層の数より多くてもよい。
【0013】
本発明の第1または第2の繊維試料の弾性率の算出方法において、前記繊維試料は、哺乳類の体毛であってもよい。
【0014】
本発明の繊維試料の弾性率の算出システムは、
繊維試料の断面二次モーメントを測定する装置と、
前記繊維試料の一端側のみを固定し他端に所定の荷重をかけた状態で、前記繊維試料の固定位置と前記他端との間の長さ及び前記他端のたわみ量を測定する装置と、
前記繊維試料の断面二次モーメント、前記繊維試料の固定位置と前記他端との間の長さ及び前記他端のたわみ量から、前記繊維試料の弾性率を算出する装置と、を備える。
【0015】
本発明の繊維試料の弾性率の算出システムにおいて、前記繊維試料の断面二次モーメントを測定する装置は、前記繊維試料の外径を測定してもよい。
【0016】
本発明の繊維試料の弾性率の算出システムにおいて、前記繊維試料の弾性率を算出する装置は、複数の繊維試料のそれぞれについての断面二次モーメント、前記繊維試料の固定位置と他端との間の長さ及び前記他端のたわみ量から、前記繊維試料の弾性率を算出してもよい。
【0017】
本発明の毛髪化粧料の評価方法は、
毛髪の弾性率を上述したいずれかの繊維試料の弾性率の算出方法で算出する工程と、
前記毛髪を毛髪化粧料で処理する工程と、
前記毛髪化粧料で処理された後の前記毛髪の弾性率を上述したいずれかの繊維試料の弾性率の算出方法で算出する工程と、
前記毛髪化粧料で処理する前の前記毛髪の弾性率と前記毛髪化粧料で処理した後の前記毛髪の弾性率とを比較する工程と、を備える。
【0018】
本発明の毛髪化粧料の製造方法は、上述した毛髪化粧料の評価方法に基づいて毛髪化粧料の成分を調節する工程を備える。
【0019】
本発明の毛髪化粧料の決定方法は、
毛髪の提供を受ける工程と、
提供された前記毛髪の弾性率を上述したいずれかの繊維試料の弾性率の算出方法で算出する工程と、
前記毛髪を毛髪化粧料で処理する工程と、
前記毛髪化粧料で処理された後の前記毛髪の弾性率を上述したいずれかの繊維試料の弾性率の算出方法で算出する工程と、
前記毛髪化粧料で処理する前の前記毛髪の弾性率と前記毛髪化粧料で処理した後の前記毛髪の弾性率との比較から、提供された前記毛髪への前記毛髪化粧料の適性を評価する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、繊維試料の弾性率を容易に算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、繊維試料の弾性率を算出するシステムの構成を示す概略図である。
図2図2は、繊維試料の構造の一例を示す図である。
図3図3は、繊維試料の弾性率を算出するシステムが有する断面二次モーメント特定装置を概略的に示す側面図である。
図4図4は、繊維試料の一例の断面図である。
図5図5は、繊維試料の弾性率を算出するシステムが有する長さ測定装置を概略的に示す斜視図である。
図6図6は、長さ測定装置における繊維試料に荷重をかける前の状態を示す側面図である。
図7図7は、長さ測定装置における繊維試料に荷重をかけた状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本実施の形態における繊維試料の弾性率の算出システム(以下、単に「算出システム」ともいう)を概略的に示す図である。算出システム1は、所望の繊維試料の弾性率を算出することができる。図1に示すように、算出システム1は、断面二次モーメント特定装置10と、長さ測定装置20と、断面二次モーメント特定装置10で特定した断面二次モーメントの値及び長さ測定装置20で測定した長さの値を受けて繊維試料の弾性率を算出する弾性率算出装置30と、を有している。
【0023】
弾性率を算出される繊維試料は、例えば哺乳類の体毛であり、異種材料からなる複数の層を有し得る。以下に示す実施の形態では、繊維試料は、人の毛髪50である。しかしながら、本実施の形態に限らず、繊維試料は、毛髪以外の人の体毛であってもよいし、他の哺乳類の体毛であってもよい。あるいは、繊維試料は、哺乳類の体毛以外の任意の繊維状の物体、例えば生物以外の被験体から採取される繊維試料であってもよい。
【0024】
図2は、一般的な毛髪の構成を示している。図2に示すように、毛髪50は、毛髪50の表面を構成するキューティクル51と、毛髪50の内部の主要な構成要素であるコルテックス53と、毛髪50の中心部を延びるメデュラ55と、を有している。ただし、メデュラ55とコルテックス53との境界が不明確であることが多く、さらには毛髪50にメデュラ55が存在しない場合もある。したがって、毛髪50の弾性率を考えるに当たり、以下では簡単のために、メデュラ55はコルテックス53と一体化していると考える。言い換えると、毛髪50は、2つの層、すなわち、キューティクル51と、コルテックス53と、を有するとして考える。なお、本実施の形態は、毛髪50等の繊維試料が3つ以上の層を有する場合でも同様に適用することができる。すなわち、毛髪50がキューティクル51、コルテックス53及びメデュラ55を有すると考えても、繊維試料の弾性率の算出システム及び以下に示す方法により、同様に弾性率を算出することが可能である。
【0025】
断面二次モーメント特定装置10は、毛髪50の断面二次モーメントを特定する。断面二次モーメント特定装置10は、毛髪50の断面を観察することで、毛髪50の外径及び各層の厚さを測定する。毛髪50の断面は、例えば毛髪50の一部を切断して露出された切断面であり、顕微鏡により観察される。このため、断面二次モーメント特定装置10は、図3に示すように、毛髪50を切断する切断装置11と、毛髪50の断面を観察するための撮像装置13と、を有している。観察される毛髪50の断面が、図4に概略的に示されている。毛髪50の断面は、略楕円形状となっている。毛髪50の外径として、毛髪50の断面における最も長い長径aと最も短い短径bが測定される。また、毛髪50の層の厚さとしては、毛髪50の長径の方向におけるキューティクル51の厚さDが測定される。毛髪の長径aに対するキューティクル51の厚さDの比は、毛髪50の断面全体において略一定であると考えられる。
【0026】
毛髪50の断面が楕円であると考えることで、各層の断面二次モーメントを算出することができる。毛髪50の外径及び各層の厚さは容易に測定することができるため、断面二次モーメントを容易に求めることができる。断面二次モーメント特定装置10によって特定される断面二次モーメントは、毛髪50に荷重がかかる際にもっとも変形しやすい方向、すなわち断面二次モーメントが最も小さくなる方向の断面二次モーメントである。例えば、断面が楕円であるとした場合、特定される断面二次モーメントは、短径方向の断面二次モーメントである。毛髪50の外径及び各層の厚さから断面二次モーメントを特定する方法については、後述の毛髪50の弾性率の算出方法にて詳しく説明する。なお、断面二次モーメント特定装置10は、断面を楕円と考えることなく、例えば毛髪50の断面の画像を解析することによって断面二次モーメントを直接算出してもよい。この場合、断面二次モーメント特定装置10は、画像を解析することによって断面二次モーメントを算出することが可能な画像解析装置をさらに有し得る。
【0027】
長さ測定装置20は、毛髪50の一端50a側のみを固定し他端50bに所定の荷重をかけた状態で、毛髪50の固定位置と他端との間の長さ及び他端のたわみ量を測定する。長さ測定装置20は、例えば、図5に示すように、毛髪50の一部を固定する固定台21と、毛髪50の長手方向に直交する方向から撮像する撮像装置23と、毛髪50の他端に所定の荷重をかける荷重装置25と、を有している。長さ測定装置20において、図5に示すように、毛髪50は、一端50a側を固定されるが、他端50bは自由端とされる。このとき、毛髪50は、略水平に保たれることが好ましい。この状態で撮像される画像が、図6に概略的に示されている。図6に示された状態の毛髪50に対して、他端50bに所定の荷重がかけられる。毛髪50に荷重がかけられると、図7に示すように、毛髪50の固定された位置のうち最も他端50bに近い固定位置50fと他端50bとの間の部分がたわむ。荷重は、他端50bのたわみが観察される程度に十分に大きく、且つ他端50bのたわみが弾性限度を超えない程度に十分小さい。例えば、荷重は1mg重以上2mg重以下である。長さ測定装置20は、他端50bに荷重がかけられた状態で撮像された画像から、毛髪50の固定位置50fと他端50bとの間の長さLを測定する。また、長さ測定装置20は、毛髪50の他端50bが荷重をかける前に撮像された画像と荷重をかけた後に撮像された画像との比較から、毛髪50の他端50bが移動した長さ(たわみ量)δを測定する。なお、毛髪50の固定位置50fと他端50bとの間の長さLは、荷重をかけた状態ではたわみ量が観察しやすいように十分に長く、且つ自重によって変形しないように十分に短くなっている。具体的には、毛髪50の固定位置50fと他端50bとの間の長さLは、例えば0.5mm以上2.0mm以下である。
【0028】
弾性率算出装置30は、毛髪50の断面二次モーメントI、毛髪50の固定位置50fと他端50bとの間の長さL及び他端50bのたわみ量δの値を受けて、これらの値から、毛髪50の弾性率を算出する。また、毛髪50全体の弾性率だけでなく、毛髪50の各層の断面二次モーメント、すなわちキューティクル51の断面二次モーメントIcu及びコルテックス53の断面二次モーメントIcoから、キューティクル51の弾性率Ecu及びコルテックス53の弾性率Ecoをそれぞれ算出することもできる。毛髪50の弾性率及び毛髪50の各層の弾性率を算出する具体的な方法については、後述にて詳しく説明する。
【0029】
次に、繊維試料の弾性率を算出する方法について説明する。繊維試料の一例として、異種材料からなる複数の層を有する哺乳類の体毛、とりわけキューティクル51及びコルテックス53の2つの層を有する毛髪50の弾性率の算出方法を説明する。なお、以下で説明する繊維試料の弾性率を算出する方法は、哺乳類の体毛以外の任意の繊維状の物体、例えば生物以外の被験体から採取される繊維試料についても、同様に適用可能である。
【0030】
まず、複数の毛髪50を準備する。これらの毛髪50は、同一の被験体から採取される。すなわち、準備される複数の毛髪50は全て、同一人物の毛髪である。準備される毛髪50の数は、毛髪50が有する層の数(本実施の形態の毛髪50では2)以上の数である。準備される毛髪50の数は、好ましくは、毛髪50が有する層の数より多くなっている。すなわち、本実施の形態では、同一人物から採取した3本以上の毛髪50が準備される。
【0031】
次に、各毛髪50の断面二次モーメントを特定する。断面二次モーメントは、例えば断面二次モーメント特定装置10を用いることで特定することができる。すなわち、毛髪50の一部を切断して切断面を露出させて、切断面を顕微鏡で観察する。断面を観察することで、毛髪50の外径及び毛髪50の各層の厚さを測定する。毛髪50の外径として最も長い長径aと最も短い短径bが測定され、毛髪50が有する各層の厚さとして毛髪50の長径の方向におけるキューティクル51の厚さDが測定される。測定されたこれらの値から、以下のように毛髪50の全体の断面二次モーメント及び毛髪50のキューティクル51及びコルテックス53の断面二次モーメントが特定される。
【0032】
断面が楕円である繊維試料の短径方向の断面二次モーメントIは、楕円の長径をa、短径をbとすると、
と表される。毛髪50の断面は、長径をa、短径をbとする楕円と考えることができる。この場合、このIが毛髪50の短径方向の断面二次モーメントである。
【0033】
ここで、一般に、Nを2以上の自然数、nをN以下の自然数として、N層を有する繊維試料における外側からn層目の層の断面二次モーメントIを考える。繊維試料の長径aに対する外側からn層目の層の長径の比Rは、
と表すことができる。ただし、D=0とする。繊維試料の長径aに対する外側からn層目の層の長径の比Rは繊維試料全体において略一定であると考えられるため、このRを用いると、n層目の層の長径はaR、短径はbRと表すことができる。これらを用いると、外側からn層目の層の断面二次モーメントIは、
と表すことができる。ただし、RN+1=0とする。このことから、毛髪50のキューティクル51の断面二次モーメントIcuは、
と表され、毛髪50のコルテックス53の断面二次モーメントIcoは、
と表される。ただし、N=2であることから、R=1、R=1-2D/a、R=0である。
【0034】
以上のような計算から、毛髪50の断面二次モーメントI、キューティクル51の断面二次モーメントIcu及びコルテックス53の断面二次モーメントIcoが、断面二次モーメント特定装置10によって特定される。
【0035】
その後、これらの毛髪50のそれぞれについて、毛髪50の一端50a側のみを固定し他端50bに所定の荷重Pをかけた状態で、毛髪50の固定位置50fと他端50bとの間の長さL及び他端50bのたわみ量δを測定する。毛髪50のたわみが観察しやすいよう、荷重Pは、毛髪50の断面二次モーメントが小さい方向、すなわち毛髪50の短径方向にかけられる。毛髪50の固定位置50fと他端50bとの間の長さL及び他端50bのたわみ量δは、例えば長さ測定装置20を用いて測定することができる。すなわち、毛髪50の他端50bに荷重をかける前と荷重をかけた後の画像を比較することで、毛髪50の他端50bが移動した長さ(たわみ量)δを測定する。
【0036】
次に、各毛髪50の特定された断面二次モーメント、固定位置50fから他端50bまでの長さL及び他端50bのたわみ量δから、毛髪50の全体の弾性率及び各層の弾性率を算出する。弾性率は、例えば弾性率算出装置30に各毛髪50の特定された断面二次モーメント、固定位置50fから他端50bまでの長さL及び他端50bのたわみ量δを入力することによって、弾性率算出装置30が以下の計算を行うことで、算出することができる。
【0037】
繊維試料の曲げ剛性に関する関係から、弾性率を算出することができる。曲げ剛性とは、梁のような直線状に伸びる部材の伸びる方向に非平行な方向への変形のしにくさを表しており、当該部材の弾性率Eと曲げ方向における断面二次モーメントIとの積として表される。すなわち、毛髪50の曲げ剛性kは、毛髪50の弾性率E及び断面二次モーメントIを用いて、
と表される。また、図6及び図7に示すような、いわゆる片持ち梁の態様における曲げ剛性kは、他端50bにかかる荷重P、繊維試料としての毛髪50の固定位置50fから他端50bまでの長さL及び他端50bのたわみ量δを用いて、
と表すことができることが知られている。したがって、毛髪50の断面二次モーメントI、他端50bにかかる荷重P、毛髪50の固定位置50fから他端50bまでの長さL及び他端50bのたわみ量δを測定することで、この曲げ剛性の関係から、毛髪50の弾性率Eを算出することができる。
【0038】
また、繊維試料が複数の層を有する場合、繊維試料の全体の曲げ剛性kは、各層の曲げ剛性の和、すなわち各層の弾性率Eと断面二次モーメントIとの積の和となる。すなわち、繊維試料が有する層の数をNとすると、繊維試料の曲げ剛性kは、
と表すことができる。断面二次モーメントの特定と長さの測定をN本以上の繊維試料に対して行うことで、各繊維試料の曲げ剛性と断面二次モーメントとの関係から、各層の弾性率を算出することができる。
【0039】
毛髪50は、キューティクル51及びコルテックス53の2つの層を有している。したがって、曲げ剛性kは、
と表すことができる。複数の毛髪50に亘ってキューティクル51の弾性率Ecu及びコルテックス53の弾性率Ecoは略一定であると考えられるため、断面二次モーメントの特定と長さの測定を2本の毛髪50に対して行うことで、キューティクル51の弾性率Ecuとコルテックス53の弾性率Ecoとを算出することができる。
【0040】
なお、断面二次モーメントの特定と長さの測定を行う繊維試料の数は、繊維試料が有する層の数で十分である。上述した説明では2本の毛髪50の断面二次モーメントの特定と長さの測定を行うことで、毛髪50の弾性率を算出することができる。しかしながら、繊維試料が有する層の数より多くの数の繊維試料について断面二次モーメントの特定と長さの測定を行うことで、重回帰分析等の多変数量解析により、精度よく各層の弾性率を算出することができる。すなわち、3本以上の毛髪50の断面二次モーメントの特定と長さの測定を行い、毛髪50の全体の曲げ剛性k=E×Iが目的変数、各層の断面二次モーメントIcu,Icoが説明変数、各層の弾性率Ecu,Ecoが回帰係数であり、定数項が0である重回帰式とみなすことで、回帰係数Ecu,Ecoを精度よく算出することができる。
【0041】
繊維試料の弾性率は、繊維材料の手触り(柔軟性)を決定する要素の1つである。したがって、繊維試料の弾性率を算出することで、繊維材料の手触りを評価することができる。また、複数の層を有する繊維試料において、各層の弾性率を算出することで、繊維試料の各層の手触りへの寄与を評価することができる。例えば、ある人の毛髪50のキューティクル51の弾性率とコルテックス53の弾性率を算出して一般的な人の毛髪のキューティクルの弾性率とコルテックスの弾性率と比較することで、キューティクル51とコルテックス53とのいずれが手触りへの寄与が小さいか、さらにはキューティクル51やコルテックス53が痛んでいるのかを評価することができる。
【0042】
次に、このような繊維試料の弾性率の算出方法を利用した繊維材料の処理剤の評価方法について説明する。以下では例として、毛髪を処理する毛髪化粧料の評価方法について説明する。
【0043】
まず、上述した方法により、毛髪50の弾性率を算出する。次に、毛髪50を毛髪化粧料で処理する。毛髪化粧料で処理される毛髪50は、弾性率を算出した毛髪50と同一の被験体から採取した毛髪であり、好ましくは弾性率を算出した毛髪50と同一の毛髪である。その後、毛髪化粧料で処理された後の毛髪50の弾性率を、上述した方法により算出する。毛髪化粧料で処理される前の毛髪50の弾性率と毛髪化粧料で処理された後の毛髪50の弾性率とを比較する。この比較により、毛髪化粧料を評価することができる。すなわち、毛髪化粧料による毛髪50の弾性率の変化、言い換えると毛髪化粧料による毛髪50の手触りの変化によって、毛髪化粧料の手触りの向上への寄与の度合いを弾性率の変化で評価することができる。
【0044】
とりわけ、毛髪化粧料で処理される前及び毛髪化粧料で処理された後において、毛髪50の全体の弾性率Eだけでなく、キューティクル51の弾性率Ecu及びコルテックス53の弾性率Ecoも算出されることが好ましい。この場合、毛髪50の各層について、毛髪化粧料で処理される前の毛髪50の弾性率と毛髪化粧料で処理された後の毛髪50の弾性率とを比較する。毛髪化粧料による各層の弾性率の変化によって、毛髪50の各層に対して毛髪化粧料の手触りの向上への寄与の度合いを評価することができる。すなわち、毛髪化粧料の毛髪50のキューティクル51の弾性率への寄与及びコルテックス53の弾性率への寄与をそれぞれ評価することができる。
【0045】
次に、この繊維材料の処理剤の評価方法に基づいた繊維材料の処理剤の製造方法について説明する。以下では例として、毛髪化粧料の評価方法に基づいた毛髪化粧料の製造方法について説明する。
【0046】
上述した毛髪化粧料の評価の結果から、例えば毛髪化粧料に毛髪50のキューティクル51の弾性率を向上させる成分が不十分であると判断される場合、毛髪化粧料にキューティクル51の弾性率を向上させる成分を追加する。あるいは、例えば毛髪化粧料に毛髪50のキューティクル51の弾性率を向上させる成分が過剰である判断される場合、毛髪化粧料にキューティクル51の弾性率を向上させる成分を減少させる。このように毛髪化粧料の評価方法による結果に基づいて毛髪化粧料の成分を調節する。これにより、手触りをより良くすることが可能な、言い換えるとより弾性率を向上させることが可能な毛髪化粧料を製造することができる。
【0047】
次に、このような繊維試料の弾性率の算出方法を利用した繊維材料の処理剤の決定方法について説明する。以下では例として、毛髪を処理する毛髪化粧料の決定方法について説明する。
【0048】
まず、被験体から毛髪50の提供を受ける。提供される毛髪50は、複数であることが好ましい。次に、上述した方法により、提供された毛髪50の弾性率を算出する。その後、毛髪50を毛髪化粧料で処理する。毛髪化粧料で処理される毛髪50は、好ましくは弾性率を算出した毛髪50と同一の毛髪である。そして、毛髪化粧料で処理された後の毛髪50の弾性率を、上述した方法により算出する。毛髪化粧料で処理される前及び毛髪化粧料で処理された後において、毛髪50の全体の弾性率Eだけでなく、キューティクル51の弾性率Ecu及びコルテックス53の弾性率Ecoも算出されることが好ましい。毛髪化粧料で処理される前の毛髪50の弾性率と毛髪化粧料で処理された後の毛髪50の弾性率とを比較する。これにより、提供された毛髪50に対して処理に用いた毛髪化粧料の弾性率の変化への寄与、言い換えると手触りの変化への寄与を評価することができる。すなわち、提供された毛髪50への処理に用いた毛髪化粧料の適性を評価することができる。提供された毛髪50を種々の毛髪化粧料で処理することで、提供された毛髪50への各毛髪化粧料の適性を評価することができる。この評価に基づいて、被験体の毛髪50に対して最適な毛髪化粧料を決定することができる。
【0049】
このように提供された毛髪に対して適した毛髪化粧料の決定方法は、例えば、顧客から毛髪の提供を受けて、その毛髪に適した毛髪化粧料を決定して販売することに用いることができる。
【0050】
ところで、特許文献1に記載されている繊維試料の弾性率の算出方法では、繊維試料の弾性率は、繊維試料に荷重をかけた状態での繊維試料のたわみを多数回測定し、多数の繊維試料にかけた荷重と繊維試料のたわみの関係から、繊維試料の弾性率を算出している。このため、繊維試料の弾性率の算出のために、多くの回数の測定が必要であり、手間がかかる。また、特許文献2に記載されている繊維試料の弾性率の算出方法では、原子間力顕微鏡により、繊維試料の断面を測定し、断面を解析することで各断面での弾性力を評価している。原子間力顕微鏡による断面の観察は容易ではない上、各断面での局所的な弾性力を評価することができるのみであり、繊維試料の局所的な弾性力から全体の弾性率を評価することは困難である。さらに、非特許文献2に記載されている繊維試料の弾性率の算出方法では、繊維試料としての毛髪の外側の層(キューティクル)をやすりで削り取っている。精密に毛髪の外側の層を削り取ることは容易ではなく、手間がかかる上、繊維試料を損傷させてしまう。
【0051】
一方、本実施の形態の繊維試料の弾性率の算出方法及び算出システムによれば、繊維試料の弾性率は、1回あるいは数回の測定で算出することができる。また、断面二次モーメントは容易に特定することができる。このように、本実施の形態では、繊維試料の弾性率の算出に手間がかからず、精密な観察や作業を要しないため、繊維試料の弾性率を容易に算出することができる。
【0052】
加えて、本実施の形態の繊維試料の弾性率の算出方法及び算出システムによれば、繊維試料全体の弾性率を算出することができる。したがって、繊維試料全体としての手触りを評価することができる。さらに、本実施の形態の繊維試料の弾性率の算出方法によれば、繊維試料を損傷させることなく、繊維試料の弾性率を算出することができる。したがって、弾性率を算出した繊維試料を再利用することができる。
【0053】
また、本実施の形態の繊維試料の弾性率の算出方法及び算出システムでは、繊維試料の外径を測定している。繊維試料の外径から、繊維試料の断面二次モーメントを容易に特定することができる。このため、繊維試料の弾性率を容易に算出することができる。繊維試料の弾性率から、繊維試料の手触りを評価することができる。
【0054】
さらに、本実施の形態の繊維試料の弾性率の算出方法及び算出システムによれば、繊維試料が異種材料からなる複数の層を有する場合、繊維試料の各層の厚さを測定している。繊維試料の外径及び各層の厚さから、繊維試料の各層の断面二次モーメントを容易に特定することができる。このため、繊維試料の各層の弾性率を容易に算出することができる。各層の弾性率から、繊維試料の各層の手触りへの寄与を評価することができる。
【0055】
また、準備される繊維試料の数は、繊維試料が有する層の数より多くなっている。繊維試料が有する層の数より多くの数の繊維試料について断面二次モーメントの特定と長さの測定を行うことで、多変数量解析により、精度よく各層の弾性率を算出することができる。すなわち、繊維試料の各層の手触りへの寄与を精度よく評価することができる。
【0056】
さらに、本実施の形態の毛髪化粧料の評価方法において、毛髪50を損傷させることなく毛髪50の弾性率を算出することができるため、同一の毛髪50に対して毛髪化粧料の処理前後の弾性率を比較することができる。このため、毛髪化粧料による毛髪50の弾性率の変化をより適切に評価することができる。
【0057】
本実施の形態の毛髪化粧料の製造方法は、このような毛髪化粧料の評価に基づいて、毛髪化粧料の成分を調節している。これにより、弾性率を適切に向上させることが可能な毛髪化粧料を製造することができる。
【0058】
本実施の形態の毛髪化粧料の決定方法において、毛髪50を損傷させることなく毛髪50の弾性率を算出することができるため、同一の毛髪50に対して毛髪化粧料の処理前後の弾性率を比較することができる。このため、毛髪化粧料の毛髪50への適性をより適切に評価することができる。
【0059】
以上のように、本実施の形態の繊維試料の弾性率の算出方法は、繊維試料の断面二次モーメントを特定する工程と、繊維試料の一端50a側のみを固定し他端50bに所定の荷重をかけた状態で、繊維試料の固定位置50fと他端50bとの間の長さL及び他端50bのたわみ量δを測定する工程と、繊維試料の断面二次モーメントI、繊維試料の固定位置50fと他端50bとの間の長さL及び他端50bのたわみ量δから、繊維試料の弾性率を算出する工程と、を備える。このような繊維試料の弾性率の算出方法によれば、容易に特定される断面二次モーメントや容易に測定される繊維試料の固定位置50fと他端50bとの間の長さL及び他端50bのたわみ量δから、繊維試料の弾性率を算出することができる。これらの値は容易に特定または測定することができるため、繊維試料の弾性率を容易に算出することができる。
【0060】
また、本実施の形態の繊維試料の弾性率の算出方法は、異種材料からなる複数の層を有する繊維試料の各層の弾性率を算出する方法であって、同一の被験体から採取した複数の繊維試料であって、繊維試料が有する層の数以上の数の繊維試料を準備する工程と、各繊維試料が有する各層の断面二次モーメントを特定する工程と、各繊維試料について、繊維試料の一端50a側のみを固定し他端50bに所定の荷重をかけた状態で、繊維試料の固定位置50fと他端50bとの間の長さL及び他端50bのたわみ量δを測定する工程と、各繊維試料の断面二次モーメント、繊維試料の固定位置50fと他端50bとの間の長さL及び他端50bのたわみ量δから、繊維試料の各層の弾性率を算出する工程と、を備える。このような繊維試料の弾性率の算出方法によれば、容易に特定される各層の断面二次モーメントや容易に測定される各繊維試料の固定位置50fと他端50bとの間の長さL及び他端50bのたわみ量δから、繊維試料の各層の弾性率を算出することができる。これらの値は容易に特定または測定することができるため、繊維試料の各層の弾性率を容易に算出することができる。
【0061】
なお、本実施の形態に対して、様々な変更を加えることが可能である。
【0062】
例えば、上述した実施の形態では、毛髪50の他端50bに荷重Pをかける前と荷重Pをかけた後とを比較することで、毛髪50の他端50bが移動した長さ(たわみ量)δを測定している。しかしながら、毛髪50の他端50bに荷重P1をかけた状態と荷重P2をかけた状態とを比較することで、毛髪50の他端50bが移動した長さ(たわみ量)δを測定してもよい。この場合、荷重Pの代わりに荷重P1と荷重P2との差を用いることで、毛髪50の曲げ剛性kを算出することができる。
【0063】
毛髪50は、他端50bにかけられた荷重だけでなく、毛髪50自体の自重によってもたわみ得る。したがって、毛髪50の他端50bに荷重Pをかける前と荷重Pをかけた後との比較により毛髪50の他端50bが移動した長さ(たわみ量)δを測定する場合、荷重Pによるたわみと毛髪50の自重によるたわみとの和が測定される。このため、荷重Pのみによるたわみ量を測定することは困難である。一方、毛髪50の他端50bに荷重P1をかけた状態と荷重P2をかけた状態とを比較する場合、荷重P1と荷重P2との差と他端50bのたわみ量δとの関係において、毛髪50の自重の影響を排除することができる。したがって、より正確に荷重と他端50bのたわみ量との関係を測定することができる。すなわち、より正確に毛髪50の弾性率を算出することができる。
【実施例
【0064】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0065】
被験体Aから繊維試料として10本の毛髪A1~A10の提供を受けた。各毛髪について、一部を切断して切断面を露出させ、切断面を顕微鏡(キーエンス社製レーザー顕微鏡 VK-X250)で観察した。観察された切断面を撮像した画像から、各毛髪の長径a、短径b、キューティクルの厚さDを測定した。これらの値から、各毛髪の断面二次モーメントI、キューティクルの断面二次モーメントIcu及びコルテックスの断面二次モーメントIcoを算出した。その後、各毛髪について、一端側のみを固定し、他端に1mg重の荷重をかけた。荷重をかける前に撮像した画像と荷重をかけた後に撮像した画像との比較から、他端のたわみ量δを測定した。また、毛髪の固定位置と他端との間の長さLを測定した。そして、これらの測定結果から、各毛髪の弾性率Eを算出した。
【0066】
各毛髪A1~A10について、測定した毛髪の長径a、短径b、キューティクルの厚さD、毛髪の固定位置と他端との間の長さL、他端のたわみ量δ、断面二次モーメントI、キューティクルの断面二次モーメントIcu及びコルテックスの断面二次モーメントIco、算出した弾性率Eを以下の表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1に示されている各毛髪A1~A10の断面二次モーメントI、毛髪の弾性率E、キューティクルの断面二次モーメントIcu及びコルテックスの断面二次モーメントIcoの結果から、E×I=Ecu×Icu+Eco×Icoとして重回帰分析することにより、キューティクルの弾性率Ecuとコルテックスの弾性率Ecoとを算出することができる。具体的には、E×Iが目的変数、断面二次モーメントIcu,Icoが説明変数、弾性率Ecu,Ecoが回帰係数であり、定数項が0である重回帰式とみなすことで、キューティクルの弾性率Ecuは15.62GPaであり、コルテックスの弾性率Ecoは0.86GPaであると算出される。
【0069】
このように、繊維試料の弾性率及び繊維試料の各層の弾性率を容易に算出することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 繊維試料の弾性率の算出システム
10 断面二次モーメント特定装置
20 長さ測定装置
30 弾性率算出装置
50 毛髪
50a 一端
50b 他端
50f 固定位置
51 キューティクル
53 コルテックス
55 メデュラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7