(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】単純焼成を用いたナノ板状ゼオライトの製造方法及びこれによって製造されたナノ板状ゼオライト粒子
(51)【国際特許分類】
C01B 39/48 20060101AFI20240401BHJP
B01J 29/70 20060101ALI20240401BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20240401BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240401BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20240401BHJP
【FI】
C01B39/48
B01J29/70 Z
B01J37/04
B01J37/08
B82Y30/00
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020136905
(22)【出願日】2020-08-14
【審査請求日】2020-09-29
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-05
(31)【優先権主張番号】10-2019-0099489
(32)【優先日】2019-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】510273880
【氏名又は名称】コリア ユニバーシティ リサーチ アンド ビジネス ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】KOREA UNIVERSITY RESEARCH AND BUSINESS FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】チェ ジュンギュ
(72)【発明者】
【氏名】イ クァンニョン
(72)【発明者】
【氏名】チャン ウンヘ
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】金 公彦
【審判官】増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-530680(JP,A)
【文献】特表2003-509479(JP,A)
【文献】特開2004-2160(JP,A)
【文献】特開2002-249313(JP,A)
【文献】NARKHEDE, V. V. et al.,Chemistry of Materials,2009年08月26日,vol.21,pp.4339-4346,<DOI:10.1021/cm901883e>
【文献】MICHAEL, T. et al.,Hydrogen Selective Exfoliated Zeolite Membranes,Technical Report,米国,2015年04月06日,<DOI:10.2172/1178537>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20-39/54
B01J 21/00-38/74
B82Y 5/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層MWW型ゼオライト前駆体に水、層間膨張剤を混合して多層型ゼオライト前駆体の層間間隔を拡張させる段階;
前記層間間隔が拡張されたゼオライト前駆体を含有する混合物から固体物質を得た後、これを焼成させてナノ板状単層ゼオライトを得る段階
;
前記固体物質を得た後に、50~110℃の温度で10~24時間乾燥する段階;
及び
前記乾燥の後に、400~700℃の温度で1~40時間焼成する段階:
を含むナノ板状単層ゼオライトの製造方法であって、
前記層間膨張剤は、アルキルトリメチルアンモニウム官能基を含有する塩化合物と、テトラプロピルアンモニウム官能基を含有する塩化合物との混合物であり、
前記多層MWW型ゼオライト前駆体のSi/Al比は、10~200であり、そして
前記多層型ゼオライト前駆体の層間間隔を拡張させる段階は、25~80℃の温度で16~20時間行い、超音波刺激及び酸性化は実行しない、
前記ナノ板状単層ゼオライトの製造方法。
【請求項2】
前記アルキルトリメチルアンモニウム官能基を含有する塩化合物は、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド(dodecyltrimethylammonium bromide)、セトリモニウムブロミド(cetrimonium bromide)、トリメチルオクタデシルアンモニウムブロミド(trimethyloctadecylammonium bromide)からなる群から選択される一つ以上である、請求項1に記載のナノ板状単層ゼオライトの製造方法。
【請求項3】
前記テトラプロピルアンモニウム官能基を含有する塩化合物は、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムフルオリド、テトラプロピルアンモニウムクロリド及びテトラプロピルアンモニウムヒドロキシドからなる群から選択される一つ以上である、請求項1に記載のナノ板状単層ゼオライトの製造方法。
【請求項4】
前記多層MWW型ゼオライト前駆体は、有機構造指向剤を添加して製造されたことを特徴とする、請求項1に記載のナノ板状単層ゼオライトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ板状ゼオライトの製造方法及びこれによって製造されたナノ板状ゼオライト粒子に関し、より詳細には、多層型ゼオライト前駆体に層間膨張剤を混合して多層型ゼオライト前駆体の層間間隔を拡張させ、乾燥及び焼成させる単純な工程によって、アルキル化工程の触媒として使用可能なナノ板状単層ゼオライトを製造するナノ板状ゼオライトの製造方法及びこれによって製造されたナノ板状ゼオライト粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは表面積が大きく、気孔構造が独特な微細多孔性結晶質物質であり、酸点があるので、精油/石油化学産業で触媒/支持体及び吸着剤として広く用いられている(Degnan,T.F.,J.Catal.,2003,216,32-46;Yilmaz,B.et al.,Top.Catal.,2009,52,888-895;Degnan,T.F.et al.,Microporous Mesoporous Mater.,2000,35-6,245-252;Vispute,T.P.et al.,Science,2010,330,1222-1227)。産業において広く使用されているにもかかわらず、ゼオライトは精油/石油化学産業で用いられるとき、反応物に対して気孔サイズ(約0.8nm未満)が小さいという短所がある。したがって、気孔の接近性を高めて活性点に対する接近を増進させる方法が試みられている。かかる接近法の一つとして、既存のゼオライトに中間気孔を導入して階層型多孔性構造を合成することがある(Choi,M.et al.,Nature,2009,461,246-249;Groen,J.C.et al.,J.Mater.Chem.,2006,16,2121-2131;Groen,J.C.et al.,J.Am.Chem.Soc.,2007,129,355-360;Perez-Ramirez,J.et al.,Adv.Funct.Mater.,2009,19,3972-3979;Na,K.et al.,Science,2011,333,328-332;Zhang,X.Y.et al.,Science,2012,336,1684-1687)。一般に、微細多孔性ゼオライトにシリカ除去或いはアルミニウム除去のようないわゆる下向き式方法を用いて中間サイズの孔隙を生成することができる(Groen,J.C.et al.,J.Mater.Chem.,2006,16,2121-2131;Groen,J.C.et al.,J.Am.Chem.Soc.,2007,129,355-360;Perez-Ramirez,J.et al.,Adv.Funct.Mater.,2009,19,3972-3979;Mitchell,S.et al.,J.,Nat.Commun.,2015,6,14;Verboekend,D.et al.,J.,Adv.Funct.Mater.,2012,22,916-928)。しかし、このような方法で生成された粒子は気孔サイズがバラバラであり、低い再現性を示す。一方、アンモニウム基を持つ長い炭素鎖を含む有機構造誘導体(OSDA)を用いて階層構造ゼオライトを合成することができる(Choi,M.et al.,Nature,2009,461,246-249;Na,K.et al.,Science,2011,333,328-332;Moliner,M.et al.,Angew.Chem.-Int.Edit.,2013,52,13880-13889;Jiang,J.X.et al.,Science,2011,333,1131-1134)。このように合成された粒子は階層多孔性構造を有するが、この時に用いられるOSDAはしばしば複雑な合成過程を必要とし、不回避に高費用がかかる。
【0003】
種々のゼオライトのうち代表的なMWW型ゼオライトであるMCM-22(Mobile Composition of Matter-22)はZSM-5と類似の気孔サイズを有するが、独特の気孔分布を持っている物質である(Degnan,T.F.et al.,Appl.Catal.A-Gen.,2001,221,283-294;Corma,A.et al.,J.Catal.,2000,192,163-173;Vermeiren,W.et al.,Top.Catal.,2009,52,1131-1161)。また、追加的な構造変換のための始点として働くことができ、広く研究されてきた(Roth,W.J.et al.,Sci.Catal.,1995,94,301-308;Corma,A.et al.,Nature,1998,396,353-356;Wang,L.L.et al.,Microporous Mesoporous Mater.,2008,113,435-444;Varoon,K.et al.,Science,2011,334,72-75)。特に、MCM-22前駆体(MCM-22(P))の焼成過程を通じて隣接した層が付着して合成されるMCM-22は、2つの独立した気孔構造を持っている。
図1は、(a1)-(a2)MWW型ゼオライト気孔構造及び(b1)-(b2)剥離されたMWW型ゼオライト気孔構造、の図式イメージを示す図である。各孔隙は、個別に色付けた矢印で表示した(層内部10MR気孔窓では赤色、層間10MR気孔には青色、12MRスーパーケージには黒い色)。(a1)-(b1)において剥離過程中に層間10MR気孔と12MRスーパーケージの構造変化はそれぞれ青色と黒色のボックスで表示した。特に、剥離工程後に露出された12MRカップ又は半分スーパーケージは、(b1)において灰色の矢印で表示される。
【0004】
一つは、MWW層の内部にサイン曲線のように存在する10メンバー・リング(MR)孔隙を含み、もう一つは、他の円筒形12MRスーパーケージ又はポケット(
図1で黒色の矢印で表示)を含む(Leonowicz,M.E.et al.,Science,1994,264,1910-1913;Corma,A.et al.,J.,Zeolites,1995,15,2-8;Lawton,S.et al.,Microporous Mesoporous Mater.,1998,23,109-117)。MCM-22の外部表面はカップ状の12MR孔隙(
図1の青色矢印で表示)で終わるが、この12MRは大きい有機分子を選択的に吸着するものとして知られている(Lawton,S.et al.,Microporous Mesoporous Mater.,1998,23,109-117)。事実上、カップ状の12MRが露出された形態の粒子は、これまでは実際に見られない独特の、且つはるかに優れた、触媒性能を提供した(Degnan,T.F.et al.,Appl.Catal.A-Gen.,2001,221,283-294;Lawton,S.et al.,Microporous Mesoporous Mater.,1998,23,109-117)。
【0005】
他の構造類型を得るための始点として使用可能なMCM-22(P)は、それぞれ、(1)柱状化過程によってMCM-36に(Roth,W.J.et al.,Sci.Catal.,1995,94,301-308;He,Y.J.et al.,J.A.,Microporous Mesoporous Mater.,1998,25,207-224)(2)層状剥離によってITQ-2(Instituto de Tecnologia Quimica Valencia-2)に(Corma,A.et al.,Nature,1998,396,353-356;Wang,L.L.et al.,Microporous Mesoporous Mater.,2008,113,435-444.19;Corma,A.et al.,J.Catal.,2000,191,218-224;Corma,A.et al.,Microporous Mesoporous Mater.,2000,38,301-309;Corma,A.et al.,J.Catal.,1999,186,57-63)(3)弱酸性処理によってMCM-56に変形させることができる(Corma,A.et al.,J.Catal.,2000,191,218-224;Corma,A.et al.,Microporous Mesoporous Mater.,2000,38,301-309;Corma,A.et al.,J.Catal.,1999,186,57-63;Polozij,M.et al.,Dalton Trans.,2014,43,10443-10450)。最近では、層間間隔が膨脹したMCM-22(P)を用いて12MR気孔のスーパーケージ内にPt粒子をカプセル化できるという研究が行われた(Liu,L.C.et al.,Nat.Mater.,2017,16,132-138)。MCM-22に比べてMCM-36及びITQ-2は酸点(acid sites)への接近性が高くなり、これにより、触媒性能の向上と共に触媒寿命が増加した(Mitchell,S.et al.,J.,Nat.Commun.,2015,6,14;Corma,A.et al.,J.Catal.,2000,191,218-224;Corma,A.et al.,J.Catal.,2000,191,218-224;Osman,M.et al.,Catal.Sci.Technol.,2016,6,3166-3181;Corma,A.et al.,J.Catal.,2001,200,259-269;Liu,D.X.et al.,Microporous Mesoporous Mater.,2014,200,287-290;Arias,K.S.et al.,ACS Sustain.Chem.Eng.,2016,4,6152-6159;Rodrigues,M.V.et al.,Appl.Catal.A-Gen.,2015,495,84-91)。このような増加した触媒性能を理解するためには、階層構造粒子の物理化学的性質に対する正確な理解が必要である。
【0006】
しかし、このような階層構造粒子を得るための多数の段階が単純化する必要がある。特に、ITQ-2を得る手順に関するいくつかの研究が行われたが、まだ複雑である(Corma,A.et al.,Nature,1998,396,353-356;Corma,A.et al.,J.Catal.,2000,191,218-224;Corma,A.et al.,J.Catal.,1999,186,57-63)。層間膨脹と剥離に対する効果を確認するための多くの研究が試みられた(Maheshwari,S.et al.,J.Am.Chem.Soc.,2008,130,1507-1516;Schwanke,A.J.et al.,Microporous Mesoporous Mater.,2017,254,17-27)。このような研究から、MWW型ゼオライト構造が高温(80℃)で層間膨脹過程に対して構造的損傷を受けたということが確認された(Maheshwari,S.et al.,J.Am.Chem.Soc.,2008,130,1507-1516;Schwanke,A.J.et al.,Microporous Mesoporous Mater.,2017,254,17-27)。他の研究からは、室温で行われた層間膨脹によってMWW構造が保存されたことを確認し、層間膨脹の後、ポリスチレンとの溶融ブレンディングによってc-方向に約2.5nm厚のナノ薄膜MWW型ゼオライトを合成した(Varoon,K.et al.,Science,2011,334,72-75)。以下、c-方向へのMWW型ゼオライトの1枚の層のナノ薄膜をUCと表現する。また、長時間の超音波処理が不所望の中間孔隙構造の形成を招き得るということが明らかにされ、超音波刺激のない条件でゼオライト層間構造分離法を変形させた(Frontera,P.et al.,Microporous Mesoporous Mater.,2007,106,107-114)。また、テトラプロピルアンモニウムフルオリドとテトラプロピルアンモニウムクロリドのような異なる層間膨張剤を使用する方法は、層間膨脹過程で既存方法に比べて低いpHを有する中性溶液を使用するが、この方法は剥離に効果的であり、超音波処理を必要としない(Ogino,I.et al.,J.Am.Chem.Soc.,2011,133,3288-3291;Maluangnont,T.et al.,Chem.Commun.,2014,50,7378-7381)。
【0007】
このように、従来の多層型ゼオライト層間構造分離法(ITQ-2合成法)は、(1)高い温度で塩基性溶液処理を用いたゼオライトの層間間隔拡張、(2)超音波刺激を用いた構造分離、(3)塩酸投入など、非常に苛酷な後処理過程がさらに含まれている。このような苛酷な後処理によってゼオライト本然の気孔構造が崩壊する傾向があった。
【0008】
また、最近では新しい類型の有機構造誘導体(OSDA)を使用したMWW型ゼオライトの1UCナノ薄膜合成が試みられたが(Luo,H.Y.et al.,Chem.Sci.,2015,6,6320-6324;Margarit,V.J.et al.,Angew.Chem.-Int.Edit.,2015,54,13724-13728)、該方法は有機構造誘導体を作製して使用するため、費用問題など、大量生産の妨害要素がある。そして、ほう酸が含まれたMWW型ゼオライトにおいてホウ素原子の同型置換によるナノ薄膜合成が試みられたが(Ouyang,X.Y.et al.,J.Am.Chem.Soc.,2014,136,1449-1461;Ouyang,X.Y.et al.,Dalton Trans.,2014,43,10417-10429)、この方法は、ホウ素原子が含まれたゼオライトでのみ適用可能であるという限界がある。
【0009】
前述の様々な方法が研究されたが、現在も、元来の構造を損傷させないながら、層間膨脹したMCM-22(P)の剥離を許容する信頼性ある且つ簡単な方式で層間構造を分離してゼオライト本然の気孔構造を維持したナノ薄膜型ゼオライトを製造する方法の開発が必要な実情である(Martinez,C.et al.,Coord.Chem.Rev.,2011,255,1558-1580)。
【0010】
そこで、本発明者らは上記の問題点を解決するために鋭意努力した結果、ナノ板状単層ゼオライトを製造するとき、多層型ゼオライト前駆体に層間膨張剤を混合して多層型ゼオライト前駆体の層間間隔を拡張させ、乾燥及び焼成させる単純な工程によってナノ板状単層ゼオライトを製造でき、製造された単層ゼオライトはアルキル化工程の商用触媒として使用可能である他、反応物の接近性が向上して反応活性が増加し、生成物の排出がよりし易くなって触媒の寿命も増大することを確認し、本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、従来の複雑な工程ではなく単純焼成工程を用いて単層型構造のナノ板状ゼオライトを合成する製造方法及び製造されたナノ板状単層ゼオライトを提供することにある。
【0012】
また、本発明の他の目的は、前記方法によって製造されたナノ板状単層ゼオライトを用いた触媒又はH2の分離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明は、(a)多層型ゼオライト前駆体に水、層間膨張剤を混合して多層型ゼオライト前駆体の層間間隔を拡張させる段階;及び(b)前記層間間隔が拡張されたゼオライト前駆体を含有する混合物から固体物質を得た後、焼成させてナノ板状単層ゼオライトを得る段階を含むナノ板状単層ゼオライトの製造方法を提供する。
【0014】
本発明はまた、前記方法によって製造され、各層の厚さが2.0~3.0nmであるナノシートがc-方向に沿って1~2層に凝集して3~4層で構成され、2.0~14nmの厚さを有することを特徴とするナノ板状単層ゼオライトを提供する。
【0015】
本発明はまた、前記ナノ板状単層ゼオライトを含む触媒を提供する。
【0016】
本発明はまた、前記ナノ板状単層ゼオライトをH2を含有する混合物に接触させてH2を分離することを特徴とするH2の分離方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施例による(a1)-(a2)MWW型ゼオライト気孔構造、及び(b1)-(b2)剥離されたMWW型ゼオライト気孔構造の図式イメージである。
【
図2】本発明の一実施例による(a)0~35゜と(b)2~4゜の範囲でMCM-22(P)、MCM-22(C)、RT_NS及びHT_S_HのXRDパターン、及び(c)DIFFaXでシミュレーションされた1UC及び2UCナノ板のXRDパターンとその組成によって任意に計算されたXRDパターンである。
【
図3】本発明の一実施例による(a1)-(a2)MCMC-22(C)、RT_NS、HT_S_Hの実験から得た87KにおけるAr吸着等温線及び(b1)-(b2)大きいサイズ及び階層構造を示す図である。
【
図4】本発明の一実施例による(a)MWW型ゼオライトの(101)面に該当するXRDピークの半値半幅(HWHM)であり、
図11に示すDIFFaX基盤XRDパターンを小さく挿入した図である。
【
図5】本発明の一実施例による(a1)-(a2)MCM-22(C)、(b1)-(b2)HT_S_H及び(c1)-(c2)RT_NSのTEMイメージである。
【
図6】本発明の一実施例によるMCM-22(C)、HT_S_H及びRT_NSの(a)
29Si及び(b)
27Al MAS NMRスペクトルである。
【
図7】本発明の一実施例によるMWW型ゼオライトが剥離され、(a1)-(a3)1UC及び(b1)-(b3)2UCナノ板間の間隔が2nm、4nm及び10nmを有する構造の概略図である。
【
図8】本発明の一実施例による(a)MCM-22(C)、(b)HT_S_H及び(c)RT_NSのSEMイメージである。
【
図9】本発明の一実施例による(a)0~35゜及び(b)2~4゜範囲のMCM-22(C)、MCM-22(P)、80℃及び常温で層間膨脹過程を経たMCM-22のXRDパターンである。
【
図10】本発明の一実施例による(a)HT_S_H(x,y)と(b)RT_NS(x,y)のXRDパターンである。
【
図11】本発明の一実施例によるDIFFaX基盤層状MWW型ゼオライトが1、2、3、5、10、∞UC板構造を示す時をシミュレーションしたXRDパターンである。
【
図12】本発明の一実施例によるMCM-22(C)、RT_NS、HT_S_Hの(a1)-(a2)87KにおけるAr吸着等温線と(b1)-(b2)77KにおけるN
2吸着等温線である。
【
図13】本発明の一実施例によるMCM-22(C)、HT_S_H、RT_NSのAr吸着等温線から得た気孔分布図のデコンボリューションである。
【
図14】本発明の一実施例によるMCM-22(C)、HT_S_H、RT_NSの87KでAr吸着等温線から得た気孔分布である。
【
図15】本発明の一実施例によるMCM-22(C)、HT_S_H、MCM-41、SBA-15の87KにおけるAr吸着等温線である。
【
図16】本発明の一実施例によるGCMCシミュレーションによって得たAr吸着等温線から計算された気孔分布のデコンボリューション値である。
【
図17】本発明の一実施例による単層MWW型ゼオライトが10nmの間隔を持つとき、シミュレーションから得たAr吸着スナップショットである。
【
図18】本発明の一実施例によるRT_NSの(a)低倍率、(b)高倍率におけるTEMイメージである。
【
図19】本発明の一実施例による(a)MCM-22(C)、(b)HT_S_H、(c)RT_NSの温度によるNH
3-TPD-MSデータである。
【
図20】本発明の一実施例によるMWW型ゼオライトの単位格子である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
特に定義されない限り、本明細書で用いられる全ての技術的及び科学的用語は、本発明の属する技術の分野における熟練した専門家によって通常理解されるのと同じ意味を有する。一般に、本明細書における命名法は、本技術分野によく知られており、通常用いられるものである。
【0019】
本発明は、多層型ゼオライト前駆体に層間膨張剤を混合して多層型ゼオライト前駆体の層間間隔を拡張させ、乾燥及び焼成させる単純な工程を用いてナノ板状単層ゼオライトを製造できることを確認した。
【0020】
したがって、本発明は、一観点において、(a)多層型ゼオライト前駆体に水、層間膨張剤を混合して多層型ゼオライト前駆体の層間間隔を拡張させる段階;及び(b)前記層間間隔が拡張されたゼオライト前駆体を含有する混合物から固体物質を得た後、これを焼成させてナノ板状単層ゼオライトを得る段階を含むナノ板状単層ゼオライトの製造方法に関する。
【0021】
本発明では、常温における層間膨脹過程及び焼成によって効果的に層間剥離ができるということを確認し、層状のMCM-22(P)を数枚のUC(UC:MWW型ゼオライトの1枚の層のナノ薄膜を表す。)ナノ薄膜に剥離する簡単な方法を提供する。特に、階層構造粒子の構造的及び組織的特性は、計算から摸写された多孔性構造の研究から体系的に確認された。生成された粒子がc-軸に沿って何枚の層として存在するかを確認することに重点をおいた。また、2類型の物質(10MRサイズ気孔に流入可能な分子と外部領域でのみ接近可能な物質)を用いて酸点を選択的に滴定した結果は組織特性と一致することを確認した。
【0022】
本発明に用いられる代表のMWW類型ゼオライトである板状のMCM-22前駆体(MCM-22(P))は、層間膨脹及び以降の柱状化/剥離を用いた構造変形が可能な柔軟且つ信頼性ある物質である。特に、数nm厚の剥離されたMWW型ゼオライトは拡散限界を克服するのに好ましい。また、12メンバー・リング(membered ring,MR)は、12MR気孔間の小さな10MR気孔のために接近し難いが、剥離後にMCM-22で露出され、接近し易くなる。このような可能性にもかかわらず、剥離されたMCM-22を得るための既存の手順は複雑である。本発明ではMCM-22(P)をナノシートとして剥離する簡単且つ効果的な方法を提供する。層間間隔が膨脹したMCM-22(P)を焼成して層剥離に成功した。この過程により生成した剥離された層の構造及び組織特性に対する分析から、ナノシートの殆どがc-方向に沿って1~2層の厚さが凝集して3~4層の厚さを有する物質であることが分かる。また、このように生成された単層構造粒子は元来のMCM-22ゼオライト構造を維持することを確認し、このことから本発明の方法が有用であることを確認した。
【0023】
本発明の一実施例によれば、多層型ゼオライト前駆体に水、層間膨張剤を混合して多層型ゼオライト前駆体の層間間隔を拡張させ、該層間間隔が拡張されたゼオライト前駆体を含有する混合物を遠心分離して固体物質を得た後、乾燥及び焼成させてナノ板状単層ゼオライトを得ることができる。
【0024】
本発明において、ゼオライト前駆体のSi/Al比は10~200であり得る。
【0025】
前記層間膨張剤(swelling agents)は多層型ゼオライト前駆体において層間の間隔を拡張する働きをする物質であり、アルキルトリメチルアンモニウム(trimethylammonium;CH3(CH2)nN(CH3)3-、n=11、15又は17)官能基を含有する塩化合物とテトラプロピルアンモニウム(tetrapropylammonium;(C3H7)4N-)官能基を含有する塩化合物の混合物であり得る。
【0026】
本発明において、前記アルキルトリメチルアンモニウム官能基を含有する塩化合物は、好ましくは、化学式1のドデシルトリメチルアンモニウムブロミド(dodecyltrimethylammonium bromide;C12TAB)、化学式2のセトリモニウムブロミド(cetrimonium bromide;C16TAB,CTAB)及び化学式3のトリメチルオクタデシルアンモニウムブロミド(trimethyloctadecylammonium bromide;C18TAB)で構成された群から選ばれる1つ以上であり得る。
【化1】
【化2】
【化3】
【0027】
本発明において、前記テトラプロピルアンモニウム(tetrapropylammonium;(C
3H
7)
4N-)官能基を含有する塩化合物は、化学式4のテトラプロピルアンモニウムブロミド(TPABr)、テトラプロピルアンモニウムフルオロ(TBAF)、テトラプロピルアンモニウムクロリド(TPACl)及び化学式5のテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)で構成された群から選ばれる1つ以上であり得る。
【化4】
【化5】
【0028】
より好ましくは、セトリモニウムブロミド(cetrimonium bromide;CTAB)及びテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)の混合物であり得る。
【0029】
本発明において、前記混合は、25~80℃の温度で16~20時間行うことができる。前記温度及び時間の範囲に含まれる場合、層間間隔が拡張した効果がある。
【0030】
本発明において、前記乾燥は、50~110℃の温度で10~24時間行うことができる。
【0031】
本発明において、前記焼成は、400~700℃の温度で1~40時間行うことができる。前記温度及び時間の範囲に含まれる場合、層間膨張剤が除去されてナノ板状ゼオライトが生成される効果がある。
【0032】
本発明において、前記多層型ゼオライト前駆体は、有機構造指向剤を添加して製造することができる。前記有機構造指向剤は、HMI(hexamethyleneimine)、ピぺリジン、TMAdaOH(N,N,N-trimethyl adamantylammonium hydroxide)、TMAdaBr(N,N,N-trimethyl adamantylammonium bromide)、TMAdaF(N,N,N-trimethyl adamantylammonium fluoride)、TMAdaCl(N,N,N-trimethyl adamantylammonium chloride)、TMAdaI(N,N,N-trimethyl adamantylammonium iodide)から構成された群から選ばれる1種以上であり得る。
【0033】
本発明において、前記ナノ板状単層ゼオライトは、(101)面の半値半幅(Half-width at half-maximum;HWHM)がc-方向のゼオライトのナノ板状の膜の数の逆数に対して線形挙動を示すか、或いはゼオライトの微細気孔体積の比率がc-方向のゼオライトのナノ板状の膜の数の逆数に対して線形挙動を示す。
【0034】
本発明において、前記方法によって製造されたナノ板状単層ゼオライトは、アルキル化工程の商用触媒として使用できる他にも、生成物の接近性が向上して反応活性が増加し、触媒の寿命も増大し、また、単層型構造のゼオライトがc-方向の層が分離される構造的特性を有することにより高い透過度を持つ分離膜を合成できることを確認した。
【0035】
したがって、本発明は、他の観点において、前記方法によって製造され、各層の厚さが2.0~3.0nmであるナノシートがc-方向に沿って1~2層に凝集して2.0~14nmの厚さを有することを特徴とするナノ板状単層ゼオライトに関する。
【0036】
本発明は、さらに他の観点において、前記ナノ板状単層ゼオライトを含む触媒に関する。
【0037】
本発明は、さらに他の観点において、前記ナノ板状単層ゼオライトを、H2を含む混合物に接触させて分離することを特徴とするH2の分離方法に関する。
【0038】
本発明に係るナノ板状単層ゼオライトを用いる用途は、触媒の他、H2を含む気体の分離、捕集又は除去などのいずれも含む。
【0039】
本発明の一実施例によるナノ板状単層ゼオライトは、MWW型構造がよく保存された構造であり、c-方向に沿って約1~2UCナノ板が積層されて3~4UCナノ板をなしている。特に、選択的酸点滴定方法及びNMRスペクトルと共に、構造的(XRD)及び組織(Ar吸着)特徴の分析は、RT_NSが多量のブレンステッド酸点を持つMWW型ゼオライト構造からなっており、触媒としての潜在力が高いので、触媒反応(メタノールで炭化水素を合成する触媒反応から始まる。)に適用できる。
【0040】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明を例示するためのもので、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されないことは、当業界における通常の知識を有する者にとって明らかであろう。
【0041】
実施例
製造例1:MCM-22(P)ナノ板状単層ゼオライトの製造
製造例1-1:MCM-22(P)粒子の合成
【0042】
MCM-22(P)粒子は、文献に報告された方式によって合成した(Corma,A.et al.J.,Zeolites,1995,15,2-8)。0.59gのアルミン酸ナトリウム(sodium aluminate、約55%のAl2O3及び45%のNa2O、Sigma-Aldrich)と2.0gの水酸化ナトリウム(sodium hydroxide、98%、Sigma-Aldrich)を261.3gの蒸留水に投入して撹拌した。その後、19.9gのヒュームドシリカ(fumed silica、CAB-O-SIL M5、Cabot)を溶液に投入した。そして、当該混合物を撹拌しながらヘキサメチレンイミン(hexamethyleneimine(HMI)、99%、Sigma-Aldrich)16.2gを一滴ずつ投入した。混合物の最終モル比率は100 SiO2:1.93 Al3+:17.9 Na+:49.3 HMI:4377 H2Oである。混合物は一晩かけて常温で撹拌した。撹拌後に混合物をテフロン容器に移し、ステンレス材質のオートクレーブに装着して408Kで11日間反応させた。合成された結果物は蒸留水で洗浄し、遠心分離機によって得る過程を5回繰り返した。当該物質を70℃で乾燥させて得た状態の物質を、MCM-22(P)と名付けた。MCM-22(P)の一部を823Kで12時間1℃/分の速度で昇温させ、200mL/分の空気を流しながら焼成した。焼成した粒子をMCM-22(C)と名付けた。
【0043】
製造例1-2:MCM-22(P)粒子の後処理
【0044】
後処理によってMCM-22(P)を薄い層に剥離された構造に変形した。最初に報告された文献にしたがって、MMC-22(P)は、2つの温度(RT;常温、HT;80℃)で層間間隔を拡張させた(Maheshwari,S.et al.,J.Am.Chem.Soc.,2008,130,1507-1516;Schwanke,A.J.et al.,Microporous Mesoporous Mater.,2017,254,17-27)。層間間隔拡張時に、混合物のモル比率は、報告された論文の通りにした(Corma,A.et al.,Nature,1998,396,353-356;Corma,A.et al.,J.Catal.,2000,191,218-224;Corma,A.et al.,J.Catal.,1999,186,57-63)。詳細に説明すると、3.4gのセチルトリメチルアンモニウムブロミド(cetyltrimethylammonium bromide(CTAB)、99%、Sigma-Aldrich)と3.7gのテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(tetrapropylammonium hydroxide(TPAOH)、40wt%、Alfa Aesar)溶液を10.8gの蒸留水に投入した。その後、当該混合物を撹拌しながら0.6gのMCM-22(P)を投入した。混合物は2つの温度で16時間撹拌した。80℃で撹拌した混合物はさらに超音波刺激と酸性化を施した。混合物を円錐状のチューブに移した後、水槽形の超音波生成器で60分間超音波刺激を加えた。そして、塩酸(1M、Sigma-Aldrich)を用いてpHを2近傍(1.95~2.05)に下げた。結果物を遠心分離で得た後70℃で乾燥させた。当該結果物を823Kで12時間1℃/分の速度で昇温させ、200mL/分の空気を流しながら焼成した。このように合成された物質をHT_S_Hと名付けた。これと同時に、常温で層間間隔を拡張した物質を上述の方法の通りに得るが、超音波刺激及び酸性化は実行しない。この時、焼成して得た粒子をRT_NSと名付ける。
【0045】
実施例1:シミュレーションモデル及び特性分析
【0046】
走査電子顕微鏡(Scannig electron microscopy;SEM)写真は、FE-SEM(field emission scanning electron microscope,Hitachi S-4300)を用いて撮影した。イオンスパッタリング(Hitachi E-1030)を用いて全ての試料を白金でコーティングした後、SEM写真を撮影した。X線回折パターンは、Rigaku Model D/Max-2500V/PC回折計装備を用いて、θ/2θ設定でCu Kα放射線(40kV,100mA,λ=0.154nm)を投射して測定した。透過電子顕微鏡(Transmission electron microscopy;TEM)写真は、FE-TEM(field emission transmission electron microscope,Tecnai G2 F30ST)を用いて撮影した。窒素吸着とアルゴン吸着データは、同一装備(ASAP2020,Micromeritics,Inc.)で測定した。測定を行う前に350℃、真空状態で12時間以上前処理をした。29Si核磁気共鳴(magic angle spinning nuclear magnetic resonance,MAS NMR)分光データは、NMR分光計(AVANCE III HD400,Bruker)を用いて9.4Tの磁場条件で測定した。分光データは、6kHzの回転速度で2700回反復測定した。27Al MAS NMRの場合、10kHz回転速度で1024回反復測定した。29Si MAS NMRと27Al MAS NMRに使用した基準試料はそれぞれ、4,4-ジメチル-4-シラペンタンスルホン酸ナトリウム(4,4-dimethyl-4-silapentane sulfonate sodium,DSS)とAl(NO3)3である。アンモニア昇温脱着(NH3-TPD-MS)データは、BEL-CAT(Microtrac BEL Corp.)を用いて実験し、BELMass(Microtrac BEL Corp.)を用いて観測した。試料を500℃で1時間ヘリウム条件下で活性化させた後に常温に温度を下げ、5% NH3/95% He混合ガスを30mL/分で30分間投入した。次いで、30mL/分でヘリウムを流しながら温度を10℃/分の速度で800℃まで昇温した。試料から脱着されたアンモニア分子は、質量分析計(BELMass)を用いて観測した。イン-サイチュ(In-situ)ピリジン吸着実験は、独自作製したセルを利用し、セルのウィンドウ(window)部分はZnSeからなっている。測定する前に3℃/分に昇温した後、500℃で6時間真空状態でサンプルを活性化させた。活性化過程後に温度を150℃に下げた後、標本IRデータを得た。その後、ピリジン蒸気を、ピリジンの含まれたいるバブラーと30mL/分のHeガスを用いて投入した。物理的に吸着しているピリジン蒸気を1時間真空状態で除去し、ピリジンが吸着している状態のIRデータを測定した。微細気孔構造以外の構造(メゾ気孔、表面)に存在するブレンステッド酸点の量を測定するために、ピリジンよりも大きい分子である2,6-ジテトラブチルピリジン(2,6-di-tertbutylpyridine,dTBPy)を、ピリジンと同じ過程を施して吸着させ、その時のIRデータを測定した。分子吸着後のIRデータから標本IRデータを除去して、1540~45cm-1のピリジン関連ピークと1615cm-1のdTBPy関連ピークをそれぞれ積分して面積を計算した。このように計算されたそれぞれのピークの面積に、各分子に対応する消光係数(extinct coefficient)である1.13(Meloni,D.et al.,Appl.Catal.A-Gen.,2001,215,55-66)と5.3cm・μmol-1(Gora-Marek,K.et al.,J.Phys.Chem.C,2014,118,12266-12274)を掛けて酸点の量を計算した。
【0047】
薄く分離された薄膜状のMWW型ゼオライトのAr吸着挙動を調べるために、GCMC(grand-canonical Monte Carlo)を用いて88KにおけるArの吸着挙動を計算した。詳細には、50,000回の初期化と150,000回の平衡状態を反復して10
-5Paで90000Paまでの圧力範囲におけるGCMCシミュレーションを実行した。MWW型ゼオライトの構造データは、国際ゼオライト協会(International Zeolite Association;IZA,www.iza-online.org/databases/)が提供するデータを使用し、当該モデルを変形して分離された薄膜状のMWW型ゼオライトを描写した。さらにいうと、大きいサイズのMWW型ゼオライトの場合、1×1×1単位セルが無限定にあると仮定した。これに対し、c-方向に1UC、2UCナノ板に存在するMWW型ゼオライトは、1×1×1、1×1×2単位セルがc-方向に一定の間隔で反復されると仮定した。正確には、単位セル間の間隔を2、4、10nmにして計算を進行した。さらにMWW型ゼオライトの表面は、Material Studioを用いて(100)面にH分子を付けて(100)面方向で終わるように計算した(
図7参考)。分布及び反発に関する因子は、レナードジョーンズポテンシャル(Lennard-Jones potential)を用いて記述した。Si、O原子に関する力場の因子はBaiの研究(Bai,P.et al.,J.Phys.Chem.C,2013,117,24375-24387)を、Ar原子の場合にはDubbeldumの研究結果(Dubbeldam,D.et al.,Fluid Phase Equilib.,2007,261,152-161)を採択して使用した。また、GCMCシミュレーション過程中にゼオライトをなす原子とシミュレーションされたスーパーセルは変わらないと仮定した。
【0048】
X-ray分析に基づく剥離された粒子の構造分析
【0049】
図2(a)及び
図2(b)は、MCM-22(C)、HT_S_H及びRT_NSとMCM-22(P)及びMWW型ゼオライトのXRDパターンを示す。
図2(c)は、MWWの構造が1UC及び2UCナノ薄膜として存在すると仮定する時をシミュレーションして得たXRDパターンから計算した薄膜の組成を変化した時のXRDパターンである。まず、
図2(a)及び
図2(b)のXRDパターンは、焼成後に有機テンプルレートが除去されてMCM-22(P)がMCM-22(C)に成功的に変形されたことを示す(Lawton,S.et al.,Microporous Mesoporous Mater.,1998,23,109-117;Corma,A.et al.,J.Catal.,1999,186,57-63)。
図8のSEMイメージは、以前に報告されたのと同様に、MCM-22(C)がab面(約1μmサイズ)とc-軸に短い長さ(約20~60nm)を有するディスク形態を有することを示す(Maheshwari,S.et al.,J.Am.Chem.Soc.,2008,130,1507-1516;Frontera,P.et al.,Microporous Mesoporous Mater.,2007,106,107-114;Jin,F.et al.,J.Mater.Chem.A,2015,3,8715-8724)。MCM-22(C)のSi/Al比(表1で約50.7)は、合成溶液のSi/Al比である50と類似に合成された。
【0050】
【0051】
MCM-22(C)のXRDと比較したとき、HT_S_HとRT_NSは、(1)広くなったXRDパターン、(2)減少したXRD強度、(3)信号対雑音比(S/N)の減少、のような共通に見られる特徴があった。このような特徴は、MCM-22(P)粒子が後処理工程後に小さくなったり或いは構造的な損傷/崩壊が起きることを意味する(Corma,A.et al.,Nature,1998,396,353-356;Corma,A.et al.,J.Catal.,1999,186,57-63;Frontera,P.et al.,Microporous Mesoporous Mater.,2007,106,107-114)。MCM-22(C)と比較した時に見られるHT_S_H及びRT_NSの形態変化(
図8)も構造的損傷/崩壊を示す。形態の変化と同様に、MCM-22(c)のSi/Al比は、後処理工程後に生成されるHT_S_H及びRT_NSにおいて減少することを確認した(表1)。この傾向は以前の研究と類似しており(Frontera,P.et al.,Microporous Mesoporous Mater.,2007,106,107-114)、層間膨脹溶液の塩基性によるシリカ除去(desilication)過程によるものと見なされる(Maheshwari,S.et al.,J.Am.Chem.Soc.,2008,130,1507-1516;Ogino,I.et al.,J.Am.Chem.Soc.,2011,133,3288-3291)。HT_S_HとRT_NSにおいて(hk0)面(例えば、(100)面と
面はそれぞれ、約7.2゜、26゜で現れる。)のXRDピークは残っているのに対し、(00l)面のXRDピークが消える様子が観察された。このような様子は、この物質に見られる典型的なXRD特徴であり、多くの文献で報告されている(
図2(a))(Corma,A.et al.,Nature,1998,396,353-356;Corma,A.et al.,J.Catal.,2000,191,218-224;Frontera,P.et al.,Microporous Mesoporous Mater.,2007,106,107-114)。HT_S_HとRT_NSのXRDが類似に示されたが、(100)面と
面の強度がRT_NSにおいてより目立ち、これは、MWW型ゼオライト構造がよく維持されることを意味する。HT_S_HとRT_NSの形態に見られる差異は、XRDパターンに見られる構造の差異と類似していた。HT_S_Hの粒子は丸い縁を有し、より小さくて非定形化された粒子が観察された(
図8(b)で暗黄色の矢印で表示)。RT_NSにおけるMWW型ゼオライト構造が維持されることは、温和な条件で層間膨脹過程が行われるためと見なされる。80℃で層間膨脹を行う場合、XRD強度の著しい減少と共にS/N比の減少を確認した(
図9)。
図9から、80℃での層間膨脹処理後の層間間隔が約1.4nmであることを確認したが、既存MWW構造は深刻な程度の構造崩壊が進行されることを確認した。一方、常温で層間膨脹処理して得た粒子は、層間間隔が同一であるが、MWW型ゼオライト構造が維持された(Maheshwari,S.et al.,J.Am.Chem.Soc.,2008,130,1507-1516;Schwanke,A.J.et al.,Microporous Mesoporous Mater.,2017,254,17-27)。また、MWW型ゼオライトの板状構造の保存は、特に8~10゜範囲のXRDパターンから解析できる。8~10゜範囲のXRDパターンは2D板状構造ゼオライトの積層程度を説明するのに多く使用された。HT_S_HのXRDパターンにおいて8~10゜付近に1つの広いピークが現れ(
図2(a))、これは、MWWゼオライトの層がc-軸に対して非常に無秩序であるということを意味する(Roth,W.J.et al.,Microporous Mesoporous Mater.,2011,142,32-36)。しかし、RT_NSの場合、(101)面と(102)面をそれぞれ反映する8.0゜と9.8゜周囲の2つの別個のXRDピークが観察された。この様子はc-軸に沿って整列された構造を提案するが、これは単層が不規則に積層されているMCM-56との様子と一致する(Wang,L.L.et al.,Microporous Mesoporous Mater.,2008,113,435-444;Polozij,M.et al.,Dalton Trans.,2014,43,10443-10450;Juttu,G.G.et al.,Microporous Mesoporous Mater.,2000,40,9-23)。MCM-22(C)粒子のディスク状の形態と違い、RT_NS粒子はカール状(
図8(c)で橙色の矢印で表示)を示すことが分かるが、これは、前にナノメートル厚のMCM-22板状構造でも観察された様子である(Varoon,K.et al.,Science,2011,334,72-75)。HT_S_H及びRT_NSを合成する時に用いる後処理工程は、非常に再現性が高く、この結晶構造は陽性子交換後にもよく維持される(
図10)。
【0052】
HT_S_HとRT_NSの構造を正確に研究するために、
図2に示すシミュレーションされたXRDパターンとナノ層状構造の積層数を多様にしたMWW類型ゼオライトのパターンを使用した(
図11)。シミュレーションされたXRDパターンは、以前に報告された方法にして得た(Varoon,K.et al.,Science,2011,334,72-75;Juttu,G.G.et al.,Microporous Mesoporous Mater.,2000,40,9-23;Treacy,M.M.J.et al.,Phys.Sci.,1991,433,499-520)。多くのXRDピークのうち、(101)及び(102)面で発生する8~10゜の2つのXRDピークを用いて後処理後にMCM-22粒子の積層状態に対して判断できることを確認した。要するに、積層された薄膜の数が減少するにつれて2つのピークが広くなって互いに近づく(
図11)。結局、2個のピークは単層型構造のXRDパターンにおいて広いピークで併合された。したがって、広くなったXRDの強度は、明確ではないが、HT_S_Hは主に1UCのナノ板で構成されていることを示す(Varoon,K.et al.,Science,2011,334,72-75)。対照的に、
図11のシミュレーションされたXRDパターンとRT_NSにおいて2つの区別可能なXRDパターンとを比較すると、RT_NSが1~2UCナノ板で構成される可能性が高いということが分かる。具体的に、
図2(c)で、1UCと2UCナノ板が様々な組成で存在した時を仮定して計算された一連のシミュレーションされたXRDパターンは、RT_NSの構造が、約1UCが70%、2UCが30%で存在することを示す。
【0053】
実施例2:剥離された構造の比表面積分析による構造分析
【0054】
XRD分析を用いた全体的な構造情報と共に3種類の粒子全てのAr吸着等温線を測定して全体的な組織特性を理解した(
図3(a1)~
図3(a3))。また、MWW型ゼオライト及びその誘導体(
図7)に対するシミュレーションされたAr吸着等温線が得られ(
図3(b1)及び
図3(b2))、これから得た気孔分布が
図3(b3)に示されている。線形スケールにおいてMCM-22(C)、HT_S_H及びRT_NSのAr及びN
2等温線がいずれも類似していることを確認し(
図3(a1)、
図12(a1)及び
図3(b1))、これは粒子と各気体分子における相互作用の差が無視できる程度であることを示す。まず、MCM-22(C)は微細多孔性物質の典型的な吸着挙動を示す(
図3(a1)、
図6(a1)及び
図6(b1))。また、微細気孔領域をより正確に決定するためにセミログスケールで吸着等温線を図式化した。
図3(a2)から、不活性Ar気体分子がN
2気体分子に比べて(
図12(a2))、微細多孔性特徴を明確に示すことが分かる。
図3(a2)は、10MRの気孔領域(相対圧力の10
-6~10
-4の範囲(P/P
0))で吸着量がほぼ指数関数的に漸次増加し、その後、12MR気孔領域によって増加した(P/P
0の10
-4~10
-2の範囲)(Corma et al.,J.Catal.,2000,191(1)、218-224,Corma et al.Microporous Mesoporous Mater.1998,25(1-3)、207-224,Corma et al.,Microporous Mesoporous Mater,2000,38(2-3)、301-309)。実際に、Horvath-Kawazoe(HK)微細孔隙分析法は、0.5nmと0.6nmの2種類の気孔を示すが、これはそれぞれ、10MR及び12MR気孔に当該する(
図3(a3))。表2に列挙された10MR及び12MR気孔に属する微細気孔の量(0.116cm
3・g
-1)は、H-K微細気孔曲線をデコンボリューションして得られる(
図13(a))。10MR及び12MR気孔に当該する微細気孔に対する詳細な情報は、
図13に示されている。
【0055】
【0056】
また、
図3(a1)に示すHT_S_Hの等温線は、中間気孔物質の吸着等温線と類似しており、
図12(a1)に示すように、以前の研究で報告されたのと類似の様子を示す。吸着する気体分子に関係なくP/P
0が0.2~0.5(
図3(a1)及び
図12(a1))で吸着量が急激に増加した。これは、剥離工程によって多量の中間孔隙が生成されたことを示す。事実上、Ar吸着等温線(
図3(a1))に見られるこのような増加は、2~4nmサイズの中間孔隙が多く生成されることを示す(
図14)。しかし、微細気孔(特に、MCM-22(C)の10MR気孔領域)に当該する低いP/P
0(10
-3以下)で得られるAr吸着量は、MCM-22(C)から得た値よりも著しく小さい(
図3(a2))。P/P
0が10
-3以上の時に吸着量の急激な増加が観察されたが、これは、
図12(a2)に見られるように、ITQ-2_O(Oginoとそのグループにおいて作られたITQ-2)のN
2吸着データとよく一致する(Ogino,I.et al.,J.Am.Chem.Soc.,2011,133,3288-3291)。等温線の急激な増加は、層間膨脹過程で高い塩基性溶液によって
構造内シリカが除去される過程によって不回避な非晶質シリカが形成されたためである(Ogino,I.et al.,J.Am.Chem.Soc.,2011,133,3288-3291)。低いP/P
0領域で吸着されたArの減少は、微細気孔の量が減少することを示す。一方、0.7~2.0nm範囲の知られていない微細気孔は増加した。また、HT_S_Hの吸着等温線に見られるP/P
0 10
-3以上での急激な増加と微細気孔の変化は、HT_S_Hが中間気孔サイズからなる多孔性シリカを代表するMCM-41及びSBA-15と類似する(
図15)。MCM-41及びSBA-15の気孔サイズ分布(
図15(c))に基づいてHT_S_Hが非晶質シリカによる微細気孔からなっていると結論付けることができる。N
2吸着等温線を改善されたt-プロット(Galarneau,A.et al.,Langmuir,2014,30,13266-13274)を用いて推定した定量分析は、微細多孔性表面積及び体積がMCM-22(C)に比べて約22%及び11%に減少することを示す(表2)。Ar吸着等温線に基づくH-K方法は、ゼオライト気孔に当該する微細気孔が約0.9%まで減少することを示す(表2及び
図13(b)、0.001cm
3・g
-1)。その代わりに、中間サイズの気孔及び外部表面は大きく増加して全表面積の大部分を占める。このような中間サイズ気孔及び外部表面積の増加は、上に言及したように、新しく形成された非晶質シリカに起因したものと見なされる(
図3(a1))。HT_S_Hに対する詳細な結果及び以前結果との比較を、表3に示す。
【0057】
【0058】
他の2つのサンプルと比較して、RT_NSはMCM-22(C)と類似なAr及びN
2吸着等温線を有するが、微細多孔性領域(
図3(a1)、及び
図12(a)及び
図12(b))以外の部分で少量の吸着量増加が見られる。特に、RT_NSで吸着/脱着の履歴現象が観察されたが、これは中間サイズ気孔の形成を示唆する。履歴現象の突然の変化は周知の引張強度効果(TSE)によるもので、定量分析には多くの注意が要される(Groen,J.C.et al.,J.Phys.Chem.B,2004,108,13062-13065)。HT_S_Hに見られるP/P
0 10
-3領域における吸着量増加と比較した時、RT_NSは漸次増加した(
図3(a2))。低い領域のP/P
0で(約10
-2まで)、RT_NSで吸着されたArの量はMCM-22(C)の吸着されたArの量よりも小さく、これは微細気孔が減少したことを示す(
図3(a2))。この領域で吸着された量は、HT_S_Hの吸着量に比べて相変らず高かったが、これはRT_NSでより多くの微細気孔が保存されたことを示す(
図3(a3))。
図3(a3)の微細気孔分析は、RT_NSの微細多孔性量がMCM-22(C)とHT_S_Hとの間に存在することを明確に示す。HT_S_Hとは違い、RT_NSは約0.7nm以上で中間気孔領域まで単調減少する様子を示し、0.7nmよりも大きい微細気孔を含まなかった(
図3(a3))。また、Ar吸着量の少量増加(
図3(a1))から予想されるように、RT_NS(
図14)に対する追加的な中間サイズ気孔は観察されなかった。N
2吸着においてt-プロット方法で計算して次のような定量的情報を得た。微細気孔表面積は、RT_NSにおいて、MCM-22(C)と比較してHT_S_Hにおいて22%が残っていたのと違い、54%が維持された。RT_NSにおいて中間サイズ気孔の量はHT_S_Hに比べて遥かに小さかった(表2)。RT_NSにおいて減少した微細多孔性表面積は増加した外部表面積によって補償され、MCM-22(C)と類似な総表面積を示した。類似に、RT_NSにおけるN
2吸着から得た微細気孔体積は、MCM-22(C)の微細気孔体積と比較したとき61%が保存され、中間サイズ気孔の体積が減少してMCM-22(C)と類似の総気孔体積を示した(表2及び表4)。特に、Ar吸着から得たゼオライト気孔(10MR及び12MR気孔)の量は約53%まで減少した(表2及び
図13(c)、0.062cm
3・g
-1)。特に、RT_NSの残っている微細多孔性面積と体積は、MWW型ゼオライト単層からなるDS-ITQ-2(DSは直接合成を表す。)と類似である(Margarit,V.J.et al.,Angew.Chem.-Int.Edit.,2015,54,13724-13728)。特に、DS-ITQ-2は1UCナノ板(34%)及び2UCナノ板(36%)を主に含むものと報告された((Margarit,V.J.et al.,Angew.Chem.-Int.Edit.,2015,54,13724-13728)。
【0059】
【0060】
RT_NSとDS-ITQ-2の微細多孔性構造の類似性は、RT_NS層が1~2UCナノ板を有することを暗示する(表3)。多いMWW派生物質のN
2物理吸着結果に見られるように、RT_NSがDS-ITQ-2及び他の剥離されたMWW型物質(
図12(a1))のN
2吸着等温線挙動と類似であることが確認できる。最後に、本研究から、HT_S_HとRT_NSの合成が再現性が非常に高いことを確認した(表5)。
【0061】
【0062】
図3(b1)のMWW型ゼオライトに対するシミュレーションされたAr吸着等温線は、微細多孔性物質の典型的な挙動を示し、MCM-22(C)から得た実験データとよく一致し、シミュレーション時に用いられた力場がよく合うことを示す(
図3(b1)及び
図3(b2))。
図3(b3)は、シミュレーションされたAr吸着を用いて得た孔隙サイズ分布が0.5nm及び0.6nmの2つのピークと現れることを確認したが、これはそれぞれMWW型ゼオライトの10MR及び12MR気孔に当該する。この分布は、MCM-22(C)から実験的に得たものとよく一致する(
図3(a3))。また、MCM-22(C)において10MR及び12MR気孔に当該する微細気孔の量は、
図16に要約したように、デコンボリューション曲線に基づいて推定された。12MR気孔周辺の吸着されたArの量(
図3(b1)及び
図3(b2))から推測できるように、12MR気孔の面積はUCナノ板の数が減少するにつれて単調減少した(
図3(b3)及び
図16)。このような減少傾向は、10MR気孔に対して、明らかではないが、UCナノ板の数が減少するにつれて当該領域も漸次減少した(
図3(b3)及び
図16)。特に、1UCの単層板は一部の12MR気孔が残っているが、主に10MR気孔からなるものと見なされる(
図16(d))。様々なP/P
0値で測定されたスナップショットから明確に見られる吸着されたAr分子は、12MR気孔の存在は外部表面に露出された12MRカップに主に起因したものであることを示す(
図17)。シミュレーションされた気孔サイズ分布(
図3(b3)及び
図16)と
図3(a3)の実験結果を比較すると、RT_NSにおいて10MR気孔は確実に減少したが、12MR気孔は消えたことが分かる。興味深いことに、1UC単層板の10MR、12MR気孔の微細孔体積と積層されたMWW型ゼオライトの微細孔体積の比率はそれぞれ約61%、約36%であり、RT_NSとMCM-22(C)の体積比と類似している(約65%、約31%)(
図3(a3)及び
図13)。これと類似の微細気孔面積減少程度は、RT_NSが主に1UCの単層板で構成されたことを示す。対照的に、HT_S_Hは既存の微細気孔の大部分を失い、10MR気孔の部分はMCM-22(C)と比較して1%であった(
図13及び表2)。
【0063】
実施例3:剥離された構造の形態確認
【0064】
本実施例においてXRDと微細気孔体積/面積分析(
図4)に基づいて階層構造MWW型ゼオライトにおいてUCナノ板の数の定量化を試みた。
図2(c)に示すように、UCナノ板の数が減少するにつれて(すなわち、1UC単層板に剥離されるにつれて)8~10゜の範囲で(101)面に対応するXRDピークが広くなった。したがって、(101)面の半値半幅(Half-width at half-maximum;HWHM)がUCナノ板の数の逆数に対して線形挙動を示すことを確認した(
図4(a))。特に、大きいサイズのMWWゼオライトに対する10MR微細気孔と関連した微細気孔体積の比率もUCナノ板の数の逆数に対する線形挙動を示した(
図4(b))。
図4(a)に示す相関関係から、RT_NSが平均約1.0UCナノ板で構成されていることを予測した。この値は、
図2(c)のXRDパターンの類似性に基づき、予想値(約1.3UCナノ板)とやや差がある(約30%)。具体的に、1UCナノ板と2UCナノ板がそれぞれ70%、30%存在する時の線形組合せは、1.3UCナノ板と計算される。驚くべきことに、UCナノ板の厚さは微細気孔体積相関関係から1.1UCと推定された(
図4(b))。このようなデータ間の一貫性は、層状MWWゼオライトの剥離程度を評価するための新しい接近法の信頼性を強力に示唆する。より重要なことは、この接近法は、他の類型の積層された材料で剥離程度を定量化するために直接適用することができる。対照的に、
図4に示す接近法は、HT_S_HにおいてUCナノ板の数を推定するには適していなかった。
【0065】
また、HT_S_HとRT_NSに含まれたUCの数を、以前に発表された文献と同一に、外部表面積から推論した。MCM-22(C)がab面で1μmの正方形を有し、c-方向に10個のUCナノシート(約25nmの厚に当該)を含むと仮定して外部表面積を比較する場合、HT_S_HとRT_NSがそれぞれ約2~3UC及び約3~4UCナノ板で構成されたことが分かる(表6)。この時、HT_S_Hが非晶質化によって外部表面積が大きいということを考慮すれば、HT_S_Hは2UCナノ板よりも厚い板を含んでいると見なされる。上述したように、XRD結果及びMCM-22(C)に対するRT_NSの表面積と体積を総合的に分析した結果、MCM-22(P)の効果的な剥離によってRT_NSが約1~2UCナノ板で構成されたことが分かる。この結果に基づいて、RT_NSは1~2個のUCナノ板が凝集して約3~4UCナノ板で構成されていることが分かる。
【0066】
【0067】
図8のSEMイメージと共にTEMイメージには、MCM-22(C)、HT_S_H及びRT_NS粒子の形態が明確に示されている(
図5)。まず、MCM-22(C)は高い縦横比を有する円盤状であるので(
図8(a))、最も短い寸法(すなわち、厚さ)が観察された場合を探すことに集中した(
図5(a1)及び
図5(a2))。側面から見たとき、MCM-22(C)はc-方向に沿って約28nm厚を示した。このことから、MCM-22(C)が約10UCナノ板(1UCナノ板の厚さ:約2.5nm)(Luo,H.Y et al.,Chem.Sci.2015,6(11)、6320-3624)を有することが分かる。SEMイメージから確認されたように、HT_S_HのTEMイメージはMCM-22(C)粒子の典型的な形態を示さなかった(
図8(a)及び
図8(b))。その代わりに、約30~70nmサイズの不規則な粒子が凝集していることを確認した。このように形態が不明瞭な粒子は以前に報告された。
図5(b2)で黄色の矢印で表示されたように、2nmサイズの中間サイズの気孔はHR-TEMイメージから容易に見られる。最後に、RT_NSは略1~4個のUCナノシートで構成された丸められた層(curled layers)で構成されていることが見られる(
図5(c1)、
図5(c2)及び
図18)。丸められた1UCナノ板が角部分から突き出た様子が観察された(
図5(c2))。特に、HT_S_Hの2nmサイズのメゾ気孔は、約10
-3よりも大きいP/P
0値でN
2吸着が急に増加したことが見られ(
図12(a1))、これは、Barrett-Joyner-Halenda(BJH)分析結果(
図14)に見られる2~3nm周辺の鋭いピークによってより明確に記述された。RT_NSの場合、
図5(c2)から1~2UCナノ板と見なされるカール形態の層は、XRDベース(
図4(a)におけるように約1.0UCナノ板)及び微細気孔表面領域ベースの結論(すなわち、
図4(b)におけるように約1.1UCナノ板)と一致する。MCM-22(C)のHR-TEMイメージに基づいてHT_S_H及びRT_NSのUCナノ板の厚さと表面積を比較して標本の厚さ、すなわちUCナノ板の数を推算した(表6)。この簡単な方法から、RT_NSが
図18のTEMイメージのように、約3~4UCナノシートで構成されていることを確認した。したがって、RT_NSは概して約3~4UCナノ板からなっており、これは約1~2UCナノ板で構成されていると結論付けることができる。
【0068】
陽性子置換したHT_S_HとRT_NSの微細多孔性及びメゾ気孔/外部表面積に存在するブレンステッド酸点(B酸)は、NH
3-TPD(
図19)及びPy及びdTBPy(表2)を使用し、FT-IRによって定量化された。ここで、dTBPyのサイズが1.05nmであり、これを用いてメゾ気孔及び外部表面に存在するB酸点を滴定することができる。この接近法に基づいて、MCM-22(C)は約270μmol/gの全B酸点を有し、NH
3-TPD-MS結果から、以前結果と類似に、440K及び630Kで2個の明確なピークが観察された(Ayrault,P.et al.,J.Phys.Chem.B,2004,108,13755-13763;Corma,A.et al.,Zeolites,1995,15,576-582)。全B酸点のうち、約41μmol/gのB酸点が外部表面に存在し、外部/全酸点の比率は0.15と計算されるが、これは、外部/総表面積の比率である約0.14と一致する(表4)。このように算出される類似の値は、酸点滴定接近法が階層構造ゼオライトの組織特性評価に有効であることを示す。剥離過程を行った後、HT_S_HとRT_NSは、Si/Al比の減少によって予想されるように、MCM-22(C)に比べてB酸点が少ない(表1)。HT_S_Hの場合、総B酸点はMCM-22(C)に比べて約52%に減少したが、これは、以前研究で観察された値(約54%)と類似する。一方、RT_NSの酸点は、MCM-22(C)に比べて約65%に減少する様子を示した。HT_S_Hに対して観察された総B酸点のより大きい減少は非晶質構造の形成に起因し得る。総B酸点の減少量と共に酸点の分布が変化したことが分かる。全B酸点の約77%及び61%がそれぞれHT_S_HとRT_NSの外部+メゾ気孔に位置していた。実際に、HT_S_H及びRT_NSに対するこのような外部/全B酸点の比率はそれらの外部+メゾ気孔/総表面積比率(表4)と非常に類似していた。通常知られた80℃以上の温度で陽性子交換過程を行うとき(Kim,H.et al.,J.,Catal.Today,2018,303,150-158;Khare,R.et al.,J.Catal.,2017,348,300-305;Zhang,Z.et al.,Catal.Commun.,2008,9,60-64;Kumar,G.S.et al.,J.Mol.Catal.A-Chem.,2007,272,38-44)、3つの試料(表7)の総B酸点は、常温で陽性子交換後に得られた酸点と類似する(表4)。しかし、外部+メゾ気孔表面のB酸点は、外部/全B酸点比率の減少によって反映された通り、さらに低かった(表7)。
【0069】
【0070】
本発明においてHT_S_Hの製造方法と同じ製造方法を使用するITQ-2は、酸点に対する構造的接近性が改善されたので、大きい分子に対して独特且つ顕著に向上した触媒性能を示し、触媒寿命が増加する。よく保存されたMWW型ゼオライト構造を持つ約3~4UCナノ板(約1~2UCナノ板の凝集により形成される。)で構成されており、良好な接近性のB酸点が多いRT_NSの触媒性能の確認は必須に行うべき課題である。
【0071】
実施例4:剥離された粒子の構造的完全性確認
【0072】
最後に、
29Si及び
27Al MAS NMRスペクトルを用いて、剥離された粒子の構造を確認した(
図6)。
図6aに示す
29Si MAS NMRスペクトルは、独立したT点(
図20)の8個の代表的なピークに基づいて高い構造的完全性を示した(
図20)。MCM-22のT点はそれぞれ、103.4ppmでT
2、109.0ppmでT
1及びT
3~T
5、113.7ppmでT
8、118.1ppmでT
7、及び120.0ppmでT
6と現れる。約97.7ppmに現れるQ
3サイト(Si(3O)1OH)の一部は無視してもよい。また、
図6(b)のMCM-22(C)の
27Al MAS NMRスペクトルは、約57ppm及び0ppmに現れるが、それらはそれぞれ四面体及び八面体Al位置と関連している。また、約57ppmに見られる約54ppmと61ppmを中心に2つのピークで構成されており、これは、(1)T
6とT
7、(2)T
1~T
5とT
8のAl位置をそれぞれ示す(Vuono,D.et al.,Microporous Mesoporous Mater.,2006,97,78-87)。MCM-22(C)の
29Siと
27Al MAS NMRスペクトルは、以前の研究とよく一致した(Vuono,D.et al.,Microporous Mesoporous Mater.,2006,97,78-87;Camblor,M.A.et al.,J.Phys.Chem.B,1998,102,44-51;Aiello,R.et al.,Microporous Mesoporous Mater.,2000,35-6,585-595;Elyassi,B.et al.,Microporous Mesoporous Mater.,2014,193,134-144;Kennedy,G.J.et al.,J.Am.Chem.Soc.,1994,116,11000-11003)。HT_S_HとRT_NSの
29Si MAS NMRスペクトルは、MCM-22(C)のスペクトルと比較したとき、かなり異なる様子を示す(
図6(a))。まず、HT_S_HとRT_NSのNMRピークは、MCM-22(C)に見られる鮮明なNMRピークと比較して、全スペクトル領域において見られなかった。公正な比較のためにMCM-22(C)のNMRピークを
図6(a)に重ねた。広くなったスペクトルにもかかわらず、HT_S_H及びRT_NSのNMRスペクトルに目立つ変化があることを発見した。特に、T
6部位ピークの強度は減少し、T
2及びT
1、T
3~T
5部位ピークは広くなって合わせられ、Q
2及びQ
3部位に対応するピーク強度が増加した。Maheshwariによって報告されたように(Maheshwari,S.et al.,J.Am.Chem.Soc.,2008,130,1507-1516)、T
6部位ピークの強度の減少は、結合破損又はSi-O-Si角の変化に起因し得る。しかし、T
7及びT
8サイトと比較した時、T
6サイトでのみ確認される結合破壊は信頼できない。この3サイトの位置は層内に位置しており、剥離後に保存され易いためである。したがって、Si-O-Si角度変化の結果としてT
6サイトピークの強度が減少したと仮定する方がより合理的である。T
2及びT
1、T
3~T
5地点に当該する融合されたピークは、無定形シリカの形成に起因したものであり得る(Elyassi,B.et al.,Microporous Mesoporous Mater.,2014,193,134-144)。NMRピーク間の強度又は面積の比較は、HT_S_HがRT_NSに比べてより多量の非晶質シリカを含有していることを示している。したがって、本研究では、Ar吸着等温線と
29Si MAS NMRスペクトルに基づいてHT_S_Hのゼオライト微細気孔が無定形シリカに分解されたことを確認した(
図15及び
図6(a))。また、HT_S_H及びRT_NS両方に対するQ
2及びQ
3サイトピークに対応するNMRピーク強度の増加は、剥離工程後にSi-O-Si結合の一部が破壊されたことを示す。特に、Q
2、特にQ
3サイトから発生するNMRピーク強度はHT_S_Hに対して遥かに増加した。また、RT_NSに当該する
27Al MAS NMRスペクトルは、MCM-22(C)と比較して差がなかった。したがって、
29Siと
27Al MAS NMRスペクトルに基づいてRT_NSの構造的完全性が高いと結論付けることができる。構造的完全性に関するこの結論は、XRD分析及びAr吸着(
図4)から得たテクスチャ/構造的特性及びHR-TEM(
図5)の形態から下した結論と一致する。
【0073】
本発明は、常温で層間膨脹過程を経たMCM-22(P)を焼成する過程を通じてMWW型ゼオライトの層を分離する簡単ながらも信頼できる方法を提供する。HT_S_H及びRT_NSの物理化学的性質の実質的な特性分析から、HT_S_H構造は、層間膨脹過程時に適用された苛酷な条件(80℃、pH約13.5)によってその構造が崩壊して非結晶性物質に転換されることを確認した。これに対し、RT_NSは、MWW型構造がよく保存された構造であり、c-方向に沿って約1~2UCナノ板が積層されて3~4UCナノ板をなしていることを確認した。特に、選択的酸点滴定方法及びNMRスペクトルと共に構造的(XRD)及び組織(Ar吸着)特徴の分析は、RT_NSが多量のブレンステッド酸点を持つMWW型ゼオライト構造となっていることを示した。RT_NSは触媒としての潜在力が高いので、触媒反応(メタノールで炭化水素を合成する触媒反応から始まる。)に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、既存の複雑な工程ではなく単純焼成過程によって単層型構造のゼオライトを合成することができる。このように合成された単層型構造のゼオライトは、アルキル化工程に用いられる商用触媒として適用でき、このような単層型構造のゼオライトは、構造的な特性によって反応物及び生成物の接近性が向上し、反応活性増加或いは触媒寿命増大を期待することができる。
【0075】
また、単層型構造のゼオライトはc-方向の層が分離されるものであり、これを用いて高透過度の分離膜を合成することができる。
【0076】
以上、本発明内容の特定の部分を詳細に記述したところ、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的記述は単に好ましい実施態様であるだけで、これによって本発明の範囲が制限されない点は明らかであろう。したがって、本発明の実質的な範囲は、請求項及びそれらの等価物によって定義されるといえよう。