(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】粒子検出器、粒子検出装置、及び粒子検出方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/244 20060101AFI20240401BHJP
H01J 37/285 20060101ALI20240401BHJP
H10N 60/10 20230101ALI20240401BHJP
【FI】
H01J37/244
H01J37/285
H10N60/10 Z
(21)【出願番号】P 2020147065
(22)【出願日】2020-09-01
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山根 武
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-271487(JP,A)
【文献】特開平01-015687(JP,A)
【文献】米国特許第08575544(US,B1)
【文献】特開2009-115818(JP,A)
【文献】特開2020-016543(JP,A)
【文献】特開2002-071821(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
G01T 1/00-1/16
G01T 1/167-7/12
H10N 60/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導材料を含み、第1の方向に延伸し、前記第1の方向と異なる第2の方向に並ぶ複数の超伝導体ラインと
、
伝導材料を含み、前記第2の方向に延伸し、前記第1の方向に並ぶ複数
の伝導体ラインと、
前記複数の超伝導体ラインと前記複数
の伝導体ラインとの交差点に介在する絶縁膜と
、
前記複数の超伝導体ラインにおける電圧変化を検出する第1の検出部と、
前記電圧変化が発生した時に、前記複数の伝導体ラインに生じる電気信号を検出する第2の検出部と
を備える、粒子検出器。
【請求項2】
前記伝導材料は、前記超伝導材料または常伝導材料を含む、請求項1に記載の粒子検出器。
【請求項3】
前記第1の方向と前記第2の方向は互いに直交する、請求項1に記載の粒子検出器。
【請求項4】
前記電気信号が、前記超伝導体ラインに任意の粒子が衝突又は吸収されることによって発生した電子が前記絶縁膜をトンネリングすることにより生じたトンネル電流である、請求項
1に記載の粒子検出器。
【請求項5】
前記電気信号としての前記トンネル電流が発生した前
記伝導体ラインの位置から、所定の位置座標における前記粒子が衝突した位置の第1の座標を求める、請求項4に記載の粒子検出器。
【請求項6】
前記電気信号が前記電圧変化に伴うパルス電圧である、請求項
1に記載の粒子検出器。
【請求項7】
前記電気信号としての前記パルス電圧を前記複数
の伝導体ラインについて測定し、
測定された当該パルス電圧の形状の変化に基づいて、所定の位置座標における粒子が衝突した位置の第2の座標を求める、請求項6に記載の粒子検出器。
【請求項8】
前記複数
の伝導体ラインが並ぶ方向に沿って、当該複数
の伝導体ラインで測定された前記パルス電圧の形状が上に凸から下に凸に変化した位置を前記第2の座標とする、請求項7に記載の粒子検出器。
【請求項9】
筐体と、
前記筐体内に設けられ、試料を保持可能な試料保持部と、
超伝導材料を含み、第1の方向に延伸し、前記第1の方向と異なる第2の方向に並ぶ複数の超伝導体ラインと
、伝導材料を含み、前記第2の方向に延伸し、前記第1の方向に並ぶ複数
の伝導体ラインと、前記複数の超伝導体ラインと前記複数
の伝導体ラインとの交差点に介在する絶縁膜と
、前記複数の超伝導体ラインにおける電圧変化を検出する第1の検出部と、前記電圧変化が発生した時に、前記複数の伝導体ラインに生じる電気信号を検出する第2の検出部と、を有し、粒子検出面が前記試料保持部と対向するように前記筐体内に配置される粒子検出器と、
を備える粒子検出装置。
【請求項10】
超伝導材料を含み、第1の方向に延伸し、前記第1の方向と異なる第2の方向に並ぶ複数の超伝導体ラインのうちのいずれかに粒子が入射したことにより当該超伝導体ラインに生じた電圧変化を測定し、
伝導材料を含み、前記第2の方向に延伸し、前記第1の方向に並ぶ複数
の伝導体ラインであって、絶縁体を介して前記複数の超伝導体ラインと接合する当該複数
の伝導体ラインに、前記絶縁体を通して前記電圧変化に伴って生じた電気信号を検出し、
前記電圧変化に基づいて、所定の位置座標における前記粒子が衝突した位置の一の座標を求め、
前記電気信号に基づいて、所定の位置座標における前記粒子が衝突した位置の他の座標を求める、粒子検出方法。
【請求項11】
前記伝導材料は、前記超伝導材料または常伝導材料を含む、請求項10に記載の粒子検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、粒子検出器、粒子検出装置、及び粒子検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合金などの結晶粒界や、半導体などの薄膜積層膜の界面などを原子レベルの空間分解能と高い検出感度で分析することが可能な手法として、3次元アトムプローブが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一つの実施形態は、高精度に粒子を検出することが可能な粒子検出器、粒子検出装置、及び粒子検出方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一つの実施形態によれば、粒子検出器が提供される。この粒子検出器は、複数の超伝導体ライン、複数の伝導体ライン、絶縁膜、第1の検出部、および第2の検出部を備える。複数の超伝導体ラインは、超伝導体で形成され、第1の方向に延伸し、前記第1の方向と異なる第2の方向に並ぶ。複数の伝導体ラインは、伝導体で形成され、前記第2の方向に延伸し、前記第1の方向に並ぶ。絶縁膜は、前記複数の超伝導体ラインと前記複数の伝導体ラインとの交差点に介在する。第1の検出部は、前記複数の超伝導体ラインにおける電圧変化を検出する。第2の検出部は、前記電圧変化が発生した時に、前記複数の伝導体ラインに生じる電気信号を検出する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、実施形態による2次元粒子検出器が利用され得る3次元アトムプローブ装置を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、本実施形態による粒子検出器を模式的に示す一部斜視図である。
【
図3】
図3(A)及び
図3(B)は、超伝導ラインと常伝導ラインとの接合部における、その対角線に沿った断面図である。
【
図5】
図5は、粒子検出器5と、これに接続される検出器駆動部6とを模式的に示す図である。
【
図7】
図7は、変形例1による粒子検出器の常伝導ラインの延伸方向に沿った断面図である。
【
図8】
図8は、変形例2で用いられる検出器駆動部を模式的に示す図である。
【
図9】
図9(A)は、各常伝導ラインのパルス電圧の時間変化を示すグラフであり、
図9(B)は、常伝導ラインの位置に対し各常伝導ラインのパルス電圧をプロットしたグラフである。
【
図10】
図10は、変形例3による粒子検出器を模式的に示す一部斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の限定的でない例示の実施形態について説明する。添付の全図面中、同一または対応する部材または部品については、同一または対応する参照符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面は、部材もしくは部品間、または、種々の層の厚さの間の相対比を示すことを目的とせず、したがって、具体的な厚さや寸法は、以下の限定的でない実施形態に照らし、当業者により決定されてよい。
【0008】
図1は、実施形態による2次元粒子検出器が利用され得る3次元アトムプローブ装置を模式的に示す図である。
図1に示すように、3次元アトムプローブ装置1は、筐体2、高電圧電源3、駆動パルス電圧電源4、2次元粒子検出器5、検出器駆動部6、時間差測定部7、及び制御部8を有している。
【0009】
筐体2は、外部に対して気密な容器であり、ここに拡散ポンプやターボ分子ポンプなどの高真空排気装置(不図示)が接続されている。これにより、筐体2の内部は、高真空に維持することができる。また、筐体2内には、測定対象の試料Sを保持可能な試料保持部2Hが設けられている。さらに、筐体2には、試料Sの搬入出のため、ロードロックチャンバ、ゲートバルブ、搬送アームなどが設けられても良い。
【0010】
高電圧電源3は、筐体2内の試料保持部2Hに保持される試料Sに対して高電圧を印加することができる。駆動パルス電圧電源4は、高電圧電源3により高電圧が印加される試料Sに対し、重畳して駆動パルス電圧を印加することができる。2次元粒子検出器5(以下、単に粒子検出器という)は、筐体2内において、粒子検出面が試料保持部2Hに対向するように配置されている。粒子検出器5は検出器駆動部6により制御される。粒子検出器5は、試料Sから離脱したイオン等を受け、それに応じた信号を生成し、出力する。時間差測定部7は、粒子検出器5から信号を受信し、駆動パルス電圧電源4から試料Sに対して駆動パルス電圧が印加された時点と、イオン等の粒子が粒子検出器5に到達して時点との時間差(すなわち、イオン等の粒子の飛行時間)を算出する。
【0011】
制御部8は、時間差測定部7により算出されたイオン等の粒子の飛行時間に基づいて、イオン等を同定するとともに、検出器駆動部6から入力した信号に対し所定の演算処理を行う。また、制御部8は、駆動パルス電圧電源4や粒子検出器5などを始めとする、3次元アトムプローブ装置1を包括的に制御することができる。また、制御部8には、図示しない入出力装置や表示装置が接続可能である。
【0012】
なお、制御部8は、特定用途向け集積回路(ASIC)、プログラマブルゲートアレイ(PGA)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)を始めとするハードウェアにより実現され得る。また、制御部8は、CPU、ROM、RAMを含むコンピュータとして実現されても良い。制御部8は、所定のプログラムや各種データに従って、3次元アトムプローブ装置1の全体を制御し、種々の演算処理を行うことができる。プログラムや各種データは、例えばハード・ディスク・ドライブ(HDD)や半導体メモリ、サーバなどの非一時的なコンピュータ可読記憶媒体から有線又は無線でダウンロードされ得る。また、検出器駆動部6、時間差測定部7、及び制御部8は一つのユニットとして構成されてもよい。これらの組み合わせは、利便性の向上や省スペース化に資する。
【0013】
以上の構成を有する3次元アトムプローブ装置1においては、予め先端部が針状に加工された試料Sが筐体2内に保持され、筐体2内が高真空に排気される。このときの真空度は、試料Sにて電界蒸発が生じ得る程度である。また、筐体2内の試料Sに対して高電圧電源3により高電圧が印加される。この電圧により、試料Sと粒子検出器5の間には高電界が生じ、特に試料Sの針状の先端部に局所的に電界が集中する。この電圧は、試料Sの針状の先端部からイオンが離脱可能となる電圧よりも僅かに低い電圧であってよく、試料Sの種類に応じて例えば500Vから10,000Vまでの範囲の電圧であってよい。次に、駆動パルス電圧電源4から駆動パルス電圧を印加すると、試料Sの先端部の原子がイオン化し、先端から離脱する(電界蒸発)。このとき駆動パルス電圧の代わりにパルスレーザーを用いたり、駆動パルス電圧に加えてパルスレーザーを用いた構成でもよい。離脱したイオンは、試料Sと粒子検出器5の間の電界により飛行し、粒子検出器5の粒子検出面に入射する。イオンが入射すると、粒子検出器5は信号を生成し、この信号を時間差測定部7へ出力する。時間差測定部7は、飛行時間を算出し、飛行時間を示す信号を制御部8へ出力する。制御部8は、飛行時間に基づいてイオン種を同定するとともに、位置情報に基づいて、元素の2次元配列を特定する。そして、駆動パルス電圧を駆動パルス電圧電源4から試料Sに対して繰り返し印加すると、試料Sの深さ方向に沿って連続的にイオンが検出され、制御部により、イオン種や配列のデータが再構築されて、当該試料Sの3次元的な原子分布マップが作成される。
【0014】
次に、
図2から
図6までを参照しながら、実施形態による粒子検出器5について説明する。
図2は本実施形態による粒子検出器5の構成を模式的に示す一部斜視図である。
図2に示すように、粒子検出器5は、基板12、常伝導ライン群13、トンネル絶縁膜14、超伝導ライン群15を備えている。基板12は、例えばシリコンウェハなどの半導体基板であってよい。
【0015】
常伝導ライン群13は複数の常伝導ライン13Lを有している。複数の常伝導ライン13Lは、図中のX軸方向に延び、Y軸方向に沿ってほぼ平行にほぼ等間隔に並んでいる。常伝導ライン13Lは常伝導材料によって構成され得る。常伝導材料は例えば銀などの金属であってよい。超伝導ライン群15は複数の超伝導ライン15Lを有している。複数の超伝導ライン15Lは、常伝導ライン13Lの長手方向と交差する方向に延び、当該長手方向に沿ってほぼ平行にほぼ等間隔に並んでいる。超伝導ライン15Lは、ニオブなどの超伝導材料によって構成され得る。超伝導ライン15Lと常伝導ライン13Lは、上面視で井桁形状に配置され、その交差点(接合部)にはトンネル絶縁膜14が介在している。トンネル絶縁膜14は、例えば酸化アルミニウムなどの絶縁体で形成され得る。また、トンネル絶縁膜14は例えば数ナノメートル程度の厚さを有することができる。なお、図示の例では、超伝導ライン群15側が粒子検出器5の粒子検出面となっている。
【0016】
図3(A)及び
図3(B)は、超伝導ライン15Lと常伝導ライン13Lとの接合部における、その対角線に沿った断面図である。図示のとおり、基板12の上に、常伝導ライン13L、トンネル絶縁膜14、及び超伝導ライン15Lが積層された積層体が形成されている。また、本実施形態の粒子検出器5においては、このような積層体の周囲、すなわち、超伝導ライン15Lと常伝導ライン13Lとの接合部間の領域は、絶縁体16で埋め込まれている。絶縁体16の上面は、
図3(A)に示すように、トンネル絶縁膜14の上面とほぼ同一の面を構成してもよく、
図3(B)に示すように、超伝導ライン15Lの上面とほぼ同一の面を構成してもよい。絶縁体16は、例えばトンネル絶縁膜14と同じ材料で形成されてもよい。ただし、絶縁体16を設けずに、積層体の周囲を空洞としてもよい。
【0017】
なお、超伝導ライン15Lを構成する超伝導材料を臨界温度(転移温度)以下に冷却するため、粒子検出器5は、3次元アトムプローブ装置1の筐体2内において冷却器に収容される。
図4は、冷却器を模式的に示す図である。図示のとおり、冷却器21は、断熱容器21Cに収められ、比較的大きい熱伝導率を有する導電材料から構成される冷却ステージ21Sを有する。そのような導電材料としては、銅やアルミニウムなどの金属が例示される。断熱容器21Cの一部には、導電材料で構成され、メッシュ部材でカバーされる窓部21Wを有している。メッシュ部材は、導電材料で構成され、試料Sからのイオンの透過を許容して、放射熱を遮断する。粒子検出器5は、その粒子検出面が窓部21Wに対向するように冷却ステージ21S上に配置される。冷却ステージ21Sは不図示の冷凍機と接続されており、熱伝導によってステージ全体が冷却されている。これにより、粒子検出器5は、超伝導材料の種類に応じた臨界温度以下の温度に維持される。
【0018】
次に、
図5を参照しながら、検出器駆動部6について説明する。
図5は、粒子検出器5と、これに接続される検出器駆動部6とを模式的に示す図である。検出器駆動部6は、超伝導ライン群15の各超伝導ライン15Lに電流(バイアス電流)を供給する電源51と、各超伝導ライン15Lの電流変化を増幅するアンプ52と、アンプ52からの出力に基づき電圧変化を検出する電圧変化検出部53と、常伝導ライン群13の各常伝導ライン13Lからの電流を増幅するアンプ54と、アンプ54からの出力に基づき電流を検出する電流検出部55とを有している。一組のアンプ52及び電圧変化検出部53が、超伝導ライン15Lに対して一つずつ設けられてよく、同様に、一組のアンプ54及び電流検出部55が、常伝導ライン13Lに対して一つずつ設けられてよい。また、超伝導ライン15Lから、電源51とアンプ52に接続する導線の分岐点にはバイアスティーTが設けられている。バイアスティーTによれば、超伝導ライン15Lから発生する信号の高周波成分に影響を与えることなく超伝導ライン15Lに電源51から発生するDC電圧を加えることができ、したがって、電圧変化検出部53にて電圧変化を高精度に検出することが可能になる。
【0019】
次に、
図6を参照しながら、粒子検出器5によるイオン等の粒子の検出原理を説明する。
図6は、粒子の検出原理を説明する説明図である。超伝導ライン15Lには、電源51(
図5)によって予め超伝導の臨界電流を超えない程度の電流が破線矢印62のように流れている。ここで、イオンなどの任意の粒子60が超伝導ライン群15のうちの1本の超伝導ライン15Lに衝突すると、衝突点を含む所定の領域63において超伝導から常伝導に転移する。これにより、領域63は電気抵抗を有することとなる。そうすると、電流は、破線矢印64で示すように領域63を迂回するように流れる。これにより、領域63の両側の領域にて、迂回によって電流が密になり、超伝導の臨界電流を超えるため、領域63よりも広い領域65で超伝導から常伝導への転移が発生する。これにより、超伝導ライン15Lにおける超伝導状態の部分が常伝導状態の部分に分断され、電気抵抗により一時的に電圧が上昇する。その後、冷却によって領域65が再び超伝導状態に戻ると、電圧もまたほぼゼロへと低下する。すなわち、粒子60の衝突(吸収)した超伝導ライン15Lにはパルス状の電圧変化(パルス電圧)が生じる。このパルス電圧は、電圧変化検出部53(
図5)にて検出される。このパルス電圧は時間差測定部7へ送られ、時間差測定部7は、受信したパルス電圧から、粒子60が超伝導ライン15Lに衝突した時点を把握する。パルス電圧は時間差測定部7へほぼ光速で伝播するため、時間差測定部7へのパルス電圧の到達時点により、粒子60が超伝導ライン15Lに衝突した時点を高精度に取得することができる。
【0020】
また、粒子60が超伝導ライン15Lに衝突すると、粒子60が有していた運動エネルギーにより超伝導ライン15Lに存在するクーパー対が壊れて、電子66が生成される。電子66は、一点鎖線の矢印67で示すように、トンネル絶縁膜14をトンネリングして常伝導ライン13Lに伝わり、常伝導ライン13Lに接続された電流検出部55(
図5)により電流として検出される。電子66の発生数は粒子の運動エネルギーに依存するため、電流検出部55で検出された電流を積算して得られる電荷量から粒子の運動エネルギーを求めることができる。このとき超伝導ライン15Lに発生したパルス電圧を、常伝導ライン13Lに流れるトンネル電流を測定する際のトリガとして使用してもよい。パルス電圧が検出された超伝導ライン15Lと、トンネリング電流が検出された常伝導ライン13Lとから、粒子検出器5における、粒子60が超伝導ライン15Lに衝突した位置のXY座標を特定することができる。具体的には、超伝導ライン15Lに接続された各電圧変化検出部53のうちのパルス電圧を出力した電圧変化検出部53(
図5)と、常伝導ライン13Lに接続された各電流検出部55のうちのトンネリング電流を検出した電流検出部55とが、制御部8により把握され、XY座標点が特定される。
【0021】
以上説明したように、本実施形態による粒子検出器5によれば、超伝導ライン群15に粒子が衝突した(又は吸収された)時に、超伝導ライン15Lの超伝導状態から常伝導状態への転移に伴って生じるパルス電圧が検出されるため、粒子の衝突時点を高精度に検出することができる。したがって、試料Sから粒子検出器5に到達するまでの粒子の飛行時間をも高精度に検出することが可能となり、高精度で粒子を同定することも可能となる。
【0022】
また、トンネル絶縁膜14を介して超伝導ライン群15と交差するように常伝導ライン群13を設けたため、超伝導ライン15Lにてクーパー対が破壊することにより生じる電子をトンネル電流として検出することができる。このため、パルス電圧が検出された超伝導ライン15Lと、トンネル電流が検出された常伝導ライン13Lとから、粒子検出器5の検出面上の粒子が衝突した位置を把握することができる。したがって、試料Sから離脱した粒子の2次元的な情報を取得することが可能となる。
【0023】
また、常伝導ライン13Lで検出されるトンネル電流から粒子の運動エネルギーを求めることができるため、衝突した粒子の構成種の同定までも可能となる。すなわち、飛行時間だけからでは、飛行時間が同一で運動エネルギーが異なる粒子を区別できないが、運動エネルギーまで求めることができるため、そのような粒子を区別し得る。
【0024】
(変形例1)
次に、
図7を参照しながら、実施形態による粒子検出器5の変形例1について説明する。
図7は、変形例1による粒子検出器における常伝導ラインの延伸方向に沿った断面図である。
図7に示すように、変形例1による粒子検出器501もまた、基板12、常伝導ライン群(
図7では一つの常伝導ライン13Lのみを図示)、トンネル絶縁膜14、及び超伝導ライン群15を有している。これらに加えて、粒子検出器501はコンタクト17を有している。コンタクト17は、複数の超伝導ライン15Lの一つおきに、その下方において、トンネル絶縁膜14と常伝導ライン13Lとの間に設けられている。これにより、超伝導ライン15Lの高さが交互に異なっている。この場合、粒子検出器501における超伝導ライン15Lの隙間を上面視でほぼ消失させることが可能となる。その結果、超伝導ライン15Lに粒子を確実に衝突させることが可能になる。なお、コンタクト17は、常伝導ライン13Lと同じ材料により構成されてよい。
【0025】
(変形例2)
続けて、
図8を参照しながら、実施形態による粒子検出器5の変形例2について説明する。変形例2では、粒子検出器5を駆動する検出器駆動部が上述の検出器駆動部6と異なり、粒子検出器そのものは粒子検出器5と同一の構成を有している。
図8は、変形例2で用いられる検出器駆動部61を模式的に示す図である。検出器駆動部61は、検出器駆動部6の構成に加えて、常伝導ライン13Lとアンプ54の入力とを繋ぐ配線と接地との間に抵抗器70を有している。
【0026】
粒子検出器5は、上述のとおり、超伝導ライン15Lと常伝導ライン13Lという2つの伝導体でトンネル絶縁膜14を挟む構造を有しており、この構造はコンデンサとみなすことができる。このため、粒子の衝突(吸収)により超伝導ライン15Lに発生したパルス電圧は常伝導ライン13Lに伝わる。詳しくは、電源51(
図8)から超伝導ライン15Lに供給される電流の流れの方向Aに沿って、粒子が衝突した位置よりも上流側に位置する常伝導ライン13Lには上に凸のパルス電圧が伝わり、下流側に位置する常伝導ライン13Lには下に凸のパルス電圧が伝わる。
【0027】
ここで、
図9(A)および
図9(B)を参照しながら、各常伝導ライン13Lに伝わるパルス電圧について説明する。
図9(A)は、各常伝導ライン13Lのパルス電圧の時間変化を示すグラフである。横軸は時間を示し、縦軸は電圧値を示している。また、横軸及び縦軸と直交する軸は、常伝導ライン13Lの位置を示している。具体的には、この軸は、
図8における、超伝導ライン15Lを流れる電流の方向Aに対応している。
【0028】
図9(A)のグラフを参照すると、超伝導ライン15Lを流れる電流の方向Aに沿って、上に凸のパルス電圧の電圧値が大きくなるものの、急激に下に凸のパルス電圧に変化し、やがてその電圧値が小さくなっていることが分かる。
図9(B)は、常伝導ライン13Lの位置(横軸)に対して、各常伝導ライン13Lでのパルス電圧をプロットしたグラフである。このグラフに示すように、パルス電圧の電圧値はプラスからマイナスに変化する位置から、粒子の衝突点のY座標を特定することが可能となる。すなわち、変形例2では、粒子の衝突(吸収)により超伝導ライン15Lに発生したパルス電圧に基づいてY座標点を特定する点で、クーパー対の破壊に由来するトンネリング電流を測定してY座標点を特定する上記の実施形態(変形例1を含む)と異なっている。
【0029】
なお、常伝導ライン13Lと接地との間の抵抗器70により、常伝導ライン13Lにおける電位が超伝導ライン15Lにおける電位とほぼ等しくなる。このため、超伝導ライン15Lと常伝導ライン13Lと間の電位差により生じ得るトンネル電流の影響を排して、クーパー対の破壊に由来するトンネリング電流を高精度に測定することが可能になる。
【0030】
なお、変形例2において、粒子検出器5における、粒子が衝突した位置のX座標は、上述の実施形態における検出器駆動部6と同様に、超伝導ライン15Lに生じるパルス電圧を検出することにより求めることができる。また、上記の上に凸又は下に凸のパルス電圧は、そのような電圧変化に基づく電流の変化を通して電流検出部55により把握され得る。また、上に凸のパルス電圧から下に凸のパルス電圧への変化は、検出器駆動部6からのパルス電圧を示す情報を受信した制御部8によって特定され得る。
【0031】
(変形例3)
次に、実施形態による粒子検出器5の変形例3について説明する。
図10に示すように、変形例3による粒子検出器503においては、基板112上に、第1の超伝導ライン群113、トンネル絶縁膜114、第2の超伝導ライン群115がこの順に形成されている。すなわち、粒子検出器503は、上述の粒子検出器5(501)における常伝導ライン群13を有しておらず、代わりに第1の超伝導ライン群113を有している。第1の超伝導ライン群113と第2の超伝導ライン群115は、同一の超伝導体で形成されてもよいし、異なってもよい。なお、粒子検出器503のその他の構成は粒子検出器5(501)と同一である。また、第2の超伝導ライン群115側が粒子検出器503の粒子検出面である。
【0032】
第2の超伝導ライン群115を第1の超伝導ライン群113より高電位に設定し、その電位差が、第1の超伝導ライン群113または第2の超伝導ライン群115のエネルギーギャップより小さくすることによって、第1の超伝導ライン群113から第2の超伝導ライン群115に電荷が流入することを防いでもよい。また、第1の超伝導ライン113Lと第2の超伝導ライン115Lによるジョセフソン電流を抑制するため、基板112の表面に平行な方向に磁場をかけてもよい。
【0033】
以上のように構成された粒子検出器503によっても、超伝導ライン群に粒子が衝突した(吸収された)時点を高精度に検出することができ、さらに粒子が衝突した(吸収された)位置のXY座標、運動エネルギーまたは粒子のエネルギーを検出することが可能になる。なお、変形例1及び変形例2の双方又はいずれかを変形例3に適用してもよい。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0035】
例えば、上記の粒子検出器5では、基板12の上に常伝導ライン群13、トンネル絶縁膜14、及び超伝導ライン群15がこの順に形成されたが、例えばX線フォトンのように常伝導ライン群13を透過可能な粒子を検出するには、基板12上に超伝導ライン群15、トンネル絶縁膜14、及び常伝導ライン群13の順に形成されてもよい。この場合、常伝導ライン群13側が粒子検出面となる。また、上記の実施形態では、イオンなどの粒子が超伝導ライン群15(第2の超伝導ライン群115)に衝突する場合について説明したが、超伝導ライン群に吸収されるならば、他の粒子を検出することもできる。そのような粒子には例えばフォトンも含まれる。この場合、フォトンが超伝導ライン群に吸収された際にクーパー対が破壊されて発生する電子数は、フォトンのエネルギーに依存する。したがって、電子数(すなわち電流)を測定することにより、フォトンのエネルギーを推定することができる。
【0036】
また、上記の変形例1による粒子検出器501においても、基板12上に超伝導ライン群15、トンネル絶縁膜14、及び常伝導ライン群13の順に形成されてもよい。この場合、コンタクト17は、一つおきの超伝導ライン15Lの上方で、トンネル絶縁膜14と常伝導ライン13Lとの間に設けられてよい。
【0037】
また、上記の変形例3による粒子検出器503において、第1の超伝導ライン群113と第2の超伝導ライン群115が異なる超伝導体で形成される場合には、粒子検出器503は、両者の臨界温度以下の温度に維持されてよい。また、第2の超伝導ライン群115は、第1の超伝導ライン群113を構成する超伝導体よりも高い臨界温度を有する超伝導体で形成されてもよい。この場合、第2の超伝導ライン群115が臨界温度以下となり、第1の超伝導ライン群113が臨界温度より高くなるように粒子検出器503の温度を設定することも可能である。言い換えると、第2の超伝導ライン群115が超伝導体として動作する一方で、第1の超伝導ライン群113が実質的に常伝導体として動作するようにしてもよい。
【0038】
また、実施形態による粒子検出器5等を3次元アトムプローブ装置に適用する例を説明したが、実施形態による粒子検出器は、これに限らず、他の測定装置で利用することも可能である。
【符号の説明】
【0039】
1…3次元アトムプローブ装置、2…筐体、3…高電圧電源、4…駆動パルス電圧電源、5,501,503…粒子検出器、6…検出器駆動部、7…時間差測定部、8…制御部、12,112…基板、13…常伝導ライン群、13L…常伝導ライン、14,114…トンネル絶縁膜、15…超伝導ライン群、15L…超伝導ライン、16…絶縁体、17…コンタクト、21…冷却器、21C…断熱容器、21S…冷却ステージ、21W…窓部、51…電源、52,54…アンプ、53…電圧変化検出部、55…電流検出部、60…粒子、63,65…領域、66…電子、70…抵抗器、113…第1の超伝導ライン群、113L…第1の超伝導ライン、115…第2の超伝導ライン群、115L…第2の超伝導ライン。