(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】発電装置及びそれを備えた渦電流式ダンパ
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240401BHJP
H02P 9/00 20060101ALI20240401BHJP
H02K 7/06 20060101ALI20240401BHJP
F16F 15/03 20060101ALI20240401BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
E04H9/02 311
E04H9/02 351
H02P9/00 Z
H02K7/06 A
F16F15/03 Z
F16F15/03 G
F16F15/02 A
(21)【出願番号】P 2020149790
(22)【出願日】2020-09-07
【審査請求日】2023-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504242342
【氏名又は名称】株式会社免制震ディバイス
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(72)【発明者】
【氏名】増井 亮介
(72)【発明者】
【氏名】中南 滋樹
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-193905(JP,A)
【文献】特開2019-032007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00 - 9/16
F16F 15/00 -15/36
H02K 7/00 - 7/20
H02P 9/00 - 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の柱及び梁による架構に所定形状のブレースとともに設けられ、当該構造物の振動を利用して発電するための発電装置であって、
前記ブレースは、上下方向に所定距離を隔てて配置された上梁及び下梁の一方に連結され、前記上梁及び下梁の他方に向かって互いに接近するように延びる一対のブレース材を有しており、
前記一対のブレース材の先端部に設けられ、前記上梁及び下梁の前記他方の長さ方向に沿って所定長さ延びる第1延設体と、
前記上梁及び下梁の前記他方と一体に設けられ、当該他方の長さ方向に沿って所定長さ延びるとともに、前記第1延設体に対し上下方向に所定距離を隔てて対向
し、かつ、前記第1延設体に対して相対的に移動可能な第2延設体と、
前記第1延設体と前記第2延設体が相対的に移動する際に、その移動による直線運動を回転運動に変換し、当該変換した回転運動によって発電する発電手段と、
を備えていることを特徴とする発電装置。
【請求項2】
前記発電手段は、
前記第1延設体の長さ方向に沿って延び、当該第1延設体に設けられたラックと、
前記上梁及び下梁の前記他方、又は前記第2延設体に設けられたピニオン支持部に回転自在に支持され、前記ラックに噛み合うピニオンと、
このピニオンの回転に伴って回転するロータを有する発電機と、
を有していることを特徴とする請求項1に記載の発電装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の発電装置を備え、前記構造物の振動を抑制するための渦電流式ダンパであって、
前記第1延設体及び第2延設体の一方に取り付けられ、当該第1延設体及び第2延設体の他方に間隔を隔てて対向しかつ当該第1延設体及び第2延設体の前記一方の長さ方向に沿って配置された複数の永久磁石を、備え、
前記第1延設体及び第2延設体の前記他方は、前記複数の永久磁石と間隔を隔てて対向する面において、前記第1延設体と前記第2延設体が相対的に移動する際に、その移動を妨げる抵抗力を発生させるための渦電流が生じるように構成されており、
前記発電装置によって発電された電力を駆動源として利用可能に構成され、前記複数の永久磁石の、前記第1延設体及び第2延設体の前記他方に作用する磁力を調整することにより、前記抵抗力の大きさを調整する抵抗力調整機構を、さらに備えていることを特徴とする渦電流式ダンパ。
【請求項4】
前記抵抗力調整機構は、
非磁性材から成り、前記第1延設体及び第2延設体の前記一方に取り付けられた前記複数の永久磁石と前記第1延設体及び第2延設体の前記他方との間に配置され、前記一方の長さ方向に沿って所定長さ延びるとともに、当該長さ方向に沿って移動自在に設けられたスライダと、
磁性材から成り、前記複数の永久磁石にそれぞれ対応するように配置され、当該対応する永久磁石との間、並びに前記第1延設体及び第2延設体の前記他方との間にそれぞれ間隔を隔てた状態で、前記スライダに保持された複数のポールピースと、
前記スライダを駆動するスライダ駆動機構と、
を有していることを特徴とする請求項3に記載の渦電流式ダンパ。
【請求項5】
前記構造物に入力された振動の加速度を検出する加速度検出手段と、
前記検出された加速度に応じて、前記スライダ駆動機構を制御する制御部と、
をさらに備え、
前記制御部は、前記加速度が大きいほど、前記各永久磁石と対応する前記各ポールピースとの上下方向の重なり度合が大きくなるように、前記スライダ駆動機構を制御することを特徴とする請求項4に記載の渦電流式ダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震などによる構造物の振動を利用して発電する発電装置、及び構造物の振動を抑制するためのダンパに関し、特に、構造物の柱及び梁による架構に、ブレースとともに設けられる発電装置及びそれを備えた渦電流式ダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の発電装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この発電装置は、架構の内側に設けられた逆V字形のブレース(以下、本明細書において「∧型ブレース」という)の上端部と上側の梁(上梁)との間に配置された圧電素子を備えている。具体的には、上梁の下面に、下方に開放するコ字状のブラケットが設けられ、このブラケットに、∧型ブレースの上端部のブレース頭部が下方から挿入された状態で係合し、そのブレース頭部の両側面とブラケットの内側面との間や、ブレース頭部の下端よりも下側に、圧電素子が配置されている。また、上記のブラケット内には、上梁と∧型ブレースのブレース頭部との位置関係を、両者の間に相対変位を生じさせる力が所定値を超えるまで保持するストッパが設けられている。
【0003】
上記の発電装置では、風や地震などによって構造物が振動し、上記のストッパが解除されると、∧型ブレースが振動する。これにより、圧電素子がブレース頭部とブラケットとの間で押圧されたり、∧型ブレースの振動が圧電素子に作用したりすることで、圧電素子による発電が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の発電装置では、構造物が振動する際の∧型ブレースの振動に伴い、圧電素子を押圧したり、圧電素子を振動させたりすることによって、発電が行われている。しかし、圧電素子による発電では、構造物の振動数が低い場合には発電効率も低くなる。例えば、大型建築構造物の高層階のように固有周期が長く、周波数を高くすることが難しい場合において、所望の発電が十分に得られないことがある。
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、構造物の振動を利用して効率よく発電することができる発電装置、及びその発電によって得られた電力を利用可能であって、構造物の振動を抑制することができる渦電流式ダンパを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、構造物の柱及び梁による架構に所定形状のブレースとともに設けられ、構造物の振動を利用して発電するための発電装置であって、ブレースは、上下方向に所定距離を隔てて配置された上梁及び下梁の一方に連結され、上梁及び下梁の他方に向かって互いに接近するように延びる一対のブレース材を有しており、一対のブレース材の先端部に設けられ、上梁及び下梁の他方の長さ方向に沿って所定長さ延びる第1延設体と、上梁及び下梁の他方と一体に設けられ、他方の長さ方向に沿って所定長さ延びるとともに、第1延設体に対し上下方向に所定距離を隔てて対向し、かつ、第1延設体に対して相対的に移動可能な第2延設体と、第1延設体と第2延設体が相対的に移動する際に、その移動による直線運動を回転運動に変換し、変換した回転運動によって発電する発電手段と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、上梁及び下梁の一方に連結されかつ上梁及び下梁の他方に向かって互いに接近するように延びる一対のブレース材を有するブレースは、V字形のブレース(以下、本明細書において「∨型ブレース」という)又は逆V字形のブレース(∧型ブレース)に構成されている。なお、以下の説明では、特に限定しない限り、∨型ブレースという場合には、∧型ブレースを含むものとする。
【0009】
一対のブレース材の先端部、すなわち両ブレース材が互いに接近する、∨型ブレースの頂部には、上梁及び下梁の前記他方の長さ方向に沿って所定長さ延びるように、第1延設体が設けられている。また、上梁及び下梁の前記他方には、当該他方の長さ方向に沿って所定長さ延びるとともに、第1延設体に対し上下方向に所定距離を隔てて対向し、かつ、第1延設体に対して相対的に移動可能な第2延設体が設けられている。そして、構造物の振動に伴い、第1延設体と第2延設体が相対的に移動する際に、発電手段により、両延設体の相対移動による直線運動を回転運動に変換し、その変換した回転運動によって発電する。このように、本発明によれば、構造物の振動に伴う直線運動を回転運動に変換して発電するので、従来の圧電素子による発電に比べて、固有周期が長く、振動数が低い場合にも、効率よく発電可能な発電装置を得ることができる。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の発電装置において、発電手段は、第1延設体の長さ方向に沿って延び、第1延設体に設けられたラックと、上梁及び下梁の他方、又は第2延設体に設けられたピニオン支持部に回転自在に支持され、ラックに噛み合うピニオンと、このピニオンの回転に伴って回転するロータを有する発電機と、を有していることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、発電手段が、上記のラック、ピニオン及び発電機を有しており、ラックは、第1延設体の長さ方向に沿って延びた状態で、その第1延設体に設けられている。一方、ピニオンは、上梁及び下梁の他方、又は第2延設体に設けられたピニオン支持部に回転自在に支持され、上記のラックに噛み合っている。これにより、第1延設体と第2延設体の長さ方向の相対移動に伴い、ラックが長さ方向の一方に移動するとともにその反対方向にピニオン支持部が移動し、それにより、ラックに噛み合うピニオンが回転する。そして、このピニオンの回転に伴い、発電機のロータが回転し、発電する。このように、上記のラック、ピニオン及び発電機により、請求項1の発電手段を、比較的容易に構成することができる。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の発電装置を備え、構造物の振動を抑制するための渦電流式ダンパであって、第1延設体及び第2延設体の一方に取り付けられ、第1延設体及び第2延設体の他方に間隔を隔てて対向しかつ第1延設体及び第2延設体の一方の長さ方向に沿って配置された複数の永久磁石を、備え、第1延設体及び第2延設体の他方は、複数の永久磁石と間隔を隔てて対向する面において、第1延設体と第2延設体が相対的に移動する際に、その移動を妨げる抵抗力を発生させるための渦電流が生じるように構成されており、発電装置によって発電された電力を駆動源として利用可能に構成され、複数の永久磁石の、第1延設体及び第2延設体の他方に作用する磁力を調整することにより、抵抗力の大きさを調整する抵抗力調整機構を、さらに備えていることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、上記第1延設体及び第2延設体の一方に取り付けられた複数の永久磁石が、第1延設体及び第2延設体の他方に間隔を隔てて対向しかつ第1延設体及び第2延設体の一方の長さ方向に沿って配置されている。なお、本欄の以下の説明において、第1延設体及び第2延設体の一方、すなわち複数の永久磁石が取り付けられた延設体を適宜、「磁石側延設体」といい、第1延設体及び第2延設体の他方、すなわち複数の永久磁石が間隔を隔てて対向する延設体を適宜、「対向延設体」というものとする。
【0014】
そして、複数の永久磁石が対向する、第1延設体及び第2延設体の他方、すなわち対向延設体は、永久磁石と間隔を隔てて対向する面において、第1延設体と第2延設体が相対的に移動する際に、その移動を妨げる抵抗力を発生させるための渦電流が生じるように構成されている。
【0015】
具体的には、地震などの振動による構造物の上梁と下梁の相対変位に伴い、第1延設体と第2延設体が相対的に移動すると、磁石側延設体が複数の永久磁石と一体に移動する。これにより、複数の永久磁石による磁場が変化することで、それらの永久磁石が対向する対向延設体の表面には、電磁誘導による渦電流が生じる。そして、この渦電流によるローレンツ力及びその反作用力が、第1延設体と第2延設体の相対移動を妨げる抵抗力として作用する。このように、本発明の渦電流式ダンパは、地震などによる構造物への振動エネルギーを、渦電流による抵抗力によって吸収し、構造物の振動を減衰させることができる。
【0016】
また、請求項1又は2に記載の発電装置によって発電された電力を駆動源として利用可能に構成された抵抗力調整機構は、複数の永久磁石の、第1延設体及び第2延設体の他方(対向延設体)に作用する磁力を調整し、それにより、前記抵抗力、すなわち、第1延設体と第2延設体が相対移動する際の移動を妨げる抵抗力の大きさを調整する。このように、構造物の振動を利用して得られた電力を用いて、抵抗力調整機構を駆動することができる。
【0017】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の渦電流式ダンパにおいて、抵抗力調整機構は、非磁性材から成り、第1延設体及び第2延設体の一方に取り付けられた複数の永久磁石と第1延設体及び第2延設体の他方との間に配置され、一方の長さ方向に沿って所定長さ延びるとともに、長さ方向に沿って移動自在に設けられたスライダと、磁性材から成り、複数の永久磁石にそれぞれ対応するように配置され、対応する永久磁石との間、並びに第1延設体及び第2延設体の他方との間にそれぞれ間隔を隔てた状態で、スライダに保持された複数のポールピースと、スライダを駆動するスライダ駆動機構と、を有していることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、抵抗力調整機構が、上記のスライダ、複数のポールピース及びスライダ駆動機構を有している。各々が磁性材から成る複数のポールピースにおいて、対応する永久磁石との上下方向の重なり度合が大きい場合には、その永久磁石による磁束の大部分が、対応するポールピースを通って、第1延設体及び第2延設体の他方(対向延設体)に到達する。これにより、第1延設体と第2延設体の相対移動の際に、比較的大きな渦電流が発生し、その結果、第1延設体と第2延設体の相対移動に対し、それを妨げる比較的大きな抵抗力が作用する。
【0019】
一方、各ポールピースと対応する永久磁石との上下方向の重なり度合が小さい場合には、その永久磁石による磁束の一部が、対応するポールピースを通り、対向延設体に到達することなく、隣接する永久磁石との間につながり、いわゆる短絡を生じる。これにより、永久磁石の磁束のうち、対向延設体に到達する磁束が減少し、第1延設体と第2延設体の相対移動の際に発生する渦電流が小さくなる。その結果、第1延設体と第2延設体の相対移動に対し、それを妨げる抵抗力が低下する。
【0020】
以上のことから、スライダ駆動機構によって、スライダを駆動し、各永久磁石と対応するポールピースとの上下方向の重なり度合を調整することにより、第1延設体と第2延設体の相対移動の際に、その移動を妨げる抵抗力の大きさを容易に調整することができる。
【0021】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の渦電流式ダンパにおいて、構造物に入力された振動の加速度を検出する加速度検出手段と、検出された加速度に応じて、スライダ駆動機構を制御する制御部と、をさらに備え、制御部は、加速度が大きいほど、各永久磁石と対応する各ポールピースとの上下方向の重なり度合が大きくなるように、スライダ駆動機構を制御することを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、上記制御部は、構造物に入力された振動の加速度に応じ、その加速度が大きいほど、各永久磁石と対応するポールピースとの上下方向の重なり度合が大きくなるように、スライダ駆動機構を制御する。これにより、例えば大きな地震により、構造物に入力される振動の加速度が大きい場合には、各永久磁石と対応するポールピースとの上下方向の重なり度合が大きくなるように制御することで、第1延設体と第2延設体の相対移動に対し、その移動を妨げる比較的大きな抵抗力を得ることができる。一方、小さな地震により、上記加速度が小さい場合には、各永久磁石と対応するポールピースとの上下方向の重なり度合が小さくなるように制御することで、第1延設体と第2延設体の相対移動に対し、その移動を妨げる比較的小さな抵抗力を得ることができる。以上のように、上記の加速度に応じて、適切な大きさの抵抗力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態による渦電流式ダンパの基本構造を、これを設置した建物の一部の構造材とともに概略的に示す図であり、(a)は正面図、(b)はダンパ自体を拡大して示すとともに永久磁石によるループ状の磁力線を示す図、(c)は(b)のA-A線に沿う断面図である。
【
図2】
図1(a)に示す渦電流式ダンパの動作を説明するための説明図であり、(a)は動作前の状態、(b)は、磁石ホルダが右方に、対向延設体が左方に移動した状態、(c)は、磁石ホルダが左方に、対向延設体が右方に移動した状態を示す。
【
図3】本発明の発電装置を備えた渦電流式ダンパを、これを適用した建物の一部の構造材とともに概略的に示す図であり、(a)は正面図、(b)は(a)のB-B線に沿う断面図である。
【
図4】
図3(a)に示す渦電流式ダンパのダンパ自体を拡大して示すとともに永久磁石によるループ状の磁力線を示す図であり、(a)は、永久磁石と対応するポールピースとの上下方向の重なり度合が大きい状態、(b)は、上記の重なり度合が(a)よりも少ない状態、(c)は、上記の重なり度合が(b)よりも少ない状態を示す。
【
図5】ポールピースを保持するスライダの駆動制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態による渦電流式ダンパの基本構造を、これを設置した建物S(構造物)の一部の構造材とともに概略的に示している。同図(a)に示す建物Sは、例えば高層のビルであり、上下方向に延びる複数の柱(左柱PL及び右柱PRのみ図示)と、水平に延びる複数の梁(上梁BU及び下梁BDのみ図示)を井桁状に組み合わせたラーメン構造を有している。
【0025】
図1(a)に示すように、この渦電流式ダンパ1は、上記の左右の柱PL及びPRと、上下の梁BU及びBDとによって構成される架構の内側に、正面形状がV字状に形成された∨型ブレース2とともに設けられている。∨型ブレース2は、上梁BUと左右の柱PL、PRとの2カ所の接合部分から下方に向かって互いに接近するように延びる一対のブレース材2a、2aを有しており、それらの下側の先端部に、渦電流式ダンパ1の後述する磁石ホルダ3が取り付けられている。各ブレース材2aは、H形鋼などから成り、上端部が上梁BUと左右の柱PL又はPRとの接合部分にボルト止めなどにより固定され、下端部が磁石ホルダ3の長さ方向の中央付近にボルト止めなどにより固定されている。なお、両ブレース材2a、2aは、それらの下部の所定部位において、水平に延びる補助リブ2bを介して連結されている。
【0026】
渦電流式ダンパ1は、下梁BDの長さ方向(
図1(a)の左右方向)に沿って水平に所定長さ延びる磁石ホルダ3(第1延設体)と、下梁BDの長さ方向に沿って水平に所定長さ延びるとともに、上記磁石ホルダ3に対し上下方向に所定距離を隔てて対向し、下梁BD上に固定された対向延設体4(第2延設体)と、磁石ホルダ3の下面に取り付けられ、対向延設体4の上面に所定間隔を隔てて対向する複数(本実施形態では6つ)の永久磁石(以下、単に「磁石」という)5及び磁極ブロック6とを備えている。
【0027】
磁石ホルダ3は、磁性材(例えば炭素鋼や鋳鉄)から成り、前述したように、比較的長い所定長さを有するとともに、長さ方向の中央部が∨型ブレース2の下端部にボルトなどによって固定されている。なお,
図1(c)では、図示の便宜上、磁石ホルダ3の横断面を矩形状で示しているが、下面が水平で複数の磁石5を取り付け可能であれば、種々の形状の横断面を有するもの(例えばH形鋼など)を採用することが可能である。
【0028】
対向延設体4は、導電性を有する材料、例えば炭素鋼や鋳鉄などの強磁性を有する金属から成り、磁石ホルダ3とほぼ同じ長さ寸法を有している。また、対向延設体4は、磁石ホルダ3に対し、上下方向に所定距離を隔てて平行に延びるように配置されており、下端部において、長さ方向に沿って延びかつ前後方向(
図1(a)の表裏方向、同図(c)の左右方向)に突出するフランジ部において、下梁BD上にボルト止めされている。この対向延設体4の材料については、上述した炭素鋼や鋳鉄以外に、例えばステンレス鋼やアルミニウム、銅、それらの合金など、弱磁性材や非磁性材の金属を採用することも可能である。なお、
図1では、図示の便宜上、対向延設体4の横断面をほぼ矩形状で示しているが、上面が水平で、各磁石5と所定間隔を隔てた状態に構成されていれば、種々の形状の横断面を有するもの(例えばH形鋼など)を採用することが可能である。
【0029】
各磁石5は、平面形状が矩形状で所定サイズを有するブロック状に形成されており、上半部と下半部で磁極(N極及びS極)が異なるように構成されている。また、隣り合う磁石5、5では、下方の対向延設体4に臨む磁極が互いに異なるように配置されている。一方、各磁極ブロック6は、鉄などの磁性材から成り、磁石5と同様の形状及びサイズを有するブロック状に形成されている。これらの磁石5及び磁極ブロック6は、磁石ホルダ3の長さ方向に沿って、互いに所定間隔を隔てた状態で一列に配置されており、対向延設体4に対し上下方向に所定間隔を隔てて対向した状態で、磁石ホルダ3の下面に、接着やボルト止めなどによって取り付けられている。なお、以下の説明では、一列に配置された複数の磁石5をまとめて適宜、「磁石列5」というものとする。
【0030】
上記の磁極ブロック6は、磁石列5の左右両端部の磁石である端部磁石5a、5aにそれぞれ隣接するように配置されている。これにより、後述するように、端部磁石5aと磁極ブロック6との間で、その端部磁石5aによるループ状の磁力線が生成される。
【0031】
なお、図示は省略するが、渦電流式ダンパ1には、その周囲を覆った状態で、下梁BDに取り付けられるカバーが設けられている。このようなカバーにより、ゴミや埃などが対向延設体4と磁石5及び磁極ブロック6との間に侵入するのを防止することができる。また、上記カバーを、磁気をシールド可能な材料で構成することにより、各磁石5の磁気が外部に漏れるのを防止することができる。
【0032】
以上のように構成された渦電流式ダンパ1において、磁石ホルダ3の下面に取り付けられた磁石列5では、
図1(b)に示すように、各磁石5のN極から出た磁力線は、上側の磁石ホルダ3と下側の対向延設体4との間において、隣り合う2つの磁石5、5を通り、元の磁石5のS極に戻るように、ループ状に生成される。
【0033】
また、磁石列5の左右に配置された2つの磁極ブロック6、6では、隣接する端部磁石5aとの間で、その端部磁石5aによる磁力線がループ状に生成される。上記のような磁極ブロック6を設けることにより、端部磁石5aの磁力が外部に漏れるのを抑制しながら、その磁力を対向延設体4に安定して及ぼすことができる。
【0034】
次に、以上のように構成された渦電流式ダンパ1の動作について説明する。
図2(a)は、渦電流式ダンパ1の動作前の状態を示している。同図(a)に示す状態から、地震や風により、上梁BUと下梁BDの間で、それらの長さ方向に相対変位が生じると、それに伴い、例えば同図(b)に示すように、∨型ブレース2を介して上梁BUに連結された磁石ホルダ3が右方に移動する一方、下梁BDと一体に対向延設体4が左方に移動する。この場合、磁石ホルダ3が、磁石列5と一体に対向延設体4に対して移動することにより、磁石列5による磁場が変化し、それにより、対向延設体4の上面には、電磁誘導による渦電流が生じる。そして、その渦電流によるローレンツ力及びその反作用力が、磁石ホルダ3及び対向延設体4に対し、両者の相対移動を妨げる抵抗力として作用する。
【0035】
また、
図2(a)に示す状態から、上記とは逆に、同図(c)に示すように、磁石ホルダ3が左方に移動する一方、対向延設体4が右方に移動する場合も、磁石列5による磁場が変化することで、対向延設体4の上面に電磁誘導による渦電流が生じる。そして、その渦電流によるローレンツ力及びその反作用力が、磁石ホルダ3及び対向延設体4に対し、両者の相対移動を妨げる抵抗力として作用する。
【0036】
以上詳述したように、上記の渦電流式ダンパ1によれば、地震などによる建物Sへの振動エネルギーを、渦電流による抵抗力によって吸収し、建物Sの振動を減衰させることができる。
【0037】
また、上述した渦電流式ダンパ1では、複数の磁石5を含む磁石ホルダ3と対向延設体4とが、互いに分離した状態に構成されている。つまり、この渦電流式ダンパ1では、磁石ホルダ3を∨型ブレース2の下端部に、対向延設体4を下梁BDにそれぞれ取り付ければよく、例えば単一のダンパについて、その両端部などの2カ所を、架構側の固定部にそれぞれ取り付ける場合に比べて、渦電流式ダンパ1を適切かつ容易に取り付けることができる。
【0038】
次に、
図3~
図5を参照しながら、本発明の一実施形態による発電装置を備えた渦電流式ダンパ1Aについて説明する。なお、本実施形態の渦電流式ダンパ1Aにおいて、前述した渦電流式ダンパ1と同様の構成部品については、同じ符号を付して、その詳細な説明を省略するものとする。
【0039】
この渦電流式ダンパ1Aには、磁石ホルダ3と対向延設体4の相対移動を妨げる抵抗力を調整するための抵抗力調整機構11と、この抵抗力調整機構11の駆動に利用される電力を発電する発電装置12が設けられている。
【0040】
抵抗力調整機構11は、磁石列5と対向延設体4との間に配置され、磁石ホルダ3の長さ方向に沿って所定長さ延び、その長さ方向に沿って移動自在のスライダ14と、このスライダ14に取り付けられ、複数の磁石5にそれぞれ対応する複数(本実施形態では6つ)のポールピース15と、スライダ14を駆動するスライダ駆動機構16とを備えている。
【0041】
スライダ14は、非磁性材から成り、磁石ホルダ3よりも若干長く延びる板状に形成されている。また、スライダ14の前端部及び後端部は、磁石ホルダ3の下面の前端部及び後端部から垂下する垂下壁17、17(
図3(b)参照)にそれぞれ、スライダ14の長さ方向(
図3(a)の左右方向)にスライド自在の状態で係合している。さらに、スライダ14には、上方の複数の磁石5にそれぞれ対応する位置に、上下方向に貫通する複数の貫通孔が形成され、それらの貫通孔にポールピース15が嵌め込まれた状態で取り付けられている。なお、スライダ14は、非磁性材で構成されていればよく、例えば合成樹脂やステンレス、アルミニウム合金など、種々の材料を採用することが可能である。
【0042】
ポールピース15は、磁性材から成り、平面形状が矩形状で所定サイズのブロック状に形成され、前述した磁石5とほぼ同じサイズの横断面を有している。また、ポールピース15は、上側の磁石5との間、及び下側の対向延設体4との間にそれぞれ、所定間隔を隔てて配置されている。
【0043】
スライダ駆動機構16は、モータ16aと、このモータ16aによって駆動されるギヤ機構16bとを備えている。ギヤ機構16bは、複数のギヤなどで構成され、モータ16aから出力される回転運動を、スライダ14を駆動する直線運動に変換するように構成されている。なお、スライダ14と対向延設体4との間は、前後(
図3(b)の左右)のカバー18、18によって覆われている。
【0044】
一方、発電装置12は、上述した渦電流式ダンパ1Aの磁石ホルダ3と対向延設体4の相対移動による直線運動を回転運動に変換し、その変換した回転運動によって発電する発電部21(発電手段)を備えている。
【0045】
図3(b)に示すように、発電部21は、磁石ホルダ3の長さ方向に沿って所定長さ延び、磁石ホルダ3の上面に固定されたラック22と、これに噛み合うピニオン23と、このピニオン23の回転に基づいて発電する発電機24と、上記のピニオン23及び発電機24を支持した状態で、それらを覆うとともに、下梁BDに取り付けられた支持カバー25(ピニオン支持部)とを備えている。なお、上記の支持カバー25は、下梁BDに代えて、対向延設体4に取り付けるようにすることも可能である。
【0046】
発電機24は、ロータ26と、その外周及び一方の端部(
図3(b)の右端部)を囲むように設けられたステータ27とを備えている。ロータ26の外周面全体には、その周方向に沿って、複数(
図3(b)では2つのみ図示)の永久磁石26aが設けられている。一方、ステータ27には、ロータ26の外周面全体の永久磁石26aに対向した状態で、複数(
図3(b)では2つのみ図示)のコイル27aが周方向に沿って設けられている。
【0047】
上記のピニオン23及び発電機24のロータ26には、それらの中心部を貫通した状態で固定された共通の回転軸28が設けられている。この回転軸28は、その一端部(
図3(b)の左端部)が支持カバー25に回転自在に支持されるとともに、他端部(
図3(b)の右端部)が、支持カバー25、又はこれに固定された発電機24のステータ27に回転自在に支持されている。
【0048】
また、
図3(a)に示すように、右梁PRには、前述した抵抗力調整機構11のスライダ駆動機構16を制御するための制御部29が取り付けられるとともに、上梁BUには、建物Sに入力される振動の大きさを表す加速度を検出するための加速度センサ30(加速度検出手段)が取り付けられている。なお、発電装置12によって発電された電力は、例えば支持カバー25内や制御部29付近に設けられたバッテリ(図示せず)に蓄電されるようになっている。
【0049】
制御部29は、CPU、RAM、ROM及び入出力インターフェース(いずれも図示せず)などから成るマイクロコンピュータで構成されている。加速度センサ30で検出された加速度ACは、入力インターフェースでA/D変換や整形がなされた後、CPUに入力される。CPUは、検出された加速度ACに応じ、ROMに記憶された制御プログラムに基づいて、スライダ駆動機構16を制御する。
【0050】
上記のように構成された発電装置12では、磁石ホルダ3と対向延設体4の相対移動に伴い、ラック22に噛み合うピニオン23が回転する。そして、このピニオン23と一体に発電機24のロータ26が回転し、ステータ27のコイル27aで発生した電力が、バッテリに出力される。そして、このバッテリに蓄電された電力は、抵抗力調整機構11の駆動源として利用される。
【0051】
図4は、渦電流式ダンパ1Aの抵抗力調整機構11におけるスライダ駆動機構16の動作、及び磁石5によるループ状の磁力線を示している。同図(a)は、スライダ駆動機構16におけるスライダ14が第1所定位置に位置する状態を示している。この第1所定位置では、各磁石5と対応するポールピース15が上下方向にほぼぴったりと重なり、その上下方向の重なり度合が大きくなっている。この場合には、同図(a)に示すように、各磁石5によるほぼ全ての磁力線(磁束)が、対応するポールピース15を通って、対向延設体4に到達する。これにより、磁石ホルダ3と対向延設体4の相対移動の際に、比較的大きな渦電流が発生し、その結果、磁石ホルダ3と対向延設体4の相対移動に対し、それを妨げる比較的大きな抵抗力が作用する。
【0052】
また、
図4(b)は、スライダ14が第2所定位置に位置する状態を示している。この第2所定位置では、各磁石5と対応するポールピース15の重なり度合が、上述した同図(a)の第1所定位置の場合よりも小さくなっている。この場合には、同図(b)に示すように、各磁石5による磁束の一部が、対応するポールピース15を介して、隣接する磁石5に短絡した状態となる。これにより、各磁石5による磁束のうち、対応するポールピース15を通って対向延設体4に到達する磁束が少なくなる。その分、磁石ホルダ3と対向延設体4の相対移動の際に発生する渦電流が小さくなり、それに伴い、磁石ホルダ3と対向延設体4の相対移動を妨げる抵抗力も小さくなる。
【0053】
さらに、
図4(c)は、スライダ14が第3所定位置に位置する状態を示している。この第3所定位置では、各磁石5と対応するポールピース15の重なり度合が上述した同図(b)の第2所定位置の場合よりも小さくなっている。この場合には、同図(c)に示すように、各磁石5による磁束の一部が、対応するポールピース15を介して、隣接する磁石5に、より一層多く短絡した状態となる。これにより、各磁石5による磁束のうち、対応するポールピース15を通って対向延設体4に到達する磁束がより一層少なくなる。その分、磁石ホルダ3と対向延設体4の相対移動の際に発生する渦電流が、より一層小さくなり、それに伴い、磁石ホルダ3と対向延設体4の相対移動を妨げる抵抗力も、より一層小さくなる。
【0054】
図5は、加速度センサ30で検出された加速度ACに応じ、スライダ駆動機構16におけるスライダ14の駆動制御処理の一例を示している。なお、本処理は、所定時間ごとに繰り返し実行される。
【0055】
本処理では、まず、ステップ1(「S1」と図示。以下同じ)において、加速度ACが比較的小さい所定の小基準加速度AC_S以上であるか否かを判別する。この判別結果がNOのときには、建物Sに入力される振動がほとんどなく、抵抗力調整機構11を作動させる必要がないとして、そのまま本処理を終了する。
【0056】
一方、ステップ1の判別結果がYESのときには、ステップ2に進み、加速度ACが上記小基準加速度AC_Sよりも大きい所定の中基準加速度AC_M以上であるか否かを判別する。この判別結果がNOのとき、すなわち、AC_S≦AC<AC_Mのときには、スライダ14の位置(以下、単に「スライダ位置SP」という)を、前述した
図4(c)に示す第3所定位置P3に設定し(ステップ3)、本処理を終了する。なお、スライダ14がすでに第3所定位置SP3に位置しているときは、スライダ14をそのまま維持し、スライダ14が第3所定位置SP3以外に位置しているときには、スライダ14を第3所定位置SP3に移動させる。
【0057】
また、ステップ2の判別結果がYESのときには、ステップ4に進み、加速度ACが、上記中基準加速度AC_Mよりも大きい所定の大基準加速度AC_L以上であるか否かを判別する。この判別結果がNOのとき、すなわち、AC_M≦AC<AC_Lのときには、スライダ位置SPを、前述した
図4(b)に示す第2所定位置SP2に設定し(ステップ5)、本処理を終了する。なお、スライダ14がすでに第2所定位置SP2に位置しているときには、スライダ14をそのまま維持し、スライダ14が第2所定位置SP2以外に位置しているときには、スライダ14を第2所定位置SP2に移動させる。
【0058】
一方、ステップ4の判別結果がYESのとき、すなわち、加速度ACが上記大基準加速度AC_L以上のときには、スライダ位置SPを、前述した
図4(a)に示す第1所定位置SP1に設定し(ステップ6)、本処理を終了する。なお、スライダ14がすでに第1所定位置SP1に位置しているときには、スライダ14をそのまま維持し、スライダ14が第1所定位置SP1以外に位置しているときには、スライダ14を第1所定位置SP1に移動させる。
【0059】
上述した小基準加速度AC_S、中基準加速度AC_M及び大基準加速度AC_Lの具体例として、例えば周期が0.5~6秒の建物(制震建物及び免震建物を含む)の応答加速度(gal)は以下のとおりである。
小基準加速度AC_S:応答加速度≦5~11(震度0~3)
中基準加速度AC_M:5~11<応答加速度≦50~110(震度4~5)
大基準加速度AC_L:50~110<応答加速度(震度5強)
【0060】
以上詳述したように、本実施形態の渦電流式ダンパ1Aによれば、前述した基本構造の渦電流式ダンパ1と同様、地震などによる建物Sへの振動エネルギーを、渦電流による抵抗力によって吸収し、建物Sの振動を減衰させることができる。
【0061】
また、渦電流式ダンパ1Aには、抵抗力調整機構11及び発電装置12が設けられており、この発電装置12により、建物Sの振動に伴う磁石ホルダ3と対向延設体4の相対移動の際に、両者3及び4の相対移動による直線運動を回転運動に変換し、その変換した回転運動によって発電する。そして、発電された電力を駆動源として、抵抗力調整機構11を駆動する。このように、建物Sの振動を利用して得られた電力を用いて、抵抗力調整機構11を駆動することができる。また、抵抗力調整機構11において、スライダ駆動機構16によってスライダ14を駆動し、各磁石5と対応するポールピース15との上下方向の重なり度合を調整することにより、磁石ホルダ3と対向延設体4の相対移動の際に、その移動を妨げる抵抗力の大きさを容易に調整することができる。
【0062】
さらに、抵抗力調整機構11では、建物Sに入力された振動の加速度ACに応じ、その加速度ACが大きいほど、磁石5と対応するポールピース15との上下方向の重なり度合が大きくなるように、スライダ駆動機構16が制御される。これにより、例えば、大きな地震により、建物Sに入力される振動の加速度が大きい場合には、各磁石5と対応するポールピース15との上下方向の重なり度合が大きくなるように、スライダ駆動機構16を制御することで、磁石ホルダ3と対向延設体4の相対移動に対し、その移動を妨げる比較的大きな抵抗力を得ることができる。一方、小さな地震により、上記加速度ACが小さい場合には、各磁石5と対応するポールピース15との上下方向の重なり度合が小さくなるように制御することで、磁石ホルダ3と対向延設体4の相対移動に対し、その移動を妨げる比較的小さな抵抗力を得ることができる。以上のように、上記の加速度ACに応じて、適切な大きさの抵抗力を得ることができる。
【0063】
なお、本発明は、説明した上記実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、渦電流式ダンパ1及び1Aでは、上下に配置された磁石ホルダ3及び対向延設体4のうち、上側の磁石ホルダ3に複数の磁石5及び磁極ブロック6を取り付けたが、本発明はこれに限定されるものではなく、磁石ホルダ3に代えて、下側の対向延設体4に、磁石5及び磁極ブロック6を取り付けることも可能である。
【0064】
また、実施形態では、渦電流式ダンパ1Aを支持する支持体として、∨型ブレース2を採用したが、逆V字形の∧型ブレースを採用することも、もちろん可能である。この場合には、∧型ブレースの頂部(上端部)に、磁石ホルダ3及び対向延設体4の一方が連結され、上梁BUの下面に、磁石ホルダ3及び対向延設体4の他方が連結される。
【0065】
さらに、実施形態で示した渦電流式ダンパ1A、抵抗力調整機構11及び発電装置12の細部の構成などは、あくまで例示であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 渦電流式ダンパ
1A 渦電流式ダンパ
2 ∨型ブレース
2a ブレース材
3 磁石ホルダ(第1延設体)
4 対向延設体(第2延設体)
5 永久磁石
11 抵抗力調整機構
12 発電装置
14 スライダ
15 ポールピース
16 スライダ駆動機構
21 発電部(発電手段)
22 ラック
23 ピニオン
24 発電機
25 支持カバー(ピニオン支持部)
26 ロータ
29 制御部
30 加速度センサ(加速度検出手段)
S 建物(構造物)
PL 左柱
PR 右柱
BU 上梁
BD 下梁
AC 加速度
AC_S 小基準加速度
AC_M 中基準加速度
AC_L 大基準加速度
SP スライダ位置
P1 第1所定位置
P2 第2所定位置
P3 第3所定位置