(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】ナチュラルキラーT(NKT)細胞を刺激する樹状細胞の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0784 20100101AFI20240401BHJP
A61K 35/15 20150101ALN20240401BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20240401BHJP
A61P 37/04 20060101ALN20240401BHJP
【FI】
C12N5/0784
A61K35/15
A61P35/00
A61P37/04
(21)【出願番号】P 2020152501
(22)【出願日】2020-09-11
(62)【分割の表示】P 2018537405の分割
【原出願日】2017-08-31
【審査請求日】2020-10-07
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2016170996
(32)【優先日】2016-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】315001109
【氏名又は名称】株式会社理研免疫再生医学
(74)【代理人】
【識別番号】110002332
【氏名又は名称】弁理士法人綾船国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野口 活夫
(72)【発明者】
【氏名】只木 敏雅
【合議体】
【審判長】福井 悟
【審判官】飯室 里美
【審判官】鶴 剛史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/129791(WO,A1)
【文献】J Immunol Methods., 2002 Sep 15, vol.267, no.2, pp.173-183
【文献】J Leukoc Biol, 2008 Nov, vol.84, no.5, pp.1353-1360
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N1/00-7/08
BIOSIS/MEDLINE/CAplus/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナチュラルキラーT(NKT)細胞を刺激する樹状細胞の製造方法であって、
(a1)単核球を培養容器に入れ、静置して前記単核球のうちの一部の細胞を容器の底面に定着させる定着工程と、
(b1)前記培養容器の底面に定着した細胞以外の浮遊細胞を除去する除去工程と、
(c1)前記培養容器にIL-4及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子を入れて前記底面に定着した細胞のうちの単球を未成熟樹状細胞に分化させる分化工程と、
(d1)前記培養容器に、IL-4、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、腫瘍壊死因子α及びプロスタグランジンE
2を入れて、前記未成熟樹状細胞を成熟させる成熟工程と、
(e1)前記培養容器にα-ガラクトシルセラミドを入れて、成熟した樹状細胞から、NKT細胞の活性化及び増殖を誘導する樹状細胞を誘導する誘導工程と、
を含むことを特徴とする、NKT細胞を刺激する樹状細胞の製造方法。
【請求項2】
前記誘導工程における前記α-ガラクトシルセラミドの濃度は、10~1,000 ng/mLである、請求項1に記載のNKT細胞を刺激する樹状細胞の製造方法。
【請求項3】
得られたNKT細胞を刺激する樹状細胞を凍結保存する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のNKT細胞を刺激する樹状細胞の製造方法。
【請求項4】
ナチュラルキラーT(NKT)細胞を刺激する樹状細胞の製造方法であって、
(a1)単核球を培養容器に入れ、静置して前記単核球のうちの一部の細胞を容器の底面に定着させる定着工程と、
(b1)前記培養容器の底面に定着した細胞以外の浮遊細胞を除去する除去工程と、
(c1)前記培養容器にIL-4及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子を入れて前記底面に定着した細胞のうちの単球を未成熟樹状細胞に分化させる分化工程と、
(d1)前記培養容器に、IL-4(200~800 ng/mL)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(200~800 ng/mL)、腫瘍壊死因子α(
1.0~100 ng/mL)及びプロスタグランジンE
2(100~10,000 ng/mL)を入れて、前記未成熟樹状細胞を成熟させる成熟工程と、
(e1)前記培養容器にα-ガラクトシルセラミドを入れて樹状細胞の成熟を促進し、成熟した樹状細胞から、NKT細胞の活性化及び増殖を誘導する樹状細胞を誘導する誘導工程と、
を含むことを特徴とする、刺激によりNKT細胞をがん治療用NKT細胞に誘導する樹状細胞の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NKT細胞を刺激する樹状細胞の製造方法、およびNKT細胞を刺激する樹状細胞とNKT細胞とを含む細胞組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、がんに対する治療方法として、手術、化学療法や放射線治療のほかに、患者自身の免疫細胞を取り出して、賦活化させてその後に患者に戻すといった免疫療法が注目されている。がんが発症する原因として体内の免疫細胞数の減少や免疫細胞活性が低下していることがある。免疫療法では、これを克服するために免疫細胞の数などを増やして、がん細胞を攻撃する。
【0003】
がん免疫療法の一例として、末梢血単核球をα-ガラクトシルセラミドでパルスし、その単核球に含まれているNKT細胞を活性化または増殖させて患者に投与する、がんを治療する方法が知られており、肺がんを中心に臨床研究が進められている(例えば非特許文献1参照)。
【0004】
NKT細胞とは、T細胞の中でも、T細胞とナチュラルキラー細胞(NK細胞)の両方の特徴を持つ亜群を指す。NKT細胞は末梢血中のT細胞のわずか0.1%程度しか存在していない。NKT細胞が活性化すると、NKT細胞は多量のIFN-γ、IL-4、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)を大量に産生する特徴がある。
【0005】
抗原提示細胞(樹状細胞)表面のCD-1d分子によってα-ガラクトシルセラミド(α-GalCer)が提示された場合、NKT細胞表面のT細胞受容体Vα24Vβ11を介して、活性化シグナルが伝達され、NKT細胞が活性化することが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Shinichiro Motohashi, Kaoru Nagato, Naoki Kunii, Heizaburo Yamamoto, Kazuki Yamasaki, Kohsuke Okita, Hideki Hanaoka, Naomi Shimizu,Makoto Suzuki, Ichiro Yoshino, Masaru Taniguchi,Takehiko Fujisawa,and Toshinori Nakayama,A Phase I-II Study of α -Galactosylceramide-Pulsed IL-2/GM-CSF-Cultured Peripheral Blood Mononuclear Cells in Patients with Advanced and Recurrent Non-Small Cell Lung Cancer1. The Journal of Immunology 182:2492-2501(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまでに、NKT細胞を刺激する樹状細胞を効率良く、経済的に製造する方法は知られていなかった。
【0008】
そこで、本発明は、NKT細胞を刺激する樹状細胞の経済的な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある実施形態は、NKT細胞を刺激する樹状細胞の製造方法である。当該製造方法は、
単核球を培養容器に入れ、静置して単核球のうちの一部の細胞を容器の底面に定着させる工程と、
前記培養容器の底面に定着した細胞以外の浮遊細胞を除去する工程と、
前記培養容器に所定の因子を入れて前記底面に定着した細胞のうちの単球を未成熟樹状細胞に分化させる工程と、
前記培養容器に所定の因子を入れて前記未成熟樹状細胞を成熟させる工程と、
前記培養容器にα-ガラクトシルセラミドを入れて、成熟した樹状細胞から、NKT細胞を刺激する樹状細胞を誘導する工程と、
を含むことを特徴とする。本実施形態によれば、単核球のうちの単球を培養容器の底面に定着させ、樹状細胞への分化を行うことによって、比較的短期間で、少ない培地量で、効率よくNKTを刺激する樹状細胞を得ることができる。したがって、本実施形態の製造方法は、例えば特許文献1に記載のNKTを刺激する樹状細胞を得る方法よりも、精度高くかつ経済的にNKTを刺激する樹状細胞を調製することができる。
【0010】
本発明の別の実施形態は、NKT細胞を刺激する樹状細胞とNKT細胞とを含む細胞組成物の製造方法である。当該製造方法は、
単核球を第1の培養容器に入れ、静置して前記単核球のうちの一部の細胞を容器の底面に定着させる工程と、
容器の底面に定着した細胞以外の浮遊細胞を回収し保存する工程と、
前記第1の培養容器に所定の因子を入れて前記底面に定着した細胞のうちの単球を未成熟樹状細胞に分化させる工程と、
前記第1の培養容器に所定の因子を入れて前記未成熟樹状細胞を成熟させる工程と、
前記第1の培養容器にα-ガラクトシルセラミドを入れて、成熟した樹状細胞から、NKT細胞を刺激する樹状細胞を誘導する工程と、
前記NKT細胞を刺激する樹状細胞と保存しておいた浮遊細胞を第2の培養容器に入れ、培養して、前記浮遊細胞の一部からNKT細胞を誘導する工程と、
を含むことを特徴とする。本実施形態では、培養容器の底面に定着しなかった浮遊細胞を回収し、後の工程で、NKT細胞を刺激する樹状細胞と混合し、培養する。これによって、該浮遊細胞の一部からNKT細胞を誘導することができ、NKT細胞を刺激する樹状細胞と、NKT細胞とを含む細胞組成物を得ることができる。
【0011】
上記実施形態のNKT細胞を刺激する樹状細胞の製造方法は、得られたNKT細胞を刺激する樹状細胞を凍結保存する工程をさらに含んでもよい。また、上記実施形態の細胞組成物の製造方法は、得られた細胞組成物を凍結保存する工程をさらに含んでもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、NKT細胞を刺激する樹状細胞を比較的短期間で、精度高く且つ経済的に提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1の培養実験において、Day0, Day7, Day14にNKT細胞をフローサイトメーターで解析した結果を示す図である。
【
図2】実施例1の培養実験において、Day0, Day7, Day14にNKT細胞をフローサイトメーターで解析した結果を示す図である。
【
図3】実施例1の培養実験において、Day0, Day7, Day14にNKT細胞をフローサイトメーターで解析した結果を示す図である。
【
図4】実施例1の実験群における総細胞数及び生細胞率を示す図である。
【
図5】実施例1の実験群における樹状細胞の分化率を示す図である。
【
図6】実施例2の培養実験において、Day0,凍結前、及び凍結融解後に細胞表面のCD14,CD83,CD86をフローサイトメーターで解析した結果を示す図である 。
【
図7】実施例2の培養実験において、Day0,凍結前、及び凍結融解後に細胞表面のCD14,CD83,CD86をフローサイトメーターで解析した結果を示す図である 。
【
図8】実施例2の培養実験において、Day0,凍結前、及び凍結融解後に細胞表面のCD14,CD83,CD86をフローサイトメーターで解析した結果を示す図である 。
【
図9】実施例2の実験群における凍結前及び解凍洗浄後の総細胞数及び生細胞率を示す図である。
【
図10A】実施例3の培養実験において、Day0にNKT細胞をフローサイトメーターで解析した結果を示す図である。
【
図10B】実施例3の培養実験において、Day2にNKT細胞をフローサイトメーターで解析した結果を示す図である。
【
図10C】実施例3の培養実験において、Day6にNKT細胞をフローサイトメーターで解析した結果を示す図である。
【
図11A】実施例3の培養実験において、Day0にNKT細胞をフローサイトメーターで解析した結果を示す図である。
【
図11B】実施例3の培養実験において、Day2にNKT細胞をフローサイトメーターで解析した結果を示す図である。
【
図11C】実施例3の培養実験において、Day6にNKT細胞をフローサイトメーターで解析した結果を示す図である。
【
図12A】実施例3の培養実験において、Day0にNKT細胞をフローサイトメーターで解析した結果を示す図である。
【
図12B】実施例3の培養実験において、Day2にNKT細胞をフローサイトメーターで解析した結果を示す図である。
【
図12C】実施例3の培養実験において、Day6にNKT細胞をフローサイトメーターで解析した結果を示す図である。
【
図13A】実施例3の培養実験において、Day0に樹状細胞をフローサイトメーターで解析した結果を示す図である。
【
図13B】実施例3の培養実験において、Day6に樹状細胞をフローサイトメーターで解析した結果を示す図である。
【
図14A】実施例3の培養実験において、Day0に樹状細胞をフローサイトメーターで解析した結果を示す図である。
【
図14B】実施例3の培養実験において、Day6に樹状細胞をフローサイトメーターで解析した結果を示す図である。
【
図15A】実施例3の培養実験において、Day0に樹状細胞をフローサイトメーターで解析した結果を示す図である 。
【
図15B】実施例3の培養実験において、Day6に樹状細胞をフローサイトメーターで解析した結果を示す図である 。
【
図16】実施例3の実験群における総細胞数及び生細胞率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態を説明する。実施形態は、先行技術文献や従来公知の技術を援用して適宜設計変更可能である。
【0015】
本発明の製造方法の実施形態では、まず、単核球を培養容器に入れ、静置して単核球の一部の細胞を容器底面に定着させる。ここで、容器の底面に定着した細胞には単球が多く含まれている。このように単球を分離することで、該単球を樹状細胞へ効率よく分化させることができ、最終的にはNKT細胞を刺激する樹状細胞を比較的短期間で効率よく得ることができる。また、本実施形態では、このように単球を分離することから、使用する培地量を少なくすることができ、より低いコストでNKT細胞を刺激する樹状細胞を製造できる。
【0016】
本明細書において、「単核球」とは、リンパ球及び単球を含む細胞集団を意味する。単核球は、末梢血、骨髄、臍帯血等の血液から、遠心分離、フローサイトメトリー等の公知の方法によって得ることができる。また、単核球は、アフェレーシスによってヒトから直接採取することができる。工程を簡略化でき、単核球以外の血液成分を戻すことにより被験者への影響が少ないことから、アフェレーシスによる単核球の入手が好ましい。
【0017】
培養容器には培地が添加される。培地は、単核球の培養に適している公知の培地を使用することができる。例えば、動物細胞の培養に用いられる基本培地(例えば、CELL GRO GMP Serum-free Dendritic Cell Medium (Cell Genix, #20801-0500)等)に、血清、増殖因子、サイトカイン、血清代替品、ビタミン、緩衝剤、無機塩類等の添加剤を適宜添加して得られた培地が使用できる。培地の具体例としては、ALyS505N-0(NIPRO, #1020P10)、AIM-V@Medium CTS(ThermoFisher, #0870112-DK)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
培養容器としては、動物細胞の培養に一般的に用いられる容器であって、細胞を定着させるための底面を有する容器であれば、特に限定されない。培養容器の例としては、特に限定されないが、市販のプレート(AGCテクノグラス、#3810-006)、ディッシュ(CRNING、CellBIND Surface 100mm、#3296)、フラスコ(住友ベークライト、#MS-21050)等が挙げられる。
【0019】
単核球を入れた培養容器を静置し、単核球の一部を容器底面に定着させる時間は、特に限定されないが、例えば、1~12時間、好ましくは2時間であってもよい。静置させる際の温度、雰囲気は、単核球の培養に用いられる条件でよく、培養に通常用いられるインキュベーター等を用いて、条件を設定することができる。例えば、温度は約35~38℃、好ましくは37℃であってもよく、CO2濃度は約1~10%、好ましくは約5%であってもよい。
【0020】
容器底面に定着しなかった浮遊細胞の除去は、通常の方法で行うことができる。例えば吸引によって、浮遊細胞を除去することができる。除去した浮遊細胞は廃棄するか、または保存してもよい。すなわち、本発明の他の実施形態では、容器底面に定着しなかった浮遊細胞を回収し、保存してもよい。例えば、回収した浮遊細胞は、細胞の凍結保存に適した凍結保存液中に懸濁し、凍結保存用の容器に入れた後、-80℃で凍結保存することができる。細胞の凍結保存液の例としては、CP-1(極東製薬、 #324042-3)等が挙げられる。
【0021】
次に、細胞が底面に定着した培養容器に培地と所定の因子を入れて、底面に定着した細胞のうちの単球を未成熟樹状細胞に分化させる。培地は上記で説明したものを使用することができる。単球を未成熟樹状細胞へ分化させるための所定の因子としては、IL-4、GM-CSFが挙げられ、両者を組み合わせて使用するのが好ましい。IL-4を使用する場合、その濃度の範囲は、好ましくは100~1,000 ng/mL、より好ましくは200~800ng/mL、さらにより好ましくは400~600 ng/mLである。GM-CSFを使用する場合、その濃度の範囲は、好ましくは100~1,000 ng/mL、より好ましくは200~800 ng/mL、さらにより好ましくは400~600 ng/mLである。
【0022】
分化のための培養は、上述した培養条件と同じ条件を使用することができ、当業者であれば適宜変更できる。また、培養時間は、単球を未成熟樹状細胞へ分化させるのに十分な時間であればよく、当業者であれば適宜設定できる。例えば、培養時間は、4~6日間、好ましくは5日間である。
【0023】
続いて、培養容器に所定の因子を入れて、未成熟樹状細胞を成熟させる。ここでの所定の因子としては、IL-4、GM-CSF、腫瘍細胞壊死因子α(TNFα)、プロスタグランジン2(PGE2)が挙げられる。これらの因子を組み合わせるのが好ましい。IL-4を使用する場合、その濃度の範囲は、好ましくは100~1,000 ng/mL、より好ましくは200~800 ng/mL、さらにより好ましくは400~600 ng/mLである。GM-CSFを使用する場合、その濃度の範囲は、好ましくは100~1,000 ng/mL、より好ましくは200~800 ng/mL、さらにより好ましくは400~600 ng/mLである。TNF-αを使用する場合、その濃度の範囲は、好ましくは1.0~100 ng/mL、より好ましくは5.0~20 ng/mL、さらにより好ましくは8~12 ng/mLである。PGE2を使用する場合、その濃度の範囲は、好ましくは100~10,000 ng/mL、より好ましくは500~5,000 ng/mL、さらにより好ましくは800~1,200 ng/mLである。
【0024】
成熟のための培養条件は、上述した培養条件と同じ条件を使用することができ、また、当業者であれば適宜変更できる。培養時間は、未成熟樹状細胞が成熟するのに十分な時間であればよく、当業者であれば適宜設定できる。例えば、培養時間は、1~3日間、好ましくは2日間である。
【0025】
次に、培養容器にα-ガラクトシルセラミド(αGalCer)を入れて、成熟した樹状細胞から、NKT細胞を刺激する樹状細胞を誘導する。ここで、「NKT細胞を刺激する樹状細胞」とは、NKT細胞の活性化および増殖を誘導する樹状細胞を指す。該樹状細胞の表面では、CD-1d分子によってα-GalCerが提示されており、NKT細胞がこのα-GalCerを認識することによって、NKT細胞が活性化される。
【0026】
本工程におけるαGalCerの濃度の範囲は、好ましくは10~1,000 ng/mL、より好ましくは20~800 ng/mL、さらにより好ましくは80~120 ng/mLである。
【0027】
本工程において、NKT細胞を刺激する樹状細胞を得るための培養条件は、上述した培養条件と同じ条件を使用することができ、また、当業者であれば適宜変更できる。培養時間は、成熟した樹状細胞を、NKT細胞を刺激する樹状細胞とするのに十分な時間であればよく、当業者であれば適宜設定できる。例えば、培養時間は、0.25~2日間、好ましくは1日間である。
【0028】
他の実施形態では、底面に定着しなかった浮遊細胞を回収し、保存していた場合、上記のようにしてNKT細胞を刺激する樹状細胞を得た後、該樹状細胞と該浮遊細胞とを別の培養容器に入れ培養して、該浮遊細胞の一部からNKT細胞を誘導することができる。ここで、回収した浮遊細胞を凍結保存していた場合、該浮遊細胞を例えば37℃で融解して、該樹状細胞と混合することができる。本実施形態では、NKT細胞を刺激する樹状細胞によって、浮遊細胞の一部がNKT細胞へ分化し、活性化される。それによって、本実施形態では、NKT細胞を刺激する樹状細胞とNKT細胞とを含む細胞組成物を得ることができる。ここで、本明細書において、「細胞組成物」とは、細胞を含む組成物であって、培地、保存液等の細胞以外の成分も含む組成物を意味する。
【0029】
上述した実施形態の製造方法は、得られたNKT細胞を刺激する樹状細胞、または該樹状細胞とNKT細胞とを含む細胞組成物を凍結保存する工程をさらに含むことができる。該樹状細胞または該細胞組成物を凍結保存しても、細胞の生存率と分化マーカーの発現が低下せず、細胞の機能が失われない。このように凍結保存が可能であることから、NKT細胞を刺激する樹状細胞、およびNKT細胞を刺激する細胞とNKT細胞とを含む細胞組成物を安定して提供できる。細胞の凍結保存は、当業者に周知の細胞の凍結保存方法で行うことができる。例えば、細胞を、細胞の凍結に適した公知の保存液に懸濁し、懸濁液を例えば液体窒
素で凍結し、例えば-80℃以下で保存することによって行うことができる。
【0030】
上述した実施形態の製造方法によって得られたNKT細胞を刺激する樹状細胞、および該樹状細胞とNKT細胞とを含む細胞組成物は、免疫賦活化作用や抗がん作用を有する。該樹状細胞または該細胞組成物を医薬として許容される担体と混合することによって、感染症治療またはがん免疫療法に使用する細胞製剤を製造することができる。
【0031】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
本発明者らは、健常者の血液サンプル(ID:NKT001~009)を用いて、下記の通りNKT細胞を刺激する樹状細胞、および該樹状細胞とNKT細胞とを含む細胞組成物の製造を実施した。
【0033】
(材料)
以下の実験で使用した材料は下記の通りである。
・α-GalCer:大阪合成有機化学研究所(大阪合成) Lot No. N-32-A(GMPグレード品)
・GM-CSF:Miltenyi Biotec, #170-076-136
・IL-4:Miltenyi Biotec, #170-076-135
・IL-2:NIPRO, #87890
・Prostaglandin E-2:SIGMA, #P6532-1MG
・TNF-alpha:Miltenyi Biotec, #170-076-103
・培地:ALyS505N-0 (NIPRO, #1020P10)
AIM-V@Medium CTS (ThermoFisher, #0870112-DK)
・抗体:
FITC Mouse IgG1, κ Isotype Control (FC) Catalog # 400114 BioLegend
PE Mouse IgG2a, κ Isotype Control (FC) Catalog # 400214 BioLegend
PE/Cy7 Mouse IgG1, κ Isotype Control (FC) Catalog # 400126 BioLegend
APC/Cy7 Mouse IgG1, κ Isotype Control (FC) Catalog # 400128 BioLegend
Anti-TCR Vα24-FITC Catalog # IM1589 BECKMAN COULTER
Anti-TCR Vβ11-PE Catalog # IM2290 BECKMAN COULTER
PE/Cy7 anti-human CD3 Catalog # 300420 BioLegend
APC/Cy7 anti-human CD56 (NCAM) Catalog # 318332 BioLegend
【0034】
(実施例1)
初日(Day 0)に、まずアフェレーシスにより細胞成分を分離した。その細胞成分をLeucoSepに30mLずつ重層させ、遠心分離(3000 rpm, 20min, r/t, Accel: 1, Decel: 1)を行った。その後に、50mL遠沈管に単核球層を回収して、等量の生理食塩水を加えて懸濁し、遠心分離(1500 rpm, 5min, r/t, Accel: 3, Decel: 2)を行った。AIM-Vを30mL加えて懸濁し、セルストレーナーを使い、細胞凝集塊を除去して、細胞数を計測した。単核球2×107cellsをフローサイトメーター測定用にサンプリング(Day 0用)した。AIM-Vを30mL入れた225cm2浮遊培養用フラスコ6個に播種し、インキュベーター(37℃、5%CO2)内で2時間静置し、非接着細胞を回収した。回収した非接着細胞を遠心分離(1500 rpm, 5min, r/t, Accel: 3, Decel: 3)し、2×108cells/mLになるようにAIM-Vを加えて懸濁して、11.8%ヒト血清アルブミン含有CP-1を等量添加し、フローバッグ(NIPRO)に入れて-80℃に保存した。培地は、ALyS505N-0(NIPRO, #1020P10)を使用した。
【0035】
他方で、フラスコ内の接着細胞にAIM-Vを30mL添加し、フラスコ内のAIM-VにIL-4が500U/mL、GM-CSFが500U/mLになるように添加し、インキュベーター(37℃、5%CO2)内で5日間静置した。
【0036】
培養開始から5日目で、フラスコ内のAIM-VにIL-4が500U/mL、GM-CSFが500U/mL、TNFαが10ng/mL、PGE2が1μg/mLになるように添加し、インキュベーター(37℃、5%CO2)内で1日間静置した。培養開始から6日目で、フラスコ内のAIM-Vにα-GalCerが100ng/mLになるように添加し、さらにインキュベーター(37℃、5%CO2)内で1日間静置した。
【0037】
培養開始から7日目で、各フラスコから浮遊細胞を回収し、遠心分離(1500 rpm, 5min, r/t, Accel: 3, Decel: 3)して、30mLの生理食塩水を加えて懸濁した。さらに、遠心分離(1500 rpm, 5min, r/t, Accel: 3, Decel: 2)を行い、30mLのAlyS505N-0(IL-2 100U/mL含有)を加えて懸濁した。ここで、Day 0で保存した非接着細胞を37℃で融解し、遠心分離(1500 rpm, 5min, r/t, Accel: 3, Decel: 2)を行い、30mLのAlyS505N-0(IL2 100U/mL含有)を加えて懸濁した。それぞれの細胞群は、AlyS505N-0(IL-2 100U/mL含有)1Lバッグを連結管で2つ繋いだバッグ(培地量2L)で播種し、インキュベーター(37℃、5%CO2)内で1日間静置した。播種したバッグからELISA測定用に1mLをサンプリングし、遠心分離(1500 rpm, 5min, r/t, Accel: 3, Decel: 3)した。ここで、2Lバッグで培養した細胞の細胞濃度と生細胞率を計測した。また、2Lバッグで培養した細胞の一部を用いてフローサイトメーターで細胞表面分子を測定した。
【0038】
NKT細胞の確認は、TCR Vα24-FITC or TCR Vα24-PerCP/Cy5.5, TCR Vβ11-PE, CD3-PE/Cy7, CD56-APC or CD56-APC/Cy7で行い、樹状細胞の確認は、CD14-PE, CD83-PE, CD80-PE or CD86-PEで行った。2Lバッグの残りの細胞はさらに1~2週間培養を継続した。継続培養した細胞中のNKT細胞を確認するため、フローサイトメーター解析を行った。
【0039】
フローサイトメーターによる解析結果は、
図1~
図3に示す。
図1~
図3は、3人の健常者(ID:NKT004、NKT005、NKT006)から得られた細胞を用いて同様の試験を行った結果を示す。図中のV
α24とV
β11は、抗原認識に必須な分子であるT細胞受容体(TCR)の2種類のサブユニットであり、
α-GalCerを認識するTCRのサブユニットでもある。これらのサブユニットに夫々特異的に結合する蛍光抗体を検査対象の細胞群と混合した後、フローサイトメーターで解析すると、V
α24を認識する抗体が付着した細胞が横軸方向にシフトして、V
β11を認識する抗体が付着した細胞が縦軸方向にシフトして、蛍光強度が強く検出される。
これらの抗体の両方が結合した細胞があれば、グラフの中央の四角の中にドットして現れる。このドット一つ一つがNKT細胞を示す。記載されている数値(%)は、1解析に使用した全細胞中に占めるNKT細胞の割合である。すべての実験において、培養開始から1週間でNKT細胞の割合が最大となった。
図4は、これらの実験群における細胞の生存率を示す。
図5は、これらの実験群における培養後の樹状細胞の総細胞数、生細胞率、樹状細胞(DC)への分化率を示すものである。
【0040】
図1~
図3、
図5から明らかなように、単核球のうち単球をフラスコ底面に定着させることによって単球を分離し、樹状細胞に分化させることで、培養1週間後に明らかなNKT細胞の増殖(最大で30倍程度)が確認された。2週間後ではNKT細胞率が低下する傾向も確認された。この培養期間では、総細胞数に変化はなく、生細胞率が低下することはなかった(
図4)。
【0041】
(実施例2)
初日(Day 0)に、まずアフェレーシスにより細胞成分を分離した。この細胞成分をLeucoSepに30mLずつ重層し、遠心分離(3000 rpm, 20min, r/t, Accel: 1, Decel: 1)を行い、50mL遠沈管に単核球層を回収した。等量の生理食塩水を加えて懸濁し、遠心分離(1500 rpm, 5min, r/t, Accel: 3, Decel: 2)した後に、AIM-Vを30mL加えて懸濁し、セルストレーナーを使い、細胞凝集塊を除去した。ここで、細胞数を計測し、単核球2×107cellsをフローサイトメーター測定用にサンプリング(Day 0用)した。これらの細胞をCD14, CD83, CD86をフローサイトメーターで測定した。AIM-Vを30mL入れた225cm2浮遊培養用フラスコ6個に播種し、インキュベーター(37℃、5%CO2)内で2時間静置した。その後、非接着細胞を廃棄し、フラスコ内の接着細胞にAIM-Vを30mL添加し、フラスコ内のAIM-VにIL-4が500U/mL、GM-CSFが500U/mLになるように添加して、インキュベーター(37℃、5%CO2)内で5日間静置した。
【0042】
培養開始5日目に、フラスコ内のAIM-VにIL-4が500U/mL、GM-CSFが500U/mL、TNF-αが10ng/mL、PGE2が1μg/mLになるように添加して、インキュベーター(37℃、5%CO2)内で1日間静置した。培養開始6日目には、フラスコ内のAIM-Vにα-GalCerが100ng/mLになるように添加して、インキュベーター(37℃、5%CO2)内で1日間静置した。
【0043】
培養開始7日目に、各フラスコから浮遊細胞を回収して、遠心分離(1500 rpm, 5min, r/t, Accel: 3, Decel: 3)を行い、30mLの生理食塩水を加えて懸濁して、遠心分離(1500 rpm, 5min, r/t, Accel: 3, Decel: 2)した。沈殿の細胞に30mLの生理食塩水を加えて懸濁して、遠心分離(1500 rpm, 5min, r/t, Accel: 3, Decel: 2)して、再度、30mLの生理食塩水を加えて懸濁する同じ操作をさらに2回繰り返した。得られた細胞の懸濁液の一部をサンプリングして細胞濃度と生細胞率を計測した。また、細胞表面のCD14, CD83, CD86をフローサイトメーターで測定した。その後、遠心分離(1500 rpm, 5min, r/t, Accel: 3, Decel: 2)をして、回収した細胞を6mLの凍結保存液(10%DMSO, 90%autoserum)で懸濁し、バイアルに1mLずつ分注し、各バイアルをマイナス80℃で保存した。解凍後に細胞表面のCD14,CD83,CD86をフローサイトメーターで測定した。
【0044】
図6~
図8は、3人の健常者(ID:NKT007、NKT008、NKT009)の細胞について、Day0, 凍結前(分化誘導後)、及び凍結融解後に細胞表面のCD14,CD83,CD86をフローサイトメーターで解析した結果を示す。
図9は、
図6~
図8に対応する実験群における凍結前及び解凍洗浄後の総細胞数と生細胞率を示す。各サンプルにおいて、分化誘導した細胞の凍結前後で表面マーカーに差異はなく、CD14の消失とCD83、CD86の増強が確認された(
図6~8)。また、各サンプルにおいて、凍結前後で生細胞率に変化はなかった(
図9)。
【0045】
(比較例)
非特許文献1に記載の方法を参考に、3人の健常者(ID:NKT001、NKT002、NKT003)より採取した単核球を用いて、以下の実験を行った。初日(Day 0)に、まずアフェレーシスにより細胞成分を分離した。その細胞成分をLeucoSepに30mLずつ重層させ、遠心分離(3000 rpm, 20min, r/t, Accel: 1, Decel: 1)を行った。その後に、50mL遠沈管に単核球層を回収して、等量の生理食塩水を加えて懸濁し、遠心分離(1500 rpm, 5min, r/t, Accel: 3, Decel: 2)を行った。上清除去後、AlyS505N-0 (IL-2 100U/mL含有)を30mL加えて懸濁し、セルストレーナーを使い、細胞凝集塊を除去して、細胞数を計測した。単核球2×107 cellsをフローサイトメーター測定用にサンプリング(Day 0用)した。225cm2浮遊培養用フラスコ4個に各6×107cells/ 60mLになるように播種し、4個のフラスコに以下のように試薬を添加した。
フラスコ1:なし
フラスコ2:800U/mL GM-CSF
フラスコ3:100ng/mL α-GalCer
フラスコ4:800U/mL GM-CSF + 100ng/mL α-GalCer
これらのフラスコは、インキュベーター(37℃、5%CO2)内で静置し、残りの細胞は、AlyS505N-0 (IL-2 100U/mL, GM-CSF 800U/mL, α-GalCer 100ng/mL含有)1Lバッグを連結管で2つ繋いだバッグ(培地量2L)に播種した。播種したバッグは、インキュベーター(37℃、5%CO2)内で6日間静置した。上述したフローサイトメーター測定用細胞の細胞表面分子を実施例1と同様に測定した。
【0046】
培養開始2日目(Day 2)に、各フラスコから培養液20mLを回収し、細胞濃度と生細胞率を計測した。その後、培養液を遠心分離(1500 rpm, 5min, r/t, Accel: 3, Decel: 3)し、さらに1mLサンプリングし、遠心分離(1500 rpm, 5min, r/t, Accel: 3, Decel: 3)した。遠心分離後の細胞は、フローサイトメーターで細胞表面分子を測定した。
【0047】
培養開始6日目(Day 6)に、各フラスコから20mLを回収し、細胞濃度と生細胞率を計測した。その後、培養液を遠心分離(1500 rpm, 5min, r/t, Accel: 3, Decel: 3)し、さらに1mLをサンプリングし、遠心分離(1500 rpm, 5min, r/t, Accel: 3, Decel: 3)した。遠心分離後の細胞は、フローサイトメーターで細胞表面分子を測定した。
【0048】
Day0, Day2, Day6にNKT細胞を、Day0, Day6に樹状細胞をフローサイトメーターで解析した。培養はサイトカイン未添加、GM-CSFのみ、α-GalCerのみ、GM-CSFとα-GalCerを添加する条件で行った。
図10A~
図10C、
図11A~
図11C、
図12A~
図12Cは、それぞれ3人の健常者(ID:NKT001、NKT002、NKT003)について、Day0, Day2, Day6にNKT細胞をフローサイトメーターで解析した結果を示す。
図13A及び
図13B、
図14A及び
図14B、
図15A及び
図15Bは、それぞれ3人の健常者(ID:NKT001、NKT002、NKT003)について、Day0, Day6に樹状細胞をフローサイトメーターで解析した結果を示す。
図16は、これらの実験群における細胞の生存率を示す。
図10C、
図11C、
図12Cに示すように、培養1週間ではNKT細胞の増殖が確認できなかった。この培養期間では総細胞数に変化はなく、生細胞率が低下することはなかった(
図16)。また、
図13B、
図14B、
図15Bに示すように、各実験群において単球が樹状細胞に分化している傾向が認められるものの、明確な結果は得られなかった。
【0049】
以上より、実施例1、2の方法は、比較例の方法と比べて、約1週間という短期間で効率良くNKT細胞を刺激する樹状細胞が得られ、NKT細胞を増殖できることが分かる。また、比較例の方法では、細胞培養バッグでの液体培養であり、実施例1、2の方法よりも、使用する培地量が多い。すなわち、実施例1、2の方法は、比較例の方法よりも使用する培地量が少ない(約10分の1)ため、経済的である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によると、例えばがん免疫療法に用いる、NKT細胞を刺激する樹状細胞、および該樹状細胞とNKT細胞とを含む細胞組成物の製造に有用である。本製造方法によれば、高効率で、安定的且つ経済的な該樹状細胞および該細胞組成物の製造方法が提供でき、産業上有用である。