(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】レーダ装置及びレーダ信号処理方法
(51)【国際特許分類】
G01S 7/292 20060101AFI20240401BHJP
G01S 13/28 20060101ALI20240401BHJP
G01S 13/58 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
G01S7/292 202
G01S13/28 200
G01S13/58 200
G01S13/58 210
(21)【出願番号】P 2020153985
(22)【出願日】2020-09-14
【審査請求日】2023-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 晋一
(72)【発明者】
【氏名】山下 遼
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-257907(JP,A)
【文献】特開2018-100886(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0232590(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単パルスまたは変調したN(N≧1)パルスを用いて送受信し、受信されたパルスをslow-time軸でコヒーレント積分して目標を検出するレーダ装置において、
前記受信されたパルスをfast-time軸でFFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)処理してレンジ周波数軸の信号に変換し、前記レンジ周波数軸に変換された信号の周波数帯域を制限し、それ以外は0埋めして狭帯域レンジ圧縮し、前記狭帯域レンジ圧縮された信号を逆FFT処理し、前記受信されたパルスをslow-time軸でFFT処理し、所定のスレショルドで反射点となるレンジセルRm(m=1~Mt:Mtは仮検出数)を仮検出する仮検出手段と、
前記受信されたパルスを、レンジ周波数の全帯域を用いて広帯域レンジ圧縮し、slow-time軸ではFFT処理前の信号を用いて、前記仮検出手段で仮検出されたレンジセルRmを中心に、Rp(p=1~P、P≧1)セルまたは選定レンジセルRpを通るQ(Q≧1)通りの勾配を持つslow-time軸のNサンプルの積分系列を設定し、前記Nサンプルの積分系列を、レンジ軸で仮検出されたレンジセルRmになるようにレンジウォーク補正してslow-time軸で並べ替え、slow-time軸でFFT処理したP×Q通りの結果が最大となるslow-time軸FFT処理前の積分系列を選定し、前記FFT処理前の信号のうち、レンジRm×ドップラNセルのデータが最大となる積分系列に置き換える処理を繰り返してRDcalデータを生成し、このRDcalデータを用いてslow-time軸のFFT処理を行って目標検出を行う目標検出手段と
を具備するレーダ装置。
【請求項2】
前記目標検出手段は、前記レンジウォーク補正について、レンジシフト量を、レンジ周波数軸の位相勾配で設定する請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記仮検出手段は、前記スレショルドで反射点となるレンジセルRmを仮検出する前に、前記受信されたパルスをslow-time軸でFFT処理して第1のドップラウォーク補正を施し、
前記目標検出手段は、前記slow-time軸FFT処理前の積分系列を選定した後に、第2のドップラウォーク補正を施し、
前記第1及び第2のドップラウォーク補正の少なくとも一方について、所定の加速度範囲の参照信号を生成し、レンジウォーク補正したslow-time軸の信号と相関処理により、相関結果が最大となる加速度を抽出して、slow-time軸の信号を補正する
請求項1記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記仮検出手段は、前記スレショルドで反射点となるレンジセルRmを仮検出する前に、前記受信されたパルスをslow-time軸でFFT処理して第1のドップラウォーク補正を施し、
前記目標検出手段は、前記slow-time軸FFT処理前の積分系列を選定した後に、第2のドップラウォーク補正を施し、
前記第1及び第2のドップラウォーク補正の少なくとも一方について、所定の振幅スレショルドを超えるドップラセルを中心に±Qセルの信号出力を抽出し、ドップラ0にシフトして、それ以外は0埋めした信号を逆FFT処理した結果の共役複素値を補正係数として、slow-time軸の信号を補正する
請求項1記載のレーダ装置。
【請求項5】
単パルスまたは変調したN(N≧1)パルスを用いて送受信し、受信されたパルスをslow-time軸でコヒーレント積分して目標を検出するレーダ信号処理方法において、
前記受信されたパルスをfast-time軸でFFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)処理してレンジ周波数軸の信号に変換し、前記レンジ周波数軸に変換された信号の周波数帯域を制限し、それ以外は0埋めして狭帯域レンジ圧縮し、前記狭帯域レンジ圧縮された信号を逆FFT処理し、前記受信されたパルスをslow-time軸でFFT処理し、所定のスレショルドで反射点となるレンジセルRm(m=1~Mt:Mtは仮検出数)を仮検出し、
前記受信されたパルスを、レンジ周波数の全帯域を用いて広帯域レンジ圧縮し、slow-time軸ではFFT処理前の信号を用いて、前記仮検出されたレンジセルRmを中心に、Rp(p=1~P、P≧1)セルまたは選定レンジセルRpを通るQ(Q≧1)通りの勾配を持つslow-time軸のNサンプルの積分系列を設定し、前記Nサンプルの積分系列を、レンジ軸で仮検出されたレンジセルRmになるようにレンジウォーク補正してslow-time軸で並べ替え、slow-time軸でFFT処理したP×Q通りの結果が最大となるslow-time軸FFT処理前の積分系列を選定し、必要に応じて第2のドップラウォーク補正を施した後、前記FFT処理前の信号のうち、レンジRm×ドップラNセルのデータが最大となる積分系列に置き換える処理を繰り返してRDcalデータを生成し、このRDcalデータを用いてslow-time軸のFFT処理を行って目標検出を行う
レーダ信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、レーダ装置及びレーダ信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレーダ装置では、積分ヒット数が多い場合や、PRI(Pulse Repetition Interval)が長くCPI(Coherent Pulse Interval)が長い長時間積分を行うと、レンジウォークやドップラウォークにより、積分ロスが生じる課題があった。この対策のために、例えば特許文献1及び特許文献2に示される積分系列最大化手法がある。特許文献1に示される積分系列最大化手法は、チャープ帯域全体を利用して、レンジ周波数軸を0埋めによって擬似的に高分解能化し、slow-time軸の積分系列を探索法で最大化する手法である。ただし、この手法は、レンジウォークが大きい場合は、探索法の範囲が増えて処理規模が増大してしまう。また、特許文献2に示される積分系列最大化手法は、速度及び加速度の補正による探索法で積分系列を最大化する手法である。この手法も、やはりレンジウォークが大きい場合は、探索法の範囲が増えて、処理規模が増大してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4881239号明細書
【文献】特許第5025403号明細書
【文献】特許第5072694号明細書
【非特許文献】
【0004】
【文献】SAR(Synthetic Aperture Radar: レンジ圧縮)方式、大内、‘リモートセンシングのための合成開口レーダの基礎’、東京電機大学出版局、pp.131-149(2003)
【文献】CFAR(Constant False Alarm Rate: 定誤警報率)、吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.289-291 (1996)
【文献】PGA(Phase gradient autofocus: 位相勾配オートフォーカス)方式、Charles V.Jakowatz, ‘Spotlight-Mode Synthetic Aperture Radar: A Signal Processing Approach’, Springer, pp.251-256(1996)
【文献】窓関数、武部、‘ディジタルフィルタの設計’、東海大学出版会、pp.62-65(1985)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上述べたように、レーダ装置では、長時間積分を行う場合に、レンジウォークやドップラウォークによって積分ロスが生じるが、長時間積分時の積分ロス対策のために従来の積分系列最大化手法を用いると、レンジウォークが大きい場合に、探索法の範囲が増えて処理規模が増大するという問題があった。
【0006】
本実施形態の課題は、長時間積分時にも、少ない処理規模で、レンジウォーク及びドップラウォークによる積分ロスを低減することのできるレーダ装置及びレーダ信号処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本実施形態に係るレーダ装置は、単パルスまたは変調したN(N≧1)パルスを用いて送受信し、受信されたパルスをslow-time軸でコヒーレント積分して目標を検出するレーダ装置であり、仮検出手段と目標検出手段とを備える。仮検出手段は、前記受信されたパルスをfast-time軸でFFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)処理してレンジ周波数軸の信号に変換し、前記レンジ周波数軸に変換された信号の周波数帯域を制限し、それ以外は0埋めして狭帯域レンジ圧縮し、前記狭帯域レンジ圧縮された信号を逆FFT処理し、前記受信されたパルスをslow-time軸でFFT処理し、所定のスレショルドで反射点となるレンジセルRm(m=1~Mt:Mtは仮検出数)を仮検出する。目標検出手段は、前記受信されたパルスを、レンジ周波数の全帯域を用いて広帯域レンジ圧縮し、slow-time軸ではFFT処理前の信号を用いて、前記仮検出手段で仮検出されたレンジセルRmを中心に、Rp(p=1~P、P≧1)セルまたは選定レンジセルRpを通るQ(Q≧1)通りの勾配を持つslow-time軸のNサンプルの積分系列を設定し、前記Nサンプルの積分系列を、レンジ軸で仮検出されたレンジセルRmになるようにレンジウォーク補正してslow-time軸で並べ替え、slow-time軸でFFT処理したP×Q通りの結果が最大となるslow-time軸FFT処理前の積分系列を選定し、必要に応じて第2のドップラウォーク補正を施した後、前記FFT処理前の信号のうち、レンジRm×ドップラNセルのデータが最大となる積分系列に置き換える処理を繰り返してRDcalデータを生成し、このRDcalデータを用いてslow-time軸のFFT処理を行って目標検出を行う。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係るレーダ装置の送受信系統の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態において、送受信処理の流れを示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、第1の実施形態において、狭帯域レンジ圧縮の処理例を示す図である。
【
図4】
図4は、第1の実施形態において、広帯域レンジ圧縮の処理例を示す図である。
【
図5】
図5は、第1の実施形態において、レンジウォーク補正の処理例を示す図である。
【
図6】
図6は、第2の実施形態において、送受信処理の流れを示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、第2の実施形態において、レンジウォーク補正のレンジ周波数軸シフト処理例を示す図である。
【
図8】
図8は、第3の実施形態において、ドップラウォーク補正の相関処理加速度サーチ法による送受信処理の流れを示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、第3の実施形態において、ドップラウォーク補正の相関処理加速度サーチ法の処理例を示す図である。
【
図10】
図10は、第3の実施形態において、ドップラウォーク補正の相関処理加速度サーチ法の処理例を示す図である。
【
図11】
図11は、第4の実施形態において、ドップラウォーク補正のPGA方式による送受信処理の流れを示すフローチャートである。
【
図12】
図12は、第4の実施形態において、ドップラウォーク補正のPGA方式の処理例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、PRI(Pulse Repetition Interval)間隔で送信したパルス毎に、PRI内のレンジセル単位でデータを取得し、この取得データを用いて長時間積分処理を実施する長時間積分方式を採用するレーダ装置に適用した場合である。
【0010】
(第1の実施形態)
図1乃至
図5を参照して、第1の実施形態を説明する。
【0011】
図1は、第1の実施形態に係るレーダ装置の送受信系統の構成を示すブロック図で、(a)は送信系統、(b)の受信系統を示している。
図1において、送信系統(a)では、信号生成部11で送信種信号を生成し、変調器12で送信種信号から変調信号を生成し、周波数変換器13で変調信号を高周波信号に変換した後、パルス変調器14でパルス変調(パルス圧縮)して、送信アンテナ5からN(N≧2)ヒットのパルスを送信する。
【0012】
受信系統(b)では、受信アンテナ21で送信パルスの反射信号を受信し、周波数変換器22で受信信号を周波数変換し、AD変換器23でディジタル信号に変換し、2系統に分配する。
【0013】
一方の系統では、狭帯域レンジ圧縮器24で、AD変換されたディジタル信号を、帯域制限した狭帯域でパルス圧縮(レンジ圧縮)し、slow-time FFT25でslow-time軸(NヒットのPRI軸)のFFT処理を施して、仮検出器26でCFAR(Constant False Alarm Rate: 定誤警報率)等による反射点の仮検出を行う。
【0014】
他方の系統では、広帯域レンジ圧縮器27で、AD変換されたディジタル信号を、送信したチャープ帯域で広帯域レンジ圧縮し、仮検出器26で仮検出された反射点を元に、レンジウォーク補正器28でレンジウォーク補正を施し、更にドップラウォーク補正器29でドップラウォーク補正を施して、検出器2AでCFAR等による目標検出を行い、目標情報を得る。
【0015】
図2は、第1の実施形態において、送受信処理全体の流れを示すフローチャートである。
図2において、レーダの稼働が開始されると、広帯域信号によるNヒットのパルスを送受信し(S11)、受信信号をfast-time軸で狭帯域圧縮し(S12)、観測目標が大きな加速度を持ち、短時間に速度変化するような高機動目標である等の事前情報がある場合には、高いSN(信号対雑音電力比)を確保する等の目的で、必要に応じてドップラウォーク補正1を施し(S13)、CFAR等による反射点の仮検出を行う(S14)。続いて、fast-time軸の広帯域圧縮処理をslow-time軸のFFT処理前の信号について行い(S15)、積分系列探索法によりslow-time軸圧縮結果の最大系列を抽出し(S16)、積分系列シフトによるレンジウォーク補正(slow-time軸のFFT処理前の信号)を施し(S17)、仮検出数が規定数となったか判断し(S18)、規定数に達しない場合には、仮検出範囲を設定して(S19)、仮検出数が規定数となるまでステップS16及びステップS17の処理を繰り返す。仮検出数が規定数に達した後、高機動目標等の事前情報等がある場合には、必要に応じてドップラウォーク補正2を施し(S1A)、CFAR等による目標検出を行う(S1B)。
【0016】
上記送受信処理において、まず、
図3を参照して、狭帯域レンジ圧縮について説明する(非特許文献1参照)。
【0017】
レンジ圧縮は、入力信号とレンジ圧縮用信号の相関処理であり、これを周波数領域で行う場合について定式化すると、以下のようになる。
【0018】
まず、
図3(a1)の入力信号(パルス)Sinと
図3(b1)の参照信号Srefをそれぞれfast-time軸でFFT処理すると、それぞれ
図3(a2)、
図3(b2)に示すようになり、次式で表される。
【0019】
【0020】
【数2】
続いて、それぞれ帯域制限すると、
図3(a3)、
図3(b3)に示すようになり、次式で表される。
【0021】
【0022】
【数4】
帯域制限した入力信号Sin_nと参照信号Sref_nを共役乗算すると、
図3(c)に示すようになり、次式で表される。
【0023】
【数5】
時間軸上の信号に変換するには、この共役乗算結果sを逆フーリエ変換すればよい。この場合、
図3(d)に示すようになり、次式で表される。
【0024】
【数6】
以上により、狭帯域レンジ圧縮と広帯域レンジ圧縮のレンジセルの分解能を同じにすることができ、狭帯域レンジ圧縮で仮検出したセルをそのまま広帯域レンジ圧縮に対応させることができる。
【0025】
次に、
図4を参照して、広帯域レンジ圧縮について説明する。
【0026】
まず、
図4(a1)の入力信号(パルス)Sinと
図4(b1)の参照信号Srefをそれぞれfast-time軸でFFT処理すると、それぞれ
図4(a2)、
図4(b2)に示すようになり、次式で表される。
【0027】
【0028】
【数8】
続いて、入力信号Sinと参照信号Srefを共役乗算すると、
図4(c)に示すようになり、次式で表される。
【0029】
【数9】
時間軸上に変換するには、この共役乗算結果sを逆フーリエ変換すればよい。この場合、
図4(d)に示すようになり、次式で表される。
【0030】
【数10】
次に、
図5を参照して、レンジウォーク補正について説明する。
【0031】
まず、
図5(a)に示すように、狭帯域パルス圧縮された狭帯域レンジ圧縮結果に対して、CFAR(非特許文献2参照)により反射点を仮検出し、仮検出毎にレンジセルを抽出して、仮検出セルRm(m=1~Mt:Mtは仮検出数)を得る。
【0032】
次に、
図5(b)に示すように、広帯域レンジ圧縮し、slow-time軸はFFT処理前の信号(RDwide)を用いて、仮検出したRmセルを中心に、Rp(p=1~P、P≧1)セル、また、選定レンジセルRpを通るQ(Q≧1)通りの勾配を持つslow-time軸のNセルの積分系列(Rm11~RmPQ通り)を設定し、
図5(c)に示すように、積分系列のレンジシフトにより、各積分系列を、レンジ軸でRmセルになるようにレンジウォーク補正して、slow-time軸で並べ替える。この系列を、
図5(d)に示すように、slow-time軸でFFT処理したP×Q通りの結果の最大値が最大となる積分系列(slow-time軸FFT処理前)を選定する。更に、必要に応じてドップラウォーク補正2をした後、
図5(e)に示すように、RDwideのうち、レンジRm×ドップラNセルのデータを最大となる積分系列に置き換える処理をMtセル分繰り返して、RDcalデータを得る。このRDcalデータを用いて、slow-time軸FFT処理して、CFARにより目標検出を行うことで、
図5(f)に示すように誤検出を抑圧し、正しい検出セルのみを取得する。
【0033】
以上のように、本実施形態に係るレーダ装置では、単パルスまたは変調したN(N≧1)パルスを用いて、slow-time軸でコヒーレント積分処理する場合に、fast-time軸でFFT処理して、レンジ周波数軸に変換した後、レンジ周波数を制限し、それ以外は0埋めした信号を逆FFT処理(狭帯域レンジ圧縮)し、更にslow-time軸でFFT処理した結果を用いて、必要に応じてドップラウォーク補正1を施し、所定のスレショルドでCFAR処理して仮検出して、レンジセルRm(m=1~Mt:Mtは仮検出数)を得る。次に、レンジ周波数の全帯域を用いて、広帯域レンジ圧縮し、slow-time軸でFFT処理前の信号(RDwide)を用いて、仮検出したRmセルを中心に、Rp(p=1~P、P≧1)セル、また、選定レンジセルRpを通るQ(Q≧1)通りの勾配を持つslow-time軸のNサンプルの積分系列(Rm11~RmPQ通り)を設定する。そして、各積分系列を、レンジ軸でRmセルになるようにレンジウォーク補正して、slow-time軸で並べ替えた後に、slow-time軸でFFT処理したP×Q通りの結果の最大値が最大となる積分系列(slow-time軸FFT処理前)を選定し、更に、必要に応じてドップラウォーク補正2を施した後、RDwideのうち、レンジRm×ドップラNセルのデータを最大となる積分系列に置き換える処理をMtセル分繰り返したRDcalデータを用いて、slow-time軸FFT処理してCFARにより目標を検出する。
【0034】
すなわち、狭帯域により、レンジ分解能を低減し、レンジウォークの影響を軽減した上で、CFARにより仮検出し、広帯域のレンジ高分解能データを用いて、仮検出によるサーチ範囲を限定して処理規模を低減した上で、レンジウォーク(速度によるレンジセルずれ)とドップラウォーク(加速度によるドップラセルずれ)を補正して、slow-time軸でFFT処理するようにしているので、仮検出によりサーチ範囲を限定して処理規模を低減した上で、レンジウォーク補正やドップラウォーク補正を行って、高いSNで目標検出処理ができ、誤検出を抑圧しつつ、レンジについて高分解能に目標を検出することができる。
【0035】
(第2の実施形態)
図6乃至
図7を参照して、第2の実施形態を説明する。
【0036】
第1の実施形態では、レンジウォーク補正の手法について述べた。積分系列の候補(Rm11~RmPQ通り)の各々について、レンジウォークを補正するには、slow-time軸のセル毎に、レンジ軸のシフトを補正する必要がある。この際、レンジセル単位でシフト量を決めると、シフト量に量子化誤差が発生し、slow-time軸でFFT処理する際のドップラ軸サイドローブが劣化し、SN(信号対雑音比)も低下し、誤検出が発生する。そこで、本実施形態では、その対策として以下の処理を実行する。
【0037】
図6は第2の実施形態において、送受信処理の流れを示すフローチャート、
図7はレンジウォーク補正のレンジ周波数軸シフト処理例を示す図である。以下、
図6に示す処理フローに従って説明する。
【0038】
まず、
図7(a)に示すレンジ圧縮-slow-time軸のデータを入力し(S21)、
図7(b)に示すようにfast-time軸でFFT処理してレンジ周波数-slow-time軸に変換する(S22)。次に、個々の積分系列(Rm11~RmPQ通り)について、slow-time軸のセル毎にレンジシフト量を算出する(S23)。続いて、slow-time軸のセル毎に、レンジ-シフト量に応じた位相勾配を次式により算出する(S24)。
【0039】
【0040】
【数12】
図7(c)に示すように、slow-time軸のセル毎にレンジ周波数軸に対して位相勾配を設定することでレンジウォークを補正し、slow-time軸のセル毎に、レンジ軸のシフトを補正する(S25)。レンジウォークを補正するには、レンジ周波数軸を逆FFT処理して、レンジ圧縮-slow-time軸の信号を得る(S26)。
【0041】
【数13】
この結果を積分系列毎(Rm11~RmPQ通り)に繰り返して、slow-time軸FFT処理結果が最大となる積分系列を抽出すれば、レンジウォーク補正結果を得ることができる。
【0042】
以上のように、本実施形態に係るレーダ装置では、レンジシフト量をレンジ周波数軸の位相勾配で設定し、レンジウォークをレンジ周波数軸の位相勾配でレンジセル単位以下の高精度に補正して、slow-time軸でFFT処理することで、レンジを高分解能に抽出し、目標を検出できる。
【0043】
(第3の実施形態)
図8乃至
図10を参照して第3の実施形態を説明する。
【0044】
長時間積分の時間に、目標の加速度や、自機の加速度による位相変化(ドップラウォーク)がある場合がある。このようなドップラウォークを補正せずにFFT処理すると、SNが低下してしまい、検出性能が劣化する。そこで、本実施形態では、このドップラウォーク補正について述べる。
【0045】
図8は、第3の実施形態において、ドップラウォーク補正の相関処理加速度サーチ法による送受信処理の流れを示すフローチャート、
図9はドップラウォーク補正の相関処理加速度サーチ法の処理例を示す図、
図10はドップラウォーク補正の相関処理加速度サーチ法による処理例を示す図である。
【0046】
図8において、レンジウォーク補正後のslow-time軸信号を入力し(S31)、slow-time軸のFFT処理によって目標信号を検出し(S32)、slow-time軸の信号から加速度参照信号を生成し(S33)、slow-time軸でFFT処理して参照信号を生成し(S34)、目標信号と参照信号の共役乗算を行い(S35)、逆FFT処理して(S36)、最大値を保存する(S37)。ここで加速度サーチの終了を判断し(S38)、終了でなければ加速度を変更して(S39)、ステップS31の処理に戻り、加速度サーチの終了であれば、各加速度に対する最大値を選定し(S3A)、選定した各加速度により補正してslow-time軸のFFT処理を施し(S3B)、補正後のFFT結果を補正前のレンジ-ドップラデータに置き換える(S3C)。ここで、目標数が規定個数に達したか判断し(S3D)、達していなければ、目標を変更(S3E)し、達していれば、一連の理を終了する。
【0047】
まず、入力信号をFFT処理して、ドップラ軸にする。
【0048】
【0049】
加速度aは観測できないため、観測する対象目標より、
図10(a)に示すように、加速度範囲と加速度変化点を設定して、参照信号のドップラ軸の信号を生成する。加速度としては、
図10(b)に示すように、加速度0(位相変化0)の部分と加速度変化点から位相が変化するケースと、
図10(c)に示すように、加速度による位相が変化した後、加速度変化点から加速度0m/s
2(位相変化0度)になるケースがある。各々のケースにおいて、更に加速度の符号が変化(±)する場合がある。これを定式化すると
図10(b)の場合は次式となる。
【0050】
【数15】
一方、
図10(c)の場合は次式となる。
【0051】
【数16】
したがって、参照信号の周波数軸の信号は次式となる。
【0052】
【数17】
(14)式と(17)式の共役乗算をして、逆FFT処理することにより、パルス圧縮の手法と同様に、時間軸の入力信号と参照信号の相関出力を得ることができる。
【0053】
【数18】
(18)式の最大値が最大となる加速度aを選定すれば、ドップラウォークを補正した信号を得ることができる。この処理により、加速度の値と、slow-time軸の加速度の変化点を含めて補正できる。この加速度参照信号の相関処理による手法は、探索法における時間軸の入力信号と参照信号との相関処理を、各々のFFT処理後の周波数軸の値を乗算した後、IFFT処理により行うため、時間軸のまま相関処理を行う手法に比べて、処理規模を小さくできる手法である。
【0054】
以上のように、本実施形態に係るレーダ装置では、ドップラウォーク補正1または2の少なくとも一方について、所定の加速度範囲の参照信号を生成し、レンジウォーク補正したslow-time軸の信号と相関処理により、相関結果が最大となる加速度を抽出して、slow-time軸の信号を補正する。すなわち、ドップラウォークを、加速度サーチ法で補正した後、slow-time軸でFFT処理するようにしているので、目標を高感度に検出することができる。
【0055】
(第4の実施形態)
図11及び
図12を参照して第4の実施形態を説明する。
【0056】
第3の実施形態では、加速度サーチによる探索法について説明した。本実施形態では、合成開口処理のオートフォーカス手法であるPGA(Phase gradient autofocus, 非特許文献3)と類似の手法(特許文献3)を適用する例について説明する。
【0057】
図11は、第4の実施形態において、ドップラウォーク補正のPGA方式による送受信処理の流れを示すフローチャート、
図12は、ドップラウォーク補正のPGA方式の処理例を示す図である。
【0058】
ドップラウォーク補正のPGA方式による送受信処理では、
図11に示すように、レンジ圧縮-ドップラ軸の結果(レンジ-ドップラデータ)の中で、仮検出されたMt通りの中の1レンジセルについて説明する。その他の仮検出されたレンジセルについても同様の処理を行えばよい。
【0059】
まず、レンジ圧縮-slow-time軸信号を入力し(S41)、仮検出したレンジセルのドップラ軸の信号の中で、所定の振幅スレショルドを超えた極大値(ピーク値)を抽出する(S42)。次に、極大値のドップラ軸に対する位相勾配を除き、加速度による位相ずれのみを抽出するため、極大値をドップラ軸で0周波数にシフトするように、ドップラ軸の信号を並べ替える(S43)。次に、位相ずれの振動成分を取り除き、安定した補正成分を得るために、極大値(0ドップラ)を中心に±R(R≧1)セルに窓関数(非特許文献4参照)を乗算し、窓関数の外側をゼロ埋めした信号s0を生成し(S44)、この信号を次式のように逆FFT処理する(S45)。
【0060】
【数19】
この信号S0(t)の逆特性となる補正量Wc(t)をslow-time軸の信号の補正値とし(S46)、入力信号を補正してFFT処理することにより、ドップラ軸の信号を得る(S47)。
【0061】
【数20】
このFs0(fs)を用いれば、速度や加速度変化によるドップラウォークがある場合でも、高いSNで目標を検出できる。
【0062】
以上のように、本実施形態に係るレーダ装置では、ドップラウォーク補正1または2の少なくとも一方について、所定の振幅スレショルドを超えるドップラセルを中心に±Qセルの信号出力を抽出し、ドップラ0にシフトして、それ以外は0埋めした信号を逆FFT処理した結果の共役複素値を補正係数として、slow-time軸の信号を補正する。すなわち、ドップラウォークを、slow-time軸の位相変化を抽出して、逆補正することで補正した後、slow-time軸でFFT処理するようにしているので、目標を高感度に検出することができる。
【0063】
なお、本発明は上記実施形態をそのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0064】
11…信号生成部、12…変調器、13…周波数変換器、14…パルス変調器、5…送信アンテナ、21…受信アンテナ、22…周波数変換器、23…AD変換器、24…狭帯域レンジ圧縮器、25…slow-time FFT、26…仮検出器、27…広帯域レンジ圧縮器、26…仮検出器、28…レンジウォーク補正器、29…ドップラウォーク補正器、2A…検出器。