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特許7463250減速材温度係数測定システム、減速材温度係数測定方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】減速材温度係数測定システム、減速材温度係数測定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G21C 17/022 20060101AFI20240401BHJP
   G21C 17/00 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
G21C17/022
G21C17/00 300
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020169714
(22)【出願日】2020-10-07
(65)【公開番号】P2022061653
(43)【公開日】2022-04-19
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】大島 拓洋
(72)【発明者】
【氏名】森 健多
(72)【発明者】
【氏名】中野 誠
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-045972(JP,A)
【文献】特開2006-105814(JP,A)
【文献】特開平03-084496(JP,A)
【文献】特開2014-163803(JP,A)
【文献】特開2019-032671(JP,A)
【文献】特開2004-170427(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 17/00-17/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
減速材温度と反応度の時系列データを取得するデータ取得部と、
前記時系列データから、所定の抽出条件に基づいて、前記減速材温度の自然な温度揺らぎによって前記反応度が変化する前記時系列データを抽出するデータ抽出部と、
抽出した前記時系列データから、複数の小期間の前記時系列データを抜き出し、抜き出した複数の前記時系列データのそれぞれについて当該時系列データに基づいて減速材温度係数を算出するMTC処理を実行するMTC処理部と、
複数の前記小期間の前記時系列データのそれぞれについて前記MTC処理を実行することによって算出された複数の前記減速材温度係数に基づいて、最終的な減速材温度係数を決定するMTC決定部と、
を備える減速材温度係数測定システム。
【請求項2】
前記データ抽出部は、(1)制御棒の操作およびホウ酸の希釈・濃縮による反応度の添加が行われていない期間の時系列データであること、(2)制御棒の操作およびホウ酸の希釈・濃縮による反応度の添加が行われた後、一定時間経過後の時系列データであること、の2つの前記抽出条件を満たす前記時系列データを抽出する、
請求項1に記載の減速材温度係数測定システム。
【請求項3】
前記データ取得部は、前記減速材温度係数の測定を目的として意図的に前記減速材温度を変化させる工程が含まれていない炉物理検査中の前記時系列データを取得する、
請求項1または請求項2に記載の減速材温度係数測定システム。
【請求項4】
前記時系列データが測定されたときの一次冷却材のホウ酸濃度と減速材温度係数の測定条件として定められている前記ホウ酸濃度の違いによる前記減速材温度係数の変動を補正する補正部、をさらに備える
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の減速材温度係数測定システム。
【請求項5】
前記MTC決定部は、算出された複数の前記減速材温度係数に基づいて、前記減速材温度係数のヒストグラムを作成し、前記ヒストグラムに基づいて、前記最終的な減速材温度係数を算出する、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の減速材温度係数測定システム。
【請求項6】
前記MTC決定部は、前記ヒストグラムを所定の分布曲線によってフィッティングし、前記分布曲線に基づいて、前記最終的な減速材温度係数を算出する
請求項5に記載の減速材温度係数測定システム。
【請求項7】
前記MTC決定部は、前記分布曲線によるフィッティング結果から所定の範囲を抽出して、第2の所定の分布曲線による再フィッティングを行う、
請求項6に記載の減速材温度係数測定システム。
【請求項8】
前記MTC決定部は、前記再フィッティングをガウス分布曲線によって行い、前記再フィッティングによって得られたガウス分布曲線の平均値を前記最終的な減速材温度係数とする、
請求項7に記載の減速材温度係数測定システム。
【請求項9】
前記MTC処理部は、抜き出した前記時系列データに含まれる各観測点における前記反応度と前記減速材温度の関係を示したグラフに基づいて勾配法により前記減速材温度係数を算出する処理を、前記小期間ごとに行う、
請求項1から請求項8の何れか1項に記載の減速材温度係数測定システム。
【請求項10】
前記MTC処理部は、抜き出した前記時系列データに含まれる前記減速材温度の前記時系列データと前記反応度の前記時系列データのそれぞれに周波数分析を行ってノイズ法により前記減速材温度係数を算出する処理を、前記小期間ごとに行う、
請求項1から請求項9の何れか1項に記載の減速材温度係数測定システム。
【請求項11】
減速材温度と反応度の時系列データを取得し、
前記時系列データから、所定の抽出条件に基づいて、減速材温度の自然な温度揺らぎによって反応度が変化するデータを抽出し、
抽出した前記データから、複数の小期間の前記時系列データを抜き出し、抜き出した複数の前記時系列データのそれぞれについて当該時系列データに基づいて減速材温度係数を算出するMTC処理を実行し、
複数の前記小期間の前記時系列データのそれぞれについて前記MTC処理を実行することによって算出された複数の前記減速材温度係数に基づいて、減速材温度係数を決定する、
減速材温度係数測定方法。
【請求項12】
コンピュータに、
減速材温度と反応度の時系列データを取得し、
前記時系列データから、所定の抽出条件に基づいて、減速材温度の自然な温度揺らぎによって反応度が変化するデータを抽出し、
抽出した前記データから、複数の小期間の前記時系列データを抜き出し、抜き出した複数の前記時系列データのそれぞれについて当該時系列データに基づいて減速材温度係数を算出するMTC処理を実行し、
複数の前記小期間の前記時系列データのそれぞれについて前記MTC処理を実行することによって算出された複数の前記減速材温度係数に基づいて、減速材温度係数を決定する処理、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、減速材温度係数測定システム、減速材温度係数測定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
減速材温度係数(MTC:moderator temperature coefficient;以下、減速材温度係数をMTCと記載する場合がある。)は、原子力プラント固有の安全性を示す指標の1つである。従来、MTCは、炉物理検査中に設けられた、MTC測定用の工程において、意図的に減速材温度を変化させ、その変化中における原子炉の反応度と減速材温度を測定し、この測定結果に基づいてMTCを求めている。例えば、特許文献1には、測定された反応度および減速材温度の関係を示すグラフを作成し、勾配法によってMTCを算出する方法が記載されている。特許文献2には、反応度および減速材温度の時系列データをノイズ法により分析してMTCを算出する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公平04-058913号公報
【文献】特開平03-084496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のMTC測定方法の場合、意図的に減速材温度を変化させるために原子力プラントの系統に対して煩雑な作業が必要であり、また、反応度および減速材温度の測定値を収集するためにMTC測定用の工程に一定の時間を割く必要がある。MTC測定に要する作業負担を軽減し、測定時間を短縮することができるMTCの測定方法が求められている。
【0005】
本開示は、上記課題を解決することができる減速材温度係数測定システム、減速材温度係数測定方法及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の減速材温度係数測定システムは、減速材温度と反応度の時系列データを取得するデータ取得部と、前記時系列データから、所定の抽出条件に基づいて、前記減速材温度の自然な温度揺らぎによって前記反応度が変化する前記時系列データを抽出するデータ抽出部と、抽出した前記時系列データから、複数の小期間の前記時系列データを抜き出し、抜き出した複数の前記時系列データのそれぞれについて当該時系列データに基づいて減速材温度係数を算出するMTC処理を実行するMTC処理部と、複数の前記小期間の前記時系列データのそれぞれについて前記MTC処理を実行することによって算出された複数の前記減速材温度係数に基づいて、最終的な減速材温度係数を決定するMTC決定部と、を備える。
【0007】
本開示の減速材温度係数測定方法は、減速材温度と反応度の時系列データを取得するステップと、前記時系列データから、所定の抽出条件に基づいて、減速材温度の自然な温度揺らぎによって反応度が変化するデータを抽出するステップと、抽出した前記データから、複数の小期間の前記時系列データを抜き出し、抜き出した複数の前記時系列データのそれぞれについて当該時系列データに基づいて減速材温度係数を算出するMTC処理を実行するステップと、複数の前記小期間の前記時系列データのそれぞれについて前記MTC処理を実行することによって算出された複数の前記減速材温度係数に基づいて、減速材温度係数を決定するステップと、を有する。
【0008】
本開示のプログラムは、コンピュータに、減速材温度と反応度の時系列データを取得し、前記時系列データから、所定の抽出条件に基づいて、減速材温度の自然な温度揺らぎによって反応度が変化するデータを抽出し、抽出した前記データから、複数の小期間の前記時系列データを抜き出し、抜き出した複数の前記時系列データのそれぞれについて当該時系列データに基づいて減速材温度係数を算出するMTC処理を実行し、複数の前記小期間の前記時系列データのそれぞれについて前記MTC処理を実行することによって算出された複数の前記減速材温度係数に基づいて、減速材温度係数を決定する処理を実行させる。
【発明の効果】
【0009】
上述の減速材温度係数測定装置、減速材温度係数測定方法及びプログラムによれば、減速材温度の自然な温度揺らぎによって反応度が変化する状況で測定された減速材温度および反応度の時系列データから減速材温度係数を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係るMTC測定システムの一例を示すブロック図である。
図2】炉物理検査中の反応度と減速材温度の推移の一例を示す図である。
図3】実施形態に係る反応度と減速材温度の関係を示す図である。
図4】実施形態に係る小期間について説明する図である。
図5】実施形態に係るMTC測定処理の一例を示すフローチャートである。
図6】実施形態に係る勾配法について説明する図である。
図7】実施形態に係るノイズ法の一例を示すフローチャートである。
図8】実施形態に係る統計処理を説明するための第1のイメージ図である。
図9】実施形態に係る統計処理を説明するための第2のイメージ図である。
図10】実施形態に係るMTC測定システムのハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施形態>
以下、本開示のMTC(減速材温度係数)測定処理について、図1図10を参照して説明する。
(システム構成)
図1は、実施形態に係るMTC測定システムの一例を示すブロック図である。
MTC測定システム10は、炉物理検査実施中の原子力プラント20において、減速材温度の自然な温度揺らぎによって反応度が変化する状況で測定された減速材温度および反応度の時系列データに基づいてMTCを測定する。本実施形態のMTC測定では、意図的に減速材温度を変化させることなく、MTCを測定することができる。
【0012】
MTC測定システム10は、原子力プラント20と通信可能に接続され、炉物理検査中の原子力プラント20からMTC測定に必要なデータを取得し、MTCを測定する。
原子力プラント20は、減速材温度測定系21と、中性子検出器22とを備える。
減速材温度測定系21は、減速材温度(以下、Tavgと記載する場合がある。)を測定し、TavgをMTC測定システム10へ出力する。Tavgは、例えば、原子炉の一次冷却材温度を測定することによって求めることができる。
中性子検出器22は、原子炉の中性子束φを測定し、測定した中性子束φをMTC測定システム10に出力する。
【0013】
MTC測定システム10は、反応度処理装置11と、タイマー12と、データ記録・制御装置13と、データ抽出装置14と、MTC処理装置15と、統計処理装置16と、表示装置17と、オペレータコンソール18と、を備える。これらのうち、反応度処理装置11と、データ記録・制御装置13と、データ抽出装置14と、MTC処理装置15と、統計処理装置16と、オペレータコンソール18は、PCやサーバ端末装置などのコンピュータによって構成される。
【0014】
反応度処理装置11は、中性子検出器22が測定した中性子束φを取得し、反応度を算出する。反応度処理装置11は、反応度をデータ記録・制御装置13へ出力する。
タイマー12は、時間を測定する。
データ記録・制御装置13は、原子力プラント20から取得したデータや、MTC測定システム10にて演算したデータを記録、記憶する。
データ抽出装置14は、炉物理検査全体を通じて測定された反応度の時系列データおよびTavgの時系列データの中から、MTC測定に適した時系列データを抽出する。
【0015】
MTC処理装置15は、MTCを算出する処理であるMTC処理を実行する。MTC処理装置15は、MTC処理部151と、補正部152と、核設計コード153と、を備える。
MTC処理部151は、データ抽出装置14が抽出した反応度およびTavgの時系列データ基づいて、複数回、MTC処理を行い、MTCを複数算出する。より具体的には、データ抽出装置14が抽出した時系列データの中から、所定の小期間(例えば、10分間)分の時系列データを多数抜き出し、各小期間の時系列データを用いてMTCを算出する。つまり、抜き出した小期間の数だけMTCが算出される。
【0016】
補正部152は、MTC処理部151が算出したMTCを補正する。一般にMTCは、制御棒が原子炉から引き抜かれ臨界となったときの一次冷却材のホウ酸濃度において測定された反応度とTavgに基づいて算出されることになっている。炉物理検査中の制御棒の位置は様々で、ホウ酸濃度は変動している。MTCは、ホウ酸濃度の影響を受ける。補正部152は、データ抽出装置14が抽出した時系列データが測定されたときの一次冷却材のホウ酸濃度が、制御棒が引き抜かれ臨界となったときの一次冷却材のホウ酸濃度から乖離することがMTCに与える影響を考慮し、ホウ酸濃度の違いによるMTCの変動を補正する。補正部152は、核設計コード153を用いて、MTC処理部151が算出したMTCを、制御棒が原子炉から引き抜かれ臨界となったときのホウ酸濃度におけるMTCに補正する。
【0017】
核設計コード153は、炉心解析を行うためのプログラムおよびデータである。核設計コード153は、ホウ酸濃度と制御棒の位置を入力すると、その状況でTavgが変化した場合の反応度の変化量を演算する。その結果を用いると、MTCの値を演算することができる。また、核設計コード153は、制御棒が引き抜かれ臨界となったときのMTCの値を演算することができる。
【0018】
統計処理装置16は、MTC処理装置15が算出した複数のMTCを取得し、統計処理を行って、最終的なMTCの値を決定する。
表示装置17は、最終的なMTCの値などを表示するディスプレイである。
オペレータコンソール18は、オペレータが、MTC測定の実行指示をMTC測定システム10へ指示するために用いられる端末装置である。
【0019】
(MTC測定処理の概要)
次に図2を用いて本実施形態のMTC測定処理について、その概要を説明する。
図2に示すのは、従来の炉物理検査中の反応度とTavgの推移の一例である。
炉物理検査は、法律等の要請により、原子炉を起動した際に実施される。グラフ200は、炉御物理検査中の反応度の変動を示し、グラフ201は、炉御物理検査中のTavgの変動を示す。一般的な炉物理検査は工程1~5を含む。工程4は、MTC測定のための工程である。工程4では、主蒸気逃し弁等の操作によって、Tavgを意図的に1℃程度変化させる。図示するように、Tavgの変動により、反応度が変動する。Tavgを上昇させると、反応度は低下する。従来は、工程4の間に所定の時間間隔でTavgと反応度を測定し、測定したTavgの時系列データと反応度の時系列データを用いて、勾配法やノイズ法によって、MTCを算出する。工程4には、一定の時間(例えば、2時間)を要し、Tavgを変化させるための作業(主蒸気逃し弁等の操作)は煩雑なものである。これに対し、本実施形態では、工程4を省き、Tavgを意図的に変化させること無く、炉物理検査中の自然なTavgの揺らぎによって反応度が変化するような期間に測定されたTavgおよび反応度の時系列データを用いてMTCを算出する。これにより、炉物理検査の時間を短縮化し、主蒸気逃し弁等の煩雑な操作を省くことにより、オペレータの負担を軽減する。
【0020】
Tavgの自然な温度揺らぎによって反応度が変化する期間を図2に破線で囲った枠で示す。期間202~211は、Tavgの自然な温度揺らぎによって反応度が変化する期間であり、Tavgには意図的な変化が加えられていない。本実施形態では、これらの期間に計測されたTavgおよび反応度の時系列データを用いてMTCを算出する。例えば、期間202~211の一部は炉物理検査における待機時間である。MTCは、以下の式(1)で算出することができる。
MTC(pcm/℃)=Δ反応度÷ΔTavg ・・・(1)
式(1)から、MTCの測定には、Tavgの温度変化以外の要因で、反応度が変化することが無い状態でのTavgおよび反応度の測定値が必要であることが分かる。工程1~3および工程5の一部では、制御棒の操作等により、一次冷却材のホウ酸濃度が変動し、ホウ酸濃度の変動が反応度に影響を与える。つまり、工程1~3および工程5の一部の期間は、Tavg以外にホウ酸濃度の変動が反応度に影響を与えるため、この期間に測定されたTavgおよび反応度によって、Tavgの変化と反応度の変化の関係を求めることは難しい。すなわち、工程1~3、工程5の一部およびその影響が残る直後の期間に測定されたTavgおよび反応度はMTC測定に適さない。従って、本実施形態では、炉物理検査全体の中からMTC測定に適さない期間を除いた、期間202~211に測定されたTavgおよび反応度を用いてMTCを算出する。
【0021】
図2に示すように期間202~211において、Tavgおよび反応度には大きな変化がない。図3に本実施形態のMTC測定期間における反応度とTavgの推移の一例(拡大図)を示す。上記の工程4では、Tavgを1℃程度変化させるのに対し、本実施形態で使用する期間202~211におけるTavgの変化は、例えば、0.05℃~0.2℃程度である。Tavgおよび反応度の測定にはノイズが含まれる可能性があるが、工程4に比べ、期間202~211でのTavgおよび反応度の変化が小さい為、式(1)によるMTCの算出結果は、工程4で測定されたTavgおよび反応度からMTCを算出する場合に比べ、ノイズの影響を受けやすい。そこで、本実施形態では、期間202~211のそれぞれから連続する小期間を多数抜き出し、それぞれの小期間で測定されたTavgおよび反応度の時系列データを用いてMTCを算出する。この様子を図4に示す。図4に期間202から抽出される小期間202-1~202-6の一例を示す。小期間202-1~202-6の長さは、それぞれ10分間程度である。例えば、期間202の最初の観測点から10分間を小期間202-1、2番目の観測点から10分間を小期間202-2、・・・のように小期間の始点を順番に1つずつ後方にずらし、多数の小期間を抽出する。最後の小期間202-6では、その小期間に含まれる最後の観測点が期間202の終端と一致する。期間203~211についても同様に多数の小期間を抽出する。このように小期間を多数抽出し、小期間ごとにMTCを算出することで、多数のMTCを得ることができる。そして、多数算出されたMTCに基づいて、最終的なMTCを決定する。例えば、多数のMTCの平均を最終的なMTCとしてもよい。多数のMTCを用いることで、測定時のノイズの影響を低減し、精度を向上させる。次に図5を参照して本実施形態のMTC測定処理についてより詳細に説明する。
【0022】
(動作)
図5は、実施形態に係るMTC測定処理の一例を示すフローチャートである。
まず、オペレータが、オペレータコンソール18に、MTC測定処理の開始を指示する操作を行う。すると、データ記録・制御装置13が、炉物理検査の実行中に、減速材温度測定系21からTavgの時系列データを取得し、反応度処理装置11から反応度の時系列データを取得する(ステップS1)。具体的には、データ記録・制御装置13は、減速材温度測定系21から取得したTavgを、その時にタイマー12が測定している時刻と対応付けて記憶し(Tavgの時系列データ)、反応度についても、反応度処理装置11から取得した反応度を、その時にタイマー12が測定している時刻と対応付けて記憶する(反応度の時系列データ)。データ記録・制御装置13は、これらの時系列データを記憶する。また、データ記録・制御装置13は、原子力プラント20から制御棒の位置と一次冷却水材のホウ酸濃度の情報を所定の時間間隔で取得し、その時にタイマー12が測定している時刻と対応付けて記憶する(制御棒とホウ酸濃度の時系列データ)。データ記録・制御装置13によるTavg、反応度および制御棒とホウ酸濃度の時系列データの取得は、炉物理検査全体を通じて行われる。なお、炉物理検査には、図2の工程4は含まれていない。
【0023】
次に、データ抽出装置14が、Tavgの自然な温度揺らぎによって反応度が変化するデータを抽出する。データ抽出装置14は、データ記録・制御装置13が記憶するTavgの時系列データ、反応度の時系列データ、制御棒およびホウ酸濃度の時系列データに基づいて、以下の2つの条件を満たす期間におけるTavgの時系列データと反応度の時系列データを抽出する。
(条件1)制御棒の操作およびホウ酸の希釈・濃縮による反応度の添加が行われていない期間であること。
(条件2)制御棒の操作およびホウ酸の希釈・濃縮による反応度の添加が行われた後、一定時間経過後の期間であること(制御棒の操作が行われてから60秒経過後、ホウ酸の希釈・濃縮が行われてから30分経過後)
条件1と条件2を満たす期間とは、例えば、図2の期間202~211である。データ抽出装置14は、抽出したTavgの時系列データと反応度の時系列データをMTC処理装置15へ出力する。
【0024】
次に、MTC処理装置15のMTC処理部151が、MTC処理を実行する(ステップS3)。MTC処理とは、MTCを算出する処理である。MTC処理には、例えば、(A)勾配法と、(B)ノイズ法が存在する。MTC処理部151は、勾配法またはノイズ法を複数回(小期間の数だけ)実行し、多数のMTCを算出する。勾配法およびノイズ法自体は公知であるが、以下に、図2の期間202~211、図4の小期間202-1~202-6を例として、(A)勾配法と、(B)ノイズ法によってMTCを算出する処理について説明する。
【0025】
(A)勾配法の場合
MTC処理部151は、まず、期間202~211のそれぞれから小期間を抽出する。例えば、期間202について、小期間202-1~202-6を抽出する。例えば、1つの小期間は10分間であり、10分間の中に296点の観測点が含まれている。つまり、1つの小期間には、296個のTavgの測定値と、296個の反応度の測定値が含まれている。各Tavgの測定値と各反応度の測定値は同時刻に測定されたものである。MTC処理部151は、図6に示すように、同時刻に測定されたTavgと反応度を示す点を、横軸をTavgとし、縦軸を反応度とする座標空間にプロットする。MTC処理部151は、1つの小期間に含まれる296個の点を座標空間にプロットする。図6の点P1~P4はその一部である。次にMTC処理部151は、296個の各点と直線Lとの距離の和が最小となるような直線Lを算出する。次にMTC処理部151は、直線Lの傾きを算出する。算出した直線Lの傾きが、この小期間の時系列データに基づくMTCである。MTC処理部151は、期間202~211から抽出した小期間の各々について、同様の手順でMTCを算出する。
【0026】
(B)ノイズ法の場合
図7にノイズ法の手順を示す。まず、MTC処理部151は、Tavgの時系列データと反応度の時系列データを複数セット作成する(ステップS11)。MTC処理部151は、期間202~211のそれぞれから小期間を抽出する。例えば、1つの小期間は10分間であり、10分間の中に296点の観測点が含まれている。MTC処理部151は、296点の観測点のうち最初の観測点から256個の観測点を抽出する。次にMTC処理部151は、296点の観測点のうち2番目の観測点から256個の観測点を抽出する。以降も、MTC処理部151は、始点となる観測点を1つずつずらしながら256個の観測点を抽出するという処理を、256個目の観測点が296点の観測点の最後の観測点と一致するまで繰り返す。MTC処理部151は、この処理をTavgの時系列データと反応度の時系列データのそれぞれに対して行う。これにより1つの小期間から40個のTavg時系列データと40個の反応度時系列データが抽出できる。MTC処理部151は、期間202~211から抽出した全ての小期間について同様の処理を行う。次にMTC処理部151は、それぞれの時系列データを周波数分析する(ステップS12)。MTC処理部151は、フーリエ変換により、全てのTavg時系列データと反応度時系列データを周波数別に分解する。MTC処理部151は、1つの小期間について、データ個数(40個)分の周波数別のTavg時系列データを周波数別に平均する。MTC処理部151は、1つの小期間について、データ個数(40個)分の周波数別の反応度時系列データを周波数別に平均する。
【0027】
次にMTC処理部151は、周波数別のTavgの時系列データ(平均)と反応度の時系列データ(平均)を用いてMTCとコヒーレンスを算出する(ステップS13)。ここで、周波数をω1、TagvをT、反応度をρとすると、MTC(ω1)=T(ω1)÷ρ(ω1)である。MTC処理部151は、周波数別にMTC(ωX)を算出する(X=1~周波数別に分割した数)。また、コヒーレンスは、Tavgと反応度の相関強さを示す指標であり、MTC処理部151は、所定の方法により、周波数別にコヒーレンスを算出する。
【0028】
次にMTC処理部151は、コヒーレンスの値が閾値以上のデータを抽出する(ステップS14)。例えば、MTC処理部151は、周波数別のTavg時系列データと反応度時系列データのうち、コヒーレンスが0.95以上となるデータを抽出する。
次にMTC処理部151は、抽出したデータに基づく周波数別のMTCの平均値を算出する(ステップS15)。これにより、1つの小期間につき、40個に分割したデータから1つのMTCを求める。MTC処理部151は、期間202~211のそれぞれから抽出した小期間ごとに上記の処理を行って、MTCを算出する。
【0029】
以上説明したように、ステップS3の処理によって、(A)勾配法の場合でも、(B)ノイズ法の場合でも、抽出した小期間の数だけMTCが算出される。なお、MTC測定の精度の観点からは、抽出される小期間の数は多い程、好ましい。
【0030】
図5に戻る。次に補正部152が、核設計コード153を用いてホウ素濃度の違いによるMTC変動を補正する(ステップS4)。1次冷却材のホウ酸濃度は、MTCの値に大きく影響する。MTCは、制御棒を全引き抜きし、原子炉が臨界になったときのホウ酸濃度におけるTavgと反応度から算出することが定められている。これに対し、炉物理検査中に測定されたTavgと反応度は、制御棒を全引き抜きし、原子炉が臨界になったときのホウ酸濃度の条件下で測定されたものとは限らない。そこで、ステップS4では、MTC処理部151が算出した小期間ごとのMTCの値を、上記の条件下におけるMTCの値の補正する処理を行う。具体的には、補正部152は、算出されたMTCに対応する小期間における制御棒の位置と1次冷却材のホウ酸濃度とを核設計コード153に入力し、そのホウ酸濃度におけるMTCの値を核設計コード153に演算させる。このときのMTCの演算値をα1とする。次に補正部152は、制御棒を全引き抜きし、原子炉が臨界になったときのホウ酸濃度におけるMTCの値を、核設計コード153に演算させる。このときのMTCの演算値をα2とする。補正部152は、核設計コード153から、演算値α1,α2を取得し、演算値α1と演算値α2の差分を演算する。補正部152は、MTC処理部151が算出したMTCに演算値α1と演算値α2の差分を加算する。これにより、MTC処理部151が算出したMTCの値が、上記の条件下におけるMTCの値に補正される。補正部152は、小期間ごとに算出されたMTCの全てについて、この補正処理を行う。MTC処理装置15は、補正後の全てのMTCをデータ記録・制御装置13に出力する。データ記録・制御装置13は、補正後の全てのMTCを記憶する。
【0031】
次に統計処理装置16が、データ記録・制御装置13から補正後のMTCを取得して、MTCのヒストグラムを作成し、ガウス分布によるフィッティングを実行する(ステップS5)。統計処理装置16が作成したヒストグラムのイメージを図8に示す。図8のヒストグラムの縦軸は算出されたMTC処理結果の数、横軸はMTC処理結果(pcm/℃)を示す。例えば、統計処理装置16は、-100~+100(pcm/℃)の範囲でMTC処理結果のヒストグラムを作成する。図8のヒストグラムは、補正後のMTCの分布を示す。L1はガウス分布によるフィッティング結果の分布曲線を示す。例えば、統計処理装置16は、標準偏差σが最も小さくなるように平均値mと標準偏差σを定める。
【0032】
次に統計処理装置16は、フィッティング結果から所定範囲のデータを抽出する(ステップS6)。例えば、統計処理装置16は、MTCの値がガウス分布の±1σの範囲に収まるデータだけを残して、残りのデータを除去する。図8の例の場合、統計処理装置16は、補正後のMTCの値がv1~v8、v14~v16となるデータを除去する。抽出後のデータによるヒストグラムのイメージを図9に示す。
【0033】
なお、データの抽出方法は、他の方法であってもよい。例えば、ヒストグラムが示すMTCの分布に応じて、±2σの範囲に収まるデータだけを残して、残りのデータを除去してもよいし、図8の破線Nで囲った領域のように、MTCの数が分布曲線L1よりも大きくなったデータを除去し、残ったデータ(v8~v16)を抽出するといった方法であってもよい。
【0034】
次に統計処理装置16は、抽出したデータに対し、再度フィッティングを実行する(ステップS7)。例えば、統計処理装置16は、抽出したv9~v13のデータに基づくヒストグラムに対し、標準偏差σが最も小さくなるようにガウス分布によるフィッティングを行う。このフィッティング結果を図9の分布曲線L2に示す。あるいは、統計処理装置16は、ヒストグラムのデータ個数を考慮して、2σの範囲にヒストグラムの両端が包絡されるようにフィッティングを行ってもよい。両端を包絡する場合のフィッティング結果を分布曲線L3に示す。統計処理装置16は、フィッティング結果のガウス分布の平均値を最終的なMTCとして決定する。図9の例では、統計処理装置16は、分布曲線L3の平均値m1を、最終的なMTCとして決定している。これにより、炉物理検査全体を通じて採取した長時間の時系列データから抜き出した小期間ごとに算出された多数のMTCを用いて、精度の良い最終的なMTCを算出することができる。
【0035】
なお、図5のフローチャートでは、ヒストグラムを作成し、ガウス分布によるフィッティングを繰り返し行って、平均値を最終的なMTCとして決定することとしたが、統計処理装置16は、単順にステップS4までに算出されたMTCの平均値を計算して、この平均値を最終的なMTCとして決定してもよい。また、フィッティングの回数は3回以上であってもよいし、ガウス分布によるフィッティングを1回だけ行って平均値mを最終的なMTCとして決定してもよい。また、統計処理装置16は、ヒストグラムの中から最も出現回数が多いMTCの値を、最終的なMTCに決定してもよい。
【0036】
一般に、MTCの測定は、炉物理検査にMTC測定用の工程を設け、その工程の中で行われることが多い。この工程には、数時間を要し、MTC測定用のデータを収集するためには、原子力プラントに対し、煩雑な作業が必要とされている。これに対し、本実施形態によれば、炉物理検査中に収集されたTavgおよび反応度の時系列データの中からTavgの自然な揺らぎによってのみ反応度が変動するデータをMTC測定用データとして抜き出し、更に炉物理検査の全範囲にわたって分散して存在する複数のMTC測定用データのそれぞれから、MTC測定に必要な量のデータが含まれる小期間の時系列データを多数抽出し、小期間ごとにMTCを算出して多数のMTCを得る。そして、多数のMTCに基づいて、最終的なMTCを決定する。これにより、炉物理検査にMTC測定用の工程を設けることなく、MTCを測定することができる。MTC測定用の工程を設ける必要がないため、意図的にTavgを変化させるための煩雑な作業を省略することができる。また、炉物理検査の時間を短縮することができる。
【0037】
図10は、実施形態に係るMTC測定システムのハードウェア構成の一例を示す図である。
コンピュータ900は、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、入出力インタフェース904、通信インタフェース905を備える。
上述の反応度処理装置11と、データ記録・制御装置13と、データ抽出装置14と、MTC処理装置15と、統計処理装置16と、オペレータコンソール18は、コンピュータ900に実装される。そして、上述した各機能は、プログラムの形式で補助記憶装置903に記憶されている。CPU901は、プログラムを補助記憶装置903から読み出して主記憶装置902に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU901は、プログラムに従って、記憶領域を主記憶装置902に確保する。また、CPU901は、プログラムに従って、処理中のデータを記憶する記憶領域を補助記憶装置903に確保する。
【0038】
なお、反応度処理装置11と、データ記録・制御装置13と、データ抽出装置14と、MTC処理装置15と、統計処理装置16と、オペレータコンソール18の全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各機能部による処理を行ってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、CD、DVD、USB等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ900に配信される場合、配信を受けたコンピュータ900が当該プログラムを主記憶装置902に展開し、上記処理を実行しても良い。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0039】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0040】
<付記>
各実施形態に記載の減速材温度係数測定システム、減速材温度係数測定方法及びプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0041】
(1)第1の態様に係る減速材温度係数測定システム(MTC測定システム10)は、減速材温度と反応度の時系列データを取得するデータ取得部(データ記録・制御装置13)と、前記時系列データから、所定の抽出条件に基づいて、前記減速材温度の自然な温度揺らぎによって前記反応度が変化する前記時系列データを抽出するデータ抽出部(データ抽出装置14)と、抽出した前記時系列データに基づいて減速材温度係数を算出するMTC処理を複数回実行するMTC処理部(MTC処理装置15、MTC処理部151)と、前記MTC処理を複数回実行することによって算出された複数の前記減速材温度係数に基づいて、最終的な減速材温度係数を決定するMTC決定部(統計処理装置16)と、を備える。
【0042】
減速材温度の時系列データと反応度の時系列データから、MTC測定に必要な減速材温度の自然な温度揺らぎによって反応度が変化する時系列データを抽出し、MTCを算出することができる。これにより、炉物理検査にMTC測定用の工程を設ける必要がなくなり、炉物理検査の時間を短縮化し、省力化することができる。
MTC処理を複数回実行することにより、MTCを多数算出し、多数のMTCに基づいて最終的なMTCを決定することができる。これにより、減速材温度の自然な温度揺らぎによって反応度が変化する時系列データを用いることによる精度の低下を補償し、高精度にMTCを測定することができる。
【0043】
(2)第2の態様に係る減速材温度係数測定システム(MTC測定システム10)は、(1)の減速材温度係数測定システムであって、前記データ抽出部(データ抽出装置14)は、(1)制御棒の操作およびホウ酸の希釈・濃縮による反応度の添加が行われていない期間の時系列データであること、(2)制御棒の操作およびホウ酸の希釈・濃縮による反応度の添加が行われた後、一定時間経過後の時系列データであること、の2つの前記抽出条件を満たす前記時系列データを抽出する。
これにより、減速材温度の自然な温度揺らぎによって反応度が変化する時系列データを抽出することができる。
【0044】
(3)第3の態様に係る減速材温度係数測定システム(MTC測定システム10)は、(1)~(2)の減速材温度係数測定システムであって、前記データ取得部(データ記録・制御装置13)は、前記減速材温度係数の測定を目的として意図的に前記減速材温度を変化させる工程が含まれていない炉物理検査中の前記時系列データを取得する。
これにより、MTC測定用の工程を有しない炉物理検査中に収集したTavgおよびおう反応度の時系列データを使って、MTC測定を行うことができる。つまり、炉物理検査からMTC測定用の工程を省略することができる。
【0045】
(4)第4の態様に係る減速材温度係数測定システム(MTC測定システム10)は、(1)~(3)の減速材温度係数測定システムであって、前記時系列データが測定されたときの一次冷却材のホウ酸濃度と減速材温度係数の測定条件として定められている前記ホウ酸濃度の違いによる前記減速材温度係数の変動を補正する補正部152をさらに備える。
MTC測定時のホウ酸濃度の条件は予め定められているが、補正部152によれば、この条件を満たさない状況下で測定されたMTCを、条件を満たす状況下で測定した場合のMTCの値に補正することができる。従って、定められたホウ酸濃度の条件と同じ環境を作り出さなくても、MTCの測定が可能になる。
【0046】
(5)第5の態様に係る減速材温度係数測定システム(MTC測定システム10)は、(1)~(4)の減速材温度係数測定システムであって、前記MTC決定部(統計処理装置16)は、算出された複数の前記減速材温度係数に基づいて、前記減速材温度係数のヒストグラム(図8図9)を作成し、前記ヒストグラムに基づいて、前記最終的な減速材温度係数を算出する。
多数得られたMTCの分布に基づいて、妥当な値を最終的なMTCとして決定することができ、精度の良いMTCを得ることができる。
【0047】
(6)第6の態様に係る減速材温度係数測定システム(MTC測定システム10)は、(5)の減速材温度係数測定システムであって、前記MTC決定部(統計処理装置16)は、前記ヒストグラムを所定の分布曲線によってフィッティングし、前記分布曲線に基づいて、前記最終的な減速材温度係数を算出する。
ヒストグラムをガウス分布等の分布曲線で近似し、得られた近似曲線に基づいて妥当な値を最終的なMTCとして決定することで、精度の良いMTCを得ることができる。
【0048】
(7)第7の態様に係る減速材温度係数測定システム(MTC測定システム10)は、(6)の減速材温度係数測定システムであって、前記MTC決定部(統計処理装置16)は、前記分布曲線によるフィッティング結果から所定の範囲を抽出して、第2の所定の分布曲線による再フィッティングを行う。
分布曲線によるフィッティングを繰り返すことにより、より分布の密度が高いMTCの値を絞り込み、その中から妥当な値を最終的なMTCとすることで、精度の良いMTCを得ることができる。
【0049】
(8)第8の態様に係る減速材温度係数測定システム(MTC測定システム10)は、(7)の減速材温度係数測定システムであって、前記MTC決定部(統計処理装置16)は、前記再フィッティングをガウス分布曲線によって行い、前記再フィッティングによって得られたガウス分布曲線の平均値を前記最終的な減速材温度係数とする。
ガウス分布の平均値を選択することによって、多数のMTCを代表する値を選択する。これにより、精度の良いMTCを得ることができる。
【0050】
(9)第9の態様に係る減速材温度係数測定システム(MTC測定システム10)は、(1)~(8)の減速材温度係数測定システムであって、前記MTC処理部(MTC処理部151)は、前記データ抽出部(データ抽出装置14)が抽出した前記時系列データから複数の小期間の前記時系列データを抜き出し、抜き出した前記時系列データに含まれる各観測点における前記反応度と前記減速材温度の関係を示したグラフに基づいて勾配法により前記減速材温度係数を算出する処理を、前記小期間ごとに行う。
複数抜き出された小期間の時系列データから勾配法を用いてMTCを算出することで、多数のMTCを算出することができる。
【0051】
(10)第10の態様に係る減速材温度係数測定システム(MTC測定システム10)は、(1)~(9)の減速材温度係数測定システムであって、前記MTC処理部(MTC処理部151)は、前記データ抽出部(データ抽出装置14)が抽出した前記時系列データから複数の小期間の前記時系列データを抜き出し、抜き出した前記時系列データに含まれる前記減速材温度の前記時系列データと前記反応度の前記時系列データのそれぞれに周波数分析を行ってノイズ法により前記減速材温度係数を算出する処理を、前記小期間ごとに行う。
複数抜き出された小期間の時系列データからノイズ法を用いてMTCを算出することで、多数のMTCを算出することができる。
【0052】
(11)第11の態様に係る減速材温度係数測定方法では、減速材温度と反応度の時系列データを取得し、前記時系列データから、所定の抽出条件に基づいて、減速材温度の自然な温度揺らぎによって反応度が変化するデータを抽出し、抽出した前記データに基づいて減速材温度係数を算出するMTC処理を複数回実行し、前記MTC処理を複数回実行することによって算出された複数の前記減速材温度係数に基づいて、減速材温度係数を決定する。
【0053】
(10)第10の態様に係るプログラムは、コンピュータ900に、減速材温度と反応度の時系列データを取得し、前記時系列データから、所定の抽出条件に基づいて、減速材温度の自然な温度揺らぎによって反応度が変化するデータを抽出し、抽出した前記データに基づいて減速材温度係数を算出するMTC処理を複数回実行し、前記MTC処理を複数回実行することによって算出された複数の前記減速材温度係数に基づいて、減速材温度係数を決定する処理、を実行させる。
【符号の説明】
【0054】
10・・・MTC測定システム
11・・・反応度処理装置
12・・・タイマー
13・・・データ記録・制御装置
14・・・データ抽出装置
15・・・MTC処理装置
151・・・MTC処理部
152・・・補正部
153・・・核設計コード
16・・・統計処理装置
17・・・表示装置
18・・・オペレータコンソール
20・・・原子力プラント
21・・・減速材温度測定系
22・・・中性子検出器
900・・・コンピュータ
901・・・CPU
902・・・主記憶装置
903・・・補助記憶装置
904・・・入出力インタフェース
905・・・通信インタフェース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10