(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】液圧発生装置
(51)【国際特許分類】
B60T 13/138 20060101AFI20240401BHJP
F16J 15/3232 20160101ALI20240401BHJP
F16J 15/18 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
B60T13/138 A
F16J15/3232 101
F16J15/18 A
(21)【出願番号】P 2020181268
(22)【出願日】2020-10-29
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】315019735
【氏名又は名称】日立Astemo上田株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】金井 宗太郎
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-22753(JP,A)
【文献】特開平8-198094(JP,A)
【文献】特開2016-88225(JP,A)
【文献】特開2008-223900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 13/138
F16J 15/3232
F16J 15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
前記基体に取り付けられたモータを駆動源として前記基体に形成されたシリンダ穴内でピストンを前進させることによってブレーキ液圧を発生させる電動ブレーキ装置と、を備える液圧発生装置であって、
前記電動ブレーキ装置は、前記モータの回転駆動力を直線方向の軸力に変換して前記ピストンに伝達する駆動伝達部を有し、
前記駆動伝達部は、前記モータの回転駆動力を受けて回転するナット部材と、前記ナット部材に螺合して軸方向に移動可能に設けられるとともに前記ピストンに当接するシャフト部材と、を有し、
前記シャフト部材の回り止めのための被案内部材が前記シャフト部材に設けられており、
前記シリンダ穴は、前記ピストンが摺動する摺動部と、該摺動部の後方に形成されており前記摺動部よりも内径が大きい大径部と、を有し、
前記シャフト部材の軸方向に前記被案内部材を案内する案内部を有する略円筒状のスリーブが、前記大径部内に挿入されており、
前記ピストンの外周面と前記大径部の内周面との間に、環状のシール部材が配置されていることを特徴とする液圧発生装置。
【請求項2】
前記シール部材は、前記摺動部と前記大径部との境界に形成された段差面と、前記スリーブとの間に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の液圧発生装置。
【請求項3】
前記スリーブの後方への移動を規制する規制部が前記基体に設けられており、
前記シール部材は、前記段差面と前記スリーブとに挟持された状態で前記スリーブに対して後方に押圧する予圧を付与することを特徴とする請求項2に記載の液圧発生装置。
【請求項4】
前記シール部材は、前記ピストンの外周面に接触するシール部と、該シール部の径方向外側に連設され前記スリーブに対して前記予圧を付与する押圧部と、を有し、
前記押圧部の後端は、前記シール部の後端よりも後方に突出していることを特徴とする請求項3に記載の液圧発生装置。
【請求項5】
前記シール部は、断面Y字形状を呈しており、前記ピストンの軸方向に離れた2箇所で前記ピストンの外周面に接触することを特徴とする請求項4に記載の液圧発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ブレーキシステムに用いられる液圧発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ブレーキシステムに用いられる液圧発生装置として、モータを駆動源としてシリンダ穴内でピストンを前進させることによってブレーキ液圧を発生させる電動ブレーキ装置を備えたものが知られている。この電動ブレーキ装置は、一般に、モータによって回転するナット部材と、ナット部材に螺合して軸方向に移動しピストンを押圧するシャフト部材とを備える駆動伝達部を有している。
【0003】
特許文献1には、モータによって回転するボールねじナット(ナット部材)と、ボールねじナットと螺合して軸方向に移動するボールねじ軸(シャフト部材)とを備える直動アクチュエータが記載されている。ここで、ボールねじ軸に設けられた回り止め部材の案内突起(被案内部材)は、ハウジングに設置されたガイド部材に形成した案内溝(案内部)と接触しながら軸方向に移動する(段落[0063]参照)。このような回り止め機構によって、ボールねじ軸は回転することなく軸方向に進退移動する。そして、この直動アクチュエータでは、ハウジングのシール収納部に、ボールねじ軸の連結軸部の外周面に摺接するシールが装着されている(段落[0046]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の前記したシールは、ボールねじ軸の連結軸部の外周面とハウジングの内周面との隙間を通した塵挨等の進入を防止できる。
しかしながら、特許文献1には、ボールねじ軸(シャフト部材)がピストンを押圧してブレーキ液圧を発生させる場合については特に記載されていない。つまり、特許文献1に記載の技術は、液圧発生装置において、被案内部材を案内部が案内する際の摺動による摩耗粉がピストンに付着して該ピストンの外周面を経て前方へ侵入するおそれについては考慮していない。この場合、ピストンの外周面に摺接する例えばカップシールが摩耗粉によって損傷を受けるおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、シャフト部材に設けられた被案内部材を案内部が案内する際の摺動による摩耗粉がピストンの外周面を経て前方へ侵入することを防止できる液圧発生装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための本発明は、基体と、電動ブレーキ装置と、を備える液圧発生装置である。前記電動ブレーキ装置は、前記基体に取り付けられたモータを駆動源としており、前記基体に形成されたシリンダ穴内でピストンを前進させることによってブレーキ液圧を発生させる。前記電動ブレーキ装置は、前記モータの回転駆動力を直線方向の軸力に変換して前記ピストンに伝達する駆動伝達部を有している。前記駆動伝達部は、前記モータの回転駆動力を受けて回転するナット部材と、前記ナット部材に螺合して軸方向に移動可能に設けられるとともに前記ピストンに当接するシャフト部材と、を有している。前記シャフト部材には、前記シャフト部材の回り止めのための被案内部材が設けられている。前記シリンダ穴は、前記ピストンが摺動する摺動部と、該摺動部の後方に形成されており前記摺動部よりも内径が大きい大径部と、を有している。前記シャフト部材の軸方向に前記被案内部材を案内する案内部を有する略円筒状のスリーブが、前記大径部内に挿入されている。そして、前記ピストンの外周面と前記大径部の内周面との間に、環状のシール部材が配置されている。
【0008】
この構成では、モータが駆動されると、スリーブの案内部がシャフト部材に設けられた被案内部材を案内することによって、シャフト部材は回転することなく軸方向に進退移動する。ここで、被案内部材を案内部が案内する際の摺動によって摩耗粉が生じてピストンの表面に付着するおそれがある。しかし、この摩耗粉は、ピストンの外周面と大径部の内周面との間に配置されたシール部材によって前方への侵入が阻止される。
したがって、本発明によれば、シャフト部材に設けられた被案内部材を案内部が案内する際の摺動による摩耗粉がピストンの外周面を経て前方へ侵入することを防止できる液圧発生装置を提供することができる。
これにより、ピストンの外周面に摺接する例えばカップシールが摩耗粉によって損傷を受けることを防止できる。
【0009】
前記液圧発生装置において、前記シール部材は、前記摺動部と前記大径部との境界に形成された段差面と、前記スリーブとの間に配置されていることが好ましい。
【0010】
この構成では、シール部材が、軸方向において段差面とスリーブとの間に位置決めされる。したがって、シール部材を装着するための溝や、シール部材が軸方向に移動することを防止するための止め輪が不要となる。また、液圧発生装置の軸方向の長さの増大を抑制できる。
【0011】
前記液圧発生装置において、前記スリーブの後方への移動を規制する規制部が前記基体に設けられていることが好ましい。この場合、前記シール部材は、前記段差面と前記スリーブとに挟持された状態で前記スリーブに対して後方に押圧する予圧を付与する。
【0012】
この構成では、シール部材によるスリーブへの予圧によって、スリーブの軸方向のガタを無くすことができる。これにより、シャフト部材の軸方向への進退移動時に生じ得る作動音を低減することができる。
また、スリーブを大径部内に大きな力で圧入せずとも、シール部材の予圧によってスリーブの軸方向のガタを無くすことができる。つまり、径方向の寸法公差や温度変化等を考慮しつつスリーブを大径部内にガタが生じないように圧入する場合、大きな圧入荷重が必要になるとともに、圧入時に圧入加工屑が発生するおそれがある。しかし、本発明によれば、スリーブの圧入作業を無くして圧入加工屑の発生を無くすことができる。また、スリーブを大径部内に圧入する場合と比較して、大径部の内径およびスリーブの外径の寸法管理が緩和されるため、コスト低減につながる。さらに、スリーブを大径部内に圧入する場合には圧入による変形を考慮して大径部周辺の基体の肉厚を大きく確保する必要があるが、圧入の廃止によって大径部周辺の基体の薄肉化が可能となり、小型化が図られる。
【0013】
前記液圧発生装置において、前記シール部材は、前記ピストンの外周面に接触するシール部と、該シール部の径方向外側に連設され前記スリーブに対して前記予圧を付与する押圧部と、を有していることが好ましい。この場合、前記押圧部の後端は、前記シール部の後端よりも後方に突出している。
【0014】
この構成では、ピストンの外周面とシール部材のシール部とのシール性を損なうことなく、シール部材の押圧部によってスリーブに対して予圧をより確実に付与することができる。
【0015】
前記液圧発生装置において、前記シール部は、断面Y字形状を呈しており、前記ピストンの軸方向に離れた2箇所で前記ピストンの外周面に接触することが好ましい。
【0016】
この構成では、シール部材とピストンの外周面との摺動抵抗を低減しつつ、摩耗粉がピストンの外周面を経て前方へ侵入することをより防止できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、シャフト部材に設けられた被案内部材を案内部が案内する際の摺動による摩耗粉がピストンの外周面を経て前方へ侵入することを防止できる液圧発生装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態の液圧発生装置を用いた車両用ブレーキシステムを示した全体構成図である。
【
図3】
図2のIII-III線に沿う断面図である。
【
図4】
図4(a)は、弾性体の側面図、
図4(b)は、
図4(a)のXb-Xb線に沿う断面図、
図4(c)は、弾性体の斜視図である。
【
図6】第二ピストン、スリーブおよびシャフト部材の模式的な分解斜視図である。
【
図7】被案内部材側規制部がナット側規制部に当接する様子を説明するための模式的な斜視図である。
【
図8】本実施形態の変形例において、被案内部材側規制部がナット側規制部に当接する様子を説明するための図である。
【
図9】
図9(a)は、シール部材の全体構造を示す断面図、
図9(b)は、シール部材周辺を部分的に拡大した断面図である。
【
図10】
図10(a)は、第二ピストンを前進させることによってブレーキ液圧を昇圧させる様子を示す断面図、
図10(b)は、ブレーキ液圧の昇圧中に電力が得られなくなった場合に後方へ戻されるシャフト部材が緩衝部材に当接する様子を示す断面図、
図10(c)は、被案内部材側規制部がナット側規制部に当接する様子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態では、本発明の液圧発生装置を車両用ブレーキシステムに適用した場合を例として説明する。
【0020】
車両用ブレーキシステムAは、
図1に示すように、原動機(エンジンや電動モータなど)の起動時に作動するバイ・ワイヤ(By Wire)式のブレーキシステムと、原動機の停止時などに作動する油圧式のブレーキシステムの双方を備えるものである。
【0021】
車両用ブレーキシステムAは、モータを併用するハイブリッド自動車やモータのみを動力源とする電気自動車・燃料電池自動車や、エンジン(内燃機関)のみを動力源とする自動車に搭載することができる。
【0022】
車両用ブレーキシステムAは、ブレーキペダルPのストローク量(作動量)に応じてブレーキ液圧を発生させるとともに、車両挙動の安定化を支援する液圧発生装置1を備えている。
【0023】
液圧発生装置1は、基体100と、ブレーキペダルPのストローク量に応じてブレーキ液圧を発生させるマスタシリンダ10と、ブレーキペダルPに擬似的な操作反力を付与するストロークシミュレータ40と、モータ24を駆動源としてブレーキ液圧を発生させるスレーブシリンダ20と、を備えている。さらに、液圧発生装置1は、車輪ブレーキBRの各ホイールシリンダWに作用するブレーキ液の液圧を制御し、車両挙動の安定化を支援する液圧制御装置30と、電子制御装置90と、リザーバタンク80と、を備えている。
【0024】
なお、以下の説明における各方向は、液圧発生装置1を説明する上で便宜上設定したものであるが、液圧発生装置1を車両に搭載したときの方向と概ね一致している。つまり、ブレーキペダルPを踏み込んだときのロッドP1の移動方向を前方(前端側)とし、ブレーキペダルPが戻ったときのロッドP1の移動方向を後方(後端側)としている。さらに、ロッドP1の移動方向(前後方向)に対して水平に直交する方向を左右方向としている。
【0025】
基体100は、車両に搭載される金属製のブロックであり、基体100の内部には三つのシリンダ穴11,21,41および複数の液圧路2a,2b,3,4,5a,5b,73,74などが形成されている。また、基体100には、リザーバタンク80およびモータ24などの各種部品が取り付けられる。
【0026】
マスタシリンダ10は、
図1に示すように、タンデムピストン型であり、第一シリンダ穴11に挿入された二つの第一ピストン12a,12b(セコンダリピストンおよびプライマリピストン)と、第一シリンダ穴11内に収容された二つのコイルばね17a,17bと、を備えている。
【0027】
第一シリンダ穴11の底面11aと、底側の第一ピストン12a(セコンダリピストン)との間には底側圧力室16aが形成されている。底側圧力室16aにはコイルばね17aが収容されている。コイルばね17aは、底面11a側に移動した第一ピストン12aを開口部11b側に押し戻すものである。
【0028】
底側の第一ピストン12aと、開口側の第一ピストン12b(プライマリピストン)との間には開口側圧力室16bが形成されている。また、開口側圧力室16bにはコイルばね17bが収容されている。コイルばね17bは、底面11a側に移動した第一ピストン12bを開口部11b側に押し戻すものである。
【0029】
ブレーキペダルPのロッドP1は、第一シリンダ穴11内に挿入されている。ロッドP1の先端部は、開口側の第一ピストン12bに連結されている。これにより、開口側の第一ピストン12bは、ロッドP1を介してブレーキペダルPに連結されている。
両第一ピストン12a,12bは、ブレーキペダルPの踏力を受けて第一シリンダ穴11内を摺動し、底側圧力室16a内および開口側圧力室16b内のブレーキ液を加圧する。
【0030】
リザーバタンク80は、ブレーキ液を貯溜する容器であり、基体100の上面101eに取り付けられている。リザーバタンク80の下面に突設された二つの給液部は、基体100の上面101eに形成された二つのリザーバユニオンポート81,82に挿入されている。リザーバユニオンポート81,82を通じてリザーバタンク80から底側圧力室16a内および開口側圧力室16b内にブレーキ液が補給される。
【0031】
ストロークシミュレータ40は、第三シリンダ穴41に挿入された第三ピストン42と、第三シリンダ穴41の開口部41bを閉塞する蓋部材44と、第三ピストン42と蓋部材44との間に収容された二つのコイルばね43a,43bと、を備えている。
【0032】
第三シリンダ穴41の底面41aと第三ピストン42との間には圧力室45が形成されている。第三シリンダ穴41内の圧力室45は、後記する分岐液圧路3および第二メイン液圧路2bを介して、第一シリンダ穴11の開口側圧力室16bに通じている。
ストロークシミュレータ40では、マスタシリンダ10の開口側圧力室16bで発生したブレーキ液圧によって、ストロークシミュレータ40の第三ピストン42がコイルばね43a,43bの付勢力に抗して移動し、付勢された第三ピストン42によってブレーキペダルPに擬似的な操作反力が付与される。
【0033】
スレーブシリンダ20は、シングルピストン型であり、第二シリンダ穴21に挿入された第二ピストン22と、第二シリンダ穴21内に収容されたコイルばね23と、モータ24と、駆動伝達部25と、を備えている。
【0034】
第二シリンダ穴21の底面21aと、第二ピストン22との間には圧力室(液圧室)26が形成されている。また、圧力室26にはコイルばね23が収容されている。つまり、第二ピストン22を後方に付勢するコイルばね23が第二ピストン22の前方に設置されている。コイルばね23は、底面21a側に移動した第二ピストン22を開口部21b側に押し戻すものである。
【0035】
モータ24は、後記する電子制御装置90によって駆動制御される電動サーボモータである。モータ24の後面の中心部から後方に向けて出力軸24aが突出している。
モータ24は、基体100のフランジ部103の前側の面(モータ取付面103a)に取り付けられている。出力軸24aは、フランジ部103に形成された挿通穴103cに挿通されており、フランジ部103の後方に突出している。出力軸24aの後端部には、駆動側プーリー24bが取り付けられている。
【0036】
駆動伝達部25は、モータ24の出力軸24aの回転駆動力を直線方向の軸力に変換して第二ピストン22に伝達する機構である。
駆動伝達部25は、モータ24の回転駆動力を受けて回転する筒状のナット部材25bと、ナット部材25bと螺合して軸方向に移動可能に設けられるとともに第二ピストン22に当接するシャフト部材(スクリューシャフト)25aと、を備えている。また、駆動伝達部25は、ナット部材25bの全周に設けられた従動側プーリー25cと、従動側プーリー25cと駆動側プーリー24bとに掛けられた無端状のベルト25dと、カバー部材25eと、を備えている。カバー部材25eは、駆動側プーリー24b、従動側プーリー25c、ベルト25dおよびシャフト部材25aの後方を覆うように配置されている。
【0037】
シャフト部材25aは、第二シリンダ穴21の開口部21bから第二シリンダ穴21内に挿入されており、シャフト部材25aの前端部が第二ピストン22に当接している。シャフト部材25aの後部は、基体100の後面102bから後方に突出している。
シャフト部材25aの後部の外周面と、ナット部材25bの内周面との間には、転動可能なボールが配置されている。つまり、シャフト部材25aはナット部材25bとボールを介して螺合しており、シャフト部材25a、ナット部材25bおよびボールは、ボールねじ機構を構成している。また、ナット部材25bは、ベアリング106を介して基体100に支持されている。
【0038】
出力軸24aが回転すると、その回転駆動力が駆動側プーリー24b、ベルト25dおよび従動側プーリー25cを介してナット部材25bに入力される。そして、ナット部材25bとシャフト部材25aとの間のねじ送り作用によって、シャフト部材25aに直線方向の軸力が付与され、シャフト部材25aが前後方向に進退移動する。
シャフト部材25aが前方に移動したときには、第二ピストン22がシャフト部材25aからの入力を受けて第二シリンダ穴21内を摺動し、圧力室26内のブレーキ液を加圧する。
【0039】
このように、スレーブシリンダ20は、モータ24を駆動源として第二シリンダ穴21内で第二ピストン22を前進させることによってブレーキ液圧を発生させる電動ブレーキ装置である。ここで、第二シリンダ穴21、第二ピストン22は、特許請求の範囲におけるシリンダ穴、ピストンにそれぞれ相当する。
【0040】
次に、基体100内に形成された各液圧路について説明する。
二つのメイン液圧路2a,2bは、
図1に示すように、マスタシリンダ10の第一シリンダ穴11を起点とする液圧路である。
第一メイン液圧路2aは、マスタシリンダ10の底側圧力室16aから液圧制御装置30を介して二つの車輪ブレーキBR,BRに通じている。
第二メイン液圧路2bは、マスタシリンダ10の開口側圧力室16bから液圧制御装置30を介して他の二つの車輪ブレーキBR,BRに通じている。
【0041】
分岐液圧路3は、ストロークシミュレータ40の圧力室45から第二メイン液圧路2bに至る液圧路である。分岐液圧路3には常閉型電磁弁8が設けられている。常閉型電磁弁8は分岐液圧路3を開閉するものである。
【0042】
二つの連通路5a,5bは、スレーブシリンダ20の第二シリンダ穴21を起点とする液圧路である。両連通路5a,5bは、共通液圧路4に合流して、第二シリンダ穴21に通じている。
第一連通路5aは、第二シリンダ穴21内の圧力室26から第一メイン液圧路2aに至る流路であり、第二連通路5bは、圧力室26から第二メイン液圧路2bに至る流路である。
【0043】
第一メイン液圧路2aと第一連通路5aとの連結部位には、三方向弁である第一切替弁51が設けられている。第一切替弁51は、2ポジション3ポートの電磁弁である。
第一切替弁51が
図1に示す第一ポジションの状態では、第一メイン液圧路2aの上流側(マスタシリンダ10側)と下流側(車輪ブレーキBR側)とが連通し、第一メイン液圧路2aと第一連通路5aとが遮断される。
第一切替弁51が第二ポジションの状態では、第一メイン液圧路2aの上流側と下流側とが遮断され、第一連通路5aと第一メイン液圧路2aの下流側とが連通する。
【0044】
第二メイン液圧路2bと第二連通路5bとの連結部位には、三方向弁である第二切替弁52が設けられている。第二切替弁52は、2ポジション3ポートの電磁弁である。
第二切替弁52が
図1に示す第一ポジションの状態では、第二メイン液圧路2bの上流側(マスタシリンダ10側)と下流側(車輪ブレーキBR側)とが連通し、第二メイン液圧路2bと第二連通路5bとが遮断される。
第二切替弁52が第二ポジションの状態では、第二メイン液圧路2bの上流側と下流側とが遮断され、第二連通路5bと第二メイン液圧路2bの下流側とが連通する。
【0045】
第一連通路5aには、第一遮断弁61が設けられている。第一遮断弁61は常開型電磁弁である。第一遮断弁61が通電時に閉弁すると、第一遮断弁61において第一連通路5aが遮断される。
第二連通路5bには、第二遮断弁62が設けられている。第二遮断弁62は常開型電磁弁である。第二遮断弁62が通電時に閉弁すると、第二遮断弁62において第二連通路5bが遮断される。
【0046】
二つの圧力センサ6,7は、ブレーキ液圧の大きさを検知するものであり、両圧力センサ6,7で取得された情報は電子制御装置90に出力される。
第一圧力センサ6は、第一切替弁51よりも上流側に配置されており、マスタシリンダ10で発生したブレーキ液圧を検知する。
第二圧力センサ7は、第二切替弁52よりも下流側に配置されており、両連通路5a,5bと両メイン液圧路2a,2bの下流側とが連通しているときには、スレーブシリンダ20で発生したブレーキ液圧を検知する。
【0047】
スレーブシリンダ補給路73は、リザーバタンク80からスレーブシリンダ20に至る液路である。また、スレーブシリンダ補給路73は、分岐補給路73aを介して共通液圧路4に接続されている。
分岐補給路73aには、リザーバタンク80側から共通液圧路4側へのブレーキ液の流入のみを許容するチェック弁75が設けられている。
通常時は、スレーブシリンダ補給路73を通じてリザーバタンク80からスレーブシリンダ20にブレーキ液が補給される。
また、吸液制御時には、スレーブシリンダ補給路73、分岐補給路73aおよび共通液圧路4を通じて、リザーバタンク80からスレーブシリンダ20にブレーキ液が吸液される。
【0048】
戻り液路74は、液圧制御装置30からリザーバタンク80に至る液路である。戻り液路74には、液圧制御装置30を介して各ホイールシリンダWから逃がされたブレーキ液が流入する。戻り液路74に逃がされたブレーキ液は、戻り液路74を通じてリザーバタンク80に戻される。
【0049】
液圧制御装置30は、各車輪ブレーキBRの各ホイールシリンダWに作用するブレーキ液の液圧を適宜制御するものである。液圧制御装置30は、アンチロックブレーキ制御を実行し得る構成を備えている。各ホイールシリンダWは、それぞれ配管を介して基体100の出口ポート301に接続されている。
液圧制御装置30は、ホイールシリンダWに作用する液圧(以下、「ホイールシリンダ圧」という)を増圧、保持または減圧させることができる。液圧制御装置30は、入口弁31、出口弁32、チェック弁33を備えている。
【0050】
入口弁31は、第一メイン液圧路2aから二つの車輪ブレーキBR,BRへ至る二つの液圧路と、第二メイン液圧路2bから二つの車輪ブレーキBR,BRへ至る二つの液圧路とに一つずつ配置されている。
入口弁31は、常開型の比例電磁弁(リニアソレノイド弁)であり、入口弁31のコイルに流す電流値に応じて、入口弁31の開弁圧を調整可能となっている。
入口弁31は、通常時に開弁していることで、スレーブシリンダ20から各ホイールシリンダWへ液圧が付与されるのを許容している。また、入口弁31は、車輪がロックしそうになったときに電子制御装置90の制御により閉弁し、各ホイールシリンダWに付与される液圧を遮断する。
【0051】
出口弁32は、各ホイールシリンダWと戻り液路74との間に配置された常閉型の電磁弁である。
出口弁32は、通常時に閉弁されているが、車輪がロックしそうになったときに電子制御装置90の制御により開弁される。
【0052】
チェック弁33は、各入口弁31に並列に接続されている。チェック弁33は、ホイールシリンダW側からスレーブシリンダ20側(マスタシリンダ10側)へのブレーキ液の流入のみを許容する弁である。したがって、入口弁31が閉弁しているときでも、チェック弁33は、各ホイールシリンダW側からスレーブシリンダ20側へのブレーキ液の流れを許容する。
【0053】
電子制御装置90は、樹脂製の箱体であるハウジング91と、ハウジング91内に収容された制御基板(図示せず)と、を備えている。
電子制御装置90は、
図1に示すように、両圧力センサ6,7やストロークセンサ(図示せず)などの各種センサから得られた情報や予め記憶させておいたプログラム等に基づいて、モータ24の作動や各弁の開閉を制御する。
【0054】
次に車両用ブレーキシステムAの動作について概略説明する。
図1に示す車両用ブレーキシステムAでは、システムが起動されると、両切替弁51,52が励磁されて、前記した第一ポジションから第二ポジションに切り替わる。
これにより、第一メイン液圧路2aの下流側と第一連通路5aとが通じるとともに、第二メイン液圧路2bの下流側と第二連通路5bとが通じる。そして、マスタシリンダ10と各ホイールシリンダWとが遮断されるとともに、スレーブシリンダ20とホイールシリンダWとが連通する。
【0055】
また、システムが起動されると、分岐液圧路3の常閉型電磁弁8は開弁される。これにより、ブレーキペダルPの操作によってマスタシリンダ10で発生した液圧は、ホイールシリンダWには伝達されずに、ストロークシミュレータ40に伝達される。
そして、ストロークシミュレータ40の圧力室45の液圧が大きくなり、第三ピストン42がコイルばね43a,43bの付勢力に抗して蓋部材44側に移動することで、ブレーキペダルPのストロークが許容され、擬似的な操作反力がブレーキペダルPに付与される。
【0056】
また、ストロークセンサ(図示せず)によって、ブレーキペダルPの踏み込みが検知されると、電子制御装置90によりスレーブシリンダ20のモータ24が駆動され、スレーブシリンダ20の第二ピストン22が底面21a側に移動する。これにより、圧力室26内のブレーキ液が加圧される。
電子制御装置90は、スレーブシリンダ20の発生液圧(第二圧力センサ7で検出された液圧)と、ブレーキペダルPの操作量に対応した要求液圧とを対比し、その対比結果に基づいてモータ24の回転速度等を制御する。
このようにして、車両用ブレーキシステムAではブレーキペダルPの操作量に応じて液圧を昇圧させる。そして、スレーブシリンダ20の発生液圧は液圧制御装置30に入力される。
【0057】
ブレーキペダルPの踏み込みが解除されると、電子制御装置90によりスレーブシリンダ20のモータ24が逆転駆動され、第二ピストン22がコイルばね23によって後方側に戻される。これにより、圧力室26内が降圧される。
【0058】
液圧制御装置30では、電子制御装置90により入口弁31および出口弁32の開閉状態を制御することで、各ホイールシリンダWのホイールシリンダ圧が調整される。
例えば、入口弁31が開弁し、出口弁32が閉弁した通常状態では、ブレーキペダルPを踏み込めば、スレーブシリンダ20で発生した液圧がそのままホイールシリンダWへ伝達してホイールシリンダ圧が増圧する。
また、入口弁31が閉弁し、出口弁32が開弁した状態では、ホイールシリンダWから戻り液路74側へブレーキ液が流出し、ホイールシリンダ圧が減少して減圧する。
さらに、入口弁31と出口弁32がともに閉となる状態では、ホイールシリンダ圧が保持される。
【0059】
なお、スレーブシリンダ20が作動しない状態(例えば、イグニッションOFFや、電力が得られない場合など)においては、第一切替弁51、第二切替弁52、常閉型電磁弁8が初期状態に戻る。これにより、両メイン液圧路2a,2bの上流側と下流側とが連通する。この状態では、マスタシリンダ10で発生した液圧が液圧制御装置30を介して、各ホイールシリンダWに伝達される。
【0060】
図1に示すように、基体100の下部の後面102bおよびフランジ部103の駆動伝達部取付面103bには、駆動伝達部25の各部品が組み付けられる。
【0061】
次に、スレーブシリンダ20についてさらに説明する。
図2は、スレーブシリンダ20の拡大断面図である。
図3は、
図2のIII-III線に沿う断面図である。
図2~
図3に示すように、シャフト部材25aの後方には、該シャフト部材25aが後方へ移動して当接した場合の衝撃を緩和する緩衝部材120が配置されている。緩衝部材120は、シャフト部材25aの後方を覆うように配置されたカバー部材25eに形成された凹部107に設置されている。
【0062】
図2に示すように、緩衝部材120は、鉄鋼等の金属製の板部材121と、該板部材121の後方に配置された弾性体122と、を有している。板部材121は、円板部121aと、円板部121aの外周縁に連設され該外周縁から後方へ延出する円筒部121bとから構成されている。
【0063】
図4(a)は、弾性体122の側面図、
図4(b)は、
図4(a)のXb-Xb線に沿う断面図、
図4(c)は、弾性体122の斜視図である。
図4に示すように、弾性体122は、円筒形状を呈する本体部122aと、本体部122aの外周面から径方向外側に突出する突起部122bと、を有している。突起部122bは、本体部122aの周方向に間隔を置いて複数箇所(
図4の例では3箇所)に設けられている。また、突起部122bは、本体部122aの軸方向に間隔を置いて複数箇所(
図4の例では2箇所)に設けられている。弾性体122は、ここではゴム製である。ただし、緩衝部材120は、前記した構成に限定されるものではない。例えば、弾性体122は、ゴム製に限定されるものではなく、例えば衝撃を吸収可能な樹脂製であってもよい。
【0064】
図2に示すように、緩衝部材120の弾性体122は、凹部107内の底部に配置されている。緩衝部材120の板部材121は、円板部121aが弾性体122の前面に当接し、円筒部121bの内周面に前側の突起部122b(
図4参照)が嵌り込むように、配置されている。Cクリップ108は、凹部107の開口部に形成された凹溝に嵌るように装着される。ここで、緩衝部材120は、Cクリップ108によって板部材121の前方移動が規制された状態で、凹部107内に収容される。凹部107内に緩衝部材120が収容された状態では、弾性体122が軸方向に若干圧縮される。
【0065】
図5は、
図2のV-V線に沿う断面図である。
図6は、第二ピストン22、スリーブ140およびシャフト部材25aの模式的な分解斜視図である。
図2、
図5~
図6に示すように、シャフト部材25aの回り止めのための被案内部材130は、シャフト部材25aに固定して設けられている。被案内部材130は、略円筒状の本体131と、本体131の外周面に連設され該外周面から径方向外側に突出する突起132とを有している。突起132は、被案内部材130の本体131の外周面に一対設けられている。一対の突起132,132は、本体131の周方向に180度の間隔をあけて設けられている。本体131の外周部分のうち、突起132が設けられていない部分に、軸線L2(
図2参照)に平行でかつ互いに平行な一対の平坦面131a,131aが形成されている。一対の平坦面131a,131aの間隔(二面幅)は、本体131の平坦面131aが形成されていない部分の外径よりも小さくなっている。つまり、本体131は、円筒の外周部分の一部が一対の平坦面131a,131aにおいて切除された形状となっている。本体131の中央には、貫通孔131bが形成されている。被案内部材130は、例えば本体131の貫通孔131bにシャフト部材25aが圧入されることによって、シャフト部材25aの軸方向前側に固定される。ただし、被案内部材130のシャフト部材25aへの固定方法は、圧入嵌合に限定されるものではない。例えば被案内部材130のシャフト部材25aへの圧入固定に対して、スプライン嵌合等の回り止め機構がさらに加えられていてもよい。
【0066】
ここでは、一対の突起132,132のうち、一方が軸線L2に平行な中心軸を有する円柱の一部をなす形状を呈し、他方が略四角柱状を呈している。ただし、突起132の形状は、特に限定されるものではなく、例えば軸線L2に垂直な中心軸を有する略円柱状、略四角柱状、略球状等の任意の形状が採用され得る。
【0067】
図2に示すように、第二シリンダ穴21は、第二ピストン22が摺動する摺動部21cと、摺動部21cの後方に形成された大径部21dとを有している。大径部21dは、摺動部21cよりも内径が大きい。大径部21d内には、略円筒状のスリーブ140が挿入されている。
【0068】
スリーブ140は、大径部21dと中心軸が合うように大径部21dに挿入されている。スリーブ140の外径は、大径部21dの内径よりも僅かに小さく設定されている。したがって、スリーブ140の外周面と大径部21dの内周面との間には僅かな隙間が形成されている。ただし、この隙間が無く、スリーブ140が大径部21d内に軽圧入されていてもよい。
【0069】
図3、
図5~
図6に示すように、スリーブ140の後側の外周面には、径方向外側に突出した突出部143が設けられている。そして、突出部143は、第二シリンダ穴21の大径部21dに形成された係合溝21fに入り込んでいる。これにより、スリーブ140の回転が規制される。
【0070】
なお、突出部143および係合溝21fの軸線L2に直交する断面は、ここでは円の一部をなす形状を呈しているが、特に限定されるものではなく、例えば四角形の一部をなす形状を呈していてもよい。また、スリーブ140の回転の規制は、前記した構成に限定されるものではなく、例えば、スプライン嵌合、キーを媒介とした係合、ピンを媒介とした係合等の各種の方法が採用され得る。
【0071】
図2、
図5~
図6に示すように、スリーブ140は、溝141を有している。溝141は、シャフト部材25aの軸方向に被案内部材130を案内する案内部として機能する。溝141は、スリーブ140の内周面に形成されており、第二シリンダ穴21の軸線L2に平行に延在している。溝141は、一対設けられている。一対の溝141,141は、スリーブ140の内周面に周方向に180度の間隔をあけて設けられている。つまり、一対の溝141,141は、互いに対向するように配置されている。
なお、溝141の断面形状(第二シリンダ穴21の軸線L2に垂直な断面形状)は、特に限定されるものではなく、突起132の断面形状に対応した形状に形成される。
【0072】
スリーブ140の溝141には、被案内部材130の突起132が入り込んでいる。これにより、シャフト部材25aに設けられた被案内部材130は、軸方向の移動が許容されるとともに回転方向の移動が規制される。したがって、被案内部材130の突起132がスリーブ140の溝141内で摺動することによって、シャフト部材25aは、回転することなく軸方向に進退移動することができる。
【0073】
図3、
図5~
図6に示すように、スリーブ140の後側の内周面には、径方向内側に膨出した膨出部142が設けられている。膨出部142は、スリーブ140の内周面における溝141と異なる周方向位置に設けられている。ここでは、膨出部142は、一対設けられている。一対の膨出部142,142は、スリーブ140の後側の内周面に周方向に180度の間隔をあけて設けられている。つまり、一対の膨出部142,142は、互いに対向するように配置されている。また、膨出部142は、スリーブ140の内周面における一対の溝141,141の間に位置するように一対設けられている。そして、一対の膨出部142,142の間隔(離隔距離)は、第二ピストン22の外径よりも小さく設定されている。したがって、膨出部142は、第二ピストン22の後方への移動を規制する。すなわち、第二ピストン22は、膨出部142の前端面142aに当接することによって、後方への移動が規制されるようになっている。そして、第二ピストン22が膨出部142に当接して停止した状態で、第二ピストン22は、ブレーキ液圧を発生するポイントの近く、つまり該ポイントの僅かに後方の位置で軸方向に位置決めされるように構成されている。
【0074】
また、第二ピストン22の後端が膨出部142の前端面142aに当接し、かつシャフト部材25aの前端が第二ピストン22に当接している状態で、シャフト部材25aの後端と緩衝部材120とが離間するように設定されている。緩衝部材120は、シャフト部材25aの後方に配置され該シャフト部材25aを受ける部材に相当する。
【0075】
図5~
図6に示すように、一対の膨出部142,142は、互いに対向する径方向内側に、軸線L2(
図3参照)に平行でかつ互いに平行な一対の平坦面142b,142bを有している。一対の平坦面142b,142bの間隔、すなわち一対の膨出部142,142の間隔は、スリーブ140の前側の内径よりも小さく、被案内部材130の一対の平坦面131a,131aの間隔よりも僅かに大きい。被案内部材130がスリーブ140内の後側に位置するとき、スリーブ140の一対の平坦面142,142の間に、被案内部材130の一対の平坦面131a,131aが入り込むようになっている。このように、被案内部材130は、シャフト部材25aの軸方向から見て、一対の膨出部142,142の間の領域内に配置されている。
【0076】
図7は、被案内部材側規制部161がナット側規制部151に当接する様子を説明するための模式的な斜視図である。
図7では、被案内部材130およびナット部材25bは、理解を容易にするため円筒状に簡略化して表されている。
図2、
図7に示すように、ナット部材25bには、ナット側規制部151が設けられている。ナット側規制部151は、ここでは、ナット部材25bの軸方向を法線方向とする前端面から前方に突出するように該前端面に設けられた凸部である。ナット側規制部151は、周方向に180度の角度間隔を置いて2個設けられている。ただし、ナット側規制部151の設置個数は、これに限定されるものではなく、例えば1個であってもよい。
【0077】
ナット側規制部151は、ナット部材25bの回転方向に垂直な当接面152を有している。ナット側規制部151の基端部(後端部)の周方向長さは、ナット側規制部151の先端部(前端部)の周方向長さよりも大きい。すなわち、ナット側規制部151を径方向外側から見たときの形状は、先端部を上底、基端部を上底よりも長い下底とする台形である。これにより、当接面152に荷重が加わった場合にせん断力を受ける面積を大きく確保できるため、ナット側規制部151の強度を向上させることができる。
【0078】
被案内部材130には、被案内部材側規制部161が設けられている。被案内部材側規制部161は、ナット部材25bのナット側規制部151に当接してナット部材25bの回転を規制する。被案内部材側規制部161は、ここでは、被案内部材130の軸方向を法線方向とする後端面から後方に突出するように該後端面に設けられた凸部である。被案内部材側規制部161は、周方向に180度の角度間隔を置いて2個設けられている(
図6参照)。ただし、被案内部材側規制部161の設置個数は、これに限定されるものではなく、例えば1個であってもよい。
【0079】
被案内部材側規制部161は、ナット部材25bの回転方向に垂直な当接面162を有している。被案内部材側規制部161の基端部(前端部)の周方向長さは、被案内部材側規制部161の先端部(後端部)の周方向長さよりも大きい。すなわち、被案内部材側規制部161を径方向外側から見たときの形状は、先端部を上底、基端部を上底よりも長い下底とする台形である。これにより、当接面162に荷重が加わった場合にせん断力を受ける面積を大きく確保できるため、被案内部材側規制部161の強度を向上させることができる。
【0080】
なお、ナット側規制部151および被案内部材側規制部161は、前記した形状に限定されるものではない。例えば、ナット側規制部151または被案内部材側規制部161の凸部の形状は、円柱状や角柱状であってもよい。
【0081】
本実施形態では、シャフト部材25aが緩衝部材120に対して変形を伴わずに接触した状態で、被案内部材側規制部161とナット側規制部151とが離間するように設定されている(
図10(b)参照)。そして、シャフト部材25aとともに被案内部材側規制部161が軸方向(
図7のL方向)に移動すると、被案内部材側規制部161の当接面162が、周方向(
図7のR方向)に移動してきたナット側規制部151の当接面152と当接する。ここで、シャフト部材25aが緩衝部材120を後方に押圧して該緩衝部材120を変形させた状態で、被案内部材側規制部161がナット側規制部151に当接するように設定されている。
【0082】
図8は、本実施形態の変形例において、被案内部材側規制部161がナット側規制部151aに当接する様子を説明するための図である。
【0083】
図8に示す変形例では、ナット部材25bに設けられたナット側規制部151aは、ナット部材25bの軸方向に垂直な面である前端面から後方にへこむように該前端面に設けられた凹部である。ナット側規制部151aは、周方向に180度の角度間隔を置いて2個設けられているが、ナット側規制部151aの設置個数は、これに限定されるものではなく、例えば1個であってもよい。ナット側規制部151aは、ナット部材25bの回転方向に垂直な当接面152aを有している。被案内部材130に設けられた被案内部材側規制部161は、前記した実施形態(
図7参照)と同様の凸部である。
このような変形例によっても、
図7に示した実施形態と同様の作用効果を奏することができる。また、ナット側規制部151aは凹部であることから、当接面152aに荷重が加わった場合にせん断力を受ける面積をより大きく確保できるため、ナット側規制部151aの強度をより向上させることができる。
なお、被案内部材130に設けられた被案内部材側規制部を凹部とし、ナット部材25bに設けられたナット側規制部を凸部とするように構成してもよい。
【0084】
図2に示すように、第二ピストン22の外周面と大径部21dの内周面との間に、環状のシール部材170が配置されている。また、シール部材170は、第二シリンダ穴21の摺動部21cと大径部21dとの境界に形成された段差面21eと、スリーブ140との間に配置されている。シール部材170はゴム製であり、弾性を有している。
【0085】
スリーブ140の後方への移動を規制する規制部としてのCクリップ109が基体100に設けられている。具体的には、Cクリップ109は、第二シリンダ穴21の大径部21dの内面に形成された凹溝に装着されている。大径部21dにシール部材170とスリーブ140とが挿入されてCクリップ109が装着された状態では、シール部材170は軸方向に若干圧縮される。つまり、シール部材170は、段差面21eとスリーブ140とに挟持された状態でスリーブ140に対して後方に押圧する予圧を付与する。スリーブ140は、シール部材170の予圧(復元力)によって、Cクリップ109に常に押し付けられた状態となる。
【0086】
第二シリンダ穴21の摺動部21cの内周面に形成された一対の環状溝部には、一対のカップシール27a,27bがそれぞれ装着されている。一対のカップシール27a,27bは、第二ピストン22の外周面に摺接する。一対のカップシール27a,27bの間における摺動部21cの内周面には、スレーブシリンダ補給路73(
図1参照)の端部が開口している。そして、第二ピストン22の前側には、複数の給液ポート穴22aが形成されている。したがって、通常時は、スレーブシリンダ補給路73(
図1参照)、給液ポート穴22aを経てブレーキ液が補給されるようになっている。
【0087】
図9(a)は、シール部材170の全体構造を示す断面図、
図9(b)は、シール部材170周辺を部分的に拡大した断面図である。
図9に示すように、シール部材170は、第二ピストン22の外周面に接触するシール部171と、スリーブ140に対して予圧を付与する押圧部172と、を有している。押圧部172は、シール部171の径方向外側に連設されている。そして、押圧部172の後端は、シール部171の後端よりも後方に突出している。なお、さらに、押圧部172の前端が、シール部171の前端よりも前方に突出していてもよい。
【0088】
シール部材170のシール部171は、軸線L2を含む平面で切断した断面がY字形状を呈している。シール部171は、第二ピストン22の軸方向に離れた2箇所C1,C2で第二ピストン22の外周面に接触する。
【0089】
次に、
図10を参照して、スレーブシリンダ20におけるブレーキ液圧の昇圧中に電力が得られなくなった場合の動作について説明する。
【0090】
図10(a)に示すように、スレーブシリンダ20は、モータ24(
図2参照)を駆動源として駆動伝達部25を介してシャフト部材25aを前方に移動させる。シャフト部材25aからの入力を受けて第二ピストン22が第二シリンダ穴21内で前進させられることによって、圧力室26内のブレーキ液圧が昇圧される。
【0091】
そして、第二ピストン22を前進させてブレーキ液圧を昇圧中に電力が得られなくなった場合、
図10(b)に示すように、ブレーキ液圧の反力によって第二ピストン22が後方に移動させられる。このため、第二ピストン22を介してシャフト部材25aが後方に急激に戻される。このように第二ピストン22とともにシャフト部材25aが後方に移動する場合、第二ピストン22は、スリーブ140の膨出部142に当接して停止する。一方、シャフト部材25aは、該シャフト部材25aの後方に配置された緩衝部材120に当接する。後方に戻されるシャフト部材25aが緩衝部材120に当接する際、当接時の衝撃が緩和される。この際、シャフト部材25aの後端が金属製の板部材121に当接し、シャフト部材25aは、弾性体122を圧縮させながら板部材121とともにさらに後方へ移動する。
【0092】
続いて、
図10(c)に示すように、シャフト部材25aに設けられた被案内部材130の被案内部材側規制部161がナット部材25bに設けられたナット側規制部151に当接してナット部材25bの回転が規制される(
図7参照)。このナット部材25bの回転の規制によって、シャフト部材25aの後方への移動が規制される。
【0093】
前記したように本実施形態の液圧発生装置1において、シャフト部材25aには、シャフト部材25aの回り止めのための被案内部材130が設けられている。第二シリンダ穴21は、第二ピストン22が摺動する摺動部21cと、該摺動部21cの後方に形成されており摺動部21cよりも内径が大きい大径部21dと、を有している。また、シャフト部材25aの軸方向に被案内部材130を案内する案内部としての溝141を有する略円筒状のスリーブ140が、大径部21d内に挿入されている。そして、第二ピストン22の外周面と大径部21dの内周面との間に、環状のシール部材170が配置されている。
【0094】
このような構成では、モータ24が駆動されると、スリーブ140の溝141がシャフト部材25aに設けられた被案内部材130を案内することによって、シャフト部材25aは回転することなく軸方向に進退移動する。ここで、被案内部材130を溝141が案内する際の摺動によって摩耗粉が生じて第二ピストン22の表面に付着するおそれがある。しかし、この摩耗粉は、第二ピストン22の外周面と大径部21dの内周面との間に配置されたシール部材170によって前方への侵入が阻止される。
したがって本実施形態の液圧発生装置1によれば、シャフト部材25aに設けられた被案内部材130を溝141が案内する際の摺動による摩耗粉が第二ピストン22の外周面を経て前方へ侵入することを防止できる。
これにより、第二ピストン22の外周面に摺接するカップシール27bが摩耗粉によって損傷を受けることを防止できる。
【0095】
また、本実施形態では、シール部材170は、摺動部21cと大径部21dとの境界に形成された段差面21eと、スリーブ140との間に配置されている。この構成では、シール部材170が、軸方向において段差面21eとスリーブ140との間に位置決めされる。したがって、シール部材170を装着するための溝や、シール部材170が軸方向に移動することを防止するための止め輪が不要となる。また、液圧発生装置1の軸方向の長さの増大を抑制できる。
【0096】
また、本実施形態では、スリーブ140の後方への移動を規制する規制部としてのCクリップ109が基体100に設けられている。そして、シール部材170は、段差面21eとスリーブ140とに挟持された状態でスリーブ140に対して後方に押圧する予圧を付与する。この構成では、シール部材170によるスリーブ140への予圧によって、スリーブ140の軸方向のガタを無くすことができる。これにより、シャフト部材25aの軸方向への進退移動時に生じ得る作動音を低減することができる。
また、スリーブ140を大径部21d内に大きな力で圧入せずとも、シール部材170の予圧によってスリーブ140の軸方向のガタを無くすことができる。つまり、径方向の寸法公差や温度変化等を考慮しつつスリーブ140を大径部21d内にガタが生じないように圧入する場合、大きな圧入荷重が必要になるとともに、圧入時に圧入加工屑が発生するおそれがある。しかし、本実施形態によれば、スリーブ140の圧入作業を無くして圧入加工屑の発生を無くすことができる。また、スリーブ140を大径部21d内に圧入する場合と比較して、大径部21dの内径およびスリーブ140の外径の寸法管理が緩和されるため、コスト低減につながる。さらに、スリーブ140を大径部21d内に圧入する場合には圧入による変形を考慮して大径部21d周辺の基体100の肉厚を大きく確保する必要があるが、圧入の廃止によって大径部21d周辺の基体100の薄肉化が可能となり、小型化が図られる。
【0097】
また、本実施形態では、シール部材170は、シール部171と、シール部171の径方向外側に連設された押圧部172とを有し、押圧部172の後端は、シール部171の後端よりも後方に突出している。この構成では、第二ピストン22の外周面とシール部材170のシール部171とのシール性を損なうことなく、シール部材170の押圧部172によってスリーブ140に対して予圧をより確実に付与することができる。
【0098】
また、本実施形態では、シール部171は、断面Y字形状を呈しており、第二ピストン22の軸方向に離れた2箇所C1,C2で第二ピストン22の外周面に接触する。この構成では、シール部材170と第二ピストン22の外周面との摺動抵抗を低減しつつ、摩耗粉が第二ピストン22の外周面を経て前方へ侵入することをより防止できる。
【0099】
以上、本発明について、実施形態に基づいて説明したが、本発明は、前記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。また、前記実施形態の構成の一部について、追加、削除、置換をすることができる。
【0100】
例えば、スレーブシリンダ20は、二つのピストンを有するタンデムピストン型のシリンダによって構成されてもよい。また、液圧発生装置1は、マスタシリンダ10、ストロークシミュレータ40、スレーブシリンダ20および液圧制御装置30のうち、マスタシリンダ10およびスレーブシリンダ20の二つだけ、あるいはスレーブシリンダ20だけを備えていてもよい。
【0101】
また、前記した実施形態では、駆動伝達部25は、無端状のベルト25dを用いたベルト機構を備えているが、本発明はこれに限定されるものではなく、ベルト機構に代えてギア機構を備えていてもよい。
【符号の説明】
【0102】
1 液圧発生装置
10 マスタシリンダ
20 スレーブシリンダ(電動ブレーキ装置)
21 第二シリンダ穴(シリンダ穴)
21c 摺動部
21d 大径部
21e 段差面
22 第二ピストン(ピストン)
24 モータ
25a シャフト部材
25b ナット部材
25 駆動伝達部
27a,27b カップシール
30 液圧制御装置
40 ストロークシミュレータ
100 基体
109 Cクリップ(規制部)
130 被案内部材
131 本体
132 突起
140 スリーブ
141 溝(案内部)
170 シール部材
171 シール部
172 押圧部
A 車両用ブレーキシステム