(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】レール破断検知装置およびレール破断検知システム
(51)【国際特許分類】
B61L 1/18 20060101AFI20240401BHJP
B61L 23/00 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
B61L1/18 Z
B61L23/00 Z
(21)【出願番号】P 2020195701
(22)【出願日】2020-11-26
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】薗部 正和
(72)【発明者】
【氏名】金子 貴志
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-091671(JP,A)
【文献】実開昭60-073328(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 1/18
B61L 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のレールの一方によって構成された第1測定区間と前記一対のレールの他方によって構成された第2測定区間とが設定され、帰線電流によって前記第1測定区間に生じた電圧差および帰線電流によって前記第2測定区間に生じた電圧差の不平衡から前記レールの破断を検知する機能を有するレール破断検知装置であって、
前記第1測定区間の電圧降下量を増幅して第1電圧降下信号を出力するゲインが可変である第1増幅回路と、
前記第2測定区間の電圧降下量を増幅して第2電圧降下信号を出力するゲインが可変である第2増幅回路と、
前記第1増幅回路から出力された前記第1電圧降下信号と前記第2増幅回路から出力された前記第2電圧降下信号とに基づいてレールに破断箇所があるか否か判定する信号処理装置と、を備え、
前記信号処理装置は、前記第1電圧降下信号および前記第2電圧降下信号の不平衡から前記レールの破断を検知可能であり、
前記第1増幅回路および前記第2増幅回路は、前記信号処理装置からの制御信号に応じて、それぞれ前記第1測定区間と前記第2測定区間の1mV~250mVの電圧降下量を増幅して、前記信号処理装置の入力レンジに適したレベルの前記第1電圧降下信号および前記第2電圧降下信号を出力する機能を有することを特徴とするレール破断検知装置。
【請求項2】
前記第1増幅回路および前記第2増幅回路は、各々可変ゲイン型計装アンプを含み、
前記信号処理装置は、入力信号のレベルに応じて、前記可変ゲイン型計装アンプのゲインを制御するゲイン制御信号を生成する機能を有し、
前記第1増幅回路と前記第2増幅回路は、前記ゲイン制御信号によって同一のゲインに設定されることを特徴とする請求項1に記載のレール破断検知装置。
【請求項3】
前記信号処理装置は、
前記第1増幅回路から出力された前記第1電圧降下信号V1と、前記第2増幅回路から出力された前記第2電圧降下信号V2と、に基づいて、次式
Ru=(|V1|-|V2|)/(|V1|+|V2|)
を用いて不平衡率Ruを算出し、当該不平衡率が予め設定された値よりも大きい場合に、レールに破断箇所があると判定することを特徴とする請求項2に記載のレール破断検知装置。
【請求項4】
前記第1増幅回路および前記第2増幅回路は、
前記可変ゲイン型計装アンプの後段にそれぞれ接続されたローパスフィルタと、
前記ローパスフィルタの後段にそれぞれ接続された絶縁アンプと、
を含み、前記可変ゲイン型計装アンプの出力端子および/又は前記絶縁アンプの入力端子に保護回路が接続されていることを特徴とする請求項2又は3に記載のレール破断検知装置。
【請求項5】
検知対象区間ごとに請求項1~4のいずれかに記載のレール破断検知装置が設けられているレール破断検知システムであって、
一対のレール間を短絡する複数のレール間短絡手段と帰線電流吸上げ手段とが適切な距離をおいて設けられている軌道において、前記レール間短絡手段とレール間短絡手段とに挟まれた区間又は前記レール間短絡手段と帰線電流吸上げ手段とに挟まれた区間をそれぞれ1つの検知対象区間とし、前記検知対象区間ごとに一対のレールの一方によって構成された第1測定区間と前記一対のレールの他方によって構成された第2測定区間とが設定されていることを特徴とするレール破断検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道用レールの破断を検知するレール破断検知装置およびこれを用いたレール破断検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道では、列車の位置検知を軌道回路によって行なっており、この軌道回路の副次的な機能として、レール破断の検知が行なわれていた。一方、近年においては、新たな列車制御システムとして、軌道回路を用いない移動閉塞システムの開発が進んでいる。移動閉塞システムでは、列車の位置検知は軌道回路によらず、列車自身において、例えば車軸に取り付けた速度発電機の回転数に基づく走行距離の算出や、地上装置との無線通信によって自車の走行位置を算出し、算出した現在位置を、無線通信によって他の列車や地上装置等に送信する構成となっている。
【0003】
このようなシステムでは、従来の軌道回路を用いたレール破断検知を行うことができない。そこで、軌道回路を用いずにレール破断を検知する手段として、例えば、特許文献1は、左右一対のレールに流れる各々の帰線電流を検知し、各々の帰線電流から不平衡を求めて、不平衡が予め設定した値を越えたことにより、レール破断を検知する技術を開示している。しかし、特許文献1は、車上側で帰線電流を検出する技術を採用しており、地上側で帰線電流を検出する点については、その可能性を示唆するにとどまり、具体的な開示はない。
【0004】
そこで、一対のレールの一方によって構成された第1測定区間と、 前記レールの他方によって構成された第2測定区間と、 レール破断がない場合はレール間で互いに平衡しレール破断が生じるとレール間で互いに不平衡となる帰線電流により、第1測定区間に生じた電圧降下信号及び第2測定区間に生じた電圧降下信号の不平衡からレールの破断を検知するようにした発明がある(特許文献2)。
なお、日本信号技報 巻:35号(非特許文献1)には、上記特許文献2の発明を適用したレール破断検知システムを実際の線路に適用して行なった実証試験の結果についての報告が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-321110号公報
【文献】特許第5827465号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】日本信号技報Vol.35,No.2 2011/11「レール破断検知システムの開発」 2011年11月30日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献2に記載されているレール破断検知装置にあっては、非特許文献1に記載されているように、走行時に発生する電車の負荷電流が左右レール合計で150A以上であることを必要としており、帰線電流を検出するためのケーブルが接続されている測定区間の近傍を電車が走行するタイミングでしかレール破断が検知できないとしていた。そのため、常時監視ができない。つまり、測定区間の近傍を電車が走行していない任意のタイミングでの破断検知結果が得られないため、営業時間帯にレール破断が発生した場合に、その検知が遅れるおそれがあるという課題がある。
【0008】
本発明は上記のような課題に着目してなされたもので、その目的とするところは、測定区間の近傍を電車が走行していないタイミングでもレールの破断検知結果を得ることができるレール破断検知装置を提供することにある。
本発明の他の目的は、左右のレール間を同電位にするためのセクションボンドが設けられている線区において、線区内の広い範囲に亘って任意の箇所でのレール破断を検知することができるレール破断検知システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、
一対のレールの一方によって構成された第1測定区間と前記一対のレールの他方によって構成された第2測定区間とが設定され、帰線電流によって前記第1測定区間に生じた電圧差および帰線電流によって前記第2測定区間に生じた電圧差の不平衡から前記レールの破断を検知する機能を有するレール破断検知装置であって、
前記第1測定区間の電圧降下量を増幅して第1電圧降下信号を出力するゲインが可変である第1増幅回路と、
前記第2測定区間の電圧降下量を増幅して第2電圧降下信号を出力するゲインが可変である第2増幅回路と、
前記第1増幅回路から出力された前記第1電圧降下信号と前記第2増幅回路から出力された前記第2電圧降下信号とに基づいてレールに破断箇所があるか否か判定する信号処理装置と、を備え、
前記信号処理装置は、前記第1電圧降下信号および前記第2電圧降下信号の不平衡から前記レールの破断を検知可能であり、
前記第1増幅回路および前記第2増幅回路は、前記信号処理装置からの制御信号に応じて、それぞれ前記第1測定区間と前記第2測定区間の1mV~250mVの電圧降下量を増幅して、前記信号処理装置の入力レンジに適したレベルの前記第1電圧降下信号および前記第2電圧降下信号を出力する機能を有するように構成したものである。
【0010】
上記のような構成によれば、前記第1増幅回路および前記第2増幅回路は、1mV~250mVの電圧降下量を増幅して、前記信号処理装置の入力レンジに適したレベルの第1電圧降下信号および第2電圧降下信号を出力するため、レール破断検知装置が配設されている箇所から比較的離れた場所を電車が走行している場合においても、信号処理装置は、レールに流れる帰線電流により、第1測定区間に生じた電圧降下量に基づく第1電圧降下信号及び第2測定区間に生じた電圧降下量に基づく第2電圧降下信号を取得して、第1電圧降下信号及び第2電圧降下信号の不平衡からレールの破断を検知することができる。
【0011】
また、望ましくは、前記第1増幅回路および前記第2増幅回路は、各々可変ゲイン型計装アンプを含み、
前記信号処理装置は、入力信号のレベルに応じて、前記可変ゲイン型計装アンプのゲインを制御するゲイン制御信号を生成する機能を有し、
前記第1増幅回路と前記第2増幅回路は、前記ゲイン制御信号によって同一のゲインに設定されるように構成する。
かかる構成によれば、第1増幅回路のゲインと第2増幅回路のゲインを異なるゲイン制御信号によって制御するものに比べて、回路をシンプルにすることができ、コストアップを回避することができる。
【0012】
さらに、望ましくは、前記信号処理装置は、
前記第1増幅回路から出力された前記第1電圧降下信号V1と、前記第2増幅回路から出力された前記第2電圧降下信号V2と、に基づいて、次式
Ru=(|V1|-|V2|)/(|V1|+|V2|)
を用いて不平衡率Ruを算出し、当該不平衡率が予め設定された値よりも大きい場合に、レールに破断箇所があると判定するように構成する。
【0013】
上記のような構成によれば、左右のレールに流れる帰線電流の不均衡率を算出するために、第1測定区間の電圧降下量と第2測定区間の電圧降下量の算出を省略して、信号処理装置への第1増幅回路と第2増幅回路から電圧降下信号によって不均衡率を直接算出することができ、信号処理装置の負担を軽減することができる。
【0014】
また、望ましくは、前記第1増幅回路および前記第2増幅回路は、
前記可変ゲイン型計装アンプの後段にそれぞれ接続されたローパスフィルタと、
前記ローパスフィルタの後段にそれぞれ接続された絶縁アンプと、
を含み、前記可変ゲイン型計装アンプの出力端子および/又は前記絶縁アンプの入力端子と接地点との間に電圧クランプ手段が接続されているように構成する。
かかる構成によれば、可変ゲイン型計装アンプのゲインが高いゲインに設定されている状態で大きなレベルの電圧が計装アンプに入力されたような場合、絶縁アンプに過大な電圧が入力するのを防止して、回路を保護することができる。
【0015】
また、本出願の他の発明は、検知対象区間ごとに上記のような構成を有するレール破断検知装置が設けられているレール破断検知システムであって、
一対のレール間を短絡する複数のレール間短絡手段と帰線電流吸上げ手段とが適切な距離をおいて設けられている軌道において、前記レール間短絡手段とレール間短絡手段とに挟まれた区間又は前記レール間短絡手段と帰線電流吸上げ手段とに挟まれた区間をそれぞれ1つの検知対象区間とし、前記検知対象区間ごとに一対のレールの一方によって構成された第1測定区間と前記一対のレールの他方によって構成された第2測定区間とが設定されているようにしてものである。
【0016】
上記のような構成を有するレール破断検知システムによれば、セクションボンドと隣のセクションボンド又は帰線電流吸上げ用インピーダンスボンドとに挟まれた検知対象区間ごとに1つのレール破断検知装置を設ける構成であるため、最小限のレール破断検知装置によって、線区の全範囲に亘って、任意の箇所でレール破断の検知を行うことができる。しかも、帰線電流によりレール破断を検知するものであって、検知のための特別の信号発生回路、信号送信回路を用いるものではないので、設備コストが安価になる。
【0017】
なお、特許文献2には、1閉塞区間に1つまたは2つのレール破断検知装置を設けることが記載されているが、1閉塞区間がどのようなものであるかの記載はない。また、鉄道分野においては、「閉塞区間」は1列車が存在することが可能な区間であり、特開60-163763号公報には、一対のインピーダンスボンド(帰線電流吸上げ用ではなく、交流を遮断し直流を通過させるもの)間が閉塞区間であることが記載されており、本発明における「検知対象区間」とは異なる。
【発明の効果】
【0018】
上述したように、本発明に係るレール破断検知装置よれば、測定区間の近傍を電車が走行していないタイミングでもレールの破断検知結果を得ることができる。また、本発明に係るレール破断検知システムよれば、左右のレール間を同電位にするためのセクションボンドや帰線電流を帰線電流用の電線に吸い上げる吸上げ用のインピーダンスボンドが設けられている線区において、線区内の広い範囲に亘って任意の箇所でのレール破断を検知することができるという効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係るレール破断検知装置の設置状態を示すシステム構成図である。
【
図2】本発明に係るレール破断検知システム全体の具体的な構成を示すシステム構成図である。
【
図3】システムを構成するレール破断検知装置の構成例を示すブロック図である。
【
図4】本発明に先立って実施した帰線電流測定結果の一例を示す電流波形図である。
【
図5】本発明に係るレール破断検知システムを適用した線区における列車ダイヤとレール破断検知装置による検知可能タイミングとの関係を示すタイムチャートである。
【
図6】本発明に係るレール破断検知装置の変形例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明に係るレール破断検知装置および検知システムの実施形態について詳細に説明する。
図1には本発明に係るレール破断検知装置の設置例が、また
図2には
図1のレール破断検知装置を用いたレール破断検知システム全体の構成例が示されている。
【0021】
図1に示されているように、軌道10上には、枕木11を介して列車が走行する左右一対のレールL1、L2が敷設されており、レールL1とL2の任意の箇所には、数mほどの検知距離をおいて、一対のケーブル12A、12Bの端部が接続されており、ケーブル12A、12Bの他端にレール破断検知装置20が接続されている。レール破断検知装置20は、電車の負荷(走行モータ)からレールL1、L2を通って電力供給設備(変電所)へ戻る帰線電流によって、ケーブル接続部P11-P12とP21-P22間にそれぞれ生じる電位差ΔV1,ΔV2を増幅して、ΔV1,ΔV2の不平衡率に基づいてレールL1、L2の破断を検出する機能を備えている。
【0022】
上記検知距離は、例えば3m~6m程度の範囲であればよい(なお、3mのレールの電気抵抗は、約100μΩである)。本明細書においては、上記ケーブル接続部P11-P12およびP21-P22間を測定区間と称する。測定区間は、互いに対向関係にある必要はなく、レールの長さ方向にずれていてもよい。ケーブル12A、12Bの端部は、例えばテルミット溶接でレール側面に接続される。
図1において、SB1,SB2は、レールL1、L2間を短絡することで同一電位にして感電を防止するために設けられるセクションボンドであり、一般に数km(例えば1~4km)の距離をおいて設けられている。そして、このようなセクションボンドSB1,SB2……があることによって、左右のレールを流れる帰線電流が平衡にされる。
【0023】
本明細書では、一対のセクションボンドSB1,SB2で挟まれた区間を検知対象区間と称する。本実施形態においては、
図2に示すように、上記測定区間が一つの検知対象区間A,B,C,D……に少なくとも一箇所ずつ設けられ、それぞれレール破断検知装置20が配設される。1検知対象区間内における測定区間D1,D2の設置位置はどこでもよく、検知対象区間の中間位置でもよいし、端部側であってもよい。なお、一つの検知対象区間の一方の端は、セクションボンドSBでなく、帰線電流を吸い上げる吸上げ用インピーダンスボンドZBであることもある。インピーダンスボンドZBにより吸い上げられた帰線電流は、帰線電流用電線を介して変電所の変圧器へ戻される。
【0024】
一般に、セクションボンドSBは、軌道内の人の出入りが他に比べて多いと予想される駅に設けられることが多く、その場合、測定区間は駅に設定され、セクションボンドを挟んで上り側と下り側にそれぞれ設けられ、さらに複線区間では上り線と下り線にそれぞれ設けられる。ただし、1検知対象区間には、分岐器のある個所は含まれないようにする。分岐器を介して反対方向のレールの電流が流れ込んでしまい、正確な破断検知が行えないためである。
【0025】
本実施形態のレール破断検知装置20は、
図3に示されているように、前記ケーブル12A、12Bの終端が接続される入力端子部21A,21Bと、入力端子部21A,21Bに接続され雷サージなどの過電圧から装置を保護するためのSPD回路22A,22Bと、前記ケーブル12A、12Bを入力された電圧の電位差ΔV1,ΔV2を増幅する可変ゲイン型計装アンプ23A,23Bを備える。可変ゲイン型計装アンプ23A,23Bには、例えばゲインを10倍、100倍、1000倍のいずれかに切り替え可能な機能を有するものが使用されている。
【0026】
さらに、レール破断検知装置20は、計装アンプ23A,23Bの出力からノイズを除去するローパスフィルタ24A,24B、同相ノイズの混入を防止し後段回路を保全する絶縁アンプ25A,25B、アナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換回路26A,26B、電位差ΔV1,ΔV2の不平衡率を算出してそれに基づいてレールL1、L2の破断を判定するデータ処理を行うCPU(マイクロプロセッサ)27を備える。
AD変換回路26A,26Bは例えば10msのような周期でサンプリングしてAD変換を行い、CPU27は入力データを所定の時間で平均化し、平均化したデータで不平衡率の計算を行う。AD変換回路26A,26BとCPU27とによって、信号処理装置が構成される。なお、絶縁アンプ25A,25BとAD変換回路26A,26Bとの間に、抵抗分圧回路(例えば1/3分圧)やバッファアンプ(ゲイン1)、固定ゲイン(例えば×3)のアンプなどを設けても良い。
【0027】
CPU27は、入力電圧値に応じて入力電圧値が低いときは計装アンプ23A,23Bのゲインを高くし、入力電圧値が高いときは計装アンプ23A,23Bのゲインを低くするように指令するゲイン制御信号GCを生成して出力する機能を備えている。
具体的には、オーバーレンジ動作時は増幅回路の最終段のアンプ(
図3では絶縁アンプ25A,25B)が飽和出力となるので、CPU27は、AD変換回路26A,26Bにてオーバーレンジ入力(飽和)状態が発生していることを検出した場合は、計装アンプ23A,23Bのゲインを低いゲインに切り替えるゲイン制御信号GCを出力してゲインレンジアップを行うように構成されている。
【0028】
なお、小さいレンジ(例えばレンジ1:±4.5mV)の状態で高いレベル(例えば+250mV)の電圧が計装アンプ23A,23Bに入力された場合、絶縁アンプ25A,25Bに過大な電圧が入力されてしまうおそれがある。そこで、本実施形態においては、計装アンプ23A,23Bの出力端子と接地点との間および絶縁アンプ25A,25Bの入力端子と接地点との間に、ZD(ツェナーダイオード)からなる保護回路を設けて、異常入力を抑制し回路を保護している。
【0029】
また、本実施形態のレール破断検知装置20は、2つの入力端子部21A,21Bの入力電圧のうち絶対値の大きい方の電圧が入力レンジを超えないように、計装アンプ23A,23Bのゲインが決定されゲイン制御信号GCが生成される。具体的には、2つの入力電圧のうちいずれかの一方の電圧のAD変換回路26A,26Bの出力値が、所定のレンジアップしきい値(例えばレンジ1:±4.5mV、レンジ2:±45mV)を所定の判定回数(例えば3回)を連続で上回ったときにレンジアップする。一方、2つの入力電圧ともAD変換回路26A,26Bの出力値が、所定のレンジダウンしきい値を所定の判定回数だけ連続で下回ったときにレンジダウンするようにゲイン制御信号GCを生成する。
【0030】
そして、CPU27から出力されたゲイン制御信号GCは、DA変換回路28でアナログ信号に変換され、磁気結合型アイソレータやフォトカプラなどの絶縁型信号伝達素子29を介して計装アンプ23A,23Bのゲイン制御端子に入力され、各アンプのゲインが同じように制御される。
なお、レンジアップ時またはレンジダウン時には、計装アンプ23A,23Bの出力が不安定になるため、ウェイトタイムを設ける。また、装置の起動時には、有効なレンジのうち最も低いレンジとなるように計装アンプ23A,23Bのゲインを設定すると良い。
【0031】
次に、CPU27によるレール破断の検出処理について説明する。
レール破断がない正常な軌道の場合、レールL1、L2に流れる帰線電流I1、I2は、ほぼ平衡しており、レールL1の測定区間D1及びレールL2の測定区間D2の長さがほぼ等しいという条件下では、測定区間D1において生じる電位差ΔV1と、測定区間D1において生じる電位差ΔV2は、ほぼ等しい値になる。
【0032】
ところが、レールL1、L2の何れか一方にレール破断が生じると、破断したレール側に流れていた帰線電流は大部分が破断していない側のレールに流れるため、
図2に示すように、レール破断BKが発生した検知対象区間内では、破断していない側のレールに流れる電流が約2倍に増加する。また、レールに破断が生じると帰線電流が地中に漏れることもある。そのため、レールL1、L2を流れる帰線電流I1、I2に不平衡が生じ、測定区間D1において生じる電位差ΔV1と、測定区間D2において生じる電位差ΔV2が不平衡になる。本実施形態のレール破断検知装置20は、この特性を利用して測定区間で生じた電圧を測定して不平衡率を算出してレール破断の判定を行うものである。
【0033】
上記機能を実現するため、CPU27は、計装アンプ23A,23Bにより増幅されAD変換回路26A,26Bによって変換されたデータと増幅回路のゲインとから、受信電圧ΔV1、ΔV2を算出した後、次式
Ru=(|ΔV1|-|ΔV2|)/(|ΔV1|+|ΔV2|) ……(1)
により、不平衡率Ruを算出し、Ruが設定された基準値(例えば0.7)よりも高くなったときに、「レール破断あり」と判定する処理を行うことができる。なお、この際、算出した所定時間内の不平衡率を平均化し、平均化した不平衡率が基準値を超えたか否か判定するようにしても良い。
【0034】
ここで、本実施形態のレール破断検知装置においては、前述したように、CPU27から出力されたゲイン制御信号GCによって計装アンプ23A,23Bのゲインが同じになるように制御されることによって、不平衡率を算出する際に、分子と分母のゲインが打ち消しあう。そのため、CPU27は、計装アンプ23A,23Bを含む増幅回路全体のゲインを考慮して受信電圧ΔV1,ΔV2を算出してから不平衡率を算出する必要がなく、絶縁アンプ25A,25BからAD変換回路26A,26Bへの入力電圧V1,V2を用いて、次式
Ru=(|V1|-|V2|)/(|V1|+|V2|) ……(2)
により、不平衡率を算出することができる。
【0035】
ところで、従来(非特許文献1のレール破断検知装置)は、|ΔV1|+|ΔV2|が15mV(電流150Aに相当)以上という条件で破断判定処理を行なっていたため、電車が検知装置の近傍を通過するときしか判定が行えない、つまり常時監視ができないので実配備の装置として採用されなかった。また、増幅回路には、ゲインが固定のアンプが使用されていた。これに対し、本実施形態のレール破断検知装置では、可変ゲイン型計装アンプ23A,23Bを設けたことにより、|ΔV1|+|ΔV2|が1mV(電流10Aに相当)という条件で破断判定処理を行うことができるため、10数km離れた場所で電車が走行しても検知することができ、それによって常時監視が可能となる。
【0036】
次に、|ΔV1|+|ΔV2|が1mV以上という条件で、レール破断を検出可能である理由について説明する。
本発明者らは、本発明に先立って、どの位離れた位置で帰線電流を検出できるか調べる試験を行なった。具体的には、始発電車を対象として数km~10数km離れた駅において帰線電流を検出することができるか否か調べた。その結果、10数km離れた駅でも帰線電流を検出できることが明らかとなった。従来、そのような測定結果を記載した文献はなく、このことは、当業者にとって予想外の知見であった。
【0037】
図4は、本発明者らによって実施された帰線電流の測定結果を示す電流波形である。この帰線電流の測定結果は、始発駅(A駅)から5.5km離れたD駅で測定された電流値の変化を、A駅の始発時刻(AM4:30)の前後10数分間に亘って表わしたものである。なお、A駅-D駅間には、3つの検知対象区間が存在していた。D駅の始発時刻はAM4:48である。
図4の電流波形は、A駅の始発時刻(AM4:30)の20秒後付近でD駅での測定電流が増加していることから、5.5km離れた位置から帰線電流を測定できることが分かる。なお、始発時刻よりも前においても電流が変化しているのは、留置場所から始発駅まで電車が移動しており、それに伴う帰線電流を検出したためである。
【0038】
また、当該始発駅(A駅)は、始発時刻が当該線区よりも早い他の線区の電車も走行しており、それに伴う帰線電流もD駅で検出されている。他の線区の帰線電流が流れるのは、線区が異なっていてもレールがつながっているためである。
図4において、負の電流は、電車が回生ブレーキをかけたことにより生じる回生電流に起因するものである。
図4の電流波形から、D駅から離れた場所を電車が走行している場合でも100A以上の帰線電流が流れていることが分かるが、その電車が力行運転しているためであると考えられる。しかし、100A以上の帰線電流が流れる力行運転期間は長くは続かないことが分かる。そのため、100A以上の帰線電流による常時監視は行えない。これに対し、±10A以上の帰線電流が流れる期間は何倍も長いことが分かる。従って、本実施形態のレール破断検知は、早朝の時間帯でも有効であり、常時監視に適しているといえる。
【0039】
図5には、首都圏のある線区の深夜と早朝の時間帯の列車ダイヤが示されている。横軸は時間、縦軸は駅である。また、
図5のダイヤグラフの上には、特許文献2の従来発明によるレール破断検知装置を適用した場合に正常なレール破断検知が可能な時間帯がハッチングを付した横棒B1で、また本実施形態のレール破断検知装置を適用した場合に正常なレール破断検知が可能な時間帯がメッシュを付した横棒B2で示されている。横棒B1とB2を比較すると、本発明を適用することによって、レール破断検知が可能な時間が大幅に延びることが分かる。
【0040】
図6には、レール破断検知装置20の他の構成例が示されている。
図6に示すレール破断検知装置20は、
図2に示されているレール破断検知装置20における可変ゲイン型計装アンプ23A(23B)の代わりに、互いに入力レンジが異なりゲインが固定である2つの計装アンプAMP1、AMP2を設けるとともに、アンプを切り替えるアナログスイッチなどの切替え回路30A(30B)を設け、CPU27からの制御信号によって入力信号のレベルに応じて使用する計装アンプを切り替えるようにしたものである。なお、切替え回路30は、計装アンプAMP1、AMP2の前段に設けて良い。また、互いに入力レンジが異なりゲインが固定である3個以上の計装アンプと、これらのアンプを切り替える切替え回路を設けるようにしても良い。
【0041】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。例えば、CPU27は、不平衡率を算出してレール破断の判定を行う際に、|ΔV1|+|ΔV2|が所定値(例えば10A)以下の場合には、レール破断の判定を行わないようにしても良い。そして、このような足切りを行なった場合には、|ΔV1|+|ΔV2|が所定値以下であることを示す信号を出力するように構成しても良い。なお、|ΔV1|+|ΔV2|の代わりに|V1|+|V2|の値を算出して、足切りを行うか否か決定しても良いことは、前記実施形態と同様である。
【0042】
また、前記実施形態においては、AD変換回路26A,26BとCPU27によって、不平衡率の算出とレール破断の判定を行う信号処理装置を構成しているが、オペアンプ(演算増幅器)とコンパレータ等のアナログ回路によって信号処理装置を構成しても良い。
さらに、前記実施形態においては、列車の走行に伴う帰線電流を検出してレール破断の判定を行う場合について説明したが、列車が走行していない深夜の時間帯あるいは帰線電流の流れない区間においては、セクションボンドを利用して電源装置からレールへ電流を流して上述のレール破断検知装置で電流を検出してレール破断の判定を行うようにしても良い。
【符号の説明】
【0043】
L1、L2 レール
12A,12B ケーブル
20 レール破断検知装置
21A,21B 入力端子部
22A,22B SPD回路(サージ保護回路)
23A,23B 可変ゲイン型計装アンプ
24A,24B ローパスフィルタ
25A,25B 絶縁アンプ
26A,26B AD変換回路
27 CPU(マイクロプロセッサ:信号処理装置)
28 DA変換回路
29 絶縁型信号伝達素子
SB セクションボンド(レール間短絡手段)
ZB 帰線電流吸上げ用インピーダンスボンド(帰線電流吸上げ手段)